医療過誤

2017年8月 8日 (火)

重症新生児仮死の状態で出生し、重度の後遺障害を負った⇒損害賠償請求(肯定)

高知地裁H28.12.9      
 
<事案>
Yの運営する病院で重症新生児仮死の状態で出生し、重度の後遺障害を負ったA並びにその両親である父B及び母Cが、Y病院の医師及び助産婦には急速遂晩の準備及び実行をすべき義務があるのにこれを怠った過失等がある
⇒Yに対し、民法715条1項に基づき、合計約2億円余の損害賠償請求。 
 
<判断>
遅発一過性徐脈がある場合には胎児が低酸素状態にあることが、基線細変動が減少している場合には胎児の状態が悪化していることが、それぞれ推測される
②上記のとおり、Aの遅発一過性徐脈は一時的なものではなく、午後3時40分頃には高度遅発一過性徐脈が発生し、午後3時50分頃から、基線細変動の減少を伴う高度遅発一過性徐脈が複数回にわたり発生

担当医Dにおいては、遅くとも午後4時40分頃に分娩室に入室したころには、Aが低酸素状態にあり、その状態が悪化していることを認識することができた。 

Aがその後直ちに娩出されるような状況にはならなかった

陣痛促進薬による経膣分娩をそのまま続行した場合には、上記の低酸素状態がさらに増悪し、ひいてはAに低酸素状態を原因とする脳性麻痺の後遺障害が生じることがあり得ることを予見することができた

急速遂娩を行わなかった担当医Dには過失がある。
Yに対し、Aに1億7411万円余、Bに330万円、Cに440万円を支払うよう命じた。

 
<解説>
本判決が依拠したのは日本産婦人科学会と日本産婦人科医会が発表している「産婦人科診療ガイドライン・・・産科編2011」

日本産婦人科学会と日本産婦人科医会でコンセンサスが得られた医学的知見が示されていると判示。

判例時報2332

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2017年8月 7日 (月)

肝機能が悪化した場合に専門の医療機関を紹介する診療契約締結とその不履行が認められた事例

京都地裁H28.2.17      
 
<事案>
Xが、Yの開設するYクリニックにおいて、Yとの間で、B型肝炎の治療を目的とした診療契約を締結
but
Yクリニックの担当医師であるA医師が、適切な診察を怠った結果、肝硬変及び肝がんに罹患

診療契約の債務不履行に基づき、1億2278万円余の損害賠償請求。

B医師は、A医師にXを紹介するにあたり、XがB型肝炎ウイルスキャリアであり、肝機能障害に注意すべきであるとの引継ぎ。
but
Yクリニックは、Xに対し積極的に肝炎の治療は行わなかった。
Xは平成17年10月、C病院で肝がんの疑いを指摘され、同年11月にはD病院で肝腫瘍と診断された。
 
<判断> 
①Yクリニックでの治療を受ける前のB医師の治療でもバセドウ病の治療を受けており、B型肝炎の治療を受けていない
②YクリニックはB型肝炎の専門的な治療を行う医療機関ではない
③XもYクリニックにおいて積極的な肝炎の治療を受けていたとまでの認識がない

X・Y間でB型慢性肝炎に関する諸検査等を積極的に実施するなどの治療管理を内容とする診療契約が成立したとまでは認定できない。
but
①A医師はB医師からXがB型肝炎ウイルスキャリアであり、肝機能障害に注意すべきである旨の引継を受けた
②これを受けて、A医師は、第1回目の診察の際、血液検査を実施し、その2か月後の診察の際には、腹部エコー検査及び腫瘍マーカー検査を実施し、「肝機能←ならG紹介」とカルテに記載している
③甲状腺機能亢進症の治療で処方されるメルカゾールにより肝機能が悪化することがあり、治療の際にも肝機能には注目しなければならない
④A医師は、定期的にXの血液検査を実施し、GOT及びGPTの各値をカルテに記載

A医師は、バセドウ病の治療を継続する際に、肝機能に着目し、Xの肝機能が悪化した場合には、専門医療機関を紹介する必要があるとの意思を有していた

Yは、Xの肝機能が悪化した場合には、肝臓専門の医療機関を紹介する診療契約を締結したと認定。

①平成15年6月に実施された血液検査によれば、GOT値がGPT値を上回るような数値でないものの、GOTが97、GPTが166といずれも急激に上昇しており、肝硬変への進行が疑わる数値が表れている
②A医師自身も、前記検査結果を受けてカルテに「肝機能←」と記載

