民事

2017年10月18日 (水)

高層ビルの建物部分の賃貸借契約交渉過程での信義則上の義務違反(肯定)

東京地裁H28.4.14      
 
<事案>
高層ビルの建物部分の賃貸借契約の締結交渉がされ、交渉が打ち切られた場合における契約締結上の過失責任(契約準備段階における信義則上の義務違反)の成否が問題になった事案。 
 
<事実関係>
商業施設等の開発、企画等を業とするX株式会社は、A信託銀行から高層ビルの29回、30階部分を賃借する予定。
平成24年夏頃以降、ウエディング関連事業を行うY株式会社が賃借(転借)することを希望⇒賃貸借の交渉。

Yは、平成24年10月31日、出店申込書を提出し、Xに賃貸借契約の申込みをし、同年11月22日、役員会において本件物件への出店が承認され、その旨がXに伝えられた。
平成24年12月22日、契約書案の内容が確定。
Yは、バンケット区画の拡張を提案し、Xに拡張ができなければ出店が中止される可能性があることを伝えた。
Xは、平成25年1月31日、Aとの間で、本件物件の賃貸借契約を締結。
Xは、平成25年2月20日、Yに区画変更に伴う工事がYの試算した予算内で可能であることを伝えた。
Yは、平成25年3月7日、経営会議において本件物件への出店を打ち切ることを決定し、同月8日、Xに申し込みを撤回。

Xは、Yに対し、契約締結上の過失責任に基づき逸失賃料、完工済工事費用、人件費等、テナント賃料収入額につき損害賠償を請求。
 
<争点>
Yの債務不履行責任又は不法行為責任の有無
Xの損害の有無・額 
 
<判断>
①XとYとの間で賃貸借契約書の内容を確定させる等し、平成25年2月末頃にはYの要望も実現可能な程度に対応を進めた
その頃までにXが本件賃貸借契約の締結に期待を抱いたことは相当の理由がある

②Yの要望への対応に関するYからの信頼を失わせる帰責性を否定

この期待は法的保護に値するとして契約準備段階におけるYの信義則上の義務違反を肯定

完工済工事費用、人件費等の損害を認め、
逸失賃料相当額、テナント賃料収入相当額の損害に関する主張を排斥

請求を一部認容。

判例時報2340

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賃料増額請求と管理行為・増額しない旨の特約の合意

東京高裁H28.10.19       
 
<事案>
本件建物につき持分2分の1を有するXは、Yに対し、賃料増額請求権を行使し、
適正賃料(月額898万円、税別)の確認と従前賃料(500万円、税別)との差額等の支払を求めた。
 
<規定>
借地借家法 第32条(借賃増減請求権)
建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。

民法 第252条(共有物の管理)
共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。
 
<判断>
原審請求棄却、控訴棄却。 
①本件建物の賃貸借契約について、消費税率の変動に伴って賃料が引き上げられた事実がない
②賃貸人と賃借人との間にはもともと密接な関係があり、相続による当事者の変更等はあったものの、円満な賃貸借関係を継続することが優先された

消費税率の変更にかかわらず賃料総額を変えないという黙示の合意が成立していたもので、Xは本件建物の持分を取得したことによりその賃貸人の地位を承継

Xは本件建物につき持分2分の1を有するが、合意の変更は共有物の管理行為に該当
Xが単独で賃料増額請求権を行使できるものではない
 
<解説>
●賃料増減請求権は、経済事情の変動などによって賃料が不相当となった場合に、これを是正するために認められるもの。
その意思表示が相手方に到達した時から増減の効果が生じる(最高裁昭和45.6.4)。 
増額については、請求権の行使を特約によって排除することができる(借地借家法32条1項ただし書)。

特約については、一般の契約の合理的意思解釈に従い、本判決が説示するように、当事者の関係、賃貸借契約の締結の経緯、その後の賃料増額の有無その他の事情により、判断される。

共有物の管理(民法252条本文):共有物を利用しその価値を高めるもの

賃料増額請求権はの行使は、まさに共有物たる賃貸物件の価値を高めるもの⇒持分の価格に従い、過半数で決する必要がある。

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2017年10月17日 (火)

貸金についての支払督促と同保証債務履行請求権の消滅時効の中断効(否定)

