民事

2018年4月22日 (日)

訴訟費用の負担の額を定める処分を求める申立てがされる前に、裁判所が受救助者に猶予した費用につき当該相手方当事者に対して民訴法85条前段の費用の取立てをすることができる額を定める場合

最高裁H29.9.5      
 
<事案>
訴訟上の救助の決定を受けた受救助者との訴訟において受救助者に生じた費用の一部を負担することとされた相手方が、裁判所から民訴訟85条前段の費用の取立てとして受救助者に猶予した費用の一部を国庫に支払うことを求められている事案。 
 
<原審>
相手方に対し、猶予費用に相手方の訴訟費用の負担割合を乗じた額等を国庫に支払うべきものとした。 
⇒相手方が抗告許可申立てで、原審が許可
 
<判断>
訴訟費用のうち一定割合を受救助者(訴訟上の救助の決定を受けた者)の負担俊、その余を相手方当事者の負担とする旨の裁判が確定した後、
訴訟費用の負担の額を定める処分を求める申立てがされる前に、
裁判所が受救助者に猶予した費用につき当該相手方当事者に対して民訴法85条前段の費用の取立てをすることができる額を定める場合において、

当該相手方当事者が、訴え提起の手数料として少額とはいえない額の支出をした者の地位を承継し、受救助者の負担すべき費用との差額計算を求めることを明らかにしているなど判示の事情の下では、
当該相手方当事者に対し上記の差引計算を求める範囲を明らかにするよう求めることのないまま、上記の同条前段の費用の取立てをすることができる額につき、受救助者に猶予した費用に上記裁判で定められた当該相手方当事者の負担割合を乗じた額とすべきものとした原審の判断には、違法がある

原決定を取り消し、本件を原審に差し戻した。
 
<規定>
民訴訟 第83条(救助の効力等)
訴訟上の救助の決定は、その定めるところに従い、訴訟及び強制執行について、次に掲げる効力を有する。
一 裁判費用並びに執行官の手数料及びその職務の執行に要する費用の支払の猶予
二 裁判所において付添いを命じた弁護士の報酬及び費用の支払の猶予
三 訴訟費用の担保の免除
2 訴訟上の救助の決定は、これを受けた者のためにのみその効力を有する。
3 裁判所は、訴訟の承継人に対し、決定で、猶予した費用の支払を命ずる。

民訴法 第84条(救助の決定の取消し)
訴訟上の救助の決定を受けた者が第八十二条第一項本文に規定する要件を欠くことが判明し、又はこれを欠くに至ったときは、訴訟記録の存する裁判所は、利害関係人の申立てにより又は職権で、決定により、いつでも訴訟上の救助の決定を取り消し、猶予した費用の支払を命ずることができる。

民訴法 第85条(猶予された費用等の取立方法)
訴訟上の救助の決定を受けた者に支払を猶予した費用は、これを負担することとされた相手方から直接に取り立てることができる。この場合において、弁護士又は執行官は、報酬又は手数料及び費用について、訴訟上の救助の決定を受けた者に代わり、第七十一条第一項、第七十二条又は第七十三条第一項の申立て及び強制執行をすることができる。
 
<解説>
●制度の説明
訴訟上の救助の決定は、裁判費用の猶予等の効力を有する(民訴法83条1項)。
前記決定が民訴法84条による取消しにより又は当然にその効力を失う
⇒受救助者は、国庫に対し猶予費用を支払わなければならない(最高裁)。

本案における受救助者の全部又は一部勝訴判決の確定により、訴訟費用残部又は一部が相手方の負担とされることがあり(民訴法61条、64条)、そのときは、受救助者は、訴訟費用額確定処分(民訴法71条)を得た上で、訴訟費用請求権の行使として、相手方からその負担すべき費用を取り立てることになる
受救助者が相手方からその費用を取り立てたときには、実際に取り立てた限度で受救助者の資力が回復⇒民訴法84条により、その限度で訴訟上の救助決定を取り消すことが可能になる。

民訴法85条は、
本来、受救助者が、訴訟費用請求権の行使として相手方からその負担すべき費用を取り立てて、猶予費用を国庫に支払うべきであるところ、
受救助者において、その取立てをすることや取り立てた金員を猶予費用として国庫に支払うことを必ずしも期待できないため、国が相手方において負担すべき猶予費用を相手方から直接取り立てることができるようにしたもの。
民事訴訟費用等に関する法律16条2項、15条1項は、民訴法85条前段の規定による費用の取立てについて、第一審裁判所の決定により、強制執行をすることができると規定⇒同裁判所が前記の取立てをすることができる猶予費用の額を定める

前記の民訴法85条の趣旨⇒
同条前段の費用の取立てをすることができる猶予費用の額は、受救助者の相手方に対する訴訟費用請求権の額を超えることができない筋合いのものであり、

既に訴訟費用額確定処分が確定
しているのであれば、その費用額確定処分により定められた訴訟費用請求権の額を前提として、同条前段の費用の取立をすることができる猶予費用の額を定めることになるし、

訴訟費用額確定処分の申立てがされているのであれば、その手続を先行させることになる。

①訴訟費用額確定処分の手続きは、処分権主義が妥当し、その申立てがない限り、訴訟費用確定処分をすることができない
②当事者がその申立てをしないことがあり得る

訴訟費用額確定処分がされる前においても、裁判所は、民訴法85条前段の費用の取立てをすることができるものであると解されている。
両当事者がそれぞれ反対当事者の支出した訴訟費用を負担すべき場合においては、当事者の負担すべき費用につき訴訟費用額確定処分又は差引計算を求めるか否か及びその求める範囲がいずれも当事者の意思に委ねられている

