商事

2018年8月15日 (水)

未公開株式ファンドの販売に際しての説明義務違反(肯定)

東京高裁H29.4.26      
 
<事案>
ファンドの販売に関して、同ファンドに出資した投資家が損害の賠償を求めた事案。 
Y1:信託業務等を営む会社
Y5:その会計監査人
Y2:投資顧問業等を営む会社
Y3:その代表取締役
Y4:投資を勧誘した訴外Aの取締役ないし代表取締役であった者
X1及びX2:Y1の販売した信託型ベトナム未公開株式ファンド第1号に出資した者

X1及びX2は、本件ファンドの販売勧誘にあたり説明義務違反及び適合性原則違反があったとして、出資金相当額及び弁護士費用の損害の賠償をともめ、併せてY1の会計監査人Y5に対し、任務懈怠を理由として、損害の賠償を求めた。
 
<争点>
①説明義務違反
②適合性原則違反
の有無 
 
<原審>
請求棄却。

適合性原則違反:
X1:本件ファンドへの投資以前に1000万円程度の投資信託及び本件ファンドと同様に株価下落リスクがある現物株式の購入経験がある
X2:1100万円ないし1200万円程度の現物株式及び投資信託の購入経験等がある
⇒適合性原則違反は認められない。

説明義務違反:
①セミナー又は説明会で、Y3及びY4から、未公開株式の為替リスクや株価下落リスクなど想定される具体的リスクが説明された
②本件ファンドに元本補填や利益の補足がないことについて、複数のスライドを用いる方法での説明があった
③インターネットを通じての申込の際に確認することを求められる信託約款および申込説明書には具体的なリスクが記載。

Y1、Y3及びY4の説明に問題はないとして、説明義務違反を否定。
 
<判断>
説明義務違反を肯定し、一部認容。 
①信託約款や申込説明書による説明があったことは認められる
but
信託財産のうち総額5億5300万2791円を要して未公開株式が購入されたにもかかわらず、その実質の対価は出資金の約2割にあたる約1億9300万円にすぎず、約4割にあたる約3億6000万円は未公開株式を購入するに際しての仲介手数料に充てられていた
未公開株式購入額やこれに直接影響する高額の仲介手数料の存在及びその額等は、投資家にとって極めて関心の高い事項であるにもかかわらず、この点の説明は何らされていなかった
これについて何ら説明がなされなかったということは、本件ファンドの重要事項について説明が尽くされていたとはいえない

説明義務違反を肯定。
 
<解説>
契約締結に先だって、契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき事情を提供しなかった場合には、信義則上の説明義務違反として不法行為による損害賠償責任が生じる。(最高裁H23.4.22) 

説明義務の範囲や程度は、顧客の知識、取引経験等に応じて自己責任の下に合理的判断が可能かという点から決定される。(東京高裁H26.4.17)
具体的事情を詳細に検討する必要

判例時報2370

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2018年8月 1日 (水)

インサイダー取引を理由とする課徴金納付命令が取り消された事例

東京高裁H29.6.29      
 
<事案>
処分行政庁は、平成25年6月27日、A証券会社の営業員P1がその職務に関し知った本件公募増資が決定された旨の事実について、Xがその伝達を受けながら、当該事実の公表前に売付を行った⇒Xに対し、課徴金6万円を納付することを命ずる旨の決定。 
 
<争点>
A証券会社の営業員P1が、公表前に、職務に関し本件公募増資に係る重要事項を知ったか否か。 
 
<判断>
P1が重要事実を知ったとは認められない⇒Xの請求を認容し、本件決定を取り消した。

金商法(平成23年改正前のもの)166条1項5号の規定により、上場会社等の契約締結の交渉中の法人等の他の役員等がその者の職務に関し重要事実を知ったといえるためには、
その者が職務に関し重要事実を構成する主要な事実を単に認識したというだけでは足りず
当該契約の締結もしくはその交渉をする役員等が知った重要事実が法人内部においてその者に伝播したものと評価することができる状況のもとで重要事実を構成する主要事実を認識した場合であることを要する。

Bが本件公募増資を行うことを決定したことは、法166条1項に規定する重要事実に該当する。
but
A証券会社内において、重要事実を伝達されたP2及びP3から、P1に対し、Bが本件公募増資を行うことを決定した可能性を積極的に示唆し、あるいは暗にその可能性を伝えることがあったとは認められない。
重要事実がP1に伝播したものとは認められず、P1が重要事実を職務に関し知ったということはできない。
 
