民事

2018年11月12日 (月)

小学校教諭が行った指導・叱責行為等に対する損害賠償請求(否定)

さいたま地裁熊谷支部H29.10.23      
 
<争点>
①Y1が、X1に対し、給食後の食器汚れを確認した際、X1の背中に触れたり授業時間中にルール違反の有無につき問い質したりした行為が、体罰に該当するか、るいは、懲戒行為や教育的指導の限界を逸脱するか。
②Y1が前訴においてXらの記入した連絡帳等を証拠提出した行為が、Xらのプライバシーを侵害する違法なものかどうか。
 
<規定>
学校教育法 第11条〔児童・生徒・学生の懲戒〕
校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない
 
<判断>
●Y1の行為の違法性(争点①) 
教諭の行為が学教法11条の懲戒権行使の範囲内にとどまる限り違法性を有しないが、同条ただし書の体罰に該当する場合は違法と評価される。

教諭の行為が懲戒権の行使として相当と認められる範囲内のものかどうか、あるいは体罰に該当するかどうかは、児童の年齢、性別、性格、成育過程、身体的状況、非行等の内容、懲戒の趣旨、教育的効果、身体的・精神的被害の大小・結果等を総合して、個別具体的に判断すべき。

①Y1がX1の背中に触れた行為:
X1に身体的被害も全く生じていない極めて軽微な身体的接触⇒体罰に該当しない。

②Y1が、授業時間中、X1が通学路を守って帰宅したのかどうかを確認した行為:
確認自体に問題はないとしても、事実確認が時間を要したことで、他の児童からの批判にさらされていたX1の精神的負担は大きくなっており、Y1において配慮に欠ける面があったこは否定できない
but
不相当とまではいえない。

③Y1が、授業時間中、X1が鉄棒の練習をしたのかどうかを確認した行為:
他の児童も立たされている状況で、Y1から厳しい口調で発言を求められたことで、X1は相当な精神的負担を受けたと推認でき、Y1において配慮に欠ける面があった
but
全体を通してもれば、X1が他の児童との円滑な人間関係を築くことができるようになり、X1の成長につながると期待されたものと理解でき、そのような懲戒の趣旨や教育的効果不相当とまではいえない
 
●前訴における証拠提出行為の違法性(争点②)
前訴においてY1が連絡帳等を証拠提出したことは、Xらのプライバシーを侵害するおそれがある。
but
訴訟行為については、たとえ相手方のプライバシーを侵害しうるものであったとしても、正当な訴訟活動の範囲内にとどまる限り、違法性を阻却し、
当該訴訟行為が、事件と全く関連性を有しない場合や、訴訟遂行上必要な範囲を超えて、著しく不適切な方法、態様で主張立証を行い、相手方のプライバシーを著しく侵害するような場合に限って、違法性が認められる。

Y1の行為は違法とは認められない。
 
<解説>
体罰相手方に対して肉体的苦痛を与えるものをいう(福岡地裁H8.3.9) 

体罰に該当しなくても、教諭の行為が懲戒行為や教育的指導の限界を逸脱する場合には、違法とされることがある。

本件では、Y1の言動が、X1に精神的苦痛を与え、人格の尊厳を傷つける、いわゆる言葉の暴力に当たるかが問題とされた。
本判決は、X1が相応の精神的負担を受けたことは認めつつも、
児童が受けた被害の程度だけでなく、
懲戒の趣旨や教育的効果なども総合的に考慮して判断
する立場。

判例時報2380

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2018年11月10日 (土)

交通事故で低髄液圧症候群の発症が認められなかったもの

横浜地裁H29.10.12    
 
<事案>
交通事故につき、
Xが、Yに対し、
民法709条、710条、自賠法3条に基づく責任がある
人身損害及び弁護士費用並びに交通事故発生日から支払済みまで年5分の割合により遅延損害金の支払を求めた事案。
 
