行政

2018年4月21日 (土)

厚生年金保険法47条に基づく障害年金の支分権の消滅時効の起算点

最高裁H29.10.17      
 
<事案>
厚生年金保険法に基づく障害年金の受給要件を充足するに至ったにもかかわらず、受給権者がこれに係る裁定の請求をせず裁定を受けていなかった場合に、障害年金の支給を受ける権利(支分権)の消滅時効がいつから進行するか? 
 
<事実関係>
X(昭和25年生まれ)は厚生年金保険の被保険者であった昭和45年6月、交通事故により左下腿を切断する傷害。
but
これに係る障害年金について、裁定の請求をしていなかった。

Xは、平成23年6月30日に至って、厚生労働大臣に対し、生涯年金の裁定の請求をするとともに、年金請求書を提出。

厚生労働大臣は、同年8月、原告に対し、
受給権を取得した年月を昭和45年6月、障害等級を2級とする障害年金の裁定をしたが、
同年7月分から平成18年3月分までの障害年金は時効により消滅しているとして支給せず、同年4月分(その支給期は同年6月)以降の障害年金のみ支給。
←障害年金の支分権の消滅時効(5年)は、裁定を受ける前であっても、その本来の支払期(厚年法36条)から進行するとの見解(支払期説)。

Xは、障害年金の支分権の消滅時効はその裁定を受けた時から進行する(裁定時説)と主張して、支給されなかった障害年金の支払を求める本件訴えを提起。
 
<判断>
支払期説によるべきことを判示。 
 
<解説>
●根拠となる法令
厚生年金保険の保険給付及び国民年金の給付に係る時効の特例等に関する法律(年金時効特例法)による改正前の
厚年法92条1項:
「保険給付を受ける権利」について5年の消滅時効を規定。

基本権(年金の支給の根拠となる権利)についての規定であるとされ、支分権(基本権から派生する、各月分の年金の支給を受ける権利)については同項の規定はなく、国に対する金銭的債権についての一般法である会計法30条により5年で時効消滅。

年金時効特例法による改正
⇒厚年法92条1項に括弧書が加えられ、支分権についての消滅時効も同項を根拠とすることが明らかに。
but
この規定は、施行日(平成19年7月6日)後に年金を受ける権利を取得したものについて適用⇒Xの障害年金の支分権の消滅時効については従前どおり会計法に従う。
その起算点は、同法31条2項、民法166条1項により「権利を行使することができる時」となり、本件ではこの解釈が問題
 
●消滅時効の起算点に関する一般論 
民法166条1項の「権利を行使することができる時」とは、
権利の行使に法律上の障害(履行期限、停止条件等)がなくなったときを意味(最高裁昭和49.12.20)。
法律上の障害であっても、債権者の意思により除去可能なものであれば、消滅時効の進行を妨げるものではない
 
●支分権の消滅時効の起算点 
基本権は、厚年法所定の支給要件に該当したときに、支分権は各月の到来によりそれぞれ発生。
年金は、厚年法36条3項により、毎年偶数月にそれぞれ前月までの分を支払うこととされている⇒支分権については、原則として各支払期の翌日が消滅時効の起算点となる。

×A:裁定時説(裁定を受けるまで時効は進行しない。)

①支分権たる受給権を行使するためには裁定を受けることが必要
②受給権者が裁定請求をしても、裁定という行政庁の判定が介在して初めて年金の支給が受けられる⇒この法律上の障害は、受給権者の意思により除去可能なものであるとはいえない。

〇B:支払時説

裁定について定めた厚年法33条は、保険給付を受ける権利はその権利を有する者(受給権者)の請求に基づいて裁定するとしており、これは、基本権たる受給権が裁定によって初めて発生するのではなく、法定の要件(同法47条など)を満たすことによって、裁定がされる以前から法律上当然に発生していることを前提としているものと考えられ、裁定は、受給権の発生の有無やその内容を公的に確認する行為にすぎない

障害年金の受給要件や給付金額については厚年法により明確に定められており、これらの判断について行政庁に裁量はないと解される⇒受給権者は、裁定の請求をしさえすれば、同法の定めるところに従った内容の裁定を受けて支分権を行使することができる裁定を受けていないことは、受給権者の意思によって除去することができる障害又はこれと同視し得るものであると評価できる。

判例時報2360

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2018年4月11日 (水)

村議会議員に対する地方自治法92条の2に該当する旨の資格決定処分についての執行停止の申立て(肯定)

札幌高裁H29.5.29      
 
<事案>
北海道の留寿都村の村議会議員であったYが、同議会による、平成28年7月14日付けでなされた地方自治法92条の2に該当する旨の資格停止処分には、同条の法令解釈を誤った違法があると主張して、同処分の取消しを求める訴えを提起するとともに、本件訴訟を本案として、本件処分の効力の停止を求めた。
 
<判断>
本件処分の効力を本案事件に関する第一審判決の言渡し後30日を経過するまで停止するのが相当である。

地方議会議員であれば、原決定が認定する重大な損害を被るのが通常であるというべき⇒Yについて重大な損害を被ることのない特別の事情がない限り、「重大な損害を避けるため緊急の必要性がある」ということができる。
Yが「次の選挙まで復職するつもりはない」と言ったとしても、前記の特別の事情があるとはいえない。
②Yの失職による議員の補欠選挙の実施の可否及び選挙の効力等について、村中に大きな混乱が生じたものとは認められない。
Yの業務が議員としての職務執行の公正、適正を損なうおそれが類型的に高いということはできず、「本案について理由がないとみえるとき」に当たらない
 
<規定>
地方自治法 第92条の2〔関係諸企業への関与禁止〕 
普通地方公共団体の議会の議員は、当該普通地方公共団体に対し請負をする者及びその支配人又は主として同一の行為をする法人の無限責任社員、取締役、執行役若しくは監査役若しくはこれらに準ずべき者、支配人及び清算人たることができない。

