労働

2020年3月21日 (土)

じん肺管理区分4⇒胃がん併発⇒肺炎で死亡で業務起因性(否定)

福岡高裁R1.8.22    
 
<事案>
Aの妻であるBが、Aの死亡は業務上の事由(じん肺)によるもの⇒労災法に基づく遺族補償給付及び葬祭料の支給を求めた⇒処分行政庁がじん肺と死亡との間に相当因果関係がないとして不支給決定⇒Y(国)に対して当該処分の取消しを求めた。 
 
<判断>
じん肺や胃がんの状態についての検討

死亡に至る機序について、
①Aの全身状態が急激に悪化してC病院に入院するに至ったのは、
従前からのじん肺による肺機能の低下や体力減退に加齢的な要因も加わり、全身状態としては芳しくない状況にあったところ、胃がんからの大量の出血が発生したことによるものと推測
②出血があったと考えられる時期に急激な悪化が見られた

こうした複合的な要因の中でも、その全身状態の悪化に胃がんからの出血が寄与した割合が大きいことは明らか

肺炎発症はじん肺や胃がんと直接関連するものではなく、全身状態の悪化により易感染症が高まり、招来されたと考えられる、
②上記のように、全身状態の急激な悪化の主たる要因が胃がんからの出血

肺炎の発症についても、胃がんからの出血が最も大きく寄与していた。

入院後に全身状態が回復せずに肺炎が遷延したことについて、
もともとAの体力がじん肺によって著しく減退していたことも相当程度寄与していた
but
上記のように、胃がんからの出血により全身状態が急激に落ち込んだことの影響が大きく、
じん肺はそれを持ち直すことを阻害した背景的な要因として評価されるにとどまる

Aの死亡原因となった肺炎は、
胃がんからの多量の出血が主たる要因となった急激な全身状態の悪化により招来されたものであり、じん肺の影響がこれを上回るものであるとは認められない

Aの死亡とじん肺との間の相当因果関係を否定
 
<解説>
●労基法施行規則35条・別表第1の2第5号は「粉じんを飛散する場所における業務によるじん肺症又はじん肺法・・・に規定するじん肺と合併したじん肺法施行規則・・・第1条各号に掲げる疾病」を、業務上の疾病と規定。
じん肺り患者に併発した胃がんや肺炎は、じん肺法施行規則第1条各号に掲げられていない。 
●一般に、業務起因性(業務と傷病等との間の相当因果関係)の判断は、当該傷病等が当該業務に内在する危険の現実化として発生したと認められるか否かによって判断するのが相当。

「業務に内在する危険の現実化」の有無は、業務上の有害因子がどの程度疾病の発症に寄与したかによって判断される。

危険責任の法理を出発点とし、業務に内在する危険の現実化を労災補償の根拠と捉える業務の原動力は、他の要因より相対的に有力な原因でなければならない
判例時報2430

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2020年3月14日 (土)

会員制スポーツクラブを運営しているYの支店長等の地位にあった者の管理監督者性(否定)

東京高裁H30.11.22      
 
<事案>
会員制スポーツクラブを運営しているYの支店長等の地位にあったXが在職中の時間外労働、休日労働及び深夜労働に対する割増賃金並びに労基法114条所定の付加金の支払を求めた。 
 
<争点>
①Xが労基法41条2号の管理監督者に当たり、Yは時間外労働及び休日労働に対する割増賃金を支払う必要がないか
②割増賃金を支払う場合、割増率は労基法によるか、同法より高い割増率を定めたYの給与規程によるか 
 
<原審・判断> 
●争点①
労基法上の管理監督者に該当するかどうかについては、
ア:当該労働者が実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職務と責任、権限を付与されているか
イ:自己の裁量で労働時間を管理することが許容されているか
ウ:給与等に照らし管理監督者としての地位や職責にふさわしい待遇がなされているか
という観点から判断すべき。 

アについて:
支店長は、支店の運営管理全般について責任者としての職責を担うとともに、従業員の勤務シフトの決定や販売促進活動の企画・実施等の権限を有している
but
提供する商品及びサービスの内容等の決定はYの直営施設運営事業部が行っておりアルバイトの採用や解雇、販売促進活動の実施、出捐を伴う設備の修繕や備品の購入等についてYの決裁を要し
Yによって支店の損益目標が管理され、運営モデル等に極力沿った労務管理が要請されるなど、
支店の運営管理に関する支店長の裁量は相当程度制限されていた。

経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職務と責任、権限を付与されていたとは認められない。

イについて:
支店長も一般の従業員と同様、年間の総労働時間が定められ、かつ、各月の労働時間数が一定の範囲内に収まるように事前に勤務計画を作成し、Yに対して報告するとともに、タイムカードの打刻及び勤怠管理システムへの入力等により日々の出退勤時刻や実労働時間を報告するよう指示されるなど労働時間緒実態把握や健康管理上の必要を超えて労働時間の管理が一定程度行われていたほか、
管理業務のみならずフロント業務やインストラクター業務にも日常的に携わらざるを得ない状況にあり、恒常的に時間外労働を余儀なくされている

