●会社

2017年7月30日 (日)

高年齢者雇用安定法に基づく継続雇用制度によって採用された有期雇用労働者と労契法20条違反(原審肯定・控訴審否定)

東京高裁H28.11.2      
 
<事案>
運送業を営むY社(被告・控訴人)において所定の定年年齢を迎え、高年齢者雇用安定法9条に基づく継続雇用制度によって採用された有期雇用労働者X(原告・被控訴人)について、Y社の嘱託社員就業規則に基づき、期間の定めのない労働契約を締結した正社員労働者と全く異なる賃金体系が適用⇒定年前よりも賃金が引き下げられたことを受け、Xが、当該賃金の差異を労契法20条違反であると主張し、正社員労働者と同一の権利を有する法的地位にあることの確認などを求めた。
 
<規定>
労働契約法 第20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない
 
<原審>
本件における賃金の差異を「期間の定めがあることによ」る差異と認めた上で、労契法20条が禁止する「不合理と認められる」労働条件の差異か否かを判断するに当たっては、条文上の考慮要素である、①職務の内容、②職務の内容及び配慮の変更の範囲、③その他の事情を総合考慮するとしつつ、
通常の労働者と同視すべきパート労働者にかかる均等待遇義務を規定したパート労働者9条の要件との対比という発想を持ち出して、
前記①及び②の各事情が同一である場合には、「特段の事情がない限り、不合理であるとの評価を免れない」という判断枠組みを設定。

本件では、①及び②が同一であるとし、「特段の事情」の有無を審査し、結論として本件における賃金の差異を、全体として労契法20条違反とした
 
<判断>
本件における賃金の差異を「期間の定めがあることによ」る差異と認めた上で、
労契法20条違反の成否については、前記①ないし③を「幅広く総合的に考慮して判断すべき」とする判断枠組みを設定。

前記①及び②は「正社員とおおむね同じである」としつつ、高年齢者雇用安定法によって義務づけられた雇用確保措置の趣旨や継続雇用制度の位置づけからして、「定年後継続雇用者の賃金を定年時により引き下げることそれ自体が不合理であるということはできない」とする理解を示した。

労働政策研究・研修機構の調査報告書の記載を元に、「控訴人が属する業種又は規模の企業を含めて、定年の前後で職務の内容・・・並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲・・・が変わらないまま相当程度賃金を引き下げることは、広く行われているところであると認められる」という認識を示し、たとえ新入社員よりも賃金水準が低くなっているとしても、統計資料による平均減額率や運輸業の赤字が推測されることに照らすと、「年収ベースで二割前後賃金が低額になっていることが直ちに不合理であるとは認められ」ず、「(手当の増減などによって、)正社員との賃金の差額を縮める努力をしたことに照らせば、個別の諸手当の支給の趣旨を考慮しても、なお不支給や支給額が低いことが不合理であるとは認められない」と判示。

高年齢者雇用安定法の継続雇用制度において、「職務内容やその変更の範囲等が(定年前と)同一であるとしても、賃金が下がることは、広く行われていることであり、社会的にも容認されている」とし、労働組合との団体交渉の結果として労働条件の改善が見られることも「考慮すべき」として、労契法20条違反の成立を否定

判例時報2331

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2017年7月29日 (土)

不正な金融支援について代表取締役及び担当取締役の任務懈怠が認められた事例

名古屋地裁岡崎支部H28.3.25      
 
<事案>
X㈱の経理部担当取締役A及び経理部参与Bが適正な手続を経ずに取引先で資本関係もあるC社に対する不正な金融支援を行ったのは、Xの代表取締役であったY1及び取締役(Cと取引を所管する部門の担当取締役)でCの非常勤取締役を兼務していたY2の監視義務違反等によるもの

X及びXの株主として訴訟参加(会社法849条1項)をしたZが、Y1及びY2に対し、会社法423条1項に基づき、回収不能になった融資金相当額等の賠償を求めた事案。
 
<事実関係>
平成17年8月、A及びBは、Cの代表取締役の融資方の要請を受け、Xの取締役会の承認を経ることなく1憶5000万円をCに送金(本件無断融資)。
その後、AないしBによるCに対する無断融資ないし保証が繰り返され、平成19年9月、Cが銀行から7億円を借入れるに当たり、BがX取締役会の承認を得ずにXをしてこれを保証(本件無断保証)。

