民事

2018年2月22日 (木)

勤務先会社が指定するウィークリー・マンションのテレビ受信機付き居室に入居し、NHKの受診料支払⇒不当利得を返還請求(否定)

東京高裁H29.5.31      
 
<事案>
Xは、不動産会社Aが賃貸する家具家電付き賃貸物件(いわゆるウイークリー・マンション)に入居し、Y(NHK)との間で放送の受信契約を締結して受信料を支払った。
 
<争点>
Xが「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者」(放送法64条1項)に該当するか。 
 
<判断>
●放送法64条1項にいう「協会の放送を受診することのできる受信装置を設置した者」は放送法固有の概念

その意義を解釈するに当たっては、同項の文言だけでなく、その立法趣旨も併せて考慮することが可能であり、かつ適切。

その趣旨:
①Yが公共的言論報道機関であり、その使命を果たすためには財産的基礎を確保することが必要不可欠
②税収に委ねた場合には番組編集に国の影響が及ぶことが避けられず、他方、広告収入に委ねた場合には広告主の影響が及ぶことが避けられない

特殊な負担金である受信料制度を採用して国民に直接費用負担を求める趣旨に出たもの。
このような同項の文言及び趣旨

「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者」とは、受信設備を物理的に設置した者だけでなく、その者から権利の譲渡を受けたり承諾を得たりして、受信設備を占有しようして放送を受信することができる状態にある者も含まれる。

●Xは、
放送法64条3項により総務大臣の認可を受けた放送受信規約2条3項の「独立して住居もしくは生計を維持する単身者」に該当し、
本件物件を住居として居住し、唯一の居住者であったもの。

Xは、
所有者又はAによって設置されたテレビジョン受信機付きの本件物件を、Aから借りたBの指定を受けて、これを占有使用して、Yの放送を受信し得る状況を享受する者

設置者の承諾を得て受信設備を占有使用して放送を受信することができる状態にある者であり、「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者」(放送法64条1項)に該当する。


不当利得は成立しない。 
 
<解説> 
放送法64条1項の効力について
A:NHKとの間で放送受信契約の強制的締結を否定する見解
B(裁判例):受信契約締結義務(強制的締結)を肯定
b1:申込み到達後2週間で契約が成立
b2:承諾の意思表示を命ずる判決により契約が成立

判例時報2354

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2018年2月19日 (月)

議会運営委員会の市議会議員に対する厳重注意処分とその公表と名誉毀損による国賠請求(肯定)

名古屋高裁H29.9.14      
 
<事案>
Y(名張市)の市議会議員で教育民生委員会に属するXが、同委員会において計画された視察旅行の必要性に疑問を感じてその実施に反対意見を述べ、欠席願を提出して、同視察旅行を欠席
⇒議会運営委員会がXに対して厳重注意処分をし、議長が同処分を公表

Xは、同処分とその公表によって名誉を毀損された⇒国賠法1条1項に基づき、Yに対して、慰謝料500万円の支払を求めた、。 
 
<規定>
裁判所法  第3条(裁判所の権限)
裁判所は、日本国憲法に特別の定のある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判し、その他法律において特に定める権限を有する。
 
<判断>
●議会の議員に対する措置が、一般市民法秩序において保障されている権利利益を侵害する場合明白な法令違反がある場合は、議会の内部規律の問題にとどまるものとはいえない
⇒当該措置に関する紛争は、裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」にあたると解するのが相当。 

Xの本件請求は、
外形的な請求内容だけでなく、紛争の実態に照らしても、一般市民法秩序において保障されている移動の自由や思想信条の自由と直接の関係を有するといえ、かつ、
その手続には明白な法令違反があると主張されている

本件請求は、裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」にあたり、司法審査の対象となる。

●本件処分の通知書の記載内容全体
⇒XがY市議会議員として行うべき法的義務のある公務を怠ったものと断定し、厳重注意しなければXが議員としての責務を全うしえない人物と評価・判断し、懲罰類似の処分に出されたことを示すものといえる。
⇒Xの議員としての社会的評価の低下をもたらすものとみとめられる。 

