租税

2022年12月19日 (月)

財産評定基本通達によるより高額での評価が許される場合

最高裁R4.4.19

<事案>
相続税法22条:相続税の課税価格に算入される財産の価額原則として当該財産の取得の時における時価による旨を規定。

財産評定基本通達:
時価は評価通達の定めによって評価した価額によるとする一方
評価通達6は、評価通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は国税庁長官の指示を受けて評価する旨定める。
A:平成21年に合計10億5500万円を借入れてマンション2棟を合計13億8700万円で購入。
平成24年に94歳で死亡。
共同相続人の一部であるXら:
本件各不動産の価額を評価通達の定めによって合計約3億3400万円と評価し、課税価格の合計額を約2800万円、相続税の総額を0として相続税の申告書を提出。
(前記の購入及び借入れがなければ、Aからの相続に係る相続税の課税価格の合計額は6億円を超える)

札幌南税務署長:本件各不動産の価額は評価通達の定めによって評価することが著しく不適当⇒本件各不動産の価額を別途実施した鑑定により合計12億7300万円と評価し、課税価格の合計額を約8億8900万円、相続税の総額を約2億4000万円とする更正処分。

原審 本件各更正処分は適法。

Xらが上告受理申立て

<判断>
● 本件各更正処分は適法であるとして、上告を棄却。
相続税の課税価格に算入される財産の価額について、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、当該財産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることは租税法上の一般原則としての平等原則に違反しない。
● 相続税の課税価格に算定される本件各不動産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることは、次のアイなど判示の事情の下においては、租税法上の一般原則としての平等原則に違反しない
ア:本件各不動産は、被相続人が購入資金を借り入れた上で購入したものであるところ、前記の購入及び借入れが行われなければば被相続人の相続に係る課税価格の合計額は6億円を超えるものであったにもかかわらず、これが行われたことにより、本件各不動産の価額を評価通達の定める方法により評価すると、課税価格の合計額は2826万1000円にとどまり、基礎控除の結果、相続税の総額が0円になる
イ:被相続人及び共同相続人であるXらは、本件購入・借入れが近い将来発生することが予想される被相続人からの相続においてXらの相続税の負担を減じ又は免れさせるものであることを知り、かつ、これを期待して、あえて本件購入・借入れを企画して実行した。

<解説>
課税処分の適法性は、あくまでも法令に照らして判断されるべきであり、通達の解釈から結論が導かれるものではない。
⇒本判決は、評価通達6の意味内容について何ら触れるところがない。

◎ 裁判例:
「特別の事情」があるときは他の合理的な方法によって評価した額による。
①通達評価額と時価により近似する価額との客観的なかい離を重視するもの
②経済的合理性の欠如する行為が租税回避目的でされたことを重視するもの
vs.
①客観的な時価に影響しない財産取得の経緯や目的を考慮すべきでない
②通達評価額が実勢価格を大幅に下回る事態は広く生じているから特定の納税者についてのみ別異に取り扱うのは不平等

◎ 本判決:
通達評価額と相続税法22条の「時価」との関係:
時価とは当該財産の客観的な交換価値をいうとした上で、更正処分の基礎とされた相続財産の価額が客観的な交換価値としての時価を上回っていたとしても、同条に違反するものではない。

課税庁の主張額が客観的な交換価値としての時価を上回れば、その限度で更正処分は同条に違反するものとして当然に違法となり、課税庁はその主張額が時価を上回らないことを主張立証する必要があることを前提。

X:通達評価額を上回る価額によることは原則として同条に違反
vs.
評価通達が行政規則である通達にすぎず国民に対し直接の法的効力を有しない⇒否定

固定資産税
については、課税標準となる登録価格が固定資産評価基準によって決定される価格を上回る場合には、客観的な交換価値としての適正な時価を上回るか否かにかかわらず、登録価格の決定は違法となる(最高裁)。

固定資産評価基準が地方税法に基づいて定められ、これによって価格を決定することが同法上も予定されている。
このような法律上の仕組みを前提としない評価通達については、固定資産評価基準と同様に解することはできない。

本判決:原審において、課税庁の主張額が本件各不動産の客観的な交換価値として時価である(すなわち、時価を上回らない)とされている(これは原審の専権に属する事実認定の問題であり、本判決は原審の認定を前提としている。)、当該価額が本件各通達評価額を上回るからといって相続税法22条に違反するものということはできない。

相続税法22条の「時価」との関係では、専ら課税庁の主張額が客観的な交換価値としての時価を上回るものでないかが問題となり、通達評価額との多寡は問題とならない(⇒「特別の事情」といったものが問題となる余地もない)とするもの。

●本判決:課税庁が評価通達に従って画一的に相続財産の価額の評価を行っていることを指摘し(このことは公知の事実であるとしている。)
特定の者の相続財産の価額の評価についてのみ評価通達の定める方法により評価した額を上回る価額によるものとすることは、当該価額が客観的な交換価値としての時価を上回らないとしても、合理的な理由がない限り、租税法上の一般原則としての平等原則に違反するものとして違法となる

評価通達が国民に対し直接の法的効力を有しないとしても、これに従った画一的な評価が現に行われている以上、課税庁が恣意的にこれと異なる評価を行って納税者を不利益に取り扱うことは許されず、納税者は、相続税の22条違反(課税庁の主張が時価を上回ること)とは別個の違法事由として、前記の平等原則違反(課税庁の主張が通達評価額を上回ること)を主張することができるとするもの。

本判決:
評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、合理的な理由があると認められる⇒当該財産の価額を通達評価額を上回る価額によるものとしても前記の平等原則に違反しない。
「特別の事情」ではなく「実施的な租税負担の公平に反するというべき事情

原則として通達評価額によるべき根拠が前記の平等原則にあり、その例外も同原則から導かれるべいことを踏まえ、位置付けや内実が明確でない「特別の事情」という用語を避けて、事柄の性質に応じた表現としたもの

実質的な租税負担の公平を問題⇒通達評価額によることが他の納税者との間の租税負担の均衡を害することになる事情に限られるというべきであり、そのような事情に当たるか否かを具体的に検討する必要がある。
かかる事情については、処分の適法性を基礎づける事実⇒課税庁側が主張立証責任を負う(課税庁には通達評価額によるか否かについての裁量はなく、前記事情が主張立証されない限り、更正処分は違法となる)。

● 本件各通達評価額と本件各鑑定評価額との間には大きなかい離がある
but
このことは「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」に当たらない。

たまたま相続した不動産の通達評価額が実勢価格ないし課税庁が実施した鑑定による評価額を大きく下回るとしても、これを理由に通達評価額を上回る価額によることは前記の平等原則に違反して許されない。

