特許

2016年1月20日 (水)

発明の着想を提供したにとどまる者であっても共同発明者であると認定した事例

知財高裁H27.6.24   

発明の着想を提供したにとどまる者であっても共同発明者であると認定した事例 
 
<事案>
特許第5172002号の権利者であるXに対し、共同出願の規定に違反するものであることを理由に、Yが無効審判請求を行ったYの請求を認める審決
⇒Xが審決の取消しを求めたもの。
 
<規定>
特許法 第38条(共同出願)
特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者と共同でなければ、特許出願をすることができない。
 
<審決>
本件発明の発明特定事項 a~g(従来技術であるCL-30)の発明者のほかにも発明特定事項 h の着想及び具体化した者が本件発明の発明者になるとし、本件発明及び出願の経緯について認定したうえで、本件発明の発明特定事項 h については、本件発明の発明者として願書に記載されているAに加え、Bも発明者であるとし、特許を無効とする審決。 
 
<Xの主張>
①認定の誤り
②AがBのメールの受信前から、発明特定事項hに係る技術思想を単独で創作し、これを具体化した試作品を完成し、Bに対し、説ン名刺、CL-40の金型製造に必要な設計図の起案及び下請製造を依頼したにすぎない。
 
<判断>
審決がBを本件発明の共同発明者として認定した点に誤りはない⇒審決を維持。
 
<解説>
発明が共同でなされたときは、共同者全員が発明者であり、特許を受ける権利は、共同発明者の全員にあり、そのうちの一部のもののみが出願して特許を受けることはできない(特許法38条)。

共同発明者とは、単なる協力者ではなく、実質的に協力し、発明を完成させた者であり、発明は、技術的思想の創作であるから、思想の創作自体に関係しない者(単なる管理者・補助者又は後援者等)は共同発明者ではない

発明の成立過程を着想の提供着想の具体化の2段階に分け、各段階について、実質上の協力者の有無を判断し、提供した着想が新しい場合は、着想者が発明者であり、新着想を具体化した者も、その具体化が当業者にとって自明程度のことに属しない限り、共同発明者であるとされている。

判例時報2274

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2013年8月 5日 (月)

FRAND宣言した標準必須特許に関する特許権侵害訴訟

東京地裁H25.2.28   

標準規格必須宣言特許についてFRAND条件でのライセンス契約締結に向けての重要な情報を相手方に提供して誠実に交渉を行うべき信義則上の義務を尽くすことなく、当該特許の特許権に基づく損害賠償請求権を行使することは、権利の濫用に当たり許されないとされた事例

FRAND宣言した標準必須特許に関するアップルとサムスンの間の特許権侵害訴訟第1審判決 

<事案>
米国法人のアップル社の子会社である原告が、原告によるアップル社製のスマートフォン、タブレット端末の各製品の輸入、譲渡等の行為は、被告が有する発明の名称を「移動通信システムにおける予め設定された長さインジケータを用いてパケットデータを送受信する方法及び装置」とする特許権(「本件特許権」)の侵害行為に当たらないなどと主張し、被告が原告の上記行為に係る本件特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権を有しないことの確認を求めた事案。

本件訴訟に先立ち、被告(サムスン)は、原告による上記行為が本件特許権に基づく差止請求権を被保全権利として、原告に対し、本件各製品の生産、譲渡、輸入等の差止め等を求める仮処分命令の申立(「本件仮処分命令の申立て」)をしていた。

<争点>
①本件製品についての本件発明1の技術的範囲の属否
②本件発明2に係る本件特許権の間接侵害の成否
③特許法104条の3第1項の規定による本件各発明に係る本件特許権の権利行使の制限の成否
④本件各製品に係る本件特許権の消尽の有無
⑤被告の本件FRAND宣言に基づくアップル社と被告間の本件特許権のライセンス契約の成否
⑥被告による本件特許権に基づく損害賠償請求権の行使の権利濫用の成否 

<判断>
被告が本件特許権につきFRAND条件によるライセンスを希望する者に同条件でライセンスを許諾する用意がある旨を宣言したこと(本件FRAND宣言)、そして、アップル社は、遅くとも平成24年3月4日付け書簡でもって、本件特許を含む日本における3つの特許に関するFRAND条件でのライセンス契約の具体的な申出をした。
⇒両者は、ライセンス契約の締結準備段階に入った。
⇒その締結に向けて、重要な情報を相手方に提供し、誠実に交渉を行うべき信義則上の義務を負う。

