特許法

2017年9月20日 (水)

特許法102条2項における推定覆滅率等についての事案

東京地裁H28.12.6      
 
<事案>
①発明の名称を「遮断弁」とする特許権(X特許権1)を有し、また、発明の名称を「流体制御弁」又は「遮断弁」とする3件の各特許権(X特許権2~4)を有していたXが、遮断弁(Y製品)を販売するYに対し、
X特許権の1の侵害を理由として、Y製品の販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに、
X特許権1~4の侵害を理由として、損害賠償金及び不当利得返還金の合計2億5607万5000円(一部請求)並びに遅延損害金の支払を求めた事案(本訴)
②発明の名称を「モーター駆動双方向弁とそのシール構造」とするYと第三者との共有特許権(Y特許権)を有していたYが、遮断弁(X製品)を販売するXに対し、
Y特許権の侵害を理由として、損害賠償金及び不当利得返還金の合計5000万円(一部請求)及び遅延損害金の支払を求めた事案(反訴) 
 
<争点>
本訴請求について:
①文言侵害及び均等侵害の成否(争点(1)~(3))
②差止め・廃棄請求の必要性(争点(4))
③Xの損害額及びYの不当利得額(争点(5))

反訴請求について:
①文言侵害の成否(争点(6))
②無効理由(進歩性欠如、サポート要件違反、更正不可欠要件違反)の有無(争点(7))
③訂正の再抗弁の成否(争点(8))
④Yの損害額及びXの不当利得額(争点(9))
 
<判断>
●本訴請求に関し損害賠償金債権(遅延損害金を含む)約2億5300万円、
反訴請求に関し損害賠償金及び不当利得返還請求債権(同)合計1憶6400万円
がそれぞれ生じたと認めた上、
前記各債権はX・Y間の相殺合意によって対等額で消滅

Yに対し、前記各債権の差額である約8900万円等の支払を命じる一方、反訴請求は棄却。
 
●本訴請求について 
Y製品がX特許権1に係る文言侵害を認めたが、
X特許権2~4については文言侵害及び均等侵害のいずれも認めなかった。
差止め、廃棄の必要性については一部を除き認められる。
特許法102条2項の推定に対する覆滅割合をXが主張するとおり20%と判断し、約2億4100万円(Y製品の限界利益の8割及び弁護士費用2200万円の合計額)をX特許権1の侵害によって生じたXの損害と認定。
 
●反訴請求について 
Yの訂正発明について無効理由が存在せず、かつ、X製品がY訂正発明の技術的範囲に属するとして訂正の再抗弁を認める。
Y訂正発明に係る訂正が特許請求の範囲の減縮を目的とするもの
⇒X製品は同訂正前のY発明の技術的範囲に当然に属する
⇒訂正前発明についての無効理由の存否を判断するまでもなく、X製品はY特許権を侵害。

特許法102条2項に基づく損害額(反訴提起日から遡って3年前の日以降の分)につき、同条項の推定に対する覆滅割合をYが主張するとおり20%と判断

Y特許権が共有特許権であることによる推定覆滅について、共有者によるY特許権の実施割合は認められないことを前提に、特許法102条3項に基づく損害額の覆滅されるとした上、仮想実施両立を4%と算定し、約1億500万円(Y製品の限界利益の8割から共有者の損害額を減じた額及び弁護士費用950万円の合計額)をY特許権の侵害によって生じたYの損害と認定。
さらに、民法703条に基づくXの不当利得額(反訴提起日から遡って10年前の日から同3年前の日の前日までの分)につき、約4000万円と認定。

Yは、Y特許発明が基本特許である価値が高いのに対して、X特許発明はY特許発明の改良発明にすぎず、その技術的意義が小さいと主張。
but
本判決は、
Y製品の売上に対するX特許発明とY訂正発明の技術的意義や発明の客観的価値が相違する旨のYの上記主張は、直ちに推定覆滅率についての判断を左右するものとはいえず失当である旨判示。)
 
<規定>
特許法 第102条(損害の額の推定等)
2 特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額と推定する。
 
<解説>
特許法102条2項は、侵害者が侵害の行為により利益を受けているときに、その利益がの額を特許権者等の損害の額と推定する旨規定するところ、特許権者に、侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られただろうという事情が存在する場合には2項の適用が認められると解すべきであり、特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在するなどの諸事情では、推定された損害額を覆滅する事情として考慮され(知財高裁H25.2.1)、いわゆる寄与率として控除(推定の一部覆滅)されることとなる。

この2項の推定の覆滅の有無及び割合を認定するに当たっての考慮事情としては、侵害品全体に対する特許発明の実施部分の価値の割合、営業的要因(市場における代替品の存在、侵害者の営業努力、広告、独自の販売形態、ブランド等)、侵害品自体の特徴(侵害品の性能、デザイン、需要者の購買に結びつく当該特許発明以外の特徴等)等が挙げられることが多い。

本判決は、同様の判断枠組及び判断要素を採用した上、
①対象発明の技術的意義及び
②侵害品の具体的構成に加えて
③侵害品の構成全体について対象発明が実施されていること、
④市場がX・Yの寡占状態で需要者にとってX製品・Y製品以外の代替品の選択肢がほぼ存在しないこと、
⑤X・Yが長年にわたり対象製品について拮抗する市場シェアを有していたこと
などを考慮

