民事

2018年9月13日 (木)

証券会社の説明義務違反が認められた事例

岡山地裁H29.6.1      
 
<事案>
Yに証券取引口座を開設して取引を行うXが、Yに対し、
平成22年10月22日から平成23年10月27日までの間に行った外国株式(米国株式、中国株式)の売買取引(「本件取引」)について、
取引を担当したY従業員P2及びP3の行為には、過当取引又は違法な一任売買又は適合性原則違反説明義務違反があると主張

不法行為(民法715条)に基づく損害賠償請求として、本件取引による損害3862万円余、弁護士費用386万円及び遅延損害金の支払を求めた。 
 
<判断>   
Xの主張する過当取引、違法な一任売買、適合性原則違反はないが、
説明義務違反が存在。

●説明義務違反:
顧客を証券取引に勧誘するに当たり自己責任による投資判断の前提として、当該商品の仕組みや危険性等について、当該顧客がそれらを具体的に理解することができる程度の説明を、当該顧客の投資経験、知識、理解力等に応じて行う義務がある。
Xの従前の取引は、株式、投資信託、外国債券等について、いずれも中長期的に保有し、株式優待を受けたり、預金利息よりも高い利率で分配金や配当金を受領できるものとして運用していたところ、
本件取引は、積極的な投資運用による利益重視へと投資方針を転換するもの。

Y従業員らは、Xに対し、投資方針を転換することにより多額の損失が生じる可能性がることについて、Xに具体的に理解させるために必要な方法及び程度をもって説明すべきであるのに、これをしていない。
⇒説明義務違反を認定。
 
XにもYの違法行為を助長させ、損害を拡大した過失
過失相殺5割を認め、約1300万円の損害賠償を肯定
 
<解説> 
Xは説明義務違反について、外国株取引の投資勧誘について、外国株取引の投資勧誘においては、「外国証券情報」を投資家に提供、交付して、対象証券の内容とリスクを説明すべきところ、これを行っていないと主張。(投資商品についての説明義務違反)

本判決は、投資方針を転換することにより多額の損失が生じる可能性があることについて説明していない義務違反があると判示。(投資方針の変更に際しての説明義務違反) 

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2018年9月12日 (水)

配偶者暴力法8条の2の援助申出の相当性の判断が国賠法上違法とされる場合

名古屋地裁H29.11.9      
 
<事案>
Xの元妻Aが、配偶者暴力法8条の2の援助の申出として、Xからの暴力を理由に行方不明者届の不受理の申出を行ったことに対し、警察官がAの申出を相当と判断した行為によって、Aとの間の子Bの安否を知ることができず、また、配偶者に暴力を振るった加害者として扱われたことで精神的苦痛を被った

Xが、当該警察署の設置主体であるYに対し、国賠法1条1項に基づき、損害賠償を求めた。 
 
<規定>
配偶者暴力法 第八条の二(警察本部長等の援助)
 
警視総監若しくは道府県警察本部長(道警察本部の所在地を包括する方面を除く方面については、方面本部長。第十五条第三項において同じ。)又は警察署長は、配偶者からの暴力を受けている者から、配偶者からの暴力による被害を自ら防止するための援助を受けたい旨の申出があり、その申出を相当と認めるときは、当該配偶者からの暴力を受けている者に対し、国家公安委員会規則で定めるところにより、当該被害を自ら防止するための措置の教示その他配偶者からの暴力による被害の発生を防止するために必要な援助を行うものとする。
 
<Yの主張>
①法の規定は被害者に対する関係での関係機関の努力義務等を定めたものであり加害者とされる他方配偶者に対し関係機関は職務上の法的義務を負っていない。
②仮に職務上の法的義務を負っていると想定したものであったとしても、Dに職務上の注意義務違反はない。 
 
<判断>
国賠法1条1項が、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責めに任ずることを規定するもの。(最高裁昭和60.11.21)

Aの援助申出の相当性を判断した際におけるDの対応がXに対して負担する職務上の法的義務に違背したかの問題となる。 

法8条の2は、被害者の保護を図るために警察署長等に援助を行う義務があることを定めた規定であり、援助申出の相当性の判断は警察署長等の合理的な裁量にゆだねられている
but
援助申出を受理した場合、その反面、加害者とされる者に事実上の不利益を課すことにもなる
その判断が著しく不合理であって、裁量を逸脱又は濫用していると認められる場合には、加害者とされる者との関係で違法と評価される場合もあり得る

①本件では、DがFの担当者からAをBとともにシェルターへ避難させる予定であり、Aが行方不明者届の不受理を要望している等の連絡を受けていた
②AがXからの暴力被害につき具体的に供述するとともに、その日のうちにシェルターに避難することになっている旨を述べた
③DがAの供述等を踏まえて上司らとともに前記通達に照らしてAからの援助申出の相当性を検討した
等の事情

C警察署長によるAからの援助申出受理の手続を執ったことが著しく不合理であって、裁量を逸脱又は濫用しているとはいえない

国賠法1条1項の適用上の違法を否定。
 
<解説>
法8条の2の援助申出の受理件数は年々増加し、平成29年の受理件数は9000件を超えた。 

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2018年9月11日 (火)