議長の多数の新聞記者に対する前記処分の公表は、Xの社会的評価を低下させる事実を伝播する可能性があり、かつ、多数の新聞報道により実際に伝播した⇒Xの社会的評価が低下した。

Xに対する名誉毀損の成立を認め、原判決を取り消し、Yに対して50万円の慰謝料の支払を求める限度で、請求認容
 
<解説>
裁判所法3条1項の「法律上jの争訟」とは、
法主体者間の具体的権利義務に関する争いであって、法令の適用により終局的に解決しうべきものをいう(最高裁昭和29.2.11)。

最高裁昭和52.3.15:
特殊な部分社会である大学における法律上の争訟のすべてが当然に裁判所の司法審査の対象になるものではなく、
一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題は、司法審査の対象から除かれるべきものである。

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2018年2月 5日 (月)

保険金等請求訴訟で火災事故が保険契約者の故意によるもので免責されるとされた事例

福島地裁いわき支部H28.10.27      
 
<事案>
XとY1の間の火災共済契約等並びにXとY2との間の火災保険契約の目的物である建物及びその内部の家財が火災により焼失
⇒XがYらに対し、これらの契約に基づく共済金及び保険金を請求。 
 
<争点>
各契約に係る約款のいわゆる故意免責条項が、本件火災に適用されるか? 
 
<判断>
●消防署の判定結果(仏壇から出火)と私的鑑定(仏壇に隣接する押入れ内部からの出火)を詳細に検討し
前者については火災現場の客観的状況につき誤認があるため、出火場所の判定が誤っている疑いがある
⇒後者の信用性が前者にそれに上回る
⇒通常火のない押入れ内部からの出火である可能性が高く、本件火災が放火によるものであることが強く疑われる客観的状況にある。


経済的に困窮していたXが合理的必要性のない保険契約を締結した翌日に、いずれの主張を前提としても通常は火の気のない部屋にたまたま発生した火気が原因で本件火災が生じ
Xが建物所有者でないのに建物が係る火災保険金を請求したという一連の事実経過

本件火災がXの保険金目的の放火によるものであることに対する相応に強い推認力

同時期にXが保険金取得目的で入院⇒Xの保険金の不正取得の意図を認めた。

Xが保険金詐取の目的で本件火災を故意に惹起したことが強く推認できるとして、消極方向の間接事実を排斥して、故意免責を認めた。
 
<解説>
火災保険契約に基づく保険金請求事件におけるいわゆる故意免責の立証責任は、保険者が負う。 

保険者が直接証拠を入手することは困難⇒複数の間接事実を組み合わせた立証によるほかない場合が多い。
(1)火災原因が放火であることを推認させる間接事実:
①出火場所
②出火態様
③出火時刻
④失火等の原因となる他の火源の有無
⑤助燃剤の有無


(2)放火に対する保健金請求者の関与を推認させる間接事実:
①第三者の出火場所への侵入可能性
②被保険者等の動機・属性を示す事情
③被保険者等の火災発生前後の言動
④保険契約締結に関する事情等

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2018年2月 4日 (日)

部活中の負傷による後遺症障害⇒顧問の安全配慮義務違反(肯定)

大阪地裁H29.2.15      
 
<事案>
Yの設置運営するB高校(「本件高校」)の日本拳法部の新入部員であったX1が、同部の練習中に、後頭蓋窩急性硬膜下血腫等を負った
⇒X1及びその両親が、同部の顧問であり、Yの被用者であったAには本件事故を未然に防止すべき指導上の注意義務があったのにこれを怠ったと主張し損害賠償請求 
 
<判断>
●本件事故の態様(争点①)
本件事故当時、一緒に活動していた部員の供述や対戦相手の供述
⇒対戦相手が、X1が蹴り上げた左足をつかみ、X1の右足を払ったことから、X1が点灯し、本件事故に至った。
 
