著作権

2017年12月29日 (金)

ピクトグラムの「使用許諾契約」終了による原状回復義務・契約当事者たる地位の承継の主張等

大阪地裁H27.9.24      
 
<事案>
X:VI(ヴィジュアル・アイデンティティ)等の制作等を主たる目的とする株式会社(仮説創造研究所)
Y1:大阪市
Y2:大阪市都市工学情報センター 
Y1は、その案内表示の改善のため、Y2に業務委託を行い、Y2は、平成12年3月31日、大阪城等のピクトグラムのデザインを、板倉デザイン研究所に委託し、P1がピクトグラムのデザインを行った。

Y2は、平成12年3月31日、大阪市各局の設置する案内表示等に、P1がデザインしたピクトグラムを使用することを目的として、板倉デザイン研究所との間で、「ピクトグラム使用契約」(「本件使用許諾契約1」、対象となったピクトグラムを「本件ピクトグラム」)を締結。

Y2は、平成12年8月31日、P1がデザインした本件ピクトグラムを、同じくP1がデザインした地図デザイン(「本件地図デザイン」)に配した「本件案内図」につき、これをY1が設置する案内表示等に使用することを目的として、板倉デザイン研究所との間で、「大阪市観光案内使用契約」(「本件使用許諾契約2」、両契約を併せて「本件各使用許諾契約」)を締結。

本件各使用許諾契約において、板倉デザイン研究所が、Y2に対し本件ピクトグラム等についての使用を許諾するに当たり、大阪市案内表示ガイドラインに従って実施される大阪市各局の案内表示とそれらを補足する地図等の媒体において、Y1が本件ピクトグラム等を使用することが定められている。
 
<争点>
(1) 本件各使用許諾契約の有効期間内に作成された本件ピクトグラム等の原状回復義務
①Yらは有効期間の満了による有効期間内に作成した本件ピクトグラム等についての原状回復義務を負うか
②Xは、Yらに対し、板倉デザイン研究所から本件各使用許諾家役の許諾者たる地位を承継したとして同契約上の権利を主張しうるか

(2) 本件各使用許諾契約の有効期間満了後に作成された本件ピクトグラムの複製権侵害
(3) 前記争点(1)の原状回復義務及び前記争点(2)の著作権に基づく本件ピクトグラムの抹消・消除の必要性(使用継続のおそれ)
(4) 前記争点(1)の原状回復義務違反及び前記争点(2)の著作権侵害の不法行為に基づくXの損害額
(5) Yらは、本件冊子の頒布及びPDFファイルのホームページへの掲載を行ったことによる、本件ピクトグラムの複製権及び公衆送信権侵害の不法行為責任を負うか
①本件ピクトグラムの著作物性

(6) Y1は、Xによる本件ピクトグラムの一部修正について報酬支払義務を負うか
(7) Y1は、別紙4案内図を作成することによって、本件地図デザインについての複製権又は本案権侵害として不法行為責任を負うか 
 
<規定>
民法 第613条(転貸の効果)
賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、転借人は、賃貸人に対して直接に義務を負う。この場合においては、賃料の前払をもって賃貸人に対抗することができない。
2 前項の規定は、賃貸人が賃借人に対してその権利を行使することを妨げない。
 
<判断>
●争点(1)①について
◎Y2の義務 
本件各使用許諾契約には、有効期間満了後の被告らの義務について明確な規定はない。
but
本件各使用許諾契約において、Y2に認められた本件ピクトグラム等の使用権は、主として複製後も継続して展示される案内表示が対象とされており
複製後もY1において使用し続ける形態であることを前提としている。

本件各使用許諾契約は、このような使用形態を前提に、有効期間を設定して契約当事者間の折合いをつけたもの。
有効期間を新たな複製ができる期間と解したのでは、その趣旨が損なわれる。

「使用」の通常の意義からしても「使用権の有効期間」とは、本件ピクトグラム等を複製することだけでなく、複製した案内表示等の展示を継続することの有効期間を定めたものと解するのが自然。

本件各許諾契約において、有効期間が満了した以上、少なくとも案内表示でのピクトグラム等の使用を中止し、原状に服するという合意までが含まれていると認めるのが相当。

原状回復義務として、既に複製された本件ピクトグラム等の抹消・消除の義務が生じると解するのが相当。

◎Y1の義務 
本件各使用許諾契約においては、板倉デザイン研究所が、Y2に対し本件ピクトグラム等についての使用を許諾するに当たり、大阪市案内表示ガイドラインに従って実施される大阪市各局の案内表示とそれらを補足する地図等の媒体において、Y1が本件ピクトグラム等を使用することが定められている。

Y1は、板倉デザイン研究所の承諾の下に、Y2の使用権を前提に、本件ピクトグラムなどの一種の再使用許諾を受けているものといえ、
これは、賃貸人の承諾を受けて転貸借がされている状況と同様の状況にある

民法613条の趣旨は、転貸借が適法に行われている場合に、目的物を現実に用益する転借人に対する直接請求権を認めることにより、賃貸人の地位を保護する点にあるが、
再使用許諾関係の場合にも、本件ピクトグラムを現実に使用するのが再被許諾者であるY1である以上、同様の趣旨が妥当する。
本件における本件ピクトグラム等の使用は、案内板等における継続的使用を対象とし、本件各使用許諾契においてY2に原状回復義務が認められる
賃貸借終了後の原状回復義務に類似した関係にある

Y1においては、本件各使用許諾契約の当事者ではないものの、民法613条を類推適用し、本件ピクトグラム等の抹消・消除義務を直接負う。

●争点(1)② 
◎「統合」の意義
Xが、平成19年6月1日に板倉デザイン研究所の事業を統合する際に、・・著作権全てを板倉デザイン研究所から包括的に譲り受ける合意をし、その後同年9月に板倉デザイン研究所が解散清算
当事者間において本件ピクトグラム等を含む著作権が譲渡
本件各使用許諾契約上の地位も譲渡
 
◎地位の譲渡の対抗 
本件各使用許諾契約における許諾者の義務は、許諾者からの権利不行使を主とするものであり、本件ピクトグラムの著作権者が誰であるかによって履行方法が特に変わるものではない
⇒本件ピクトグラムの著作権の譲渡と共に、被許諾者たるY2の承諾なくして本件各使用許諾契約の許諾者たる地位が有効に移転されたと認めるのが相当。
(賃貸人たる地位の移転についてのものであるが、最高裁昭和46.4.23)
but
著作物の使用許諾契約の許諾者たる地位の譲受人が、使用料の請求等、契約に基づく権利を積極的に行使する場合には、これを対抗関係というかは別として、賃貸人たる地位の移転の場合に必要となる権利保護要件としての登記と同様、著作権の登録を備えることが必要
(賃貸人たる地位の移転に関するものであるが、最高裁昭和49.3.19)

