行政

2022年5月19日 (木)

都市計画決定から相当期間経過で、事業認可の違法性判断の枠組み基準を示した事案

静岡地裁R2.12.24

<事案>
国土交通大臣から権限の委任を受けた中部地区整備局長及び静岡県知事が、訴外A(JR東海)沼津駅付近の鉄道高架化に関して、平成15年に決定された都市計画の事業計画の変更認可
⇒事業地内又はその周辺において、土地を所有するなどしているXら28名が、Y1(国)及びY2(静岡県)を相手に、本件各変更認可の違法を主張して、
平成20年の各変更認可については無効確認を
令和1年の各変更認可については取消しを求める。

Xら:
Xら全員に原告適格が認められるとした上で、本件各変更認可の違法性について、
①都市計画事業は、事業の内容が都市計画に適合することが認可の要件とされている(都計法61条1号)ところ、本件都市計画決定は、Y2がその裁量を逸脱濫用していたものであるから違法であり、それに基づいてされた本件各変更認可も違法
本件都市計画の変更後に都計法21条1項に基づく都市計画の変更をすべき事情が存したにもかかわらず、これが変更されないままになされた本件各変更認可は違法

<判断>
最高裁H17.12.7(小田急線高架化事件)を参照した上で、
本件高架化事業は、環境影響評価法及び静岡県環境影響評価条例が定める環境影響評価等の対象事業には該当せず、本件高架化事業の規模が大きく、かつ、環境に与える影響の程度が著しいものとなるおそれがあるものとは認められない
事業地の周辺に居住等する者が、本件高架化事業が実施されることにより、騒音、振動等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれがあるとは認められない。

Xらのうち、事業地周辺に居住等するにすぎない者、すなわち、事業地内において現に不動暖を所有するか、又は居住するか、若しくは事業地内の土地について収用裁決を受けた者以外の者の原告適格を否定してその訴えを却下。

争点①:
本件都市計画は、その決定時点において、必要性、合理性が認められ、Y2がその裁量を逸脱濫用したとは認められない。

争点②:
その後の社会・経済情勢の変化のあった本件各変更認可の時点においても、本件都市計画の必要性や合理性が失われたとはいいがたく、本件都市計画を変更すべきことが明白とはいえない⇒本件各変更認可は適法

<解説>
●事業認可の取消訴訟等では、その前提となる都市計画決定の違法性が争点となることが多い。

本判決:
事業認可の違法性を判断するに際して都市計画の違法性を判断する場合の基準時について、都市計画決定時と解する立場。

行政処分の違法性の判断基準時を当該行政処分時と解する通説的な立場に依拠。
but
都市計画の事業認可の取消訴訟においては、往々にして都市計画から事業認可までの時間的間隔が大きく、その間に社会・経済情勢が少なからず変化⇒これを一切考慮することなく事業認可の違法性を判断することに疑義が生ずる場合もある。

裁判例の中には、都市計画決定後の事情の変化が事業認可の違法性に影響を及ぼす余地を残すものが散見

●本判決:
争点②の判示部分で、
都市計画決定後に相当の長期間を経過し、当該都市計画の基礎とされた社会・経済情勢に著しい変化があったこと等により、当該都市計画の必要性や合理性がおよそ失われ、都計法21条1項に基づき当該都市計画を変更すべきことが明白であるといえる事情が存するにもかかわらず、これが変更されないまま事業認可申請に至ったものであることが一見して明らかであるなどの特段の事情がある場合に限り、事業認可が違法となる旨判示。

都計法21条1項が、都市計画の決定権者たる都道府県又は市町村は、都計法6条1項又は2項により都道府県がおおむね5年ごとに行うこととされている都市計画に関する基礎調査あるいは都計法13条1項20号に規定される政府が法律に基づき行う調査の結果、都市計画を変更する必要が明らかとなる等の事情が生じたときは、遅滞なく、当該都市計画を変更しなければならない旨規定。
都市計画後の事情により、事業認可が違法となる余地を認めた。

本判決:
①都計法21条1項の文言が「調査の結果都市計画を変更する必要が明らかとなったとき」となっており、都市計画を経納する必要の明白性を要求
②事業認可の認可権者は、事業の内容が都市計画に適合していることを審査すれば足りるのであって(都計法61条1号)、それを超えて都市計画の内容を審査することまでは想定されておらず、かえって都市計画の具体的な内容にわたって審査を行うことは、都市計画の決定権者たる地方公共団体への不当な干渉となってしまう場合がある。