本判決:
本件購入・借入れの結果、通達評価額によるとXらの相続善の負担が著しく軽減される
本件購入・借入れが租税負担の軽減をも意図して行われた
このような場合に通達評価額によることは、当該行為をせず、又はすることのできない他の納税者との間に著しい不均衡を生じさせ、実質的な租税負担の公平に反するというべき
⇒前記事情があるといえる。
本件各不動産の価額を通達評価額を上回る価額とすることは前記の平等原則に違反しない。

●ここで問題となっているのは、時価に係る事実の(平等な)認定であり、いわゆる租税回避行為の否認ではない。
⇒否認の根拠規定の有無や本件購入・借入れの経済的合理性を問題としていない。

判例時報2533

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2022年12月10日 (土)

複数の不動産を一括して分割の対象とする共有物分割と地方税法73条の7第2号

最高裁R4.3.22

<事案>
Xは、他の共有者と複数の不動産を共有していたところ、これを一括して分割の対象とする共有物の分割により、そのうちの一部の不動産につき、他の共有者の持分を取得して、これらを単独所有することになった。
前記の持分の取得(「本件各取得」)に対し不動産取得税の賦課決定処分を受けたXが、Y(東京都)を相手に、本件各処分の取消しを求めた。
地税法73条の2第1項は、不動産取得税は、不動産の取得に対し、当該不動産の取得者に課する旨を規定し、地税法73条の7第2号の3(「本件規定」)は、共有物の分割による不動産の取得に対しては、その括弧書きに規定する「当該不動産の取得者の分割前の当該共有物に係る持分の割合を超える部分」(「持分超過部分」)の取得を除き、不動産取得税を課することができない旨を規定⇒Xは、本件各取得に対しては、本件規定により不動産取得税を課することができない旨を主張。

<原審>
本件規定にいう「共有物の分割」とは、土地については1筆の土地を対象とする共有物の分割をいい、数筆の土地を一括して分割の対象とする共有物の分割はこれに該当しない。
⇒Xの請求を棄却。

<判断>
複数の不動産を一括して分割の対象とする共有物の分割(「一括分割」)により不動産を取得した場合における持分超過部分の有無及び額については、分割の対象とされた個々の不動産ごとに、分割前の持分の割合に相当する価格と分割後に所有することとなった不動産の価格とを比較して判断すべきである。

<解説>
A:全体説
←本件規定にいう「共有物の分割」は民法の「共有物の分割」と同義であると解されるところ、民法において、1個の不動産を分割の対象とする共有物分割(個別分割)の場合と一括分割の場合とで異なる規律が予定されているわけではなく、両者を統一的に解釈するのが素直。

B:個別説(本判決)
持分超過部分の有無及び額については、一括分割の場合であっても、共有物の分割の対象とされた1個の不動産ごとに判断すべきものと解するのが、不動産取得税の課税の仕組みと整合的

不動産取得税に関する地税法の規定の内容等に照らせば、不動産取得税は、個々の不動産の取得ごとに課されるものであるということができる。
民法その他の法令において、「持分」ないし「持分の割合」とは、通常、個々の共有物ごとの持分の割合を意味し、複数の共有物全体における持分の割合を意味するとは解されない⇒本件規定の括弧書き中の「分割前の当該共有物に係る持分の割合」とは、取得された不動産に対応する分割前の1個の共有物に係る持分の割合をいうと解するのが自然

判例時報2532

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2022年12月 9日 (金)

ふるさと納税と地方交付法に基づく特別交付税減額の可否

大阪地裁R4.3.10

<事案>
総務大臣は、いわゆるふるさと納税に係る寄付金の収入見込額が一定額を超えた場合に特別交付税の額の減額項目とする旨を規定する「特別交付税に関する省令」の規定を適用して、原告(大阪府泉佐野市)の令和1年12月分及び令和2年3月分の特別交付税の額をそれぞれ決定。
本件各特例規定の適用を受け手特別交付税の額を減額された原告が、本件各特別規程は地方交付税法15条1項の委任の範囲を逸脱し違法・無効⇒本件各特例規定に基づく本件各決定は違法⇒国を被告として、本件各決定の取消しを求めた。

地方交付税:地方団体(都道府県及び市町村)間の財源の不均衡を調整し、すべての地方団体が一定の水準を維持し得るよう財源を保障する見地から、国税収入の一定割合を財源として、国が地方団体に交付する税。

<争点>
本案前の争点:
①本件訴えは裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」に当たるか
②総務大臣が行う特別交付税の額の決定は抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるか
③訴えの利益の有無
本案の想定:
④本件各特別規定が交付税法15条1項の委任の範囲を逸脱し違法・無効になるか」

<判断>
● 争点②:
地方交付税は、国から独立した法人である地方団体が自らの事務を行うために交付されるものであって、国の地方団体に対する支出金の性質を持ち、また、その具体的な額は総務大臣が一定の算定方法等に従って決定を行うことによって確定すること等

地方団体は、 交付税法に基づく地方交付税の額を受けることにより、当該決定に係る地方交付税の額の交付を受ける具体的な権利ないし法律上の利益を取得する
⇒総務大臣が行う特別交付税の額の決定は、行政処分に当たる。

● 争点③:
被告:令和元年度の地方交付税の総額の上限は交付税法で定められており、本件各決定を取り消しても、当該上限を超えて原告の特別交付税の額を決定することは不可能⇒本件各決定を取り消すことにより原告に回復すべき法的利益は存在しない

本判決:
交付税法19条1項は普通交付税の額の算定に用いた数について錯誤を発見した場合、錯誤があったことを発見した年度又は翌年度等において地方交付税の額を調整する旨を定めている
翌年度以降において普通交付税又は特別交付税の算定において調整するなどして対応することがおよそ不可能とはいえないとして、被告の主張を斥けた。

● 争点④:
交付税法15条1項の法文の文理を見ると、
「基準財政需要額又は基準財政収入額の算定方法の画一性のため生ずる基準財政需要額の算定課題又は基準財政収入額の算定過少」という各事情があることを特別交付税の減額要因として総務省令(「特別交付税に関する省令」)に委任しているものと解するのが自然。
前記「基準財政収入額の算定方法の画一性のため生ずる」とは、基準財政収入額の算定の基礎となる収入項目に係る現実の収入額と基準財政収入額中の当該収入項目に係る基準税額とに差異が生じ、そのために基準税額の過少算定が生じていることをいうものと解するのが相当。

同項は、文理上、基準収入額の算定の基礎とならない収入項目に係る収入を特別交付税の減額要因となる事情として定めることにつき、総務省令に委任していると解することはできない。

本件各特例規定は、令和元年ふるさと納税寄付金に係る収入が一定額に及ぶことを特別交付税の減額要因となる事情と定めるところ、ふるさと納税寄付金収入は、基準財政収入額の算定の基礎となる収入項目に当たらない(交付税法14条参照)⇒本件各特例規定は、法文の分離からは委任の範囲内の事項を定めるものということはできない。
交付税15条1項の委任の趣旨は、地方団体の実情に通じた総務大臣の専門技術的裁量に委ねるのが相当であり、かつ、状況の変化に応じた柔軟性を確保する必要があることから来るもの
but
ふるさと納税寄付金に係る収入が一定額に及ぶことを特別交付税の減額要因となる事情とするかどうかは、そういう専門技術的な裁量に委ねるのが適当な事柄ではないし、柔軟性の確保が問題となるような事柄でもない

