特許法

2018年6月 2日 (土)

サポート要件を満たさないとされた事例

知財高裁H29.6.8      
 
<事案>
被告の、名称を「トマト含有飲料及びその製造方法、並びに、トマト含有飲料の酸味抑制方法」とする発明についての特許に対する無効審判請求を不成立にした審決の取消訴訟 
 
<判断>   
サポート要件適合性判断誤りの有無について、偏光フィルム事件(知財高裁H17.11.11)の規範に従うことを明確に示し、サポート要件に適合するということはできないと判断。 

本件明細書における発明の詳細な説明の、本件発明の課題とその解決方法についての記載を認定。 

発明の詳細な説明に記載された発明と特許請求の範囲に記載された発明とを対比して、明細書の発明の詳細な説明に、本件発明の課題が解決できることを当業者において認識できるかについて検討。

①本件明細書の発明の詳細な説明に記載された風味評価試験の結果から、直ちに、糖度、糖酸比及びグルタミン酸等含有量について規定される範囲と、得られる効果というべ、濃厚な味わいでフルーツトマトのような甘みがありかつトマトの酸味が抑制されたという風味との関係の技術的な意味を当業者が理解できるとはいえない。
②各風味が本件発明の課題を解決するために奏功する程度を等しくとらえて、各風味についての全パネラーの評点の平均を単純に足し合わせて総合評価するという方法が合理的であったと当業者が推認することもできない。
 
<解説> 
食品関連特許について、発明の課題と認定された風味との関連性及び明細書に記載された風味評価試験方法の合理性を検討して、サポート要件を判断。 
①発明の課題が「濃厚な味わいでフルーツトマトのような甘みがありかつトマトの酸味が抑制された」といった、必ずしも客観的には測定し難い風味に関するものであり、
採用された方法が発明の課題を解決する機序が明らかではなく
③風味評価試験によって発明の課題が解決されているのかを判断しなければならないところ、「甘み」「糖酸比」及び「濃厚」の要素のみで課題を解決できると理解できるのか、評価の客観的基準や各パネラーの評点が明らかでない明細書の記載を参照して試験を再現することもできないなど、風味評価の試験が合理的であるともいえない

サポート要件を欠く

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2018年5月22日 (火)

特許法184条の4第4項所定の「正当な理由」

知財高裁H29.3.7      
 
<事案>
控訴人(一審原告)は、平成23年9月15日、発明の名称を「フラッシュ様式での光の不連続な供給がある場合の混合栄養単細胞藻類の培養方法」とする発明につき、優先日を平成22年9月15日とし、フランス国特許庁を受理官庁として、国際特許出願(本件出願)。
国内書面提出期間の経過後である平成25年5月21日に明細書等翻訳文などを提出することにより、国内書面に係る手続
but
特許長官より、国内書面提出期間内に明細書等翻訳文の提出がなく、指定国である我が国における本件出願は取り下げられたものとみなされるとして、本件手続を却下する旨の本件処分。

控訴人には国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなくなったことについて、特許法184条の4第4項所定の「正当な理由」があるとして、本件処分の取消しを求める事案。
 
<規定>
特許法 第184条の4(外国語でされた国際特許出願の翻訳文)
4 前項の規定により取り下げられたものとみなされた国際特許出願の出願人は、国内書面提出期間内に当該明細書等翻訳文を提出することができなかつたことについて正当な理由があるときは、その理由がなくなつた日から二月以内で国内書面提出期間の経過後一年以内に限り、明細書等翻訳文並びに第一項に規定する図面及び要約の翻訳文を特許庁長官に提出することができる。
 
<判断> 
控訴人が国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかったことについて、「正当な理由」があるということはできない⇒控訴棄却。 
 
特許法184条の4第4項所定の「正当な理由」の意義を解するに当たっては、
①特許協力条約に基づく国際出願の制度は、国内書面提出期間内に翻訳文を提出することによって、我が国において、当該外国語特許出願が国際出願日にされた特許出願とみなされるというもの
同制度を利用しようとする外国語特許出願の出願人には、自己責任の下で、国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することが求められる
②国内書面提出期間経過後も、当該外国語特許出願が取り下げられたものとみなされたか否かについて、第三者に関し負担を負わせることを考慮すること
を考慮する必要。

特許法184条の4第4項所定の「正当な理由」があるときとは、
「特段の事情のない限り、国際特許出願を行う出願人(代理人を含む。)として、相当な注意を尽くしていたにもかかわらず、客観的にみて国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかったとき」をいうものと判断。

本件出願に係る手続の委任を受けた特許事務所が、本件出願の処理に当たり、移行期限を徒過しないよう相当な注意を尽くしていたということはできない
⇒同項所定の「正当な理由」があるということはできない
 
<解説>
特許法条約(PLT)において手続期間の経過によって出願又は特許に関する権利の喪失を惹起した場合の「権利の回復」に関する規定が設けられ、加盟国に対して救済を認める要件として「Due Care」(相当な注意)又は「Unintentional」(故意でない) のいずれかを選択することを認めており(PLT12条)、
同規定に沿った諸外国の立法例として、例えば、欧州においては「Due Care」基準を選択。
日本は当時PLTに未加盟であったが、国際的調和の観点から、外国語特許出願の出願人について、期限の徒過があった場合でも、柔軟な救済を図ることにしたもの。

判例時報2363

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2018年5月21日 (月)

容易想到性についての判断が問題となった事例

知財高裁H29.3.21      
 
<事案>
X1は、発明の名称を「摩擦熱変色性筆記具及びそれを用いた摩擦熱変色セット」とする特許出願をし、設定登録を受けた(本件特許)。
X2は、本件特許権の一部を譲り受け、特定承継を原因とする一部移転登録をした。
Yの特許無効審判請求について、特許庁は、特許請求の範囲請求項1、5ないし7及び9に係る発明についての特許を無効とする審決。
(本件発明一は、引用発明一及び引用発明二等に基づいて当業者が容易に発明をすることができた)

Xらは、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起し、取消事由として、容易想到性の判断の誤りを主張。
 
<判断>
相違点五(本件発明一が、エラストマー又はプラスチック発泡体から選ばれ、摩擦熱により前記インキの筆跡を消色させる摩擦体が、筆記具の後部又はキャップの頂部に装着されてなるのに対し、引用発明一は特定していない点)
に係る容易想到性の判断の誤りを指摘し、本件審決を取り消した。

両発明(引用発明一と引用発明二)は、その構成及び筆跡の形成に関する機能において大きく異なる。
⇒当業者において引用発明一に引用発明二を組み合わせることを想到するとはおよそ考え難い。

仮に、当業者が引用発明一に引用発明二を汲ん見合わせたとしても・・・引用発明二の摩擦具九は、筆記具とは別体のもの。

当業者において両者を組み合わせても、引用発明一の筆記具と、これとは別体の、エラストマー又はプラスチック発泡体を用いた摩擦部を備えた摩擦具九(摩擦体)を共に提供する構成を想到するにとどまり、摩擦体を筆記具の後部又はキャップの頂部に装着して筆記具と一体のものとして提供する相違点五に係る本件発明一の構成に至らない。

仮に、当業者において、摩擦具九を筆記具の後部ないしキャップに装着することを想到し得たとしても、
引用発明一に引用発明二を組み合わせて「エラストマー又はプラスチック発泡体から選ばれた、摩擦熱により筆記時の有色のインキの筆跡を消色させる摩擦体」を筆記具と共に提供することを想到した上で、
これを基準に摩擦体(摩擦具九)の提供の手段として摩擦体を筆記具自体又はキャップに装着することを想到し、
相違点五に至る本件発明一の構成に至る。