●顧問Aの安全配慮義務違反の有無(争点②) 
初心者と上級者と対戦させるに当たっては、上級者に対し、蹴り足をつかみ、他方の足を払うなどといった危険な技をかけないように指導するとともに、X1とその対戦相手との動向に注視し、できる限りそばに付き添って指導し、X1が対戦相手から危険な技をかけられそうになった場合には、対戦相手に対し、当該技をかけるのを止めるように指導する安全配慮義務があったのにこれを怠った。
   
Yは、X1に対し、158万円余、
父親であるX2に対し30万円
母親であるX3に対し61万円余
を支払うよう命じた。
 
<解説>
顧問(教師)の安全配慮義務について、
担当教諭(顧問)は、練習によって生ずるおそれのある危険から生徒を保護するために常に安全面に十分な配慮をし、できる限り生徒の安全に関わる事故の危険性を具体的に予見し、その予見に基づいて事故の発生を未然に防止する措置を執り、クラブ活動(部活動)中の生徒を保護すべき注意義務を負っている。 

判例時報2352

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2018年2月 3日 (土)

公正証書遺言の方式違背等(肯定)

東京高裁H27.8.27      
 
<事案>
共同相続人であるXらが、共同相続人であるYらに対して、被相続人Aによる公正証書遺言には方式違背がある等として、公正証書遺言の無効の確認を求めるともに、
公正証書遺言に基づきされた被相続人A所有の不動産に係る登記の更正又は抹消の登記や手続を求め、
あわせて公正証書遺言の前に作成された自筆証書遺言についても、遺言意思がなかったとして無効確認を求めた事案。 
 
<判断>
●公正証書遺言
①被相続人Aは、公証役場訪問前には高度の意識障害によりコミュニケーションが困難な状態になることがあり、公証役場訪問後には救急外来を受診し意識障害を生じ、肝性昏睡と診断されるなど、被相続人Aの意識状態や身体状態には一定の変動があり、具体的な応答をし得る程度の意識状態や身体状態にあったとみるには相当の疑義が存する
②被相続人Aは公証人に対し、「Y1に全部。」、「Y2にも。」と述べる以外は何も言わず、証人Bらもこれらの発言以外は見聞きしていなかった
but公証人の作成した遺言案には、Y1に10分の5、Y2及びXらに各10分の1とするもので、公証人が被相続人Aの意思を忖度、整理し、内容を補充して作成したと考えられる。
公証人が遺言案を読み上げて内容の確認をしたところ、被相続人Aは頷くのみで何ら具体的発言をすることはなかった

遺言者の遺言の趣旨を理解できるように口授したものとは認められない

●自筆証書遺言 
①被相続人Aは、自筆証書遺言の作成を試みて、何枚か作成したものの、いずれもうまく書けず、Y1が4か所に訂正印を押さなければならないような不出来なものであった。
②被相続人Aは、作成したものを持ち帰らず、また作成に立ち会ったAの兄嫁であるBに保管等を託すこともしなかった
Bから遺言書として通らないと言われて公正証書遺言を作成することを勧められ公証役場を訪問して本件公正証書遺言を作成している。

公正証書遺言の作成を勧められた時点で本件自筆証書遺言をもって遺言書とする意思を失っていた本件自筆証書遺言は遺言意思がなく無効
 
<規定> 
民法 第969条(公正証書遺言)
公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 証人二人以上の立会いがあること。
二 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
三 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
四 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
五 公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。

民法 第969条の2(公正証書遺言の方式の特則)
口がきけない者が公正証書によって遺言をする場合には、遺言者は、公証人及び証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述し、又は自書して、前条第二号の口授に代えなければならない。この場合における同条第三号の規定の適用については、同号中「口述」とあるのは、「通訳人の通訳による申述又は自書」とする。
2 前条の遺言者又は証人が耳が聞こえない者である場合には、公証人は、同条第三号に規定する筆記した内容を通訳人の通訳により遺言者又は証人に伝えて、同号の読み聞かせに代えることができる。
3 公証人は、前二項に定める方式に従って公正証書を作ったときは、その旨をその証書に付記しなければならない。
 
