労働

2018年7月13日 (金)

業務内容・問題対応・上司との関係⇒強い精神的負荷⇒うつ病⇒自殺で、公務起因性を肯定

名古屋高裁H29.7.6      
 
<事案>
Aが平成29年11月26日に自殺したことについて、処分行政庁に対し、公務災害の認定請求⇒本件災害を公務外災害と認定する旨の処分⇒不服審査請求も棄却⇒前記処分の取消しを求めた。 
 
<原審>
●公務起因性の判断基準について:
最高裁昭和51.11.12を引用し、
地方公務員災害補償法31条の「職員が公務上死亡した」とは、
公務に基づく疾病に起因して死亡した場合をいい、
その疾病と公務との間に相当因果関係が必要であり、
最高裁H8.3.5等を引用し、
前記の相当因果関係があるといえるためには、
その疾病が当該公務に内在又は随伴する危険が現実化したものであると認められることが必要

と判示。 

相当因果関係の判断に当たっては、
職場における地位や年齢、経験などが類似する者で、
通常の職務に就くことが期待されている平均的な職員を基準とすべきであり、
平均的な職員には、一定の素因や脆弱性を抱えながらも勤務の経験を要せず通常の公務に就き得る者を含む
 
●公園整備室は・・・もともと事務職の室長は、かなりの精神的負荷を受ける。
Aが執務に就任した当時の事情として






Aは、これらによって強い精神的負荷を受け、同年10月下旬から11月初めの時期に、周囲の者から見ても異常を感じさせる抑うつ状態

①Aがそのような抑うつ状態で、P1部長に対し、同年11月初めころ、降格覚悟で年度途中の異動を希望したが、年度途中の異動は難しいと言われ動揺し、
そのころ公園内で発生した事故の記者発表、市議会の対応に追われ、
同年11月26日に公園内で新たな人身事故が発生した旨の報告
業務の精神的負荷に耐えられなくなり本件災害に至った

②Aはうつ病に親和性の強い性格傾向であったが、勤務の軽減を要せず通常の公務についていた
本件災害について公務起因性を認め、Xの請求を認容。 
 
<本判決> 
原審判決を肯定。 
 
<解説>
疾病と公務の間に相当因果関係が必要であり、その疾病が当該公務に内在又は随伴する危険が現実化したものであると認められることが必要。

その判断に際しては、
精神障害は環境由来の心理的負荷の程度固体側の脆弱性の双方により発症するとの理解(「ストレスー脆弱性」理論)を前提として
一定の素因や脆弱性を抱えながらも勤務の軽減を要せず通常の公務に就き得る者を含む平均的な職員を基準とする。

Aの自殺の原因となった精神疾患について、
口頭弁論終結時における医学的知見に基づき、
本件災害後の新認定基準である「精神疾患等の公務災害の認定について」(平成24年地基補第61号)及びその運用指針(同第62号)に基づいて検討し、
Aが強度の精神的負荷を与える事象を伴う公務に従事していたと認め、
公務起因性を肯定


本件災害前のAの時間外労働時間は月50時間前後であって、それほど長時間であるとはいえない。

判例時報2367

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2018年7月 6日 (金)

大学教授に対する懲戒解雇が無効とされた事案

東京地裁H29.9.14      
 
<事案>
学校法人である被告に雇用された大学教授である原告が、被告から懲戒解雇
懲戒解雇が無効であるという仮処分確定後に予備的に普通解雇

これらの解雇が無効であると主張して、
被告に対し、地位確認、 未払賃金及び賞与の各支払を求めた。
懲戒解雇の対象となった行為:
①原告が被告から研究目的で貸与され、原告の研究室に置かれていたパソコンの中に、原告が配偶者以外の女生との性交の場面を自ら撮影した動画を保存。
②本件動画を入れた外付けハードディスクを学内外に持ち歩いて研究室に置かれていたパソコンにコピーしたことが、被告のコンピュータ利用規則及び就業規則に違反。

懲戒解雇を無効とする仮処分事件の確定後に被告が行った予備的な普通解雇の対象となった事由:
前記①②に加え、
③懲戒解雇の2年以上前に戒告処分を受けた上で学部長を解任され、商学部から講義を持たない教育研究推進機構に異動される原因となった同僚及び職員に対する恫喝的な言動
④原告が教育研究j推進機構への異動後、約2年半にわたり大学に出勤せず、その間の業績が低下している
⑤原告が被告に届出をせずに副業をしていた
 
