商事

2023年2月25日 (土)

代表取締役による善管注意義務違反(役員報酬増額を含む)の事例

東京高裁R3.9.28

<事案>
代表取締役による子会社設立に伴う同子会社用の機械設備の購入及び役員報酬の増額について、会社が当該代表取締役に対して善管注意義務違反による損害賠償を求めた。

<原審>
本件機械の購入金額は、X社の資産合計の1.5パーセントに及ぶものであって、その種類、性能等はベトナム子会社及びX社の収益に影響するものであるのに、Yは取締役会決議を経ずに、X社にとって重要な財産に当たる本件機械を購入したことは、代表取締役としての任務を怠った。
追加的請求については、民訴法143条1項ただし書に基づいて、不許可。

<判断>
本件機械の購入について、取締役としての善管注意義務違反を認定し、役員報酬の増額についても善管注意義務違反が認められるとして、Yの責任を認めた。
X社の大口受注先から技術先から技術課題を指摘され、技術レベルが改善されなければ製品の発注を大幅に減少させることの予告を受けるとともに、ベトナム進出について消極的意見を示されるなどして、技術レベルの改善が緊急かつ最重要な課題であることを理解していた
⇒取締役会における十分な議論を改めですべきであり、その結論が出るまで、ベトナム進出に関する具体的な準備作業を一時中止すべき注意義務を負っていたのに、これを怠って、取締役会を開催して議論を行わず、本件機械を受注し購入した注意義務違反が認められる。

役員報酬の増額について
①X社に役員報酬を増額するような業績の向上や経営状況の改善があったとは認められない
②Yは、適切なガバナンスが効きにくい状況を作出した上でこれを利用して自らの報酬額を増額
③他の取締役が3~4パーセントの増額なのに対して、Yの報酬は25%の増額であり、40万円という増額金額や増額率からみても、いわゆるお手盛りの色合いの濃いものである
④経済的にみても、本件株式の一部につき、X社の出捐によりYが取得するのと同じ効果を有する
本件の経緯からすれば、X社による本件株式の買取りをYが妨害して自己の利益を得たとも評価し得る背信性の強い行為

報酬額の増額は取締役としての善管注意義務に違反する。

<解説>
●取締役の善管注意義務の判断に当たっては、
取締役によって当該行為がなされた当時における会社の状況および会社を取り巻く社会、経済、文化等の情勢の下において、当該会社の属する業界における通常の経営者の有すべき知見及び経験を基準として、前提としての事実の認識に不注意な誤りがなかったか否か及びその事実に基づく行為の選択決定に不合理がなかったか否かという観点から、当該行為をすることが著しく不合理と評価されるか否かによって判断。

本判決:本件機械の購入ではなく、その前段階である準備作業の一時中止の判断をしなかったことについて、具体的事実を踏まえて、著しく不合理であると判断

●役員報酬の増額(会社法361条1項)に関して:
株主総会の決議で取締役全員の報酬の総額を定め、その具体的な配分は取締役会の決定に委ねることができる、取締役会は具体的な決定を代表取締役に一任することができる。

(判例)
役員報酬について厳格な規律が設けられているのは、取締役によるいわゆるお手盛りを防止して、会社ひいては株主の利益を保護することにある。
株主総会で報酬総額が定められていたとしても、具体的な報酬額の決定が、会社の利益を損なうような不合理なものであるときは、前記基準により、善管注意義務違反が認められる

判例時報2539

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2023年2月 6日 (月)

証券会社の分別管理義務違反(否定)

東京地裁R3.9.29

<事案>
金商法上の金融商品取引業者(金商業者)であるA(証券会社) の取扱いに係る本件レセプト債の取得のために、Aに資産を預託していた原告らが、Aの分別管理義務違反によって預託した資産の返還に係る債務の円滑な履行が困難になった

主位的に、金商法79条の56第1項に基づく補償金の支払等を求め、
予備的に、被告との間で、原告らが同項の認定を受けることができる地位にあることの確認を求めた。

<争点>
● ①補償対象債権の発生要件
金商法の文理⇒被告による金商法79条の54に基づく弁済困難の認定が必要。
金商法施行令18条の10:
この認定は、金商業者の「財産状況」並びに金商法43条の2第1項及び2項等の規定による「管理の状況」に照らして、当該債権につき完全な弁済ができないと認められる場合等とする旨規定