Xは、Yらに対し、著作権の登録なくして本件各使用許諾契約上の地位を主張することはできない
 
●争点(5)① 
本件ピクトグラムは、実在する施設をグラフィックデザインの技法で描き、これを、四隅を丸めた四角で囲い、下部に施設名を記載したもの。
本件ピクトグラムは、これが掲載された観光案内図等を見る者に視覚的に対象施設を認識させることを目的に制作され、実際にも相当数の観光案内図等に記載されて実用に供されているもの
いわゆる応用美術の範囲に属するもの

応用美術の著作物性について、
実用性を兼ねた美術的創作物においても、「美術工芸品」は著作物に含むと定められており(著作権法2条2項)、
印刷用書体についても一定の場合には著作物性が肯定(最高裁H12.9.7)

それが実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得るような美的特性を備えている場合には、美術の著作物として保護の対象となると解するのが相当。

ピクトグラムが指し示す対象の形状を使用して、その概念を理解させる記号(サインシンボル)⇒その実用的目的から、客観的に存在する対象施設の概観に依拠した図柄となることは必然。
⇒創作性の幅は限定される。
but
それぞれの施設の特徴を拾い上げどこを強調するのか、
そのためにもどの角度からみた施設を描くのか、
どの程度、どのように簡略化して描くのか、
どこにどのような色を配するか、
等のの美的表現において、実用的機能を離れた創作性の幅は十分に認められる

このような図柄としての美的表現において制作者の思想、個性が表現された結果、それ自体が実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となる得る美的特性を備えている場合には、その著作物性を肯定し得る。

本件ピクトグラムは
その美的表現において、制作者であるP1の個性が表現されており、その結果、実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えている
それぞれの本件ピクトグラムは著作物である
 
<解説>
●使用許諾契約の解釈 
本来、原状回復の規定がなければ、その義務を負わないが、契約に明文の規定がなくとも原状回復が含意されているとした。
 
●民法613条の類推適用 
本判決:
①本件における本件ピクトグラム等の使用は、案内板等における継続的使用を対象とし、②本件各使用許諾契約においてY2に原状回復義務が認められている
⇒賃貸借終了後の原状回復義務に類似した関係にある。

大阪地裁H22.3.11:
Qは原告から、本件ソフトウェアの使用許諾を受けたが、許諾の期間が経過した場合、Qにおいて、本件ソフトウェアの使用を中止し、サーバー等から削除する義務がある。
Qは、被告に対し、本件ソフトウェアを本件事業のために使用することを許諾していたと認められるが、Qへの使用許諾が終了した以上、民法613条(本件のような無償再許諾にも準用を認めるのが相当であると考えられる)の趣旨を類推し、被告においても、本件ソフトウェアの使用中止とサーバ等からの削除義務が発生していると解することができる。

反対説
民法613条の趣旨を簡単に及ぼしてよいものか疑問

①転貸借に係る原状回復義務は法定の典型的な義務であるのに対して、(再)使用許諾によって定められた義務は非典型的なもの
②著作権の範囲外の義務を課す点で、転貸借において問題となる、目的物自体の原状回復義務とは異なるものと評価できる。
 
●地位の譲渡の対抗 
著作権法 第77条(著作権の登録)
次に掲げる事項は、登録しなければ、第三者に対抗することができない
一 著作権の移転(相続その他の一般承継によるものを除く。次号において同じ。)若しくは信託による変更又は処分の制限
二 著作権を目的とする質権の設定、移転、変更若しくは消滅(混同又は著作権若しくは担保する債権の消滅によるものを除く。)又は処分の制限

本判決:
賃貸人の地位の移転に関する最高裁判断を参照に解決をはかっている。

使用許諾契約は誰が行っても履行方法が特に変わるものではない⇒許諾者の地位の移転に被許諾者の承諾は不要。
その有効に移転した地位に基づいて、許諾者たる地位に立つ者が契約上の権利を積極的に行使する場合には、権利保護要件としての登記と同様、著作権の登録の具備を必要とする

判例時報2348

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2017年10月19日 (木)

ゴルフクラブのシャフトデザインンの著作物性が争われた事案(否定)

知財高裁H28.12.21      
 
<事案>
グラフィックデザイン等を業として行う控訴人が、ゴルフ用品等スポーツ用品の製造、販売等を目的とする株式会社である被控訴人に対し、
(1)①被告シャフトが、
主位的には、控訴人の著作物であるゴルフシャフトのデザイン(本件シャフトデザイン)の翻案に当たり、
予備的には、控訴人の著作物である本件シャフトデザインの原画(本件原画)の翻案に当たる
⇒被控訴人の被告シャフト製造、販売行為が、控訴人の著作権(翻案権、二次的著作物の譲渡権)を侵害し、

(2)被告シャフトの製造は、
主位的には、控訴人の意に反して本件シャフトデザインを改変してなされたものであり、
予備的には、控訴人の意に反して本件原画を改変してなされたもの
⇒控訴人の著作者人格権(同一性保持権)を侵害し、

(3)被控訴人のカタログ(被告カタログ)の製作は、控訴人の著作物であるカタログデザイン(本件カタログデザイン)を改変してなされたもの⇒控訴人の著作者人格権(同一性保持権)を侵害

①被告シャフトによる著作権(翻案権、二次的著作物の譲渡権)侵害につき民法703条、704条に基づく使用料相当額の不当利得金5400万円等の支払
②被告シャフト及び被告カタログによる著作者人格権(同一性保持権)侵害につき民法709条に基づく慰謝料850万円の内金425万円等の支払
③被告シャフト及び被告カタログによる著作者人格権(同一性保持権)侵害につき著作権法112条1項に基づく被告シャフト及び被告カタログの製造及び頒布の差止め並びに同条2項に基づく廃棄、並びに
④被告シャフトによる著作者人格権(同一性保持権)侵害につき、同法115条に基づく謝罪広告の掲載
を求めた事案。
 
<規定>
著作権法 第10条(著作物の例示) 
この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。
四 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物

著作権法 第2条(定義)
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
 
<判断>
応用美術の著作物性について、
一般論として、
「応用美術」は、「美術の著作物」(著作権法10条1項4号) に属するものであるか否かが問題となる以上、著作物性を肯定するためには、それ自体が美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えなければならないとしても、高度の美的鑑賞性の保有などの高い創作性の有無の判断基準を一律に設定することは相当とはいえず、
著作権法2条1項1号所定の著作物性の要件を充たすものについては、著作物として保護されるものと解すべき

