行政

2017年10月16日 (月)

老齢厚生年金について厚生年金保険法43条3項の規定による年金の額が改定されるために同項所定の期間を経過した時点での当該年金の受給権者であることの要否(必要)

最高裁H29.4.21       
 
<事案>
Xが、厚生労働大臣から、厚生年金保険法(平成25年法律第63号による改正前のもの)附則8条の規定による老齢厚生年金について、法43条3項の規定による年金の額の改定(「退職改定」)がされないことを前提とする支給決定(「本件処分」)を受けた⇒Y(国)を相手に、その取消しを求めた。 
 
<制度等>
法は、国民年金法等の一部を改正する法律による老齢厚生年金の支給開始年齢の引き上げ⇒65歳以後に所定の要件を満たした者に対して老齢厚生年金を支給するものとし、
その経過措置として、60歳以上65歳未満で所定の要件を満たした者に対しては特別支給の老齢厚生年金を支給することとしている。 

特別支給の老齢厚生年金の受給権者が65歳に達したときは、その受給権(以下「基本権」ともいう。)が消滅し、他方、このうち法42条所定の要件を満たす者については、本来支給の老齢厚生年金の基本権が発生

各老齢厚生年金の額は、大要、所定の額に被保険者期間の月数を乗じて算出された額とされるが、在職中であっても(すなわち、厚生年金保険の被保険者の資格を有していても)所定の要件を満たした者に対して老齢厚生年金が原則として支給される⇒
法43条2項は、受給権者がその権利を取得した月以後における被保険者であった期間はその計算の基礎としない旨を定めている一方、
同条3項は、「被保険者である受給権者がその被保険者の資格を喪失し、かつ、被保険者となることなくして被保険者の資格を喪失した日(「資格喪失日」)から起算して1月(「待機期間」)を経過したとき」との要件の下で、被保険者の資格を喪失した月前における被保険者期間を老齢厚生年金の計算の基礎とするものとし、待期期間を経過した日の属する月から、年金の額を改定する旨を定めている(退職改定)。

<事実と争点>
平成19年9月に社会保険庁長官の最低を受けた特別支給の老齢厚生年金の受給権者であるXは、平成23年8月30日、勤務先を退職し、翌31日、被保険者の資格を喪失したが、1箇月の待期期間を経過する前の同年9月17日に65歳に達して特別支給の老齢厚生年金の最終月分である平成23年9月分につき、そのことを理由として退職改定がされないことを前提とする本件処分をした。

このような場合においても退職改定がされるべきか否かが争われた。
 
<一審・原審>
①法43条3項の「被保険者である受給権者」という文言は、その文理上、第2要件の主語として定められたものとは解せないこと
②退職改定制度の導入経緯や待期期間が設けられた趣旨⇒待期期間の経過時点で受給者である必要性は導かれないこと
③特別支給の老齢厚生年金から本来支給の老齢厚生年金への移行に関する制度設計の解釈や老齢厚生年金と拠出された保険料との対価関係等

退職改定の要件としては待期期間経過時に受給権者であることを要しないと解するのが相当である。

平成23年9月分の特別支給の老齢厚生年金の額については退職改定がされるべきであるから、本件処分は違法であるとして、Xの請求を認容すべきものとした。
 
<判断>
原判決を破棄し、第1審判決を取り消してXの請求を棄却。 
厚生年金保険法附則8条の規定による老齢厚生年金について厚生年金保険法(平成24年法律第63号により改正前のもの)43条3項の規定による年金の額の改定がされるためには、被保険者である当該年金の受給権者が、その被保険者の資格を喪失し、かつ、被保険者となることなくして被保険者の資格を喪失した日から起算して1月を経過した時点においても、当該年金の受給権者であることを要する
 
<解説>   
●本判決は、待期期間経過時に受給権者であることを要する必要説に立つことを明らかにした。 
 
●法43条3項の文言との関係
①法43条3項の要件を定めた部分は、全体として1つの条件を定めたもの(特に、第2要件の「被保険者となることなくして」の主語は、同項の文言からは第1要件の「受給権者」とみるほかない。)
②原判決のように同項の要件部分を「かつ」の前後で分けてよななければならない実質的根拠が見当たらない

同項の文言は必要説を前提としたものと理解するのが相当。
同項が退職改定の対象となる者を「被保険者である受給権者」と定めている
⇒必要説が「文理に沿う解釈」。
 
●必要説を相当とする実質的論拠 
法における基本権及び支分権に関する理解。
基本権は、支給要件に該当したときに発生するが、受給権者の請求に基づく厚生労働大臣の裁定において基本権の要素(年金の種類、基本権の取得日、年金額等)を確認されて初めて年金の支給が可能になるものであり(最高裁H7.11.7)、
他方、支分権は、裁定に係る基本権を前提として、各月の到来によって法律上当然に発生し、以後、基本権とは別個独立に存続すると理解される。
法43条3項の退職改定の効力に関する定め(①「その被保険者の資格を喪失した月前における被保険者期間を老齢厚生年金の額の計算の基礎とするものとし」②「待期期間を経過した日の属する月から、年金の額を改定する」との定め)は、
老齢厚生年金の基本権の基本権に係る年金の額を改定することにより(①)、
支分権の額も(既に発生したものを含めて)当該改定後の基本権を前提としたものに改定すること(②)

としたものと解される

法43条3項は、退職改定がされる待期期間の経過時点においても当該年金の基本権が存することを予定していると考られる。

判例時報2340

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2017年10月15日 (日)

嘉手納基地爆音訴訟第1審判決

那覇地裁沖縄支部H29.2.23     嘉手納基地爆音訴訟第1審判決 
 
<事案>
駐日米軍の嘉手納飛行場(本件飛行場)の周辺住民ら2万2048名が、米軍航空機の騒音によって各種の被害を受けていると主張⇒日本国に対し、騒音の差止め及び損害賠償を求める訴え。 
 
<判断・解説>
●騒音の差止請求棄却。 
国が日米安保条約に基づき米国に対し同国軍隊の使用する施設及び区域として飛行場を提供している場合において、国に対して右軍隊の使用する航空機の離発着等の差止めを請求することができない(厚木基地騒音上告審判決、最高裁H5.2.25)

