商事

2019年11月 4日 (月)

車両損害保険金は当該交通事故に係る物的損害の全体を補填するものとして「対応の原則」を柔軟に捉えた事案

東京高裁H30.4.25    
 
<事案>
X1の運転車両と、後続して進行してきた、Y2社の所有車両とが接触したという事案において、
Y2社との間で締結した自動車保険契約に基づき保険金を支払った保険会社Y3が、X1に対し、Y2社のX1に対する民法709条に基づく損害賠償請求権の一部を代位取得したとして、損害賠償金の支払を求めた。
 
<争点>
保険会社Y1が代位取得する損害賠償請求権の範囲・額 
 
<原審>
Y2社が被った損害:
車の修理費用87万8850円と
休車損害11万7988円
の合計99万6838円
自動車保険契約においては、免責分として10万円を控除した上、車両損害保険金を支払う旨の特約がある。
保険会社に移転せず、被保険者又は保険金請求権者が引き続き有する債権は、保険会社に移転した債権よりも優先して弁済されるものとする旨の定めがある。
保険会社Y3は、本件事故に係る車両損害保険金として、修理費用87万8850円から免責分10万円を控除した77万8850円を支払った。
X1とY2社との過失割合は、X1側7割、Y2社側3割。
Y2社側が請求できる額は、修理費用のうち損害が填補されていない10万円と過失相殺後の休車損害8万2582円の合計18万2592円、
保険会社Y3が代位取得するY2社のX1に対する損害賠償請求権の範囲については、修理費用87万8850円に3割の過失相殺をした61万5195円から免責分10万円を控除した51万5195円の程度で認められる。
 
<判断>
交通事故の被害者が損害保険会社との間で締結した自動車保険契約に基づいて受ける保険給付は、特段の事情がない限り、交通事故によって生じた当該自動車に関する損害賠償請求権全体を対象として支払われるものと解するのが当事者の意思に合致し、被害者救済の見地からも相当。
本件では、修理費用87万8850円と休車損害11万7988円の合計99万6838円が車両に関してY2社が被った物的損害
保険会社Y3が支払った保険金はこれらの物的損害の全体を填補するものというべき

自動車保険契約の被保険者であるY2社に事故の発生につき過失がある場合には、車両損害保険条項に基づき被保険者が被った損害に対して保険金を支払った保険会社Y3は、被害者について民法上認められる過失相殺前の損害額が保険金請求者に確保されるように、支払った保険金の額と被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が過失相殺前の損害額を上回るときに限り、その上回る部分に相当する額の範囲で保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得すると解するのが相当。(最高裁H24.2.20)

本件において保険会社Y3が支払った車両損害保険金77万8850円は、被害者の過失割合である3割に相当する29万9051円にまず充当され、これを控除した残額である47万9799円が加害者の過失割合に相当する部分に充当
⇒保険会社Y3は、X1に対し、47万9799円の支払を求めることができる。
 
<解説>
●争点:
自動車保険の車両損害保険条項に基づき保険金を支払った損害保険会社が請求権代位で取得する権利の範囲をどう捉えるか? 
 
●請求権代位:
保険者の保険給付義務の発生原因と同一の事由に基づき、被保険者が第三者に損害賠償請求権等の権利を取得した場合において、保険給付を行った時に、保険者が、その権利を当然に取得するという制度。 

保険法 第二五条(請求権代位)
保険者は、保険給付を行ったときは、次に掲げる額のうちいずれか少ない額を限度として、保険事故による損害が生じたことにより被保険者が取得する債権(債務の不履行その他の理由により債権について生ずることのある損害をてん補する損害保険契約においては、当該債権を含む。以下この条において「被保険者債権」という。)について当然に被保険者に代位する。
一 当該保険者が行った保険給付の額
二 被保険者債権の額(前号に掲げる額がてん補損害額に不足するときは、被保険者債権の額から当該不足額を控除した残額)
2前項の場合において、同項第一号に掲げる額がてん補損害額に不足するときは、被保険者は、被保険者債権のうち保険者が同項の規定により代位した部分を除いた部分について、当該代位に係る保険者の債権に先立って弁済を受ける権利を有する。
 
●対応の原則:
代位の対象となる権利は、保険契約による損害の填補の対象と対応する損害についての権利に限られるとする原則

最高裁H24.2.20の宮川補足意見:
保険代位の対象となる権利は、保険による損害填補の対象と対応する損害についての賠償請求権に限定される(対応の原則)
⇒原審が本件保険金について・・・損害金元本に対する本件事故日から本件保険金支払日までの遅延損害金に充当するとしたことは、相当ではない。
 
●差額説 
取得する請求権の量的範囲については、
例えば被害者に過失があって、過失相殺がされ、被保険者が加害者に対して有する請求権が損害額より少ないというような場合において、請求権代位がどの範囲で生じるかという問題。