都市計画を変更すべき事情が外部からも一見して認識できる程度のものである必要がある。
都計法21条1項の趣旨に照らして違法として取消しを認めることは、実質的に都市計画決定権者に対して同項に基づく都市計画の変更を迫ることになる
その違法となる場合の要件は、行訴法37条の2に規定される非申請型義務付け訴訟の訴訟要件及び本案勝訴要件に準ずる程度の要件を要求すべきと解される(たとえば、当該都市計画に基づく事業が実施された場合に原告に重大な損害を生じ、その損害を避けるために都市計画の変更をする以外に適当な方法がないという事情は、都市計画を変更すべきといえる一事情になろう。)。

判例時報2511

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0)

2022年5月18日 (水)

映画製作会社に対して助成金を交付しない旨の決定が違法として取り消された事例

東京地裁R3.6.21

<事案>
映画製作会社のXが、その製作映画(本件映画)について、独立行政法人日本芸術文化振興会理事長(「理事長」)による内定を経て、文化芸術振興費補助金に係る助成金の交付申請⇒理事長から、本件映画には麻薬取締法違反により有罪が確定した者が出演しており、これに対して助成金を交付することは、公益性の観点から適当ではない⇒本件助成金を交付しない旨の決定(本件処分)⇒Y(日本芸術文化振興会)を相手に、本件処分の取消しを求めた。

<争点>
本件処分の適法性(=理事長が本件内定を受けたXに本件助成金を交付しないこととした本件処分につき、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法が認められるか)

<判断>
理事長の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用の有無を判断するに当たっては、交付内容の取消し又は不交付決定の根拠とされた公益の内容、当該芸術団体等に対して助成金を交付することにより当該公益が害される態様・程度、交付内定の取消し又は不交付決定により当該芸術団体等に生じる不利益の内容・程度等の諸事情を総合的に考慮して、交付内容の審査における芸術的観点からの専門的知見に基づく判断を尊重する文化芸術振興費補助金による助成金交付要綱(本件要綱)の定めや仕組みを踏まえてもなお助成金を交付しないことを相当とする合理的理由があるか否かを検討すべきであるところ、
本件処分は、
①本件映画につき、芸術的観点からの専門的知見に基づく審査の結果を踏まえて本件内定がされていたこと、
②本件助成金の交付によって本件俳優が利得を得るものではなく、本件処分の根拠とされた薬物乱用の防止という公益との関係で、違法薬物に対する許容的な態度が一般に広まるおそれがあるとはえいないこと、
③本件処分によりXに生じる不利益は、映画製作事業の実施に係る経済的な面においても、また、映画表現の重要な要素の選択に関する自主性の確保の面においても小さいものとはいえないことなど

交付内容の審査における芸術的観点からの専門的知見に基づく判断を尊重する本件要綱の定めや仕組みを踏まえてもなお本件助成金を交付しないことを相当とする合理的理由があるということはできない⇒理事長の裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものと認められる。

<規定>
第三〇条(裁量処分の取消し)
行政庁の裁量処分については、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつた場合に限り、裁判所は、その処分を取り消すことができる

<解説>
●本件処分の適法性判断
本件処分は、理事長に裁量権の範囲の逸脱またはその濫用があった場合に限り違法となる(行訴法30条)。
関係法令のみならず、理事長が定めた本件要綱及び審査基準においても、出演者の犯罪行為あるいは公益性は不支給要件として定められていない。

判例:
行政庁がその裁量に任された事項について裁量権行使の準則を定め、処分がこの準則に違背して行われたとしても、原則として当不当の問題を生ずるにとどまり、当然に違法となるものではない(最高裁昭和53.10.4:マクリーン事件)。
処分基準が定められている場合については、訴えの利益の有無に関する判示の中ではあるが、当該処分基準の定めと異なる取扱いをすることを相当と認めるべき特段の事情がない限り、そのような取扱いは裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たるとするものがある(最高裁H27.3.3)。
学説:裁量権の公正な行使の確保、平等取扱いの原則、相手方の信頼保護といった要請からすると、準則と異なった判断をするには、そのための合理的理由が必要(塩野)。