本件各特例規定は、交付税法15条1項の委任の範囲を逸脱したものとして、違法・無効であり、本件各特例規定に基づく本件各決定はいずれも違法。

<解説>
●本件における争点
①本件はそもそも司法の場で解決されるべき「法律上の争訟」(裁判所法3条1項)に当たるか、それとも本件は行政機関の内部の争いと捉えられるものであり、法律上特に定めがない以上、司法の場に持ち出すことはできないものではないか(行訴法6条、42条に規定する機関訴訟ではないか)

法律上の争訟に当たるとしても
②抗告訴訟(行訴法3条)のルートに乗るものか、
公法上の当事者訴訟(行訴法4条)という形式で争うべきか

③抗告訴訟に乗るとしても、訴えの利益があるといえるか(取消判決の効力(拘束力等)により紛争の解決が法的に図られるか)

④本件各規定が交付税法15条1項の委任の範囲を逸脱した違法なものであるか

●処分性
◎ 法律上の争訟に当たる、すなわち最高裁昭和56.4.7等がいう当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であることを肯定
⇒特別交付税額の決定は、地方公共団体に国に対する金銭債権を発生させるものであって、同決定は処分性がある。

取消訴訟の対象となる「処分」(行訴法3条2項)とは、「公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの」(判例)。
特別交付税の額の決定は、総務大臣(国)が優越的地位に基づき地方公共団体に対して一方的に行うもの⇒公権力性は明らか。

本判決:
ア:国から独立した法人である地方団体が自らの事務を行うために交付されるものであること、
イ:国の地方団体に対する支出金の性質を持つこと
ウ:その具体的な額は、総務大臣が一定の算出方法等に従った決定と行うことによって確定することとなること
⇒処分性を肯定。

ア~内部行為性を否定
ウ~本件の決定により正に権利義務が形成される

◎ アについては、独立の法人格を持つ相手方に対する行為であっても、実質的には行政組織の内部行為であると認められれば処分性は否定される(判例)。
but
本件の場面で地方公共団体を国の下級行政庁と捉え内部行為論を持ってくるのは無理。

◎ イについて、
国の地方公共団体に対する支出金をめぐる争いは、金銭債権に関わるものであり、「財産権の主体」相互間の争いであるとして法律上の争訟性を認める見解。
本件も、そのことを意識して支出金とういことを処分性を肯定する1つの論拠にしたもの?

裁判例:
国・地方公共団体間の補助金をめぐる訴訟である「摂津訴訟」の裁判例:
地方公共団体が国に対して保育所設置費負担金の超過負担分を請求(一種の公法上の当事者訴訟として提起)

第1審・控訴審:
保育所の設置費用の負担金の交付については、補助機等に係る予算の執行の適正化に関する法律に基づく交付決定という行政処分を経る必要がある⇒地方公共団体の負担金支払請求を棄却。

補助金適正化法6条1項に基づく補助金の交付決定を抗告訴訟の対象となる行政処分と捉え、行政処分の取消訴訟の形でならば訴えで争うことを認めたもの。

●訴えの利益
◎ 最高裁R3.6.24:
処分を取り消す判決が確定した場合には、その拘束力(行政事件訴訟法33条1項)により、処分をした行政庁は、その事件につき当該判決における主文が導きだされるのに必要な事実認定及び法律判断に従って行動すべき義務を負うことになるが、
上記拘束力によっても、行政庁が法令上の根拠を欠く行動を義務付けられるものではない
その義務の内容は、当該行政庁がそれを行う法令上の権限があるものに限られる

◎ 特別交付税は、年度ごとに総額が決まる⇒令和元年度の特別交付税の総額も決まっているので、取消判決が出されたとして、判決の趣旨に従って原告の令和元年度の特別交付税を増額させるためには、行政庁(総務大臣)は他の地方団体へ交付済みの特別交付税を減額する決定をしなければならないが、これは何ら帰責事由のない原告以外の地方団体に対して不利益を与えるという授益的行政処分の撤回に当たり、不可能という議論があり得る。
他方で、原告に対する令和元年度の特別交付税の額の決定をし、翌年度以降に原告に対して交付する特別交付税又は普通交付税の額により調整することについては、その根拠となる規定が交付税法及び総務省令には存在しないのではないかという疑問。
本判決が引き合いに出す交付税法19条1項の規定は、普通交付税の算定の基礎に用いた数に錯誤があったことを発見した場合に関するもの。
仮に、その類推適用(準用)できないとすると、取消判決の拘束力による行政庁の義務の内容は、当該行政庁がそれを行う法令上の権限があるものに限られると解される
⇒本件訴訟は訴えの利益がない。
but
法律上の争訟性を肯定し、抗告訴訟で争うべきとしながら、訴えの利益はない
⇒残るは国賠請求訴訟という手段によることになって、落ち着きが悪い。

● 交付税法15条1項による委任の範囲
委任命令が授権法の委任の範囲を逸脱するかどうかが問題となった最高裁判決:
①授権既定の文理
②授権法が下位法令に委任した趣旨
③授権法の趣旨、目的及び仕組みとの整合性
④委任命令によって制限される権利ないし利益の性質等
が考慮。
交付税法によると、そもそも地方交付税というのは、財政需要額が財政収入額を超える地方団体に対し、その超過額を補填することを目的として交付するもの(同法3条1項)。
・・・・
交付税法15条1項の眼目は、「普通交付税の額が財政需要に比して過少であると認められる」か否かという点にある。

判例時報2532

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2021年5月25日 (火)

過小資本税制の適用が問題となった裁判例

東京地裁R2.9.3

<事案>
内国法人(本社または主たる事務所が日本国内にある法人)である株式会社Xが、かつてインサイダー取引規制違反により有罪判決を受けたこともある著名なアクティビスト投資家であってシンガポールに居住する非居住者であるAから、年利14.5%で合計164億円を借入れ、これに対する支払利子を、その課税所得計算上損金に算入して法人税の確定申告

課税庁から、Xは、その事業活動に必要とされる資金の相当部分を非居住者であるAから借りれによって調達⇒AはXにとって「国外支配株主等」に該当し、過小資本税制が適用される

前記支払利子の一部である約14億6250万円について損金算入を否認する旨の法人税等の更正処分等を受けた。

X:本件借入れが実行された時点では}Aは住所地をシンガポールに移転しておらず、非居住者ではなかった⇒本件借入れに係る利子は、過小資本税制の適用対象となる「国外支配株主等に支払う負債の利子等」に該当しない⇒本件課税処分の取消しを求めて争った。

