民事

2017年12月 5日 (火)

介護施設利用者の転倒による頭部負傷事故と事業者の損害賠償責任(肯定)

大阪地裁H29.2.2      
 
<事案>
Aは、Y施設で、介護事業を利用⇒深夜にトイレに行こうとして転倒して頭部を負傷し、急性硬膜下血腫を発症、その後、それを原因として呼吸不全により死亡。 
Aの相続人であるXらは、前記事故は、Aが以前に転倒したことがったにもかかわらず、Y施設の職員が転倒防止措置を実施せず、Aに対する安全配慮義務を怠った過失により発生⇒Yに対し、債務不履行又は使用者責任に基づき損害賠償を請求。
 
<争点>
①Y施設の職員は、Aが再三の注意を守らずに1人でトイレに行こうとすることを予見することができたか
②Yは、Aの転倒を防止する措置として離床センサーを設置することを義務付けられていたか 
 
<判断>   
Yは、Y施設の利用契約に基づき、Aに対し、その生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)がある
 
●予見可能性について 
①Aは、パーキンソン症候群等の影響で、歩行の際はふらつきによる転倒の危険が高い状態にあった
②Aは、本件事故のわずか19日前にも本件施設において1人でトイレに行こうとして転倒する事故を起こしていた
③Aは本件施設の利用当初から1人でトイレに行こうとしており、Y施設の職員からはナースコールで職員を呼ぶように注意をされていたにもかかわらず、それを聞き入れることなく、1人でトイレに行っていた

Yの施設の職員は、Aに対して注意をしていたとしても、Aがそれに従うことなく1人でトイレに行こうとすること、その際に転倒する危険が高いことを予見することができた
 
●結果回避義務について 
①Yが高齢者向けの介護事業を営む事業者
②既にY施設で離床センサーを導入済みであった
③転倒防止の予防のために離床センサーを設置することについての当時の知見

Yは、本件事故の当時、自らナースコールを押そうとしない利用者に対して離床センサーを設置することが転倒予防に効果があることについて知見を有することを期待することが相当。

①Aは自らナースコールを押そうとしない利用者であり、離床センサーの設置が転倒予防のために望ましい者
②Y施設で離床センサーは利用されていない状態であってその設置に特段のコストは必要なく、Y施設の職員は離床センサーを設置すればAが1人でトイレに行こうとすることを察知し、転倒しないように見守り等を行うことができた

離床センサーを設置することが義務付けられていた。

●介護施設には人的物的体制に限界があるとしても、Aには転倒歴がある等の転倒の危険が高い者であったのに、特段の再発防止策を講じることなく、聞き入れてもらえないことが分かっている注意を繰り返していただけで、安全配慮義務を尽くしていたと評価することはできない

判例時報2346

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2017年12月 4日 (月)

遺留分減殺請求と代襲相続人の特別受益

福岡高裁H29.5.18      
 
<事案>
被相続人A(平成23年7月死亡)の二女であるXが、B(Aの長女。平成16年2月死亡)及びY1(Bの長男・代襲相続人)に対するAの贈与によって、Xの遺留分が侵害されている⇒Y1及びY2(Bの二男・代襲相続人)に対して遺留分減殺を求めた。 

Aが、
①Bの生前である平成元年12月、Bに対して土地13筆(本件土地1)を、
②平成3年5月、B及びY1に対して土地2筆(本件土地2)の各共有持分2分の1を、
③Bの死亡後である平成16年4月にY1に対して土地3筆(本件土地3)をそれぞれ贈与。
(Bの遺産分割では、Y1がBの遺産の全てを取得し、Y2は代償金のみを取得)

XがY1及びY2に対して遺留分減殺を求めた。
 
<争点>
①被代襲者(B)が生前に被相続人(A)から受けた特別受益が、代襲相続人(Y1、Y2)の特別受益に当たるか?
②推定相続人でない者(Y1)が被相続人(A)から贈与を受けた後に、被代襲者(B)の死亡によって代襲相続人として地位を取得した場合に、当該代襲相続人(Y1)の特別受益に当たるか? 
 
