民事

2020年3月30日 (月)

特別縁故者に対する相続財産の分与の事案

大阪高裁H31.2.15    
 
<事案>
A:先代から家業(酒類等の販売)を引き継ぎ、Bの雇用主であった者
任意後見受任者。
C(相続財産管理人)が保管するBの相続財産(預金)は約4120万円
 
<規定>
民法 第958条の3(特別縁故者に対する相続財産の分与)
前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
2 前項の請求は、第九百五十八条の期間の満了後三箇月以内にしなければならない。
 
<原審>
Aは、Bと生計を同じくし、Bを直接療養看護したとはいえないが、身寄りのないBの入院手続をする、預貯金の収支を管理する、定期的に見舞う、Bの任意後見受任者となるなど、その生活全般を継続的に支援してきた
Bとの間に特別の縁故関係があった。 

Aは、
①Bの入院や施設入所以降、約15年にわたりその生活支援をしてきたこと、
➁身寄りのないBにとってその支援は精神的な支えであること
等一切の事情

800万円を分与するのが相当。
 
<抗告審>
①平成12年末(Bが70歳)まで約28年もの間雇用を続けた
②Bの知的能力が十分でなかったとに、高齢になるまで稼働能力に見合う以上の給料を支給し続けた
③Bの稼働能力とAによるBの雇用の実態に照らすなら、AからBに給料名目で支給された金額には、Bの労働に対する対価に止まらず、それを超えたAによる好意的な援助の部分が少なからず含まれる
④Bが4000万円いじょうもの相続財産を形成し、これを維持できたのは、Aによる約28年間に及ぶBの稼働能力を超えた経済的援助と、その後、Bの死亡までの約16年間にわたる財産管理が続けられたことによるもの⇒Aによる約44年間もの長年にわたる経済的援助等によって形成された部分が少なからず含まれる

Bの相続財産の相応の部分がAによる経済的援助を原資としていることに加え、
Bの死亡前後を通じてのAの貢献の期間、程度

Aは、Bの親兄弟にも匹敵するほどBを経済的に支えた上、その安定した生活と死後縁故に尽くしたといえる。
これら縁故の期間や程度のほか相続財産の形成過程や金額など一切の事情を考慮
分与すべき金額は2000万円とするのが相当
 
<解説>
民法は相当性の判断基準について何も規定していないが、一般的には、
縁故関係の内容、厚薄、程度、特別縁故者の性別、年齢、職業、教育程度、残存すべき相続財産の種類、数額、状況、所在その他一切の事情を考慮し、これを斟酌して決められる。 

本件:
AはBとは親族関係になく、生計を一にしたり、直接療養看護を尽くした者ではないが、Bの知的能力が十分でなかったのに、高齢になるまでBを雇用し、その稼働能力に見合う以上の給料を支給し続けた点に重きが置かれた
判例時報2431

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2020年3月29日 (日)

貸金の主体が争われた事案

東京高裁H30.4.18    
 
<事案>
Xが、Yに対し、貸金3000万円及びこれに対する遅延損害金の返還を求めた事案。 
 
<原審>
①本件契約書を受領した時期に関するXの供述に曖昧な点がある
②Xが借主をA社とする契約書に対して特に異議を述べていなかった

契約当日、A社の押印ある契約書原本及び読み上げ用の本件契約書の作成・交付があったというべきであり、Xは、Yとの間で、本件3000万円をA社に貸し付けることを合意したと認めるのが相当。
⇒Xの請求を棄却。
 
<判断> 
● Yは、契約当時、額面3000万円の自子宛小切手の交付と引換えに、本件貸付けにかかる契約書(本件契約書と同じ体裁で借主であるA社の押印がある原本)を交付したと主張
vs.
Yの供述(特に本件契約書に押印がない理由について不自然な供述)は明らかに変遷しており、不自然であって信用できない。
Yの前記主張に沿う内容のA社の従業員らの陳述・供述
vs.
他の証拠から認められる事実関係と明らかに矛盾し、到底信用できない。
 