本件無断保証が発覚⇒A及びBは、本件無断保証を解消すべくCに資金を調達させることとし、Cは金融機関から14億5000万円を借り受けることになった。

その際、Bは、同借受金の返済のため、平成19年11月に、X取締役会の承認を得ずに、同金融機関に対してXの約束手形(額面3億円の手形5枚)を振り出した。
同約束手形の最初の決済日までにCが返済資金を準備することができななかった⇒Bは、同約束手形が決済されるのを防ぐためCに資金を送ることにしたが、Cに対する送金であることを隠すため、平成20年3月及び4月に、X取締役会の承認を経ることなく、別会社Dに対し立替金名目または金型代金名目で合計14億9700万円を送金し、Dを経由してCに送金されるようにした。

A及びBは、C代表者の申出に応じ、Xの子会社(香港法人)Eの董事長であったY2に7億円を融通することを依頼し、Y2はこれを了承し、平成19年12月、EからAないしBに指定された口座に7億円が送金された。
同7億円の一部が返済されなかった⇒Y2はこれを回収するため、平成20年11月、EからXに対し、通常の金型代金緒請求に未返済額に相当する187万4999・40米ドルを上乗せして請求し、その支払を受けた。
 
<判断>
●Xの代表取締役であるY1について
遅くとも平成19年11月頃の認識内容を前提としても、
①不正行為に関わったA及びBを直ちにCの担当から外し、自ら指揮するか、A及びB以外の者に指示して、速やかにXとCとの取引関係を監視下において、Cに対してこれ以上の不正な金融支援が行われることを阻止することを周知徹底し、Xのリスク拡大を防止するとともに、
②早急にXのCに対する本件無断保証を含む債権債務関係の全容とCの現在の経営状態を調査させ、Xがどのようなリスクを負っているかを明らかにした上で、
③なし得る限りの対応を迅速に尽くさせるなどの措置を講ずべき義務
があった。
but
Y1は、本件無断保証が発覚してから、再発防止のための措置を取らず、事実関係の調査もリスク状況の確認もせず、損害の回避又は軽減のための措置も何ら講じなかった

前記調査義務及び再発防止措置を講ずる義務を全く果たしておらず、Y1が代表取締役としての任務を懈怠したことは明らか。
 
●Y2について
前記EからCへの7億円を有ずる件について、
Cにそうした資金を送金するについては取締役会決議が得られていない以上応じられないとするとともに、

本件無断保証の事後承認が議案となったX取締役会(平成19年11月)においても、
①XとCとの取引関係の実態について最もよく知る立場から、本件無断保証はそのままXの損失につながる危険性の大きい行為であり、Cが金融機関から15億円を独力で借り入れることは困難であることから、Xの金融支援なしに買入れを行うことができるのかどうかを含め、借入れ条件を確認する必要があることなどを指摘するとともに、
②A及びBがCに送るための資金としてEから7億円を融通することを求めてきていることを報告した上、
③X取締役会として本件無断保証を事後承認するかどうかについては、XのCに対する本件無断保証を含む債権債務関係の全容とCの現在の経営状態を調査し、Xが現在どのよゆうなリスクを負っているかを明らかにした上で判断する必要があること、
④Xの損害を回避又は軽減するために緊急対応が必要になっていないかどうかを確認し、必要な場合には迅速に適切な対応をすべきこと、
⑤Cの経営状態にかんがみ、経理部門の独断によるCに対する金融支援を即刻やめさせる必要があり、そのためにはXとCとの取引関係を監視下においた上、Cに対するこれ以上の不正な金融支援が行われることを阻止することを周知徹底し、Xのリスクが拡大することを防止する必要があることなどについて、適切な意見を具申し、また、
⑥本件無断保証の経緯や原因のほか、本件無断保証によるXのリスクについて、Cの非常勤取締役で内情を知り得る立場から、Cの現在の経営状態等の実情についての調査に取り掛かり、判明次第、報告すべき義務
があった。
but
Y2は、右いずれの義務も果たしておらず、かえって、A及びBの依頼に応じて、Cに送金されることを知りながらEから7億円を送金して資金を融通し、平成19年11月のX取締役会においても、A及びBが独断で不正な金融支援を金融支援を継続していること等、自己が認識している事情について黙っていた

取締役としての善管注意義務及び忠実義務に違反する行動をとっていたことは明らか。


Y1及びY2は、Xに対し、連帯して、これら送金額及び未返済額相当額から口頭弁論終結時までに損害填補された金額を控除した額並びに弁護士費用1500万円を賠償する義務がある。 