行訴法 第25条(執行停止)
処分の取消しの訴えの提起は、処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない。
2 処分の取消しの訴えの提起があつた場合において、処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるときは、裁判所は、申立てにより、決定をもつて、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止(以下「執行停止」という。)をすることができる。ただし、処分の効力の停止は、処分の執行又は手続の続行の停止によつて目的を達することができる場合には、することができない。
 
<解説>
行訴法25条1項は、業絵師処分の取消しの訴えの提起について、いわゆる執行不停止の原則を定めているが、同条2項は、処分等により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるときは、裁判所は、申立てにより決定をもって、処分の効力等の停止をすることができると定める。

「重大な損害」とは、原状回復不能又は困難な損害もしくは社会通念上金銭賠償で受忍することの不能又は困難な、積極的、消極的損害をいうと解されている。

判例時報2359

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2018年4月10日 (火)

工業用水道の使用を廃止した者が納付しなければならないとされる負担金の地方自治法224条、228条1項にいう「分担金」該当性(否定)

最高裁H29.9.14      
 
<事案>
大阪府が営む工業用水道事業に係る条例に基づき、府との間で給水契約を締結して工業用水道を使用していたYが、その使用を廃止⇒府から前記事業を承継した一部事務組合であるXが、前記給水契約に基づき、Yに対し、前記条例において工業用水道の使用を廃止した者が納付すべきこととされる負担金の支払を求める事案。

Yは、昭和53年、大阪府工業用水道事業供給条例に基づき、府との間で給水契約を締結し、以後、同契約に基づき工業用水道を使用してきた。

平成21年の本件条例の改正により、2部料金制が導入されるとともに、使用者の希望により契約水量を減ずること等が認められることとなる⇒使用者は、契約水量の減量や工業用水道の使用の廃止等に当たり、負担金を納付しなければならない旨の規定が設けられた。

Yは、平成23年1月、府に対し、工業用水道使用廃止届を提出⇒府は、Yに対し、本件廃止負担金の額を1308万2795円とすること等を通知。
 
<一審での争点>
①Yに本件規定が適用されるか
②本件規定が工業用水道事業法17条に違反するか
③本件規定の適用が信義則違反若しくは権利の濫用に当たるか 
 
<一審>
争点①について、
府とYとの間には、給水契約締結の際、その後本件条例及び本件規程によって定められる供給規程が変更された場合には、当該変更が違法無効であるなどの事情のない限り、給水契約の内容も同様に変更される旨の黙示の合意があった。
その余の争点についてもYの主張を排斥
⇒Xの請求を遅延損害金の一部を除き認容。 
 
<争点追加>
前記争点①②③に加え、
本件廃止負担金が地方自治法224条、228条1項の分担金に当たるか、また、分担金に当たる場合、本件廃止負担金に関する事項が条例で定められているといえるかが新たに争点。 
 
<原審>
①本件廃止負担金は分担金に当たる
②本件規定は、本件廃止負担金の額について、具体的な額はもとより基本的な算定方法さえも定めていない
⇒本件廃止負担金に関する事項が条例で定められているとはいえない
⇒Xの請求を棄却
 
<判断>
本件廃止負担金の目的やその額の算定方法
本件廃止負担金は分担金に当たらず、これに関する事項について条例で定めなければならないものではない
⇒原判決を破棄して、原審に差し戻し。 
 
<規定>
地方自治法 第224条(分担金)
普通地方公共団体は、政令で定める場合を除くほか、数人又は普通地方公共団体の一部に対し利益のある事件に関し、その必要な費用に充てるため、当該事件により特に利益を受ける者から、その受益の限度において、分担金を徴収することができる。

地方自治法 第228条(分担金等に関する規制及び罰則)
分担金、使用料、加入金及び手数料に関する事項については、条例でこれを定めなければならない。この場合において、手数料について全国的に統一して定めることが特に必要と認められるものとして政令で定める事務(以下本項において「標準事務」という。)について手数料を徴収する場合においては、当該標準事務に係る事務のうち政令で定めるものにつき、政令で定める金額の手数料を徴収することを標準として条例を定めなければならない。
 
<解説>
●「分担金」の意義
普通地方公共団体の事業等は、通常はその全体に一般的な利益をもたらすもの⇒法224条は、これが一部の者又は地域に特別な利益をもたらす場合には、特に利益を受ける者から、その受益を理由として、当該受益の限度において、当該事業等の費用の一部に充てるために分担金を徴収することができることとし、受益しない者との関係で負担の公平や一般財源の持ち出しの抑制等を図ることとしたもの。
 
●分担金条例主義(法228条1項) 

分担金を課するかどうか、課する場合にその範囲や徴収方法(金額等)をどのように定めるかについて民主的な統制を及ぼすことにより、分担金を課される者の利益を保護するとともに、
本来徴収してしかるべき分担金を徴収しないといった恣意的な運用により地方公共団体に不利益が生じることを防ぎ、
もって住民の平等な利益享受を実現。
 
本件廃止負担金は、工業用水道の使用を廃止した者が、府の工業用水道事業やその設置する水道施設等からもたらされる利益を特に享受することを利用として、その受益の限度において徴収される性質のものだえるということは困難であり、住民の平等な利益享受の実現という分担金条例主義の趣旨が当てはまる場面であるとも言い難い。 

判例時報2359

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2018年4月 4日 (水)

伊方原発3号炉運転差止仮処分命令申立訴訟広島高裁決定

広島高裁H29.12.13    
 
<事案>
広島市及び松山市に居住するXらが、四国電力(Y)が設置した発電用原子炉施設である伊方発電所3号炉(「本件原子炉」)及びその附属施設は、地震、火山の噴火、津波等に対する安全性が十分でない⇒これらに起因する過酷事故が生じる可能性が高く、そのような事故が起これば、外部に大量の放射性物質が放出されてXらの生命、身体、精神及び生活の平穏等に重大・深刻な被害が発生するおそれがある。
⇒Yに対して、人格権の妨害予防請求権に基づいて、本件原子炉の運転j差止めの仮処分を求めた事案。 
 