原告らの被告に対する補償対象債権が発生するためには、Aに原告らが預託した顧客資産に係る分別管理義務違反が認められる必要がある。

● ②分別管理の具体的内容
金商法が規定する分別管理:
金商業者が預かる顧客資産を当該金商業者自身の固有資産と明確に区分して管理することを義務付ける制度

<主張>
主位的には:
A(証券会社)は、本件 レセプト債を管理していたものの、実際には、本件レセプト債が診療報酬債権等の裏付資産を欠いていることを認識しつつ当該払込みを行った⇒このような払込みの効果は原告らには帰属せず、分別管理の対象となる資産は、原告らが預託した金銭にとどまる

予備的には:
Aが、本件レセプト債発行会社に対して、診療報酬債権等の裏付け資産が確保されていなかった本件レセプト債の取得のために原告らから預託を受けた金銭を移動させること(本件資産移動)は、原告らの投資判断に反する行為であって、このような行為も分別管理義務違反を構成するものと解される。

<判断>
● 原告らの各主張を排斥し、Aに分別管理義務違反は認められない。

● 主位的主張
本件レセプト債の法的性質は、本件レセプト債の法的性質は、本件レセプト債発行会社が発行する社債であって、その債券が標章しているのは、募集要項に定められた条件の下、利金の支払や償還期限の到来によりその償還を受けることができる金銭債権にすぎない
原告らがAに対して委任した事務の内容は本件レセプト債を取得するために預託した金銭を払い込むことに尽き、Aが原告らによって委任された権限外の行為を行ったとは認められない。

●予備的主張
金商法43条の2第2項は、所定の金銭を「自己の固有財産と分別して管理」することを規定しているのみであるという同項の文理⇒本件資金移動のような払込みのための金銭の移動を含めて規定したものとは解されない

<解説>
投資者保護基金制度は、証券会社が自己の固有資産と顧客資産とを明確に区別して管理すること(分別管理)を怠り、破綻時における顧客資産の確実かつ円滑な返還が困難となった場合のセーフティーネットとして設けられた制度
証券会社が、投資家の意図に反する形で、債券の払込のために金銭を移動したことも含めて分別管理義務の射程を広く捉えることは、金商法の予定するところではない。

判例時報2538

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2022年12月 5日 (月)

株主権の確認・株主総会決議の不存在確認等

大阪高裁R3.7.30

<事案>
Y2株式会社(代表取締役Y1)は同族会社であり、X1はY1の長男、X2はY1の妻でありY2の株主。
Xらは、自分らに対する招集通知を欠いたままY2の臨時株主総会が開催され、X1が出席していないにもかかわらず出席して議案に賛成(ただしX1自身の取締役解任議案については反対)したという内容の株主総会議事録が作成された

①X1が、Y2及びその代表者で株主であることを争うY1に対し、Y2の株式30万株を有する株主であることの確認請求
②X2が、Yらに対し、Y2の株式20万株を有する株主であることの確認請求
③Xらが、Y2に対し、平成26年1月18日付け臨時株主総会における各決議が不存在であること
④X1がY1に対し、虚偽の内容の株主総会議事録を作成したことについて、不法行為に基づく損害賠償及びこれに対する遅延損害金の請求をした。

<原審>
請求①のうち、24万1818株の株主権の確認を求める部分に係る訴えを却下し、4万2071株の株主権の確認を求める部分の請求を認容し、1万6111株の株主権の確認を求める部分の請求を棄却。
請求②③を認容。
請求④を棄却。

<判断>
以下の通り判示して、控訴を棄却、附帯控訴を一部認容(請求④を除き、原判決の結論を維持)。
X2からX1への株式贈与契約書とY1からX1への株式贈与契約書は、いずれも公証人による確定日付印が押捺され、・・・Y1・X1間の贈与契約の成立について争いがない以上、X2名義の株式も同時に贈与された。
but
1万6111株についてはX1が受贈の意思表示をしたことについての具体的な主張立証がされていない⇒X1の主張する事情から直ちに贈与契約の成立を認定することはできない。
・・・前記新株発行にあたってX2名義で20万株に相当する8000万円の払込みがされたと認められるところ、前記新株発行がされた日に、X2名義の口座において1億6000万円の振替⇒その払込みがされたことを裏付ける。
Xらの包括的同意・個別同意を得たとの主張は認められない。
不法行為を肯定(後述)。

