労働

2018年3月23日 (金)

日雇派遣の派遣元・紹介元および派遣先・紹介先への損害賠償請求(否定)

さいたま地裁川越支部H29.5.11      
 
<事案>
Xは、日雇派遣労働者としてY1に登録し、複数の派遣先での就労後に、平成24年9月頃からY2 に派遣され、同年10月からはY1により日々の職業紹介のもとY2で雇用され就労。

Xが
Yらに対して、
①日雇派遣や日々紹介という不安定なかたちでXを供給しており、職安法44条等に違反
②労基法6条等に違反する中間搾取をした
③Xの賃金から振込手数料を控除し、労基法24条の賃金全額払の原則に違反
④職安法44条に違反してXを待機させ、Xに対して、Y2での就労に期待を抱かせながらその機会を奪った

Y1に対して
⑤訴外A運送での派遣就労に関し、Y1はXと派遣契約を締結したにも関わらず一方的にキャンセル

それぞれ、民法709条、719条1項にもとづき
慰謝料300万円等の支払を求めた。
 
<規定>
職業安定法 第四四条(労働者供給事業の禁止)
何人も、次条に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない。

第6条(中間搾取の排除) 
何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。

<判断>
●争点① 
職安法は行政上の取締法規⇒同法違反から直ちに労働者の具体的な法律上保護されるべき利益は損なわれない。
Xは、Y1に登録して派遣ないし紹介によりY2で稼働して、各労働契約に基づき賃金の支払を受けている⇒Xに不利益は生じていない
 
●争点② 
①Y1が労働者派遣事業ないし職業紹介事業の許可を得て適法に日雇派遣及び日々紹介を行っている
②「Y1がY2から得ている手数料は、労働者派遣ないし労働者紹介の対価

賃金からの中間搾取とはいえない
 
●争点③ 
①Yらでは、労働者が申請した場合に、就労した日の所定労働時間医対応する賃金から税・保険料を控除した金額を翌日に受け取る「即給サービス」があり、その場合、金融機関の振込手数料が控除される
②YらがXに対し即給サービスを利用させたことを認めるに足りる証拠は存在せず、即給サービスが労働者にもメリットがある制度
Xは、自らの意思でこれを利用しており、労基法24条に違反しない
 
●争点④ 
Y1は、XをY2のセンターへ日々紹介することに関連して、欠員に備え、センター内の食堂で午前8時20分から午前9時20分までの間、待機を内容とする労働契約を締結することがあった。
センターで欠員⇒待機労働者とY2との間で午前9時から午後5時まで業務に従事すること等を内容とする労働契約が締結され、各労働契約には20分間の重複。

本判決:
供給元であるY1とXとの間及び供給先供給先であるY2とXとの間に同時に雇用関係が存在すること
待機労働者が実際に作業を行う場所の決定をY1の担当者が行っていたことは、Y1と待機労働者の間に支配従属関係がある
点で、職安法44条違反
but
①職安法は行政上の取締法規
②労働契約の重複が20分
③待機を内容とするY1との間の労働契約について、待機のまま就労しても賃金と交通費が支払われ、また、作業内容が告知されている
④Xは、待機してもY2のセンターで就労できない場合があることや、実作業に従事する場合の概ねの業務内容を理解していた
⑤労働契約が重複していても各労働契約どおり賃金が支払われていた

Yに法律上の不利益が生じたとは認められない
 
●争点⑤ 
Y1による4回の派遣就労のキャンセルが問題
①いずれもXに対し代替の派遣先が用意されたり、休業手当の支払はないとしつつ、「日雇派遣である以上、派遣先の都合によるキャンセルが発生する可能性がないとはいえないことは、派遣元としても派遣社員としても理解」している
②XとY1では、専らメールで派遣先や労働条件の連絡がされ、Xはこれによる集合時間、集合場所等を把握していたこと
③4回のキャンセルの連絡後も、Y1は派遣元として代替派遣先を提供する姿勢をXに示した一方、Xはその旨のメールを見ず電話にでもでなかったこと
④Y1は、その後もXに派遣業務の紹介を継続的に行っていた

不法行為を構成するとまではいえない
 
<解説>
裁判例では、いわゆる偽装請負(派遣法違反)のケースで直ちに不法行為責任を基礎づけない⇒個々の事情をふまえて判断するのが趨勢(名古屋高裁H25.1.25(三菱電機事件)等)。
本件では、職安法44条との関係でも同旨の判断が示された。 

日々の派遣労働契約の締結後の派遣元により一方的なキャンセル、「即給サービス」での振込手数料の控除をめぐっては、
休業手当(労基法26条)や賃金全額払いの原則(同24条)との関係が問題となり得る。
前者との関係では、有期の派遣労働契約が締結⇒その中途解約にはやむを得ない理由が必要(労契法17条)で、その間の不就労について民法536条2項や労基法26条が問題となる。
労基法24条との関係で、判例でも、退職金からの合意相殺が賃金全額払いの原則に違反するかが問題となったケースで、こうした同意が「労働者の自由な意思に基づいてされたものだえると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき」に労基法24条違反でないとした例(最高裁H2.11.26)。
but
本件は、Yらの不法行為責任が問題
本判決の柔軟な判断もこうした観点から評価すべき

判例時報2355

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2018年3月21日 (水)

