行政

2018年7月10日 (火)

政務調査費の支出の一部が違法とされた事例

仙台地裁H29.11.2      
 
<事案>
仙台市民オンブズマンである原告が、仙台市議会の会派である補助参加人らにおいて、仙台市から交付を受けた平成23年の政務調査費の一部を違法に支出し、これを不当に利得した⇒地自法242条の2第1項4号に基づき、
仙台市長である被告に対し
補助参加人らに対して違法に支出した政務調査費相当額の金員の返還及びこれに対する遅延損害金又は法定利息の支払を請求するよう求めた

 
<争点>
①政務調査費の支出の違法性に係る判断枠組み
②選挙期間中の政務調査費の支出の適法性 
 
<判断>
●政務調査費の支出の違法性に係る判断枠組み 
◎違法性の判断基準 
法が政務調査費の制度を設けた趣旨を指摘した上で、
条例における使途に係る定めが法の趣旨に反しない限り、その定めに基づいて政務調査費の支出の違法性を判断するのが相当。
具体的な支出の違法性は、本件使途規準(本件条例の委任を受けて定められた本件規則において定められている使途基準)に合致するか否かを基準に判断

本件使途規準に合致しない場合:
当該支出の客観的な目的や性質に照らして、当該支出と議員の議会活動の基礎となる調査研究活動との間に合理的関連性がない場合をいう。

仙台市においては、政務調査費の対象外となる経費や支出手続等の本件条例の施行に関し必要な事項を定めた要綱(本件要綱)があり、法の趣旨に反しない限り、これを具体的支出の本件使途規準への適合性判断の指標とする。
 
◎主張立証責任 
原告において、支出が本件使途規準に合致せず違法であることを主張、立証することを要する
but
本件各支出が本件使途基準に合致せず違法であることを具体的に明らかにすることは困難である一方、被告らが本件使途基準に合致することについて説明することは比較的容易
法の趣旨には、政務調査費の使途の透明性の確保も含まれている

原告は、当該支出と議員の議会活動の基礎となる調査研究活動との間に合理的関連性がないことを示す一般的、外形的な事実の存在を主張、立証すれば足り、前記の事実が認められた場合には、被告らにおいて、当該支出により市政に関する具体的な調査研究が現にされたなどの特段の事情を立証しない限り、当該支出は本件使途規準に合致せず違法である。
 
◎本件要綱に基づく経費の按分 
本件要綱は、政務調査費に係る経費と政務調査費以外の経費を明確に区分し難く、従事割合その他の合理的な方法により按分することが困難である場合には、按分割合について2分の1を上限として計算した額を政務調査費の支出額とすることができる旨規定
前記規定は、法の趣旨及び前記の会派の活動の性質に照らして合理的

原告が、調査研究費活動以外の活動にも利用されることが推認される経費であることを示す一般的、外形的な事実を立証した場合は、
被告らにおいて、当該経費が調査研究活動のみに利用されたこと、又は、当該経費に関し、調査研究活動に利用された割合とそれ以外の以外の活動に利用された割合について、客観的資料に基づき立証することを要する。
 
●選挙期間中の政務調査費の支出の適法性 
①議員にとって、次回の選挙に当選するか否かは議員としての活動を続けようとする自らの立場を左右する重要な事項
②会派代表者の尋問結果に照らせば、会派及びその所属議員は選挙期間中には選挙活動に集中しており、調査研究活動はほとんど行われていないことが推認される

選挙期間中の活動に対し政務調査費が支出されたという事実は、当該支出と議員の議会活動の基礎となる調査研究活動との間に合理的関連性がないことを示す一般的、外形的事実であることが認められ、
原告がその事実の存在を立証した場合には、被告らにおいて当該支出により市政に関する具体的な調査研究が現にされたことを客観的資料に基づいて立証しない限り、当該支出は本件使途規準に合致せず違法であると判断するのが相当。
 
<解説>
●政務調査費の支出の違法性に係る判断枠組み 
◎違法性の実体要件
違法性の実体要件について、
A:裁量説:
議員側に市政との関連性や支出の必要性等について広範な裁量があることを前提に、裁量権の逸脱濫用があることを前提に、裁量権の逸脱濫用がある場合にのみ、違法となる。
B:合理的解釈説:
政務調査費の使途に応じて、比較的緩やかに必要性が認められるものと、それほど緩やかに解されないものがあるとして、個別の事案ごとに、条例等の使途規準に係る規定の合理的な解釈によって解決するとの見解。

◎主張立証責任 
①不当利得の要件事実的な考え方と
②現実の立証問題への配慮
一般的、外形的な事実の立証を原告に求める一般的、外形的事実説が妥当であると考えられている。
but
どのような事実をもって一般的、外形的事実とするかはなお議論

判例時報2367

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2018年7月 1日 (日)

損害賠償義務の履行を受けている場合の都道府県知事の公害健康被害の補償等に関する法律に基づく障害補償費の支給義務(消極)

最高裁H29.9.8      
 
<事案>
公害健康被害の補償等に関する法律(「公健法」)4条2項により水俣病である旨の認定を受けたXが、同法25条1項により傷害補償費の支給を請求⇒処分行政庁である熊本県知事から、Xの健康被害に係る損害は、原告企業との間で行われた損害賠償請求訴訟の結果、原因企業によって全て填補されている⇒同法13条1項に基づき、障害補償費を支給しない旨の決定⇒熊本県を相手に、その取消しと支給決定の義務付けを求めた。 
 