<解説> 
民法969条2号の趣旨について、遺言書の財産を誰に対してどのように処分するかといった遺言の具体的な内容を遺言の趣旨として、公証人に対して自らの言葉で語ることを必要とするということ。

言葉によらない表示は口授とはいえない

首を振る程度の返事をした場合や肯定又は否定の挙動を示したにすぎない場合に口授があったとはいえない(最高裁)。

自筆証書遺言のために複数書き直しがされ、結局持ち帰りも保管等を託すこともしていないのは、このとき作成されたものを最終意思とすることをしなかったということができる。⇒遺言意思を認めなかった判断は相当

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2018年1月25日 (木)

自立援助ホームで生活している高校性の就職手続に親権者が協力を拒む⇒親権停止の審判前の保全処分(肯定)

広島家裁H28.11.21      
 
<事案>
児童相談所長は、B(父)について親権停止の審判を求めるとともに、同審判が効力を生じるまでの間、親権者Bの未成年者に対する職務の停止及び職務代行者の選任を求める審判前の保全処分を申し立てた。 
 
<規定>
民法 第834条の2(親権停止の審判)
父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、親権停止の審判をすることができる
2 家庭裁判所は、親権停止の審判をするときは、その原因が消滅するまでに要すると見込まれる期間、子の心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して、二年を超えない範囲内で、親権を停止する期間を定める。

児童福祉法 第33条の7〔親権停止・喪失の請求等と児童相談所長〕
児童又は児童以外の満二十歳に満たない者(以下「児童等」という。)の親権者に係る民法第八百三十四条本文、第八百三十四条の二第一項、第八百三十五条又は第八百三十六条の規定による親権喪失、親権停止若しくは管理権喪失の審判の請求又はこれらの審判の取消しの請求は、これらの規定に定める者のほか、児童相談所長も、これを行うことができる。

家事手続法  第174条(親権喪失、親権停止又は管理権喪失の審判事件を本案とする保全処分)
家庭裁判所(第百五条第二項の場合にあっては、高等裁判所。以下この条及び次条において同じ。)は、親権喪失、親権停止又は管理権喪失の申立てがあった場合において、子の利益のため必要があると認めるときは、当該申立てをした者の申立てにより、親権喪失、親権停止又は管理権喪失の申立てについての審判が効力を生ずるまでの間、親権者の職務の執行を停止し、又はその職務代行者を選任することができる。
 
<判断>
Bが、激しい暴力を振るった上、その後の合理的な理由もなく未成年者との一切の関わりを拒否して就職に必要な手続への協力等も拒んでいる
本案審判認容の蓋然性あり 

パスポートの取得等に当たっては親権者の同意が必要で、就職先の会社から指定された取得期限が迫っていることや、その他の就職に関する手続も翌年4月までの約4か月以内に行う必要がある
保全の必要性もある

⇒申立てを認容。

判例時報2351

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2018年1月22日 (月)

自殺防止のために口腔内にタオル挿入⇒窒息死⇒国賠請求(肯定)

静岡地裁H29.2.2      
 
<事案>
亡Aの両親であるXらが、
警察官が亡Aの自殺防止のために口腔内に挿入したタオルにより気道が閉塞され、亡Aが死亡したとして、
警察官については、気道の確保に配慮した必要最小限度の措置を執るべき義務、亡Aを観察する義務、亡Aを救護する義務、救急隊員と相互に連携すべき義務に、
救急隊員については、亡Aを観察する義務、亡Aを救護する義務、警察官と相互に連携すべき義務に
それぞれ違反した

警察官が所属する愛知県警察を管理運営するY1(愛知県)及び
救急隊員が所属する瀬戸市消防本部を管理運営するY2(瀬戸市)に対し、
国賠法1条1項及び民法719条1項に基づき、
損害賠償の連帯支払を求めた事案。 
 
