労働

2019年12月14日 (土)

不当労働行為が認定された事案

大阪高裁H30.9.7      
 
<事案>
X(高槻市)の設置する市立小学校の外国人英語指導助手らはY(大阪府)の補助参加人である労働組合(「Y補助参加人」)の支部を結成して、市庁舎前等においてビラを配布するなどの組合活動をし、また別件の救済申立てを大阪府労働委員会に行った。
Y補助参加人の組合員である英語指導助手が市立小学校卒業式への出席を希望⇒市立小学校の校長は、市教育委員会に問い合わせたうえ卒業式への出席を認めなかった。
市教委の教育指導部長は、市議会本会議において、質問を受け、英語指導助手が保護者に署名やビラ配布を依頼したこと、別件の救済申立てがなされていること等をあげて、卒業式に出席を認めると混乱を生じる可能性を排除できない旨の答弁(「本件答弁」)をした。

Y補助参加人:
Xが、本件組合員が組合活動を行ったことから卒業式に出席することを認めなかったこと及び本件答弁においてY補助参加人の組合活動を中傷したことがそれぞれ不当労働行為に当たるとして、大阪府労働委員会に救済を申し立てた。

大阪府労働委員会は、Y補助参加人の申立てについていずれも不当労働行為に当たるとして、Xに謝罪文手交を命じる救済命令(「本件救済命令」)をした。

Xが本件救済命令の取消しを求めた。

原審:Xの請求を認めて本件救済命令を取り消した、
本判決:原判決を取り消し、Xの請求を棄却
最高裁:Xの上告受理申立てを不受理。
 
<規定>
労組法 第七条(不当労働行為)
使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。
一 労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること又は労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること。ただし、労働組合が特定の工場事業場に雇用される労働者の過半数を代表する場合において、その労働者がその労働組合の組合員であることを雇用条件とする労働協約を締結することを妨げるものではない。
・・・
三 労働者が労働組合を結成し、若しくは運営することを支配し、若しくはこれに介入すること、又は労働組合の運営のための経費の支払につき経理上の援助を与えること。ただし、労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許すことを妨げるものではなく、かつ、厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与を除くものとする。
四 労働者が労働委員会に対し使用者がこの条の規定に違反した旨の申立てをしたこと若しくは中央労働委員会に対し第二十七条の十二第一項の規定による命令に対する再審査の申立てをしたこと又は労働委員会がこれらの申立てに係る調査若しくは審問をし、若しくは当事者に和解を勧め、若しくは労働関係調整法(昭和二十一年法律第二十五号)による労働争議の調整をする場合に労働者が証拠を提示し、若しくは発言をしたことを理由として、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること。
 
<判断>
●本件組合員が卒業式の出席を認められなかったことがXによる労組法7条1項本文前段、3号及び4号の不当労働行為に該当するか。 
本件組合員が卒業式への出席を認められなかったことは「不利益な取扱い」に該当する。

◎Xが、本件組合員が労働組合の組合員であることの故をもって、あるいは不当労働行為救済申立てをしたことを理由として「不利益な取扱い」をしたといえるか。 
①市教委が各校長らから問い合わせを受けた日は、別件救済申立てがされたことをXが知った後であると認めることができる
②これを前提に、市教委が各校長らに本件組合員の卒業式への出席について慎重に対応するようにと指導・助言し、各校長らがこれに従い本件組合員に対しそれぞれの卒業式への出席を認めなかった

Xは、本件組合員に対し、別件の救済申立てをしたことを理由として、卒業式への出席を認めないとの「不利益な取扱い」をしたものであるということができる。
本件組合員が卒業式に参加すると卒業式が混乱するとのXの懸念も具体的なものであったとはいえない

Xが本件組合員を卒業式に出席させなかったことは、労働組合の組合員であることの故をもって、あるいは不当労働行為救済申立てをしたことを理由として「不利益な取扱い」をしたもの

◎本件組合員が卒業式への出席を認められなかったことがXによる労働組合への支配介入に当たるか? 
本件組合員の卒業式への出席を認めなかった取扱いは、本件組合員にとっても他の労働者にとっても、その組合活動意思を萎縮させ、そのため組合活動一般に対して制約的効果が及ぶおそれのあるものといえる。

本件組合員が卒業式への出席を認めなかったことは、XによるY補助参加人の運営に対する支配介入にも当たる

本件組合員が卒業式への出席を認められなかったことが、Xによる労組法7条1号本文前段、3号及び4号の不当労働行為に該当する。 
 
●本件答弁が労働組合への支配介入に当たるか
①本件答弁は、市教委の教育指導部長がXを代表して発言したもので、Y補助参加人だけでなく、社会全体に向けて発進されたもの
②本件組合員の卒業式への出席を認めない理由として、Y補助参加人のこれまでの組合活動からみて、組合員が卒業式に参加すると卒業式が混乱する懸念があることを公然と述べたものであるが、これは、Y補助参加人の組合活動は卒業式を混乱させるおそれがあると批判し中傷したことになる。
③これは、労働者らの組合活動意思を萎縮させ、そのため組合活動一般に対して制約的効果が及ぶおそれがある

本件答弁は、労組法7条3号に該当する不当労働行為である
判例時報2420

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2019年12月 4日 (水)