支店長が自己の裁量で労働時間を管理することが許容されていたとみることはできない

ウについて:
Xは、支店長として月額5万円の役職手当を付与されていたが、支店長の勤務実態に照らすと、月額5万円の役職手当の支給のみをもって管理監督者としての地位や職責にふさわしい待遇がされているとは言い難い
 
●争点②
支店長を割増賃金の支給対象外とする給与規程の趣旨を踏まえた当事者の合理的意思解釈

Xの所属する職層以上の者についてはYにおいて経緯者側に立つ従業員であると認識し、位置付けられており、その際は単純に労基法41条2号にいる管理監督者であるかどうかによって決定されていたものとは言い難い

時間外労働及び休日労働に対する対価を一切支払わない旨のX・Y間の合意は、労基法37条に反して無効であり、その無効となった部分は労違法13条により労基法37条で割増率が適用される。
 
●付加金の額について:
YにおいてXが管理監督者に該当すると考えたことについて相当の理由がある
⇒その態様が著しく悪質であるということもできない
付加金請求の対象となる未払割増賃金の約4割に相当する90万円の限度で支払を命じる
 
判断 
Y:管理監督者は必ずしも人事・労務管理に関する最終決裁権限を持つことを要するものではないし、労務管理以外の事項に関する権限の広狭は問題とならない
vs.
損益管理、施設・設備管理、営業管理などの労務管理以外の事項に関する権限の広狭も踏まえて、労働時間等に関する労基法上の規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない重要な職務と責任を有する立場にあったか否かを検討すべき。
労務管理のみに限定して管理監督者性を判断する見解を否定

X:割増率について、労契法12条によりYの給与規程が適用されるべきであると主張。
vs.
①労契法12条は労働契約が就業規則に違反する場合に無効部分については就業規則によることを定めている
②本件はYの就業規則が労基法に違反する場合⇒労基法13条により無効部分について労基法によることになる。
 
<解説>
通達:
労基法41条2号の管理監督者について、
労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者であって、労働時間、休憩、休日に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない重要な職務と責任を有し、
現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないような立場にあるかを、職務内容、責任と権限、勤務態様及び賃金等の待遇を踏まえ、総合的に判断することとなる。

尚、平成20年9月9日付基発0909001号:
多店舗展開企業における小規模な店舗の店長等について、管理監督者の範囲の適正化を図る目的で、従前の通達に示された基本的な判断基準に基づき、
a:職務内容、責任と権限、
b:勤務態様、
c:賃金等の待遇
の3要件についての判断基準を規定。
判例時報2429

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2020年2月10日 (月)

育児休業後のパート契約への変更、その後の解雇の効力・不法行為

東京地裁H30.7.5      
 
<事案>
原告が、
①第1子妊娠後、事務統括から降格され、第1子出産後の復帰時に時短勤務を希望したために有期のパート契約に変更されたことは、妊娠、出産に伴う不利益取扱いであること、
②同パート契約の締結により継続勤務年数が途切れたことを理由として有給休暇の申請を拒否されたため、年次有給休暇日数の確認を求める利益があること、
③第2子の出産のため産休・育休を取得することを申し出た際、被告会社の取締役であったY2から退職を強要され、行政の協力を得て産休及び育休を取得して職務復帰後、業務を取り上げられ、孤立させられたことが就労環境整備義務違反又は不法行為に該当すること、
④解雇又は雇止めは無効であり、不法行為にも該当すること
等を主張し、

①労働契約上の権利を有する地位の確認、
②解雇後の賃金、事務統括手当及び賞与の支払を求め、
③債務不履行(就労環境整備義務違反)又は不法行為に基づく損害賠償として、慰謝料等の支払を求めた。
 
<判断> 
●年次有給休暇請求権の確認の利益 
①原告が既に退職扱いとされていること、
②原告が確認を求めている年次有給休暇の日数は、派遣社員として勤務していた期間も勤務年数として引き継がれていることを前提とするもの

原告の雇用契約上の地位の確認をしたのみでは年次有給休暇の日数を確定することができない
紛争を抜本的に解決するため、年次有給休暇請求権の確認の利益を認めるのが相当
 
●原告の第1子出産後の職務復帰の際に締結されたパート契約の有効性 
①第1子妊娠後の事務統括の引継は、降格には当たらない
育児のための所定労働時間の短縮申出等を理由として解雇等不利益な取扱いをすることは、育児介護法23条、23条の2に反して違法、無効
労働者と使用者との間の合意により労働条件が不利益に変更される場合でも、その合意は、労働者にもたらされる不利益の内容及び程度、労働者が当該合意をするに至った経緯及びその態様、当該合意に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等を総合考慮し、当該合意が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することが必要

本件における労働条件の変更は、
労働時間に期間の定めが設けられ、従前の職位であった事務統括に任用されず、賞与の支給がされなくなったなど、原告に与えた不利益は大きい一方で、
Y2は、原告に対し、勤務時間を短くするためにはパート社員になるほかないと説明したのみであり、原告は、釈然としないながらも出産により他の社員に迷惑をかけているとの気兼ねからパート契約の締結に至った

