行政

2020年3月28日 (土)

被相続人に関する情報と法12条1項所定の「自己を本人とする保有個人情報」

大阪地裁R1.6.5    
 
<事案>
X1、X2は、国に対して当該各父の石綿による健康被害に係る国家賠償請求訴訟を提起し、和解により賠償金の支払を受けることを検討するために、
兵庫県労働局長に対し、当該各父にの死亡に係るそれぞれの母の遺族給付等に関する各調査結果復命書等の情報(「本件各情報」)の開示請求

兵庫労働局長は、それぞれ開示請求人が開示請求権を有していない旨の理由により、本件各情報を開示しない旨の決定(「本件不開示決定」)。

Xらが、本件各情報は行政個人情報保護法12条1項所定の「自己を本人とする保有個人情報」に当たるから、本件各不開示決定はいずれも違法であると主張し、本件各不開示決定の取消しを求めた。 
 
<判決>
● 本件各不開示決定はいずれも違法であり取消しを免れない⇒Xらの請求を認容。 
 
● 行政個人情報保護法の趣旨目的
ある情報が特定の個人に関するものとして同法12条1項にいう「自己を本人とする保有個人情報」に当たるか否かは、当該情報の内容と当該個人との関係を個別に検討して判断すべき。 (最高裁H31.3.18)
 
● 石綿製品の製造等を行う工場又は作業場の労働者が石綿の粉じんにばく露したことにより石綿肺等の石綿関連疾患にり患した場合における国の賠償責任について判示した最高裁H26.10.9を受けて、国は、石綿工場の元労働者やその遺族が国に対して訴訟を提起し、一定の要件(①一定期間に、局所排気装置を設置すべき石綿工場内において、石綿粉じんにばく露する作業に従事したこと、②その結果、石綿による一定の健康被害を被ったこと、③提訴の時期が損害賠償請求権の範囲内であること)を満たすことが確認された場合には、訴訟上の和解に応じて損害賠償金を支払うこととした(「本件救済枠組み」)。

本件救済枠組みでは、石綿工場の元労働者のみならず、その遺族(原則として法廷相続人)が当該元労働者の国に対する石綿による健康被害に係る損害賠償請求権の権利者となることが制度的に予定されている。

そうであるところ、
X1はP2の法廷相続人、
X2はP4の法定相続人
であり、
本件各情報には、
(1)P2及びP4の就労状況に関する情報、
すなわち、前記①の期間内にに、局所排気装置を設置すべき石綿工場内において、石綿粉じんにばく露する作業に従事したか否かを直接的に示す情報、
(2)P2及びP4の病状に関する情報、すなわち前記②の要件を満たす健康被害を被ったか否かを直接的に示す情報が含まれている。

本件各情報は、X1がP2から相続し、X2がP4から相続した、Xらの財産である、P2及びP4の国に対する石綿による健康被害に係る各損害賠償請求権の発生要件が充足されているか否かを直接的に示す個人情報という性質を有する。

本件各情報はXらの「自己を本人とする保有個人情報」に当たる。
 
<解説>
● 死者の情報が当該死者の遺族の情報にもなる場合とはどどのような場合か?

● 裁判例
❶東京高裁H11.8.23:
自殺した市立中学校の生徒の父が、個人情報保護条例に基づいて、前記中学校が前記生徒の死について他の生徒に書かせた作文の開示を請求。
親権者であった者が死亡した未成年の子どもの個人情報の開示を求めているという場合については、社会通念上、この子どもに関する個人情報を請求者自身の個人情報と同視し得るものとする余地もある
父に前記生徒に関する個人情報の開示を請求する資格が認められる

❷名古屋高裁H16.4.19:
母に係る市民病院の診療記録について、その死後に情報公開条例に基づく情報公開請求をした事案で、
死者はプライバシーの権利又は法的利益を享受する法的地位を有しない⇒そのプライバシーの保護に配慮する必要はない
②母の死亡の原因によって、その相続人である開示請求者が債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求権を取得することになるが、前記診療記録には前記損害賠償請求権の存否に密接に関連する情報が記録されていること等
前記診療記録が社会通念上開示請求者自身の個人識別情報にも該当する。

❸大阪高裁H25.10.25:
死亡した妹の「変死体等取扱報告」に記載された情報について、個人情報保護条例に基づいて開示を請求した事案において、
死者はプライバシーの権利又は法的利益を享受する法的地位を有しない⇒個人情報に係る当該個人が死亡した場合にjは、原則として、死亡した当該個人についてプライバシーの保護を配慮する必要はない
②死者の個人情報で、死者自身が「通常他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるものをも含む」情報は、当該死者自身が相続人ら承継人との間の具体的関係に照らして「知られたくない」と考えるかどうかを通常は問題とする余地がない
類型的に、開示請求者が相続人であれば、特段の事情がない限り、当該死者の個人情報は、開示請求者本人のものと同視してよい。
判例時報2431

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2020年3月27日 (金)

公園条例に基づく公告がなされたことをもって都市公園法2条の2に基づく公告がされたといえるか(否定)


最高裁R1.7.18    
<事案>
①Xが、本件土地を公園の敷地として占有するY市に対し、本件土地につきXが所有権を有することの確認並びに所有権に基づく本件土地の明渡し及び賃料相当損害金の支払を求める本訴と、
②Y市が、Xに対し、本件土地につきY市が所有権を有することの確認及び所有権に基づく真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求める反訴 

最高裁では、Xの本訴請求中、本件土地の明渡請求及び賃料相当損害金の支払請求の可否に関し、都市公園を構成する土地物件に対する私権の行使の制限を定める都市公園法32条の適用をめぐり、本件土地を敷地とする公園が都市公園法に基づいて設置された都市公園に当たるか否かが争われた
 