<判断>
●争点①について:
被代襲者についての特別利益は、その後に被代襲者が死亡したことによって代襲相続人となったY1及びY2との関係で特別受益に当たる

特別受益の持戻しや代襲相続は相続人間の公平を図る制度であって、代襲相続人に被代襲者が生存していれば受けることができなかった利益を与える必要はない
②被代襲者に特別利益があればその子等である代襲相続人も利益を享受しているのが通常

●争点②について
相続人でない者が、被相続人から贈与を受けた後に、被代襲者の死亡によって代襲相続人としての地位を取得したとしても、前記贈与が実質的には相続人に対する遺産の前渡しに当たるなどの特段の事情がない限り、特別受益には当たらない

他の共同相続人に被代襲者が生存していれば受けることができなかった利益を与える必要はない
②被相続人が他の共同相続人の子らにも同様の贈与を行っていた場合の不均衡
but
本件では、相続人であるBへの遺産の前渡しとして自宅の敷地である本件土地2を贈与するにあたって、その持分2分の1をBの子のY1名義にしたものにすぎず、実質的にはBへの遺産の前渡しとも評価しうる特段の事情がある

前記贈与はY1の特別受益に当たる

●最後に贈与された本件土地3から遺留分減殺をすべきところ、
Y1が価額弁償を申し出て、XもY1に対して価額弁償金を請求
⇒原判決を取り消し、Y1にXに対する価額弁償金の支払いを命じた。 
 
<解説>
被代襲者が生前に受けた特別受益が、被代襲者の死亡後に代襲相続人となった者の特別受益に当たるか?
A:積極説(通説)
特別受益制度では共同相続人間の公平を重視すべきところ、代襲相続人は被代襲者と実質上同一の地位にあり、被代襲者の特別受益があれば、その直系卑属である代襲相続人も実質的に利益を受けていると考えられる。 

相続人でなかった者が被相続人から贈与を受けた後に、被代襲者の死亡によって代襲相続人としての地位を取得した場合に特別受益に当たるか?

A:消極説(通説)

推定相続人の資格を持たなかった代襲相続人に対する贈与は、相続分の前渡しとはいえない
②他の共同相続人に代襲がいなかった場合以上の利益を与える必要はない

B:積極説も有力
受益者は相続開始時に共同相続人であれば足り、受益の時期にかかわらず持ち戻しの対象とすべき

特別受益は共同相続人間の公平の維持が目的

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2017年12月 1日 (金)

ゴルフ会員権の売買契約について共通の錯誤に陥った事案

大阪高裁H29.4.27      
 
<事案>
Xは、平成27年2月3日、Yから本件各会員権を購入する売買契約を締結。
その後の同年4月23日、Yが作成した退会届をαの運営会社に提出して、本件a会員権の退会手続き⇒同年6月1日、前記運営会社から、Y名義の預金口座に、本件α会員権の預託金6000万円が振り込まれた。
⇒Xは、Yに対し、不当利得返還請求権に基づき、預託金6000万円から未払い会費15万5520円を控除した5984万4480円の支払を求めた。

<Yの主張>
本件各会員権の売買価値について、XとYとが共通して錯誤に陥っていた
⇒Yぬい錯誤の重過失があったとしても、本件各会員権の売買契約の無効を主張できる。 
 
<判断>
共通錯誤の場合には、取引の安全を図る必要はなく、表意者のYの保護を優先してよい⇒民法95条ただし書は適用されず、表意者に重大な過失があっても、錯誤無効を主張することができる。
Xも、本件各会員権ば売買的価値が6000万円以上であるのに、これが430万円を著しく超える価値を有するものではないと認識しており、Yと共通の錯誤に陥っていたと認めるのが相当。

判例時報2346

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2017年11月30日 (木)