判例時報2331

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2017年7月26日 (水)

共同企業体の破産管財人に対する財団債権としての不当利得返還請求権が認められた事例

福岡高裁那覇支部H28.7.7      
 
<事案>
2社から構成される建物の建築工事の共同企業体が工事を施工し、発注者から請負代金を同企業体名義で振込受領する等した後、同企業体の代表者であった会社につき破産手続開始
請負代金が破産裁判所を介して、破産管財人に引き渡され、財団組入⇒同企業体の組合員である会社が破産管財人に対して取戻権、財団債権を行使。 

A㈱とB㈱は、平成25年5月、C市の発注に係る幼稚園新築工事の請負につきX共同企業体を結成。
Aは、平成25年7月、Xを代表し、Cとの間で、請負代金2億356万9537円で前記新築工事、同年10月、請負代金341万2500円で付随する防音工事の請負契約を締結。

Aの代表者Dは、平成26年4月9日、Aの破産を考え、E司法書士に破産申立書の作成を依頼するとともに、請負代金がF銀行のX名義の預金口座に入金されると相殺されるおそれがあり、G信用金庫のX名義の預金口座に入金先を変更し、Cは、GのX口座に請負代金残金7447万4037円を入金したほか、Dは、Xの財産を保全するため、Eに前記請負代金を預けることとし、同日、Eの預金口座に振込入金をした。(E口座①.当時、別事件の預り金1826万円余も預けられていた)。

Eは、その後、E口座①からXの債権者に対する支払等の入出金をしたが、同年5月7日、他の事件の預り金と区別して保管するため、本来は7440万5997円となるべきところ、誤ってXの請負代金残額として7408万281円をH銀行のE名義の預金口座(E口座②.当時、Aからの預り金31万円余も預けられていた)に振替送金。

Aは、Eの作成に係る申立書等の書類によって、同年10月8日、N地裁O支部に破産手続開始の申立て。

X(清算人はB)は、
主位的に、金銭6832万9457円(請負代金)の所有権を主張し、破産法62条の取戻権の行使として、同金銭の返還を請求
予備的に、債権としての請負代金につきEとの間の委任契約、あるいは信託契約に基づく受取物引渡義務を主張し、取戻権の行使としての返還
財団債権としての不当利得の返還を請求する訴訟をO支部に提起。
 
<規定>
破産法 第148条(財団債権となる請求権) 
次に掲げる請求権は、財団債権とする。
五 事務管理又は不当利得により破産手続開始後に破産財団に対して生じた請求権
 
<争点>
①請負代金についてのXの所有権の有無
②Xの取戻権の有無
③委任契約の成否
④信託契約の成否
⑤財団債権としての不当利得請求権の有無
等 
 
<判断>
●主位的請求は理由なし。

●予備的請求について:
Xの代表者Aの代表取締役Dは、Eとの間で、Xの請負代金の保全を目的とし、これを保管し管理する旨合意し、請負代金を預託

金銭の所有権はEに一旦帰属するものの、Eは、委任の趣旨に従って権利し、委任終了時に残金の返還義務を負い、Xは、委任契約上の預託金返還請求権を有するに至った。(Xの信託契約の主張については、同契約の成立は認め難いとした)。

①Eが裁判所に請負代金を含む7008万円余を予納したのは、とりあえず散逸防止のため予納させたと推認でき、Xに属すべき金銭であることが判明すれば、その時点で何らかの処理をするもの
②予納自体は対価性を有する行為でなく無償行為に属するものであり、請負代金がXが帰属すべき金銭である以上、裁判所が取得すべき法律上の原因は存しないし、Xに帰属すること判明すれば速やかに本来の権利者たるXに返還すべき義務を負う。
③裁判所は、前記7008万円余をYに支給し、Yが財団組入したが、支給決定自体は単に裁判所の保管金を破産管財人に交付するための内部手続にすぎず、何らかの法的原因や対価関係を伴うものではなく、破産管財人がこれを取得する法律上の原因たりえないし、損失と利得との間の直接の因果関係を否定するものでもなく、財団組入は破産手続開始決定時における法定財団と現有財団との間に不一致がある場合に、破産管財人の管理下になかった財産を回収し、現有財団に帰属させる行為にすぎず、第三者に帰属すべき財産を破産者ないし法定財団に帰属させる法律上の原因にならない