本判決:
国は、日米安保条約及び日米地位協定上本件飛行場における米軍の航空機の運航等を規制し、制限することのできる立場にはない
⇒本件差止請求は、被告に対してその支配の及ばない第三者の行為の差止めを請求するもの⇒国に値する航空機騒音の差止め請求を棄却
 
●口頭弁論終結の日の翌日以降の将来分の損害の賠償請求に係る訴えを却下 
航空機の騒音等による損害の賠償請求権のうち事実審の口頭弁論終結の日の翌日以降の分については、大阪国政空港訴訟上告審判決(最高裁昭和56.12.16)が将来の給付の訴えを提起することのできる請求権としての適格を有しないと判断。
本判決も同旨。
 
●過去分の損害賠償請求 
過去分の損害賠償請求につきいわゆる受忍限度論を採用した上、生活環境整備法において区域指定に用いられるW値で75以上の区域に居住している期間について、原告らが社会生活上受忍すべき限度を超える違法な権利侵害ないし法益侵害を被っている。

原告らのいわゆる民特法に基づく損害賠償請求を一部認容。
損害賠償額については、
生活環境整備法に基づいて作成されている騒音コンター図(5W値ごとに同一のW値を結んで作成されたコンター図)を用いて、
W75以上80未満の区域に居住する期間は、1か月7000円
W80以上85未満⇒1か月1万3000円
W85以上90未満⇒1か月1万9000円
W90以上95未満⇒1か月2万5000円
W95以上⇒1か月3万5000円
を基本となる慰謝料額。

但し、生活環境整備法に基づき住宅防音工事がされている場合には、施工室数に応じて、慰謝料額は減額
~慰謝料として高額。

本件飛行場における航空機の運航等から生じる騒音によって周辺住民らに受忍限度を超える違法な被害が生じていることを認定し、
国に損害賠償を命じた第一次訴訟の判決が確定した平成10年から既に18年以上、第二次訴訟の判決が確定した平成23年1月からは既に4年以上が経過しているものの、米国又は国による被害防止対策に特段の変化は見られず周辺住民に生じている違法な被害が漫然と放置されていると評価されてもやむを得ない

判例時報2340

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2017年10月11日 (水)

元市長に対する退職手当返納命令の事案

大阪地裁H28.11.2      
 
<事案>
4期12年4か月にわたってY(枚方市)の市長を務めたXが、現職警察官、ゼネコン担当者らと共謀の上、清掃工場建設工事の入札において談合を行った⇒談合罪で懲役1年6月(執行猶予3年)に処せられ、同判決が確定
⇒処分行政庁であるY市長から、市職員の退職手当に関する条例、市長等の退職手当に関する条例に基づき、2期目及び3期目に係る退職手当の返納命令を受けた⇒その取消しを求めた。
(4期目に係る退職手当については、Xが起訴後に辞職願を提出したことを受け、起訴後判決確定前に退職したときは退職手当を支給しない旨の特別措置条例が制定・施行⇒支給されていない。)

本件市長退職手当条例4条は、
「市長等の退職手当の支給方法については、一般職の職員の例による」旨規定。

本件職員退職手当条例12条の3第1項は、
退職した者に対し、一般の退職手当等を支給した後において、その者が在職期間中の行為に係る刑事事件に関し禁固以上の刑に処せられたときは、任命権者は、その支給をした一般の退職手当等の額のうち次に掲げる額を返納させることができる」旨規定。
 
<Xの主張>
①本件処分の根拠となる条例が存在しない
②本件処分のうち、2期目に関する部分は「在職期間中の行為に関し禁固以上の刑に処せられたとき」という要件を満たさない。
③本件処分は裁量権を逸脱・濫用したものである。
④返納命令の対象となるのは、現実にXに支払われた所得税及び住民税を控除した後の金額に限られる。 
 
<判断>
●主張①について 
本件職員退職手当条例12条の3第1項の文言⇒返納命令の対象となるのは一般の退職手当等に限られ、特別退職手当は対象外。
市長の退職手当は一般の退職手当である。

Xは、
①本件市長退職手当条例4条は、支給に関する規程のみを準用するにとどまり、返納に関する規定を準用していない。
②市長には任命権者が存在しない⇒本件職員退職手当条例12条の3第1項を適用することはできない
と主張。

市長と一般の職員を比較した場合、市長の方がはるかに職責が重く、また、権限も強大であることからすれば、刑事事件で禁固以上の刑に処せられた場合に、一般の職員であれば退職手当の返納が命じられるにもかかわらず、市長であれば退職手当の返納が命じられないというような制度設計をすることは想定し難い

本件職員退職手当条例、本件市長退職手当条例が本件処分の根拠となる条例にあたる
 
●主張②について 
本件退職手当条例12条の3第1項の文言

在職期間中の行為が、刑法あるいは特別刑法等が定める犯罪の構成要件に該当することが必要であり、
共謀共同正犯の場合は、共謀行為あるいは談合行為のいずれかが在職危難中に行われたと認定されることが必要。

Yが指摘するホテルでの会談について、同会談は2期目の在職期間中に行われたものであり、刑事事件の判決においても、共謀を認定する重要な間接事実として認定されているが、
①間接事実は犯罪行為の存在を推認される事実ではあるものの犯罪行為そのものではないこと、
②本件処分が、退職手当の返納という不利益処分であること
⇒その要件については厳格に解する必要がある。

間接事実が行われたことをもって、「在職期間中の行為に関し禁固以上の刑に処せられたとき」という要件を満たすということはできない。
 
●主張③について 
退職手当返納命令は羈束処分ではなく裁量処分。
Xが市長として市政に熱心に取り組み、一定の成果をあげてきたことなど、Xが主張する事情を十分に考慮しても、
①本件で問題となっているのが公務に対する信頼を大きく害する談合という行為であること、
②Xが地方公共団体の長である市長という立場にあったこと