労災事案で時間外労働時間数が争われた事案

福岡地裁H30.11.30    
 
<事案>
脳梗塞を発症し、右下肢麻痺等の後遺障害が残存
労災認定がされている
 
<主張>
Xは、Y1及びその代表取締役であるY2に対し、本件疾病の発症はY1における過重な業務に起因⇒
Y1に対しては安全配慮義務違反(民法415条)に
Y2に対しては善管注意義務違反(会社法429条1項)に
それぞれ基づき、
損害賠償を請求。 
 
<争点>
①本件疾病発症の業務起因性(Xの業務の量的及び質的過重性の有無)
②Y2の安全配慮義務及びその違反の有無
③Y2の善管注意義務違反及び悪意・重過失の有無
④Xの損害の有無及び額
⑤過失相殺又は素因減額の可否及び程度 
 
<判断> 

①Xの本件疾病発症前6か月間の月平均の時間外労働時間数は174時間50分と認定。
②Xが、自己及び店舗の営業目標を達成するために相応の精神的緊張を伴う業務に従事していたといえる。
③一定期間、寒冷な環境で継続的に業務を行なうことを強いられたことも考慮。

本件疾病発症の業務起因性を肯定

Y:Xが主張の裏付けとして提出したXの元同僚の業務日誌(労災認定における労働時間算定の根拠とされたもの)は事後的に作成されたもので信用性がないと主張
vs.
その当時の業務日誌と使用状況やその記載内容等から前記業務日誌の信用性を肯定
⇒Xの業務内容を認定。

Xの生活習慣及び基礎疾患
vs.
本件疾病の発症に一定程度寄与したといえるものの、
そららの状況に鑑みると、本件疾病は、Xの基礎疾患が、前記のとおりの過重な業務に伴う負荷によりその自然経過を超えて悪化して発症したものとみるのが相当。

前記基礎疾患等は本件疾病発症の業務起因性を否定する事情とはいえない
 

Y1がXを前記のような過重な業務に従事させたことについて、
Y1の安全配慮義務違反及び
Y2の悪意又は重過失による善管注意義務違反
をいずれも肯定。 
 

Xの損害について:
Xの基礎収入には1か月当たり4、5時間分の割増賃金を含めるのが相当。
休業損害、逸失利益等の損害額を認定
Xの基礎疾患の存在を考慮して2割の素因減額
判例時報2419

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2019年12月 3日 (火)

樹木の伐採作業に従事中の事故⇒雇用関係肯定⇒安全配慮義務違反(肯定)

岡山地裁倉敷支部H30.10.31    
 
<事案>
X1が地方公共団体であるYとの間の労務参加契約に基づき、樹木の伐採作業に従事。
同じく本件労務参加契約に基づき作業に従事していたZが伐倒した伐木が衝突し、X1が重度の後遺障害を負い、X1の妻であるX2及び子であるX3が多大な精神的苦痛を受けた

①X1が、Yに対し、安全配慮義務違反ないし使用者責任に基づき、損害賠償の支払を求めるとともに、
②X2及びX3が、Yに対し、近親者固有慰謝料の支払を求めた。 
 
<争点>
①Yの安全配慮義務違反の有無
②使用者責任の成否
③過失相殺の成否
④損害額
 
<判断・解説>
●雇用契約と請負契約の区別について 
◎ 安全配慮義務:ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として信義則上負う義務
必ずしも、直接の労働契約関係がある場合に限られるものではない。
but
請負契約の注文者が請負人に対して安全配慮義務を負うのは、特別な社会的接触の関係、すなわち雇用契約に準ずるような関係が認められる必要がある。

本件においては、本件労務参加契約(の実質)が、雇用契約に当たるか、請負契約に当たるかが議論された。

◎ 雇用契約と請負契約の区別:
労基法の「労働者」の判断基準を示した昭和60年の労働基準法研究会報告。
同基準:
労働者性の判断に当たっては、形式的な契約形式のいかんにかかわらず、
実質的な使用従属性を総合的に判断すべき。
①仕事の依頼への諾否の自由
②業務遂行上の指揮監督の有無
③時間的・場所的拘束性の有無
④代替性の有無
⑤報酬の労務対価性の有無
等を主要な判断要素とし、
⑥機械、器具の負担関係
⑦報酬の額
等を補足的な判断要素。
 
◎本件でのあてはめ 
本件労務参加契約には、雇用契約であることを基礎付ける事情として、
①Yが、実施作業日や作業時間の変更を指示、連絡⇒作業場所や作業時間の拘束性の程度はそれなりに高かった
②作業員らが業務を自由に断ることができたとは考えがたい
③作業員らは、適宜、Yの非常勤職員である公園の管理人から、作業場所や作業内容につき、おおまかな指示を受けており、これに従った作業に従事することが義務付けられていた
④作業時間と1日当たりの対価が定められており、報酬が出来高ではなく、時間に対する対価とされている
⑤原則的には作業に必要な道具は、Yが用意するものとされている

本件労務参加契約の法的性質は、雇用契約と解するのが相当
but
本判決では、むしろ請負契約であることと整合的な事情として、
①Yが、公園の整備にあたり、地元と協議する中で、地元地区が推薦した作業員に清掃や草刈、伐採等の作業を依頼するようになったという経緯
②Yの職員は、作業員らやYの非常勤職員である公園の管理人に、具体的な指示等をすることはなかった
③公演の管理人も、作業員らに、細かい指示を出すことはなかった
④天候の関係が作業ができない場合、作業員らの判断で、作業日が変更されることがあった
⑤X1は、事故当時、私物のチェーンソーを使用していた
等を指摘。
このような事情を重視すると、逆の結論をとる余地もあり得たとも解される。
 
