商事

2022年5月26日 (木)

インサイダー取引で「業務上の提携」を行うことについての決定をしたとは認められないとされた事例

東京地裁R3.1.26

<事案>
㈱Aの取締役であるXが、その職務に関し、A社の業務執行を決定する機関が、B社との業務上の提携を行うことについての決定をした旨の重要事項を知りながら、本件重要事項の公表がされた平成27年12月11日より前に、自己の計算において、A社の株式合計400株を買い付けた⇒金融庁長官から、金商法185条の7第1項に基づき、課徴金として133万円を国庫に納付することを命ずる旨の決定⇒本件納付命令が違法であると主張して、その取消しを求めた。

<争点>
①A社の代表取締役であるP1が金商法166条2項1号所定の「業務執行を決定する機関」に該当するか
②A社の業務執行を決定する機関がB社との間で金商法及び金商法施行令の「業務上の提携」を「行うことについての決定」をした時期が遅くとも平成27年8月4日であるか

<解説>
インサイダー取引は、
金融商品取引市場おける公平性、公正性を著しく害し、
一般投資家の利益と金融商品取引市場に対する信頼を著しく損なう

金商法は166条においていわゆるインサイダー取引を禁止し、
その違反に対して刑事罰や課徴金を課している。

金商法166条1項は、
会社関係者であって上場会社等に係る業務等に関する重要事実(同条2項所定)を同条1項各号に定めるところにより知ったものは、
当該重要事項が公表された後でなければ、当該上場会社等の特定有価証券等の売買等をしてはならない。

同条2項1号は、同条1項でいう重要事実について、
当該上場会社等の業務執行を決定する機関が同条2項1号イないしヨに掲げる事項を行うことについて決定したことをいう旨規定し、
同号ヨは、
業務上の提携その他の同号イないしカまでに掲げる事項に準ずる事項として政令で定める事項を掲げている。

<判断>
●争点①
金商法166条2項1号所定の「業務執行を決定する機関」とは、
会社法所定の決定権限のある機関に限られず、実質的に会社の意思決定と同視されるような決定を行うことができる機関であれば足りる。

A社とB社との業務提携において、P1が「業務執行を決定する機関」に該当。

●争点②
金商法166条2項1号ヨ所定の「業務上の提携」について、
仕入れ・販売提携、生産提携、技術提携及び開発提携等、会社が他の企業と協力して一定の業務を遂行することを意味することを前提に、
本件提携はそれに該当。
同条1項の趣旨

「業務上の提携」を「行うことについて決定をした」とは、
「業務上の提携」の実現を意図して、「業務上の提携」又はそれに向けた作業等を会社の業務として行う旨の決定がされることが必要であり、
「業務上の提携」の実現可能性があることが具合的に認められることは要しないものの、
「業務上の提携」として一般投資家の投資判断に影響を及ぼす程度に具体的な内容を持つものでなければならない。

本件では、平成27年8月4日の時点では、それに該当しないと否定。

<解説>
「業務上の提携」とは、
会社が他の企業と協力して一定の業務を行うことをいい、
業務の内容や提携の方式について限定はなく、
仕入れ・販売提携、生産提携、技術提携及び開発提携、合弁会社の設立、事業の賃貸借、経営委任などはいずれも業務上の提携に該当。
「行うことについての決定」

日本織物加工株式会社事件最高裁判決:
「株式の発行」について、
株式の発行それ自体や株式の発行に向けた作業等を会社の業務として行う旨を決定したことをいうものであり、右決定をしたというためには右機関(=業務執行を決定する機関)において株式の発行の実現を意図して行ったことを要するが、
当該株式の発行が確実に実行されるとの予測が成り立つことは要しない。

村上ファンド事件最高裁判決:
「公開買付け等」について、「決定」をしたというためには、上記のような機関(=業務執行を決定する機関)において、公開買付け等の実現を意図して、公開買付け等又はそれに向けた作業等を会社の業務として行う旨の決定がされれば足り、
公開買付け等の実現可能性があることが具体的に認められることは要しない

「決定」について確実性や実現可能性を要件としていない。

①インサイダー取引の構成要件が原則として投資判断に及ぼす実際の影響を要件としない形で客観的にその範囲を確定するという観点から規定されたという立法経緯
②軽微基準及び重要基準を設けて投資者の投資判断に及ぼす影響が軽微なもの処罰の対象とならないように手当がされている
⇒インサイダー取引はいわゆる抽象的危険犯としての性格を有し、一定程度の実現可能性の存在を「決定」該当性の一要件と位置付けるのは相当ではないという趣旨。

判例時報2511

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株式の買取請求をした者の会社法318条4項の「債権者」該当性

最高裁R3.7.5

<事案>
Yにおける株式併合によりその保有する株式が1株に満たない端数になる⇒会社法182条の4第1項に基づき前記株式の買取請求ををしたXが、Yに対し、Xは前記株式の価格の支払請求権を有しているからYの債権者に当たるなどと主張して、会社法318条4項に基づき、株主総会議事録の閲覧及び謄写を求めた事案
XはYから会社法182条の5第5項に基づく支払を受けており、Yは、前記株式の価格が前記支払の額を上回らない限りXは会社法318条4項にいう債権者には当たらないと主張。