<原審>
Xらの仮処分命令申立てをいずれも却下。 
 
<判断>
①火山事象の影響による原子炉施設の危険性の評価について、本件原子炉施設が改正原子炉等規正法に基づく新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断は不合理
相手方電力会社において本件原子炉施設の運転等により申立人らがその生命、身体に直接的かつ重大な被害を受ける具体的危険が存在しないとの主張、疎明を尽くしたとは認められない

仮処分申立てを却下した原決定を取り消し本件原子炉の運転停止を命じた。 

保全の必要性の判断において、係属中の本案訴訟において証拠調べの結果異なる判断がなされる可能性もある等⇒相手方に原子炉の運転停止を命じる期間に限定を付した。
 
<判断・検討>   
●本件についての司法審査のあり方に関する判断 
◎ 人格権に基づく妨害予防請求権として発電用原子炉の差止めを求める仮処分を申し立てた場合、
申立人は、被保全権利として、
「当該発電用原子炉施設が客観的にみて安全性に欠けるところがあり、その運転等によって放射性物質が周辺環境に放出され、その放射線被曝によりその生命、身体に直接的かた重大な被害を受ける具体的危険が存在すること」(「具体的危険の存在」)について主張疎明責任を負う。

①改正原子炉等規制法は4号要件の存否につき原子力規制委員会の審査を経ることとしている⇒発電用原子炉を設置する事業者は、原子炉施設に関する同審査を経ることを義務付けられた者としてその安全性について十分な知見を有しているはず。
②原発事故の特性。

申立人が当該発電用原子炉施設の安全性欠如に起因して生じる事故によってその生命、身体に直接的かつ重大な被害を受けるものと想定される地域に居住する者である場合には、
設置運転の主体である相手方事業者の側において、まず
「当該発電用原子炉施設の設置運転によって放射性物質が周辺環境に放出され、その放射線被曝により当該施設の周辺に居住等する者がその生命、身体に直接的かつ重大な被害を受ける具体的危険が存在しないこと」(「具体的危険の不存在①」)について相当の根拠資料に基づき主張疎明をする必要があり、
相手方事業者がこの主張疎明を尽くさない場合には、具体的危険の存在が事実上推定される。

原子力規制委員会の審査は、多方面にわたる極めて高度な最新の科学的、専門技術的知見に基づく総合的判断が必要とされている

相手方事業者は、その設置運転する発電用原子炉施設が原子炉等規正法に基づく設置(変更)許可を通じて原子力規制委員会において用いられている具体的な審査基準に適合する旨の判断が同委員会により示されている場合には、
具体的危険の不存在①の主張疎明に代え
「当該具体的審査基準に不合理な点のないこと及び当該発電用原子炉施設が当該具体的審査基準委適合するとした原子力規制委員会の判断に不合理な点がないことないしその調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤欠落がないこと」(「規準の合理性及び基準適合判断の合理性」)を相当の根拠資料に基づき主張疎明すれば足りる。

相手方事業者が規準の合理性及び基準適合判断の合理性について自ら必要な主張疎明を尽くさず、又は申立人による相手方事業者の前記主張疎明を妨げる主張疎明(反証)の結果として基準の合理性及び基準適合判断の合理性の主張疎明が尽くされない
「基準の不合理性又は基準適合判断の不合理性」が事実上推定される。
そして、この場合、相手方事業者は、それにもかかわらず、当該発電用原子炉施設の運転等によって放射性物質が周辺環境に放出され、その放射線被曝により当該申立人の生命、身体に直接かつ重大な被害を受ける具体的危険が存在しないこと(「具体的危険の不存在②」)を主張疎明しなければならない。
 
◎Xらは、本件原子炉施設の安全性欠如に起因して生じる事故(放射性物質の放出)によって、その生命、身体に直接的かつ重大な被害を受けるものと想定される地域に居住。
Yは、原子炉規制委員会から本件原子炉施設につき平成27年7月15日に設置(変更)許可を受けている⇒具体的危険の不存在①の主張疎明に代え、基準の合理性及び基準適合判断の合理性の主張疎明をすることができ、実際にも同主張疎明を行っている。

Xらの反証を考慮に入れた上で、Yが規準の合理性及び基準適合判断の合理性の主張疎明に奏功したといえるか否か、
Yがこの点の主張疎明に失敗した場合に具体的危険の不存在の主張疎明に奏功しているか否かについて判断。

本件の争点は本件原子炉の運転によりXらの生命、身体等の人格権が侵害される具体的危険があるかどうか。
その危険あり⇒Yが本件j原子炉の運転を継続することは違法であって、原子力発電の必要性や公共性が高いことを理由として、本件原子炉の運転を継続することは許されない。
 
●本件原子炉の運転によりXらの生命、身体等の人格権が侵害される具体的危険の存否についての判断 

◎本件原子炉施設の設置(変更)許可に際しての具体的審査基準である新規規制基準については、手続上も実体上も、その合理性を失わせる瑕疵は見当たらない。
  本件原子炉施設が新規性基準に適合するとした原子力規制委員会の判断に不合理な点がなかった否か、並びにその調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤欠落がなかったか否かの点につき・・・については、新規制基準の定め(これを具体化した地震ガイド、津波ガイドを含む。)は合理的であり、新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断も合理的。

◎but
以下の通り判断し、Xらの主張のうち火山事象の影響による危険性に関する新規制基準及びそれに基づく原子力規制委員会の判断は不合理であり、Yにおいて具体的危険の不存在の主張、疎明を尽くしたとは認められない。 