このように引用発明一に基づき、二つの段階を経て相違点五に係る本件発明一の構成に至ることは、格別な努力を要するものといえ、当業者にとって容易であったということはできない
 
<説明>   
特許庁の審決と判断を分けた点: 

引用発明一(主引用発明)と引用発明二(副引用発明)は、その構成及び筆跡の形成に関する機能において大きく異なる
当業者において引用発明一に引用発明二を組み合わせることを発想するとはおよそ考え難いとした点。

主引用例と副引用例を組み合わせて本件発明に至るためには、これを組み合わせる動機付けが必要

動機付け有無の判断
~両発明の技術分野の関連性、課題の共通性・作用や機能の共通性、引用例に適用の示唆があるか否か等の点から、構成の組合せを阻害する要因があるか否かも含めて、、総合的に検討するのが現在の実務。
 
●当業者において引用発明一に引用発明二を組み合わせても、引用発明一の筆記具と、これとは別体の、摩擦部を備えた摩擦体を共に提供する構成を想到するにとどまり、摩擦体を筆記具の後部又はキャップの頂部に装着して筆記具と一体のものとして提供する相違点に係る本件発明の構成には至らない、とした点。 

主引用発明に副引用発明を組み合わせた場合に、相違点に係る本件発明の構成に至らなければ、容易に想到できたものとはいえないが、これは、副引用発明をどのように認定するか、という点にもかかわる問題。

引用発明を上位概念化・一般化して認定することは、常に誤りとはいえないが、これが許されるのは、本件発明との対比における特徴的部分に相違がないような場合に限られよう。
そうでなければ、本来、正しく認定した当該副引用発明だけでは本件発明に想到できない場合にも、容易に想到できるという判断になりかねない。

 
●さらに、引用発明一に基づき、二つの段階を経て相違点5に係る本件発明一の構成に至ることは、格別な努力を要するものといえ、当業者にとって容易であったということはできない、とした点。 

主引用発明と副引用発明を組み合わせることを想到し得たとしても、両発明を組み合わせた上で、さらに本件発明に至るためにさらにもう一段の周知技術等を組み合わせるといった判断手法は許されない。
 
判例時報2363

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2018年4月26日 (木)

審判が認定した上位概念化された周知技術を認定できず、容易想到性はないとされた事例

知財高裁H29.7.4      
 
<事案>
発明の名称を「給与計算方法及び給与計算プログラム」とする本願発明について特許出願⇒拒絶査定⇒不服審判請求不成立審決。

本件審決は、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当事者が容易に発明をすることができたから、特許を受けることができない、などというもの。 
本件は、前記審決に対する取消訴訟。

原告は、取消事由として、容易想到性の判断誤り(具体的には、引用発明の認定誤り、相違点五の容易相当性の判断誤り等)を主張

相違点五:
本願発明の従業員情報は、各従業員が入力を行うためのウェブページを各従業員の従業員端末のウェブブラウザ上に表示させて入力された、給与計算を変動させる従業員入力情報を含んでいるのに対し、
引用発明の従業員情報は、各従業員が入力を行うためのウェブページを各従業員の従業員端末のウェブブラウザ上に表示させて入力されたものを含んでいない点 
 
<判断>
相違点五の容易相当性について、審判の判断に誤りがあるとした。
 
周知例二等は、
従業員の給与支払機能を提供するアプリケーションサーバーを有するシステムにおいて、従業員の取引金融機関、従業員の勤怠情報等の入力及び変更が可能な従業員の携帯端末機を備えることが開示されていることは認められるが、
これらを上位概念化した、および従業員に関連する情報全般の入力及び変更が可能な従業者の携帯端末機を備えることや、従業員入力情報の入力および変更が可能な従業者の経緯対端末機を備えることが開示されているものではなく、それを示唆するものもない

従業員情報の入力及び変更が可能な従業者の携帯端末機を備えることが周知技術であったということはできず、かかる周知技術の存在を前提として、従業員にどの従業員情報を従業員端末を用いて入力させるかは当業者が適宜選択すべき設計的事項であるとも認められない

引用例に接した当業者は、本願発明の具体的な課題を示唆されることはなく、専門家端末から従業員の扶養者情報を入力する構成に代えて、各従業員の従業員端末から当該従業員の扶養者情報を入力する構成とすることにより、相違点五に係る本願発明の構成を想到するものとは認め難い
⇒本件審決を取り消した。
 
<規定>
特許法 第29条(特許の要件) 
産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。
一 特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明
二 特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明
三 特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明
2 特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。
 
<解説> 
●特許要件たる進歩性:
「特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができ」ないとの要件(特許法29条2項)。

通常、
①本件発明の認定、
②主たる引用発明の認定、
③本件発明と主たる引用発明との対比(一致点及び相違点の認定)
④相違点の判断
というプロセスで判断。

本件では、②と④について争われ、②は問題ないものの、④の判断に誤りがあるとされた。
 
●主たる引用発明との相違点に係る本願発明の構成が、別の引用例に記載されていること又は周知技術であることが証拠上認定
主たる引用発明との構成の組合せ等が容易か否かを判断
but
本件では、組み合わせるべき審決認定の周知技術が、上位概念化されたものであり、証拠上具体的な記載はなかったというもので、そのような判断手法によって容易に想到できるとした審決の判断が否定された。

①客観的な判断という観点からは、証拠に基づいた認定が不可欠。
②当該証拠から認定できる技術を主引用発明に組み合わせたとしても、本願発明の構成には至らない。
③証拠上認められる技術から上位概念化して周知技術を認定すると、後知恵に陥る危険がある。

このことは、引用発明や周知技術の認定のみならず、一地点の認定についても当てはまるもので、一致点を上位概念によって認定する場合は、相違点の認定をより具体的に正しく認定しなければ、容易相当性の判断を誤る可能性がある。

知財高裁H29.6.15:
組合せ又は置換の際に上位概念化して認識することにより容易と判断することを否定した最近の裁判例。

引用発明二の主たる構成である「駐車ブレーキ」についての、引用文献二に開示される「駐車ブレーキが作動しない場合」という条件を、
「ブレーキ装置が作動しない場合」と上位概念化して認識し、その概念を周知技術二に当てはめて、「ブレーキ液圧保持装置(ブレーキ装置)が作動しない場合」という条件に置換し、引用発明二に周知技術二を採用して得た「ブレーキ液圧保持装置」にブレーキ液圧保持装置(ブレーキ装置)が作動しない場合」という条件を適用する動機付けはないものとした。
 
●引用例に接した当業者が、前記相違点に係る本願発明の構成に至ることが容易であるとするには、前記のような構成の組合せをする動機付けが必要

本判決は、「引用例に接した当業者は、本願発明の具体的な課題を示唆されることはなく、専門家端末から従業員の扶養者情報を入力する構成に代えて、各従業員の従業員端末から当該従業員の扶養者情報を入力する構成とすることにより、相違点五に係る本願発明の構成を想到するものとは認め難い」旨判示し、
課題の示唆という点を重視して容易相当性を否定。