妊婦の死亡⇒医療過誤で過失・因果関係肯定事例

東京高裁H28.5.26      
 
<事案>
帝王切開で胎児を出産する手術⇒出産(死産)後ショック状態に陥り、分娩から約4時間後に死亡⇒Aの夫X1と母X2は、手術を担当した医師らは、常位胎盤想起剥離発生時における産科DIC防止に関する過失、産科DIC及びショックに対する治療に関する過失、出血量チェック及び輸血に関する過失、弛緩出血への対応に対する過失、転送義務違反があり、Aはこれらの過失によって死亡⇒
Y1に対して選択的に診療契約上の債務不履行又は不法行為(使用者責任)に基づき、また担当医師であったY医師らに対して不法行為に基づき損害賠償を請求。
 
<一審>
Y医師らは、Aが常位胎盤想起剥離を発症したことを把握しながら、その後進展する可能性のある産科DICに対する治療の準備が遅れた結果、十分な抗ショック療法及び抗DIC療法を行うことができなかった過失がある。
but
Aは羊水塞栓症を発症し、子宮を主体とするアナフィラキー様のショックにより、血管攣縮、血管透過亢進及び浮腫を生じて、その後産科DICも併発したことにより死亡。
保険手術当時、このような症状に対する有効な治療法は確立されておらず、かつ、Y病院においてはICUによる集学的管理・治療も行うことができなかった。

仮に、Y医師らが適切に抗ショック療法や抗DIC療法を実施していたとしても救命でいたとは認められない。

Y医師らの過失とAの死亡との間には相当因果関係が認められないとして、請求棄却
。 
 
<判断>
Y病院におけるAの診療経過、医学的知見などについて詳細に認定⇒Aについては、出血性疾患である常位胎盤早期剥離を発症し、その後に重篤な産科DICを発症して死亡。 
常位胎盤早期剥離の中でも胎児死亡例は極めて産科DICを伴いやすく、産科DICは重篤化すると非可逆性になり生命が危険となる

産科DICスコアを用いた母体の状態把握を行い、産科DICを認める場合には可及的速やかにDIC治療を開始すべきであった。
but
Y医師らは産科DICスコアのカウントを全く行わず、産科DICの確定診断に向けた血液検査等も実施しなかった。

産科DIC防止に関する注意義務に違反。

手術中の出血量の把握についても十分に行わず、
少なくともショックインデックスを用いた出血量の把握を行うべきであったとにそれを行わず、
適時適切に輸血を実施しなかった注意義務違反もある。
症例報告や医学的知見
Aの死亡とY医師らの注意義務違反とAの死亡の結果との間には相当因果関係が認められる。
 
<解説>
周産期における妊婦の突然死事例に関しては医療機関側から救命不可能な羊水塞栓症であった旨のの主張がされることがしばしば見られ、実務的にも過失や因果関係に関し困難な立証が必要となる。 
本件においては、患者側から国内外における症例報告や医学論文をもとに産科DICの症例や救命可能性について相当充実した立証活動が行われたことがうかがわれる。

判例時報2346

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2017年11月25日 (土)

固定資産税等の賦課徴収行為が国賠法上違法とされた事例・消滅時効の起算点

東京地裁H28.10.26      
 
<事案>
Yの都税事務所は、平成26年10月、Xに対し、過納付があった旨を通知し、平成27年2月、平成22年度分から平成26年度分の過納付分の合計額を還付

Xは、平成17年度から平成21年度の固定資産税等の過納付分に係るYの賦課徴収行為が国賠法1条1項の適用上違法である旨主張し、国賠請求。 
 
<判断>
●国賠法上の違法性
公権力の行使に当たる公務員の職務上の行為が国賠法1条1項の適用上違法と評価されるのは、
当該公務員が、当該行為によって損害を受けたと主張する特定の国民との関係において、職務上の法的義務として通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と当該行為を行ったと認め得るような事情がある場合に限る」との一般論。

固定資産税等においては
①地方税法上、申告納税方式ではなく賦課課税方式が採用されており、課税庁は、納税者とともにする実地調査、納税者に対する質問、納税者の申告書の調査等のあらゆる方法により、固定資産評価基準に従った公正な評価を行って価格を決定する義務を負っている
諸規模住宅用地の特例及び市街化区域農地の特例の適用につき、土地所有者の申告が要件ではない

