民事

2023年3月23日 (木)

血栓溶解剤の投与で死亡での報告義務違反が問題となった事案

大阪地裁R4.4.15

<事案> 医療法人であるY1の運営する病院(本件病院)で左人口股関節全置換手術を受けた翌日に、脳梗塞の治療のために血栓溶解剤であるアルテプラーゼの投与を受け、その後死亡

患者の子であるXらが
①本件病院の脳神経外科医師であるY2が禁忌の前記薬剤を投与したこと(本件投与)を理由に、Y1及びY2に対し、不法行為等に基づき、死亡慰謝料等の損害賠償金各約1530万円の支払等を、
本件病院の整形外科医(担当医師)であるY3が死亡診断書に不適切な記載をしたことや異常死の届出をしなかったことを理由に、Y1及びY3に対し、不法行為等に基づき、遺族固有の慰謝料の損害賠償金各10万円の支払等を
Y1の代表者であるY4が医療法上の医療事故の報告をしなかったことを理由に、Y1及びY4に対し、不法行為等に基づき、遺族固有の慰謝料の損害賠償金各5万円の支払等を、
④Y2~Y4に対し、不法行為及びン民法723条の類推適用に基づき、真摯な謝罪を、それぞれ求めたもの。

<判断>
Y3につき、死亡診断書の直接死因欄に脳梗塞と記載するなどしたこと、患者の死亡につき異常死として届けなかったことが、Y1の代表者Y4につき、医療法6条の10第1項に基づく医療事故の報告をしなかったことが、Xらの権利利益を違法に侵害したとは認められない⇒②③の請求を棄却。

<解説>
●死亡診断書の記載
医療行為が終了した後において、医師が医療行為についての顛末報告義務を負うか?
患者が生存⇒準委任契約である診療契約を根拠に(民法645条)を根拠に肯定
患者が死亡した場合⇒実質論からこれを肯定する見解が多数。
A:遺族が相続
B:遺族を受益者とする第三者のためにする契約
C:信義則上の義務

死亡診断書の死因記載欄に不正確な記載を行い、これを遺族に交付した場合の民事上の責任:
死亡診断書は、死因に関する医師の見解を示すものである点において、遺族に対する死因の説明と同じ性質を有する⇒医師において、患者が医療過誤により死亡した可能性を認識し又は容易に認識することができたにかかわらず、死亡診断書に正しい死因を記載せず病死と記載した場合、債務不履行ないし不法杭に該当する旨判断した裁判例(東京地裁)あり。

本判決:
①本件の患者に対し、脳梗塞の治療の経過の中で本件投与がされたものであり、Y3はY2が禁忌の薬剤を投与したことの認識がないまま死亡診断書を作成
②患者の症状の悪化に脳梗塞が影響していないとは言い難い
③遺族への説明経過等

前記死亡診断書の記載についてXらの権利利益を違法に侵害したとはいえない

●異常死届出について
医師は、死体等を検案して異常があると認めたときは、24時間以内に警察署に届け出なければならない(医師法21条)

警察官が犯罪捜査の端緒を得ることを容易にするほか、場合によっては、警察官が緊急に被害の拡大防止措置を講ずるなどして社会防衛を図ることを可能にする役割もになった行政手続法上の義務。
その内容

本判決:
①死亡診断書を作成したY3において死体を「検案」して「異常」と認識したとは認められない
②遺族への説明経過
③Y3はY2が禁忌の薬剤を投与したしたことの認識がないまま死亡診断書を作成

異常死の届出義務を負わない、ないし、違法にXらの権利利益を侵害したとは認められない。

医師法21上に基づく異常死の届出義務は、行政法規上の義務であって、遺族に対する診療契約上ないし不法行為法上の義務といえないとして、死因解明義務を否定した東京高裁の裁判例

●医療法上の医療事故の報告
~医療事故の原因究明及び再発防止を図り、もって医療の安全を確保することにある(医療法第3章)
医療法6条の10第1項の医療事故の報告の懈怠を理由に民事上の責任を追及できるか?