最高裁昭和62.5.29:
損害額の一部について保険給付が行われたときは、保険者は支払った保険金の額の損害額に対する割合に応じた債権を取得するという比例説
but
現行の保険法25条は、
損害額の一部について保険給付が行われたときは、保険給付後も被保険者に損害が残存することになる(未填補損害の存在)⇒被保険者に利得が発生してしまう範囲、すなわち被保険者が加害者に対して有する権利のうち残存する損害(未填補損害)額を超える部分に限って代位するという差額説。

人身傷害条項が定める人身傷害保険においては、
この未填補損害を、保険約款所定の基準により算定された額で捉えていくとうい説と民法上認められるべき裁判基準により算定された損害の額として捉えていくとう2つの考え方があったが、
最高裁H24.2.20は後者の裁判基準による損害の額で捉えていく説を採用
 

原審:
対応の原則に従って、本件で被保険自動車の損害を修理することができる場合に当たる

車両損害保険条項による損害の填補の対象は、修理費用分であり、代位は、修理費用に該当する損害部分に係る権利部分のみを対象とするものであり、休車損害部分は代位の対象にならない。
その上で、被保険者が加害者に対して有する権利のうち未填補損害額を超える部分に限って代位するという差額説。

本判決:
対応の原則を柔軟に捉え、自動車保険契約に基づいて受ける保険給付は、交通事故に係る物的損害の全体を填補するもの、すなわち、休車損害部分にも及ぶと捉えた(それが当事者の意思に合致するとした)。

判例時報2416

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2019年6月21日 (金)

主幹事証券会社の責任が問題となった事案

東京高裁H30.3.23      
 
<事案>
上場廃止した株式会社Aの株主Xらが、A社の役員、A株式会社の募集又は売出しに関与した元引受証券会社(主幹事証券会社はY)及び受託証券会社、売出しに係る株式の所有者、東京証券取引所及び日本取引所自主規制法人らに対し、
金商法21条1項1号・2号・4ごう、22条1項及び17条、会社法429条2項又は民法上の不法行為責任に基づき、株価下落等に係る損害賠償を求めた。 
 
<原判決>
元引受契約を締結した主幹事証券会社の金商法上の責任を肯定 
 
<判断>
主幹事証券会社の責任を否定 

金商法21条2項3号及び17条ただし書の「相当な注意」の意義について
①金商法21条1項4号の免責要件を、財務情報のうち、
(ア)「財務計算」に関する書類に関する部分(「財務計算部分」)の虚偽記載についてはそれを知らなかったこと
(イ)財務計算部分以外の部分の虚偽記載については「相当な注意」を用いたこととし、

金商法17条の免責要件を、すべての財務情報について「相当な注意」を用いたこととして、
③前記①(ア)によって、元引受証券会社が免責されることにより、積極的な調査をしない姿勢を招き、投資者保護の目的に欠けるとの懸念については、金商法17条の責任によって補完される。

有価証券届出書に記載された財務情報で監査証明を受けたもの(財務経産部分)に虚偽記載があった場合に、元引受証券会社はどのような調査を行っていれば「相当な注意」を用いたといえるかについて、
①元引受証券会社は、引受審査において、会計監査を経た財務情報(財務経産部分以外のものを含む。)の部分については、
公認会計士等による監査結果の信頼性に疑義を生じさせるような事情の有無を調査・確認し、このような事情が存在しないことが確認できた場合には、当該監査結果を信頼することが許され、
調査・確認の結果、公認会計士等による監査結果の信頼性に疑義を生じさせるような事情が判明した場合であっても、自ら財務情報の正確性について公認会計士等と同様に実証的な方法で調査する義務はなく、一般の元引受証券会社を基準として通常要求される注意を用いて調査結果に関する信頼性についての疑義が払拭されたと合理的に判断できるか否かを確認するために必要な追加調査を実施すれば足りる

Y社の審査担当者が、
①会計監査人が預金通帳の原本を確認したと認識していたこと
②第一投書受領前に国内及び海外の取引先を訪問して販売実績を確認していたこと、
③第二投書受領後にも会計監査人から意見を得ていたこと
等の事実

一般の元引受証券会社を規準として通常要求される注意を尽くしたか否かとの観点から、Y社が「相当な注意」を用いていたといえる。

金商法上の責任は否定される
 
<解説>
原審:財務計算部分についても、元引受証券会社は、無条件にその内容を信頼することが許されるのではなく、会計監査の結果の信頼性を疑わせる事情の有無についての審査義務を負うとする有力説の立場に依拠。
本判決:通説的な見解に立った。 

判例時報2401

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2019年5月21日 (火)

金商法19条2項(賠償の責めに任じない損害の額)と民訴法248条の類推

最高裁H30.10.11       
 
<事案>
東京証券取引所第一部に上場されていたYの株式を募集等により取得した投資者であるXらが、Yが提出した有価証券届出書に係る参考書類のうちに重要な事項についての虚偽の記載があり、それにより損害を被った⇒Yに対し、民法709条、会社法350条、金商法18条1項又は平成26年法律第44号改正前の金商法21条の2第1項に基づき損害賠償等を請求。
 