●Xは、本件処分に先立って、理事長から本件内定を受けている
地方公務員の採用内定取消しについて、当該事例においての判断であるが、採用内定及びその通知は法令上の根拠に基づくものではなく、採用発令の手続を支障なく行うための準備行為⇒抗告訴訟の対象となる処分に当たらない(最高裁昭和57.5.27)。

本件内定:法令ではなく本件要綱によって定められている⇒本件内定を得たこと自体の効果から直ちに理事長の裁量権が制限されるといった議論にはならない。

●本件:芸術作品に関係した者が犯罪行為をした場合への公的助成のあり方という問題に関し、
行政庁による最終判断の前段階で専門家による審査を通過していたが、行政庁が全く別の視点から専門家による審査結果と異なる判断をしたという事例について、
裁判所が法令の趣旨及びそれを反映した要綱に基づく判断構造等に着目して個別具体的な事情を踏まえて判断したもの。

判例時時報2511

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0)

2022年5月 4日 (水)

市庁舎前広場の使用不許可処分が適法とされた事案

名古屋高裁金沢支部R3.9.8

<解説・判断>
● 最高裁:
学校施設のように特定の目的のために使用すべきものとして設置され、それ以外の目的に使用することを基本的に制限されている施設については、目的外使用の拒否の判断が、原則として、管理者の裁量にゆだねられている(最高裁H18.2.7)と判示する一方で、
地自法244条所定の「公の施設」(住民の福祉を増進する目的をもってその利用に供するための施設)に該当する市民会館や市福祉会館の利用を拒否することが許容されるのは、「他人の生命、身体又は財産が侵害され、公共の安全が損なわれる危険の発生が具体的に予見される場合」や「警察の警備等によってもなお混乱を防止することができないなど特別な事情がある場合」に限られると判示(最高裁H7.3.7等)。

本件:本件広場が地自法244条2項にいう「公の施設」に当たるか否かが争われた。

本判決:
同項の適用を受ける「公の施設」といえるためには、当該施設が住民の福祉を増進することを本来の目的として設置された施設であることを要する。
旧広場完成後に制定された金沢市庁舎前広場管理要綱上も、旧広場は金沢市庁舎の一部として定義付けられ、市の事務または事業の執行に支障のない範囲内で市民の利用を許可することとされていた⇒旧広場が住民の福祉を増進することを本来の目的として設置されたものと認めることはできない。
改修工事後も旧広場の性質が変更されることなく維持されている⇒本件広場は「公の施設」に当たるということはできない。

● 最高裁H18.2.7:
行政財産である学校施設の目的外使用の許否に関する管理者の裁量判断は、許可申請に係る使用の日時、場所、目的及び態様、使用者の範囲、使用の必要性の程度、許可をするに当たっての支障又は許可をした場合の弊害若しくは影響の内容及び程度、代替施設確保の困難性など許可しないことによる申請者側の不都合又は影響の内容及び程度等の諸般の事情を総合考慮してされるもの
その裁量権の行使が逸脱濫用に当たるか否かの司法審査においては、
裁量権の行使に当たっての判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し、
その判断が、①重要な事実の基礎を欠くか、又は②社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合には、裁量権の逸脱又は濫用として違法になる。

尚、違法とした裁判例。
近時、公物の有効利用という観点から、従前はもっぱら公用物として利用されてきたものが公共用物としても利用される現象が多方面で見られるようになっている
⇒公用物は公用物としてしか用いられないという固定観念は払拭されるべきであり、公用物としての本来の用途を妨げることなく、公共用物的利用を行う余地を拡大する上で、公用物について、「空間的時間的分割使用」の観念の導入が重要であるとの指摘。

本件:Xらは、公用物を公共用物的に利用する場面であり、「空間的時間的分割使用」による市庁舎の公用物としての本来の用途を妨げることのない利用に該当⇒「公の施設」に準じた基準により判断されなければならない。
vs.
本判決:本件広場は、あくまで公用財産である金沢市庁舎建物の敷地の一部であり、独立した「公の施設」とは認められず、この性質は、Xらの指摘する「空間的時間的分割使用」という本件広場の利用形態によっても変更されるものではない。
⇒金沢市長による本件不許可処分に裁量権の逸脱、濫用の違法は認められないと判断。

判例時報2510

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0)