火山ガイドは、安全施設は、想定される自然現象(火山の影響を含む。)が発生した場合においても安全機能を損なわないものでなければならない(設置許可基準6条1項)等の新規制基準を受け、
「火山の影響」について、原子力発電所への火山影響を適切に評価するため、
完新世(約1万年前まで)に活動した火山を将来の活動可能性を否定できない火山とし、
これを前提として、「立地評価」と「影響評価」の二段階で評価することとしている。

立地評価:主として火山活動の将来の活動可能性を検討しながら、設計対応不可能な火山事象(火砕物密度流、溶岩流、岩屑なだれ、地滑り及び斜面崩壊、新しい火口の開口並びに地殻変動)が原子力発電所の運用期間中にその敷地に到達する可能性を評価することで、原子力発電所の立地として不適切なものを排除するもの。

影響評価:立地評価の結果、立地が不適とされない敷地について、設計対応可能な火山事象(降下火砕物、火山性土石流、火山泥流及び洪水、火山から発生する飛来物(噴石)、火山ガス、津波及び静振、大気現象、火山性地震とこれに関連する事象並びに熱水系及び地下水の異常)に対する施設や設備の安全機能の確保を評価するもの。

このような新規制基準の内容は国際基準とも合致しており、合理性を肯定することができる。
Yは、新規制基準に従い、本件発電所から半径160kmの範囲の領域(「地理的領域」)にあり、本件発電所に影響を及ぼし得る火山として、鶴見岳、由布岳、九重山、阿蘇(本件発電所の敷地殿距離130km)、阿武火山群、姫島、高平火山群を抽出しているが、その抽出の過程には格別不合理な点は見当たらない。

火山ガイドは、抽出された検討対象火山について、
①将来の活動可能性を評価する際に用いた調査結果と必要に応じて実施する②地球物理学的及び③地球化学的調査の結果を基に、原子力発電所の運用期間(原則として40年)中における検討対象火山の活動可能性を総合的に評価し、当該火山の活動の可能性が十分小さいかどうかを判断すべきものとしている。
but
現時点の火山学の知見を前提とした場合に、前記①ないし③の調査によりそのような判断ができると認めるに足りる証拠はない。
本件では、検討対象火山の活動の可能性が十分小さいと判断できない

火山ガイドに従い、次に、火山活動の規模と設計対応不可能な火山事象の本件発電所の敷地への到達可能性を評価

検討対象火山の調査結果からは原子力発電所運転期間中に発生する噴火規模もまた推定することはできない⇒検討対象火山の過去最大の噴火規模(本件では阿蘇4噴火)を想定し、これにより設定対応不可能な火山事象が原子力発電所に到達する可能性が十分小さいかどうかを検討する必要。
Yは、
①本件発電所敷地の位置する佐田岬半島において阿蘇4火砕流堆積物を確認したとの報告がない
②敷地周辺における地表調査、ボーリング調査等において阿蘇4火砕流大切物は確認されない
③解析ソフトによるシミュレーション結果等
⇒阿蘇4火砕流は敷地まで達していないと判断。
but
火山ガイドにおいて160kmの範囲が地理的領域とされるのは、国内最大規模の噴火である阿蘇4噴火において火砕物密度流が到達した距離が160kmであると考えられているため⇒阿蘇から130kmの距離にある本件敷地に火砕流が到達する可能性が十分小さいと評価するためには、相当程度に確かな疎明が必要
but
Y主張の根拠からは、本件敷地に火砕流が到達しないと判断することはできない。

「設計対応不可能な火山事象が原子力発電所運用期間中に影響を及ぼす可能性が十分小さいと評価されない火山がある場合」
に当たり
、原子力発電所の立地は不適⇒当該施設に原子力発電所を立地することは認められない(火山ガイド)。
 
原決定(及び原決定が引用する福岡高裁宮崎支部H28.4.6):
過去の最大規模の噴火がいわゆる破局噴火であってこれにより火砕物密度流等の設計対応不可能な火山事象が当該発電用原子炉施設に到達したと考えられる火山が当該原子炉施設の地理的領域に存在する場合であっても、当該原子炉施設の運用期間中にそのような噴火が発生する可能性が相応の根拠を持って示されない限り、立地不適としなくても、原子炉等規正法、設置認可基準規則6条1項の趣旨に反しないと判示
but
原子力規制委員会が行う安全性審査の基礎となる基準の策定及びその基準への適合性の審査においては、原子力工学はもとより多方面にわたる極めて高度な最新の科学的、専門技術的知見に基づく総合的判断が必要4号要件が審査基準を原子力規制委員会規則で定めることとしているのは、同号の基準の作成について、原子力利用における安全の確保に関する科学的、専門技術的知見に基づく合理的な判断に委ねる趣旨

当該裁判所の考える前記社会通念に関する評価と火山ガイドの立地評価の方法・考え方の一部との間に乖離があることをもって、火山ガイドが考慮すべきと定めた自然災害について原決定判示のような限定解釈をして判断基準の枠組みを変更することは、原子炉等規制法及び設置許可基準規則6条1項の趣旨に反し許されない。
 
◎⇒
立地評価についてYによる基準適合判断の合理性の疎明がされたということはできない⇒原子力規制委員会の基準適合判断の不合理性が事実上推定
but
本件前疎明資料によっても、Yによる具体的危険の不存在②の主張疎明がなされたとは認め難い。

被保全権利の疎明がされた
 
●保全の必要性についての判断 
本件原子炉は稼働中⇒保全の必要性が認められる。
but
係属中の本案訴訟において、証拠調べの結果、本案裁判所が異なる判断をする可能性もある事等⇒Yに対し運転停止を命じる期間は、平成30年9月30日までと定めるのが相当。

判例時報2357・2358

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2018年4月 3日 (火)

公選法204条の選挙無効訴訟において選挙人が選挙無効の原因として被選挙権の年齢制限規定の意見を主張できるか?(否定)