<原審>
①民法709条又は会社法350条に基づく損害賠償請求には理由がない 
②改正前金商法21条の2第1項に基づく損害賠償請求について:
平成18年9月中間期半期報告書及び平成19年3月期有価証券報告書に虚偽の記載がある⇒同条2項に基づき推定した損害額(1株69.66円)から同条5項により賠償の責めに任じない額として認められる相当な額(6割)を控除した額がYの負担すべき賠償責任額
③金商法18条1項に基づく損害賠償請求について:
第三者募集に係る有価証券届出書の参照書類である平成18年9月中間期半期報告書に虚偽の記載があると認められ、同法19条1項に基づいて算定した賠償責任額から、同条2項により認定した賠償の責めに任じない額(1株30円)及び民訴法248条の類推適用により金商法19条2項の賠償の責めに任じない額として認められる相当な額(6割)を控除した額がYの負担すべき賠償責任額であるとして、Xらの請求を一部認容。
 
<解説・判断>   
金商法18条1項本文:
重要な事項にについて虚偽記載等のある有価証券届出書を提出した者に無過失損害賠償責任を負わせるものと規定。
同法19条1項は、同法18条1項の賠償責任額として、取得価額から処分価額等を控除した額を法定。

その上で、同法19条2項は、同条1項の額から、有価証券届出書の虚偽記載等と相当因果関係のある値下がり以外の事情により生じたことが賠償責任者によって証明されたものを賠償の責めに任じないものとして減ずることを定めている

同法5条4項の適用を受ける有価証券届出書に係る参照書類については、同法23条の2により、有価証券届出書を同参考書類に読み替えるなどして同法18条1項及び19条が適用されることになる。 
 
最高裁における争点:
金商法18条1項に基づく損害賠償請求訴訟において、裁判所が民訴法248条の類推適用により金商法19条2項の賠償の責めに任じない損害の額として相当な額を認定することができるか?
 
金商法18条1項及び19条:
請求者にとって容易に立証することができる一定の額を賠償責任額として法定した上で、その額から、虚偽記載等による値下がり以外の事情による値下がりであることが賠償責任者によって証明されたものを減額するという方式を採用し、これにより損害填補等の目的を実現しつつ、事案医即した損害賠償額を算定しようとするもの。

同法18条1項に基づく損害賠償責任が原状回復的なものであるとされていることを厳格に捉えることができない。

①同法18条1項に基づく損害賠償責任が生ずる場合が、有価証券届出書のうちに虚偽記載等がなければ投資者が当該有価証券を取得することがないときに限られない
②同法19条2項による減額の抗弁を認めている


虚偽記載等による値下がり以外の事情により値下がりがあると認められるものの、性質上その額を立証することが極めて困難である場合に、そうした減額を全く認めないというのは、当事者間の衡平の観点から相当ではなく、事案に即した損害賠償額の算定という趣旨にも反する
①金商法19条が政策的に設けられたものであること、
②民訴法248条が原告や権利者保護の観点から設けられたという同条の沿革
③不法行為等における「損害」は責任原因との間に相当因果関係があるのに対し、金商法19条2項の賠償の責めに任じない損害は責任原因との間に相当因果関係がないこと等

被告ないし義務者からの減額の抗弁を定めた同行の「その全部又は一部」に民訴法248条の「損害額」を適用することができると解することは難しい。

but
民訴法248条に係る制度の本質は、当事者間の衡平を図ることをその趣旨とするもの
②金商法19条2項の適用に際し、請求権者に生じた損害が有価証券届出書の虚偽記載等によって生ずべき当該有価証券の値下がり以外の事情により生じたことが認められ、かつ、当該事情により生じた損害の性質上その額を立証することが極めて困難である場合をみると、立証責任を負う者について原告ないし請求権者と被告ないし義務者との違いがあるものの、民訴法248条を適用すべき状況に類似

金商法18条1項に基づく損害賠償請求訴訟において、裁判所が民訴法248条の類推適用により金商法19条2項の賠償の責めに任じない損害の額として相当な額を認定することができる旨を判示し、肯定説のうち類推適用説を採用。

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2019年2月18日 (月)

虚偽の有価証券報告書の提出で罰金・課徴金⇒幇助者にその賠償請求(否定)

東京高裁H29.6.15      
 
<事案>
Xは、長年にわたり損失の会計処理に窮していた⇒経営コンサルティング会社を営むYらの関与により、損失隠しのスキーム及び損失解消のスキームを構築してその実行:
Xの新規事業の投資先とされていたベンチャー企業を利用して、その株式を簿外ファンドに取得させて、それを不当に高額に評価して買い取り、さらに実態の伴わない過大なのれんを計上する不適切な会計処理を行い、これに基づく虚偽の有価証券報告書を作成して提出
⇒有価証券報告書虚偽記載の罪に問われて罰金7億円及び課徴金1986万円を納付

