高年齢者雇用安定法に基づく継続雇用制度によって採用された有期雇用労働者と労契法20条違反(原審肯定・控訴審否定)
東京高裁H28.11.2
<事案>
運送業を営むY社(被告・控訴人)において所定の定年年齢を迎え、高年齢者雇用安定法9条に基づく継続雇用制度によって採用された有期雇用労働者X(原告・被控訴人)について、Y社の嘱託社員就業規則に基づき、期間の定めのない労働契約を締結した正社員労働者と全く異なる賃金体系が適用⇒定年前よりも賃金が引き下げられたことを受け、Xが、当該賃金の差異を労契法20条違反であると主張し、正社員労働者と同一の権利を有する法的地位にあることの確認などを求めた。
<規定>
労働契約法 第20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。
<原審>
本件における賃金の差異を「期間の定めがあることによ」る差異と認めた上で、労契法20条が禁止する「不合理と認められる」労働条件の差異か否かを判断するに当たっては、条文上の考慮要素である、①職務の内容、②職務の内容及び配慮の変更の範囲、③その他の事情を総合考慮するとしつつ、
通常の労働者と同視すべきパート労働者にかかる均等待遇義務を規定したパート労働者9条の要件との対比という発想を持ち出して、
前記①及び②の各事情が同一である場合には、「特段の事情がない限り、不合理であるとの評価を免れない」という判断枠組みを設定。
本件では、①及び②が同一であるとし、「特段の事情」の有無を審査し、結論として本件における賃金の差異を、全体として労契法20条違反とした。
<判断>
本件における賃金の差異を「期間の定めがあることによ」る差異と認めた上で、
労契法20条違反の成否については、前記①ないし③を「幅広く総合的に考慮して判断すべき」とする判断枠組みを設定。
前記①及び②は「正社員とおおむね同じである」としつつ、高年齢者雇用安定法によって義務づけられた雇用確保措置の趣旨や継続雇用制度の位置づけからして、「定年後継続雇用者の賃金を定年時により引き下げることそれ自体が不合理であるということはできない」とする理解を示した。
労働政策研究・研修機構の調査報告書の記載を元に、「控訴人が属する業種又は規模の企業を含めて、定年の前後で職務の内容・・・並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲・・・が変わらないまま相当程度賃金を引き下げることは、広く行われているところであると認められる」という認識を示し、たとえ新入社員よりも賃金水準が低くなっているとしても、統計資料による平均減額率や運輸業の赤字が推測されることに照らすと、「年収ベースで二割前後賃金が低額になっていることが直ちに不合理であるとは認められ」ず、「(手当の増減などによって、)正社員との賃金の差額を縮める努力をしたことに照らせば、個別の諸手当の支給の趣旨を考慮しても、なお不支給や支給額が低いことが不合理であるとは認められない」と判示。
高年齢者雇用安定法の継続雇用制度において、「職務内容やその変更の範囲等が(定年前と)同一であるとしても、賃金が下がることは、広く行われていることであり、社会的にも容認されている」とし、労働組合との団体交渉の結果として労働条件の改善が見られることも「考慮すべき」として、労契法20条違反の成立を否定。
判例時報2331
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