本判決:
法の趣旨、目的等を踏まえ、仮に、病院の管理者による適切な医療事故の報告がされなかったとしても、これをもって、患者の遺族の権利利益を違法に侵害するものとはいえない。

医療機関は、医療法上の医療事故調査によって死因解明する義務を負うものではなく、同義務が診療契約上の債務となる余地はないとして債務不履行責任を否定した東京地裁の裁判例あり。

判例時報2542

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2023年3月21日 (火)

ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)で死亡の医療過誤の事案(肯定)

東京地裁R3.8.27

<事案>
Yが開設する病院で、内視鏡的粘膜下層剥離術を受けたAが、出血性ショックにより手術の翌日死亡⇒Aの相続人であるXらが、執刀医であるD医師には、適応外のESDを実施した注意義務違反がある⇒Yに対し、使用者責任による損害賠償請求権に基づく請求。

<争点>
ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)の適応があったのか否か

<判断>
ESDに係る各ガイドラインによれば、病変が一括切除できる大きさと部位にあることがESDの適応の基本的な考えとされており、潰瘍所見の有無に応じて2ないし3㎝が1つの指標。
but
①Aの病変は9~10㎝大の腫瘍
②術前の造影CTにおいて、以上に太い腫瘍内血管が認められていた
⇒本件ESDにおいては、処置に長時間を要し、多量の出血が見込まれることが事前に予測された。
③Aが手術当時84歳
⇒そのような長時間の施術や出血に耐えうる状況であったとは認め難く、術後の穿孔や出血のリスクもあった。

Aが回復手術よりも内視鏡治療の実施を希望していたことを踏まえても、本件ESDは適応を欠く⇒本件ESDを行ったD医師には、適応を欠く手術を実施したことにつき注意義務違反がある。

<解説>
裁判例

判例時報2542

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2023年3月20日 (月)

懲戒処分が違法⇒国賠請求(一審肯定・二審否定)

東京高裁R4.4.14

<争点>
懲戒委員会が、本件綱紀議決が理由で懲戒事由が認められないとした事項、及び本件綱紀議決が懲戒請求事由として整理した事由と異なる観点の事由について審査したことが、懲戒委員会の審査権限を逸脱したものであって国賠法上違法となるか
②懲戒委員会がした懲戒事由についての事実認定が不合理であって国賠法上違法と評価されるか

<原審>
懲戒委員会において審理の対象とすべき事実は、綱紀委員会の議決において事案の審査を求めることを相当と認められた特定の具体的事実と同一の社会的事実のほか、これに基づく懲戒の可否等の判断に必要と認められる事実の範囲に限られ、これらの事実の範囲を安易に拡張して解釈することは許されない。

<判断>
●争点①
弁護士会綱紀委員会が、懲戒請求の対象となっている複数の事実が事案ないし事件として同一性の範囲にあると認められた上でその一部について懲戒事由に相当すると判断し、議決主文として単に懲戒相当とした場合、
弁護士会懲戒委員会では全ての懲戒請求事由が審査の対象となると解するのが相当

Y弁護士会の綱紀委員会は、1の①から③までのうち、事実が事案ないし事件として同一性の範囲にあると認めた上で、その一部である③の事実について懲戒事由に相当すると判断し、議決主文として単に懲戒相当としたものと認められると認定
Y弁護士会の懲戒委員会が①及び②の各事実についても審査の対象としたことは、弁護士法が定める懲戒の手続に違反したものとはいえない。

◎懲戒請求書の記載を検討して、Y弁護士会の懲戒委員会の整理とした懲戒請求事由は、本件の懲戒請求者の懲戒請求の趣旨に沿うもの。
Y弁護士会の懲戒委員会が、本件綱紀議決が整理した懲戒請求事由とは異なる観点を含む事由について審査の対象としたことが、弁護士法が定める懲戒の手続に違反したものとはいえない。

●争点②
懲戒委員会の議決に基づいて行われた弁護士会の懲戒処分に関する国賠法上の違法性の判断基準について
懲戒委員会が議決を行うについて、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然とこれをしたと認め得るような事情がある場合に限り、当該議決に基づいて行われた弁護士会の懲戒処分に国賠法1条1項にいう違法があったとの評価を受けると解するのが相当。