刑事弁護の報酬請求にあたり、説明義務違反⇒弁護士の損害賠償責任(肯定)

大阪地裁H29.9.20      
 
<事案>
被告:弁護士
原告:被告に刑事弁護を依頼した者 

原告は、被告に対し、原告が実質的に経営する複数の会社及び原告自身についての法事税法違反等の刑事事件の弁護を委任し、
本件委任契約に基づき、
着手金として432万円、
「軍資金」の名目で120万円を支払った。
その後、原告は、被告を解任。

原告:
被告に対し、
①本件着手金につき、
被告が本件委任契約に基づく弁護活動をほとんど履行しないうちに、被告を解任た⇒本件委任契約の終了に基づく前払報酬返還請求として、
本件着手金のうち、被告が解任されるまでになした弁護活動の報酬相当額等を除いた金銭の返還を請求し、
②本件軍資金につき、
(i)被告は、弁護士としての職務に反し、
刑事手続を恐れる原告の心理状態に乗じて、
「軍資金」なる名目で使途を説明せず、
用途不明瞭な120万円を請求
した上、
その後も再三にわたり追加の報酬及び費用の支払を求めた
不法行為に基づく損害賠償請求として、本件軍資金相当額及び慰謝料の支払を求め
(ii)予備的に、
被告が本件委任契約に基づく弁護活動をほとんど履行しないうちに、被告を解任した
本件委任契約の終了に基づく前払報酬返還請求(さらに予備的に本件委任契約の終了に基づく前払費用返還請求)として、本件軍資金の返還を請求
 
<判断>
着手金について
本件委任契約の主たる目的及びその履行の有無を検討し、
本件委任契約で主たる目的とされた事務について、被告は解任されるまでの間にこれを履行していた
⇒請求を認めず。
 
●本件軍資金について 
①弁護士はその職務上、依頼者に対し、受任事務の内容を明らかにするとともに、弁護士報酬等について、十分説明すべき義務を負っている
②被告としては、本件軍資金について、弁護士費用であることを説明すべきであり、ましてや、「軍資金」などという誤解を招く表現で、使途は説明できないかのような態度で金銭を要求することは、原告の誤解を招くもの
弁護士の職務上の義務に反する

不法行為に基づく損害賠償責任を肯認し、本件軍資金相当額の支払を求める限度で原告の請求を認容
 
<解説> 
弁護士の説明義務違反を認めた判例:
債務整理に係る法律事務を受任した弁護士が、消滅時効の完成を待つ方針を採るのであれば、当該方針に伴う不利益やリスクを説明するとともに、回収した過払金をもって債権者に対する債務を弁済することにより最終的な解決を図るという選択肢があることも説明すべき義務を負っていた
(最高裁H25.4.16)

事件を受任した弁護士は、委任契約に基づく善管注意義務の一環として、委任者に対し、一定の場合に説明義務を負う

弁護士職務規定29条1項
弁護士の報酬に関する規定5条1項

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2018年9月10日 (月)

インターネットでの投稿まとめによる名誉毀損・侮辱の不法行為(肯定)

大阪地裁H29.11.16      
 
<事案>
在日朝鮮人のフリーライターであるXが、Yが平成25年7月1日から平成26年7月3日までの間、インターネット上にXに関する投稿の内容をまとめた45本のブログ記事を掲載⇒名誉毀損、侮辱、人種差別等に当たる⇒不法行為に基づき、慰謝料2000万円及び弁護士費用200万円の合計2200万円の支払を求めた。
 
<争点>
①本件各ブログ記事の内容はXの権利を侵害するか
②本件各ブログ記事の掲載行為による新たな権利侵害があるか 
 
<判断>
●争点①:本件各ブログ記事の内容はXの権利を侵害するか
本件ブログ記事のうち
①一部は、Xの行動が在日朝鮮人の特権を守るための言論の弾圧や恫喝に当たるという意見ないし論評を表明するなどし、Xの社会的評価を低下させる表現を含む
②ほぼ全ては「キチガイ」「朝鮮の工作員」等の侮辱的又は不穏当な表現を多数用いてXの精神状態、知的能力、人種、性別、年齢、容姿等を揶揄するなどし、その名誉感情を著しく害する内容である上、これらが約1年間にわたって同一のブログに順次掲載される形で積み重ねられていった⇒社会通念上許される限度を超えた侮辱に当たる内容を含む
③多くは、在日朝鮮人であることを理由にXを著しく侮辱し、日本の地域社会から排除することを扇動するもの⇒人種差別に当たる内容を含む

本件各ブログ記事のうち44本のブログ記事について、名誉毀損、侮辱、人種差別などに当たる内容が含まれている。
 
●争点②:本件各ブログ記事の掲載行為による新たな権利侵害があるか 
①Yによる表題の作成、情報量の圧縮、引用元の投稿の並べ替え、表記文字の強調といった行為により、本件各ブログ記事は、引用元の投稿を閲覧する場合と比較すると、記載内容を容易に、かつ効果的に把握することができるようになった
②本件各ブログ記事の内容は、2ちゃんねるのスレッド又は原告のツイッターの読者以外にも広く知られたものになった