控訴人が本件シャフトデザイン及び本件カタログデザインに創作性が認められる根拠としてあげた点につき、いずれも創作的な表現ではないと判断。
 
<解説>
応用美術の著作物性について、近時の知財高裁判決では、
①実用目的の応用美術であっても、
実用目的に必要な構成を分離して、美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できるもの⇒美術の著作物として保護すべき。
実用目的に必要な構成と分離して、美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握することができないもの⇒著作物として保護されない。
(知財高裁H26.8.28)と、

②応用美術が「美術の著作物」として保護されるために、
応用美術に一律に適用すべきものついて、高い創作性の有無の判断基準を設定することは相当とはいえず、個別具体的に、作成者の個性が発揮されているか否かを検討すべきであるとしたもの(知財高裁H27.4.14)。

本判決は、後者②の判決の流れを汲むものであるが、応用美術の著作物性を肯定するためには、それ自体が美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えなければならない点を明確にした。

判例時報2340

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2017年5月 9日 (火)

著作権判例百選事件保全抗告決定

知財高裁H28.11.11    
 
<事案>
Xは、自らが編集著作物たる「著作権判例百選(第4版)」(「本件著作物」)の共同著作者の一人であることを前提に、Yが発行しようとしている雑誌「著作権判例百選(第5版)」(「本件雑誌」)は本件著作物を翻案したもの
本件著作物の翻案権並びに二次的著作物の利用に関する原著作物の著作者の権利(著作権法28条)を介して有する複製権、譲渡権及び貸与権又は著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)に基づく差止請求権を被保全権利として、Yによる本件雑誌の複製・頒布等を差し止める旨の仮処分命令を求める申立てをした。
   
東京地裁は本件仮処分申立には理由があると判断⇒Yが保全異議の申立て⇒原決定は、本件仮処分決定を認可⇒Yが原決定及び本件仮処分決定の取消し並びに本件仮処分申立ての却下を求めた。
 
<争点>
①Xが本件著作物の共同編集著作者の一人か
②翻案該当性ないし直接感得性
③本件著作物を本件原案の二次的著作物とする主張の当否
④氏名表示権の侵害の有無
⑤同一性保持権の侵害の有無
⑥黙示の許諾ないし同意の有無
⑦著作権法64条2項、65条3項に基づく主張の当否
⑧権利濫用の有無
⑨本件雑誌の出版の事前差止めの可否
⑩保全の必要性 
 
<規定>
著作権法 第12条(編集著作物)
編集物(データベースに該当するものを除く。以下同じ。)でその素材の選択又は配列によつて創作性を有するものは、著作物として保護する。
2 前項の規定は、同項の編集物の部分を構成する著作物の著作者の権利に影響を及ぼさない。
 
著作権法 第14条(著作者の推定) 
著作物の原作品に、又は著作物の公衆への提供若しくは提示の際に、その氏名若しくは名称(以下「実名」という。)又はその雅号、筆名、略称その他実名に代えて用いられるもの(以下「変名」という。)として周知のものが著作者名として通常の方法により表示されている者は、その著作物の著作者と推定する。.
 
<判断>
①本件著作物の表紙にA教授、X、B教授、C教授の氏名に「編」と付して表示されている
②はしがきの記載

本件著作物には、Xの氏名を含む本件著作物の編者らの氏名が編集著作者名として通常の方法により表示されている

Xについて著作権法14条に基づく著作者の推定が及ぶ

著作者の推定の覆滅の可否:
編集著作物の著作者の認定につき、
素材について創作性のある選択及び配列を行った者は著作者にあたり、
②本件著作物のような共同編集著作物の著作者の認定が問題となる場合、編集方針を決定した者も、当該編集著作物の著作者となり得る。

他方、編集方針や素材の選択、配列を消極的に容認することは、いずれも直接創作に携わる行為とはいい難い⇒これらの行為をしたにとどまる者は当該編集著作物の著作者とはなり得ない。

共同著作物の著作者の認定につき、ある者の行為につき著作者となり得る程度の創作性を認めることができるか否かは、
①当該行為の具体的内容を踏まえるべきことは当然として、さらに、
②当該行為者の当該著作物作成過程における地位、権限、当該行為のされた時期、状況等に鑑みて理解、把握される当該行為の当該著作物作成過程における意味ないし位置付けをも考慮して判断されるべき。

Xは、本件著作物の編集過程においてその「編者」の一人とされてはいたものの、実質的にはむしろアイデアの提供や助言を期待されるにとどまるいわばアドバイザーの地位に置かれ、X自身もこれに沿った関与を行ったにとどまるものと理解するのが、本件著作物の編集過程全体の実態に適する

著作権法14条による推定にもかかわらず、Xをもって本件著作物の著作者ということはできないと判断し、著作者の覆滅を認め、本件仮処分決定及びこれを認可した原決定をいずれも取り消し、本件仮処分申立てを却下。
 
<解説>
著作権法 第17条(著作者の権利)
2 著作者人格権及び著作権の享有には、いかなる方式の履行をも要しない。
著作権法は、創作時点で権利が発生する無方式主義(法17条2項)を採用⇒その著者を特定することが困難な場合も想定される。
⇒14条に著作者の推定規定をおき、調整を行っている。

14条の推定を受けるには
原作品への氏名等の表示
実名または周知な変名の表示がされていること
通常の方法による表示がされていること
が求められる。

自らが著作者であると主張する者は、具体的な創作について主張するまでもなく、例えば書籍であれば表紙や奥付に著作者として表示されていればそれをもって著作者と推定されることになり、
この推定を争う場合には、その事実の推定を覆す立証をその相手方がする必要がある。

編集著作物(著作権法12条1項)の著作者として認められるためには、表現の創作行為への実質的な関与が必要

最高裁H5.3.30:
「企画案ないし構想の域」を出ない程度の関与は、著作者としては認められない。

東京地裁昭和55.9.17:
配列について相談に与って意見を具申すること、又は他人の行った編集方針の決定、素材の選択、配列を消極的に容認することは、いずれも直接創作に携わる行為とはいい難い。

判例時報2323

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2017年5月 8日 (月)

ライブハウスの経営者が演奏主体(=著作権侵害者)に当たるとされた事例

東京地裁H28.3.25      
 
<事案>
著作権等管理事業者であるXが、Y1及びY2に対し、Yらが共同経営しているライブバーにおいて、Xとの間で利用許諾契約を締結しないままライブを開催し、Xが管理する著作物を演奏(歌唱を含む)させていることが、Xの有する著作権(演奏権)侵害に当たる