Yの評価担当職員は、小規模住宅用地及び市街化区域農地の所有者からの申告の有無にかかわらず、各所有者との関係で小規模住宅用地の特例及び市街化区域農地の特例の各要件の有無を調査し、同特例が適用される土地には、同特例の基準に従って算出した価格を評価すべき職務上の注意義務を負っている。

本件の事実関係の下では、同注意義務違反が認められる
 
●消滅時効の主張 
A又はXが、各納付の時点で本件土地の固定資産税等が小規模住宅用地の特例及び市街化区域農地の特例の適用により減額されていないことを知ったのであれば、過納付となる金額が相当多額になることも知り得るものであることが推認⇒同人らは、直ちに本件土地が小規模住宅用地及び市街化区域農地であることをYに申告して過納付金の返還を求める等の対応をするものといえる
but
平成26年10月頃にYからの連絡が来るまで何等の対応をしていない

Yの主張する時点において、Yに対する国賠請求が事実上可能な状況の下に、その可能な程度において損害を知ったということはできない

●地方税法及び都税条例が住宅用地等の所有者に一定の申告義務を負わせたのは、固定資産税等について賦課課税方式を採用しつつ、固定資産の適正な評価・認定を行うに当たってすべき調査等を補完し、その過誤の防止に資するため

Xの不申告の事実が過失相殺において考慮すべき事情
Xの損害額から2割を控除するのが相当。 
 
<解説>
民法724条の「加害者及び損害を知ったとき」につき、
「加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもとに、その可能な程度にこれを知ったときを意味する」(最高裁昭和48.11.16) 

遅延損害金の起算点についても問題となっており、この点については、各納付時点としている。

判例時報2345

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2017年11月24日 (金)

死刑確定者の「懸賞応募券」の郵送願い・差し入れされた写真ネガフィルムの送付者への返送・領置願いの不許可の違法性(違法)

名古屋高裁H29.4.13      
 
<事案>
名古屋拘置所に収容中の死刑確定者Xは、
①自分で購入した食品などの包装ビニール袋に付いていた「懸賞応募券」を親族に対して郵送することを願い出た⇒拘置所長がこれを不許可とした
知人が差し入れした「写真のネガフィルム」について、知人に引き取りを求めたうえ、Xが同フィルムを領置するよう願い出たのに対して拘置所長が不許可とした

Y(国)への国賠請求
 
<Yの主張>
①「懸賞応募券」は、いわゆる「自弁物品」には該当しない⇒この応募券の郵送願いを不許可にしたことは適法
②「ネガフィルム」は「釈放の際に必要と認められる物品」に該当しないし、被収容者が閲覧することができる書籍等に該当しない⇒送付者に引き取りを求め、領置願いを不許可にしたことは適法 
 
<規定>
刑事収容法 第48条(保管私物等)
刑事施設の長は、法務省令で定めるところにより、保管私物(被収容者が前条第一項の規定により引渡しを受けて保管する物品(第五項の規定により引渡しを受けて保管する物品を含む。)及び被収容者が受けた信書でその保管するものをいう。以下この章において同じ。)の保管方法について、刑事施設の管理運営上必要な制限をすることができる。

刑事収容法 第50条(保管私物又は領置金品の交付)
刑事施設の長は、被収容者が、保管私物又は領置されている金品(第百三十三条(第百三十六条、第百三十八条、第百四十一条、第百四十二条及び第百四十四条において準用する場合を含む。)に規定する文書図画に該当するものを除く。)について、他の者(当該刑事施設に収容されている者を除く。)への交付(信書の発信に該当するものを除く。)を申請した場合には、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、これを許すものとする。
一 交付(その相手方が親族であるものを除く。次号において同じ。)により、刑事施設の規律及び秩序を害するおそれがあるとき。
二 被収容者が受刑者である場合において、交付により、その矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがあるとき。
三 被収容者が未決拘禁者である場合において、刑事訴訟法の定めるところにより交付が許されない物品であるとき。

刑事収容法 第69条(自弁の書籍等の閲覧)
被収容者が自弁の書籍等を閲覧することは、この節及び第十二節の規定による場合のほか、これを禁止し、又は制限してはならない。
 