①これらの点についての当事者の意思が明らかにならない限り、訴訟費用請求権の額を判断する上で考慮される当事者の負担すべき費用を定めることができない。
②当事者の意思は、訴訟費用確定処分を求める申立てがされる前においては明らかにならないのが通常

訴訟費用額確定処分がされる前においては、裁判所は、当事者が支出した訴訟費用に関する客観的な資料を有していたときであっても、通常は、訴訟費用請求権の額を正確に推認することは困難
 
●本決定 
訴訟費用のうち一定割合を受救助者の負担俊、その余を相手方の負担とする旨の裁判が確定した後、訴訟費用確定処分の申立てがされる前に、裁判所が民訴法85条前段の費用の取立をすることができる猶予費用の額を定める場合、
当該事案に係る事情を踏まえた合理的な裁量に基づいて相手方に対する猶予費用の取立決定の額を定めるほかない。

傍論ではあるが、訴訟費用請求権の額を判断する上で考慮される当事者の負担すべき費用を定めることが当事者の意思に委ねられている同条前段の費用の取立てをすることができる猶予費用の額を、猶予費用に相手方の訴訟費用の負担割合を乗じた額としても、直ちに前記の合理的な裁量の範囲を逸脱するものとはいえない
but
相手方が、訴え提起手数料として少額とはいえない額を支出した者の地位を承継し、受救助者の負担すべき費用との差額計算を求めることを明らかにしているなどの判示の事情

これらの事情の下では、相手方に対しその差引計算を求める範囲を明らかにすることを求めないまま、同条前段の費用の取立てをすることができる猶予費用の額を、猶予費用に相手方の訴訟費用の負担割合を乗じた額とすべきとした原決定の判断には違法がある。

判例時報2360

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2018年4月19日 (木)

宿泊施設の経営者と路上生活者との間の契約の、公序良俗違反、不法行為、不当利得(肯定)

さいたま地裁H29.3.1      
 
<事案>
X1、X2は、路上生活をしていた際、Y1の指示を受けて事業を手伝っていた者から、Y1ないしY2(Y1が代表取締役を務める会社)の経営する施設に入居するよう勧誘され、これに応じて施設での生活を始める傍ら、Y1の従業員の指示により福祉事務所に虚偽の説明をするなどして生活保護費を受給し始め、受領した生活保護費全額をY1に交付。 

X1、X2は、
①Y1の経営する施設における生活環境が劣悪であり、生存権や財産権、プライバシー権等の人権を侵害するものであると主張⇒Y1、Y2に対し、民法709条又は会社法429条1項に基づき、慰謝料の支払を求めるとともに、
②X2、X2とY1との間の施設利用契約が社会福祉法違反、公序良俗違反等により無効⇒Y1に対し、不当利得返還請求権に基づき、Y1がX1、X2から受領した生活保護費のうち現金交付分を控除した残額の返還を求め、
③X2は、Y1、Y2の経営する工場でY1、Y2の業務に従事した際、切断機で中指切断等の傷害を負ったことが使用者としての安全配慮義務違反に当たると主張⇒Y1、Y2に対し、債務不履行に基づく損害賠償を請求
 
<判断>
①X1、X2が入居した施設における生活環境は、居住空間の狭さやプライバシーに対する配慮不足、提供される食事や衣類の質・量等からして相当劣悪なものであり、Y1がX1、X2に提供したサービスの内容は、X1、X2に与えていた小遣いを含めても、X1、X2から受領した生活保護費等と比較して相当に低廉であったと考えられる
②Y1は、Y1の従業員を使って、X1、X2を勧誘し、X1、X2に虚偽の事実を福祉事務所に告げるよう指示して生活保護を受給させた上、X1、X2から生活保護費全額を受領し、これを他人名義の口座で管理してその一部をY1の私用に充てていたこと、
③Y1はX1、X2に対して生活保護基準に満たない劣悪なサービスを提供するのみであり、その差額を不当に収受していたこと

X1、X2とY1の施設利用契約は、生活保護法の趣旨や社会福祉法の趣旨に反するものとして公序良俗違反により無効であり、
Y1はX1、X2の最低限度の生活を営む利益を侵害したものとして、民法709条に基づく不法行為責任を負う。

X1、X2のY1に対する不法行為に基づく損害賠償請求を一部認容するとともに、X1、X2のY1に対する不当利得返還請求を認容ないし一部認容

X2のY1に対する安全配慮義務に基づく損害賠償請求も一部認容。

判例時報2359

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2018年4月18日 (水)

土地の所有者である個人に対して投資事業を勧誘し、取引を行った不動産業者につき、事業収支見込みに関する情報提供・説明義務違反に係る不法行為(肯定)

東京地裁H28.10.14      
 
<事案>
土地の所有者が不動産業者と賃貸建物の建築、管理委託を契約し、契約が履行されていた間に収益見込みに問題が生じた⇒不動産業者の情報提供・説明義務違反に係る不法行為の成否が問題。 
Xは、Yに対し、虚偽・不当な勧誘、説明義務違反を主張し、不法行為に基づき本件建物の建築等に要した金額と売却価格の差額1億8885万円、弁護士費用の一部115万円の損害賠償を請求。
 