平成15年6月の時点で、XをG等の肝臓の専門医療機関に紹介すべき義務があったのに、これに違反した債務不履行がある。

Yの債務不履行とXの肝硬変及び肝がん罹患との因果関係について、
平成15年6月の時点でXが肝臓の専門医療機関において治療を受けていれば、少なくとも、肝がんへの進行時機を遅らせることができたとして因果関係を肯定

損害については、4割の過失相殺
⇒954万円余の限度で請求の一部を認容。
 
<解説>
医師は、診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準に従った診療を行うべき注意義務を負っている。

医師が自ら医療水準に応じた診療をすることができないときは、医療水準に応じた診療をすることができる医療機関に患者を転送する義務がある
(最高裁)。 

判例時報2332

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2016年11月16日 (水)

美容外科における説明義務違反の不法行為(肯定)

大阪地裁H27.7.8      
 
<事案>
原告は、被告が施術したスーパーリセリング(美容施術)の効果が全くなかったこと、事前の検査義務違反、説明義務違反があったこと等を主張、⇒債務不履行又は不法行為に基づき、約360万円(治療費、化粧品代、逸失利益、慰謝料、弁護士費用)の支払を求めた。 
 
<争点>
①事前の適用検査義務を怠った過失又は注意義務違反の有無
②説明義務を怠った過失又は注意義務違反の有無
③相当因果関係
④損害の発生 
 
<判断>
●争点②について 
①美容診療が生命身体の健康を維持ないし回復させるために実施されるものではなく、医学的に見て必要性及び緊急性に乏しいもの
②美容という目的が明確で自由診療に基づき安価とはいえない費用で行われるもの

美容診療による客観的な効果の大小、確実性の程度等の情報は、美容診療を受けるか否かの意思決定をするにあたって特に重要と考えられる。

美容診療を受けることを決定した者とすれば、医師の特段の説明ががない限り、主観的な満足度はともかく、客観的には美容診療に基づく効果が得られるものと考えているのが通常。

効果が客観的に現れることが必ずしも確実ではなく、場合によっては客観的な効果が得られないこともあるというのであれば、医師は美容診療を実施するにあたり、その旨の情報を正しく提供して適切な説明をすることが診療契約に付随する法的義務として要求される。

医師が上記のような説明をすることなく、美容診療を実施することは、診療対象者の期待と合理的意思に反する診療行為に該当するものとして、説明義務違反に基づく不法行為ないし債務意不履行を免れないと解するのが相当。

原告が、担当医師から美容効果が確実でないことについて説明を受けていたとしてもスーパーリセリングを受けた蓋然性が高かったものとは認められない。
⇒不法行為に基づく損害賠償義務を負う

●争点③も肯定 

●争点④は、スーパーリセリングに要した費用全額を損害と認定したほか、慰謝料、弁護士費用も一部認容。 
 
<解説>
●説明義務違反 
美容外科においては、他の診療科に比べ、医師の説明義務が過重されると解する裁判例(京都地裁昭和51.10.1)
右目背にある腫瘤(右目結膜類皮腫)の摘出手術における説明義務が問題となった事案について
「特に本件のように美容に重点があり、是非必要とする手術でない場合は一層然りといわねばならず、それに伴う責任の免除は医師が患者に合併症について十分な説明を行い、患者が尚且これを望んだ場合にのみ与えられるべきものであり、然らざる限り契約に反する違法な侵襲となり医師はそのために生じた損害賠償の責めを免れない」とする。

説明義務の加重

①美容外科は、他の診療科と異なり、疾患のない患者に対して美容という主観的願望を満足させることを目的としており、美容外科医療を行わなくとも患者の健康状態が悪化することはない⇒医学的適応性(必要性)及び緊急性が乏しい又は存在しない
②多くの場合、医療機関が宣伝により顧客を誘引しており、施術が高額な自由診療として実施される⇒消費者取引的側面がある。
 
●損害(因果関係) 
医師の説明義務違反が認められる場合、因果関係があるとされる損害の範囲:
①説明義務違反による自己決定権の侵害に対する慰謝料
②さらに生じた悪しき結果(後遺障害等)に起因する損害
③施術費用総合額の損害
仮に十分な説明を受けていれば、患者が当該美容診療を受けなかったであろうと認められる場合⇒説明義務違反と生じた悪しき結果等の間に因果関係が認められる。
そのような認定ができない⇒生じた悪しき結果との間にまで因果関係は認められない。