<解説>
●株主権は権利関係であるから、その所在・帰属は取得原因事実により立証
本件では、贈与が主張されており、間接事実によりそれを認定。
実務上、新株の引受けにおける名義借りのケースがしばしば争点になるが、
他人の承諾を得てその名義を用い株式を引き受けた場合においては、名義人すなわち名義貸与者ではなく、実質上の引受人すなわち名義借用者がその株主となるとする実質説が判例。

実質上の引受人(株主)の認定には、
①株式資金の拠出者
②名義貸与者と借用者との関係、その間の合意内容、
③取得の目的、
④名義貸与者及び借用者と会社との関係
⑤名義借用の理由の合理性
⑥取得後の利益配当金や新株等の帰属状況
⑦株主総会における議決権の行使状況
などの間接事実が重要。

●株主権の認定を前提⇒発行済株式数の約77.4%を保有する株主に対して招集通知がされていないことになる。
招集通知の漏れは、一般に決議取消事由になるが、瑕疵の程度が大きい場合には決議不存在事由となる(判例)。
排除された株式数が4割を超える⇒決議不存在
2割に満たない⇒決議取消事由
という目安。
本件で排除された株式数は総株主の7割を超える⇒総会決議不存在。

●不法行為:
原判決:
従前のY1の運営について、Y1の意思決定にXらが特に異議を差し挟んだことがこれまでになく、そのまま総会決議とされていた⇒X1の氏名の無断利用(人格権の侵害)に当たらない

本判決:
虚偽の株主総会議事録作成に加え、取締役解任登記をしたことがX1の社会的信用を低下⇒不法行為を構成。

判例時報2529

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2022年11月17日 (木)

取締役会議事録及び監査役会・監査等委員会議事録の閲覧謄写許可の申立てが却下された事例

大阪高裁R3.5.28

<事案>
Y(抗告人・原審利害関係人)は、東証一部上場の監査等委員会設置会社
Xら:Yの株主

<経緯>
Xら:本件社史には、発行手続に問題があり、かつ、多数の重要な誤りがあり・・・Yの時期株主総会で、株主提案権を行使して、定款の変更及び社史の客観的歴史的手j記号性の担保を議案とする株主提案を行うことを検討しているが、そいのためには本件社史を発刊した決定過程を把握する必要がある

①Yの取締役会議事録のうち、本件社史について協議、監督した部分について、閲覧・謄写することの許可を求めるとともに、
②Yの監査役会及び監査等委員会議事録のうち、本件社史について監査協議、監督した部分について、閲覧・謄写することの許可
を地裁に求めた。

<規定>
会社法 第三七一条(議事録等)
取締役会設置会社は、取締役会の日(前条の規定により取締役会の決議があったものとみなされた日を含む。)から十年間、第三百六十九条第三項の議事録又は前条の意思表示を記載し、若しくは記録した書面若しくは電磁的記録(以下この条において「議事録等」という。)をその本店に備え置かなければならない。
2株主は、その権利を行使するため必要があるときは、株式会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。
一 前項の議事録等が書面をもって作成されているときは、当該書面の閲覧又は謄写の請求
二 前項の議事録等が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求
3監査役設置会社、監査等委員会設置会社又は指名委員会等設置会社における前項の規定の適用については、同項中「株式会社の営業時間内は、いつでも」とあるのは、「裁判所の許可を得て」とする。

<原決定>
閲覧・謄写を許可

Yが、取消しと当該取消部分に係る本件申立てをいずれも却下する裁判を求めて即時抗告

<判断>
Xらが社史の客観的歴史的変遷を担保するための定款変更を株主提案するにあたり・・・必要とする理由は、本件社史を発刊した決定過程を把握する必要があるという以上に具体的に明らかでなく
Xらは、閲覧・謄写を経ることなく、必要と考える定款変更の株主提案を現にしている⇒それらの議事録部分の閲覧・謄写がなければ定款変更に係る株主提案をすることができないとも認め難い

本件では、「株主は、その権利を行使するため必要があるとき」についての疎明があるとは認められない。

①・・・・本件社史の刊行が創立50周年の記念行事として行われたものであるとしても、それについて社外取締役が過半数を占める取締役会において協議、監督までされた可能性は高いとはいえない
②・・・・監査役会が本件社史について監査協議、監督することも、本件社史の刊行が決定される前に監査等委員会設置会社に移行していることからすると、ほとんど想定できない
③Yにおいて、裁判所限りで議事録を閲覧に供する用意があるとの態度を示すなどして、本件申立てに係る議事録部分は存在しないと強く主張