<争点>
①虚偽・不当な勧誘、説明義務違反による不法行為の成否
②損害の発生
③因果関係の有無 
 
<判断> 
X・Yの属性、利益状況によれば、Yは、本件請負契約の勧誘、説明に際し、Xに対し、契約を締結するか否かにつき的確な判断ができるような正確な情報を提供し、適切な説明をすべき信義則上の義務がある。 
本件では、虚偽・不当な勧誘・説明に関する多くのXの主張は排斥。
but
修繕費に関する説明については、本件建物の大規模修繕が必要になるところ、Yの提案書等による説明は極めて過小であり、駐車場契約における負担が相当に軽度であることに鑑みると、Xが多額のローン債務を負担してまで本件賃貸事業を選択しなかった可能性が高い
修繕費を含む事業収支見込みについての前記義務違反に係る不法行為を肯定

Xの本件建物の売却によって損害を拡大させたとは認められない⇒因果関係を肯定した上、本件建物の建築等の費用と売却価格の差額1億8885万円の損害を認めた

本件賃貸事業による収益のうちローン返済分(1億602万3240円)を控除

他の収益(8561万7681円)の損益相殺は駐車場収入を得られなくなったものであり、全額を損益相殺することは公平の見地から相当ではない⇒一部(5583万3333円)の損益相殺を認め、弁護士費用115万円の損害を認めて(損害額合計5419万2412円)、請求を一部認容。

判例時報2359

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2018年4月17日 (火)

クラブの経営者にみかじめ料を支払わせた⇒暴力団組長の不法行為責任と最上位の指定暴力団の組長の使用者責任(肯定)

名古屋地裁H29.3.31      
 
<事案>
暴力団幹部がクラブの経営者に長期にわたってみかじめ料を支払わせた⇒経営者が暴力団幹部のほか、組長に対して損害賠償を請求。 
Xは、みかじめ料の支払要求が暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律31条の2に該当すると主張
Y2に対して不法行為に基づき、Y1に対して使用者責任等に基づき
みかじめ料合計1085万円、確定遅延損害金523万4718円、慰謝料500万円、弁護士費用相当の損害につき損害賠償等請求をした。
 
<争点>
①Y2の不法行為責任の成否・損害額
②Y1の使用者責任の成否・損害額
③Y2の不当利得の成否、民法708条の該当性等 
 
<判断>
①Xのクラブの開店、②Y2のみかじめ料の要求、③みかじめ料の減額要請、④みかじめ料の支払、⑤指定暴力団の条の金制度等の事実を認定

Y2のみかじめ料の徴収行為については、Xの意思決定の自由を奪い、Xの意思に反した財産処分を強制する行為であり、Xの意思決定の自由及び財産を侵害する行為

Y2の不法行為責任を肯定し、
みかじめ料合計1085万円、確定遅延損害金523万4718円、慰謝料150万円、弁護士費用120万円の損害を認めた。

Y1の使用者責任について、
Y1は、K組又はL会の下部組織の構成員を、直接間接の指揮の下、それらの威力を利用して資金獲得活動に係る事業に従事させていた等使用者と被用者の関係を認め
Y2が取得したみかじめ料はK組又はL会の威力を利用して資金獲得活動をすることの対価として、上納金制度を介してK組又はL会に支払われていた⇒Y1の業務の執行であったことを肯定

Y1の使用者責任を肯定し、請求を認容

判例時報2359

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2018年4月16日 (月)

区分所有建物が存在する土地の競売による分割請求が権利の濫用とされた事例

東京地裁H28.10.13      
 
<事案>
兄妹間の共有に係る土地(土地上に区分所有建物が存在する)について競売による分割請求⇒分割請求が権利の濫用に当たるかが問題となった事案。 

本件土地は、共同相続、遺言を経て、現在、兄Y1、Y2、妹Xの共有(Xが2分の1、Y1、Y2が各4分の1の持分)

本件土地上には、Xらの父Aが所有していた旧建物があったが、
Aの死亡を機に取り壊した後、昭和60年9月、
Xの夫B、Y1、Y2が3階建ての区分所有建物(各階ごとに区分建物となっている)を建築したうえで、
1階部分をB、2階部分をY2、3階部分をY1がそれぞれ区分所有し、
Bが本件土地につき土地所有権を有する旨及び本件各区分建物と本件土地を分離して処分できる旨の規約を設定。
その後、Bは平成25年6月、1階部分をXに贈与。
 
<争点>
①競売、代金分割による共有物分割の場合、本件建物も併せて売却できるか
②本件分割請求が権利の濫用に当たるか
③本件分割請求につき相当な分割方法は何か 
 
<判断>
争点①について否定

争点②について:
分割による本件建物に与える影響、本件分割請求の目的・必要性、本件土地の分割によるY1らの不利益に関する事情を認定
本件分割を認めることは本件建物の存立を不安定なものにし、各区分建物の所有者に不利益を与えるものであり、分割が認められないことによるXの不利益に比して、分割を認めることによるY1らの不利益が非常に大きい
権利の濫用として本件分割請求は許されない
⇒請求を棄却。 
 
<規定>
民法 第256条(共有物の分割請求)
各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし、五年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない。
2 前項ただし書の契約は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から五年を超えることができない。
 
<解説>
共有物の分割請求権については、分割の自由が原則であり、いつでも分割を請求することができ、長期の拘束を認めないのが民法256条の趣旨、内容

判例時報2359

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2018年4月15日 (日)

日本舞踊の流派の名取の地位にあることの確認を求めた訴え

東京高裁H28.12.16      
 
<事案>
Xは日本舞踊の流派の名取として活動していた者。
Y1は同流派の家元、Y2は家元及び名取等で構成される流派団体。 

Xは、Y1より、名取から除名する旨の処分を受けた⇒
Xは、本件除名処分が無効であると主張し、
Y1に対し、名取の地位にあることの確認及び除名処分を不法行為として損害賠償を求め、
Y2に対しては、Y2の会員の地位にあることの確認及びY2の総会への出席を拒否したことが不法行為に該当するとして損害賠償を求めるとともに、Y2の総会の理事選任等の決議の不存在の確認を求めた。
 
<原審>
Y1に対する名取の地位にあること及び
Y2に対する会員の地位にあることの確認請求
を認容
各不法行為に基づく損害賠償請求は棄却、
各決議の不存在確認請求は却下 
 
<争点>
本件除名処分が司法審査の対象となり、無効であるか? 
 