本願発明と主たる引用例との相違点は、本件発明の構成上の特徴であり、
これは、従来技術では解決できなかった課題を解決するためのもの。

容易相当性の有無を判断するに当たっては、引用発明を出発点として、本件発明の特徴に到達するための課題が示唆されているか否かを検討する必要。

動機付けの有無に関し、
知財高裁H18.6.29は、
新規の技術事項を含む事案において、構成において、紙葉類の積層状態検知装置を紙葉類識別装置に置き換えるのが容易であるというためには、それなりの動機付けを必要とする

進歩性を否定するためには、この技術的思想の着想が容易であったことが論理付けられていなければならない⇒論理付けもなく、単なる設計変更であるとした審決の判断を誤りであると判断。

課題の示唆は、重要な要素の1つであるところ、
知財高裁H21.1.28は、
当該発明が目的とする課題を的確に把握することが必要不可欠であり、
容易相当性の判断の過程においては、事後分析的かつ非論理的思考は排斥されなければならない
そのためには、当該発明が目的とする「課題」の把握に当たって、その中に無意識的に「解決手段」ないし「解決結果」の要素が入り込むことがないよう留意することが必要となると判示。

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2018年4月25日 (水)

特許法195条の4の「査定」の意味と行政不服審査法による不服申立・特許査定の無効等

知財高裁H27.6.10      
 
<事案>
共同で特許出願をしたXらは、誤って真意と異なる内容で特許請求の範囲を減縮する手続補正書を提出し、担当審査官は、本件補正後の本願発明について特許査定。
Xらは、行政不服審査法に基づく、特許庁長官に対し、本件特許査定の取消しを求める異議申立て(本件異議申立て)⇒特許庁長官は、特許査定は異議申立ての対象にならないとして却下。 
 
<請求>
本件特許査定には重大な瑕疵があると主張
Y(国)に対し、本件訴訟を提起し、
行政事件訴訟法に基づき

主位的に、
①本件特許査定の無効確認
②これを前提とする本件却下決定の取消し
③特許庁審査官に対して本件特許査定を取り消すことの義務付け
を求め、

予備的に
①本件特許査定の取消し、
②これを前提とする本件却下決定の取消し
③特許庁審査官に対し本件特許査定を取り消すことの義務付け
を求めた。 
 
<規定>
特許法 第195条の4(行政不服審査法による不服申立ての制限)
査定又は審決及び審判若しくは再審の請求書又は第百三十四条の二第一項の訂正の請求書の却下の決定並びにこの法律の規定により不服を申し立てることができないこととされている処分については、行政不服審査法による不服申立てをすることができない

行訴法 第14条(出訴期間)
取消訴訟は、処分又は裁決があつたことを知つた日から六箇月を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
2 取消訴訟は、処分又は裁決の日から一年を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
3 処分又は裁決につき審査請求をすることができる場合又は行政庁が誤つて審査請求をすることができる旨を教示した場合において、審査請求があつたときは、処分又は裁決に係る取消訴訟は、その審査請求をした者については、前二項の規定にかかわらず、これに対する裁決があつたことを知つた日から六箇月を経過したとき又は当該裁決の日から一年を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
 
<原審>
特許法195条の4の「査定」には処分に審査官の手続違背があると主張される場合の特許査定は含まれないと解される⇒本件異議申立ては適法であり、本件特許査定取消しの訴えは、行訴法14条3項により出訴期間を徒過していない。
担当審査官には、本件補正がxらの真意に基づくものかどうかを確認すべき手続上の義務を怠った重大な手続違背があり、本件特許査定は無効ではないものの取消しを免れない。
⇒ ①本件特許査定の取消しと②これを前提とする本件却下決定の取消しを認容。
 
<判断>
●本件特許査定取消しの訴えの適法性
①特許法における「査定」の語の用法や同法195条の4の制定経過等
⇒「査定」の文言は文理に照らして解することが自然。
②このように解しても、特許査定の不服に対する司法的救済の途は閉ざされておらず、このほかに行政上の不服申立ての途を認めるべきかどうかは立法府の裁量的判断に委ねられ、その判断も不合理とはいえない。

同法195条の4の「査定」が拒絶査定のみに限定され、あるいは処分に審査官の手続違背があると主張される場合の特許査定はこれに含まれないと解すべき理由はない

本件特許査定に対する行審法による不服申立ては認められないから、本件異議申立ては不適法であり、本件特許査定の取消しの訴えについて行訴法14条3項を適用することはできない。
本件特許査定の取消しの訴えは、出訴期間を徒過⇒却下。

●本件補正の錯誤無効について 
特許法は、書面主義の下、錯誤による書面の記載内容と真意との間の齟齬の是正について厳格な要件の下にのみこれを許容している。

仮に、真意と異なる記載について、一般的な意思表示の錯誤を理由としてその効果を否定することができる余地があり得るとしても、そのような錯誤が認められる場合としては、
①その齟齬が重大なものであることに加えて、
②少なくとも、当該書面の記載自体から、錯誤のあることが客観的に明白なものであり、その是正を認めたとしても第三者の利益を害するおそれがないような場合であることが必要。
but
①本件では、本件補正書の記載自体は、補正前の特許請求の範囲を減縮しようとするものであって、同書面の記載上、特段の問題があるとは認められず、その書面自体からXらに錯誤があることが客観的に明白なものと認めることはできない。
②その是正を認めた場合に第三者の利益を害するおそれがないということもできない。

Xらの錯誤を理由に本件補正が無効であるということはできない

●本件特許査定の違法性について 
審査官が、
特許出願に対する審査を全くすることがなかったか、あるいは実質的にこれと同視すべき場合には、
これによる査定には、特許法の予定する審査を欠く重大な違法があるというべき。

担当審査官は、本件補正が「特許・実用新案審査基準」に照らせば新規事項の追加に当たることを看過したといわざるをえないものの、
本件補正後の本願発明の進歩性、請求項の明確性、明細書のサポート要件及び実施可能要件について、それぞれ検討を経た上で本件特許査定に至ったと評価できる⇒明らかに不合理とまでいうことはできない。

担当審査官が、審査を全くすることなく、あるいは実質的に審査をしなかったのと同視べき場合において本件特許審査を行ったと認めることはできず、本件特許が無効であるということはできない。
 
<解説>
●特許査定に対する行審法に基づく不服申立ての可否 
特許出願に対する拒絶査定の当否については、その専門性、技術性に鑑みて、裁判所の司法審査に先立ち、特許庁の審判合議体による審判手続において審理される(特許法12条)。
but
特許査定に対する不服を理由とする審判請求は認められない
これを認める実益がないことが指摘されている。

審査官による査定は、拒絶査定のみならず特許査定についても、行政処分の性質を有するが、特許法195条の4は、「査定」について行審法による不服申立てをすることができないと規定
but
拒絶査定とは異なり、行政庁に対する不服申立ての途として審判の制度が設けられていない特許査定については、行審法に基づく不服申立ての途が認められるべきかいなか、すなわち、同条の「査定」は拒絶査定だけでなく特許査定を含むかが問題。
本判決は否定。
 
●特許出願と錯誤無効 
行政過程における私人の意思表示に瑕疵がある場合、
一般的には民法の法律行為に関する規定の適用があるとされるが、行政法関係においては、当該関係を規律している法律の仕組みに即して事案を処理してく必要がある。

最高裁昭和39.10.22:
確定申告書の記載内容の過誤の是正については、その錯誤が客観的に明白かつ重大であって、所得税法の定めた更正の請求の方法以外にその是正を許さないならば、納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合でなければ、法定の方法によらないで記載内容の錯誤を主張することは許されない旨判示。