本件申立てに係る議事録部分が存在することの疎明があるとは認められない。

<解説>
株主は、その権利を行使するため必要があるときは、取締役会の議事録の閲覧・謄写を請求することができる(会社法371条2項)。
but
取締役会の議事には秘密を要する事項も含まれている

業務監査権限のある監査役がおらず、各株主に強い監視権限が付与されている会社の場合を除き、株主は、裁判所の許可を得たときに限りこの請求をすることができる(同条3項)。

株主の権利行使のための必要性:
およそ株主たる資格において有する権利の行使をいい、
権利行使の対象となり得、又は権利行使の要否を検討するに値する特定事実の関係が存在し、取締役会議事録の閲覧・謄写の結果によっては権利行使をすることが想定できる場合であって、かつ、当該権利行使に関係のない取締役会議事録の閲覧・謄写を求めているのではない⇒その必要性は肯定。
権利行使の蓋然性がない場合は、必要性を欠く。

裁判例:
株主が、原発関連各事項に関する株主提案、理由説明及び事前質問を行うことについて、株主としての権利行使の必要性を肯定するもの(大阪高裁)
株主による取締役会議事録の謄写申請が、株主の地位に仮託して、個人的な利益を図るために、M&Aをめぐる訴訟の証拠収集目的でされたものであり、M&Aを進めるべきか否かの取締役会の審議の内容が企業秘密たる事項で、これらの記載部分が閲覧・謄写されることになれば会社の将来の事業実施等についても重大な打撃が生じるおそれがあり、会社の全株主にとっても著しい不利益を招くおそれがある⇒株主の権利行使の必要性を否定(福岡高裁)。

判例時報2528

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2022年6月16日 (木)

会計限定監査役の任務違反

最高裁R3.7.19

<事案>
株式会社であるXが、監査の範囲が会計に関するものに限定されている監査役であったYに対し、Yがその任務を怠ったことにより、Xの従業員による継続的な横領の発覚が遅れて損害が生じた⇒会社法423条1項に基づき、損害賠償を請求。

<原審>
会計帳簿の信頼性欠如が容易に判明可能であったなどの特段の事情がない限り、会計限定監査役は会計帳簿の内容を信頼して監査することで足りる。
本件においては、前記の特段の事情はなく、監査において計算書類等に表示された情報が会計帳簿の内容に合致していることを確認したYはその任務を怠ってはいない。
⇒請求棄却。

<判断>
会計限定監査役は、計算書類等の監査を行うに当たり、会計帳簿が信頼性を欠くものであることが明らかでない場合であっても、当該掲載書類等に表示された情報が会計帳簿の内容に合致していることを確認しさえすれば、常にその任務を尽くしたといえるものではない。
⇒原判決を破棄。

Xにおける本件口座に係る預金の重要性の程度、その管理状況等の諸事情に照らしてYが適切な方法により監査を行ったといえるか否かにつき更に審理を尽くして判断する必要がある。
⇒事件を原審に差し戻した。

<規定>
会社法 第三八九条(定款の定めによる監査範囲の限定)
公開会社でない株式会社(監査役会設置会社及び会計監査人設置会社を除く。)は、第三百八十一条第一項の規定にかかわらず、その監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨を定款で定めることができる。
2前項の規定による定款の定めがある株式会社の監査役は、法務省令で定めるところにより、監査報告を作成しなければならない。

4第二項の監査役は、いつでも、次に掲げるものの閲覧及び謄写をし、又は取締役及び会計参与並びに支配人その他の使用人に対して会計に関する報告を求めることができる。
一 会計帳簿又はこれに関する資料が書面をもって作成されているときは、当該書面
二 会計帳簿又はこれに関する資料が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したもの
5第二項の監査役は、その職務を行うため必要があるときは、株式会社の子会社に対して会計に関する報告を求め、又は株式会社若しくはその子会社の業務及び財産の状況の調査をすることができる

<解説>
学説:監査役は、監査において、その程度はともかく計算書類等の適正性を確認する必要がある。

最高裁:
監査役の監査を受けた計算書類等の役割や会計限定監査役に付与された権限(会社法389条4項、5項等)⇒会計帳簿の信頼性を欠くものであることが明らかではない場合であっても、前記権限を行使して、会計帳簿の信用性の確認やその基礎資料を確認すべき場合がある。

