労働

2018年9月14日 (金)

労働者の自殺の業務起因性(肯定)

大阪高裁H29.9.29      
 
<事案>
A(当時24歳の男性)は、高速道路の巡回、管制、取締等交通管理業務を行うことを主な事業内容とする本件会社に勤務し巡回等の業務に従事。
平成24年5月25日から26日にかけての本件夜勤に従事した後、同月28日自殺。 
 
<争点>
労働者Aの死亡の業務起因性
①Aが本件自殺の直前頃うつ病を発症したか
②同うつ病は業務に起因して発症したか 
 
<解説>
厚生労働省は、平成23年12月、労働基準監督署長が精神障害の業務起因性を判断するための基準として「心理的負荷による精神障害の認定基準」(「認定基準」)を策定。 
認定基準は、
対象疾病を発病していること
対象疾病の発病前おおむね6カ月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと
のいずれの要件も満たす対象疾病について、業務上の疾病として取り扱うこととしている。
 
<一審>
出来事②は『嫌がらせ、いじめを受けた場合』に該当するとはいえない。
出来事③、⑦~⑩の各出来事について、それぞれ、客観的にみて精神障害を発症させるに足りる程度に強度の心理的負荷があったとまでは認められない

当該業務と本件疾病(うつ病)発症との間に相当因果関係があると認めることはできない。
 
<判断>
労働者が発症した疾病等について、業務起因性を肯定するためには、業務と前記疾病等との間に相当因果関係のあることが必要であると解されている(最高裁昭和51.11.12)。

本件の事実関係を、因果関係の有無に関する、ルンバール事件等の判例法理の見地に立って総合検討
すると、Aは、本件各出来事による心理的負荷によって、本件自殺の直前頃、うつ病を発症したことを推認することができる。
 
<解説> 
本判決は、うつ病の発症につき業務起因性を判断するに当たって、
「認定基準所定の各認定要件を満たしているかどうかを判断基準として、因果関係の有無を判断する」という判断手法をとるのではなく、
ルンバール事件等の判例法理と同様、
間接事実(因果関係のの有無に関わる間接事実)の総合検討を行って、因果関係の有無の判断
を行った。 

判例時報2372

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2018年8月28日 (火)

パワーハラスメント⇒うつ病で不法行為責任と会社の使用者責任(肯定)

名古屋地裁H29.12.5      
 
<事案>
建築事業等を営む株式会社であるY1の従業員であったXが、Y1らにおけるXの上司であったY2からいわゆるパワーハラスメント行為を受けてうつ病となり、退職を余儀なくされたなどと主張

不法行為等に基づく損害賠償として慰謝料等合計750万円余の支払を求めた事案。 

Xは、平成24年10月にY1に入社し、支店の営業職として勤務。
平成25年2月以降、上司となったY2から指導、教育を受けるようになった。
Xは、平成26年6月、うつ病のため就労が困難、2か月間の仕事の休養及び自宅での療養加療が必要であると診断され出社しなくなり、同年10月末をもってY1を退職
 
<労基署>
Xが平成26年4月頃に「F32うつ病エピソード」を発症していたと推測される
⇒その発症前おおむね6カ月の間に、
「ひどい嫌がらせやいじめ、又は暴行を受けた」
「達成困難なノルマが課せられた」
全体評価として心理的強度の負荷は「強」であったと判断し、業務起因性を肯定。 
 
<判断>
Y2のパワハラとされる言動について、Xの主張とおおむね同旨の事実を認定。
これらは、Xに対するいやがらせ、いじめ、あるいは過大な要求と捉えざるを得ないものであって、強度の心理的負担をXに与えたものであり、これによりXはうつ病を発症
⇒Y2の前記言動は不法行為を構成。

Y1:
パワハラの予防、パワハラの発生後の対応について、一定の措置を講じていたとはいえる
but
①本件以前からY2には他の従業員に対する威圧的言動が時にみられたのに指導をした形跡がない
②本件におけるY2の言動が継続している期間中に、X以外の従業員が相談窓口に連絡した形跡もなく、支店への抜き打ち調査等でも前記言動は把握されないまま数か月にわたってY2の言動が継続していた

Y1は使用者としてY2の選任監督につき相当の注意をしたとはいえない
⇒使用者責任を肯定

判例時報2371

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2018年8月27日 (月)

退職強要ハラスメント等の事案

東京高裁H29.10.18      
 
<事案>
Y1(会社)の従業員であったX1ないしX4が、Y1とその代表者Y2に対し、次の請求を行なった。
① Xらは在職中にY2から退職を強要するハラスメントを受けたと主張し、Y2に対し不法行為に基づき、Y1に対し会社法350条に基づきそれぞれ慰謝料等330万円等
②X1及びX2は、退職直前の夏季賞与の減額分が無効であると主張し、Y1に対し減額分等
③Xらは、いずれも退職願を提出し、会社都合退職に基づく係数によって算定された退職金との差額分が支給されていないと主張し、Y1に対し差額分等
④X2は、同人が受けた降格の懲戒処分が無効であると主張し、Y1に対し同処分により減額された賃金相当額等
の支払を求めた。
 
<争点>
①Y2がXらに対し退職を強要するハラスメントをしたかどうか
②Y1による夏季賞与の減額が無効か
③Xらの退職は自己都合退職か会社都合退職か
④X2に対する降格の懲戒処分が無効か
 
<規定>
労働契約法 第15条(懲戒)
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
 
<原審>
一部認容 
 
<判断>
●原審の認容部分に加え、
①のX1・X3・X4の慰謝料を増額し
③のX1・X3・X4の退職金支払請求を認容
 
●④について:
降格の懲戒処分は、
実体面において処分の前提事実を欠き、就業規則の懲戒事由該当性の判断を誤るものであるとともに、
手続面においても、就業規則及びこれに基づく賞罰規定に違反するもので著しく不公正。 

降格処分は、
客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められない
無効
 
●②について:
Y1は賃金規定において賞与の支給方法は別に定めると規定し、年度当初に賞与支払基準を決めていたが、
その支払基準は従業員の評点を含む
⇒その部分は会社の裁量に委ねられている。
but
評定について裁量権の逸脱濫用があれば査定は無効。

減額の理由とされた責任があるとは認められず、減額の査定部分は裁量権の逸脱濫用があって無効
 
●①について:
X2に対し賞与を正当な理由なしに減額し、無効な降格処分を行うなどしており、退職を強要するものであって、違法な行為。 

X1について:
X2が正当な理由がない懲戒処分を受けることを認識し、自身も正当な理由なく賞与を減額されている
一連の行為が退職を強要するもの

X3・X4について:
降格の懲戒処分、賞与の減額査定を受けていない
but
Xら女性4名のみの職場において、X1・X2に対しハラスメントの違法行為があり、その内容が同年代の女性に対する退職勧奨行為
X3・X4にも退職勧奨行為がされているものと当然に理解される
同人らに対する違法行為でもある。
 