Xの行為は重大な非違行為に当たり、裁量権の逸脱・濫用はない
 
●主張④について 
所得税の源泉徴収及び住民税の特別徴収が徴収納付の租税であり、納税義務者は、過納付があっても、原則として、直接国又は地方公共団体に対して還付を求めることはできない

返納命令の対象となるのは、Yが徴収納付義務者として控除した額を除いた部分に限られる
 
<解説>
公務員の非違行為を行った場合の退職手当の返納命令処分については、
退職手当の性格等を考慮し、
全部不支給を原則、一定の事由がある場合に例外的に一部不支給とした上で、
退職手当管理機関の裁量を認め、
社会通念上著しく妥当性を欠いた場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものして違法とならないものというべきであるとの基準で判断されることが多いと思われ、本判決も同様の基準で判断。 

判例時報2338

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2017年9月26日 (火)

自宅に隣接した場所に折り畳み式ゴミボックスを設置された住民の道路占有許可処分の取消しを求める原告適格(否定)

津地裁H28.12.8      
 
<事案>
自宅に隣接した場所に折り畳み式ゴミボックスを設置された住民が、本件ゴミボックス設置を許可した道路占有許可処分の取消しを求める原告適格があるのか否かが問題となった事案。 
Xが取消の理由としているのは、
①本件ゴミボックスの設置により、Xは交通上の危険にさらされており、安全な交通環境等で生活する利益を侵害された
②Xは自宅敷地の利用を制限され自宅敷地の市場価値も下落する
 
<争点>
Xに本件処分の取消しを求める原告適格があるのか否か 
 
<規定>
行訴法 第9条(原告適格)
処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。
2 裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たつては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たつては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。
 
<判断>
道路法が道路の占有について制限を設けた趣旨及び目的は、道路の構造を保全し、交通の障害を防止することによって、広く一般的公益を保護することにあり、同規定において考慮されている利益は、一般に道路を利用する者が共通して持つ一般的な利益であり、当該道路近隣の居住者の利益の保護は、前記一般的公益の保護の結果として、反射的に実現されるにすぎない。 

道交法についても、当該道路の近隣の居住者の利益保護は、道路における危険が防止され、円滑な交通が保たれるという一般的な利益が確保される結果として、反射的に実現されるにすぎない。
以上のような道路法32条、道交法77条の各規定の趣旨及び目的、これらの規定が道路占有許可、道路使用許可を通じて保護しようとしている利益の内容及び性質を考慮
本件設置場所に隣接して居住するXの安全な交通環境等の生活上の利益及び財産権が一般的な利益以上に個別具体的な利益として保護されているとはいえない

Xの本件処分の取消しをもとめる原告適格はない
 
<解説>
行訴訟9条1項の「法律上の利益を有する者」 について、法律上保護された利益説

①処分行政庁B社に対してしたガス管の埋設を目的とする道路占有許可処分の取消訴訟で、原告的確を肯定したが請求を棄却した事案。
②墓地経営許可処分がされた土地の周辺住民のうち、違法な墓地経営に起因する周辺の衛生環境悪化により健康又は生活環境の著しい被害を直接に受けるおそれのあるものには原告適格があるとした事例。
③産業廃棄物処理施設付近に居住する住民が施設設置許可処分の取消訴訟の原告適格を肯定した事例。
④成田空港への航空機燃料輸送暫定パイプライン埋設のための道路占有許可処分をしたところ、住民からの取消訴訟について原告適格を否定した事例、
⑤道路法92条の不用物件の管理者がした使用承諾処分により営業上重大な支障を被った第三者の取消訴訟について原告適格を肯定した事例。

判例時報2337

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2017年9月25日 (月)

精神保健指定医の指定取消処分が争われた事例

東京地裁H28.8.30      
 
<事案>
精神保健指定の指定を受け、A大学病院に神経精神科の医長として勤務していた医師である原告が、本件病院に勤務する医師が指定医の指定の申請に際して提出した虚偽の内容の書面に確認の証明文を付す指導医として署名

処分行政庁から、平成27年6月19日付で指定医の指定の取消処分を受けるとともに、
同年10月1日付で、同月15日から同年12月14日までの期間医業の停止を命ずる処分を受けた

処分行政庁の所属する国を被告として、本件指定取消処分及び本件医業停止処分がいずれも処分要件を充足せず、裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用してされた違法なものであり、手続上も違法

前記各処分の取消しを求めるとともに、国賠法1条1項に基づき、前記各処分につきそれぞれ100万円の損害賠償及び遅延損害金の支払を求めた。 
 
<争点>
①本件指定取消処分該当性の有無及び処分選択の適否
②本件指定取消処分の手続上の違法事由の有無
③本件医業停止処分の取消しを求める訴えの利益の有無
④本件医業停止処分の処分事該当性の有無及び処分選択の適否
⑤本件医業停止処分の手続上の違法事由の有無
 
<判断>
●争点①について
指定医の申請者への指導、ケースレポートの内容の確認が、精神保健及び精神障碍者福祉に関する法律(「精神福祉法」)19条の2の定める「職務」に当たる。

同項の「その職務に関し著しく不当な行為を行ったときその他指定医として著しく不適当と認められるとき」に該当するか否か、指定の取消し又は職務の停止のいずれの処分を選択するかは、法令上具体的な基準が定められていない


厚生労働大臣の合理的裁量に委ねられている

原告が、ケースレポートを作成する申請者に対する指導・確認を怠ったことに基づき、精神保健医としての指定を取り消したことは適法。
 
●争点②について 
聴聞の通知を受けた医師が聴聞の期日までの間に本件病院の他の医師ら等の関係者と通謀して証拠隠滅工作等を行う可能性を想定し、本件聴聞期日の2日前に同送付書を送付したことには合理的な理由があった
⇒手続的違法はない。
 
●争点③について 
処分を受けたことを理由とする不利益な取扱いを定める法令の規定がある場合に、当該者が将来において前記の不利益な取扱いの対象となる規定があるときは訴えの利益があるが、
処分を受けることを理由とする将来の処分における情状として事実上考慮される可能性があるにとどまる時は、法律上の利益があるとはいえない
⇒本件訴えは訴えの利益がなく、不適法。
 