①管理著作物の演奏・歌唱による使用の差止めを求め
②著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求又は不当利得返還請求として、連帯して使用料相当額及び弁護士費用の支払を求め
③不法行為にも届く損害賠償請求又は不当利得に基づく返還請求として、平成27年11月1日から管理著作物の使用終了に至るまで、連帯して使用料相当額の支払を求めた。
 
<判断>
①Yらが共同して、ミュージシャンが自由に演奏する機会を提供するために本件店舗を設置、開店したという経緯、②ライブハウスの管理状況、③ライブの客から飲食代として最低1000円を徴収していること等の諸事情を総合
⇒Yらが、管理者作物の演奏主体(侵害主体)に当たる。 

Xに著作権管理を委託している著作者は、Xとの間で、全ての著作権及び将来取得する全ての著作権を信託財産としてXに移転する内容の契約を締結⇒著作者自身が演奏する場合であっても、Xに無許諾で演奏することは著作権侵害に当たる

著作権侵害の故意の有無の判断に当たっては他人の権利を有する楽曲を利用する認識があれば足りる⇒Yらには故意があった。

本件調停の過程において管理著作物の利用に係る許諾契約が成立しているとは認められない。
Xによる請求は、過去の交渉経緯等に照らしても権利濫用に当たらない。

Xの差止請求を認めるとともに、過去の本件店舗における演奏に係る損害賠償請求又は不当利得返還請求については、証拠により認められる限度で一部認容。
将来の給付請求については、あらかじめその請求をする必要がある場合に当たらないとして棄却。
 
<解説>
クラブ・キャッツアイ事件(最高裁昭和63.3.15)、ロクラクⅡ事件(最高裁H23.1.20):
最高裁は、
演奏主体に関し、クラブキャッツアイ事件で、
スナックにおける客のカラオケ歌唱について、
①店の経営者の管理の下に歌唱していると解されていること
②店の経営者が、客の歌唱を利用して営業上の利益を増大させることを意図していること
店の経営者が演奏主体であると判断。

複製主体に関し、ラクロスⅡ事件で、
サービス提供者が、その管理、支配下において、放送を受信して複製機器に対して放送番組等に係る情報を入力するという複製の実現における枢要な行為をしている
サービス提供者が複製主体に当たる。 

本判決:
Yらが、①演奏を管理・支配し、②演奏の実現における枢要な行為を行い、③それによって利益を得ている⇒Yらが侵害主体に当たる

本件ライブバーは、ライブ客から徴収したミュージックチャージの全額を出演者が得ているなど通常のライブハウスとは多少異なる営業実態。

判例時報2322

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2017年4月19日 (水)

イラストの複製・利用について著作権侵害を認めた事例

大阪地裁H27.9.10       
 
<事案>
イラストレーターであるXが、地域活性化イベントにおけるキャラクターのイラストを作成したY1及び同イラストに基づいて複数のイラストを使用して宣伝活動を行った同イベントの実行委員長Y2に対し、Y1による同イラストはX作成のイラストを無断で改変して作成したものであり、同イラストをガイドブック等に印刷して譲渡し、インターネット上にアップロードする等によりXの著作権(複製権又は本案権、公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)を侵害⇒複製等の差止め、損害賠償及び謝罪広告の掲載を求めた。 
 
<争点>
①Yらの具体的行為の態様
②Yらの故意・過失の有無等 
 
<判断>
●争点①について
①Yイラスト1は、首より下の部分はXイラストと異なるが、頭部の描画がXイラストとほぼ同一⇒原告イラストの本質的特徴を感得し得る
②Y1によるYイラストの作成経緯

Y1は、原告のホームページにアクセスし、Xイラストに依拠してYイラスト1を作成したと推認される
Xイラストを翻案したものであり、Y1は、Xの本案権、氏名表示権及び同一性保持権を侵害。 

その後使用されたY各イラストについても、使用された事実を認めるに足りる証拠がないもの及びブログに掲載された写真のうちXイラストの表現の本質的特徴が直接感得できないもの等を除いて、侵害の成立を認めた。

●Y1の過失 
実行委員会が同キャラクターをいわきフラオンパクのガイドブックに使用することを認識した時点で、他人のイラストに依拠してYイラスト1を作成したことをY2らに伝え、使用を中止するよう取り計らう注意義務があった⇒かかる義務に違反したY1には過失が認められる
⇒共同不法行為の成立を肯定。

Y各イラストのうち、Y1が関与したことを認めるに足りる証拠がないものについては、不法行為の成立を否定。

●Y2の過失 
Y2が準備段階においてY1と会議において同席しており、Yイラスト1をキャラクターとして利用するに際し、Y1に対してYイラスト1の作成経緯を確認し、他人のイラストに依拠していないかどうかを確認することは容易であったが、これを怠った。⇒過失を認定し、共同不法行為の成立を肯定

Y各イラストのうち、Y2が関与したことを認めるに足りる証拠がないものについては、不法行為の成立を否定。

●Yらに対する損害賠償請求を、YらによるY各イラストの使用態様を考慮しそれぞれ90万円の限度で認容。 

Y各イラストの内容及び使用態様がXの社会的声望名誉を毀損するものとは認められない謝罪広告の請求を棄却

①フラオンパクは今後も開催される見込みは低く、Yイラストが今後使用される可能性は低い
現在Y1が自身の管理するブログに掲載している写真からはXイラストの表現の本質的特徴を感得することもできない

差止請求を棄却
 
<解説> 
著作権を侵害して複製物を作成した者から発行の依頼等を受けて複製・譲渡等を行った他の者の過失 

多くを占める出版社や放送局に関する事例では、大量の出版物を発行する者等としての高度の注意義務が課される等としてこれを肯定した事例がほとんど。

カラオケ装置のリース業者について、相手方が当該著作権者との間で著作物使用契約を締結し又は申込みをしたことを確認した上でカラオケ装置を引き渡すべき条理上の注意義務を負う(最高裁H13.3.2)。

受注者が制作した水彩画ポスターにより他人の写真の著作権を侵害した事例において、発注者である八坂神社の過失を認めた事例(東京地裁H20.3.13)。

原告サイトの解説文を、財団の研修会に参加した報告書の作成者が無断転載した事例において、NPO法人の責任を認めた東京地裁H21.2.19.