<経緯>
(1)平成28年7月4日の臨時株主総会及び普通株式の株主による種類株主総会で、同月26日を効力発生日としてYの普通株式及びA種類株式のそれぞれ125万株を1株に併合する旨の決議
(2)Xは、Yの株式4万4400株を有していたところ、前記各株主総会に先立ち、前記各決議に反対する旨をYに通知し、各株主総会で議案に反対、
(3)同月25日までに、会社法182条の4第1項に基づき、Yに対し、本件株式を公正な価格で買い取ることを請求。
(4)Xは、本件株式の価格についてYとの間で協議が整わなかった⇒会社法182条の5第2項所定の期間内に、東京地裁に、本件株式の価格決定の申立て
(5)Yは、同年10月21日、同条5項に基づき、Xに対し、自らが公正な価格と認める額として1332万円を支払った。

<判断>
会社法182条の4第1項に基づき株主の買取請求をした者は、会社法182条の5第5項に基づく支払を受けた場合であっても、前記株式の価格につき会社との協議が調い又はその決定に係る裁判が確定するまでは、会社法318条4項にいう債権者に当たるというべき
⇒Xが同項にいう債権者に当たると判断した原審の判断は正当。

<解説>
●会社法は、株式会社の株主又は債権者につき、株主名簿、株主総会議事録、取締役会議事録、会計帳簿、計算書類等の閲覧等の請求をすることができる旨を規定。

株主に関しては監視監督権限の実効的な行使のため、
債権者に関しては間接有限責任(会社法104条)の下での債権の回収確保のため
会社の事業、財産及び損益の状況等に関する情報を入手することを可能としてこれらの保護を図ることを目的として設けられたもの。
会計帳簿や取締役会議事録等、開示により営業秘密の漏えい等の弊害が生ずる懸念が大きいものも含まれている

一定数以上の株式を有する株主に限定したり、
請求の理由を明らかにして閲覧等の請求をすべきものとしたり、
拒絶事由を定めたりすることにより会社と開示請求権者の利益ないし損失を衡量する制度設計

「株主」又は「債権者」に該当するか否かの判断自体において、前記弊害が生ずるおそれを考慮して厳格に判断すべき必要性は見出し難い。

●株式併合の場合における反対株主の株式買取請求権の制度
会社は、会社法182条の4第1項に基づき株式の買取請求をした者に対し、前記株式の価格の決定があるまでの間、会社が公正な価格と認める額を支払うことができる(会社法182条の5第5項)

会社が株式買取請求に係る株式の価格につき支払うべきものとされる利息が市中金利に比して高額であることによる濫用的買取請求に対処するために導入。
but
買取請求に係る株式の価格の支払請求権は、前記価格についての当事者間の協議が調い又は前記価格の決定に係る裁判が確定するまではその価格が未形成

前記価格の形成以前の時点でこれを弁済により消滅させることができるかという点自体にき疑問があり得る。
弁済自体は可能であるとしても、その価格が未形成である以上、当該弁済によりその全部が消滅したと認定することは不可能。
・・・

判例時報2511

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2022年4月17日 (日)

1人しかいない監査役による報酬増額決定と善管注意義務違反(否定)

千葉地裁R3.1.28

<事案>
Yの常勤監査役を解任されたXが、Yに対し、未払報酬額を請求するとともに、解任に正当な理由がないとして、会社法339条2項に基づく損害賠償を請求した。

<主張>
X:Yに対し、
①平成28年6月10日に、Xが受けるべき報酬額を株主総会が定めた監査役報酬の最高限度額である月額100万円にする旨の決定(本件増額決定)をしたにもかかわらず、同月分から平成29年5月分までの間の報酬につき、本件増額決定前の報酬額である月額65万円しか支払われない⇒その差額の支払を求めた
②平成29年5月26日のYの定時株主総会において、正当な理由なく監査役を解任された⇒報酬、賞与、退職慰労金及び功労金相当額の損害賠償を求めた。

Y:
①監査役が自己の監査役報酬を1人で決定することはできないし、任期途中に報酬の増額をすることはできない⇒本件増額決定は無効
②Xが本件増額決定をしたことは善管注意義務に反する⇒Xを解任する決議には正当な理由がある
③本件増額決定を行ったXには善管注意義務違反がある⇒Xに対する善管注意義務違反に基づく損害賠償請求権を自働債権、Xの本件請求権を受働債権として対等額で相殺する旨主張。

<判断>
本件増額決定は有効⇒Xの未払報酬請求には理由がある。
Xに善管注意義務違反がある旨のYの主張は理由がない⇒本件解任決議には正当な理由があるとは認められない⇒損害賠償額の一部を認容

<解説>
●監査役が1人の場合の報酬決定
①監査役の独立性の保障の趣旨に反しない
②上限が画されている⇒株主の利益を害することも考えにくい
⇒会社法387条2項に準じた報酬の決定方法として許容されるべき。