<判断> 
控訴棄却 
名取の地位を基礎とする権利利益は、舞踊の振り付けを上演するための権利や職業活動及び事業活動の基盤であり、Y2の総会における議決権を伴う会員資格の基盤⇒法的利益と評価できる
②本件除名処分が規則に基づいて行われたものであって、その効力の有無について、裁量権の範囲の逸脱又は濫用があったか否かという観点から判断できる法令の適用により終局的に解決できる

本件除名処分は司法審査の対象になる

①本件除名処分によって、Xは日本舞踊家としての活動が極めて大きく制限され、生計の基盤が奪われるなど著しく甚大な不利益を被るのに対し
本件除名処分に際し弁明の機会が付与されておらず、後継者の候補と目されていたXを排除する意図があったことを窺わせる事情が認められる
本件除名処分は無効。
 
<解説>
本件除名処分が司法審査の対象となったとして、それが違法となるかは、
全く事実の基礎を欠くか、又は社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用してされたと認められる場合」に限られる(最高裁H18.9.14)

本件は、本件除名処分に至る経緯などを総合的に判断し、社会通念上著しく妥当性を欠いたものとして、本件除名処分は無効であるとしたもの。 

判例時報2359

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2018年4月12日 (木)

民法941条1項の規定に基づく財産分離の可否

最高裁H29.11.28       
 
<事案>
被相続人Aの成年後見人であったXが、後見事務において立て替えた費用等につきAに対して債権を有するなどと主張し、民法941条1項に基づき、Aの相続人であるY及びBの財産からAの相続財産を分離する旨の家事審判を申し立てた。 
 
<規定>
民法 第941条(相続債権者又は受遺者の請求による財産分離)
相続債権者又は受遺者は、相続開始の時から三箇月以内に、相続人の財産の中から相続財産を分離することを家庭裁判所に請求することができる。相続財産が相続人の固有財産と混合しない間は、その期間の満了後も、同様とする。
2 家庭裁判所が前項の請求によって財産分離を命じたときは、その請求をした者は、五日以内に、他の相続債権者及び受遺者に対し、財産分離の命令があったこと及び一定の期間内に配当加入の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、二箇月を下ることができない。
3 前項の規定による公告は、官報に掲載してする。
 
<原審>
民法941条1項の財産分離について、相続人の固有財産が債務超過の状態にある場合又は近い将来において債務超過となるおそれがある場合に相続財産と相続人の固有財産の混合によって相続債権者等の債権回収に不利益をを生ずることを防止するための制度

家裁は同項の定める形式的要件が具備されていることに加えて、
前記の意味における財産分離の必要性が認められる場合にこれを命じることができる。

このような財産分離の必要性について審理することなく財産分離を命じた原々審判には審理不尽の違法がある。
   
Xが抗告許可の申立てをし、原審が抗告を許可。
 
<判断>
民法941条1項の規定する財産分離の制度は、相続財産と相続人の固有財産とが混同することによって相続債権者又は受遺者(「相続債権者等」)がその債券緒回収について不利益を被ることを防止するために、相続財産と相続人の固有財産とを分離して、相続債権者等が、相続財産について相続人の債権者に先だって弁済を受けることができるようにしたもの。

家庭裁判所は、相続人がその固有財産について債務超過の状態にあり又はそのような状態に陥るおそれがあることなどから、相続財産と相続人の固有財産とが混合することによって相続債権者等がその債権の全部又は一部の弁済を受けることが困難となるおそれがあると認められる場合に、民法941条1項の規定に基づき、財産分離を命ずることができるものと解するのが相当。 
 
<解説>
民法は、財産分離について、
①相続債権者等がイニシアティブをとるもの(民法941条~949条)(第1種財産分離)と
②相続人の固有の債権者がイニシアティブをとるもの(民法950条)(第2種財産分離)
を規定。 

第1種財産分離が命じられる⇒相続債権者等は、相続財産について、相続人の債権に先だって弁済を受けることができるが(民法942条)、相続財産をもって全部の弁済を受けることができなかった場合に、相続人の固有財産にも権利行使をすることができるものの、相続人の債権者に劣後する(民法948条)。

判例時報2359

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2018年4月 2日 (月)

再生債務者の無常行為の否認につて債務超過であることが必要か?(不要)

最高裁H29.11.16      
 
<事案>
㈱ユタカ電機製作所(A社)の民事再生手続において、上告人Xが再生債権として届出をした連帯保証債務履行請求権につき、再生管財人である被上告人Yがその連帯保証契約(本件連帯保証契約)に対し無償行為否認をし、その額を0円と査定
⇒Xがその変更を求める異議の事案。
 
<規定>
民再法 第127条(再生債権者を害する行為の否認) 
次に掲げる行為(担保の供与又は債務の消滅に関する行為を除く。)は、再生手続開始後、再生債務者財産のために否認することができる。

3 再生債務者が支払の停止等があった後又はその前六月以内にした無償行為及びこれと同視すべき有償行為は、再生手続開始後、再生債務者財産のために否認することができる。
 
