労働

2022年4月27日 (水)

長時間労働&いやがらせ⇒精神障害⇒死亡の事案

高松高裁R2.12.24

<事案>
Y1社に勤務していたB(死亡当時59歳)が、長時間労働により心理的負荷がかかっている中で、Y1社の営業取締役であるY3(Y1社の代表取締役Y2の娘)によるひどい嫌がらせ、いじめによって、業務上強度の心理的負荷を受け、精神的障がいを発病し自殺
⇒Bの相続人であるA、X1及びX2が、Y1社に対しては安全配慮義務違反に基づき、Y2及びY3に対しては安全配慮義務違反又は会社法429条1項に基づき、損害金等の連帯支払を求めた。

<規定>
会社法 第四二九条(役員等の第三者に対する損害賠償責任)
役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。

<争点>
①Y1社におけるBの業務とBの精神障害・自殺との相当因果関係の有無
②Yらの安全配慮義務違反の有無
③Y2及びY3の会社法429条1項責任の有無
④過失相殺の当否
⑤Xらの損害額

<判断>
争点① :
労災の認定基準である「心理的負荷による精神障害の認定基準について」の定めを踏まえ、
これに依拠すべきでない特段の事情が存するか否かを検討し、
2月の出来事を、指導の範疇を超え、指導の方法として相当とはいいがたく、全体的な言動も相当とは認めがたい⇒一連一体の嫌がらせとみて評価し、
心理的負荷の程度は、前記認定基準における「中」とし、
2月の出来事の約3か月前の時間外労働時間が月100時間を超えていたなど、業務内容も心身に相応の負荷がかかるものであった
⇒2月の出来事の心理的負荷を全体として増加させるものであり、恒常的な長時間労働があったとの要件を満たす
⇒心理的負荷の強度は「強」と評価される。

争点②:
Yらにおいて、Bが心身の健康を損ない、何らかの精神障害を発病する危険な状態が生ずることにつき、予見できた
⇒Y1社は、Bに対し、長時間労働による疲労や業務上の心理的負荷等が過度に蓄積しないように注意ないし配慮する義務(安全配慮義務)を負っていた
but
Bに長時間労働を行わせつつ不相当な指導を行い、前記安全配慮義務に違反した。

争点③:
Y2及びY3は、いずれもBの時間外労働時間及び業務内容並びに2月の出来事の内容を認識し又は認識できたのであり、Y1社の規模を考慮すれば取締役において容易に認識し得た故意又は重過失が認められる⇒いずれも会社法429条1項に基づく損害賠償責任を負う。

争点④:
過失相殺すべき事情はない。

争点⑤:
X1、X2の各損害額につき、相当額を認めた。

<解説>
認定基準:
精神障害の発生は、
環境に由来する心理的負荷(ストレス)と、個体側の脆弱性との関係で定まり、
ストレスが非常に強ければストレスが弱くても精神的障がいは発生し、
脆弱性が大きければストレスが弱くても精神障害は発生するという、
いわゆる「ストレスー脆弱性」理論に依拠。

労災認定の行政内部基準にすぎない
but
専門家の知見を踏まえたものとして、裁判例でも、前記認定基準を参考にすることが多い。
尚、本判決は、部下が上司とともに異動する形態の出張につき、その移動時間についても、労働時間として算入している。
以下、裁判例。

判例時報2509

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2022年4月22日 (金)

懲戒解雇による退職金全額不支給が争われた事案

東京高裁R3.2.24

<事案>
懲戒解雇された者(X、みずほ銀行の行員)について、退職金規程(懲戒処分を受けた者に対する退職金は減額または不支給となることがある)に基づき退職金の全額を支給しないとしたYの措置の当否が問題。
請求 Xが原告となり、Yを被告として、
主位的に懲戒解雇の無効を主張⇒地位確認並びに賃金及び慰謝料の支払を求め
予備的に解雇が有効であるとしても、退職金の全額が支払われるべき⇒退職金の支払を求めた。

反訴:
Yが原告となり、Xを被告として、社宅の明渡しと賃料相当損害金の支払を求めた

<1審>
Xの懲戒解雇事由(秘密情報の雑誌社に対する漏洩行為)は、Yやその顧客に具体的な経済的損失を生じさせておらず、Xの30年の勤続の功を完全に抹消または減殺するものではない⇒全額不支給は違法⇒3割の限度で支給すべき(7割不支給)