●安全配慮義務違反について 
労働契約における安全配慮義務の内容:
一般に、
物的環境を整備する義務
人的環境に関する義務
と整理。

本判決:
Yは、作業員らに対してヘルメットなどを用意しておらず、作業員らがヘルメットを被らずに作業を行うことが常態化しているにもかかわらず、何ら必要な指示、指導を行っていない。
⇒①の物的環境を整備する義務違反を認めた。
Yは、本件労務参加契約は請負契約という見解に立脚⇒作業員らに一度講習を受けさせた以上のことを行っていない⇒本件労務参加契約が雇用契約に該当した場合に安全配慮義務違反が認められるか否かは大きな争点とはされていない

判例時報2419

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2019年11月15日 (金)

労契法20条での「その他の事情」が認められた事例

福岡高裁H30.11.29    
 
<事案>
労働契約に係る基本給の定めが有期労働契約であることによる不合理な労働条件であって、労契法20条及び公序良俗に違反するかが争われた事案。 
 
<規定> 
(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
労契法 第二〇条 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。
 
<原審>
Xが、Xとほぼ同じ勤務年数でXと同じ内容の業務を行っていると主張する5名の正規職員との比較において、業務内容やその範囲、業務量等において同等のものと評価できるだけの立証に乏しく、経歴や責任の程度においても異なり、Xと同様の業務を取り扱っているとの単純な比較をすることは困難

XとYの労働契約における賃金の定め方が労契法20条に違反すると認めることはできず、また、公序良俗にも反しないとして、Xの請求を棄却。
 
<判断>
Xが挙げる5名の正規職員の業務等と比較して、業務の内容やその範囲、業務量等がXと同等のものと認めるに足る証拠はない。
but
①臨時職員は、1月以上1年以内と期間を限定して雇用する職員で、Yにおいては、人員不足を一時的に補う目的で臨時職員の採用を開始し、臨時職員を長期間雇用することを採用当事者予定していなかったが、Xは、30年以上も臨時職員として雇用されたもので、この採用当時に予定していなかった雇用状態が生じたという事情は、当該有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かの判断において、労契法20条にいう「その他の事情」として考慮されることとなる事情に当たる。
②Xが比較対象として挙げる5名の正規職員のうち3名は、いずれも当初は、Xと類似した業務に携わり業務に対する習熟度を挙げるなどして採用から6年ないし10年で主任に昇格したが、30年以上の長期にわたり稼働を続け業務に対する習熟度を上げたXに対しては、人事院勧告に従った賃金の引き上げのみで、Xと学歴が同じ正規職員が、管理業務に携わるないし携わることができる地位である主任に昇格する前の賃金水準すら充たさず、現在では、同じ頃作用された正規職員との基本給の額に約2倍の格差が生じているという労働条件の相違は、同学歴の正規職員の主任昇格前の賃金水準を下回る限度において不合理であって、労契法20条に違反。

Xは、月額賃金の差額各3万円及びこれに対応する賞与に相当する損害を被ったとして、113万4000円及び遅延損害金の支払を求める限度でXの請求を認容。
 
<解説>
労契法20条は、有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件の相違は、
「職務の内容、職務内容と配慮の変更範囲、その他の事情」に照らして不合理と認められるものであってはならない旨規定し、
不合理と認められるもの」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものをいう(最高裁H30.6.1)。 

労働者側としては、自分が同じ労働条件を享受すべきであると考える無期契約労働者を選び出して、労働条件の相違が不合理であるとして、同条違反を主張するという形で争うのが一般的。

本判決:
Xが抽出した正規職員がXと業務の内容やその範囲、業務量等がXと同等のものと認めるに足る証拠はないなどとしながらも、
臨時職員を長期間雇用することは採用当事者予定していなかったもので、それに沿った賃金体系であったが、そのまま30年以上も雇用を継続し、著しい賃金格差が生じたことを「その他の事情」として評価したもの。

判例時報2417

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

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2019年11月 9日 (土)

パワハラ否定、安全配慮義務肯定の事案

徳島地裁H30.7.9    
 
<事案>
Y(ゆうちょ銀行)の従業員であったP2の相続人であるXが、Yに対し、P2が上司2名からパワハラを受けて自殺したと主張して、P2のYに対する使用者責任又は雇用契約上の義務違反による債務不履行責任に基づく損害賠償金合計8185万2175円及びこれに対するP2の死亡の日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
 
<争点>
①Yの使用者責任(Yの従業員によりP2に対するハラスメントの有無及びY2の従業員の前記ハラスメント防止措置の懈怠)及び債務不履行責任(Yの従業員による職場環境配慮義務違反)の有無
②P2の損害 
 
<判断>
争点①のうち、Yの使用者責任につき、
Xが主張するパワーハラスメントについて、P6及びP7のP2に対する一連の叱責が、業務上の指導の範囲を逸脱し、社会通念上違法なものであったとまでは認められない⇒P6及びP7がP2に対して不法行為責任を負うものではなく、Yも使用者責任を負うものではない。 

争点①のうち、Yの債務不履行責任について、
P2の上司のうちP3及びP5は、P2の体調不良や自殺願望の原因がYの従業員との人間関係に起因するものであることを容易に想定でき、
P3及びP5としては、前記のようなP2の執務状態を改善し、P2の心身に過度の負担が生じないように、同人の異動をも含めその対応を検討すべきであった
②P2の上司は、一時期、P2の担当業務を軽減したのみで、その他にはなんらの対応もしなかった