●③について:
退職強要行為により退職を余儀なくされた⇒会社都合退職と同視でき、退職金規程の会社都合退職に当たる。 
 
<解説>
●争点④(降格の懲戒処分の有効性) 
降格は懲戒処分の1つ。
懲戒処分(労契法15条)の有効要件
懲戒処分の根拠規定の存在
懲戒事由への該当性
相当性
 
●争点②(賞与減額の有効性) 
賞与の請求権:
就業規則によって保障されているわけではなく、
各時期の賞与につき労使の交渉又は使用者の決定により算定基準・方法が定まり、算定に必要な成績査定もなされて初めて発生。
but
算定基準・方法が規定ないし決定
⇒それらに従って成績査定を実施するように請求できるし、
査定を行わない場合には当該労働者にとって確実に得られるはずの査定点による請求もすることができる。

 
●争点①(退職勧奨による不法行為の成否) 
職場のパワーハラスメントの行為類型:
①暴行・傷害(身体的な攻撃
②脅迫、名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃
③隔離・仲間はずし・無視(人間関係からの切り離し
④職務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求
⑤業務上の合理性がなく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じられることや仕事を与えないこと(過小な要求
⑥私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害
が挙げられる。

社会的相当性を逸脱した態様での半強制的ないし執拗な退職勧奨行為は不法行為を構成し、当該労働者に対する損害賠償責任が生じる
懲戒権の濫用と評価される場合も、処分の無効に加えて、使用者(および責任者)の不法行為(民法709条)を成立させることがある
 
●争点③(会社都合退職の成否) 
退職金請求事件において、退職金規程が退職事由において異なる支給率を定めている場合の退職事由の主張の要否:
自己に有利な加減額事由は、この適用を主張する側が主張立証。
当該退職が退職金支給規程の自己都合か会社都合かの判断:
就業規則に規定があればこれによる。

特段の定めがない場合:
退職に至る主たる原因が労働者側の事情やその主観的意思によるのか、
会社側の経営上の必要や会社側の違法行為が大きいのか
により、

会社の違法な行為により退職を余儀なくされた⇒会社都合と同視

判例時報2371

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2018年8月 2日 (木)

告発等を行った私立小学校の教頭の普通解雇(肯定)

東京高裁H28.12.7      
 
<事案>
Y4は、X1には、
パワーハラスメントを受けたとの虚偽の事実を述べて慰謝料請求をしたこと(解雇事由1
不当な目的で本件告発を行い、Y4及びY1の名誉と信用を毀損したこと(解雇事由2
小中高一貫教育を掲げるY4の方針に公然と反対し、多数の教員に虚偽の事実を述べてY4及びY1の名誉と信用を毀損したこと(解雇事由3
等の解雇事由がある
⇒X1を主位的に懲戒解雇し、予備的に普通解雇した。

X1は、Y4に対し、本件解雇は無効であるとして、本件小学校の教頭としての地位の確認を求めるとともに、
Y1ないしY3に対し、本件告発等に対する報復行為として本家解雇その他嫌がらせを行った共同不法行為に基づく損害賠償を求めて本件訴訟を提起。
 
<原審>
本件解雇は解雇事由が存在しない又は解雇権を濫用するもので無効
⇒X1が雇用契約上の地位にあることを確認するとともい、未払賃金の支払を認めた。
but
X1の損害賠償請求は棄却。
   
Y4が控訴
X1も、原審敗訴部分の取消し及び賞与相当額の支払等を追加して控訴。
 
<判断> 
懲戒解雇としては無効であるが、普通解雇としては有効
⇒X1の地位確認請求及び未払賃金請求を棄却。
 
●解雇事由1:
面談に同席することは本件小学校の教頭としての職責に属する行為であり、
X1は、自らが希望する形での業務監査にY4が応じることを条件に面談に同席すると述べて同席を拒んだ上、最終的には自らの意思で面談に同席
客観的にパワーハラスメントにあたると評価しうる状況ではなかった

X1が謝罪及び慰謝料200万円を請求したことは、事実の評価を曲げて自らの主張を通そうとするものであって、普通解雇事由に該当

●解雇事由2:
本件告発は監督権限を有する県に対し(私立学校振興助成法を参照)、財務状況の調査に加え、横領・背任等の刑罰法令に違反する行為があるとして、Y1及びY2を理事から解職することを求めるもの
Y1及びY2の名誉を傷つけるのみならず、Y4の信用を害し、業務に支障を生じさせるおそれがある
根拠なく誤った告発を行うことは、Y4の定める普通解雇事由に該当

Y4において財務状況の悪化の懸念を裏付ける一応の状況があり、県によりサッカースクールとの業務委託契約の見直し等の指導
but
本件告発は、いずれも横領・背任等の刑事法令に違反するものとは認められず、根拠は薄弱で、容易に確認できる事項の確認もなされていない(ex.X1は、Y4から財務諸表の分析の機会を与えられながらこれを行っていない)
X1の本件告発は普通解雇事由に該当する。

●解雇事由3:
X1は十分な調査と裏付けのないまま、本件小学校の教員ほぼ全員を一同に集め、 Y1及びY2が刑罰法令に反する行為を行っており、本件小学校の財務状況が極めて悪化しているとの虚偽の事実を指摘して、本件小学校を独立採算制とするという、小中高一貫教育を行っているY4の経営方針の根幹に触れる持論を展開
普通解雇事由に該当
 
解雇事由1ないし3に基づく解雇が社会通念上相当性を欠くとはいえない
 
<解説> 
解雇の合理性及び相当性に加え、公益通報法3条によって解雇が無効となるかも争点とされた。
公益通報法3条は、通報が不正な目的でない限り、公益通報をしたことを理由として行った解雇を無効としている。
but
その要件は通報先によって異なっている。
労務提供先等に対する通報:通報対象事実が生じたと思料すれば足りる
権限を有する行政機関に対する通報:通報対象事実が生じたと信ずるに足りる相当の理由を必要
その他の外部通報先への通報:さらに具体的な用件。

通報対象事実が生じたと「信ずるに足りる相当の理由」
単なる憶測や伝聞等ではなく、通報内容を裏付ける内部資料等がある場合や関係者による供述がある場合をいい、
通報者は労働者として通常知りうる範囲内で、これらの要件を立証する責任を負う

本判決:
X1の本件告発は、薄弱な根拠に基づき、容易に可能な裏付け調査すら行わないまま行われたものであり、
通報対象事実である横領又は背任の事実が生じたと信ずるに足りる相当の理由があったとは認められない

公益通報法3条2号の適用を否定

判例時報2369

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2018年7月29日 (日)

川崎市過労交通事故死訴訟和解勧告決定

横浜地裁川崎支部H30.2.8       
 
<事案>
亡Aの両親のXらが、本件事故は、Yが亡Aに不規則で過重な労働をさせた上、21時間以上の徹夜の労働に従事させたために極度の疲労と睡眠不足の状態となり居眠り等が原因となって生じたと主張