2022年4月24日 (日)

個人情報の保護に関する法律45条1項の保有個人情報の該当性

最高裁R3.6.15

<事案>
東京拘置所に未決拘禁者として収容されているXが、行政個人情報保護法に基づき、東京矯正管区長に対し、収容中にXが受けた診療に関する診療録に記載されている保有個人情報(「本件情報」)の開示を請求⇒同法45条1項所定の保有個人情報に当たり、開示請求の対象から除外されているとしてその全部を開示しない旨の決定⇒Yを相手に、本件決定の取消しを求めるとともに、国賠法1条1項に基づき慰謝料等の支払を求めた。

<判断>
刑事施設に収容されている者が収容中に受けた診療に関する保有個人情報は、行政個人情報保護法45条1項所定の保有個人情報に当たらない(補足意見あり)。
本件情報は同項所定の個人情報に当たらず開示請求の対象となる
⇒原判決を破棄し、更に審理を尽くさせるため、原審に差し戻した。

<解説>
●行政個人情報保護法45条1項は、同項所定の保有個人情報につき同法第4章の規定を適用しないこととした

当該保有個人情報が、個人の前科、逮捕歴、勾留歴等を示す情報を含んでおり、これを開示請求等の対象とすると、例えば、雇用主が採用予定者の前科の有無等をチェックする目的で本人に開示請求させること等により前科等が明らかになる危険性があるなど、被疑者、被告人、受刑者等の立場で留置場や監獄に収容されたことのある者等の社会復帰や更生保護上問題となり、その者の不利益になるおそれがある。

大阪高裁R3.4.8:
当該情報は形式的には行政個人情報保護法45条1項所定の保有個人情報に該当するとしつつ、
立法趣旨を達成するために診療に関する情報という有用かつ必要な情報を開示請求の対象から除外することは、規制目的と規制手段との合理的均衡を欠き、個人情報保護法制の基本理念と整合しない⇒当該情報には同項が適用されない。

学説:
憲法上の抽象的権利に関する議論等を基礎に、同項の適用範囲の限定等を試みる見解。

曽我部:
憲法13条で保障される自己情報コントロール権の解釈指針としての効力や、行政個人情報保護法が保有個人情報の開示請求を原則として認めるものとしていること等
⇒同法45条1項については限定解釈がされるべき。

●本判決:
行政個人情報保護法45条1項が、行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律(「旧法」)の全部改正の際に新たに設けられた規定であることに着目。

①・・・行政個人情報保護法には診療関係事項に係る保有個人情報を開示請求の対象から除外する旨の規定は設けられなかったことを指摘し、
これは医療行為に関するインフォームド・コンセントの理念等の浸透を背景とする国民の意見、要望等を踏まえ、診療関係事項に係る保有個人情報一般を開示請求の対象とする趣旨。
②行政個人情報保護法45条1項を新たに設けるに当たり、特に被収容者が収容中に受けた診療に関する保有個人情報について、同法第4章の規定を適用しないものとすることが具体的に検討されたこと等もうかがわれない、。

被収容者が収容中に受けた診療に関する保有個人情報は同法45条1項所定の保有個人情報のいずれにも該当しない。

●本判決:
国賠請求に係る部分のみならず、本件決定の取消請求に係る部分についても、自判をせずに差戻しをしている。

本件情報が行政個人情報保護法45条1項所定の保有個人情報に当たらないことを理由に本件決定を取り消したとしても、その判決の拘束力は同法14条各号のの不開示情報の存否の判断には及ばず、不開示情報が含まれることを理由に改めてその全部又は一部を不開示とする決定がされる可能性もある⇒その点も含めて差戻審において審理を行うことが紛争の一回的解決の要請にかなう
同法が前記のような処分理由の差替えをおよそ許さない趣旨と解すべき根拠は見当たらず、同法45条1項と同法14条各号との関係等に照らせば、これを認めたとしても、直ちに理由提示の慎重考慮担保機能が害されるともいえない。

判例時報2509 

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0)

2022年4月 7日 (木)

「生活保護法による保護の基準」の改定が違法とされた事案

大阪地裁R3.2.22

<事案>
法の委任に基づいて厚生労働大臣が定めた「生活保護法による保護の基準」の数字の改定(本件改定)⇒所轄の福祉事務所長らからそれぞれ生活扶助の支給額を減額する旨の保護変更決定(本件各決定)を受けた

本件改定は憲法25条、法8条等に違反する違憲、違法なものであるとして、
①Yらのうち国を除くY2~Y13(大阪市ほか各市)を相手に、本件各決定の取消しを求めるとともに、
②Y1(国)に対し、国賠法1条1項に基づき、損害賠償を求めた。

<争点>
本件改定に係る厚生労働大臣の判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があり、本件改定が法3条、8条2項に違反するといえるか?