両者の交渉経緯及び交渉内容からすると、被告が上記信義則上の義務に違反していると評価し、被告による権利の濫用を基礎付ける1つの重要な事情とした。

本判決は、一律に標準必須特許に基づく権利行使を制限したものではなく、FRAND条件で本件特許をライセンス許諾する用意がある旨を宣言した者と、そのような条件にライセンスを受けることを希望する旨を申し出た者の両者について、契約締結準備段階における信義則上の義務を負うとしたもの。

例えば、標準必須特許の保有者の側が、FRAND条件でのライセンスを提示しているにもかかわらず、相手方がこれについて合理的な根拠もないまま拒み続け、かつ当該特許を無断で実施し続けているような事情があるような場合、相手方こそが信義則上の義務を懈怠していることとなるので、そのような者に対する権利行使は、本判決を前提としても許容され得る。

本判決は、標準必須特許に基づく差止請求権の行使を制限するにとどまらず、損害賠償請求権の行使も否定

被告が上記信義則上の義務に違反していることのみを捉えているものではなく、そのような上記信義則上の義務違反に加えて、被告が本件仮処分の申立てによって本件製品2及び4の差止請求権を維持していること、被告のETSIに対する本件特許の開示が、被告の3GPP規格の変更リクエストに基づいて本件特許に係る技術が標準規格に採用されてから約2年を経過していたこと(ETSIのIPRポリシー4.1項では、必須IPRの適時の開示が要請されている。)、その他アップル社と被告間の本件特許権についてのライセンス交渉経過において現れた諸事情を総合的に考慮して、被告による本件特許権の損害賠償請求権の行使が濫用に当たるととの結論
vs.
標準必須特許に基づく差止請求権を制限するのでれば、標準必須特許の保有者の権利の保護を図るために、最低でもFRAND条件に適合する限度で損害賠償請求権の行使は許容されるべきであるとする考え方もあり得る。
but
本件のように、双方の当事者が契約締結準備段階に入って誠実に交渉をすべき信義則条の義務を負った以上は、まずは、標準必須特許の特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償としてではなく、誠実交渉義務を尽くしてFRAND条件でのライセンス契約を成立させた上で、同契約に基づくロイヤルティ請求により金銭的問題は解決されるべきものと考えられるし、本件のように仮処分の申立てによって対象製品の差止請求が現に維持された状況であれば、結果的に、両者の交渉において、標準必須特許のライセンス許諾を求める側が不利な交渉を強いられる可能性が高く、いわゆるホールドアップの状況が策術されるおそれがある。

本判決は、本件における諸般の事情に鑑みて、特にそのように差止請求を別途維持したまま、上記信義則上の義務を尽くすことなく、原告に対し、本件製品2及び4について本件特許権に基づく損害賠償請求権を行使することは権利の濫用に当たり許されないとの判断。

<説明>

標準必須特許とその権利行使の制限の可否 

標準規格必須特許:
標準規格に準拠した製品を製造し、又はサービスを提供するに当たって避けることのできない特許。
本件では、標準必須特許(本件FRAND宣言に基づく標準必須特許)に基づく権利行使の可否が問題。
知的財産権の保有者の権利保護と②技術の標準化による普及促進との間のバランスをとることが喫緊の重要な課題。

企業は、知的財産権に基づいて技術の実施を独占することで、競合他社による当該技術の実施を禁止し、自社の売上げの増加を図るが、ある特定の知的財産権が標準化された技術の規格に必須とされた場合、当該知的財産権を保有する企業が、その標準規格を使用して製品化を図る他の企業に対し、当該知的財産権の実施を禁止すると脅しつつ、法外な実施料や理不尽なライセンス条件を要求し、これに強制的に同意させるという状況(「ホールドアップ状況」、標準規格に取り込まれた技術の権利行使によって標準規格の利用を望む者が利用できなくなる状況)が策出されるおそれ。

ETSI(欧州電気通信標準化機構)のIPRポリシー(Intelectual Property Rights Policy)は、その会員に対し、
①自らが保有するIPRを保持しその利益をを得る権利を完全に有することを前提としながらも、
②ETSIに自らの必須IPRの存在を適時に知らせること、および、
③必須IPRの所有者は、希望する者に対して公正、合理的かつ非差別的な条件(FRAND条件)でライセンスを許諾することを保証することを求め、
④他方で、第三者に対して、そのようなFRAUD条件でライセンスが許諾される権利があることを認めることとする。

標準必須特許に基づく権利行使を制限する法的理論構成として、
①権利者がFRAND条件で第三者に対しラインセンスを許諾する用意を宣言したことで第三者のためにする契約がされたとする見解
②現行の特許法100条1項の解釈として一定の場合に権利行使が制限される場合があるとする見解
③民法1条3項の権利濫用の法理を用いるという見解