本件各ブログ記事の掲載行為は、引用元の2ちゃんねるのスレッド等とは異なる、新たな意味合いを有するに至った

Yにより前記44本のブログ記事の掲載行為は、2しゃんねるのスレッド又はツイッター上の投稿の掲載行為とは独立して、新たにXの人格権を侵害
 
●Yにより前記44本のブログ記事の掲載行為という不法行為により、Xの人格権が侵害された
⇒Yに対し、慰謝料180万円及び弁護士費用20万円の合計200万円の支払を命じた。 
 
<解説>
新聞記事の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかについて、
一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すべきものとされている(最高裁昭和31.7.20)。
インターネット上の記事についても同様。(最高裁H24.3.23) 

侮辱的表現について、社会通念上許される限度を超える侮辱であると認められる場合に人格権を侵害するものと解されており、
インターネット上の侮辱的な表現についても同様。(最高裁H22.4.13)

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2018年9月 6日 (木)

任意後見より法定後見が優先された事案

福岡高裁H29.3.17      
 
<事案>

本人(X)は夫であるDと2人で暮らしていた。

平成2年からは、長男であるB及びその妻Eと同じ敷地内の棟続きの家に住み、内部ドアで行き来するようになった。

Dは、昭和43年にF株式会社(F社)を設立してその代表者となっていたが、
別途、Xと共有するマンションの賃料等の管理会社として有限会社Gを設立し、その代表者となった。
F社においては、平成20年にBがその代表者に。 
Bの妻Eは、F社やG社の経理を担当し、Xの預金通帳の管理を任さるるなどしていた
but
Xの了解を得ずにその口座から金銭を払い戻してF社への貸付に回したり、G社の口座からX名義の口座又はその他に移すべき金銭を、引き出した後にF社の債務弁済に充てる等の行為
⇒Xと両会社との間で不明朗な金銭貸借関係が生じた。
BもF社の代表者としてEの行動に起因するF社の債務につき、Xに対して同額の債務を負う。

Xは、平成21年に、BとEに対し自宅からの退去を求め、更に自宅の内部ドアに施錠してBらが行き来できないようにした。
Dは平成22年2月に入院。
Xは、平成22年12月28日に長女であるAとの間で、Aを後見受任者とする任意後見契約(「第1契約」)を締結し、その後認知症の症状が進み、平成26年7月からA宅に居住。
Xは同年8月6日にAと口論となって自宅に戻る。
Bは、Xを医師に受診させるようになった。


Aは、同月18日、原裁判所に任意後見監督人選任の申立て。
but
Xは家裁調査官の調査の際に、第1契約の発効について同意しなかった。

Aは同月30日に申立ての趣旨を法定後見開始に変更

同月29日に第1契約が解除されるとともに、XとBとの間でBを任意後見受任者とする任意後見契約が締結
⇒Bは任意後見監督人選任の申立て。 


原裁判所は、法定後見開始申立事件につき、2回にわたる鑑定を実施。
1回目は補佐相当
2回目は後見相当
との鑑定結果。 
 
<規定> 
任意後見法 第10条(後見、保佐及び補助との関係)
任意後見契約が登記されている場合には、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り、後見開始の審判等をすることができる。
 
<原審>
第1契約の解除及び第2契約の締結はいずれも効力を生じている。 
Eの預金払戻しに起因するXとF社との間における金銭関係及びXとF社の代表者であるBとの金銭関係が解決していない
⇒Bは任意後見受任者としての適格性を有しない
⇒法定後見を開始することにつき「本人の利益のために特に必要がある

診察回数及び検査の実施内容に照らすと、
1回目の鑑定結果には疑問があり、2回目の鑑定結果は合理的

Xは事理弁識能力を欠く常況ににあると認定し、Aの申立てを認容し、Bの申立てを却下
   

Bは即時抗告を申し立てて原審結の取消し及びXの任意後見監督人の選任(予備的に本件の差戻し)を求め
抗告理由として、
①任意後見契約が締結された場合にはこれを発行させて法定後見開始の申立てを却下するのが原則であり、本件ではその例外とすべき事情がない
②Xの精神状態については1回目の鑑定結果に従い補佐相当と認定すべきであった
と主張。 
 
<判断>
E又はF社がXに返済すべき債務については完済されたかどうかが不明であり、
Eの一連の行為につきBが認識していなかったとは到底認められず、
Bが代表者であるF社とXとの債権債務関係はBの任意後見人としての適格性に関わる重要な事実


法定後見を開始するにつきXの利益のために特に必要がある
Xの精神状態についても原審判の判断に誤りはない。
 
<解説>
●任意後見法10条1項:
本人による自己決定を尊重すべき

既に任意後見契約が締結され、かつ、これが登記されている場合においては、
本人について法定後見開始の申立てがあったとしても、
家庭裁判所は、法定後見を発動することが「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」でない限り、
当該申立てを却下しなければならない