以下の事情を総合すれば、本件3000万円の借主がY個人であったことが優に認められる

①Yは、Xから交付された額面3000万円の自己宛小切手を、契約翌日に取り立て、Y個人名義の口座(Yは、従前取引のない金融機関において、前記口座を同日開設した。)に入金⇒特段の事情のない限り、Y個人の取引とみるのが自然。
(Yは、A社名義の口座開設に必要な書類等を持参していなかったため、便宜的にY個人名義の口座を開設・入金したと弁明したが、取引経過に照らして不自然であるとして排斥された。 )
②A社が本件3000万円をB社に貸し付けたとは認められない。
③Y(代理人弁護士)は、契約締結から約5年9か月後、Xに対し、本件3000万円の支払債務を負担していないとする内容証明郵便を送付。
butその理由は、もっぱら本件3000万円が「投資」であったとする点に尽きており、行為(出資の受入れないし借主)の主体がY個人ではなくA社である旨の主張は一切していない。
④契約締結時を含む3期分のA社の各決算報告書にはXからの本件3000万円の借入金が計上されていなかったところ、Xから請求書が送付されたのを契機に、決算報告書に計上。
 
<解説>
契約前の事情(貸主と借主の人的関係、借入の経緯・目的等)、
契約時の事情(契約書その他の書面の有無・内容、契約締結時の状況等)
契約後の事情(資金の移動・利用の状況、返済・催促の状況、法人の場合の決算処理等)
等の考慮要素を総合して契約当事者を認定。 

判例時報2431

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真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

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2020年3月19日 (木)

民法910条(相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権)に基づき支払われるべき価額の算定の基礎となる遺産の価額

最高裁R1.8.27    
 
<事案>
被相続人が死亡し、その法定相続人であった配偶者及び長男が被相続人について遺産分割協議を成立⇒認知の訴えに係る判決の確定によって被相続人の子として認知された原告が、長男を被告として民法910条に基づく価額支払請求⇒同条に基づき支払われるべき価額の算定の基礎となる遺産の価額について、積極財産の価額から消極財産の価額を控除すべきか否かが争われた
 
<規定> 
第910条(相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権)
相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。
 
<判断>
相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既に当該遺産の分割をしていたときは、
民法910条に基づき支払われるべき価額の算定の基礎となる遺産の価額は、当該分割の対象とされた積極財産の価額である。 
 
<解説>
民法910条に基づき支払われるべき価額の算定の基礎となる遺産の価額につき積極財産の価額から消極財産の価額を控除すべきか?
A:控除説
←認知によっても庶子は共同相続人となるものではなく、相続債務を承継しない。
(910条の立法経緯にも整合)

〇B:非控除説
~相続債務の負担は同条の支払債務とは別個に考慮すべき問題

民法910条の立法経緯:
遺産の分割後に真の相続人が見付かったときは遺産の分割をやり直すことになるところ、私生児の場合だけは区別して良いのではないかということで、価額の償還になった。
vs.
私生児は認知によっても共同相続人とならないというような考え方は、嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を区別する合理的な根拠は失われている旨の判示をした最高裁H25.9.4に照らしても採用し難い。

判例:可分債務について、法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じてこれを承継するものと解すべき。
実務においても、相続債務は遺産の分割の対象から除外されている。

相続債務が遺産分割の対象とならず、遺産の分割が積極財産のみを対象とするもの遺産の分割のやり直しに代えて被認知者のために価額支払請求を認めた民法910条の支払価額の算定においても、積極財産のみを基礎とするのが当事者間の衡平の観点から相当

非控除説⇒
認知によって相続債務の負担に変更を生ずる。
but
認知の時点において既に相続債務の弁済を受けていた債権者の利益は、認知の遡及効の制限(民法784条ただし書)や債権の準占有者に対する弁済(民法478条)等の規定により保護される。

既に相続債務が弁済⇒被認知者が弁済をした共同相続人に対して不当利得返還債務を負うことがあり得、当該共同相続人が民法910条の支払請求の相手方であれば、相殺によって処理することが考えられる。

(本件でも、原審ににおいて、被告からこのような相殺の抗弁が予備的に主張され、その一部が認められている。)
判例時報2430

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2020年3月12日 (木)

