労働

2017年11月11日 (土)

高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の改正附則の趣旨に反し、継続雇用の機会を与えたとは認められず違法とされた事例

名古屋高裁H28.9.28      
 
<事案>
Y1社においては、60歳定年制が採用され、労使協定の定める再雇用の選定基準を満たした者に対しては、スキルドパートナーとして定年後再雇用者就業規則に定める職務を提示(雇用期間は最長5年)
当該基準を満たさない者に対しては、パートタイマー就業規則に定める職務(雇用期間は1年間)を提示。 

Xは、Y1社に対し、
スキルドパートナーとして再雇用を拒否する旨の通告は違法であり無効スキルドパートナーとしての雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認及び同地位に基づく未払賃金等及び遅延損害金の支払を求め(請求①)
パートタイマーとしての1年間の清掃業務等の雇用条件を提示したことが、雇用契約上の債務不履行又は不法行為に当たる⇒慰謝料200万円および遅延損害金の支払を求め(請求②)
③Y1の代表取締役であるY2に対して、会社法429条1項ないし債務不履行に基づく損害賠償として、慰謝料500万円及び遅延損害金の支払(請求③)
を求めた。
 
<原審>
いずれも棄却。 
 
<判断>

請求①及び請求③の棄却は相当。
請求②は一部認容。 


高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(「高年法」)においては、従前、継続雇用の対象者を労使協定の定める基準(「継続雇用基準」)で限定できる仕組み
⇒平成24年改正で、この仕組みが廃止される一方、改正附則(経過措置)において、従前から労使協定で継続雇用基準を定めていた事業者については当該仕組みを残すこととしつつ、この法律の施行の日から平成28年3月31日までの間については、継続雇用基準は61歳以上の者を対象とするものに限る旨の定め。

60歳の定年後、再雇用されない男性の一部に生じ得る無年金・無収入の空白期間を埋めて、無年金・無収入の期間の発生を防ぐために、老齢厚生年金の報酬比例部分の受給開始年齢に到達した以降の者に限定して、労使協定で定める基準を用いることができるとした。

事業者においては、労使協定で定めた継続雇用基準を満たさないため基準適用開始年齢(61歳)以降の継続雇用が認められない従業員についても、60歳から61歳までの1年間は、その全員に対して継続雇用の機会を適正に与えるべきであって、提示した労働条件が、無年金・無収入の期間の発生を防ぐという趣旨に照らして到底容認できないような低額の給与水準であったり、社会通念に照らし当該労働者にとって到底受け入れ難いような職務内容を提示するなど実質的に継続雇用の機会を与えたとは認められない場合、当該事業者の対応は高年法改正の趣旨に明らかに反する


給与水準:
Y1社が提示した給与水準によれば、Xの老齢厚生年金の報酬比例部分の約85%の収入が得られる⇒高年法改正の趣旨に反するものではない。

職務内容:
前記の高年法改正の趣旨⇒従前の職務とは全く別個の職種に属するなど性質の異なった職務内容を提示した場合には、もはや継続雇用の実質を欠く
⇒従前の職務全般について適格性を欠くなど通常解雇を相当とする事情がない限り、そのような業務内容を提示することは許されない⇒事務職であったXに対して清掃業務等を提示したことは、高年法改正の趣旨に反して違法であると判示。
 
<規定>
高年法 第9条(高年齢者雇用確保措置)
定年(六十五歳未満のものに限る。以下この条において同じ。)の定めをしている事業主は、その雇用する高年齢者の六十五歳までの安定した雇用を確保するため次の各号に掲げる措置(以下「高年齢者雇用確保措置」という。)のいずれかを講じなければならない。
一 当該定年の引上げ
二 継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度をいう。以下同じ。)の導入
三 当該定年の定めの廃止

2 継続雇用制度には、事業主が、特殊関係事業主(当該事業主の経営を実質的に支配することが可能となる関係にある事業主その他の当該事業主と特殊の関係のある事業主として厚生労働省令で定める事業主をいう。以下この項において同じ。)との間で、当該事業主の雇用する高年齢者であつてその定年後に雇用されることを希望するものをその定年後に当該特殊関係事業主が引き続いて雇用することを約する契約を締結し、当該契約に基づき当該高年齢者の雇用を確保する制度が含まれるものとする。
 
<解説> 
●高年法の経過措置は、基準適用開始年齢(61歳)以上の者を対象とする労使協定の定める継続雇用基準によって継続雇用の可否を判断することを認めているが、定年から61歳までの勤務については何ら触れていない。

高年法改正を踏まえた定年後の勤務のあり方:
①継続雇用基準を満たすか否かの問題
継続雇用基準を満たさない労働者の定年後61歳までの労働条件のあり方の問題

①の問題:
当該労働者が高年法9条1項2号における継続雇用基準を満たしており、嘱託雇用契約の終了後も継続雇用規定に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係が存続しているものとみるのが相当とする最高裁判例(H24.11.29)等

②の問題:
定年後の労働⇒労働条件の設定について広く裁量を認めて欲しいという要望(使用者側)
給与水準の面及び職務内容の面で、定年前と同程度のもの、あるいは継続雇用が認められた労働者と同程度のものを期待(労働者側)
 
●本判決は、Y1社のように継続雇用を認めるか否かを60歳に達する前の時点で判断し、継続雇用が認められた労働者をとそれ以外の労働者との間で、60歳から基準適用開始年齢(61歳)までの勤務条件に大きな差異が生じること自体を違法と判示するものではない。
but
高年法改正の経過措置によれば、基準適用開始年齢は62歳、63歳、64歳と順次変更