最高裁H29.10.31      
 
<事案>
平成28年7月10日に施行された参議院議員通常選挙の選挙人であるXが、
①参議院議員の被選挙権を有する日本国民を年齢満30年以上のものとしている公選法10条1項2号の規定(「本件規定」)が憲法14条1項等に違反する、
②本件選挙当時の公選法14条、別表第3の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定が憲法14条1項等に違反する
⇒Y(東京都選挙管理委員会)を相手に、本件選挙における東京都選挙区選出議員選挙を無効とすることを求めて提起した選挙無効訴訟。
 
<争点>
①公選法204条の選挙無効訴訟において選挙人が同法205条1項所定の選挙無効の原因として本件規定の意見を主張することの可否
②本件規定の憲法適合性
③本件定数配分規定の憲法適合性
 
<判断>
公選法204条の選挙無効訴訟において、選挙人は、同法205条1項所定の選挙無効の原因として本件規定の違憲を主張することはできない。 
最大判H29.9.27を引用し、本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は、違憲の問題が生ずる著しい不平等状態にあったものとはいえず、本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできない。
 
<規定>
行訴法 第5条(民衆訴訟)
この法律において「民衆訴訟」とは、国又は公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で、選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起するものをいう。
 
行訴法 第42条(訴えの提起) 
民衆訴訟及び機関訴訟は、法律に定める場合において、法律に定める者に限り、提起することができる。

公選法 第204条(衆議院議員又は参議院議員の選挙の効力に関する訴訟)
衆議院議員又は参議院議員の選挙において、その選挙の効力に関し異議がある選挙人又は公職の候補者(衆議院小選挙区選出議員の選挙にあつては候補者又は候補者届出政党、衆議院比例代表選出議員の選挙にあつては衆議院名簿届出政党等、参議院比例代表選出議員の選挙にあつては参議院名簿届出政党等又は参議院名簿登載者)は、衆議院(小選挙区選出)議員又は参議院(選挙区選出)議員の選挙にあつては当該都道府県の選挙管理委員会を、衆議院(比例代表選出)議員又は参議院(比例代表選出)議員の選挙にあつては中央選挙管理会を被告とし、当該選挙の日から三十日以内に、高等裁判所に訴訟を提起することができる。

公選法 第205条(選挙の無効の決定、裁決又は判決)
選挙の効力に関し異議の申出、審査の申立て又は訴訟の提起があつた場合において、選挙の規定に違反することがあるときは選挙の結果に異動を及ぼす虞がある場合に限り、当該選挙管理委員会又は裁判所は、その選挙の全部又は一部の無効を決定し、裁決し又は判決しなければならない。
 
<解説> 
●公選法204条の選挙無効訴訟は、民衆訴訟(行訴法5条)であり、裁判所法3条1項の「法律上の争訟」ではなく、同項の「その他法律において特に定める権限」に含まれるものとして、「法律に定める場合において、法律に定める者に限り、提起することができる」ものである(行訴法42条)。
このような民衆訴訟である選挙無効訴訟につき、公選法204条は、「選挙人又は公職の候補者」のみがこれを提起し得るものと定め、同法205条1項は、同訴訟において主張し得る選挙無効の原因を「選挙の規定に違反することがあるとき」と規定。
 
公選法205条1項にいう「選挙の規定に違反することがあるとき」の意義については、主として選挙管理の任にある機関が選挙の管理執行の手続に関する明文の規定に違反することがあるとき又は直接そのような明文の規定は存在しないが選挙の基本理念である選挙の自由公正の原則が著しく阻害されるときを指すものと解されている(最高裁昭和27.12.4)。

最高裁H26.7.9:
公選法204条の選挙無効訴訟は、同法において選挙権を有するものとされている選挙人らによる候補者に対する投票の結果としての選挙の効力を選挙人又は候補者が上記のような無効原因の存在を主張して争う争訟方法であり、同法の規定において一定の者につき選挙権を制限していることの憲法適合性については、当該者が自己の選挙権の侵害を理由にその救済を求めて提起する訴訟においてこれを争うことの可否はおくとしても同条の選挙無効訴訟において選挙人らが他者の選挙権の制限に係る当該規定の違憲を主張してこれを争うことは法律上予定されていない

選挙人が公選法204条の選挙無効訴訟において同法205条1項所定の選挙無効の原因として前記各規定の違憲を主張することはできない。

自己の選挙権の制限について主観訴訟で争い得る余地があることを示唆しているのは、最高裁が、公選法205条1項所定の選挙無効の原因に当たるか否かにつき、他に同法の規定の違憲を主張してその是正を求める手段があるか否かという観点をも考慮した上で判断していることを示すもの。
(最高裁昭和51.4.14も、他に是正を求める機会がないこと等を理由として公選法204条に基づくいわゆる定数訴訟の提起を認めている。)
 
●本件規定による被選挙権の制限については、これにより本件選挙に立候補することができなかった満30歳未満の国民が自ら主観訴訟(公法上の法律関係に関する確認の訴え)を提起してこれを争う余地がある。 

判例時報2357・2358

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2018年3月 6日 (火)

じん肺管理区分についての決定の取消訴訟の係属中の死亡と訴訟承継(肯定)

最高裁H29.4.6      
 
<事案>
建物の設備管理等の作業に従事する労働者であった亡Aが、福岡労働局長に対し、じん肺法15条1項に基づいてじん肺管理区分の決定の申請⇒管理1に該当する旨の決定⇒じん肺健康診断の結果によれば管理4に該当するとして、Y(国)を相手に、その取消し等を求めた。 
亡Aが第1審口頭弁論終結後に死亡⇒亡Aの妻子であるXらによる訴訟承継の成否が争点。
 
<原審>
本件決定等の取消しによって回復すべき法律上の利益は、管理2以上のじん肺管理区分の決定を受ける地位であるところ、じん肺法上、じん肺管理区分の決定を受けるという労働者等の地位は、当該労働者等に固有のものであり一審専属的なもの。