差戻審において、本件口座の重要性、その管理状況等及びそれについての被告の認識等について審理すべき

本件における会計限定監査役の任務懈怠の有無を判断する際の考慮要素を指摘したものであるところ、個別具体的な事実関係を踏まえて、任務懈怠の有無を判断すべきとしたものと解される。

判例時報2514

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2022年5月26日 (木)

インサイダー取引で「業務上の提携」を行うことについての決定をしたとは認められないとされた事例

東京地裁R3.1.26

<事案>
㈱Aの取締役であるXが、その職務に関し、A社の業務執行を決定する機関が、B社との業務上の提携を行うことについての決定をした旨の重要事項を知りながら、本件重要事項の公表がされた平成27年12月11日より前に、自己の計算において、A社の株式合計400株を買い付けた⇒金融庁長官から、金商法185条の7第1項に基づき、課徴金として133万円を国庫に納付することを命ずる旨の決定⇒本件納付命令が違法であると主張して、その取消しを求めた。

<争点>
①A社の代表取締役であるP1が金商法166条2項1号所定の「業務執行を決定する機関」に該当するか
②A社の業務執行を決定する機関がB社との間で金商法及び金商法施行令の「業務上の提携」を「行うことについての決定」をした時期が遅くとも平成27年8月4日であるか

<解説>
インサイダー取引は、
金融商品取引市場おける公平性、公正性を著しく害し、
一般投資家の利益と金融商品取引市場に対する信頼を著しく損なう

金商法は166条においていわゆるインサイダー取引を禁止し、
その違反に対して刑事罰や課徴金を課している。

金商法166条1項は、
会社関係者であって上場会社等に係る業務等に関する重要事実(同条2項所定)を同条1項各号に定めるところにより知ったものは、
当該重要事項が公表された後でなければ、当該上場会社等の特定有価証券等の売買等をしてはならない。

同条2項1号は、同条1項でいう重要事実について、
当該上場会社等の業務執行を決定する機関が同条2項1号イないしヨに掲げる事項を行うことについて決定したことをいう旨規定し、
同号ヨは、
業務上の提携その他の同号イないしカまでに掲げる事項に準ずる事項として政令で定める事項を掲げている。

<判断>
●争点①
金商法166条2項1号所定の「業務執行を決定する機関」とは、
会社法所定の決定権限のある機関に限られず、実質的に会社の意思決定と同視されるような決定を行うことができる機関であれば足りる。

A社とB社との業務提携において、P1が「業務執行を決定する機関」に該当。

●争点②
金商法166条2項1号ヨ所定の「業務上の提携」について、
仕入れ・販売提携、生産提携、技術提携及び開発提携等、会社が他の企業と協力して一定の業務を遂行することを意味することを前提に、
本件提携はそれに該当。
同条1項の趣旨

「業務上の提携」を「行うことについて決定をした」とは、
「業務上の提携」の実現を意図して、「業務上の提携」又はそれに向けた作業等を会社の業務として行う旨の決定がされることが必要であり、
「業務上の提携」の実現可能性があることが具合的に認められることは要しないものの、
「業務上の提携」として一般投資家の投資判断に影響を及ぼす程度に具体的な内容を持つものでなければならない。

本件では、平成27年8月4日の時点では、それに該当しないと否定。

<解説>
「業務上の提携」とは、
会社が他の企業と協力して一定の業務を行うことをいい、
業務の内容や提携の方式について限定はなく、
仕入れ・販売提携、生産提携、技術提携及び開発提携、合弁会社の設立、事業の賃貸借、経営委任などはいずれも業務上の提携に該当。
「行うことについての決定」

日本織物加工株式会社事件最高裁判決:
「株式の発行」について、
株式の発行それ自体や株式の発行に向けた作業等を会社の業務として行う旨を決定したことをいうものであり、右決定をしたというためには右機関(=業務執行を決定する機関)において株式の発行の実現を意図して行ったことを要するが、
当該株式の発行が確実に実行されるとの予測が成り立つことは要しない。

村上ファンド事件最高裁判決:
「公開買付け等」について、「決定」をしたというためには、上記のような機関(=業務執行を決定する機関)において、公開買付け等の実現を意図して、公開買付け等又はそれに向けた作業等を会社の業務として行う旨の決定がされれば足り、
公開買付け等の実現可能性があることが具体的に認められることは要しない