<主張>
X:
本件交通事故はYの一方的な過失によるものであると主張するとともに、
本件交通事故による低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)の発症、
本件交通事故発生日から約2年11箇月後の症状固定を主張 

Y:
①Xが雨傘を差していたこと、夜間であること、周囲に注意を払っていなかったと思われる
⇒15%の過失相殺を主張。
②Xの本件交通事故による低髄液圧症候群の発症を否認
③症状固定時期は一般的な交通外傷の症状固定時期である交通事故から半年後が相当である
 
<争点>
Xの本件交通事故による低髄液圧症候群の有無 
 
<判断>
①国際頭痛分類第3版β版の国際頭痛分類基準
②脳神経外傷学会基準
③厚生労働省研究班による脳脊髄益漏出症画像判定基準・画像診断基準
に照らし

①Xが事故直後の時期に訴えた頭痛の症状は起立性頭痛(頭部全体及び又は鈍い頭痛で、座位及び立位をとると15分以内に増悪する頭痛で低髄液圧症候群発症の1つのメルクマールとなると解されている)であるとは認められないこと
②起床時に頭痛が激しい旨医療記録に記載されたのは、事故から1年以上経過した時点であること
③RI脳槽シンチグラフィー検査(ラジオアイソトープ(RI)という放射性物質をせき髄内に穿刺し、体外に排出される過程を見て脊髄液が漏出する可能性を見出す検査)は、1時間後に明らかな膀胱集積がみられた場合に脳脊髄液の漏出を疑う所見とされているところ、投与後1時間で淡い膀胱の描出、3時間後RI膀胱内集積、24時間後RI残存率の低下で、1時間後の明らかな膀胱集積ではなく、また、2.5時間以内の集積ではない⇒厚生労働省研究班による脳脊髄液漏出症画像判定基準・画像診断基準を満たさない
④明らかな骨折や神経学的所見は認められず、頭蓋内出血など明らかな頭部外傷所見はない
⑤3回にわたり、ブラッドパッチを受けているところ、一時的に頭痛が改善されたこともあったが、直後に頭痛が悪化したりしており、ブラッドパッチにより症状が改善されたとは認められない

Xの本件交通事故による低髄液圧症候群の発症は認められない。

症状固定時期について:
本件交通事故による低髄液圧症候群の発症は認められないが、
Xの頚部痛等の症状が、他の一般的な交通外傷の事例に比べ、重いと考えられる

本件交通事故から約1年後のA診療所の最終通院の属する月末に症状固定に至ったとみるのが相当。

過失割合について:
Xは横断歩道が設置されていない場所で道路を横断⇒周囲の安全を確認する注意義務があり、一定の過失が認められる。
①現場が住宅街でスクールゾーンであること
②雨が降っていて雨傘を差して歩行したXについて、Yの発見が遅れたこと
③5月の午後8時55分頃であり、夜間で暗かったといえること
等を総合考慮

Yの90パーセント、Xの10パーセントの過失割合となる。
 
<解説>
交通事故の損害賠償請求訴訟において、被害者が低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)の発症を主張する事案は少なくない。 

脳脊髄液減少症:
脳脊髄液腔から脳脊髄液が持続的ないし断続的に漏出することによって脳脊髄液が減少し、頭痛、頚部痛、耳鳴、視機能障害、倦怠などさまざまな症状を呈する疾患と定義される。

低髄液圧症候群等の診断基準:
国際頭痛学会が
①平成16年に公表した国際頭痛分類第2版、
②平成25年に公表した国際頭痛分類第三版β版
③日本脳神経外傷学会が提案した、外傷に伴う低髄液圧症候群の診断基準
④厚生労働省の研究班が平成23年に公表した「脳脊髄液漏出症画像判定基準・画像診断基準」
⑤脳脊髄液減少症ガイドライン作成委員会が作成した脳脊髄液減少症ガイドライン2007等
がある。