<原審>
都市計画区域内にある本件土地においては、公園として整備され、本件条例に基づき本件公園の名称、位置及び利用開始の期日が公告されており、都市公園法2条の2に基づく公告がされたといえる
⇒本件公園は都市公園に当たる
⇒Xの本訴請求中、本件土地の明渡請求及び賃料相当損害金の支払請求に係る部分を棄却。 
 
<判断>
都市計画区域内にある公園について、本件条例に基づく公告をされたことをもって、都市公園法2条の2に基づく公告がされたとはいえない。
⇒原判決中X敗訴部分を破棄し、
Xの本件土地の明渡請求及び賃料相当損害金の支払請求が権利濫用に当たるか否か等について、更に審理を尽くさせるため、同部分につき本件を原審に差し戻した。 
 
<解説> 
都市公園法:
都市公園を構成する土地物件についての私見の行使の制限、公園施設の設置・管理の許可制度、都市公園の占有の許可制度といった私人の権利に重大な影響を与える規定が適用。 
 
一般に、公共用物の成立には、原則として、
その物を一般公衆の使用に供することのできる形態(実体)を整えること(形体的要素)
これを公共用物として一般公衆の使用に供する旨の行政主体の意思的行為(公用開始行為)が必要。
公用開始行為の法的性質については、当該物件に公物性が付与され、各種の法的規律が発生⇒事実行為ではなく、行政行為の一種であると解するのが通説。
 
都市公園法:
都市公園の公用開始行為に関し、都市公園は、その管理をすることとなる者が、当該都市公園の供用を開始するに当たり、
都市公園の区域(❶)その他政令で定める事項を公告することにより設置されるものとする旨を規定。
その委任を受けた都市公園法施行令9条は、前記の政令で定める公告すべき事項を都市公園の名称(❷)及び位置(❸)、供用開始の期日(❹)と定めている。

都市公園についてはこれを構成する土地物件に対する私権の行使の制限等が予定⇒都市公園を設置するための要件として、その管理をすることとなる者において、
❶~❹を公告することにより、都市公園としての供用開始を明らかにし、その区域(❶)をもって都市公園法の適用対象となる都市公園の範囲を画することとした。
but
本件条例は、本件条例に基づく公園につき、配置及び規模の基準に関する規定や私権の制限(都市公園法32条)を始めとする私人の権利に重大な影響を与える規定等を置いておらず、また、その設置については、その名称、位置及び利用開始の期日を公告する旨を規定しているが、都市公園の場合とは異なり、その区域を公告することは予定していない。
判例時報2431

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2020年3月18日 (水)

障害基礎年金等の支給停止処分・支給停止を解除しない処分が理由提示の要件を欠き、違法とされた事案

大阪地裁H31.4.11    
 
<事案>
(1)事案:
原告らが、いずれも、I型糖尿病にり患し、国年法30条2項による委任を受けた国年法施行令別表の定める障害等級2級に該当する程度の傷害の状態にあるとして障害基礎年金の裁定を受けてこれを受給⇒厚生労働大臣から、国年法36条2項本文の規定に基づく障害基礎年金の支給停止処分

本件各支給停止処分は、
①行手法14条1項本文の定める理由提示の要件を欠くとともに、
②国年法36条2項本文の事由(支給停止事由)を欠く
から違法⇒その取消しを求める。 

(2)事案:
支給停止処分後、厚生労働大臣に対し、国年法施行規則35条1項本文に基づき、支給停止の解除の申請をしたが、支給停止を解除しない旨の処分

本件不解除処分は、
①行手法8条1項本文の定める理由提示の要件を欠くとともに、
②支給停止事由を欠く
から違法

その取消し及び行訴法3条6項2号に基づき支給停止を解除する処分をすべき旨を命ずること(同号所定の義務付け)を求める。 
 
<記載>
各支給停止の通知書には、処分の理由として、
「07障害の程度が厚生年金法(旧三公社の共済年金の受給権者にあっては国家公務員共済組合法)施行令に定める障害等級の3級の状態に該当したため、障害基礎年金の支給を停止しました。」
不解除処分の通知書には、処分の理由として、
「請求のあった傷病については、国民年金法施行令別表(障害年金1級、2級の障害の程度を定めた表)に定める程度に該当していないため。」

◆(1)事案
 
<判断>
行手法14条1項本文が、不利益処分をする場合に同時にその理由を名宛人に示さなければならないとしているのは、名宛人に直接に義務を課し又はその権利を制限するという不利益処分の性質に鑑み、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たもの。
同項本文に基づいてどの程度の理由を提示すべきかは、同項本文の趣旨に照らし、当該処分の根拠法令の規定内容、当該処分に係る処分基準の存否及び内容並びに公表の有無、当該処分の性質及び内容、当該処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮してこれを決定すべき。
(最高裁H23.6.7) 

● 障害基礎年金の給付を受ける権利について裁定を受けた受給権者は、当該障害基礎年金が支給されることを前提として生活設計を立てることになる⇒支給停止処分は、このような受給権者の生活設計を崩し、生活の安定を損なわせる重大な不利益処分。 

国年法36条2項本文
障がい等級の各級の障害について定めた国年法施行令別表
2級15号において「前各号に掲げるもののほか、身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であって、日常生活が著しいい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの」を挙げるなどするにとどまっている⇒その内容は抽象的