<判断>
「懸賞応募券」は、刑事収容法48条1項及び50条にいう「保管私物」に該当⇒この郵送願いを不許可にする事由が認められない⇒拘置所長のした不許可処分は違法
②「ネガフィルム」は、法69条所定の「書籍等」に該当拘置所長をその領置願を不許可とし、送付者に返送したことは違法

慰謝料として2万2500円の支払を求める限度で、Xの請求を認容。

判例時報2345

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2017年11月23日 (木)

民法30条2項の失踪宣告の「死亡の原因となるべき危難に遭遇」への該当性

東京高裁H28.10.12      
 
<事案>
不在者である二男が民法30条2項の規定する危難に遭遇⇒Xが失踪宣告を求めた。 
不在者が会社員として勤務していたいが、平成27年1月、スキー場のリフト終点から登山を開始したが、その後帰宅せず、捜索でも見つからない
 
<規定>
民法 第30条(失踪の宣告)
不在者の生死が七年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができる。
2 戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、それぞれ、戦争が止んだ後、船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後一年間明らかでないときも、前項と同様とする。d.
 
<原審>
危難に遭遇したとは認められない⇒申立てを却下 
 
<判断>
民法30条2項が規定する「その他死亡の原因となるべき危難に遭難した」とは、人が死亡する蓋然性が高い事象に遭遇することをいうと解される。
 
①不在者は、夏山登山の経験は多かったものの、冬山登山の経験がほとんどなく、その経験も初心者向けの山であった
②今回単独で登山
③登山計画書によれば、非常時に要する備品を携行せず、登山ルートも夏山登山のルートと時間であり、冬山ではルートも時間も異なった
④登山ルートは、天候が急変しやすく、吹雪になるとホワイトアウト状態となって迷いやすく、毎年遭難も発生
⑤登山ルートには樹木が雪で覆われたモンスターが多数あり、その根元部分には大きな穴があり、積雪のため穴の見分けが困難
⑥当時、登山ルートの山頂付近は、最低気温がマイナス22度程度、最高気温がマイナス10度程度であり、気圧配置によると、登山時には山頂付近の天候が悪化していた可能性がある
⑦リフト終点の積雪も3メートル以上あって、新雪もあり、登山ルートはそれ以上の積雪があった
⑧捜索隊も、隊員が交代しながらラッセルをして進み、スノーシューを履いても30センチメートル程度沈む程度

①登山ルートは、道に迷ったり、転落したりして身動きができなくなり、凍死するおそれがあったところ、
②不在者は、冬山登山の経験が少なく、登山ルートや所要時間を調査しないまま、体温を維持したり方向を確認したりする装備を携行せずに登山を開始し、
視界が悪化して道に迷ったか、所々にある穴に転落した蓋然性が高く
その場合には凍死する危険性も高い

人が死亡する蓋然性が高い事象に遭遇したと認めることが相当
 
<解説>
民法30条2項が規定する「その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者」とは、一般的な事象であると、個人的な遭難であるとを問わず、 ことごとくこれを含む広い規定(我妻)。
その例として、
地震、火災、洪水、津波、山崩れ、雪崩、暴風、火山噴火のほか、登山や探検に参加して生死不明の者等が挙げられ、
個別具体的に死亡原因となるか否かにより決定すべきであり、
渡し船が転覆した場合は、水泳の能否、大人と子供とで異なるとされている。

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2017年11月16日 (木)

売主の本人確認情報を提供した弁護士に、成りすましを看過したことに過失があるとされた事例

東京地裁H28.11.29      
 
<事案>
不動産を購入して代金を支払い、自己に対する所有権移転登記を経たXが、売主の依頼によって当該不動産の所有権移転登記申請に当たり売主の本人確認情報を提供した弁護士であるYに対し、Yが過失により売主の本人確認の際に提示を受けた住民基本台帳カード等の書類が偽造されたものであることに気付かないまま誤った本人確認情報を提供し、このために、真実の所有者から所有権移転登記抹消登記手続を求められ、当該不動産の所有権を取得することができなくなった⇒不法行為に基づき、当該不動産の売買代金、登記申請費用、不動産の紹介者に対して支払った報酬及び弁護士費用相当額の合計3億2239万円余及びその遅延損害金の支払を求めた。
 