Yには、P2に対する安全配慮義務違反があった
 
<解説> 
●パワーハラスメント:
同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、
精神的・身体的苦痛を与える行為又は職場環境を悪化させる行為をいい、
その行為類型としては、
①暴行・傷害(身体的な攻撃)
②脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
③隔離・仲間はずし・無視(人間関係からの切り離し)
④業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
⑤業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じられることや仕事を与えないこと(過少な要求)
⑥私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)
があるとされている。
(職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」厚労省HP) 

上司の部下に対する指導等がパワーハラスメントに該当し違法といえるか否かの判断枠組みとしては、
当該行為が業務上の指導の範囲を逸脱し、社会通念上違法なものと評価できるかという観点から、違法性を判断している裁判例が見受けられる。
 
●本判決:
①P6及びP7が日常的にP2に対し強い口調の叱責を繰り返し、その際、P2を呼び捨てにするなどしていた。
②前記P6及びP7のP2に対する言動は、部下に対する指導としてはその相当性には疑問があるといわざるをえない。
but
③部下の書類作成のミスを指摘しその改善を求めることは、Yにおける社内ルール
④P2の上司であるP6及びP7の業務である、P2に対する叱責が日常的に継続したのは、P2が頻繁に書類作成上のミスを発生させたことによるものであって、証拠上、P6及びP7が何ら理由なくP2を叱責していたというような事情は認められず、P6及びP7のP2に対する具体的な発言内容はP2の人格的非難に及びものとまではいえない

P6及びP7のP2に対する指導自体は業務上相当な指導の範囲内であり、P6及びP7のP2に対する指導はP2に対するパワーハラスメントには該当せず、違法なものとはいえない
 

使用者の従業員に対する安全配慮義務につき、
判例(最高裁H12.3.24)は、
「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、
使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の右注意義務の内容に従って、その権限を行使すべきである」と判示。 

本判決も、P2の上司であるP3及びP5は、P2に対する安全配慮義務を負うとする。
①P3及びP5は、P2がP6及びP7から日常的に厳しい叱責を受け続ける状況を十分に認識していた
②P2が所属する職場の上司の部下に対する対応に問題がある旨の投書がなされただけでなく、P5は、P6やP7がP2に対する不満を述べていることも現に知っていた
③P2は、死亡時にいたC2センターに赴任後わずか数カ月で、別の部署への異動を希望し、その後も継続的に異動を続けていたが、同センターに赴任後の2年間で体重が約15kgも減少するなどP5が気に掛けるほどP2が体調不良の状態であることは明らかであった
④平成27年3月には、P5は別の社員からP2が死にたがっているなどと知らされていた

P2の上司であるP3やP5としては、前記のようなP2の執務状態を改善し、P2の心身に過度の負担が生じないように、同人の異動も含めその対応を検討すべきであった

P3及びP5がその義務を怠ったとして、Yの安全配慮義務違反を認めた

判例時報2416

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2019年10月30日 (水)

テスト出勤制度について争われた事例

名古屋高裁H30.6.26     
 
<事案>
被控訴人(Y、日本放送協会)の従業員(職員)であった控訴人(X)が、精神的領域における疾病による傷病休職の期間が満了したことにより解職

(1)同期間満了前に精神的領域における疾病が治癒し、休職の事由が消滅しており、解職が無効であり、Yとの間の労働契約が存続していると主張して、
①労働契約上の権利を有する地位にあることの確認
②休職期間経過後の賃金及び賞与の支払を求めるとともに、

(2)傷病休職中に行ったテスト出渠区により、労働契約上の債務の本旨に従った労務の提供をし、途中でテスト出局が中止され、これにより労務の提供をしなくなったのはYの帰責事由によるものであるとして、
③テスト出局開始から傷病休職満了までの期間について、労働契約に基づき、職員給与規程(職員就業規則)による賃金及びこれに対する遅延損害金の支払を、

(3)テスト出局の中止や解雇に至ったことに違法性があると主張し、
④不法行為に基づく損害賠償金(慰謝料)及びこれに対する遅延損害金の支払を求め、

控訴審において、
前記③の請求につき、
(4)仮にテスト出局中にXの行った作業が労働契約上の本来の債務の本旨に従った労務の提供に該当しないとしても、労基法及び最低賃金法上の労働に該当し、最低賃金額以上の賃金が支払われるべきであるとして、

⑤テスト出局開始から傷病給食満了までの期間について、労働契約に基づき、最低賃金額相当の賃金及びこれに対する遅延損害金の支払を求めるために予備的請求原因を追加。 
 
<原審>
①~④についていずれも棄却 
 
<解説>
テスト出勤制度について
精神的領域における疾病による休職中の労働者が職場復帰するための有効な手段の1つとされ、厚労省の事業場向けマニュアルとして「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」を公表。
①模擬出勤
②通勤訓練
③試し出勤

●問題の所在 
テスト出勤制度は、法定の制度ではなく、その実施の有無や制度設計は事業者ごとに対応が求められ、制度を整備する必要性が高まっている反面、法的性質は明確ではない
試し出勤の開始が復職に該当せず、休職期間の満了による退職扱いを適法とした事案(東京地裁H22.3.18)
 