<争点>
①警察官及び救急隊員の注意義務違反緒有無
②注意義務違反行為と亡Aの死亡との因果関係の有無
③過失相殺の可否及び過失割合 
 
<判断>
●争点①について 

Xらは、タオルの挿入態様について、Xらは、事件後に瀬戸市消防本部が主催し、警察官も参加して行われた再現において、救急隊員が再現した亡Aの口腔内から取り出されたタオルの形状(捻じれて下に向かった錐体状になっており、上部は押しつぶされた釘の頭のように錐体の底面より少し広がった形状をしていた。)を根拠に、警察官が口腔内にタオルを深く捻じり入れたと主張。

Y1は、タオルをかませた際、タオルのほとんどの部分が亡Aの口から出ている状態であり、口腔内に深く挿入した事実はないと主張し、また、前記再現においては、タオルの形状について警察官の記憶と異なる際限がされた部分があり、異議を申し入れたが聞き入れられなかったと主張。

◎警察官の注意義務違反について
①警察官及び救急隊員が認識している事実関係を明確にするという前記再現の目的
②前記再現に同席した医師の証言等

前記再現において警察官の記憶と異なる再現がされた部分があったとのY1の主張を排斥。

タオルのほとんどの部分が亡Aの口腔内から出ていたとのY1の主張は、前記再現と矛盾しており、本件当時の状況に照らしても不自然である。
救急隊員の証言等

警察官がタオルを深く挿入し、それを押さえ続けたことが推認される

警察官に咬舌防止のための必要最小限度の措置を執る義務の違反があった

◎救急隊員の注意義務違反について 
救急隊員の証言等

救急隊員が亡Aの口腔内の奥深くまでタオルが挿入されていたことを認識し得た

亡Aの意識、呼吸、循環に障害が見られないかどうかを観察するに際し、タオルが気道を閉塞するおそれがあることを踏まえてより慎重に観察すべきである

目がうつろな様子で半開きの状態であった等の亡Aの様子を現認した救急隊員について、口からタオルを取り出すなどして救護すべき義務の違反等があった

●争点②について 
◎Y:亡Aには自傷行為により大量出血が見られ、亡Aの心停止は急性の精神的ストレスによる心疾患によるものである可能性が高い⇒タオルの挿入行為と亡Aの死亡との因果関係を争った。

①事件当日に作成された現場の写真撮影報告書に血痕等を確認できる写真はない
②救急隊員は大量出血を確認していない

亡Aの出血量はそれほど多いものではなく、出血が原因となって心停止に至ったとの高度の蓋然性を肯定することはできない

①急性の精神的ストレスが心疾患を引き起こして心停止に至る可能性が皆無でないことは否定できないとしつつも、心停止に至る事例は極めて少ない
②亡Aの司法解剖の結果では、心臓を含めた臓器等に脳循環不全の原因となるべき傷病を指摘できないとの意見が述べられている

精神的ストレスが原因となって心停止に至ったとの高度の蓋然性を肯定することはできない


①タオルの挿入態様
②亡Aの口から取り出されたタオルの形状
③事件後に行われた検証会の検討結果等

亡Aは、タオルを口腔内の奥深くまで挿入されたことにより、唾液を吸収していったタオルによって、あるいは、唾液を吸収していったタオルによって押し込まれた自分の舌によって、徐々に軌道が閉塞し、それによって窒息し、最終的に心停止に至ったものと推認される。

各注意義務違反行為と亡Aの死亡との因果関係を認めた。

出血及び精神的ストレスが心停止に影響した可能性が皆無であるとまでいうことはできず、この点は、争点③で考慮するのが相当。

●争点③について 
①出血及び精神的ストレスが心停止に影響した可能性が皆無であるとまでいうことはできず、これらはすべて亡A自身が招いた落ち度に起因する
②タオルをかませられる事態となったのも、亡Aが舌をかんで自殺を図ろうとしたため

他方で
③タオルの大部分を口腔内に深く挿入することにより、気道が閉塞し、窒息させるおそれがあることは明らかであった
④亡Aの抵抗は、バックボードに固定される頃には収まっていた

民法722条2項所定の過失相殺の法理を類推適用し、損害の5割を減額

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2018年1月21日 (日)

