代表取締役による善管注意義務違反(役員報酬増額を含む)の事例
東京高裁R3.9.28
<事案>
代表取締役による子会社設立に伴う同子会社用の機械設備の購入及び役員報酬の増額について、会社が当該代表取締役に対して善管注意義務違反による損害賠償を求めた。
<原審>
本件機械の購入金額は、X社の資産合計の1.5パーセントに及ぶものであって、その種類、性能等はベトナム子会社及びX社の収益に影響するものであるのに、Yは取締役会決議を経ずに、X社にとって重要な財産に当たる本件機械を購入したことは、代表取締役としての任務を怠った。
追加的請求については、民訴法143条1項ただし書に基づいて、不許可。
<判断>
本件機械の購入について、取締役としての善管注意義務違反を認定し、役員報酬の増額についても善管注意義務違反が認められるとして、Yの責任を認めた。
X社の大口受注先から技術先から技術課題を指摘され、技術レベルが改善されなければ製品の発注を大幅に減少させることの予告を受けるとともに、ベトナム進出について消極的意見を示されるなどして、技術レベルの改善が緊急かつ最重要な課題であることを理解していた
⇒取締役会における十分な議論を改めですべきであり、その結論が出るまで、ベトナム進出に関する具体的な準備作業を一時中止すべき注意義務を負っていたのに、これを怠って、取締役会を開催して議論を行わず、本件機械を受注し購入した注意義務違反が認められる。
役員報酬の増額について
①X社に役員報酬を増額するような業績の向上や経営状況の改善があったとは認められない
②Yは、適切なガバナンスが効きにくい状況を作出した上でこれを利用して自らの報酬額を増額
③他の取締役が3~4パーセントの増額なのに対して、Yの報酬は25%の増額であり、40万円という増額金額や増額率からみても、いわゆるお手盛りの色合いの濃いものである
④経済的にみても、本件株式の一部につき、X社の出捐によりYが取得するのと同じ効果を有する
⑤本件の経緯からすれば、X社による本件株式の買取りをYが妨害して自己の利益を得たとも評価し得る背信性の強い行為
⇒
報酬額の増額は取締役としての善管注意義務に違反する。
<解説>
●取締役の善管注意義務の判断に当たっては、
取締役によって当該行為がなされた当時における会社の状況および会社を取り巻く社会、経済、文化等の情勢の下において、当該会社の属する業界における通常の経営者の有すべき知見及び経験を基準として、前提としての事実の認識に不注意な誤りがなかったか否か及びその事実に基づく行為の選択決定に不合理がなかったか否かという観点から、当該行為をすることが著しく不合理と評価されるか否かによって判断。
本判決:本件機械の購入ではなく、その前段階である準備作業の一時中止の判断をしなかったことについて、具体的事実を踏まえて、著しく不合理であると判断。
●役員報酬の増額(会社法361条1項)に関して:
株主総会の決議で取締役全員の報酬の総額を定め、その具体的な配分は取締役会の決定に委ねることができる、取締役会は具体的な決定を代表取締役に一任することができる。
(判例)
役員報酬について厳格な規律が設けられているのは、取締役によるいわゆるお手盛りを防止して、会社ひいては株主の利益を保護することにある。
株主総会で報酬総額が定められていたとしても、具体的な報酬額の決定が、会社の利益を損なうような不合理なものであるときは、前記基準により、善管注意義務違反が認められる。
判例時報2539
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