<判断>
①雑誌社に対する秘密(Yの社外秘である通達や資料等)情報漏洩行為が数年間にわたり反復継続された
②秘密情報が現実にSNSに掲載された
③秘密保持は銀行の信用状の最重要事項の1つ
⇒悪質性の程度が高い
⇒全額不支給措置は適法

<解説>
1審、控訴審とも、懲戒解雇は有効と判断し、Xの本件情報漏洩行為が懲戒解雇相当の悪質なものであると判断。

退職金については、
1審:金銭に換算できるような具体的な損害がYにもYの顧客にも生じていないことを重視
本判決:銀行から外部に流出しないと一般人が考えるような情報が反復継続して雑誌やSNSに掲載されたことによる無形の損害(Yの信用棄損)を重視。

秘密情報が雑誌やSNSに繰り返し掲載されることが金融業の信用をどれほど毀損するかという点についての評価の相違

判例時報2508

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2022年3月18日 (金)

過労死で、一部の取締役の会社法429条1項の責任も認められた事例

東京高裁R3.1.21

<事案>
亡A(昭和35年生の男性)は、Y1社の従業員であり、B支社に勤務。
Aは平成23年8月6日に脳出血を発症し死亡。

X1はAの妻、X2、X3はその間の子。
Y2~Y4は、亡A死亡当時、Y1社の取締役。
Xらが、亡Aが脳出血を発症して死亡したのはY1社から長時間の時間外労働を強いられたことによるもの

Y1社には債務不履行(安全配慮義務違反)が、
Y2ないしY4には悪意又は重過失による任務懈怠がそれぞれあった

Y1社に対しては民法415条に基づき、
Y2ないしY4に対しては会社法429条1項に基づき、
総損害額からXらの自認する損益相殺をした後の残額及びこれに対する遅延損害金の連帯支払を求めた。

<1審>
亡Aの死亡はY1社での長時間の時間外労働によるもの⇒Y1社の債務不履行責任を肯定。

その取締役であるY2ないしY4については、
B支社の工場長であえり、亡Aの直属の上司であったY4に限って軽過失あったにとどまり、
Y2ないしY4のいずれにも悪意又は重過失があったとは認められない⇒民法429条1項の責任を否定。

弁護士費用以外の損害額について、
亡Aの身体的素因等を理由とする過失相殺の類推適用⇒7割を減じた額をXらが相続、損益相殺をした後の残額に弁護士費用を加算した額と遅延損害金の限度で一部認容。

<判断>
亡Aの直属の上司であった取締役Y4について、
B支社に専務取締役工場長として常駐し、B支社における実質的な代表者というべき地位にあり、残業時間の集計結果の報告を受けて亡Aに過労死のおそれがあることを容易に認識することができ、実際にもかかるおそれがあることを認識していた
but
従前行っていた一般的な対応にとどまり、亡Aの業務量を適切に調整するための具体的な措置を講ずることはなかった。

亡Aの過労死のおそれを認識しながら、従前の一般的な対応に終始し、亡Aの業務量を適切に調整ために実効性のある措置を講じていなかった⇒Y4の重過失による任務懈怠を肯定し、会社法429条1甲所定の責任を肯定。

Y1社における業務とは無関係に脳出血の発症につながる要因を有していた亡A自身も、Y1に高血圧につき治療中である旨の虚偽申告を複数年にわたってしなければならないほど、自らの高血圧の症状が医師による治療を要する重篤なものである旨を十分認識していた。
亡Aが営業技術係の係長として同係の人員に業務を割り振ることができる裁量を有していたのに、自らの仕事を割り振らずに抱え込んでいたことがあるとしても、
会社としては自らの健康状態を十分に省みることなくその職責を果たそうとする職務に熱心な労働者が存在することも考慮した職務環境を構築すべき
⇒亡Aによる業務遂行方法に健康管理の観点から見て相当ではない点があったとしても、これを過失相殺の類推適用の考慮要素として過大評価すべきではない。

過失割合を5割とした。

<解説>
会社従業員が長時間労働により疾病を発症し、悪化し、又は死亡した場合に会社の債務不履行責任(又は不法行為責任)のみならず取締役の会社法429条1項(旧商法266条の3)所定の責任を認めた高裁の裁判例。