原告の自由な意思によりパート契約を締結したとは認められない
パート契約は無効
 
●原告に対する退職扱いは解雇。
原告の第2子出産後の職務復帰からわずか4カ月後に、軽微な事実を根拠としてされた解雇は無効

不法行為について:
第1子出産後の復帰時に雇用形態を有期のパート契約に変更したこと、
第2子を妊娠した原告に対して退職を強要したこと
原告を解雇したこと
は、育児介護法や雇用均等法が禁止する不利益扱いに当たり、
不利益の内容や違法性の程度等に照らして不法行為を構成する。

事務統括手当額の経済的損失のほか、精神的苦痛に対する慰謝料の請求も認めた

判例時報2426

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

 

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2020年2月 9日 (日)

有期契約労働者と無期契約労働者との労働契約の相違が不合理とされた事案

東京高裁H30.12.13    
 
<事案>
一審被告である日本郵便㈱との間で、有期労働契約を締結した一審原告X1からX3までが、無期労働契約を締結しているY社の正社員と同一内容の業務に従事していながら、手当及び休暇の労働条件について正社員と相違があることが労契法20条に違反

正社員の給与規程及び就業規則の各規定がXらにも適用される労働契約上の地位にあることの確認を求めるとともに、
労契法 20条施行後について、
主位的に同条の補充的効力を前提とする労働契約に基づき正社員の諸手当との差額の支払を求め、
予備的に不法行為に基づき、同額の支払を求めた。
 
<判断>
次のとおり判断し、
認容額を年末年始勤務手当及び住居手当相当額全額に変更、
休暇の相違に係る損害賠償請求について、病気休暇に換えて無給の承認欠勤を取得した日及び有給休暇を使用した日の賃金相当額の限度で認容。

その余の原判決の結論は維持。
新人事制度において、新一般職を比較対象として労働条件の相違が不合理と認められる場合は、労契法20条に違反することになる。
正社員に対してのみ年末年始勤務手当を支払い、時給制契約社員に対し、当該手当てを支払わないこと及び
新一般職に対して住居手当を支給する一方で、時給制契約社員に対してこれを支給しないことは、不合理であると評価することができる。
正社員に対して夏季冬期休暇を付与する一方で、時給制契約社員に対してこれを付与しないという労働条件の相違及び
病気休暇について、正社員に対し私傷病の場合は有給とし、時給制契約社員に対し無給としている労働条件の相違は、不合理であると評価することができる。
病気休暇の日数の点は、不合理であると評価することができるものとはいえない。
Xらは、年末年始勤務手当相当額及び住居手当相当額の損害を被ったと認められる。

Xらが現実に夏季冬期休暇が付与されなかったことにより、賃金相当額の損害を被った事実、すなわち、Xらが無給の休暇を取得したが、夏季冬期休暇が付与されていれば同休暇により有給の休暇を取得し賃金が支給されたであろう事実の主張立証はない。
X3は病気休暇が無給のため、無給の承認欠勤を取った日の賃金相当額の損害及び有給休暇を使用し、その使用権が消滅した当該日の賃金相当額の損害を被ったことが認められる。
Xらに病気休暇の相違による精神的苦痛の損害が発生した事実は認められない。
 
<解説>
労契法20条については、
最高裁H30.6.1ハマキョウレックス事件
最高裁H30.6.1長澤運輸事件

①有期労働契約のうち同条に違反する労働条件の相違を設ける部分は無効
同条に違反する場合であっても、同条の効力により当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるものではない
③同条による「期間の定めがあることにより」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいう、
④同条にいう「不合理と認められるもの」とは、同労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることをいう、
⑤個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべき

本判決:
新人事制度において、Xら契約社員と労働条件を比較すべき正社員について、正社員全体と比較すべきか、新一般職のみを対象とすべきかの観点から検討し、
新一般職は地域機関職とは連続性がない格別の職員群⇒新一般職を比較対象。

一審判決:
①年末年始勤務手当について
長期雇用への動機付けという意味がないとはいえない⇒正社員のように長期間の雇用が制度上予定されていない時給制契約社員に対する手当の額が、正社員と同額でなければ不合理であるとまではいえない
⇒正社員への支給額の8割相当額を損害と認めた
②住居手当の相違について、
正社員に対する長期的な勤務に対する動機付けに向けた福利厚生の面も含んでいる⇒正社員への支給額の6割相当額を損害として認めた。
but
本判決はそれを採用せず、手当相当額全額を損害と認めた。
判例時報2426

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2020年1月28日 (火)

使用者と労働組合との間の合意により労働者の未払賃金に係る債権が放棄されたということはできないとされた事案

最高裁H31.4.25     
 
<事案>
Yに雇用されていたXが、Yに対し、労働協約により減額して支払うものとされていた賃金につき、当該減額分の賃金及びこれに対する遅延損害金の支払等を求めた事案。
 