本件訴訟は亡Aの死亡により当然に終了。 
   
Xらが上告受理申立て。
 
<判断>
じん肺管理区分が管理1に該当する旨の決定を受けた常時粉じん作業に従事する労働者又は常時粉じん作業に従事する労働者であった者が管理4に該当するとして提起した右決定の取消訴訟の係属中に死亡した場合には、労災法11条1項に規定する者が当該訴訟を承継する。

更に審理を尽くさせるため、原審に差し戻し。
 
<解説>
●取消訴訟の係属中に原告が死亡した場合における訴訟承継の成否
最高裁(昭和42.5.24):
訴訟承継を主張する者が、死亡した原告から、処分の取消しによって回復すべき法律上の利益(原告適格を基礎付ける法律上の利益)を実体法上承継するとみられるかどうかによって判断するとの立場。
 
●じん肺法23条と労災保険法の関係 
じん肺法23条は、「じん肺管理区分が管理4と決定された者・・は、療養を要するものとする」旨を定めているが、これは、その者につき一般的に療養が必要であること及びその者に対する健康管理措置が「療養」であることを明らかにしたものとされている。
同法に「療養」の具体的内容を明らかにした規定が置かれていないのは、「療養」の具体的内容やそのための手続は労基法又は労災法の定めることによるとする趣旨

じん肺法23条の「・・・・は、療養を要するものとする」との文言も、労災法上の災害補償事由として定められた「じん肺症」(労災法12条の8、労基法75条、労基法規則35条、別表第1の2第5号)が「じん肺のうち療養を要するもの」と解されていたことに対応して定められた。

じん肺管理区分決定の要件や判断方法
じん肺管理区分決定における都道府県労働局長の判断は(じん肺にかかるおそれがあると客観的に認められる)粉じん作業に従事した労働者等を対象として、専ら医学技術上の判断に属するじん肺の所見の有無及び進展の程度に関する事実を確認するものであり、労災保険手続において行われる業務起因性の判断と実質的に同一のもの。

じん肺法23条は、都道府県労働局長により管理4と決定された者が、じん肺法上の健康管理措置である「療養」の措置として、労災法上の災害補償事由(じん肺症にかかった者)に該当するものとして、円滑かつ簡便に労災保険給付の支給を受けられることを明らかにしたもの
 
●じん肺法23条の本件通達の関係 
本件通達:
労災保険手続において、管理4と決定された者のじん肺を業務上の疾病として取り扱うものとした上、労災保険給付の請求に当たりじん肺管理区分決定を経ることを原則とし、管理4と決定された者についてはその健康診断を行った日に発病したものとみなして所定の事務を行うものとしている。

じん肺法23条及び労災法等の規定を踏まえ、
じん肺に係る労災保険給付に関する事務において、管理4に該当する旨の決定がある場合には業務上の疾病に当たると認めることとした

管理1に該当する旨の決定を受けた労働者等が当該労災保険給付の請求をした場合には、業務上の疾病に当たるとは認めない扱いとなるものと考えられる。

判例時報2355

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2018年2月 9日 (金)

諫早湾干拓地潮受堤防排水門開放差止請求事件第1審判決

長崎地裁H29.4.17    

<事案>

国営諫早湾土地改良事業において、諫早湾干拓地潮受堤防が設置され、それにより締め切られた奥部を調整池とし、その内部に干拓地が形成された。
Y(国)は当該潮受堤防の北部及び南部に排水門を設置し、その開門権限を有している。
福岡高裁H22.12.6は、Yに対し、判決確定の日から3年を経過する日までに、防災上やむを得ない場合を除き、本件各排水門を開放し、以後5年間にわたって開放を継続することを命じ、同判決は同月21日に確定。

本件:
Xら(諫早湾付近の干拓地を所有又は賃借し農業を営むという者、諫早湾内に漁業権を有する漁業協同組合の組合員として漁業を営むという者及び諫早湾付近に居住する者など)が、Yは本件各排水門を開放し、以後5年間にわたってその開放を継続する義務を負っており、地元関係者の同意と協力なしに開門をする可能性があって、Xらは開門により被害を受けるおそれがあるなどと主張

所有権、賃借権、漁業行使権、人格権又は環境権・自然享有権に基づく妨害予防請求として、Yに対し、
・・・・開門の開門の各差止めを求めた。

 
<Yの主張>
事前対策を実施することによって、本件開門によるXらの被害は回避され、
本件開門によって漁業環境が改善する可能性があり、
開門調査を実施し、調査結果を公表することに公共性ないし公益上の必要性がある。 
 
<判断>
●Yが本件開門をする蓋然性 
ある者に対して一定の作為をしないことを求める給付訴訟においては、その者によって当該「一定の作為」がなされる蓋然性のあることが、訴えの利益として必要
Yがケース1~3開門をする蓋然性はあるが、その余の開門をする蓋然性はない。
 
●ケース3-2開門、ケース1開門およびケース3-1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか

◎ 差止請求を認容すべき違法性があるかを判断するにあたっては、
侵害行為の態様と侵害の程度、
被侵害利益の性質と内容、
侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度
等を比較検討
するほか、
被害の防止に関する措置の有無及びその内容、効果等
の事情を考慮
してこれを決すべき。

前記被侵害利益の性質と内容については、個々のXの被侵害利益を考慮すべきであるが、
多数の当事者の権利について妨害のおそれがあることは、公共性ないし公益上の必要性の程度を減殺する事情として考慮することができる

◎ ケース3-2開門は、本件各排水門の管理水位を維持したまま5年間の比較的長期にわたり、調整値に海水を導入するもの

これにより各X農業者の所有又は賃借に係る農地には塩害、潮風害又は農業用水の一部喪失の発生する高度の蓋然性があり、これらにより農業被害の発生するおそれがある
これらの農業被害は、財産的権利に関するものであるが、各X農業者の生活等の基盤に直接関わるものであり、重大