<規定>
公健法 第一三条(補償給付の免責等)
補償給付を受けることができる者に対し、同一の事由について、損害のてん補がされた場合(次条第二項に規定する場合に該当する場合を除く。)においては、都道府県知事は、その価額の限度で補償給付を支給する義務を免れる。
 
<原審>
Xの損害は前訴確定判決に基づく義務の履行により全て填補されている。
but
①公健法13条1項は、損害が填補された場合、その価額の限度で補償給付を支給する義務を免れると規定するにとどまっている。
②同法に基づく補償給付の制度は、純粋な損害填補以外の社会保障的な要素を含むと解されること等
⇒前訴確定判決に基づく義務を原因企業が履行したとしても、熊本県知事が当然に当該補償給付の支給義務を全て免れると解することはできない。

第1審判決のうちXの取消請求を棄却した部分を取り消し、これを認容。
 
<解説>
①立法の経緯等⇒公健法が、損害の填補は民事上解決されるべき問題であることを前提としつつ、それでは訴訟が長期間に及んでしまうことなどの主にが被害者に生じていたことなどの当時の問題を社会的に解決し、早期の救済を図る制度として設けられた
②公健法は、その条文上も、事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる著しい大気の汚染又は水質の汚濁の影響による健康被害に係る損害を填補するための補償等を行うことにより、健康被害に係る被害者等の迅速かつ公正な保護及び健康の被害の確保を図ることを目的とし(1条)、同法4条2項の認定に係る被認定者及び認定死亡者に関する補償給付の支給に要する費用に充てるためのものの全部については、特定施設等設置者が納付する特定賦課金を充て(49条2項、62条等)、当該被認定者等が損害の填補を受けた場合における補償給付の免責を認めている(13条)等

同法4条2項の認定を受けた者に対する補償給付が、民事上の損害のみを補償の対象としている。
 
<判断>
公健法4条2項の認定を受けた者に対する障害補償費は、
これらの者の健康被害に係る損害の迅速な填補という趣旨を実現するため、原因者が本来すべき損害賠償義務の履行に代わるものとして支給されるものであり、同法13条1項の規定もこのことを前提とするもの
。 
 
<解説>
X:前訴確定判決で認容された800万円はXの精神的損害に対する慰謝料のみであり、これには逸失利益等の経済的損害は含まれていないと主張。
vs.
前訴においてXらは、損害額は弁護士費用を除き生存者につき3000万円であると主張し、損害の内容として逸失利益、慰謝料及び介護費を挙げたが、各損害項目につき具体的な損害額の主張をしなかった

その請求は、被害者が受けた肉体的・経済的・生活的・家族的・社会的・環境的なものすべての損害を包括的に請求しようとする意図をもった損害賠償請求の方式である、いわゆる包括請求

前記確定判決は、Xの損害の全てについての賠償を原因企業に命じたもの

判例時報2366

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2018年6月30日 (土)

職員らの不正について県知事が求償権を行使しないことが「違法な怠る事実」となるか

最高裁H29.9.15      
 
<事案>
大分県教育委員会の教員採用試験において不正に関与した者に対する求償権をY(知事)が行使しないことが違法に財産の管理を怠るもの
⇒大分県の住民であるXが、Yを相手に、
①本件不正に関与したとXらが主張する者に対する求償権行使を怠る事実の違法確認を求めるとともに、
②本件不正に関与した者らに対する求償権に基づく金員の支払を請求することを求める
住民訴訟。
 
<判断> 
①本件不正の態様が悪質であり、その結果も極めて重大
Aに対する本件返納命令や本件不正に関与したその他の職員に対する退職手当の不支給は正当であり、県が本件不正に関与した者に対して求償すべき金額から本件返納額を当然には控除することができない
原審が指摘する事実は抽象的なものであり、それらが直ちに、過失相殺又は信義則により、県に夜求償権の腰が制限されるということはできない

県知事が前記求償権のうち本件返納額に相当する部分を行使しないことが違法な怠る事実に当たるとはいえないとした原審の判断には違法がある

原判決のうちXらのA~Dに関する4号請求並びにX2及びX4のE及びFに関する3号請求及び4号請求に関する部分は破棄を免れない。 

県の教員採用試験において不正が行われるに至った経緯や、本件不正に対する県教委の責任の有無及び程度、本件不正に関わった職員の職責、関与の態様、本件不正発覚後の状況等に照らし、
県による求償権行使が制限されるべきであるといえるか否か等について、更に審理を尽くさせるため、前記部分につき本件を原審に差し戻すこととした。
 
<解説> 
●地方公共団体が有する債権の管理については、地自法240条、同法施行令171条ないし171条の7の適用がある。
 
判例(最高裁H16.4.23)は、
前記各規定によれば、地方公共団体が客観的に存在する債権を理由もなく放置したり免除したりすることは許されず原則として、地方公共団体の長にその行使又は不行使についての裁量はない
債権の不行使が財産の管理を違法に怠る事実に当たるか否かが住民訴訟で争われた場合には、その不行使を適法とする十分に合理的な理由があるといえる場合には、債権行使を怠る事実が違法であるとはいえないと判断される場合もあり得る
but
前記最高裁判決の趣旨
債権の不行使が怠る事実に当たらないといえるのは例外的な場合であると解される⇒その不行使を違法と判断するためには、その合理性について、十分に具体的な理由が必要となる。
 
