特許法

2018年4月20日 (金)

薬剤の製造方法に係る特許権を侵害する後発医薬品の販売等ないしその薬価収載⇒先発医薬品の市場におけるシェア喪失と薬価及び取引価格の下落⇒損害賠償請求(肯定)

東京地裁H29.7.27    
 
<事案>
本件特許権を第三者と共有する原告が、マキサカルシトール製剤を販売等する被告らに対し、同行為が前記特許権の均等侵害に当たるところ
同行為により、原告製品(オキサロール軟膏)の市場におけるシェアが下落し、
②被告らにおけるマキサカルシトール製剤の薬価収載により、原告製品(オキサロール軟膏及びオキサロールローション)の薬価が下落し、それに伴い原告製品の取引価格も下落したことにより、それぞれ損害を被った。

①につき民法709条ないし特許法102条1項に基づき
②につき民法709条に基づき、
それぞれ損害賠償を請求
 
<争点> 
①均等侵害の成否(被告製品の製造方法が本件特許の出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの「特段の事情」の有無のみが争点)
②本件特許の共有者の1人である原告が被告らに対してどの範囲で損害賠償請求できるか
③原告製品の市場シェア喪失による損害額(特許法102条1ただし書所定の事情の有無・割合を含む。)
④原告製品の取引価格下落による損害額
⑤被告らの過失の有無(均等侵害事案における特許法103条の適用の有無を含む)
⑥原告の過失の有無
⑦特許法102条4項後段の適用の有無
 
<判断>   
被告らに対して合計10億円を超える損害賠償金の支払を命じた 
 
●争点① 
被告らは「原告による別件特許出願における明細書の記載等からすれば、原告は、本件特許出願に際しては、被告製品と同じ構造の物質を出発物質とする製造方法について意識的に除外した(均等侵害の第5要件)」旨主張
vs.
別件特許出願において原告が被告製品と同じ構造の物質を記載したとは認められない⇒被告らの主張は前提を欠く
⇒均等侵害の成立を肯定
 
●争点② 
原告は、単に本件特許権の共有者の1人であるにとどまらず、
他の特許権者(共有者)から、その本件特許権に係る持分について独占的通常実施権を設定されており、被告らによる本件特許権侵害は、原告に対する同実施権の積極的債権侵害にあたる

原告は、被告らに対し、同侵害行為による逸失利益全額について損害賠償できる。
同共有者が侵害者に対して権利行使し得る場合が制限されている⇒被告らの二重払いのリスクがあるとは解されない。
 
●争点③ 
規定 特許法 第102条(損害の額の推定等)
特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為を組成した物を譲渡したときは、その譲渡した物の数量(以下この項において「譲渡数量」という。)に、特許権者又は専用実施権者がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、特許権者又は専用実施権者の実施の能力に応じた額を超えない限度において、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者又は専用実施権者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。

◎特許法102条1項に基づいて、ほぼ原告の主張どおりの損害額を認め、その際、原告製品の薬価ないし取引価格の下落は被告製品の薬価収載によって発生⇒原告製品の薬価下落前の取引価格を前提として原告の損害額を計算

特許法102条1項但書所定の事情について、

被告らの主張する諸事情:
①原告製品には、被告製品以外ににも複数の競合品(薬効や作用機序もほぼ同じ)があり
②被告製品は後発医薬品であり価格が安く、医師も、薬剤処方の際に価格も考慮している
⇒被告製品は原告製品だけでなく競合品のシェアをも一定程度奪っていたと認められる。

原告が主張する諸事情:
原告製品、被告製品、競合品はいずれも医師の処方箋が必要な薬品であり、有効成分が同じ原告製品から被告製品への変更は患者が自由に行えるものの、有効成分が異なる競合品から被告製品への変更は、患者にとって必ずしも容易でない

を総合的に考慮⇒1割の推定覆滅を認めた。
 
●争点④ 
原告の損害のうち薬価下落に基づくものについて、

①新薬創出・適応外薬解消等促進加算という制度が実際に存在し、しかも、同制度に基づく加算は厚生労働省が裁量で行うものではなく、所定の用件を充たす新薬であれば一律に同制度による加算を受けられる⇒これは法律上保護される利益というべき。
②被告製品が薬価収載されなければ原告製品の薬価は下落しなかったものと認められる⇒同下落は被告製品の薬価収載によるもの
③医薬品メーカーや販売代理店が販売する医薬品の価格も薬価を基準として定められる⇒原告とその取引相手との間における取引価格の下落についても、被告製品の薬価収載に基づく損害

同下落に係る損害賠償請求を認めた
 
●争点⑤ 
規定 特許法 第103条(過失の推定)
他人の特許権又は専用実施権を侵害した者は、その侵害の行為について過失があつたものと推定する。
 
◎ 被告ら:特許法103条は均等侵害の場合を想定しておらず、仮に想定していたとしても、被告らに過失はなかった。
vs.
特許法103条は、その文言上、均等侵害の場合に適用されないとすうr根拠がない上、被告らの本件訴訟前の対応等からすれば、被告らに過失がなかったとはいえない。 
 
●争点⑥ 
単に被告製品と同じ構造の物質の製造方法を特許出願の際に記載しなかったことをもって、原告に過失があったとはいえない。
 
●争点⑦ 
規定 特許法 第102条(損害の額の推定等)
4 前項の規定は、同項に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない。この場合において、特許権又は専用実施権を侵害した者に故意又は重大な過失がなかつたときは、裁判所は、損害の賠償の額を定めるについて、これを参酌することができる

◎ 本件に特許法102条4項後段を適用して、損害額を減額すべき事情はない。 
 
<解説> 
後発品(特許侵害品)の販売開始によって先行品が値下げを余儀なくされたことによる逸失利益について、民法709条に基づく損害賠償請求を肯定する学説が多数。
but
製品等の値下げの要因は様々であり得るため、このような因果関係の立証は必ずしも容易でない」と指摘される。 

本件:
新薬創出・適応外薬解消等促進加算という制度⇒「薬価収載後15年以内で、かつ後発品が収載されていないこと」を条件の1つとして、原告製品の薬価が継続的に維持されていたところ、被告製品が薬価収載されたことにより原告製品の薬価が下落

被告製品が薬価収載されたことと、原告製品の薬価が下落したこととの間に因果関係があると認められた
 
特許法102条1項ただし書きに基づく推定覆滅について: 
①市場における競合品の存在
②侵害者の営業努力やブランド力、宣伝広告
③侵害品の性質
④市場の非同一性すなわち価格や販売形態の相違
などが特許法102条1項ただし書所定の「販売することができないとする事情」となるかについて、
肯定説(非限定説)が通説。

本件:
①原告製品・被告製品ともに意思の処方箋を必要とする処方薬⇒有効成分を同じくする原告製品・被告製品間の変更を除き、需要者(患者)が自由に薬品を変更することはできず、必ず医師に処方箋を変更してもらう必要がある⇒需要者が自由に他社製品(競合品)を選択できる場合と同視することはできない。
他方で、
②医師も、薬品を処方する際には、性能がほぼ同等の競合品があることや、患者にとって経済的負担が少ない薬品(被告製品)を処方しようとする動機付けがあること等。

1割につき推定覆滅が認められたもの。
 
特許法102条4項後段は、一定の場合に裁判所の裁量による損害額の減額を定めるが、同条項を適用して損害額を減額した事例はほとんどない

判例時報2359

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2018年3月16日 (金)

特許権者が事実審の口頭弁論終結時までに訂正の再抗弁を主張せず⇒その後に訂正の審決等確定⇒事実審の判断を争えるか?