最高裁H29.3.13      
 
<事案>
上告人と保証契約を締結していた被上告人が、上告人に対し、同契約に基づき、保証債務の履行を求めた。 

上告人:前記保証契約に基づく保証債務履行請求権の消滅時効を主張
被上告人:上告人に対する貸金の支払を求める旨の支払督促により消滅時効の中断の効力が生じていると主張
 
<事実>
①被上告人は、Aに対し、7億円貸し付けた。
②被上告人と上告人との間で、債務弁済契約公正証書が作成:
上告人が被上告人から借り受けた1億1000万円を、1000万円ずつ11回にわたって分割弁済。
③上告人が 被上告人に対し、Aの前記債務について1億1000万円の範囲で連帯保証する趣旨で作成。

被上告人は、上告人に対し、被上告人が上告人に対して貸し付けた貸金1億1000万円のうち、1億950万円の支払を求める旨の支払督促の申立てをし、上告人に送達。仮執行の宣言を付した支払督促は確定。
 
<判断>
AのX(被上告人)に対する貸金債務についてY(上告人)がXとの間で保証契約を締結した場合において、YがXから金員を借り受けた旨が記載された公正証書が上記保証契約の締結の趣旨で作成され、上記公正証書に記載されたとおりYが金員を借り受けたとしてXがYに対して貸金の支払を求める旨の支払督促の申立てをしたとの事情があっても、上記支払督促は、上記保証契約に基づく保証債務履行請求権について消滅時効の中断の効力を生ずるものではない
 
<解説>
●争点:
貸金の支払を求める旨の支払督促によって、当該支払督促の当事者間で締結された保証契約に基づく保証債務履行請求権について、消滅時効の中断の効力が生ずるか否か。 
 
●訴訟物の異なる請求による消滅時効の中断の問題に関連する最高裁判決 
消滅時効中断効を肯定したもの
最高裁昭和38.10.30:
株券引渡請求訴訟における被告の留置権の抗弁による留置権の被担保債権である立替金債権の裁判上の催告の効力を肯定。

①留置権の主張には被担保債権の存在の主張が必要
②留置権の抗弁が認められると引換給付判決がされることから、留置権の抗弁には被担保債権が履行されるべきであるとの権利主張の意思が表示されているものということができる
but
裁判上の請求に準ずる効力は否定。

最高裁昭和43.12.24:
農地の所有権移転登記手続請求による農地法3条の許可申請手続請求権の裁判上の催告の効力を肯定。

所有権移転の主張は農地法3条の許可を当然の前提としている。

最高裁昭和44.11.27:
抵当権設定登記抹消登記手続請求における被告の被担保債権の主張の抗弁による同債権の裁判上の請求に準ずる効力を肯定。

最高裁昭和45.7.24:
交通事故による損害賠償請求権につき、一部請求の趣旨が明示されていない訴えの提起による、債権の同一性の範囲内における時効中断効を肯定。

最高裁昭和53.4.13:
退職金債権の明示的一部請求による残部について裁判上の催告の効力を肯定した東京高裁の判決を維持

最高裁昭和62.10.16:
手形金請求訴訟の提起による原因債権の裁判上の請求に準ずる効力を肯定。

手形債権は、原因債権と法律上別個の債権ではあっても、経済的には同一の給付を目的とし、原因債権の支払の手段として機能する。

最高裁H10.12.17:
金員の着服を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権を訴訟物とする訴えの提起及び訴訟係属による、基本的な請求原因事実を同じくし、経済的に同一の給付を目的とする関係にある不当利得返還請求権の裁判上の催告の効力を肯定。

最高裁H25.6.6:
明示的一部請求がない場合、特段の事情のない限り、残部について、裁判上の催告の効力を肯定。
but
この判決は、明示的一部請求がされ、債権の一部が消滅している旨の抗弁に理由があると判断⇒判決において債権の総額の認定がされたとしても、残部に係る裁判上の請求に準ずる効力を否定した。