職務上通常尽くすべき注意義務の具体的内容について、
処分の基礎となる事実関係の認定については弁護士会の裁量の観念を入れる余地はないのに対し、
懲戒の可否、程度等の判断においては、懲戒事由の内容、被害の有無や程度、これに対する社会的評価、被処分者に与える影響、弁護士の使命の重要性、職務の社会性等の諸般の事情を総合的に考慮することが必要

認定された事実関係が「品位を失うべき非行」といった弁護士に対する懲戒事由に該当するかどうか、また、該当するとした場合に懲戒すべきか否か、懲戒するとしてどのような処分を選択するかについては、弁護士会の合理的な裁量にゆだねられている。

懲戒委員会が懲戒の可否及び程度等を判断する上において、全くの事実的基礎を欠くか、又は社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用してされたと評価される判断をしないという注意義務が問題となる。

本件では、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然とこれをしたと認め得るような事情があるとは認められない。

判例時報2542

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2023年3月12日 (日)

地方議会議員の発言による国賠請求

横浜地裁R3.12.24

事案 X(在日コリアン)が、
①鎌倉市議会議員であったY1に対し、鎌倉市議会におけるY1の発言、Y1の議会外におけるSNS条の発言が、Xの名誉を毀損⇒不法行為に基づき慰謝料の支払等を
②Y2(神奈川県鎌倉市)に対しては、国賠法1条1項に基づき慰謝料の支払等を求めた。

<判断>
本件議会内発言については、地方議会議員としての職務としてなされたものであることは明らか⇒Y2が国賠法上の責任を負う

本件議会外発言についても、当該SNSの性質、実名か匿名か・公開か非公開化といった当該投稿の形式、当該投稿の目的、内容、当該投稿に使用されたアカウントの投降履歴等の観点から検討を加えた上で、
本件議会外発言はいずれも、当該投稿の一般の読者の普通の注意と読み方とを基準にすると、地方議会議員としての職務執行の外形を備えていると認められる⇒Y2が国賠法上の責任を負う。

地方議会議員の発言が、その職務とは関わりなく違法又は不当な目的をもってされたものであるなど、その付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情がある場合には、国賠法1条1項にいう違法な行為があったものと解するのが相当。

「私、特に出身が出身なだけに本当に怖い。」との発言については、前後の文脈からして、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、Xが在日コリアンの出自を持つことから、Y1は強い恐怖心を感じるという意味の発言

在日コリアンに対する差別意識を前提に、在日コリアンというXの出自を理由にXを不当に貶める差別的発言と認められ、前記特別の事情がある。
⇒国賠法上の違法性を有する。

本件議会外発言のうち、Xの行為に対して否定的評価を与えるのを超えて、Xがその氏名からして日本人ではないというその属性自体をも否定的評価の根拠の1つとしていることが明らかであるものについては、Y1は、SNSにおいて広報活動をするに当たって、地方議会議員として職務上当然に尽くすべき注意義務を尽くさなかったといえる。
⇒国賠法上の違法性を肯定。

<解説>
●地方議会議員のSNSにおける発言の職務行為関連性

判例:
公務員がその職務を行うについて他人に損害を与えた場合の公務員の個人責任を否定し、
国賠法1条1項の「職務を行うについて」の意義については、客観的に職務の外形を備えている場合に職務行為関連性を認める外形標準説を採用

●地方議会議員の議会内発言の国賠法上の違法性

●地方議会議員の議会外発言の国賠法上の違法性
本件議会内発言とは異なり、本件議会外発言については、Y1が地方議会議員として職務上当然に尽くすべき注意義務を尽くしたかどうかを問題にしている

議会内発言と議会外発言とで判断基準を使い分けている。

議会内発言と議会外発言では、その要保護性におのずと違いがある。
本判決は、「真実性・相当性の法理」に言及していない。

①「真実性・相当性の法理」は、報道の自由や個人の表現の自由と名誉毀損により害される利益の調整を図る基準であるところ、本件議会外発言は、公務員の広報活動としてなされたもので、報道機関による表現や私人によるSNS上での発言とは場面が異なる
②本件では、日本人ではないというその属性自体に否定的評価を加える発言が問題となっているところ、「真実性・相当性の法理」ではその違法性の実質を捉えることが難しい