Yは亡Aに対して過重な業務に従事させ、業務が深夜早朝に及ぶ場合は原付バイクで通勤せざるを得ないことを認識し、徹夜の業務を終え原付バイクで帰宅中に本件事故が生じることを予想することができた
⇒亡Aの業務の軽減を図る措置を講ずるなどして本件事故を回避すべき安全配慮義務に違反⇒債務不履行又は不法行為に基づき亡Aの死亡による損害金合計約9910万円及び遅延損害金の支払を求めた。
 
<判断>
亡Aの労働の状況と本件事故当時の心身の状況 
①従事していた仕事内容
②過労による労働者の心身の健康に対する影響に関し、厚生労働省労働基準局長通達に係る「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準」を参照し、
亡Aが従事していた業務と本件事故発生との時間的関連性を見ると、
(i)本件事故の日(前日の出勤時から当日の退勤時まで、21時間42分間の拘束時間)
(ii)本件事故以前10日間の短期間(拘束時間1日平均13時間51分、最大23時間)
(iii)本件事故以前1か月間(時間外労働時間91時間49分)、2か月間(時間外労働時間平均約78時間38分)及び6か月間(同約63時間20分)
の各期間のいずれにおいても、心身に対する負荷が顕著に高く、
深夜及び早朝の勤務を含む不規則で、過重な業務に従事し、
本件事故の日の前月である平成26年3月の1か月間で見ると、
労使協定(36協定)に違反する1か月30時間を超え1か月約67時間35分となる労働に従事

亡Aは、
入社以来、継続して、心身に対する負荷が顕著に高く、深夜及び早朝の勤務を含む、不規則で長時間にわたる過重な業務に従事していたのに加え、
本件事故の日の前日の4月23日午前11時06分から21時間42分にわたり、夜通しで、かつ、心身に対する負荷が顕著に高い特に過重な業務に従事
していたため、
疲労が過度に蓄積し、顕著な睡眠不足の状態に陥っていた
 
本件事故と過重な労働との間の因果関係(業務起因性)
①事故態様
②実況見分により原付バイクのハンドル、ブレーキの故障は何ら認められていない
③過労運転の危険に係る公知の事実(道交法65条、75条参照)

本件事故は、亡Aが、疲労が過度に蓄積し、顕著な睡眠不足の状態にあり、原付バイクの運転中にこの心身の状態に起因して居眠り状態に陥って運転操作を誤って生じた蓋然性が高く、
この他に原因があるとの疑いを差し挟ませる特段の事情は認められない


前記の過重な労働と本件事故との間の因果関係(業務起因性)が認められる
 
●被告の安全配慮義務違反 
①使用者の指揮命令により労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険があること
②労働者がこのようにして、心労や心理的負荷等が過度に蓄積したり、極度の睡眠不足の状態に陥ると、自動車や原付バイクの正常な運転ができないおそれがあること
③この自動車等の場合と同様に、安全な運転を要する機械等の正常な運転ができないおそれがあるから、労働者がこの心身の状態に起因して、使用者の指揮管理する勤務時間及び勤務場所において、社用車や機械等の運転操作を誤ったり、深夜や早朝の業務の終了後に使用者が指示又は容認する自社の運転による帰宅の途中など、使用者の指揮管理する勤務時間及び勤務場所に隣接する時間及び場所において、自車の運転操作を誤るなどして、労働者の生命・身体を害する事故が生じる危険のあること
は周知。

使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務やそのための通勤の方法等の業務遂行の内容及び態様等を定めてこれを指揮管理するに際し、
業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積したり、極度の睡眠不足の状態に陥るなどして、労働者の心身の健康を損ない、
あるいは労働者の生命・身体を害する事故が生じることのないように注意する義務(安全配慮義務)を負う

①亡Aの業務を指揮命令していた被告又は亡Aの上司は、亡Aの前記の深夜及び早朝における作業を含む不規則で過重な業務内容、長時間にわたる労働時間及びこれらの継続の状況を具体的に把握
②亡Aに対して深夜及び早朝の就労により公共交通機関の利用ができない場合の交通手段として原付バイクによる通勤を明示して指示しており、原付バイクによる通勤の方法を禁止せずこれを利用し、これを容認⇒深夜及び早朝の業務終了後という被告の指揮管理する勤務時間及び勤務場所に密接する時間及び場所において亡Aが原付バイクに乗って帰宅することがあることを認識

被告の雇用する労働者である亡Aに従事させる業務やそのための通勤の方法等の業務遂行の内容及び態様等を定めてこれを指揮管理するに当たり、亡Aの業務の負担を軽減させるための措置を講じたり、適切な通勤の方法等を指示するなどして、亡Aが過度の疲労状態や顕著な睡眠不足の状態に陥り、心身の健康を害したり、生命・身体を害する事故が生じることを回避すべき義務を負っていた
but
・・・・前記の回避義務に違反した。

・・・・
 
<規定> 
労契法 第5条(労働者の安全への配慮)
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
 
<解説>
●問題の所在と本決定の位置づけ
使用者の安全配慮義務:
業務の遂行によって労働者の心身の健康や生命・身体の安全が損なわれる危険(労働災害)から保護するよう配慮すべき義務。(労契法5条)

過重労働と通勤中の事故死との間の因果関係(業務起因性)の認定の仕方 
◎ 業務災害における保険給付に係る業務起因性の認定に関しては、
過労死(脳・心臓疾患)について「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準」
過労自殺(精神障害)について「心理的負荷による精神障害の認定基準」
が厚生労働省労働基準局長通達として発せられており、
業務外認定の取消訴訟においては、
この基準を参考とし、あるいはこれを踏まえつつ、
労働の量のほかに労働の質も考慮して過重性(身体的負荷、心理的負荷)の大小、程度及び当該疾患の発症との時間的関連性の程度等を考慮して、
業務起因性(相当因果関係)の有無が判断。

「過労自殺」訴訟における安全配慮義務違反の評価の対象となる過重労働の程度の認定評価及びこれと発症・死亡との間の(相当)因果関係(業務起因性)の認定判断も同様。

菅野:
「過労死」訴訟の近年の裁判例の傾向について、
『脳・心臓疾患の業務上認定の基準』において定立されている労働時間基準をこえる長時間労働などの過重な業務への従事が認定使用者において脳・心臓疾患の発症が基礎疾病などの業務外の事由によるものであることを首肯させる特段の事情を証明できないかぎり、業務への従事と発症との相当因果関係が認められ、かつ業務を軽減したりする措置を怠ったものとして健康配慮(注意)義務の違反も肯定される傾向。