調査官解説:
私人の公法行為について錯誤の主張が許されるかどうかは、究極的には立法政策の問題
法律に特別の規定のない時は格別、行為者の過誤に対する救済が法律で特別に規定されているときは、当該救済手段の設けられている趣旨・目的を勘案した上でその成否及び限度を決すべき
 
●特許査定の無効 
行政処分は、それが国家機関の権限に属する処分として外観的形式を具有する限り、仮にその処分に関し違法の点があったとしても、その違法が重大かつ明白である場合のほかは、これを法律上当然無効というべきではない(最高裁昭和31.7.18)。

判例時報2360

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2018年4月20日 (金)

薬剤の製造方法に係る特許権を侵害する後発医薬品の販売等ないしその薬価収載⇒先発医薬品の市場におけるシェア喪失と薬価及び取引価格の下落⇒損害賠償請求(肯定)

東京地裁H29.7.27    
 
<事案>
本件特許権を第三者と共有する原告が、マキサカルシトール製剤を販売等する被告らに対し、同行為が前記特許権の均等侵害に当たるところ
同行為により、原告製品(オキサロール軟膏)の市場におけるシェアが下落し、
②被告らにおけるマキサカルシトール製剤の薬価収載により、原告製品(オキサロール軟膏及びオキサロールローション)の薬価が下落し、それに伴い原告製品の取引価格も下落したことにより、それぞれ損害を被った。

①につき民法709条ないし特許法102条1項に基づき
②につき民法709条に基づき、
それぞれ損害賠償を請求
 
<争点> 
①均等侵害の成否(被告製品の製造方法が本件特許の出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの「特段の事情」の有無のみが争点)
②本件特許の共有者の1人である原告が被告らに対してどの範囲で損害賠償請求できるか
③原告製品の市場シェア喪失による損害額(特許法102条1ただし書所定の事情の有無・割合を含む。)
④原告製品の取引価格下落による損害額
⑤被告らの過失の有無(均等侵害事案における特許法103条の適用の有無を含む)
⑥原告の過失の有無
⑦特許法102条4項後段の適用の有無
 
<判断>   
被告らに対して合計10億円を超える損害賠償金の支払を命じた 
 
●争点① 
被告らは「原告による別件特許出願における明細書の記載等からすれば、原告は、本件特許出願に際しては、被告製品と同じ構造の物質を出発物質とする製造方法について意識的に除外した(均等侵害の第5要件)」旨主張
vs.
別件特許出願において原告が被告製品と同じ構造の物質を記載したとは認められない⇒被告らの主張は前提を欠く
⇒均等侵害の成立を肯定
 
●争点② 
原告は、単に本件特許権の共有者の1人であるにとどまらず、
他の特許権者(共有者)から、その本件特許権に係る持分について独占的通常実施権を設定されており、被告らによる本件特許権侵害は、原告に対する同実施権の積極的債権侵害にあたる

原告は、被告らに対し、同侵害行為による逸失利益全額について損害賠償できる。
同共有者が侵害者に対して権利行使し得る場合が制限されている⇒被告らの二重払いのリスクがあるとは解されない。
 
●争点③ 
規定 特許法 第102条(損害の額の推定等)
特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為を組成した物を譲渡したときは、その譲渡した物の数量(以下この項において「譲渡数量」という。)に、特許権者又は専用実施権者がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、特許権者又は専用実施権者の実施の能力に応じた額を超えない限度において、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者又は専用実施権者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。

◎特許法102条1項に基づいて、ほぼ原告の主張どおりの損害額を認め、その際、原告製品の薬価ないし取引価格の下落は被告製品の薬価収載によって発生⇒原告製品の薬価下落前の取引価格を前提として原告の損害額を計算

特許法102条1項但書所定の事情について、

被告らの主張する諸事情:
①原告製品には、被告製品以外ににも複数の競合品(薬効や作用機序もほぼ同じ)があり
②被告製品は後発医薬品であり価格が安く、医師も、薬剤処方の際に価格も考慮している
⇒被告製品は原告製品だけでなく競合品のシェアをも一定程度奪っていたと認められる。

原告が主張する諸事情:
原告製品、被告製品、競合品はいずれも医師の処方箋が必要な薬品であり、有効成分が同じ原告製品から被告製品への変更は患者が自由に行えるものの、有効成分が異なる競合品から被告製品への変更は、患者にとって必ずしも容易でない

を総合的に考慮⇒1割の推定覆滅を認めた。
 
●争点④ 
原告の損害のうち薬価下落に基づくものについて、

①新薬創出・適応外薬解消等促進加算という制度が実際に存在し、しかも、同制度に基づく加算は厚生労働省が裁量で行うものではなく、所定の用件を充たす新薬であれば一律に同制度による加算を受けられる⇒これは法律上保護される利益というべき。
②被告製品が薬価収載されなければ原告製品の薬価は下落しなかったものと認められる⇒同下落は被告製品の薬価収載によるもの
③医薬品メーカーや販売代理店が販売する医薬品の価格も薬価を基準として定められる⇒原告とその取引相手との間における取引価格の下落についても、被告製品の薬価収載に基づく損害

同下落に係る損害賠償請求を認めた
 
●争点⑤ 
規定 特許法 第103条(過失の推定)
他人の特許権又は専用実施権を侵害した者は、その侵害の行為について過失があつたものと推定する。
 
◎ 被告ら:特許法103条は均等侵害の場合を想定しておらず、仮に想定していたとしても、被告らに過失はなかった。
vs.
特許法103条は、その文言上、均等侵害の場合に適用されないとすうr根拠がない上、被告らの本件訴訟前の対応等からすれば、被告らに過失がなかったとはいえない。 
 
●争点⑥ 
単に被告製品と同じ構造の物質の製造方法を特許出願の際に記載しなかったことをもって、原告に過失があったとはいえない。
 
●争点⑦ 
規定 特許法 第102条(損害の額の推定等)
4 前項の規定は、同項に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない。この場合において、特許権又は専用実施権を侵害した者に故意又は重大な過失がなかつたときは、裁判所は、損害の賠償の額を定めるについて、これを参酌することができる

◎ 本件に特許法102条4項後段を適用して、損害額を減額すべき事情はない。 
 
<解説> 
後発品(特許侵害品)の販売開始によって先行品が値下げを余儀なくされたことによる逸失利益について、民法709条に基づく損害賠償請求を肯定する学説が多数。
but
製品等の値下げの要因は様々であり得るため、このような因果関係の立証は必ずしも容易でない」と指摘される。 

本件:
新薬創出・適応外薬解消等促進加算という制度⇒「薬価収載後15年以内で、かつ後発品が収載されていないこと」を条件の1つとして、原告製品の薬価が継続的に維持されていたところ、被告製品が薬価収載されたことにより原告製品の薬価が下落

被告製品が薬価収載されたことと、原告製品の薬価が下落したこととの間に因果関係があると認められた
 
特許法102条1項ただし書きに基づく推定覆滅について: 
①市場における競合品の存在
②侵害者の営業努力やブランド力、宣伝広告
③侵害品の性質
④市場の非同一性すなわち価格や販売形態の相違
などが特許法102条1項ただし書所定の「販売することができないとする事情」となるかについて、
肯定説(非限定説)が通説。

本件:
①原告製品・被告製品ともに意思の処方箋を必要とする処方薬⇒有効成分を同じくする原告製品・被告製品間の変更を除き、需要者(患者)が自由に薬品を変更することはできず、必ず医師に処方箋を変更してもらう必要がある⇒需要者が自由に他社製品(競合品)を選択できる場合と同視することはできない。
他方で、
②医師も、薬品を処方する際には、性能がほぼ同等の競合品があることや、患者にとって経済的負担が少ない薬品(被告製品)を処方しようとする動機付けがあること等。

1割につき推定覆滅が認められたもの。
 
特許法102条4項後段は、一定の場合に裁判所の裁量による損害額の減額を定めるが、同条項を適用して損害額を減額した事例はほとんどない

判例時報2359

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2018年3月16日 (金)

特許権者が事実審の口頭弁論終結時までに訂正の再抗弁を主張せず⇒その後に訂正の審決等確定⇒事実審の判断を争えるか?