①勤務条件に大きな差異が生ずる期間がより長期になるという問題
② 継続雇用の可否を判断する時期と基準適用開始年連との時間的ずれがより大きくなるという問題
が顕在化。

高年法9条1項につき私法上の効力を否定する裁判例もあるが、
少なくとも高年法の趣旨を実現するための継続雇用基準やそれに対応した就業規則が制定されている場合には、高年法上の違法が、継続雇用基準や就業規則を通じて私法上の義務違反にも繋がると考えられる。

判例時報2342

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真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

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2017年11月 9日 (木)

コンビニ店長の精神障害発病による自殺と業務起因性(肯定事例)

東京高裁H28.9.1      
 
<事案>
Xは、その子A(コンビニ店長)が過重な業務に従事したことで精神障害発病して自殺⇒処分行政庁に対し、労働者災害補償保険法に基づく遺族補償一時金及び葬祭料を請求⇒処分行政庁は、労働基準法施行規則別表第1の2第9号に定める疾病にかかっていないとして、不支給の処分⇒XはY(国)に対し、本件処分の取消しを求めた。 
 
<争点>
自殺の業務起因性が認められるか 
 
<原審>
適応障害の発病は認めつつ、自殺の業務起因性を否定⇒Xの請求を棄却。 
 
<判断>
自殺の業務起因性を肯定⇒原判決を取り消し、本件処分を取り消し。

Aが店舗の配置転換を含む店舗の業績、人事管理、人間関係等に悩み、長時間の時間外労働に連続して従事し、自らの限界を感じて自信を喪失し、次第に追い詰められた心境になり、睡眠障や食慾不振等の症状が2週間以上の期間にわたって持続
中等症うつ病エピソードの診断基準に合致
労基則別表第1の2第9号に該当する精神障害を発病。

①発病時期から6ヶ月間の時間外労働は平均して70時間程度であるが、遡って6ヶ月こえる時期には毎月概ね120時間を超え、時期によっては160時間を超える場合もあり、発病時期前の1年間の長時間労働は相当に過酷で、心理的負荷の程度は相当に強度なものであった。
20日間にわたる連続勤務を行っていた。
ノルマによる心理的負荷の程度も決して小さくはなかった。
心理的負荷の強度の全体評価は「強」に当たる。

その他業務以外の心理的負荷及び固体側要因は認められない

本件精神障害の発病には業務起因が認められ、その影響下で自殺に至った
 
<解説>
労基則別表第1の2第9号「人の生命にかかわる事故への遭遇その他心理的に過度の負担を与える事象を伴う業務による精神及び行動の障害又はこれに付随する疾病」に該当するかは、
平成11年9月14日基発第544号「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について」を基準にしてきたが、その後
平成23年12月26日基発1226第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準について」に認定基準が改められた。 

精神障害を発病していること、
発病前おおむね6か月間に業務による強い心理的負荷が認められること、
業務以外の心理的負荷及び個体側要因により発病したとは認められないこと
を認定要件とする。

判例時報2342

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2017年10月20日 (金)

給与規定変更による給与の減額に伴う退職金の減額について、変更に合理性があるとされた事例

大阪地裁H28.10.25      
 
<事案>
退職金規程及びその前提となる給与規程の改訂により、退職金が減額⇒原告X1~X5が差額退職金の支払を請求。
被告Yは、学校法人であり中学、高校、通信制高校を運営。
XらはいずれもYの元教員であり35年程度の勤務の後、平成27年、28年に定年退職した者(定年退職後、シニア講師としてYに就労)。 

Yは平成25年5月、新たな人事制度を導入し、給与規則と退職金支給規則を改訂(但し、退職金制度について実質的な変更はない)するとともに退職年金制度を廃止。

Yは平成13年度から消費支出超過を続けており、同17年以降は帰属収支においても大幅な支出超過⇒大幅な経費削減を行わなければ早晩経営破たんするとして、平成25年5月、月額給与を8万円程度引き下げ、これに伴って退職金は85~90%程度に減額
 
<規定>
労働契約法 第9条(就業規則による労働契約の内容の変更)
使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。

労働契約法 第10条
使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。
 
<判断>
●本事案は、退職金の計算基礎となる「基本給の額が減額となったことによるもの」で「新人事制度全体を踏まえて検討する必要がある」

①変更の必要性、②不利益の程度、③内容の相当性、④労働組合等の交渉状況を検討。 
 
●変更の必要性 
府下私立学校における退職給与引当率の平均値、日本私立学校振興・共同事業団「自己診断チェックリスト」における帰属収支差額費率、積立率、流動比率の評価や管理職手当の減額、理事の減員、役員手当のカットなどを認定

その経営状況は危機的なものであったとし、末期的な状況になってからでは遅いともいえると判示。
 
●不利益の程度 
Xらの請求額は300~400万円であるが、「不利益の程度は大きい」と認定。
 
●内容の相当性 
①基本給減額について経過措置(初年度95%、2年目90%、3年目85%の補償)が採られたこと、②新人事制度導入前に退職したと仮定した場合の退職金と、新人事制度導入後の退職金とを比較し、高い方の金額で支払ったことなど、一定の激変緩和措置を設けていることを認定。
公益財団法人大阪府私学総連合会の退職金事業における支給率と比較⇒「同一地域内において高いもの」

変更後の内容は相当
 
●労働組合等との交渉
①財政破綻のおそれがあることについては7年前から説明
②平成23年12月以降、教職員及び組合に対して情報(決算概要等)や改革案を適宜提示し、組合要求の資料を開示し、交渉においても強硬な態度をとることなく対応してきた。