最高裁H29.7.10      
 
<事案>
特許権者であるXが、Yに対し、Y製品の販売はXの特許権を侵害すると主張して、その販売の差止め及び損害賠償請求等を求めた。 
 
<問題点>
原審:Xの特許権に係る特許には無効理由が存在⇒特許法104条の3第1項の規定に基づく抗弁(「無効の抗弁」)を容れてXの請求を棄却
⇒上告審係属中に、当該特許の請求の範囲を訂正すべき旨の審決が確定
⇒Xが、上告審において、この審決の確定を理由に事実審の判断を争うことができるか? 

上告審係属中に本件特許に係る特許請求の範囲を訂正すべき旨の審決がなされ、確定し、Xはその旨の上申書を提出。
Xは、訂正審決は遡及効を有するところ、本件訂正審決が確定したことにより、原判決の基礎となった行政処分が後の行政処分により変更さたものとして、民訴法338条1項8号に規定する再審事由があるといえる旨を主張
 
<規定>
特許法 第104条の3(特許権者等の権利行使の制限)
特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、当該特許が特許無効審判により又は当該特許権の存続期間の延長登録が延長登録無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、特許権者又は専用実施権者は、相手方に対しその権利を行使することができない。
2 前項の規定による攻撃又は防御の方法については、これが審理を不当に遅延させることを目的として提出されたものと認められるときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、却下の決定をすることができる。
3 第百二十三条第二項ただし書の規定は、当該特許に係る発明について特許を受ける権利を有する者以外の者が第一項の規定による攻撃又は防御の方法を提出することを妨げない。

特許法 第104条の4(主張の制限)
特許権若しくは専用実施権の侵害又は第六十五条第一項若しくは第百八十四条の十第一項に規定する補償金の支払の請求に係る訴訟の終局判決が確定した後に、次に掲げる審決が確定したときは、当該訴訟の当事者であつた者は、当該終局判決に対する再審の訴え(当該訴訟を本案とする仮差押命令事件の債権者に対する損害賠償の請求を目的とする訴え並びに当該訴訟を本案とする仮処分命令事件の債権者に対する損害賠償及び不当利得返還の請求を目的とする訴えを含む。)において、当該審決が確定したことを主張することができない。
一 当該特許を無効にすべき旨の審決
二 当該特許権の存続期間の延長登録を無効にすべき旨の審決
三 当該特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正をすべき旨の審決であつて政令で定めるもの
 
<判断>
前記上申書の提出日まで上告受理申立て理由書の提出期間を伸長する決定をして、Xの上告を受理。 

特許権者が、事実審の口頭弁論終結時までに訂正の再抗弁(訂正により特許法104条の3第1項の規定に基づく無効の抗弁に係る無効理由が解消されることを理由とする再抗弁)を主張しなかったにもかかわらず、その後に同法104条の4第3号所定の特許請求の範囲の訂正をすべき旨の審決等が確定したことを理由に事実審の判断を争うことは、訂正の再抗弁を主張しなかったことについてやむを得ないといえるだけの特段の事情がない限り、特許権の侵害に係る紛争の解決を不当に遅延させるものとして、同法104条の3及び104条の4の各規定の趣旨に照らして許されない。
 
<解説>   
●再審事由と上告理由の関係 
現行民訴法の下では、法令違反の主張は最高裁に対する上告理由とはならない(民訴法312条)⇒再審事由があっても、当然には上告理由には当たらない
but
判例は、民訴法325条2項による破棄事由となり得ると解している(最高裁H11.6.29)。

特許無効審決等の審決取消訴訟に関しては、その請求棄却判決に対する上告審係属中に、当該特許について特許請求の範囲を減縮する旨の訂正審判が確定⇒当該訂正審決の確定は民訴法338条1項8号の再審事由に該当し、同法325条2項による破棄の理由となるものと解されてきた。(最高裁H15.10.31、H17.10.18)
 
<規定>
民訴法 第312条(上告の理由)
上告は、判決に憲法の解釈の誤りがあることその他憲法の違反があることを理由とするときに、することができる。
2 上告は、次に掲げる事由があることを理由とするときも、することができる。ただし、第四号に掲げる事由については、第三十四条第二項(第五十九条において準用する場合を含む。)の規定による追認があったときは、この限りでない。
一 法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと。
二 法律により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと。
二の二 日本の裁判所の管轄権の専属に関する規定に違反したこと。
三 専属管轄に関する規定に違反したこと(第六条第一項各号に定める裁判所が第一審の終局判決をした場合において当該訴訟が同項の規定により他の裁判所の専属管轄に属するときを除く。)。
四 法定代理権、訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたこと。
五 口頭弁論の公開の規定に違反したこと。
六 判決に理由を付せず、又は理由に食違いがあること。

民訴法 第325条(破棄差戻し等)
2 上告裁判所である最高裁判所は、第三百十二条第一項又は第二項に規定する事由がない場合であっても、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるときは、原判決を破棄し、次条の場合を除き、事件を原裁判所に差し戻し、又はこれと同等の他の裁判所に移送することができる

民訴法 第338条(再審の事由) 
次に掲げる事由がある場合には、確定した終局判決に対し、再審の訴えをもって、不服を申し立てることができる。ただし、当事者が控訴若しくは上告によりその事由を主張したとき、又はこれを知りながら主張しなかったときは、この限りでない。
八 判決の基礎となった民事若しくは刑事の判決その他の裁判又は行政処分が後の裁判又は行政処分により変更されたこと。
 
●特許侵害訴訟における再審事由の扱い 
最高裁H12.4.11(キルビー事件)以前:
特許の有効・無効の判断は特許庁における審判手続の専権事項⇒特許権侵害訴訟の手続内においては特許が無効であるとの主張をすることは許されない。

侵害訴訟の認容判決確定後の無効審決の確定は、当然に再審事由に該当する。

平成12年最判:
衡平の理念、紛争の一回的解決等を理由に、特許の無効理由が存することが明らかであると認められるときには、無効審判によらずとも、特許権侵害訴訟の手続内において、そのことを特許権侵害に係る請求に対する抗弁として主張することを認めた

平成16年法律第120号による改正後の特許法は、この判例法理を更に推し進める形で104条の3を新設し、明白性の要件を撤廃して、無効の抗弁を法定
平成12年最判のいう権利濫用の抗弁及び無効の抗弁に対しては、特許権者側が、訂正により無効理由が解消できる旨の主張をすることもできる

特許権侵害訴訟の手続内で、特許の無効理由を主張し、裁判所がその存否について判断ができるようになった⇒侵害訴訟の認容判決確定後に無効審決が確定しても、これを理由とする再審請求は否定すべきする見解が主張。