交通事故で保険会社により支払われる遅延損害金の起算日が争われた事例

東京地裁H28.9.12      
 
<事案>
Xは、平成22年11月9日、歩行中に訴外Zが運転する自動車に衝突されて傷害を負い、同傷害による後遺障害が残存。

Zについて、平成25年12月16に破産手続が開始、その後、
Xが、Z被保険者、Z車を被保険自動車とする家庭用自動車総合保険(本件契約)の保険者である保険会社Yに対し、本件契約の約款(本件約款)に基づき、いわゆる直接請求権を行使し、本件事故による損害賠償額と事故日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求める訴訟を提起。 

事故日から支払済みまでの遅延損害金を請求する法的根拠についてのXの主張:
①直接請求時にYがXに支払うべき損害賠償額に該当
②YのXに対する損害賠償額支払債務は事故時に遅滞に陥る
 
<判断>
遅延損害金の請求に関し、

Xの主張①について:
被保険者である加害者が損害賠償請求権者に対し支払義務を負う遅延損害金は、直接請求において保険会社が直接請求権者に支払うべき「損害賠償額」には含まれない 

Xの主張②について:
直接請求において、YのXに対する損害賠償額支払債務が遅滞に陥るのは、
約款により、請求完了日からその日を含めて30日を経過したとき


本件においける損害賠償請求に関する具体的な経緯を踏まえ、
Zの破産手続が開始し、XがYに対する直接請求権を行使できることとなったときに、直接請求が完了。
 
<解説>   
●本件約款は、保険会社が直接請求者に支払う損害賠償額を、
被保険者が損害賠償請求権者に対して負担する法律上の損害賠償責任の額(「α」)から自賠責保険等でてん補される金額を控除した金額とする旨を定める

X主張の遅延損害金は、不法行為による損害賠償義務の履行遅滞についての損害賠償であり、対人事故によって加害者が負担することになった損害賠償責任の額そのものとはいえない
加害者が被害者に支払義務を負う遅延損害金に関し、本件約款には、被保険者(加害者)が保険会社に対人賠償責任保険金を請求するときは、保険会社は、訴訟の判決による遅延損害金に限り支払う旨の規定がある

その遅延損害金はαと区別されており、αに含まれない。

一定の条件の下で保険会社が遅延損害金を支払う理由

保険会社が解決にあたる場合はもちろんのこと、被保険者自身が主体となって解決にあたる場合であっても、保険会社の争い方や解決の時期についての判断(裁判所の和解勧告を受け入れるか否かなど)が遅延損害金の額に影響する場合が強く、また、すべての危険から被保険者を守る
 
●約款が定めるYに対する直接請求の手続はとられていなかったことが窺われ、
本判決は、
訴え提起前のXとZとの間の示談や調停の経緯(Z側の行為者はYの示談代行担当者やZの代理人弁護士)を認定し、Xは継続して損害賠償の支払を求めていたと指摘、
Zの破産手続が開始してXが直接請求権を行使できることとなったときに、XのYに対する直接請求は完了
 
●被害者である原告が、加害者と保険会社を共同被告とし、加害者に対して損害賠償を請求するとともに、保険会社に対し、被保険者(加害者)に対する判決の確定を条件として損害賠償額の支払を請求する場合には、保険会社に対しても、交通事故の日を起算日とする遅延損害金の支払を命じるのが東京地裁の運用。 

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2018年1月20日 (土)

長男の意向を考慮し、終末期の延命措置をしないこととした医師の裁量判断等(過誤はなし)

東京地裁H28.11.17      
 
<事案>
Y1の開設する病院で入院中に死亡した亡Aの相続人であるXが、
亡Aは、同じく相続人であるY2が経鼻経管栄養の注入速度を速めたことにより嘔吐して誤嚥性肺炎を発症し、
Y2がその妻Y3と共に延命措置をせずに延命措置を実施しなかったため、続発した敗血症及び急性腎不全により死亡