●争点④について 
医師法7条2項の規定は、医師に同項の引用する同法4条各号の欠格事由があった場合に、厚生労働大臣が、当該医師に対し、医師免許の取消し、3年以内の医業の停止又は戒告の処分をすることができる旨を定めているところ、いかなる処分をなすかは厚生労働大臣の合理的裁量に委ねられている

原告が、ケースレポートを作成する申請者に対する指導・確認を怠ったことについて、2か月間の医業停止処分をしたことは適法。
 
●争点⑤について 
理由提示、弁明の機会の付与について手続上の違法はない。
 
<解説> 
●争点①について
精神福祉法19条の2第2項は、指定医の指定の取消し又は職務の停止に係る処分事由として、
「その職務に関し著しく不当な行為を行ったときその他指定医として著しく不適当と認められるとき」を挙げている。

平成11年の改正により、指定の取消しに加えて、期間を定めてその職務の停止を命ずることができるという規定が設けられたもの。
 
厚生労働大臣がその裁量権の行使としてした処分は、それが社会観念上著しく妥当性を欠いており、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものと認められる場合でなければ違法とはならない(最高裁昭和63.7.1)。
but
平成9年6月27日の公衆衛生審議会精神保健福祉部会における「精神保健指定医の取消しについて」という資料では、
職務に関し著しく不当な行為を行ったときの例として、
主として患者の人権侵害があった場合を挙げており、行政規則の裁量基準に準じた位置づけを有していた可能性がある。

申請者がケースレポートを作成する際の指導・確認を原告が怠ったことについて、職務の停止ではなく、指定の取消しをしたことは、比例原則に照らし、やや重すぎるのではないか(いったん保険医の指定を取り消されると、5年間は再登録ができないという事情があるようである。)との見解もあり得る。
 
●争点②について 
行政手続法の定める聴聞手続(同法13条)は、処分の公正の確保と処分に至る行政手続の透明性の向上を図り、当該処分の名宛人となるべき者の権利利益の保護を図る観点から、処分の原因となる事実について、その名宛人となるべき者に対して防御の機会を保障する趣旨のもの。

同法15条1項にいう聴聞の通知から期日までの「相当な期間」は、不利益処分の内容や性質に照らして、その名宛人となるべき者が防御の機会を準備するのに必要な期間とみるのが相当であり、
同項1号及び2号所定の通知事項である「予定される不利益処分の内容及び根拠となる法令の条項」及び「不利益処分の原因となる事実」については、不利益処分の名宛人となるべき者にとって、その者の防御権の行使を妨げない程度に、行政庁がどのような事実を把握しているかを認識できる程度の具体性をもって具体的事実が記載されていることが必要

本判決は、防御の機会を与え、審議を尽くす利益よりも、証拠隠滅の防止の利益の方が優先するとし、聴聞会の2日前に通知書を発し前日に届いた措置を適法とした。
~証拠状況によっては、異なる判断もあり得たであろうし、異論もあり得る。
 
●争点③について 
処分の効果が期間の経過その他の理由によりなくなった場合には、当該処分を受けた者がその取消しを求める訴えの利益は失われるのが原則。
but
当該者がその場合においてもなお処分の取消しによって回復すべき法律上の利益を有するときは、その取消しを求める訴えの利益は失われない(行訴法9条1項括弧書き)。
そして、処分を受けたことを理由とする不利益な取扱いを定める法令の規定がある場合に、当該者が将来において前記の不利益な取扱いの対象となる規定があるときは訴えの利益がある
but
処分を受けることを理由とする将来の処分における情状として事実上考慮される可能性があるにとどまる時は、法律上の利益があるとはいえない(最高裁昭和55.11.25)。

精神福祉法19条の2第1項が
「指定医がその医師免許を取り消され、又は期間を定めて医業の停止を命ぜられたときは、厚生労働大臣は、その指定を取り消さなければならない」としている。

医業の停止が保険医の指定の取消事由になることが法定されている以上、処分を受けたことを理由とする不利益な取扱いを定める法令の規定がある場合に当たる可能性がありえる。
本件で、保険医の指定の取消しは医業の停止よりも前になされているため、直接の処分理由とはされていないが、不利益な取扱いを定める法令の規定自体は存在すると考えることも可能

判例時報2337

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2017年9月24日 (日)

騒音を理由とする自衛隊航空機の運航差止訴訟

最高裁H28.12.8      
 
<事案>
海上自衛隊及びアメリカ合衆国海軍が使用する厚木海軍飛行場の周辺に居住するXらが、自衛隊及びアメリカ合衆国軍隊の使用する航空機の発する騒音により精神的及び身体的被害を受けている

国を相手方として、行政事件訴訟法に基づき
主位的には、厚木基地における毎日午後8時から午前8時までの間の運航等に係る差止め
予備的には、これらの運行による一定の騒音をXらの居住地に到達させないこと等を求めた事案。

予備的請求に係る訴えは、主位的請求に係る訴えと実質的に同内容のものを公法上の当事者訴訟の形式に引き直して提起。
 
<経緯>
厚木基地の周辺住民は、これまでも本件飛行場からの騒音被害を理由として、自衛隊機の運行差止め等を求める訴えを提起していたが、これらはいずれも民事訴訟として提起。

最高裁H5.2.25:
民事上の請求として自衛隊機の離着陸等の差止め及び自衛隊機の騒音の規制を求める訴えについて、
このような請求は、必然的に防衛庁長官に委ねられた自衛隊機の運航に関する権限の行使の取消変更ないしその発動を求める請求を包含

行政訴訟としてどのような要件の下にどのような請求をすることができるかはともかくとして、(民事上の訴えとしては)不適法である旨を判示。 
 
<1審>
●自衛隊機運航差止請求に係る訴えについて:
法定抗告訴訟としての差止めの訴え(行訴訟3条7項、37条の4)にはなじまないが、
無名抗告訴訟(抗告訴訟のうち行訴法3条2項以下において個別の訴訟類型として法定されていないもの)として適法。 