最高裁H20.4.24(ナイフの加工装置事件):
本件と同様、特許権侵害訴訟の原審が無効の抗弁を容れて請求規約判決をした後、上告審係属中に特許請求の範囲をの減縮を目的とする訂正審決が確定。
同判決の多数意見は、当該訂正審決の確定は、「民訴法338条1項8号所定の再審事由が存するものと解される余地がある」としつつ、当該事案における具体的な事情の下では、これを理由に原審の判断を争うことは当事者間の特許権の侵害に係る紛争の解決を不当に遅延させる⇒特許法104条の3の規定の趣旨に照らして許されない

平成23年法律第63号による改正で、特許法104条の4が新設され、
侵害訴訟の判決確定後に、無効審決(同条1号)又は政令で定める訂正審決(同条3号)等が確定しても、当該判決に対する再審の訴えにおいて、これらの審決が確定したことを主張することは許されない旨が法定
 
●本判決の立場 
侵害訴訟の上告審係属中に無効審決ないし訂正審決が確定したことを上告審において主張することの可否について、
上告理由否定説は採用しなかったが、原則として主張制限がされるとの立場を採用。
←特許法104条の3と同法104条の4の趣旨

①特許法は、
特許法104条の3により、
侵害訴訟の手続内において当事者が特許の効力と範囲に関して攻撃防御(無効の抗弁及び訂正の再抗弁の主張)を尽くすことを可能とし、
さらに、そのような機会と権能が与えられていることを前提として、
同法104条の4 により、
事後的な再審においてこれを実質的に再び争うことを制限
し、
もって、紛争の1回的解決を計るとともに、当事者に侵害訴訟の中で必要な主張立証をすべて提出するよう促すことにより、侵害訴訟の充実を図ろうとしてきた。

上告審において訂正審決の確定を理由に原判決を破棄することとすると、差戻審において訂正後の特許請求の範囲についてほぼ一から審理をやり直すに等しくなる⇒特許権侵害紛争の迅速な解決等のためには、事実審口頭弁論終結後の訂正審決の確定を理由とする主張を制限すべき必要性は、判決確定後だけではなく、上告審においても同様。

③当事者は、侵害訴訟の手続ないにおいて主張された無効理由を解消するための訂正の再抗弁を主張するのであれば、事実審の口頭弁論終結時までにこれをすることが求められており、かつ、同時点までにその機会があるこれを主張しなかった場合に、その後、当該訂正の再抗弁と同じ内容に係る訂正審決が確定したことをもって原審の判断を争うことを制限しても、当事者の手続保障に欠けるとはいえない

事実審口頭弁論終結後に特許の効力と範囲について実質的に再び争うことについても、これを制限的に解することが法の趣旨に沿うものと解し、上告審において訂正審決の確定を理由に事実審の判断を争うことは、原則としてこれを許されないとの立場を採用。

●本件への当てはめ
「Xが、原審口頭弁論終結時までに、本件無効の抗弁に係る無効理由を解消するための訂正についての訂正審判請求等をすることが法律上できなかった」という事実に言及した上、このことをもっても、Xが訂正の再抗弁を主張しなかったことについてやむを得ないといえるだけの特段の事情はうかがわれないと判断。

平成23年改正の際、
審決取消訴訟提起後の訂正審判請求が禁止されて(特許法126条2項)、訂正審判請求することができる時期が格段に狭められた

同改正後の裁判実務及び学説は、訂正の再抗弁を主張するためには、
原則として訂正審判請求等が必要であるとしつつも、
法律上できない又は困難な場合には、衡平の観点から、これを不要とする見解(条件付不要説)
が有力となり、これを一般論として明示する知財高裁判例も現れ、同見解は広く受け入れられている。

①本件において、Xが、原審口頭弁論終結時までに訂正審判請求をすることが法律上できなかったのは、
本件無効の抗弁が主張された時点では、別件の無効審決が終了して審決取消訴訟が係属し、その後も原審口頭弁論終結時まで別件審決が確定しなかったため。

Xは当該無効審判手続において訂正請求をすることはできず(特許法134条の2第1項)、その間訂正審判請求をすることもできなかった(同法126条2項)
②本件無効の抗弁に係る無効理由は前記無効審判では主張されていなかったもの⇒当該無効審判手続においてあらかじめこれを回避するための訂正請求をすることも事実上できなかった。
③Yが本件無効の抗弁を理由とする新たな無効審判請求もしなかった⇒Xは、当該無効審判手続の中で訂正請求をする余地もなかった

Xは、自らの帰責性がない、Y側の行動に起因する事情により、訂正審判請求等をすることが法律上できなかったものであり、本件は、条件付不要説の立場からは、訂正審判請求等が不要とされる場合に当たる。

本判決は、前記のような事情の下では、Xが、訂正の再抗弁を主張するために、実際に訂正審判請求等をしていることは必要なかったとしたもので、前記裁判実務における条件付不要説に親和的な立場を前提とした判断をした。

判例時報2355

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2018年1月 8日 (月)

均等法の判例における特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情にあたるかが問題となった事案

最高裁H29.3.24      
 
<事案>
角化症治療薬の有効成分であるマキサカルシトールを含む化合物の製造方法による特許権の共有者であるX(被上告人)が、Yら(上告人ら)の輸入販売等に係る医薬品の製造方法は、前記の特許に係る特許請求の範囲に記載された構成と均等なものであり、その特許発明の技術的範囲に属すると主張(最高裁H10.2.24)
⇒Yらに対し、当該医薬品の輸入販売等の差止めおよびその廃棄を求めた事案。

Yら:本件では平成10年判決にいう、特許権侵害訴訟における相手方が製造等をする製品又は用いる方法(「対象製品等」)が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存在⇒前記特許請求の範囲に記載された構成と均等なものであるとはいえない。
 
<原審>
本件では、前記特段の事情が存するとはいえず、Yらの製造方法は本件特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして本件発明の技術的範囲に属する
⇒Xの請求を認容

出願人が、特許出願時に、特許請求の範囲外の他の構成を容易に想到することができたにもかかわらず、これを特許請求の範囲に記載しなかった場合であっても、それだけでは、前記特段の事情が存するとはいえない。
前記の場合であっても、出願人が、特許出願時に、特許請求の範囲外の他の構成を、特許請求の範囲に記載された構成中の異なる部分に代替するものとして認識していたものと客観的、外形的にみて認められるときは、前記特段の事情が存在する。
 
<判断>
出願人が、特許出願時に、特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき、対象製品等に係る構成を容易に想到することができたにもかかわらず、これを特許請求の範囲に記載しなかった場合であっても、それだけでは、対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存在するとはいえないというべきである。

出願人が、特許出願時に、特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき、対象製品等に係る構成を容易に想到することができたにもかかわらず、これを特許請求の範囲に記載しなかった場合において、客観的、外形的にみて、対象製品等に係る構成が特許請求の範囲に記載された構成を代替すると認識しながらあえて特許請求の範囲を記載しなかった旨を表示していたといえるときには、対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存するというべきである。
 