●監査役報酬の増額
監査役が期間を定めて自己の報酬額を決定⇒会社と監査役菅の報酬の合意⇒その期間中の増額は、会社の同意を必要とする。
期間経過後は、会社の同意なく報酬増額決定を行うことができる。

●監査役の報酬決定に係る善管注意義務違反

取締役の報酬:
報酬等の最高限度を定め、その枠内で個人別の報酬等の決定を取締役会に一任する株主総会決議の趣旨は、取締役会が個々の取締役ごとにその職責・能力を勘案した上で個人別に相当な報酬等を決定することを委託したものと解される⇒不相当な報酬等を決定した取締役については、善管注意義務違反(会社法330条、民法644条)及び忠実義務(会社法355条)違反を認め得ると解されている。

監査役による報酬決定:
職務の遂行⇒善管注意義務及び忠実義務を尽くしてその決定を行わなくてはならない。
but
監査役の報酬規制を定めた会社法387条の趣旨は、取締役の報酬規制とは異なり、監査役の取締役からの独立性を確保することを目的とするもの
監査役の善管注意義務の有無を判断するに当たっても、この点を前提とした上で株主総会決議の趣旨に反する報酬決定といえるか否かといった観点から判断する必要。

判例時報2506・2507

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2021年12月29日 (水)

「航海の用に供する船舶」とは、社会通念上海上とされる水域を航行する船舶をいうとされた事例

福岡高裁R3.2.4

<事案>
平成30年台風21号の暴風により、関西空港連絡橋に衝突する事故を起こしたタンカーの所有会社が、当該事故によって生じた物の損害に関する債権について、船舶の所有者等の責任の制限に関する法律(「責任制限法」)に基づく責任制限手続開始決定を受けた
⇒ 債権者が即時抗告

<解説等>
●責任制限法の沿革・趣旨
責任制限制度は、船舶所有者等の責任の程度を緩和する反面、債権者の権利を制限するもの。
but
憲法29条1項及び2項に違反しない(最高裁)。

最高裁昭和48.2.16:
昭和50年改正前の商法690条について、
船長その他の船員の職務の特殊性に鑑み、民法715条に対する特則を定めたものであって、船舶所有者の責任の範囲について有限責任を規定する反面で、その帰責事由については船舶所有者の過失の有無を問わないこととしたものと解すべき。

●「航海の用に供する船舶」の意義
海商法(商法第3編)が適用される船舶について、商法684条は商行為をする目的で「航海の用に供する船舶」と定義
責任制限法2条1項1号にも同様の定義規定

「航海のように供する船舶」に該当するか否かが、海商法及び責任制限法の適用の可否を画するメルクマール。

●本決定:
①平成30年改正を受けて、商法684条及び責任制限法2条1項1号の「航海の用に供する船舶」の意義について、平成30年改正前の通説とは異なり、平成30年改正の趣旨を踏まえて近時再評価されるに至った見解に沿った解釈を採用して適用
②昭和50年改正後の商法690条、民法715条及び責任制限法の位置づけを整理し
③責任制限法3条3項の責任阻却事由についての一般的な解釈に沿ってこれを適用した事例。

判例時報2498

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2021年5月 1日 (土)

株主間の取締役選任合意の効力

東京高裁R2.1.22

<事案>
X1の父でX2の祖父であるAとYの父Bは、Cと共に、株式会社の株主。
昭和47年に、本件会社の取締役について、A、B及びC(その指名されたものを含む。)を互選する旨の取締役選任合意をした。
その後X1及びXは、Aから本件会社発行の株式を相続等により承継し、Yは、Bから本件会社発行の株式の信託合意を受けた。
Xらは、Yに対し、昭和47年合意に基づき、YがAの地位を承継したX1を本件会社の取締役に選任するよう議決権を行使する義務を負っていると主張⇒今後開催する株主総会においてX1を取締役に選任する議案が提供された場合に、同義案に賛成する旨の意思表示をすることを求めた。

<争点>
株主間でされた取締役選任の合意について、議決権行使の履行強制をすることができるほどの法的効力を有するか

<判断>
株主間契約の効力の判断方法については、
個別の株主間契約ごとに、
会社法その他の関係法令の趣旨を考慮に入れて、
契約当事者の属性、契約内容、契約締結の動機目的、契約当事者の有する株式の種類や議決権の総株主に占める割合の各要素を検討の上で契約当事者たる株主の合理的意思を探求し、
当事者双方が法的効力を発生させる意思を有していたか、法的効力を発生させる意思を有していた場合における効力の内容・程度について契約当事者の意思を事実認定する必要がある。

昭和47年合意は、契約当事者に法的効力を付与するものではなく、仮に何らかの法的効力を付与する意思があったとしても、強い法的効力(契約に沿った議決権行使の履行強制をすることができる)を付与する意思があたっとはいえず、また、仮に昭和47年合意に何らかの法的効力を「付与する意思があったとしても、特定人たる取締役候補者及び自然人たる契約当事者に相続が発生した場合においては、法的効力が消滅する合意