<判断>
生活扶助の老齢加算の廃止を内容とする保護基準の改定の違法性について判示した最高裁判例の判断の枠組みを、(加算の廃止ではなく)基準生活費の減額という場面に即した表現に改めながら採用。

●(1)ゆがみ調整とデフレ調整を併せてすることについて
●(2)デフレ調整における物価指数を比較する年の選択について
●(3)デフレ調整における改定率の設定について
⇒本件改定後の生活扶助基準の内容が被保護者の健康で文化的な生活水準を維持するものであるとした厚生労働大臣の判断には、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性を欠いている⇒最低限度の生活の具体化に係る判断の過程及び手続に過誤、欠落があり、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用がある⇒本件改定は、法3条、8条2項の規定に違反し、違法。

<解説>
●平成24年2月最判及び平成24年4月最判は、 生活扶助の老齢加算の廃止を内容とする保護基準の改定の違法性について判示したものであるが、
当該判断枠組みを採用する理由として述べるところは、基準生活費の減額の場面にも基本的に当てはまる。


ゆがみ調整:基準部会という専門家による第三者機関が取りまとめた報告書(平成25年報告書)を踏まえてされたもの
デフレ調整:これとは別に厚生労働大臣が行ったもの

本件では、ゆがみ調整とデフレ調整を併せてすることの当否が争われた。

本判決:
ゆがみ調整と併せて、生活扶助基準の全体としての水準(高さ)を調整すること自体が不合理であるとはいえない
but
ゆがみ調整においては消費実態と生活扶助基準との間の平均的なかい離が解消されていないものと考える余地が否定できない
ゆがみ調整においてもちいられた指数がその性質上物価の影響を受け得るもの

デフレ調整における物価指数を比較する年の選択:
平成20年からの物価の下落を考慮した点において、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性を欠く⇒その判断の過程及び手続に過誤、欠落がある。

統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性の有無等について審査するという平成24年4月最判の判断枠組み。

デフレ調整における改定率の設定について、消費者物価指数の下落率よりも著しく大きい下落率を基に改定率を設定した点において、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性を欠く⇒その判断の過程及び手続に過誤、欠落がある。

あくまで物価の動向を勘案するという厚生労働大臣の判断を前提に、その判断の過程及び手続に過誤、欠落があるかを、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性等について審査するという平成24年4月最判の判断枠組み。

●本判決:
本件改定後の生活扶助基準の内容が被保護者の健康で文化的な生活水準を維持するものであるとした厚生労働大臣の判断には、「その余の点について判断するまでもなく」平成20年からの物価の下落を考慮し、消費者物価指数の下落率よりも著しく大きい下落率を基に改定率を設定した点において、統計等の客観的な数値等との合理的関連線や専門的知見との整合性を欠いている⇒最低限度の生活の具体化に係る判断の過程及び手続に過誤、欠落があり、裁量権の逸脱又はその濫用がある。

判例時報2506・2507

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0)

2022年4月 3日 (日)

行政処分の職権取消しの可否が問題となった事案

最高裁R3.6.4

<事案>
被災者生活再建支援法所定の被災者生活再建支援金に関し、これを支給した被災者生活再建支援法人とその支給を受けた世帯主らとの間で、その返済の要否が争われた。
Yは、平成23年9月から同年12月末までの間絵に、本件各世帯が大規模半壊世帯に該当するとして、本件世帯主らに対し、支援法3条所定の金額(37万5000円~150万円)の支援金を支給する旨の決定をし、その後これを支給。
・・・・
Yは、平成25年4月、本件世帯主らに対し、本件各世帯が大規模半壊世帯に該当するとの認定に誤りがある⇒本件各支給決定を取り消す旨の決定。
本件 Xら(47名)が、本件各支給決定を取り消すことや許されないとして、Yを相手に、本件各取消決定の取消しを求める一方(本訴)、
Yが、本件各取消決定により本件各支援金を保持する法律上の原因が失われたとして、Xらに対し、本件各支援金に相当する額の不当利得返還を求めた(反訴)