<解説>
●均等の主張が許されない特段の事情
◎ 特許法 第70条(特許発明の技術的範囲)
特許発明の技術的範囲は、願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。
特許法70条1項の「特許発明の技術的範囲」は、特許請求の範囲に記載された構成の文言解釈により確定されるのが原則。

平成10年判決:
特許請求の範囲に記載された構成中に相手方が製造等をする製品又は用いる方法(対象製品等)と異なる部分が存する場合(文言侵害が成立しない場合)であっても、所定の要件(第1要件~第5要件)を充足するときは、
当該対象製品等は、
特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、
特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当
であるとし、
特許権侵害(均等侵害)となるものとした。

本件の問題は、第5要件に関する問題で、
「出願時同効材への均等論適用の可否」に関する問題。
 
◎学説
A(出願時容易想到説):
出願人が特許出願時に容易に想到することができた他人の製品等に係る構成を特許請求の範囲に記載しなかっただけで、均等の主張が許されない特段の事情が存する。

B(客観的外形的表示説):
出願人が特許出願時に容易に想到することができた他人の製品などに係る構成を特許請求の範囲に記載しなかっただけでは、均等の主張が許されない特段の事情が存するとはいえず、特段の事情を肯定するためには、何らかの外形的な付加事情が必要とする説。
B説に親和的な裁判例が大勢を占めている。
 
◎米国 
米国の均等論においては、公衆への提供の法理が承認されており、
特許権者が特許請求の範囲に包含させなかった均等物がある場合に、均等物であるという特許権者の認識の明白な表示が認められるとき(例えば、明細書に代替技術として開示しておきながら、特許請求の範囲に記載しなかったとき)は、特許権者は、当該均等物を公衆に提供したものであるから、その均等論の主張は封じられる
 
◎ドイツ 
均等の判断基準に関しては、判決要旨において「特定の技術的効果がどのように奏させるかについて発明の詳細な説明に複数の可能性が開示され、特許請求の範囲からはそのうち1つの可能性のみが理解できる場合、当該複数の可能性のうち残りの可能性を用いているものは、均等な手段として特許権を侵害することはない。」
 
●本判決
◎禁反言の法理
本判決は、平成10年判決が参照されるべきことを示しつつ、特段の事情が存すると均等の主張が許されなくなる根拠は、禁反言(民法1条2項)の法理に照らしているものであることを述べる。

民法 第1条(基本原則) 
2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない

禁反言の法理:
民法1条2項に規定される信義誠実の原則が具体的に適用される場面に現れるものといえ、
権利の行使又は法的地位の主張が、先行行為と直接矛盾する故に(先行行為抵触の類型)、又は先行行為により惹起させた信頼に反する故に(信頼惹起の類型)、その行使を認めることが信義則に反するとされる場合

平成10年判決も説示するとおり、
特許発明の実質的価値は、第三者が特許請求の範囲に記載された構成からこれと実質的に同一なものとして容易に想到することのできる技術に及び、第三者はこれを予想すべきもの。

このような立場にある第三者においては、出願者が特許出願時に容易に想到することができた対象製品等に係る構成を特許請求の範囲に記載しなかっただけでは(先行行為)、対象製品等が特許請求の範囲の記載に含まれず文言侵害はないとの理解が生ずるとしても、例外的に、特許発明の実質的価値が特許請求の範囲外に及びうるとの予期までもが必ずしも払拭できるものではなく、出願人が、あえて特許請求の範囲に記載しなかったとの信頼が生ずるとまではいえない。

出願人の側が、後になって、特許権侵害訴訟において均等の主張をしたとしても(後行行為)、特許発明の実質的価値について先行行為と直接矛盾する行為をしたとはいい難く、前記の「先行行為停職の類型」に当てはまらない。

本判決は、A説(出願時容易想到説)が採用できないことをまず法理として示し、続いて、それではどのような場合に前記のような立場にある第三者の信頼が生ずるといえるのかを分析するべく、前記の「信頼惹起の類型」にあてはまるのかの検討をした。

客観的、外形的にみて、出願人があえて特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたといえるとき(このような先行行為があるとき)には、明細書の開示を受ける第三者も、その表示に基づき、対象製品等が特許請求の範囲から除外されたものとして理解するといえる
⇒当該出願人において、対象製品等が特許発明の技術的範囲に属しないことを承認したと解されるような行動をとったものということができる。

法理として、
客観的、外形的にみて、出願人があえて特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたといえるときには、均等の主張が許されない特段の事情が存する
~B説の採用を明示。

判例時報2349

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2017年9月20日 (水)

特許法102条2項における推定覆滅率等についての事案

東京地裁H28.12.6      
 
<事案>
①発明の名称を「遮断弁」とする特許権(X特許権1)を有し、また、発明の名称を「流体制御弁」又は「遮断弁」とする3件の各特許権(X特許権2~4)を有していたXが、遮断弁(Y製品)を販売するYに対し、
X特許権の1の侵害を理由として、Y製品の販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに、
X特許権1~4の侵害を理由として、損害賠償金及び不当利得返還金の合計2億5607万5000円(一部請求)並びに遅延損害金の支払を求めた事案(本訴)
②発明の名称を「モーター駆動双方向弁とそのシール構造」とするYと第三者との共有特許権(Y特許権)を有していたYが、遮断弁(X製品)を販売するXに対し、
Y特許権の侵害を理由として、損害賠償金及び不当利得返還金の合計5000万円(一部請求)及び遅延損害金の支払を求めた事案(反訴) 
 
<争点>
本訴請求について:
①文言侵害及び均等侵害の成否(争点(1)~(3))
②差止め・廃棄請求の必要性(争点(4))
③Xの損害額及びYの不当利得額(争点(5))

反訴請求について:
①文言侵害の成否(争点(6))
②無効理由(進歩性欠如、サポート要件違反、更正不可欠要件違反)の有無(争点(7))
③訂正の再抗弁の成否(争点(8))
④Yの損害額及びXの不当利得額(争点(9))
 
<判断>
●本訴請求に関し損害賠償金債権(遅延損害金を含む)約2億5300万円、
反訴請求に関し損害賠償金及び不当利得返還請求債権(同)合計1憶6400万円
がそれぞれ生じたと認めた上、
前記各債権はX・Y間の相殺合意によって対等額で消滅

Yに対し、前記各債権の差額である約8900万円等の支払を命じる一方、反訴請求は棄却。
 
●本訴請求について 
Y製品がX特許権1に係る文言侵害を認めたが、
X特許権2~4については文言侵害及び均等侵害のいずれも認めなかった。
差止め、廃棄の必要性については一部を除き認められる。
特許法102条2項の推定に対する覆滅割合をXが主張するとおり20%と判断し、約2億4100万円(Y製品の限界利益の8割及び弁護士費用2200万円の合計額)をX特許権1の侵害によって生じたXの損害と認定。
 