●非違行為等を行った職員らに対する求償権ないし損害賠償請求権の行使に当たって、信義則上の制限の可否等が問題となった下級審の裁判例

①市が違法な給水拒否により損害を与えた事案
市長等の給与に関する条例の特例を定める条例により市長等の給料について減額措置が講じられた
but
同措置は懲戒処分としての性格を有するものにすぎない⇒市長への求償権の範囲に影響を与えるものではない

②町の税務課長が不実の宅地課税証明書を発行⇒宅地と信じて土地を購入した買主に損害を生ぜしめた事案:
職員に対する指導、教育が足りず、対応方針が徹底していなかったことも一因⇒過失相殺の法理を類推して、損害賠償額の8割の限度で求償を認めた。

③市立小学校の教員が生徒に体罰を加えて示談金340万円を支払った事案:
求償の相手方が負担すべき額を算出した上、相手方は前記示談金とは別に被害者に直接102万円を支払ったため、求償すべき額は23万円にとどまる。
このような少額の金額の求償権を行使せずに訴訟を控えることは、求償権行使について怠る事実があるとはいえない。

④佐賀県商工共済組合を監督している商工課長が破たん状態にある同組合の粉飾を放置し、県知事が業務改善命令を出さずに、債務超過に陥り、組合員らに合計4億9148万円を支払ったため県知事に求償を求めた事案:
裁判所の求釈明にかかわらず求償権の範囲を制限すべき理由の主張がされなかった⇒請求額全額の求償を認めた。

⑤④の控訴審:
①県が国に対して求償権を行使していない、②監督は基本的に課長の専決であった、③佐賀県の職員が全体として問題の解決に積極的であったとはいえない、④県知事に不当な目的や動機があったとは見られない、⑤県知事が関与しない点で損害の拡大があったこと等
⇒求償権の範囲ないし額につき、信義則上、賠償額の10分の1に相当する額に制限すべき。

⑥国立市長が、建築基準法に違反しない適法建築物の建築・販売の阻止を目的として、少なくとも重大な過失により、自ら主体的かつ積極的に一連の違法行為をした事案:
当該違法行為における市長の立場、目的、行動内容及びこれによる市の経済的不利益等を踏まえ、市が市長に対して求償権の全額を行使しても、信義則に反するとはいえない。

⑦刑務官が消火用ホースによる放水で受刑者を死亡させた⇒全額の求償が命じられた。

⑧受刑者3名に対して違法な皮手錠の施用、保護房収容等で当該受刑者らのうち1名死亡、その余の者に腸間膜損傷の負傷又は外傷後ストレス障害等の後遺障害⇒全額の求償

⑨納税職員が市民税の徴収を懈怠して時効消滅させた
⇒納税職員の指揮監督権者である市長に対し、指揮監督上の重大な過失あり⇒請求認容。

判例時報2366

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2018年6月16日 (土)

大学院生に対する退学処分の事例

名古屋高裁H29.9.29      
 
<事案>
Xは、Y大学が設置する大学院医学研究科修士課程に在籍していた学生。
同大学学長は、Yの本件大学院に勤務していた派遣職員について同和差別を内容とする発言をするなどしてその名誉を毀損した行為や、派遣職員の派遣元会社に電話をしてその業務を妨害した行為等が、懲戒処分を定めた学則所定の事由に当たる⇒退学処分。

Xが、
本件退学処分が根拠のない事由に基づいてされたなどの点において違法かつ無効なものである旨主張し、
Xが大学院修士課程の学生の地位にあることの確認と、
違法な本件退学処分により精神的苦痛を受けたなどとし主張して、不法行為に基づく損害賠償請求を求めた。 
 
<原審>
本件退学処分は違法

Xが大学院修士課程の学生の地位にあることの確認及び
Y大学に対して慰謝料等として55万円の支払を命じた。 
 
<判断>
最高裁昭和29.7.30、最高裁H8.3.8を引用し、
退学処分を行うかどうかの判断は、学長の合理的な教育的裁量に委ねられるべきものであり、裁判所がその処分の適否を審査するに当たっては、学長と同一の立場に立って当該処分をすべきものではなく、
学長の裁量権の行使としての処分が、全く事実の基礎を欠くか又は社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用してされたと認められる場合に限り、違法であると判断すべき。
②退学処分は学生の身分をはく奪する重大な措置であり、学校教育法施行規則26条3項も4個の退学事由を限定的に定めており、本件大学院の学則の趣旨も同様であると解される

当該学生を学外に排除することが教育上やむを得ないと認められる場合に限って退学処分を選択すべきであり、
その要件の認定については他の処分の選択に比較して特に慎重な配慮を要する。 

原審:
Xが、派遣職員が部落出身者などと発言し、指導教授に対して派遣契約の解除をすることを求め、結果的に派遣職員を自宅待機にした行為は社会通念上許される限度を超えたもの
but
①当該派遣職員が本件同和差別発言があったことを認識していなかったこと
②派遣会社はXの「処分を求めておらず、指導教授は、派遣社員が自宅待機となったことで、Xに対する指導方針の変更は余儀なくされたが、研究室の運営が困難になったとまでは認められない