Y:公益財団法人都道府県センター:宮城県から支援金の請求に関する事務の委託を受けた支援法人

<争点>
①本件各世帯が大規模半壊世帯に該当するか
②支給要件の認定の誤りを理由に本件各請求決定を取り消すことが許されるか

<原審>
争点①について:大規模半壊世帯に該当するとは認められない

争点②について
A:本件各支給決定の効果を維持することによる公益上の不利益(=基金の健全性に支障を生じさせ、支援金の請求に関し不公平感を生じさせる可能性があること)が、
B:本件各支給決定の取消しによって生ずる不利益(=本件証明書の内容が事後に変更されるリスクは事務処理上の利益を享受しているYが負担すべきであり、その被害認定を事後に覆すことは支援金の使用をちゅうちょさせるなど支援法の趣旨に沿わない事態を生じさせかねないこと等)を上回らない

本件各支給決定を取り消すことは許されない。

本訴請求を認容するとともに反訴請求を棄却

<判断>
争点①に対する原審の判断を前提として、
争点②について、本件各支給決定を取り消すことは許される

<解説>
●行政処分の職権取消しの適否に関する判基準
本件各取消決定は、本件各支給決定に原始的な瑕疵(支給要件の認定の誤りという違法)があることを理由として、その効力を遡って失わせるものであり、行政処分の職権取消しに当たる。

職権取消し:法令又は公益(行政目的)に違反している状態の是正を目的とするものであり、明文の規定がなくてもすることができる。
but
各名宛人に利益を付与する処分(授益的処分)の職権取消しは、名宛人に不利益をもたらすおそれがある⇒一定の制約を受ける(取消権の制限)。

最高裁判例:
授益的処分の取消しは、
A処分の取消しによって生ずる不利益と
B処分の効果を維持することによる不利益
とを比較衡量し、その取消しを正当化するに足りる公益上の必要があると認められるときにすることができる。

具体的な利益状況が事案ごとに異なる⇒処分に係る法律の仕組みに即して、その取消しによる不利益や瑕疵の原因等を具体的に考慮するのが相当。

前記の利益衡量における考慮要素:
(1)処分の瑕疵(違法)の原因、内容及び程度
(2)処分の取消しにより名宛人その他の者が被る不利益の性質、内容及び程度
(3)処分の効果を維持することにより害される公共の利益の性質、内容及び程度
(4)処分の取消しの時期
が中心に。

(3)について、社会保障の分野での取扱いを参考にすると、
①支給の適法性及び平等原則の確保による制度の安定的運用
②財政規律の確保
③多数の者が迅速な給付を受ける利益
を挙げることができる。

●本件について
支援法は、その目的、内容(支援金の支給要件である「被災世帯」の意義、支援金の額の決定方法等)等⇒
自然災害による住宅の被害が所定の程度以上に達している世帯のみを対象として、その被害を慰謝する見舞金の趣旨で支援金を支給する立法政策を採用し、
支給要件の認定を迅速に行うことを求めつつ、
公平性を担保するため、
その認定を的確に行うことを求めている。

上記の利益衡量:
本件マンションの被害の程度は客観的には一部損壊にとどまる⇒本件各支給決定の誤りは支援金の支給要件の根幹に関わる。

本件各支給決定の効果を維持すると、被害を受けた極めて多数の世帯の間で公平性が確保されず、税金その他の貴重な財源(補助金等に係る代さんの執行の適正化に関する法律3条1項)を害し、また、今後、罹災証明書の認定を誤らないようにするため市町村に過度に慎重かつ詳細な調査等を促しかねず(誤って支給された支援金が返金されない⇒損失を被った支援法人や国が誤った認定をした市町村に対して損害賠償等を求める可能性を否定できず、これを回避したい市町村にとって過度に慎重な調査を行う動機がある)、かえって支援金の支給の迅速性が害されるおそれがある等の不利益⇒支援法の目的の実現が困難になりかねない。