労災事故による損害賠償請求においても被害者に対する加害行為と加害行為前から存した被害者の疾患とが共に原因となった損害が発生⇒損害賠償の額を定めるに当たっては過失相殺の類推適用を肯定するのが判例。
近時の裁判例は、労働者側に損害の発生や拡大の要因が認められる場合であっても、使用者の安全配慮義務違反等を比較的緩やかに認めた上で、労働者側の事情を損害の公平な分担の観点から使用者側の損害賠償額を減額する場面(過失相殺の類推適用ないし訴因減額)で考慮する傾向。

判例時報2505

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2022年3月 2日 (水)

民法上の配偶者が中小企業退職金共済法14条1項1号にいう配偶者に当たらない場合

最高裁R3.3.25

<事案>
Xが、母であるAの死亡に関し、
Y1(独立行政法人勤労者退職金共済機構)に対し中小企業退職金共済法所定の退職金共済契約(Aの勤務先であった株式会社Bが締結していたもの)に基づく退職金の、
Y2(確定給付企業年金法所定の企業年金基金)に対しその規約に基づく遺族給付金の、出版厚生年金基金の権利義務を承継したY3に対し出版厚生年金基金の規約に基づく依存一時金の
各支払を求めた。

<主張>
中小企業退職金共済法及び前記の各規約(「法及び各規約」)において、本件退職金等の最先順位の受給権者はいずれも「配偶者」と定められているところ、
Xは、Aとその民法上の配偶者であるCとが事実上の離婚状態⇒Cは本件退職金等の支給を受けるべき配偶者に該当せず、Xが次順位の受給権者として受給権を有すると主張。

<判断>
民法上の配偶者は、その婚姻関係が実体を失って形骸化し、かつ、その状態が固定化して近い将来解消される見込みのない場合、すなわち、事実上の離婚状態にある場合には、中小企業退職金共済法14条1項1号にいう配偶者に当たらない。

<解説>
●社会保障給付に関する法令における遺族給付の受給権者となる「配偶者」については、
最高裁昭和58.4.14以後、
死亡した被保険者等がいわゆる重婚的内縁関係にある場合において、民法上の配偶者と内縁関係にある者のいずれが受給権者となるかが争われる事案で、
民法上の配偶者であっても、その婚姻関係が事実上の離婚状態にある場合には、前記受給権者となる配偶者に当たらないとの見解を基にした裁判例が積み重ねられてきた。

国家公務員の死亡による退職手当等
についても、その受給権者の範囲及び順位の定めが、職員の収入に依拠していた遺族の生活保障を目的とするもの(遺族の範囲及び順位について国家公務員と同様の定めを置く特殊法人の死亡退職金に関する最高裁昭和55.11.27等)その受給権者となる配偶者の意義についても、社会保障給付に関する法令における配偶者と同様に解すべき

本件では、
①法及び各規約における配偶者の意義についても、社会保障給付に関する法令等における配偶者と同様に解すべきか
②重婚的内縁関係の有無に関わらず、前記のように民法上の配偶者の一部を遺族給付の受給権者となる「配偶者」から除外すべきか

●①について
中小企業退職金共済法での遺族の範囲と順位は、給付の性格の最も似通っている国家公務員の退職手当に関する定めにならったものとされている。
確定給付企業年金法に基づく確定給付企業年金制度は、いずれも我が国の年金制度のうちいわゆる3階部分に当たる企業年金の制度であり・・・法令に支給要件やこれを受けることができる遺族の範囲等の定め置かれている。
本件退職金等の支給の根拠となるこれらの法令や規約の定めの内容
本件退職金等は、いずれも、遺族に対する社会保障給付等と同様に、遺族の生活保障を主な目的として、その受給権者が定められているものと解される。

本件退職金等は、民事上の契約関係等に基礎を置くものではあるものの、その受給権者となる法及び各規約における配偶者の意義については、社会保障給付に関する法令等における配偶者と同様に解するのが相当。

●②について
・・・重婚的内縁関係の有無に関わらず、民法上の配偶者は、その婚姻関係が事実上の離婚状態にあるときは、遺族給付の受給権者となる「配偶者」には当たらないと解するのが相当。