防衛大臣は、毎日午後10時から午前6時まで、やむを得ないと認める場合を除き、自衛隊機を運航させてはならないとする限度で一部認容。
(予備的請求に係る訴えについては、いずれも不適法であるとして却下。)

●米軍機運航差止請求に係る訴えについて:
本件飛行場の使用許可という存在しない行政処分の差止めを求めるもの⇒不適法で却下。
予備的請求については、これを棄却し又は訴えを却下。
 
<原審>
●自衛隊機運航差止請求に係る訴えについて:
法定広告訴訟としての差止めの訴えの訴訟要件である「重大な損害を生ずるおそれ」があると認められる。
防衛大臣は、平成28年12月31日までの間、やむを得ない事由に基づく場合を除き、本件飛行場において、毎日午後10時から午前6時まで、自衛隊機を運航させてはならないとする限度で一部認容すべきものと判断。
(予備的請求に係る訴えについては、いずれも不適法であるとして却下。)
 
● 米軍機運航差止請求に係る訴えについては、一審と同旨。
 
<判断>
原判決中、自衛隊機運航差止請求に係る国の敗訴部分を破棄し、同部分につき第1審判決を取り消してXらの前記請求をいずれも棄却。
(予備的請求に係る訴えのうち、原判決に前記請求の認容部分と予備的併合の関係にある部分は、いずれも不適法であるとして却下。)

米軍機に係る請求に関するXらの上告について、上告受理申立て理由が上告受理の決定において排除⇒これを棄却。
 
<規定>
行訴法 第3条(抗告訴訟)
7 この法律において「差止めの訴え」とは、行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟をいう。

行訴法 第37条の4(差止めの訴えの要件)
差止めの訴えは、一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限り、提起することができる。ただし、その損害を避けるため他に適当な方法があるときは、この限りでない。

5 差止めの訴えが第一項及び第三項に規定する要件に該当する場合において、その差止めの訴えに係る処分又は裁決につき、行政庁がその処分若しくは裁決をすべきでないことがその処分若しくは裁決の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ又は行政庁がその処分若しくは裁決をすることがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められるときは、裁判所は、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずる判決をする。
 
<解説>
行訴法37条の4第1項所定の「重大な損害を生ずるおそれ」があるとの要件
行訴法の平成16年改正⇒法定抗告訴訟の新たな類型として創設された差止めの訴え(行訴法3条7項、37条の4)
~処分又は裁決がされることにより「重大な損害が生ずるおそれがある場合に限り」提起することができるものとされている(行訴法37条の4第1項)。

差止めの訴えは、取消訴訟と異なり、処分等がされる前に、行政庁がその処分等をしてはならない旨を裁判所が命ずることを求める事前救済のための訴訟

そのための要件は
国民の権利利益の実効的な救済の観点を考慮するとともに、
司法と行政の役割分担の在り方を踏まえた適切なものとする必要

事前救済を求めるにふさわしい救済の必要性がある場合に限り認めるのが適当。

「重大な損害を生ずるおそれ」があるの要件の判断基準
最高裁H24.2.9:
処分がされることにより生ずるおそれのある損害が、
処分がされた後に取消訴訟又は無効確認訴訟を提起して執行停止の決定を受けることなどにより容易に救済を受けることができものではなく
処分がされる前に差止めを命ずる方法によるのでなければ救済を受けることが困難なもの
であることを要する。

差止めの訴えの制度創設の趣旨に沿って、事後救済の争訟方法との関係を踏まえ、差止めの訴えの適法性を基礎付ける事前救済の必要性の有無を判定する上での一般的な判断基準を示したもの。

本判決:
①本件飛行場の航空機騒音による被害の性質及び程度
②そのような被害を反復継続的に受け、蓄積していくおそれがあることによる損害の回復の困難の程度等

Xらに生ずるおそれのある損害は、事後の方法により容易に救済を受けることができるものとはいえない。

自衛隊機の運行の内容、性質を勘案しても、Xらの自衛隊機運航差止請求に係る訴えは、「重大な損害を生ずるおそれ」があるとの要件を満たす

●行訴法37条の4第5項の差止めの訴えの本案要件について

行訴法37条の4第5項は、
裁量処分に関しては、行政庁がその処分をすることがその裁量権の範囲を超え又はその濫用となると認められるときに差止めを命ずる旨を定める

個々の事案ごとの具体的な事実関係の下で、当該処分をすることが当該行政庁の裁量権の範囲を超え又はその濫用となると認められることを差止めの本案要件とするもの。

行政裁量に対する司法審査に当たっては、法が処分を行政庁の裁量に委ねるものとした趣旨、目的、範囲は一様ではない⇒これに応じて裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものとして違法とされる場合もそれぞれ異なる⇒当該処分ごとに検討すべき。

本判決:
自衛隊機の運航に係る防衛大臣の権限の行使の内容や性質等について検討。
前記権限の行使が裁量権の範囲を超え又はその濫用と認められるか否かについては、それが防衛大臣に委ねられた広範な裁量権の行使としてされることを前提として、社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められるか否かという観点から審査を行うのが相当。
その検討に当たっては、当該飛行場において継続してきた自衛隊機の運航やそれによる騒音被害等に係る事実関係を踏まえた上で、当該飛行場における自衛隊機の運航の目的等に照らした公共性や公益性の有無及び程度、前記の自衛隊機の運航による騒音により周辺住民に生ずる被害の性質及び程度、当該被害を軽減するための措置の有無や内容等を総合考慮すべきものである。
前記権限の行使に関する防衛大臣の裁量が広範なものである。

防衛大臣は、我が国の防衛や公共の秩序の維持等の自衛隊に課せられた任務を確実かつ効率的に得遂行するため、自衛隊機の運航に係る権限を行使するものと認められるところ、
その権限の行使に当たっては、わが国の平和と安全、国民の生命、身体、財産等の保護に関わる内外の情勢、自衛隊機の運航の目的及び必要性の程度、同運航により周辺住民にもたらされる騒音による被害の性質及び程度等の諸般の事情を総合考慮してなされるべき高度の政策的、専門技術的な判断を要することが明らか。