Xの行為により生じた結果が重大なものとはいえない

控訴審:
①本件同和差別発言が社会通念上許される限度を超えたものであり、派遣社員の名誉を毀損するものと認定。
②Xが指導教授らの指導に対して、人格攻撃を含めた反発をし、他の教員から懲戒の対象になるなどとの警告を受けたにもかかわらず、指導に従わない態度を継続
③Xのこれらの一連の言動は、社会的に許容された限度を超えるものであり、その結果、研究室の運営に重大な影響を及ぼすに至った等と認められる。

判例時報2365

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2018年6月15日 (金)

重婚的内縁配偶者と厚生年金保険法59条1項の「配偶者」

名古屋高裁H29.11.2      
 
<事案>
厚生年金保険法に基づく老齢年金の受給権者であった訴外Aが死亡⇒Aと内縁関係にあったXが処分行政庁に遺族厚生年金の支給を請求⇒遺族年金を支給しない決定⇒その取消しを求めた。 
 
<原審>
①Aと婚姻関係にあったB(補助参加人)との婚姻関係は実体を失って形骸化し、その状態が固定化して近い将来解消される見込みのない事実上の離婚状態にあったと認めるのが相当。
②AとXとの内縁関係は、Aの死亡当時、相当程度安定かつ固定化していた

厚年法59条1項所定の「配偶者」に当たると認めるのが相当。 
   
Bが控訴。
 
<判断>
原判決は正当。

B:長い間苦楽を共にしてきた夫婦であり、Aとの間に離婚話が出たことはない
vs.
AとBとは、平成12年以降完全に別居し、連絡も断絶状態
⇒その後の12年間は、苦楽を共にしてきた夫婦であるとはいえず、Aが死亡した時点では、事実上の離婚状態であった。

B:XがAの女道楽のうちの1人にすぎず、単に同棲関係が長時間続いただけであって、AとXとの間には婚姻の意思又は合意はない
vs.
AとXは、平成12年以降Xの自宅で同居し、
AとXの生活は、Aから支出された年金等で支えられており、
Aも第三者に被控訴人を内縁の妻と紹介


Xは、Aの女道楽の1人であり、Aとの同性関係が長期間続いただけであるとはいえない。

B:Bの生活がAの経済的援助によって維持されてきた
vs.
Bが受け取ったAの退職金は、AとBとの婚姻関係解消を目的とした清算金としての性質を有するものと見るのが相当であり、その後Aから定期的な金銭の交付があるわけではなかった
⇒Bの生活がAの経済的援助によって維持されていたとはいえない。

B:本件公正証書遺言によって、AがBの生活基盤を確保できるように配慮した
vs.
遺言において、不動産がXへの遺贈の対象から除外されたのは、XとBとの紛争を回避するのが目的であったと考えられる。

B:AがB方に電話を掛け、Bのことを常に心配していた
vs.
AがB方に電話を掛けたことをもって、AとBとが事実上の離婚状態にあったことを覆す事情とはいえない。

B:婚姻の意思すらない男女が同棲する場合に、容易に内縁関係を認めることは、法律婚制度に混乱を与えることになるし、Xに遺族厚生年金を支給することはXの年収が500万円を超えている以上、厚年法の制度目的に違背。
vs.
厚年法上、AとBの婚姻関係が事実上離婚状態にある以上、重婚的内縁関係にあるXを法的に保護しても、厚年法の制度目的に違背するものとはいえず、社会正義上許されないとは言えない。
 
<解説>
厚年法59条1項は、遺族厚生年金を受けることができる遺族は、被保険者の「配偶者」と定めるが、
同法3条2項は、この法律において「配偶者」とは、婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含むものと規定。 

法律上の配偶者と事実上婚姻関係と同様の事情にある者(いわゆる重婚的内縁関係にある者)とが競合する場合、いずれを遺族厚生年金の受給者と見るか?
「互いに協力して社会通念上夫婦としての共同生活を現実に営んでいた者」であるというべき(最高裁昭和58.4.14)であるが、
その場合、重婚的内縁関係にある者について生計維持の有無を判断するよりも、むしろ法律上の配偶者について「その婚姻関係が実体を失って形骸化し、かつ、その状態が固定化して近い将来解消される見込みのないとき、すなわち、事実上の離婚状態にある」か否かを積極的に判断すべきものとされている。(最判解説)

判例時報2365

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2018年5月27日 (日)

行政庁が管理する文書の所持者

最高裁H29.10.4      
 
<事案>
香川県の住民である相手方は、県議会の議員らが平成25年度に受領した政務活動費の中に使途基準に違反して支出されたものがある
⇒地自法242条の2第1項4号に基づき、香川県知事に対し、前記の支出に相当する金額について、当該支出をした議員らに不当利得の返還請求をすることを求める本案事件の訴えを提起。

相手方は、議員らが県議会の議長に提出した平成25年度分の政務活動費の支出に係る領収書及び添付資料の写しについて、議長の属する地方公共団体である抗告人(香川県)を文書の所持人として、文書提出命令を申し立てた。

抗告人:本件各領収書に係る文書の所持者は議長であり、抗告人に本件各領収書の提出義務はない旨主張。
 
<規定>
神奈川県議会政務活動費交付条例:
議長は、議員から提出された報告書及び領収書等の写しをその提出すべき期間の末日の翌日から起算して5年を経過する日まで保存しなければならない(11条1項) 