<判断>

①合理的理由

③テスト出局は休職者によっても復職につながる利益がある⇒就業規則に、休職を命じた職員には業務に従事させないとの定めがあるからといって、必要性・相当性があり、休職者がテスト出局を行うことに同意している場合まで休職者にテスト出局に伴う業務に従事することを禁止するものではない⇒前記就業規則の定めがあることでテスト出局が違法になるとはいえない
④テスト出局が無給で行われたことに問題があると認められるが、健康保険組合から傷病手当等が支給されていることなどに鑑みると、テスト出局が無給であることをもって違法とまではいえない。

本件テスト出局は適法

●テスト出勤の趣旨、目的に照らせば、休職者の提供する作業の内容は、当該求職者の労働契約上の本来の債務の本旨に従った履行の提供であることを要するものではなく、また、求職者の提供する作業の内容がその程度のものにとどまる限り、Yも休職者に対して労働契約上の本来の賃金を支払うことになるものではない。
テスト出局のように求職者のリハビリと職務復帰の判断を目的として実施され、時間及び作業内容が軽減された労務の提供に対する賃金については、就業規則及び職員給与規程の定めがないものと解される⇒職員給与規程による賃金の支払を認めなかった。
but
テスト出局が職場復帰の可否の判断を目的として行われる試し出勤(勤務)の性質を有する⇒休職者は事実上、テスト出局において業務を命じられた場合にそれを拒否することは困難な状況にあるといえる⇒単に本来の業務に比べ軽易な作業であるからといって賃金請求権が発生しないとまではいえず、当該作業が使用者の指示に従って行われ、その作業の成果を使用者が享受しているような場合等には、当該作業は、業務遂行上、使用者の指揮監督下に行われた労基法11条の規定する「労働」に該当するものと解され、無給の合意があっても、最賃法の適用により、テスト出局については最低賃金と同様の定めがされたものとされて、これが契約内容となり(同法4条2項)、賃金請求権が発生するものと解される。

Xの行った作業を労働契約上の本来の債務の本旨に従った労務の提供と認めなかった
but
Xが出局していた時間は使用者であるYの指揮監督下にあったものと認められる

労基法11条の規定する労働に従事していたものであり、無給の合意があっても最賃法の適用により最低賃金相当額の支払義務を負う
 
<解説>
●本件テスト出局の適法性
本判決:
控訴人が従前にテスト出局が中止されたことがある⇒その期間が24週間と長期であること、無給であること、就業規則では休業者が業務に従事できないとの定めがあるからといって違法とはできない。
vs.
テスト出勤は、職場復帰の判断をするために必要な限度で行われるべきであり、本件テスト出勤は、その期間が24週間と長期であるなど、旧業者に相当な負担を負わせるものであるから、一般論として適法といえるかは疑問の余地がある。
 
●テスト出局中の作業と賃金請求権の発生 
A:「労働者」の要件である「賃金を支払われる者」(労基法9条、最賃法2条1号)を充足しない
B:試し出勤の目的がもっぱら復職可能性の判断にある場合には、指揮命令下の業務従事という評価は妥当せず、賃金請求権は発生しない
C:休職中であっても、休職者と使用者との間に労働関係が存在する以上、使用者の指示に従って業務を行なえば、それは原則として労務の提供であり、労基法や最賃法の適用は免れない
D:客観的な就労実態が労務の提供に該当すると判断される場合、合意の内容にかかわらず、強行法規である労基法、最賃法及び労災法等は適用される

判例時報2415

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2019年10月22日 (火)

実際と異なる賃金算定方式を定めた就業規則の適用等

福岡地裁H30.9.14       
 
<事案>
被告会社に雇用されて長距離トラック運転手として稼働していた原告が、
①被告会社に対して未払割増賃金及び控除された賃金等の支払を求め
②被告会社の代表取締役である被告Y2及びその夫であり事実上の取締役とされる被告Y3に対し、それぞれ会社法429条又は民法709条に基づく損害賠償の支払を求め、
③被告Y1及び被告会社に対し、被告Y3が原告に対してパワーハラスメントを行ったと主張し、
被告Y3については民法709条
被告会社については会社法350条により
損害賠償の支払を求めた。 

反訴:
被告会社が、原告に対し、業務指示を受けていた運送業務を無断で放棄したことについて、不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償の支払を求めた。
 
<規定>
労働契約法 第七条
労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。

労働契約法 第一二条(就業規則違反の労働契約)
就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。
 
<判断>
●実態と異なる賃金算定方法を定めた就業規則の適用の可否
本件就業規則には「会社に勤務するすべての従業員に適用する。」との定めとなっており、文言上長距離トラック運転手にも適用されるものとなっており、その他の労働条件の定めも長距離トラック運転手に不利益をもたらすものではない
労契法7条により、原告にも本件就業規則の日給月給制の定めが適用される

仮に出来高払制の合意があったとしても、最低基準効に反し、同法12条により無効

被告:本件就業規則は土木工事業を対象としており、長距離トラック運転手の労働実態と合わず、「合理的な労働条件を定めている」とはいえない。
vs.
個別の合意によることなく労働者の労働条件を規律すべく就業規則を定めた使用者においてその拘束力を否定することは、禁反言の法理に反して許されない。
 
●深夜割増賃金を基本給に含めるとの合意の成否 
基本給に深夜労働等の割増賃金が含まれていると認めるには、通常の労働時間の賃金に当たる部分と深夜等の割増賃金に当たる部分とが判別できることが必要(最高裁H6.6.13)
原告の給与明細には判別に足る記載はなく、賃金算定の基となる路線単価を定めるに当たっても深夜労働の有無や長さは厳密に検討されていない。