判例時報2503

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2022年2月15日 (火)

契約期間が通算5年10か月、更新回数7回の労働者の雇止めと労契法19条1号、2号該当性(否定事例)

東京地裁R2.10.1

<事案>
Yと有期労働契約を締結し、雇止めされたXが、XとYの労働契約は労契法19条1号又は2号の要件を満たしており、雇止めも理由がない⇒従前の労働契約の内容で契約が更新された

Yに対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、
雇止め後の賃金及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。

平成24年法律第56号による労契法の改正によって、同一の使用者の下で有期労働契約が更新されて通算契約期間が5年を超える⇒労働者に無期転換申込権が付与される(労契法18条)。
but
平成25年4月1日以降新たに締結又は更新された有期労働契約から通算期間の算定が始まる⇒Xは労契法18条の要件に該当せず。

<争点>
①労契法19条1号又は2号該当性
②雇止めの合理的な理由及び社会通念上相当性の有無

<規定>
労契法 第一九条(有期労働契約の更新等)

有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。

一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。

二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

<判断>
●労契法19条1号該当性
XとYとの間の労働契約の契約期間は通算5年10か月、更新回数は7回に及ぶ
but
毎回、必ず契約書が作成されており、契約日の前に、Yの管理職がXの面前で契約書を読み上げて契約の意思を確認するという手続を取っており、更新処理が形骸化していたとはいえない。

いずれかから格別の意思表示がなければ当然更新されるべき労働契約を締結する意思であったと認められる場合には当たらない⇒労契法19条1号該当性を否定。

●労契法19条2号該当性
◎ 不更新条項の位置づけ:
契約書に不更新条項が記載され、これに対する同意が更新の条件となっている場合には、労働者としては署名を拒否して直ちに契約関係をを終了させるか、署名して次期の期間満了時に契約関係を終了させるかの二者択一を迫られる⇒労働者が不更新条項を含む契約書に署名押印する行為は、労働者の自由な意思に基づくものか一般的に疑問がある⇒同行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する場合でない限り、更新に対する合理的な期待の放棄がされたと認めるべき。

本件では、Yが不更新条項の法的効果について説明したことを認めるに足りる証拠はなく、Xが不更新条項に異議を留めるメールを送っている
⇒前記の合理的理由が客観的に存在するとはいえず、合理的な期待の放棄は認められない。
⇒不更新条項の存在は、Xの雇用継続の期待の合理性を判断するための事情の1つにとどまる。

◎ ・・・Yが前記業務を受注できずB事業所を閉鎖して撤退するに至ったため、6回目の契約更新の前に、XがYの管理職から、YがZ社の商品配送業務を失注しB事業所を閉鎖する見込みとなり、次期契約期間満了後の雇用契約がないことについて、個人面談を含めた複数回の説明を受け、Yに代わりZ社の業務を受注した後継業者への移籍ができることなどを説明され、契約書にも不更新条項が設けられた⇒6回目の契約更新時時点においては、それまでの契約期間通算5年1か月、5回の更新がされたことによって生じるべき更新の合理的期間は、打ち消されてしまった。
7回目の契約更新時も・・・合理的な期待が生じる余地はなかった。
⇒7回目の契約更新の期間満了時において、Xが、Yとの有期労働契約が更新されるものと期待したとしても、その期待について合理的な理由があるとは認められない⇒労契法19条2号該当性を否定。

<解説>
有期労働契約が更新される過程で不更新条項が付加された場合、それまでに生じていた雇用継続への合理的期待が放棄されたことにならないか?
本件は、最高裁H28.2.3を引用して、労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する場合に限り、更新への合理的な期待の放棄がされたと認めるべきであるとした上で、本件ではこれを否定
but
不更新条項が契約更新の期待の合理性を判断するための事情とすることは否定しておらず、
①契約書に記載されたXの担当業務がなくなったこと、
②YのXに対する説明内容、
③不更新条項の存在など
⇒Xの契約更新に対する合理的期待は打ち消された旨判断し、労契法19条2号該当性を否定。

判例時報2502

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2022年2月 3日 (木)