Yの本件組合あるいは教職員に対する説明の内容・態度は適切なものであった。


本件変更については、
これにより被るXらの不利益は大きいものではあるが、
他方で、
変更を行うべき高度の必要性が認められ、
変更後の内容も相当であり、
本件組合等との交渉・説明も行われてきており
その態度も誠実なものであるといえる

本件変更は合理的なものであると認められる。 
 
<解説>
就業規則による労働条件の不利益変更の効力は、労働契約法9条、10条に、実定法化。 

判例時報2340

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2017年9月 4日 (月)

賃金規則上の定めが公序良俗に違反するとの原審の判断に違法があるとされた事例

最高裁H29.2.28      
 
<事案>
Y社(上告人)に雇用され、タクシー乗務員として勤務したX(被上告人)らが、歩合給の計算に当たり残業手当等に相当する金額を控除する旨を定めるYの賃金規則上の定めが無効であり、Yは、控除された残業手当等に相当する金額の賃金の支払い義務を負うと主張し、Yに対し、未払賃金等の支払を求める事案。

本件で特に問題とされているのは、本件賃金規則のうち歩合給(1)に関する定めであり、乗務員に支払われる歩合給(1)につき、次のとおり規定
対象額A(揚高(売上高)から一定額を控除し、控除後の額に一定割合を乗じたもの)-(割増金(深夜手当、残業手当及び公出手当の合計)+交通費)
 
<主張>
Xらは、本件規定は、歩合給の計算に当たり、対象額Aから割増金及び交通費に相当する額を控除するものとしているところ、これによれば、割増金と交通費の合計額が対象額Aを上回る場合を別にして、揚高(売上高)が同額である限り、時間外労働等をしていた場合もしていなかった場合も乗務員に支払われる賃金は同額になる⇒このような定める労基法37条を潜脱するものであると指摘。
 
<規定>
労基法 第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
使用者が、第三十三条又は前条第一項の規
定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

労基法 第13条(この法律違反の契約) 
この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、この法律で定める基準による
 
<争点>
①本件規定の有効性
②遅延損害金の利率
③付加金の支払を命じることの可否及び相当性
 
<原審>
本件規定のうち歩合給の計算に当たり対象額Aから割増金に相当する額を控除する部分は労基法37条の趣旨に反し、ひいては公序良俗に反するものとして無効⇒対象額Aから割増金に相当する額を控除することなく歩合給を計算すべき。

請求を一部認容
 
<判断>
労基法37条は、時間外、休日及び深夜の割増賃金の支払義務を定めているところ、割増賃金の算定方法は、同条並びに政令及び厚生労働省令に具体的に定められている。

使用者が、労働者に対し、時間外労働等の対価として労基法37条の定める割増賃金を支払ったとすることができるか否かを判断するには、労働契約における賃金の定めにつき、それが通常の労働時間の賃金に当たる部分とに判別することができるか否かを検討した上で、そのような判別をすることができる場合に、割増賃金として支払われた金額が、通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として、労基法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かを検討すべき。

他方において、労基法37条は、労働契約における通常の労働時間の賃金をどのように定めるかについて特に規定をしていない
⇒労働契約において売上高等の一定割合に相当する金額から同条に割増賃金に相当する額を控除したものを通常の労働時間の賃金とする旨が定められていた場合に、当該定めに基づく割増賃金の支払が同条の定める割増賃金の支払といえるか否かは問題となり得るものの、
当該定めが当然に同条の趣旨に反するものとして公序良俗に反し、無効であると解することはできない
but
原審は、本件規定のうち歩合給の計算に当たり対象額Aから割増金に相当する額を控除している部分が労基法37条の趣旨に反し、公序良俗に反し無効であると判断するのみで、
①本件賃金規則における賃金の定めにつき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができるか否か、また、
②そのような判別をすることができる場合に、本件賃金規則に基づいて割増賃金として支払われた金額が労基法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かについて審理判断することなく、Xらの未払賃金の請求を一部認容すべきとした。

原審の判断には、割増賃金に関する法令の解釈適用を誤った結果、前記の点について審理を尽くさなかった違法がある。
 
<解説>   
●労基法における割増賃金制度の概要 
労基法37条は時間外、休日及び深夜の割増賃金の支払義務を規定。
その趣旨は、時間外・休日労働は通常の労働時間又は労働日に賦課された特別の労働⇒それに対して一定額の補償をさせることと、時間外労働に係る使用者の経済的負担を増加させることによって時間外・休日労働を抑制すること。

割増賃金の算定方法については、労基法37条、労基法37条1甲の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令、労働基準法施行規則19条に定められている。
割増賃金を支払うべき時間外労働とは、労基法32条又は40条に規定する労働時間(法定労働時間)を超える労働であり、休日労働とは同法35条に規定する休日(法定休日)における労働。

就業規則等に定められた所定労働時間を超える労働で法定労働時間内にとどまるもの(いわゆる法内残業)については、労基法上は割増賃金を支払う義務はなく、就業規則等に定められた法令休日以外の休日(いわゆる所定休日)についても同様。
 
●労基法37条等所定の算定方法とは異なる割増賃金の算定方法の取扱い 
労基法37条は、同法所定の割増賃金の支払いを義務付けるにとどまり、同条所定の計算方法を用いることまで義務付ける規定ではない。
使用者が労基法37条等所定の算定方法と異なる割増賃金の算定方法を採用すること自体は適法

その上で、労基法37条等所定の算定方法と異なる割増賃金の算定方法が採用されている事案においては、その算定方法に基づく割増賃金の支払により、労基法37条等所定の割増賃金の支払をされたといえるかが論じられる。