判例時報2541

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フランスでの逮捕状と親権者選択

東京家裁R4.7.7

<判断>
・・・・フランスの裁判所が「監護責任を持つ者からの子どもの略奪」などの罪状でXについて逮捕状を発布し、Xが国際指名手配を受けている点については、
Xが現に子らを養育監護し、子らの監護状況について特段の問題がみられない

逮捕状が発布されているとの一事をもって、直ちにXが子らの親権者として不適格であるということはできない。

<解説>
● 親権者の指定は、子の利益を基準としてされなければならない(民法819条6項参照)
問題は、父母のいずれを親権者とすることが子の利益に適うか?
諸事情を比較考慮して総合的に判断。
子を奪取した行為に違法性がある場合には、奪取者の親権適格に問題があり、奪取親の下で安定した生活を送るようになっていても、それは奪取の結果であって追認されないと判断された決定例もある。
(東京高裁H11.9.20)
子の奪取が違法性を帯びるかどうかに関し、一般的には、別居に至る経緯や別居時の態様(子に対する有形力の行使の有無)などを総合考慮して判断。

● 夫婦の一方が子を連れて別居をした場合、別居後の安定した生活を重視⇒「連れ去り得」になるとの指摘。
本件でも、非監護親と子らとの面会交流が一切実施されていない。

本判決:
面会交流が実施されていないことは問題である。
but
共同親権を認めていない現行法の下では、この点は、本件訴訟とは別に、XとYが協議をし、協議が整わないときには、調停及び審判の手続を経るなどして、子らの福祉に適うところを慎重に模索して、これを実施していくのが相当。

本判決:
子の奪取が違法であるとまではいえない事例では、監護親を親権者として指定した上で、監護親と非監護親が協議をし、協議が整わないときには、調停及び審判の手続を経るなどして面会交流を実施することが相当であるとの方向性を示した。
but
現実には、監護親が非監護親と子との面会交流の実施に積極的でない事案も多く見受けられる。

判例時報2541

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マンションの規約違反⇒障害者グループホームとしての利用の禁止と弁護士費用等の請求(認容)

大阪地裁R4.1.20

<事案>
マンション管理組合の管理者である原告が、マンションの住戸を当該住戸の区分所有者から賃借している被告(社会福祉法人)に対して、被告が当該住戸を障害者グループホームとして利用していることが、マンションの専有部分を住宅以外の用途に利用することを禁止しているマンション管理規約(「本件管理規約」)の規定に違反しており、区分所有者の共同の利益を侵害。

区分所有法57条4項、1項に基づき、当該住戸をグループホームとして利用することを禁止するよう求めるとともに、本件管理規約に基づき、提訴に要した弁護士費用等合計85万430円及び遅延損害金の支払を求めた。

<判断>
●争点1
専有部分での住宅以外の利用を禁止している本件管理規約の趣旨及び目的

区分所有者及び占有者が許容されている「住宅」としての専有部分の使用は、生活の本拠であることに加えて、客観的な使用対象が、本件管理規約で予定されている建物等の管理の範囲内であることを要する

被告による障害者グループホームとしての使用態様は、消防法等の関連法令によって、障害者グループホームが入居していない場合を比較して、消防設備の設置や点検といった義務等を負うことになり、かつ本件管理規約上も障害者福祉施設等の入居について許容する規定がいない
本件管理規約で予定されている建物等の管理の範囲を超えるものであるとして、本件管理規約に違反する。

●争点2
区分所有法6条の「区分所有者の共同の利益」に反するかどうかは、当該行為の必要性や他の区分所有者の被る不利益の程度等を総合考慮して判断すべき。
①被告が、本件管理規約に違反している
②マンション管理組合が点検費用等に要する金銭的負担等
障害者グループホームが有する公益性の高さを考慮してもなお、区分所有法6条の「区分所有者の共同の利益」に反する。
原告の被告に対する専有部分の障害者グループホームとしての利用の停止請求を認容

●障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律8条1項の「不当な差別的取扱い」及び障害者基本法4条1項の「障害を理由」とする「差別」に該当しない。

●弁護士費用等。

判例時報2541

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X(適格消費者団体)のYら(消火器のリース業を営む会社)に対する訴訟。