<判断>
Aは、平成23年7月4日に東京都渋谷区からシンガポールに住所地を移転
同月5日に非居住者になった。
Xは、Aから同年6月30日から同年7月4日にかけて合計164億円にの上る本件借入れをし、Aが非居住者となった同年7月5日から本件借入れが完済された平成24年3月7日までの期間にAに対して当該期間に対応する利子を支払った
⇒かかる支払利子は「国外支配株主等に支払う負債の利子等」に当たる。

Xの主張
vs.
①貸付け後に貸主が住所地を日本国外に移転した場合には過小資本税制の規定が適用されないことになれば、内国法人が国外支配株主等から過大な貸付けを受けることによる租税回避を防止する趣旨が容易に潜脱される
②同号ロの文言上も、貸主が貸付けの実行時において非居住者である場合に限定する旨の定めはない

同号ロの要件が満たされている旨認定するためには、損金算入の可否が問題となっている利子との関係で、「当該内国法人がその事業活動に必要とされる資金の相当部分を当該非居住者等からの借入れにより調達している」と認められれば足り、貸付けの実行時において貸主が非居住者であることを要しないと解するのが相当。
・・・・

判例時報2473

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2019年1月14日 (月)

第二次納税義務が問題となった事案

津地裁H30.3.22      
 
<事案>
処分行政庁が原告に対して行った、Aの滞納にかかる市県民税につき、原告を第二次納税義務者とする告知処分の適法性が争われた事案。 
Aは、甲及び乙において代表社員として登記されている者であり、原告は、甲の業務執行社員として登記されている者。
(原告は、Aとの関係で、地方税法11条の8に規定する特殊な関係にある個人であることは当事者間において争いがない。) 
①乙が、原告に対し、原告の居住する建物の持分3分の2を譲渡したとの登記
⇒処分行政庁は、法人格否認の法理によりAによる行為と同視でき、かつ実際には無償で行われたものと認め
②甲又はAが、原告に対し、平成25年1月1日から平成26年12月31日までの間、月額10万円(合計240万円)を支払ったことにつき、処分行政庁はAが無償で支給していたものと認め
原告に対し、Aの滞納にかかる市県民税につき、原告を第二次納付義務者として、本件処分を行なった。

原告は、本件訴え提起に先立ち、前記市県民税を完納した上で、
①につき、乙は法人格の実体がある⇒法人格否認の法理の適用はなく、
また、本件譲渡は無償ではない。
第二次納税義務の前提として法人格否認の法理を適用する場合はやむを得ない場合に限定すべきであるが、本件では、やむを得ない事情はない。
②につき、甲から業務執行社員の報酬として支払われたものである
と主張して争った。
 
<争点>
①訴えの利益の有無
②本件処分の適法性(とりわけ、法人格否認の法理の適用の可否) 
 
<判断>
●訴えの利益について 
行政処分の取消判決が確定したときは、その形成力によって当該処分は遡及的に失効することに帰する⇒これにより公法上又は私法上の原状回復請求権の行使が可能となる場合にはなお訴えの利益を肯定することができる

本件処分に係る取消判決が確定すれば、当該処分は遡及的に執行することとなり、原告が納付した市県民税について、被告が保持すべき法律上の原因がないこととなる⇒納付に相当する金額について、不当利得返還請求義務が肯定されることになる⇒訴えの利益を肯定。
 

①乙の本店所在地には事務所としての実体がないこと、
②Aは、乙を関連会社の経理の操作や顧問先の脱税の道具として利用していた
法人格の濫用に当たるとして法人格を否認

第二次納税義務の前提として法人格否認の法理を適用する場合にはやむを得ない場合に限定すべきである旨の主張は、同制度の趣旨に照らして採用できない。
 
<解説>
●処分の執行と訴えの利益 
行訴法 第9条(原告適格)
処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。

行政処分が執行によりその目的を達成する場合、処分の執行完了により、以後の処分をされることはなくなる⇒訴えの利益が消滅することが多い。
but
処分を取り消すことによって法的に原状回復義務が生じると解されるときは、訴えの利益は消滅しないと解される。
地方税法は、過誤納金の還付に関する規定を置く。(地方税法17条)
 
●課税処分と法人格否認の法理 
税法上、実質所得者課税の原則により、法人格否認の法理を用いずとも、課税することが可能な事例が多い

判例時報2386

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2018年5月 1日 (火)

タックスヘイブン対策税制の事案

最高裁H29.10.24      
 
<事案> 
●内国法人であるXが、
平成20年3月期及び平成21年3月期(「本件各事業年度」)の法人税の各確定申告⇒刈谷税務署長から、租税特別措置法(平成21年改正前のもの)66条の6第1項により、シンガポール共和国に所在するXの子会社(「DIAS」)の後記の課税対象留保金額に相当する金額がXの所得金額の計算上益金の額に算入される⇒平成20年3月期の法人税の再更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分並びに平成21年3月期の法人税の再更正処分を受けた

Y(国)を相手に、これらの処分の取消しを求めた。 
 

Xは、平成10年、東南アジア諸国連合(「ASEAN」)域内のグループ会社に対する統率力を高めるため、同グループ会社の保有株式会社を現物出資してDIASを設立

DIASは、Xの100%子会社として、2007事業年度及び2008事業年度において、ASEAN諸国等に存する子会社13社及び関連会社3社の株式を保有し、シンガポールにおける所得に対する租税の負担割合は、2007事業年度では22.89%、2008事業年度では12.78%。

DIASは、豪亜地区における地域統括会社として、集中生産・相互補完体制を強化し、各拠点の事業運営の効率化やコスト低減を図るため、順次業務を拡大し、
DIAS各事業年度当時、同地域のグループ会社(「域内グループ会社」)に対し、個々の業務につき一定の対価を徴収しつつ、地域企画、調達、財務、材料技術、人事、情報システム及び物流改善に係る地域統括に関する業務を行っていたほか、持株(株主総会、配当処理等)に関する業務、プログラム設計業務等を行っていた。

DIAS各事業年度において、DIASの収入金額は地域統括業務の中の物流改善業務に関する売上額を約85%を占め、その所得金額(税引前当期利益)は保有株式の受取配当の占める割合が8~9割と高かったが、地域統括業務によって集中生産・相互補完体制の構築、発展等が図られた結果、域内グループ会社全体に原価率の大幅な低減による利益がもたらされ、その配当収入の中に相当程度反映されていた。
 