特定人たる取締役候補者及び自然人たる契約当事者の全員が死亡し、相続が発生していることから、合意の法的効力はすでに失われている。

考慮された事情:
①昭和23年合意及び昭和47年合意において、合意の内容はあいまいな点(特に、特定人たる取締役候補者が死亡した場合の取扱い)が残る
②特定の自然人を取締役候補者や契約当事者とする株主間契約は、法的効力をあまり意識していないものが多く、仮に法的効力を付与する意思があったとしても、短期間に限り契約に沿った議決権行使の履行強制ができる効力を付与する意思で契約を締結したにすぎない場合が多い
③F家やG家も、CやCの指名する者の取締役選任に複数回反対したこと
④昭和47年合意において、本件会社の運営に関する事項に特化した文書が作成しないこと
⑤昭和47年合意が締結されたことは、会社法実務や下級裁判所の裁判実務は、なお、議決権行使契約無効説や、当事者間では有効であるが、強い法的効力(議決権行使の履行強制や契約違反の議決権行使の株主総会決議取消事由該当性)は否定されるという前提で動いていた。

<解説>
学説:
現在はその効力を原則として認めるのが通説的見解。

同契約に基づく議決権行使の強制履行:
これを認める見解と
認めない見解
とが存在。

株主間契約を離れて、契約一般について判断するときは、債務の性質がこれを許さない限り履行強制をできることは原則であり、このことは株主間契約についても妥当すると解される(田中)。

本判決:
株主間契約についても、一般の契約と同様に、合理的意思解釈の原則により判断

契約当事者に強い法的効力を付与する意思があったことを基礎づける間接事実が乏しいこと、
他方、それがなかったことを基礎づける間接事実が豊富であったことを基礎づける間接事実が豊富であったこと
を理由に、これを否定。

判例時報2470

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2021年1月 3日 (日)

オリンパスの取締役に対する損害賠償請求の事件

東京高裁R1.5.16

<事案>
X1(オリンパス㈱)が、巨額の金融資産の損失の計上を避けるため講じた(1)ないし(7)の行為等について、会社法423条1項等に基づき、X1が取締役らに対し損害賠償等を請求し、株主X2がこれに共同訴訟参加をし(請求を拡張)、また、
違法行為の疑惑を指摘したAを代表取締役等から解職する取締役会決議をして、不祥事を隠蔽し、X1の信用を失墜させたなどとして、X2が会社法423条1項に基づき、取締役らに対し、X1に損害を賠償するよう求めた事案の控訴審。
(1)第1類型(金利・運用手数料関係)
(2)第2類型(株式運用損関係)
(3)第3類型(国内3社株式取得関係)
(4)第4類型(V5関係)
(5)第5類型(疑惑発覚後の対応関係)
(6)第6類型(剰余金の配当関係)
(7)第7類型(課徴金・罰金関係)
(8)第2事件

<原審>
第5類型:1000万円
第6類型:586億7599万8936円
第7類型:Yらにつき7億1986万円、Yら以外の1名につき1986万円
を(一部)認容
第1類型⇒損害の発生が認められない
第2事件:取締役の善管注意義務違反が認められない
第2類型・第3類型・第4類型も棄却。

<判断>
●第1類型に係るX1の控訴
Z及びY7:損失分離スキームの構築・維持が行われていることを知りながら、これを中止・是正されることを怠った
Y1:損失分離スキームを自ら構築・維持し、かつそれを中止・是正する措置を講じることもなかった
Y2及びY3:Y1の指示ないし了承の下、損失分離スキーム構築の実務作業を担い、スキームの構築・維持を行った
いずれも取締役の善管注意義務及び忠実義務に違反
but
損失分離スキームにおいてファンド等が融資を受けた銀行に対して支払った金利及びファンド運用手数料等は、前記善管注意義務違反等によってX1が被った損害とは認められない

X1:主位的に、信義則上、運用手数料等の支払主体となったファンドの法人格を否認し、これら運用手数料等はX1が支払ったものと評価すべき
vs.
①そもそも法人格否認の法理は、法人格の背後にある者の責任を追及するための法理であって、法人格の背後にあるX1が自らが被ったとする損害を主張するために法人格否認の法理を援用することは相当ではない
②この点を措くとしても、問題となるファンドは多数に及び、その法形態も多様⇒本件全証拠によるもX1と実質的同一性があると認めるのは困難

X1:予備的に、金利及び運用手数料等の支払によりX1の預金債権又は出資債権の価値が毀損されたことがX1の損害であり、同損害は金利・運用手数料支払の時点で発生
vs.
現実に預金債権・出資債権の価値の減少が生じたものとはいえず、また、損失分離スキームの下、長期間にわたり相互に関連を有する経済活動が継続され、預金の金利などファンドの運用利益等の収益もありながら、各ファンド等の財務状況や収支等の全体は明らかでない状況の下で、過去の一時点における金利又は運用手数料等の支払のみをもって損害が発生したと捉えることは相当ではない