基本給に深夜労働に対する割増賃金を含むとの合意が成立していたとは認められない
 
●賃金控除の適法性 
賃金控除の合意が賃金全額払の原則(労基法24条)の例外として有効と認められるためには、労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することが必要(最高裁)
本件では、そのような合意は認められない⇒控除は違法。
 
会社の賃金未払について代表取締役等の損害賠償責任の有無 
①被告会社は、原告に対し、賃金全額を支払う義務や、本件就業規則に従って原告の時間外労働等を正確に把握してこれに応じた割増賃金を支払う義務を負っているにもかかわらず、これを怠っている。
②被告Y2は代表取締役として、違法な賃金控除がなされないように監督する任務や、従業員の時間外労働等を正確に把握できるよう体制を整えた上で、その労働時間数に応じた割増賃金が確実に支払われるよう会社内部の制度を構築し実施する任務を負っていたにもかかわらず、これらを懈怠。
⇒任務懈怠は認められる。
but
被告Y2には任務懈怠について重大な過失があったとまではいえず、また、不法行為法上の過失といえるほどに高い注意義務違反があったとはいえない。
 
●事実上の取締役とされるY3について 
①被告Y3は、妻である被告Y2に命じて代表取締役に就任させたが、被告Y2は被告会社の業務決定に関与していなかった
②被告Y3は、従業員の採用や賃金決定に関与し、他の役員からの相談を受け、対外的には被告会社グループのCEOの肩書を用い、役員や従業員からも「オーナー」と呼ばれていた。

事実上の取締役と認められる。
but
上記Y2と同様の理由で、損害賠償責任は認められない。
 
●パワハラの有無及び被告会社の責任 
原告が、丸刈りにされて洗車用の高圧洗浄機を噴射されたり、ロケット花火を発射されて川に飛び込まされたり、社屋の入口前で土下座をさせられたりしたことについて、これらの事実のについての記載が写真と共に被告会社のブログに掲載
⇒被告Y3の指示があった。

パワハラに該当し、被告Y3は不法行為責任を負い、被告会社は、被告Y3が事実上の取締役であることから、会社法350条の類推適用により責任を負う。

会社法 第三五〇条(代表者の行為についての損害賠償責任)
株式会社は、代表取締役その他の代表者がその職務を行うについて第三者に加えた損害を賠償する責任を負う
 
●業務の無断放棄による損害賠償責任の有無及び損害額 
原告が被告会社から運送業務の具体的指示を受けた後にこれを無断放棄したことについて、労働者は具体的に指示された業務を履行しないことによって使用者に生じる損害を回避ないし減少させる措置をとる義務を負う。

被告会社が宅配業者から受注していた業務を中止したことにより得られなくなった売上の限度で、原告の不法行為責任を肯定。

判例時報2413

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2019年10月 7日 (月)

外科医師の職種限定合意、配転命令等が無効とされた事例

広島高裁岡山支部H31.1.10      
 
<事案>
Xは、Yが運営する病院(A病院)に勤務する外科医。 
Xは、Yから、Xを消化器外科部長及び消化器疾患センター副センター長から解任し、がん治療サポートセンター長に任命する配置転換命令(本件配転命令)及び外来・入院・手術・カンファレンス等、外科の一切の診療に関与することを禁止する命令(本件診療禁止命令)を受けた。

Xは、Yに対する以下の仮処分命令の申立て
がん治療サポートセンター長として勤務する雇用契約上の義務がないことを仮に定める仮処分命令の申立て
本件診療禁止命令に従う義務のないことを仮に定める仮地位仮処分命令の申立て
XがYの求める調査会に出席しなかったことを理由とする懲戒処分の事前差止めを求める仮地位仮処分命令の申立て
 
<原決定>
全部却下 
 
<判断> 
申立て①②を認容し、③を却下。 
 
<解説>  
●配置転換命令(「配転命令」)の意義
配転:従業員の配置の変更であって、職務内容または勤務場所が相当の長期間にわたって変更されるもの

長期的な雇用を予定した正規従業員については、職種・職務内容や勤務地を限定せずに採用され、企業組織内での従業員の職業能力・地位の発展や労働力の補充・調整のために系統的で広範囲な配転が行われていくのが普通。
このような長期雇用の労働契約関係においては、使用者の職務内容や勤務地を決定する権限が帰属することが予定されている。(菅野)
 
●職種限定合意の成否
一般に、職種限定合意等に反する配転命令は無効と解されている。
本決定:職種限定合意の成立を認め、これに反する本件配転命令及び本件診療禁止命令を無効とした。
一般に、労働契約の締結のなかで、当該労働者の職種が限定されている場合は、この職種の変更は一方的命令によってはなしえない。(菅野)
Xは外科医師⇒職種限定合意が認められる極めて典型的な事例。
but
原決定はこれを否定

①明示的な合意がない
vs.
黙示の合意を否定する理由とならない。

②就業規則で兼務があり得るとされている
vs.
専門とする診療科での診療を禁止することを根拠づけるものではない。
 
●配転命令権の濫用 
配転命令権が乱用された場合、配転命令は無効(通説・判例)
職種又は勤務場所を限定する合意については、労働契約の内容として個々の配転命令権を制限する合意までは認め得なくても、労働者の期待等を考慮し、・・・命令権の濫用を基礎づける事情(著しい職務上又は生活上の不利益)として考慮されることもある。(西村)

本決定:
職務限定合意があることを理由として、権利濫用の判断に当たり、高度の業務上の必要性を要求し、かつ労働者の被る不利益について検討する中で、職種限定合意を基礎づける事情について考慮
 
労働者が配転命令等の無効を争う訴訟における訴訟物等 
労働者が使用者に対して就労させることを請求する権利(就労請求権)を有するか?