支給停止処分についての基準である国民年金・厚生年金障害認定基準のうちの糖尿病を含む代謝疾患による障害の程度に関する内容:
認定基準はごく抽象的なものであり、認定要領も、障害等級3級と認定する場合について具体的に定める一方で、どのような場合を1級又は2級に該当する障害の状態であると認定するかについては、「なお、症状、検査成績及び具体的な日常生活状況等によっては、さらに上位等級に認定する。」として、総合評価の対象となる事情を列挙したものであって、これらの事情相互の関係や重み付け等を定めたものではなく、抽象的。

糖尿病による障害を理由とする障害基礎年金の支給停止処分については、いかなる事実関係に基づきどのように障害認定基準を適用して当該処分がされたのかを、当該処分の相手方においてその理由の提示の内容自体から了知し得るものとする必要性が高い


①本件各支給停止処分の通知書における処分の理由の記載は、単に原告ら8名の各障害の程度が1級及び2級には該当しないとの結論のみを示したものと評されてもやむを得ないほど簡素なもの。
②厚生労働大臣が、原告ら8名に対し、約2~16年の間、障害基礎年金を継続的に支給していたにもかかわらず、一転して本件各支給停止処分を行ったという経緯等

前記のような処分の理由の提示では、・・・2級に該当する程度の障害の状態に該当すると認定しなかった理由は何ら明らかにされておらず、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するという趣旨を全うしていない。
・・・原告ら8名が日本年金機構に提出した障害の現状に関する医師の診断書(障害状態確認届)に記載された事実関係を前提としてされたものであるか否かすら認識することができない
⇒本件各支給停止処分に対して不服を申し立てた場合、前記診断書に記載された事実関係のうちのどの部分や範囲が争点となるのか、また、当該事実関係は争点とはならずこれを前提とした上で、症状、検査成績及び具体的な日常生活状況等に関する総合評価の手法や判断内容等が争点となるのか等の見通しを立てることは困難
⇒不服申立ての便宜を図るという趣旨に照らしても、不十分な理由の提示。

本件各支給停止処分における理由の提示については、いかなる事実関係に基づきどのように障害認定基準を適用して支給停止処分がされたのかを、当該処分の相手方たる原告ら8名においてその理由の提示の内容自体から了知し得るものであるということはできない⇒行手法14条1項本文の定める理由提示義務に違反する。
 
<解説> 
年金の額を改定(減額)する旨の処分をするに当たり、その通知書に
「変更理由 障害の程度が変わったため、年金額を変更しました。」「障害の等級 2級16号」と記載したという事案において、
この記載を見れば、処分時において1級相当とは認められず、2級相当と認定されために年金額が変更されることとなったことは容易に理解できる⇒理由の提示を欠くとはいえない旨判示した東京高裁H25.3.28がある。 
 
◆(2)事案
 
<判断>
●上記同旨判断⇒本件不解除処分は、その余の点について判断するまでもなく、違法であって取消を免れない。 

●支給停止を解除する旨の処分の義務付けの訴え 
本件不解除処分は取り消されるべきもの
⇒前記義務付けの訴えは適法(行訴訟37条の3第1項2号)とともに本案要件の一部(同条5項所定の「同条1項各号に定める訴えに係る請求に理由があると認められ」るとの要件)を満たす。
but
①前記義務付けの訴えに係る請求を認容すべきか否かを判断するためには、厚生労働大臣が支給停止を解除する処分をすべきであることがその処分の根拠となる法令の規定から明らかと認められ又は支給停止を解除する処分をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められるか否かを判断することを要する(同条5項)。
②この点については、原告Iの障害の状態が2級に該当するか否かを審理判断する必要があるところ、・・・・その審理には相当の期間を要するものと考えられる。
③本件不解除処分の取消判決が確定すれば、厚生労働大臣において、行手法8条1項本文の定める理由の提示内容の検討等をする過程で、原告Iに対する支給停止の解除の適否自体についても再度検討することも考えられる⇒現時点で本件不解除処分の取消しの訴えについて一部判決をすることにより、原告I に関する最終的な紛争解決がもたらされる可能性も否定できない。

原告Iの訴えについては、行訴法37条の3第6項前段の規定により、本件不解除処分の取消しの訴えについてのみ請求認容の終局判決をすることが、より迅速な争訟の解決に資するものと認められる
 
<規定>
行訴法  第三七条の三
第三条第六項第二号に掲げる場合において、義務付けの訴えは、次の各号に掲げる要件のいずれかに該当するときに限り、提起することができる。
一 当該法令に基づく申請又は審査請求に対し相当の期間内に何らの処分又は裁決がされないこと。
二 当該法令に基づく申請又は審査請求を却下し又は棄却する旨の処分又は裁決がされた場合において、当該処分又は裁決が取り消されるべきものであり、又は無効若しくは不存在であること。
2前項の義務付けの訴えは、同項各号に規定する法令に基づく申請又は審査請求をした者に限り、提起することができる。
3第一項の義務付けの訴えを提起するときは、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める訴えをその義務付けの訴えに併合して提起しなければならない。この場合において、当該各号に定める訴えに係る訴訟の管轄について他の法律に特別の定めがあるときは、当該義務付けの訴えに係る訴訟の管轄は、第三十八条第一項において準用する第十二条の規定にかかわらず、その定めに従う。
一 第一項第一号に掲げる要件に該当する場合 同号に規定する処分又は裁決に係る不作為の違法確認の訴え
二 第一項第二号に掲げる要件に該当する場合 同号に規定する処分又は裁決に係る取消訴訟又は無効等確認の訴え
4前項の規定により併合して提起された義務付けの訴え及び同項各号に定める訴えに係る弁論及び裁判は、分離しないでしなければならない。
6第四項の規定にかかわらず、裁判所は、審理の状況その他の事情を考慮して、第三項各号に定める訴えについてのみ終局判決をすることがより迅速な争訟の解決に資すると認めるときは、当該訴えについてのみ終局判決をすることができる。この場合において、裁判所は、当該訴えについてのみ終局判決をしたときは、当事者の意見を聴いて、当該訴えに係る訴訟手続が完結するまでの間、義務付けの訴えに係る訴訟手続を中止することができる。
判例時報2430