<経緯> 
Yは、Xの所属するA労組等との間で、平成25年8月28日、同月支給分の賃金から12カ月、年間一時金を含む20%の「賃金カット」をし、Yがカット分賃金の全てをロ同債券として確認する旨の労働協約(第1協約) 
Yは、Xに対し、平成25年8月から同26年7月までの月例賃金、賞与について20%相当額を減額して支給。(減額による未払賃金を「本件未払賃金1」)
Yは、A労組等との間で、平成26年9月3日、対象の期間を同年8月支給分の賃金から12カ月とうるほかは、第1協約と同旨の労働協約(第2協約)を締結。
平成27年8月10日、対象の期間を同月支給分の賃金から12か月とするほかは、第2協約と同旨の労働協約(第3協約)を締結。
Yは、Xに対し、平成26年8月から同年11月までの支給分の月例賃金について20%相当額を減額して支給。(減額による未払賃金を「本件未払賃金2」)
Yの生コンクリート運送業務を行う部門は、平成28年12月31日をもって閉鎖され、Xが所属していたA労組に所属する組合員2名がYを退職。
YとA労組は、第1協約、第2協約によって賃金カットの対象とされた賃金を放棄する旨の合意。(「本件合意」)
 
<原審>
本件合意による賃金債権の放棄を認め、債権消滅。 
 
<判断>
使用者と労働組合との間の当該労働組合に所属する労働者の未払賃金に係る債権を放棄する旨の合意につき、当該労働組合が当該労働者を代理して当該合意をしたなど、その効果が当該労働者に帰属することを基礎付ける事情はうかがわれないという事実関係の下においては、これによる当該債権が放棄されたということはできない
①第1協約の締結前及び第2協約の締結前にそれぞれ具体的に発生していた賃金請求権の額、
②第1協約及び第2協約が締結された際のXによる特別の授権の有無、
③平成28年7月末日以降、YとA労組等との間で支払が猶予されていた賃金についての協議の有無等
が認定されていないため、本件各未払賃金の弁済期を確定することはできない。
but
遅くとも同年12月31日には弁済期が到来していたというべき

本件各未払賃金の元本については請求を認容する自判をし、
遅延損害金については原審に差し戻す
 
<解説>  
●労働組合と使用者との間で、当該労働組合の組合員の労働条件に関し、何らかの合意がされたとしても、組合員は当該合意の当事者ではなく第三者
⇒当然に当該合意で定められた労働条件が組合員と使用者との間の労働契約の内容となるものではない。 

労働組合と使用者との合意が、当該労働組合の組合員と使用者との間の個別の労働契約の内容となるためには、
①前記合意に労働契約としての規範的効力が生ずるか
②合意の内容、その成立状況などに即して、労働組合が組合員である労働者個人を代理して前記合意をした、又はそれが労働契約の当事者の合理的意思であるということができる必要がある。
(最高裁H13.3.13)
 
労働協約中の「労働条件その他労働者の待遇に関する基準」は、個々の労働契約を直接規律する規範的効力を与えられているが、規範的効力を付与するには、書面に作成され、かつ、両当事者がこれに署名し又は記名押印する必要がある。
組合員個々人の具体的に発生した賃金請求権など既に発生している権利の処分又は変更は、労働組合の一般的な労働協約締結権限の範囲外であり、当該個々人の特別の授権を得ることが必要となると解されている。(最高裁)
 
●遅延損害金の請求⇒弁済期の検討 
◎ 第1協約と第2協約:
それぞれ対象となる期間の賃金の支払いを猶予するもの。
but
協約中で対象とされたものの全てについて支払の猶予の効果が生ずるかについては、①賃金請求権の発生時期と、②労働組合の一般的な労働協約締結権限の範囲との関係が問題。

◎  第1協約:
平成25年8月支給分の賃金から12カ月を対象としているところ、これは同月28に締結。
それ以前の労働日に係る賃金が第1協約締結前に具体的に発生⇒その支払を猶予することは、既に発生した権利の処分又は変更に当たる⇒特別の授権なくして労働協約により支払を猶予することはできない。
同年7月21日から同年8月20日までの労働に係る賃金が同月末日に支払うものとされ、
同月21日から同年9月20日までの労働に係る賃金が同月末日に支払うものとされている

同年7月21日から第1協約締結前である同年8月27日又は28日までの労働に係る賃金について、同月28日時点で具体的に発生していたか?

◎民法 第624条(報酬の支払時期)
労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない
2 期間によって定めた報酬は、その期間を経過した後に、請求することができる。

民法624条は報酬の支払時期を定めるところ、
「期間によって定めた報酬は、その期間を経過した後に、請求することができる。」と定める同情2項について、
A:支払時期だけに関するもの⇒労働日ごとに賃金債権は発生しているが期間の経過までは弁済期が到来していない
B:賃金債権が期間経過後に発生⇒期間の経過前には労働日ごとに賃が院債権が発生するものではない。
民法624条は任意規定⇒当事者がこれと異なる合意をすることを妨げない。

第1協約締結日である平成25年8月28日時点でそれ以前の労働日に係る賃金債権が具体的に発生

①同年7月21日から同年8g圧20日までの労働に係る賃金は1か月分の賃金
②同月21日から同月27日又は28日までの労働に係る賃金は原審確定事実からはその額は定まらない。