脳・心臓疾患については、使用者の損害賠償義務の成否は、業務上認定に近い手法で判定される傾向にある。

◎ 本決定:
亡Aが従事していた業務の質として身体的負荷の高い業務に従事していたことを認定し、これと業務の量(労働時間)を考慮した業務の過重性の程度の評価について、
前記の「過労死(脳・心臓疾患)」の認定基準を参酌して、
本件事故発生との間の時間的関連を考慮した期間における労働状態について認定評価

本件事故当時、不規則かつ過重な業務と夜通しの長時間の業務の遂行によって疲労が過度に蓄積し、顕著な睡眠不足の状態に陥っていたと認定

本決定が同認定の基準を参酌

「過労死事故」の類型では「過労死」の場合と同様に、事故の発生(脳・心臓疾患の発症)に近いほど、過重労働が労働者の心身の健康や睡眠の状態に与える影響が強いことを考慮。

①通常の通勤経路の直線道路を走行していたブレーキ及びハンドル機能ば正常な原付バイクが、制動措置や左右への回避措置などの正常な運転がされないまま、平坦な車道上から斜走を続けて電柱に激突したという本件事故の態様及び本件事故発生の状況
②過労運転の危険の公知ないし周知の事実(道交法65条、75条)

本件事故は、前記の亡Aの心身の状態に起因して居眠り状態となったために原付バイクの正常な運転ができず、運転操作を誤って生じた蓋然性が高く、
この他に原因があるとの疑いを差し挟ませる特段の事情は認められない。

前記の過重業務と本件事故との間の因果関係(業務起因性)を認定。

過労事故死に関する裁判例は、いずれも、
過労運転の危険に係る経験則(公知ないし周知の事実)を前提として、
①被害者の過重業務による事故当時の心身の状態
②事故の態様及び事故発生の状況
③他の原因の存在の可能性に係る事情
を総合して判断。
 
◎最高裁昭和50.10.24:ルンバール事件
ルンバール施術前後の患者の状態の推移等⇒「他に特段の事情が認められない限り」、施術と発作等との間の因果関係を否定するのは経験則に反するとして、
患者の基礎疾患が影響した可能性もあり発作等の原因を判定し難いとして請求を棄却。 

橋本:
「他の原因の不存在との関係における推認」として論じており、
原告主張の原因と相反する(被告主張の)他の原因については、その存在を示す具体的な証拠や特段の事情が存在せず一般的な可能性にとどまるのに対し、
原告主張の原因については、診療経過や患者の症状等に基づいて検討した結果、患者の死傷の原因である具体的な可能性が肯定されれば、
通常人にもっぱら他の原因によるのではないかという合理的な疑いを抱かせない
原告主張の原因を推認すべき
 
◎事故原因として被告が主張する「他の原因」が、別途、過労死の責任原因となる(本件事故時における)「脳・心臓疾患の発症」である場合で、いずれが原因か心証が50%対50%に分かれるような特殊な事例

過重労働と事故の発生の間の因果関係の認定判断として、いわゆる「択一的」認定判断がされ、いずれの原因の場合であっても被告の安全配慮義務違反が認められると判断されることによって、その責任を肯定し得る余地がある。 
 
●「過労死事故死」における使用者の安全配慮義務について 
◎ 「過労自殺」の事例で最高裁H12.3.24(電通事件)は、
民法715条1項所定の使用者責任を肯定するに当たり、
労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところ
⇒使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う。
 
◎ 本件:
「通勤中の事故死」に焦点を合わせた例示

「深夜や早朝の業務の終了後に使用者が指示又は容認する自車の運転による帰宅の途中など、使用者の指揮管理する勤務時間及び勤務場所に密接する時間及び場所において、自車の運転操作を誤るなどして、労働者の生命・身体を害する事故が生じる危険」から保護すべき義務

その具体的内容として、
被告の雇用する労働者である亡Aに従事させる業務やそのための通勤の方法等の業務遂行の内容及び態様等を定めてこれを指揮管理するに当たり、
亡Aの業務の負担を軽減させるための措置を講じたり、適切な通勤の方法等を指示するなどして、亡Aが過度の疲労状態や顕著な睡眠不足の状態に陥り、心身の健康を害したり、生命・身体を害する事故が生じることを回避すべき義務を負っていた。 
 
●過失相殺の規定の適用及び類推適用の当否及び割合の判断の在り方 
◎ 裁判例:
労働者側の過失と使用者側の過失を対比検討して過失相殺の可否及びその割合を決してきている。 

斎藤論文:
労災事故におけるの規定の適用ないし類推適用の当否及びその割合の判断については、損害の公平な負担という観点から考慮する必要がある。

労働者が所与の労働環境の下で業務を遂行するには、労働契約、就業規則、その他使用者の定めた各種業務規定、作業準則等を遵守し、かつ、使用者ないし上司の具体的・個別的な職務命令に従うことを要する。
その過程で事故の自由な判断にまかせられている場面は限られているばかりでなく、基本的に職場環境の維持は使用者の責務であり、これを果たすためには労働者に通常みられる程度の身体的及び精神的能力並びに性格等の個人差を考慮し、当該職場あるいは作業に通常随伴する危険性にあらかじめ対処しておくことが要求される。

これらの諸点を前提とした上で、なお損害の実質的な公平な負担を図るという観点から労働者側に存する個別的要因を考慮すべきか否かを慎重に判断することを要する。

職場環境の維持は使用者側の責務であり、これを怠ったために発生した損害については基本的に使用者がその責めを負うべきものであるから、当該作業ないし職場に通常随伴する危険性の発現として発生した結果についての責任を労働者に転嫁することや、通常みられる程度の能力及び性格等の個人差から生じる結果を殊更に重視することは許されない。
 
◎本決定:
労使の指揮命令関係を考慮した一般的な説示を詳細にし、過労死事故死の場合についても説示⇒公共交通機関を利用せず原付バイクを運転した亡Aの過失を1割に限定する判断を詳しい理由を付して説示。 
 
◎ルンバール事件最判は、
国に公務員に対する安全配慮義務を認める根拠として、
公務員が職務専念義務(国公法101条1項前段)並びに法令及び上司の命令に従うべき義務(同法98条1項)を負い、
国がこれに対応して公務員に対し給与支払義務(同法62条)を負うことを定めていることを挙げている。

労働契約関係における前記の指揮命令関係と基本的に異なることがない。 
 
◎電通事件最判:
原判決が肯定した過失相殺の規定の適用ないし類推適用の当否に関し、
①企業等に雇用される労働者の性格が多様のものであることはいうまでもない⇒ある業務に従事する特定の労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れる者でない限り、その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等が業務の過重負担に起因して当該労働者に生じた損害の発生又は拡大に寄与したとしても、そのような事態は使用者として予想すべきもの。
②使用者又はこれに代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う者は、各労働者がその従事すべき業務に適するか否かを判断して、その配属先、遂行すべき業務の内容等を定めるのであり、その際に、各労働者の性格をも考慮することができる。

労働者の性格が前記の範囲を外れるものでない場合には、裁判所は、業務の負担が過重であることを原因とする損害賠償請求において使用者の賠償すべき額を決定するに当たり、その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等を、心因的要因としてしんしゃくすることはできない。

過重な業務による鬱病は発症し増悪した場合で、当該労働者が自らの精神的健康に関する一定の情報を使用者に申告しなかったことをもって過失相殺することができないと判示した最高裁H26.3.24.
 