経皮吸収型麻酔性鎮痛剤オピオイドパッチの取りやめについて、過誤や説明義務違反が問題となった事案

那覇地裁H31.4.16    
 
<事案>
Xが、Y2医師は、Aの生前、三叉神経痛による激痛に苦しむAに対して本件パッチの使用を継続する義務、及び本件パッチの使用を取りやめる際には、A及び家族であるXに対してその理由を説明して同意を得る義務を負っていたにもかかわらず、Y2医師がこれらの義務に違反して本件パッチの使用を取りやめたことから、Aは死亡する直前まで耐え難い身体的、精神的苦痛を被った⇒
Y2医師に対しては不法行為責任に基づき、Y1に対しては使用者責任又は診療契約上の債務不履行責任に基づき、連帯して1000万円及び遅延損害金の支払を求めた。 
 
<判断> 
●本件措置に際してのY2医師の本件パッチの処方継続義務の有無。
~Y2医師が本件パッチの処方を取りやめた本件措置の判断が合理的であったか否か。
本件措置の判断は、医師として合理的で適正なもの

①本件措置時点において、本件パッチの使用がAに対する投与の目的に沿う効果を上げているか自体定かでない
②副作用も疑われる状況にあった
③当時、本件パッチの使用継続期間は2か月を超え、依存性のあるオピオイドの漫然とした継続使用を避けるという観点からも、本件パッチを離脱させることには合理的な理由がある。
 
●本件措置に際してのY2の説明義務違反の有無 
説明義務違反を否定

①A及びXに対して本件措置の方針が説明されなかった理由は、ひとえに、生命維持を優先すべき危篤状態にあったAの症状に対処するために緊急を要して、当時はそれを行うだけの時間的余裕がなかった
②その後も少なくとも本件面談時までその説明がされなかったのは、平成26年3月下旬にAの左顔面痛が頻発するようになるまでは、Aの疼痛症状も比較的落ち着いていて、Aが本件パッチを貼っていないことについて、AやXからも疑問を呈される機会がなかった。

Xの主張:一般に医師は、患者において自己決定権を行使するため、患者からインフォームド・コンセントを得ることが要求されており、Y2医師は、本件措置に先だって、A及びその家族に対して本件パッチの使用を取りやめる理由や激痛再発時の対処方法、代替措置の有無等を十分に説明した上で、中止の同意を得る義務を負っていた。
vs.
本件パッチは麻薬・劇薬であり、患者はその使用を選択する自己決定権は存在しないその行使のために、Y2医師には、本件措置に先立って、本件措置の理由を説明する義務を負っていたということはできない。


請求棄却。
 
<解説> 
本件と類似した裁判例:
がんが再発し骨等に転移して死亡した事案で、疼痛の治療のために放射線治療を行わなかったことについて、「医師には放射線治療を行うべき義務に違反した過失があり、そのため、患者は放射線治療による除痛の効果を得ることができず、より大きな苦痛を受けた」⇒慰謝料100万円を認めた(京都地裁)。

末期的な乳がん患者に対する血管造影検査について、担当医師に治療上の注意義務違反がないとされた事例(横浜地裁)
判例時報2429

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2020年3月11日 (水)

旅行会社の情報収集・提供義務違反が認められた事案

大阪地裁H31.3.26    
 
<事案>
原告らが、旅行出発前の被告従業員の情報収集・提供が不十分であったために解除の機会を逸した⇒被告に対し、使用者責任又は債務不履行に基づく損害賠償として、出発前に解除していれば返金されていたはずの代金相当額、慰謝料及び弁護士費用の支払を求めた。 
 
<判断>
●旅行会社の情報収集・提供義務(一般的義務) 
募集型企画旅行契約に適用される旅行業約款では、
①旅行の安全かつ円滑な実施が不可能か不可能となるおそれが極めて大きい場合には取消料なしで解除できる
②そうでない場合も旅行者が所定の手数料を支払うことで解除できる
とされている。

①このような約款内容を含む旅行契約の趣旨・内容
②旅行者にとって、旅行の安全かつ円滑な実施の可否に関わる情報は、旅行に参加するか解除するかに関わる基本的かつ不可欠の情報
③旅行会社は専門業者として高い情報収集力を有するのが通常であり、旅行者からもそのように期待されているという旅行会社の地位・能力

旅行会社は旅行者に対し、旅行契約に附随する義務として、これらの情報を適時適切に収集し提供する義務を負う
 
●本件における情報収集・提供義務(具体的義務) 
①旅行の「円滑」な遂行に関する情報について、旅程を円滑に実施するには旅程に不可欠な国道318号線の交通規制に関する情報は重要
②それが地震の翌日(出発3日前)には西蔵自治区人民政府のホームページに掲載されていて、その収集が可能かつ容易であった
⇒その収集・提供を怠った被告には前記義務違反がある。