本判決:
説明義務違反と相当因果関係のある損害の範囲について、十分な「説明をしなくても美容診療を受けようとする者がすでに当該美容診療の効果が確実ではないことを認識していたなどの特段の事情のない限り、当該医師による・・・説明がなされなかった結果、当該美容診療によって美容効果が確実に得られるかのような錯誤に陥り、そのような誤解に基づいて当該美容診療を受けるに至った」ものと認められる

本件では、「特段の事情」の立証がないとし、「原告が(担当医)から美容効果が確実でないことについての説明を受けたとしても(本件美容診療)を受けた蓋然性が高かったものとは認められない」とした。

本件美容診療の施術日相当額について、「説明義務違反により、原告が錯誤に陥った状態の下で支払われたものであることからすると、その全額が原告の損害と認めるのが相当であ」ると判断。
本判決は、不法行為責任を認めながら、損害として原告が被告に支出した治療費の全額を損害としている。
一般に、診療契約の法的性質については、①準委任契約説、②請負契約説、③無名契約説の対立があり、裁判例では(治療を中心とした事務処理を目的とする)準委任契約を解するものが多い。
but
美容診療の場合、治療というよりは、美容を主たる目的としているので請負契約的側面が強い。
⇒医師が患者に約束した結果が得られない場合、債務の本旨に従った履行がないとして治療費全額を損害と認定することも自然
といえる。

債務不履行責任ではなく、不法行為責任を認定したのは、治療費全額を損害とするだけでは不十分であり、慰謝料及び弁護士費用も損害とすることが相当としたとも考えられる。

判例時報2305

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2016年7月21日 (木)

糖尿病足病変による患者の左第四趾切断手術の処置等と医師の過失(否定)

大阪高裁H25.3.14      

<事案> Yの開設・運営する病院で、糖尿病の治療を受けるとともに、平成21年3月16日糖尿病足病変による左第四趾切断手術⇒その後転送先の病院で左大腿切断手術を受けたが、重篤な後遺障害

①通院治療では血糖管理ができなかったため、Xを入院させるか、糖尿病専門医に転送すべき注意義務を怠った
②本件手術において、感染している壊死部位の切断範囲が十分でなく、また、切断後の縫合が不適切であった
③平成21年3月19日の時点で、Xを入院させるか、糖尿病専門医に転送すべき注意義務を怠った
⇒担当医師に過失があったとして、Yに対し、不法行為に基づく損害賠償請求。
 
<判断>
①病院における血糖管理が糖尿病専門医の血糖管理に比べて劣っていたとは認められず、病院の血糖管理が不適切であったとはいえない
②感染部分の切除が不十分であったと考える余地があるものの・・・担当医師が行ったように切除部分を壊死部分とし、感染部分については抗生物質による効果を期待する方法をとっても不適切であったとはいえない
③・・・Xを直ちに入院させたり、糖尿病専門医に転送したりすべき注意義務違反があったとはいえない

注意義務違反を否定。 
 
<解説>
医師としては、診療当時にいわゆる臨床医療の実践の場における医療水準に従った最善の注意義務が要求される(最高裁H7.6.9)
but
近時の裁判例では、医療の特殊性に鑑み、医師の裁量を肯定する動向にあり、合理的裁量の範囲を越えない限り法的義務違反は問われないとしている。 

判例時報2293

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2016年6月30日 (木)

大学病院で、脳内に再発した悪性脳腫瘍の治療として大量抗がん剤治療⇒転移先の病院で死亡(過失否定)

大阪地裁H26.3.18    

<事案>
Bが、Aが敗血症(感染症)により死亡したとして、Y1大学病院及びY2総合病院の医師らには、敗血症を疑わなかった過失があったなどと主張して訴訟提起。 
 
<争点>
大量抗がん剤投与後のAの診療経過に照らして、Y1大学病院及びY2総合病院の医師らには、敗血症を疑うべき義務があったか? 
 