消滅時効中断効を否定したもの 
最高裁昭和34.2.20:
明示的一部請求の訴えの提起による残部についての時効中断効を否定

最高裁昭和37.10.12:
詐害行為取消訴訟の提起による被保全債権の時効中断効を否定

最高裁昭和43.7.27:
明示的一部請求の訴えの提起による残部についての時効中断効を否定

最高裁昭和47.11.28:
建物賃貸借契約の不履行による損害賠償請求権(逸失利益)を保全する仮差押えによる、借家権価格相当の損害賠償請求権の時効中断効を否定

最高裁昭和50.12.25:
貸金訴訟の訴え提起による、これと基本的事実関係を同じくする立替金債権についての時効中断効を否定

最高裁H11.11.25:
建築請負人からの注文者に対する請負契約に係る建物の所有権保存登記抹消登記手続請求訴訟の提起による請負代金債権の消滅時効中断効を否定 
 
<解説>
訴え提起に時効中断の効力を認める理論的根拠
A:訴えが権利者の最も断固たる権利主張の態度と認められることに基づくとする権利行使説(権利主張説、実体法説とも言われ、通説)
B:判決の既判力により訴訟物である権利関係の存否が確定されることに基づくとする権利確定説(訴訟法説) 

本件では、支払督促に既判力がなく、権利確定説からのアプローチは困難。
 
被上告人が上告人に貸し付けた金員の支払を求めることと、被上告人がAに対して貸し付けた金員について上告人に保証債務の履行を求めることは、全く別個のもの
本判決の「上記の貸金返還請求権の根拠となる事実は、本件保証契約に基づく保証債務履行請求権の根拠となる事実と重なるものですらなく」としている部分は、貸金返還請求により、他の訴訟物である保証債務履行請求権についての時効中断効を認めるための拠り所となるものがないことを述べている。 

判例時報2340

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2017年10月10日 (火)

肖像権侵害を理由に、経由プロバイダに対する発信者情報開示請求が認められた事例

新潟地裁H28.9.30      
 
<事案>
氏名不詳者Aは、平成27年8月、X(平成26年生まれの女性)の画像(本件画像)を添付し、ツイッターに自分の孫娘Bがいわゆる安保法制反対デモに連れて行かれ、熱中症で死亡したとの記事を投稿。
本件画像はXの父親がツイッターに投稿していたもの。

X(法定代理人である両親)は、平成27年9月、Aが本件記事を投稿するに当たって使用したアカウント(本件アカウント)にログインした際のIPアドレス(本件IPアドレス)について、仮に開示することを命じる仮処分命令を受けた。

本件IPアドレスが、いわゆる経由プロバイダであるY会社と管理組合との間でインターネットサービスプロバイダ契約が締結されたマンションにおける共有ルータのグローバルIPアドレスであることが判明。

Xは、本件記事に本件画像が添付されたことで肖像権を侵害されたと主張し、Y会社に対し、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(プロバイダ責任制限法)4条1項に基づいてAの氏名又は名称、住所及び電子メールアドレスの開示などを求める本件訴訟を提起。
 
<Yの主張>
①本件画像はすでにウェブサービスで公開されていた⇒肖像権を侵害しない。
②Y会社は本件IPアドレスに係る危機が設置されているマンションの名称及び住所の情報しか保有しておらず、この情報を開示してもAに対する損害賠償請求などの措置を講じることはできない。⇒Xには開示を受けるべき正当な理由はない。
として、同法4条1項1号、2号の要件に該当することを争った。
 
<判断>
Xが包括的ないし黙示的に本件画像をこのように公開することを承諾したとは考え難いし、Aにおいても容易に認識できたはず
②不法行為などの成立を阻却する存在をうかがわせる事情が認められない本件では、肖像権が侵害されたことが明らか

プロバイダ責任制限法4条1項1号の要件が認められる。 

本件アカウント、このアカウントを使用した記事から推測されるAの年齢、勤務先などを考慮すると、Y会社が保有するのは本件IPアドレスに係る機器が設置されているマンションの名称及び住所の情報だけであるが、この情報だけでもAに対する損害賠償請求権の行使のために必要

XにはY会社から開示を受けるべき正当な理由があるとみるのが相当であり、同項2号の要件も認められる。
Y会社にその開示を命令
 
<解説>
●プロバイダ責任制限法4条1項は、同項1号及び2号のいずれにも該当するときは、プロバイダなどの開示関係役務提供者に対する発信者情報の開示請求権を定めている。

立法担当者の解説:
同項1号の「権利が侵害されたことが明らかであるとき」とは、
権利の侵害がなされたことが明白であるという趣旨であり、不法行為等の成立を阻却する事由の存在をうかがわせせるような事情が存在しないことまでを意味する。」
とされている。