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2020年3月17日 (火)

東京都議会議員についての、特例選挙区の存置の適法性、議員定数配分規定の適法性等

最高裁H31.2.5    
 
<事案>
東京都義委会議員の定数並びに選挙区及び各選挙区における議員の数に関する条例に基づいて平成29年7月2日に施行された東京都議会議員一般選挙について、江東区選挙区の選挙人である上告人が、
①本件条例が・・・・の区域を併せて1選挙区(島部選挙区)として存置したこと(2条3項)は、特例選挙区について定める公選法271条に、
➁本件条例のうち、各選挙区において選挙する議員の数を定める3条が公選法15条8項に、それぞれ違反するとともに、同法271条及び本件条例の定数配分規定が憲法14条1項等に違反して無効

被上告人東京都選挙管理委員会を相手に、本件選挙の江東区選挙区における選挙を無効とすることを求めて提起した選挙訴訟。 
 
<判断・解説>
●島部選挙区を特例選挙区として存置することの適法性 

最高裁の特例選挙区を存知する規定の適法性判断の枠組み(最高裁H1.12.18):
(1)
具体的にいかなる場合に特例選挙区の設置が認められるかについて、
当該都道府県の行政施策の遂行上当該地域からの代表を確保する必要性の有無・程度、
隣接の都市(現在は市町村)との合区の困難性の有無・程度等
を総合判断して決することにならざるを得ないところ、
それには当該都道府県の実情を考慮し、当該都道府県全体の調和ある発展を図るなどの観点からする政策的判断をも必要とすることが明らか

特例選挙区の設置を適法なものとして是認しうるか否かは、この点に関する都道府県議会の判断が前記のような観点からする裁量権の合理的な行使として是認されるかどうかによって決するよりほかない

(2)
公選法271条は、配当基数が0.5を著しく下回る場合には、特例選挙区の設置を認めない趣旨であると解される

このような場合には、特例選挙区の設置についての都道府県議会の判断は、合理的裁量の限界を超えているものと推定するのが相当。

判断:
島部選挙区は、本件条例制定当時から特例選挙区として存置されていたのは、
①島しょ部が・・・特有の行政需要を有する⇒東京都の行政施策の遂行上、島しょ部から選出される代表を確保する必要性が高いものと認められる一方
➁その地理的状況⇒他の市町村の区域との合区が、地続きの場合に比して相当に困難
であることが考慮。
東京都議会は・・・存置することを決定したものと推認することができる。

本件選挙当時の島部選挙区の配当基数は、東京都議会において同選挙区を特例選挙区として存置したことが社会通念上著しく不合理であることが明らかであると認めるべき事情もうかがわれない。
 
●本件定数配分規定の適法性について 

最高裁判例は、条例の定数配分規定の公選法15条8項適合性の審査方法につき、
都道府県議会の議員定数の配分において同項ただし書を適用して人口比例の原則に修正を加えるかどうか及びどの程度の修正を加えるかについては、当該都道府県議会にその決定に係る裁量権が与えられており、
条例の定める定数配分が同項の規定に適合するかどうかについては、都道府県議会の具体的に定めるところが、裁量権の合理的な行使として是認されるかどうかによって決せられるべきもの。

具体的に決定された定数配分の下における選挙人の投票価値に較差が生じている場合において、その較差が都道府県議会において地域間の均衡を図るため通常考慮し得る諸般の要素を斟酌してもなお一般的に合理性を有するものとは考えられない程度に達しており、これを正当化すべき特段の理由が示されないときは、裁量権の合理的な行使とはいえない
との判断枠組み。

そして、投票価値の較差が「一般的に合理性を有するものとは考えられない程度に達している」というべきか否かを判断するに当たっては、選挙区の人口と配分された定数との比率の最大較差、人口比定数と現実の定数の隔たりの程度等が考慮要素とされている。
都道府県議会の定数配分につき、公選法15条8項ただし書を適用して人口比例の原則に修正を加える場合⇒その文理に照らして同項ただし書に定める「特別の事情」を要するものと解される。

最高裁H27.12.5:
選挙人の投票価値の較差が一般的に合理性を有するものとは考えられない程度に達していないが、公選法15条8項ただし書を適用してされた条例の制定時若しくは改正時において、同項ただし書にいう特別の事情があるとの評価が合理性を欠いており、又はその後の選挙時において前記の特別の事情があるとの評価の合理性を基礎付ける事情が失われたときは、当該定数配分は、裁量権の合理的な行使とはいえないものと判断されざるを得ないと判示。

本判決:
①特例選挙区を除く選挙区間の議員1人当たりの人口の最大格差は1対2.48であり、人口比定数による選挙区間の議員1人当たり人口の最大格差と差異がない
➁特例選挙区以外の選挙区間の最大格差は前回の選挙時より拡大しているものの、これは千代田区選挙区が特例選挙区でなくなったことによるものであり、千代田区選挙区と他の選挙区との間の最大格差は前回の選挙時より縮小していた。

本件選挙時における本件定数配分規定は適法
 
●憲法適合性 
特例選挙区の存置及び定数配分に関する本件条例の憲法適合性については、それぞれ公選法適合性の判断にあたって検討すべき事項と重なる
⇒その判断を引用した上で、憲法14条1項等の規定に違反していたものとはいえない。
判例時報2430

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2020年3月 6日 (金)