消極的な合意に至ることが期待できなかった口外禁止条項を付した労働審判の違法性

長崎地裁R2.12.1

<事案>
労働審判手続を申し立てたXが、労働審判委員会のした労働審判に、Xの拒否する口外禁止条項が付されたことにより、精神的損害が生じた⇒Y(国)に対し、国賠証1条1項に基づき、慰謝料等の支払を求めた。

<解説>
●国賠法上の違法性に係る判断枠組み
裁判官がした争訟の裁判に訴訟法上の救済方法によって是正されるべき瑕疵が存在した場合において、国賠法上の違法が認められるか否かについて、
当該裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情があることを必要とする(最高裁昭和57.3.12)。
労働審判に係る国賠法上の違法性判断についても、労働審判手続に対する不服は異議により是正されるべきであることなどを理由に、前掲最高裁の枠組みを用いた裁判例(大阪地裁H25.11.26)
本判決も同様。

●労働審判の適法性に係る判断枠組み
労働審判は、審理の結果認められる当事者間の権利関係及び労働審判手続の経過を踏まえてされるもの(労審法20条1項)、事案の解決のために相当であることが要求されている(同条2項)⇒一般的には「相当性」という基準によりその限界が判断される。

当該「相当性」を欠く審判:
・権利関係との合理的関連性を欠くもの
・手続の経過を踏まえていないもの(ex.当事者の意思に明確に反するなど受容可能性がおよそ認められないもの)

<判断>
口外禁止条項を定めることについての合理的関連性を認めた上で、
本件においては受容可能性がない
⇒労審法20条1項及び2項違反を肯定
but
本件審判に違法又は不当な目的があったと認めることはできない
⇒国賠法上の違法性は認められない。

Xの受容可能性を否定し、口外禁止条項を付した労働審判の違法性を認めた。
but
調停による解決はできないとしても、労働審判委員会による労働審判に対して異議申立てまではしないという意味での消極的合意に至る可能性もあり得る

口外禁止条項も含めてこのような消極的合意さえも期待できないか否かを慎重に判断すべき。

<解説>
口外禁止条項を付した審判が違法であるとしても、その有効性に影響を及ぼすか否かについては、本判決が判断するところではない。
口外禁止条項を付した審判に承服できない⇒まずは異議申立てをすることが必要。

判例時報2500

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保育士の自殺と因果関係・安全配慮義務違反

長崎地裁R3.1.19

<事案>
亡Aは、社会福祉法人であるYが経営する保育園(本件保育園)に保育士として勤務⇒平成29年6月下旬頃に自殺。
亡Aの相続人であるXらが(X1~X3)が、亡Aは、虐待騒動によって業務上強度の心理的負荷を受けてうつ病に発症し、その後も虐待騒動の中心となった保護者の子が在籍するクラスの主担任を務めた⇒うつ病が増悪し、自殺

Yに対し、 安全配慮義務違反の債務不履行又は不法行為に基づき、損害賠償を求めた。

<争点>
①亡Aの自殺と業務との因果関係
② 安全配慮義務違反の有無

<判断>
●争点①
①一連の虐待騒動は亡Aを含む保育士らに強い心理的負荷を与えるものであり、亡Aは、その直後にこれに起因してうつ病を発症した。
②虐待騒動の影響やこれに関連する心理的負荷は平成29年6月まで持続し、これに、経験豊富な保育士が相次いで退職して経験の浅い保育士に入れ替わったことなどによる負荷が加わったことにより、うつ病が増悪して自殺するに至った。

亡Aの自殺と業務との因果関係を肯定。

●争点②
亡Aが虐待騒動により強い心理的負荷を受け、心身に変調をきたしていたことや、
その後も虐待騒動に関連する心理的負荷が継続し、前記の保育士の入れ替わり等に伴う業務負担の増加などによっても心理的負荷を受け、平成29年5月以降には体調が悪化していたことは、
Yにおいても認識していたか、容易に認識し得た

亡Aが心理的負荷の蓄積により心身の健康を損ない、ひいては自殺等の重大な結果が発生するおそれがあることを予見可能であった。

Yの講じた安全配慮措置は十分なものとはいえず、Yは、亡Aの心身の健康状態に留意し、心理的負荷が過度に蓄積して心身の健康に変調をきたすことがないように注意すべき義務に違反。