本件において、②③④は一定の信頼性を有する基準と解されるとして、これらにより判断してXの低髄液圧症候群の発症を認めなかったもの。

判例時報2379

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2018年11月 9日 (金)

弁護士の相手方弁護士に対する名誉毀損等の不法行為(肯定)

東京地裁H29.9.27      
 
<事案>
弁護士が民事訴訟、家事調停の代理人として、相手方の代理人弁護士に対して弁護士法違反、弁護士倫理違反等の内容の弁論期日における発言、準備書面の記載・陳述をしたことにつき、名誉毀損、侮辱、業務妨害に係る不法行為責任の成否が問題になった事案。 
 
<争点>
弁論期日における発言の有無、発言の名誉毀損等の該当性、各準備書面の提出・陳述の名誉毀損等の該当性、違法性阻却の成否、損害・金額 
 
<判断>
本件弁論期日後間もなく作成されたXの作成に係る書面(報告文書)、弁護士日誌等の記載が信用でき、Yの供述を排斥して、Xの主張に係るYの発言を認定。 

本件発言がXの社会的評価を低下させる
準備書面の各記載もxの社会的評価を低下させる
(業務妨害の主張についてはいずれも排斥)

違法性阻却については、
本件発言について全て否定し、
準備書面の記載等につき一部肯定

本件発言の慰謝料として30万円
訴訟の準備書面の記載等の慰謝料として50万円
調停の準備書面の慰謝料として30万円
弁護士費用11万円
を認め、請求を一部認容。

判例時報2379

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2018年11月 8日 (木)

骨髄移植手術を受けた患者が脳梗塞を発症して死亡。看護師の過失との因果関係を否定。

大阪高裁H29.2.9      
 
<事案>
Pの父母であるX1とX2は、Y附属病院の医師の過失により、免疫抑制剤であるプログラフを過剰投与され、その副作用により脳梗塞を発症して死亡したと主張⇒Yに対して、債務不履行又は不法行為に基づき、損害賠償を請求。 
 
<原判決>
Xらの請求を棄却 
   
Xらは控訴。
併せて、Y附属病院の看護師の過失、Y附属病院自身の過失の主張を追加するとともに、
適切な医療を受けておれば、その死亡した時点においてなお生存していた可能性等を失い、また、適切な医療を受けることについての期待権を侵害されたとして、不法行為に基づく損害を予備的に追加主張
 
<判断>
プログラフの過剰投与があったことは明らか。
but
①鑑定によれば、過剰投与による脳梗塞の発症の可能性は否定できないものの、プログラフの量は、副作用としての脳梗塞を発症するだけの条件が十分であったとまでは認めることができないし、
プログラフの投与が原因とされる脳梗塞の発症例が多いということはできない

過剰投与と脳梗塞発症との間に相当因果関係を認めることは困難。 

Pの全身状態の悪化等からすれば、過剰投与がなかったからといって、脳梗塞の発症を回避したり、死亡の結果を回避したりすることができる相当程度の可能性があったということはできない
④過剰投与の発生について過失が認められるが、Y附属病院の医療行為が著しく不適切であったということはできない

Yの損害賠償を否定した原判決は結論において相当
 
<解説>
因果関係の立証について、

最高裁昭和50.10.24:
訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、
経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、
その判定は、通常人が疑を差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りる

①プログラフは、種々の移植における拒絶反応の抑制に適応するが、これを服用すると、脳梗塞等を発症し、致死的な経過をたどることがあるとされ、
本剤を移植で使用するときは、免疫抑制療法及び移植患者の管理に精通している医師の指導のもとで行わなければならないとされている。
②鑑定でも、過剰投与により脳梗塞を発症した可能性を否定できないとされている。
過剰投与と脳梗塞との因果関係はかなり微妙

判例時報2379

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2018年11月 7日 (水)