Xは、Yらによって、不当な管理手数料や報酬などのほか、ベンチャー企業の株式取得原価とXの購入価格の差額分572億9540万円及び課徴金相当額の損害を被った

主位的に、ベンチャー企業の株式取得原価とXの購入価格の差額分及び課徴金相当額が損害であるとし、
予備的に、ファンド管理手数料等としてYらに支払った費用等並びに罰金及び課徴金相当額が損害であるとして、
その一部を請求。 
 
<原審>
①罰金及び課徴金相当額の損害賠償請求につき、Yらが加担したことによって、罰金刑の言渡しという不可分の1個の結果を招来したものと認められる
②罰金や課徴金は、それを科された者が自ら納付すべきものであるとしても、財産的な損失であることに変わりはない
⇒不法行為と相当因果関係のある損害であると判断。 
 
<判断>
主位的請求について:
そのうちベンチャー企業の株式取得原価とXの購入価格の差額分については最終的にXに償還されたものとして、損害に当たらず

罰金及び課徴金相当額について
刑罰は一定の法益の剥奪であり、犯罪行為者に加えられるもの⇒本質的に一身専属的な性質を有する
本犯者の従犯者に対する全額の損害賠償請求を許容することは、刑罰の他に転嫁するに等しい

信義則に照らして、罰金及び課徴金相当額の損害賠償請求は許されない

予備的請求であるファンド管理手数料等については、控訴審における請求の拡張分までこれを認容。
 
<解説>
刑の言渡しは、犯罪行為者に対するもの⇒言渡しを受けた本人以外に効力は及ばず、その他の者に刑を執行することは許されないのが原則。 
例外:刑訴法491条、492条。

判例時報2388

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2019年2月 4日 (月)

吸収分割による地位の承継で賃借人の地位の変更による違約金債務を免れることは信義則に反するとされた事案

最高裁H29.12.19      
 
<事案>
Y:土木建築請負業を主たる事業とし、資本金は5000万円、平成27年6月30日現在の純資産額は約8億5000万円。 
XとYは、平成24年5月、Xが老人ホーム用の建物(「本件建物」)を建築し、YがXから賃借する旨の本件賃貸借契約(期間20年、賃料月額499万円)を締結。
20年契約が継続することを前提にXが投資

中途解約禁止

Yが契約当事者を実質的に変更した場合にはXは本件賃貸借契約を解除することができる旨の条項(「本件解除条項」)
及び
本件解除条項による解除の場合には、YはXに対し15年分の賃料から支払済みの賃料額を控除した金額を違約金として支払う旨の条項(「本件違約金条項」)
が付されていた。

平成28年5月17日にYが資本金100万円全額を出資することによってAが設立。
同月26日、YとAとの間で、効力発生日を同年7月1日として、本件事業に関する権利義務等のほか1900万円の預金債権がYからAに吸収分割(「本件吸収分割」)により移転、
Yは本件事業に関する権利義務等についての本件吸収分割後は責任を負わないものとする旨の契約が締結。

Yは、同年5月27日、債権者が翌日から1か月以内に異議を述べることができる旨を公告⇒異議を述べた債権者はいなかった。

Xは、平成28年12月9日、Y及びあに対し、Yが本件賃貸借契約の契約当事者を実質的に変更したことを理由に、本件解除条項に基づき、本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。

本件:Xが、Yが本件吸収分割によって賃借人の地位を移転したことを理由に本件賃貸借契約を解除した上で、Yに対して、本件違約金条項に基づく違約金債権(「本件違約金債権」)を請求債権として、Yの第三債務者に対する請負代金債権に仮差押命令の申立てをした事案

Y:本件吸収分割がされたことを理由に、本件違約金債権に係る債務(「本件違約金債務」)の責めを負わないと主張。
 
<原決定>
本件解除条項及び本件違約金条項を認識しながら本件吸収分割を行ったYが本件違約金債務を免れるとすると、Xは、純資産約8億5000万円を有するYではなく純資産100万円を有するにすぎないAから本件違約金債権を回収しなければならず著しく不合理⇒Xの申立てを認容 
   
Yから抗告許可の申立て⇒許可
 
<解説・判断> 
●会社分割:
会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を、
吸収分割の場合は分割後承継会社に、
新設分割の場合は分割によって設立する設立会社に
承継される行為(会社法2条29号、30号参照)。 

債権者の同意なく、契約上の地位等を承継会社又は設立会社に移転することができる⇒企業再編のための有用な制度
but
会社分割契約の内容いかんによって、分割会社の一部の債権者の債権の引当財産を恣意的に減少させるように利用されるおそれ。

優良な資産や事業を分割会社から移転し、残存する分割会社の債権者を害する会社分割の事案に関して、
最高裁H24.10.12は分割会社に残存する債権者が新設分割について詐害行為取消権を行使することを認めた。

平成26年法律第90号による会社法改正において、残存債権者保護規定(会社法759条4項等)が設けられた。
 
●本件のように、不採算事業を分割会社から移転する会社分割の事案において、会社分割後に分割会社に対して自らの債務の履行を請求することができない債権者は、会社分割の効力発生前の定められた期間内に異議を述べれば、分割会社から相当の担保が提供される(会社法789条)などの保護。 
 