<事実>
グラス・ワンホールディングス㈱(B社)は、平成26年4月、㈱トーヨーコーポレーション(C社)から、A社の株式の買収資金として13億円を借り受けた。
B社は、A社を買収後、A社から6億円を借り受けて一部弁済。

Xは、C社と代表者を共通とする関係会社であるが、
平成26年8月29日、C社からB社に対する貸金債権(元本残額役7億円)の譲渡を受け、A社との間で、A社が前記貸金債権に係るB社の債務を連帯して保証する旨の本件連帯保証契約を締結。

A社は、平成27年2月18日、再生手続開始の申立てをし、その後、再生手続開始決定。
Xが平成27年4月にA社に対する連帯保証債務履行請求権を再生債権として届け出た⇒Yは、XとA社との間の連帯保証契約につき無償行為否認をして、Xの届け出た再生債権を認めないとの認否。

Xが東京地裁に、再生債権につき査定の申立て
⇒同裁判所は平成27年10月、Yの無償行為否認の行使を認め、前記再生債権につき0円と査定する決定。
⇒Xが本件査定決定の変更を求めて本件訴えを提起
⇒一審、原審共に、本件査定決定を認可すべきものとした。
⇒Xが上告受理申立て。

<判断>
再生債務者が無償行為若しくはこれと同視すべき有償行為の時に債務超過であること又はその無償行為等により債務超過になることは、民再法127条3項に基づく否認権行使の要件ではないと判断し、
上告を棄却。

①民再法127条3項に再生債務者の債務超過等を否認権行使の要件とすることをうかがわせる文言がない
同項の趣旨が「その否認の対象である再生債務者の行為が対価の伴わないものであって再生債権者の利益を害する危険が特に顕著であるため、専ら行為の内容及び時期に着目して特殊な否認類型を認めたことにある」
 
<解説> 
●債務者の行為の効力を否認する否認権を発動するためには、その債務者の行為によって債権者を害する結果が生ずるだけではなく、更にその発動を正当化す根拠が必要。 
①その行為の時に、債務者の財務状況が破綻しており、その行為の相手方がそれを認識しているということを正当化根拠とする危機否認
②その行為の時に債務者が債権者を害する意図を持ち、その行為の相手方がそれを認識していることを正当化根拠とする故意否認
③その行為が無償性を有することを正当化根拠とする無償否認
という3類型。 
 
●再生手続において無償行為否認をするに当たり、再生債務者の資産状況の悪化を必要とするか?

A:必要説
←民再法127条1項又は2項の詐害行為否認をするに当たり再生債務者の資産状況の悪化を要するものと解されるところ、平成16年の一連の倒産法改正における民再法の改正により無償行為否認が詐害行為否認の一類型とされたという体系的な理解。

〇B:不要説

①無償行為否認については、前記一連の倒産法改正において、実質的な議論がほとんどされず、法文上も基本類型(民再法127条1項)と組み合わせて否認が基礎付けられる同条2項とは異なり、同条3項においては単独で否認が基礎付けられており、無償行為否認の行使要件につき実質的な改正がされなかったものとみるのが相当
改正前においては、否認の対象となり無償行為等の際の債務者の資力を問題とする必要性を採るものは見当たらず、これを問題としない不要説が通説。 

判例時報2357・2358

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2018年3月28日 (水)

東京電力福島第一原発事故福島訴訟(生業訴訟)

福島地裁H29.10.10    
 
■事案
全国各地で審理されている福島原発事故集団訴訟のうち、福島地裁で出された、通常「生業訴訟」の第一審判決。
福島第一原子力発電所の事故により、Xらの本件事故当時の居住地(旧居住地)が放射性物質により汚染されたとして、

Xら(死亡原告を除く)が、Yらに対し、
人格権又は
Y1(国)に対しては国賠法1条1項、
Y2(東電)に対しては民法709条
に基づき、
Xらの旧居住地における空間線量率を本件事故前の値である0.04マイクロシーベルト毎時如何にすることを求める(原状回復請求)
とともに、


Xらが、Yらに対し、
Y1に対しては国賠法1条1項、民法710条、
Y2に対しては、
主位的に民法709条、710条、
予備的に原子力損害の賠償に関する法律(原賠法)3条1項に基づき
各自、平成23年3月11日から旧居住地の空間線量率が0.04マイクロシーベルト毎時以下となるまで(承継原告については、死亡原告の死亡時まで)の間、
1か月5万円の割合による平穏生活権侵害による慰藉料、
1割相当の弁護士費用、
提訴時までの確定損害金に対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め(平穏生活権侵害)、


Xらのうち40名(死亡原告を含み、承継原告を含まない。)が、Yらに対し、前記二と同様の根拠法条に基づき、各自、「ふるさと喪失」による慰藉料として2000万円、1割相当の弁護士費用、これに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め(ふるさと喪失)た事案。

本判決:
原状回復請求に係る訴え及び将来請求に係る訴えを却下し、
Y1の規制権限不行使による国家賠償責任を認め、
Y2に対し、一般不法行為責任を否定したが原賠法上の責任を認め、
平穏生活権侵害に基づき、
Xらのうち2907名に対して総額4億9795万円(Y1に対しては2905名に対し総額2億5023万円)の支払を命じた。
 
■原状回復請求
● 請求不特定⇒却下。
なお書きで、実現可能性も欠けるとした。

● 一般に、結果発生を防止すべき作為の内容を特定することなく、一定の侵害の結果(一定値以上の騒音の到達など)を発生させることの禁止を求める抽象的不作為請求は適法とされている(大阪高裁H4.2.20、最高裁H7.7.7、最高裁H5.2.25)が、