◎Yが過失相殺の事由として亡Aがオンラインゲームをしていたことを主張
vs.
その回数と時間の程度とこれが休日等にされていた
⇒むしろ過重な労働による心理的負荷を軽減する効果があったと推測し得ると説示して排除。 

東京高裁H24.3.22:
過労による精神障害に起因する過度のアルコール摂取により死亡した事例:
労働者が自らの不調を使用者に申し出なかった事情に加え、
就寝前にブログやゲームに時間を費やして自らの精神障害の要因となる睡眠不足を増長させた
⇒3割の過失相殺。
 
●裁判所の判決の見通しの開示により和解勧告と社会的影響や波及効果のある事件の解決の方法としての和解勧試と本決定の意義 
 
◎民訴法 第89条(和解の試み)
裁判所は、訴訟がいかなる程度にあるかを問わず、和解を試み、又は受命裁判官若しくは受託裁判官に和解を試みさせることができる

和解は、これを試みる旨の裁判所の決定に基づいている。
この決定は、口頭弁論においても、弁論外でもすることができる、当事者に告知すべき。
この決定は、訴訟指揮に関する決定(120条)であり、これに対しては不服申し立てを許さず、裁判所はいつでもこれを取り消すことができる。
 
◎条理にかない実情に即した解決を図ることを目的とする(民調法1条)調停と異なり、
民事訴訟の審理及び判決を担当する受訴裁判所が主催する訴訟上の和解においては、
それまでの審理の段階に応じた裁判所の法解釈上及び事実認定上の心証(判決の見通し)に基づき、これを前提として、その判決による解決よりも当事者のそれぞれにとって利点があり、必ずしも訴訟物に限定されない、当該事案に応じて的確な内容の和解勧告がされるべきと考えられている。 
裁判所がこの心証を適宜の方法で当事者に示して裁判所が策定する和解案による和解を勧告することが多くされている。

和解勧告の段階:
争点等の整理が終了して人証予定の当事者本人及び証人の陳述書を含む書証の取調べをすべて終えた争点等の整理の終局段階が比較的多い。
口頭弁論終結後に勧告される場合⇒判決の内容と同じ完全に形成された心証が開示。

口頭又は書面によってされ、口頭の場合は、当事者対席の場にされる場合のほか、交互にされることが多い。

書面による和解勧告がされる典型的な訴訟類型として交通事故訴訟。
~当事者双方の検討、特に被告の保険会社の決裁上の必要から書面で。
裁判所の具体的な心証の開示の内容に不服⇒裁判所の和解案を拒絶⇒証拠調べ等の審理を経て判決。

藤村:
裁判所がどのよな段階の和解手続であれ、裁判所の事件に対する見通しを法律上及び事実上の観点から当事者に述べるのは訴訟手続の主催者として義務
そのことによって、当事者は仮にそれが間違っていると思えばそれを指摘して意見を述べればよい。
 
◎本決定:
①過労死防止法1条所定の「過労死」の定義には該当しない「過労死事故」という「過労死」及び「過労自殺」に並ぶ労働災害の類型について使用者の安全配慮義務違反を認める裁判所の判断の先例(裁判規範及び社会的規範)としての意義は大きく、本件訴訟の帰趨は「過労死」対策の対象を前進させるなど、社会的影響がある⇒和解による解決をする場合には、裁判所の所見が具体的に示され、これが公表されて先例となることを希望する旨を被害者遺族であるXら及び訴訟代理人弁護士が裁判所に明確に伝えている。
②その先例としての意義(波及効果や社会的影響)

民訴法89条所定の「決定」の「理由」中の「当該裁判所の判断(所見)の概要」欄で、本件の争点に係る裁判所の判断(所見)が比較的詳しく説示されたものが、本決定の理由中に示されている。

◎本決定が勧告する和解の内容及びこれにより成立した和解の内容には、本和解の成立及びその内容並びに本決定の判例雑誌への掲載を含む公表の相互の同意条項がある。
実務上は、逆に、いわゆる秘密保持・口外禁止条項が定められる場合がある。

民訴法 第91条(訴訟記録の閲覧等)
何人も、裁判所書記官に対し、訴訟記録の閲覧を請求することができる。

民訴法 第92条(秘密保護のための閲覧等の制限)
次に掲げる事由につき疎明があった場合には、裁判所は、当該当事者の申立てにより、決定で、当該訴訟記録中当該秘密が記載され、又は記録された部分の閲覧若しくは謄写、その正本、謄本若しくは抄本の交付又はその複製(以下「秘密記載部分の閲覧等」という。)の請求をすることができる者を当事者に限ることができる。
一 訴訟記録中に当事者の私生活についての重大な秘密が記載され、又は記録されており、かつ、第三者が秘密記載部分の閲覧等を行うことにより、その当事者が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあること。
二 訴訟記録中に当事者が保有する営業秘密(不正競争防止法第二条第六項に規定する営業秘密をいう。第百三十二条の二第一項第三号及び第二項において同じ。)が記載され、又は記録されていること。

2 前項の申立てがあったときは、その申立てについての裁判が確定するまで、第三者は、秘密記載部分の閲覧等の請求をすることができない。

3 秘密記載部分の閲覧等の請求をしようとする第三者は、訴訟記録の存する裁判所に対し、第一項に規定する要件を欠くこと又はこれを欠くに至ったことを理由として、同項の決定の取消しの申立てをすることができる。

4 第一項の申立てを却下した裁判及び前項の申立てについての裁判に対しては、即時抗告をすることができる。

5 第一項の決定を取り消す裁判は、確定しなければその効力を生じない。

民訴法91条1項の訴訟記録の閲覧等の規定が、憲法82条の裁判の公開の趣旨をより徹底するために何人に対しても訴訟記録の閲覧請求権を認めたものであり、
民訴法92条所定の秘密保護のための閲覧等の制限がされ、あるいは権利濫用の事情がない限り、判決書や裁判書はもちろん和解調書も公開される対象となる。

当事者は、相手方当事者のプライバシーや名誉権の侵害に当たるなど、不法行為を構成しない限り、これらの文書を公表・公開することは妨げられない

秘密保持条項は、例外的に和解の内容を第三者に対して公表・口外されることを不利益と考える当事者がこれを相互に禁止する条項を入れることを相手方に希望し、相手方の同意を得て定められるもの
公表の相互同意条項は、公表が妨げられるものでないことを注意的に定めたもの。
 