●亡Aのうつ病の症状の持続、増悪には、虐待騒動後に個人面談やカウンセリングが実施されたにもかかわらず、亡Aが心身の不調を訴えて業務負担の軽減を申し出ることをしなかったことや、次女(X3)の部活動への関与による身体的負荷などが一定程度影響した
⇒民法418条、722条2項を趣旨を類推して3割の減額。

<解説>
使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないように注意する義務を負う(最高裁H12.3.24)。

本件の特徴:
労働者に強い心理的負荷を与えたと認定された出来事(虐待騒動)と自殺との間に、1年以上の時間的感覚がある。
but
争点①について:
①亡Aが虐待騒動後に虐待を訴えた保護者や同調していた保護者の子らが在籍するクラスを担当することになり同僚等に愚痴や不満をこぼしていた
②本件保育園において平成29年度以降も虐待を疑われないよう細心の注意を払う状態が継続していた

虐待騒動による心理的負荷は亡Aが自殺した平成29年6月まで持続しており、これがうつ病の発症から自殺に至るまでの大きな要因となった。

争点②について:
・・・・
精神障害の症状の寛解・増悪の経過は様々であって一旦寛解した場合にも再度増悪することがあり得る⇒心理的負荷の要因となった出来事や精神障害の発症から自殺までの間に時間的間隔があることは直ちに予見可能性を否定するものではない。

判例時報2500

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5年を超えての不更新条項のある有期雇用契約での雇止めと雇用継続の合理的期待

横浜地裁R3.3.30

<事案>
Xは、平成24年9月から、派遣社員として、自動車運送等を業とするYのA支店の管轄に属するB配送センターにおいて就労を開始し、平成25年6月、Yとの間で、配送センター事務を行う事務員として雇用期間を1年とする有期雇用契約を締結
雇用契約書には、雇用契約開始日から通算して5年を超えて更新することはない旨が記載(不更新条項)
XとYは、4回にわたり契約を更新、Yは、当初の雇用契約から5年の期間満了に当たる平成30年6月30日付けで原告を雇止めした(本件雇止め)。

<請求>
X:
本件雇止めについて、
①不更新条項は労契法18条の無期転換申込権を回避しようとするもので無効であり、Xに雇用継続の合理的期待があった
②本件雇止めには客観的合理性が認められない

Yに対し、
①雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、
②同契約に基づく賃金請求権に基づき、本件雇止め後の月額賃金等の支払
を求めた。

<判断>

①XとYとの間で締結された雇用契約に至る経緯、
②4回にわたる雇用契約更新の経緯
③更新拒絶に至るやり取り
等を詳細に事実認定し、

①本件においては、、通常は労働者において未だ更新に対する合理的期待が形成される以前である雇用契約当初から、更新上限があることが明確に示され、原告もそれを認識の上で雇用契約を締結しており、その後も更新に係る条件には特段の変更もなく更新が重ねられ、4回目の更新時に、当初から更新上限として予定されたとおりに更新しないものとされた
②原告の業務はある程度長期的な継続は見込まれるものであるとしても、原告の業務内容自体は高度なものではなく代替可能⇒恒常的とまではいえないもの
③B配送センターにおいて5年を超えて10年以上就労していた他の有期雇用労働者は原告とは契約条件の異なる者であった
④その他、YのA支店において不更新条項が約条通りに運用されていない実情はうかがわれない

Xに、雇用契約締結から雇用期間が満了した平成30年6月までの間に、更新に対する合理的な期待を生じさせる事情があったとは認め難い。
・・・・
Xの主張を排斥。

● X:不更新条項は労契法18条の適用を免れる目的で設けられたものであり、公序良俗に反し無効。
vs.
労契法18条は、有期契約の利用自体は許容しつつ、5年を超えたときに有期雇用契約を無期雇用契約へ移行させることで有期契約の濫用的利用を抑制し、もって労働者の雇用の安定を図る趣旨の規定

使用者が5年を超えて労働者を雇用する意図がない場合に、当初から更新上限を定めることが直ちに違法に当たるものではなく5年到来の直前に、有期契約労働者を使用する経営理念を示さないまま、次期更新時で雇止めをするような、無期転換阻止のみを狙ったものとしかいい難い不自然な態様で行われる雇止めが行われた場合であれば格別有期雇用の管理に関し、労働協約には至らずとも労使協議を経た一定の社内ルールを定めて、これに従って契約締結当初より5年を超えないことを契約条件としている本件の雇用契約について、労契法18条の潜脱に当たるとはいえない。