●第5類型
Y2及びY3:損失分離スキームを構築・維持するために具体的な手法を策定・実施するなどの実務作業を担っていたこと、
Y3:Aに対して、Aの指摘する疑念は存在しないとの回答をし続けたこと
Y2:Y3が事実に反して前記のような応答をしていることを認識していたこと、
Y2及びY3:AがY7及びY3の辞任を求めた直後の平成23年10月13日、Y7が招集した集まりに参加し、翌14日の取締役会におけるAの会食に異論を述べず、解職議案にも賛成した。

Y3は、Y7とともに、Aの疑惑追及による損失分離スキームの発覚を防ぐことを主たる目的として、Aの解職に向けた一連の行動を採ったと認定するのが相当であり、X1に対する善管注意義務及び忠実義務に違反するものと認められる。
Y2:同年6月から監査役に就任していたが、前記Y7の違法行為を阻止するため、取締役会や監査役会にその旨報告するなどの措置を採る義務を負っていたにもかかわらず、何らの措置も採らなかった⇒X1に対する善管注意義務に違反。

損害について、
①Aの解職後、X1の株価が下落
②X1の経営の混乱や迷走等を指摘する多数の新聞報道がされ、X1は、その後各種プレスリリースや第三者委員会の設置等の対応を強いられた

X1には、Aの解職によって信用毀損による損害が生じた。
当該損害の性質上その額を立証することは極めて困難⇒民訴法248条により、その損害額を1000万円と認定するのが相当。

●第2事件
X2:Y8~Y15は遅くとも平成23年9月30日の取締役会の時点で、Aの指摘を真剣に受け止め、違法行為の有無について調査すべき注意義務を負っていたが、Aの指摘を事実上無視し、調査義務を怠るとともに、Y7らの違法行為を黙認ないし放置し、監視義務にも違反した。
vs.
その認定に係る同日の取締役会に至る事実経過⇒同日の取締役会の時点で、損失分離スキームに関する事情を知らないY8~Y15において、Aが指摘した違法行為について調査するなどの対応を要するような状況になく、その時点において善管注意義務違反があったということはできない。
・・・・

●第6類型
Xらの主張する剰余金の配当等は、いずれもその効力を生ずる日における分配可能額を超えて行われたと認められる。
別件の詐害行為取消訴訟において成立した裁判上の和解によりY3等が合計300万円をX1に支払ったことについて、X1が同金額を損害から控除することを争わないことを陳述し、X2も特段の異議を述べていない。
⇒損益相殺として、300万円を控除。

●第7類型
①会社が取締役の任務懈怠によって課徴金・罰金の支払を余儀なくされた場合について、その課徴金・罰金を損害から除く根拠はない。
②任務懈怠をした取締役が会社に対する損害賠償責任を負わないということになれば、株主が代表訴訟を通じて会社に財産の回復をさせる手段も奪うことになり相当でない。
取締役に過剰な負担となることを理由にして相当因果関係を否定する理由もない
④二重処罰にも当たらない。

課徴金・罰金も損害となる。

Y2及びY3(並びにY7):
重要事項に虚偽の記載をした有価証券報告書及び四半期報告書を作成し提出したことについて、取締役としての善管注意義務に違反し、これをX1が支払った罰金及び課徴金との間には相当因果関係がある。

Z及びY1:
①X1が罰金刑に処せられ、また課徴金を課せられたのは、いずれもZ及びY1がX1の取締役を退任した後の会計年度に係る有価証券報告書及び四半期報告書の虚偽記載についてのものであり、Z及びY1はこれらの有価証券報告書等の作成提出自体には関与していない
刑事事件の判決において虚偽記載のある有価証券報告書提出の事実についてY7らとの共謀が認定されているわけでもない。
本件罰金・課徴金が科されたのは、Z及びY1の影響を受けることなく、それとは独立して、Y7らが取締役として判断、意思決定をして虚偽記載のある本件有価証券報告書等を提出した結果であって、これをZ及びY1の善管注意義務違反の当然の因果の流れということは困難

同人らの善管注意義務違反との因果関係を認めることはできない。

判例時報2459

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2020年11月21日 (土)

転換社債型新株予約権付社債の発行と取締役としての善管注意義務違反(否定)

東京高裁R1.7.17

<事案>
東証1部上場企業Zの株主Xが、Zの取締役会において転換社債型新株予約権付社債の発行が決議されたことにつき、取締役であったYら13人に対し、会社法429条1項又は民法709条、719条に基づき、同社債の発行に起因する株価の下落等による88億145万3344円の損害の賠償を請求。

<Xの主張>
(1)本件発行が株主総会特別決議等所要の手続を経ずにされた有利発行である
(2)xの保有議決権比率を稀釈化するという不当な目的をもってされた著しく不公正な方法による発行
(3)本件発行の公表により株価が大きく下落するなどの状況⇒これを踏まえて本件発行を再検討して適切な措置を講ずべきであるのにこれを怠った