パンフレット製作会社にパンフレット製作を依頼したコーヒー販売会社が、パンフレットに使用される写真の著作権については調査義務まで負うものではなく、注意義務に違反するとはいえない(大阪地裁H17.12.8)。
 
●利用者の過失は基本的には諸般の事情を考慮して判断すべきものとされるが、出版社・発注元等に厳格責任を負わすべきとする立場。

①その者の行為による著作権侵害の拡大・拡散
②経済的利益の存在
③補償条項を設けることによって侵害物作成者に求償できる
④原告にとって被告側の内部関係をしることは困難であるから、事実上の過失推定を負わせるべき。
vs.
(1)従来出版の現場において個別にチェックを行うことや、制作に関与していないパンフレットの発注元が調査を行うことは実際上極めて困難であり過重な負担
(2)民法における注意義務の一般的基準としては、一般に①危険が生じる蓋然性、②危険が生じた場合の重大性、③予防措置を取ることに対するコストの3つを勘案するに比して、著作権法では、メディアの責任のような大上段な前提から出発する傾向にあり、十分な予防措置をとることに対する負担が考慮されていない。

判例時報2320

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2017年3月12日 (日)

映像作品のデータを動画共有サイトのサーバーにアップロードした行為についての損害賠償請求

東京地裁H28.4.21       
 
<事案>
映像作品(本件著作物1及び2)の著作権を有するXが、Yが本件著作物1及び2のデータを動画共有サイト(本件動画サイト)のサーバーにアップロードした行為が公衆送信権の侵害に当たると主張し、民法709条及び著作権法114条1項又は3項に基づき、損害賠償金1475万4090円及び遅延損害金の支払を求めた訴訟。 
 
<争点>
Xが蒙った損害の額。 
 
<規定>
著作権法 第114条(損害の額の推定等)
著作権者、出版権者又は著作隣接権者(以下この項において「著作権者等」という。)が故意又は過失により自己の著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為によつて作成された物を譲渡し、又はその侵害の行為を組成する公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行つたときは、その譲渡した物の数量又はその公衆送信が公衆によつて受信されることにより作成された著作物若しくは実演等の複製物(以下この項において「受信複製物」という。)の数量(以下この項において「譲渡等数量」という。)に、著作権者等がその侵害の行為がなければ販売することができた物(受信複製物を含む。)の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、著作権者等の当該物に係る販売その他の行為を行う能力に応じた額を超えない限度において、著作権者等が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡等数量の全部又は一部に相当する数量を著作権者等が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。

3 著作権者又は著作隣接権者は、故意又は過失によりその著作権又は著作隣接権を侵害した者に対し、その著作権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を自己が受けた損害の額として、その賠償を請求することができる。
 
<判断>
著作権法114条1項に基づく損害額:
①本件著作物1及び2の本件動画サイトにおけるストリーミングによる動画の再生回数が受信複製物の数量に当たるとはできないし、②これをダウンロードの回数と同視することもできない。
⇒同項に関するXの主張は失当。

同条3項に基づく損害額について:
本件における事実関係を前提とすれば、Yにほる本件著作物1及び2の公衆送信権の損害に対してXが著作権の行使につき受けるべき金銭の額はそれぞれ50万円とするのが相当。
 
<解説>
●著作権法114条1項に基づく損害額
①侵害者による譲渡等数量に②権利者の単位数量当たりの利益額を乗じた額を、権利者の能力に応じた額を超えない限度において、権利者が受けた損害額とする旨の規定。

譲渡等数量とは、①有体物の無断譲渡を想定した「譲渡した物の数量」及び②インターネットを用いた無断送信を想定した「受信複製物の数量」をいう。

②の「受信複製物の数量」公衆によるダウンロードの数量をいうとする見解が多数。
視聴のみを目的とするストリーミング配信は一般にダウンロードをともなわないが、その過程で行われる端末パソコン内における情報の一時的蓄積(CACHE)が受信複製物に含まれるかという問題があるが、著作権法114条1項の解釈としても、受信複製物には当たらないとする見解。

①「受信複製物」とは、条文の規定上、公衆送信が公衆によって受信されることにより作成された著作物等の複製物をいう。
②ダウンロードを伴わないストリーミング配信の場合、データをダウンロードした場合と異なって視聴を終えた後に視聴者のパソコン等にデータが残ることはない。

本件において受信複製物が作成されたとは認められないとし、結論として上記多数意見に沿う判断。
 
●著作権法114条3項に基づく損害額について
著作権者等が請求し得る最低限度の損害額を法定した規定であり、個々の事案における具体的な事情を考慮して「受けるべき金銭の額に相当する額」を算定。
業界の一般相場、権利者の他の使用許諾契約、著作物使用料規定等が考慮要素。

判例時報2316

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2017年2月19日 (日)

ソーシャルアプリケーションゲームと職務著作・映画の著作物

東京地裁H28.2.25      
 
<事案>
「神獄のヴァルハラゲート」との名称のソーシャルアプリケーションゲームについて、職務著作の成否や「映画の著作物」該当性等が問題となった事例。

開発に関与した原告は、本件ゲームをインターネット上で配信する被告に対し、
①主位的に、原告は本件ゲームの共同著作者の一人であって、同ゲームの著作権を共有するから、同ゲームから発生した収益の一部の支払を受ける権利がある
②予備的に、仮に原告が本件ゲームの共同著作者の一人でないとしても、原被告間において報酬に関する合意があり、
仮に合意がないとしても、原告には商法512条に基づく報酬を受ける権利がある旨主張し、
著作権に基づく収益金分配請求権(主位的請求)ないし報酬合意等による報酬請求(予備的請求)をした。

被告:本件ゲームは、被告における職務著作であり、また、映画の著作物に該当
⇒いずれにしても被告に著作権が帰属するなどと主張。
 
<規定>
著作権法 第15条(職務上作成する著作物の著作者)
法人その他使用者(以下この条において「法人等」という。)の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物(プログラムの著作物を除く。)で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。

著作権法 第29条 
映画の著作物(第十五条第一項、次項又は第三項の規定の適用を受けるものを除く。)の著作権は、その著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは、当該映画製作者に帰属する。

著作権法 第2条(定義)
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
十 映画製作者 映画の著作物の製作に発意と責任を有する者をいう。

3 この法律にいう「映画の著作物」には、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含むものとする。
 
<判断>
●著作権法15条1項所定の職務著作 
本件ゲームの開発に関与していた時点では被告会社に雇用されておらず、同開発がほぼ終了した後に同社の取締役に就任
but
①原告は本件ゲームの開発期間中にはタイムカードで勤怠管理をされ、
②被告のオフィス内で被告の備品を用い、
③被告代表者の支持に従って開発しておいり、
④原被被告間において当然に報酬の合意があったとみるべきこと
⑤当初から原告が被告の取締役等に就任することが予定されていたこと等