<解説>
予備的解雇については、主位的解雇の意思表示が撤回され又は裁判によりその無効が確定されなくても許される(最高裁H8.9.26)。

使用者の設備の目的外使用については、
私立専門学校の教員が学校のパソコン及びメールアドレスからいわゆる出会い系サイトに登録し、大量のやりとりを行った事案について、
学校のメールアドレスであることを推知し得るメールアドレスを用いて露骨に性的関係を求める内容のメールを送信し、同メールの内容を第三者が閲覧可能な状態においたことは学校の品位体面、名誉信用を傷付けるもの
私用メールの送信の労力を職務に宛てればより一層の効果が得られた
懲戒解雇が有効(福岡高裁)。

風紀紊乱について、
独身の女性事務員が配偶者のいる男性社員と恋愛関係になり、取引先を含めた噂となり男性社員の妻からも会社に苦情が寄せられるなどした事案:
懲戒事由には該当するものの会社の企業運営に具体的な影響を与えたものとはいえない懲戒解雇無効(旭川地裁)
 
<規定>
労働契約法 第一五条(懲戒)
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

労働契約法 第一六条(解雇)
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
 
<判断>   
●懲戒解雇について 
本件動画を外付けハードディスクに入れて持ち歩き研究室内のパソコンにコピーをして保存した行為が懲戒事由に該当する。
but
研究室において本件動画を作成したものではなく、自宅で作成したデータを誤って研究室内のパソコンにコピーしてしまったという事実関係を前提に、
本件動画が外部に流出したことはなく実際に被告の社会的名誉及び信用が侵害されたものではない
②2度目の懲戒処分ではあるが以前の戒告処分の事由となった行為とは種類が異なる
本件動画のデータの削除は容易

懲戒解雇は重きに失するものとして相当性を欠く
懲戒権を濫用したものとして無効
 
●予備的は普通解雇 
①原告が過去に同僚教員等に不適切な言動を取ったことは認定しつつも、教育研究推進機構へ異動としなった後は同僚教員や教職員との接触がほとんどない
②研究室に出勤しなかったことについても被告がこれを認容している面があった
③研究業績の低下についても就業規則上の直近5年間に研究業績のない選任教員に対する指導がなされるほどではなかった
無届事業についても別個の懲戒処分の対象となるとはしながら、直ちに解雇事由には該当しない
無効(労契法16条)
 
●賞与 
就業規則にその支払に関する規定が置かれている場合であっても、通常は使用者が会社の業績等に基づき算定基準を決定し又は労使で金額を合意したときに初めて具体的な権利として発生
本件においては、賞与の算定基準について夏季と冬季で基本給に同一の支給係数を乗じて賞与を支給するという労使慣行
支給係数が明らかな限度で請求が認容

判例時報2366

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2018年5月18日 (金)

学校法人が設置・運営する大学における勤務延長教員の年俸額を減額する給与支給内規の変更が無効とされた事例

札幌地裁H29.3.30      
 
<事案>
本訴:
学校法人Yとの間でそれぞれ雇用契約を締結し、Yが私立学校法に基づき設置・運営するA大学において教員として勤務し、あるいは勤務していたXらが、
①Yが行った本件大学における勤務延長教員の年棒額を最大で4割減額する給与支給内規の変更は、合理性なく就業規則を不利益に変更するものとして無効⇒
Yに対し、旧内規又は労働協約に基づき、本件内規変更により減k額された差額部分の未払給与及びこれに対する遅延損害金の支払を求め、
Xらの一部の者らが、将来分の賃金の支払も請求
②Yの違法な内規変更により精神的苦痛を被った⇒民法709条に基づき、慰謝料及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。

反訴:
仮本件内規変更全体の合理性が認められないとしても、本件内規変更が段階的に年俸制を減額する限度で合理性が認められることによりその一部が有効
⇒本件内規が一部有効であることの確認を求めた
 
<争点>
①本件反訴の確認の利益の有無
②本件内規変更の合理性の有無
③本件内規変更を一部無効とする判断の可否 
 
<規定>
労働契約違法 第九条(就業規則による労働契約の内容の変更)
使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。

労働契約法 第一〇条
使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。
 
<判断>
●本件内規変更は無効⇒
本件内規変更により減額された差額部分の未払給与及びこれに対する各月の給与支給日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
賃金の支払の確保等に関する法律6条1項に基づく遅延損害金の支払を求める請求は棄却。
Xらの一部の者らの将来賃金の支払を求める訴えは却下。
 
●慰謝料請求について:
本件内規変更が社会通念上著しく相当性を欠くものとしてXらに対する不法行為を構成するとはいえない⇒棄却。 
 
●Yの反訴請求: 
Xらの口頭弁論終結時において既に本件大学をを退職している者らに対する訴え:
同人らが本件大学を退職したことにより、Yが同人らに対して負う未払賃金請求権の内容は既に確定⇒確認の利益を欠く不適法な訴えであるとして却下。

その余の請求:
本件内規経脳が部分的に合理性を承認し得るものであったとしても、一部有効とする部分を労使間の法律関係を規律するのに相当なものとして特定するための客観的基準は存在しない