従前の最高裁判例(最高裁H6.6.13、最高裁24.3.8):
労基法37条等所定の計算方法によらずに割増賃金を算定し、これに基づいて割増賃金を支給すること自体は直ちに違法とはいえないことを前提に、
①通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができることを要件とした上で(「判別要件」)、そのような判別がでく場合に、
②割増賃金として支払われた金額が、通常の労働時間の賃金相当部分とされる金額を基礎として、労基法所定の計算方法により研鑽した割増賃金の額を下回らないか否かを検討して、労基法37条等に定める割増賃金の支払がされたといえるか否かを判断。

上記判例法理に沿った見当をするに当たっては、賃金規則等において支払うとされている「手当」等が割増賃金、すなわち時間外労働等に対する対価の趣旨で支払われるものである必要。
当該「手当」等がそのような趣旨で支払われるものと認められない場合には、そもそも割増賃金に当たるとはいえず、判別要件を充足するか否かを検討する前提を欠くことになる。
使用者の賃金規則等において通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができるか否かは、個別の賃金規則等の内容に即して判断せざるを得ない⇒一般的は判断基準を定立することは容易ではない。
but
①労基法37条等が割増賃金の算定方法を具体的に定めている
②従前の最高裁判例の判示内容

少なくとも、「基本給(歩合給)に割増賃金が含まれる。」といった抽象的な定めを置くのみでは足りず、賃金規則等に定められた計算式等により、支給された総賃金のうち割増賃金とされた金額を具体的に算定することが可能であり、かつ、その割増賃金に適用される「基礎賃金の一時間当たり金額(残業単価)」を具体的に算定することが可能であることが必要
 
● 労基法37条等は割増賃金の算定方法を具体的に定めており、割増賃金の算定方法を具体的に定めており、割増賃金の支払方法が同条等に適合するか否かは客観的に判断が可能

端的に当該賃金の定めが労基法37条等に違反する否かを検討し、仮に同条に違反するのであれば、その限度で当該賃金の定めが同法13条により無効となり、労基法37条等所定の基準により割増賃金の支払義務を負うとすれば足りる。

殊更に公序良俗に違反するかいなっかを問題とする必要はない。
 
● 仮に、本件規定が労基法37条に違反するものとしてその効力が否定されると解し得る場合の法的効果?

労基法37条に違反するとしてその効力を否定⇒当該賃金規則等に定められている通常賃金と割増賃金との区別の全部又は一部が無効となると解した上で、当該賃金規則等において割増賃金とされている部分を通常賃金として取り扱う。

当該賃金規則等に定められている割増賃金を通常賃金に振り替える取り扱いをするもの。
but
労働契約の内容が労基法に違反する場合の法的効果は、同法13条により規律され、同条は、労働契約のうち同法に違反する部分のみを無効とし(強行的効力)、無効とされた部分につき、同法所定の基準を契約内容として補充するもの(直律的効力)と解されているところ、賃金規則等における割増賃金を通常賃金に振り替えるという取り扱いをすることが、この強行的効力や直律的効力によるものであると理解することができるかについては慎重な検討を要する。

労基法37条は、使用者に対し、法内時間外労働や法定外休日労働に対する割増賃金を支払う義務を課しておらず、使用者がこのような労働の対価として割増賃金を支払う義務を負うか否かは専ら労働契約の定めに委ねられている。

Xらに割増賃金として支払われた金額が労基法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かについて審理判断するに当たっては、Xらの時間外労働等のうち法内時間外労働や法定外休日労働に当たる部分とそれ以外の部分とを区別する必要がある。

●本判決は、賃金規則において歩合給の計算に当たり、売上高等の一定割合に相当する金額から残業手当等に相当する金額を控除する旨の定めがされているという事案において、そのような定めを含む賃金規定に基づく割増賃金の支払により、労基法37条等所定の割増賃金の支払がされたといえるかを検討するに当たって、そのよな定めが当然に公序良俗に違反するとして無効であるとすることができないとした事例判断。 

判例時報2335

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2017年8月21日 (月)

賃金減額協定による賃金減額が認められなかった事例

大阪高裁H28.10.26      
 
<事案>
Yの従業員であるXらが、Yは平成23年8月から10月に支払う賃金について一方的に減額してその一部を支払っただけ⇒Yに対し、未払賃金と遅延損害金の支払を求め、
一部のXらは、賃金を支払わないことが不法行為に該当するとして、予備的に不法行為に基づく損害賠償金の支払を求めた。 

<争点>
(1)
14パーセント減額協定が就業規則の変更等としてXらに効力を及ぼすか、
14パーセント減額協定に対応する合意がXらとYとの間で個別に成立し、個別合意として効力を及ぼすか、
14パーセント減額協定が労働協約としてXらに効力を及ぼすか
(2)
14パーセント減額協定の効力がXらに及ばない場合、Xらの賃金はいくらか 
 
<判断>
●争点(1)について
①14パーセント減額協定は就業規則ないしそれに準ずるものとしてXらに効力を及ぼすとは認められない
②14パーセント減額協定に対応する合意がXらとYとの間で個別に成立したとは認められない
③14パーセント減額協定はYとA労働組合関西地方C支部が確認書を作成した時点で労働協約として効力を生じたと認めるのが相当であるが、C支部Y分会を脱退したXらについては労働協約としての効力は及ばない

①就業規則を変更する場合には、その内容の適用を受ける事業場の労働者が就業規則の内容を知り得る状態に置かれていることを要すると解するのが相当
②控訴人が就業規則の変更とみるべきと主張する社内報には、賃金改定の内容や説明が記載されているものの、それが就業規則の変更となる旨の説明はない上、交渉結果の報告等を交えたものとなっていることからすると、就業規則の体裁も整っていない