民訴法 第219条(書証の申出) 
書証の申出は、文書を提出し、又は文書の所持者にその提出を命ずることを申し立ててしなければならない。
 
<判断>
地方公共団体の機関が文書を保持する場合において、当該地方公共団体は、文書提出命令の名宛人とされることにより、当該文書を裁判所に提出すべき義務を負い、同義務に従ってこれを提出することのできる法的地位にある。 
 
<解説>
行政主体(国又は公共団体)に属する行政庁が管理する文書を対象として文書提出命令の申立てがされる場合、当該文書に係る「文書の所持者」(民訴法219条等)について

A:行政庁が文書の所持者であるとする見解(行政庁所持者説)
〇B:行政庁の属する行政主体(国又は公共団体)が文書の所持者であるとする見解(法主体所持者説)
 
本案事件が民事訴訟である場合について、裁判実務の多数は、法主体所持者説に基づき運用
ex.
労働喜寿監督署長に提出された災害調査復命書を対象として文書提出命令が申立てられた事案において、前記災害調査復命書に係る文書の所持者は国(最高裁H17.10.14)
 
①本案事件が民事訴訟である場合にはおいては、法主体所持者説に基づく運用
平成16年改正により抗告訴訟の被告適格が原則として行政主体に付与⇒本案事件が行政訴訟であるからといって、「文書の所持者」の取扱いを区別することに合理性があるとは言い難い
③行政主体は、行政活動における権利義務の帰属主体⇒文書提出命令の名宛人とされることによって、当該行政主体に属する行政庁が保管する文書を提出すべき義務を負い、同義務によってこれを提出することのできる法的地位にある。

判例時報2364

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2018年5月 2日 (水)

弁護士会が行う懲戒処分の差止請求は行政事件訴訟法が定める差止めの訴えによるべき⇒これによらずに民事上の差止請求である独禁法24条に基づく差止請求によることは不適法

東京高裁H28.10.27      
 
<事案>
私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(「独禁法」)24条に基づいて弁護士懲戒処分を行うことの差止請求がなされる等した事案。 
 
<請求> 
弁護士X1及びその依頼者のX2(学校法人Aの職員)は、AがY1弁護士会所属弁護士であるX1を対象弁護士として行った懲戒請求事件並びにX2がX1を代理人としてY2弁護士会に対して行った弁護士B及びCを対象弁護士とする懲戒請求事件等に関し、次の訴えを提起。

Y1に対する請求:
X1に対する懲戒請求事件について、Y1が綱紀委員会の議決を踏まえ懲戒委員会に事案の審査を求める旨の決定(「本件Y1決定」)をしたことに関し、X1に懲戒事由がないにもかかわらずされた同決定には独禁法上の違法がある等の理由による、次の各請求。

(ア) (X1による)独禁法24条に基づく本件Y1決定に基づく懲戒処分を行うことの差止請求
(イ)
主位的に:不法行為に基づく損害賠償請求(X1及びX2に対してそれぞれ180万円)
予備的に:本件Y1決定の違法確認請求

Y2に対する請求:
B及びCに対する各町会請求事件について、Y2が各綱紀委員会の議決を踏まえてしがBを懲戒しないとの決定(「本件Y2決定①」)及びCを懲戒しないとの決定(「本件Y2決定②」)に関し、
B及びCに懲戒事由があるにもかかわらずされたこれの決定には独禁法上の違法がある等の理由による、次の各請求

主位的に:不法行為に基づく損害賠償請求(X1及びX2に対してそれぞれ160万円)
予備的に:本件Y2決定①及び本件Y2決定②の違法確認請求

Y3(日弁連)に対する請求:
本件Y2決定①に対する異議について、Y3が綱紀委員会の議決を踏まえてすいた異議の申出を棄却する旨の決定(「本件Y3決定①」)に関し、
Bに懲戒事由があるにもかかわらずされた同決定には独禁法上の違法がある等の理由による、次の各請求。

主位的:不法行為に基づく損害賠償請求(X1及びX2に対してそれぞれ80万円)
予備的:本件Y3決定①の違法確認請求
 
<規定>
行訴法 第3条(抗告訴訟)
7 この法律において「差止めの訴え」とは、行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟をいう。

独禁法 第24条〔差止請求〕 
第八条第五号又は第十九条の規定に違反する行為によつてその利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、これにより著しい損害を生じ、又は生ずるおそれがあるときは、その利益を侵害する事業者若しくは事業者団体又は侵害するおそれがある事業者若しくは事業者団体に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
 
<判断>
X1のY1に対する懲戒処分差止請求について訴えを却下。

同請求に係る紛争が法律上の争訟に当たることは明らか
②同請求は独禁法24条に基づくものであり、その性質上民事の差止請求であるところ、差止の対象は弁護士会が行う懲戒処分という公権力行使であり、行訴法所定の抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる。
同法において抗告訴訟としての差止めの訴え(同法3条7項)が法定されている以上、これによらずに独禁法24条に基づく差止請求に係る訴えによることは不適法
 
<解説>
東京地裁H13.7.12は
非弁提携の非行事実が疑われる会員弁護士について弁護士会がその綱紀委員会に命じた調査命令に対して、対象弁護士より独禁法24条に基づく差止請求がなされた事案につき、
調査の対象とされることによって受ける不利益は同条にいう「著しい損害」であるとは評価できないなどとして請求を棄却。 