本判決は、抽象的不作為請求が適法とされているからといって、除染等の作為を必要とする抽象的作為請求まで適法となるものではないとした。

本判決は、Xらの用語に従い「原状回復請求」と呼称しているが、仮に請求が特定され、人格権侵害が認められたとしても、妨害排除請求として認められるのは人格権の侵害が解消される程度までの低減であり、当然に本件事故前の空間線量率への「原状回復」が認められるものではない。

■将来請求
判断:口頭弁論終結の翌日以降に発生する精神的損害の賠償を求める訴えは、将来請求としての適格性を満たしておらず、不適法
 
■国の責任
規制権限不行使の違法性の判断枠組み 
判断:
判例の枠組みに沿い、
国の規制権限不行使の違法性の判断枠組みにつき、
その権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、
具体的事情の下において、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠く
と認められるときは
国賠法1条1項の適用上違法となる。

「著しく合理性を欠く」とは、
裁量権の逸脱、濫用が認められる(当不当の問題にとどまらない)という趣旨であって、
行政庁の違法を著しい違法とそこまでに至らない違法とに区別して、後者について行政庁の責任を問わないという趣旨ではない。

●規制権限 
Y1:電気事業法(平成14年法律第65号による改正前のもの)40条に基づく技術基準適合命令は基本設計に及ばず、Xらの主張する津波対策は、いずれも基本設計に関する事項⇒詳細設計についての規制である技術基準適合命令により是正させることはできなかったと主張。

判断:
経済産業大臣は、原子炉施設が技術基準に適合しないと認められる場合には技術基準適合命令を発することが可能であり、基本設計の変更に及び得ないという制約があったとは認められない

●予見可能性 
本判決:
文科省自身調査研究推進本部自身調査委員会が平成14年7月31日に作成・公表した「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価について」(長期評価)⇒福島第一原発1~4号機敷地高さを超える津波の到来についての予見可能性を肯定
 
●回避可能性 
判断:
Y1が、平成14年7月31日に「長期評価」が公表された後、「長期評価」に基づくシミュレーションを行うのに必要な合理的期間が経過した後である平成14年12月31日頃までに、Y2に対し、非常用電源設備を技術基準に適合させるよう行政指導を行い、Y2がこれに応じない場合には、技術基準適合命令を発する規制権限を行使していれば、Y2は、
①非常用電源設備の設置されたタービン建屋等の水密化及び
②重要機器室の水密化
を実施し、
平成14年末から8年以上後である平成23年3月11日に本件津波が到来するまでに対策工事は完了していたであろうと認められ、そうしていれは本件事故は回避可能であった
回避可能性を肯定

前橋判決も肯定。

千葉判決
(1)本件事故前の知見を前提に津波対策を施す場合には防潮堤を作るというのが工学的見地から妥当な発想であり、
Xらの主張する
①タービン建屋の水密化、
②非常用電源設備等の重要機器の水密化、
③給気口の高所配置及びシュノーケル設置、
④外部の可搬式電源車(交流電源車・直流電源車)の配備
等の結果回避措置を採るべきとはいえない、
(2)防潮堤の建設には、許認可、建設期間等として長い年月を要する⇒本件事故までに工事が完了するとも認められない、
(3)前記①ないし④の結果回避措置を採っていたとしても、本件地震・本件津波は「長期評価」から予見される地震・津波と全く規模が異なるもの⇒本件事故の結果回避につながっとはは必ずしもいえない

回避可能性を否定
 
●違法性(規制権限不行使の著しい不合理性)
判断:
Y1は、津波安全性を欠いた福島第一原発に対する規制権限を、規制権限の行使が可能であった平成14年末から8年以上の間、全く行使していなかった
②この規制権限の不行使は、電気事業法の趣旨、目的、技術基準適合命令の性質等に照らし、本件の具体的事情の下において、許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠いていたと認めるのが相当

違法性(規制権限不行使の著しい不合理性)を肯定

前橋判決も肯定。

千葉判決:
①確立された科学的知見に基づき、精度及び確度が十分に信頼することができる試算が出されたのであれば、設計津波として考慮し、直ちにこれに対する対策がとられるべきであるが、
②規制行政庁や原子力事業者が投資できる資金や人材等は有限であり、際限なく想定し得るリスクの全てに資源を費やすことは現実には不可能であり、かつ、緊急性の低いリスクに対する対策に注力した結果、緊急性の高いリスクに対する対策が後手に回るといった危険性もある
⇒予見可能性の程度が上記の程度ほどに高いものでないのであれば、当該知見を踏まえた今後の結果回避措置の内容、時期等については、規制行政庁の専門的判断に委ねられる。
③「長期評価」の精度・確度は必ずしも高いものではなかった

経済産業大臣において、長期評価における知見を前提とする津波のリスクに対する何らかの規制措置を必要と判断した場合にも、即時に着手すべきとはいえない。

Xらが主張する平成18年までに、様々採り得る規制措置・手段のうち、本件事故後と同様の規制措置を講ずべき作為義務が一義的に導かれるとはいえず、その精度・確度を高め、対策の必要性や緊急性を確認するため、更に専門家に検討を委託するなどして対応を検討することもやむを得ない。


そのような予見可能性の程度及び地震対策の必要性に関する当時の知見に照らせば、平成18年時点で、耐震バックチェックを最優先課題とし、その中で津波対策についても検討を求めることとしたY1の規制判断は、リスクに応じた規制の観点から、著しく合理性を欠くと評価される状況にはなかった、として違法性を否定。