求人票記載の労働条件と労働契約

京都地裁H29.3.30      
 
<事案>
Y(被告)に雇用されていたX(原告)が、

主位的
には、求人票の記載通り当事者間の労働契約は期間の定めがないものであったところ、被告がした解雇は無効であると主張し、

予備的
には、当事者間の労働契約が期間の定めのあるものであったとしても被告がした雇止めは無効であり従前の労働契約が更新されたと主張し、

①原告が被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、
②解雇または雇止めの日の翌日から本判決確定の日までの賃金請求及び遅延損害金の支払、
③解雇または雇止めがXに対する不法行為を構成するとして損害賠償及び遅延損害金の支払
を求めた事案。
 
<争点>
①本件労働契約が期間の定めのない契約か
②XがYに請求し得る未払賃金額
③YのXに対する不法行為の成否及び損害額
 
<判断>
●争点①について
求職者は当然に求人票記載の労働条件が労働契約となることを前提に労働契約締結の申込みをする⇒求人票記載の労働条件は、当事者間においてこれと異なる別段の合意をするなどの特段の事情のない限り、労働契約の内容となると解するのが相当。
①求人票上は期間の定めがないこと、定年制がないこと、雇用期間の始期が記載されていたこと
②採用面接における説明内容

期間の定めがない労働契約が成立

◎労働条件通知書(期間の定めと定年制あり)への原告の署名押印により既に成立している労働契約の内容が変更されたか? 

就業規則による労働条件の不利益変更に労働者の同意がある場合に関する山梨県民信用組合事件(最高裁H28.2.19)を引用し、
使用者が提示した労働条件の変更が重要な労働条件の変更である場合には、当該変更に対する労働者の同意の有無についての判断は慎重になされるべきであり、
同意の有無については、当該労働者の受け入れる旨の行為だけではなく、諸般の事情に照らして、労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも判断されるべき。

期間の定めの有無は契約の安定性の観点から、
定年制の有無も原告の当時の年齢から
それぞれ賃金と同様に重要な労働条件。
②労働条件通知書への署名押印に際して、被告代表者からは、求人票と異なる労働条件とする旨やその理由を明らかにして説明したとは認められず
被告代表者がそれを提示した時点で原告は既に従前の就業先を退職して被告での就労を開始しており、これを拒否すると仕事がなくなり収入が断たれると考え署名押印
前記原告の署名押印が原告の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在しない

労働条件の変更について原告の同意がないものと判断。

期限の定めや定年制がない労働契約であって、本件契約の終了は認められないとして、原告の労働契約上の地位を認めた。

●争点②について 
原告が被告から就労を拒否された後に他の職について利益を得た点について、平均賃金の4割の範囲で賃金から控除。
 
●争点③について 
労働契約上の地位が確認され未払賃金が支払われることで原告の不利益は填補される⇒不法行為の成立は否定

判例時報2355

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2018年2月28日 (水)

MLC契約に基づく在日米軍基地労働者に対し、国が行った解雇が違法とされた事例

東京高裁H29.2.23       
 
<事案>
Y(国)との間のMLC契約(国が労働者を雇用するが、その労務を在日米軍及び諸機関に提供する契約)に基づき、横須賀基地内で勤務していたXが、
米軍から平成12年から平成23年にかけて部下に対し8件のパワーハラスメントをしたことを理由に、順次、休業手当身分措置、暫定出勤停止措置の対象とされた後、解雇

前記各措置はいずれも要件を欠き無効であるとして、Yに対し、
①労働契約上の地位の確認
②本件各措置に基づき出勤を禁止された期間の未払賃金及び未払賞与の支払、
③解雇後の賃金及び賞与の支払、
④本件各措置は違法な公権力の行使に当たるとして民法709条及び国賠法1条に基づき慰謝料金100万円の支払
をそれぞれ求めた。 
 
<規定>
民法 第536条(債務者の危険負担等)
前二条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。
2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない
 
<判断>
●8件のパワーハラスメントは認められない

本件解雇は無効

● 本件休業手当身分措置が調査妨害等の支障を避けるために必要かつ合理的な措置であったとしても、就労義務がないとはいえ一方的に賃金が減額される点でXに不利益な処分

本件休業手当身分措置において、後日、嫌疑がなかったことが認められる場合は「債権者の責めに帰すべき事由」に当たり、Xは休業手当の額を超える部分の賃金請求権を失わない

● 本件暫定出勤停止措置が、国賠法上違法となるか否かについて、
・・・日本側の担当者としてゃ、MLCの前記規定に従い、減給を伴う暫定出勤停止措置の長期化が炉同社に重大な不利益を与えるものであることを考慮して、日本側の調査終了後は日米間の協議を早期に終了させ、協議が整わなかった場合には速やかに日米合同委員会の決定に委ねるべきであったにもかかわらず、日米合同委員会に付託されることがないままXは解雇されている。

日本側の担当者は職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく本件暫定出勤停止措置を継続
①本件暫定出勤停止措置及び本件解雇は、単にMLCが規定する要件を満たさない無効なものであるだけでなく、
通常想定される協議の期間を大幅に超過したため、暫定出勤停止期間が長期に及び、Xに大きな不利益を与えた
②本件解雇は解雇事由の証拠が乏しく日本側と米国側で意見が分かれる状態で行われたことなどの事情によれば、本件暫定出勤停止措置及び本件解雇が無効とされ地位確認と未払賃金の支払を命じただけではXの精神的苦痛は回復されない