◎本件のような和解勧試及び和解勧告の決定の法形式の採用は、今後、
社会的影響や波及効果のある事件類型で、
早期の全面解決の利益のほか、例えば、比較的高額の和解金の分割支払(定期金支払を含む)条項、謝罪条項、努力条項等の当事者のそれぞれにとって判決によるよりも和解による解決をする利益にがある事件において、
裁判所及び当事者が和解による解決を選択する途を広げる1つの方法。 

判例時報2369

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2018年7月23日 (月)

労働契約法20条の解釈とその違反が問題となった事案

東京地裁H29.9.14      
 
<事案>
被告である日本郵便株式会社(Y社)との間で有期労働契約を締結した原告X1からX3まで(「Xら」)が、
無期労働契約を締結しているY社の正社員と同一の業務に従事していながら、手当等の労働条件について正社員と差異があることが労契法20条に違反⇒
Y社社員給与規程及びY社社員就業規則の各規定がXらにも適用される労働契約上の地位にあることの確認を求めるとともに、
公序良俗に反すると主張し、同条施行前については不法行為による損害賠償請求権に基づき、
同条施行後については、主位的には同条の補充的効力を前提とする労働契約に基づき予備的には不法行為による損害賠償請求に基づき諸手当の正社員との差額及びこれらに対する遅延損害金の支払を求めた。 
 
<規定>
労働契約法 第20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない
 
<争点>
①労契法20条の成否
②労契法20条の効力
③公序良俗違反の有無
④Xらの損害
 
<判断>
●争点①:労契法20条の成否 
本件において問題となる労働条件の相違は、いずれも正社員と契約社員とで適用される就業規則や給与規程が異なるために生じている
期間の定めの有無に関連して生じたもの

労契法20条の不合理性の判断について:
問題とされている労働条件の相違が不合理と評価されるかどうかを問題としている⇒合理的な理由があることまで要求する趣旨ではない。

不合理性について、
労働者において、相違のある個々の労働条件ごとに、当該労働契約が期間の定めを理由とする不合理なものであることを基礎づける具体的事実(評価根拠事実)についての主張立証責任を負い、
使用者において、当該労働条件の相違が不合理であることの評価を妨げる事実(評価障害事実)についての主張立証責任を負い、
主張立証にかかる労契法20条が掲げる諸要素を総合考慮した結果、当該労働条件の相違が不合理であると断定するに至らない場合には、当該相違は同条に違反するものではない。

労契法20条は、
有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違について、
①職務の内容、
②当該職務の内容及び配置変更の範囲、
③その他の事情
を考慮要素としており、
同条は、同一労働同一賃金の考え方を採用したものではなく、同一の職務内容であっても賃金をより低く設定することが不合理とされない場合があることを前提としており、
有期契約労働者と無期契約労働者との間で一定の賃金制度上の違いがあることを許容するもの。

Xら契約社員と労働条件を比較すべき正社員は、担当業務や異動等の範囲が限定されている点で類似する新一般職とするのが相当。

旧人事制度においては、Xら契約社員と比較すべき正社員は、旧一般職とするのが相当。

正社員と契約社員との労働条件の相違について、不合理性が認められたの
年末年始勤務手当、住居手当、夏季冬季休暇、病欠休暇

不合理性が認められないとされたの
外務業務手当、早出金等手当、祝日給、夏季年末手当、夜間特別勤務手当、郵便外務・内務業務精通手当
 
●争点②:労契法20条の効力 
労契法20条は、訓示規定ではなく、同条に違反する労働条件の定めは無効であり、その定めに反する取扱いには、民法709条の不法行為が成立し得る。
but
労契法20条の法的効果として補充的効力は認められない。 
 
Y社において、正社員と契約社員に適用される就業規則及び給与規定等が、別個独立に存在し、前者がY社の全従業員に適用されることを前提に、契約社員については後者がその特則として適用されるという形式とはなっていない

就業規則、給与規定等の合理的解釈として、正社員の労働条件が契約社員に適用されると解することはできない
 
正社員と契約社員の労働条件の相違について年末年始勤務手当、住居手当、夏季冬季休暇及び病気休暇についての相違は、平成25年4月1日以降(住居手当は平成26年4月以降)労契法20条に違反し、Xらに対する不法行為を構成。
 
●争点③:公序良俗違反の有無 
労契法20条施行の前後を通じ、公序良俗に反するとはいえない。
 
●争点④:Xらの損害 
年末年始勤務手当の相違にかかる損害:旧一般職及び新一般職に対する支給額の8割相当額
住居手当の相違にかかる損害:正社員の支給要件を適用して認められるべき住居手当の6割相当額
 
<解説>
●争点③について 
労契法20条施行前の裁判例である丸子警報器事件(長野地裁上田支部)では、
非正規社員の賃金額が、同じ勤務年数の正社員の8割以下となるときは、許容される賃金格差の範囲を越え、公序良俗違反となるとした。

本件:
労契法施行の前後において、労契法20条に違反する労働条件の相違を含め、正社員と契約社員の労働条件の相違が公序良俗違反となることを基礎付ける事実を認めるに足りる証拠はない
 
●争点④について 
本判決:
有期契約労働者に当該労働条件が全く付与されていないこと、又は無期契約労働者との間の給付の質及び量の差異をもって不合理であると認められる労働条件の場合(本判決の年末年始勤務手当及び住居手当)には、種々の要素(人事制度との整合性、昇任昇給の経路や配置転換等の範囲の違い等)を踏まえて決定される給付されるべき手当額を証拠に基づき具体的に認定し、それとの差額をもって損害と認定。
but
それは、その決定過程に照らして極めて困難。

民訴法248条に従い、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定すべき。

年末年始勤務手当については新旧一般職の支給額の8割相当額
住居手当は正社員の支給要件を適用して得られる額の6割相当額

判例時報2368

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2018年7月13日 (金)

業務内容・問題対応・上司との関係⇒強い精神的負荷⇒うつ病⇒自殺で、公務起因性を肯定

名古屋高裁H29.7.6      
 
<事案>
Aが平成29年11月26日に自殺したことについて、処分行政庁に対し、公務災害の認定請求⇒本件災害を公務外災害と認定する旨の処分⇒不服審査請求も棄却⇒前記処分の取消しを求めた。 
 
<原審>
●公務起因性の判断基準について:
最高裁昭和51.11.12を引用し、
地方公務員災害補償法31条の「職員が公務上死亡した」とは、
公務に基づく疾病に起因して死亡した場合をいい、
その疾病と公務との間に相当因果関係が必要であり、
最高裁H8.3.5等を引用し、
前記の相当因果関係があるといえるためには、
その疾病が当該公務に内在又は随伴する危険が現実化したものであると認められることが必要

と判示。 

相当因果関係の判断に当たっては、
職場における地位や年齢、経験などが類似する者で、
通常の職務に就くことが期待されている平均的な職員を基準とすべきであり、
平均的な職員には、一定の素因や脆弱性を抱えながらも勤務の経験を要せず通常の公務に就き得る者を含む
 