いずれも大幅な推定覆滅を認めることは相当でないとして、本訴・反訴共に20%の限度でのみ推定の覆滅を認めた。

●2項侵害に係る損害論の審理においては、しばしば、侵害者から、推定覆滅事情の主張として、対象となる特許発明の価値(技術的意義)が小さいとの主張がなされる。
but
2項は侵害者の利益額を権利者の損害額と推定するもの。

2項による推定を覆滅させるためには、侵害者において、権利者の売上減少による逸失利益の額の数量的ないし金額的な全部又は一部の不存在を基礎付けるに足りる事情、すなわち、侵害者の利益額に結びついた特許権侵害以外の要因(侵害者の資本、営業努力、宣伝広告、製造技術等)を具体的に主張・立証することが必要。

発明の技術的意義や客観的価値の大小が2項の推定覆滅の可否又は割合と直ちに結び付くものではない。
but
侵害者の利益額に結びつく当該発明以外の具体的な要因が認められた場合には、特許発明の技術的意義の大小が推定覆滅割合を判断する上での一事情として考慮されることもあり得る。

●2項については、侵害行為と特許権者等の製品の販売減少との相当因果関係を阻害する事情については、特許発明外侵害品の一部のみに実施される部品特許の場合を除いては、
1項においてはただし書の事情として
2項については推定覆滅の事情として、
いずれも侵害者に立証責任を負わせることが相当であり、
「寄与度減額」という発想からは決別すべきである旨が指摘されている。 

判例時報2336

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2017年5月 7日 (日)

特許法102条1項の構造、同ただし書の「販売することができないとする事情」

知財高裁H28.6.1      
 
<事案>
①発明の名称を「破袋機とその駆動方法」とする発明に係る本件特許権を有する一審原告が、一審被告が製造販売する破袋機は、本件特許発明1ないし3の技術的範囲に属する
②一審被告が被告製品を生産、譲渡等する行為は、本件特許権を侵害する行為であり、また、一審被告から被告製品を購入した顧客が、業として被告製品を使用する行為は本件特許権を侵害する行為であるところ、一審被告が顧客の使用する被告製品を保守する行為は、顧客による被告製品の使用という本件特許権の侵害行為を幇助するもの

一審被告に対し、
①特許権100条に基づき、被告製品の生産、譲渡等の差止め並びに被告製品及びその半製品の廃棄、
②不法行為による損害賠償請求権に基づき、損害賠償金の一部である2816万9021円及び遅延損害金の支払
を求めた事案。
 
<規定>
特許法 第102条(損害の額の推定等)
特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為を組成した物を譲渡したときは、その譲渡した物の数量(以下この項において「譲渡数量」という。)に、特許権者又は専用実施権者がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、特許権者又は専用実施権者の実施の能力に応じた額を超えない限度において、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者又は専用実施権者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。
 
<原審> 
①被告製品は、本件特許発明1,2の技術的範囲に属するが、本件特許発明3の技術的範囲に属さない。
②本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものであるとはいえない。
③一審被告が被告製品を譲渡したことによる損害額は1758万3700円(特許法102条1項)である。
④一審被告が被告製品を保守したことによる損害賠償請求は理由がない。

一審原告の請求を、
①被告製品の清算、譲渡等の差止め並びに被告製品及びその半製品の廃棄、
②1756万3700円及びこれに対する遅延損害金の支払
を求める限度で認容。 
 
<判断>
被告製品は、本件特許発明1,2の技術的範囲に属する旨判示。
損害について増額変更。
 
<判断・説明>
●特許法102条1項の趣旨
侵害者の営業努力や代替品の存在等、権利者において侵害品の販売数量と同数の販売をすることが困難であった事情が訴訟において明らかになった場合でも、それらの事情を考慮した上で現実的な損害額が算定できるルールとして、同項が新設された。
 
●特許法102条1項の構造
「①特許権者又は専用実施権者を侵害した者・・・がその侵害の行為を組成した物を譲渡したとき・・・譲渡した物の数量」に
「②特許権者又は専用実施権者がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額」
を乗じた額を、
「③特許権者又は専用実施権者の実施の能力に応じた額を超えない限度」において、
特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額とすることができる。
同項ただし書によれば、
「④譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者又は専用実施権者が販売することができないとする事情に相当する数量」に応じた額を控除。

損害の計算式:
「(①-④)×②」(≦③)
で、
①②③の事実は、特許権者側が主張立証
④は、被告側が主張立証。
 
●特許法102条1項の解釈 
②の「侵害行為がなければ販売することができた物」とは、侵害行為によってその販売数量に影響を受ける特許権者等の製品、すなわち、侵害品と市場において競合関係に立つ特許権者等の製品であれば足りると解すべき。
特許権者の製品が侵害品と競合可能性を有する物であれば足り、同一のものであることを要しないとするのが多数説・判例の立場。

②の「単位数量当たりの利益額」は、特許権者等の製品の販売価格から製造原価及び製品の販売数量に応じて増加する変動経費を控除した1個当たりの額(限界利益の額)とするのが裁判例。

④の「販売することができないとする事情」は、侵害者の営業努力や代替品の存在等をいうもの。

侵害行為と特許権者等の製品の販売減少との相当因果関係を阻害する事情に特に制限があるわけではなく、これらの事情の立証責任が被告側にあることがポイント。

本判決は、「販売することができないとする事情」は、侵害行為と特許権者等の製品の販売減少との相当因果関係を阻害する事情を対象とし、例えば、市場における競合品の存在、侵害者の営業努力(ブランド力、宣伝広告)、侵害品の性能(機能、デザイン等特許発明以外の特徴)、市場の非同一性(価格、販売形態)などの事情がこれに該当。
一審被告が主張した事情はこれに当たらない。