判例時報2361

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2018年5月 1日 (火)

タックスヘイブン対策税制の事案

最高裁H29.10.24      
 
<事案> 
●内国法人であるXが、
平成20年3月期及び平成21年3月期(「本件各事業年度」)の法人税の各確定申告⇒刈谷税務署長から、租税特別措置法(平成21年改正前のもの)66条の6第1項により、シンガポール共和国に所在するXの子会社(「DIAS」)の後記の課税対象留保金額に相当する金額がXの所得金額の計算上益金の額に算入される⇒平成20年3月期の法人税の再更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分並びに平成21年3月期の法人税の再更正処分を受けた

Y(国)を相手に、これらの処分の取消しを求めた。 
 

Xは、平成10年、東南アジア諸国連合(「ASEAN」)域内のグループ会社に対する統率力を高めるため、同グループ会社の保有株式会社を現物出資してDIASを設立

DIASは、Xの100%子会社として、2007事業年度及び2008事業年度において、ASEAN諸国等に存する子会社13社及び関連会社3社の株式を保有し、シンガポールにおける所得に対する租税の負担割合は、2007事業年度では22.89%、2008事業年度では12.78%。

DIASは、豪亜地区における地域統括会社として、集中生産・相互補完体制を強化し、各拠点の事業運営の効率化やコスト低減を図るため、順次業務を拡大し、
DIAS各事業年度当時、同地域のグループ会社(「域内グループ会社」)に対し、個々の業務につき一定の対価を徴収しつつ、地域企画、調達、財務、材料技術、人事、情報システム及び物流改善に係る地域統括に関する業務を行っていたほか、持株(株主総会、配当処理等)に関する業務、プログラム設計業務等を行っていた。

DIAS各事業年度において、DIASの収入金額は地域統括業務の中の物流改善業務に関する売上額を約85%を占め、その所得金額(税引前当期利益)は保有株式の受取配当の占める割合が8~9割と高かったが、地域統括業務によって集中生産・相互補完体制の構築、発展等が図られた結果、域内グループ会社全体に原価率の大幅な低減による利益がもたらされ、その配当収入の中に相当程度反映されていた。
 
<法令等>
わが国のタックス・ヘイブン対策税制である措置法66条の6第1項:
内国法人等が100分の50を超える株式等を直接又は間接に保有する外国関係会社のうち、本店所在地国における所得に対して課される税の負担が本邦における法人の所得に対して課される税の負担に比して著しく低いものとして政令で定める外国関係会社(平成21年政令・・による改正前の租税特別措置法施工令39条の14第1項により、各事業年度の所得に対して課される租税の額が所得金額の100分の25以下)に該当するもの(「特定外国子会社等」)が、
各事業年度においてその未処分所得の金額から留保したものとして所定の調整を加えた金額(「適用対象留保金額」)を有する場合には、
そのうち内国法人の有する当該特定外国子会社等の直接及び間接保有の株式等の数に対応するものとして所定の方法により計算した金額(「課税対象留保金額」)に相当する金額を内国法人の所得の金額の計算上益金の額に算入する旨を規定。

措置法66条の6第4項:
同条1項の適用除外規定として、
①特定外国子会社等のうち、株式等又は債券の保有、工業所有権等の提供等を主たる事業とするものでないこと(事業規準)
②本店所在地国において、主たる事業を行うに必要と認められる事務所、店舗、工場その他の固定施設を有すること(実体基準)
③その事業の管理、支配及び運営を自ら行っていること(管理支配基準)
④主たる事業が卸売業、銀行業、航空運送業等のいずれかに該当する場合には、その事業を主として当該特定外国子会社等に係る所定の関連者以外の者との間で行っている場合に該当すること(非関連者基準)、前記以外の事業に該当する場合には、その事業を主として本店所在地国で行っている場合に該当すること(所在地国基準)
の要件(「適用除外要件」)を全て満たす場合には、タックス・ヘイブン対策税制を適用しない旨を規定。
 
<第1審>
DIASの行う地域統括業務は株式の保有に関する事業に含まれず、その主たる事業は地域統括事業⇒本件各処分(確定申告を超える部分等)は違法であるとして、Xの請求をほぼ認容。 
 
<原審>
①事業としての株式の保有は、単に株式を保有し続けることに限られず、株式発行会社を支配管理するための業務もその一部を成し、被支配会社を統括するための諸業務も株式の保有に係る事業の一部を成す
⇒地域統括業務は、株式の保有に係る事業に含まれる1つの業務にすぎず、別個独立の業務とはいえない。
②実質的にもDIASの主たる業務は株式の保有であると認められる

DIASは事業規準を満たさず、本件処分は適法。
 
<判断>
特定外国子会社等が株式を保有する他の会社を統括し管理するための活動として行う事業方針の策定や業務執行の管理、調整等に係る業務は、通常、業務の合理化、効率化等を通じて収益性の向上を図ることを直接の目的として、その内容も幅広い範囲に及び、これによって当該会社を含む一定の範囲に属する会社を統括するもの
⇒当該会社の配当額の増加や資産価値の上昇に資することがあるとしても、株主権の行使や株式の運用に関連する業務等とは異なる独自の目的、内容、機能等を有するものであって、株式の保有に係る事業に包含されその一部を構成すると解するのは相当ではない。
DIASの行う地域統括業務は、株主権の行使や株式の運用に関連する業務等とは異なる独自の目的、内容、機能等を有する