●公園整備室は・・・もともと事務職の室長は、かなりの精神的負荷を受ける。
Aが執務に就任した当時の事情として






Aは、これらによって強い精神的負荷を受け、同年10月下旬から11月初めの時期に、周囲の者から見ても異常を感じさせる抑うつ状態

①Aがそのような抑うつ状態で、P1部長に対し、同年11月初めころ、降格覚悟で年度途中の異動を希望したが、年度途中の異動は難しいと言われ動揺し、
そのころ公園内で発生した事故の記者発表、市議会の対応に追われ、
同年11月26日に公園内で新たな人身事故が発生した旨の報告
業務の精神的負荷に耐えられなくなり本件災害に至った

②Aはうつ病に親和性の強い性格傾向であったが、勤務の軽減を要せず通常の公務についていた
本件災害について公務起因性を認め、Xの請求を認容。 
 
<本判決> 
原審判決を肯定。 
 
<解説>
疾病と公務の間に相当因果関係が必要であり、その疾病が当該公務に内在又は随伴する危険が現実化したものであると認められることが必要。

その判断に際しては、
精神障害は環境由来の心理的負荷の程度固体側の脆弱性の双方により発症するとの理解(「ストレスー脆弱性」理論)を前提として
一定の素因や脆弱性を抱えながらも勤務の軽減を要せず通常の公務に就き得る者を含む平均的な職員を基準とする。

Aの自殺の原因となった精神疾患について、
口頭弁論終結時における医学的知見に基づき、
本件災害後の新認定基準である「精神疾患等の公務災害の認定について」(平成24年地基補第61号)及びその運用指針(同第62号)に基づいて検討し、
Aが強度の精神的負荷を与える事象を伴う公務に従事していたと認め、
公務起因性を肯定


本件災害前のAの時間外労働時間は月50時間前後であって、それほど長時間であるとはいえない。

判例時報2367

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2018年7月 6日 (金)

大学教授に対する懲戒解雇が無効とされた事案

東京地裁H29.9.14      
 
<事案>
学校法人である被告に雇用された大学教授である原告が、被告から懲戒解雇
懲戒解雇が無効であるという仮処分確定後に予備的に普通解雇

これらの解雇が無効であると主張して、
被告に対し、地位確認、 未払賃金及び賞与の各支払を求めた。
懲戒解雇の対象となった行為:
①原告が被告から研究目的で貸与され、原告の研究室に置かれていたパソコンの中に、原告が配偶者以外の女生との性交の場面を自ら撮影した動画を保存。
②本件動画を入れた外付けハードディスクを学内外に持ち歩いて研究室に置かれていたパソコンにコピーしたことが、被告のコンピュータ利用規則及び就業規則に違反。

懲戒解雇を無効とする仮処分事件の確定後に被告が行った予備的な普通解雇の対象となった事由:
前記①②に加え、
③懲戒解雇の2年以上前に戒告処分を受けた上で学部長を解任され、商学部から講義を持たない教育研究推進機構に異動される原因となった同僚及び職員に対する恫喝的な言動
④原告が教育研究j推進機構への異動後、約2年半にわたり大学に出勤せず、その間の業績が低下している
⑤原告が被告に届出をせずに副業をしていた
 
<解説>
予備的解雇については、主位的解雇の意思表示が撤回され又は裁判によりその無効が確定されなくても許される(最高裁H8.9.26)。

使用者の設備の目的外使用については、
私立専門学校の教員が学校のパソコン及びメールアドレスからいわゆる出会い系サイトに登録し、大量のやりとりを行った事案について、
学校のメールアドレスであることを推知し得るメールアドレスを用いて露骨に性的関係を求める内容のメールを送信し、同メールの内容を第三者が閲覧可能な状態においたことは学校の品位体面、名誉信用を傷付けるもの
私用メールの送信の労力を職務に宛てればより一層の効果が得られた
懲戒解雇が有効(福岡高裁)。

風紀紊乱について、
独身の女性事務員が配偶者のいる男性社員と恋愛関係になり、取引先を含めた噂となり男性社員の妻からも会社に苦情が寄せられるなどした事案:
懲戒事由には該当するものの会社の企業運営に具体的な影響を与えたものとはいえない懲戒解雇無効(旭川地裁)
 
<規定>
労働契約法 第一五条(懲戒)
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

労働契約法 第一六条(解雇)
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
 
<判断>   
●懲戒解雇について 
本件動画を外付けハードディスクに入れて持ち歩き研究室内のパソコンにコピーをして保存した行為が懲戒事由に該当する。
but
研究室において本件動画を作成したものではなく、自宅で作成したデータを誤って研究室内のパソコンにコピーしてしまったという事実関係を前提に、
本件動画が外部に流出したことはなく実際に被告の社会的名誉及び信用が侵害されたものではない
②2度目の懲戒処分ではあるが以前の戒告処分の事由となった行為とは種類が異なる
本件動画のデータの削除は容易

懲戒解雇は重きに失するものとして相当性を欠く
懲戒権を濫用したものとして無効
 
●予備的は普通解雇 
①原告が過去に同僚教員等に不適切な言動を取ったことは認定しつつも、教育研究推進機構へ異動としなった後は同僚教員や教職員との接触がほとんどない
②研究室に出勤しなかったことについても被告がこれを認容している面があった
③研究業績の低下についても就業規則上の直近5年間に研究業績のない選任教員に対する指導がなされるほどではなかった
無届事業についても別個の懲戒処分の対象となるとはしながら、直ちに解雇事由には該当しない
無効(労契法16条)
 
●賞与 
就業規則にその支払に関する規定が置かれている場合であっても、通常は使用者が会社の業績等に基づき算定基準を決定し又は労使で金額を合意したときに初めて具体的な権利として発生
本件においては、賞与の算定基準について夏季と冬季で基本給に同一の支給係数を乗じて賞与を支給するという労使慣行
支給係数が明らかな限度で請求が認容

判例時報2366

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2018年5月18日 (金)

学校法人が設置・運営する大学における勤務延長教員の年俸額を減額する給与支給内規の変更が無効とされた事例

札幌地裁H29.3.30      
 
<事案>
本訴:
学校法人Yとの間でそれぞれ雇用契約を締結し、Yが私立学校法に基づき設置・運営するA大学において教員として勤務し、あるいは勤務していたXらが、
①Yが行った本件大学における勤務延長教員の年棒額を最大で4割減額する給与支給内規の変更は、合理性なく就業規則を不利益に変更するものとして無効⇒
Yに対し、旧内規又は労働協約に基づき、本件内規変更により減k額された差額部分の未払給与及びこれに対する遅延損害金の支払を求め、
Xらの一部の者らが、将来分の賃金の支払も請求
②Yの違法な内規変更により精神的苦痛を被った⇒民法709条に基づき、慰謝料及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。