自筆証書遺言の有効性の判断と動画の実質的証拠能力

東京高裁H29.3.22      
 
<事案>
XとYは、被相続人Aの法定相続人。
Aは、平成26年7月に死亡。
Xが、Yに対して、自筆証書遺言が偽造されたもので法定の要件を各ため無効⇒遺言無効確認請求訴訟を提起
 
被相続人Aは、株式及び不動産を含む財産一切をXに相続させることを内容とする公正証書遺言を平成24年4月19日に作成。
AがYに対して全財産を相続させることを内容とする自筆証書遺言(作成日は平成25年2月8日)があり、Yの申立てにより遺言書検認手続を行われた。
 
<争点>
本件遺言の作成日に撮影された動画(本件動画)について、その証拠能力及び証拠力をどのように考えるか。 
 
<判断>
●本件動画の証拠能力:
Yが、裁判所やXを欺罔する意図をもって本件動画を加工、編集した事実を認定することはできない⇒証拠能力を否定すべきではない

●実質的証拠力:
本件動画に顕れた被撮影者(被相続人A)の言動、遺言書や動画の保管状況及びこれに関する撮影者(Y)の説明の合理性その他諸般の事情を総合して判断すべき。

①本件動画には、後日の証拠となることが意識されて新聞が何度も映し出されているのに、Aが自書、押印する動作が全く撮影されていない
②添え手を含む何らかの補助を受けて書かれた可能性は否定できない
③公正証書遺言の内容を変更する事情が何ら明らかになっていない

Aが本件遺言を自書、押印したものとは認めず、本件遺言は無効

<解説>
動画は、準文書として扱われ(民訴法231条)、その実質的証拠力も文書に準じて判断されることになる。
文書の実質的証拠力は裁判官の自由心証によって決せられる

動画が証拠として提出された場合には、その内容について、裁判官の自由な心証によって判断することができる。 

民訴法 第231条(文書に準ずる物件への準用)
この節の規定は、図面、写真、録音テープ、ビデオテープその他の情報を表すために作成された物件で文書でないものについて準用する。

判例時報2379

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2018年11月 6日 (火)

通信制限に関する広告及び説明が重要事項の不実告知に当たる⇒消費者契約法4条1項による取消しが認められた事例

東京高裁H30.4.18      
 
<事案>
無線通信事業者であるYらが、本件の契約料金プラン(「本件料金プラン」)において採用した通信制限の方法は、ユーザーが使用した通信料が一定の値(3日で3GB制限)を超えることを、そのユーザーに対する速度制限の発動条件(トリガー)とし、発動後24時間程度の間、通信速度を低下させるといもの。 

<問題>
通信制限の必要性そのものではなく、通信制限の存在及び内容(ユーザーの利便を損なう程度)が、販売の際に消費者に分かりやすく適切に説明されたかどうか
適切な説明がなかったとすればそれが民法96条の詐欺又は消費者契約法4条1項の重要事項の不実の告知に当たるかどうか
 
<主張>
Y1と本件料金プランの契約をした消費者であるXは、
通信サービスを使用すると、Yらの広告や契約時の説明と異なり、通信制限を受けることが多く、通信制限下では使いものにならないと主張

民法96条又は消費者契約法4条1項に基づき、契約を取り消した上で、
支払済みの契約金の返還等を求めた
。 
 
<原審>
請求棄却。
 
<判断>
請求を認容。 
Yらは、本件料金プランにつき、広告中には3日3G制限が発動される場合の具体例や3日3G制限発動後の通信制限下での具体的な使用状況は記載せず、
3日3G制限の存在のみを豆粒のような文字で記載して、できるだけ3日3G制限の存在に気付かせずに、顧客を販売店に誘引しようとした。

Yらは、販売店においては、重要事項説明書の3日3G制限の説明(概略、直近3日間の通信料合計が3GB以上となると通信速度を翌日にかけて制限する場合があるというもの)を棒読みし、3日3G制限が発動される場合の具体例はYouTubeを標準画質で見ることができるとだけ説明して販売。