<判断>
●Y1大学病院について 
骨髄抑制から回復した後は敗血症の臨床症状(悪寒・戦慄を伴う38度台又は39度台以上の発熱)に合致する症状が認められなかったなどの診療経過

①大量抗がん剤治療を受けた後には、骨髄抑制による白血球数の低下が一般的に生じること
②自家末梢血幹細胞移植を併用した大量抗がん剤投与の効果及び術後の経過観察について医学的知見の集積もない

Aの白血球数がSIRS項目の一つである4000未満であったとしても、敗血症であったとはいえない

Y1大学病院の医師らには、敗血症を疑うべき義務はなかった
 
●Y2総合病院について 
レントゲン及びCT検査の結果、肺炎像は明らかであったとはいえず、検査数値や臨床症状から敗血症を疑わせる状況にもなく、精神症状についても原疾患である胚細胞腫の悪化によるものと考えられる。
⇒Y2総合病院の主治医には、敗血症を疑うべき義務はなかった

判例時報2288

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2016年3月15日 (火)

直腸癌の手術⇒大量出血で死亡⇒担当医師による注意義務違反を肯定

大阪高裁H27.5.29    

直腸癌の手術⇒大量出血で死亡⇒担当医師による注意義務違反を肯定
 
<事案>
訴訟脱退前Yが開設した大阪病院において、直腸癌について低位前方切除術を受けた訴外Aが死亡⇒その遺族であるXらが、手術をした担当医師には注意義務違反があったと主張し、Yに対して、不法行為に基づき、損害賠償を請求。
 
<判断>
①Aの大量出血は、担当医師が、本件手術中に仙骨前面静脈叢に損傷を加え、その際いったんは止血措置がなされたものの、本件手術後5日目の深夜から早朝にかけて、同止血部分から再出血したものと推認することができる。
②本件のような早期の直腸癌に対する低位前方切除術においては、下腹神経前筋膜を温存し、仙骨前面静脈叢を露出又は損傷することがないように配慮して手術手技を行う注意義務があるというべきである。
③担当医師が、本件手術の際、仙骨前面静脈叢に対する損傷を加えたことにより、Aの大量出血が発生したものと推認することができるから、担当医師の本件手術における手技には、前記②の注意義務に違反する過失があるというべきである。

Yの使用者責任を肯定し、Xらの本訴請求を認めた

判例時報2280

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2015年12月 6日 (日)

医がん検診において硫酸バリウム製剤を服用したことにより、大腸穿孔等を発症し、その後死亡したことについて、問診を担当した看護師の説明義務違反、問診義務違反等が否定された事例

東京地裁H27.5.22   

医がん検診において硫酸バリウム製剤を服用したことにより、大腸穿孔等を発症し、その後死亡したことについて、問診を担当した看護師の説明義務違反、問診義務違反等が否定された事例
 
<事案>
Aは、胃がん検診において硫酸バリウム製剤を服用したことにより、大腸穿孔、腹膜炎等を発症し、その後死亡。
⇒相続人が、Yに対し、債務不履行に基づき損害賠償を請求。 
 
<争点> 
①診療契約の当事者
②問診を担当した看護師の説明義務違反の有無
③問診を担当した看護師の問診義務違反の有無
④硫酸バリウム製剤の排出状況を確認する義務 
 
<判断>
②について:
・・・バリウムの副作用の重大性、これが排出されない場合の対応等について、Aが理解し得るよう具体的に説明したといえるし、バリウム便が少量排出されるのみでは副作用の危険性は払拭されないことなどの説明がないからといって、説明義務違反があったとまでいうのは困難。
③について、問診の不備なし。
④について、集団検診であることをも考慮すると、Yの医療従事者に、検診後もAのバリウムの排出状況を確認するまでの義務があるとはいえない。
①については、判断なし。
 
<解説>
債務不履行に基づく損害賠償請求権が訴訟物(不法行為では消滅時効の問題)⇒集団検診における診療契約の当事者も問題(判断はしていない)。

横浜地裁H9.3.26は、検診を実施する財団法人と受診者との間で診療契約が締結された。
仙台地裁H8.12.16は、地方公共団体と検診を実施する財団法人との委託契約は、受診者である第三者のためにする契約。 

判例時報2271

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2015年12月 5日 (土)

特別老人ホームに入所していた老人が肺血栓塞栓症により死亡した場合において、同ホームの配置医に過失があったとして医師の不法行為責任が認められた事例

広島高裁H27.5.27    

特別老人ホームに入所していた老人が肺血栓塞栓症により死亡した場合において、同ホームの配置医に過失があったとして医師の不法行為責任が認められた事例
 
<事案>
Aが死亡したのはホームの配置医であるY1が肺血栓塞栓症の治療・予防薬である「ワーファリン」の調整を怠った過失によるもの⇒Aの遺族であるXらが、Y1(配置医)及びY2(ホームの経営者)に対し、債務不履行又は不法行為に基づき、損害賠償を請求した事案。 
 