慰謝料50万円の請求を認容

●予備的請求にかかる中間利益控除について、
①中間利益の控除は、労働者が使用者に対する労務の提供を免れたことにより他の職について収入を得た場合に、使用者からの収入と他の職について得た収入を二重に取得することを否定するもの。
MLCにその定めがあるかどうかにかかわらず、中間利益の控除は許される
②本件解雇が国賠法上違法と評価されるものであったとしても、それによりXが解雇されなかった場合以上の利益を受けることを肯定する理由はない

出勤停止期間中と解雇後口頭弁論終結時までの間、Xが就労して得た給与を中間利益として控除
 
<解説>
賃金請求権を失わない場合、その期間、労働者が他の職について得た収入を中間利益として控除することが可能かどうか、民法536条2項後段に「この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない」と定めがあることから問題。
この点、労働者が就労を免れた期間中に他の職について利益(「中間利益」)を得たときは、使用者は、労働者に同期間中の賃金を支払うに当たり、平均賃金の6割を超える部分から当該賃金の支給対象期間と時間的に対応する期間内に得た中間利益の額を控除することが許され、また、
中間利益の額が平均賃金の4割を超える場合には、更に平均賃金算定の基礎に算入されない賃金(労基法12条4項所定の賃金)の全額を対象として中間利益の額を控除することが許されるものと解されている。
(判例)

判例時報2354

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2018年1月30日 (火)

私立大学における自社年金規程の不利益変更の事例(有効)

東京地裁H29.7.6      
 
<事案>
大学等を運営する学校法人であるYが、昭和37年4月に創設した事前積立方式の確定給付型年金制度において、年金財政が危機的な状況⇒平成23年4月に正との改定を実施。 
これによって年金給付が減額されたYの元職員であった年金受給者である14名がその改定の無効を主張し、改定前の年金を受給しうる地位にあることの確認と減額分の支払を請求した事案。
 
<判断>
●本件年金給付の賃金後払い的性格を否定し、教職員に対する恩恵的給付、功労報償としての性質や、教職員の相互扶助としての性質を有する制度であると評価できる⇒Xらの権利性に関する主張を退ける。

●本件年金制度を契約関係と捉えた上で、
その契約内容は年金規程等によって一律に規律されることが予定されており、
Yは同年金規程の減額条項を根拠として、その内容に従い合理的と考えられる範囲内で年金給付額を減額することができる。

●本件改定について:
①死亡率計算の前提となる平均余命が大きく伸びており
②Yが平成20年8月に従来の国民生命表から厚生年金生命表に入れ替えたのも適切
③Yが予定利率を同月以降従前の4%から3.5%に引き下げたのも低金利状況の中での運用実績等からして十分な理由がある

前記年金規程の減額条項にいう計算基礎率の「著しい変動」に該当し、合理的な範囲内で給付額を減額する事情が認められる。
本件改定は、受給額の段階的な兵器10.4%の引下げであり、受給者に対する一定の配慮もなされており、Yの教職員の高水準の退職金等からしても、本件減額は相当性を有する。

●改定続要件について、
本件年金細目の規定内容を理由に、具体的なシミュレーション等による説明は不可欠とはいえない⇒その瑕疵を否定。 
 
<解説>
本判決:
年金受給権の法的性格について、恩恵的給付、功労報償、相互扶助等の性格を強調しており、その権利性に触れるところがない
but
仮にそのような性格が含まれるとしても、年金受給権が年金規程に基づいて既に具体的に発生した権利としていの性格を有することも否定できない

松下電器産業事件控訴審判決(大阪高裁H18.11.28)の判示するように、
その不利益変更は本来信義則に反するものであり、その変更を実質的に基礎付ける「経済情勢の変動」の程度を検討、減額改定の程度も最低限度のものであることの検討が求められる。 

本判決は、年金財政の悪化等から被告の「方針転換」の必要性を肯定し、死亡率・予定利率の「著しい変動」を認定して受給者に対する「合理的な範囲での負担」を求めている。
but
本件年金減額の程度が年金財政の改善として必要かつ合理的な範囲かどうかの、将来予測等による具体的な検討が欠けている

Y法人本体の財政状態については、Yの拠出責任の判断とは別に考慮すべき要素と考えられる。

制度趣旨が類似する確定給付企業年金については、
確定給付企業年金法において給付額引き下げを内容とする規約の変更には行政庁の承認が必要であり、その承認の要件として、実施事業所の経営の状況が悪化したこと等が必要とされている。
同法の適用対象外である自主年金についても参照されてよい。

判例時報2351

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2018年1月29日 (月)

タクシー会社の乗務員の雇止めの事例(有効)

札幌地裁H29.3.28      
 
<事案>
Yに雇用され、タクシー乗務員として勤務していたXが、Yが行った雇止め又は解雇が無効及び違法であると主張し、
労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求め、
不法行為に基づき、本件雇止め等以降の賃金相当損害金の支払を求めた事案。 
 
<争点>
①XとYとの間の労働契約が、期間の定めのない労働契約か、期間の定めのある労働契約か
②本件労働契約が、期間の定めのある労働契約の場合、本件労働契約は、労契法19条1号又は同条2号に該当するか
③本件雇止め等は有効か
④本件雇止め等には、不法行為が成立するか 
 
<規定>
労働契約法 第19条(有期労働契約の更新等)
有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。
 
<判断>
●争点①について 
Xに対し交付されたY作成の労働条件通知書(嘱託乗務員)及びXが署名押印しY代表者が記名押印した嘱託乗務員雇用契約書に、期間の定めがあること又は契約期間が明確に記載されていること

Xもこれらのことを十分に認識した上で本件労働契約を締結したものとみることができる

本件労働契約は期間の定めのある労働契約
 
●争点②について 
Xは雇用期間を6か月とする有期労働契約が2回更新されたにとどまる
⇒本件労働契約は労契法19条1号には該当しない

①嘱託乗務員雇用契約書の契約の更新の欄に「会社が特に必要と認めた場合契約の更新をすることもある。」との記載
②労働条件通知書(嘱託乗務員)の「契約の更新はしない」との記載についてのY側の認識
③YからYの労働組合に対する契約の更新についての説明等

Xにおいて、期間満了時に、本件労働契約が更新されると期待することは、その程度は強くないものの、合理的な理由がある

本件労働契約は労契法19条2号に該当
 
●争点③について 
本件雇止めが、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとき」に該当するか?