被告主張:
①前記交通規制は、西蔵自治区人民政府のホームページに掲載されたのみで、他の機関や現地旅行会社もそれを把握していなかった、
②前記交通規制は臨時機関から発せられ、通常の規制発出とは異なるものであった、
③地震発生から旅行出発まで3日半しかなかった
⇒被告が前記情報を認識し得なかったとしてもやむを得ない。
vs.
大規模地震発生後の緊急事態下では、通常とは異なる事態が生じ得ることも念頭において慎重に情報収集すべきところ、
被告を含む旅行会社が旅行の「安全」のみならず「円滑」な実施の観点も重視して交通規制の有無に関する情報を収集していれば、西蔵自治区人民政府のホームページに掲載された前記情報を、旅行出発までの3日半の間に認識・収集することは困難ではなかった
被告の主張を排斥
 
●因果関係 
原告らの出発前の情報収集に係る態度、出発後の行動など

前記情報提供がされていれば、原告らが取消料を支払って解除権を行使した高度の蓋然性がある
被告の義務違反と解除権不行使の間の因果関係を肯定
 
●損害 
旅行代金から取消料(半額)を控除した残額、慰謝料各2万円、弁護士費用各3万円の損害を認め、支払を命じた。
 
<解説>
少額ながら慰謝料及び弁護士費用の損害賠償を肯定。 

弁護士費用について
判例:
債務不履行に基づく損害賠償においては原則として損害に含まれないとしつつ、
労働者が使用者に対し安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償を請求する場合、
その主張立証すべき事実が不法行為に基づく損害賠償請求の場合とほとんど変わらず、弁護士に委任しなければ十分な訴訟活動をすることが困難な類型に属する請求権
弁護士費用の請求を肯定

本件:
最判の趣旨を踏まえ、
①本件で認容されたのは債務不履行に基づく損害賠償請求権であるが、本件では自己決定権侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権とする法律構成も可能であった、
②本件のような情報収集・提供義務違反に基づく損害賠償請求権を行使する訴訟は、原告らが具体的な義務内容を特定し、義務違反に該当する事実を主張立証する責任を負う⇒弁護士に委任しなければ十分な訴訟活動をするのが困難な訴訟類型に属する

弁護士費用の損害賠償を肯定。
判例時報2429

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2020年3月10日 (火)

HBe抗原陰性慢性肝炎の発症による損害賠償請求権に係る民法724条後段所定の除斥期間の起算点が問題となった事案

福岡高裁H31.4.15    
 
<事案>
B型肝炎の患者であるX1、X2(被控訴人)が、乳幼児期にY(国)が実施した集団ツベルクリン反応検査又は集団予防接種を受けた際、注射器(針又は筒)の連続使用によってB型肝炎ウイルス(HBV)に持続感染し、成人になって慢性肝炎を発症⇒Yに対し、HBe抗原セロコンバージョン後(同抗原陰性後)に発生した損害について、国賠法1条1項に基づき、X1においては1375万円、X2においては1300万円(いずれも包括一律請求としての損害金1250万円と弁護士費用)の賠償及び遅延損害金の支払を求めた事案。
 
<原審>
Xらは、過去にB型慢性肝炎(HBe抗原陽性慢性肝炎)を発症した後、非活動性キャリアとなっていたところ、再び肝炎(HBe抗原陰性慢性肝炎)を発症

XらのB型慢性肝炎の発症及び再燃に至る経緯等並びにB型慢性肝炎の特質及び実態(病態の進行やその態様)に照らせば、Xらは、HBe抗原陰性慢性肝炎の発症時に、先行するHBe抗原陰性慢性肝炎による損害とは質的に異なる新たな損害を被り、前記発症時にHBe抗原陰性慢性肝炎の発症に係る損害賠償請求権が成立

HBe抗原陰性慢性肝炎発症による損害賠償請求権に係る除斥期間の起算点は、HBe抗原陰性慢性肝炎の発症時であり、除斥期間は経過していない。
XらのHBe抗原陰性慢性肝炎の発症前後の状況並びに同肝炎の特質及び実態等⇒包括一律請求には合理性及び相当性がある
⇒請求を全部認容。
 