労働契約は義務であって権利ではない(使用者は、賃金を支払うかぎり、提供された労働力を使用するか否かは自由であって、労働受領義務はない)

特約ある場合や特別の技能者である場合を除いては就労請求権を否定。(通説・判例)

配転命令等を無効確認請求事件における訴訟物は、「雇用契約に基づく就労義務の存否」であり、「配転無効であることを前提とする主張を請求の趣旨に構成する仕方は、新部署における労働契約上の就労義務がないことの確認を求めるという方法しかない」
but
労働者が配転命令を争う訴訟において求めるべき請求内容は、配転先における就労義務のない労働契約上の地位の確認
but
労働契約上、職種や勤務地が限定されており、配転命令がその限定に反して無効であるという場合には、配転前の職種ないし勤務地において就労する地位の確認を求めることができるとする見解(菅野)もある
 
●仮処分に特有の問題 
仮の地位を定める仮処分の被保全権利は、本案事件の訴訟物であると解されている。
新職場に勤務する雇用契約上の義務の不存在確認を求める場合の被保全権利:当該義務の不存在確認請求権(申立て①)
申立て②に係る被保全権利:本件診療禁止命令(業務命令)に従う義務の不存在確認請求権。
民事保全法 第23条(仮処分命令の必要性等)
・・・
2仮の地位を定める仮処分命令は、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができる。

債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするとき」に保全の必要性が認められる。

仮処分によって債権者が受ける利益と仮処分によって債務者が被る不利益を比較衡量して、被保全権利が疎明の段階であっても、仮処分を発令しないことによって生ずる債権者の不利益が著しく大きいと認められるときに保全の必要性が存在すると解されている。
配置転換の効力停止を求める仮処分については、転居を伴うような転勤の場合、保全の必要性が認められやすいが、部内移動や転居を伴わない転勤の場合、保全の必要性は容易には認められないことになろうが、
技能の低下、精神的苦痛、昇給等への影響、労働組合活動への支障、懲戒処分のおそれ等を理由に保全の必要性をみとめるとの立場も考えられる。

本件は、特段の事情が認められる典型的事案。

判例時報2412

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2019年9月29日 (日)

時間外労働等の対価とされていた定額の手当の支払と労基法37条の割増賃金の支払(最高裁)

最高裁H30.7.19      
 
<事案>
Yに雇用され、薬剤師として勤務していたXが、Yに対し、時間外労働、休日労働及び深夜労働に対する賃金並びに付加金等の支払を求めた。 
 
<争点>
Yは、Xに対し、X・Y間の雇用契約に基づき、基本給とは別に、月額10万1000円の業務手当を支払っていたところ、この業務手当がいわゆる固定残業代に当たるか、業務手当の支払により時間外労働等に対する賃金が支払われたといえるか否か。 
 
<判断>
使用者が労働者に対し、雇用契約に基づいて定額の手当を支払った場合において時間外労働、休日労働及び深夜労働に対する対価として支払われるものとされていたにもかかわらず、当該手当てを上回る金額の割増賃金請求権が発生した事実を労働者が認識して直ちに支払を請求することができる仕組みが備わっていないなどとして、当該手当の支払により労基法37条の割増賃金が支払われたということができないとした原審の判断には、割増賃金に関する法令の解釈適用を誤った違法がある

原判決を破棄し、Xに支払われるべき賃金の額、付加金の支払を命ずることの当否及びその額等についての審理につき、原審に差し戻した。 
 
<解説> 
労基法37条は、同条所定の算定方法による金額以上の割増賃金の支払を義務付けるにとどまり、同条所定の算定方法を用いることまで義務付ける規定ではない
使用者が同情所定の算定方法と異なる割増賃金の算定方法を採用することにより直ちに違法となるものではない。(通説・判例) 

固定残業代に関し、判例は、使用者が労働者に対し、時間外労働等の対価として支払ったとすることができるか否かを判断するには、労働契約における賃金の定めにつき、それが通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とに判別することができるか否かを検討することを要する。(最高裁H29.2.28)
~判別要件
本件においては、基本給とは区別されて支払われる定額の業務手当全体が固定残業代に当たるか否かが争われている⇒判別要件は直接には問題とならない。
but
前記の判示は、割増賃金に当たる部分が時間偽労働等に対する対価としての性質を有することが前提となっており、
本件の争点は、固定残業代に該当するか否かが争われている業務手当が、時間外労働等に対する対価としての性質を有するものであるか否かという、実務上、対価性などと呼ばれる点にある。
 
契約に基づいて支払われる金銭がどのような趣旨で支払われたか?

