健康診断業務について契約締結上の過失が認められた事例
東京地裁R5.5.9
<事案>
X:健康診査事業等を行う公益財団法人
Y:健康保険組合
Xは、
❶主位的には:覚書の取り交わしがなくても、Xが行う健康診療業務の概要が合意されたことにより、令和2年度の健康診断業務を受託する旨の契約が成立⇒本件個別契約又は本件基本契約による報酬請求権に基づき
❷予備的には、Xの契約締結上の過失を理由として、債務不履行又は不法行為に基づき、
報酬金又は報酬金相当額1億7504万4319円及び遅延損害金の支払を求めた。
<判断>
❶について
X:Xは、実際には令和2年度の健康診断業務を行うことはなかったが、
それは、Yが一方的に他の機関に健康診断業務を委託した結果⇒民法536条2項により、本件個別契約又は本件基本契約による報酬請求権を失わないと主張。
①本件においては、基本的に毎年覚書を取り交わす方法によって個別契約が締結されてきた
②本件個別契約は報酬金が3億5000万円を超える高額な契約であって、担当者間のやりとりのみによって成立したとは考え難い
⇒
本件個別契約の成立は認められない。
X:仮に本件個別契約が成立していなかったとしても、本件基本契約に基づいて相当な報酬を請求することができる。
vs.
本件基本契約に基づいて個別契約の締結が予定されていた本件においては、本件個別契約の成立gが認められない以上、本件基本契約にもtづいて直接報酬請求権が発生すると見ることはできない。
❷について
◎ 契約締結準備段階に入った当事者は、相手方に損害を被らせないようにする義務を負い、これに違反して、相手方に損害を与えた場合、その賠償義務を負う。
①契約無効型
②交渉破棄型
③不当表示型
④保護義務違反型
の4類型。
法的性質としては不法行為とするものが多い(判例)。
判断:交渉破棄型に当たる本件について、契約成立に至らなかった以上、債務不履行責任と構成することはできない。
契約締結上の過失のうち、交渉破棄型に当たるものであるが、過失が認められるためには、
ア:契約締結(交渉)の成熟度が高いこと、
イ:信義則違反と評価される帰責性があること
が要件とされている。
◎本判決:
①Xが20年もの長きにわたってYから健康診断業務を受託してきたこと
②令和2年度においても、Xは、Yの協力を得ながら、健康診断業務の準備を進めていたこと
⇒契約締結(交渉)の成熟度が高い。
Yが令和2年度の蹴能診断業務を委託しなかったことには、新型コロナウイルスの感染拡大という当時の状況を最大限に勘案しても、信義則違反と評価される帰責性が認められる。
⇒Yの不法行為責任を認めた。
◎ 契約締結上の過失が認められる場合の損害賠償の範囲:
その契約が有効である又は契約締結がされると信じて行動したことにより支出した又は被った損害(信頼利益)に限られ、相手方が契約を履行すれば得られたであろう利益(履行利益)は含まれない。
判例時報2605
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