<判断>
HBe抗原セロコンバージョン後のHBe抗原陰性の慢性肝炎は、先に発症したHBe抗原陽性の慢性肝炎に比して、より進んだ病期にあったもので、例外的な症状ということができるが、
HBe抗原陰性の慢性肝炎が、HBe抗原セロコンバージョン前のHBe抗原陽性の慢性肝炎と質的に異なり、その罹患によって新たな損害が発生したということはできない

HBe抗原陰性慢性肝炎の発症による損害賠償請求権に係る民法724条後段所定の除斥期間の起算点は、HBe抗原セロコンバージョン前のHBe抗原陽性慢性肝炎を発症したとき

原判決を取り消し、Xらの請求をいずれも棄却。
 
<解説>
民法724条後段所定の除斥期間:
不法行為により発生する損害の性質⇒加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合には、当該損害の全部又は一部が発生した時から進行
乳幼児期に受けた集団予防接種等によってHBVに感染し、B型肝炎を発症したことによる損害については、B型肝炎を発症した時が除斥期間の起算点
(最高裁) 

判例時報2429

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2020年3月 7日 (土)

親権喪失審判が認められた事案

大阪高裁R1.5.27  
  
<事案>
親権者父B(昭和38年)は、平成20年にDと婚姻し、未成年者C(平成21年生)が生まれた。
Cは、平成22年にBDの申出で乳児院に入所、平成23年に入所措置は解除され、BD夫婦の下に引き渡された。
Dは、平成23年、Bの飲酒、暴力から逃れてZに避難、Cが児童養護施設に入所することに同意⇒Cは施設で生活。
Bは、平成25年、Cの親権者をBと定めて、Dと協議離婚。、

Cが施設に入所以降、Bの犯罪履歴:
①強制わいせつで実刑判決
②公然わいせつで実刑判決
③暴行事件で迷惑防止条例違反で実刑判決。
④暴行事件で、原審決当時は未決勾留中。
その他、交際中の女性に対する障害罪や、窃盗罪。
その他事情。

児童相談所長Aは、Bによる親権の行使は著しく不適当で、Bによる養育では、養育環境が悪化し、Cの健全な成長発達が阻害され、子の利益を著しく害する⇒親権喪失審判を申し立てた。
 
<規定>
民法 第834条(親権喪失の審判) 
父又は母による虐待又は悪意の遺棄があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、親権喪失の審判をすることができる。ただし、二年以内にその原因が消滅する見込みがあるときは、この限りでない
 
<原審>
Bからの不当な引渡要求に対しては、児福法に基づく施設への入所措置等により対応できるし、面会通信や接近は児童虐待防止法により禁止できる

Bの親権を喪失・停止させる必要があるのは、これら各措置によってはCの保護を図ることができない特段の事情がある場合に限られる。 
Bには、民法834条所定の事由(親権喪失事由)が認められない⇒却下。
 
<判断>
原審のような限定的な解釈をせず、Bには民法834条所定の親権喪失事由がある⇒原審判を取り消し、Bの親権喪失を認めた
・・・・Bには、Cの養育、監護の実績がほとんどない上、アルコール依存の程度が高く、暴力傾向も強く、その親権の行使の方法において適切を欠く程度が著しく高い。
Bに親権を行使させることは、親権者の適格性の観点からも、Cの健全な成育のために著しく不適当

Bの前記の状況は、Aのこれまでの指導をもってしていも、2年程度では改善を望めず、2年以内にBの親権を喪失させるべき原因が消滅するとも考えられない

 
<解説>
平成23年民法等改正⇒新たに親権停止制度が創設(民法834条の2)。 
民法834条も改正されたが、その趣旨は規定の明確化にあり、これにより親権喪失の原因が実質的に変更されるものではないとされている。

「親権の行使が著しく困難である」
精神的又は身体的故障等により適切な親権の行使が不可能であるか又はこれに近い状態にあること

「親権の行使が著しく不適当である」
子を虐待し、又は通常未成年の子の養育に必要な措置をほとんどとっていないなど、親権行使の方法が適切を欠く程度が高い場合であることや、父又は母に親権の行使をさせることが子の健全な成育等のために著しく不適当であることを意味する。
判例時報2429

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2020年3月 4日 (水)

医師の脳腫瘍の疑いとの記載の見落とし⇒後医の脳腫瘍摘出術後の後遺症残存との因果関係(肯定)