最高裁H29.7.10      
 
<事案>
特許権者であるXが、Yに対し、Y製品の販売はXの特許権を侵害すると主張して、その販売の差止め及び損害賠償請求等を求めた。 
 
<問題点>
原審:Xの特許権に係る特許には無効理由が存在⇒特許法104条の3第1項の規定に基づく抗弁(「無効の抗弁」)を容れてXの請求を棄却
⇒上告審係属中に、当該特許の請求の範囲を訂正すべき旨の審決が確定
⇒Xが、上告審において、この審決の確定を理由に事実審の判断を争うことができるか? 

上告審係属中に本件特許に係る特許請求の範囲を訂正すべき旨の審決がなされ、確定し、Xはその旨の上申書を提出。
Xは、訂正審決は遡及効を有するところ、本件訂正審決が確定したことにより、原判決の基礎となった行政処分が後の行政処分により変更さたものとして、民訴法338条1項8号に規定する再審事由があるといえる旨を主張
 
<規定>
特許法 第104条の3(特許権者等の権利行使の制限)
特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、当該特許が特許無効審判により又は当該特許権の存続期間の延長登録が延長登録無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、特許権者又は専用実施権者は、相手方に対しその権利を行使することができない。
2 前項の規定による攻撃又は防御の方法については、これが審理を不当に遅延させることを目的として提出されたものと認められるときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、却下の決定をすることができる。
3 第百二十三条第二項ただし書の規定は、当該特許に係る発明について特許を受ける権利を有する者以外の者が第一項の規定による攻撃又は防御の方法を提出することを妨げない。

特許法 第104条の4(主張の制限)
特許権若しくは専用実施権の侵害又は第六十五条第一項若しくは第百八十四条の十第一項に規定する補償金の支払の請求に係る訴訟の終局判決が確定した後に、次に掲げる審決が確定したときは、当該訴訟の当事者であつた者は、当該終局判決に対する再審の訴え(当該訴訟を本案とする仮差押命令事件の債権者に対する損害賠償の請求を目的とする訴え並びに当該訴訟を本案とする仮処分命令事件の債権者に対する損害賠償及び不当利得返還の請求を目的とする訴えを含む。)において、当該審決が確定したことを主張することができない。
一 当該特許を無効にすべき旨の審決
二 当該特許権の存続期間の延長登録を無効にすべき旨の審決
三 当該特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正をすべき旨の審決であつて政令で定めるもの
 
<判断>
前記上申書の提出日まで上告受理申立て理由書の提出期間を伸長する決定をして、Xの上告を受理。 

特許権者が、事実審の口頭弁論終結時までに訂正の再抗弁(訂正により特許法104条の3第1項の規定に基づく無効の抗弁に係る無効理由が解消されることを理由とする再抗弁)を主張しなかったにもかかわらず、その後に同法104条の4第3号所定の特許請求の範囲の訂正をすべき旨の審決等が確定したことを理由に事実審の判断を争うことは、訂正の再抗弁を主張しなかったことについてやむを得ないといえるだけの特段の事情がない限り、特許権の侵害に係る紛争の解決を不当に遅延させるものとして、同法104条の3及び104条の4の各規定の趣旨に照らして許されない。
 
<解説>   
●再審事由と上告理由の関係 
現行民訴法の下では、法令違反の主張は最高裁に対する上告理由とはならない(民訴法312条)⇒再審事由があっても、当然には上告理由には当たらない
but
判例は、民訴法325条2項による破棄事由となり得ると解している(最高裁H11.6.29)。

特許無効審決等の審決取消訴訟に関しては、その請求棄却判決に対する上告審係属中に、当該特許について特許請求の範囲を減縮する旨の訂正審判が確定⇒当該訂正審決の確定は民訴法338条1項8号の再審事由に該当し、同法325条2項による破棄の理由となるものと解されてきた。(最高裁H15.10.31、H17.10.18)
 
<規定>
民訴法 第312条(上告の理由)
上告は、判決に憲法の解釈の誤りがあることその他憲法の違反があることを理由とするときに、することができる。
2 上告は、次に掲げる事由があることを理由とするときも、することができる。ただし、第四号に掲げる事由については、第三十四条第二項(第五十九条において準用する場合を含む。)の規定による追認があったときは、この限りでない。
一 法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと。
二 法律により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと。
二の二 日本の裁判所の管轄権の専属に関する規定に違反したこと。
三 専属管轄に関する規定に違反したこと(第六条第一項各号に定める裁判所が第一審の終局判決をした場合において当該訴訟が同項の規定により他の裁判所の専属管轄に属するときを除く。)。
四 法定代理権、訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたこと。
五 口頭弁論の公開の規定に違反したこと。
六 判決に理由を付せず、又は理由に食違いがあること。

民訴法 第325条(破棄差戻し等)
2 上告裁判所である最高裁判所は、第三百十二条第一項又は第二項に規定する事由がない場合であっても、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるときは、原判決を破棄し、次条の場合を除き、事件を原裁判所に差し戻し、又はこれと同等の他の裁判所に移送することができる

民訴法 第338条(再審の事由) 
次に掲げる事由がある場合には、確定した終局判決に対し、再審の訴えをもって、不服を申し立てることができる。ただし、当事者が控訴若しくは上告によりその事由を主張したとき、又はこれを知りながら主張しなかったときは、この限りでない。
八 判決の基礎となった民事若しくは刑事の判決その他の裁判又は行政処分が後の裁判又は行政処分により変更されたこと。
 
●特許侵害訴訟における再審事由の扱い 
最高裁H12.4.11(キルビー事件)以前:
特許の有効・無効の判断は特許庁における審判手続の専権事項⇒特許権侵害訴訟の手続内においては特許が無効であるとの主張をすることは許されない。

侵害訴訟の認容判決確定後の無効審決の確定は、当然に再審事由に該当する。

平成12年最判:
衡平の理念、紛争の一回的解決等を理由に、特許の無効理由が存することが明らかであると認められるときには、無効審判によらずとも、特許権侵害訴訟の手続内において、そのことを特許権侵害に係る請求に対する抗弁として主張することを認めた

平成16年法律第120号による改正後の特許法は、この判例法理を更に推し進める形で104条の3を新設し、明白性の要件を撤廃して、無効の抗弁を法定
平成12年最判のいう権利濫用の抗弁及び無効の抗弁に対しては、特許権者側が、訂正により無効理由が解消できる旨の主張をすることもできる

特許権侵害訴訟の手続内で、特許の無効理由を主張し、裁判所がその存否について判断ができるようになった⇒侵害訴訟の認容判決確定後に無効審決が確定しても、これを理由とする再審請求は否定すべきする見解が主張。