<判断>
本決定:
本件違約金債務の請求を受ける地位を含む本件賃貸借契約上の権利義務が、本件吸収分割によって、YからAに承継されるとの前提。
その上で、

本件違約金条項は、Xが賃借人の変更による不利益を回避することを意図して設けられたものであり、YもXの前記意図を理解して本件賃貸借契約を締結した。

Aは、本件吸収分割前の資本金が100万円で、本件吸収分割によっても本件違約金債務を大幅に下回る額の資産しかYから承継しておらず、支払能力を欠くことが明らか

③Xの本件違約金債権は本件解除条項に基づいて解除の意思表示をすることによって発生するものであって、本件吸収分割に対して会社法789条による異議を述べることができたとはいえない

本件吸収分割後は責任を負わないとするYの主張は信義則に反し、Yは本件吸収分割後も本件違約金債務を負う。 
 

①⇒Xの信頼を害することが著しい⇒信義則違反であるとの判断にあたっての事情の1つとして考慮。
会社分割に備えた契約の条項の工夫?

②について:
吸収分割前の承継会社の資力や吸収分割によって分割会社から承継会社に移転された資産の額などを考慮した結果、承継に係る債権の債権者が吸収分割によって著しい不利益を受けるとまではいえない場合
例えば、承継会社において前記債権に対して引当となる資産の割合が、仮に前記債権を吸収分割の効力発生前に分割会社に請求した場合に分割会社における引当となる資産の割合を下回ることのない場合には、分割会社の吸収分割後責任を負わない旨の主張が信義則に反するとまではいえない?

③について:
①将来発生する本件違約金債権のような内容の債権に基づき異議申立てが可能かについては疑問もあるところ。
②本件違約金債権は、本件吸収分割が効力を生じて本件賃貸借契約の賃借人の地位がYからAに移転した後に、Xが本件解除条項に基づき解除の意思表示をすることによって発生するところ、本件賃貸借契約の契約内容等に照らしてXが解除を即断し得たか疑問もある。

Xが本件吸収分割の効力発生前の異議を述べることができる期間(会社法789条2項4号)には異議を述べることができなかったとした

判例時報2387

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2019年1月20日 (日)

銀行の取締役の責任と、離婚に伴う慰謝料、財産分与及び養育費として支払われた贈与契約と通謀虚偽表示

東京高裁H29.9.27      
 
<事案>
経営破綻した銀行(「B銀行」)の元取締役及びその親族らに対して損害賠償を求めた事案。 
Xは、B銀行の取締役会において、後に破綻したノンバンクから商工ローン債権の買取りをY1らが承認したことが善管注意義務違反に当たるとして、B銀行から、元取締役Y1らに対する損害賠償請求権を譲り受けた上、Y1に対して損害賠償を請求。(①事件)
Y1が、B銀行の破綻前後に、妻であったY2に対しては、離婚に伴う慰謝料、財産分与及び養育費の名目で、実弟のY3に対しては、Y3からB銀行株式を購入した代金として、それぞれ多額の送金

Xは、
Y2及びY3に対して、Y2との金銭の贈与契約は通謀虚偽表示にあたるとして、また、
Y2又はY3に対する送金行為は詐害行為にあたるとして、
債権者代位権による不当利得返還請求権又は詐害行為取消権に基づき、それぞれ損害賠償請求。
 
<原審>
①事件につき、一部認容。 
②事件につき、
Y2(元妻)との関係で一部認容し、
Y3(弟)との関係で全部認容。
 
<判断>
●①事件について:
原審をほぼ引用しつつ
善管注意義務違反に関し、銀行の取締役にいわゆる経営判断の原則が適用されると解されるとしても、銀行の取締役の特殊性に照らし、その分だけ限定的なものにとどまる
 
●②事件について 
Y2に対する請求に関して、
Y1が、B銀行の債権者等から民事責任の追及を受けることを覚悟し、債権者等から預金の仮差押えを受けることを避けるために金銭を移動し、急遽Y2との合意書を作成した⇒本件贈与契約は通謀虚偽表示により無効である。

詐害行為取消権にかかる主張について、
養育費はその性質上定期的に支払われるべきものであるところ、
Y1が支払時期の到来していない養育費をまとめて支払ったことは、期限の利益を放棄した行為であり、その放棄は債務者の義務を履行したとはいえない
代物弁済や担保の提供等と同じ性質の行為として詐害行為となる
 
<解説>
●銀行の取締役の善管注意義務違反については、刑事判例である最高裁H21.11.9において、融資業務における注意義務が一般の株式会社の取締役に比べて高い水準にあり、いわゆる経営判断の原則が認められる余地は限定的である旨が示されていたが、
①民事事件において同様の考えに従うべきことを示した点、及び
②その考えが融資業務ではない与信業務についても適用されることを示した点
で意義を有する。 
 
離婚に伴う財産分与等
財産関係と密接な関係がある法律関係であって、それによって新たな身分関係が生じるわけではなく、民法94条の適用がある(最高裁昭和44.11.14)。 