①Xの勤務成績が極めて悪かった
②Xの勤務方法が一般的な又は勤務成績の良いY乗務員と異なっていた
③Xの勤務成績及び勤務方法について改善可能性がなかった
④Xは雇用期間を6か月とする有期労働契約が2回更新されたにとどまっていた

本件雇止めには、客観的合理性も社会通念上の相当性も認められる

本件雇止めが不当労働行為(労組法7条1号)に該当するか?

本件雇止めに先だって行われていたYとYの労働組合との間の賃金体系についての団体交渉又は事後折衝の経緯等に照らすと、Yは、本件雇止めについて、反組合的意図をも有してたとも考え得る
but
①X以外にも勤務成績等を理由に本件雇止め以前に雇止めされた嘱託社員が1人いた
②X以外にはXの所属するC労働組合の組合員で雇止めされた者は見当たらない
③Xは、勤務成績が極めて悪く、勤務方法が一般的な又は勤務成績と良いY乗務員と異なっており、勤務成績及び勤務方法について改善可能性がないといえる状況であった
④YのC労働組合及びyの労働組合に対する嫌悪の存在をうかがわせるような事情が認められない

本件雇止めの主たる理由又は動機は、Xの勤務成績及び勤務方法並びにそれらの改善可能性にあったと認めるのが相当であり、
反組合的意図が決定的な理由又は動機であったと認めることはできず
また、XのC労働組合への所属又はXの組合活動がなかったならば本件雇止めがなされなかったであろうと認めることもできない

本件雇止めは不当労働行為に該当しない

本件雇止めは有効
 
●争点④:
本件雇止めは有効⇒本件雇止めには、不法行為が成立しない。

判例時報2351

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2018年1月28日 (日)

医師の時間外労働等に対する割増賃金を年俸に含める旨の合意と割増賃金の支払

最高裁H29.7.7      
 
<事案>
医療法人であるYに雇用されていた医師であるXが、
Yに対し、
Xの解雇は無効であるとして、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求めるとともに、
時間外労働及び深夜労働に対する割増賃金並びにこれに係る賦課金の支払等を求める事案。 
 
<事実>
Xは、平成24年4月、医療法人であるYとの間で、雇用契約を締結。
本件雇用契約に係る契約書には、
①年俸を1700万円とし、年俸は、本給(月額86万円)、諸手当(月額合計34万1000円。ただし同月分のみ初月調整8000円を加算)及び賞与(本給3か月分相当額を基準として成績で勘案)により構成
②時間外勤務に対する給与は、Yの医師時間外勤務給与規程の定めによること等を規定。 

本件時間外規程は、
時間外手当の対象を原則として病院収入に直接貢献する業務又は必要不可欠な緊急業務に限ること、
通常業務の延長とみなされる業務は時間外手当の対象とならないこと
等を規定。

本件雇用契約において、本件時間外規程に基づき支払われるもの以外の時間外労働等に対する割増賃金は年俸1700万円に含まれることが合意されていたが、前記年俸のうち時間外労働等に対する割増賃金に当たる部分は明らかにされていなかった
 
<原審>
本件時間外規程に基づき実際に支払われたもの(一審が深夜労働等に対する割増賃金として支払を命じた部分を除く)以外の割増賃金は、Xの月額給与及び当直手当に含めて支払われたものということができる

Xの請求をいずれも棄却。 
 
<判断>
Xの年俸のうち時間外労働等に対する割増賃金に当たる部分が明らかにされておらず、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分を判別することができない

当該年俸の支払により、時間外労働等に対する割増賃金が支払われたということはできない

原判決中、割増賃金及び付加金に関する部分を破棄し、同部分につき、本件を東京高等裁判所に差し戻した。
 
<規定>
労基法 第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
・・・
 
<解説> 
●労基法37条は、時間外、休日及び深夜の割増賃金の支払義務を規定
⇒使用者が基本給や諸手当にあらかじめ含める方法により割増賃金を支払う場合(いわゆる固定残業代制)、これによる同条の定める割増賃金の支払がされたといえるかが問題となる。 

従前の最高裁:
通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができることを要件とた上で、
そのような判別ができる場合に、
割増賃金として支払われた金額が、通常の労働時間の賃金相当部分とされる金額を基礎として労基法所定の計算方法により計算した割増賃金の額を下回らないか否かを検討して、同法37条の定める割増賃金の支払がされたといえるか否かを判断
 
●年俸制:
単に労働に従事した時間をもとに賃金を支払うのではなく、労働者の具体的な成果、業績を評価して賃金を支払おうとするもの。

年俸制自体に労働時間規制を免れさせる効果があるわけではなく、管理監督者(労基法41条2号)又は裁量労働制(同法38条の3、38条の4)の要件を満たさない限り、使用者は、同法所定の割増賃金を支払うべき義務がある
。 