判例時報2322

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2017年3月20日 (月)

存続期間の延長された特許権の効力が被告の製造販売に及ぶかが問題となった事例

東京地裁H28.3.30      
 
<事案>
発明の名称を「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」とする特許(本件特許)の特許権者である原告が、被告に対し、被告の製造販売に係る製剤(被告製品)は、本件特許の願書に添付した明細書(本件明細書)の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(本件発明)の技術的範囲に属し、かつ、存続期間の延長登録を受けた本件特許権の効力は、被告製品の生産、譲渡及び譲渡の申出に及ぶ旨主張して、被告製品の生産等の差止め及び廃棄を求めた。 
 
<規定>
特許法 第67条(存続期間)
特許権の存続期間は、特許出願の日から二十年をもつて終了する。
2 特許権の存続期間は、その特許発明の実施について安全性の確保等を目的とする法律の規定による許可その他の処分であつて当該処分の目的、手続等からみて当該処分を的確に行うには相当の期間を要するものとして政令で定めるものを受けることが必要であるために、その特許発明の実施をすることができない期間があつたときは、五年を限度として、延長登録の出願により延長することができる。
 
特許法 第68条の2(存続期間が延長された場合の特許権の効力)
特許権の存続期間が延長された場合(第六十七条の二第五項の規定により延長されたものとみなされた場合を含む。)の当該特許権の効力は、その延長登録の理由となつた第六十七条第二項の政令で定める処分の対象となつた物(その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合にあつては、当該用途に使用されるその物)についての当該特許発明の実施以外の行為には、及ばない
 
<判断> 
●特許権の存続期間の延長登録の制度:
特許発明を実施する意思及び能力があってもなお、特許発明を実施することができなかった特許権者に対して、政令処分を受けることによって禁止が解除されることとなった特許発明の実施行為について、当該政令処分を受けるために必要であった期間、特許権の存続期間を延長する措置を講じることによって、特許発明を実施することができなかた不利益の解消を図った制度。 

特許権68条の2の規定によれば、特許権の存続期間が延長された場合の当該特許権の効力は、政令処分の対象となった物(その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合にあっては、当該用途に使用されるその物)についての当該特許発明の実施行為にのみ及ぶ。

原則として、政令処分を受けることによって禁止が解除されることとなった特許発明の実施行使、すなわち、当該政令処分を受けることが必要であったために実施することができなかった(当該用途に使用される)物についての実施行為にのみ及び、特許発明のその余の実施行為には及ばない。

前記の延長登録の制度趣旨
当該政令処分の対象となった(当該用途に使用される)物と相違する点がある対象物件であっても、当該対象物件についての製造販売等の準備が開始された時点(当該対象物件の製造販売等に政令処分が必要な場合は、当該政令処分を受けるのに必要な試験が開始された時点)において、存続期間が延長された特許権に係る特許発明の種類や対象に照らして、その相違が周知技術・慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効用を奏するものではないと認められるなど、当該対象物件が当該政令処分の対象となった(当該用途に使用される)物の均等物ないし実質的に同一と評価される物についての実施行為にまで及ぶ
 
●特許法67条2項の政令で定める処分が、 医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律所定の医薬品に係る承認である場合は、当該医薬品の「用途」と特定する事項に該当すると考えられる「用途、用量、効能、効果」について必ず審査される
⇒特許法68条の2括弧書の「その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合」に該当。

政令処分が医薬品医療機器等法所定の医薬品に係る承認である場合、「当該用途に使用される物」についての特許発明の実施か否かを判断しなければならない⇒「物」及び「用途」の特定が必要となる。
医薬品の成分を対象とする特許発明の場合、特許法68条の2によって存続期間が延長された特許権は、「物」に係るものとして「成分(有効成分に限らない。)及び分量」によって特定され、かつ、「用途」に係るものとして、「効能、効果」及び「用法、用量」によって特定された当該特許発明の実施の範囲で効力が及ぶものと解するのが相当」(「当該用途に使用される物」の均等物や「当該用途に使用される物」の実質同一物が含まれる。)
 
●本件では、処分を受けることが必要であったために実施することができなかった「当該用途に使用される物」とは、「物」に係るものとしての成分として「オキサリプラチン」と「注射用水」のみを含みそれ以外の成分を含まない製剤
but
被告製品の成分は、「オキサリプラチン」と「水」以外に、添加物として「濃グリセリン」を含むものであると認定。

「当該用途に使用される物」とは、「成分」において異なる⇒本件処分に対象となった「当該用途に使用される物」とは異なる。 
 
●実質同一物か否かの判断について: 
「当該用途に使用される物」といえないとしても、「被告製品と本件処分の対象となった「当該用途に使用される物」との相違が、被告各製品について政令処分を受けるのに必要な試験が開始された時点において、本件発明の種類や対象に照らして、周知技術・慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではない場合には、その「当該用途に使用される物」の均等物、あるいはその「当該用途に使用される物」の実質同一物と認めるのが相当