裁判所が本件内規変更の一部につき効力を認めることは相当でなく、結局、本件内規変更は全体として無効。
 
<解説>
●本件内規変更が就業規則の不利益変更に当たると認定し、
本件内規変更の合理性(労契法9条、10条参照)の有無に関し、
賃金、退職金など労働者にとって重要な労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の変更につき、
当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずる。(最高裁H9.2.28)

上記最高裁も総合考慮するとした
使用者側の変更の必要性の内容・程度
就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、代償措置の有無
代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況
労働組合等との交渉の経緯等

高度の必要性に基づく合理的なものであったとすることはできず、本件内規変更は無効。

●千葉地裁H20.5.21は、不法行為の成立についても肯定し、
精神的苦痛に対する慰謝料の支払請求も認容。 

●国立大学法人の就業規則の変更による退職手当の減額措置の合理性が問題となった裁判例
~国家公務員退職手当法の改正等に準じて支給水準が引き下げられたものであり、本件とは事案を異にする。

判例時報2363

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2018年5月 8日 (火)

社会保険庁廃止に伴う同庁職員らに対する分限免職処分が争われた事案

東京地裁H29.6.29      
 
<事案>
法律の改正により社会保険庁が廃止。
社保庁朝刊又は東京社会保険事務局長が、国公法78条4号に基づいて、平成21年12月25日付けで同月31日限り社保庁の職員であったXらを分限免職する旨の各処分⇒
Xらが、Y(国)に対し、
本件各処分は、同号の要件に該当せず、仮に同号の要件に該当するとしても、裁量権の範囲逸脱し又はこれを濫用した違法なもの⇒本件各処分の取消しを求める。
②本件各処分が不法行為又は債務不履行に当たる⇒国賠証1条1項又は民法415条に基づく損害賠償として、それぞれ330万円及び遅延損害金の支払を求めた。 
 
<規定>
国家公務員法 第78条(本人の意に反する降任及び免職の場合)
職員が、次の各号に掲げる場合のいずれかに該当するときは、人事院規則の定めるところにより、その意に反して、これを降任し、又は免職することができる。
一 人事評価又は勤務の状況を示す事実に照らして、勤務実績がよくない場合
二 心身の故障のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない場合
三 その他その官職に必要な適格性を欠く場合
四 官制若しくは定員の改廃又は予算の減少により廃職又は過員を生じた場合
 
<判断>   
X1及びX2に対する本件処分はいずれも適法。
X3に対する本件処分は違法。
損害賠償請求については、いずれも理由がない。 
 
●本件各処分の適法性 
国公法78条の文言⇒同条に基づく分限処分は裁量処分であると解される。

国公法78条4号に基づく分限免職処分は、被処分者に何ら責められるべき事由がないにもかかわらず、その意思に反して免職という重大な不利益を課す処分

①同号の解釈上、本件の処分権者である社保庁朝刊等は、最終的な分限処分の段階に至るまでに、可能な範囲で、廃職の対象となる官職に就いている職員について、機構への採用、他省庁その他の組織への転任又は就職の機会の提供等の措置を通じて、分限免職処分を回避するための努力を行うことが求められる
このような努力の内容や程度については、法令上、明文の規定はなく、基本的に社保庁長官等の裁量に委ねられているというべきであるが、
例えば、社保庁長官等において分限免職処分を回避するための容易かつ現実的な努力をすることが可能であり、当該努力をしておれば、特定の職員について分限免職処分を回避することができた相応の蓋然性があったにもかかわらず、社保庁長官等において当該努力を怠った結果、分限免職処分に至ったものと認められるような事情があるときは、
当該職員に係る分限免職処分については、裁量権の逸脱又は濫用があった違法なものとして、その効力は否定されるべきである。

X1及びX2に対する本件処分:
両名はいずれも懲戒処分歴があり、機構等への採用資格がなかった⇒社保庁長官等は、その権限の及ぶ範囲内で分限免職回避のための努力を尽くしたといえ、裁量権の免脱又は濫用があったとはいえない。

X3に対する本件処分:
(1)
①X3には懲戒処分歴がなく機構の正規職員としての採用を第一希望としていた
②平成21年2月時点におけるX3の健康状態につき、医師が機構採用基準に適合すると判断しており、別の医師もリハビリ勤務が可能としており、いずれも職務復帰を前提とした評価をしている
同時点の健康状態を前提にすれば、X3は、機構採用基準に照らせば、正規職員としても採用され得たというべき。
(2)現にX3は、准職員としては採用の内定を受けていた。
(3)X3が正規職員として採用されなかった理由は、機構採用基準を満たしていても面接時において病気休職中の者は正規職員としては採用しないとうい本件内部基準以外に見当たらない。