株式の保有に係る事業には含まれない。 

①措置法66条の6第3項及び4項にいう主たる事業は、
その事業活動の具体的かつ客観的な内容から判定することが相当であり、
複数の事業を営んでいるときは、それぞれの事業活動によって得られた収入金額又は所得金額、事業活動に要する使用人の数、事務所その他の固定施設の状況等を総合的に勘案して判断するのが相当。
DIASの行う地域統括業務は、相当の規模と実体を有し、事業活動として大きな比重を占めている

これを主たる事業と認めるのが相当であり、
Xは適用除外要件を全て満たす。
 
<解説>   
●我が国のタックス・ヘイブン対策税制の概要 

我が国のタックス・ヘイブン対策税制:
軽課税国か否かに着目するいわゆるエンティティ・アプローチを採用しており、
措置法66条の6第1項は、課税要件を明確化して課税執行面における安定性を確保しつつ、内国法人が、法人の所得等に対する租税の負担がないか又は極端に低い国若しくは地域(タックス・ヘイブン)に子会社を設立して経済活動を行い、当該法人に所得を留保することにより、我が国における租税の負担を回避しようとする事例に対処して税負担の実質的な公平を図ることを目的として、
一定の要件を満たす外国子会社を特定外国子会社等と規定し、その課税対象留保金額を内国法人の所得の計算上益金の額に算入(最高裁H19.9.28)。
but
特定外国子会社等であっても、独立企業としての実体を備え、その所在する国又は地域において事業活動を行うことにつき十分な経済合理性がある場合にまで前記の取扱いを及ぼすとすれば、我が国の民間企業の海外における正常かつ合理的な経済活動を阻害するおそれがある。

同条4項は、
株式の保有等を主たる事業とするものでないこと(事業基準)のほか、
実体基準、管理支配基準、非関連者基準又は所在地国基準という適用除外要件が全て満たされる場合には、同条1項の規定を適用しないとしている。
 
●地域統括業務と株式の保有に係る事業との関係 

DIASの行う地域統括業務が事業規準を満たさない株式の保有に係る事業に含まれるかが問題。
   
租税法は侵害規範であり、法的安定性の要請が強く働く⇒その解釈は原則として文理解釈によるべきであり、みだりに拡張解釈や類推解釈を行うことは許されない(最高裁)。
but
判例は、租税法律主義の趣旨に照らし、既定の文言や当該法令を含む関係法令の用語の意味内容を重視しつつ、事案に応じて、その文言の通常の意味内容から乖離しない範囲内で、規定の趣旨目的を考慮することを許容しているように思われる。
   
原審:株式の保有に係る事業が独禁法9条3項(平成9年・・改正前のもの。)にいう持株会社(株式を所有することにより、国内の会社の事業活動を支配することを主たる事業とする会社)の行う事業を含むものと解した。
vs.
同持株会社は、他企業の支配が現実に行われるような形で株式を所有している場合であることが必要であり、単に財産保有を目的とする財産保全会社や株式投資会社など該当しないと解されるなど、株式の保有と事業活動の支配とは別の要件と捉えられる。⇒株式の保有に係る事業が純粋持株会社等一定の持株会社の行う事業を含むとしても、前記の独禁法上の持株会社の行う事業が株式の保有に係る事業に包含されると解することはできない。
   
措置法66条の6第4項が株式の保有を主たる事業とする特定外国子会社等につき事業規準を満たさないとした趣旨
株式の保有に係る事業はその性質上我が国においても十分に行い得るものであり、タックス・ヘイブンに所在して行うことについて税負担の軽減以外に積極的な経済合理性を見出し難いことにある。
   
判例時報2361

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2018年4月21日 (土)

厚生年金保険法47条に基づく障害年金の支分権の消滅時効の起算点

最高裁H29.10.17      
 
<事案>
厚生年金保険法に基づく障害年金の受給要件を充足するに至ったにもかかわらず、受給権者がこれに係る裁定の請求をせず裁定を受けていなかった場合に、障害年金の支給を受ける権利(支分権)の消滅時効がいつから進行するか? 
 
<事実関係>
X(昭和25年生まれ)は厚生年金保険の被保険者であった昭和45年6月、交通事故により左下腿を切断する傷害。
but
これに係る障害年金について、裁定の請求をしていなかった。

Xは、平成23年6月30日に至って、厚生労働大臣に対し、生涯年金の裁定の請求をするとともに、年金請求書を提出。

厚生労働大臣は、同年8月、原告に対し、
受給権を取得した年月を昭和45年6月、障害等級を2級とする障害年金の裁定をしたが、
同年7月分から平成18年3月分までの障害年金は時効により消滅しているとして支給せず、同年4月分(その支給期は同年6月)以降の障害年金のみ支給。
←障害年金の支分権の消滅時効(5年)は、裁定を受ける前であっても、その本来の支払期(厚年法36条)から進行するとの見解(支払期説)。