<解説>
法166条1項又は3項の規定に違反した者には、課徴金の納付(法175条1項)が命じられ、さらには刑事罰(法197条の2第13号)が科される。
また、会社関係者から重要事実の伝達を受けた者についても、その他の一般投資家との間に情報格差が生じて不公平となる
⇒そのような者の有価証券等の売買等も禁止される(法166条3項)。

判例時報2369

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2018年7月22日 (日)

不動産は商事留置権の対象になるか(肯定)

最高裁H29.12.14      
 
<事案>
土地所有者である上告人Xが、土地を占有する被上告人Yに対し、所有権に基づき明け渡しを求める事案。 
Y:当該土地につきXに対する運送委託契約上の未払代金債権を被担保債権として商法521条の商人間の留置権を主張
 
<規定>
民法 第295条(留置権の内容) 
他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。

民法 第85条(定義) 
この法律において「物」とは、有体物をいう。

民法 第86条(不動産及び動産)
土地及びその定着物は、不動産とする。

商法 第521条(商人間の留置権)
商人間においてその双方のために商行為となる行為によって生じた債権が弁済期にあるときは、債権者は、その債権の弁済を受けるまで、その債務者との間における商行為によって自己の占有に属した債務者の所有する物又は有価証券を留置することができる。ただし、当事者の別段の意思表示があるときは、この限りでない。
 
<解説>
現行商法521条の文理解釈⇒包含説が素直⇒除外説の論拠が包含説のいう文理解釈を覆し得る程度に合理的なものかという点から検討すべき。

除外説の根拠:
①立法の経緯・沿革:
ドイツ商法典においても、商人間留置権の対象は動産と有価証券であり、不動産が除外。日本の商人間の留置権の定めは、ドイツ法の系譜。
②休競売法の規定:
民法及び商法の留置権の競売手続を定めた明治31年制定の競売法では、動産の競売手続を定めた3条において、競売申立人を「留置権者・・・その他民法の規定に依りて競売をなさんとする者」と定め、「商法の規定」による競売が挙げられていない。
③:当事者の合理的意思:
商人間の取引で一方当事者所有の不動産の占有が移されたという事実のみで当該不動産を取引の担保とする意思が当事者にあるとみるのは困難。
④法秩序全体との整合性:
登記の先後により優先順位が定まるのを原則とする不動産取引において、商人間の留置権のような強力な権利が登記とは無関係に抵当権に優先することを認めれば、不動産取引の安全を著しく害し、担保制度全体の整合性を損なう。
vs.
①現行商法521条は、明治32年制定の商法284条に由来しており、同商法の制定経緯や、明治44年の改正時の政府委員の説明をみると、少なくともこの段階では商法の「物」を民法85条、86条と同じ意味に解していたことがうかがわれること等⇒現行商法の解釈として、民法と異なり不動産を除外しているとは解されない。
②競売法は手続規定⇒その規定に定めがないからといって商法の解釈に当たっての決め手にはならない。
現行民執法59条4項や195条は留置権の契番を民法商法の区別なく規定。
③商取引の必要性は不動産にも存在⇒不動産を商人間留置権の対象に沿わないとはいえない。
④留置権能を有する担保物権である留置権が抵当権より事実上優先することは民事留置権においても同様であり、そのような自体が常に不当であるとも言い切れない。
 
<判断>
商法521条の「物」を民法85条の「物」と別異に解する理由はないとして、その文理解釈から包含説をとることを明らかにした。 

判例時報2368

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2018年6月23日 (土)

普通保険約款の定めと免責事由が問題となった事案

神戸地裁H29.9.8      
 
<事案>
X1及びX2が、火災によりX1所有の建物(本件建物)及びその内部にあるX2所有の家財一式が焼損(本件火災)
⇒X2とYとの間の火災損害保険契約(本件保険契約)に基づき、Yに対し、X1において本件建物に係る保険金2400万円及び遅延損害金の支払を、
X2において前記家財に係る保険金300万円および遅延損害金の支払を、
求めた事案。 

本件保険契約に係る普通保険約款:
①被保険者とは、「保険の対象の所有権で保険証券に記載されたもの」をいう
②Yは、本契約者又はその同居の親族等の「故意もしくは重大な過失」によって生じた損害に対しては、保険金を支払わない
と規定。
 