年俸制における割増賃金の計算:
労基法施行規則19条1項5号が規定。
行政実務上、確定年俸制については、確定年俸制の12分の1を基礎月額として計算。
年俸制における賞与を割増賃金の算定基礎から除外できるか否かについては、確定年俸額の一部を賞与月に多く配分するにすぎない場合には、当該賞与を基礎賃金から除外できない。(平成12年3月8日基収78号)
年俸制における賞与を割増賃金の算定基礎に含めて計算した下級審判例もある。
 
●本判決は、医療法人とその雇用する医師との間で、年俸制の下で割増賃金を月額給与に含める本件合意がされているという事実関係の下において、労基法37条の趣旨等を踏まえ、従前の判例法理を再確認し、判別要件を満たさなければ、同条の定める賃金を支払ったとういことはできないとしたもの

尚、原審は、Xの年俸制を認定しながら、Xの深夜労働等に対する割増賃金の計算は賞与を含まない給与月額を基礎としている⇒議論があり得る。

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2017年11月11日 (土)

高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の改正附則の趣旨に反し、継続雇用の機会を与えたとは認められず違法とされた事例

名古屋高裁H28.9.28      
 
<事案>
Y1社においては、60歳定年制が採用され、労使協定の定める再雇用の選定基準を満たした者に対しては、スキルドパートナーとして定年後再雇用者就業規則に定める職務を提示(雇用期間は最長5年)
当該基準を満たさない者に対しては、パートタイマー就業規則に定める職務(雇用期間は1年間)を提示。 

Xは、Y1社に対し、
スキルドパートナーとして再雇用を拒否する旨の通告は違法であり無効スキルドパートナーとしての雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認及び同地位に基づく未払賃金等及び遅延損害金の支払を求め(請求①)
パートタイマーとしての1年間の清掃業務等の雇用条件を提示したことが、雇用契約上の債務不履行又は不法行為に当たる⇒慰謝料200万円および遅延損害金の支払を求め(請求②)
③Y1の代表取締役であるY2に対して、会社法429条1項ないし債務不履行に基づく損害賠償として、慰謝料500万円及び遅延損害金の支払(請求③)
を求めた。
 
<原審>
いずれも棄却。 
 
<判断>

請求①及び請求③の棄却は相当。
請求②は一部認容。 


高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(「高年法」)においては、従前、継続雇用の対象者を労使協定の定める基準(「継続雇用基準」)で限定できる仕組み
⇒平成24年改正で、この仕組みが廃止される一方、改正附則(経過措置)において、従前から労使協定で継続雇用基準を定めていた事業者については当該仕組みを残すこととしつつ、この法律の施行の日から平成28年3月31日までの間については、継続雇用基準は61歳以上の者を対象とするものに限る旨の定め。

60歳の定年後、再雇用されない男性の一部に生じ得る無年金・無収入の空白期間を埋めて、無年金・無収入の期間の発生を防ぐために、老齢厚生年金の報酬比例部分の受給開始年齢に到達した以降の者に限定して、労使協定で定める基準を用いることができるとした。

事業者においては、労使協定で定めた継続雇用基準を満たさないため基準適用開始年齢(61歳)以降の継続雇用が認められない従業員についても、60歳から61歳までの1年間は、その全員に対して継続雇用の機会を適正に与えるべきであって、提示した労働条件が、無年金・無収入の期間の発生を防ぐという趣旨に照らして到底容認できないような低額の給与水準であったり、社会通念に照らし当該労働者にとって到底受け入れ難いような職務内容を提示するなど実質的に継続雇用の機会を与えたとは認められない場合、当該事業者の対応は高年法改正の趣旨に明らかに反する


給与水準:
Y1社が提示した給与水準によれば、Xの老齢厚生年金の報酬比例部分の約85%の収入が得られる⇒高年法改正の趣旨に反するものではない。

職務内容:
前記の高年法改正の趣旨⇒従前の職務とは全く別個の職種に属するなど性質の異なった職務内容を提示した場合には、もはや継続雇用の実質を欠く
⇒従前の職務全般について適格性を欠くなど通常解雇を相当とする事情がない限り、そのような業務内容を提示することは許されない⇒事務職であったXに対して清掃業務等を提示したことは、高年法改正の趣旨に反して違法であると判示。
 
<規定>
高年法 第9条(高年齢者雇用確保措置)
定年(六十五歳未満のものに限る。以下この条において同じ。)の定めをしている事業主は、その雇用する高年齢者の六十五歳までの安定した雇用を確保するため次の各号に掲げる措置(以下「高年齢者雇用確保措置」という。)のいずれかを講じなければならない。
一 当該定年の引上げ
二 継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度をいう。以下同じ。)の導入
三 当該定年の定めの廃止

2 継続雇用制度には、事業主が、特殊関係事業主(当該事業主の経営を実質的に支配することが可能となる関係にある事業主その他の当該事業主と特殊の関係のある事業主として厚生労働省令で定める事業主をいう。以下この項において同じ。)との間で、当該事業主の雇用する高年齢者であつてその定年後に雇用されることを希望するものをその定年後に当該特殊関係事業主が引き続いて雇用することを約する契約を締結し、当該契約に基づき当該高年齢者の雇用を確保する制度が含まれるものとする。
 