●反訴請求について 
Yの訂正発明について無効理由が存在せず、かつ、X製品がY訂正発明の技術的範囲に属するとして訂正の再抗弁を認める。
Y訂正発明に係る訂正が特許請求の範囲の減縮を目的とするもの
⇒X製品は同訂正前のY発明の技術的範囲に当然に属する
⇒訂正前発明についての無効理由の存否を判断するまでもなく、X製品はY特許権を侵害。

特許法102条2項に基づく損害額(反訴提起日から遡って3年前の日以降の分)につき、同条項の推定に対する覆滅割合をYが主張するとおり20%と判断

Y特許権が共有特許権であることによる推定覆滅について、共有者によるY特許権の実施割合は認められないことを前提に、特許法102条3項に基づく損害額の覆滅されるとした上、仮想実施両立を4%と算定し、約1億500万円(Y製品の限界利益の8割から共有者の損害額を減じた額及び弁護士費用950万円の合計額)をY特許権の侵害によって生じたYの損害と認定。
さらに、民法703条に基づくXの不当利得額(反訴提起日から遡って10年前の日から同3年前の日の前日までの分)につき、約4000万円と認定。

Yは、Y特許発明が基本特許である価値が高いのに対して、X特許発明はY特許発明の改良発明にすぎず、その技術的意義が小さいと主張。
but
本判決は、
Y製品の売上に対するX特許発明とY訂正発明の技術的意義や発明の客観的価値が相違する旨のYの上記主張は、直ちに推定覆滅率についての判断を左右するものとはいえず失当である旨判示。)
 
<規定>
特許法 第102条(損害の額の推定等)
2 特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額と推定する。
 
<解説>
特許法102条2項は、侵害者が侵害の行為により利益を受けているときに、その利益がの額を特許権者等の損害の額と推定する旨規定するところ、特許権者に、侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られただろうという事情が存在する場合には2項の適用が認められると解すべきであり、特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在するなどの諸事情では、推定された損害額を覆滅する事情として考慮され(知財高裁H25.2.1)、いわゆる寄与率として控除(推定の一部覆滅)されることとなる。

この2項の推定の覆滅の有無及び割合を認定するに当たっての考慮事情としては、侵害品全体に対する特許発明の実施部分の価値の割合、営業的要因(市場における代替品の存在、侵害者の営業努力、広告、独自の販売形態、ブランド等)、侵害品自体の特徴(侵害品の性能、デザイン、需要者の購買に結びつく当該特許発明以外の特徴等)等が挙げられることが多い。

本判決は、同様の判断枠組及び判断要素を採用した上、
①対象発明の技術的意義及び
②侵害品の具体的構成に加えて
③侵害品の構成全体について対象発明が実施されていること、
④市場がX・Yの寡占状態で需要者にとってX製品・Y製品以外の代替品の選択肢がほぼ存在しないこと、
⑤X・Yが長年にわたり対象製品について拮抗する市場シェアを有していたこと
などを考慮

いずれも大幅な推定覆滅を認めることは相当でないとして、本訴・反訴共に20%の限度でのみ推定の覆滅を認めた。

●2項侵害に係る損害論の審理においては、しばしば、侵害者から、推定覆滅事情の主張として、対象となる特許発明の価値(技術的意義)が小さいとの主張がなされる。
but
2項は侵害者の利益額を権利者の損害額と推定するもの。

2項による推定を覆滅させるためには、侵害者において、権利者の売上減少による逸失利益の額の数量的ないし金額的な全部又は一部の不存在を基礎付けるに足りる事情、すなわち、侵害者の利益額に結びついた特許権侵害以外の要因(侵害者の資本、営業努力、宣伝広告、製造技術等)を具体的に主張・立証することが必要。

発明の技術的意義や客観的価値の大小が2項の推定覆滅の可否又は割合と直ちに結び付くものではない。
but
侵害者の利益額に結びつく当該発明以外の具体的な要因が認められた場合には、特許発明の技術的意義の大小が推定覆滅割合を判断する上での一事情として考慮されることもあり得る。

●2項については、侵害行為と特許権者等の製品の販売減少との相当因果関係を阻害する事情については、特許発明外侵害品の一部のみに実施される部品特許の場合を除いては、
1項においてはただし書の事情として
2項については推定覆滅の事情として、
いずれも侵害者に立証責任を負わせることが相当であり、
「寄与度減額」という発想からは決別すべきである旨が指摘されている。 

判例時報2336

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2017年5月 7日 (日)

特許法102条1項の構造、同ただし書の「販売することができないとする事情」

知財高裁H28.6.1      
 
<事案>
①発明の名称を「破袋機とその駆動方法」とする発明に係る本件特許権を有する一審原告が、一審被告が製造販売する破袋機は、本件特許発明1ないし3の技術的範囲に属する
②一審被告が被告製品を生産、譲渡等する行為は、本件特許権を侵害する行為であり、また、一審被告から被告製品を購入した顧客が、業として被告製品を使用する行為は本件特許権を侵害する行為であるところ、一審被告が顧客の使用する被告製品を保守する行為は、顧客による被告製品の使用という本件特許権の侵害行為を幇助するもの

一審被告に対し、
①特許権100条に基づき、被告製品の生産、譲渡等の差止め並びに被告製品及びその半製品の廃棄、
②不法行為による損害賠償請求権に基づき、損害賠償金の一部である2816万9021円及び遅延損害金の支払
を求めた事案。
 
<規定>
特許法 第102条(損害の額の推定等)
特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為を組成した物を譲渡したときは、その譲渡した物の数量(以下この項において「譲渡数量」という。)に、特許権者又は専用実施権者がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、特許権者又は専用実施権者の実施の能力に応じた額を超えない限度において、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者又は専用実施権者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。
 
<原審> 
①被告製品は、本件特許発明1,2の技術的範囲に属するが、本件特許発明3の技術的範囲に属さない。
②本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものであるとはいえない。
③一審被告が被告製品を譲渡したことによる損害額は1758万3700円(特許法102条1項)である。
④一審被告が被告製品を保守したことによる損害賠償請求は理由がない。

一審原告の請求を、
①被告製品の清算、譲渡等の差止め並びに被告製品及びその半製品の廃棄、
②1756万3700円及びこれに対する遅延損害金の支払
を求める限度で認容。 
 
<判断>
被告製品は、本件特許発明1,2の技術的範囲に属する旨判示。
損害について増額変更。
 
<判断・説明>
●特許法102条1項の趣旨
侵害者の営業努力や代替品の存在等、権利者において侵害品の販売数量と同数の販売をすることが困難であった事情が訴訟において明らかになった場合でも、それらの事情を考慮した上で現実的な損害額が算定できるルールとして、同項が新設された。
 
●特許法102条1項の構造
「①特許権者又は専用実施権者を侵害した者・・・がその侵害の行為を組成した物を譲渡したとき・・・譲渡した物の数量」に
「②特許権者又は専用実施権者がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額」
を乗じた額を、
「③特許権者又は専用実施権者の実施の能力に応じた額を超えない限度」において、
特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額とすることができる。
同項ただし書によれば、
「④譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者又は専用実施権者が販売することができないとする事情に相当する数量」に応じた額を控除。