●立法担当者:
具体例として
①任意後見人に委託された代理権を行うべき事務の範囲が狭すぎる上、本人の精神が任意の授権の困難な状態にあるため、他の法律行為について法定代理兼の付与が必要な場合
②本人について同意権・取消権による保護が必要な場合。

要件を厳格に絞ることで任意後見優先の原則をできる限り維持することを想定。
but
親族間紛争を背景に、自身を任意後見受任者とする任意後見契約を本人に締結させて後にこれを発効させることにより、意図しない者が成年後見人に選任されるのを妨害しようとするケース。

最近の実務は、本人の客観的な保護を重視して、この要件を広めに解釈して法定後見人を優先するが面が多くなっている。


大阪高裁H14.6.5:
「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」について
諸事情に照らし、任意後見契約所定の代理権の範囲が不十分である、
合意された任意後見人の報酬があまりにも高額である、
任意後見契約法4条1項3号ロ、ハ所定の任意後見を妨げる事由がある等、
要するに、
任意後見契約によることが本人保護に欠ける結果となる場合を意味

大阪高裁H24.9.6:
本人名義の預貯金から多額の金銭が引き出されて任意後見受任者の口座に移されている等、任意後見受任者の本人の財産への関与に不適切な点が認められ、「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」に当たるといえる事情が存在するにもかかわらず、原裁判所が任意後見法10条1項の要件を認めずに法定後見開始申立てを却下したのは相当ではない。
⇒原審判を取り消した上、事件を原裁判所に差し戻している。


学説:
「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」とは、
本人の現在のニーズを当該任意後見契約によっては十分に充足することができず、本人の客観的福祉の観点から、法定後見に夜保護を発動することが望ましい事態を指すと考えればよい(新版注釈)。

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2018年9月 5日 (水)

ハーグ条約実施法に基づき子の返還を命じた原審を維持

大阪高裁H29.9.15      
 
<事案>
X(夫・Z国籍)とY(妻・日本国籍)は平成26年婚姻し、長女(現2歳)をもうけた。
長女は出生以来、X・Y夫婦と一緒にZ国で生活。 
Yは、平成28年、長女を連れて日本に帰国し、以降、わが国で生活。
現在、長女のZ国への渡航は妨げられている。(本件留置)

Xは、Yに対し、平成29年、
国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(いわゆるハーグ条約実施法)に基づき、長女を常居所地国であるZ国に返還するよう求めた。
 
<規定>
実施法 第二七条(子の返還事由)
裁判所は、子の返還の申立てが次の各号に掲げる事由のいずれにも該当すると認めるときは、子の返還を命じなければならない
一 子が十六歳に達していないこと。
二 子が日本国内に所在していること。
三 常居所地国の法令によれば、当該連れ去り又は留置が申立人の有する子についての監護の権利を侵害するものであること。
四 当該連れ去りの時又は当該留置の開始の時に、常居所地国が条約締約国であったこと。
 
実施法 第二八条(子の返還拒否事由等)
裁判所は、前条の規定にかかわらず、次の各号に掲げる事由のいずれかがあると認めるときは、子の返還を命じてはならない。ただし、第一号から第三号まで又は第五号に掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して常居所地国に子を返還することが子の利益に資すると認めるときは、子の返還を命ずることができる
一 子の返還の申立てが当該連れ去りの時又は当該留置の開始の時から一年を経過した後にされたものであり、かつ、子が新たな環境に適応していること。
二 申立人が当該連れ去りの時又は当該留置の開始の時に子に対して現実に監護の権利を行使していなかったこと(当該連れ去り又は留置がなければ申立人が子に対して現実に監護の権利を行使していたと認められる場合を除く。)。
三 申立人が当該連れ去りの前若しくは当該留置の開始の前にこれに同意し、又は当該連れ去りの後若しくは当該留置の開始の後にこれを承諾したこと。
四 常居所地国に子を返還することによって、子の心身に害悪を及ぼすことその他子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険があること。
五 子の年齢及び発達の程度に照らして子の意見を考慮することが適当である場合において、子が常居所地国に返還されることを拒んでいること。
六 常居所地国に子を返還することが日本国における人権及び基本的自由の保護に関する基本原則により認められないものであること。

2裁判所は、前項第四号に掲げる事由の有無を判断するに当たっては、次に掲げる事情その他の一切の事情を考慮するものとする。
一 常居所地国において子が申立人から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動(次号において「暴力等」という。)を受けるおそれの有無
二 相手方及び子が常居所地国に入国した場合に相手方が申立人から子に心理的外傷を与えることとなる暴力等を受けるおそれの有無
三 申立人又は相手方が常居所地国において子を監護することが困難な事情の有無

3裁判所は、日本国において子の監護に関する裁判があったこと又は外国においてされた子の監護に関する裁判が日本国で効力を有する可能性があることのみを理由として、子の返還の申立てを却下する裁判をしてはならない。ただし、これらの子の監護に関する裁判の理由を子の返還の申立てについての裁判において考慮することを妨げない。
 