福岡地裁R1.6.21      
 
<事案>
Xは、Yが設置、運営する大学病(A病院)の心療内科を平成18年に受診し、頭部CT検査を受けた⇒中枢性神経細胞腫(脳腫瘍の一種)等が疑われる旨の記載⇒A病院の心療内科の医師はこれを見落とし、脳腫瘍に対する治療は行われなかった⇒平成23年11月に症状が悪化し、同年12月にA病院を受診し頭部CT検査等を受けた結果、水頭症を合併した中枢性神経細胞腫と診断⇒Zが開設、運営する脳神経外科病院(Q病院)で平成24年1月に脳腫瘍摘出術、同月のうちに再度水頭症と診断されシャント術⇒記銘力障害を中心とする認知機能障害や運動感覚機能障害等の後遺障害
XはYに対し、債務不履行又は不法行為(使用者責任)に基づき、逸失利益、後遺障害慰謝料等相当の損害賠償を請求。 
 
<反論>
Y:Xの記銘力障害は、Q病院での手術の際の執刀医の過失によって脳弓等が損傷したことが原因で、本件過失と後遺障害との因果関係等を争った 
 
<判断>
●鑑定結果等⇒
認知機能障害の原因として考えられるのは、放置された脳腫瘍、脳腫瘍によって発症した水頭症、Q医師での手術の合併症及びQ医師での手術の合併症として継続した水頭症。
①本件過失がなければ、Xは、定期的な経過観察により早期に脳腫瘍の増大を発見して腫瘍摘出術を受けることができた
②本件過失により腫瘍が大幅に増大するまで放置された結果として、手術の危険性が格段に高くなり、術後の水頭症のリスクが高まった

本件過失がなければ後遺障害の発生を防止できた蓋然性が高い
因果関係を肯定

●Yの反論
vs.
①Q医院での手術の際にXの脳弓が損傷されたと断定することはできない
②Q委員での手術の際に執刀医の過失があったと断定することできない
仮に執刀医の過失によってQ医院での手術の際にXの脳弓が損傷されていたとしても、本件過失によってXの脳腫瘍が大幅に増大するまで放置され、手術が困難になるとともに、合併症等のリスクが大幅に増大した

本件過失と後遺障害との因果関係は否定されない
 
<解説>
本判決:
不作為による医師の過失と後遺障害との因果関係について、本件過失がなければ後遺障害の発生を防止できた蓋然性が高いといえるかを検討⇒因果関係を肯定。
仮に後医の過失が認められ、これが後遺障害の発生に寄与しているとしても、前医の過失と結果との因果関係は否定されない
⇒前医に損害全体についての賠償義務を認めた。 

前医と後医の医療行為の過失が競合する場合に、後医の過失があることを根拠に前医の過失と結果との因果関係が否定されるかについて、因果関係が否定されないとした裁判例。①②
前医と後医の両方に説明義務違反がある場合に、自己決定権侵害により慰謝料全体について、両者が不真正連帯責任ないし連帯責任を負うことを認めた裁判例。③④
複数の医療機関が独立して癌でない患者に対して癌告知をした場合に、各医療機関に寄与度に応じた分割責任を負担された裁判例。⑤
異なる医療機関における医療行為は、それぞれの医療機関に属する医師の判断と責任により行われるもの⇒原則として、前医が後医の医療行為により生じた医療過誤の責任を問われることはなく、後医が前医の医療行為により生じた医療過誤の責任を問われることもないと指摘。

因果関係を肯定した①②の裁判例では、
前医の過失が後医の過失の誘因となったこと
前医の過失と後医の過失との関連性が検討

本判決:A病院の医師らの過失が手術の危険性を増大させてQ医院の執刀医の過失を生じやすい状況を作出したことを、重要な考慮要素の1つとしていると見ることができる。
判例時報2428

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2020年3月 3日 (火)

弁護士費用特約での免責条項の「労働災害」の意味

大阪地裁R1.5.23    
 
<事案>
勤務先からの徒歩での帰宅途中に交通事故⇒加害者に対する損害賠償請求を弁護士に委任⇒弁護士費用特約に基づき、被告(保険会社)に弁護士費用保険金の支払を請求
but
「労働災害により生じた身体の障害」に該当する被害を被ることによって生じた損害に対して、弁護士費用保険金を支払わないという免責条項を理由に支払拒否 
 