◎ 本判決~
平成14年末から本件事故まで8年以上規制権限を行使していなかった点に触れているが、これはY1の主張に応答したものにすぎず、
平成14年末から8年以上経った本件事故直前の時点に至って初めて規制権限不行使が違法となるという趣旨ではなく、平成14年末の時点における規制権限不行使が、その後の事情を考慮しても著しく不合理であるとして違法性を肯定
立法不作為の違法性については、立法措置が必要不可欠であることが明白であるにもかかわらず国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合に初めて違法となるとされるのに対し、
国の行政機関の規制権限不行使の違法性については、予見可能性が認められる時点における規制権限不行使が著しく不合理と認められるか否かを判断するのが一般的であり、
相当期間が経過して初めて規制権限不行使が違法となるような枠組みは採られていない。

千葉判決:
①「確立された科学的知見に基づき、精度及び確度が十分に信頼することができる」知見に対する結果回避義務と、
②「予見可能性の程度が上記の程度ほどに高いものでない」知見に対する結果回避義務とを区別し、
②の場合には資金や人材の有限性といった工学的判断を考慮できるとし、「長期評価」は後者の知見であるから、Y1の判断は著しく不合理とはいえないとした。

前橋判決や本判決:
「長期評価」は、結果回避義務を導くのに十分な予見可能性を示す知見であるとしていた。

一般に、河川の管理については、道路その他の営造物の管理とは異なる特質及びそれに基づく財政的、技術的及び社会的諸制約が存在⇒これらの諸制約を踏まえて設置又は管理の瑕疵について判断
but
このような財政的制約の考慮は、道路の設置又は管理の瑕疵に適用されるものではなく、国賠法1条の違法性の考慮要素となるものでもないとされている。
 
●相互の保証 
韓国籍、中国籍、フィリピン籍、ウクライナ籍のXについて、
いずれの国籍国との間でも相互保証(国賠法6条)を認めた

国賠法 第6条〔相互保証〕
この法律は、外国人が被害者である場合には、相互の保証があるときに限り、これを適用する。
 
●国の責任の範囲 
判断:
Y1の責任は原子力事業者であるY2を監督する第二次的なものY1の賠償額はY2の賠償額の2分の1にとどまる。

前橋判決:
Y1の責任が補充的なものとはいえない⇒Y2の賠償額と同額

国の規制権限不行使の違法性が認められる場合でも、国の責任の範囲は、第一次的な責任を負う原因企業の責任の一部(原因企業が相被告となっていない場合には、全損害の一部)にとどまるとされることが多い
 
■原子力事業者の責任
原賠法は原子力損害の賠償に関し民法709条の一般不法行為の適用を排除している

一般不法行為の適用に基づくXらの主位的請求を排斥し、原賠法3条に基づく予備的請求を認容。
 
■損害 
●被侵害法益 

①月額5万円の平穏生活権侵害慰謝料と
②2000万円のふるさと喪失慰謝料が請求。

判断:
①の被侵害利益について
人は、その選択した生活の本拠において平穏な生活を営む権利を有し、
社会通念上受忍すべき限度を超えた大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音、振動、地盤沈下、悪臭によってその平穏な生活を妨げられない利益を有している


ここで故なく妨げられない平穏な生活には、生活の本拠において生まれ、育ち、職業を選択して生業を営み、家族、生活環境、地域コミュニティとの関わりにおいて人格を形成し、幸福を追求してゆくという、人の全人格的な生活が広く含まれる

放射性物質による居住地の汚染が社会通念上受忍すべき限度を超えた平穏生活権侵害となるか否かは、侵害行為の態様、侵害の程度、被侵害利益の性質と内容、侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか、侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況、その間に採られた被害の防止に関する措置の有無及びその内容、効果等の諸般の事情を総合的に考慮して判断すべき。
 
◎前橋判決:
平穏生活権は、自己実現に向けた自己決定権を中核とした人格権であり、
①放射線被曝への恐怖不安にさらされない利益
②人格発達権
③居住移転の自由及び職業選択の自由並びに
④内心の静穏な感情を害されない利益
を包摂する権利。
いったん侵害されると、元通りに復元することのできない性質のもの。
 
◎千葉判決:
避難生活に伴う慰謝料につき、避難指示等により避難等をよぎなくされた者は、住み慣れた生活の本拠からの退去を余儀なくされ、長期間にわたり生活の本拠への帰還を禁止される

居住・移転の自由を侵害されるほか、
生活の本拠及びその周辺の地域コミュニティにおける日常生活の中で人格を発展、形成しつつ、平穏な生活を送る利益を侵害されたということができ、
このような利益は、憲法13条、憲法22条1項等に照らし、原賠法においても保護される。 
 
◎以前:具体的な健康被害がなければ慰謝料が認められない傾向
その後、主観的な不快感や不安感を超える生活妨害については賠償の対象となることが認められるようになり、

水戸地裁土浦支部H23.3.28は、
20年以上にわたり環境基準を超える大気汚染、水質汚濁にさらされ、具体的な健康被害はないが健康被害に対する不安を抱いていたXらに対し、各200万円の慰謝料を認めた。 

最高裁H22.6.29は、棄却事例であるが、
本件葬儀場の営業が、社会生活上受忍すべき程度を超えて被上告人の平穏に日常生活を送るという利益を侵害しているということはできない。」と判示し、平穏生活権が不法行為法上の被侵害利益となり得ることを認める。
 