<判断>
Y1について:
①患者に対してワーファリンを処方する医師は、ワーファリンの添付文書及び適正使用情報の記載に沿って血液凝固能検査等出血管理を十分に行いつつ使用すべき注意義務がある。
②Y1は・・・DTIINR値を測定するなどしてワーファリン投与量を調整することをしていない⇒この措置はワーファリン添付文書の記載に反するものであり、Y1の前記義務違反は明らか
③・・どのようにワーファリンを使用しておれば肺血栓塞栓症の発症を回避し、その死亡を免れることができたのかについては、これを的確に認めるに足る証拠がない⇒ワーファリンの投与量を調整する義務を履行することによって、肺血栓塞栓症の発症を防ぐことができたとまでは認められず、死亡との因果関係はない
④but生存した相当程度の可能性があった⇒慰謝料300万円を肯定

Y2について:
老人ホームが入所者に対して適切な医療を提供する義務があるとは認められない⇒棄却。
 
<解説>
医薬品の添付文書記載事項は、当該医薬品の危険性につき最も高度の情報を有している製造業者等が、投与を受ける患者の安全性を確保するために、これを使用する医師などに対して必要な情報を提供する目的で記載するもの。
医師が医薬品を使用するにあたって右文書に記載された使用上の注意義務に従わず、これによって医療事故が発生した場合には、特段の事情が無い限り、当該医師の過失が推定される(最高裁H8.1.23)。 

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2015年7月 6日 (月)

眼科医側において合併症である眼内レンズの破損のおそれの説明義務違反があるとして自己決定権侵害が認められた事例

東京高裁H26.9.18   

眼科医の長男の医院で白内障手術を受け遠近両用の高価な眼内レンズを挿入していた患者が、区の実施する後期高齢者医療健康診査のため眼科診療所で受診した当日に後発白内障のレーザー後囊切開術を受けたが、右手術をした眼科医側において合併症である眼内レンズの破損のおそれの説明義務違反があるとして自己決定権侵害が認められた事例 
 
<事案>
XはA病院で受診し、検査項目の1つである精密眼底検査をA病院で紹介された眼科医Yの眼科診療所で受診した。
Xは、Yの診療所において後発白内障の手術を受けたが、Yの注意義務違反及び説明義務違反を主張し、Yに対し、不法行為又は債務不履行に基づき損害賠償請求。 
Xは長男甲が眼科医であり、甲病院で白内障手術を受け、遠近両用の高価な眼内レンズを挿入していた。
 
<争点>
①検診の当日に両眼に本件手術を実施したことは注意義務に違反するか
②本件手術の実施はXの意思に反するものであったか
③本件手術を実施した際の注意義務違反の有無
④説明義務違反及び自己決定権の侵害の有無
⑤損害額 
 
<原審>
Yの注意義務違反・説明義務違反を否定 
 
<判断>
● 争点①②③について否定
● 争点④について、
YはXに、
後発白内障という病名を告知し、その説明をすること
本件手術の適応があることを説明すること
合併症の説明をすること
が説明義務の範囲。

後囊切開術の合併症として、眼内レンズが破損する頻度は、破損の定義によるが、4ないし40%に上るとされる稀な合併症ではない⇒ほとんどの症例では顕著な症状を欠き特に治療は要しないとされていることを考慮しても、この点についても説明義務あり。

合併症に関する説明として、
①手術後一時的に眼圧上昇や飛蚊症が出ることについては、Bにおいて、説明された。
②網膜剥離や眼内レンズが破損することがあることに関しては、 BがXに対して説明をした旨の陳述の信用性については相応の検討を要する。

・・・・Xにおいて、Bから、眼内レンズが破損する合併症がある旨の説明を受け、そのことを十分に理解したのであれば、その日に本件手術を受けることは回避し、甲に相談するのが自然であると解される。
BがXに対し、眼内レンズの破損の合併症があることについてXに理解できるような説明をしたと認めることは困難であり、この点について、Yには説明義務違反(診療契約に基づく債務不履行)があったものと認めるのが相当


Xは、Y(補助者としてのBを含む)からの説明により、本件手術について同意したが、自らの意思で本件手術を受けるか否かを決定するために必要十分な説明が受けられなかった自己決定権を侵害されたもの
⇒これによる慰謝料の額は50万円、弁護士費用の額は5万円が相当。 

判例時報2255

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2015年6月22日 (月)