前記の裁量審査に当たっては、自衛隊機の運航の公共性や公益性の有無及び程度のみならず、その騒音により周辺住民に生ずる被害の性質及び程度、被害軽減措置の有無や内容等についても総合考慮すべきもの。

自衛隊機の運航にはその性質上必然的に騒音の発生を伴うところ、自衛隊法107条1項及び4項は、航空機の運航の安全又は航空機の航行に起因する障害の防止を図るための航空法の規定の適用を大幅に除外しつつ、同条5項において、防衛大臣は航空機による災害を防止し、公共の安全を確保するため必要な措置を講じなければならない旨を定めていることなど、自衛隊機の運航の特殊性及びこれを踏まえた関係法令の規定の趣旨を考慮。

本件飛行場において継続してきた自衛隊機の運航やそれによる騒音被害等に係る事実関係

①前記運航には高度の公共性、公益性があるものと認められる
②Xらに生ずる被害は軽視できないものの、これらの被害の軽減のため、自衛隊機の運航に係る自主規制や周辺対策事業の実施など相応の対策措置が講じられていること
等の事情を総合考慮

本件飛行場において、将来にわたり前記運航が行われることが、社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認めることは困難

原判決とは異なり、前記権限行使がその裁量権の範囲を超え又はその濫用となると認められるときに当たるということはできない

Xらが、本件訴えと並行して、国に対し、本件飛行場の航空機騒音につき国賠法2条1項に基づく損害賠償を求める民事訴訟を提起し、同民事訴訟においては、Xらの損害賠償請求が一部に認容。
 
●小池裁判官の補足意見: 
「重大な損害を生ずるおそれ」があるとの要件判断について、
自衛隊機の離着陸に係る運航を行政処分と捉えると、離着陸に伴い処分が完結
⇒事後的に取消訴訟等による救済を得る余地は認め難い。

自衛隊機運航請求に係る本案要件の有無について:
①自衛隊機の運航に係る防衛大臣の権限の行使は、あらかじめ一定の必要性、緊急性等に関する事由によって判断の範囲等を客観的に限定することが困難な性質を有し、防衛大臣の広範な裁量に委ねられている
②自衛隊の任務を遂行する中で、前記権限行使によって国民全体に関わる利益を守ることと騒音被害の発生という不利益を回避することは、その対応と調整に困難を伴う事柄であり、具体的な対応については、関連する状況の内容、程度等に応じて様々な態様をとるべきものであること
③前記の2つの要請が作用する中で、本件飛行場において相応の被害軽減措置を講じつつ自衛隊機を運航する行為が社会通念に照らして著しく妥当性を欠くものと認めることは困難であること
を指摘。

判例時報2337

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2017年9月11日 (月)

私道の用に供されている宅地の相続税における財産評価での減額の要否等

最高裁H29.2.28      
 
<事案>
共同相続人であるXらが、相続財産である土地の一部につき、財産評価基本通達(「評価通達」)の24に定める私道の用に供されている宅地(「私道供用宅地」)として相続税の申告⇒相模原税務署長から、これを貸家建付地として評価すべきであるとしてそれぞれ更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分
⇒Yを相手に、本件各処分(更正処分については申告額を超える部分)の取消しを求める事案 
 
<一審・原審>
一般の通行の用に供している私道は、特段の事情のない限り、これを廃止して通常の宅地地して利用することが可能
⇒評価通達24にいう私道とはその利用に道路内の建築制限や私道の変更等の制限などのような制約があるものを指すと解するのが相当。 

本件各歩道状空地は、建築基準等の法令上の制約がある土地ではなく、また、市からの要綱等に基づく指導によって設置されたことをもって制約と評価する余地があるとしても、これは被相続人の選択の結果であり、Xらが利用形態を変更することにより通常の宅地と同様に利用できる潜在的可能性と価値を有する
⇒私道供用宅地に該当するとはいえない。
⇒Xらの請求をいずれも棄却。
 
<判断>
私道の用に供されている宅地の相続税に係る財産の評価における減額の要否及び程度は、
私道としての利用に関する建築基準法等の法令上の制約の有無のみならず、当該宅地の位置関係、形状等や道路としての利用状況、これらを踏まえた道路以外の用途への転用の難易等に照らし、
当該宅地の客観的交換価値に低下が認められるか否か、また、その低下がどの程度かを考慮して決定
する必要がある。

本件を原審に差し戻した。
 
<規定>
相続税法 第22条(評価の原則)
この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。
 
<解説>
●相続税法22条の規定と私道の意義等 
相続税法22条は、相続等により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価による旨を規定(=時価主義を採用)
相続税における「取得の時」とは被相続人の死亡の時であり、「時価」とは課税時期における当該財産の客観的な交換価値をいう(最高裁)。

不特定多数の独立当事者間の自由な取引において通常成立すると認められる価額を意味する。

「私道」:
一般的には、「私人がその所有権に基づき維持管理している道路」又は「私物たる道路」と定義。

「道路」:
一般に広く人の通行の用に供されている物的施設をさし、道路法上の道路とそれ以外の道路(農道等の公道と私道)に大別され
歩道とは、歩行者が通行するための道路。
 
●財産評価基本通達24の定め等について 
相続税の課税対象となる財産は多種多様であり、その客観的な交換価値は必ずしも一義的に確定されるものではない
⇒国税庁によって相続税・贈与税及び地価税に共通の財産評価に関する基本通達として評価通達が定められている。

評価通達24は、「私道の用に供されている宅地」(私道供用宅地)と規定するのみであり、その逐条解説は、
①不特定多数の者の通行の用に供するいわゆる通抜け道路
②袋小路のように専ら特定の者の通行の用に供するいわゆる行き止まり道路
に分類
①⇒私道の価額を評価せず
②⇒路線価等の100分の30として評価
ただし、
所有者の通路としてのみ使用されている私道は、敷地部分と併せて路線価等としての評価を行い、私道としての評価は行わないとしている。
 