東京都教育委員会によりエンカレッジスクールとして指定された高校の校長の懲戒免職処分に裁量権を逸脱した違法があるとは認められないとされた事案

東京地裁H30.5.15     
 
<判断>
●懲戒事由該当性 
・・・
Xの行為は、調査書、面接、小論文及び実施検査の結果による総合成績の順に決定される合格候補者につき、実施要領に定めのない本件チェック基準に基づく出願日から受験日当日までの面接外の状況を集約した記録を踏まえて、それによる総合成績の数値を差し引くなどしたという点において、実施要項の定めに反するものと認められる
懲戒事由該当性を肯定。
 
●本件処分についての都教委の裁量権の逸脱濫用の有無 
①Xは、関係法令等を遵守して公正・公平な入学者選抜を実施した上で合格者を決定するべき校長、入学者選抜を選考委員会の委員長という地位にありながら、本件高校の荒んだ状況を改善するには、関係法令等上の根拠がなくとも致し方ないとの考えに基づき、
実施要項に明確な根拠がないこと、あるいは少なくとも明確な根拠があるか否かの正式な確認ができていなことを認識しながら、実施要項などに沿って算出される総合成績の数値を校長であるXの裁量との理由でもって引き下げたというもので、関係法令等をないがしろにしたその態様は、重大かつ悪質と言わざるを得ない。
②Xのそのような行為の結果として、本来であれば本件高校に合格するはずであった実人数にして合計21名の受験生が学び直しの機会を奪われたという甚大な影響により、エンカレッジスクールの入学者選抜制度に対する公平・公正という観点での信頼を大きく損なうもの。

Xに特段の処分歴がないことを踏まえても、懲戒免職とした本件処分が、社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したなどの違法があったということはできない。
 
<解説> 
●公務員に対する懲戒処分:
当該公務員に職務上の義務違反、その他公共の利益のために勤務することをその本質的な内容とする勤務関係の見地において、公務員としてふさわしくない非行がある場合に、その責任を確認し、公務員関係の秩序を維持するため、科される制裁であるところ、
懲戒権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、
当該公務員の前記行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をするべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択するべきかを決定することができる。 

その判断は、前記のような広範な事情を総合的に考慮してされる

地方公務員につき地公法所定の懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは、
平素から庁内の事情に通暁し、職員の指揮監督の衝に当たる懲戒権者の合理的裁量にゆだねられているというべきであり、
裁判所が当該処分の適否を審査するに当たっては、懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をするべきであったかどうか、又はいかなる処分を選択するべきであったかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、
懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会通念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべき。
(最高裁)
 
●本判決:
前記判例に沿って、Xの行為の懲戒事由該当を踏まえた上で、
①エンカレッジスクールに指定された高校の入学者選抜に当たって、実施要領によって算出される総合成績の数値を、関係法令等上の根拠もないままに、校長であるXの裁量との理由でもって引き下げたその行為態様の重大性及び悪質性
②その行為によって本来合格すべき多くの受験生が不合格とされたことによる甚大な影響
③エンカレッジスクールの入学者選抜制度に対する公平・公正という観点での信頼が損なわれた

本件処分が社会通念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したとは認められないと判断。

判例時報2429

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

 

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2020年2月13日 (木)

生活保護を受け、生活扶助について障害者加算の認定を受けていた⇒精神障害者保健福祉手帳が更新されなかった⇒保護費の返還処分が違法とされ、国賠請求が一部認容された事案

東京地裁H31.4.17    

生活保護を受け、生活扶助について障害者加算の認定を受けていた⇒精神障害者保健福祉手帳が更新されなかった⇒保護費の返還処分が違法とされ、国賠請求が一部認容された事案
 
<事案>
Y1(東久留米市)において生活保護を受けていたXは、平成19年から精神障害者保健福祉手帳の更新を受け、生活扶助について障害者加算の認定。
but
平成27年7月以降、精神障害者保健福祉手帳の更新を受けていなかった。

福祉事務所長は、平成28年9月、Xの精神障碍者保健福祉手帳の有効期限が経過していたことが発覚⇒
①同年10月以降の障害者加算を削除する変更決定をするとともに、
②生活保護法63条に基づき、精神障碍者保健福祉手帳の有効期限が切れた以降支払われていた障害者加算の全額を返還すべき額とする返還金額の決定処分。

Xが
本件加算削除処分の無効確認及び本件返還処分の取消しを求めるとともに、
本件加算削除決定により支給されるべきであった障害者加算の額の損害及び精神的損害を受けたとして、Y1及びY1に対して助言・指導を行う立場にあるY2(東京都)に対し、国賠請求の支払を求めた
 
<判断>
●生活保護法63条は、「資力があるにもかかわらず、保護を受けたとき」に該当する場合に、被保護者がその受けた保護金品に相当する範囲内において返還すべきことを定める。 
障害者加算は障害により最低生活を営むのにより多くの費用を必要とする障碍者に対し、そのような特別の需要に着目して基準生活費に上積みする制度であり、その要件に該当しない被保護者に対し、障碍者加算を支給した場合には、障碍者加算の額に相当する部分については、資力があるにもかかわらず、誤って保護を実施したことになる⇒費用返還の対象となる
●従前から障害者加算を受けていた者に対し、障碍者加算の要件該当性が失われたとして生活保護法63条に基づき、支給されていた障害者加算の額の返還を求めることは、実質的には遡って保護の変更の効果を生じさせるもの

職権による保護の変更(生活保護法25条2項)及び不利益変更の禁止(同法56条)の規定に照らして、障碍者加算の額の返還請求が認められるためには、積極的に障害者加算の要件該当性が失われたことを基礎付ける事由の損害が認められる必要があり、そのような事由が存在することの立証責任は保護の実施機関が負う。 