前記社内報は、協定内容等の説明文書の域を超えるものとはいえず、前記社内報に賃金改定の内容等が記載されていることによって、従前の就業規則が変更されたとみることはできない。

労使慣行(C支部との協議あるいは従業員との意見交換を踏まえた上で、社内報による周知により賃金改定を行う)の主張も否定

①労使慣行は、就業規則、労働協約などの成文の規範に基づかない集団的な取扱いが長い間反復・継続して行われ、それが使用者と労働者の双方に対して事実上の行為準則として機能する場合の問題であり、成文の規範であり所定の手続が必要とされる就業規則の変更の効力がこのような労使慣行により直ちに生じるものとは認め難い
②本件においては、およそ社内報による周知等によって賃金改定の法的効力が生じているとは評価し難く、労使ともに社内報による周知によって賃金の改定が実施されたと理解していたものとも認め難い
 
●争点(2)について 
Xらは、基本給協定、9パーセント減額協定及び逓増初任給協定に基づいて算定した賃金の支払を受ける権利を有している。
 
<規定> 
労契法 第7条
労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。

民法 第92条(任意規定と異なる慣習)
法令中の公の秩序に関しない規定と異なる慣習がある場合において、法律行為の当事者がその慣習による意思を有しているものと認められるときは、その慣習に従う。
 
<解説>
●就業規則が法的拘束力を有するにはいかなる手続が必要か
最高裁H15.10.10(フジ興産事件):
就業規則が法的規範としての性質を有するものとして、拘束力を生ずるためには、その内容を、適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要するものというべきであると判示し、労契法7条においてもその旨を規定。
内規の形で労働組合に提示された退職功労金の支給基準について、体裁、手続面などを検討し、同基準自体は就業規則の一部ではないと判断した大阪高裁H27.9.29

●労使慣行について 
最高裁H7.3.9:
労使慣行が長期間にわたって反復継続して行われ、
②労使双方がこれを明示的に排除しておらず
労使双方、特に使用者の規範意識によって支えられている場合
には、「事実たる慣習」(民法92条)としてその法的効力を認める

判例時報2333

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2017年8月 9日 (水)

公立学校教員の懲戒免職処分及び退職手当支給制限処分が取り消された事案

札幌高裁H28.11.18      
 
<事案>
処分庁が設置する公立学校の教員であったXが、ソフトウエアの違法コピーをインターネット上で販売したという非違行為を理由に、懲戒免職処分及び退職手当支給制限処分を受けた⇒本件各処分は、いずれも処分庁が有する裁量権の範囲を逸脱し又はそれを濫用したものであると主張し、処分庁の所属するYを相手に、本件各処分の取消しを求めた事案。 
 
<原審>
公立学校教員の懲戒処分にかかる先例である伝習館事件上告審判決(最高裁H2.1.18)を参照しつつ、公務員の懲戒処分は、「社会観念上著しく妥当を欠き、懲戒権者が、その裁量権の範囲を逸脱し、又はそれを濫用してしたものであると認められる場合に限り、違法となる」という判断枠組みの下、
①Xの非違行為は、地方公務員法上の懲戒事由に該当し、職務外の行為ではあるものの、 「高い倫理と廉潔性が求められる」教員にとって重大な非違行為であり、Yの地方教育行政に対する社会的信頼も著しく低下させられた
②窃盗との材質の近似性

内部的な懲戒処分の指針に従って免職処分としたことはYの裁量権の範囲を逸脱し、又は裁量権を濫用したものとは認められない。
 
<判断>
前記伝習館事件上告審判決に加え、公務員の懲戒処分にかかる先例である神戸税関事件上告審事件(最高裁昭和52.12.20)を参照しつつ、
一審と同様、「社会観念上著しく妥当を欠き、懲戒権者が、その裁量権の範囲を逸脱し、又はそれを濫用してしたものであると認められる場合に限り、違法となる」という判断枠組みの下、
Xの非違行為は、地方公務員法上の懲戒事由に該当するとし、懲戒処分の選択に当たって内部的な指針に従うことが相当と判断。
but
①Xの非違行為について、窃盗との罪質の近似性を否定し、極めて重大な非違行為であるとまでは言えないと判断。
②本件非違行為は職務外の行為であり、Xが本件非違行為をしたことによって、Yの教育公務員が遂行する地方教育行政に係る職務に対し、・・・社会全体が有する信頼が著しく低下したとまで認めることはできない
③本件非違行為の発覚前後や処分前後におけるXの勤務状況や態度

教員としての地位を失わせる免職処分は「社会観念上著しく妥当性を欠き、処分行政庁がその裁量権の範囲を逸脱したものとしうべき」
と判断。
 
<解説>
一般の民間労働者に関して、使用者は、労働契約上の付随義務である企業秩序順守義務の違反について、規則の定めるところに従い制裁として労働者に懲戒処分を科すことができる
そして、当該懲戒処分に関しては、労働契約法15条に基づき、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」か否かの司法審査に服する。

労働契約法 第15条(懲戒)
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

● Xのような公務員に関しては、国家公務員法82条1項ないし地方公務員法29条1項に基づいて、法律上、任命権者が懲戒処分を科すことができるが、任用関係である公務員に対して、労働契約法は適法されない(同法22条1項)。 

労働契約法 第22条(適用除外)
この法律は、国家公務員及び地方公務員については、適用しない。
2 この法律は、使用者が同居の親族のみを使用する場合の労働契約については、適用しない。

公務員の懲戒処分の適否に関しては、労働契約法の制定後も、前掲神戸税関事件上告審事件が設定した判例上の判断枠組みに従って、「社会観念上著しく妥当を欠」くか否かという観点から、裁量権の逸脱ないし濫用の有無が審査。