Y1に対し債務不履行に基づき
Y2及びY3に対し共同不法行為に基づき
損害の賠償を求めた事案。 
 
<判断>
●Y2が経鼻経管栄養の注入速度を速めたことが違法か?
経鼻経管栄養は医療行為であり、嘔気、嘔吐、腹部膨満や腹痛などの副作用や誤嚥性肺炎の危険もある
医師の指示に基づかずに行った行為は違法
 
●Y1に対し、亡Aの家族に対し経鼻経管栄養の注入速度を変更しないように説明し、家族が注入速度を変更していないか確認すべき義務があるのに、これを怠ったとのXの主張について
患者の家族であっても、特段の必要性や緊急性もないのに、病院の医療機器を医師等に無断で操作してはならないことは、通常の識見を持った一般人にとって常識的なことであり、Y2ら家族が亡Aの経鼻経管栄養の注入速度を速めることを予見することは不可能

そもそもXの主張するような義務をY1が負っていたと認めることはできないとして、Xの主張を排斥。
 
●Y2が亡Aの延命措置を拒否したこと、Y1のB医師が延命措置を実施しなかったことが違法か? 

Y2が延命措置を拒否した点について、
延命措置についてどのような意見を述べるかは基本的に個人の自由

Y2が亡Aの延命措置を拒否したことをもって、それ自体が直ちに違法であるとは認められない

B医師について:
亡Aの意思について確認できない状態であった⇒延命措置について亡Aに説明しなかったことをもって注意義務違反があるとはいえない

B医師は、Y2を亡Aの家族のキーパーソンであると認識し、Y2の意見を参考にして延命措置をとらなかったのであるが、このような方法は不合理とはいえず、医師の裁量の範囲内
⇒Y1に責任はない

 
●Y2が経鼻経管栄養の注入速度を速めたことと亡Aの死亡の結果との間の因果関係 
①経鼻経管栄養の注入速度を変更しても最終的に注入される栄養剤の分量は変わらない
⇒注入速度の変更が原因となって嘔吐する場合には、経鼻経管栄養の最中又はその直後に嘔吐するのが自然であるといえるところ、亡Aが嘔吐したのは経鼻経管栄養が終了してから2時間以上経過してから
②8月15日の嘔吐は、ベッドに戻り臥位になった際の本位変換が影響している可能性が高い
③亡Aは糖尿病に罹患しており、気道及び尿路に感染症があった⇒8月15日の嘔吐とは無関係に誤嚥性肺炎を発症した可能性も否定できない

因果関係を否定
 
●相当程度の可能性及び期待権の侵害の有無 
いずれの法理も医師の職責の重大性を前提とするもの
⇒医師でなくその他の医療従事者でもない者については、これらの法理を適用する前提を欠く。


請求棄却。
 
<解説>
厚労省が平成19年5月に策定した「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」に沿った判断をしている。
同ガイドラインによれば、
①患者の意思が確認できる場合には、専門的な医学的検討を踏まえた上でインフォームド・コンセントに基づく患者の意思決定を基本とし、
患者の意思が確認できない場合には、
ア:家族が患者の意思を推定できる⇒その意思を尊重
イ:家族が患者の意思を推定できない⇒患者にとって何が最善であるかについて家族と十分に話し合い、患者にとっての最善の治療方針を採る

大学病院において、脳内に再発した悪壊死脳腫瘍の治療として大量抗がん剤治療を受けた患者が、転医先の病院で死亡した事案において、医師が患者に対してこれ以上実施可能な治療はなく、症状が悪化しても延命措置しかできないことを説明し、家族は延命措置を採らないことを承諾したことを認定し、違法性はないと判示した大阪地裁H26.3.18

判例時報2351

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2018年1月19日 (金)

執行処分の取消し等の場合の執行費用の負担

最高裁H29.7.20      
 
<事案>
債権者Xの申立てにより開始された債務者Yの有する不動産の共有持分に対する強制競売手続が、Yの請求異議の訴えに係る請求を認容する確定判決で取消し⇒Xが、民執法20条の準用する民訴法73条1項の規定に基づき、それまでに支出された本件強制競売の執行費用をYの負担とすることを申し立て。 
 