●帰還困難区域 
◎前橋判決、千葉判決:
Xごとに損害を認定し、Y2からの既払額を控除して損害を認定。

◎ 本件は3800名を超えるX

個別に損害及び既払額を認定することはせず、避難指示区分ごとに損害を算定し、
「中間指針(四次にわたる追補を含む。)及びY2の自主賠償規準(合わせて「中間指針等」による賠償額)」を訴訟物から除外し、
「中間指針等による賠償額」を超える損害があるか否かを審理、判断。
 
帰還困難区域旧居住者に対しては、
自主賠償規準により、
150万円の日常生活阻害慰謝料
600万円の包括慰謝料
700万円の帰還困難慰謝料(総額1450万円)
が支払われているところ、
中間指針第四次追補及び自主賠償規準の解釈

うち1000万円は「ふるさと喪失」慰謝料に、90万円は生活費増額分に対応し、平穏生活権侵害に対応する「中間指針等による賠償額」は平成26年2月分まで月額10万円の36か月分360万円であるとした上で、
平穏生活権侵害慰謝料として平成26年4月までの月額10万円の38か月分380万円(「中間指針等による賠償額」を超える慰謝料は20万円)を認めた。
 
◎前橋判決:
居住制限区域旧居住者15名、避難指示解除準備区域旧居住者27名の慰謝料は既払い額を超えない。
居住制限区域旧居住者1名の慰謝料は300万円⇒既払額105万円を控除した195万円に弁護士費用を加えた金額を認容。 

●居住制限区域・避難指示解除準備区域 
●旧特定避難勧奨地点・旧緊急時避難準備区域 
●旧一時避難要請区域・旧屋内退避区域 
●自主的避難等対象区域 
●県南地域・宮崎県丸森町 
●区域外 
●ふるさと喪失慰謝料 
■総括

判例時報2356

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2018年3月25日 (日)

電子マネーサービスを提供する事業者の注意義務(不法行為を肯定)

東京高裁H29.1.18      
 
<事案>
Xは、
Y1が提供する携帯電話に電子マネーを記録して使用するこのできるサービスを利用し、
Y2発行のクレジットカードを利用して電子マネーを購入。
携帯電話を紛失
⇒紛失の翌日に携帯電話会社に連絡して携帯電話の通信サービスの利用停止を申し込んだ。
but
その翌日から約2か月の間に合計151回にわたり、購入金額合計291万9000円の電子マネーが使用されていたことが発覚
⇒Xは、発覚の日の翌日にY1に依頼して電子マネーサービスの利用停止を措置を採った。
その後Xは、クレジットカードの利用代金の請求を受取、Y2に対し、同額を支払った。
 
<請求>
主位的請求:
携帯電話の利用停止がされていた⇒Xには同額の支払義務はなく、それにもかかわらずYがそれぞれ支払を受けたことについては法律上の原因がない⇒不当利得返還請求権に基づく支払を求める。

予備的請求:
Yらにはクレジットカードが不正利用されることを防止する注意義務があるのに、それに反した⇒共同不法行為に基づく損害賠償請求。 
 
<原審>
●主位的請求
第三者による不正使用によるものであったとしても、Xが支払義務を負う⇒不当利得返還請求は理由がない。
 
●予備的請求 
Y1に対する請求:
Xにおいては、利用者として、携帯電話、電子マネー及びクレジットカードの運営会社が別個のものであることを当然に理解し、携帯電話の利用が停止されることによって電子マネーサービスも利用停止されると考えることが合理的であるとはいえない。

Y2に対する請求:
Y2においては、利用明細書を送付して注意喚起を図り、不正使用による損害を防止する義務を尽くした。
⇒全部棄却。 
 
<判断>
●主位的請求
①本件電子マネーのチャージがX本人による申込みと取扱うことができる
②Y2には利得が現存しない
⇒法律上の原因がないと認めることはできない。
 
●予備的請求 
◎Y2(クレジットカード会社)に対するものは原審を引用して棄却。

◎Y1の注意義務:
Y1には本件サービスの不正使用を防止するため採るべき措置について適切に約款等で規定し、これを周知する注意義務がある。

①Y1においては、本件サービスが携帯電話の通信サービスの利用停止がされても利用することができたことを認識していた
②携帯電話は通信サービスを利用することを前提としており、これに新たな機能の追加等をするものであるとの認識が一般的⇒通信サービスの利用停止をすれば、本件サービスは利用されないと考える者が現れ得ることを想定するのに困難ではない。

Y1は、
①利用者が携帯電話を紛失した場合に、Y1への通知その他の何らかの手続を必須とすることについて、ホームページ、会員規約や利用約款に記載しておらず、
②通信サービスの利用停止によって、電子マネーの新たなチャージを防止することができるとの認識が誤りであることを示唆する記載もしていなかった
Y1には注意義務違反がある

Y1の責任免除の主張:
会員規約及び利用規約によれば、故意又は重過失の場合に限り責任を負うとされている
but
この規定は軽過失による責任を全部免除するもので消費者契約法8条1項3号に該当し、無効。

過失相殺の主張:
Xが、Yらに対応を求めるより前に不正利用が明らかな利用明細書の送付を受けている⇒より早くこれを確認していれば、被害の拡大を防止することができた⇒3割の過失相殺。
 
<規定> 
消費者契約法 第8条(事業者の損害賠償の責任を免除する条項の無効)
次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。

三 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する民法の規定による責任の全部を免除する条項
 
<解説>
本判決:
事業者において
利用者が採るべき措置について、適切に規定することはもとより、
周知する注意義務がある。
 
平成29年法律第44号による改正民法における定型約款では、利用者への周知がより一層重要な意味を持つ⇒事業者はこの点からも、各種の措置について周知することが求められる。 

判例時報2356

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