<争点>
(1)Z国において、長女を耐え難い状況に置くことになる重大な事由があるか(法28条1項4号)
(2)Xは長女を監護する権利を行使しなかったか(法28条1項2号)
(3)Xが本件留置を承諾したか(法28条1項3号)
 
<原審> 
●子の返還事由(法27条各号)について、
長女が16歳に達しておらず(1号)
日本国内に所在し(2号)
常居所地国と認められるZ国の法令によれば、Xは長女について監護の権利を有し、本件留置がその権利を侵害すること(3号)
本件留置の開始時にZ国がハーグ条約の締結国であったこと(4号)
を認定。
⇒本件では、子の返還事由がある。
 
●返還拒否事由について
◎(1)Z国において、長女を耐え難い状況に置くことになる重大な事由があるか(法28条1項4号)
①Z国において、Xによる長女自身に対する虐待は認められず、そのおそれもあに
Xから長女に心理的外傷を与えるような暴力を受けるとのYの主張を裏付けるのに十分な資料も具体的な事情も認められない
③子の返還決定は、X・Yの同居を命ずるものではなく、YがZ国で個人保護命令を得ている⇒X・YがZ国で別居した場合にXがYに対し再度の暴行を加えるおそれがあるとは認められない。
④XがZ国で長女を監護することが困難な事情は認められない。
⑤YはXの暴力に起因するPTSDや住宅事情を主張するが、Yが罹患したとするPTSDの程度は判然としないし、Z国の住宅事情も、Xが実家に転居しYが自宅に戻るという選択肢もある⇒いずれも監護困難事情とは認められない。

本件では、長女を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険があるとはいえない
 
◎(2)Xは長女を監護する権利を行使しなかったか(法28条1項2号)
Yは、平成28年に長女を連れて自宅を出てシェルターに入所したが、これをもってXが長女に対する監護の権利を行使していないとはいえない。
 
◎(3)Xが本件留置を承諾したか(法28条1項3号)
それを認めるに足りる的確な資料はない。
⇒Xの申立てを認容。
 
<判断> 
原審と同様、返還拒否事由はいずれも認められない
⇒Yの抗告を棄却。
(1)について、
Yは日本に帰国後も保護命令の審理や長女とXとの面会交流のためにZ国に複数回入国しているが、Xはその間保護命令に反する行動をとっておらず、そこに一定の抑止効果を認めることができる。
Yの、PTSD悪化する等の、意見書、診断書も採用せず。
(2)について
Xが監護の権利を行使しなかったのは、Yがシェルターに入所してYに居所を秘匿していたから。
(3)について
Xは、Yが長女を連れて日本に入国したことを知ると、
Z国の中央当局を通じて援助決定通知を受け、
わが国の外務省の面会交流支援事業を通じて長女と面会交流を実施するなどしている

これらの一連の経緯をみると、Xの本件申立てがYの日本入国から約1年経過しているとしても、これを留置の承諾とみることはできない。
 
<解説>
●子の返還の申立てを受けた家庭裁判所:
法27条所定の返還事由があると認めたときは、法28条所定のいずれかの返還拒否事由があると認めた場合を除き、子の返還を命じなければならない。
(ただし、一切の事情を考慮して常居所地国に子を返還することが子の利益に資すると認めるときは、その場合でも子の返還を命じることができる。(法28条1項柱書ただし書、裁量返還))

●子の監護権の不行使(法28条1項1号):
子の返還を求める親が、監護権を有するのに現実にこれを行使しなかったという事態はあまり想定されない。

●留置の承諾(同項3号):
一般的に、
紛争の経緯の中で表明された意見自体の意味内容が多義的であったり、変遷したり、双方の認識に隔たりがあることも少なくない
⇒その認定には慎重さが求められる。

裁判例:
子のわが国における滞在に対する同意・承諾といっても、一時的なものでは足りず、相当長期間にわたり居住し続けることを認めて、もはや子の返還を求める権利を放棄したと評価できる程度まで要するとするものが多い

●法28条1項4号
「常居所地国に子を返還することによって、子の心身に害悪を及ぼすことその他子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険があること。」:
この返還拒否事由は、子の返還を拒む親の気持ちを直截的に表明⇒その有無が争点となる事例は極めて多い。 

法は、裁判規範を明確にし、当事者予測可能性を確保する観点
⇒該当性判断に当たり考慮すべき事情を法28条2号各号に列挙。
本件でも、
Z国において長女がXから暴力等を受けるおそれ(同項1号)
長女がZ国に入国した場合、YがXから長女に心理的外傷を与えるような暴力その他有害な言動等を受けるおそれ(同項2号)
XとYとがZ国において長女を監護することが困難な事情(同項3号)
が検討された。

本件:
医師の意見書等について、
いずれも医師としての具体的な診断結果に基づくものではなく、害悪の発生を予想し、あるいはその可能性を指摘するにすぎない⇒不採用。

裁判例の中には、
医師による意見書等の信用性評価について、
診断書等が前提としている事実関係が専ら監護親の説明に基づいており、内容の正確性が担保されていないとか、
監護権を侵害された親と子の面会交流の状況と整合しない内容を含むとか、
③子はそれまで常居所地国では精神状態に係る診察等を受けたことがなかったのに、来日後、子の返還を請求されるや、これに呼応する形で精神科を受診させている
などの経緯が指摘されている。