<判断>
不動産登記制度における資格者代理人制度は、直接的には登記義務者の権利を保護するものではあるが、不動産登記制度は取引の安全を保護するもの
当該登記を信頼して法律上の利害関係を有するに至った者も保護の対象に含まれる。 

Yは、誤った本人確認をすることによって、Xが不測の損害を被る可能性があることについて予見可能性を有し得る立場にあった。

①売主であると称する自称PがYに提出した遺産分割協議書には相続開始日と被相続人の死亡時が異なっていること等遺産分割協議の内容を正確に示すものではなく、そのままでは遺産分割協議に基づく登記申請に用いることができないことを容易に気付くことができる内容であったとに、Yは、これらの誤記に関して調査、確認を何ら行っていないも同然であった
②本件売買契約の決裁は、自称Pが、現金で2億4000万円を受け取るという異例の決済方法であり、決済当時78歳の高齢であるはずの自称Pに多額の現金を交付することは著しく安全を欠く行為といわざるをえず、成りすましによるものと疑うべき事情があった

予見可能性があった

本件確認の追加資料として提出された本件遺産分割協議書は、かえって本人確認に当たり疑義を抱かせる体裁のものであり、本件売買契約の履行態様も不自然なもの
提示を受けた本件住基カードが一見して真正なものと判断されるようなものであったとしても、成りすましによって発行を受けたり、偽造によるものであるという可能性を疑うべきであり、自ら(所有者である)Pの自宅に赴くか、Pの自宅に確認文書を送付して回答を求めるなどして、本人確認を行う義務があった。

結果回避義務違反があった

損害について、
支払った売買代金2億4000万円、登記費用309万円余を認め、
過失相殺を4割認め、
その上で弁護士費用を1割認め、
合計1億6044万円余を認容。

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2017年11月15日 (水)

営業許可を取り消す等の処分の違法を理由とする損害賠償請求権の時効の起算点

東京高裁H28.9.5      
 
<事案>
Xは、家畜のきゅう肥等を原料とした有機肥料の製造及び供給等を目的とする会社であって、一般廃棄物及び産業廃棄物の収集運搬や処分を業として行っていた
平成17年8月22日に営業停止勧告(「本件勧告」)、平成18年7月7日に各種営業許可取消処分(「本件処分」)を受けた。
Xは、本件処分の取消しを求め、平成22年7月8日に本件処分を取り消す旨の判決が確定
⇒Xは、本件勧告及び本件処分の違法を主張し、平成25年7月3日、Y(長野県)を被告として、国賠法1条1項に基づく損害賠償請求訴訟を提起。 
 
<争点>
本件勧告及び本件処分の違法を理由とする損害賠償請求権の時効成立の有無
 
<判断>
①Xは、本件勧告を受けたものの、Yとの間に前提事実や法適用の認識に齟齬があったためこれに従わないでいた
②本件勧告等による損害につき法的措置を検討している旨の内容証明郵便による通知書を送付

Xは、本件勧告の時から、これが不法行為を構成するとの認識の下に損害賠償請求のための準備を進めていたのであり、本件勧告及び本件処分の時から損害及び加害者を認識
本件勧告及び本件処分の翌日からそれぞれ起算して3年間を経過した日をもって消滅時効が完成
 
<解説>
Xは、取消訴訟が継続している限り、国賠訴訟の時効は進行しない旨を主張。
but
国賠訴訟を提起するに際して、行政処分につき取消し又は無効確認の判決を得なければならないものではないことは、判例、学説。 

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2017年11月 7日 (火)