社保庁長官は、機構設立委員会に対し、少なくとも、その時点で生じている欠員分程度の人数について正規職員として追加採用するよう検討を依頼する程度のことは考慮すべきであったといえ、仮に、正規職員の追加募集がされていたならば、X3が正規職員として採用された相応の蓋然性もなお十分に存した

分限免職回避努力義務を尽くさなかったことにより、裁量権の逸脱又は濫用があったとして違法
 
●国賠法1条1項に基づく損害賠償請求について、
X1及びX2に対する本件処分はいずれも適法
X3の動向に基づく損害賠償請求権は消滅時効の援用により消滅

いずれも理由がない。 

判例時報2361

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2018年3月23日 (金)

日雇派遣の派遣元・紹介元および派遣先・紹介先への損害賠償請求(否定)

さいたま地裁川越支部H29.5.11      
 
<事案>
Xは、日雇派遣労働者としてY1に登録し、複数の派遣先での就労後に、平成24年9月頃からY2 に派遣され、同年10月からはY1により日々の職業紹介のもとY2で雇用され就労。

Xが
Yらに対して、
①日雇派遣や日々紹介という不安定なかたちでXを供給しており、職安法44条等に違反
②労基法6条等に違反する中間搾取をした
③Xの賃金から振込手数料を控除し、労基法24条の賃金全額払の原則に違反
④職安法44条に違反してXを待機させ、Xに対して、Y2での就労に期待を抱かせながらその機会を奪った

Y1に対して
⑤訴外A運送での派遣就労に関し、Y1はXと派遣契約を締結したにも関わらず一方的にキャンセル

それぞれ、民法709条、719条1項にもとづき
慰謝料300万円等の支払を求めた。
 
<規定>
職業安定法 第四四条(労働者供給事業の禁止)
何人も、次条に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない。

第6条(中間搾取の排除) 
何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。

<判断>
●争点① 
職安法は行政上の取締法規⇒同法違反から直ちに労働者の具体的な法律上保護されるべき利益は損なわれない。
Xは、Y1に登録して派遣ないし紹介によりY2で稼働して、各労働契約に基づき賃金の支払を受けている⇒Xに不利益は生じていない
 
●争点② 
①Y1が労働者派遣事業ないし職業紹介事業の許可を得て適法に日雇派遣及び日々紹介を行っている
②「Y1がY2から得ている手数料は、労働者派遣ないし労働者紹介の対価

賃金からの中間搾取とはいえない
 
●争点③ 
①Yらでは、労働者が申請した場合に、就労した日の所定労働時間医対応する賃金から税・保険料を控除した金額を翌日に受け取る「即給サービス」があり、その場合、金融機関の振込手数料が控除される
②YらがXに対し即給サービスを利用させたことを認めるに足りる証拠は存在せず、即給サービスが労働者にもメリットがある制度
Xは、自らの意思でこれを利用しており、労基法24条に違反しない
 
●争点④ 
Y1は、XをY2のセンターへ日々紹介することに関連して、欠員に備え、センター内の食堂で午前8時20分から午前9時20分までの間、待機を内容とする労働契約を締結することがあった。
センターで欠員⇒待機労働者とY2との間で午前9時から午後5時まで業務に従事すること等を内容とする労働契約が締結され、各労働契約には20分間の重複。

本判決:
供給元であるY1とXとの間及び供給先供給先であるY2とXとの間に同時に雇用関係が存在すること
待機労働者が実際に作業を行う場所の決定をY1の担当者が行っていたことは、Y1と待機労働者の間に支配従属関係がある
点で、職安法44条違反
but
①職安法は行政上の取締法規
②労働契約の重複が20分
③待機を内容とするY1との間の労働契約について、待機のまま就労しても賃金と交通費が支払われ、また、作業内容が告知されている
④Xは、待機してもY2のセンターで就労できない場合があることや、実作業に従事する場合の概ねの業務内容を理解していた
⑤労働契約が重複していても各労働契約どおり賃金が支払われていた

Yに法律上の不利益が生じたとは認められない
 
●争点⑤ 
Y1による4回の派遣就労のキャンセルが問題
①いずれもXに対し代替の派遣先が用意されたり、休業手当の支払はないとしつつ、「日雇派遣である以上、派遣先の都合によるキャンセルが発生する可能性がないとはいえないことは、派遣元としても派遣社員としても理解」している
②XとY1では、専らメールで派遣先や労働条件の連絡がされ、Xはこれによる集合時間、集合場所等を把握していたこと
③4回のキャンセルの連絡後も、Y1は派遣元として代替派遣先を提供する姿勢をXに示した一方、Xはその旨のメールを見ず電話にでもでなかったこと
④Y1は、その後もXに派遣業務の紹介を継続的に行っていた