判例時報2372

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2018年9月 3日 (月)

相殺の抗弁が時機に遅れた攻撃防御方法に当たるかどうかが争われた事案

東京高裁H29.4.27      
 
<経緯>
Xは、平成26年12月17日に、Yに対し、業務委託契約に基づき、未払委託料及び源泉所得税等の立替金の合計1045万6996円円の支払を求める本件訴訟を提起。
提訴から10か月近く経過した同年10月14日の第5回口頭弁論期日において、Yは、業務委託料に水増しなどがあるため合計885万5700円の不当利得返還請求権及びYの理事兼従業員の報酬名目で合計540万円を支払わせたことによる同額の不法行為に基づく損害賠償請求権を有しているとして、これらを自働債権として相殺の意思表示をした。

Xは、相殺の抗弁は時機に遅れた攻撃防御方法であるとして却下を求めた。
 
<規定>
民訴法 第156条(攻撃防御方法の提出時期)
攻撃又は防御の方法は、訴訟の進行状況に応じ適切な時期に提出しなければならない

民訴法 第157条(時機に後れた攻撃防御方法の却下等)
当事者が故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法については、これにより訴訟の完結を遅延させることとなると認めたときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、却下の決定をすることができる。
2 攻撃又は防御の方法でその趣旨が明瞭でないものについて当事者が必要な釈明をせず、又は釈明をすべき期日に出頭しないときも、前項と同様とする。
 
<原審>
相殺の抗弁を却下した上、弁論を終結し、Xの請求につき、1004万7036円の支払を求める限度で認容。 
 
<判断>
相殺の抗弁の主張が訴訟の完結を遅延させるものということはできない。 
 
<解説>
時機に遅れたかどうかについては、審理状況などを考慮して総合的に判断される。 

相殺の抗弁については、時機に遅れたものかどうかの判断において、その自働債権が本来的には訴訟の経過と関係なく権利行使が可能
相殺適状となった時期が重要。(大判昭和17.10.23)
第12回口頭弁論期日で初めて提出された相殺の抗弁の主張を時機に遅れたものとして却下。

本件:
Xの釈明事項や客観的な資料の提出をまって、Yにおいて、相殺の抗弁の基礎となる事実を形成させる途上にあり、
②請求に係る業務委託料と抗弁の水増し分の不当利得額がいわば表裏の関係にある⇒当事者の合意の内容を確定させることで、YのXに対する相殺の抗弁の内容も確定される
⇒訴訟の経過や審理の内容などからすれば、抗弁の機会を奪うべきではない。
原審の第5回口頭弁論期日以降も当事者の主張立証がなされることは明らかであった。

原審に審理不尽

判例時報2372

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2018年9月 1日 (土)

元夫が元妻に財産分与を求めた事案での不動産の持分の分与

東京高裁H29.6.30      
 
<事案>
元夫である原審申立人が元妻である原審相手方に対し財産分与を求めた事案。 

不動産について、
元夫と元妻がそれぞれ2分の1の持分で共有し、その購入のための借入金の債務が残っていた。
元夫は、本件不動産の元妻共有持分の取得を希望。
 
<原審>
①本件不動産の借入金について、元妻が主債務者、元夫が保証人となっている
②元妻の借入金債務を被担保債権として本件不動産に抵当権が設定されている

元妻が返済を怠った場合、抵当権が実行される可能性があり、
元夫が同債務を返済すると求償関係の問題が生じる

本件不動産の元妻持分を元夫に分与することは相当でない。
 
 
<判断>
財産分与の対象財産のうち元妻名義の普通預金は、元夫と元妻が本件不動産購入のために連帯債務として借り入れた住宅ローン(前記借入金債務)の預金担保となっており、その預金額と住宅ローン債務額がほぼ同じ

財産分与の対象となる資産としては預金、債務とも0円として、
本件不動産には抵当権が付されているが、不動産評価額から被担保債務額を控除しない。
 

元夫と元妻が被担保債権について連帯債務を負い、元妻名義の預金が担保とされている⇒本件不動産に設定されている抵当権が実行される可能性は相当程度に低く、本件不動産の元妻共有持分を元夫に分与することが相当。

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2018年8月31日 (金)

国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律⇒子の返還を命じた終局決定が117条1項の規定により変更された事案

最高裁H29.12.21      
 
<事案>
国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(「実施法」)に基づく父Xの申立てについて、母Yが、その確定後の事情の変更によりこれを維持することが不当となったと主張⇒実施法117条1項に基づき、これを変更してXの申立てを却下するよう求めた。 
 
<経緯>
X、Y及び両名の子4名(「本件子ら」)は、米国において同居。
Yは、平成26年7月、同年8月中に米国へ戻るとXに約束して、本件子らを連れて日本に入国し、Yの両親宅に居住。