<法令等>
わが国のタックス・ヘイブン対策税制である措置法66条の6第1項:
内国法人等が100分の50を超える株式等を直接又は間接に保有する外国関係会社のうち、本店所在地国における所得に対して課される税の負担が本邦における法人の所得に対して課される税の負担に比して著しく低いものとして政令で定める外国関係会社(平成21年政令・・による改正前の租税特別措置法施工令39条の14第1項により、各事業年度の所得に対して課される租税の額が所得金額の100分の25以下)に該当するもの(「特定外国子会社等」)が、
各事業年度においてその未処分所得の金額から留保したものとして所定の調整を加えた金額(「適用対象留保金額」)を有する場合には、
そのうち内国法人の有する当該特定外国子会社等の直接及び間接保有の株式等の数に対応するものとして所定の方法により計算した金額(「課税対象留保金額」)に相当する金額を内国法人の所得の金額の計算上益金の額に算入する旨を規定。

措置法66条の6第4項:
同条1項の適用除外規定として、
①特定外国子会社等のうち、株式等又は債券の保有、工業所有権等の提供等を主たる事業とするものでないこと(事業規準)
②本店所在地国において、主たる事業を行うに必要と認められる事務所、店舗、工場その他の固定施設を有すること(実体基準)
③その事業の管理、支配及び運営を自ら行っていること(管理支配基準)
④主たる事業が卸売業、銀行業、航空運送業等のいずれかに該当する場合には、その事業を主として当該特定外国子会社等に係る所定の関連者以外の者との間で行っている場合に該当すること(非関連者基準)、前記以外の事業に該当する場合には、その事業を主として本店所在地国で行っている場合に該当すること(所在地国基準)
の要件(「適用除外要件」)を全て満たす場合には、タックス・ヘイブン対策税制を適用しない旨を規定。
 
<第1審>
DIASの行う地域統括業務は株式の保有に関する事業に含まれず、その主たる事業は地域統括事業⇒本件各処分(確定申告を超える部分等)は違法であるとして、Xの請求をほぼ認容。 
 
<原審>
①事業としての株式の保有は、単に株式を保有し続けることに限られず、株式発行会社を支配管理するための業務もその一部を成し、被支配会社を統括するための諸業務も株式の保有に係る事業の一部を成す
⇒地域統括業務は、株式の保有に係る事業に含まれる1つの業務にすぎず、別個独立の業務とはいえない。
②実質的にもDIASの主たる業務は株式の保有であると認められる

DIASは事業規準を満たさず、本件処分は適法。
 
<判断>
特定外国子会社等が株式を保有する他の会社を統括し管理するための活動として行う事業方針の策定や業務執行の管理、調整等に係る業務は、通常、業務の合理化、効率化等を通じて収益性の向上を図ることを直接の目的として、その内容も幅広い範囲に及び、これによって当該会社を含む一定の範囲に属する会社を統括するもの
⇒当該会社の配当額の増加や資産価値の上昇に資することがあるとしても、株主権の行使や株式の運用に関連する業務等とは異なる独自の目的、内容、機能等を有するものであって、株式の保有に係る事業に包含されその一部を構成すると解するのは相当ではない。
DIASの行う地域統括業務は、株主権の行使や株式の運用に関連する業務等とは異なる独自の目的、内容、機能等を有する

株式の保有に係る事業には含まれない。 

①措置法66条の6第3項及び4項にいう主たる事業は、
その事業活動の具体的かつ客観的な内容から判定することが相当であり、
複数の事業を営んでいるときは、それぞれの事業活動によって得られた収入金額又は所得金額、事業活動に要する使用人の数、事務所その他の固定施設の状況等を総合的に勘案して判断するのが相当。
DIASの行う地域統括業務は、相当の規模と実体を有し、事業活動として大きな比重を占めている

これを主たる事業と認めるのが相当であり、
Xは適用除外要件を全て満たす。
 
<解説>   
●我が国のタックス・ヘイブン対策税制の概要 

我が国のタックス・ヘイブン対策税制:
軽課税国か否かに着目するいわゆるエンティティ・アプローチを採用しており、
措置法66条の6第1項は、課税要件を明確化して課税執行面における安定性を確保しつつ、内国法人が、法人の所得等に対する租税の負担がないか又は極端に低い国若しくは地域(タックス・ヘイブン)に子会社を設立して経済活動を行い、当該法人に所得を留保することにより、我が国における租税の負担を回避しようとする事例に対処して税負担の実質的な公平を図ることを目的として、
一定の要件を満たす外国子会社を特定外国子会社等と規定し、その課税対象留保金額を内国法人の所得の計算上益金の額に算入(最高裁H19.9.28)。
but
特定外国子会社等であっても、独立企業としての実体を備え、その所在する国又は地域において事業活動を行うことにつき十分な経済合理性がある場合にまで前記の取扱いを及ぼすとすれば、我が国の民間企業の海外における正常かつ合理的な経済活動を阻害するおそれがある。

同条4項は、
株式の保有等を主たる事業とするものでないこと(事業基準)のほか、
実体基準、管理支配基準、非関連者基準又は所在地国基準という適用除外要件が全て満たされる場合には、同条1項の規定を適用しないとしている。
 
●地域統括業務と株式の保有に係る事業との関係 

DIASの行う地域統括業務が事業規準を満たさない株式の保有に係る事業に含まれるかが問題。
   
租税法は侵害規範であり、法的安定性の要請が強く働く⇒その解釈は原則として文理解釈によるべきであり、みだりに拡張解釈や類推解釈を行うことは許されない(最高裁)。
but
判例は、租税法律主義の趣旨に照らし、既定の文言や当該法令を含む関係法令の用語の意味内容を重視しつつ、事案に応じて、その文言の通常の意味内容から乖離しない範囲内で、規定の趣旨目的を考慮することを許容しているように思われる。
   
原審:株式の保有に係る事業が独禁法9条3項(平成9年・・改正前のもの。)にいう持株会社(株式を所有することにより、国内の会社の事業活動を支配することを主たる事業とする会社)の行う事業を含むものと解した。
vs.
同持株会社は、他企業の支配が現実に行われるような形で株式を所有している場合であることが必要であり、単に財産保有を目的とする財産保全会社や株式投資会社など該当しないと解されるなど、株式の保有と事業活動の支配とは別の要件と捉えられる。⇒株式の保有に係る事業が純粋持株会社等一定の持株会社の行う事業を含むとしても、前記の独禁法上の持株会社の行う事業が株式の保有に係る事業に包含されると解することはできない。
   
措置法66条の6第4項が株式の保有を主たる事業とする特定外国子会社等につき事業規準を満たさないとした趣旨
株式の保有に係る事業はその性質上我が国においても十分に行い得るものであり、タックス・ヘイブンに所在して行うことについて税負担の軽減以外に積極的な経済合理性を見出し難いことにある。
   
判例時報2361

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2017年11月 1日 (水)

駐車場が地方税法の併用住宅の敷地の用に供されている土地に該当するかどうか(肯定事例)