<判断>
●有利発行について
公募により新株予約権付社債を発行するに際し、客観的資料に基づく一応合理的な算定方法によって発行条件が決定⇒特段の事情のない限り、有利発行には当たらない
but
上場株式について新株予約権付社債の場合は、実質的な対価と理論上算定される価値との比較において、前者が後者を大きく下回るような事情がある場合には特段の事情がある。
本件において共同主幹事引受会社を通じてブックビルディンがが行われたことについて、ブックビルディングが、専門性を有し、短期間で必要な需要調査を終えることができるものであり、一般的な実務慣行として、日本証券業協会の定める規則等の定める内容と相違ない手続で実施されており、その方法が特に不相当なものであるとはいえない
客観的資料に基づき一応合理的な算定方法によって発行条件が決定されたということができる。
その他特段の事情があるとは認められない。

有利発行にあたらない

●不公正発行について
現経営陣が、支配権を争う特定の株主の持ち株比率を低下させ、もって自らの支配権を維持、確保することなどを主要な目的として新株予約権を発行するときは、不当な目的を達成する手段として行われる場合に当たる。
but
本件発行は、
①第2次中期事業計画に掲げた施策実現のための資金調達を目的として行われたもの
他の資金調達手段との比較における新株予約権付き社債発行の優位性を確認している
③本件新株予約権付社債は、不特定の機関投資家に対して発行され、株式の市場価格が転換価額を上回らなければ転換されず、株式募集とは異なり、Xの持株比率を直ちに低下させるものではない
④本件発行の割当先は、ZやYらの意思とは無関係に決定される
経営支配権をまぐる差し迫った状況にあるとはいえない

Xの持株比率を低下させることを主要目的として行われたとまでは認められない

●善管注意義務違反
(1)経営判断について、その判断過程、内容に著しく不合理な点があるなど、取締役に与えられている裁量の範囲を超えていると認められる場合に善管注意義務違反がある。
(2)本件発行の公表後に一時的に市場株価が下落することは一般的にあり得る現象と認識されており、このことのみから、善管注意義務に反するものということはできないものの、Xの指摘に基づいて、本件新株予約権付社債が、実際に有利発行に当たらないか、既存株主を不当に害するものでないか、Xから提案された資金調達方法によって資金需要を賄うことができないかなど、十分に検討せず、本件発行を強行した判断には、適切さを欠く面があった。
but
①Xからの提案を直ちに判断することは困難であったこと
②本件発行を撤回すれば、共同主幹事証券会社から損害賠償請求を受けるなどして、市場の信用を失うなど悪影響が商事ることもあり得たこと等

Yらの判断が、その過程、内容に著しく不合理であったまではいえない

判例時報2454

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2020年11月10日 (火)

先物取引受託会社役員の職務執行上の重過失が肯定された事例

名古屋高裁R1.8.22

<事案>
Xは、商品先のの取引を受託する株式会社Y1の担当従業員であるY4から勧誘⇒平成24年7月26日から同年11月26日まで、Y1に委託して、金、とうもろこし、白金の商品先物取引⇒1698万3780円の差損金。
Xが、
①本件取引において、Y1の従業員Y4ほか(Y1従業員ら)による不招請勧誘禁止違反、適合性原則違反、説明義務違反、新規委託者保護義務違反、実質的一任売買、過当取引、指導・助言義務違反、信任・誠実公正義務違反等の一連の違法行為が存在⇒Y1従業員らに対しては、不法行為又は債務不履行責任に基づき、
②Y1により教育指導体制等の内部統制システム整備・運営義務違反があった⇒Y1の代表取締役であったY2及びY3(Y1役員ら)に対しては、会社法429条1項に基づき、損害賠償請求。

<判断>
①Y1従業員らの新規委託者保護義務違反、指導・助言義務違反、信任・誠実公正義務違反及びY1の使用者責任
Y1役員らの法令等遵守及び内部管理体制を確立・整備し、適正な勧誘・受託の履行を確保すべき義務違反(重過失)を認め、
Xの過失割合を4割。

<解説>
●会社役員等の損害賠償責任
会社法429条1項は、役員等の第三者に対する損害賠償責任について、
職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは」損害賠償責任を負う、としており、
役員等の会社に対する義務(善管注意義務・忠実義務)違反があり、第三者に損害を被らせた場合にも、当然に前記義務違反に基づく損害賠償義務を負うことはない。

本判決:Y1役員らの重過失を肯定
本件取引に先立つ平成20年1月11日にY1に対する行政処分について、
適合性の原則に関し顧客の財産の状況及び投資可能資金額の確認を十分に行わないまま取引を受託
取引開始後1か月しか経過していない顧客に対し、両建てに関する理解がなされているかどうかの確認を十分しないまま受注し建玉していたことが処分理由とされていたのであるから、Y1においては、顧客の財産や投資可能資金額、両建てに関する理解について、十分な審査体制を整える等の再発防止策をとるべきであり、それはY1において容易に行うことが可能であった
but
①Xの財産状況や投資可能資金を十分に調査確認せず、投資可能資金額を、Xの投資意向500万円程度をはるかに超える、Y1が定める審査規定の定めの上限である1750万円に設定させ、
②取引開始からわずか4日後に、Xに、Xが両建て等の説明を受け証拠金の仕組みについても理解しており両建てを指示する旨のY4の指示通りの指示書を提出させ(Y1においては指示書さえ提出されれば新規委託者からでも両建てを受託できた。)Xから両建てを受託する等、前回行政処分後も、従業員による同種の法令違反行為が繰り返されており、Y1役員らが、従業員が適正な勧誘・受託を行うよう教育し、違法行為を防止すべく内部管理体制を確保する義務を尽くしていたとはいえず、義務違反の程度は重大