不法行為を構成するとまではいえない
 
<解説>
裁判例では、いわゆる偽装請負(派遣法違反)のケースで直ちに不法行為責任を基礎づけない⇒個々の事情をふまえて判断するのが趨勢(名古屋高裁H25.1.25(三菱電機事件)等)。
本件では、職安法44条との関係でも同旨の判断が示された。 

日々の派遣労働契約の締結後の派遣元により一方的なキャンセル、「即給サービス」での振込手数料の控除をめぐっては、
休業手当(労基法26条)や賃金全額払いの原則(同24条)との関係が問題となり得る。
前者との関係では、有期の派遣労働契約が締結⇒その中途解約にはやむを得ない理由が必要(労契法17条)で、その間の不就労について民法536条2項や労基法26条が問題となる。
労基法24条との関係で、判例でも、退職金からの合意相殺が賃金全額払いの原則に違反するかが問題となったケースで、こうした同意が「労働者の自由な意思に基づいてされたものだえると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき」に労基法24条違反でないとした例(最高裁H2.11.26)。
but
本件は、Yらの不法行為責任が問題
本判決の柔軟な判断もこうした観点から評価すべき

判例時報2355

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2018年3月21日 (水)

求人票記載の労働条件と労働契約

京都地裁H29.3.30      
 
<事案>
Y(被告)に雇用されていたX(原告)が、

主位的
には、求人票の記載通り当事者間の労働契約は期間の定めがないものであったところ、被告がした解雇は無効であると主張し、

予備的
には、当事者間の労働契約が期間の定めのあるものであったとしても被告がした雇止めは無効であり従前の労働契約が更新されたと主張し、

①原告が被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、
②解雇または雇止めの日の翌日から本判決確定の日までの賃金請求及び遅延損害金の支払、
③解雇または雇止めがXに対する不法行為を構成するとして損害賠償及び遅延損害金の支払
を求めた事案。
 
<争点>
①本件労働契約が期間の定めのない契約か
②XがYに請求し得る未払賃金額
③YのXに対する不法行為の成否及び損害額
 
<判断>
●争点①について
求職者は当然に求人票記載の労働条件が労働契約となることを前提に労働契約締結の申込みをする⇒求人票記載の労働条件は、当事者間においてこれと異なる別段の合意をするなどの特段の事情のない限り、労働契約の内容となると解するのが相当。
①求人票上は期間の定めがないこと、定年制がないこと、雇用期間の始期が記載されていたこと
②採用面接における説明内容

期間の定めがない労働契約が成立

◎労働条件通知書(期間の定めと定年制あり)への原告の署名押印により既に成立している労働契約の内容が変更されたか? 

就業規則による労働条件の不利益変更に労働者の同意がある場合に関する山梨県民信用組合事件(最高裁H28.2.19)を引用し、
使用者が提示した労働条件の変更が重要な労働条件の変更である場合には、当該変更に対する労働者の同意の有無についての判断は慎重になされるべきであり、
同意の有無については、当該労働者の受け入れる旨の行為だけではなく、諸般の事情に照らして、労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも判断されるべき。

期間の定めの有無は契約の安定性の観点から、
定年制の有無も原告の当時の年齢から
それぞれ賃金と同様に重要な労働条件。
②労働条件通知書への署名押印に際して、被告代表者からは、求人票と異なる労働条件とする旨やその理由を明らかにして説明したとは認められず
被告代表者がそれを提示した時点で原告は既に従前の就業先を退職して被告での就労を開始しており、これを拒否すると仕事がなくなり収入が断たれると考え署名押印
前記原告の署名押印が原告の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在しない

労働条件の変更について原告の同意がないものと判断。

期限の定めや定年制がない労働契約であって、本件契約の終了は認められないとして、原告の労働契約上の地位を認めた。

●争点②について 
原告が被告から就労を拒否された後に他の職について利益を得た点について、平均賃金の4割の範囲で賃金から控除。
 
●争点③について 
労働契約上の地位が確認され未払賃金が支払われることで原告の不利益は填補される⇒不法行為の成立は否定

判例時報2355

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2018年2月28日 (水)

MLC契約に基づく在日米軍基地労働者に対し、国が行った解雇が違法とされた事例

東京高裁H29.2.23       
 
<事案>
Y(国)との間のMLC契約(国が労働者を雇用するが、その労務を在日米軍及び諸機関に提供する契約)に基づき、横須賀基地内で勤務していたXが、
米軍から平成12年から平成23年にかけて部下に対し8件のパワーハラスメントをしたことを理由に、順次、休業手当身分措置、暫定出勤停止措置の対象とされた後、解雇