当該特許発明が新規化合物に関する発明や特定の化合物を特定の医薬用途に用いることに関する発明など、医薬品の有効成分(薬効を発揮する成分)のみを特徴的部分とする発明
⇒延長登録の理由となった処分の対象となった「物」及び「用途」との関係で、有効成分以外の成分のみが異なるだけで、生物学的同等性が認められる物については、当該成分の相違は、当該特許発明との関係で、周知技術・慣用技術の付加、削除、転換等に当たり、新たな効果を奏しないことが多い
⇒「当該用途に使用される物」の均等物や実質的同一物に当たるとみるべきときが策なくない。

当該特許発明が製剤に関する発明であって、医薬品の成分全体を特徴的部分とする発明である場合
⇒延長登録の理由となった処分の対象となった「物」及び「用途」との関係で、有効成分以外の成分が異なっていれば、生物学的同等性が認められる物であっても、当該成分の相違は、当該特許発明との関係で、単なる周知技術・慣用技術の付加、削除、転換等に当たるといえず、新たな効果を奏することがある
「当該用途に使用される物」の均等物や実質同一物に当たらないとみるべきときが一定程度存在

①本件発明は、医薬品の成分全体と特徴的部分とする発明であって、原告は、その実施として、「オキサリプラチン」と「注射用水」のみを含み、それ以外の成分を含まないとする得るプラット点滴静注液(製剤)について本件各処分を受けた。
②被告製品は、「オキサリプラチン」と「水」又は「注射用水」のほか、有効成分以外の成分として、「オキサリプラチン」と等量の「濃グリセリン」を含有するもので、本件発明との関係でみると、被告製品について政令処分を受けるのに必要な試験が開始された時点において、オキサリプラチン水溶液にオキサリプラチンと等量の濃グリセリンを加えることが、単なる周知技術・慣用技術の付加等に当たると認めるに足りる証拠はなく、むしろ、オキサリプラチン水溶液に添加したグリセリンによりオキサリプラチンの自然分解を抑制するという点で新たな効果を奏しているとみることができる。

本件処分の対象となった「当該用途に使用される物」の均等物ないし実質同一物に該当することはできない
 
<解説>
実質同一物かの判断基準については、拡大先願(特許法29条の2)に関する審査基準の言い回しが使用されており、いわゆる均等論と同一の基準を用いず、医薬品の特質を踏まえながらも独自の判断基準を立てたもの。 

判例時報2317

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2017年3月 3日 (金)

特許権侵害の主張で構成要件の充足性否定(事案)

東京地裁H28.1.28      
 
<事案>
「メニュエール病治療薬」とする特許権を有する原告が、被告らによる被告製品の製造販売が前記特許権の侵害に当たると主張
被告らに対し、
①特許法100条1項及び2項に基づく被告製品の製造等の差止め及び侵害の予防に必要な行為を
②民法709条及び特許法102条2項又は3項に基づき損害賠償金の一部及びこれに対する遅延損害金の連帯支払を
求めた。
 
<争点>
特許請求の範囲記載中「成人1日あたり0.15~0.75g/kg体重のイソソルビトールを経口投与されるように用いられる」という要件を被告製品が充足するか
②本件特許の無効事由の有無
③損害額
 
<判断>
争点①について、前記要件の充足性を否定し、原告の請求をいずれも棄却。
 
①イソソルビトールの投与量が成人1日あたり0.15~0.75g/kg体重の範囲未満または超過の用法があっても本件の発明の技術的範囲に含まれるのか否かにつき特許請求の範囲には記載されていない。
②明細書の発明の詳細な説明の欄の記載を見ると、本件の発明は従来のイソソルビトール製剤の投与量が過大であるために生じる種々の問題を前記範囲にまで投与量を削減することによって解消したというもの
⇒前記範囲を超える量のイソソルビトールを投与するように用いられる治療薬は、患者の特徴や病態の変化に応じて医師の判断により投与量が削減された場合に前記範囲で用いられ得るものであっても、本件の発明の技術的範囲に属しないと解すべき。
①の要件は、この用量を、患者の病態変化その他の個体の事情に着目した医師の判断による変動をしない段階、すなわち治療開始当初から、患者の個人差や病状の重篤度に関わりなく用いられることをいうものと解するのが相当

薬剤の用法用量は添付文書に記載され、医薬品の製造販売業者から提供されていることを義務付けられている⇒被告製品が本件の発明の技術的範囲に属するためには所定の用法用量が添付文書に記載されていること又は製造販売業者が提供する情報に含まれていることが必要
but被告製品はこうした要件を満たさない
 
<解説>
物の発明(特許法2条3項1号)は、原則として、当該物をその構造又は特性により特定することが求められる(最高裁H27.6.5)ところ、物を特定の用途に用いることが未知の特性となる場合に、その用途を特定することが行われる。
薬剤の発明においては、薬剤を構成する化合物は既知である一方、用法及び用量という用途が未知のものであるとして、これを特定することが行われている。
こうした用途は、物の使用方法であり、具体的には使用の主体(誰が使用するのか)及び態様(いつ、どこで、どのように使用するか)を明らかにすることによって特定。

判例時報2315

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2017年1月12日 (木)

物の発明の「公然実施」が認められた例

知財高裁H28.1.14      
 
<事案>
発明の名称を「棒状ライト」とする特許の特許権者であるXに対し、本件発明1ないし9が本件製品を販売することによりその特許出願前に公然実施されたこと又は、それに基づいて容易に発明をすることができたことを理由に、Yが本件特許の無効審判請求⇒Yの請求を一部認める審決⇒Xがその審決の取消しを求めた。 
 
<規定>
特許法 第29条(特許の要件) 
産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。
一 特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明
二 特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明
三 特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明
2 特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。
 