「決定」について確実性や実現可能性を要件としていない。

①インサイダー取引の構成要件が原則として投資判断に及ぼす実際の影響を要件としない形で客観的にその範囲を確定するという観点から規定されたという立法経緯
②軽微基準及び重要基準を設けて投資者の投資判断に及ぼす影響が軽微なもの処罰の対象とならないように手当がされている
⇒インサイダー取引はいわゆる抽象的危険犯としての性格を有し、一定程度の実現可能性の存在を「決定」該当性の一要件と位置付けるのは相当ではないという趣旨。

判例時報2511

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株式の買取請求をした者の会社法318条4項の「債権者」該当性

最高裁R3.7.5

<事案>
Yにおける株式併合によりその保有する株式が1株に満たない端数になる⇒会社法182条の4第1項に基づき前記株式の買取請求ををしたXが、Yに対し、Xは前記株式の価格の支払請求権を有しているからYの債権者に当たるなどと主張して、会社法318条4項に基づき、株主総会議事録の閲覧及び謄写を求めた事案
XはYから会社法182条の5第5項に基づく支払を受けており、Yは、前記株式の価格が前記支払の額を上回らない限りXは会社法318条4項にいう債権者には当たらないと主張。

<経緯>
(1)平成28年7月4日の臨時株主総会及び普通株式の株主による種類株主総会で、同月26日を効力発生日としてYの普通株式及びA種類株式のそれぞれ125万株を1株に併合する旨の決議
(2)Xは、Yの株式4万4400株を有していたところ、前記各株主総会に先立ち、前記各決議に反対する旨をYに通知し、各株主総会で議案に反対、
(3)同月25日までに、会社法182条の4第1項に基づき、Yに対し、本件株式を公正な価格で買い取ることを請求。
(4)Xは、本件株式の価格についてYとの間で協議が整わなかった⇒会社法182条の5第2項所定の期間内に、東京地裁に、本件株式の価格決定の申立て
(5)Yは、同年10月21日、同条5項に基づき、Xに対し、自らが公正な価格と認める額として1332万円を支払った。

<判断>
会社法182条の4第1項に基づき株主の買取請求をした者は、会社法182条の5第5項に基づく支払を受けた場合であっても、前記株式の価格につき会社との協議が調い又はその決定に係る裁判が確定するまでは、会社法318条4項にいう債権者に当たるというべき
⇒Xが同項にいう債権者に当たると判断した原審の判断は正当。

<解説>
●会社法は、株式会社の株主又は債権者につき、株主名簿、株主総会議事録、取締役会議事録、会計帳簿、計算書類等の閲覧等の請求をすることができる旨を規定。

株主に関しては監視監督権限の実効的な行使のため、
債権者に関しては間接有限責任(会社法104条)の下での債権の回収確保のため
会社の事業、財産及び損益の状況等に関する情報を入手することを可能としてこれらの保護を図ることを目的として設けられたもの。
会計帳簿や取締役会議事録等、開示により営業秘密の漏えい等の弊害が生ずる懸念が大きいものも含まれている

一定数以上の株式を有する株主に限定したり、
請求の理由を明らかにして閲覧等の請求をすべきものとしたり、
拒絶事由を定めたりすることにより会社と開示請求権者の利益ないし損失を衡量する制度設計

「株主」又は「債権者」に該当するか否かの判断自体において、前記弊害が生ずるおそれを考慮して厳格に判断すべき必要性は見出し難い。

●株式併合の場合における反対株主の株式買取請求権の制度
会社は、会社法182条の4第1項に基づき株式の買取請求をした者に対し、前記株式の価格の決定があるまでの間、会社が公正な価格と認める額を支払うことができる(会社法182条の5第5項)

会社が株式買取請求に係る株式の価格につき支払うべきものとされる利息が市中金利に比して高額であることによる濫用的買取請求に対処するために導入。
but
買取請求に係る株式の価格の支払請求権は、前記価格についての当事者間の協議が調い又は前記価格の決定に係る裁判が確定するまではその価格が未形成

前記価格の形成以前の時点でこれを弁済により消滅させることができるかという点自体にき疑問があり得る。
弁済自体は可能であるとしても、その価格が未形成である以上、当該弁済によりその全部が消滅したと認定することは不可能。
・・・