民間労働者の場合、使用者は、労働遂行に関係する限りで労働者の行動を規制する権限を有するに過ぎない
本件のような私生活上の非行について当然に制裁を科す権限を有していない

そこでは、私生活上の非行をもって懲戒すること自体は可能と解されているものの、懲戒の可否・適否をめぐっては、「当該行為の性質、情状、会社の事業の種類・態様・規模、従業員の会社における地位・職種等諸般の事情を考慮して、企業の社会的評価の毀損の有無」を「厳格に審査」すべきものと考えられている。 

本件のような公務員の私生活上の非行に関しては、やはり任命権者が懲戒処分を科すること自体は可能と解されているものの、私生活上の非行であることにより民間労働者のような制約が生じるのか明らかでない。

民間労働者の場合懲戒処分として行われる解雇(懲戒解雇)に関しては、当該処分に伴う有形・無形重大な不利益に鑑みて、その適法性が特に厳格に判断されている。

公務員の場合にも、懲戒処分として行われる免職(懲戒免職)に関しては、公務員たる地位を失わせる重大な結果をもたらすことに鑑みて、特に慎重な配慮を要するものと解されている。

判例時報2332

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2017年7月30日 (日)

高年齢者雇用安定法に基づく継続雇用制度によって採用された有期雇用労働者と労契法20条違反(原審肯定・控訴審否定)

東京高裁H28.11.2      
 
<事案>
運送業を営むY社(被告・控訴人)において所定の定年年齢を迎え、高年齢者雇用安定法9条に基づく継続雇用制度によって採用された有期雇用労働者X(原告・被控訴人)について、Y社の嘱託社員就業規則に基づき、期間の定めのない労働契約を締結した正社員労働者と全く異なる賃金体系が適用⇒定年前よりも賃金が引き下げられたことを受け、Xが、当該賃金の差異を労契法20条違反であると主張し、正社員労働者と同一の権利を有する法的地位にあることの確認などを求めた。
 
<規定>
労働契約法 第20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない
 
<原審>
本件における賃金の差異を「期間の定めがあることによ」る差異と認めた上で、労契法20条が禁止する「不合理と認められる」労働条件の差異か否かを判断するに当たっては、条文上の考慮要素である、①職務の内容、②職務の内容及び配慮の変更の範囲、③その他の事情を総合考慮するとしつつ、
通常の労働者と同視すべきパート労働者にかかる均等待遇義務を規定したパート労働者9条の要件との対比という発想を持ち出して、
前記①及び②の各事情が同一である場合には、「特段の事情がない限り、不合理であるとの評価を免れない」という判断枠組みを設定。

本件では、①及び②が同一であるとし、「特段の事情」の有無を審査し、結論として本件における賃金の差異を、全体として労契法20条違反とした
 
<判断>
本件における賃金の差異を「期間の定めがあることによ」る差異と認めた上で、
労契法20条違反の成否については、前記①ないし③を「幅広く総合的に考慮して判断すべき」とする判断枠組みを設定。

前記①及び②は「正社員とおおむね同じである」としつつ、高年齢者雇用安定法によって義務づけられた雇用確保措置の趣旨や継続雇用制度の位置づけからして、「定年後継続雇用者の賃金を定年時により引き下げることそれ自体が不合理であるということはできない」とする理解を示した。

労働政策研究・研修機構の調査報告書の記載を元に、「控訴人が属する業種又は規模の企業を含めて、定年の前後で職務の内容・・・並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲・・・が変わらないまま相当程度賃金を引き下げることは、広く行われているところであると認められる」という認識を示し、たとえ新入社員よりも賃金水準が低くなっているとしても、統計資料による平均減額率や運輸業の赤字が推測されることに照らすと、「年収ベースで二割前後賃金が低額になっていることが直ちに不合理であるとは認められ」ず、「(手当の増減などによって、)正社員との賃金の差額を縮める努力をしたことに照らせば、個別の諸手当の支給の趣旨を考慮しても、なお不支給や支給額が低いことが不合理であるとは認められない」と判示。

高年齢者雇用安定法の継続雇用制度において、「職務内容やその変更の範囲等が(定年前と)同一であるとしても、賃金が下がることは、広く行われていることであり、社会的にも容認されている」とし、労働組合との団体交渉の結果として労働条件の改善が見られることも「考慮すべき」として、労契法20条違反の成立を否定

判例時報2331

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2017年7月19日 (水)

消防吏員に対する懲戒処分が取り消された事例

東京高裁H28.6.30      
 
<事案>
Y(大和市)の消防吏員として勤務していたXが、Yの消防庁から平成24年11月30日付で懲戒停職6月の処分⇒その取消しを求めた。 
 
<原審>
●Xの行為が横領に該当するか 
標準貸与期間を徒過した貸与品についても、Yの所有物であり、X自身の廃棄処分にするか退職時に返還するかを委ねられているにすぎず、X・Y間の貸与品に係る委託関係は継続
⇒インターネットオークションに出品・売却することは、上記委託の趣旨に反してYの所有物を不法に領得したもの⇒横領に該当。
 
●本件処分が裁量権の逸脱濫用に当たるか 
最高裁判決(最高裁昭和52.12.20)を参照し、懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべきであったかどうか又はいかなる処分を選択すべきであったかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきではなく、
懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会通念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を逸脱しこれを濫用したと認められる場合に限り処分が違法であると判断すべき。
具体的な考慮要素として、
①本件行為の原因、動機、②本件行為の性質、③本件行為の態様、影響、④本件行為の結果を検討。