Yが請負代金を財団組入したことは、単に第三者であるXに帰属する財産を事実上破産財団としてYの管理下に置いたものXは、Yに対してこの時点で直接に不当利得返還請求権を取得し、Yは財団組入時に悪意であったとして、破産法148条1項5号所定の財団債権を肯定
 
<解説>
財団債権としての不当利得返還請求の有無について、
控訴審判決は、
請負代金が共同企業体の固有財産であることを前提とし、共同企業体の預金口座、司法書士の二口の預金口座、破産裁判所の保管金口座、破産管財人の預金口座のそれぞれの振込を経て、破産管財人が財団組入した場合に、予納、支給決定、財団組入のそれぞれの法的な性質を説示しながら、破産管財人が請負代金を財団組入したことは、法律上の原因がなく、不当利得の要件を満たすとし、
共同企業体が破産管財人に対して財団組入の時点で直接に不当利得返還請求権を取得したこと、
本件の破産管財人が悪意であるとしたこと、
破産法148条1項5号所定の財団債権に当たることを判示。

判例時報2231

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2017年7月 9日 (日)

非公開会社における新株発行の効力発生日から1年を経過した後に提起された新株発行無効の訴えと信義則

名古屋地裁H28.9.30       
 
<事案>
非公開会社であるY1会社の株主Xが、
①Y1に対し新株発行を無効とすることおよびその不存在の確認を求め
②Y1およびY1の取締役Y2・Y3に対し、民法709条または会社法429条1項(Y2・Y3に)もしくは同法305条(Y1)に基づき、連帯して、本件新株発行に至る一連の違法行為によりXが被った損害の一部の賠償等を求めた甲事件と
新株発行後に開催された定時株主総会決議の取消し等を求めた乙事件からなる事案。 
 
<規定>
会社法 第八二八条(会社の組織に関する行為の無効の訴え)

次の各号に掲げる行為の無効は、当該各号に定める期間に、訴えをもってのみ主張することができる。

二 株式会社の成立後における株式の発行 株式の発行の効力が生じた日から六箇月以内(公開会社でない株式会社にあっては、株式の発行の効力が生じた日から一年以内)
 
<判断>   
甲事件:
本件新株発行は無効。
損害賠償請求は棄却。

乙事件:
各決議の時点では本件新株発行が有効に行われたことを前提とすることになり、Y2の保有株式数を620株として各議案を可決したことは、総会決議不存在事由とならない

定款変更の議案に関しては、招集通知に議案の概要の記載として定款規定をどのように変更するか了解可能な程度の記載があることを要するがそれを欠いている⇒決議取消事由に当たる。 
 
●新株発行無効の訴えの提訴期間徒過の有無
最高裁昭和53.3.28を参照し、提訴期間は株式の効力が生じた日から1年以内(会社法828条1項2号括弧書)、払込期日である平成24年6月4日にY2が払込みをした本件では株式の効力が生じた日は、当該払込期日であるから、同日から1年以内
but
①Y1の代表者であるY2は、XをY1会社の株主から排除する意図の下、Xに知られることなく本件新株発行を行うべく、Xがこれを察知する機会を失わせるための隠蔽工作を繰り返した
②Xが本件新株発行の事実を予想し、または想定することは容易ではなかった
③Y1が株式譲渡制限会社で、Y2だけが株式の発行を受けた者であり、本件新株発行につき取引の安全を考慮する必要性がさほど高いとは言えない
④Xは、本件新株発行の存在を知った平成25年10月3日から1年以内に本件新株発行の訴えを提起していて訴訟提起が不当に遅延したとはいえない

信義則上、Xが本件新株発行の無効の訴えを所定の提訴期間を徒過して提起したとすることはできず、当該訴えは適法
 
●同訴えの無効事由の有無 
最高裁H24.4.24を引用し、
非公開会社であるY1において株主総会の特別決議を経ないまま株主割当て以外の方法による募集株式の発行がされたもの
この瑕疵は新株発行の無効原因となる。
 
●不存在確認の訴えの不存在事由の有無
新株発行が物理的には存在するような外観を呈する場合には、その手続的、実体的瑕疵が著しいからといって不存在事由となるものではない
 
<解説>
会社(その代表者)がことさらに瑕疵ある新株発行について株主に秘匿し、株主による提訴を妨げた事情がある場合、信義則上、会社は提訴期間の徒過を主張することができないとの見解(田中亘、会社法)。 

判例時報2329

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