仙台高裁R3.12.16

<判断>
消費者契約法12条3項に基づく請求:
事業者であるYらが、消火器の設置・使用ないし保守点検に関する継続的契約にあたる消費者契約を締結するに際し、不特定かつ多数の消費者との間で、同法8条1項1号に規定する事業者の損害賠償責任を免除する条項又は同法10条に規定する消費者の利益を一方的に害する条項にあたる消費者契約の条項を含む消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を行うおそれがある
これらの行為の停止又は予防として、これらの条項を含む意思表示を差止め、前記の停止または予防に必要な措置として、前記条項が記載された契約書用紙の破棄を命じた。

パッケージリース条項①及び②は、いずれも消費者契約法8条又は10条により無効となる条項が多数含まれ、これに関連する契約条項が全体として一体のものとして、消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項となり、信義則に反して消費者の利益を一方的に害する契約条項となっている
⇒同法10条により、契約条項全部が無効。

特定商取引法58条の18第2項2号に基づく請求については、
契約が解除されたときにリース料残余相当額を支払わなければならない旨を定めた特約が、同法10条1項3号及び4号の規定に反する
⇒行為の停止または予防として前記特約を含む契約の申込み又はその承諾の意思表示を差止め、前記の行為の停止又は予防に必要な措置として前記特約が記載された契約書用紙の破棄を命じた。

特定商取引法58条の18第1項に基づく請求については、
・・勧誘行為は、顧客が当該契約の締結を必要とする事情に関する事項(同法6条1項6号)又は当該契約に関する事項であって顧客の判断に影響を及ぼすこととなる重要なもの(同項7号)について、不実のことを告げる行為に当たる
・・・勧誘行為は、役務の種類及びこれらの内容(同法58条の18第1項1号イ)の不可欠の要素となるリース物件の種類及びその性質につき、故意に事実を告げない行為(同項2号)にあたる

前記勧誘行為の停止又は予防として前記勧誘行為を差止め、
前記の行為の停止又は予防に必要な措置として前記勧誘行為を記載した文書等の破棄を命じた。

景表法30条1項に基づく請求については、
同項1号に規定する優良誤認表示、または同項2号に規定する有利誤認表示にあたると判断

これらの表示をする行為の停止又は予防として前記表示を差し止めた。

<解説>
消費者契約法39条1項に基づき、消費者庁のホームページに、判決の概要、差し止め請求に係る相手方の名称等が公表
差し止命令については、侵害態様の変更による強制執行回避への対応策が、特に知財侵害訴訟の分野において重要な課題して認識されて、実効的な救済を確保する観点から、包括的ないし抽象的な差止命令の必要性が論じられている。

本判決:パッケージリース契約条項①及び②について、契約条項が全体として一体のものとして信義則に反し、消費者の利益を一方的に害する契約条項となっていると評価⇒消費者契約法10条により契約条項全部が無効になると判断。

契約条項全部の使用を差し止める包括的な差止命令により、実効的な救済を志向した判断として、実務上参考となる。

判例時報2541

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2023年3月 7日 (火)

Yの規制権限不行使⇒重い管理区分に相当する病態発症の認定⇒国賠請求(肯定)

岐阜地裁R3.12.10

<事案>
AはY(国)が規制権限を適切に行使しなかったために、同工場における作業中に石綿粉じんに暴露し、じん肺法における健康管理の管理区分管理3に相当する石綿肺を発症⇒かかる規制権限不行使は国賠法1条1項の適用上違法⇒Yに対し、慰謝料等の支払を求めた。

<争点>
Aとの関係において、Yの規制権限不行使が国賠法1条1項の適用上違法と評価されることに争いはない。
Aが管理区分管理2に相当する石綿肺を発症したことに関するAの損害賠償請求権は、本件訴訟提起時点(令和1年)で除斥期間経過。
Aが遅くとも平成19年2月23日の時点で管理区分管理3に相当する石綿肺を発症していたと認められるか?