損害の計算式:
「(①-④)×②」(≦③)
で、
①②③の事実は、特許権者側が主張立証
④は、被告側が主張立証。
 
●特許法102条1項の解釈 
②の「侵害行為がなければ販売することができた物」とは、侵害行為によってその販売数量に影響を受ける特許権者等の製品、すなわち、侵害品と市場において競合関係に立つ特許権者等の製品であれば足りると解すべき。
特許権者の製品が侵害品と競合可能性を有する物であれば足り、同一のものであることを要しないとするのが多数説・判例の立場。

②の「単位数量当たりの利益額」は、特許権者等の製品の販売価格から製造原価及び製品の販売数量に応じて増加する変動経費を控除した1個当たりの額(限界利益の額)とするのが裁判例。

④の「販売することができないとする事情」は、侵害者の営業努力や代替品の存在等をいうもの。

侵害行為と特許権者等の製品の販売減少との相当因果関係を阻害する事情に特に制限があるわけではなく、これらの事情の立証責任が被告側にあることがポイント。

本判決は、「販売することができないとする事情」は、侵害行為と特許権者等の製品の販売減少との相当因果関係を阻害する事情を対象とし、例えば、市場における競合品の存在、侵害者の営業努力(ブランド力、宣伝広告)、侵害品の性能(機能、デザイン等特許発明以外の特徴)、市場の非同一性(価格、販売形態)などの事情がこれに該当。
一審被告が主張した事情はこれに当たらない。

判例時報2322

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2017年3月20日 (月)

存続期間の延長された特許権の効力が被告の製造販売に及ぶかが問題となった事例

東京地裁H28.3.30      
 
<事案>
発明の名称を「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」とする特許(本件特許)の特許権者である原告が、被告に対し、被告の製造販売に係る製剤(被告製品)は、本件特許の願書に添付した明細書(本件明細書)の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(本件発明)の技術的範囲に属し、かつ、存続期間の延長登録を受けた本件特許権の効力は、被告製品の生産、譲渡及び譲渡の申出に及ぶ旨主張して、被告製品の生産等の差止め及び廃棄を求めた。 
 
<規定>
特許法 第67条(存続期間)
特許権の存続期間は、特許出願の日から二十年をもつて終了する。
2 特許権の存続期間は、その特許発明の実施について安全性の確保等を目的とする法律の規定による許可その他の処分であつて当該処分の目的、手続等からみて当該処分を的確に行うには相当の期間を要するものとして政令で定めるものを受けることが必要であるために、その特許発明の実施をすることができない期間があつたときは、五年を限度として、延長登録の出願により延長することができる。
 
特許法 第68条の2(存続期間が延長された場合の特許権の効力)
特許権の存続期間が延長された場合(第六十七条の二第五項の規定により延長されたものとみなされた場合を含む。)の当該特許権の効力は、その延長登録の理由となつた第六十七条第二項の政令で定める処分の対象となつた物(その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合にあつては、当該用途に使用されるその物)についての当該特許発明の実施以外の行為には、及ばない
 
<判断> 
●特許権の存続期間の延長登録の制度:
特許発明を実施する意思及び能力があってもなお、特許発明を実施することができなかった特許権者に対して、政令処分を受けることによって禁止が解除されることとなった特許発明の実施行為について、当該政令処分を受けるために必要であった期間、特許権の存続期間を延長する措置を講じることによって、特許発明を実施することができなかた不利益の解消を図った制度。 

特許権68条の2の規定によれば、特許権の存続期間が延長された場合の当該特許権の効力は、政令処分の対象となった物(その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合にあっては、当該用途に使用されるその物)についての当該特許発明の実施行為にのみ及ぶ。

原則として、政令処分を受けることによって禁止が解除されることとなった特許発明の実施行使、すなわち、当該政令処分を受けることが必要であったために実施することができなかった(当該用途に使用される)物についての実施行為にのみ及び、特許発明のその余の実施行為には及ばない。

前記の延長登録の制度趣旨
当該政令処分の対象となった(当該用途に使用される)物と相違する点がある対象物件であっても、当該対象物件についての製造販売等の準備が開始された時点(当該対象物件の製造販売等に政令処分が必要な場合は、当該政令処分を受けるのに必要な試験が開始された時点)において、存続期間が延長された特許権に係る特許発明の種類や対象に照らして、その相違が周知技術・慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効用を奏するものではないと認められるなど、当該対象物件が当該政令処分の対象となった(当該用途に使用される)物の均等物ないし実質的に同一と評価される物についての実施行為にまで及ぶ
 
●特許法67条2項の政令で定める処分が、 医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律所定の医薬品に係る承認である場合は、当該医薬品の「用途」と特定する事項に該当すると考えられる「用途、用量、効能、効果」について必ず審査される
⇒特許法68条の2括弧書の「その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合」に該当。

政令処分が医薬品医療機器等法所定の医薬品に係る承認である場合、「当該用途に使用される物」についての特許発明の実施か否かを判断しなければならない⇒「物」及び「用途」の特定が必要となる。
医薬品の成分を対象とする特許発明の場合、特許法68条の2によって存続期間が延長された特許権は、「物」に係るものとして「成分(有効成分に限らない。)及び分量」によって特定され、かつ、「用途」に係るものとして、「効能、効果」及び「用法、用量」によって特定された当該特許発明の実施の範囲で効力が及ぶものと解するのが相当」(「当該用途に使用される物」の均等物や「当該用途に使用される物」の実質同一物が含まれる。)
 
●本件では、処分を受けることが必要であったために実施することができなかった「当該用途に使用される物」とは、「物」に係るものとしての成分として「オキサリプラチン」と「注射用水」のみを含みそれ以外の成分を含まない製剤
but
被告製品の成分は、「オキサリプラチン」と「水」以外に、添加物として「濃グリセリン」を含むものであると認定。

「当該用途に使用される物」とは、「成分」において異なる⇒本件処分に対象となった「当該用途に使用される物」とは異なる。 
 
●実質同一物か否かの判断について: 
「当該用途に使用される物」といえないとしても、「被告製品と本件処分の対象となった「当該用途に使用される物」との相違が、被告各製品について政令処分を受けるのに必要な試験が開始された時点において、本件発明の種類や対象に照らして、周知技術・慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではない場合には、その「当該用途に使用される物」の均等物、あるいはその「当該用途に使用される物」の実質同一物と認めるのが相当

当該特許発明が新規化合物に関する発明や特定の化合物を特定の医薬用途に用いることに関する発明など、医薬品の有効成分(薬効を発揮する成分)のみを特徴的部分とする発明
⇒延長登録の理由となった処分の対象となった「物」及び「用途」との関係で、有効成分以外の成分のみが異なるだけで、生物学的同等性が認められる物については、当該成分の相違は、当該特許発明との関係で、周知技術・慣用技術の付加、削除、転換等に当たり、新たな効果を奏しないことが多い
⇒「当該用途に使用される物」の均等物や実質的同一物に当たるとみるべきときが策なくない。