●相続税法22条の時価評価と不動産鑑定評価等について 
評価通達は法令ではなく、個別の財産の評価はその価額に影響を与えるあらゆる事情を考慮して行われるべきもの

財産の評価が評価通達と異なる基準で行わたとしても直ちに違法となるものではない。
(下級審裁判例は、評価通達の定める評価方法は一般的に合理性を有するものとして課税実務上も定着している同通達によって評価することが相当でないと認められる特段の事情がない限り、同通達に規定された評価方法によって画一的に評価するのを相当とするものが多い。)

本件で検討されるべき問題は私道の相続税法22条における時価評価
ここでの時価は、不動産の鑑定評価における正常価格と基本的には同一の概念である(地価公示法2条参照)。

不動産鑑定士による土地評価の統一基準である不動産鑑定評価基準には、私道に関する独自の評価基準は存在しない。
but
私道については、、不動産鑑定評価基準に基づく鑑定評価等において、建築基準法等の法令上の制約の有無に加えて、道路としての利用状況、他の用途への転用の難易の程度等を踏まえて減額評価しているように思われる。
 
●私道の用に供されている宅地の相続税法22条の財産評価について 
私道の用に供されている宅地の財産評価において一定の減額が認められるのは、当該財産の使用、収益又は処分に一定の制約が存在することによって宅地としての最有効使用を実現することができないことにあると解されるところ、
本判決は、このような理解を前提として、
当該宅地が第三者の通行の用に供され、所有者が自己の意思によって自由に使用、収益又は処分をすることに制約が存在することにより、その客観的交換価値が低下する場合に、そのような制約のない宅地と比較して、相続税に係る財産の評価において減額されるべきであると判示。

本件各歩道状空地は、
①車道に沿って幅員2mの歩道としてインターロッキング舗装が施されたもので相応の面積がある上に、本件各共同住宅の居住者等以外の第三者による自由な通行の用に供されていることがうかがわれる
②本件各共同住宅を建築する際、都市計画法所定の開発行為の許可を受けるために、市の指導要綱等を踏まえた行政指導によって私道の用に供されるに至ったもの

本件各共同住宅が存在する限りにおいて、Xらが道路以外の用途へ転用することが容易であるとは認め難い

本件各共同住宅の建築のための開発行為が被相続人による選択の結果であるとしても、直ちに本件各歩道状空地について減額して評価をする必要がないとはいえない

判例時報2336

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2017年8月29日 (火)

独立行政法人医薬品医療機器総合機構法に基づく救済給付等における因果関係の主張立証責任

東京地裁H28.10.14      
 
<事案>
Xらは、子及び夫が後遺障害が残り、又は死亡したのは、タミフルの副作用⇒X1、X2は機構法に基づく障害児養育年金の給付請求を、X3は機構法に基づく遺族一時金及び葬祭料の給付等の請求⇒いずれも不支給とする各決定⇒本件各決定の取消しを求めて本訴を提起。 
 
<争点>
①A、Bの知的障害及びCの死亡とタミフルとの因果関係の主張立証責任は、Xら(救済給付請求者)が負うのか、それともY(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)が負うのか
②タミフルの服用と前記知的障害や死亡との間に相当因果関係が認められるか 
 
<判断>
●争点①について:
副作用救済給付の支給決定は、授益的処分としての性質を有するものというべきであり、その根拠法規である機構法16条1項が副作用救済給付の請求権について規定する一方、同条2項が同条1項の規定にかかわらず、これを支給しない場合を規定するという機構法の文言・構造等
因果関係の主張立証責任はXら(救済給付請求者)にある。 

● 争点②について:
Xらの主張:タミフルに中枢神経抑制作用があることを前提に、服用したタミフルにより、A及びBには重篤な脳障害が残存したし、Cは突然死した
①経口投与されたタミフルについて、オセルタミビル未変化体が脳内に移行する割合は限られており、インフルエンザ罹患時にオセルタミビル未変化体の脳内濃度が上昇するとしても、脳内の各種受容体等へ有意に作用するほとには至らないものと考えられ
②動物実験の結果についても、臨床用量のタミフルが、中枢神経抑制作用を有することを裏付けるものとは評価し難い

Xらの主張を排斥。

疫学調査の結果等もタミフルの服用と異常行動との間に因果関係が存在することを裏付けるとも言い難い

タミフルの服用とAの精神運動発達遅滞との間、Bの重度脳障害との間、Cの死亡との間には、それぞれ因果関係があるとはいえない。
⇒Xらの請求をいずれも棄却。

判例時報2335

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2017年8月15日 (火)

原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律1条3号に該当する者とされた事例

長崎地裁H28.2.22      
 
<事案>
昭和20年8月9日に原子爆弾が長崎市に投下された際ないしその後、いわゆる「被爆未指定地域」で生活していたXらが、原爆投下時に爆心地から7.5ないし12キロメートルの範囲内の地域にある居住地において生活していたから、原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律1条3号にいう「原子爆弾が投下された際又はその後において、身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者」に該当すると主張
⇒長崎県又は長崎市に対し、被爆者健康手帳交付申請却下処分の取消し、同手帳交付の義務付け、健康管理手当の支払等を請求。
 
<解説>
被爆者援護法は、昭和32年制定の原子爆弾被爆者の医療等に関する法律および昭和43年制定の原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律を統合する形でこれらを引き継ぐとともに、その援護内容をさらに充実発展させるものとして、平成6年に制定。
国の責任において、原子爆弾の投下の結果として生じた放射能に起因する健康被害が他の戦争被害とは異なる特殊の被害であることにかんがみ、高齢化の進行している被爆者に対する保健、医療及び福祉にわたる総合的な援護対策を講じることをその目的とする。
 
<争点>
Xらが被爆者援護法1条3号に該当するかどうか 
 
<判断>
被爆者援護法1条3号の意義について、
前身の原爆医療法制定に至る経緯及び同法の定め、同法につき発出された通達・通知、同法の改正並びに原爆特例措置法の制定経過及び同法の定め、被爆者援護法制定に至る経緯、同法1条3号該当性の審査基準に係る運用(広島市の例も含む)等