<解説> 
●高年法の経過措置は、基準適用開始年齢(61歳)以上の者を対象とする労使協定の定める継続雇用基準によって継続雇用の可否を判断することを認めているが、定年から61歳までの勤務については何ら触れていない。

高年法改正を踏まえた定年後の勤務のあり方:
①継続雇用基準を満たすか否かの問題
継続雇用基準を満たさない労働者の定年後61歳までの労働条件のあり方の問題

①の問題:
当該労働者が高年法9条1項2号における継続雇用基準を満たしており、嘱託雇用契約の終了後も継続雇用規定に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係が存続しているものとみるのが相当とする最高裁判例(H24.11.29)等

②の問題:
定年後の労働⇒労働条件の設定について広く裁量を認めて欲しいという要望(使用者側)
給与水準の面及び職務内容の面で、定年前と同程度のもの、あるいは継続雇用が認められた労働者と同程度のものを期待(労働者側)
 
●本判決は、Y1社のように継続雇用を認めるか否かを60歳に達する前の時点で判断し、継続雇用が認められた労働者をとそれ以外の労働者との間で、60歳から基準適用開始年齢(61歳)までの勤務条件に大きな差異が生じること自体を違法と判示するものではない。
but
高年法改正の経過措置によれば、基準適用開始年齢は62歳、63歳、64歳と順次変更

①勤務条件に大きな差異が生ずる期間がより長期になるという問題
② 継続雇用の可否を判断する時期と基準適用開始年連との時間的ずれがより大きくなるという問題
が顕在化。

高年法9条1項につき私法上の効力を否定する裁判例もあるが、
少なくとも高年法の趣旨を実現するための継続雇用基準やそれに対応した就業規則が制定されている場合には、高年法上の違法が、継続雇用基準や就業規則を通じて私法上の義務違反にも繋がると考えられる。

判例時報2342

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2017年11月 9日 (木)

コンビニ店長の精神障害発病による自殺と業務起因性(肯定事例)

東京高裁H28.9.1      
 
<事案>
Xは、その子A(コンビニ店長)が過重な業務に従事したことで精神障害発病して自殺⇒処分行政庁に対し、労働者災害補償保険法に基づく遺族補償一時金及び葬祭料を請求⇒処分行政庁は、労働基準法施行規則別表第1の2第9号に定める疾病にかかっていないとして、不支給の処分⇒XはY(国)に対し、本件処分の取消しを求めた。 
 
<争点>
自殺の業務起因性が認められるか 
 
<原審>
適応障害の発病は認めつつ、自殺の業務起因性を否定⇒Xの請求を棄却。 
 
<判断>
自殺の業務起因性を肯定⇒原判決を取り消し、本件処分を取り消し。

Aが店舗の配置転換を含む店舗の業績、人事管理、人間関係等に悩み、長時間の時間外労働に連続して従事し、自らの限界を感じて自信を喪失し、次第に追い詰められた心境になり、睡眠障や食慾不振等の症状が2週間以上の期間にわたって持続
中等症うつ病エピソードの診断基準に合致
労基則別表第1の2第9号に該当する精神障害を発病。

①発病時期から6ヶ月間の時間外労働は平均して70時間程度であるが、遡って6ヶ月こえる時期には毎月概ね120時間を超え、時期によっては160時間を超える場合もあり、発病時期前の1年間の長時間労働は相当に過酷で、心理的負荷の程度は相当に強度なものであった。
20日間にわたる連続勤務を行っていた。
ノルマによる心理的負荷の程度も決して小さくはなかった。
心理的負荷の強度の全体評価は「強」に当たる。

その他業務以外の心理的負荷及び固体側要因は認められない

本件精神障害の発病には業務起因が認められ、その影響下で自殺に至った
 
<解説>
労基則別表第1の2第9号「人の生命にかかわる事故への遭遇その他心理的に過度の負担を与える事象を伴う業務による精神及び行動の障害又はこれに付随する疾病」に該当するかは、
平成11年9月14日基発第544号「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について」を基準にしてきたが、その後
平成23年12月26日基発1226第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準について」に認定基準が改められた。 

精神障害を発病していること、
発病前おおむね6か月間に業務による強い心理的負荷が認められること、
業務以外の心理的負荷及び個体側要因により発病したとは認められないこと
を認定要件とする。

判例時報2342

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2017年10月20日 (金)

給与規定変更による給与の減額に伴う退職金の減額について、変更に合理性があるとされた事例

大阪地裁H28.10.25      
 
<事案>
退職金規程及びその前提となる給与規程の改訂により、退職金が減額⇒原告X1~X5が差額退職金の支払を請求。
被告Yは、学校法人であり中学、高校、通信制高校を運営。
XらはいずれもYの元教員であり35年程度の勤務の後、平成27年、28年に定年退職した者(定年退職後、シニア講師としてYに就労)。 

Yは平成25年5月、新たな人事制度を導入し、給与規則と退職金支給規則を改訂(但し、退職金制度について実質的な変更はない)するとともに退職年金制度を廃止。

Yは平成13年度から消費支出超過を続けており、同17年以降は帰属収支においても大幅な支出超過⇒大幅な経費削減を行わなければ早晩経営破たんするとして、平成25年5月、月額給与を8万円程度引き下げ、これに伴って退職金は85~90%程度に減額
 
<規定>
労働契約法 第9条(就業規則による労働契約の内容の変更)
使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。