Y1が以前にも行政処分を受けており、再発防止策がとられたものの全く不十分であったことを重視。

●商品先物取引事例において、会社法429条1項に基づく会社役員の責任を認めた裁判例:

名古屋高裁H25.3.15:
同判決は、問題となった取引に先立ち、控訴人会社は、何度も従業員の違法行為を認める判決を受け、従業員の違法行為を認める判決を受け、行政当局や商品先物取引協会から業務の改善を求められ制裁を科されていたにもかかわらず、役員らは、従業員の行為が違法であると認識しておらず、従業員への指導も不足していた。

判例時報2453

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2020年8月24日 (月)

元受保険契約に基づき元受保険金を支払った者による再保険契約に基づく再保険金の支払請求

東京地裁R2.2.14

<事案>
2010年4月22日に発生したメキシコ湾原油流出事故に関し、原告が元受保険契約に基づき、元受被保険者である三井物産子会社に対して、元受保険金を支払った⇒再保険契約に基づき、被告らに対して、再保険金の支払を求めた。
前記事故は、メキシコ湾のミシシッピ・キャニオン252区画において、英国のエネルギー関連企業の米国子会社であるBP社がオペレーターとして開発する石油掘削事業で起こったもので、前記元受け被保険者であるMOEXが、BP社らと操業協定を締結し、ノンオペレーターとして、10%の権益をもって、前記事業に参加。

<主たる争点>
①再保険契約の準拠法である日本法に、商慣習法として、運命共同体原則があるか
②再保険及び元受保険の保険約款で保険金の支払条件として定められた元受被保険者の損害賠償義務があるか

<判断・解説>
●争点①
「運命共同体原則」
再保険契約において、再保険者は、元受保険契約上の保険金の支払いが合理的に行われている限り、被再保険者(元受保険者)に対し再保険金を支払わなければならず、元受保険契約上の保険き支払義務に関して、被再保険者(元受保険者)の判断を争うことはできないというもの。

原告:大判昭15.2.21の原審判決を指摘。
被告:
同裁判例は運命共同体原則について述べたものではない。
再保険は、元受保険金の支払義務のもととなる元受被保険者損害賠償義務の存在なくして、再保険金の支払義務が発生することはない契約であって、再保険法の分野でも世界の標準となる英国判例法をみれば、英国の裁判所は、このことを踏まえて判断している。
実務上、再保険契約にフォローザセトルメント条項が多く用いられているが、これは運命共同体原則が慣習法とはなっていないから。

本判決:
運命共同体原則が商慣習法として存在するとは認められない
仮に運命共同体原則が存在するとしても、元受保険の保険者は、被保険者の損害賠償義務の有無について調査確認し、必要に応じて法的助言を得るべきところ(英国判例法と同じ原則)、原告は、準拠法の異なる地域の法律事務所の助言を得ているに過ぎない⇒運命共同体原則は適用されない。

東京地裁H31.1.25:
follow the settlement 条項として、「この再保険は、・・・元受保険者が行った一切の保険金支払額の決定に従う。・・・但し、保険金支払義務がないことを知りながら行う支払い及び保険金支払義務があることを認めずに行う支払いを除く。」
との条項がある場合に、保険約款の適用が微妙であるときは、当該保険約款の適用について裁判所が先行的に判断して、その判断の結果を、前記条項の適用除外の有無の判断基準としている。
保険の填補対象となるか否かについて、判断が分かれ得る場合に、再保険の契約当事者の間で、一方の見解が他方に優先するとしたのでは、公平な法的解決を実現することができない⇒運命共同体原則という一方の判断が優先するという考え方には、おのずから限界がある。
本判決も東京地裁H31.1.25も、共通した理解に立っているものと思われる。

●争点②
再保険の保険約款で保険金の支払条件として定められた元受被保険者の損害賠償義務について、本件では、元受被保険者であるMOEXなどが、流出した原油の清掃費用に関して、法的な支払義務を負ったかが問題。

原告:
MOEXなどが、流出原油の清掃費用について、アメリカ政府や州などBP社以外の第三者に対して、支払義務を負った⇒それが元受保険の填補対象となる。
but
本判決::
前記第三者に支払義務を負う額が判決や和解によって確定していることを必要とする約款が元受保険契約にあるが、前記の額は確定していない。

原告:
MOEXなどがBP社との操業協定により清掃費用の支払義務を負った。
vs.
BP社に、油濁損害の発生について、gross negligence or willful misconduct(重過失又は故意)がある場合には、操業協定上の分担義務をMOEXが負わない旨、前記操業協定の22.5条に規定がある。