前記各措置はいずれも要件を欠き無効であるとして、Yに対し、
①労働契約上の地位の確認
②本件各措置に基づき出勤を禁止された期間の未払賃金及び未払賞与の支払、
③解雇後の賃金及び賞与の支払、
④本件各措置は違法な公権力の行使に当たるとして民法709条及び国賠法1条に基づき慰謝料金100万円の支払
をそれぞれ求めた。 
 
<規定>
民法 第536条(債務者の危険負担等)
前二条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。
2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない
 
<判断>
●8件のパワーハラスメントは認められない

本件解雇は無効

● 本件休業手当身分措置が調査妨害等の支障を避けるために必要かつ合理的な措置であったとしても、就労義務がないとはいえ一方的に賃金が減額される点でXに不利益な処分

本件休業手当身分措置において、後日、嫌疑がなかったことが認められる場合は「債権者の責めに帰すべき事由」に当たり、Xは休業手当の額を超える部分の賃金請求権を失わない

● 本件暫定出勤停止措置が、国賠法上違法となるか否かについて、
・・・日本側の担当者としてゃ、MLCの前記規定に従い、減給を伴う暫定出勤停止措置の長期化が炉同社に重大な不利益を与えるものであることを考慮して、日本側の調査終了後は日米間の協議を早期に終了させ、協議が整わなかった場合には速やかに日米合同委員会の決定に委ねるべきであったにもかかわらず、日米合同委員会に付託されることがないままXは解雇されている。

日本側の担当者は職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく本件暫定出勤停止措置を継続
①本件暫定出勤停止措置及び本件解雇は、単にMLCが規定する要件を満たさない無効なものであるだけでなく、
通常想定される協議の期間を大幅に超過したため、暫定出勤停止期間が長期に及び、Xに大きな不利益を与えた
②本件解雇は解雇事由の証拠が乏しく日本側と米国側で意見が分かれる状態で行われたことなどの事情によれば、本件暫定出勤停止措置及び本件解雇が無効とされ地位確認と未払賃金の支払を命じただけではXの精神的苦痛は回復されない

慰謝料50万円の請求を認容

●予備的請求にかかる中間利益控除について、
①中間利益の控除は、労働者が使用者に対する労務の提供を免れたことにより他の職について収入を得た場合に、使用者からの収入と他の職について得た収入を二重に取得することを否定するもの。
MLCにその定めがあるかどうかにかかわらず、中間利益の控除は許される
②本件解雇が国賠法上違法と評価されるものであったとしても、それによりXが解雇されなかった場合以上の利益を受けることを肯定する理由はない

出勤停止期間中と解雇後口頭弁論終結時までの間、Xが就労して得た給与を中間利益として控除
 
<解説>
賃金請求権を失わない場合、その期間、労働者が他の職について得た収入を中間利益として控除することが可能かどうか、民法536条2項後段に「この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない」と定めがあることから問題。
この点、労働者が就労を免れた期間中に他の職について利益(「中間利益」)を得たときは、使用者は、労働者に同期間中の賃金を支払うに当たり、平均賃金の6割を超える部分から当該賃金の支給対象期間と時間的に対応する期間内に得た中間利益の額を控除することが許され、また、
中間利益の額が平均賃金の4割を超える場合には、更に平均賃金算定の基礎に算入されない賃金(労基法12条4項所定の賃金)の全額を対象として中間利益の額を控除することが許されるものと解されている。
(判例)

判例時報2354

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2018年1月30日 (火)

私立大学における自社年金規程の不利益変更の事例(有効)

東京地裁H29.7.6      
 
<事案>
大学等を運営する学校法人であるYが、昭和37年4月に創設した事前積立方式の確定給付型年金制度において、年金財政が危機的な状況⇒平成23年4月に正との改定を実施。 
これによって年金給付が減額されたYの元職員であった年金受給者である14名がその改定の無効を主張し、改定前の年金を受給しうる地位にあることの確認と減額分の支払を請求した事案。
 
<判断>
●本件年金給付の賃金後払い的性格を否定し、教職員に対する恩恵的給付、功労報償としての性質や、教職員の相互扶助としての性質を有する制度であると評価できる⇒Xらの権利性に関する主張を退ける。

●本件年金制度を契約関係と捉えた上で、
その契約内容は年金規程等によって一律に規律されることが予定されており、
Yは同年金規程の減額条項を根拠として、その内容に従い合理的と考えられる範囲内で年金給付額を減額することができる。

●本件改定について:
①死亡率計算の前提となる平均余命が大きく伸びており
②Yが平成20年8月に従来の国民生命表から厚生年金生命表に入れ替えたのも適切
③Yが予定利率を同月以降従前の4%から3.5%に引き下げたのも低金利状況の中での運用実績等からして十分な理由がある