<判断>
特許法29条1項2号にいう「公然実施」とは、発明の内容を不特定多数の者が知り得る状況でその発明が実施されることをいう。
外部からはわからなくても、当業者がその商品を通常の方法で分解、分析することによって知ることができる場合も公然実施となる。

①本件製品の構成F以外の構成は、その外観を観察することにより知ることができる、本件製品の構成Fについても、本件製品の保持部分を分解することにより知ることができる
②本件製品が販売されるに当たり、その購入者に対し、本件製品の構成を秘密として保護すべき義務又は社会通念上あるいは商慣習上秘密を保つべき関係が発生するような事情を認めるに足りる証拠はない。
③本件製品の購入者が販売者等からその内容に関し分解等を行うことが禁じられているなどの事情も認められない。
④本件製品の購入者は、本件製品の所有権を取得し、本件製品を自由に使用し、また、処分することができる⇒本件製品を分解してその内部を観察することもできることは当然

公然実施を肯定
 
<説明>
特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明は、特許を受けることができない(特許法29条1項2号)。 
公然実施:発明の内容を不特定多数の者が知り得る状況でその発明が実施されることをいう(学説・裁判例)。

判例時報2310

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2017年1月 3日 (火)

特許権の存続期間の延長登録出願の理由として、先行する承認があるため、承認を受ける必要があったとは認められないとされた事例

最高裁H27.11.17      
 
<事案>
本件特許の特許権者である被上告人が、本件特許権の存続期間の延長登録出願に係る拒絶査定不服審判の請求を不成立とした特許庁の審決の取消しを求める事案。 
 
<争点>
特許権の存続期間の延長登録出願の理由となった医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(「医薬品医療機器等法」)の規定による医薬品の製造販売の承認に先行して、同一の特許発明につき医薬品医療機器等法の規定による医薬品の製造販売の承認(「先行処分」)がされている場合において、先行処分の存在により延長登録出願に係る特許発明の実施に出願理由処分を受けることが必要であったとは認められないとして、特許法63条1項1号に該当することになるか否かが争われた。
 
<規定>
特許法 第67条(存続期間)
特許権の存続期間は、特許出願の日から二十年をもつて終了する。
2 特許権の存続期間は、その特許発明の実施について安全性の確保等を目的とする法律の規定による許可その他の処分であつて当該処分の目的、手続等からみて当該処分を的確に行うには相当の期間を要するものとして政令で定めるものを受けることが必要であるために、その特許発明の実施をすることができない期間があつたときは、五年を限度として、延長登録の出願により延長することができる

特許法 第67条の3
審査官は、特許権の存続期間の延長登録の出願が次の各号のいずれかに該当するときは、その出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。
一 その特許発明の実施に第六十七条第二項の政令で定める処分を受けることが必要であつたとは認められないとき
 
<審決>
本件特許権の特許発明のうち本件医薬品に係る発明特定事項に該当する全ての事項によって特定される範囲は、既に本件先行処分によって実施できるようになっている
本件特許権の特許発明の実施に本件処分を受けることが必要であったとは認められない。 
 
<原審>
本件特許権の延長登録出願については、政令処分を受けたことにって禁止が解除されたということはできず、法67条の3第1項1号の定める延長登録出願の拒絶要件があるとはいえない
審決を取り消し。 
 
<判断>
特許権の存続期間の延長登録出願の理由となった医薬品医療機器等法の規定による医薬品の製造販売の承認に先行して、同一の特許発明につき同法の規定による医薬品の製造販売の承認がされている場合において、延長登録出願にかかる特許発明の種類や対象に照らして、医薬品としての実質的同一性に直接かかわることとなる審査事項について両承認を比較した結果、先行する承認の対象となった医薬品の製造販売が、延長登録出願の理由となった承認の対象となった医薬品の製造販売を包含すると認められるときは、延長登録出願に係る特許発明の実施にその出願の理由となった承認を受けることが必要であったとは認められない
この法理を本件事案にあてはめ、原判決を正当として是認
 
<解説>
特許権の存続期間の延長登録出願の制度は、政令処分を受けることが必要であったために特許発明の実施をすることができなかった期間を回復することを目的とするもの(最高裁H23.4.28)。 

平成23年最高裁判決:
特許権の存続期間の延長登録出願の理由となった医薬品医療機器等法14条1項による製造販売の承認に先行して、当該処分の対象となった医薬品と有効成分並びに効能及び効果を同じくする医薬品について同項による製造販売の承認がされている場合であっても、先行処分の対象となった医薬品が延長登録出願に係る許権のいずれの請求項に係る特許発明の技術的範囲にも属しないときは、先行処分がされていることを根拠として、当該特許権の特許発明の実施に当該処分を受けることが必要であったとは認められないということはできない

判例時報2309

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2016年12月 3日 (土)

均等の5要件の主張立証責任、第1要件、第5要件

知財高裁H28.3.25      
 
<事案>
発明の名称を「ビタミンDおよびステロイド誘導体の合成用中間体およびその製造方法」とする発明に係る本件特許権を有するXが、Yらの輸入販売に係るマキサカルシトール製剤等(Y製品)の製造方法(Y方法)は、本件特許の請求項13に係る発明(原審係属中に訂正請求がされ、控訴審審理中に訂正を認める旨の審決が確定した(「訂正発明」))と均等であり、Y製品の販売等は本件特許権を侵害すると主張し、Y製品の輸入譲渡等の差止め及び廃棄を求めた事案。 
 