◎ 第2協約:
平成26年8月支給分の賃金から12カ月を対象としているところ、
これは同年9月3日に締結 
 
◎ 本判決:
第1協約及び第2協約により支払が猶予された賃金請求権については、
第3協約の期間の末である平成28年7月末日の経過後、
支払が猶予された賃金のその後の取扱いについて、協議をするのに通常必要な機関を超えて協議が行われなかったとき、又はその期間内に協議が開始されても合理的期間内に合意に至らなかったときには、弁済期が到来。

本判決:
第1協約、第2協約及び第3協約は、Yの経営を改善するために締結。
平成28年12月31日にYの生コンクリート運送業務を行う部門が閉鎖された以上、賃金の支払を猶予する理由は失われた

遅くとも同日には第3協約が締結されたことにより弁済期が到来していなかったXの賃金についても弁済期が到来

本件各未払賃金のうち、第1協約及び第2協約により支払の猶予の効果が生じないこととなるもの本来の支払日に弁済期が到来

前記の検討と併せ、本件各未払賃金の全てについて、原審口頭弁論終結時において弁済期が到来していた。
判例時報2424

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2019年12月14日 (土)

不当労働行為が認定された事案

大阪高裁H30.9.7      
 
<事案>
X(高槻市)の設置する市立小学校の外国人英語指導助手らはY(大阪府)の補助参加人である労働組合(「Y補助参加人」)の支部を結成して、市庁舎前等においてビラを配布するなどの組合活動をし、また別件の救済申立てを大阪府労働委員会に行った。
Y補助参加人の組合員である英語指導助手が市立小学校卒業式への出席を希望⇒市立小学校の校長は、市教育委員会に問い合わせたうえ卒業式への出席を認めなかった。
市教委の教育指導部長は、市議会本会議において、質問を受け、英語指導助手が保護者に署名やビラ配布を依頼したこと、別件の救済申立てがなされていること等をあげて、卒業式に出席を認めると混乱を生じる可能性を排除できない旨の答弁(「本件答弁」)をした。

Y補助参加人:
Xが、本件組合員が組合活動を行ったことから卒業式に出席することを認めなかったこと及び本件答弁においてY補助参加人の組合活動を中傷したことがそれぞれ不当労働行為に当たるとして、大阪府労働委員会に救済を申し立てた。

大阪府労働委員会は、Y補助参加人の申立てについていずれも不当労働行為に当たるとして、Xに謝罪文手交を命じる救済命令(「本件救済命令」)をした。

Xが本件救済命令の取消しを求めた。

原審:Xの請求を認めて本件救済命令を取り消した、
本判決:原判決を取り消し、Xの請求を棄却
最高裁:Xの上告受理申立てを不受理。
 
<規定>
労組法 第七条(不当労働行為)
使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。
一 労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること又は労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること。ただし、労働組合が特定の工場事業場に雇用される労働者の過半数を代表する場合において、その労働者がその労働組合の組合員であることを雇用条件とする労働協約を締結することを妨げるものではない。
・・・
三 労働者が労働組合を結成し、若しくは運営することを支配し、若しくはこれに介入すること、又は労働組合の運営のための経費の支払につき経理上の援助を与えること。ただし、労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許すことを妨げるものではなく、かつ、厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与を除くものとする。
四 労働者が労働委員会に対し使用者がこの条の規定に違反した旨の申立てをしたこと若しくは中央労働委員会に対し第二十七条の十二第一項の規定による命令に対する再審査の申立てをしたこと又は労働委員会がこれらの申立てに係る調査若しくは審問をし、若しくは当事者に和解を勧め、若しくは労働関係調整法(昭和二十一年法律第二十五号)による労働争議の調整をする場合に労働者が証拠を提示し、若しくは発言をしたことを理由として、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること。
 
<判断>
●本件組合員が卒業式の出席を認められなかったことがXによる労組法7条1項本文前段、3号及び4号の不当労働行為に該当するか。 
本件組合員が卒業式への出席を認められなかったことは「不利益な取扱い」に該当する。

◎Xが、本件組合員が労働組合の組合員であることの故をもって、あるいは不当労働行為救済申立てをしたことを理由として「不利益な取扱い」をしたといえるか。 
①市教委が各校長らから問い合わせを受けた日は、別件救済申立てがされたことをXが知った後であると認めることができる
②これを前提に、市教委が各校長らに本件組合員の卒業式への出席について慎重に対応するようにと指導・助言し、各校長らがこれに従い本件組合員に対しそれぞれの卒業式への出席を認めなかった

Xは、本件組合員に対し、別件の救済申立てをしたことを理由として、卒業式への出席を認めないとの「不利益な取扱い」をしたものであるということができる。
本件組合員が卒業式に参加すると卒業式が混乱するとのXの懸念も具体的なものであったとはいえない

Xが本件組合員を卒業式に出席させなかったことは、労働組合の組合員であることの故をもって、あるいは不当労働行為救済申立てをしたことを理由として「不利益な取扱い」をしたもの