原告は「法人等の業務に従事する者」である。
他の要件も満たす⇒職務著作の成立を肯定。
 
●著作権法29条1項所定の映画の著作物
①本件ゲームは、音声はないものの、利用者から人気の高い戦闘場面等において動画的な画像を多く用いており、「映画の効果に類似する視覚的効果」、すなわち「目の残像現象を利用して動きのある画像として見せる効果」がある
②著作権法2条3項所定の他の要件も満たす
映画の著作物に該当

①被告代表者が原告に対して本件ゲーム開発への参加を勧誘し、原告もこれに応じて別の会社を退社した上で同ゲーム開発に関与
②被告代表者が新会社(被告)を設立した上で、原告や被告の従業員とともに本件ゲーム制作を行った
③本件ゲームが被告名義で配信され、原告が被告を退社した後も被告名義で運営されている

本件ゲームの製作に発意と責任を有する者は被告であり、被告が「映画製作者」

①「参加約束」については、「著作者が、映画製作に参加することとなった段階で、映画製作者に対し、映画製作への参加意思を表示し、映画製作者がこれを承認したこと」を意味する。
②原告は、映画製作者である被告の代表者から本件ゲーム開発に参加するよう勧誘され、これを了承して同ゲーム開発に協力してきた。
原告は被告に対して参加約束をした。

著作権法29条1項により、本件ゲームの著作権は映画製作者である被告に帰属することになる。
 
●原告が本件ゲーム開発に際して従事した作業時間や作業量からすれば、当然に当事者間で報酬合意があったとみるべき
⇒予備的請求のうち報酬合意に基づく請求を一部認容。 
 
<解説>
●著作権法15条の「法人等の業務に従事する者」について
最高裁H15.4.11:
法人等と著作物を作成した者との関係を実質的にみたときに、
法人等の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり、
法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかを、
業務態様、指揮監督の有無、対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して判断すべき。

●著作権法29条1項所定の映画の著作物について、
ゲームソフトが「映画の著作物」に該当するかについて、
先例が示した枠組み(=音声の有無にかかわらず、映像が動きをもって見えるという効果を生じさせることが「映画の著作物」たる必要的要件)を踏襲。
「映画製作者」は、「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者」をいうとされる(法2条1項10号)が、
より具体的には、法律上の権利義務が帰属する主体であって、経済的な収入・支出の主体となる者であるとされている。

判例時報2314

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2016年9月20日 (火)

著作権判例百選事件保全異議決定

東京地裁H28.4.7      
 
<事案>
大学教授である甲野は、自らが編集著作物たる雑誌「著作権判例百選(第4版)」(「本件著作物」)の共同編集著作者の1人であり、出版社であるYがその改訂版として発行しようとしている雑誌「著作権判例百選(第5版)」(「本件雑誌」)は本件著作物を翻案したものであるなどと主張し、本件著作物の著作権(本案権等)又は著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)に基づく差止請求権を被保全権利として、Yによる保険雑誌の複製、頒布等を差し止める仮処分命令を求めた⇒東京地裁が認容⇒Yが保全異議の申し立て。 
 
<争点>
①甲野が本件著作物の共同編集著作者の1人であるか
②本件雑誌の表現から本件著作物の表現上の本質的特徴を直接感得することができるか(翻案該当性)
③本件著作物は、それ以前に他の者(丙川教授及び戊田教授)が作成した原案(「本件原案」)を原著作物とする二次的著作物にすぎず、本件著作物において新たに付加された創作的表現が本件雑誌において再製されてはいないということができるか
④氏名表示権侵害の有無
⑤同一性保持権侵害の有無
⑥甲野のYに対する黙示の許諾・合意の有無
⑦甲野が他の共同著作者との間で本件雑誌の出版に関する合意を拒むことについて、正当な理由(著作権法65条3項)がなく、信義に反する(同法64条2項)ということができ、かつ、そのことが差止請求に対する抗弁となるか
⑧権利濫用の有無
⑨出版の事前差止めの可否
⑩保全の必要性の有無
 
<規定>
著作権法 第14条(著作者の推定) 
著作物の原作品に、又は著作物の公衆への提供若しくは提示の際に、その氏名若しくは名称(以下「実名」という。)又はその雅号、筆名、略称その他実名に代えて用いられるもの(以下「変名」という。)として周知のものが著作者名として通常の方法により表示されている者は、その著作物の著作者と推定する。

著作権法 第19条(氏名表示権)
著作者は、その著作物の原作品に、又はその著作物の公衆への提供若しくは提示に際し、その実名若しくは変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表示しないこととする権利を有する。その著作物を原著作物とする二次的著作物の公衆への提供又は提示に際しての原著作物の著作者名の表示についても、同様とする

著作権法 第20条(同一性保持権)
著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。
2 前項の規定は、次の各号のいずれかに該当する改変については、適用しない。
四 前三号に掲げるもののほか、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変

著作権法 第65条(共有著作権の行使)
2 共有著作権は、その共有者全員の合意によらなければ、行使することができない。

著作権法 第64条(共同著作物の著作者人格権の行使)
共同著作物の著作者人格権は、著作者全員の合意によらなければ、行使することができない。
2 共同著作物の各著作者は、信義に反して前項の合意の成立を妨げることができない。

著作権法 第112条(差止請求権) 
著作者、著作権者、出版権者、実演家又は著作隣接権者は、その著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
 
<判断> 
●争点①
 
本件著作物の表紙における甲野ら4名の氏名に「編」を付した表示は、著作権法14条の「著作者名として通常の方法により表示されている」ものに当たる⇒同条による著作者の推定が働く。

本件著作物の素材は判例及び執筆者の執筆する解説であるという前提のもと、
①甲野は、執筆者について、特定の実務家1名を削除するともに新たに別の特定の実務家3名を選択することを独自に発案してその旨の意見を述べ、これがそのまま採用されて本件著作物に具現されていること、
②本件著作物にはついては、当初から甲野ら4名を編者として「著作権判例百選(第4版)」を創作するとの共同の意思の下に編集作業が進められ、編集協力者として関わった戊田教授の原案作成作業も、編者の納得を得られるものとするように行われ、本件原案については、甲野による修正があり得るとうい前提でその意見が聴取、確認されたこと、
③このような経緯の下で、甲野は、編者としての立場に基づき、本件原案やその修正案の内容について検討した上、最終的に、編者会合に出席し、他の編者と共に、判例113件の選択・配列と執筆者113名の割当てを項目立ても含めて決定、確定する行為をし、その後の修正についても、メールで具体的な意見を述べ、編者が意見を出し合って判例及び執筆者を修正決定、再確定していくやりとりに参画