<判断>
B医師の意見について、
①B医師は石綿関連疾患の診断に関して十分な専門的知識と経験を有していること
②B医師の意見は石綿肺の診断において通常用いられる方法によってAの胸部エックス線写真及び胸部CT画像を読影した結果を報告するものであって、胸部CT画像上の所見と整合することに照らし信用性が高い
③Y提出にかかる医師の意見書(B医師と異なる意見を示すもの)によってもその信用性は減殺されない

B医師の意見を採用してXらの請求を認容。

<解説>
● 最高裁H16.4.27:
じん肺のように「身体に蓄積した場合に人の健康を害することとなる物質による損害や、一定の潜伏期間が経過した後に症状が現れる損害のように、当該不法行為により発生する損害の性質上、加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合には、当該損害の全部又は一部が発生した時が除斥期間の起算点となると解すべきである」とした。

同判決の調査官解説では、「損害の全部又は一部が発生した時」の解釈につき、管理区分管理2ないし管理4に相当する病状に基づく各損害の質的な相違を根拠として「最終の行政上の決定時」を消滅時効の起算点と認めた最高裁H6.2.22の趣旨が妥当するとされている。
前掲最高裁H6.2.22も、行政上の決定を損害発生時の基準としているが、これは、事案の性質上、行政上の決定をもって当該管理区分に相当する病状が発現したと認めるほかなかったことによるものと解され、行政上の決定がなくとも、管理区分決定の際に求められる程度の医学的証明があれば、損害の発生が認められるという考え方を否定するものではない。

● 証人の信用性の判断は自由心証主義の機能する場面
but
いわゆる鑑定証人に当たるB医師が、Aの石綿肺の症状の程度について、経験科学的・臨床的に述べる内容については、鑑定意見の場合に準じて、公正さや能力に疑いが生じた場合や、前提事実の誤り等診断の前提条件に問題があるような場合を除き原則として、その意見は十分に尊重すべきといえる。
(刑事事件における鑑定意見の評価方法について判示した最高裁H20.4.25)

判例時報2540

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2023年3月 6日 (月)

自衛官の自殺⇒安全配慮義務違反(肯定)

熊本地裁R4.1.19

<事案>
陸上自衛隊の陸曹候補生過程に入港し、共通教育中隊に配属中に自殺したA
父母であるXらが、Aの自殺の原因は、Aの指導に当たった自衛官であるY1及びY2による暴力的、威圧的ないじめないし嫌がらせ行為にある

Y1及びY2に対しては民法709条に基づき
国に対しては民法715条、国賠法1条又は債務不履行に基づき
それぞれ損害賠償金及び遅延損害金を支払うよう求めた。

<判断>
●Y1及びY2がAに対して行った行為の内容
AがY1から指導を受けているところを目撃した他の学生の供述や、Y1からの指導についてAから相談を受けていた他の学生の供述に基づき、Y1がAに対して指導中に「殺してやりたい」というような発言をしたことなどを認定。

●国の安全配慮義務違反の有無
国は、学生が教育訓練を受け、隊舎等の施設内において生活を送るに当たり、共通教育中隊の組織、体制、設備を適切に整備するなどして、学生の生命、健康に対する危険の発生を防止する安全配慮義務を負っている。
Y1は、Aが所属していた第1区隊の区隊長かつ学生全体の躾教育を担当する役割を担う同期生会指導部の指導幹部であり、Y2も学生全体の教育を担当する指導陸曹であった
共に国の履行補助者としてAの生命、健康に対する危険の発生を防止する義務を負っていた
・・・不適切な側面があったものの直ちに安全配慮義務違反に該当するとはいえない。
but
Y2がAに対する指導の際にその胸倉を掴んでゆすったこと、Y1がその状況を見ていながらその暴行を制止しなかったことは、共に安全配慮義務違反に違反
Y1が業務ができていない者としてAに全学生の前で手を挙げさせたことは、Aに自己否定感や羞恥心を抱かせるもので、安全配慮義務に違反する。
Y1がAに対し、お前のような奴は殺してやりたいくらいというような発言をしたことは、学生に対する指導として何ら必要性がなく、社会通念上許されない暴言を述べたものにほかならず、安全配慮義務に違反する。

●安全配慮義務違反とAの死亡との間の相当因果関係
Aが共通教育中隊に配属後、新しい環境や業務に対する不安や、初対面の上官に対する緊張感のストレスを感じていたと考えられ、Y1による不適切な指導によって自信を喪失する中で、Y1及びY2から安全配慮義務に違反する行為を受けたもので、Aの遺書の記載や医師による診断も考慮
安全配慮義務違反とAの死亡との事実的因果関係は認められる