労働契約法 第10条
使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。
 
<判断>
●本事案は、退職金の計算基礎となる「基本給の額が減額となったことによるもの」で「新人事制度全体を踏まえて検討する必要がある」

①変更の必要性、②不利益の程度、③内容の相当性、④労働組合等の交渉状況を検討。 
 
●変更の必要性 
府下私立学校における退職給与引当率の平均値、日本私立学校振興・共同事業団「自己診断チェックリスト」における帰属収支差額費率、積立率、流動比率の評価や管理職手当の減額、理事の減員、役員手当のカットなどを認定

その経営状況は危機的なものであったとし、末期的な状況になってからでは遅いともいえると判示。
 
●不利益の程度 
Xらの請求額は300~400万円であるが、「不利益の程度は大きい」と認定。
 
●内容の相当性 
①基本給減額について経過措置(初年度95%、2年目90%、3年目85%の補償)が採られたこと、②新人事制度導入前に退職したと仮定した場合の退職金と、新人事制度導入後の退職金とを比較し、高い方の金額で支払ったことなど、一定の激変緩和措置を設けていることを認定。
公益財団法人大阪府私学総連合会の退職金事業における支給率と比較⇒「同一地域内において高いもの」

変更後の内容は相当
 
●労働組合等との交渉
①財政破綻のおそれがあることについては7年前から説明
②平成23年12月以降、教職員及び組合に対して情報(決算概要等)や改革案を適宜提示し、組合要求の資料を開示し、交渉においても強硬な態度をとることなく対応してきた。

Yの本件組合あるいは教職員に対する説明の内容・態度は適切なものであった。


本件変更については、
これにより被るXらの不利益は大きいものではあるが、
他方で、
変更を行うべき高度の必要性が認められ、
変更後の内容も相当であり、
本件組合等との交渉・説明も行われてきており
その態度も誠実なものであるといえる

本件変更は合理的なものであると認められる。 
 
<解説>
就業規則による労働条件の不利益変更の効力は、労働契約法9条、10条に、実定法化。 

判例時報2340

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2017年9月 4日 (月)

賃金規則上の定めが公序良俗に違反するとの原審の判断に違法があるとされた事例

最高裁H29.2.28      
 
<事案>
Y社(上告人)に雇用され、タクシー乗務員として勤務したX(被上告人)らが、歩合給の計算に当たり残業手当等に相当する金額を控除する旨を定めるYの賃金規則上の定めが無効であり、Yは、控除された残業手当等に相当する金額の賃金の支払い義務を負うと主張し、Yに対し、未払賃金等の支払を求める事案。

本件で特に問題とされているのは、本件賃金規則のうち歩合給(1)に関する定めであり、乗務員に支払われる歩合給(1)につき、次のとおり規定
対象額A(揚高(売上高)から一定額を控除し、控除後の額に一定割合を乗じたもの)-(割増金(深夜手当、残業手当及び公出手当の合計)+交通費)
 
<主張>
Xらは、本件規定は、歩合給の計算に当たり、対象額Aから割増金及び交通費に相当する額を控除するものとしているところ、これによれば、割増金と交通費の合計額が対象額Aを上回る場合を別にして、揚高(売上高)が同額である限り、時間外労働等をしていた場合もしていなかった場合も乗務員に支払われる賃金は同額になる⇒このような定める労基法37条を潜脱するものであると指摘。
 
<規定>
労基法 第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
使用者が、第三十三条又は前条第一項の規
定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

労基法 第13条(この法律違反の契約) 
この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、この法律で定める基準による
 
<争点>
①本件規定の有効性
②遅延損害金の利率
③付加金の支払を命じることの可否及び相当性
 
<原審>
本件規定のうち歩合給の計算に当たり対象額Aから割増金に相当する額を控除する部分は労基法37条の趣旨に反し、ひいては公序良俗に反するものとして無効⇒対象額Aから割増金に相当する額を控除することなく歩合給を計算すべき。

請求を一部認容
 
<判断>
労基法37条は、時間外、休日及び深夜の割増賃金の支払義務を定めているところ、割増賃金の算定方法は、同条並びに政令及び厚生労働省令に具体的に定められている。

使用者が、労働者に対し、時間外労働等の対価として労基法37条の定める割増賃金を支払ったとすることができるか否かを判断するには、労働契約における賃金の定めにつき、それが通常の労働時間の賃金に当たる部分とに判別することができるか否かを検討した上で、そのような判別をすることができる場合に、割増賃金として支払われた金額が、通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として、労基法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かを検討すべき。

他方において、労基法37条は、労働契約における通常の労働時間の賃金をどのように定めるかについて特に規定をしていない
⇒労働契約において売上高等の一定割合に相当する金額から同条に割増賃金に相当する額を控除したものを通常の労働時間の賃金とする旨が定められていた場合に、当該定めに基づく割増賃金の支払が同条の定める割増賃金の支払といえるか否かは問題となり得るものの、
当該定めが当然に同条の趣旨に反するものとして公序良俗に反し、無効であると解することはできない
but
原審は、本件規定のうち歩合給の計算に当たり対象額Aから割増金に相当する額を控除している部分が労基法37条の趣旨に反し、公序良俗に反し無効であると判断するのみで、
①本件賃金規則における賃金の定めにつき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができるか否か、また、
②そのような判別をすることができる場合に、本件賃金規則に基づいて割増賃金として支払われた金額が労基法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かについて審理判断することなく、Xらの未払賃金の請求を一部認容すべきとした。