①は強く非難されるべき、
②は、Yの貸与品の管理状況に鑑みれば、「委託関係に反した点における違法ないし非行の程度は軽いもの」であり、
③は、本件行為が「消防吏員としての職務遂行に直接関わるものでなく」、「公務に対する信用を直ちに失墜させるおそれがあったものとはいえ」ず、
④は、Yに「経済的損失はなかった

本件行為は、「横領の類型の中では、かなり軽い部類に属するものというべき」。

Xは過去に非違行為や懲戒処分を受けたことがない

本件処分は、「重きに失し、社会通念上著しく相当性を欠」き、Y職員の懲戒処分に関する指針に照らしても、本件処分は「裁量権の範囲を逸脱し、これを濫用したものとして違法」
 
<判断>
原判決を基本的に支持し、控訴棄却。
原判決に補足し、
①Yにおける貸与品亡失届出書の提出件数は少なく、「損傷等した貸与品の届け出をするかどうかは、貸与を受けた者の自由に任されていた」こと
②編上げ靴は、一般に販売されているもの
③「標準貸与期間が経過した本件編上げ靴は、その時点で、一段と・・委託関係が緩やかになったと見ることができ」、Xにおいて「自らの判断により破棄することも可能であった物品という意味では、私物に近い存在であった」
④Xは、「当初から職務に使用する意思がなく、インターネットオークションに出品、売却して利益を得る意図のもとに貸与を受けたものではな」く、計画的、意図的な行為ではない

違法ないし避難の程度は軽く、違反の程度は軽微」である。
 
<解説>
公務員の懲戒処分の裁量権濫用をめぐる判断に関しては、
「社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合」に処分が違法となるのが判例であるが、
本件では、とりわけ「処分の相当性」が主な争点となった。 

編上げ靴についての横領の成立は認めつつも、前記のYの貸与品管理状況等から、標準貸与期間が経過している貸与品の横領については、違反の程度が軽微であるとして、本件処分は重すぎると判断

判例時報2330

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2017年7月18日 (火)

私立大学の教員にかかる期間1年の有期労働契約が、更新限度期間(3年)の満了後に期間の定めのないものとなったか?(否定)

最高裁H28.12.1      
 
<事案>
Yとの間で期間1年の有期労働契約を締結し、Yの運営する短期大学で講師として勤務していたXが、Yによる雇止めは無効であると主張

Y2を相手に、
①労働契約上の地位の確認及び
②雇止め後の賃金の支払
を求めた事案。
 
<事実>
Xは、平成23年4月1日、Yとの間で、Yの契約職員規程(「本件規程」)に基づき、契約期間を同日から平成24年3月31日までとする有期労働契約を締結し、Yの運営する短期大学の講師として勤務。
 
本件規程には、契約職員の更新限度期間が3年であり、
契約職員のうち、勤務成績を考慮し、Yがその者の任用を必要と認め、かつ、当該契約職員が希望した場合は、
契約期間が満了するときに、期間の定めのない職種に異動することができる旨の定め
。 

Y⇒Xに、平成24年3月、同月末で本件労働契約を終了する旨を通知。
Xは、同年11月、本件訴えを提起。
Y⇒Xに、平成25年2月、仮に平成24年3月末で終了していないとしても、平成25年3月末で本件労働契約を終了する旨を通知。
Y⇒Xに、平成26年1月に、契約期間の更新限度は3年であるので、仮に本件労働契約が終了していないとしても、同年3月末で本件労働契約を終了する旨を通知。
 
<規定>
労働契約法 第19条(有期労働契約の更新等)
有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす
一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。
 
<判断>
本件労働契約が3年の更新限度期間の満了後に無期労働契約となったとはいえず、同契約が同期間の満了をもって終了した旨判断。 
 
<解説>
●雇止め法理と労契法19条 
有期労働契約は、契約期間の満了により当然に終了するのが原則。
but
判例上
①有期労働契約があたかも無期労働契約と実質的に異ならない状態で存在している場合、又は
②労働者において期間満了後も雇用契約が継続されるものと期待することに合理性が認められる場合
解雇権濫用法理が類推適用され、当該労働契約の雇止めは、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められないときには効力を否定すべき。

平成24年改正により、労契法19条として明文化。
 
●有期労働契約の無期労働契約への転換(労契法18条) 
労契法の平成24年改正で、有期労働契約の無期労働契約への転換の規定が新設。

同法18条は、
①同一の使用者の下で有期労働契約が更新されて通算契約期間が5年を超える場合に、
労働者が無期労働契約への転換の申込みをすれば、
使用者がその申込みを承諾したものとみなされ、無期労働契約が成立。

有期労働契約の濫用的利用を抑制し、労働者の雇用の安定を図る観点から、従来の判例法理にない規制原理を新たに創設したもの。

無期労働契約への転換が可能となるための通算契約期間については、大学の教員等の任期に関する法律の改正により、大学の教員等に係る通算契約期間を10年とする特例(同法7条1項)が規定。

労契法18条は、その施行日(平成25年4月1日)以後の日を契約期間の初日とする有期労働契約について適用され、施行日前の日が初日である同契約の契約期間は通算契約期間には算入されない
 
●労働契約における期間の定めと試用期間との関係 
試用期間:正規従業員としての適格性を判定するため、使用者が労働者を本採用前に試みに使用する期間であり、

判例は、試用期間中の労働関係について(個々の事案ごとに判断する必要があることに留意しつつも)解約権留保付労働契約であると解している。

新規採用時の労働契約における期間の定めが、実際には試用期間を意味するとされる場合。
最高裁H2.6.5:
私立高校に1年の契約期間で雇われた「常勤講師」の期間満了による雇止めの効力が争われた事件において、使用者が労働者を新規に採用するに当たり、その雇用契約に期間を設けた場合において、
その設けた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは、期間の満了により雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き
同期間は契約の存続期間ではなく、無期労働契約下における試用期間(解約権留保期間)と解すべき。
 