<規定>
民執法 第20条(民事訴訟法の準用)
特別の定めがある場合を除き、民事執行の手続に関しては、民事訴訟法の規定を準用する。

民訴法 第73条(訴訟が裁判及び和解によらないで完結した場合等の取扱い)
訴訟が裁判及び和解によらないで完結したときは、申立てにより、第一審裁判所は決定で訴訟費用の負担を命じ、その裁判所の裁判所書記官はその決定が執行力を生じた後にその負担の額を定めなければならない。補助参加の申出の取下げ又は補助参加についての異議の取下げがあった場合も、同様とする。
2 第六十一条から第六十六条まで及び第七十一条第七項の規定は前項の申立てについての決定について、同条第二項及び第三項の規定は前項の申立てに関する裁判所書記官の処分について、同条第四項から第七項までの規定はその処分に対する異議の申立てについて準用する。

民訴法 第62条(不必要な行為があった場合等の負担)
裁判所は、事情により、勝訴の当事者に、その権利の伸張若しくは防御に必要でない行為によって生じた訴訟費用又は行為の時における訴訟の程度において相手方の権利の伸張若しくは防御に必要であった行為によって生じた訴訟費用の全部又は一部を負担させることができる。
 
<原審>
執行費用は、強制執行がその基本となる債務名義を遡及的に取り消す旨の裁判の確定により終了した場合を除き、債務者の負担とすべきものと解するのが相当
本件は、前記の場合に当たらない
本件強制競売の執行費用を債務者であるYの負担とすべき
 
<判断>
既にした執行処分の取消し等により強制執行が目的を達せずに終了した場合における執行費用の負担は、執行裁判所が、民事執行法20条において準用する民訴法73条の規定により定めるべき。 

①本件強制競売手続きが、Yの提起した請求異議の訴えに係る請求を認容する確定判決の正本が執行裁判所に提出されたことにより取り消されたもの
②前記請求が認容された理由は、本件強制競売の開始決定後にYが弁済供託をしたことにより本件請求債権が消滅したというもの
という事情を考慮して、
Xから民執法20条において準用する民訴法73条1項の裁判の申立てを受けた執行裁判所は、同条2項において準用する同法62条の規定に基づき、
本件強制競売の執行費用をYの負担とする旨の裁判
をすることができる。

本件強制競売の執行費用をYの負担とすべきものとした原審の判断を是認
 
<解説>
強制執行がその目的を達せずに終了した場合の執行費用の負担:
A:常に債権者の負担とするという見解

①強制執行が手続の途中において、申立ての取下げや手続の取消しにより、その目的を達せずに終了した場合には、それまでの手続及びその準備に要した費用については、結局必要であったものではないことに帰する
②民執法54条2項が、強制競売の手続の取消しに基づく差押登記の抹消嘱託に要する登録免許税その他の費用を差押債権者の負担とする旨を定めており、その理は、登録免許税等に限らず、それまでに要した費用についても当てはまる
vs.
執行費用も広い意味での訴訟費用に含まれると解されるところ、民事訴訟の場合には、一般に、訴訟の取り下げ等をするに至った事情等によっては、民訴法73条2項において準用する同法72条により、相手方に訴訟費用の全部又は一部を負担させることができると解されていることと比べて、そのような例外を一切認めないA説はバランスを欠く
抹消の嘱託に関する費用は執行費用そのものではないので、あえて、強制執行が手続の途中において、申立ての取下げや手続の取消しにより終了したときの執行費用の負担者を民執法54条2項と同じにすべき必然性はない
民訴法85条が、強制執行が途中で終了した場合に、同法73条による執行費用の負担の裁判を求めることができることを前提としていると解される

B:強制執行が終了するに至った事情を踏まえて負担について定める
B2:民執法20条において準用する民訴法73条1項の裁判手続の中で、同条2項において準用する民訴法の訴訟費用の負担に関する規定に基づいて定める

判例時報2351

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