5.インセンティブ制度のさまざまな側面
実際には、多数の仕事と多数の働き手が関わり、結果が完全にわかるまでに多くの時間がかかるのが普通。
インセンティブ制度を設計するうえでは、関連するあらゆる要素を念頭に入れなければならない。
(1)将来のキャリア
働き手は当座の金銭的報酬だけでなく、将来の昇進と昇給を期待して仕事に精をだすケースもある。
~その会社で働く未来が長い人ほど強く作用する。
インセンティブとして最も強く機能するのは、中・下級レベルのポストに就いている若い人。
大学の講師は、准教授、教授へと昇進し終身在職権を手にしたいと思う⇒熱心に研究や教育に取り組む。
その世界で生きている人間は誰でも、もっと大きな長期のゲームが存在することを知っている。
(2)関係の継続
同種の仕事を何度も繰り返す場合は、全体を平均して考えれば偶然の要素の影響が弱まり、結果が努力の程度を反映しやすくなる。
(1回や2回だと運が悪かったという言い訳も可能。)
⇒成果を基準にしたインセンティブ制度の効力も強まる。
(3)効率賃金
過酷な仕事をすることによる精神的・肉体的コストは、年間8000ドル程度。
会社にとって必要なことの1つは、欲しい人材に就職を決意させるために十分な金額の給料を支払うこと。
神経を使わずにできる仕事をして年4万ドルもらえる職場が別にある⇒それを上回る給料を支払わなければ、優秀な人材は入社してくれない。
会社側の提案:
「よその会社よりいくらか多く給料を支払います。ただし、仕事をさぼったことが明るみにでれば、上乗せ分は支払いません。しかも、即刻解雇し、あなたの取った行動を知らせます。すると、年間4万ドル以上の給料を支払う会社はもうないでしょう。」
では、いくら給料を支払えば、社員は職を失わないためにまじめに働くのか?
少なくとも4万8000ドル以上でなければ、サボるつもりのない人は入社してこない。
問題は、そこにどれだけ上乗せするか?
その上乗せ金額=Xドル
効率賃金仮説:
社員がサボると仮定。
金利10%。毎年Xドルずつ失うリスクが25%。
(毎年Xドル上乗せして給料を受け取れる状況は、額面10Xドルを受け取れる債券(10Xドルの10%がXドルなので、利息として年間Xドルに相当)を所有しているのと同じ)
8000ドル<0.25×10Xドルなら、社員はさぼらない。
X>3200ドル
実際には車が故障がないのに、整備士が修理料金1000ドルの故障をでっち上げ。
⇒金利が10%だと、毎年100ドルの儲けが入ってくる。
インチキがばれて関係を打ち切られる危険が25%。
⇒関係を続けることにより毎年400ドル以上の利益が入ってくると期待できれば、正直に仕事をする。
(4)複数の業務の関係
会社の社員は複数の業務を行っている⇒それぞれの業務のインセンティブが相互に影響を及ぼし合うケースがある。
複数の業務が
「排他的関係」(ある業務に割くエネルギーを増やすと、別の業務の生産性が下がる関係)⇒一方の業務について強力なインセンティブを設ければ、もう一方の業務の足を引っ張る。
なのか、
「補完的関係」(ある業務に割くエネルギーを増やすと、別の業務の生産性も上がる関係)⇒一方の業務に関して強力なインセンティブを設ければ、もう一方の業務の成果も後押しできる。
なのか。
1人の社員や部署に複数の業務をまかせる場合は、互いに補完的関係にある業務を担当させるべき。
排他的関係にある業務は、別々の社員や部署に担当させる。
「補完的業務」をまとめて1つの組織にまかせ、
「排他的業務」を切り離して別々の組織に担当させる。
⇒1つの空港内の業務は1つの組織に担当させ、空港同士を競わせるのが正しい選択。
(5)働き手同士の競争
同じ環境で同時並行で働く。
⇒成果の違いを見れば、その人がほかの人たちと比べてどの程度努力したか、どの程度のスキルをもっているかがわかりやすい。
⇒ほかの働き手との成果の違いを基準にしたインセンティブ制度が効果的。
ex.
一般的にファンドマネジャーの評価は、ほかのファンドマネジャーの運用成績との比較で判断される。
2人の学生に校正刷りをチェックさせる(一部のページを両方にチェックさせる)。
複数の納入業者や下請け業者に仕事を発注⇒業者が競い合うことで品質の基準が上がる。
(6)モチベーション
実際には、仕事自体に情熱を燃やしたり、会社や組織の成功を望んで仕事に取り組んだりする社員もいる。
創造性や創意工夫が要求される職についている人もそういう側面が大きい。
やる気をかき立てるような仕事や世のため人のためになる仕事の場合は、物質的なインセンティブが比較的弱くても働き手がまじめに働く。
というより、この種の仕事では、金銭的なインセンティブを強めると、むしろやる気をそぎかねないことが心理学の研究によりわかっている。
←善行や達成感のためではなく、金のためにその仕事をしているような気持になってしまう。
失敗した場合に解雇や減俸などの制裁を課すことも逆効果になりかねない。
←挑戦しがいのある仕事や意義のある仕事に取り組むことの喜びが損なわれる恐れがある。
50問のIQテスト
グループA:報酬なし
グループB:正解1問ごとに3セント
グループC:正解1問ごとに30セント
グループD:正解1問ごとに90セント
C,D>A>B
⇒
金がからんでくると、金がモチベーションの最大の要因になってしまうので、3セントという少額ではモチベーションが高まらない。
⇒
ある程度の額の金銭的報酬を提示するか、そうでなければ金銭的報酬はまったく提示しないかのどちらかにすべき。
(少しばかりの金額を提示することは逆効果。)
(7)ピラミッド型の組織
上司は自分自身の目標を達成してボーナスを受け取りたいと考えて、部下の仕事の質が悪くても合格にしてしまう可能性がある。
(自分が不利益を被る覚悟がなければ、上司は部下を厳しく査定できない。)
それに対応するには、たいていインセンティブの効力を弱めるしかない。
そうしないかぎり、インチキをすることにより得られる利益を減らすことが難しい。
(8)複数の「ボス」
複数の「ボス」の利害が一致しない場合や、真っ向から対立する場合が少なくない。
(それぞれの「ボス」はほかの「ボス」のインセンティブ制度の効力を弱めようとする可能性がある。)
全体的なインセンティブ効果は「ボス」の数に反比例する。
「誰も、2人の主人に仕えることはできない・・・あなたがたは、神と富とに使えることはできない」
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))
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