前記年金規程の減額条項にいう計算基礎率の「著しい変動」に該当し、合理的な範囲内で給付額を減額する事情が認められる。
本件改定は、受給額の段階的な兵器10.4%の引下げであり、受給者に対する一定の配慮もなされており、Yの教職員の高水準の退職金等からしても、本件減額は相当性を有する。

●改定続要件について、
本件年金細目の規定内容を理由に、具体的なシミュレーション等による説明は不可欠とはいえない⇒その瑕疵を否定。 
 
<解説>
本判決:
年金受給権の法的性格について、恩恵的給付、功労報償、相互扶助等の性格を強調しており、その権利性に触れるところがない
but
仮にそのような性格が含まれるとしても、年金受給権が年金規程に基づいて既に具体的に発生した権利としていの性格を有することも否定できない

松下電器産業事件控訴審判決(大阪高裁H18.11.28)の判示するように、
その不利益変更は本来信義則に反するものであり、その変更を実質的に基礎付ける「経済情勢の変動」の程度を検討、減額改定の程度も最低限度のものであることの検討が求められる。 

本判決は、年金財政の悪化等から被告の「方針転換」の必要性を肯定し、死亡率・予定利率の「著しい変動」を認定して受給者に対する「合理的な範囲での負担」を求めている。
but
本件年金減額の程度が年金財政の改善として必要かつ合理的な範囲かどうかの、将来予測等による具体的な検討が欠けている

Y法人本体の財政状態については、Yの拠出責任の判断とは別に考慮すべき要素と考えられる。

制度趣旨が類似する確定給付企業年金については、
確定給付企業年金法において給付額引き下げを内容とする規約の変更には行政庁の承認が必要であり、その承認の要件として、実施事業所の経営の状況が悪化したこと等が必要とされている。
同法の適用対象外である自主年金についても参照されてよい。

判例時報2351

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2018年1月29日 (月)

タクシー会社の乗務員の雇止めの事例(有効)

札幌地裁H29.3.28      
 
<事案>
Yに雇用され、タクシー乗務員として勤務していたXが、Yが行った雇止め又は解雇が無効及び違法であると主張し、
労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求め、
不法行為に基づき、本件雇止め等以降の賃金相当損害金の支払を求めた事案。 
 
<争点>
①XとYとの間の労働契約が、期間の定めのない労働契約か、期間の定めのある労働契約か
②本件労働契約が、期間の定めのある労働契約の場合、本件労働契約は、労契法19条1号又は同条2号に該当するか
③本件雇止め等は有効か
④本件雇止め等には、不法行為が成立するか 
 
<規定>
労働契約法 第19条(有期労働契約の更新等)
有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。
 
<判断>
●争点①について 
Xに対し交付されたY作成の労働条件通知書(嘱託乗務員)及びXが署名押印しY代表者が記名押印した嘱託乗務員雇用契約書に、期間の定めがあること又は契約期間が明確に記載されていること

Xもこれらのことを十分に認識した上で本件労働契約を締結したものとみることができる

本件労働契約は期間の定めのある労働契約
 
●争点②について 
Xは雇用期間を6か月とする有期労働契約が2回更新されたにとどまる
⇒本件労働契約は労契法19条1号には該当しない

①嘱託乗務員雇用契約書の契約の更新の欄に「会社が特に必要と認めた場合契約の更新をすることもある。」との記載
②労働条件通知書(嘱託乗務員)の「契約の更新はしない」との記載についてのY側の認識
③YからYの労働組合に対する契約の更新についての説明等

Xにおいて、期間満了時に、本件労働契約が更新されると期待することは、その程度は強くないものの、合理的な理由がある

本件労働契約は労契法19条2号に該当
 
●争点③について 
本件雇止めが、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとき」に該当するか?

①Xの勤務成績が極めて悪かった
②Xの勤務方法が一般的な又は勤務成績の良いY乗務員と異なっていた
③Xの勤務成績及び勤務方法について改善可能性がなかった
④Xは雇用期間を6か月とする有期労働契約が2回更新されたにとどまっていた

本件雇止めには、客観的合理性も社会通念上の相当性も認められる

本件雇止めが不当労働行為(労組法7条1号)に該当するか?