●判例は、自己の容ぼう等を撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益があると判示(最高裁H17.11.10)。

撮影ないし公表に同意したが、その公表形態、時期、媒体についての同意の範囲、承諾の要否が争点になったものとして、
①メイクのサンプル用に撮影した女性モデルの顔写真がいわゆる出会い系サイトの広告に無断で使用された事例で女性モデルの肖像権侵害を理由とする損害賠償請求を認めた東京地裁H17.12.16
②学生時代に撮影され、雑誌掲載に同意した女性アナウンサーの水着写真が放送局に就職した後に別の雑誌に無断で掲載された事例で女性アナウンサーの肖像権侵害を理由とする損害賠償請求を認めた東京地裁H13.9.5

本件画像のようなウェブサービスで公開されていた画像についても、写真と同様、公表形態、時期、媒体いかんによっては、同意が及ばず、公表に違法性が認められる場合がある。
本判決は、自分の画像を死亡した他人の画像として記事に添付するとの公表形態に着目して、肖像権を侵害したと位置づけ。

判例時報2338

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2017年10月 9日 (月)

中学生のいじめによる暴行についての損害賠償請求の事案

さいたま地裁越川支部H28.12.22      
 
<事案>
X1及びX1の母X2は、Y10(川越市)が設置する市立中学に在学していたY1、Y4、Y7が、同学年のX1に対し暴行を加え、遷延性意識障害を負わせた

①Y1、Y4、Y7に対し、共同不法行為に基づき、
②前記3名の親権者であるY2、Y3、Y5、Y6、Y8、Y9に対し、監督義務違反を理由として、不法行為に基づき
③Y10に対し、安全配慮義務違反を理由として、国賠法に基づき
それぞれ損害賠償を求めた。 
 
<判断> 
●上記①について
暴行に至る経緯や暴行態様等を認定。Y1、Y4、Y7の加害少年3名は、「タイマン」名下にX1に対し順次暴行を加え、場合によっては共同して暴行を加えることを合意し、かかる合意に基づいてX1に対する暴行を実行。
加害少年3名により一連の暴行とX1の傷害結果についての相当因果関係が認められ、加害少年3名は共同不法行為責任を負う。

●上記②について 
加害少年3名の生活態度、関与した事件及びこれらに対する親権者の指導状況等について認定⇒
①親権者は問題行動について指導を行っており、
②それ以上の措置をとらなければならないような切迫した状態にあったとも認められず、
③X1に対する暴行も予測し得ないものであった。
親権者らの責任を否定

●上記③について 
中学校の教員が負う注意義務
学校教育の場自体においてのみならず、これと密接に関連する生活場面においても、生徒に対して、他の生徒からもたらされる生命、身体等に危険が及ぶおそれが具体的に予見される場合には、被害発生を防止すべき注意義務(結果回避義務)を追う

①教員らは、X1が周囲の生徒から継続的なからかいの対象となっており、このことが暴力を伴う事件いまで発展していたことを認識し得、文科省の発した通知におけるいじめの定義に照らして、これがいじめに当たるものと評価し得た。
②X1と加害少年3名は、いずれも同学年の野球部員であり、学校教育の場と密接に関連する放課後や部活動終了後の帰宅までの間などの生活場面において行動を共にすることが多かった。

教員らは、前記生活場面においても、X1に対するからかいや嫌がらせが暴力を伴う事件にまで発展する事態を予見し得た。

加害少年3名によるX1に対する暴行は、冬休み期間中に学校外の公園で行われたものではあるが、部活動の後、時間を置かず、中学校に近い公園で行われた

学校教育の場と密接に関連する生活場面における事件と評価でき、
教員らにおいても予見可能であった。

教員らのとるべき措置として、いじめに関与した生徒らに対する適切な指導・監督及びX1の母であるX2への働きかけといった具体的な措置を検討した上で、教員らがこうした措置を講じることが可能であり、これによりX1に対する暴行を回避し得たにもかかわらず、教員らは前記措置をとらなかった。
⇒注意義務を怠った過失がある。


①教員らの認識してた事実を前提としてもいじめを認識できた
②X1と加害少年3名との関係等に照らし、暴行を受けるに至ったことにつき、X1、X2に考慮すべき過失があるとは認められない