<原審>
Y方法が訂正発明と均等であることを認め、
訂正発明についての特許が特許無効審判により無効にされるべきものとは認められない
⇒Xの請求を認容。

<解説> 
●均等の5要件
特許請求の範囲に記載された構成中に、相手方が製造等をする製品又は用いる方法(「対象製品等」)と異なる部分が存する場合であっても
①同部分が特許発明の本質部分ではなく
②同部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、
③上記のように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、
④対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから当該出願時に容易に推考できたものではなく、かつ
⑤対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、
同対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当。

<判断> 
●①最高裁H10.2.24が示した均等の5要件を適用し、Y方法が訂正発明と均等であることを認め、②Yらの主張する無効理由はいずれも理由がない
⇒原判決を維持すべきものとして、控訴を棄却。
 
●均等の5要件の主張立証責任について、
第1要件ないし第3要件については、対象製品等が特許発明と均等であると主張する者が、
第4要件及び第5要件については被疑侵害者が、
主張立証責任を負う。
 
●均等の第1要件(非本質部分)について 

特許発明における本質的部分
とは、当該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分と解すべき。

上記本質的部分は、特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて、特許発明の課題及び解決手段とその効果を把握した上で、特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定することによって認定されるべき。

特許発明の実質的価値は、その技術分野における従来技術と比較した貢献の程度に応じて定められることからすれば、特許発明の本質的部分は、特許請求の範囲及び明細書の記載、特に明細書記載の従来技術の比較から認定されるべきであり、そして、①従来技術を比較して特許発明の貢献の程度が大きいと評価される場合には、特許請求の範囲の記載の一部について、これを上位概念化したものとして認定され、②従来技術と比較して特許発明の貢献の程度がそれ程大きくないと評価される場合には、特許請求の範囲の記載とほぼ同義のものとして認定される。

第1要件の判断、すなわち対象製品等との相違部分が非本質的部分であるかどうかを判断する際には、特許請求の範囲に記載された各構成要件を本質的部分と非本質的部分に分けた上で、本質的部分に当たる構成要件については一切均等を認めないと解するのではなく、確定された特許発明の本質的部分を対象製品等が共通に備えているかどうかを判断し、これを備えていると認められる場合には、相違部分は本質的部分ではないと判断すべきであり、対象製品等に、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分以外で相違する部分があるとしても、そのことは第1要件の充足を否定する理由とはならない

訂正発明の本質的部分を認定した上、出願物質又は中間体のビタミンD構造がシス体であることは本質的部分には含まれない⇒Y方法は、均等の第1要件を充足する。
 
●均等の第2ないし第4要件は充足
 
●均等の第5要件(特段の事情)について

特許請求の範囲に記載された構成と実質的に同一なものとして、出願時に当業者が容易に想到することのできる特許請求の範囲外の他の構成があり、したがって、出願人も出願時に当該他の構成を容易に想到することができたとしても、そのことのみを理由として、出願人が特許請求の範囲に当該他のの構成を記載しなかったことが「特段の事情」に当たるものということはできない。
もっとも、このような場合であっても、出願人が、出願時に、特許請求の範囲外の他の構成を、特許請求の範囲に記載された構成中の異なる部分に代替するものとして認識していたものと客観的、外形的にみて認められるとき、例えば、出願人が明細書において当該他の構成による発明を記載しているとみることができるときや、出願人が出願当時に公表した論文等で特許請求の範囲外の他の構成による発明を記載しているときには、出願人が特許請求の範囲に当該他の構成を記載しなかったことは、「特段の事情」に当たるものといえる。

本件特許の出願人が、出願時に、訂正発明の出発物質に代替するものとして、トランス体のビタミンD構造の化合物を認識していたものとは客観的、外形的にみて認められない
⇒第5要件の「特段の事情」は認められない。

判例時報2306

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2016年11月 6日 (日)

本件特許出願が発明者自身又は発明者から特許を受ける権利を承継した者によりされたことの立証がない⇒特許法123条1項6号及び104条の3第1項に基づき特許権の行使ができない

東京地裁H27.4.24      
 
<事案>
発明の名称を「液晶表示装置」とする特許権を有するXが、Yに対し、Yが輸入・販売する製品(Y各製品)は本件発明の技術的範囲に属しており、Yによる前記行為が本件特許権の侵害に当たる⇒民法709条に基づき、不法行為による損害賠償を求めた事案。
Y各製品は、Z(韓国法人、被告補助参加人)が製造した液晶モジュールを搭載。 
 
<規定>
特許法 第49条(拒絶の査定)
審査官は、特許出願が次の各号のいずれかに該当するときは、その特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。

七 その特許出願人がその発明について特許を受ける権利を有していないとき。

特許法 第123条(特許無効審判)
特許が次の各号のいずれかに該当するときは、その特許を無効にすることについて特許無効審判を請求することができる。この場合において、二以上の請求項に係るものについては、請求項ごとに請求することができる。

六 その特許がその発明について特許を受ける権利を有しない者の特許出願に対してされたとき(第七十四条第一項の規定による請求に基づき、その特許に係る特許権の移転の登録があつたときを除く。)。
 
<争点>
①Y各製品はの本件発明の技術的範囲への属否等
②本件出願が冒認出願(特許法123条1項6号)に当たるか否か
 
<判断>
冒認出願に係る主張立証責任について、特許出願がその特許にかかる発明の発明者自身又は発明者から特許を受ける権利を承継した者によりなされたことについての主張立証責任は、特許権者が負担すると解するのが相当であり、特許法104条の3第1項所定の抗弁においても同様に解すべき