原審の判断には、割増賃金に関する法令の解釈適用を誤った結果、前記の点について審理を尽くさなかった違法がある。
 
<解説>   
●労基法における割増賃金制度の概要 
労基法37条は時間外、休日及び深夜の割増賃金の支払義務を規定。
その趣旨は、時間外・休日労働は通常の労働時間又は労働日に賦課された特別の労働⇒それに対して一定額の補償をさせることと、時間外労働に係る使用者の経済的負担を増加させることによって時間外・休日労働を抑制すること。

割増賃金の算定方法については、労基法37条、労基法37条1甲の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令、労働基準法施行規則19条に定められている。
割増賃金を支払うべき時間外労働とは、労基法32条又は40条に規定する労働時間(法定労働時間)を超える労働であり、休日労働とは同法35条に規定する休日(法定休日)における労働。

就業規則等に定められた所定労働時間を超える労働で法定労働時間内にとどまるもの(いわゆる法内残業)については、労基法上は割増賃金を支払う義務はなく、就業規則等に定められた法令休日以外の休日(いわゆる所定休日)についても同様。
 
●労基法37条等所定の算定方法とは異なる割増賃金の算定方法の取扱い 
労基法37条は、同法所定の割増賃金の支払いを義務付けるにとどまり、同条所定の計算方法を用いることまで義務付ける規定ではない。
使用者が労基法37条等所定の算定方法と異なる割増賃金の算定方法を採用すること自体は適法

その上で、労基法37条等所定の算定方法と異なる割増賃金の算定方法が採用されている事案においては、その算定方法に基づく割増賃金の支払により、労基法37条等所定の割増賃金の支払をされたといえるかが論じられる。

従前の最高裁判例(最高裁H6.6.13、最高裁24.3.8):
労基法37条等所定の計算方法によらずに割増賃金を算定し、これに基づいて割増賃金を支給すること自体は直ちに違法とはいえないことを前提に、
①通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができることを要件とした上で(「判別要件」)、そのような判別がでく場合に、
②割増賃金として支払われた金額が、通常の労働時間の賃金相当部分とされる金額を基礎として、労基法所定の計算方法により研鑽した割増賃金の額を下回らないか否かを検討して、労基法37条等に定める割増賃金の支払がされたといえるか否かを判断。

上記判例法理に沿った見当をするに当たっては、賃金規則等において支払うとされている「手当」等が割増賃金、すなわち時間外労働等に対する対価の趣旨で支払われるものである必要。
当該「手当」等がそのような趣旨で支払われるものと認められない場合には、そもそも割増賃金に当たるとはいえず、判別要件を充足するか否かを検討する前提を欠くことになる。
使用者の賃金規則等において通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができるか否かは、個別の賃金規則等の内容に即して判断せざるを得ない⇒一般的は判断基準を定立することは容易ではない。
but
①労基法37条等が割増賃金の算定方法を具体的に定めている
②従前の最高裁判例の判示内容

少なくとも、「基本給(歩合給)に割増賃金が含まれる。」といった抽象的な定めを置くのみでは足りず、賃金規則等に定められた計算式等により、支給された総賃金のうち割増賃金とされた金額を具体的に算定することが可能であり、かつ、その割増賃金に適用される「基礎賃金の一時間当たり金額(残業単価)」を具体的に算定することが可能であることが必要
 
● 労基法37条等は割増賃金の算定方法を具体的に定めており、割増賃金の算定方法を具体的に定めており、割増賃金の支払方法が同条等に適合するか否かは客観的に判断が可能

端的に当該賃金の定めが労基法37条等に違反する否かを検討し、仮に同条に違反するのであれば、その限度で当該賃金の定めが同法13条により無効となり、労基法37条等所定の基準により割増賃金の支払義務を負うとすれば足りる。

殊更に公序良俗に違反するかいなっかを問題とする必要はない。
 
● 仮に、本件規定が労基法37条に違反するものとしてその効力が否定されると解し得る場合の法的効果?

労基法37条に違反するとしてその効力を否定⇒当該賃金規則等に定められている通常賃金と割増賃金との区別の全部又は一部が無効となると解した上で、当該賃金規則等において割増賃金とされている部分を通常賃金として取り扱う。

当該賃金規則等に定められている割増賃金を通常賃金に振り替える取り扱いをするもの。
but
労働契約の内容が労基法に違反する場合の法的効果は、同法13条により規律され、同条は、労働契約のうち同法に違反する部分のみを無効とし(強行的効力)、無効とされた部分につき、同法所定の基準を契約内容として補充するもの(直律的効力)と解されているところ、賃金規則等における割増賃金を通常賃金に振り替えるという取り扱いをすることが、この強行的効力や直律的効力によるものであると理解することができるかについては慎重な検討を要する。

労基法37条は、使用者に対し、法内時間外労働や法定外休日労働に対する割増賃金を支払う義務を課しておらず、使用者がこのような労働の対価として割増賃金を支払う義務を負うか否かは専ら労働契約の定めに委ねられている。

Xらに割増賃金として支払われた金額が労基法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かについて審理判断するに当たっては、Xらの時間外労働等のうち法内時間外労働や法定外休日労働に当たる部分とそれ以外の部分とを区別する必要がある。

●本判決は、賃金規則において歩合給の計算に当たり、売上高等の一定割合に相当する金額から残業手当等に相当する金額を控除する旨の定めがされているという事案において、そのような定めを含む賃金規定に基づく割増賃金の支払により、労基法37条等所定の割増賃金の支払がされたといえるかを検討するに当たって、そのよな定めが当然に公序良俗に違反するとして無効であるとすることができないとした事例判断。 

判例時報2335

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