<争点>
①被保険者の要件を「保険の対象の所有者」に加え「保険証券に記載されたもの」とする保険約款の定めが保険法2条4号イ、8条に違反するか
②本件火災が保険契約者であるX2の同居親族の「故意」又は「重大な過失」によって生じたのか 
 
<規定>
保険法 第二条(定義)
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
四 被保険者 次のイからハまでに掲げる保険契約の区分に応じ、当該イからハまでに定める者をいう。
イ 損害保険契約 損害保険契約によりてん補することとされる損害を受ける者

保険法 第八条(第三者のためにする損害保険契約)
被保険者が損害保険契約の当事者以外の者であるときは、当該被保険者は、当然に当該損害保険契約の利益を享受する。
 
<判断> 
●損害保険契約の「被保険者」 は、契約の一般原則に基づき、当事者の合意により定まるが、
保険法2条4号イ所定の要件を満たさない者であった場合には、当該契約は無効になる。
損害保険契約の当事者が、同号イ所定の要件を満たさない者を「被保険者」と定めた場合、当該契約は無効となるが、
たとえ客観的に同要件を満たす者が他に存在するとしても、その者は、当該当事者から「被保険者」と定められていない以上、「被保険者」に当たらない。

「被保険者」の要件に関する本件約款の定めは、保険法に反しない。
 
●Aは、本件火災の発生直前、油鍋を再び加熱し始めたのに、漫然と別室に移動して約10分間これを放置⇒油鍋の状況を継続的に注視するという基本的な注意義務すら遵守することができていなかった。

X2の同居親族であるAには、本件火災の発生につき重大な過失があった。
 
<解説>
保険法2条4号イは、損害保険契約の「被保険者」同契約によりてん補することとされる損害を受ける者と規定
この「被保険者」は、同時に保険給付請求権者であって、これ以外の者に保険給付を取得させるよう定めることはできない。

平成20年法律第57号による改正前の商法の下でも、
保険の対象が保険契約者の所有物であることを前提に損害保険契約が締結されたが、実際には当該保険契約者が被保険利益を有しない場合には、当該保険契約は無効と解されていた(最高裁昭和36.3.16)。

保険法は、損害保険契約において同法2条4号イの要件を満たさない者を「被保険者」と定めた場合には、当該契約を無効とする趣旨
but
保険法は、契約の一般原則(契約自由の原則)に基づき、あくまでも当事者間の合意により「被保険者」が定まることを前提とし、損害保険の趣旨及び目的等からこれを修正にするにとどまる。

保険法は、当事者の合意いかんにかかわらず、客観的に同号イの要件を満たす者を当然に「被保険者」として確定する趣旨は含まない。

本判決:
「被保険者」の要件を
「保険の対象の所有者」に加えて「保険証券に記載されたもの」とする本件約款が、保険法2条4号イ、8条に反するとはいえない

 
保険約款上の免責事由である「重大な過失」
民法又は保険法上の「重大な過失」と同様に、
通常人に要求される程度の相当の注意をしないでも、わずかの注意させすれば、違法有害な結果を予見することができた場合であるのに、
漫然これを見すごしたような、
ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態
を指す。

(最高裁) 
通常人であれば、ガスコンロの火で油を加熱し続けると引火して火災に至るおそれがあるのを容易に予見できる
⇒その状態が放置されたことにより火災が発生した場合には、これを放置した者に「重大な過失」があると認めるのが裁判例の趨勢。

判例時報2365

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2018年3月20日 (火)

会社が政治資金パーティーへの出席を予定しないことを認識しながらのパーティー券購入と政治資金規正法21条1項の「寄附」

東京高裁H28.7.19      
 
<事案>
A株式会社が国会議員の政治資金パーティーのパーティー券を購入していたことに関して、Aの株主であるXが、Aの取締役として政治対応等を業務の一部とする部署を担当し、その後Aの代表取締役を務めたYに対し、出席する予定がないのに購入したパーティー券の代金相当額を、損害賠償としてAに支払うよう求めた株主代表訴訟。 
 
<主張>
Xは、
主位的には、Aが政治資金パーティーのパーティー券を出席の予定がないのに購入したことが、政治敷規正法上の「寄附」に当たり、会社が正当及び政治資金団体以外の者に対して寄附をすることを禁じている同法21条1項に違反すると主張し、