本件料金プランの広告及び店頭説明は、高速、通信量制限ないし、使い放題という利便性のみを強調し、通信制限の存在を目立たせないようにしており、
サービス(特に通信制限時)の水準が一部のヘビーユーザーのニーズに合わないことの説明がなく、
通信制限のトリガーを引かないためには通信料を自主規制せざるを得ないこと、通信料の多い使用方法の具体例及び通信制限下での通信速度等の通信状況の具体的内容の説明もない


Xがこれら通信制限の実情を知らされていれば契約締結はなかったもので、重要事項についての不実の告知にあたる。

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2018年11月 5日 (月)

病院の患者に(第三者が医師に交付した患者の)資料を開示しないことが正当化された事例

東京高裁H29.8.31      
 
<事案>
患者が病院に対して、第三者が交付した患者の資料につき、個人情報保護法25条1項に基づき、開示を求めた。 
Xは、平成21年から平成22年にかけて、Yの運営するA病院(精神科)で診察を受けた者。この間、Xの友人であるBが、A病院を訪れて医師に対し、Xの病状に関する資料を交付。
その後、Xは、Bを告訴する目的で、Yに対し、本件持参資料の記録謄写の申請⇒Yは、Bの利益を害するおそれがあるとして、本件持参資料の写しを交付しなかった。
⇒Xは、Yに対し、本件持参資料の開示を求めて提訴。

 
<争点>
Yが開示をしないことが、改正前の個人情報保護法25条1項1号に定める「第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害するおそれがある場合」に該当するか? 
 
<原審>
Xの請求を棄却。
厚生労働省策定の「診療情報の提供等に関する指針」(平成15年9月12日)8項によれば、
診療情報の提供を拒みうる場合として、
診療情報の提供が第三者を害するおそれがあるときを挙げ、
その想定される事例として、患者の家族や関係者が医療従事者に患者の状況等について情報提供を行っている場合に、
これらの者の同意を得ずに患者自身に当該情報を提供することにより、
患者とその家族や関係者との間の人間関係が悪化するなど、これらの者の利益を害するおそれがあるときを掲げている
ことを指摘。

本件持参資料が開示されて、Xの症状に関するBの認識を知ることで、XがBに対して悪感情を募らせ、既に悪化しているXとBとの間の人間関係がさらに悪化して、Bの利益を害するおそれがある
⇒本件開示請求は、改正前の個人情報保護法25条1項1号の開示しないことができる事由に該当

 
<判断>
原審判断を是認。 

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2018年10月31日 (水)

ツイッターのアカウント全体の削除を求めた仮処分が認容された事例

さいたま地裁H29.10.3      
 
<事案。
債権者は、他人が開設したツイッターのアカウントにおいて、債権者が元AV女優Bと同一人物である旨の虚偽の事実が摘示されて名誉権が侵害されていると主張⇒米国のツイッター社に対し、人格権に基づく妨害排除請求権に基づき、アカウント全体の削除と返信ツイートとして投稿された記事の削除を求めて、仮の地位を定める仮処分命令の申立て。 
 
<判断>
本件アカウントは、アカウント名、プロフィール欄の記載、ヘッダ画像及び投稿記事の全てにおいて、債権者が本件アカウント開設したかのように装い偽った上で、閲覧者に対し、債権者が元AV女優であって、投降した画像のアダルトビデオに出演しているかのよな印象を与え、かつ、債権者がそのような画像を投稿したかのような印象を与えることを目的として、開設され表現がされた。

アカウント全体が、どの構成部分をとってみても、債権者の人格権を侵害することのみを目的として、明らかに不法行為を行う内容の表現である。

アカウント全体が不法行為を目的とすることが明白であり、これにより重大な権利侵害がされている場合には、権利救済のためにアカウント全体の削除をすることが真にやむを得ないものというべきである。