同法の立法趣旨や健康被害を生ずるおそれがあるために不安を抱く被爆者に対して広く健康診断等を実施することが同法の趣旨に適うと考えられる

同法1条3号にいう「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった」とは、原爆の放射線により健康被害を生ずる可能性がある事情の下にあったことをいうものと解するのが相当であり、同事実の存否は最新の科学的知見に基づき判断すべきである。 

①長崎に投下された原爆の概要、②放射線・被爆・原爆放射線に関する科学的知見、③下痢・脱毛・出血傾向の原因及び放射線による急性症状に関する知見、④被爆未指定地域における放射性降下物による外部被曝の状況、⑤内部被曝の影響、⑥遠距離被曝と急性症状の発症、⑩一定地域の住民に対する染色体異常・白血球数増加についての調査結果、⑪低線量被曝が人体に及ぼす影響等について、当事者から提出及び申請された多くの資料、専門家の意見等を整理し、詳細に吟味。

被爆未指定地域の住民は、その地域に降下した放射性降下物の発する放射線によって外部被曝及び放射性降下物を呼吸や飲食の際に摂取して内部被曝する状況にあったところ、被爆者援護法上の援護は、被爆者が原子爆弾の等価によって「特殊の被害」を受けたことを根拠にするもの

日常生活における個々人の生活状況の相違に起因する被曝の量の差に含まれる程度の被曝をしたことをもって、原爆の放射線により健康被害を生ずる可能性がある事情の下にあったというのは相当ではない

具体的には、原爆投下による年間積算線量が自然放射線による年間被曝線量の平均2.4ミリシーベルトの10倍を超える25ミリシーベルト以上(福島原発事故において当初計画的避難地域に指定され、その後居住制限区域に指定された地域と同程度以上の年間被曝線量)である場合には、個々人の生活状況に起因する被曝の量の差を超える程度の被ばくをすると評価することができ、原爆の放射線により健康被害を生ずる可能性がある事情の下にあったというが相当。

Xらのうち原爆投下当時一定の地域に居住していた10名については、年間積算線量の推計値が
①減衰率をマイナス1.5とした場合、②マイナス1.2とした場合、③その平均値をとった場合の数値がいずれも25ミリシーベルトを超えており、被爆者援護法1条3号にいう「身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった」というのが相当
⇒これら10名による被爆者健康手帳交付請求却下処分の取消し請求及び被爆者健康手帳交付の義務付けを求める請求を認容。
but
同10名以外のXら(その被相続人を含む)については、本判決が示す前記の基準に達していない⇒同法1条3号に該当すると認めることはできない。

判例時報2333

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2017年7月24日 (月)

家屋課税台帳の登録価格について、需給事情による減点補正をすべき場合

宇都宮地裁H28.12.21      
 
<事案>
那須塩原市に所在する家屋に係る平成24年度家屋課税台帳の登録価格について、XがYに対し、需給事情による減点補正をすべきであるとして審査の申出
⇒Yが棄却する決定⇒Xが同決定の一部取消しを求めた。 
 
<解説>
固定資産の価格は、固定資産評価基準によって決定しなければならないとされているところ(地方税法403条1項)、平成24年度において適用される固定資産評価基準は、家屋の評価について、各個の家屋について評点を付設し、当該評点数に評点1点あたりの価格を乗じて当該家屋の価格を求める方法によると定める。
そして、各個の家屋の評点数は、
当該家屋の再建築費評点数を基礎とし
②これに家屋の損耗の状況による減点を行って付設するものとし、
さらに
家屋の状況に応じ必要があるものについては、家屋の需給事情による減点を行うものとしている。 
 
<争点>
①需給事情による減点補正率の適用は極めて限定的な場合に限られるべきか否か
②本件家屋において需給事情による減点補正率を適用すべきか否か、適用すべきとした場合の割合 
 
<判断>
●争点①について 
固定資産評価基準が需給事情による減点補正を認めている趣旨からすると、需要と供給の間に乖離がある場合には需給事情による減点補正をしなければならない需給事情による減点補正率を適用するのは極めて限定的な場合に限られるとまではいえない
 
●争点②について 
本件家屋所在地域の観光客入込数及び宿泊数等の著しい減退傾向
②上下水道の不存在
③公図未整備地区内に所在すること
④日光国立公園内に所在すること
土砂災害特別警戒区域内に所在すること

これらの要因を総合的に考慮すると、本件家屋において需給事情による減点補正を行う必要があり、
需給事情による減点補正率は15パーセントが相当。

減点補正率の算定にあたり各要因がどの程度影響を与えたか?
①の要因:一定程度影響を与える
②の要因:影響が大きいとはいえない
③の要因:影響がそれほど大きいとはいえない
④の要因:影響が大きいとはいえない
⑤の要因:大きく影響を与える
 
<解説>
固定資産評価基準は、需給事情による減点補正率の適用について、
建築様式が著しく旧式となっている非木造家屋、所在地域の状況によりその価格が減少すると認められる非木造家屋等について、その減少する価格の範囲において求めるものとする。」とのみ定め、具体的な適用場面をそれ以上明らかにしない。 

昭和42年10月21日改正の固定資産評価基準の取扱いについての依命通達
(1)・・・最近の建築様式又は生活様式に適応しない家屋で、その価額が減少するものと認められるもの。、
(2)不良住宅地域、低湿地域、環境不良地域その他当該地域の事情により当該地域に所在する家屋の価額が減少すると認められる地域に所在する家屋
(3)交通の便否、人口密度、宅地価格の状況等を総合的に考慮した場合において、当該地域に所在する家屋の価額が減少すると認められる地域に所在する家屋
について需給事情による減点補正を適用すると定めている。

本判決で大きく考慮された要因は⑤の要因と思われるが、これは、同要因を通達の環境不良地域((2))又は同地域に準ずる地域に該当する事情とした上で、土砂災害等が生じた急傾斜地の崩壊などが起きた場合には、住民等の生命または身体に著しい危害が生じるおそれがあり危険性が大きいため、本件家屋の市場性に大きく影響を与えると判断した結果。

判例時報2331

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