Y10らの過失相殺の主張を斥けた。 

●損害について 
在宅介護において不可欠な医療機関との連携について具体的な主張立証がないなど、現段階において在宅介護の蓋然性が著しく低く、これを前提とする介護費用等の損害は相当因果関係が認められない

将来の介護費用等について、施設入所を前提とする限度でこれをみとめた。
 
<解説>
学校の教員が負う注意義務については、
学校における教育活動によって生ずるおそれのある危険から児童・生徒を保護すべき義務を負っている(最高裁)ところ、
その範囲については、学校教育活動及びこれに密接に関連する生活関係に限定されるものと解されている。。

加害少年の親権者らの監護義務違反の有無について、
未成年者が責任能力を有する場合であっても監督義務者の義務違反と当該未成年者の不法行為によって生じた結果との間に相当因果関係を認めるときは、
監護義務者につき民法709条に基づく不法行為が成立(最高裁)。

判例時報2338

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2017年10月 8日 (日)

県立高校男子生徒がいじめにより自殺した事案

神戸地裁H28.3.30      
 
<事案>
県立高校の男子生徒Aが、同級生Y1~Y3によるいじめ行為を原因として自殺したと主張して、Aの父X1及び母X2が、
Y1らに対して不法行為に基づく損害の賠償を求めるとともに、
同校クラス担任教師Y5が、いじめ行為を発見・防止すべき義務を怠り、
同校校長Y4がY5を監督すべき義務を怠ったため、
あの自殺を防止できなかったと主張

Y1~Y5に対しては不法行為に基づき、
同校を設置するY県に対しては国賠法1条1項に基づき、
損害賠償を求めた。
 
<判断>
●世上「いじめ」といわれる行為のうち、「自分より弱い者に対して、一方的に、身体的・心理的な攻撃を継続的に加え、相手方深刻な苦痛を感じているもの」との定義に該当する場合に限り「不法行為」を構成する。 
Y1らの行為のうち一部のこういについて共同不法行為であると判断。
 
Y県は、入学許可処分によって発生する公法上の法律関係に基づく付随義務として、
信義則上、学校における教育活動及びこれに密接に関連する生活関係によって生ずるおそれのある危険から生徒を保護し、安全の確保に配慮すべき義務(安全配慮義務)を負っており、
かかる義務は、教師が国賠法上負う職務上の注意義務の内容をも構成する。 

かかる法理は学校生活の場におけるいじめ行為にも妥当することを前提に、
具体的な義務の内容として、
本件いじめ行為の存在を認定することが可能であったY5は、本件いじめ行為の存在を具体的に把握して、これを防止し、適切な措置を講ずるべき注意義務(予防・発見義務)を負い、
Y4は、他の教員にいじめ防止のための適切な指導・助言を与え、生徒の生命身体の安全をはかるべき注意義務(指導・助言義務)を負っていたが、
Y5・Y4ともに各注意義務に違反。
 
Aの自殺との間の条件関係(事実的因果関係)
①Aが、本件いじめ行為を受け続ける中で、自殺以外の解決方法が思い浮かばない心理的な視野狭窄の状態に陥っていたことが推認される
②Aが抱えていた他の問題だけでは直ちに自殺を選択する原因とはなり得ない

Aの自殺は、専ら本件いじめ行為に基因するものとみることに通常人の立場から合理的な疑いを挟む余地はないとして、これを肯定。

Y5及びY4の前記各義務違反とAの自殺との事実的因果関係についても、
①本件いじめ行為の性質、態様等に照らすと、Y5が予防・発見義務を尽くしていたならば、いじめ行為を察知し、然るべき措置を講じることなどにより、Aが自殺に至らなかったであろうことを是認し得る程度の蓋然性が認められる。
②Y4の指導・助言義務が尽くされていれば、Y5も予防・発見義務を尽くしていたものとみるのが自然

いずれも肯定。
 
Aの自殺による損害との間の相当因果関係 
①Aの自殺は、本件いじめ行為の性質等に照らして特別損害に該当⇒相当因果関係を認めるためにはY1ら、Y5及びY4がAの自殺を予見し得たことが必要
本件いじめ行為の態様等のほか、Aの抱えるその他の問題等についてY1ら、Y5及びY4が知る由もなかったことなどの事情