東京地裁H28.11.30      
 
<事案>
Xが、東京都知事の委任を受けた東京都練馬都税事務所長から、その所有する各土地のうち駐車場として使用されている各部分については地方税法349条の3の2及び702条の3に規定する固定資産税及び都市計画税の課税標準の特例の適用を受ける住宅用地に該当せず、その余の部分に限り前記の住宅用地に該当するものとして、固定資産税及び都市計画税の各賦課決定を受けた

本件各駐車場も前記の住宅用地に該当する旨を主張して、前記各決定の一部の取消しを求めた。 

<規定>
住宅用地とは、専ら人の居住の用に供する家屋(「専用住宅」)又はその一部を他人の居住の用に供する家屋で政令で定めるもの(「併用住宅」)の敷地の用に供されているj土地で政令で定められるものをいう(地方税法349条の3の2台1項)。

前記の併用住宅
とは、その一部を人の居住の用に供する家屋のうち人の居住の用に供する部分(「居住部分」という、その余の部分を「非居住部分」という。)の床面積の当該家屋の床面積に対する割合(「居住部分の割合」)が4分の1以下である家屋をおう(地税法施行令52条の11第1項)
 
<問題点>
本件家屋が併用住宅に該当すること、本件各駐車場以外のX所有の前記の各土地がその敷地の用に供されている土地で政令に定めるもの(住宅用地)に該当することに争いはない。
本件各駐車場も併用住宅の敷地の用に供されている土地に該当し、ひいては住宅用地に該当するのかが争われた。
 
<主張>
X:
本件各駐車場はX所有の各土地の他の部分と共に、併用住宅である本件家屋を維持し又はその効用を果たすために使用されている一画地の土地⇒住宅用地に該当する。 

Y(東京都):
駐車場が本来的に家屋を維持し又はその効用を果たすために使用されている土地ではないが、附属的な家屋については本来の家屋と効用上一体として利用される状態にある場合には、一個の家屋に含めるものとされ、附属的な家屋には車庫も含まれると解される⇒車庫以外の駐車場についても、住宅に附属する施設として判断できる場合には、住宅用地として認定し得るとして、通達に言及。
but
本件各駐車場については、専ら当該住宅の居住者のための施設であること、ひいては居住者自らが利用する施設であるとは評価できない⇒住宅用地に該当しない。
 
<判断>
駐車場が併用住宅の敷地の用に供されている土地に該当するといえるためには、併用住宅の駐車場との間の関係に着目し、その形状や利用状況等を踏まえ、社会通念に従い、居住部分と非居住部分とから成る併用住宅を維持し又はその効用を果たすために使用されている駐車場であるか否かで判断されるべき。 

併用住宅と全く関わりのない者が利用している駐車場については、社会通念上、これを併用住宅を維持し又はその効用を果たすために使用されている駐車場と評価する余地はない。
but
併用住宅の非居住部分の利用者が利用している駐車場であるからといって、直ちに併用住宅の敷地の用に供されている土地に該当しないものではない。
Yが主張するにように、もっぱら当該住宅の居住者のための施設であることや専ら居住者自らが利用する施設であることまでは要しない

本件各駐車場は併用住宅である本件家屋の敷地の用に供されている土地に該当し、ひいては住宅用地に該当する
⇒Xの請求を認容。

判例時報2342

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2017年9月11日 (月)

私道の用に供されている宅地の相続税における財産評価での減額の要否等

最高裁H29.2.28      
 
<事案>
共同相続人であるXらが、相続財産である土地の一部につき、財産評価基本通達(「評価通達」)の24に定める私道の用に供されている宅地(「私道供用宅地」)として相続税の申告⇒相模原税務署長から、これを貸家建付地として評価すべきであるとしてそれぞれ更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分
⇒Yを相手に、本件各処分(更正処分については申告額を超える部分)の取消しを求める事案 
 
<一審・原審>
一般の通行の用に供している私道は、特段の事情のない限り、これを廃止して通常の宅地地して利用することが可能
⇒評価通達24にいう私道とはその利用に道路内の建築制限や私道の変更等の制限などのような制約があるものを指すと解するのが相当。 

本件各歩道状空地は、建築基準等の法令上の制約がある土地ではなく、また、市からの要綱等に基づく指導によって設置されたことをもって制約と評価する余地があるとしても、これは被相続人の選択の結果であり、Xらが利用形態を変更することにより通常の宅地と同様に利用できる潜在的可能性と価値を有する
⇒私道供用宅地に該当するとはいえない。
⇒Xらの請求をいずれも棄却。
 
<判断>
私道の用に供されている宅地の相続税に係る財産の評価における減額の要否及び程度は、
私道としての利用に関する建築基準法等の法令上の制約の有無のみならず、当該宅地の位置関係、形状等や道路としての利用状況、これらを踏まえた道路以外の用途への転用の難易等に照らし、
当該宅地の客観的交換価値に低下が認められるか否か、また、その低下がどの程度かを考慮して決定
する必要がある。

本件を原審に差し戻した。
 
<規定>
相続税法 第22条(評価の原則)
この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。
 
<解説>
●相続税法22条の規定と私道の意義等 
相続税法22条は、相続等により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価による旨を規定(=時価主義を採用)
相続税における「取得の時」とは被相続人の死亡の時であり、「時価」とは課税時期における当該財産の客観的な交換価値をいう(最高裁)。

不特定多数の独立当事者間の自由な取引において通常成立すると認められる価額を意味する。

「私道」:
一般的には、「私人がその所有権に基づき維持管理している道路」又は「私物たる道路」と定義。

「道路」:
一般に広く人の通行の用に供されている物的施設をさし、道路法上の道路とそれ以外の道路(農道等の公道と私道)に大別され
歩道とは、歩行者が通行するための道路。
 
●財産評価基本通達24の定め等について 
相続税の課税対象となる財産は多種多様であり、その客観的な交換価値は必ずしも一義的に確定されるものではない
⇒国税庁によって相続税・贈与税及び地価税に共通の財産評価に関する基本通達として評価通達が定められている。

評価通達24は、「私道の用に供されている宅地」(私道供用宅地)と規定するのみであり、その逐条解説は、
①不特定多数の者の通行の用に供するいわゆる通抜け道路
②袋小路のように専ら特定の者の通行の用に供するいわゆる行き止まり道路
に分類
①⇒私道の価額を評価せず
②⇒路線価等の100分の30として評価
ただし、
所有者の通路としてのみ使用されている私道は、敷地部分と併せて路線価等としての評価を行い、私道としての評価は行わないとしている。
 
●相続税法22条の時価評価と不動産鑑定評価等について 
評価通達は法令ではなく、個別の財産の評価はその価額に影響を与えるあらゆる事情を考慮して行われるべきもの

財産の評価が評価通達と異なる基準で行わたとしても直ちに違法となるものではない。
(下級審裁判例は、評価通達の定める評価方法は一般的に合理性を有するものとして課税実務上も定着している同通達によって評価することが相当でないと認められる特段の事情がない限り、同通達に規定された評価方法によって画一的に評価するのを相当とするものが多い。)