Xの精神障害者保健福祉手帳が更新されなかったことは、その精神障害の状態が障害者加算を要する障害の程度に該当しなくなったことを一応推認させる事実。
but
①従前は精神障碍者保健福祉手帳の更新が続いていたこと
②手帳を更新できなかったのは医師の診断があったからではなく医師との関係が良好でなかったためであること
③Xはその後も断続的に通院していたこと

精神障害者保健福祉手帳が更新されなかったという一事をもって、Xの精神障害の状態が障害者加算を要する障害の程度に該当しなくなったと推認することはできない
本件返還処分の違法性を肯定

●本件返還処分の違法性判断と同様の理由で、本件加算削除処分を違法とした。
福祉事務所所長は、Xが精神障碍者保健福祉手帳を更新できなかった理由などを認識していた必要な調査を行うなどのXの障害の程度の把握に努めるべき義務があったというべきであり、これらの義務を尽くしたとはいえない
国賠法上の違法性及び福祉事務所長の過失を認めた

本件加算削除処分の無効確認の訴えについては、行訴法36条の要件を満たさない⇒却下。
XのY2(東京都)に対する損害賠償請求については、Y2の職員の回答とXの損害との間に相当因果関係は認められないとして否定。

慰謝料の請求:
本件国賠請求が、実質的には、障碍者加算の額の支給という金銭債務の履行遅滞の責任を問うものであると解される⇒その障害者加算の額を超える損害の賠償を請求することはできない。(最高裁昭和48.10.11)
判例時報2427

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2020年2月 6日 (木)

政務活動費等の使途基準の適合性が問題となった事案

静岡地裁H31.2.15     
 
<事案>
静岡市の住民であるXらが、
同市の市議会議員団であるAが、
現在の同市に属する地区の出身で静岡茶の祖とされる聖一国師に関する小冊子を作成及び配布することを目的として、同市から交付を受けた政務調査費ないし政務活動費を違法に支出

同市に対してその支出額に相当する金員を損害賠償として支払い、又は不当利得として返還すべき義務を負うにもかかわらず、同市の執行機関であるY(静岡市長)は、その行使を怠っている
⇒地自法242条の2第1項4号に基づき、Yに対し、Aに前記支出額に相当する金員及びこれに対する遅延損害金の支払を請求するよう求めた住民訴訟。 
 
<判断> 
●静岡市の条例や規則等において、政務調査費の使途基準として、
「広報費」につき「調査研究活動、議会活動及び市の政策について住民に報告し、又は広報するために要する経費」
「広報広聴費」につき「政務活動及び市政について住民に報告するために要する経費」
と定めている。 

  静岡市における政務調査費及び政務活動費(合わせて「政務活動費等」)の支出について、政務活動費等の交付を受けた会派又はその所属議員は、これを本件使途基準に合致する経費に充てるために支出しなければならず、
これに合致しない経費に充てるために支出した場合は、法律上の原因なく、静岡市の損失において利益を受けたことになる⇒これに相当する額を不当利得として返還すべき義務を負う。

政務活動費等の交付を受けた会派又はその所属議員が本件使途基準に適合しない使途に充てたことにつき故意又は過失がある場合には、静岡市に対し、これに相当する損害賠償義務を負う。
具体的な政務活動費等の支出が本件使途基準に合致するというためには、本件使途基準の文言や、支出の対象となる行為の客観的な目的や性質に照らして、当該行為と、議員としての議会活動の基礎となる調査研究活動ないし政務活動との間に合理的関連性が認められることに加え、
支出の要否及び支出額等の点については、会派又は所属議員に一定の裁量権があることを考慮した上で、政務活動費等として支出する必要性、相当性が認められることを要する
   
本件冊子の作成の経緯や本件冊子の内容等

①Aの議員らによる聖一国師に関する調査研究の成果は、本件冊子に反映されている
②本件冊子は、Aが、静岡市の偉人である聖一国師について調査研究した事項を静岡市の住民に示すことを目的として作成されたもの
③関係法令等の文言に照らして、本件各支出のうち、前記の目的に沿う形で支出されたものについては、「住民に報告するために要する費用」として、「広報費」ないし「広報広聴費」に当たり、議員としての議会活動の基礎となる調査研究活動との間に合理的関連性を有する

これをもって、本件使途基準に反する支出ということはできない。

Aが各団体等を通じて静岡市の住民に配布したもの

前記の目的に沿うものとして、議員としての議会活動の基礎となる調査研究活動との間に合理的関連性を有する上、支出する必要性もある⇒本件使途基準に適合する支出。
but
Aが、直接に、福岡市や京都市等の市街団体へ配布するために本件冊子に係る政務活動費等を支出することは、市街団体に対し、静岡市を宣伝(PR)することを目的として本件冊子を配することを内容とする行為⇒同支出は、広報費のうちの住民に報告するために要する経費ないし広報広聴費に当たらないものと解するのが相当。

本件冊子を通して、聖一国師や静岡茶が静岡市の魅力として訴求力があるかどうかを調査研究すること自体については、一般論として、調査研究としての必要性・合理性を肯定し得る。
but
本件において、実際に、Aの議員らが、本件冊子を静岡市外に配布した後、配布先において、実際に、Aの議員らが、本件冊子を静岡市外に配布した後、配布先において何部配布され、どのような反応があったのか、本件冊子を通して静岡市の魅力がどの程度伝わったのかなどについて、具体的に調査を行っていたことw認めるに足りる証拠はない、。
⇒静岡市外へ配布するための本件冊子に係る支出が、政務活動費の使途基準のうちの「調査研究費」(議員の議会活動の基礎となる調査研究のための費用)に該当する支出として必要性・合理性があったということはできない。

Aが直接に静岡市外に配布したものと認められるものに係る支出については、政務活動費の使途基準に反する支出である。

判例時報2426

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2020年2月 5日 (水)

収支報告書上の支出の一部が実際には存在しないものであっても、当該政務活動費等の交付を受けた会派又は議員が不当利得返還義務を負わない場合

最高裁H30.11.16    
 
<争点>
収支報告書に記載された支出のうち一部は実際に存在しない架空のもの。
but
本件会派の収支報告書上の支出総額が、政務活動費等の交付額を大きく上回っており、支出総額から架空のものとされた支出を差し引いても、なお支出総額が交付額を上回っていた⇒このような場合も不当利得が成立するか?
 