契約の内容すなわち当事者の合意の内容により定まる
⇒雇用契約に基づいて支払われる手当が時間外労働等に対する対価として支払われたか否かも、当該雇用契約においてどのような合意がされたかによって定まる。

裁判例:
時間外労働等の対価以外に合理的な支給根拠があるあるとはいえないなど、実質的にみて時間偽労働の対価としての性格を有していること、

支給時に支給対象の時間外労働の時間数と残業手当の額が労働者に明示されていること
労基法所定の額が支払われているか否かを判定することができるよう同意の中に明確な指標が存在していること

固定残業代によってまかなわれる残業時間数を超えて残業が行われた場合には別途清算する旨の合意が存在するか、少なくともそうした取扱いが確立していること
等を、契約内容とは別の要件としているものがある。

基本給とは別に支払われる手当が、95時間~100時間分の時間外労働に対する賃金に相当する場合に、法令の趣旨に反するなどとして、固定残業代に該当するとは認められないとしたもの。
 
●本判決 
使用者は、労働者に対し、雇用契約に基づき、時間外労働等に対する対価として定額の手当を支払うことにより、労基法37条の割増賃金の全部又は一部を支払うことができることを確認した上で、
雇用契約においてある手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否かは、雇用契約に係る契約書等の記載内容のほか、具体的事案に応じ、使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容、労働者の実際の労働時間等に勤務状況などの事情を考慮して判断すべきであり、同条や他の労働関係法令が、当該手当の支払によって割増賃金の全部又は一部を支払ったものといえるために、原審が判示するような事情が認められることを必須のものとしているとは解されない。

雇用契約に基づいて支払われる手当が、時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否かは、契約の内容によって定まり、その他に何らかの独立の要件を必要とするものではないことを明らかにするとともに、
契約の内容がどのようなものであるかは、契約書等の記載内容のほか、具体的事案に応じ、使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容、労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの事情を考慮して総合的に判断すべきことを明らかにしたもの。

本件の事実関係等
本件雇用契約に係る契約書及び採用条件確認書並びにYの賃金規程において、月々支払われる所定賃金のうち業務手当が時間外労働に対する対価として支払われる旨が記載され、YとX以外の各従業員との間で作成された確認書にも、業務手当が時間外労働に対する対価として支払われるものと位置づけられていたということができる。
Xに支払われた業務手当は、1か月当たりの平均所定労働時間(157.3時間)を基に算定すると、約28時間分の時間外労働に対する割増賃金に相当するものであり、Xの実際の時間外労働等の状況と大きくかい離するものではない

Xに支払われた業務手当は、本件雇用契約において、時間外労働等に対する対価として支払われるものとされていたと認められる⇒前記業務手当の支払をもって、Xの時間外労働等に対する賃金の支払とみることができる

判例時報2411

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2019年8月20日 (火)

年功序列型から成果主義型への就業規則の変更が違法とされた事例

名古屋地裁岡崎支部H30.4.27      
 
<事案>
Y社が人事及び賃金制度に関する就業規則を年功序列型から成果主義型へ変更

Y社の従業員であるXが、同変更が不利益変更に当たって違法であり、新たな就業規則に基づき行われた評価及び減給によって損害を被ったなどと主張して、不法行為に基づき、損害金等の支払を求めた。 
 
<判断>
就業規則の変更が、労働者に不利益を与える場合には、
労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の変更に係る事情に照らして合理的なものでなければならず、合理的といえない場合には、そのような就業規則の変更は、違法と評価される。 
Y社の就業規則の変更が不利益に変更に当たるとした上で、

不利益の程度について、
①従業員は、最低評価であるD評価を受けた場合に、減給となること
②その効果が次年度以降にも及ぶこと、
③降格処分の詮議対象となり得ること

非常に大きな不利益を受ける

変更の必要性について、経営上の必要性に基づいて行われたものであるとしたが、
内容の相当性について、
内容自体は概ね前記必要性に見合ったものとなっているとしたものの、
成果主義において公正な人事評価が必要であること、
特に、D評価においては、不利益が非常に大きいこと
公正な評価が制度的に担保される必要性が高い

一次評価者と二次評価者が同一の者になる場合があることを前提として、
二次評価のうち最低のD評価の具体的な基準が定められておらず
一次評価者と二次評価者が同一の場合には、複数の者が関与することによる一定の客観性を保つことができず
従業員が評価結果に不服がある場合に、他の者による再評価や評価に対する審査の機会はなく
修正が可能な制度や措置が設けられていない

評価の公正さが担保されていない

制度設計について、企業の裁量を前提としながらも、Y社の企業規模等を考慮して、D評価について評価の公正さが制度的に担保されていないことが著しく不相当

D評価の一次評価と二次評価とが同一の者による場合があるにもかかわらず、修正の可能性を担保する制度や措置を設けなかった点については、就業規則の変更について労働組合の同意があるなどのその他の変更に係る事情を考慮しても、著しく合理性を欠くものといわざるを得ず、
少なくとも一次評価と二次評価を同一の者が行う場合のD評価に係る部分については、違法なもの。
 
<解説>
就業規則の不利益変更については、
特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の変更については、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるというのが判例の考え方(最高裁)で、

労契法10条も、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、有効であるとする。
成果主義型の導入に関する学説では、特に制度内容の相当性判断について、制度設計の公正さ・透明さを求めるもの、制度設計については基本的に労使にゆだねられるべきであるとするものなどがある。
本判決は、制度設計の裁量を前提としながらも、制度の内容の相当性について、労働者の受ける不利益が重大なものであることから、公正な人事評価が制度的に担保される必要性を指摘し、重大な不利益を受ける評価に際して公正な人事評価が担保されていない部分について著しく不相当であるとした

判例時報2407

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