本判決:
BP社に、油濁損害の発生について、gross negligence or willful misconduct があったと認定⇒BP社との操業協定上の支払義務を否定。
2014年に、BP社の米国水質汚濁防止法違反に関して、米国ルイジアナ東部地区地方裁判所が出した判決も、BP社のgross negligence or willful misconductを肯定する判断を示している。

原告:
BP社が第三者に対して、清掃費用を支払い、その求償義務をMOEXが負担した旨主張。

本判決:
この求償義務について、前記操業協定の第22.5条の規定が適用される旨判断⇒BP社に、gross negligence or willful misconduct がある本事例では、MOEXの求償義務も否定される。

判例時報2446

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2020年4月30日 (木)

保険契約者の新保険金受取人に対する保険金受取人変更の意思表示と有効性(肯定)

和歌山地裁田辺支部H31.4.24      
 
<事案>
生命保険契約の保険契約者及び被保険者Aの死亡に伴う死亡保険金について、Aによる保険金受取人をZ(Aの妻)からX(Aの兄弟)に変更する意思表示の有無や有効性が争われた。 

債権者不確知を原因として保険会社Yが供託した死亡保険金について、
①Xは、Zに対して、ZはX及びY社に対して、それぞれ供託金還付請求権を有することの確認を求めるとともに、
Zが、本件受取人変更の意思表示の際に、Y社の保険募集人Bに不法行為があったと主張して、Y社に対して、使用者責任に基づく損害賠償請求として金員の支払を求めた。

保険法施行日(平成22年4月1日)前に締結⇒改正前商法が適用
 
<争点>
①Z(妻)のY社に対する確認の訴えの利益の有無
②AのXにに対する本件受取人変更の意思表示の有無及び時期
③本件受取人変更の意思表示の錯誤無効の成否
④Bの不法行為及びY社の使用者責任の成否
 
<判断>
●争点①
Y社が、X又はZのいずれかに支払うべき死亡保険金を供託し、その取戻請求権を放棄したことにより、ZとY社との間で供託金還付請求権の帰属先を確認する利益はない⇒ZのY社に対する確認の訴えを却下
 
●争点② 
Aの死亡時期と名義変更請求書がY社に到達した時期の先後は証拠上明らかではない。

改正前商法:
保険金受取人の変更の意思表示の効力発生時期についての規定なし。
他方で、保険契約者がする保険金受取人変更の意思表示は、保険契約者の一方的意思表示によってその効力を生じ意思表示の相手方は新旧保険金受取人のいずれに対してもよくこの場合には、保険者への通知を必要とせず、同意思表示によって直ちに保険金受取人変更の効力が生じる(最高裁昭和62.10.29)。
⇒Y社ではなく、Xに対する受取人変更の意思表示の有無等が問題とされた。

判断:Aが、Xや本件募集人Bが同席する中で、本件受取人変更の意思表示を行う旨を明らかにした上で、名義変更請求書を作成

本件受取人変更の意思表示は、名義変更請求書の宛先が形式的にはY社とされていたとしても、その場に同席していたXに対してもされたと評価できる
 
●争点③ 
Z:Aが、アルコール依存症の重篤化による幻想・妄想の影響や、Xの言動等により、ZがAの印鑑を持ち出して多額の借金をしようとしたり、Aの財産や死亡保険金を子供のためではなく、自身のために費消しようとしたりしているなどと誤信して、本件受取人変更の意思表示を行ったことが要素の錯誤に該当すると主張
判断:Zの主張する事実は認められないとしてZの主張を排斥。
 
●争点④ 
Z:保険金受取人変更の申入れがAからあった際、保険募集人であるBには、最低限、Aに保険証券の提出を求めて、その申入れて異常がないかを確認すべき義務があった。
but
Bはかかる義務に違反して保険証券の提出を求めることなく手続を進め、Zの保険金受取人の地位を失わせたことが、不法行為に該当すると主張。

判断:昭和62年最判の枠組みに基づく限り、保険金受取人変更の意思表明がされた場合の旧保険金受取人の地位は、変更権の制限の下にあることが前提とされており、もともと不安定な弱いものにすぎないものであることを前提に、本件事実関係の下では、Bの対応に不適切な点はなく、Zの主張するような義務は認められない

Y社の使用者責任を求める点について
本件会社であるY社と保険募集人Bとの関係は、Bが、Y社の生命保険契約取引の媒介などの代理店業務(商法27条の媒介代理賞としての性質を有する。)を行うことを内容とする準委任契約
両者の間に実質的な指揮監督関係は認められない⇒使用者責任は成立しない。
 
<解説>
現在の保険法:
保険金受取人の変更の意思表示の相手方が保険者に限定され(同法43条2項)、その意思表示は、その通知が保険者に到達したときは、当該通知を発した時にさかのぼってその効力を生ずるとされている(同条3項)。
⇒争点②に関する問題は立法的に解決された。
but
改正前商法が適用される生命保険契約の事案は現在も少なくない。 
判例時報2434

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