いずれも否定。

Y1ら及びY県の負う損害賠償責任の範囲は、本件いじめ行為によって被ったAの精神的苦痛に対するものにとどまる
 

①Y県は、安全配慮義務の1内容として、学校における教育活動及びこれに密接に関連する生活関係と何らかの関連性がうかがわれる生徒の死亡事故等が発生した場合、遺族対応において、その心情等を著しく傷付けないよう配慮すべき義務(配慮義務)を負う。
②Xらが配慮義務違反であると主張した各行為のうち、Y6が著しく不適切な発言をして配慮義務に違反し、Y4は同校の行使を指導・監督すべき義務を尽くさなかった

Y県に配慮義務違反及び国賠法1条1項に基づく損害賠償責任を肯定。
 

県が債務不履行に基づく損害賠償責任を負う場合であっても、国賠法1条1項に基づく損害賠償を追う場合と同様、公共団体に対し賠償義務が認められれば賠償能力に欠けるところはない⇒公務員個人はその責を負わない。 
 
<解説>
学校事故に関する最高裁昭和62.2.13:
「学校の教師は、学校における教育活動によって生ずるおそれのある危険から児童・生徒を保護すべき義務を負っている」

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2017年10月 7日 (土)

債権譲渡が信託法10条の趣旨に反する行為として無効とされた事例

広島高裁H29.3.9      
 
<事案>
訴外Aの妻の弟であり、Aと同居しているXが、Aから、AのYに対する不法行為に基づく損害賠償又は不当利得返還請求ほか多種の債権を譲り受けたとして、Yに対し、同請求権に基づく支払を求めた。
 
<規定>
信託法 第10条(訴訟信託の禁止)
信託は、訴訟行為をさせることを主たる目的としてすることができない
 
<原審>
本件債権に基づく請求権が成立したとは認められない
⇒Xの請求を棄却。 
 
<判断>
Yは、控訴審において、Xの主張する債権譲渡は、AがXに訴訟行為をさせることを主たる目的としたものであり、信託法10条の趣旨に反すると主張。

債権譲渡であっても、信託法10条の趣旨に反するものは違法であって、無効というべきである。

仮に、AからXに対する本件債権の譲渡が存在するとしても、
①AからXに対する本件債権の譲渡は別件訴訟において、Aの訴訟代理人が辞任したため、別件訴訟についてXに訴訟行為をさせる目的で始まった
②その後にされた本件債権の譲渡を見ると、債権譲渡の提訴ないし訴えの追加という訴訟行為とが時間的に接近している
③Xが債権譲渡を受ける前に、Aとの間で、反対債権の回収方法について協議をしていた事実も認め難い

AからXに対する本件債権の譲渡は、XのAに対する債権回収を目的とするものではなく、Xに訴訟行為をさせることを主たる目的としたものであると認めるのが相当

Aが弁護士でないXに対する本件債権の譲渡は、XのAに対する債権回収を目的とするものではなく、Xに訴訟行為をさせることを主たる目的としたものであると認めるのが相当であり、Aが弁護士でないXに本件訴訟の訴訟行為をさせることは、合理的必要性があるとは認められない。
信託法10条に反する行為と言うべきである。
 
<解説>
信託法10条は、訴訟行為をすることを主たる目的とする信託を禁止。

このような信託を認めると、濫訴のおそれ、弁護士代理の原則を潜脱するおそれがある 
同条が禁止するのは、訴訟行為を主たる目的とする信託であって、たまたま受託者として訴訟行為をさせることがあっても、それが信託の主目的でない場合は無効とはならない。

訴訟を主たる目的とするか否かは、①受託者の職業、②委託者と受託者の関係、③受託者が訴訟を提起するまでの時間的隔たり等、諸般の事情を参酌して実質的に決すべく、また行為の当時を標準として判断すべき

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2017年10月 6日 (金)

債務者が履行を求める債務の内容と債務名義に表示された債務の内容の同一性が問題なった事案

東京高裁H28.8.10      
 
<事案>
本件建物周辺に居住するXらは、本件建物が暴力団の組事務所として使用されることで、Xらの生命、身体の安全などが害される危険がある
⇒Yらに対し、平成14年に、人格権に基づき、暴力団事務所使用差止め等の仮処分を申し立て、その旨認められた。
仮処分決定の内容は、五代目傘下のA及びその他の暴力団の事務所又は連絡場所として使用してはならないこと、Yらは本件建物内を銃砲刀剣類等の保存場所に供してはならないこと等
その後、平成28年に、本件債務名義に基づき、本件間接強制申立てがされた。
 