●有期労働契約が無期労働契約となる場合 
A:当該有期労働契約が、更新限度期間の満了時に当然に無期労働契約となることを内容とするものであったと解釈できる場合。
B:労契法18条による場合。
C:民法629条1項により黙示に更新された労働契約。

雇止め法理有期労働契約の更新の場合に適用されるものとして形成、確立されてきたものであり、これを利益状況の大きく異なる無期労働契約への転換の場面に直ちに借用できないのは明らか

判例時報2330

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2017年7月 4日 (火)

大学の専任教員の定年後の再雇用拒否につき、労契法19条2号が類推適用された事例

東京地裁H28.11.30      
 
<事案> 
被告:大学等を設置する学校法人
原告:被告との間で機関の定めのない労働契約(「本件契約」)を締結し、平成18年4月1日から平成27年3月31日まで、同大学総合政策学部の専任教員として勤務し、定年を迎えた者。 
 
被告の就業規則において、専任教員の定年は、満65歳に達した日の属する学年度の末日と規定。
この特例として、「理事会が必要と認めたときは、定年に達した専任教員に、満70歳を限度として勤務を委嘱することができる。」との専任教員の定年に関する特別規定。
これまで定年後も引続き勤務を希望する専任教員については、本件規程に基づき、特例専任教員として、70歳まで1年間ごとの嘱託契約を締結。
but
原告は再雇用契約を拒否された。
 
<主張>
原告は、
主位的に
①本件契約には定年を70歳とする合意が存在する
②定年を70歳とする労使慣行が存在する
と主張し、
予備的に
③本件契約には専任教員として65歳の定年になった後、70歳まで特別選任教員として再雇用する旨の合意が存在する、
④仮に①から③までの合意や慣行が存在しなかったとしても、原告には、定年後70歳まで特別専任教員として本件再雇用契約が締結されるものと期待することについて合理的な理由があるといえるから、雇止め法理が類推適用される。

被告に対し、特別専任教員としての労働契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求めた。
 
<判断>
主張①について:
原告が被告との間で、被告の就業規則と異なる70歳定年制の合意をしたものと認めることはできない。

主張②について:
①本件規程が形骸化しているとはいえない
②本件再雇用契約を締結しした教員は希望者の全員とはいえ15年間で7名にとどまる
70歳定年制の労使慣行が事実たる慣習(民法92条)として成立しているとはいえない。

主張③について:
被告が、大学教員としての勤務実績のない原告を採用する際に、定年後(9年後)の再雇用を予め確約しておくことは、社会通念上考え難い
70歳まで特別専任教員として再雇用する旨の合意が成立しているとはいえない

主張④について:
(1)
原告の採用を担当した理事が70歳までの雇用が保障される旨の説明をしており、
②採用決定後の説明会においても、事務担当者が、就業規則を示しながら定年後は70歳まではほぼ自動的に勤務を委嘱することになる旨説明

これらの言動は、本件再雇用契約締結に対する期待を相当持たせる言動
(2)平成26年8月までの間、本件再雇用契約の締結を希望した専任教員の全員が再雇用契約を締結して70歳まで契約更新を繰り返してきた

原告において、定年後、本件再雇用契約が締結されると期待することが合理的

労契法19条2号を類推適用し、津田電気計器事件(最高裁H24.11.29)を参照した上で、本件再雇用契約の成立を認め、原告の請求を認容。
 
<規定>
労働契約法 第19条(有期労働契約の更新等)
有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。

二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

労働契約法 第7条
労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。
 
<解説>
●津田電気計器事件:
①継続雇用制度(高年法9条1項2号における継続雇用基準(同条2項))を満たしていた労働者が、定年後に終結した嘱託雇用契約の終了後も雇用が継続されるものと期待することに合理的な理由があると認められるときは、特段の事情のない限り、使用者において再雇用を拒否することは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められず、
②嘱託雇用契約終了後も継続雇用規程に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係が存続しているものとみるのが相当であり、その期限や賃金、労働時間等の労働条件については継続雇用規程の定めに従うことになる。

津田電気計器事件は、高年法の適用があり継続雇用基準を満たしている事案。
本件事案は、65歳以降の再雇用の問題であり、高年法の適用がなく、再雇用基準(本件規程)に使用者の裁量が認められている点が津田電気計器事件と異なる。

●高年法が求める定年が65歳
⇒本件規程のような使用者に一定の裁量を与える形の就業規則を設けたとしても、合理性のある条項として有効(労契法7条)。
⇒再雇用の採否は、原則として、使用者の裁量に委ねられ、使用者による再雇用拒否が違法となるのは例外的な場合。

仮に違法となる場合には、使用者に対し、①不法行為に基づく損害賠償請求を求めることが考えられ、さらに、②再雇用契約上の地位確認まで求めることができるか、その理論構成や津田電気計器事件の射程距離が問題。
 
● 本件契約は、有期労働契約ではなく、定年によって終了したものであるが、
本判決は、
労契法19条2号の趣旨が、定年後も再雇用されて雇用が継続されるものとの合理的な期待が存在する場面でもあてはまると判断して、労契法19条2号の類推適用を肯定するするとともに、
②その結果生ずる法律関係については、津田電気計器事件の考え方を参考にして、再雇用契約の成立を認めたもの。 

判例時報2328

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