予備的には、パーティー券の購入を所管する部署の担当取締役であったYには、確実に出席が見込める枚数の限度でのみパーティー券を購入すべき義務、あるいは、国会議員からの違法な便宜供与を受けるなど不当な目的でこれを購入してはならない義務があるのに、これに反してパーティー券を購入した善管注意義務違反がある
と主張。 
 
<判断>
●主位的主張について
本件の対象となったAが購入したパーティー券の中には、Aが当初から出席しないことを見越しながら購入したものが含まれていた。
パーティー券の購入代金の支払は、
その代金額が政治資金パーティーへの出席のための対価と認められるかぎり、政治資金規正ほうにいう「寄附」には当たらないが、
パーティー券の購入代金の支払実態、当該パーティー券に係る政治資金パーティーの実体、パーティー券の金額と開催される政治資金パーティーの規模、内容との釣り合い等に照らして、
社会通念上、それ自体が政治資金パーティー出席のための対価の支払とは評価できない場合にはその支払額全部が、また、支払額が対価と評価できる額を超過する場合にはその超過部分が「寄附」に当たる

but
①政治資金規正法21条1項に違反する「寄附」がされた場合、
寄付をすること及びこれを受けることのいずれも処罰の対象としている(同法26条1号、3号)
⇒同法はこの犯罪類型を刑法上の必要的共犯のうち対向犯として定めていると解される。
②賄賂罪において公務員が賄賂性を認識していなければ同罪が成立しないのと同様、政治資金パーティーへの出席を予定しないことを認識しながらそのパーティー券を購入したとしても、そのことを主催者が認識しておらず、購入されたパーティー券の数に見合った内容の態様で政治資金パーティーを開催した場合は、出席を予定しないパーティー券購入者が支払った代金についても、主催者においては「寄附」に当たるものということはできない
③政治資金規正法には賄賂申込罪に相当するような犯罪類型は定められていない

購入されたパーティー券に出席を予定しないものが含まれていることを主催者が個別的に把握し、その寄附性を認識していない限り、パーティー券購入者についても「寄附」に当たるものということはできない

本件においては、政治資金パーティーの主催者においてAが当該パーティー券につき従業員等を出席させない予定であることを認識しながら購入するものであることを認識していたと認めるに足りる証拠はない。

Aが出席を予定しない本件パーティー券の購入代金として主催者に支払った金額が「寄附」に当たるものと認めることはできない。

●予備的主張について
①Aの規模・社会的立場と購入したパーティー券の数量を踏まえるとAの購入したパーティー券の枚数や金額自体が不相応であるとは認められない
②パーティー券の購入は正式な社内手続を経て行われており、購入が不適正にならないよう配慮していた
③およそ購入枚数に見合うだけの人数の参加が想定できないようなパーティー券を購入しているものとは認められない
④主催者がAに出席の予定がないとの認識を抱く蓋然性を基礎づける事実を認めるに足りる証拠はなく、Aによる本件パーティー券購入が「寄附」に当たる相当のリスクを負う行為であったとまでは認められない

本件パーティー券の購入についてYにそれを差し控えるべき注意義務があるとまでは認められない。

国会議員からの違法な便宜供与を受けるなど不当な目的でこれを購入してはならない義務違反があるとの主張に対し、
本件パーティー券の購入が保険金支払問題等につき国会議員から便宜供与を受けることを目的としたものであったことを推認させる事実はこれを認めるに足りる証拠はない

判例時報2355

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2018年3月18日 (日)

会社法21条3項違反⇒差止請求・損害賠償請求(認容)

知財高裁H29.6.15      
 
<事案>
Xが、Yに対し、 Yからウェブサイトを利用した婦人用中古衣類の売買を目的とする事業を譲り受けたところ、
Yが、不正の競争の目的をもって、Xに譲渡した事業と同一の事業を行い、Xに損害を与えた

会社法21条3項に基づき、前記事業の差止めを求める。
不法行為による損害賠償請求として801万972円及びこれに対する不法行為の後の日である平成27年2月26日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案。
 
<規定>
会社法 第21条(譲渡会社の競業の禁止) 
事業を譲渡した会社(以下この章において「譲渡会社」という。)は、当事者の別段の意思表示がない限り、同一の市町村(東京都の特別区の存する区域及び地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の十九第一項の指定都市にあっては、区。以下この項において同じ。)の区域内及びこれに隣接する市町村の区域内においては、その事業を譲渡した日から二十年間は、同一の事業を行ってはならない
2 譲渡会社が同一の事業を行わない旨の特約をした場合には、その特約は、その事業を譲渡した日から三十年の期間内に限り、その効力を有する。
3 前二項の規定にかかわらず、譲渡会社は、不正の競争の目的をもって同一の事業を行ってはならない。
 