入国当時、子らのうち
年長の双子であるA及びBは11歳7か月
年少の双子であるC及びDは6歳5か月。 

Yは、Xから平成26年9月以降もしばらく日本にいるように言われ、Xの了承を得て本件子らをインターナショナルスクールに入学させた。

その後、本件子らの米国への帰国についてXとYの意見が対立し、Xは、本件子らについて実施法に基づくこの返還の申立て。

家裁調査官の調査:
A及びBは米国への返還を強く拒絶
C及びDも米国への返還に拒否的な意見
本件子らはいずれも他の兄弟姉妹と離れたくないと述べた。
Xはこの頃には、本件子らを適切に監護養育するための経済的基盤を有しておらず、その監護養育について親族等から継続的な支援を受けることも見込まれない状況。
 
<高裁>
平成28年1月、
A及びBについては、実施法28条1項5号の返還拒否事由があるとしながら、
米国に返還することが子の利益に資する
⇒同項ただし書を適用すべきものとして、
本件子らをいずれも米国に返還するよう命ずる旨の決定(「変更前決定」)をし、同月確定。
 
<経緯>
Xは、平成28年2月、Y及び本件子らと居住していた米国の自宅が競売⇒同月8月頃、自宅を明け渡し、知人宅の一室を借りて住むようになった。 
Xが代替執行を申立て

執行官は、平成28年9月、本件子らをXと面会させようとしたが、本件子らは、米国への返還を拒絶し、Xと面会しようとしなかった。

執行官は日を改めて、A及びBとXとの間で会話をさせたが、両名の意向に変化はなく、執行を続けると両名の心身に有害な影響を及ぼすおそれがある⇒前記代替執行を執行不能により終了させた。

Yが実施法117条1項に基づいて変更前決定の変更を求める申立て
 
<規定>
実施法 第二八条(子の返還拒否事由等)
裁判所は、前条の規定にかかわらず、次の各号に掲げる事由のいずれかがあると認めるときは、子の返還を命じてはならない。ただし、第一号から第三号まで又は第五号に掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して常居所地国に子を返還することが子の利益に資すると認めるときは、子の返還を命ずることができる
一 子の返還の申立てが当該連れ去りの時又は当該留置の開始の時から一年を経過した後にされたものであり、かつ、子が新たな環境に適応していること。
二 申立人が当該連れ去りの時又は当該留置の開始の時に子に対して現実に監護の権利を行使していなかったこと(当該連れ去り又は留置がなければ申立人が子に対して現実に監護の権利を行使していたと認められる場合を除く。)。
三 申立人が当該連れ去りの前若しくは当該留置の開始の前にこれに同意し、又は当該連れ去りの後若しくは当該留置の開始の後にこれを承諾したこと。
四 常居所地国に子を返還することによって、子の心身に害悪を及ぼすことその他子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険があること
五 子の年齢及び発達の程度に照らして子の意見を考慮することが適当である場合において、子が常居所地国に返還されることを拒んでいること
六 常居所地国に子を返還することが日本国における人権及び基本的自由の保護に関する基本原則により認められないものであること。
 
実施法 第一一七条(終局決定の変更)
子の返還を命ずる終局決定をした裁判所(その決定に対して即時抗告があった場合において、抗告裁判所が当該即時抗告を棄却する終局決定(第百七条第二項の規定による決定を除く。以下この項において同じ。)をしたときは、当該抗告裁判所)は、子の返還を命ずる終局決定が確定した後に、事情の変更によりその決定を維持することを不当と認めるに至ったときは、当事者の申立てにより、その決定(当該抗告裁判所が当該即時抗告を棄却する終局決定をした場合にあっては、当該終局決定)を変更することができる。ただし、子が常居所地国に返還された後は、この限りでない。
 
<原審>
変更前決定の確定後に生じた事情の変更により、本件子らが米国に返還された場合に、Xが本件子らを監護することが困難な事情に陥った
実施法28条1項4号の返還拒否事由(「4号拒否事由」)に該当
実施法117条1項に基づき、変更前決定を変更し、本件申立を却下
   
Xから許可抗告の申立て⇒原審が許可 
 
<判断>
変更前決定の確定後の事情の変更により、A及びBについては実施法28条1項ただし書の規定を適用すべきであるとはいえず
C及びDについては同項4号の返還拒否事由が認められる

変更前決定を維持することが不当となるに至ったと認め、本件申立てを却下するのが相当
⇒本件申立てを却下。
 
 
<解説> 
●本件では、変更前決定確定後の「事情の変更によりその決定を維持することがを不当と認めるに至ったとき」に当たるかが争われ、

原審:
変更前決定確定後の事情の変更により、本件子らについて
「常居所地国に子を返還することによって、子の心身に害悪を及ぼすことその他子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険」という4号拒否事由が認められる。

本決定:
A及びBについて、Xにより監護養育態勢が看過し得ない程度に悪化したことから、5号拒否事由が認められるにもかかわらず米国に返還することが子の利益に資するとはいえない⇒実施法28条1項ただし書により返還を命ずることはできない。 
 