<争点>
免責条項の「労働災害」には労災法にいう「業務災害」のみならず「通勤災害」も含むか。 
 
<判断>
免責条項はいわゆる約款⇒その解釈は一律の基準に従い、平均的な顧客の合理的な理解可能性を前提とするべき
②免責条項の文言上の解釈、労災法の文言に照らした解釈、労安法の文言に照らした解釈等を踏まえて、「労働災害」に「通勤災害」も含むという解釈は合理的なもので、顧客に不測の不利益を与えるものではない

「労働災害」には「通勤災害」も含む

判例時報2428

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
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2020年3月 1日 (日)

再保険のFS条項とFFEQ条項の関係

東京地裁H31.1.25    
 
<事案>
平成23年3月11日の東日本大震災⇒日産自動車栃木工場で火災⇒第6溶融鋳鉄保持炉が損壊。
原告元受保険者が、日産自動車との元受保険契約で支払った損害保険金について、再保険契約を結んでいた被告再保険者に対して、再保険金の支払を求めた。

本件の元受保険契約には、地震による損害を免責危険とする条項があるが、他方で、地震に引き続いて発生した火災及びその結果として発生した損失に対する保険担保は特別に提供されるとの条項(FFEQ条項)があった。
第6溶融鋳鉄保持炉が損壊した損失について、
被告再保険者:地震により発生した損失で保険の担保外
原告元受保険者:地震に引き続いて発生した火災の結果発生した損失⇒FFEQ条項により特別に保険で担保されるとして、保険金を支払う決定。
本件再保険契約には、再保険の約款として、follow the settlement(FS)条項があり
この再保険は、・・・元受保険者が行った一切の保険金支払額の決定に従う。・・・但し、保険金支払義務がないことを知りながら行う支払い及び保険金支払い義務があることを認めずに行う支払いは除く。」との文言。
(1)原告元受保険者:FS条項の存在を援用し、元受保険契約及び再保険契約の締結のほか、保険金の支払の事実を請求原因事実として主張。
(2)被告再保険者:FS条項の但書の事実、「原告が保険金支払義務がないことを知りながら、あるいは、義務があることを認めずに支払った」との抗弁事実を主張。
(3)原告元受保険者:再抗弁として、FFEQ条項に該当することを主張。
  
<判断>
上記(2)の判断を留保して、先に、(3)の再抗弁について判断
この事案が、地震に引き続いて発生した火災及びその結果として発生した損失に対する保険担保は特別に提供されるとの条項(FFEQ条項)に該当するとの契約異解釈を示し、その上で、原告元受保険者が保険金の支払義務がないことを知って支払ったという抗弁事実に該当する事実はないと判断。
⇒原告元受保険者の請求を認容。
 
<解説>
●この事案のように 、保険約款(FFEQ条項)の適用が、微妙である事案で、元受保険会社の判断が優先されるとするのでは、再保険会社の法的立場は守られない。

裁判所は、中立の立場に立って、FFEQ条項の適用について判断して、それを、FS適用除外の有無の判断基準とした。

●再保険金の請求原因事実は、
①元受保険契約の保険約款の適用上その損害が保険の填補範囲に該当し保険免責の対象外であり、かつ、
②再保険規約の保険約款の適用上その損害が再保険の填補範囲に該当し保険免責の対象外であること

再保険の支払を求める原告側が、すべて主張し、かつ、立証する責任がある。
but
再保険の約款としてFS条項⇒原告側は、当該FS条項の存在と、保険金支払の事実を請求原因として主張すれば足り、その損害が元受保険の填補範囲に該当し、保険免責の対象外であることの主張立証責任を負わずに済む。
vs.
元受保険契約の保険約款の適用上、その損害が保険の填補範囲に該当し、保険免責の対象外であるのかどうか、微妙な判断が必要とされる事案で、元受保険者が、保険金を支払ったという形式的な事柄で物事が決定⇒元受保険者が、保険の填補範囲に該当し、保険免責の対象外であるかどうかについて、厳密な調査及び判断をすることを怠り、相手からの見返りを期待するなど商業的な思惑から、保険金を支払う弊害。

本件の裁判所が、中立の立場に立って、FFEQ条項の適用について判断して、それを、FS適用除外の有無の判断基準とした。
判例時報2428

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