本件雇止めに先だって行われていたYとYの労働組合との間の賃金体系についての団体交渉又は事後折衝の経緯等に照らすと、Yは、本件雇止めについて、反組合的意図をも有してたとも考え得る
but
①X以外にも勤務成績等を理由に本件雇止め以前に雇止めされた嘱託社員が1人いた
②X以外にはXの所属するC労働組合の組合員で雇止めされた者は見当たらない
③Xは、勤務成績が極めて悪く、勤務方法が一般的な又は勤務成績と良いY乗務員と異なっており、勤務成績及び勤務方法について改善可能性がないといえる状況であった
④YのC労働組合及びyの労働組合に対する嫌悪の存在をうかがわせるような事情が認められない

本件雇止めの主たる理由又は動機は、Xの勤務成績及び勤務方法並びにそれらの改善可能性にあったと認めるのが相当であり、
反組合的意図が決定的な理由又は動機であったと認めることはできず
また、XのC労働組合への所属又はXの組合活動がなかったならば本件雇止めがなされなかったであろうと認めることもできない

本件雇止めは不当労働行為に該当しない

本件雇止めは有効
 
●争点④:
本件雇止めは有効⇒本件雇止めには、不法行為が成立しない。

判例時報2351

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2018年1月28日 (日)

医師の時間外労働等に対する割増賃金を年俸に含める旨の合意と割増賃金の支払

最高裁H29.7.7      
 
<事案>
医療法人であるYに雇用されていた医師であるXが、
Yに対し、
Xの解雇は無効であるとして、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求めるとともに、
時間外労働及び深夜労働に対する割増賃金並びにこれに係る賦課金の支払等を求める事案。 
 
<事実>
Xは、平成24年4月、医療法人であるYとの間で、雇用契約を締結。
本件雇用契約に係る契約書には、
①年俸を1700万円とし、年俸は、本給(月額86万円)、諸手当(月額合計34万1000円。ただし同月分のみ初月調整8000円を加算)及び賞与(本給3か月分相当額を基準として成績で勘案)により構成
②時間外勤務に対する給与は、Yの医師時間外勤務給与規程の定めによること等を規定。 

本件時間外規程は、
時間外手当の対象を原則として病院収入に直接貢献する業務又は必要不可欠な緊急業務に限ること、
通常業務の延長とみなされる業務は時間外手当の対象とならないこと
等を規定。

本件雇用契約において、本件時間外規程に基づき支払われるもの以外の時間外労働等に対する割増賃金は年俸1700万円に含まれることが合意されていたが、前記年俸のうち時間外労働等に対する割増賃金に当たる部分は明らかにされていなかった
 
<原審>
本件時間外規程に基づき実際に支払われたもの(一審が深夜労働等に対する割増賃金として支払を命じた部分を除く)以外の割増賃金は、Xの月額給与及び当直手当に含めて支払われたものということができる

Xの請求をいずれも棄却。 
 
<判断>
Xの年俸のうち時間外労働等に対する割増賃金に当たる部分が明らかにされておらず、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分を判別することができない

当該年俸の支払により、時間外労働等に対する割増賃金が支払われたということはできない

原判決中、割増賃金及び付加金に関する部分を破棄し、同部分につき、本件を東京高等裁判所に差し戻した。
 
<規定>
労基法 第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
・・・
 
<解説> 
●労基法37条は、時間外、休日及び深夜の割増賃金の支払義務を規定
⇒使用者が基本給や諸手当にあらかじめ含める方法により割増賃金を支払う場合(いわゆる固定残業代制)、これによる同条の定める割増賃金の支払がされたといえるかが問題となる。 

従前の最高裁:
通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができることを要件とた上で、
そのような判別ができる場合に、
割増賃金として支払われた金額が、通常の労働時間の賃金相当部分とされる金額を基礎として労基法所定の計算方法により計算した割増賃金の額を下回らないか否かを検討して、同法37条の定める割増賃金の支払がされたといえるか否かを判断
 
●年俸制:
単に労働に従事した時間をもとに賃金を支払うのではなく、労働者の具体的な成果、業績を評価して賃金を支払おうとするもの。

年俸制自体に労働時間規制を免れさせる効果があるわけではなく、管理監督者(労基法41条2号)又は裁量労働制(同法38条の3、38条の4)の要件を満たさない限り、使用者は、同法所定の割増賃金を支払うべき義務がある
。 

年俸制における割増賃金の計算:
労基法施行規則19条1項5号が規定。
行政実務上、確定年俸制については、確定年俸制の12分の1を基礎月額として計算。
年俸制における賞与を割増賃金の算定基礎から除外できるか否かについては、確定年俸額の一部を賞与月に多く配分するにすぎない場合には、当該賞与を基礎賃金から除外できない。(平成12年3月8日基収78号)
年俸制における賞与を割増賃金の算定基礎に含めて計算した下級審判例もある。
 
●本判決は、医療法人とその雇用する医師との間で、年俸制の下で割増賃金を月額給与に含める本件合意がされているという事実関係の下において、労基法37条の趣旨等を踏まえ、従前の判例法理を再確認し、判別要件を満たさなければ、同条の定める賃金を支払ったとういことはできないとしたもの

尚、原審は、Xの年俸制を認定しながら、Xの深夜労働等に対する割増賃金の計算は賞与を含まない給与月額を基礎としている⇒議論があり得る。

判例時報2351

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