当該特許発明が製剤に関する発明であって、医薬品の成分全体を特徴的部分とする発明である場合
⇒延長登録の理由となった処分の対象となった「物」及び「用途」との関係で、有効成分以外の成分が異なっていれば、生物学的同等性が認められる物であっても、当該成分の相違は、当該特許発明との関係で、単なる周知技術・慣用技術の付加、削除、転換等に当たるといえず、新たな効果を奏することがある
「当該用途に使用される物」の均等物や実質同一物に当たらないとみるべきときが一定程度存在

①本件発明は、医薬品の成分全体と特徴的部分とする発明であって、原告は、その実施として、「オキサリプラチン」と「注射用水」のみを含み、それ以外の成分を含まないとする得るプラット点滴静注液(製剤)について本件各処分を受けた。
②被告製品は、「オキサリプラチン」と「水」又は「注射用水」のほか、有効成分以外の成分として、「オキサリプラチン」と等量の「濃グリセリン」を含有するもので、本件発明との関係でみると、被告製品について政令処分を受けるのに必要な試験が開始された時点において、オキサリプラチン水溶液にオキサリプラチンと等量の濃グリセリンを加えることが、単なる周知技術・慣用技術の付加等に当たると認めるに足りる証拠はなく、むしろ、オキサリプラチン水溶液に添加したグリセリンによりオキサリプラチンの自然分解を抑制するという点で新たな効果を奏しているとみることができる。

本件処分の対象となった「当該用途に使用される物」の均等物ないし実質同一物に該当することはできない
 
<解説>
実質同一物かの判断基準については、拡大先願(特許法29条の2)に関する審査基準の言い回しが使用されており、いわゆる均等論と同一の基準を用いず、医薬品の特質を踏まえながらも独自の判断基準を立てたもの。 

判例時報2317

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2017年3月 3日 (金)

特許権侵害の主張で構成要件の充足性否定(事案)

東京地裁H28.1.28      
 
<事案>
「メニュエール病治療薬」とする特許権を有する原告が、被告らによる被告製品の製造販売が前記特許権の侵害に当たると主張
被告らに対し、
①特許法100条1項及び2項に基づく被告製品の製造等の差止め及び侵害の予防に必要な行為を
②民法709条及び特許法102条2項又は3項に基づき損害賠償金の一部及びこれに対する遅延損害金の連帯支払を
求めた。
 
<争点>
特許請求の範囲記載中「成人1日あたり0.15~0.75g/kg体重のイソソルビトールを経口投与されるように用いられる」という要件を被告製品が充足するか
②本件特許の無効事由の有無
③損害額
 
<判断>
争点①について、前記要件の充足性を否定し、原告の請求をいずれも棄却。
 
①イソソルビトールの投与量が成人1日あたり0.15~0.75g/kg体重の範囲未満または超過の用法があっても本件の発明の技術的範囲に含まれるのか否かにつき特許請求の範囲には記載されていない。
②明細書の発明の詳細な説明の欄の記載を見ると、本件の発明は従来のイソソルビトール製剤の投与量が過大であるために生じる種々の問題を前記範囲にまで投与量を削減することによって解消したというもの
⇒前記範囲を超える量のイソソルビトールを投与するように用いられる治療薬は、患者の特徴や病態の変化に応じて医師の判断により投与量が削減された場合に前記範囲で用いられ得るものであっても、本件の発明の技術的範囲に属しないと解すべき。
①の要件は、この用量を、患者の病態変化その他の個体の事情に着目した医師の判断による変動をしない段階、すなわち治療開始当初から、患者の個人差や病状の重篤度に関わりなく用いられることをいうものと解するのが相当

薬剤の用法用量は添付文書に記載され、医薬品の製造販売業者から提供されていることを義務付けられている⇒被告製品が本件の発明の技術的範囲に属するためには所定の用法用量が添付文書に記載されていること又は製造販売業者が提供する情報に含まれていることが必要
but被告製品はこうした要件を満たさない
 
<解説>
物の発明(特許法2条3項1号)は、原則として、当該物をその構造又は特性により特定することが求められる(最高裁H27.6.5)ところ、物を特定の用途に用いることが未知の特性となる場合に、その用途を特定することが行われる。
薬剤の発明においては、薬剤を構成する化合物は既知である一方、用法及び用量という用途が未知のものであるとして、これを特定することが行われている。
こうした用途は、物の使用方法であり、具体的には使用の主体(誰が使用するのか)及び態様(いつ、どこで、どのように使用するか)を明らかにすることによって特定。

判例時報2315

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2017年1月12日 (木)

物の発明の「公然実施」が認められた例

知財高裁H28.1.14      
 
<事案>
発明の名称を「棒状ライト」とする特許の特許権者であるXに対し、本件発明1ないし9が本件製品を販売することによりその特許出願前に公然実施されたこと又は、それに基づいて容易に発明をすることができたことを理由に、Yが本件特許の無効審判請求⇒Yの請求を一部認める審決⇒Xがその審決の取消しを求めた。 
 
<規定>
特許法 第29条(特許の要件) 
産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。
一 特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明
二 特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明
三 特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明
2 特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。
 
<判断>
特許法29条1項2号にいう「公然実施」とは、発明の内容を不特定多数の者が知り得る状況でその発明が実施されることをいう。
外部からはわからなくても、当業者がその商品を通常の方法で分解、分析することによって知ることができる場合も公然実施となる。

①本件製品の構成F以外の構成は、その外観を観察することにより知ることができる、本件製品の構成Fについても、本件製品の保持部分を分解することにより知ることができる
②本件製品が販売されるに当たり、その購入者に対し、本件製品の構成を秘密として保護すべき義務又は社会通念上あるいは商慣習上秘密を保つべき関係が発生するような事情を認めるに足りる証拠はない。
③本件製品の購入者が販売者等からその内容に関し分解等を行うことが禁じられているなどの事情も認められない。
④本件製品の購入者は、本件製品の所有権を取得し、本件製品を自由に使用し、また、処分することができる⇒本件製品を分解してその内部を観察することもできることは当然

公然実施を肯定
 
<説明>
特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明は、特許を受けることができない(特許法29条1項2号)。 
公然実施:発明の内容を不特定多数の者が知り得る状況でその発明が実施されることをいう(学説・裁判例)。

判例時報2310

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2017年1月 3日 (火)

特許権の存続期間の延長登録出願の理由として、先行する承認があるため、承認を受ける必要があったとは認められないとされた事例

最高裁H27.11.17      
 
<事案>
本件特許の特許権者である被上告人が、本件特許権の存続期間の延長登録出願に係る拒絶査定不服審判の請求を不成立とした特許庁の審決の取消しを求める事案。 
 
<争点>
特許権の存続期間の延長登録出願の理由となった医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(「医薬品医療機器等法」)の規定による医薬品の製造販売の承認に先行して、同一の特許発明につき医薬品医療機器等法の規定による医薬品の製造販売の承認(「先行処分」)がされている場合において、先行処分の存在により延長登録出願に係る特許発明の実施に出願理由処分を受けることが必要であったとは認められないとして、特許法63条1項1号に該当することになるか否かが争われた。
 