甲野が本件著作物の編集著作者の1人。

最高裁H5.3.30:
編集著作物の著作者の認定に関する判例で、高村光太郎が素材の選択・配列を「確定」する行為をしたことを理由付けに用いている。
 
●争点② 
本件雑誌の表現から本件著作物の表現上の本質的特徴を直接感得することができるかは、
①翻案該当性、②二次的著作物該当性、③同一性保持権の要件(最高裁H10.7.17)充足性に関わる。

本決定は、本件著作物と本件雑誌とを対比し、①判例が共通する割合、②執筆者が共通する割合、③判例と執筆者の組合せが共通する割合、④判例及び解説の配列順序等について検討
直接感得性を肯定
 
●争点③ 
Y:二次的著作物の著作権者が権利を主張できるのは新たに付加された創作的部分に限られる(最高裁H9.7.17)を前提に主張。

本決定:
「本件原案は、最終的な編集著作物の完成に向けた一連の編集過程の途中段階において準備的に作成された一覧表の一つであり、まさしく原案にすぎないものであって、その後編者により修正、確定等がされることを当然に予定していたものであった」

本件においては、その完成の段階で、甲野を共同著作者の一人に含む共同著作物が成立したとみるのが相当
途中の段階で本件原案が独立の編集著作物として成立したとみた上で本件著作物について本件原案を原著作物とする二次的著作物にすぎないとするのは相当ではない。
 
●争点④ 
Yが本件雑誌を公衆に提供するに当たり、原著作物の編集著作者として甲野の氏名を表示しない氏名表示権(著作権法19条1項後段)侵害を肯定。
 
●争点⑤ 
争点②の同一性保持権侵害の要件のほか、意に反する改変(著作権法20条1項)の有無及び「やむを得ないと認められる改変」(同条2項4号)該当性が争点。

甲野の「意に反して」改変したものに当たるとする一方、「やむを得ないと認められる改変」には当たらない
⇒同一性保持権侵害を肯定。
 
●争点⑥ 
甲野がYが主張するような黙示的な許諾ないし同意をしたとは認定できない。
 
●争点⑦ 
共同著作物の著作権及び著作者人格権については、著作権法65条2項及び64条1項が共有著作権者ないし著作者全員の合意によらなければ行使できない旨、64条2項は信義に反して合意の成立を妨げることができない旨をそれぞれ規定。

正当な理由がなく、又は信義に反して合意を拒む者がいる場合に、
〇A:他の著作権者ないし著作者としては、その者に対して民執法174条1項に基づく意思表示を命ずる判決を得る必要があるとする説と、
B:これを不要とする説。

大阪地裁H4.8.27:
一部の共有者が合意を拒む場合に、それに正当な理由がないと他の共有者が判断すれば、他の共有者のみで著作権を行使しうるとの効果が著作権法65条3項の規定から生じるとは解されない
 
●争点⑧ 
Yの、差止請求権の行使の権利濫用にあたる旨の主張を認めず。
 
●争点⑨ 
本決定:
北方ジャーナル事件における仮処分は、出版物の表現内容が名誉棄損に当たるとして、その内容の言論を公にすることを差し止めるものであるのに対し、
本件の仮処分は、一定の素材の選択・配列による編集の仕方が著作権法違反であるとして、そのような編集の仕方による出版物を公にすることを差し止めるものであり、言論の内容を公にすることについては何ら禁止するものではない

著作権又は著作者人格権に基づく差止請求権については、著作権法112条1項で定められているところ、本決定は、差止請求権を肯定。
被保全権利としては、著作者人格権に基づくものを採った。

判例時報2300

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2016年3月 6日 (日)

中学校用歴史教科書の著作権

知財高裁H27.9.10    
 
<事案>
被控訴人扶桑社が従前出版した中学校用歴史教科書の執筆者であった控訴人Xが、扶桑社の子会社である被控訴人育鵬社が出版している中学校用歴史教科書(被控訴人書籍)の記述47か所が、控訴人の著作権(翻案権)及び著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権)を侵害するとして、発行者である育鵬社及び扶桑社と、被控訴人書籍を共同して制作したとする被控訴人Y1~Y3に対し、被控訴人書籍の市販本の販売等の差止及び廃棄と損害賠償6031万円の支払を求める等した。
 
<規定>
著作権法 第2条(定義)
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
 
<原判決>
被控訴人が著作権侵害を主張する47か所は、創作性が認められない⇒請求棄却。
 
<控訴>
翻案権侵害箇所を21か所に限定。
複製権侵害の主張と、
控訴人書籍中の一部の単元の構成についての創作性に関する主張と
一般不法行為を理由とする請求
を追加。 
 
<判断>
控訴棄却。 

●   
①歴史教科書は、簡潔に歴史全般を説明する歴史書に属するものであって、他社の歴史教科書とのみ対比して創作性を判断すべきものではなく、一般の簡潔な歴史書と対比して創作性があることを要する。

②記述内容に関する著者のアイデアや制作意図ないし編集方針、あるいは、歴史観又は歴史認識それ自体は、表現ではない
⇒当該視点に基づいて記されたとする具体的な記述について、表現上の創作性の有無を検討すればよい。

③同種他書に同一の記載がなかったとしても、それが他書が選択した歴史的事項の範囲内に含まれる事実として知られている場合や、当該歴史的事項に一般的な歴史的説明を補充、付加するにすぎないものである場合には、そのことによる創作性は認められない
上記21か所における事項の選択は、いずれもありふれた選択をしたもの⇒事項の選択についての創作性はない

④事項の配列は、単なる説明の羅列か、時系列、因果列に従ったものなど⇒いずれもありふれた配列をしたもの⇒事項の配列についての創作性はない

⑤上記21か所における具体的表現形式は、歴史的事項の単純な説明か、一般的な言い回しを若干改めたもの。
⇒いずれもありふれた具体的表現を出ず、具体的な表現についての創作性はない

<解説> 
●著作物として著作権法上の保護を受けるには、思想又は感情を創作的に表現したものであること、創作性を要する(著作権法2条1項1号)。
その判断基準は:
①「個性の発露の有無」又は②「表現の選択の幅」が用いられる。

●言語の著作物における本案兼侵害の判断方法:
①原告書籍等と被告書籍等との共通部分を特定
②原告書籍等の当該共通部分の創作性の有無の判断
被告書籍等の当該共通部分から原告書籍等の当該共通部分の本質的特徴が直接感得できるか否かを判断

共通部分の範囲と創作性はトレードオフの関係

判例時報2279

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2015年10月28日 (水)

幼児用椅子につき、著作物性が認められ、著作権法10条1項4号所定の「美術の著作物」に該当すると判断された事例 (請求は否定)