詐害行為取消権については、
従来、離婚に伴って負担すべき金銭の額を超えて支払った部分につき、その行使が認められてきた(判例)。

判例時報2386

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2018年11月 1日 (木)

代表取締役に対する取締役会の招集通知を欠いたが、取締役会決議の結果に影響がないと認められるべき特段の事情があるとして、決議が有効とされた事例

東京地裁H29.4.13    
 
<事案>
Y社の代表取締役であったXが、Y社に対し、取締役会決議について、Xに対する適法な招集通知を欠いているとして、無効であることの確認を求めた事案。 
 
<事実>
Xは、Y社の代表取締役として、Y社内で必要な手続を経ないまま、X以外の取締役をいずれも解任し、Xの息子を執行役員社長に選任したこと等を内容とする人事発令。

Xを除くY社の取締役らがXらの行動への対応策を協議し、臨時取締役会を開催することとした。 
その日の午後11時23分、Xを含む全取締役及び監査役のY社内で割り当てられている各メールアドレスに対し、翌日午前9時30分からY社内会議室において、本件取締役会を開催すること等を内容とする電子メールを送信。

Xを除く取締役ら6名及び監査役が出席し、Xを代表取締役から会食する議案を出席取締役6名のうち1名(棄権)を除く5名の賛成により可決し、Xを代表取締役から解職する旨の決議が成立。
 
<争点>
①Xに対して本件取締役会の招集通知がされたといえるか
②Xが本件取締役会に出席してもなお本件決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情があるか 
 
<判断>
取締役会の招集通知は、各取締役に到達することを要し、招集通知が各取締役に到達したというためには、当該取締役の了知可能な状態に置かれること(いわゆる支配圏内に置かれること)を要する
②Xは自らパソコンを操作することがなく、Y社内におけるXのパソコンはY社内の秘書室において管理されていた上、本件メール送信時においても、秘書室においてXのメールアドレスの受信状況を確認していなかったことがうかがわれる⇒本件メールがXのメールアドレスに係るメールサーバに記録されたことをもって、Xの了知可能な状態に置かれた(支配圏内に置かれた)ということはできない。 

取締役会の開催に当たり、取締役の一部の者に対する招集通知を欠く場合には、その招集手続に瑕疵があり、取締役会の決議は無効になる。
but
その取締役が出席してもなお決議の結果に影響がないと認められるべき特段の事情があるときは、前記瑕疵は決議の効力に影響がないものとして、決議は有効になる。

①Xを除く取締役らは、本件取締役会の前夜、顧問弁護士らも交えて協議をし、Xの息子が判断能力の低下したXを利用してY社に混乱をもたらすこと等を防止するため、Xを代表取締役から解職するとの意見を形成するに至り、
このことについて反対の意見を述べたり、賛成することにとどまったり、意見を留保したりした者がいたとの事情はうかがわれない。
②前記意見は、相応の根拠に基づく強固なものであったと推認される

XがY社の取締役会において相当に強い影響力を有していたこと等を考慮しても、Xが本件取締役会に出席してもなお本件決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情がある
 
<解説>
「特段の事情」とは、
決議と反対の側に投票されても、票数の上で決議を動かすに足りないということのみならず、
その取締役が他の取締役との関係で取締役会において占める実質的影響力、その取締役について予想される意見、立場と決議の内容との関係などから判断して、同人の意見が決議の結果を動かさないであろうことが確実に認められるような場合がこれに当たるとされる。 

判例時報2378

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2018年10月 4日 (木)

会社の上場実現及び維持のために有価証券報告書等の虚偽記載に故意に加担した会計士が所属する監査法人の責任(肯定)

東京高裁H30.3.19      
 
<解説>
株式市場における適正な価格形成の実現には、上場企業が開示する財務・経営に関する情報の真実性、正確性の確保が不可欠。 
金商法は、企業その他の関係者に開示情報の真実性・正確性の確保を求めるとともに、そのエンフォースメンとの持効性を強化する手段として、行政処分、課徴金、刑事責任などとあわせて、民事責任規定(金商法18条、21条、22条、24条の4等)を充実強化
民事責任規定を、被害者救済手段だけでなく、開示規定違反行為の抑止手段とするという立法意思は明確であって、民事責任規定による巨額の賠償リスク・倒産リスクは、違法行為抑止の手段として位置付け。
 
<事案>
公認会計士が企業の粉飾決算に故意に加担した事案であり、
有価証券報告書等に係る金商法193条の2第1項に規定する監査証明において、財務諸表等の記載が虚偽でない旨の監査証明をした公認会計士の所属する監査法人が、金商法の賠償責任を問われた事案。 
監査証明時に当該公認会計士が所属していた監査法人を吸収合併した別の監査法人が被告⇒監査法人のM&Aのリスクを示す。
 
