孤立防止義務違反(否定)
東京高裁R5.6.28
<事案>
テーマパークの経営・運営等をする会社であるYと労働契約を締結し、テーマパークの出演者として就労しているXが、平成25年2月7日から平成30年3月12日にかけて上司や同僚から種々の発言をされ、もってパワーハラスメント及び集団的ないじめをされたもので、これによりXは精神的苦痛を被った⇒Yに対し、債務不履行(安全配慮義務違反)又は不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償請求として、慰謝料及び弁護士費用330万円並びに遅延損害金の支払を求めた。
<原審>
Xがパワハラ及び集団的ないじめと主張する上司や同僚の発言は、いずれも証拠上認められないか、社会通念上相当性を欠いて違法とまではいえない。
but
Yは他の出演者に事情を説明するなどして職場の人間関係を調整し、Xが配役について希望を述べることで職場において孤立することがないようにすべき義務(孤立防止義務)を負っていたところ、この義務に違反し、Xに著しい精神的苦痛を被らせた
⇒慰謝料等を認める。
Y:Xは前記のような「孤立防止義務」違反について全く主張しておらず、原審の判断は処分権主義及び弁論主義に反する。
<判断>
Xの主張は理由がない。
ア:Yには「孤立防止義務」違反があったとの原判決の判断につき、原審におけるXの訴状及び各準備書面を精査してみても、Xの主張の中に孤立防止義務違反を主張している部分は見当たらない。
イ:Xの主張について、パワハラ及び集団的ないじめの有無にかかわらず、Yには職場における「孤立防止義務」違反があるとの新たな主張を当審において行う趣旨を解する余地もないわけではないものの、「孤立防止義務」の内容は抽象的なものにすぎない。
ウ:仮に「孤立防止義務」が損害賠償義務を発生させ得る程度に具体的で特定されていると解する余地があるとしても、本件において、Yがかかる義務を履行しなければならない程度にまでXが職場で「孤立」していたと認めることは困難
⇒
Xの請求を棄却。
<解説>
処分権主義:原告がその意思で訴訟を開始させ、かつ審判の対象を設定・限定することができ、さらに当事者がその意思で判決によらずに訴訟を終了させることができる。
弁論主義:判決の基礎をなす事実の確定に必要な資料の提出(事実の主張、証拠の申出)の権限と責任が当事者にある。
判例時報2614
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