<争点>
債務名義には五代目傘下のAに本件建物を使用させない義務を表示しているのに対し、間接強制の申立て六代目傘下のAに本件建物を使用させない義務の履行を求めるもの⇒義務の同一性が認められるか。
 
<原決定>
仮処分決定から13年以上経過し、五代目傘下のAと六代目傘下のAとが同一であるとは直ちにいえず、五代目傘下のAは四次組織であったが、六代目傘下のAは三次組織であり、両者は異なる存在。
⇒義務の内容に同一性は認められない
⇒本件建物を使用させない義務について申立てを却下 
 
<判断>
兵庫県公安委員会は、「五代目B組」の名称で代表する物を「C」とする団体について、暴対法に規定する要件を満たす暴力団と指定して官報に告示し、その後に再指定されるに当たっての指定番号に連続性がある
② 「六代目B組」の名称で代表する者を「D」とする団体の指定番号は従前と同様で、再指定も「五代目B組」の更新時期に行われている

代表する者の交替に伴い名称を変更したに止まり、団体として同一であると認められる。

四次組織が三次組織になった点については、B組内での階層的序列の問題同一性の判断を左右するものではない
⇒義務の内容の同一性を認めた。
 
<解説> 
債務名義の表示と現状との間に不一致がある場合、執行機関が解釈によって同一性について判断しなければならない。 
債務の内容として団体の表示が異なる場合において、その団体のの同一性の判断にあたっては、単に団体の名称等の外観のみに依拠するのではなく、団体に係る客観的諸事情によって連続性が肯定できるかを検討すべき。

債務の内容に疑義⇒さらに訴えを提起することが必要となる(最高裁昭和42.11.30)。

判例時報2338

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2017年9月30日 (土)

学校給食の白玉団子で窒息し、脳死状態の後死亡⇒小学校職員の過失(否定)

宇都宮地裁H29.2.2      
 
<事案>
Yの設置するA小学校の給食に出された白玉汁の白玉団子を食べた小学1年生Bが、白玉団子を喉に詰まらせて窒息し、脳死状態となり、約3年後に死亡
⇒小学校職員等に白玉団子の提供方法や誤飲事故の救命措置に過失がないか否かが問題となった事案。 
 
<争点>
①大きさ直系2センチ強の白玉団子を白玉汁の形で提供したことに過失があるか
②本件事故発生後の学校の対応に過失があるか 
 
<判断>
●Bが誤嚥する具体的危険性を予見させる兆候はなかった
⇒A小学校ないし給食センターの過失はない
●教員らは、本件事故を察知してから2分ないし3分後には救急車を要請している⇒救急車の要請が遅れたとの評価はできない。

①職員らは、Bが自立できているうちは背部叩打法(=傷病者を立位又は座位にし、傷病者の上半身を前のめりにし、背後から左右の肩甲骨の真ん中辺りの背中を手掌基部で連続して叩く手法)を試み、Bがぐったりして自立できなくなってからは心臓マッサージと人工呼吸の手続を行うなどしている。
②ハイムリック法(=傷病者の後ろから両腕を回し、みぞおちの下で片手の手を握り拳にして、腹部を上方に圧迫する手法)については、15歳以下の児童の 場合、「内臓損傷、胃内容物の気管内への流入の可能性があることを念頭に入れて処置しなくてはならないとされており、職員らが当時7歳で大柄でもないBに対し、既に行っている背部叩打法のほかにハイムリック法を行うべき義務はない
⇒Yの責任を否定。
 
<解説>
学校給食は、学校に在学するすべての児童又は生徒に対し実施されるものであり、学校給食の安全性につき、安全配慮義務を学校に課している。 

責任肯定事例:
①学校給食で出されたそばを食べ、食物アレルギーで窒息死した事案
②学校給食を食べて食中毒を起こした事案

責任否定事例:
③学校給食中に食器が破損して失明した事案
④養護学校の給食時間に、摂食指導中、2度にわたり誤嚥により呼吸困難に陥り、入院を経て死亡した事案
1歳9か月の幼児がこんにゃくゼリーを食べ、喉に詰まらせて死亡した事案につき、製造販売会社の責任を否定した大阪高裁H24.5.25

判例時報2337

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2017年9月29日 (金)