例外的にアカウント全体の削除を求めることができる
 
<解説>
名誉権の侵害のおそれを理由に出版を差し止めるなどの表現行為に対する事前抑制は、
表現の自由を保障し検閲を禁止する憲法21条の趣旨に照らし、
厳格かつ明確な要件のもとにおいてのみ許容されうる。(最高裁昭和61.6.11) 

人格的価値を侵害された者は、人格権に基づき、加害者に対し、現に行われている侵害行為を排除し、又は将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止めを求めることができ
どのような場合に侵害行為の差止めが認められるかは、
侵害行為の対象となった人物の社会的地位や侵害行為によって受ける被害者側の不利益と
侵害行為を差し止めることによって受ける侵害者側の不利益とを比較考量して決すべき
であり、
侵害行為が明らかに予想され、その侵害行為によって被害者が重大な損失を受けるおそれがあり、かつ、その回復を事後に図るのが不可能ないし著しく困難になると認められるとき侵害行為の差止めを肯認すべき。
(最高裁H14.9.24)

本件:
アカウント全体の削除が表現行為の事前差止めの性質も含む点を考慮して、表現行為の事前抑制に関する判例の趣旨を踏まえ明白かつ重大な権利侵害があることを要件として、例外的にアカウント全体の削除を認めた

民事保全規則9条2項6号に基づき、理由ではなく、理由の要旨を記載。

仮処分決定は、債務者の審尋がされた当日中に無担保で発令

判例時報2378

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2018年10月29日 (月)

株主構成を変化させることで退職慰労金支給決議を再度成立させることを目的⇒訴え提起と独立当事者参加の申立てが訴権濫用として却下された事案

東京地裁H29.10.5      
 
<事案>
Xは、妻Aの父(亡B)及び母(亡C)が設立した「有限会社D」の株主であると同時に代表者。

Aの両親が死亡した後、他の株主である長男Y1(亡Bと亡Cの長男)と亡長女の子Y2(亡Bと亡Cの相続の代襲相続人)を被告として、
X、独立当事者参加人(株式会社E)及びY1らが共有する本件株式(もともと亡B及び亡Cが保有していたD社の普通株式計750株)の分割を求めた。 
X、Y1及びY2は、亡B及び亡Cの相続により、本件株式について各3分の1の割合の準共有持分を有しているが、遺産分割は未了。
Aは、Xに対し、平成28年2月24日付けで、本件株式の持分3分の1を455万9000円で譲渡し(「本件第1譲渡契約」)、X及びAは、参加人Eに対し、平成28年4月4日、Xが有していたD社の株式750株及び本件株式のXの持分3分の1などを1株当たり1万6688円で譲渡した(「本件第2譲渡契約」)

D社においては、平成27年4月30日に、Aに対して8300万円の退職慰労金を支払う旨の株主総会決議(「退職慰労金支給第1決議」)等がされ、平成28年4月18日には、本件第2譲渡契約を承認する旨の決議(「本件譲渡承認決議」)がされ、同月26日には、退職慰労金支給第1決議の取消が確定することを停止条件として、Aに対して退職金8300万円を支給し、その効力を平成27年4月30日に遡って生じさせる旨の決議(「退職慰労金支給第2決議」)をしている。

尚、平成28年3月25日には、退職慰労金支給第1決議について、特別利害関係人であるAが議決権を行使したことによって著しく不当な決議がされたとき(会社法831条1項3号)に当たるとして、これを取り消す旨の判決がされている。
 
<判断>
本件第1及び第2譲渡契約については、株主構成を変化させて、Aに対する退職慰労金支給決議を再度成立させることを目的としてされたものであり、
被告Y1を本件株式の権利行為者とする指定の効力が争われている状況下で本件訴訟が提起

本件第1及び第2譲渡契約による株主構成の変更に加え、本件株式の一部について独立して議決権を行使することができる状況を作出することによって、前記目的を実現することを企図している。