最高裁H20.4.24(ナイフの加工装置事件):
本件と同様、特許権侵害訴訟の原審が無効の抗弁を容れて請求規約判決をした後、上告審係属中に特許請求の範囲をの減縮を目的とする訂正審決が確定。
同判決の多数意見は、当該訂正審決の確定は、「民訴法338条1項8号所定の再審事由が存するものと解される余地がある」としつつ、当該事案における具体的な事情の下では、これを理由に原審の判断を争うことは当事者間の特許権の侵害に係る紛争の解決を不当に遅延させる⇒特許法104条の3の規定の趣旨に照らして許されない

平成23年法律第63号による改正で、特許法104条の4が新設され、
侵害訴訟の判決確定後に、無効審決(同条1号)又は政令で定める訂正審決(同条3号)等が確定しても、当該判決に対する再審の訴えにおいて、これらの審決が確定したことを主張することは許されない旨が法定
 
●本判決の立場 
侵害訴訟の上告審係属中に無効審決ないし訂正審決が確定したことを上告審において主張することの可否について、
上告理由否定説は採用しなかったが、原則として主張制限がされるとの立場を採用。
←特許法104条の3と同法104条の4の趣旨

①特許法は、
特許法104条の3により、
侵害訴訟の手続内において当事者が特許の効力と範囲に関して攻撃防御(無効の抗弁及び訂正の再抗弁の主張)を尽くすことを可能とし、
さらに、そのような機会と権能が与えられていることを前提として、
同法104条の4 により、
事後的な再審においてこれを実質的に再び争うことを制限
し、
もって、紛争の1回的解決を計るとともに、当事者に侵害訴訟の中で必要な主張立証をすべて提出するよう促すことにより、侵害訴訟の充実を図ろうとしてきた。

上告審において訂正審決の確定を理由に原判決を破棄することとすると、差戻審において訂正後の特許請求の範囲についてほぼ一から審理をやり直すに等しくなる⇒特許権侵害紛争の迅速な解決等のためには、事実審口頭弁論終結後の訂正審決の確定を理由とする主張を制限すべき必要性は、判決確定後だけではなく、上告審においても同様。

③当事者は、侵害訴訟の手続ないにおいて主張された無効理由を解消するための訂正の再抗弁を主張するのであれば、事実審の口頭弁論終結時までにこれをすることが求められており、かつ、同時点までにその機会があるこれを主張しなかった場合に、その後、当該訂正の再抗弁と同じ内容に係る訂正審決が確定したことをもって原審の判断を争うことを制限しても、当事者の手続保障に欠けるとはいえない

事実審口頭弁論終結後に特許の効力と範囲について実質的に再び争うことについても、これを制限的に解することが法の趣旨に沿うものと解し、上告審において訂正審決の確定を理由に事実審の判断を争うことは、原則としてこれを許されないとの立場を採用。

●本件への当てはめ
「Xが、原審口頭弁論終結時までに、本件無効の抗弁に係る無効理由を解消するための訂正についての訂正審判請求等をすることが法律上できなかった」という事実に言及した上、このことをもっても、Xが訂正の再抗弁を主張しなかったことについてやむを得ないといえるだけの特段の事情はうかがわれないと判断。

平成23年改正の際、
審決取消訴訟提起後の訂正審判請求が禁止されて(特許法126条2項)、訂正審判請求することができる時期が格段に狭められた

同改正後の裁判実務及び学説は、訂正の再抗弁を主張するためには、
原則として訂正審判請求等が必要であるとしつつも、
法律上できない又は困難な場合には、衡平の観点から、これを不要とする見解(条件付不要説)
が有力となり、これを一般論として明示する知財高裁判例も現れ、同見解は広く受け入れられている。

①本件において、Xが、原審口頭弁論終結時までに訂正審判請求をすることが法律上できなかったのは、
本件無効の抗弁が主張された時点では、別件の無効審決が終了して審決取消訴訟が係属し、その後も原審口頭弁論終結時まで別件審決が確定しなかったため。

Xは当該無効審判手続において訂正請求をすることはできず(特許法134条の2第1項)、その間訂正審判請求をすることもできなかった(同法126条2項)
②本件無効の抗弁に係る無効理由は前記無効審判では主張されていなかったもの⇒当該無効審判手続においてあらかじめこれを回避するための訂正請求をすることも事実上できなかった。
③Yが本件無効の抗弁を理由とする新たな無効審判請求もしなかった⇒Xは、当該無効審判手続の中で訂正請求をする余地もなかった

Xは、自らの帰責性がない、Y側の行動に起因する事情により、訂正審判請求等をすることが法律上できなかったものであり、本件は、条件付不要説の立場からは、訂正審判請求等が不要とされる場合に当たる。

本判決は、前記のような事情の下では、Xが、訂正の再抗弁を主張するために、実際に訂正審判請求等をしていることは必要なかったとしたもので、前記裁判実務における条件付不要説に親和的な立場を前提とした判断をした。

判例時報2355

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2018年1月 8日 (月)

均等法の判例における特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情にあたるかが問題となった事案

最高裁H29.3.24      
 
<事案>
角化症治療薬の有効成分であるマキサカルシトールを含む化合物の製造方法による特許権の共有者であるX(被上告人)が、Yら(上告人ら)の輸入販売等に係る医薬品の製造方法は、前記の特許に係る特許請求の範囲に記載された構成と均等なものであり、その特許発明の技術的範囲に属すると主張(最高裁H10.2.24)
⇒Yらに対し、当該医薬品の輸入販売等の差止めおよびその廃棄を求めた事案。

Yら:本件では平成10年判決にいう、特許権侵害訴訟における相手方が製造等をする製品又は用いる方法(「対象製品等」)が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存在⇒前記特許請求の範囲に記載された構成と均等なものであるとはいえない。
 
<原審>
本件では、前記特段の事情が存するとはいえず、Yらの製造方法は本件特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして本件発明の技術的範囲に属する
⇒Xの請求を認容

出願人が、特許出願時に、特許請求の範囲外の他の構成を容易に想到することができたにもかかわらず、これを特許請求の範囲に記載しなかった場合であっても、それだけでは、前記特段の事情が存するとはいえない。
前記の場合であっても、出願人が、特許出願時に、特許請求の範囲外の他の構成を、特許請求の範囲に記載された構成中の異なる部分に代替するものとして認識していたものと客観的、外形的にみて認められるときは、前記特段の事情が存在する。
 
<判断>
出願人が、特許出願時に、特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき、対象製品等に係る構成を容易に想到することができたにもかかわらず、これを特許請求の範囲に記載しなかった場合であっても、それだけでは、対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存在するとはいえないというべきである。

出願人が、特許出願時に、特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき、対象製品等に係る構成を容易に想到することができたにもかかわらず、これを特許請求の範囲に記載しなかった場合において、客観的、外形的にみて、対象製品等に係る構成が特許請求の範囲に記載された構成を代替すると認識しながらあえて特許請求の範囲を記載しなかった旨を表示していたといえるときには、対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存するというべきである。
 
<解説>
●均等の主張が許されない特段の事情
◎ 特許法 第70条(特許発明の技術的範囲)
特許発明の技術的範囲は、願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。
特許法70条1項の「特許発明の技術的範囲」は、特許請求の範囲に記載された構成の文言解釈により確定されるのが原則。

平成10年判決:
特許請求の範囲に記載された構成中に相手方が製造等をする製品又は用いる方法(対象製品等)と異なる部分が存する場合(文言侵害が成立しない場合)であっても、所定の要件(第1要件~第5要件)を充足するときは、
当該対象製品等は、
特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、
特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当
であるとし、
特許権侵害(均等侵害)となるものとした。