<判断>
政務活動等につき、具体的な使途を個別に特定した上で政務活動費等を負う付すべきものとは定めておらず、年度ごとに行われる決定に基づき月ごとに一定額を交付し、年度ごとに収支報告を行うこととされ、
その返還に関して当該年度における交付額から使途基準に適合した支出の総額を控除して残余がある場合にこれを返還しなければならない旨の定めがある新旧条例に基づいて交付された政務活動費等について、
その収支報告書上の支出の一部が実際には存在しないものであっても、当該年度において、収支報告書上の支出の総額から実際に存在しないもの及び使途基準に適合しないものの額を控除した額が政務活動費等の交付額を下回ることとならない場合には、当該政務活動費等の交付を受けた会派又は議員は、県に対する不当利得返還義務を負わない。 

本件会派の本件各年度における各収支報告書上の支出の総額から本件各支出を控除した額は、それぞれの年度における政務活動費等の交付額を下回ることとはならない⇒本件会派が不当利得返還義務を負うものとはいえない。
 
<解説>
●政務活動費等に関する条例の定め 
政務活動費について、地自法は、わずかに、
①議員の調査研究その他の活動に資するため必要な経費の一部として政務活動費を交付することができ、その経費の範囲は条例で定めること、
②収入及び支出の報告書を議長に提出すること、
③議長は使途は透明性の確保に努めること
のみを定めており、
交付、収支報告、清算の具体的な手続は各地方公共団体の条例に委ねられている。

神奈川県の新旧条例:比較的オーソドックスなもの
年度ごとに行われる交付決定に基づいて、一定期間ごとに一定額を交付し、年度末に収支報告、清算を行った上で、交付額から適法な支出額を控除して残余がある場合に返還義務が生ずるというもの。

具体的な支出に対応させてその都度交付されるのではなく、いわゆる概算払い方式がとられている

●民法703条の不当利得返還請求権の成立要件:
①損失
②利得
③損失と利得の間の因果関係
④利得が法律上の原因に基づかないこと

政務活動費等法律上の根拠:
政務活動費等は、地自法及び条例上、その使途を限定して交付されるものであり、使途基準に適合する支出を行った結果残余が生じた場合には当然に返還すべき性質のもの

「交付を受けた政務活動費等のうち、使途基準に適合する支出に充てていない部分がある」場合には、その部分については、④法律上の原因に基づかない利得となろう

本件返還規定は、これを返還すべきことを明確にしたもの。
●所定の支出が実際には存在しないにもかかわらず架空の領収証を提出したような場合には、これが違法な支出のために政務活動費等を取得するものであり、そのように取得された政務活動費等は前記④法律上の原因に基づかない利得であるとの評価が可能であるか?
政務活動費等の交付にあたって具体的な使途を個別に特定することなく、概算払いをして、年度ごとにまとめて生産することにより透明性を確保⇒年度末に虚偽内容の領収証を提出したとしても、交付の段階で「架空の支出のために政務活動費等を取得した」と評価することは困難

●政務活動費等に関する条例に、本件返還規定のように残余について返還義務があることをいう規定とは別に、違法な支出が認められた場合等に返還義務を定める規程が存在する場合等には、異なる結論となる可能性は否定できない。 
判例時報2426

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2020年1月23日 (木)

滞納処分(差押処分)が超過差押えに該当して違法とされた事案

奈良地裁H31.2.21    
 
<事案>
Xは、市税である市県民税及び固定資産税を滞納⇒滞納処分として土地建物についてのXの持分の差押⇒Xは、処分行政庁の所属するY(奈良県大和郡山市)に対し、本件処分は、地税法が準用する税徴法が禁止している超過差押え(同法48条1項)及び無益な差押え(同条2項)に当たる⇒①本件処分の一部取消しを求めるとともに、本件処分によりXが精神的苦痛を被ったと主張し、②国賠法1条1項に基づき10万円及び遅延損害金の支払を求めた。
 
<判断> 
●請求①
本件処分は無益な差押えには該当しない。
超過差押え該当性について:
差押処分時に財産価値を正確に把握するのは困難⇒徴収職員が差し押さえる財産に裁量権を認めた。
but
その裁量権の行使に当たっては、滞納者の生活への支障や財産の可分性等を考慮して判断すべき。
本件不動産は経済的用法に従っても6つに分けられ、そのうち4つはそれだけで滞納税額を上回るにもかかわらず、滞納税額の約10倍もの価値を有する本件不動産全てを差し押さえたことは、前記裁量権の逸脱・濫用⇒本件処分全体が違法⇒処分権主義に従い、Xが取消しを求める限度で請求を認容。
 
●請求② 
国賠法1条1項の違法性につき、行政処分の取消訴訟の違法性とは異なるとする違法性相対説。
その判断基準として職務行為基準説(最高裁H5.3.11)