本件で検討されるべき問題は私道の相続税法22条における時価評価
ここでの時価は、不動産の鑑定評価における正常価格と基本的には同一の概念である(地価公示法2条参照)。

不動産鑑定士による土地評価の統一基準である不動産鑑定評価基準には、私道に関する独自の評価基準は存在しない。
but
私道については、、不動産鑑定評価基準に基づく鑑定評価等において、建築基準法等の法令上の制約の有無に加えて、道路としての利用状況、他の用途への転用の難易の程度等を踏まえて減額評価しているように思われる。
 
●私道の用に供されている宅地の相続税法22条の財産評価について 
私道の用に供されている宅地の財産評価において一定の減額が認められるのは、当該財産の使用、収益又は処分に一定の制約が存在することによって宅地としての最有効使用を実現することができないことにあると解されるところ、
本判決は、このような理解を前提として、
当該宅地が第三者の通行の用に供され、所有者が自己の意思によって自由に使用、収益又は処分をすることに制約が存在することにより、その客観的交換価値が低下する場合に、そのような制約のない宅地と比較して、相続税に係る財産の評価において減額されるべきであると判示。

本件各歩道状空地は、
①車道に沿って幅員2mの歩道としてインターロッキング舗装が施されたもので相応の面積がある上に、本件各共同住宅の居住者等以外の第三者による自由な通行の用に供されていることがうかがわれる
②本件各共同住宅を建築する際、都市計画法所定の開発行為の許可を受けるために、市の指導要綱等を踏まえた行政指導によって私道の用に供されるに至ったもの

本件各共同住宅が存在する限りにおいて、Xらが道路以外の用途へ転用することが容易であるとは認め難い

本件各共同住宅の建築のための開発行為が被相続人による選択の結果であるとしても、直ちに本件各歩道状空地について減額して評価をする必要がないとはいえない

判例時報2336

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2017年1月 4日 (水)

信託契約の受託者が所有する複数の不動産の固定資産税に係る滞納処分としてされた、信託財産である土地とその上にある固有財産である家屋に係る賃料債権の差押え(適法)

最高裁H28.3.29      
 
<規定> 
(信託財産に属する財産に対する強制執行等の制限等)
第二十三条  信託財産責任負担債務に係る債権(信託財産に属する財産について生じた権利を含む。次項において同じ。)に基づく場合を除き信託財産に属する財産に対しては、強制執行、仮差押え、仮処分若しくは担保権の実行若しくは競売(担保権の実行としてのものを除く。以下同じ。)又は国税滞納処分(その例による処分を含む。以下同じ。)をすることができない。 
 
<争点>
本件処分においては、信託財産である本件土地に係る固定資産税とX1会社所有名義の本件土地以外の不動産に係る固定資産税を区別せず、その全体を差押えに係る地方税として、信託財産である本件土地の賃料相当額部分を含む本件賃料債権全体に対する差押えが行われた
⇒旧信託法16条1項(新信託法23条1項相当)との関係でその適法性が争われた。 
 
<判断>
信託契約の受託者が所有する複数の不動産の固定資産税に係る滞納処分としてされた、同各不動産のうちの信託財産である土地とその上にかる固有財産である家屋に係る賃料債権の差押えは、滞納に係る同固定資産税等のうち信託財産である同土地以外の不動産の固定資産税相当額部分に基づき、同賃料債権のうち同土地の賃料相当額を差し押さえる点において旧信託法16条1項との関係で問題があるものの、その問題となる部分は右の限度にとどまり、差押えを全体として違法とするような特段の事情もうかがわれないなど判示の事情の下においては、適法である。

原判決を破棄し、控訴を棄却。 
 
<解説>
●本件賃料債権及び本件固定資産税について、信託財産に架kる部分と固有財産に係る部分を識別し得るとすると、実体的に見るならば、本件処分については、本件滞納固定資産税等のうち本件土地以外の不動産の固定資産税相当額に係る部分に基づき、本件賃料債権のうち本件土地の賃料相当額部分を差し押さえることとなる点において旧信託法16条1項との関係で問題。
but
本件滞納固定資産税等のうち本件土地の固定資産税に係る部分に基づき、本件賃料債権を差し押さえることや、本件滞納固定資産税等に基づき、本件賃料債権のうち本件家屋の賃料相当額部分を差し押さえることは、同項に反するものではない。

●どの段階で、右の実体的関係を反映させるための調整を行うべきか?
A:差押えの段階で調整する必要はない
B:実体的な観点から調整の余地がある以上、差押えの段階で対応すべき

最高裁昭和43.7.16:
滞納者の所有財産(宅地)に対する滞納処分が、その滞納者の滞納税金のみならず、誤って他の者の滞納税金をも徴収するために行われた場合には、同所分の瑕疵は、他の滞納者の滞納税金に対するものとしてなされた部分についてのみ存し、その滞納処分全体を違法ならしめるものではない。

●本件賃料債権を信託財産部分と固有財産部分に識別した上、信託財産部分を本件土地に係る滞納固定資産税に充当した結果、同滞納固定資産税が全て徴収された場合には、本件賃料債権のうち信託財産部分について取り立てた金員があれば、これをX1会社に交付すべきこととなり、X1会社からは不当利得の返還請求をすることが可能。 

●本件賃料債権中消費税相当額部分についても差押えの対象となし得るか?
について、本判決は肯定。

そもそも消費税の納税義務者は消費者ではなく事業者であり(消費税法5条1項)、消費税相当額の実質的な出損をしたのが消費者(訴外会社)であったとしてもこの点は同様であり、消費者の負担する消費税相当額は、消費者からの預り金ではなく、事業者と消費者の間の商品・役務の対価の一部であるべきものと解される。
消費税相当額を差し押さえたことに何ら違法はない

判例時報2310

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2016年9月14日 (水)

法人税法(平成22年法律第6号による改正前のもの)132条の2(組織再編成に係る行為又は計算の否認規定)の適用

最高裁H28.2.29      
 
<事案>
①ヤフー㈱の代表取締役社長は、平成20年12月26日、ソフトバンク㈱の完全子会社であるソフトバンクIDCソリューションズ㈱(当時、多額の未処理欠損金額を保有)の取締役社長に就任。
②ヤフーは平成21年2月24日、ソフトバンクからIDCSの発行済株式の全部を譲り受け、IDCSをヤフーの完全子会社とした。
③ヤフーは、同年3月30日、ヤフーを合併法人、IDCSを被合併法人とする吸収合併。 
ヤフーは、本件事業年度(平成20年4月1日から同21年3月31日までの事業年度)の法人税の確定申告に当たり、本件合併は法人税法2条12号の8の適格合併であるところ、法57条3項の委任に基づく法人税法施行令112条7項5号に想定されている特定役員引継要件(要旨、合併法人と被合併法人の常務取締役以上の役員のいずれかの者が、合併後にそれぞれ合併会社の常務取締役以上の役人になる見込みがあるという要件)を充たしており、適格合併における被合併法人の未処理欠損金額の引継を制限する法57条3項の適用はないとして、同条2項に基づき、IDCSの未処理欠損金額約542億円をヤフーの欠損金額とみなして、同条1項の規定に基づきこれを損金の額に算入。