本件の問題は、第5要件に関する問題で、
「出願時同効材への均等論適用の可否」に関する問題。
 
◎学説
A(出願時容易想到説):
出願人が特許出願時に容易に想到することができた他人の製品等に係る構成を特許請求の範囲に記載しなかっただけで、均等の主張が許されない特段の事情が存する。

B(客観的外形的表示説):
出願人が特許出願時に容易に想到することができた他人の製品などに係る構成を特許請求の範囲に記載しなかっただけでは、均等の主張が許されない特段の事情が存するとはいえず、特段の事情を肯定するためには、何らかの外形的な付加事情が必要とする説。
B説に親和的な裁判例が大勢を占めている。
 
◎米国 
米国の均等論においては、公衆への提供の法理が承認されており、
特許権者が特許請求の範囲に包含させなかった均等物がある場合に、均等物であるという特許権者の認識の明白な表示が認められるとき(例えば、明細書に代替技術として開示しておきながら、特許請求の範囲に記載しなかったとき)は、特許権者は、当該均等物を公衆に提供したものであるから、その均等論の主張は封じられる
 
◎ドイツ 
均等の判断基準に関しては、判決要旨において「特定の技術的効果がどのように奏させるかについて発明の詳細な説明に複数の可能性が開示され、特許請求の範囲からはそのうち1つの可能性のみが理解できる場合、当該複数の可能性のうち残りの可能性を用いているものは、均等な手段として特許権を侵害することはない。」
 
●本判決
◎禁反言の法理
本判決は、平成10年判決が参照されるべきことを示しつつ、特段の事情が存すると均等の主張が許されなくなる根拠は、禁反言(民法1条2項)の法理に照らしているものであることを述べる。

民法 第1条(基本原則) 
2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない

禁反言の法理:
民法1条2項に規定される信義誠実の原則が具体的に適用される場面に現れるものといえ、
権利の行使又は法的地位の主張が、先行行為と直接矛盾する故に(先行行為抵触の類型)、又は先行行為により惹起させた信頼に反する故に(信頼惹起の類型)、その行使を認めることが信義則に反するとされる場合

平成10年判決も説示するとおり、
特許発明の実質的価値は、第三者が特許請求の範囲に記載された構成からこれと実質的に同一なものとして容易に想到することのできる技術に及び、第三者はこれを予想すべきもの。

このような立場にある第三者においては、出願者が特許出願時に容易に想到することができた対象製品等に係る構成を特許請求の範囲に記載しなかっただけでは(先行行為)、対象製品等が特許請求の範囲の記載に含まれず文言侵害はないとの理解が生ずるとしても、例外的に、特許発明の実質的価値が特許請求の範囲外に及びうるとの予期までもが必ずしも払拭できるものではなく、出願人が、あえて特許請求の範囲に記載しなかったとの信頼が生ずるとまではいえない。

出願人の側が、後になって、特許権侵害訴訟において均等の主張をしたとしても(後行行為)、特許発明の実質的価値について先行行為と直接矛盾する行為をしたとはいい難く、前記の「先行行為停職の類型」に当てはまらない。

本判決は、A説(出願時容易想到説)が採用できないことをまず法理として示し、続いて、それではどのような場合に前記のような立場にある第三者の信頼が生ずるといえるのかを分析するべく、前記の「信頼惹起の類型」にあてはまるのかの検討をした。

客観的、外形的にみて、出願人があえて特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたといえるとき(このような先行行為があるとき)には、明細書の開示を受ける第三者も、その表示に基づき、対象製品等が特許請求の範囲から除外されたものとして理解するといえる
⇒当該出願人において、対象製品等が特許発明の技術的範囲に属しないことを承認したと解されるような行動をとったものということができる。

法理として、
客観的、外形的にみて、出願人があえて特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたといえるときには、均等の主張が許されない特段の事情が存する
~B説の採用を明示。

判例時報2349

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2017年9月20日 (水)

特許法102条2項における推定覆滅率等についての事案

東京地裁H28.12.6      
 
<事案>
①発明の名称を「遮断弁」とする特許権(X特許権1)を有し、また、発明の名称を「流体制御弁」又は「遮断弁」とする3件の各特許権(X特許権2~4)を有していたXが、遮断弁(Y製品)を販売するYに対し、
X特許権の1の侵害を理由として、Y製品の販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに、
X特許権1~4の侵害を理由として、損害賠償金及び不当利得返還金の合計2億5607万5000円(一部請求)並びに遅延損害金の支払を求めた事案(本訴)
②発明の名称を「モーター駆動双方向弁とそのシール構造」とするYと第三者との共有特許権(Y特許権)を有していたYが、遮断弁(X製品)を販売するXに対し、
Y特許権の侵害を理由として、損害賠償金及び不当利得返還金の合計5000万円(一部請求)及び遅延損害金の支払を求めた事案(反訴) 
 
<争点>
本訴請求について:
①文言侵害及び均等侵害の成否(争点(1)~(3))
②差止め・廃棄請求の必要性(争点(4))
③Xの損害額及びYの不当利得額(争点(5))

反訴請求について:
①文言侵害の成否(争点(6))
②無効理由(進歩性欠如、サポート要件違反、更正不可欠要件違反)の有無(争点(7))
③訂正の再抗弁の成否(争点(8))
④Yの損害額及びXの不当利得額(争点(9))
 
<判断>
●本訴請求に関し損害賠償金債権(遅延損害金を含む)約2億5300万円、
反訴請求に関し損害賠償金及び不当利得返還請求債権(同)合計1憶6400万円
がそれぞれ生じたと認めた上、
前記各債権はX・Y間の相殺合意によって対等額で消滅

Yに対し、前記各債権の差額である約8900万円等の支払を命じる一方、反訴請求は棄却。
 
●本訴請求について 
Y製品がX特許権1に係る文言侵害を認めたが、
X特許権2~4については文言侵害及び均等侵害のいずれも認めなかった。
差止め、廃棄の必要性については一部を除き認められる。
特許法102条2項の推定に対する覆滅割合をXが主張するとおり20%と判断し、約2億4100万円(Y製品の限界利益の8割及び弁護士費用2200万円の合計額)をX特許権1の侵害によって生じたXの損害と認定。
 
●反訴請求について 
Yの訂正発明について無効理由が存在せず、かつ、X製品がY訂正発明の技術的範囲に属するとして訂正の再抗弁を認める。
Y訂正発明に係る訂正が特許請求の範囲の減縮を目的とするもの
⇒X製品は同訂正前のY発明の技術的範囲に当然に属する
⇒訂正前発明についての無効理由の存否を判断するまでもなく、X製品はY特許権を侵害。

特許法102条2項に基づく損害額(反訴提起日から遡って3年前の日以降の分)につき、同条項の推定に対する覆滅割合をYが主張するとおり20%と判断

Y特許権が共有特許権であることによる推定覆滅について、共有者によるY特許権の実施割合は認められないことを前提に、特許法102条3項に基づく損害額の覆滅されるとした上、仮想実施両立を4%と算定し、約1億500万円(Y製品の限界利益の8割から共有者の損害額を減じた額及び弁護士費用950万円の合計額)をY特許権の侵害によって生じたYの損害と認定。
さらに、民法703条に基づくXの不当利得額(反訴提起日から遡って10年前の日から同3年前の日の前日までの分)につき、約4000万円と認定。