福島第一原発事故により自主避難した原告の損害賠償請求

京都地裁H28.2.18      
 
<事案>
福島第一原発事故⇒
自主避難等対象区域(中間指針等に基づくもの)内の自宅から家族で自主避難した原告らが、福島第一原発を設置・運営するY(東京電力)に対し、本件事故の結果、X1らが自宅から避難せざるを得なくなった上、X1(父)が精神疾患に罹患し、X1(父)及びX2(母)は就労が出来なくなった

原賠法3条1項に基づいて、
X1は自主避難に伴う費用通院に伴う費用休業損害慰謝料等
X2は休業損害、慰謝料等
X3~X5は、慰謝料等
の損害賠償を求めた。
 
<争点>
本件事故と相当因果関係の認められるX1らの損害の範囲
①避難先で起業が奏功しなかったため更に転居したことが自主避難として合理的であり、これによってX1に生じた損害につきYが賠償責任を負うか
②自主避難を継続する合理性が認められる期間
③本件事故とX1の精神疾患の発症との相当因果関係の有無
④本件事故がX1の精神疾患の発症に寄与した度合い
⑤本件事故と相当因果関係のあるsン買いは、中間指針等により示された損害に限られるか
 
<判断>
●争点①について
X1らが当該転居の主な理由とする避難先で起業を計画したその見通しが立たなかったことについて:
①起業は自主避難者としての合理的行動とはいえない
②起業が奏功しなかった責任は本来的に当人に帰すべきものである
⇒特段の事情のない限り合理的な理由とはいえない。
③本件では同事情は認められない。

再度の転居の理由についても、合理性は認められない
 
●争点②について 
①政府の要請に基づき設置されたワーキンググループの報告書をはじめとした低線量被ばくの危険性に関する科学的知見等を根拠に、年間20mSvを下回る被ばくが健康に被害を与えるとは認められない
②同知見の内容、その周知状況、自主避難等対象区域内のX1らの自宅所在地付近の放射線量の推移、本件における主張関係等を考慮

平成24年8月31日(中間指針等に基づき、18歳以下及び妊娠していた者につき、Yが精神的損害等を賠償する対象期間の終期)以降、X1らが自主避難を続けることに合理性は求められない
 
●争点③について 
PTSDについては、
本件事故が原因で同疾患に罹患したという医師の診断書を排除。
PTSDの診断基準を満たすとは認められない
本件事故との因果関係を否定

うつ病については、精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会が報告している具体的な出来事に係る心理的負荷の強度を掲げた上で、
本件事故に起因してX1は種々のストレス要因にさらされた
本件事故との因果関係を肯定
 
●争点④について 
X1のうつ病の悪化については、自主避難者の行動として合理性を欠くX1の様々な行動等に伴うストレスが相当程度寄与

民法722条2項類推適用により、うつ病に伴う損害の賠償責任を減じている
 
●争点⑤について 
中間指針等は本件事故に基づき賠償すべき損害として一定の類型化が可能な損害項目やその範囲等を示したものにすぎない
中間指針等の対象にならなかったものが直ちに賠償の対象とならないというものではない
 
<解説>
本件事故からの自主避難者によるYへの損害賠償請求を認めた初めての判決。 
自主避難中の再度の転居に自主避難としての合理性がないと判断したが、一般論を述べたものではないと理解すべき。

自主避難中に起業を選択することや、それに伴い生じた損害をYに負担させることが相当とされる事情が認められる場合は、その合理性が認めらる場合もあり得る。
but
①放射線被ばくの危険性が解消されるまでの間暫定的に非難を続けるという自主避難の性質
②起業は失敗により経済的損失を拡大するリスクを内包
③成功しても資本の回収に長時間を要することがある

避難者が起業を選択したことにより生じた損害の賠償責任をYに負わせることが相当とされる事情が認められる場合はそれほど多くないと思われる。

低線量被ばくによる危険性についての判断がただちに自主避難を継続する合理的期間を決定するのではなく、危険性が残存しているといえない場合であっても、危険性に関する情報開示が十分でない状況であれば、自主避難を続けることに合理性は認められる

自主避難継続の合理性の立証責任は自主避難者の側にあることを前提として、本件事案における主張立証状況を踏まえた上での判断

民法722条2項類推適用により寄与度減額による割合的解決。

判例時報2337

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