麻布税務署長(処分行政庁)は、組織再編成に係る行為又は計算の否認規定である方132条の2を適用し、前記未処理欠損金額をヤフーの欠損金額とみなすことを認めず、ヤフーに対し、本件事業年度の法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分。

ヤフーが被上告人(国)を相手に、本件副社長就任につき法132条の2は適用されないなどと主張し、本件更正処分等の取消しを求める。
 
<判断>
●不当性要件

法人税法(平成22年法律第6号による改正前のもの)132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは、法人の行為又は計算が組織再編税制に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものであることをいう。 

その濫用の有無の判断に当たっては、
①当該法人の行為又は計算が、通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり、実態とは乖離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるかどうか
②税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか
等の事情を考慮した上で、当該行為又は計算が、組織再編を利用して税負担を減少させることを意図したものであって、組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものと認められるか否かという観点から判断するのが相当。

①ヤフーがIDCSの発行済株式全部を買収して完全子会社とし、その後IDCSを吸収合併した場合において、ヤフーの代表取締役社長が前記買収前にIDCSの利益だけでは容易に償却し得ない多額の未処理欠損金額を前期の買収及び合併によりヤフーにおいてその全額を活用することを意図して、前記合併後に井上がヤフーの代表取締役社長の地位にとどまってさえいれば法人税法施行令(平成22年政令第51号による改正前のもの)112条7項5号の要件が満たされることとなるよう企図されたものであり、②その就任期間や業務内容等に照らし、井上がIDCSにおいて同号において想定されている特定役員の実質を備えていたということはできないなど判示の事情

法人税法(平成22年法律第6号による改正前のもの)132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に当たる
 
●行為主体要件 
法人税法(平成22年法律第6号による改正前のもの)132条の2にいう「その法人の行為又は計算」とは、更正又は決定を受ける法人の行為又は計算に限られるものではなく、同条同号に掲げられている法人の行為又は計算を意味する。
 
<解説>
●不当性要件の意味

ヤフーの主張:
①法132条の2が法132条の枝番
②不当性要件に係る文言の共通性等

同族会社の行為計算の否認規定である同条1項の不当性要件に係るいわゆる「経済合理性基準」(専ら経済的、実質的見地において当該行為計算が純粋経済人の行為として不合理、不自然なものと認められるか否か)を採用し、かつ、その具体的な内容とし、その通説的見解とみられている「(行為・計算が)異常ないし変則的で租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在しないと認められる場合」という基準を採用すべきである旨主張。
具体的には、「法132条の2の不当性要件は、私的経済取引プロパーの見地から合理的理由があるか、すなわち純経済人の行為として不合理・不自然な行為又は計算か否かという観点から判断されるべきである。そして、純経済人の行為として不合理・不自然とは、行為が異常ないし変則的で、かつ、租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在しない場合をいう」と主張
vs.
①経済合理性基準においては、「純経済人の行為として不自然・不合理であるか否か」という基準が用いられるところ、組織再編成は売買契約や雇用契約などの典型契約とは異なるため、必ずしも一般的な取引慣行や取引相場があるわけではなく、多数の企業が関与して複雑かつ巧妙な租税回避行為が行われた場合、そもそも純経済人(特殊な利害関係のない一般的な経済人)の行為として自然かつ合理的な組織再編成とは何かという議論の出発点からその審理判断に困難を来し、その不当性を適切に判断し得ない場合もあり得る。
⇒法132条の2の不当性要件の該当性の判断基準として経済合理性基準をそのまま用いることは、組織再編成という事柄の性質上、必ずしも適切ではない。
②法132条の2が方132条の枝番となっていることは、法133条以下の各番号の変更を避けるための立法技術上の措置
⇒不当性要件の解釈に直ちに影響するものとはいえない。
③立法主義が異なれば、同一の文言であってもその意義や内容に差異が生じることはあり得るというべきであり、法132条1項との文言の同一性もその解釈の決め手となるものではない。
④「租税回避」の概念についても、その意味内容は多義的であり、不当性要件の解釈の決め手となるようなものではない。

国の主張:
法132条の2の立法趣旨等に照らし、いわゆる「制度濫用基準」を採用すべきであると主張。
具体的には、「法132条の2の不当性要件については、組織再編税制における各個別規定の趣旨、目的に鑑みて、ある行為又は計算が不合理又は不自然なものと認められる場合をいい、租税回避の手段として組織再編成における各規定を濫用し、税負担の公平を著しく害するような行為又は計算がこれに当たる」と主張。

本判決:
同条の立法趣旨に照らし、同条の不当性要件の解釈につき、制度濫用基準の考え方を採用する旨を明確に示した。

●濫用の有無の判断に係る考慮事情 
濫用の有無の判断に当たっては、
行為・計算の不自然性
そのような行為・計算を行うことの合理的な理由となる事業目的等の有無
との2点を特に重視して考慮すべきである。

経済合理性基準の具体的な内容に係る通説的見解とされている「(行為・計算が)異常ないし変則的で租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在しないと認められる場合」に含まれている二つの要素を、組織再編成の場面に即して表現を修正し、特に重要な考慮要素として位置づけたもの。

制度濫用基準の考え方を基礎としつつも、その実質において、経済合理性基準に係る通説的見解の考え方を取り込んだもの。

●濫用の有無の判断における具体的な観点 
「制度の濫用」の意味内容について、最高裁H17.12.19:
企業が外国税額控除制度を濫用した事例につき、当時の法人税法69条を限定解釈して同条の適用を否定したもの。
「本件取引は・・我が国の外国税額控除制度をその本来の趣旨目的から著しく逸脱する態様で利用して納税を免れ、我が国において納付されるべき法人税額を減少させた上、この免れた税額を原資とする利益を取引関係者が享受するために、取引自体によっては外国法人税を負担すれば損失が生ずるだけであるという本件取引をあえて行うというものであって、我が国ひいては我が国の納税者の負担の下に取引関係者の利益を図るものというほかない。そうすると、本件取引に基づいて生じた所得に対する外国法人税を法人税法69条の定める外国税額控除の対象とすることは、外国税額控除制度を濫用するものであり、さらには、税負担の公平を著しく害するものとして許されないというべきである。」

本判決が、濫用の有無の判断において、
①組織再編成を利用して税負担を減少させる意図(租税回避の意図)
②組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものであること(趣旨目的からの逸脱)
をその要素としているのは、上記平成17年判決の説示における「制度の濫用」の評価の基礎とされた内容が参考にされたもの。

判例時報2300

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