先に出願したという事実は、出願人が発明者又は発明者から特許を受ける権利を承継した者であるとの事実を推認する重要な間接事実
⇒特許権侵害訴訟において、発明者性に関し特許権者の行うべき主張立証の内容及び程度は、冒認出願を疑わせる具体的な事情の内容、それに関する被告の主張立証活動の内容及び程度がどのようなものかによって大きく左右される。

仮に被告が、冒認を疑わせる具体的な事情を何ら指摘することなく、かつ、その裏付け証拠提出していないような場合は、特許権者が行う主張立証の程度は比較的簡易なもので足りるが、他方、被告が冒認を裏付ける事情を具体的詳細に指摘し、その裏付け証拠を提出するような場合は、特許権者において、これを凌ぐ主張立証をしない限り、主張立証責任が尽くされたと判断されることはない

発明者とは、当該発明の技術的思想の特徴的部分の完成に創作的に寄与した者をいい、本件発明の構成要件のEないしHの構成である。
本件発明の構成要EないしHの構成をAi(Xの代表者)が着想したと認めることはできず、Aiは本件発明の発明者とはいえない。
⇒請求棄却。
 
<解説>
●特許出願は、対象となる発明に係る特許を受ける権利を有する者によってなされる必要があり、この要件を欠く出願(冒認出願)については、拒絶理由(特許法49条7号)及び特許成立後は無効理由(同法123条1項6号)が認められる。

●冒認出願であることを理由として請求された特許無効審判における、冒認出願に係る無効理由についての主張立証責任:

特許権者が当該責任を負う(知財高裁)。
それらの判決の一部は、先に特許出願がなされた事実により、出願人が発明者であること又は特許を受ける権利を承継した者であることが推認される旨を述べる。

共同出願違反(特許法38条違反)であることを理由として請求された特許無効審判における扱いについて、知財高裁H25.3.13は、審判請求人側が自ら共同発明者であることにつき主張立証責任を負う。

●本判決は、特許権侵害訴訟における冒認出願に係る主張立証責任について、特許無効審判におけると同様、特許権者がこれを負うとしつつ、知財高裁が審決取消訴訟において示したものと同趣旨の一般論を述べる。

判例時報2304

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2016年9月 4日 (日)

進歩性を否定した判断に誤り、周知技術に関する新たな文献を提示しなかった点は手続違背⇒審決取り消し

知財高裁H28.2.17      
 
<事案>
原告は、「自己乳化性の活性物質配合物およびこの配合物の使用」という名称の発明につき、特許出願⇒拒絶査定⇒これを不服とする審判請求をするとともに、手続補正⇒補正発明は、引用文献に記載された引用発明及び周知技術に基づいて、本件優先日前に当業者が容易に発明することができ、独立特許要件を満たさないと判断⇒審決の取消しを求めて、本訴を提起

補正後の発明:
水難溶性薬物の固体分散製剤に関するものであり、含有する脂質成分の融点やHLB値、活性成分が本質的に結晶を含まず、脂質成分と結合剤成分が分子分散状態であるという物理的状態、最終的な固定配合物が自己乳化性を有するという性質を特徴とするもの。
 
<争点>
進歩性判断の当否

審決取消事由として、
①相違点の看過
②相違点に関する判断の誤り
③手続違反の有無 
 
<判断>
●①について
固体分散体(固体分散製剤)には、薬物の微結晶を含むものと、薬物が分子サイズで均一に分散(非晶質化・分子分散)しているもの(固溶体)の両方がある
⇒引用発明が、固体分散製剤であるからといって、直ちに、薬物の結晶を含まないということはできない。

引用発明において、薬物を脂肪酸等に「溶解させた溶液」、「分散させた溶液」のいずれを用いた場合も、「本質的に活性物質の結晶を含まない」ものであるとはいえない⇒この点を相違点とせず、一致点とした審決の判断には誤り
 
●②について 
審決は、4つの点を独立の相違点と評価した上で、それぞれについて容易相当性を判断。
but
脂質成分の選択及び選択された脂質成分の含有量は、活性物質を十分に溶融させ、最終的にできた製剤中において結晶状態とならないか、他の資質成分や結合剤成分が分子分散状態で存在できるか否かという点に影響を与える重要な要素
⇒相違点1及び2は、相違点3及び5と無関係に設定できるものではないというべきであり、同時に達成可能かどうかを検討する必要がある。
その上で、少なくとも相違点4に係る構成の容易想到性について見ると、補正発明の課題は、製薬技術分野において当然お課題であったが、課題解決の方法として、本件優先日において、自己乳化性製剤が常に最適であると考えられていたわけではなく、固体分散製剤よりも自己乳化性製剤の方が好ましい等の技術情報はないし、引用文献1には、自己乳化製剤とすることについて記載も示唆もない。
相違点4に係る構成は、容易に想到できる事項とはいえない
 
●③について
審決が、相違点3及び4の判断時に初めて示した溶融押出し等の分子分散体形成のための文献は、周知な技術に関するものではあるが、当業者にとって引用発明に適用すれば、試行錯誤なしに相違点3及び4の構成を具備できるような技術といえない⇒審決が、審判手続において、相違点3及び4の存在を指摘せず、溶融押出しの技術に関する前記各文献を示すこともなく、判断を示すに至って、初めて相違点3及び4の存在を認定し、それに当該技術を適用して、不成立という結論を示すのは、実質的には、査定の理由とは全く異なる理由に基づいて判断したに等しく、当該技術の周知性や適用可能性の有無、これらに対応した手続補正等について、特許出願人に何らの主張の機会を与えないもの
特許出願人に対する手続保障の観点から許されない
 