<原審>
Yが、不正の競争の目的をもって、Xに対して譲渡した事業と同一の事業を行った⇒会社法21条3項に基づき、事業の差止請求を認容。
but
不法行為による損害賠償請求については、損害の発生が認められないとして棄却。 
 
<判断>
Yが、不正の競争の目的をもって、Xに対して譲渡した事業と同一の事業を行った⇒原審と同様に会社法21条3項に基づく事業の差止請求を認容。

損害賠償請求について
①Yは、本件譲渡契約の締結の前にYサイトのドメインを取得し、譲渡契約の締結と前後してYサイトにおいて、譲渡契約の対象となったサイトと同様の商品の売買を目的とする営業を開始
②本件サイトとYサイトの取扱商品は相当程度共通
③Xが営業を休止している間に100名程度の顧客にメールを送付して、運営主体の変更を告知することなく、Yサイトの開設を告知
④その結果、本件サイトとYサイトは姉妹ショップであると誤認する顧客が実際に出現している
本件サイトの売上実績は、Xが本件サイトの事業を開始した直後から大幅に減少

Yの違法行為の結果、本件サイトの顧客の一部が失われ、その結果、Xに損害が発生したものと認めるのが相当。

Yの不法行為と相当因果関係のある期間は、12か月であると認めるのが相当。
①損害額については、譲渡契約の前後の月額平均粗利の差額から月平均販売管理費を控除した額は49万6508円(12か月分に相当する金額は595万8096円)
②譲渡契約後の本件サイトの販売実績が同契約締結前より低下したことについては、Xの商品知識や経験の乏しさ、Xが本件ウェブページのデザインの変更をせず、ブログやツイッターを利用することもしなかったことなども相当程度影響した

民訴法248条により、損害額を、前記595万8096円の約3割に相当する178万7400円と認定し、弁護士費用相当額を加えた、合計196万7400円及びこれに対する遅延損害金の限度で認容。
 
<解説>
本判決の原審は、「不正の競争の目的」の意義を、「譲渡会社が譲受人の事実上の顧客を奪おうとするなど、事業譲渡の趣旨に反する目的で同一の事業をするような場合を指すものと解するのが相当である」と定め、Yには「不正の競争の目的」があったと判断。

判例時報2355

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2018年2月 7日 (水)

対象会社による公告後の譲受者による売買価格の決定の申立ての可否

最高裁H29.8.30      
 
<事案>
Aは、振替株式を発行しているB(「本件対象会社」)の株式を公開買付けにより取得⇒会社法179条1項の特別支配株主となり、
平成27年12月、
本件対象会社に対し、
同項の規定による株式売渡請求をしようとする旨、
株式売渡請求によりその有する株式を売り渡す株主(「売渡株主」)に対して、その株式(「売渡株式」)の対価として交付する金銭の額(「対価の額」)等、
法179条の2第1項各号に掲げる事項を通知。 

本件対象会社は、上記の通知に係る株式売渡請求を承認し、法179条の4第1項1号及び社債、株式等の振替に関する法律161条2項に基づき、上記の承認をした旨、対価の額等、法179条の4第1項1号に定める事項について公告をした。

抗告人は、本件公告後に、本件対象会社の売渡株式のうち3000株(「本件株式」)を譲り受けた。

Xが本件株式について法179条の8第1項に基づく売買価格の決定の申立てをすることができるか否かが争われた。
 
<判断>
法179条の4第1項1号の通知又は同号及び社債振替法161条2項の公告がされた後に法179条の2第1項2号に規定する売渡株式を譲り受けた者は、
法179条の8第1項の売買価格の決定の申立てをすることができない
。 
 
<解説> 
●問題の所在 
特別支配株主による株式等売渡請求の制度:
特別支配株主において、株式等売渡請求に係る株式を発行している対象会社の株主総会の決議を要することなくキャッシュ・アウトを行うことを可能とする制度。

株式等売渡請求⇒売渡株主等は、裁判所に対し、その有する売渡株式等について売買価格決定の申立てをすることができる(法179条の8第1項)。
but
本件のXように対象会社による売渡株主への通知又は公告後に売渡株式を譲り受けた者が上記の申立てをすることができるか?
 