●5号拒否事由:
「子の年齢及び発達の程度に照らして子の意見を考慮することが適当である場合において、子が常居所地国に返還されることを拒んでいること。」

国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(「条約」)13条2項の規定に対応したもの。

立法担当者:概ね10歳程度に達していれば5号拒否事由の要件を満たす場合が多い。
 
●条約13条2項:
子の異議が認められる場合には子の返還を命ずることを拒むことができる。

実施法28条:
1項本文において、返還拒否事由があると認めるときは子の返還を命じてはならないと定めた上、
同項ただし書において、5号拒否事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して常居所地国に子を返還することが子の利益に資すると認めるときは、子の返還を命ずることができる旨を定めた

実質において違いはない(立案担当者)。 
 
●条約13条2項により子の返還を命ずることを拒むことができる場合に、子の返還を命ずるか否かの裁量権の行使:
①子の迅速な返還という条約の政策目的と
②子の自律的意思の尊重
とのバランスを図る必要。 

本決定:
変更前決定後にXの監護養育態勢が看過し得ない程度に悪化⇒このバランスに変化を生じたと判断したもの。
 
●A及びBについて米国への返還を命ずることができない
⇒C及びDのみを米国に返還すると、両名を兄弟であるA及びBから引き離す結果を生ずる。

本決定:
C及びDについて、両名の米国への返還により兄弟分離を生ずることなど本件に現れた一切の事情を考慮し、4号拒否事由が認められるとした。

判例時報2372

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2018年8月25日 (土)

船舶油濁損害賠償保険法と国土交通大臣等の要件適合確認義務(否定)

東京地裁H28.3.3      
 
<事案>
宮崎市に所在する漁業協同組合である原告が、
香港に本拠地のあるA社が所有するベリーズ船籍の船舶(本件船舶)が山口県から中国に向かう途中で漂流し宮崎市の海岸沖に座礁し、撤去されないまま放置

被告国に対し、
A社の所有する本件船舶が出港するに当たっては、船舶油濁損害賠償保障法(「油賠法」)上、保障契約の有効性を審査すべきであるところ、
A社から保険会社Bに対する保険料が未だ着金せず、保険契約の効果が生じていないにもかかわらず、一般船舶保障契約証明書を交付し、当該審査義務を怠り、公務員の職務上の注意義務に違反
国賠法に基づき、損害賠償として撤去費用相当額の支払を求めた

原告は、本件に先立ち、
A社及び保険会社Bに対して、
本件船舶の撤去費用の支払を求めて、宮崎地方裁判所に訴えを提起し、
A社については、
A社が公示送達による呼び出しを受けたにもかかわらず、出頭しなかった⇒認容判決
保険会社Bについては、
保険会社Bの仲裁合意の抗弁を認め、訴えを却下。
 
<主張>
被告国に対し、
保険契約の有効性を判断すべき油賠法上の義務がある
②油倍法上の義務がないとしても、運輸局の運用によれば、保障契約の有効性を確認すべき義務がある
 
<判断>
①油賠法上、国土交通大臣等には保障契約の有効性を審査すべき権限がない
保障契約の有効性を基礎づける入金確認のような書面を求めることは油賠法及び同法施行規則上の根拠を欠く事実上の行為であり、政治的・技術的裁量に属し、本件では任意の提出を促しても実効性を有するとはいえない

いずれの義務も否定し、請求を棄却。
 
<解説>
●油賠法は、
船舶に積載されていた油によって船舶油濁損害が生じた場合における船舶所有者等の責任を明確にし、及び船舶油濁損害の賠償等を保障する制度を確立することにより、被害者の保護を図り、あわせて海上輸送の安全な発達に資することを目的とし(油賠法1条)、
油濁損害が生じた場合におけるタンカー及び一般船舶の所有者が、その損害の賠償責任を負う旨を定める(同法3条、39条の2)

油濁損害額は、莫大になり得る可能性がある

油賠法において、タンカー及び一般船舶の所有者の責任を制限する(同法5条、6条、8条、39条の3等)などの考慮がされているほか、
日本国籍を有するタンカーを2000トン超えるばら積みの油の輸送の用に供するため、日本国籍を有する一般船舶が国際航海をするため、日本国籍を有する一般船舶以外の一般船舶などが本邦内の港から出港などするためには、
それぞれこの法律で定める油濁損害賠償保障契約を締結しなければならない。

タンカー等の航行に当たって保障契約の締結を強制。

本件では、このような保障契約が有効に成立しないままに、一般船舶が出航し、海難事故に遭遇⇒保障契約による保障が得られなかった⇒保障契約締結に関する国の審査手続が問題。
 
●国土交通大臣:
一般船舶について保障契約を保険者等とする締結している者の申請があったときは、当該一般船舶について保障契約が締結されていることを証する書面を交付しなければならない(同法39条の6、17条1項)。 

●本判決は、油賠法の文言、一般船舶保障契約証明書の交付に必要な申請書の様式の内容

国土交通大臣等には、保障契約の有効性など実体的な要件判断をする権限や義務はなく、単に油賠法の要件に適合する保障契約であるかどうかという形式的な権限しか与えられていないと判断。

判例時報2371

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