<解説> 
手続違背について
 
●従前の学説、裁判例 
拒絶査定不服審判に伴い審査請求時の補正では、特許請求の範囲を減縮することができる。
この場合、当該補正によって従前に拒絶理由が解消され、審判手続において新たな補正後の特許請求の範囲に、拒絶査定の理由と異なる拒絶の理由があっても、特許法159条2項が同法50条本文を準用していない
⇒文理上は、改めて拒絶の理由を通知し意見書の提出の機会を与える必要はない。
審査請求時における補正における再度の通知の要否については、不要とする見解と必要とする見解。

必要とする裁判例でも、当該事案において不意打ちになるか否かということを個別に判断した上で、結果的に手続違背を認めなかったものもあり(知財高裁H26.2.5)、新たな文献を提示すれば即違法として審決が取り消されるわけではなく、実質的な当事者に対する手続保障の有無が、結論に影響を及ぼす重要な要素とされている。
 
●本判決の位置づけ 
これまで、審決時に、拒絶査定の理由とは異なる理由を示した場合であっても、当業者にとっての周知技術や技術常識を適用したにすぎないのであれば、査定の理由と全く異なる理由とはいえず、改めて意見書の提出や補正の機会を与えずに補正を却下しても、手続保障の観点で問題ないとされてきた傾向(知財高裁H19.3.14)。
but
近年では、審判手続において拒絶理由通知に示されていない周知技術を加えて進歩性を否定した審決につき、手続違背の法令違反があるとして取り消した例

本判決では、特許庁が相違点に係る容易想到性について適用した周知技術につき、①補正発明の効果の実現のために特に重要な自己乳化性に関する部分であることや、②相違点に係る構成に適用可能な周知技術か否かも不明であること
⇒手続違背を肯定。

周知技術に関する文献であっても、本願発明の構成において重要な点に関する部分であることや、本願発明に想到した場合に相違点に係る構成に適用できるか否かが必ずしも明らかではない技術に関するものであれば、例外的に、当事者の手続保障の方を重視するのが相当な場合があることを示したもの。

判例時報2298

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2016年8月 2日 (火)

特許権に基づく差止請求(棄却)

東京地裁H27.10.29      
 
<事案>
本件特許権を有するXが、Yに対し、Yによる被告製品の製造等が特許権侵害に当たると主張⇒特許法100条1項及び2項に基づき、被告製品の製造等の差止め及び廃棄を求めた事案。 
 
<規定>
特許法 第29条(特許の要件) 
産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。
二 特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明
 
<争点>
被告製品が本件発明の技術的範囲に属することについては争いがなく、争点は無効理由の有無。 
Yは、無効理由として、
①(サントリー)オールフリーに係る発明(「公然実施発明1」)にン基づく進歩性欠如及び
②(アサヒ)ダブルゼロに係る発明(「公然実施発明2」)に基づく進歩性欠如を主張するとともに、
③サポート要件(特許法36条6項1号)違反等の無効理由も主張。
 
<判断> 
●公然実施発明1に基づく進歩性欠如 
オールフリーは本件特許の優先日前に販売が開始されたものであり、その成分等を分析することが格別困難であるとはうかがわれない。
⇒公然実施発明1は日本国内において公然実施をされた発明に当たる。

本件発明と公然実施発明1を対比すると、エキス分の総量につき、本件発明が0.5重量%以上2.0重量%以下であるのに対し、公然実施発明1が0.39重量%である点で相違し、その余の点で一致。

①・・・・これらを解消して飲み応えを向上させるために風味付与剤等の添加物を用いる技術が周知となっていること、
②この風味付与剤等は本件発明のエキス分にあたることなど

公然実施発明1に接した当業者において飲み応えが乏しいとの問題があると認識することが明らかであり、これを改善するために手段として、エキス分の添加という方法を採用することは容易であった。

本件発明は公然実施発明1に基づいて容易に想到することができたから、進歩性を欠く

●公然実施発明2に基づく進歩性欠如 
公然実施発明2も日本国内において公然実施された発明にあたる。

①ノンアルコールのビールテイスト飲料の分野では、健康志向の高まりを受けて、「糖質ゼロ」との表示のある商品が消費者から支持されていたこと、
②栄養表示基準においては糖質を100ml当たり0.5g未満とすれば糖質を含まない旨の表示をすることができたこと

公然実施発明2に接した当業者において糖質の含量を100ml当たり0.5g未満に減少させることに強い動機付けがあったことは明らかであり、糖質の含量を減少させることは容易

本件発明は公然実施発明2に基づいて容易に想到することができたから、進歩性を欠く
 
<解説>
特許法29条1項2号にいう「公然実施をされた発明」とは、不特定の者に公然知られる状況又は公然知られるおそれのある状況において実施された発明

実施品を入手等しても発明の内容を知り得ない場合には、公然実施発明には当たらないと解するのが一般的。

本判決は、公然実施発明1及び2につき、その成分等を分析することが格別困難であるとはいえないことを理由に公然実施発明該当性を肯定(通説的見解)。

判例時報2295

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