●株式売渡請求の制度について
◎ 従前の実務:
キャッシュ・アウトの手法として全部取得条項付種類株式の取得(法171条1項)の方法
vs.
これによる場合は、常に対象会社の株主総会の特別決議を要する
⇒キャッシュ・アウトの完了までに長時間を要し、時間的・手続的コストが大きい。

機動的なキャッシュ・アウトを可能とするため、
平成26年改正において、
対象会社の総株主の議決権の10分の9以上を有する特別支配株主が、対象会社の株主総会決議を要することなく少数株主に対してその保有する対象会社の株式を売り渡すよう請求することができる、株式売渡請求の制度
 
◎株式売渡請求は、一種の形成権の行使。
対象会社の承認(法179条の3第1項)を経て、対象会社から少数株主(売渡株主)に対し、株式売渡請求に関する所定事項についての通知又は公告(法179条の4第1項1号、社債振替法161条2項)
特別支配株主から売渡株主に対して株式売渡請求がされたものとみなされ(法179条の4第3項)、これにより、売渡株主の個別の承諾を要することなく、特別支配株主と売渡株主との間に売渡株式についての売買契約が成立したと同様の法律関係が生じる。

特別支配株主が定めた取得日(法179条の2第1項5号)に、法律上当然に、売渡株主から特別支配株主への売渡株式の譲渡の効力が生じ、特別支配株主が売渡株式の全部を取得(法179条の9第1項)。 

株式売渡請求がされることにより、対象会社の少数株主は、その意思にかかわらず自らの有する対象会社の株式を売り渡すことになる。

売渡株主の利益を保護するため、
(1)株式売渡請求には対象会社の承認を要すること(法179条の3)等とされ、
(2)売渡株主がその利益を確保する方法として、
①売渡株式の取得の差止請求(法179条の7)
②売買価格決定の申立て及び
③売渡株式の取得の無効の訴え(法846条の2)
が規定。
 
対象会社による売渡株主への通知又は公告後に売渡株式を譲り受けた者が売買価格決定の申立てをすることの可否 

株式売渡請求の手続において基本的に保護の対象として想定されている株主は、対象会社の通知又は公告によって、自らの意思にかかわらず特別支配株主に株式を売り渡す立場に置かれることになる株主(=対象会社の通知又は公告の時点における株主)
②裁判所による価格決定の効力は申立てに係る売渡株式についてのみ生ずると解されている⇒売渡株式の売買価格の適正を一般的に図るために申立権をより広く認めるべきとの要請があるとは考え難い
③対象会社の通知又は公告によって株式売渡請求の事実や具体的な対価の額等が対外的にも明らかになった後にあえて売渡株式を譲り受けた者に、当該対価の額に関して不服をいう機会を与える必要はない。

売買価格決定の申立てをすることができる株主は、通知又は公告の時点における株主であるとするのが相当であり、通知又は公告後に売渡株式を譲り受けた者は、売買価格決定の申立てによる保護の対象として想定されておらず、同申立てをすることができないと解するのが相当。

判例時報2352

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2018年1月27日 (土)

AIJ投資顧問年金資産消失事件で社外取締役の監視義務違反と常勤監査役の監査義務違反(否定)

東京地裁H28.7.14      
 
<事案>
いわゆるAIJ投資顧問年金資産消失事件に関連して、年金基金等に外国投資信託の受益証券を販売していた証券会社Aの代表取締役であったBにおいて同受益証券の一口当たりの純資産の額を偽るなどしたため、同受益証券を購入した年金基金等に対して合計235億円強の損害賠償義務を負担するという損害を被った
⇒Aの破産管財人XがAの社外取締役であったY1及び常勤監査役であったY2に対して損害賠償を請求。 

Xは、Y1には代表取締役の職務執行に対する監視義務違反があると主張し、Y2には同職務執行に対する監査義務違反があるとし、会社法423条1項に基づき、連帯して前記損害の一部である1億円の支払を求めた。
 
<規定>
会社法 第423条(役員等の株式会社に対する損害賠償責任) 
取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この節において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う
 