知財高裁H27.4.14   

幼児用椅子につき、著作物性が認められ、著作権法10条1項4号所定の「美術の著作物」に該当すると判断された事例 
 
<事案>
X1社及びX2社が、Y社に対し、被控訴人製品の形態が控訴人製品の形態的特徴に類似しており、Y社による被控訴人製品の製造等の行為は、
①X1社の有する控訴人製品の著作権及び同著作権についてX2の有する独占的利用権を侵害するとともに、
②不正競争防止法2条1項1号又は2号の「不正競争」に該当する
③少なくともX1社及びX2社の信用等を侵害するものとして民法709条の一般不法行為がせいっ率する。

被控訴人製品の製造、販売等の差止め及び廃棄、損害賠償金の支払等を求めた事案。 
 
<規定>
著作権法 第1条(目的) 
この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。

著作権法 第10条(著作物の例示) 
この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。
四 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物

著作権法第2条(定義)
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。

2 この法律にいう「美術の著作物」には、美術工芸品を含むものとする。
 
<原審>
①控訴人製品のデザインは、著作権法の保護を受ける著作物に当たらない⇒X1社の著作権又はX2社の独占的利用権の侵害に基づく請求は、理由がない。
②被控訴人製品の形態が控訴人製品の商品等表示と類似のものに当たるとはいえない⇒不正競争防止法に基づく請求は理由がない。
③被控訴人製品の形態がこうs人製品の形態に類似するとは言えない⇒被控訴人製品の製造、販売が一般不法行為条違法であるとはいうことはできない。

X1社及びX2社の請求をいずれも棄却。 
 
<判断> 
控訴を棄却。
but
著作権法に基づく請求については、控訴人製品について、著作物性を認め、著作権法10条1項4号所定の「美術の著作物」に該当する旨判断したが、被控訴人製品は、控訴人製品の著作物性が認められる部分と類似しているとはいえないとして、請求を否定。

●著作権法10条1項4号所定の「美術の著作物」に該当するか否かが問題。
同法2条2項は「美術の著作物」には「美術工芸品を含むものとする。」と規定するが、「美術工芸品」は、主として鑑賞を目的とする工芸品を指す。
控訴人製品は該当しない。
 
実用品で控訴人製品が「美術の著作物」として著作権法上保護されるか?
著作権法の目的(同法1条)
表現物につき、実用に供されることを目的とすることをもって、直ちに著作物性を一律に否定することは、相当ではない

同法2条2項は、「美術の著作物」の例示規定にすぎず、例示に係る「美術工芸品」に該当しない応用美術であっても、同条1項1号所定の著作物性の要件を充たすものについては、「美術の著作物」として、同法上保護されるもの解すべき。 
 
ある表現物が「著作物」として著作権法上の保護を受けるためには、「思想または感情を創作的に表現したもの」であることを要し(同法2条1項1号)、「創作的に表現したもの」といえるためには、当該表現が、厳密な意味で独創性を有することまでは要しないものの、作成者の何らかの個性が発揮されたものでなければならない。

応用美術は・・・一律に適用すべきものとして、高い創作性の有無の判断基準を設定することは相当とはいえず個別具体的に、作成者の個性が発揮されているか否かを検討すべき。
 
<解説>
●「応用美術」の著作物性の有無の判断基準
A:区別説:応用美術の著作物性について通常の著作物とは異なる何らかの条件を課す

主として、意匠法とのすみ分けの観点から、応用美術が「工業上利用することができる意匠」(意匠法3条1項)として意匠法上の保護の対象となり得る点に着目し、意匠法と著作権法との調和を図る観点から、応用美術につき、「純粋美術と同視できるもの」、「実用的な機能を離れて見た場合に、美的鑑賞の対象となり得るような美的創作性を備えたもの」など、通常の著作物とは異なる要件を充たすものに限り、著作物性を肯定するという見解(通説)。

B:非区別説:そのような条件を課して応用美術の著作物性を制約することはしない。

応用美術の著作物性につき、鑑賞対象としての側面の分離可能性に着目し、量産品であり実用目的を有するものにつき、鑑賞対象部分を製品から分離して把握することができる場合は、当該部分を著作権として保護し、上記分離、把握ができない場合は、当該製品を著作権として保護しないという見解。
~区別説(A)の一種

知財高裁H26.8.28:
ファッションショーにおけるモデルの化粧等のスタイリング、衣装及びアクセサリーの選択、こーでひねーと、動作の振り付け等の著作物性の有無を判断したものについて、実用目的に必要な構成を分離して、美的鑑賞の対象ととなる美的特性を備えている部分を把握できるものについては、(純粋)美術の著作物と客観的に同一なものとみることができる⇒当該部分を著作物として保護すべきである旨の判断基準。

鑑賞対象としての側面の分離可能性に着目する上記見解に近い考え方。

最高裁H12.9.7:
タイプフェイスの著作物性につき
「印刷用書体がここにいう著作物に該当するというためには、それが従来の印刷用書体に比して顕著な特徴を有するといった独創性を備えることが必要であり、かつ、それ自体が美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えていなければならないと解するのが相当である」

その解説は「本判決は、応用美術の著作物性の議論にも影響を与える余地があろう。」と述べる。
 
●本判決は、非区別節の見解を採用し、「左右一対の部材Aの内側に床面と平行な溝が複数形成され、その溝に沿って部材G(座面)及び部材F(足置き台)をはめ込んで固定し、部材Aは床面から斜めに立ち上がっている」という形態に関して検討し、結果として、作成者である控訴人X1社代表者の個性が発揮されており、「創作的」な表現であるというべきである。
⇒控訴人作品の著作物性を肯定し、「美術の著作物」に該当する旨判断。 

応用美術の著作物性が肯定されるためには、実用的な機能を離れて見た場合に、それが美的鑑賞の対象となり得るような美的創作性を備えていることを要するとの主張。
vs.
明文の規定なく、応用美術に一律に適用すべきものとして「「美的」という観点からの高い創作性の判断基準を設定することは相当とはいえない

応用美術に広く著作物性を認めることによる著作権乱立等の弊害のおそれを指摘する主張
vs.
応用美術には、その実用目的又は産業上の利用目的にかなう一定の機能を発揮し得る表現でなければならないという制約が課される⇒著作物性が認められる余地が、応用美術以外の表現物に比して狭く、また、著作物性が認められても、その著作権保護の範囲は、比較的狭いものにとどまるのが通常。
 
●本判決は、応用美術の著作物性の要件につき、区別説に立つ現在の通説、裁判例の大勢とは異なり、非区別説を採用

判例時報2267

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