他方で、ケース3-2開門がなされても、Yが主張する諫早湾及び有明海の漁業環境が改善する可能性及び改善の効果はいずれも高くない

ケース3-2開門による開門調査を実施し、本件事業と漁獲量減少との関連性等の調査結果を公表することには一定の公共性ないし公益上の必要性はあるが、解明の見込みは不明である上、ケース3-2開門がなされた場合に、多数のXが土地所有権ないし賃借権の行使として営む農業に前記被害を受けるおそれが生じる
ケース3-2開門の公共性ないし公益上の必要性は相当減殺される

Yの予定する事前対策は、その実効性に疑問があり、これによって、Xらの妨害のおそれは否定されない

ケース3-2開門によって侵害を受けるおそれのある各Xの被侵害利益ケース3-2開門の公共性ないし公益上の必要性とを比較し、各事情を総合的に考慮すれば、ケース3-2開門については、差止請求を認容すべき違法性がある
同様に、ケース1開門、ケース3-1開門についても、差止請求を認容すべき違法性がある。

●ケース2開門について 
ケース2開門は、5年間の開門をするものであり、
第1段階としてケース3-2開門を行い、
第2段階としてケース3-1開門を行い、
第3段階としてケース1開門を行うという開門方法。

ケース2開門の差止めを求める訴えは、訴えの利益を欠き、不適法⇒却下。

判例時報2353

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2018年2月 1日 (木)

分担金を定めた条例の規定の適法性(適法)

津地裁H29.6.22      
 
<事案>
地方公共団体の実施する下水道整備事業に伴う分担金の負担について、その適法性が争われた事案。

Y(三重県名張市)においては、市全域下水道化基本構想の下に、住宅団地の下水道整備を進め、住宅団地の合併浄化槽及び汚水処理施設をYが公共管理することが構想。
Yは、同構想のもと、Xらの居住する区域においては、新設する汚水処理施設に接続することを前提に、既存の汚水処理施設(「本件処理施設」)を公共管理に移管し、本件処理施設を耐用年数が過ぎた後に撤去するという事業(「本件事業」)を実施することにし、地自法224条、228条1項に基づき名張市住宅地汚水処理施設分担金条例(「本件条例」)を定め、同条例に基づき、同事業の分担金を同区域の住民に賦課。

Xらは、同分担金の賦課決定を受けたため、本件各処分が違法であると主張して、その取消しを求めた。
 
<争点>
本件各処分が分担金(=地方公共団体が行う特定の事件に要する経費に充てるため、その事件に特別の関係のある者に対して課する金銭)について定めた地自法224条に違反するか否か。 
 
<規定>
地自法 第224条(分担金)
普通地方公共団体は、政令で定める場合を除くほか、数人又は普通地方公共団体の一部に対し利益のある事件に関し、その必要な費用に充てるため、当該事件により特に利益を受ける者から、その受益の限度において、分担金を徴収することができる。
 
<判断>
●地自法224条に反して違法であるとは認められない⇒請求棄却。

●地自法224条の解釈 
同条の「利益」とは、必ずしも金銭に見積もり得る経済的利益に限らず、当該事業により生じる利便性や快適性といった生活上の利益を含む

分担金が同条の「受益の限度」を越えないものか否かは、事業の性質、必要性、事業費、受益の性質及び程度等を考慮して衡平の観点から社会通念に基づき判断されるべきであり、
受益の限度を越えない範囲について、どのような算定方法を採るかは、普通地方公共団体の合理的な裁量に委ねられている


①本件事業は、Xらが居住する区域の住民が、安定的に下水道サービスを受ける上で、重要な施策であって、合理性を有するもので、Xらは、本件事業により、他の住民ないし土地所有者には利益のない本件処理施設による汚水処理の利便性の向上及び資産価値の増加といった「利益」を受ける
②本件事業に係る分担金も事業費総額の約5.8%に止まるものであり、その割合がXら住民にとって課題な負担とまではいえず分担金の算定方法に関しても、Yに認められた合理的裁量の範囲を逸脱するものではない

事業の必要性、受益の重要性及び分担金が合理的に算定されていることを総合すると、本件条例による分担金の定めは、地自法224条に反して違法であるとは認められない。 
 
<解説>
①特定の事件に関し特に利益を受けるものから徴収される者である点、
②報償的性格を有する点
③一般収入ではなく当該事件の費用に充てるため徴収される点
等で分担金と税は異なる。 

公共下水道事業のように、市町村が、都道府県知事の認可を受けて施行する事業(都市計画法59条1項)においては、同法75条1項が、都市計画事業によって著しく利益を受ける者がある場合における受益者負担金について規定。
but
本件事業は、都道府県知事の認可を受けて施行された事業ではなかった⇒地自法224条に基づいて実施。

判例時報2352

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2018年1月31日 (水)

教員採用処分の取消処分の有効性が問題となった事案

①福岡高裁H29.6.5
②福岡高裁H28.9.5         
 
①事件
<事案>
Xが、平成20年度大分県公立学校教員採用選考試験に合格し、同年4月1日付けで県教委から小学校教員に任命(本件採用処分)⇒前記試験のXの成績に不正な加点操作があったとして本件採用処分の取消処分

Xが、大分県に対し、
本件取消処分の取消しを求めるとともに、
国賠法1条1項に基づき、違法な本件取消処分ないし本件採用処分により精神的苦痛を受けた⇒慰謝料700万円及び弁護士費用70万円の合計770万円の損害賠償を求める。 
 
<一審>
本件採用処分は裁量権を逸脱し又は濫用したものとして違法であり、
本件採用処分を維持する公益上の不利益は、本件取消処分によってXが被る不利益よりさらに重大で公共の福祉の観点に照らし著しく相当性を欠く