<Xの主張>
Yらには、
①平成21年3月17日の取締役会において本件ファンドの一口当たりの純資産額に関する客観的かつ合理的な調査を行うよう上程すべき義務違反、
②同年7月頃本件ファンドの一口当たり純資産額に関して外部の第三者に対し調査を行うべき義務違反
③平成23年8月9日の取締役会において本件ファンドが顧客から解約請求を受けた際に同請求に係る口数を別の顧客等に対して相対取引の形で売却していたことの継続に関する客観的かつ合理的な調査を行うよう上程すべき義務違反
が認められる。 
 
<判断>
本件において、Yらに監視義務ないし監査義務の違反があるというためには、
Yらが、
本件ファインドの販売活動においてBが虚偽の一口当たり純資産額を用いていることを認識していたか、
又は少なくともこれを発見することができ若しくはこれに疑いを抱かせる事情が存在し、
かつ、Yらが当該事情を知り得たことが必要。

本判決が認定した事実には
①平成19年度及び平成20年度は日本株の期間騰落率が大きくマイナスとなっていたにもかかわらず、本件ファンドが高い収益を上げていたこと
②ある新興ヘッジファンドが急激な下落相場の中で不自然なほとに安定したリターンを出し続けているとして金融庁等が強い関心を示しているという内容の業界紙記事が平成21年3月17日の取締役会に報告されていたこと
③本件ファンドについて同年7月に100億円の解約請求があり、Yらもこの事実を認識していたと認められること
④相手取引の過程で、ファンド設置会社が顧客から一時的に本件ファンドを買い取ることがあったが、そのような買取りによってファンド設定会社が保有するに至った本件ファンドの在庫額は平成21年7月時点で約190億円になっており、Yらはこの事実を認識していたと推認されること
⑤平成22年3月頃及び平成23年3月頃にAが受ける信託報酬が引き下げられたこと、
⑥同年6月24日、Aはファンド設定会社に8億円を無担保で貸し付け、同年7月21日の取締役会で貸付金の弁済を受けた事実が報告されたこと
が含まれる。
but
Xが主張する前記各時点のいずれにおいても、本件ファンドについて虚偽の内容の一口当たりの純資産額が用いられていることを発見することができる事情又はこれに疑いを抱かせる事情が存在したということはできない

Yらには、①②③のいずれについても、Xの主張するような義務があったとはいえない
⇒Xの請求をいずれも棄却。

判例時報2351

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2017年12月30日 (土)

会社法2条6号「大会社」となったにもかかわらず、会計に限定した非常勤監査役を選任していた場合の同監査役の責任等(和牛預託商法)

大阪高裁H29.4.20      
 
<事案>
原告らは、平成15年6月から平成23年7月までの間にオーナー契約を締結し、本件会社に投資した顧客。
投資総額4億2980万円の大半が焦げ付いた⇒違法な資金集めに関与したとする個人の賠償責任を追及する本件訴訟を提起。
本件被告とされたのは、有限会社時代の従業員(平)取締役であったY3とY1、株式会社移行後に選任された非常勤監査役Y2のほか、関連会社の役員であった多数の者。
 
<判断> 
●従業員(平)取締役Y3及びY1の責任 
◎原判決 
Y3について:
取締役退任から原告らの契約締結時期まで4年以上が経過⇒Y3の義務懈怠と原告らの損害との間に相当因果関係が認められない
⇒Y3に対する請求を棄却。

Y1について:
新たなオーナ―契約の募集を止めるよう代表取締役に進言するなどの措置を講じるべき義務があったのに、重過失によりその義務を懈怠
⇒Y1に対する請求を全部認容
 
◎判断 
①Y3・Y1が繁殖牛不足の事実を知ることが困難であった
②Y3・Y1が置かれていた状況に照らせば、違法なオーナー契約の勧誘を止めさせるための行動を起こすこと(職務上の義務を履行すること)が極めて困難であった

そうしなかったこと(職務上の義務懈怠)につき重大な過失は認められない
⇒Y3、Y1の第三者責任を否定。
 
●非常勤監査役Y2の責任 
◎事案 
Y2は、株式会社に移行した直後の平成21年9月(60歳時)、本件会社の非常勤監査役に就任。
本件会社の定款には、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定めがあり、Y2と本件会社は監査の範囲を会計に限定して監査役就任契約を締結。
but
本件会社は、株式会社移行時、既に負債が200億円以上の大会社(会社法2条6号)⇒本来なら会計監査人と監査役の両方を置かなければならず(同法327条3項、328条2項、329条1項)、監査役の監査の範囲を会計に限定することができないはず(同法389条1項)。
Y2は、平成22年5月頃、同年3月期決算の打ち合わせにおいて初めて、本件会社が負債200億円以上の大会社であり、会計監査人を置く必要があると知り、本件会社の取締役会に対し、会計監査人導入に向けた行動計画を提案したが、本件会社は、そのような態勢を整えようとせず、平成23年8月に経営破綻。
 