権利濫用の成否 
契約交渉に入った者同士の間では、一定の場合には、重要な情報を相手方に提供し、誠実に交渉を行うべき信義則上の義務を負うものと解される。

判例も、契約準備段階において交渉に入った者同士の間では、誠実に交渉を続行し、一定の場合には重要な情報を相手方に提供すべき「信義則上の義務」を負っており、この義務に違反した場合はそれにより相手方が被った損害を賠償すべき義務を負う旨の判断し示している。


本件は、被告の有する標準必須特許に基づく権利行使の可否が問題とされ、これについて、被告がFRAND宣言に基づく標準規格必須宣言特許についてのFRAND条件でのライセンス契約締結準備段階における重要な情報を相手方に提供して誠実に交渉を行うべき信義則上の義務に違反していること、そのような状況において、被告は、本件特許権に基づく輸入、譲渡等の差止めを求める仮処分の申立てを維持していること等の諸事情を総合して、被告の権利行使が権利の濫用に当たり許されないとの判断をした事例。

http://www.simpral.com/hanreijihou2013kouhan.html

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2013年1月 6日 (日)

特許のサポート要件

知財高裁H24.6.6    

本件明細書に接した当業者は、「減塩醤油類」に係る本件発明において、食塩濃度が下限値に近い場合には、出願時の当業者の技術常識を参酌することにより、カリウム濃度を上限値近くにすることにより、減塩醤油の塩味を強く感じさせることができると理解するものであり、本件発明は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されており、サポート要件を満たす 

<事案>
Xが、発明の名称を「減塩醤油類」とするYの特許に対するXの特許無効審判の請求について、請求不成立とした審決の取消しを求める事案。

<規定>
特許法 第36条(特許出願)
2 願書には、明細書、特許請求の範囲、必要な図面及び要約書を添付しなければならない。
3 前項の明細書には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
一 発明の名称
二 図面の簡単な説明
三 発明の詳細な説明
4 前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。
二 その発明に関連する文献公知発明(第二十九条第一項第三号に掲げる発明をいう。以下この号において同じ。)のうち、特許を受けようとする者が特許出願の時に知つているものがあるときは、その文献公知発明が記載された刊行物の名称その他のその文献公知発明に関する情報の所在を記載したものであること。
6 第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。

<説明>
特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであることを要する(特許法36条6項1号)(いわゆる「サポート要件」)。
 
知財高裁H17.11.11(パラメータ特許):
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合することを要するとされるのは、特許を受けようとする発明の技術的内容を一般的に開示するとともに、特許権として成立した後にその効力の及ぶ範囲(特許発明の技術範囲)を明らかにするという明細書の本来の役割に基づくものであるとし、その制度趣旨に反するか否かを基準として前記記載外での補足の可否を判断。

明細書の発明の詳細な説明に、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる程度に、具体例を開示せず、本件出願時の当業者の技術常識を参酌しても、特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない場合には、事後のデータを提出して明細書の記載を記載外で補足することは許されない。
他方、明細書に具体例を開示しないか、少数しか開示されていない場合であっても、明細書のその他の記載と出願時の技術常識から、特許請求の範囲の記載が一応理解できる場合には、事後の実験データを明細書の記載を記載外で補足するものとして参酌し得ることを常に否定するものとまでは解されない。

特許法が先願主義及び書面主義を採用していることを根拠に、明細書の記載要件は、当然のことながら明細書の記載に基づいて審査されるべきで出願後に提出される実験成績証明書等は、あくまでも明細書の記載の参考資料であるとする見解(竹田)も同趣旨。

本件明細書に接した当業者の技術的常識を勘案して、食塩濃度が7.3~9w/%以外の場合、例えば、7w/w%台の減塩醤油であっても、塩化カリウムが食塩の塩味を代替する成分であるという技術常識に照らし、カリウム濃度を本件発明1が特定する数値範囲の上限付近とすることによって、本家発明1の課題を解決できると当業者が理解できるとして、実験データを参酌したもの。

数値限定は発明において、事後の実験データをも参酌してサポート要件を満たすとした事例。

http://www.simpral.com/hanreijihou2013zenhan.html

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2012年9月28日 (金)

特許の容易想到性の判断

①引用例から引用発明の内容の認定をし
②本件訂正発明と甲1記載の発明との一致点及び相違点の認定をした上で、
③これらに基づいて、本件訂正発明の相違点に係る構成について、他の先行技術等を適用することによって、本件訂正発明に到達することが容易であったか否かを判断することは不可欠。

知財高裁H24.2.28

 

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