本件世帯主らは、本件各支給決定の取消しにより本件各支援金を返還させられることになる
butその利益を享受できる法的地位をおよそ有していない以上やむを得ない。

本件各支給決定の取消しまでの期間が不当に長いとも言い難い。

本件各支給決定の効果を維持することによる不利益>これを取り消すことによる不利益
であり、その取消しを正当化するに足りる公益上の必要がある。

●職権取消しの適否を決するための利益衡量においては、法律による行政の原理を回復するという職権取消しの目的をふまえ、処分の瑕疵の原因、内容及び程度を検討することが重要であることを示唆。

判例時報2506・2507

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0)

2022年4月 2日 (土)

水産動植物の採捕に係る許可に関する知事の判断が裁量権の逸脱とされた事案

最高裁R3.7.6

<事案>
普天間飛行場の代替施設を沖縄県名護市辺野古沿岸域に設置するための公有水面埋立てをめぐる国と沖縄県との間の紛争に関、最高裁が判決を言い渡した3件目の事案。

沖縄防衛局:
本件埋立承認の願書の記載された設計の概要に含まれない内容の地盤改良工事を追加
X(沖縄県j知事)に対し、大浦湾側に生息する造礁さんご類を埋立区域外の近隣の水域に移植することの許可を求める2件の申請

X:申請内容の必要性及び妥当性の有無を判断できない⇒標準処理期間(45日)が経過した後も何らの処分もしなかった。

Y(農林水産大臣):漁業法及び水産資源保護法を所管する大臣として、令和2年2月28日付けで、本件各申請を許可する旨の処分をしない沖縄県の法定受託事務の処理が漁業法65条2項1号及び水産資源保護法4条2項1号に違反⇒沖縄県に対し、地自法245条の7第1項に基づき、本件各許可処分をするよう求める是正の指示(「本件指示」)

X:本件指示が違法な国の関与に当たる⇒地自法251条の5第1項に基づき、Yを相手に、その取消しを求める。

<法令等>
漁業法65条2項1号等:
都道府県知事は、漁業取締りその他漁業調整又は水産資源の保護培養のために必要があると認めるときは、水産動植物の採捕に関する制限又は禁止に関して、規則を定めることができる旨を規定。
漁業法65条2項1号等により都道府県が処理することとされている事務は、法定受託事務(漁業法137条の3第1項1号、水産資源保護法35条)。

<争点>
本件指示が地自法245条の7第1項の要件を充足するか、より具体的には、本件指示の時点で本件各許可処分をしていないXの対応が、同項所定の法令の規定に違反していると認められるものに該当するか。

<原審>
本件各許可処分をしない沖縄県の法定受託事務の処理が漁業法65条2項の1号等に違反⇒本件指示は地自法245条の7第1項の要件を充足。
⇒上告受理の申立。

<判断>
本件を受理した上、上告を棄却。

<解説>
●本件規則に基づく特別採捕許可に関する県知事の判断と地自法245条の7第1項所定の法令違反

◎ 問題となっている法定受託事務の処理が不作為である場合には、指示の内容は、
A一定の期間内に何らかの措置を講ずべきというもの(措置の内容までは特定しないもの)と
B一定の期間内に特定の措置を講ずべきというもの(措置の内容を特定するもの)
の2通り。
本件指示はB。

Aの類型:「相当の期間」の経過があれば足りる(不作為の違法確認の訴えに関する行訴法3条5項、普通地方公共団体の不作為に関する国の訴えに関する地自法251条の7第1項参照)

Bの類型:これに加えて、
①特定の措置を講ずべきことがその根拠となる法令の規定から明らかであると認められ、又は
②当該措置を講じないことが裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められること
が必要。(義務付けの訴えに関する行訴法37条の2第5項、37条の3第5項参照)

◎ 「法令」の文言は、刑訴法335条1項のように、地方公共団体が制定する条例及び規則を含むものとして使用される場合もあるが、
地自法245条の7第1項にいう「法令」は、法律又はこれに基づく政令をいうと解されている。
漁業法65条1項1号等は、都道府県知事に規則の制定を授権する規定であって、その文言を形式的に当てはめると、当該規則に基づく個別具体的な措置に瑕疵があることから直ちに、「法令」である漁業法65条2項1号等に違反するとまではいい難いようにも思われる。
but
漁業法65条2項1号等は、都道府県知事の定める規則のみではなく、当該規則及びこれに基づく行政庁の個別具体的な措置(裁量判断)の双方により、漁業法及び水産資源保護法の目的を達成しようとする趣旨の規定。