◎原審
①平成21年4月の株式会社移行時既に大会社であった⇒本件会社は、それ以後、会計限定監査役を選任することが許されない⇒Y2は(監査役就任契約の内容とは関係なく)法律上当然に業務監査を行う職責を負う
②その職責を果たしていたなら平成22年6月以降のオーナー契約を食い止めることができた可能性がある

Y2は同時期以降に生じた原告らの損害について個人賠償責任を負う。
Y2に対する請求の一部(7062万円)を認容。
 
◎判断 
Y2には業務監査の職責まで負わせられる契約上の根拠がない
業務監査を行う適任者として選任されたのではないY2に業務監査の職責を負わせることは、会社にとって不足であるばかりでなく、Y2にとっても過酷
大会社の監査は、会計監査人と監査役が分業して行うべきなのに、株主が機関選任を懈怠している間、Y2一人に両方の職責を強いる解釈には無理がある
会社法336条4項3号が、通常監査役を置く必要が生じた場合、会計限定監査役の任期を終わらせることにしているのは、会計限定監査役に通常監査役の職責を果たすことを求めない法の姿勢の現れである

Y2の職責は会計に限定されると判断した上で、Y2に対する請求を棄却。
 
<解説>
ワンマン社長が経営を支配する会社の名目取締役について、経営監視義務懈怠を理由に対第三者責任を問うことが可能なのか?
最高裁昭和48.5.22は平取締役の経営監視義務を肯定
but
義務懈怠と第三者の損害の相当因果関係を否定し、あるいは、
義務懈怠についての重大な過失を否定し、
このような取締役の対第三者責任を否定した下級審判例は多い。

●「大会社」であるのに会計限定監査役が選任されている場合に関する監査役の責任の範囲
このような「監査役の権利義務は、業務監査権限を有する監査役としての権利義務であるため・・・その義務を免れることを望む場合には、裁判所に対し、仮監査役の選任の申立てをする必要がある」との学説
but
本判決は異なる見解。

会社法429条1項の責任を逃れたいなら、同法346条2項の仮監査役の選任申立てをしておくべきだったということは非現実的と考えた?

判例時報2348

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2017年10月19日 (木)

企業買収の業務を受託した会社のために作業を行った個人に商法512条により相当な報酬を認めた事案

東京地裁H28.5.13       
 
<事案>
企業買収を受託した事業者のために作業を行った場合における仲介報酬の請求の当否、根拠、報酬額が問題となった事案。 

Y1株式会社(代表者はY2)は、A株式会社から、Aが買い手となり、B投資事業有限責任組合らが売り手となるD株式会社の株式譲渡を行う方法による企業買収につき業務委託を受けた⇒Xは、Y2の指示等によって助言、打ち合わせへの出席、書面の作成等の作業を行った。
AとBらは、Dの株式譲渡契約を締結⇒本件案件が完了した後、Y1は、業務委託契約に基づきAから本件案件の報酬として5250万円を受領。

Xは、Y1、Y2に対し、いずれかから委託を受けて本件案件に関する事務を行ったと主張⇒契約に基づく約定の割合に従った報酬として、又は商法512条による相当な報酬として前記報酬の半額の支払を請求。
 
<争点>
①XがY1、Y2のいずれと業務委託契約を締結したか
②同契約上Y1の受け取る報酬の半額を報酬とする合意があったか
③合意がない場合における相当な報酬額はいくらか 
 
<規定>
商法 第512条(報酬請求権)
商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができる。
 
<判断>
①本件案件に関する取引の経過、②Y2とXのやり取り、③Xの作業等を認定し、本件案件がY1の業務であった

XがY1から本件案件の交渉、書面作成、検討、助言等の業務を委託したものと認め、Y1とXとの間の報酬に関する合意の成立を否定
but
商法512条を適用
Xの行った作業の内容を検討
Y1が取得した報酬金額の15%程度に当たる800万円が相当な報酬額であると認める等して、Y1に対する請求を一部認容

Y2に対する請求は棄却。

判例時報2340

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