Xによる本件訴訟の提起及び参加人の独立当事者参加について、訴権の濫用に当たるとして、これらを不適法却下。 
 
<解説>
●私権と訴権
訴権:
「公法的訴権説」で「本案判決請求権説」通説。
 
●裁判を受ける権利と訴権 
憲法32条は「裁判を受ける権利」を保障する。

①裁判を受ける権利(憲法32条)、
②司法権の範囲(憲法76条1項)、
③法律上の争訟(裁判所法3条1項)、
④裁判の公開(憲法82条1項)
については、判例は、これらを同じ次元で考える「四位一体」論をとっている(最高裁H10.12.1)。
 
●私権の濫用と訴権の濫用
本件:
Aに多額の退職慰労金を支給する目的で、その支給を決議した株主総会決議が不当であるとして取消判決がされたにもかかわらず、その取消事由である特別利害関係株主(A)による議決権行使を回避するために株式譲渡を行った上で、本件共有物分割の訴えを提起⇒訴権の濫用を理由にXの請求を却下
but
原告の権利行使が権利濫用と認めらる場合、
その権利行使のために訴訟を提起したときは、
「私権の濫用」(請求棄却)とするか
「訴権の濫用」(訴え却下)とするか
について争いがあり、
訴権濫用とする場合の処理についても、
その訴訟での主張が信義則に反するとするのか、
訴え提起自体を不適法とするのか
などについても、議論がある。

①訴権は、裁判を受ける権利と類似した権利であり、裁判を受ける権利が基本権を保障するための基本権であって、実定法上、「法律上の争訟」(裁判所法3条)であれば、全ての訴えにつき裁判を受けることが認められている

訴えを却下して裁判を受ける権利を否定するかのごとき処理は問題が多い

請求棄却⇒請求権の不存在について既判力が生じる。
訴え却下⇒それについて既判力が生じない。

判例時報2378

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2018年10月28日 (日)

署名のある媒介契約書の成立の真正の推定が覆された事案

大阪高裁H30.3.8      
 
<事案>
Xが、Yとの間のY所有不動産売却についての一般媒介契約に基づくXの媒介行為により、同不動産の売買契約が成立した⇒本件媒介契約に基づき、約定報酬54万4320円と遅延損害金の支払を求めた。 
 
<一審・二審>
本件媒介契約に関する本件媒介契約書は、Yの署名がある⇒真正に成立したものと推定され、これを覆すに足りる証拠はない
本件売買契約は、Xの媒介契約により成立⇒Xの請求を認容。
 
<判断>
①Yは、他の書類には押印までしたにもかかわらず、あえて本件媒介契約書についてのみ押印しなかったことからすれば、Yには本件媒介契約を締結する意思がなかったことを示すものというべき
②売買契約締結時には、売買代金の決済は行われたが、X側が、売買代金から媒介報酬を控除してYに支払うという処理をしなかった⇒Yが本件媒介契約書への押印を拒否することによって、本件売買契約を締結しない意思を明らかにし、媒介報酬の支払に応じなかったことを示すというべき
本件売買契約締結に至る経緯・・・・⇒Yにおいて、本件売買契約締結に至ったことについて、Xに媒介報酬を支払う意思がなかったため、本件媒介契約書への押印を拒絶したと考えても、格別不自然なことではない。

Yは本件媒介契約を締結する意思がなかったため本件媒介契約書への押印を拒んだものと認められYの署名があることによる本件媒介契約書が真正に成立したとの推定は覆されているというべき。 
 
<規定>
民訴法 第228条(文書の成立)
文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。
4 私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する
 
<解説>
文書に記載された意味内容が証拠に用いられるためには、その文書が真正に成立したものでなければならない。
文書が成立したことは、文書が挙証者の主張する作成者の意思に基づいて作成されたことを意味する。 

押印のある私文書の作成について、推定が破れる事例としては、
印章の紛失、盗難などの盗用型
印章が冒用された場合の冒用型
署名のある私文書については作成が否定された事例は見当たらない。

判例時報2378

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