<解説>
契約更新時に不更新条項が付された場合、それまでの雇用期間を通じて雇用継続に対する合理的期待が生じていることがある⇒不更新条項をもってこれを事後的に労働者に放棄させ、又は使用者と労働者の合意を通じて消滅させたといえるか問題となるケースがある。

判例時報2501

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2021年12月26日 (日)

労働条件の相違と労契法20条(最高裁)

最高裁R2.10.15

<事案>
Y(日本郵便㈱)との期間の定めのある労働契約(「有期労働契約」)を締結して勤務し、又は勤務していた時給制契約社員又は月給制契約社員であり、郵便の業務を担当していたXらが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者とXらとの間で、種々の労働条件に相違があったことは労契法20条違反⇒Yに対し、不法行為に基づき、損害賠償請求を求めるなどの請求をした事案。

<解説・判断>
● 最高裁H30.6.1(ハマキョウレックス事件):
労契法20条にいう「不合理と認められるもの」とは、
有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることを意味する。

最高裁H30.6.1(長澤運輸事件):
有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が労契法20条にいう不合理と認められるものに当たるか否かを判断するに当たっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべき。

賃金項目ごとにその趣旨を異にするのが通常であり、当該賃金項目の趣旨により、前記の判断に当たって考慮すべき事情等が異なることを理由に、前記のように解するのが相当
賃金以外の労働条件の相違についても、同様に個々の労働条件の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当。

私傷病による病気休暇(②事件判決)、扶養手当(③事件判決)について、
「継続的な雇用を確保するという目的」を有するとし、
継続的な勤務が見込まれる労働者に当該労働条件を適用することが、使用者の経営判断として尊重し得る。
本件契約社員は「相応に継続的な勤務が見込まれている」⇒当該労働条件の相違が労契法20条にいう不合理と認められるものに当たる。

前記の労働条件が一般に労働者の生活保障や福利厚生の趣旨を有し、当該労働条件を適用することにより労働者の継続的な雇用を期待し得るものといえる
⇒使用者において、長期雇用を前提とする労働者のみに適用するという制度設計をすることが一概に不合理とはいえない。
but
有期契約労働者であるからといって直ちに継続的な勤務をすることが期待されていないというものではなく、相応に継続的な勤務が見込まれ、継続的な勤務が期待される有期契約労働者に対して当該労働条件を適用しないとすれば、この点に関する無期契約労働者との間の相違は不合理と評価することができる

②事件、③事件:
Yにおける本件契約社員について継続的な勤務が期待される

契約期間が6か月いない(又は1年以内)とされており、Xらのように有期労働契約の更新を繰り返して勤務する者が存するなど、相応に継続的な勤務が見込まれているといえる。
but
一般的には、「相応に継続的な勤務が見込まれているといえる」かどうかは、事案ごとの個別事情に即して検討。
当該雇用管理の区分における有期契約労働者の契約期間
有期労働契約の更新に係る就業規則の定め等の内容
当該使用者における人員計画の内容
有期労働契約の更新を希望するものにつき実際に契約が更新される割合
通算して勤務する期間の平均値や中央値
等の様々な事情に照らして判断。

夏期冬季休暇(①事件)、年始期間(②事件)における祝日休について、
それぞれの趣旨について述べた上で、
本件契約社員は「繁忙期に限定された短期間の勤務ではなく、業務の繁閑に関わらない勤務が見込まれている」⇒当該労働条件の相違が労契法20条にいう不合理と認められるものに当たる

前記の各労働条件が、ごく短期間の勤務が見込まれる労働者に対して適用することが予定されるものとはいい難い一方で、
それ以外の労働者であればその趣旨は妥当するものと考えられる
業務の繁閑に関わらない勤務が見込まれている有期契約労働者に対して当該労働条件を適用しないとすれば、無期契約労働者との間の相違は不合理と評価することができるとの理解を示したもの。