①AがY1及びY2から指導を受けていたのは2日間のみで、そのうち安全配慮義務に違反する指導を受けたのは3時間弱という短時間にとどまり、
②Aが急速に精神的不調をきたして自殺に至っていることなどに照らせば、Y1及びY2がAの自殺を予見することは困難
安全配慮義務違反とAの死亡との間に相当因果関係は認められない

●国家賠償請求及びY1及びY2の不法行為責任
Xらが本件訴えを提起した時点で、国に対して国賠法1条1項に基づく損害賠償請求をすることが可能な程度に損害及び加害者を知った時点から3年が経過⇒時効消滅

Y1、Y2の行為は、いずれも共通教育中隊の教官としてAに対して指導する意図で行われたものであり、指導の一環として行われた外形を有している

公権力の行使に当たる公務員であるY1及びY2がその職務を行うについてしたものであるといえ、国賠法1条の適用がある
⇒Y1及びY2各個人は民法709条に基づく損害賠償責任を負わない

判例時報2540

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インターネットオークションでの売買契約の成立

横浜地裁R4.6.17

<事案>
Xは、インターネットオークションで、Yが出品した腕時計を9万2000円の価格で入札⇒Xは、本件時計の落札に同意するか確認され、これに同意⇒ネット上の決済サービスで本件時計の代金(送料含む)を支払い、Yに連絡。
Yは、その直後に、Xによる落札価格では売れない旨をXに連絡し、Xにつき落札者から削除。

Xが、Yに対し、債務不履行に基づく損害賠償請求として、逸失利益10万7480円の損害賠償を請求。

<判断>
●本件オークションに適用される約款、ガイドライン、利用者向けの解説(ヘルプ)ページ等には売買契約の成立時期を明記した規定は存在しない。
Yが、本件時計を出品した時点で、送料は落札者負担、送料は全国一律520円、支払手続から1~2日で発送する旨提示していたこと、本件時計の落札者は、インターネット上の決済システムなど複数の方法から自ら選択して落札金額に送料を足した額を即時に支払うことが可能であったこと
Yと本件時計の落札者との間で、落札後に取引条件について交渉することは予定されていなかった。

Yが、入札可能期間が終了するまで本件時計の出品を取り消さず、さらに、「補欠を繰り上げる」が選択されている状態で、・・・補欠落札者となったXが、本件時計の落札に同意したという事実関係
遅くとも、Yが、Xを落札者に繰り上げる旨の操作をした時点で、YからXに対し売買契約の申込みの意思表示があったと解することができ、Xが落札に同意したことで売買契約に承諾する意思表示があり、XとYとの間で、売買契約が成立したものと認めるのが相当。

●Yによる売買契約の申込の意思表示は法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要な錯誤に基づくもの
but
Yに重過失があった⇒Yによる意思表示の取消しを認めなかった
⇒本件時計の価値相当額15万円からXが支払うはずであった9万2520円を控除した残額5万7480円の損害賠償請求を認容。

<解説>
売買契約は申込と承諾の意思表示の合致により成立。
インターネットオークションにおける取引の流れ
①出品者が商品を出品
②一定期間の入札期間に、参加者が入札を行う
③最高値を表示した入札者が落札
④落札後、送料等の確認をした後、落札者が代金を支払う
⑤出品者が商品を発送
⑥落札者が商品を受け取った後、出品者が代金を受け取る
③④が売買契約の成立時点とされる可能性があるが、
さらに具体的には、個別事案における、当該インターネットオークションのシステムやサービスの内容、サービスに適用される利用規約等の内容、出品者及び落札者が行った取引の態様や具体的な経過を考慮して、出品者と落札者の合理的意思を解釈して決することとするしかない。

本判決:
ンターネットオークションにおける「取引のどの過程のどの段階で(売買)契約が成立するかについては、個々の取引の規定、態様、経過等を考慮して当事者の合理的意思解釈をする必要がある」という一般論を述べた上で、具体的事実関係を検討して、結論を導くという手法。

判例時報2540

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

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