仮処分命令が不当であるとして保全異議審で取り消されたが、不法行為は成立しないとされた事例

福島地裁H28.5.24      
 
<事案>
産業廃棄物処理施設の設置許可を受けたXが、Yらの申立てより発令されたXを債務者とする本件処理施設の建設工事の続行差止めをもt目る仮処分が保全異議審で取り消された(保全抗告審もその判断を維持)⇒取り消されるまでの間、Xの事業の停滞を余儀なくされたと主張し
(1)Yらに対し、共同不法行為に基づき、事業停滞期間の借地料及び運用収益等の損害の賠償を求めるとともに、
(2)Yら(Y3を除く)に対し、本件処理施設の設置につき同意をしたにかかわらず、これを撤回し本件仮処分の申立てを行ったことが債務不履行に該当するとして、前記損害の賠償を求める。
 
<争点>
①Yらによる本件仮処分の申し立てが不法行為となるか。
②Yら(Y3を除く。)が本件処理施設の設置につき同意していたにもかかわらず、それを撤回し本件仮処分の申し立てを行ったことが債務不履行となるか。 
 
<判断>

①Yらは、本件処理施設の設置によりため池にに関する水利権が侵害されると主張するところ、本件仮処分の手続では、Xに対する審尋を行った上で、本件処理施設の設置によりため池の集水域は、減少し、利用可能水量が減少すると判断しており、保全異議及び保全抗告審もこの判断自体は是認
②このように発令裁判所と保全異議審及び保全抗告審の判断が異なったのは、ため池の水量が農業用水として不足する場合に備えて、他にも給水方法が確保されているなどの事情を考慮すると、本件処理施設の建設の建設工事によるため池の水量の減少は被告らの受忍限度を超えるものではないないといった、Yの有する他の権利をも考慮すべきか否かの判断が別れたことになる。
③このような判断枠組みに対する考え方には様々なものがあり、現に発令裁判所と異議審によって異なった

Yらにおいて、ため池の水量の減少を危惧し、本件仮処分根異例の申立てを行ったとしても、そのことが不相当であるとは認められない。

④保全手続においてはじめてXが他の取水方法を採ることによって増加した費用を負担するとの申し出を行った
⑤XとYらとの信頼関係が崩れたことが本件仮処分の申立ての契機となったこと等の経緯

Yらにおいて本件仮処分を申し立てるにあたって、相当な理由があったものといえ、Yらの本件仮処分申立てに過失があると認めることはできない

Yら(Y3を除く)が本件処理施設の設置許可に関わる行政手続に当たっておこなった同意は、処分行政庁において周辺住民の同意を求めている趣旨が、産業廃棄物処理業を円滑に実施し得るよう、周辺住民の理解と協力を得ることにより、事業者と周辺住民との間の利害を調整し、もって紛争を未然に防止すること等にある
本件処理施設の設置に当たって紛争が生じることを防止する目的で取得したもの。
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①X代表者は、Y2を含む周辺住民に本件処理施設の設置について同意を求めるに当たって、・・・メリットについて説明しながら、廃棄物の埋立て等によって生じる可能性のあるデメリット等について特に説明しなかった。
X代表者の説明により、Yらに対し、本件処理施設の設置による環境や、所有する水利権に与える影響を的確に判断し得る情報が提供されたものとはいえない

②同意書には水利権の喪失に対する補償や代替措置の記載がない

Yら(Y3を除く。)が本件同意を行うに当たって、本件処理施設の設置に関し、今後一切反対の意思を表明することはない旨の意思を表示したものとは考えられず、まして、本件仮処分の申立てや訴えの提起に関する権利を放棄する趣旨であったとまでは認められない

Yらが、本件仮処分の申し立てを行ったことが、債務不履行を構成するということはできない。


Xの請求をいずれも棄却。 
 
<解説>
仮処分が不当であるとして取り消された場合、これによって仮処分の相手方が受けた損害については、判例(最高裁昭和43.12.24)上、一般の不法行為と同様、仮処分の申立人に故意又は過失があることが必要であるが、
仮処分が異議もしくは上訴手続において取り消され、あるいは本案訴訟において原告敗訴の判決が言い渡され、その判決が確定した場合には、他に特段の事情がない限り、申請人(申立人)において過失があったものと推認するのが相当である」とされている。
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結論として、「特段の事情」の存在を認める事案も多い。

判例時報2342

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