◎本件組合員が卒業式への出席を認められなかったことがXによる労働組合への支配介入に当たるか? 
本件組合員の卒業式への出席を認めなかった取扱いは、本件組合員にとっても他の労働者にとっても、その組合活動意思を萎縮させ、そのため組合活動一般に対して制約的効果が及ぶおそれのあるものといえる。

本件組合員が卒業式への出席を認めなかったことは、XによるY補助参加人の運営に対する支配介入にも当たる

本件組合員が卒業式への出席を認められなかったことが、Xによる労組法7条1号本文前段、3号及び4号の不当労働行為に該当する。 
 
●本件答弁が労働組合への支配介入に当たるか
①本件答弁は、市教委の教育指導部長がXを代表して発言したもので、Y補助参加人だけでなく、社会全体に向けて発進されたもの
②本件組合員の卒業式への出席を認めない理由として、Y補助参加人のこれまでの組合活動からみて、組合員が卒業式に参加すると卒業式が混乱する懸念があることを公然と述べたものであるが、これは、Y補助参加人の組合活動は卒業式を混乱させるおそれがあると批判し中傷したことになる。
③これは、労働者らの組合活動意思を萎縮させ、そのため組合活動一般に対して制約的効果が及ぶおそれがある

本件答弁は、労組法7条3号に該当する不当労働行為である
判例時報2420

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2019年12月 4日 (水)

労災事案で時間外労働時間数が争われた事案

福岡地裁H30.11.30    
 
<事案>
脳梗塞を発症し、右下肢麻痺等の後遺障害が残存
労災認定がされている
 
<主張>
Xは、Y1及びその代表取締役であるY2に対し、本件疾病の発症はY1における過重な業務に起因⇒
Y1に対しては安全配慮義務違反(民法415条)に
Y2に対しては善管注意義務違反(会社法429条1項)に
それぞれ基づき、
損害賠償を請求。 
 
<争点>
①本件疾病発症の業務起因性(Xの業務の量的及び質的過重性の有無)
②Y2の安全配慮義務及びその違反の有無
③Y2の善管注意義務違反及び悪意・重過失の有無
④Xの損害の有無及び額
⑤過失相殺又は素因減額の可否及び程度 
 
<判断> 

①Xの本件疾病発症前6か月間の月平均の時間外労働時間数は174時間50分と認定。
②Xが、自己及び店舗の営業目標を達成するために相応の精神的緊張を伴う業務に従事していたといえる。
③一定期間、寒冷な環境で継続的に業務を行なうことを強いられたことも考慮。

本件疾病発症の業務起因性を肯定

Y:Xが主張の裏付けとして提出したXの元同僚の業務日誌(労災認定における労働時間算定の根拠とされたもの)は事後的に作成されたもので信用性がないと主張
vs.
その当時の業務日誌と使用状況やその記載内容等から前記業務日誌の信用性を肯定
⇒Xの業務内容を認定。

Xの生活習慣及び基礎疾患
vs.
本件疾病の発症に一定程度寄与したといえるものの、
そららの状況に鑑みると、本件疾病は、Xの基礎疾患が、前記のとおりの過重な業務に伴う負荷によりその自然経過を超えて悪化して発症したものとみるのが相当。

前記基礎疾患等は本件疾病発症の業務起因性を否定する事情とはいえない
 

Y1がXを前記のような過重な業務に従事させたことについて、
Y1の安全配慮義務違反及び
Y2の悪意又は重過失による善管注意義務違反
をいずれも肯定。 
 

Xの損害について:
Xの基礎収入には1か月当たり4、5時間分の割増賃金を含めるのが相当。
休業損害、逸失利益等の損害額を認定
Xの基礎疾患の存在を考慮して2割の素因減額
判例時報2419

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2019年12月 3日 (火)

樹木の伐採作業に従事中の事故⇒雇用関係肯定⇒安全配慮義務違反(肯定)

岡山地裁倉敷支部H30.10.31    
 
<事案>
X1が地方公共団体であるYとの間の労務参加契約に基づき、樹木の伐採作業に従事。
同じく本件労務参加契約に基づき作業に従事していたZが伐倒した伐木が衝突し、X1が重度の後遺障害を負い、X1の妻であるX2及び子であるX3が多大な精神的苦痛を受けた

①X1が、Yに対し、安全配慮義務違反ないし使用者責任に基づき、損害賠償の支払を求めるとともに、
②X2及びX3が、Yに対し、近親者固有慰謝料の支払を求めた。 
 
<争点>
①Yの安全配慮義務違反の有無
②使用者責任の成否
③過失相殺の成否
④損害額
 
<判断・解説>
●雇用契約と請負契約の区別について 
◎ 安全配慮義務:ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として信義則上負う義務
必ずしも、直接の労働契約関係がある場合に限られるものではない。
but
請負契約の注文者が請負人に対して安全配慮義務を負うのは、特別な社会的接触の関係、すなわち雇用契約に準ずるような関係が認められる必要がある。