本件契約社員が、その契約期間hが6か月以内又は1年以内とされている⇒業務の繁閑に関わらない勤務が見込まれているとされたもの。

年末年始勤務手当(②事件、③事件)
勤務の継続性に言及することなく、当該労働条件の相違が労契法20条にいう不合理と認められるものにあたる。

その支給要件や支給金額からんみて、労働の対価の趣旨が強いものといえ、継続的な勤務が見込まれるかどうかによってその支給の有無を分けることが相当でないとの理解。

● 短時間・有期雇用労働法8条

判例時報2494

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2021年12月20日 (月)

じん肺管理区分3ロ⇒10年以上療養⇒慢性呼吸不全急性増悪(Ⅱ型)で死亡した場合の業務起因性(肯定)

福岡高裁R2.9.29

<事案>
Aは、38年間、セメント製造等の粉じん作業に従事した後、じん肺を発症。
平成13年8月24日に、じん肺法に基づく管理区分が「管理3ロ」であるけい肺及び続発性気管支炎(「本件疾病」)を傷病の部位及び状態とする療養補償年金を支給する旨の決定⇒Aは、定期的に検査等を受けながら療養を継続⇒平成27年1月に、じん肺症、感染増悪等で入院し、同年3月19日に死亡。

死亡診断書の直接死因は「慢性呼吸不全急性増悪(Ⅱ型)」とされ、その原因は「じん肺症」とされた。

Aの妻であるXが、Aの死亡は業務上の疾病である本件疾病によるものであると主張⇒労災法に基づき遺族補償年金及び葬祭料の支給を求めた⇒処分行政庁が本件疾病と死亡との間に相当因果関係がないとして不支給決定⇒Y(国)に対して当該処分の取消しを求めた。

<争点>
本件疾病とAの死亡との間に相当因果関係(業務起因性)が認められるか否か。

<判断>
Aの直接死因は慢性呼吸器不全急性増悪(Ⅱ型)であるところ、本件疾病による肺気腫及び呼吸機能を含む全身状態の悪化が相まって前記直接死因の原因となった可能性が高い。
他に有力な原因がない限り、本件疾病とAの死亡との間に相当因果関係があると認められるというべき。

Y:Aには本件疾病以外に左心不全、誤嚥性肺炎、腎不全及び低アルビミン血症といった疾病が死因原因としてあり得る。
vs.
左心不全及び腎不全については、いずれもAの死亡の原因となるほど重篤なものではない。
誤嚥性肺炎及び低アルブミン血症については、本件疾病の危険性として内在するものであり本件疾病と別個独立した死因原因ということはできない。

本件疾病とAの死因との間の相当因果関係を認めて、Xの請求を認容。

誤嚥性肺炎については、
Aの肺機能障害の直接の原因であった可能性が高く、直接死因である慢性呼吸不全急性増悪(Ⅱ型)発症の直接の原因となっている可能性がある。
but
長期間にわたる本件疾病が嚥下力を含むAの全身症状を悪化させるものであって、本件疾病による易感染症も考慮すれば、誤嚥性肺炎を繰り返し発症させ、重症化させた原因は本件疾病であるというべき。
こうした長期の療養過程における本件疾病と誤嚥性肺炎との関係
誤嚥性肺炎を本件疾病から独立した死因原因として位置づけられるべきではない。

<解説>
相当因果関係
当該傷病等な当該業務に内在する危険の現実化として発生したと認められるか否かによって判断するのが相当。

複数の原因が競合して疾病を発症させた場合:
「業務に内在する危険の現実化」の有無は、業務上の有害因子による疾病の発症への寄与がどの程度大きければ当該疾病が「業務に内在する危険の現実化」として発症したと認められるかを基準に判断。

〇A:相対的有力原因説:業務が、傷病等の発生という結果に対し、他の原因と比較して、相対的に有力な原因となっている関係が認められることが必要

B:共働原因説:業務の遂行が他の事由と共働の原因となって、傷病等の発生という結果を招いたと認められれば足りる。
vs.
共働原因説が、業務が疾病の発症に有力に寄与したことを必要とせず、何らかの寄与をしたことをもって足りるとするのであれば、条件関係の存在のみで因果関係を認めたに等しいことになりかねず、危険責任の法理の趣旨にそぐわない。

危険責任の法理⇒業務に内在する危険の現実化を労災補償の根拠とする⇒Aが相当。

裁判例。

判例時報2497

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