<経緯>
株式会社Aの上場実現のため、C監査法人所属のB公認会計士とA社の社長らは共謀して、故意に、財務諸表中の売上高や利益の額の大幅な水増しという粉飾決算を実行
A社は、粉飾した財務諸表を提出して上場審査を受け、平成17年12月にJASDAQ市場への上場を実現。 
A社は、上場の際株式の募集や売出し等のために、平成17年11月に有価証券届出書(金商法4条、5条)を提出。
A社は、上場企業の義務として、平成18年9月に有価証券報告書(金商法24条)を提出。

売上高や利益の額を大幅に水増しするという粉飾が施された財務諸表が添付されていた。

C監査法人所属のB公認会計士は、故意に粉飾に加担していたにもかかわらず、これらの有価証券届出書や有価証券報告書に係る金商法193条の2第1項に規定する監査証明において、財務諸表等のj記載が虚偽でない旨の監査証明。
平成18年10月に、Y監査法人はC監査法人を吸収合併し、公認会計士法34条の19第4項の規定により、C監査法人の権利義務を承継。

A社は、証券取引等監視委員会の調査を受けて粉飾の事実を摘発され、平成20年9月19日に証券取引等監視委員会がA社の粉飾決算の事実を公表。
A社の株価は公表前の200分の1未満の水準まで暴落し、同年10月27日に上場廃止
⇒民事再生法による再生計画(再生型の再生計画)の認可を経て、最終的に破産手続開始決定。

株主らが原告となり、C監査法人を吸収合併したY監査法人に対して株価の下落による損害の賠償請求
をした。
 
<根拠規定>
(ア)平成17年11月の有価証券届出書提出後に上場の際の株式募集や売出しに応じてA株を取得⇒金商法21条 
(イ)平成17年11月の有価証券届出書提出後、かつ同年12月の上場後に、JASDAQ市場でA株式を取得⇒金商法22条
(ウ)平成18年9月の有価証券報告書提出後にJASDAQ市場でA株式を取得⇒金商法24条の4((イ)でも請求可)
 
<原審>
請求を全部棄却 
 
<判断>
請求の大部分を認容 
 
<判断・解説> 
●要件
金商法21条等の規定する要件(重要な事項についての虚偽の記載)の該当性をみるのに、有価証券届出書や有価証券報告書中の財務諸表に赤黒転換(真実は赤字なのに黒字と虚偽記載)
重要事項に虚偽記載あり。 

金商法21条1項3号の要件も満たす。

金商法21条の責任を追及する場合には、同条2項2号において故意過失がなかったことを、免責を求める賠償義務者側の立証責任
としている。
⇒本件では不適用。

金商法22条及び24条の4の責任を追及する場合には、賠償権利者側が虚偽記載について善意であることの立証責任を負う
本判決:善意の証明あり。
 
●損害額
株式の取得価額の全額を損害算定の基礎とした
粉飾の事実が上場審査時に発覚したらA社株式の上場は実現しなかった。 

有価証券報告書中の重要事項の虚偽記載があった場合の損害算定が問題となった西武鉄道最高裁判決(最高裁H23.9.13):

株式の取得価額の全額を損害算定の基礎とした上で、
「株式取得価額と株式処分価額又は事実審口頭弁論終結時の株式価格との差額」を算定し、更に
「虚偽記載に起因しない価額の下落分(経済情勢、市場動向、当該会社の業績等に起因する価額の下落分)」があればこれを控除する
という考え方。

◎ 本判決:
公表後事実審口頭弁論終結時(上場廃止時)までに処分(売却)した株式の前記①の段階の損害額算定:
株式取得価額から処分(売却)価額を控除した額を、この段階の損害算定額とした。

公表後事実審口頭弁論終結時までに処分できずに保有し続けている株式の前記①の段階の損害算定:
事実審口頭弁論終結時の株式価格がゼロ円と判断⇒株式取得価額をそのまま損害算定額とした。

◎前記②の段階の損額算定:
虚偽記載に起因しない価額の下落分(経済情勢、市場動向、当該会社の業績等に起因する価額の下落分)については存在しない(存在するとしても、損害額の算定上無視し得る程度の微々たるものにすぎない。)と判断。
⇒前記②の段階において控除すべき金額はない。 

西武鉄道最高裁判決の事実関係との相違:

西武鉄道事案:
上場廃止後も金融機関からの信用を失わず、倒産状態にも陥らず、中心的事業の経営が継続され、その後の企業再編を経て上場廃止企業の完全親会社が株式再上場を果たしている
上場廃止後も株式は無価値になっておらず、株価に影響を与える他の要因も検討する必要があった。

本件:
A社は上場廃止時には粉飾の発覚により金融機関からの信用を全面的に失い、
倒産状態
に陥った。
清算型の再生計画が認可され、上場廃止後の株式は無価値になった。

前記②の段階において控除すべき金額はない。

粉飾公表時期がいわゆるリーマンショックによる株価水準一般の暴落時機と重なった。
but
公表後上場廃止時までのA社株式の株価の推移を具体的かつ詳細に事実認定した上で、
リーマンショックの影響とは無関係に、A社が倒産して株式が無価値になるという市場参加者一般の予測により、A社株式は公表前の株価よりも99.5%以上も下落したと認定判断