本件においては、本件労務参加契約(の実質)が、雇用契約に当たるか、請負契約に当たるかが議論された。

◎ 雇用契約と請負契約の区別:
労基法の「労働者」の判断基準を示した昭和60年の労働基準法研究会報告。
同基準:
労働者性の判断に当たっては、形式的な契約形式のいかんにかかわらず、
実質的な使用従属性を総合的に判断すべき。
①仕事の依頼への諾否の自由
②業務遂行上の指揮監督の有無
③時間的・場所的拘束性の有無
④代替性の有無
⑤報酬の労務対価性の有無
等を主要な判断要素とし、
⑥機械、器具の負担関係
⑦報酬の額
等を補足的な判断要素。
 
◎本件でのあてはめ 
本件労務参加契約には、雇用契約であることを基礎付ける事情として、
①Yが、実施作業日や作業時間の変更を指示、連絡⇒作業場所や作業時間の拘束性の程度はそれなりに高かった
②作業員らが業務を自由に断ることができたとは考えがたい
③作業員らは、適宜、Yの非常勤職員である公園の管理人から、作業場所や作業内容につき、おおまかな指示を受けており、これに従った作業に従事することが義務付けられていた
④作業時間と1日当たりの対価が定められており、報酬が出来高ではなく、時間に対する対価とされている
⑤原則的には作業に必要な道具は、Yが用意するものとされている

本件労務参加契約の法的性質は、雇用契約と解するのが相当
but
本判決では、むしろ請負契約であることと整合的な事情として、
①Yが、公園の整備にあたり、地元と協議する中で、地元地区が推薦した作業員に清掃や草刈、伐採等の作業を依頼するようになったという経緯
②Yの職員は、作業員らやYの非常勤職員である公園の管理人に、具体的な指示等をすることはなかった
③公演の管理人も、作業員らに、細かい指示を出すことはなかった
④天候の関係が作業ができない場合、作業員らの判断で、作業日が変更されることがあった
⑤X1は、事故当時、私物のチェーンソーを使用していた
等を指摘。
このような事情を重視すると、逆の結論をとる余地もあり得たとも解される。
 
●安全配慮義務違反について 
労働契約における安全配慮義務の内容:
一般に、
物的環境を整備する義務
人的環境に関する義務
と整理。

本判決:
Yは、作業員らに対してヘルメットなどを用意しておらず、作業員らがヘルメットを被らずに作業を行うことが常態化しているにもかかわらず、何ら必要な指示、指導を行っていない。
⇒①の物的環境を整備する義務違反を認めた。
Yは、本件労務参加契約は請負契約という見解に立脚⇒作業員らに一度講習を受けさせた以上のことを行っていない⇒本件労務参加契約が雇用契約に該当した場合に安全配慮義務違反が認められるか否かは大きな争点とはされていない

判例時報2419

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2019年11月15日 (金)

労契法20条での「その他の事情」が認められた事例

福岡高裁H30.11.29    
 
<事案>
労働契約に係る基本給の定めが有期労働契約であることによる不合理な労働条件であって、労契法20条及び公序良俗に違反するかが争われた事案。 
 
<規定> 
(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
労契法 第二〇条 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。
 
<原審>
Xが、Xとほぼ同じ勤務年数でXと同じ内容の業務を行っていると主張する5名の正規職員との比較において、業務内容やその範囲、業務量等において同等のものと評価できるだけの立証に乏しく、経歴や責任の程度においても異なり、Xと同様の業務を取り扱っているとの単純な比較をすることは困難

XとYの労働契約における賃金の定め方が労契法20条に違反すると認めることはできず、また、公序良俗にも反しないとして、Xの請求を棄却。
 
<判断>
Xが挙げる5名の正規職員の業務等と比較して、業務の内容やその範囲、業務量等がXと同等のものと認めるに足る証拠はない。
but
①臨時職員は、1月以上1年以内と期間を限定して雇用する職員で、Yにおいては、人員不足を一時的に補う目的で臨時職員の採用を開始し、臨時職員を長期間雇用することを採用当事者予定していなかったが、Xは、30年以上も臨時職員として雇用されたもので、この採用当時に予定していなかった雇用状態が生じたという事情は、当該有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かの判断において、労契法20条にいう「その他の事情」として考慮されることとなる事情に当たる。
②Xが比較対象として挙げる5名の正規職員のうち3名は、いずれも当初は、Xと類似した業務に携わり業務に対する習熟度を挙げるなどして採用から6年ないし10年で主任に昇格したが、30年以上の長期にわたり稼働を続け業務に対する習熟度を上げたXに対しては、人事院勧告に従った賃金の引き上げのみで、Xと学歴が同じ正規職員が、管理業務に携わるないし携わることができる地位である主任に昇格する前の賃金水準すら充たさず、現在では、同じ頃作用された正規職員との基本給の額に約2倍の格差が生じているという労働条件の相違は、同学歴の正規職員の主任昇格前の賃金水準を下回る限度において不合理であって、労契法20条に違反。

Xは、月額賃金の差額各3万円及びこれに対応する賞与に相当する損害を被ったとして、113万4000円及び遅延損害金の支払を求める限度でXの請求を認容。
 
<解説>
労契法20条は、有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件の相違は、
「職務の内容、職務内容と配慮の変更範囲、その他の事情」に照らして不合理と認められるものであってはならない旨規定し、
不合理と認められるもの」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものをいう(最高裁H30.6.1)。 