相当程度の可能性の理論⇒慰謝料肯定

東京地裁H26.9.10   

下大静脈フィルターを抜去された患者が肺塞栓症により死亡したことにつき、医師が事前に塞栓子の捕獲状況を確認していれば、患者がその脂肪の時点においてなお生存していた相当程度の可能性が認められるとして、病院開設者に慰謝料350万円の支払が命じられた事例
 
<事案>
Aの相続人であるXらが、Yに対し、使用者責任に基づき損害の賠償を求める事案。 
 
<主張>
担当のB医師には
①本件フィルターを抜去した時点においてはいまだ肺塞栓症の危険が大きかったにもかかわらず適応の判断を誤って抜去に及んだ注意義務違反
②抜去に先立って本件フィルターが塞栓子を捕獲しているか確認すべきであったにもかかわらずこれを怠った注意義務違反
③抜去に先立って抜去後の肺塞栓症の危険を説明すべきであったにもかかわらずこれを怠った注意義務違反
各注意義務違反とAの死亡の結果との間には因果関係又は相当程度の可能性がある。
 
<判断>

争点①について:・・・B医師が本件フィルターを抜去した判断にも一応の合理性があり、医師の裁量の範囲内にあるといえる⇒B医師にXらの主張する注意義務違反があったとは認められない

医療行為に関する判断が高度の専門性を要するものであることから、医師には一定の裁量が認められており、その判断が医療水準に照らして不合理であるといえない限り、発生した結果について責任を負うものでないことが前提。


争点②について:下大静脈フィルター回収キットの添付文書に抜去に先立って血管造影等を行って捕獲した血栓の評価を行うべき旨が記載⇒下大静脈フィルターを抜去するに当たっては、特段の事情のない限り、事前に塞栓子の捕獲状況を確認すべき⇒B医師にXらの主張する注意義務違反あり

仮に本件フィルターに捕獲されていた腫瘍栓が抜去に伴って遊離したのであれば、数秒ないし10秒程度で肺動脈を閉塞し、それから間もなく容体の急変を引き起こすはずであるところ、本件では抜去から容体の急変までの時間差が8分間と長すぎる⇒右総腸骨静脈に留まっていた腫瘍栓が抜去後の体動等によって遊離した可能性もある
上記注意義務違反とAの死亡の結果との間に因果関係があるとは認めなかった
but
塞栓子が肺動脈を閉塞する前に右心房でしばらくの間停滞することがあり、これを前提とすれば、本件フィルターに捕獲されていた腫瘍栓が抜去に伴って遊離したとしても容体の急変までに8分間の時間差が生じ得る
上記注意義務違反がなければAがその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性がある

Aはがんが進行しており予後が不良でありながらも抗がん剤治療が奏功すれば一定期間の余命を期待することができた
相当程度の可能性が侵害されたことに関する慰謝料は350万円が相当

● 争点③について:
B医師が本件フィルターの抜去に先立って抜去後の肺塞栓症の危険を説明したとは認めなかった。
but
腫瘍栓による肺塞栓症を予防する目的で下大静脈フィルターを留置するのは医療水準として確立された療法ではないところ、B医師としては本件フィルターを留置し続けることを予定しておらず、A及びXらとしても特にこれを希望していたわけではない
B医師がXらの主張する説明義務を負っていたとは認められない。 
   
<解説>
相当程度の可能性の理論:
医師に注意義務違反があり、患者に死亡等の結果が発生した場合に、
①当該注意義務違反がなければ当該結果が発生しなかったという高度の蓋然性が認められなくても、
当該注意義務違反がなければ当該結果がその発生の時点において発生しなかった相当程度の可能性が認められるときには、
人の生命及び身体を対象とする医療行為の特殊性に鑑みて、患者に一定の保護を与えるべきであるという考えから、最高裁(最高裁H12.9.22)によって確立

相当程度の可能性自体を患者の生命及び身体とは別個の法益として認めたもの
 
医師の説明義務:
患者との診療契約に基づいて発生

医師は患者の希望に拘束されるわけではないが実施予定の医療行為につきそれが適切であると考える理由を分かりやすく説明しなければならない
複数の療法がある場合にはそれぞれの療法に言及する必要があるが医療水準として確立されていない療法については必ずしも言及する必要がない
(最高裁H13.11.27参照)
 
医師の注意義務違反と患者の死亡の結果との間に因果関係が認められない場合において、当該注意義務違反がなければ患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性が認められるとして、病院開設者に慰謝料350万円の支払を命じたの

判例時報2254

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