判例時報2511

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真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

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2022年4月17日 (日)

1人しかいない監査役による報酬増額決定と善管注意義務違反(否定)

千葉地裁R3.1.28

<事案>
Yの常勤監査役を解任されたXが、Yに対し、未払報酬額を請求するとともに、解任に正当な理由がないとして、会社法339条2項に基づく損害賠償を請求した。

<主張>
X:Yに対し、
①平成28年6月10日に、Xが受けるべき報酬額を株主総会が定めた監査役報酬の最高限度額である月額100万円にする旨の決定(本件増額決定)をしたにもかかわらず、同月分から平成29年5月分までの間の報酬につき、本件増額決定前の報酬額である月額65万円しか支払われない⇒その差額の支払を求めた
②平成29年5月26日のYの定時株主総会において、正当な理由なく監査役を解任された⇒報酬、賞与、退職慰労金及び功労金相当額の損害賠償を求めた。

Y:
①監査役が自己の監査役報酬を1人で決定することはできないし、任期途中に報酬の増額をすることはできない⇒本件増額決定は無効
②Xが本件増額決定をしたことは善管注意義務に反する⇒Xを解任する決議には正当な理由がある
③本件増額決定を行ったXには善管注意義務違反がある⇒Xに対する善管注意義務違反に基づく損害賠償請求権を自働債権、Xの本件請求権を受働債権として対等額で相殺する旨主張。

<判断>
本件増額決定は有効⇒Xの未払報酬請求には理由がある。
Xに善管注意義務違反がある旨のYの主張は理由がない⇒本件解任決議には正当な理由があるとは認められない⇒損害賠償額の一部を認容

<解説>
●監査役が1人の場合の報酬決定
①監査役の独立性の保障の趣旨に反しない
②上限が画されている⇒株主の利益を害することも考えにくい
⇒会社法387条2項に準じた報酬の決定方法として許容されるべき。

●監査役報酬の増額
監査役が期間を定めて自己の報酬額を決定⇒会社と監査役菅の報酬の合意⇒その期間中の増額は、会社の同意を必要とする。
期間経過後は、会社の同意なく報酬増額決定を行うことができる。

●監査役の報酬決定に係る善管注意義務違反

取締役の報酬:
報酬等の最高限度を定め、その枠内で個人別の報酬等の決定を取締役会に一任する株主総会決議の趣旨は、取締役会が個々の取締役ごとにその職責・能力を勘案した上で個人別に相当な報酬等を決定することを委託したものと解される⇒不相当な報酬等を決定した取締役については、善管注意義務違反(会社法330条、民法644条)及び忠実義務(会社法355条)違反を認め得ると解されている。

監査役による報酬決定:
職務の遂行⇒善管注意義務及び忠実義務を尽くしてその決定を行わなくてはならない。
but
監査役の報酬規制を定めた会社法387条の趣旨は、取締役の報酬規制とは異なり、監査役の取締役からの独立性を確保することを目的とするもの
監査役の善管注意義務の有無を判断するに当たっても、この点を前提とした上で株主総会決議の趣旨に反する報酬決定といえるか否かといった観点から判断する必要。

判例時報2506・2507

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2021年12月29日 (水)

「航海の用に供する船舶」とは、社会通念上海上とされる水域を航行する船舶をいうとされた事例

福岡高裁R3.2.4

<事案>
平成30年台風21号の暴風により、関西空港連絡橋に衝突する事故を起こしたタンカーの所有会社が、当該事故によって生じた物の損害に関する債権について、船舶の所有者等の責任の制限に関する法律(「責任制限法」)に基づく責任制限手続開始決定を受けた
⇒ 債権者が即時抗告

<解説等>
●責任制限法の沿革・趣旨
責任制限制度は、船舶所有者等の責任の程度を緩和する反面、債権者の権利を制限するもの。
but
憲法29条1項及び2項に違反しない(最高裁)。

最高裁昭和48.2.16:
昭和50年改正前の商法690条について、
船長その他の船員の職務の特殊性に鑑み、民法715条に対する特則を定めたものであって、船舶所有者の責任の範囲について有限責任を規定する反面で、その帰責事由については船舶所有者の過失の有無を問わないこととしたものと解すべき。

●「航海の用に供する船舶」の意義
海商法(商法第3編)が適用される船舶について、商法684条は商行為をする目的で「航海の用に供する船舶」と定義
責任制限法2条1項1号にも同様の定義規定