反訴:
仮本件内規変更全体の合理性が認められないとしても、本件内規変更が段階的に年俸制を減額する限度で合理性が認められることによりその一部が有効
⇒本件内規が一部有効であることの確認を求めた
 
<争点>
①本件反訴の確認の利益の有無
②本件内規変更の合理性の有無
③本件内規変更を一部無効とする判断の可否 
 
<規定>
労働契約違法 第九条(就業規則による労働契約の内容の変更)
使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。

労働契約法 第一〇条
使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。
 
<判断>
●本件内規変更は無効⇒
本件内規変更により減額された差額部分の未払給与及びこれに対する各月の給与支給日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
賃金の支払の確保等に関する法律6条1項に基づく遅延損害金の支払を求める請求は棄却。
Xらの一部の者らの将来賃金の支払を求める訴えは却下。
 
●慰謝料請求について:
本件内規変更が社会通念上著しく相当性を欠くものとしてXらに対する不法行為を構成するとはいえない⇒棄却。 
 
●Yの反訴請求: 
Xらの口頭弁論終結時において既に本件大学をを退職している者らに対する訴え:
同人らが本件大学を退職したことにより、Yが同人らに対して負う未払賃金請求権の内容は既に確定⇒確認の利益を欠く不適法な訴えであるとして却下。

その余の請求:
本件内規経脳が部分的に合理性を承認し得るものであったとしても、一部有効とする部分を労使間の法律関係を規律するのに相当なものとして特定するための客観的基準は存在しない

裁判所が本件内規変更の一部につき効力を認めることは相当でなく、結局、本件内規変更は全体として無効。
 
<解説>
●本件内規変更が就業規則の不利益変更に当たると認定し、
本件内規変更の合理性(労契法9条、10条参照)の有無に関し、
賃金、退職金など労働者にとって重要な労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の変更につき、
当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずる。(最高裁H9.2.28)

上記最高裁も総合考慮するとした
使用者側の変更の必要性の内容・程度
就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、代償措置の有無
代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況
労働組合等との交渉の経緯等

高度の必要性に基づく合理的なものであったとすることはできず、本件内規変更は無効。

●千葉地裁H20.5.21は、不法行為の成立についても肯定し、
精神的苦痛に対する慰謝料の支払請求も認容。 

●国立大学法人の就業規則の変更による退職手当の減額措置の合理性が問題となった裁判例
~国家公務員退職手当法の改正等に準じて支給水準が引き下げられたものであり、本件とは事案を異にする。

判例時報2363

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2018年5月 8日 (火)

社会保険庁廃止に伴う同庁職員らに対する分限免職処分が争われた事案

東京地裁H29.6.29      
 
<事案>
法律の改正により社会保険庁が廃止。
社保庁朝刊又は東京社会保険事務局長が、国公法78条4号に基づいて、平成21年12月25日付けで同月31日限り社保庁の職員であったXらを分限免職する旨の各処分⇒
Xらが、Y(国)に対し、
本件各処分は、同号の要件に該当せず、仮に同号の要件に該当するとしても、裁量権の範囲逸脱し又はこれを濫用した違法なもの⇒本件各処分の取消しを求める。
②本件各処分が不法行為又は債務不履行に当たる⇒国賠証1条1項又は民法415条に基づく損害賠償として、それぞれ330万円及び遅延損害金の支払を求めた。 
 
<規定>
国家公務員法 第78条(本人の意に反する降任及び免職の場合)
職員が、次の各号に掲げる場合のいずれかに該当するときは、人事院規則の定めるところにより、その意に反して、これを降任し、又は免職することができる。
一 人事評価又は勤務の状況を示す事実に照らして、勤務実績がよくない場合
二 心身の故障のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない場合
三 その他その官職に必要な適格性を欠く場合
四 官制若しくは定員の改廃又は予算の減少により廃職又は過員を生じた場合
 
<判断>   
X1及びX2に対する本件処分はいずれも適法。
X3に対する本件処分は違法。
損害賠償請求については、いずれも理由がない。 
 
●本件各処分の適法性 
国公法78条の文言⇒同条に基づく分限処分は裁量処分であると解される。

国公法78条4号に基づく分限免職処分は、被処分者に何ら責められるべき事由がないにもかかわらず、その意思に反して免職という重大な不利益を課す処分

①同号の解釈上、本件の処分権者である社保庁朝刊等は、最終的な分限処分の段階に至るまでに、可能な範囲で、廃職の対象となる官職に就いている職員について、機構への採用、他省庁その他の組織への転任又は就職の機会の提供等の措置を通じて、分限免職処分を回避するための努力を行うことが求められる
このような努力の内容や程度については、法令上、明文の規定はなく、基本的に社保庁長官等の裁量に委ねられているというべきであるが、
例えば、社保庁長官等において分限免職処分を回避するための容易かつ現実的な努力をすることが可能であり、当該努力をしておれば、特定の職員について分限免職処分を回避することができた相応の蓋然性があったにもかかわらず、社保庁長官等において当該努力を怠った結果、分限免職処分に至ったものと認められるような事情があるときは、
当該職員に係る分限免職処分については、裁量権の逸脱又は濫用があった違法なものとして、その効力は否定されるべきである。

X1及びX2に対する本件処分:
両名はいずれも懲戒処分歴があり、機構等への採用資格がなかった⇒社保庁長官等は、その権限の及ぶ範囲内で分限免職回避のための努力を尽くしたといえ、裁量権の免脱又は濫用があったとはいえない。

X3に対する本件処分:
(1)
①X3には懲戒処分歴がなく機構の正規職員としての採用を第一希望としていた
②平成21年2月時点におけるX3の健康状態につき、医師が機構採用基準に適合すると判断しており、別の医師もリハビリ勤務が可能としており、いずれも職務復帰を前提とした評価をしている
同時点の健康状態を前提にすれば、X3は、機構採用基準に照らせば、正規職員としても採用され得たというべき。
(2)現にX3は、准職員としては採用の内定を受けていた。
(3)X3が正規職員として採用されなかった理由は、機構採用基準を満たしていても面接時において病気休職中の者は正規職員としては採用しないとうい本件内部基準以外に見当たらない。

社保庁長官は、機構設立委員会に対し、少なくとも、その時点で生じている欠員分程度の人数について正規職員として追加採用するよう検討を依頼する程度のことは考慮すべきであったといえ、仮に、正規職員の追加募集がされていたならば、X3が正規職員として採用された相応の蓋然性もなお十分に存した

分限免職回避努力義務を尽くさなかったことにより、裁量権の逸脱又は濫用があったとして違法
 
●国賠法1条1項に基づく損害賠償請求について、
X1及びX2に対する本件処分はいずれも適法
X3の動向に基づく損害賠償請求権は消滅時効の援用により消滅

いずれも理由がない。 

判例時報2361

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