税収職員には税の滞納があれば滞納処分をする義務があり、差押処分時に財産価値を正確に把握するのは困難
⇒滞納処分における徴収職員の財産の選択にかかる裁量権は広範なもの。
①本件不動産は市場性減価が一定程度見込まれる市街化調整区域内にある⇒直ちに価値を把握するのは困難。
②Xの納税意思がないまま、数年にわたって滞納が継続していたなどの本件の具体的事情。

Yの徴収職職員が職務上の注意義務を尽くすことなく漫然と本件処分を行ったとは認められない⇒前記違法性を否定。
 
<解説>
滞納税額を超える財産の差押えに関する裁判例:
①滞納税額に対し、実質価格で60~70倍、購買価額で30~40倍という超過額の著しい差押えにつき、他に財産がないことなどから有効とした事案(最高裁昭和46.6.25)
②滞納税額の約4倍に相当する複数の預金債権の差押えを超過差押えに該当するとして違法とした事案(那覇地裁H8.12.17)
③滞納処分後になされる公売処分に関する事案であるが、滞納税額の10倍近い公売処分につき、滞納税額に達する唯一の財産であったことなどから適法とした事案(京都地裁昭和35.6.22)

滞納処分が超過差押えに該当する場合であっても、差押えの一部解除等により超過差押えでなくなったときは、その違法性は治癒される
判例時報2424

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原子力発電所事故当時発電所長の地位にあった者から事故当時の事情を聴取した調書中の個人識別記述等を不開示とした部分開示決定の一部取消しを求めた事案

東京地裁H30.3.28     
 
<事案>
内閣官房に設置された事故調査・検証委員会(政府事故調)が、本件事故当時の福島第一原発所長から事情を聴取した聴取結果調書(本件各調書)について、Xらが、行政情報公開法に基づき、開示の請求⇒処分行政庁により当初その全部を開示しない旨の行政処分不開示決定、その後、状況の変化を踏まえ、個人に関する情報等が記録されている部分を除いて開示する旨の変更決定。

Xら:なお不開示とされた一部(本件各記述)について、
①東京電力のグループマネージャー(GM)以上の職位にある個人の氏名又は職名(氏名等)は公表慣行がある⇒法5条1号ただし書イの公領域情報に該当
②本件各記述を公にすることにより害されるおそれがある個人の権利利益よりも、同種の過酷事故予防策の構築に必要な事故原因の究明という人の生命、健康等を保護するための必要性が上回る⇒同号ただし書ロの生命等保護情報に該当し、同号所定の不開示情報には当たらない。

本件各記述を不開示とした部分の取消しを求めた。
 
<規定>
行政情報公開法 第5条(行政文書の開示義務)
行政機関の長は、開示請求があったときは、開示請求に係る行政文書に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き、開示請求者に対し、当該行政文書を開示しなければならない。
一 個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの。ただし、次に掲げる情報を除く。
イ 法令の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報
ロ 人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報
・・・
 
<判断> 
●①の公開情報該当性
本件各記述は、その前後の文章の内容と相まって、個人の行動等を記録した情報(行動情報)としての有意な方法(本件各行動情報)を構成しており、本件各行動情報に係る本件各記述以外の部分が既に開示されている
⇒本件各記述が開示されると本件各行動情報の全部が明らかになる関係にあることを踏まえた上で、公領域情報該当性は、有意といえる最小の情報のまとまりの全体について、法令の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されているか否かを吟味すべきもの。
①本件各調書の作成目的や性質に鑑み、本件各記述に係る個人識別記述等のみをもっては有意の情報であるとは解することができず、
②本件各行動情報全体について、本件各変更決定時に公領域情報に該当したことをうかがわせる事情は見当たらない

本件各記述を含む本件各行動情報は、法5条1号ただし書イの公領域情報として不開示情報から除外されない。
 
●➁の生命等保護情報該当性 
行政文書を
①保護される人の生命、健康、生活又は財産の利益と
➁これを公にすることによって個人の権利利益が害されるおそれ
とを比較衡量して、前者が後者に優越すると認められることを要する。
本件各記述部分が開示されることによって、政府事故調による調査及びその結果が公表されていることによっては実現できないような人の生命、健康、生活又は財産の利益の保護が図られることになる蓋然性が高いとまでは認められない一方、
本件各記述部分が公にされることによって本件各記述対象者の権利利益が害されるおそれは無視し得る程度に低いものとはいえない

本件各記述は、法5条1号ただし書ロの生命等保護情報として不開示情報から除外されるものであったとはいえない。
 
<解説>
●①の公開情報該当性
本判決:
公表慣行があるといえるためには、公表主体が行政機関であるべきとするYの主張を退け、
事実上の慣行として公にされ、又は公にすることが予定されていれば足りる
but
①一時的に公にされただけで爾後も反復継続的に公にされることが見込まれる状況になく、また、
➁類似の情報が公にされていても、情報としての性格が同種の情報についてのものでなかったり、
③個別的な事情に基づいて公にされたりしているにとどまれば、
公表慣行があるとはいえない
結論として、過酷事故の一次資料についての公表慣行を認めることはできない。

●➁の生命等保護情報該当性 
本判決の比較衡量の枠組み自体は一般的なもの。
①学識経験者等によって構成される政府事故調が、多数の関係者からのヒアリング結果等の一次資料を基にして中立的な立場から再発防止策を提言する報告書を作成してこれが公表されるとともに、
➁調査・検証によって明らかになった事実関係が検証・批判可能な形で公にされている

不開示とされた本件各記述部分が開示されることにより、過酷事故の再発防止という生命等の保護が一層図られることになる蓋然性が客観的にみて高いとまではいえず、不開示により保護される利益に優越するとまでは認められないと判断。

他の関連情報等の公表状況を勘案した上での事例判断。
判例時報2424

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