「航海のように供する船舶」に該当するか否かが、海商法及び責任制限法の適用の可否を画するメルクマール。

●本決定:
①平成30年改正を受けて、商法684条及び責任制限法2条1項1号の「航海の用に供する船舶」の意義について、平成30年改正前の通説とは異なり、平成30年改正の趣旨を踏まえて近時再評価されるに至った見解に沿った解釈を採用して適用
②昭和50年改正後の商法690条、民法715条及び責任制限法の位置づけを整理し
③責任制限法3条3項の責任阻却事由についての一般的な解釈に沿ってこれを適用した事例。

判例時報2498

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2021年5月 1日 (土)

株主間の取締役選任合意の効力

東京高裁R2.1.22

<事案>
X1の父でX2の祖父であるAとYの父Bは、Cと共に、株式会社の株主。
昭和47年に、本件会社の取締役について、A、B及びC(その指名されたものを含む。)を互選する旨の取締役選任合意をした。
その後X1及びXは、Aから本件会社発行の株式を相続等により承継し、Yは、Bから本件会社発行の株式の信託合意を受けた。
Xらは、Yに対し、昭和47年合意に基づき、YがAの地位を承継したX1を本件会社の取締役に選任するよう議決権を行使する義務を負っていると主張⇒今後開催する株主総会においてX1を取締役に選任する議案が提供された場合に、同義案に賛成する旨の意思表示をすることを求めた。

<争点>
株主間でされた取締役選任の合意について、議決権行使の履行強制をすることができるほどの法的効力を有するか

<判断>
株主間契約の効力の判断方法については、
個別の株主間契約ごとに、
会社法その他の関係法令の趣旨を考慮に入れて、
契約当事者の属性、契約内容、契約締結の動機目的、契約当事者の有する株式の種類や議決権の総株主に占める割合の各要素を検討の上で契約当事者たる株主の合理的意思を探求し、
当事者双方が法的効力を発生させる意思を有していたか、法的効力を発生させる意思を有していた場合における効力の内容・程度について契約当事者の意思を事実認定する必要がある。

昭和47年合意は、契約当事者に法的効力を付与するものではなく、仮に何らかの法的効力を付与する意思があったとしても、強い法的効力(契約に沿った議決権行使の履行強制をすることができる)を付与する意思があたっとはいえず、また、仮に昭和47年合意に何らかの法的効力を「付与する意思があったとしても、特定人たる取締役候補者及び自然人たる契約当事者に相続が発生した場合においては、法的効力が消滅する合意

特定人たる取締役候補者及び自然人たる契約当事者の全員が死亡し、相続が発生していることから、合意の法的効力はすでに失われている。

考慮された事情:
①昭和23年合意及び昭和47年合意において、合意の内容はあいまいな点(特に、特定人たる取締役候補者が死亡した場合の取扱い)が残る
②特定の自然人を取締役候補者や契約当事者とする株主間契約は、法的効力をあまり意識していないものが多く、仮に法的効力を付与する意思があったとしても、短期間に限り契約に沿った議決権行使の履行強制ができる効力を付与する意思で契約を締結したにすぎない場合が多い
③F家やG家も、CやCの指名する者の取締役選任に複数回反対したこと
④昭和47年合意において、本件会社の運営に関する事項に特化した文書が作成しないこと
⑤昭和47年合意が締結されたことは、会社法実務や下級裁判所の裁判実務は、なお、議決権行使契約無効説や、当事者間では有効であるが、強い法的効力(議決権行使の履行強制や契約違反の議決権行使の株主総会決議取消事由該当性)は否定されるという前提で動いていた。

<解説>
学説:
現在はその効力を原則として認めるのが通説的見解。

同契約に基づく議決権行使の強制履行:
これを認める見解と
認めない見解
とが存在。

株主間契約を離れて、契約一般について判断するときは、債務の性質がこれを許さない限り履行強制をできることは原則であり、このことは株主間契約についても妥当すると解される(田中)。

本判決:
株主間契約についても、一般の契約と同様に、合理的意思解釈の原則により判断

契約当事者に強い法的効力を付与する意思があったことを基礎づける間接事実が乏しいこと、
他方、それがなかったことを基礎づける間接事実が豊富であったことを基礎づける間接事実が豊富であったこと
を理由に、これを否定。

判例時報2470

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