<規定>
特許法 第67条(存続期間)
特許権の存続期間は、特許出願の日から二十年をもつて終了する。
2 特許権の存続期間は、その特許発明の実施について安全性の確保等を目的とする法律の規定による許可その他の処分であつて当該処分の目的、手続等からみて当該処分を的確に行うには相当の期間を要するものとして政令で定めるものを受けることが必要であるために、その特許発明の実施をすることができない期間があつたときは、五年を限度として、延長登録の出願により延長することができる

特許法 第67条の3
審査官は、特許権の存続期間の延長登録の出願が次の各号のいずれかに該当するときは、その出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。
一 その特許発明の実施に第六十七条第二項の政令で定める処分を受けることが必要であつたとは認められないとき
 
<審決>
本件特許権の特許発明のうち本件医薬品に係る発明特定事項に該当する全ての事項によって特定される範囲は、既に本件先行処分によって実施できるようになっている
本件特許権の特許発明の実施に本件処分を受けることが必要であったとは認められない。 
 
<原審>
本件特許権の延長登録出願については、政令処分を受けたことにって禁止が解除されたということはできず、法67条の3第1項1号の定める延長登録出願の拒絶要件があるとはいえない
審決を取り消し。 
 
<判断>
特許権の存続期間の延長登録出願の理由となった医薬品医療機器等法の規定による医薬品の製造販売の承認に先行して、同一の特許発明につき同法の規定による医薬品の製造販売の承認がされている場合において、延長登録出願にかかる特許発明の種類や対象に照らして、医薬品としての実質的同一性に直接かかわることとなる審査事項について両承認を比較した結果、先行する承認の対象となった医薬品の製造販売が、延長登録出願の理由となった承認の対象となった医薬品の製造販売を包含すると認められるときは、延長登録出願に係る特許発明の実施にその出願の理由となった承認を受けることが必要であったとは認められない
この法理を本件事案にあてはめ、原判決を正当として是認
 
<解説>
特許権の存続期間の延長登録出願の制度は、政令処分を受けることが必要であったために特許発明の実施をすることができなかった期間を回復することを目的とするもの(最高裁H23.4.28)。 

平成23年最高裁判決:
特許権の存続期間の延長登録出願の理由となった医薬品医療機器等法14条1項による製造販売の承認に先行して、当該処分の対象となった医薬品と有効成分並びに効能及び効果を同じくする医薬品について同項による製造販売の承認がされている場合であっても、先行処分の対象となった医薬品が延長登録出願に係る許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないときは、先行処分がされていることを根拠として、当該特許権の特許発明の実施に当該処分を受けることが必要であったとは認められないということはできない

判例時報2309

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2016年12月 3日 (土)

均等の5要件の主張立証責任、第1要件、第5要件

知財高裁H28.3.25      
 
<事案>
発明の名称を「ビタミンDおよびステロイド誘導体の合成用中間体およびその製造方法」とする発明に係る本件特許権を有するXが、Yらの輸入販売に係るマキサカルシトール製剤等(Y製品)の製造方法(Y方法)は、本件特許の請求項13に係る発明(原審係属中に訂正請求がされ、控訴審審理中に訂正を認める旨の審決が確定した(「訂正発明」))と均等であり、Y製品の販売等は本件特許権を侵害すると主張し、Y製品の輸入譲渡等の差止め及び廃棄を求めた事案。 
 
<原審>
Y方法が訂正発明と均等であることを認め、
訂正発明についての特許が特許無効審判により無効にされるべきものとは認められない
⇒Xの請求を認容。

<解説> 
●均等の5要件
特許請求の範囲に記載された構成中に、相手方が製造等をする製品又は用いる方法(「対象製品等」)と異なる部分が存する場合であっても
①同部分が特許発明の本質部分ではなく
②同部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、
③上記のように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、
④対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから当該出願時に容易に推考できたものではなく、かつ
⑤対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、
同対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当。

<判断> 
●①最高裁H10.2.24が示した均等の5要件を適用し、Y方法が訂正発明と均等であることを認め、②Yらの主張する無効理由はいずれも理由がない
⇒原判決を維持すべきものとして、控訴を棄却。
 
●均等の5要件の主張立証責任について、
第1要件ないし第3要件については、対象製品等が特許発明と均等であると主張する者が、
第4要件及び第5要件については被疑侵害者が、
主張立証責任を負う。
 
●均等の第1要件(非本質部分)について 

特許発明における本質的部分
とは、当該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分と解すべき。

上記本質的部分は、特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて、特許発明の課題及び解決手段とその効果を把握した上で、特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定することによって認定されるべき。

特許発明の実質的価値は、その技術分野における従来技術と比較した貢献の程度に応じて定められることからすれば、特許発明の本質的部分は、特許請求の範囲及び明細書の記載、特に明細書記載の従来技術の比較から認定されるべきであり、そして、①従来技術を比較して特許発明の貢献の程度が大きいと評価される場合には、特許請求の範囲の記載の一部について、これを上位概念化したものとして認定され、②従来技術と比較して特許発明の貢献の程度がそれ程大きくないと評価される場合には、特許請求の範囲の記載とほぼ同義のものとして認定される。

第1要件の判断、すなわち対象製品等との相違部分が非本質的部分であるかどうかを判断する際には、特許請求の範囲に記載された各構成要件を本質的部分と非本質的部分に分けた上で、本質的部分に当たる構成要件については一切均等を認めないと解するのではなく、確定された特許発明の本質的部分を対象製品等が共通に備えているかどうかを判断し、これを備えていると認められる場合には、相違部分は本質的部分ではないと判断すべきであり、対象製品等に、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分以外で相違する部分があるとしても、そのことは第1要件の充足を否定する理由とはならない

訂正発明の本質的部分を認定した上、出願物質又は中間体のビタミンD構造がシス体であることは本質的部分には含まれない⇒Y方法は、均等の第1要件を充足する。
 
●均等の第2ないし第4要件は充足
 
●均等の第5要件(特段の事情)について

特許請求の範囲に記載された構成と実質的に同一なものとして、出願時に当業者が容易に想到することのできる特許請求の範囲外の他の構成があり、したがって、出願人も出願時に当該他の構成を容易に想到することができたとしても、そのことのみを理由として、出願人が特許請求の範囲に当該他のの構成を記載しなかったことが「特段の事情」に当たるものということはできない。
もっとも、このような場合であっても、出願人が、出願時に、特許請求の範囲外の他の構成を、特許請求の範囲に記載された構成中の異なる部分に代替するものとして認識していたものと客観的、外形的にみて認められるとき、例えば、出願人が明細書において当該他の構成による発明を記載しているとみることができるときや、出願人が出願当時に公表した論文等で特許請求の範囲外の他の構成による発明を記載しているときには、出願人が特許請求の範囲に当該他の構成を記載しなかったことは、「特段の事情」に当たるものといえる。

本件特許の出願人が、出願時に、訂正発明の出発物質に代替するものとして、トランス体のビタミンD構造の化合物を認識していたものとは客観的、外形的にみて認められない
⇒第5要件の「特段の事情」は認められない。

判例時報2306

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