Xは、障害年金の支分権の消滅時効はその裁定を受けた時から進行する(裁定時説)と主張して、支給されなかった障害年金の支払を求める本件訴えを提起。
 
<判断>
支払期説によるべきことを判示。 
 
<解説>
●根拠となる法令
厚生年金保険の保険給付及び国民年金の給付に係る時効の特例等に関する法律(年金時効特例法)による改正前の
厚年法92条1項:
「保険給付を受ける権利」について5年の消滅時効を規定。

基本権(年金の支給の根拠となる権利)についての規定であるとされ、支分権(基本権から派生する、各月分の年金の支給を受ける権利)については同項の規定はなく、国に対する金銭的債権についての一般法である会計法30条により5年で時効消滅。

年金時効特例法による改正
⇒厚年法92条1項に括弧書が加えられ、支分権についての消滅時効も同項を根拠とすることが明らかに。
but
この規定は、施行日(平成19年7月6日)後に年金を受ける権利を取得したものについて適用⇒Xの障害年金の支分権の消滅時効については従前どおり会計法に従う。
その起算点は、同法31条2項、民法166条1項により「権利を行使することができる時」となり、本件ではこの解釈が問題
 
●消滅時効の起算点に関する一般論 
民法166条1項の「権利を行使することができる時」とは、
権利の行使に法律上の障害(履行期限、停止条件等)がなくなったときを意味(最高裁昭和49.12.20)。
法律上の障害であっても、債権者の意思により除去可能なものであれば、消滅時効の進行を妨げるものではない
 
●支分権の消滅時効の起算点 
基本権は、厚年法所定の支給要件に該当したときに、支分権は各月の到来によりそれぞれ発生。
年金は、厚年法36条3項により、毎年偶数月にそれぞれ前月までの分を支払うこととされている⇒支分権については、原則として各支払期の翌日が消滅時効の起算点となる。

×A:裁定時説(裁定を受けるまで時効は進行しない。)

①支分権たる受給権を行使するためには裁定を受けることが必要
②受給権者が裁定請求をしても、裁定という行政庁の判定が介在して初めて年金の支給が受けられる⇒この法律上の障害は、受給権者の意思により除去可能なものであるとはいえない。

〇B:支払時説

裁定について定めた厚年法33条は、保険給付を受ける権利はその権利を有する者(受給権者)の請求に基づいて裁定するとしており、これは、基本権たる受給権が裁定によって初めて発生するのではなく、法定の要件(同法47条など)を満たすことによって、裁定がされる以前から法律上当然に発生していることを前提としているものと考えられ、裁定は、受給権の発生の有無やその内容を公的に確認する行為にすぎない

障害年金の受給要件や給付金額については厚年法により明確に定められており、これらの判断について行政庁に裁量はないと解される⇒受給権者は、裁定の請求をしさえすれば、同法の定めるところに従った内容の裁定を受けて支分権を行使することができる裁定を受けていないことは、受給権者の意思によって除去することができる障害又はこれと同視し得るものであると評価できる。

判例時報2360

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2018年4月11日 (水)

村議会議員に対する地方自治法92条の2に該当する旨の資格決定処分についての執行停止の申立て(肯定)

札幌高裁H29.5.29      
 
<事案>
北海道の留寿都村の村議会議員であったYが、同議会による、平成28年7月14日付けでなされた地方自治法92条の2に該当する旨の資格停止処分には、同条の法令解釈を誤った違法があると主張して、同処分の取消しを求める訴えを提起するとともに、本件訴訟を本案として、本件処分の効力の停止を求めた。
 
<判断>
本件処分の効力を本案事件に関する第一審判決の言渡し後30日を経過するまで停止するのが相当である。

地方議会議員であれば、原決定が認定する重大な損害を被るのが通常であるというべき⇒Yについて重大な損害を被ることのない特別の事情がない限り、「重大な損害を避けるため緊急の必要性がある」ということができる。
Yが「次の選挙まで復職するつもりはない」と言ったとしても、前記の特別の事情があるとはいえない。
②Yの失職による議員の補欠選挙の実施の可否及び選挙の効力等について、村中に大きな混乱が生じたものとは認められない。
Yの業務が議員としての職務執行の公正、適正を損なうおそれが類型的に高いということはできず、「本案について理由がないとみえるとき」に当たらない
 
<規定>
地方自治法 第92条の2〔関係諸企業への関与禁止〕 
普通地方公共団体の議会の議員は、当該普通地方公共団体に対し請負をする者及びその支配人又は主として同一の行為をする法人の無限責任社員、取締役、執行役若しくは監査役若しくはこれらに準ずべき者、支配人及び清算人たることができない。

行訴法 第25条(執行停止)
処分の取消しの訴えの提起は、処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない。
2 処分の取消しの訴えの提起があつた場合において、処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるときは、裁判所は、申立てにより、決定をもつて、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止(以下「執行停止」という。)をすることができる。ただし、処分の効力の停止は、処分の執行又は手続の続行の停止によつて目的を達することができる場合には、することができない。
 
<解説>
行訴法25条1項は、業絵師処分の取消しの訴えの提起について、いわゆる執行不停止の原則を定めているが、同条2項は、処分等により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるときは、裁判所は、申立てにより決定をもって、処分の効力等の停止をすることができると定める。

「重大な損害」とは、原状回復不能又は困難な損害もしくは社会通念上金銭賠償で受忍することの不能又は困難な、積極的、消極的損害をいうと解されている。

判例時報2359

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