労働者側としては、自分が同じ労働条件を享受すべきであると考える無期契約労働者を選び出して、労働条件の相違が不合理であるとして、同条違反を主張するという形で争うのが一般的。

本判決:
Xが抽出した正規職員がXと業務の内容やその範囲、業務量等がXと同等のものと認めるに足る証拠はないなどとしながらも、
臨時職員を長期間雇用することは採用当事者予定していなかったもので、それに沿った賃金体系であったが、そのまま30年以上も雇用を継続し、著しい賃金格差が生じたことを「その他の事情」として評価したもの。

判例時報2417

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

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2019年11月 9日 (土)

パワハラ否定、安全配慮義務肯定の事案

徳島地裁H30.7.9    
 
<事案>
Y(ゆうちょ銀行)の従業員であったP2の相続人であるXが、Yに対し、P2が上司2名からパワハラを受けて自殺したと主張して、P2のYに対する使用者責任又は雇用契約上の義務違反による債務不履行責任に基づく損害賠償金合計8185万2175円及びこれに対するP2の死亡の日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
 
<争点>
①Yの使用者責任(Yの従業員によりP2に対するハラスメントの有無及びY2の従業員の前記ハラスメント防止措置の懈怠)及び債務不履行責任(Yの従業員による職場環境配慮義務違反)の有無
②P2の損害 
 
<判断>
争点①のうち、Yの使用者責任につき、
Xが主張するパワーハラスメントについて、P6及びP7のP2に対する一連の叱責が、業務上の指導の範囲を逸脱し、社会通念上違法なものであったとまでは認められない⇒P6及びP7がP2に対して不法行為責任を負うものではなく、Yも使用者責任を負うものではない。 

争点①のうち、Yの債務不履行責任について、
P2の上司のうちP3及びP5は、P2の体調不良や自殺願望の原因がYの従業員との人間関係に起因するものであることを容易に想定でき、
P3及びP5としては、前記のようなP2の執務状態を改善し、P2の心身に過度の負担が生じないように、同人の異動をも含めその対応を検討すべきであった
②P2の上司は、一時期、P2の担当業務を軽減したのみで、その他にはなんらの対応もしなかった

Yには、P2に対する安全配慮義務違反があった
 
<解説> 
●パワーハラスメント:
同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、
精神的・身体的苦痛を与える行為又は職場環境を悪化させる行為をいい、
その行為類型としては、
①暴行・傷害(身体的な攻撃)
②脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
③隔離・仲間はずし・無視(人間関係からの切り離し)
④業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
⑤業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じられることや仕事を与えないこと(過少な要求)
⑥私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)
があるとされている。
(職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」厚労省HP) 

上司の部下に対する指導等がパワーハラスメントに該当し違法といえるか否かの判断枠組みとしては、
当該行為が業務上の指導の範囲を逸脱し、社会通念上違法なものと評価できるかという観点から、違法性を判断している裁判例が見受けられる。
 
●本判決:
①P6及びP7が日常的にP2に対し強い口調の叱責を繰り返し、その際、P2を呼び捨てにするなどしていた。
②前記P6及びP7のP2に対する言動は、部下に対する指導としてはその相当性には疑問があるといわざるをえない。
but
③部下の書類作成のミスを指摘しその改善を求めることは、Yにおける社内ルール
④P2の上司であるP6及びP7の業務である、P2に対する叱責が日常的に継続したのは、P2が頻繁に書類作成上のミスを発生させたことによるものであって、証拠上、P6及びP7が何ら理由なくP2を叱責していたというような事情は認められず、P6及びP7のP2に対する具体的な発言内容はP2の人格的非難に及びものとまではいえない

P6及びP7のP2に対する指導自体は業務上相当な指導の範囲内であり、P6及びP7のP2に対する指導はP2に対するパワーハラスメントには該当せず、違法なものとはいえない
 

使用者の従業員に対する安全配慮義務につき、
判例(最高裁H12.3.24)は、
「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、
使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の右注意義務の内容に従って、その権限を行使すべきである」と判示。 

本判決も、P2の上司であるP3及びP5は、P2に対する安全配慮義務を負うとする。
①P3及びP5は、P2がP6及びP7から日常的に厳しい叱責を受け続ける状況を十分に認識していた
②P2が所属する職場の上司の部下に対する対応に問題がある旨の投書がなされただけでなく、P5は、P6やP7がP2に対する不満を述べていることも現に知っていた
③P2は、死亡時にいたC2センターに赴任後わずか数カ月で、別の部署への異動を希望し、その後も継続的に異動を続けていたが、同センターに赴任後の2年間で体重が約15kgも減少するなどP5が気に掛けるほどP2が体調不良の状態であることは明らかであった
④平成27年3月には、P5は別の社員からP2が死にたがっているなどと知らされていた

P2の上司であるP3やP5としては、前記のようなP2の執務状態を改善し、P2の心身に過度の負担が生じないように、同人の異動も含めその対応を検討すべきであった

P3及びP5がその義務を怠ったとして、Yの安全配慮義務違反を認めた

判例時報2416

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
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