本件取消処分の取消請求を棄却。 

本件採用処分は違法な行政処分
国賠法に基づいて、大分県に慰謝料350万円、弁護士費用50万円の合計400万円の損害賠償をXに支払うよう命じた
 
<判断>
一審を維持。 
 
<解説> 
●行政処分の職権取消しの可否及び要件 
行政処分の職権取消しについての総則的規定は存在しない。
but
法律による行政の原理等を理由にこれを認めるのが一般。

要件について、特に授益的行政処分では、
A:違法又は不当を要件とするもの
B:違法に限定するもの
C:取消制限の利益衡量とともに判断するもの

最高裁H28.12.20:
行政処分の職権取消しの適否についての審理判断は、原処分が違法又は不当(違法等)があると認められるか否かの観点から行われるべきである。

判断:
本件採用処分は大幅に改ざんされた点数に基づくもので、改ざんがなければXについての本件採用処分はなかった本件採用処分は事実の基礎を欠く違法なもの
 
授益的行政処分の取消制限 
授益的行政処分については、当該行政処分の相手方の既得の利益や処分の存続及び適法性への信頼の保護等
職権による取消しが制限される場合がある

当該処分の取消しによって生ずる不利益と、
取消しをしないことによって当該行政処分に基づき既に生じた効果をそのまま維持することの不利益
とを比較考量した上、
当該行政処分を放置することが公共の福祉に照らして著しく不当であると認められるときに限り、当該行政処分を取り消すことができる
(最高裁)

判断:
Xの正教員採用への信頼と期待の侵害等は軽視し難い(ただし、Xが正教員の地位を保持する正当な利益は認められない。)ものの、
大幅な点数の改ざん(特にX所属の勉強会の指導官の口利きが原因)による合格は、公平な教員採用試験の実施についての信頼、教員あるいは公教育自体に対する県民の信頼を失わせる等本件採用処分の維持による公益上の不利益はより重大であって、本件採用処分を維持することは公共の福祉の観点に照らし著しく相当性を欠く

本件取消処分は適法。
 
<②事件>
①事件とほぼ同様の枠組みを採った上で、
採用処分に瑕疵はあるものの、
教員としての地位を失うなどZの社会的・経済的不利益は大きく、
Zが加点操作に何ら関与していないこと

教員採用処分を取り消すことはできない。 
   
①事件②事件とも、いずれも上告 

判例時報2352

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2018年1月11日 (木)

原爆症認定申請に対する却下処分の取消訴訟と国賠請求

名古屋地裁H28.9.14      
 
<事案>
広島市又は長崎市に投下された原子爆弾に被ばくした原告ら(4名)が、原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(被爆者援護法)1条1項に基づいて原爆症認定申請⇒厚生労働大臣がこれらを却下⇒
各却下処分の取消しを求めるとともに、
前記各却下処分は違法であるとして、国賠法1条1項に基づき、慰謝料として300万円の損害賠償等を求めた事案。 
 
<争点>
原告らの各原爆症認定申請に係る各疾病(各申請疾病)が、
被爆者援護法10条1項にいう
「原子爆弾の放射能に起因」するものであるか(放射線起因性)及び
「現に医療を要する状態」にあるか(要医療性) 
 
<判断>   
●放射線起因性

放射線起因性の立証の程度等について、
最高裁H12.7.18を引用し、
高度の蓋然性が必要であるとした上で、

その具体的な判断方法として、
当該被爆者の放射線への被曝の程度と、
統計学的、疫学的知見等に基づく申請疾病等と放射線被曝との関連性の有無及びその程度とを
中心的な考慮要素としつつ、
これに当該疾病等に係る他の原因(危険因子)の有無及び程度等を総合的に考慮して、
原爆放射線の被曝の事実が当該申請に係る疾病若しくは負傷又は治癒能力の低下を将来した関係を是認し得る高度の蓋然性が認められるか否かを経験則に照らして判断するのが相当。

その上で、原告らの各申請疾病について、いずれもその放射線起因性を肯定。
 
●要医療性 

①被爆者援護法7条に規定する健康診断において、視診等の検査や、血液検査、エックス線検査等の各種検査を行うことが可能(同法施行規則9条)であるところ、
これらは、同法10条2項にいう「診察」ないし「医学的処置」というべきであるにもかかわらず、同法において、これらは「医療」(同法第3章3節)とは区別された「健康管理」(同章第2節)として揚げられている
②「負傷し、又は疾病にかかり、現に医療を要する状態にある」(同法10条1項)という文言の自然な意味内容等

被爆者が積極的な治療行為を伴わない定期検査等の経過観察が必要な状態にあるような場合には、同法上、原則として健康管理としての検査等によって対応すべきであって、当該疾病等につき再発や悪化の可能性が高い等の特段の事情がない限り、前記検査等は「医療」には当たらない

X2の肺がん及び乳がんについて:
いずれも、経過観察を受けているにとどまる状態であるところ、その病期がⅠであり、術後相当期間を経過している
再発や悪化の可能性が高い等の特段の事情があるとまでは認められない
要医療性を認められない

X3の慢性甲状腺炎:
①積極的な治療行為を伴わない経過観察がされていたにとどまり、当該疾病につき悪化の可能性が高い等の特段の事情があったとは認められない、
②1年に1回程度の定期検査により経過観察を行うことで足りる⇒被曝者援護法条の健康管理としての検査等によってX3の病状に対応することができないとみるべき事情は存在しない。
要医療性は認められない。 
 
●原告らの国家賠償請求について:
厚生労働大臣は原爆症認定請求につき疾病・障害認定審査会の意見を聴いた上で前記各処分をしており、同意権を尊重すべきでない特段の事情も認められない

厚生労働大臣の前記処分等について国賠法上の違法性は認められず、国賠請求は理由がない。 

判例時報2350

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