判例時報2374

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2018年8月15日 (水)

未公開株式ファンドの販売に際しての説明義務違反(肯定)

東京高裁H29.4.26      
 
<事案>
ファンドの販売に関して、同ファンドに出資した投資家が損害の賠償を求めた事案。 
Y1:信託業務等を営む会社
Y5:その会計監査人
Y2:投資顧問業等を営む会社
Y3:その代表取締役
Y4:投資を勧誘した訴外Aの取締役ないし代表取締役であった者
X1及びX2:Y1の販売した信託型ベトナム未公開株式ファンド第1号に出資した者

X1及びX2は、本件ファンドの販売勧誘にあたり説明義務違反及び適合性原則違反があったとして、出資金相当額及び弁護士費用の損害の賠償をともめ、併せてY1の会計監査人Y5に対し、任務懈怠を理由として、損害の賠償を求めた。
 
<争点>
①説明義務違反
②適合性原則違反
の有無 
 
<原審>
請求棄却。

適合性原則違反:
X1:本件ファンドへの投資以前に1000万円程度の投資信託及び本件ファンドと同様に株価下落リスクがある現物株式の購入経験がある
X2:1100万円ないし1200万円程度の現物株式及び投資信託の購入経験等がある
⇒適合性原則違反は認められない。

説明義務違反:
①セミナー又は説明会で、Y3及びY4から、未公開株式の為替リスクや株価下落リスクなど想定される具体的リスクが説明された
②本件ファンドに元本補填や利益の補足がないことについて、複数のスライドを用いる方法での説明があった
③インターネットを通じての申込の際に確認することを求められる信託約款および申込説明書には具体的なリスクが記載。

Y1、Y3及びY4の説明に問題はないとして、説明義務違反を否定。
 
<判断>
説明義務違反を肯定し、一部認容。 
①信託約款や申込説明書による説明があったことは認められる
but
信託財産のうち総額5億5300万2791円を要して未公開株式が購入されたにもかかわらず、その実質の対価は出資金の約2割にあたる約1億9300万円にすぎず、約4割にあたる約3億6000万円は未公開株式を購入するに際しての仲介手数料に充てられていた
未公開株式購入額やこれに直接影響する高額の仲介手数料の存在及びその額等は、投資家にとって極めて関心の高い事項であるにもかかわらず、この点の説明は何らされていなかった
これについて何ら説明がなされなかったということは、本件ファンドの重要事項について説明が尽くされていたとはいえない

説明義務違反を肯定。
 
<解説>
契約締結に先だって、契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき事情を提供しなかった場合には、信義則上の説明義務違反として不法行為による損害賠償責任が生じる。(最高裁H23.4.22) 

説明義務の範囲や程度は、顧客の知識、取引経験等に応じて自己責任の下に合理的判断が可能かという点から決定される。(東京高裁H26.4.17)
具体的事情を詳細に検討する必要

判例時報2370

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2018年8月 1日 (水)

インサイダー取引を理由とする課徴金納付命令が取り消された事例

東京高裁H29.6.29      
 
<事案>
処分行政庁は、平成25年6月27日、A証券会社の営業員P1がその職務に関し知った本件公募増資が決定された旨の事実について、Xがその伝達を受けながら、当該事実の公表前に売付を行った⇒Xに対し、課徴金6万円を納付することを命ずる旨の決定。 
 
<争点>
A証券会社の営業員P1が、公表前に、職務に関し本件公募増資に係る重要事項を知ったか否か。 
 
<判断>
P1が重要事実を知ったとは認められない⇒Xの請求を認容し、本件決定を取り消した。

金商法(平成23年改正前のもの)166条1項5号の規定により、上場会社等の契約締結の交渉中の法人等の他の役員等がその者の職務に関し重要事実を知ったといえるためには、
その者が職務に関し重要事実を構成する主要な事実を単に認識したというだけでは足りず
当該契約の締結もしくはその交渉をする役員等が知った重要事実が法人内部においてその者に伝播したものと評価することができる状況のもとで重要事実を構成する主要事実を認識した場合であることを要する。

Bが本件公募増資を行うことを決定したことは、法166条1項に規定する重要事実に該当する。
but
A証券会社内において、重要事実を伝達されたP2及びP3から、P1に対し、Bが本件公募増資を行うことを決定した可能性を積極的に示唆し、あるいは暗にその可能性を伝えることがあったとは認められない。
重要事実がP1に伝播したものとは認められず、P1が重要事実を職務に関し知ったということはできない。
 
<解説>
法166条1項又は3項の規定に違反した者には、課徴金の納付(法175条1項)が命じられ、さらには刑事罰(法197条の2第13号)が科される。
また、会社関係者から重要事実の伝達を受けた者についても、その他の一般投資家との間に情報格差が生じて不公平となる
⇒そのような者の有価証券等の売買等も禁止される(法166条3項)。

判例時報2369

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