Yは、Y特許発明が基本特許である価値が高いのに対して、X特許発明はY特許発明の改良発明にすぎず、その技術的意義が小さいと主張。
but
本判決は、
Y製品の売上に対するX特許発明とY訂正発明の技術的意義や発明の客観的価値が相違する旨のYの上記主張は、直ちに推定覆滅率についての判断を左右するものとはいえず失当である旨判示。)
 
<規定>
特許法 第102条(損害の額の推定等)
2 特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額と推定する。
 
<解説>
特許法102条2項は、侵害者が侵害の行為により利益を受けているときに、その利益がの額を特許権者等の損害の額と推定する旨規定するところ、特許権者に、侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られただろうという事情が存在する場合には2項の適用が認められると解すべきであり、特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在するなどの諸事情では、推定された損害額を覆滅する事情として考慮され(知財高裁H25.2.1)、いわゆる寄与率として控除(推定の一部覆滅)されることとなる。

この2項の推定の覆滅の有無及び割合を認定するに当たっての考慮事情としては、侵害品全体に対する特許発明の実施部分の価値の割合、営業的要因(市場における代替品の存在、侵害者の営業努力、広告、独自の販売形態、ブランド等)、侵害品自体の特徴(侵害品の性能、デザイン、需要者の購買に結びつく当該特許発明以外の特徴等)等が挙げられることが多い。

本判決は、同様の判断枠組及び判断要素を採用した上、
①対象発明の技術的意義及び
②侵害品の具体的構成に加えて
③侵害品の構成全体について対象発明が実施されていること、
④市場がX・Yの寡占状態で需要者にとってX製品・Y製品以外の代替品の選択肢がほぼ存在しないこと、
⑤X・Yが長年にわたり対象製品について拮抗する市場シェアを有していたこと
などを考慮

いずれも大幅な推定覆滅を認めることは相当でないとして、本訴・反訴共に20%の限度でのみ推定の覆滅を認めた。

●2項侵害に係る損害論の審理においては、しばしば、侵害者から、推定覆滅事情の主張として、対象となる特許発明の価値(技術的意義)が小さいとの主張がなされる。
but
2項は侵害者の利益額を権利者の損害額と推定するもの。

2項による推定を覆滅させるためには、侵害者において、権利者の売上減少による逸失利益の額の数量的ないし金額的な全部又は一部の不存在を基礎付けるに足りる事情、すなわち、侵害者の利益額に結びついた特許権侵害以外の要因(侵害者の資本、営業努力、宣伝広告、製造技術等)を具体的に主張・立証することが必要。

発明の技術的意義や客観的価値の大小が2項の推定覆滅の可否又は割合と直ちに結び付くものではない。
but
侵害者の利益額に結びつく当該発明以外の具体的な要因が認められた場合には、特許発明の技術的意義の大小が推定覆滅割合を判断する上での一事情として考慮されることもあり得る。

●2項については、侵害行為と特許権者等の製品の販売減少との相当因果関係を阻害する事情については、特許発明外侵害品の一部のみに実施される部品特許の場合を除いては、
1項においてはただし書の事情として
2項については推定覆滅の事情として、
いずれも侵害者に立証責任を負わせることが相当であり、
「寄与度減額」という発想からは決別すべきである旨が指摘されている。 

判例時報2336

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2017年5月 7日 (日)

特許法102条1項の構造、同ただし書の「販売することができないとする事情」

知財高裁H28.6.1      
 
<事案>
①発明の名称を「破袋機とその駆動方法」とする発明に係る本件特許権を有する一審原告が、一審被告が製造販売する破袋機は、本件特許発明1ないし3の技術的範囲に属する
②一審被告が被告製品を生産、譲渡等する行為は、本件特許権を侵害する行為であり、また、一審被告から被告製品を購入した顧客が、業として被告製品を使用する行為は本件特許権を侵害する行為であるところ、一審被告が顧客の使用する被告製品を保守する行為は、顧客による被告製品の使用という本件特許権の侵害行為を幇助するもの

一審被告に対し、
①特許権100条に基づき、被告製品の生産、譲渡等の差止め並びに被告製品及びその半製品の廃棄、
②不法行為による損害賠償請求権に基づき、損害賠償金の一部である2816万9021円及び遅延損害金の支払
を求めた事案。
 
<規定>
特許法 第102条(損害の額の推定等)
特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為を組成した物を譲渡したときは、その譲渡した物の数量(以下この項において「譲渡数量」という。)に、特許権者又は専用実施権者がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、特許権者又は専用実施権者の実施の能力に応じた額を超えない限度において、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者又は専用実施権者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。
 
<原審> 
①被告製品は、本件特許発明1,2の技術的範囲に属するが、本件特許発明3の技術的範囲に属さない。
②本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものであるとはいえない。
③一審被告が被告製品を譲渡したことによる損害額は1758万3700円(特許法102条1項)である。
④一審被告が被告製品を保守したことによる損害賠償請求は理由がない。

一審原告の請求を、
①被告製品の清算、譲渡等の差止め並びに被告製品及びその半製品の廃棄、
②1756万3700円及びこれに対する遅延損害金の支払
を求める限度で認容。 
 
<判断>
被告製品は、本件特許発明1,2の技術的範囲に属する旨判示。
損害について増額変更。
 
<判断・説明>
●特許法102条1項の趣旨
侵害者の営業努力や代替品の存在等、権利者において侵害品の販売数量と同数の販売をすることが困難であった事情が訴訟において明らかになった場合でも、それらの事情を考慮した上で現実的な損害額が算定できるルールとして、同項が新設された。
 
●特許法102条1項の構造
「①特許権者又は専用実施権者を侵害した者・・・がその侵害の行為を組成した物を譲渡したとき・・・譲渡した物の数量」に
「②特許権者又は専用実施権者がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額」
を乗じた額を、
「③特許権者又は専用実施権者の実施の能力に応じた額を超えない限度」において、
特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額とすることができる。
同項ただし書によれば、
「④譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者又は専用実施権者が販売することができないとする事情に相当する数量」に応じた額を控除。

損害の計算式:
「(①-④)×②」(≦③)
で、
①②③の事実は、特許権者側が主張立証
④は、被告側が主張立証。
 
●特許法102条1項の解釈 
②の「侵害行為がなければ販売することができた物」とは、侵害行為によってその販売数量に影響を受ける特許権者等の製品、すなわち、侵害品と市場において競合関係に立つ特許権者等の製品であれば足りると解すべき。
特許権者の製品が侵害品と競合可能性を有する物であれば足り、同一のものであることを要しないとするのが多数説・判例の立場。

②の「単位数量当たりの利益額」は、特許権者等の製品の販売価格から製造原価及び製品の販売数量に応じて増加する変動経費を控除した1個当たりの額(限界利益の額)とするのが裁判例。

④の「販売することができないとする事情」は、侵害者の営業努力や代替品の存在等をいうもの。

侵害行為と特許権者等の製品の販売減少との相当因果関係を阻害する事情に特に制限があるわけではなく、これらの事情の立証責任が被告側にあることがポイント。

本判決は、「販売することができないとする事情」は、侵害行為と特許権者等の製品の販売減少との相当因果関係を阻害する事情を対象とし、例えば、市場における競合品の存在、侵害者の営業努力(ブランド力、宣伝広告)、侵害品の性能(機能、デザイン等特許発明以外の特徴)、市場の非同一性(価格、販売形態)などの事情がこれに該当。
一審被告が主張した事情はこれに当たらない。

判例時報2322

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