・・・・

漁業法65条2項1号等は、都道府県知事による規則の制定に当たり、専門技術的な事情に即した妥当な措置がされることを確保するため、当該措置を個別の事案ごとの行政庁の裁量判断に委ねることを当然に予定。

本判決:
漁業法65条1項1号趣旨を踏まえ、本件規則41条1項に基づく特別採捕許可に関する県知事の判断は、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たると認められる場合には、
地自法245条の7第1項所定の法令の規定に違反していると認められるものに該当。

●本件申請の必要性を認めなかった県知事の判断の適否
◎ 判断枠組み:
特別採捕許可に関する県知事の判断(作為)は、裁量判断

これが裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し、重要な事実の基礎を欠く場合、又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たると認めるのが相当(最高裁H18.2.7)。

特別採捕許可の申請に対して応答しない県知事の不作為についても、これが裁量権の行使に基づくものである場合には、前記の作為と別異に解すべき理由はない。
(義務付けの訴えに関する行訴法37条の2第5項、37条の3第5項参照)

行手法5条に基づいて審査基準が定められ公にされている⇒審査基準の定める要件の充足が認められる場合には、申請を認容しない県知事の対応は、これを相当と認めるべき特段の事情がない限り、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たると解すべき(行手法12条処分の基準に関する最高裁H27.3.3)。

◎ 本件各申請は、本件さんご類を本件埋立事業から避難させることを目的
⇒本件指示の時点で、本件地盤工事を追加して行う必要があるとされていた本件埋立事業について、沖縄防衛局において、本件さんご類の生息場所及びその近辺で予定されている本件護岸工事を適法に行うことができたかが問題。

公有水面埋立法上、国の官庁は、都道府県知事の承認を受けて初めて、埋立てを適法に実施し得る地位を得ると解されており(最高裁R2.3.26)、変更後の設計の概要による埋立てについても同様に解するのが相当。
but
同法上、当初の承認を受けた後に設計の概要を変更する必要が生じた場合に、当該承認に基づく工事を中断すべき旨の規定はない⇒当該官庁は、当該変更の承認を受けていない段階でも、当該変更 に含まれない範囲の工事については、特段の事情のない限り、当初の願書に記載された設計の概要に基づいて適法に実施し得ると解される。
⇒沖縄防衛局は、本件埋立承認に係る設計の概要に基づき、本件護岸工事を適法に実施し得る地位を有していた。

X:さんご類の移植後の生存率が高くない(移植から4年後の生存率が20%以下というデータもある。)⇒本件各申請の内容に必要性があると認められるには、本件さんご類の一定割合の死滅を正当かし得る事情として本件埋立事業の目的達成の見込みがあることを要する。
but
埋立区域の相当部分に本件地盤工事の実施が必要であり、本件指示の時点でこの工事を追加する旨の本件変更申請すらされていなかった
⇒前記見込みを認めることはできない⇒前記必要性を認めることはできない。

◎判断:
Xの前記判断について、
当然考慮すべき事項を十分に考慮していない一方で考慮すべきでない事項を考慮⇒社会通念にてらし著しく妥当性を欠いたものとして、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たる。
水産資源の保護培養を図るなどの漁業法及び水産資源保護法の目的を実現するには、本件護岸工事により死滅するおそれのある本件さんご類を避難させる必要があった。
本件埋立承認及びその出願の内容等に照らすと、当該出願の転付図書に適合する妥当な環境保全措置が採られる限り、本件護岸工事の実施は、前記目的に沿う。

Xの前記判断は、この工事を適法に実施し得る沖縄防衛局の地位を侵害するという不合理な結果を招来する。

反対意見:
本件地盤工事の対象となっている水域(本件軟弱区域)が広範囲に及んでいて本件護岸工事のみを実施することに意味はない
⇒本件各申請を審査するに当たっては、本件埋立事業の目的が達成される見込み(具体的には本件変更申請が承認される蓋然性)の有無や程度等が考慮すべき事項に含まれる
⇒Xの前記判断が裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たると認めることはできない。

判例時報2506・2507

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0)

滞納処分による配当金の充当関係

最高裁R3.6.22

<事案>
Y(北海道稚内市)の市長は、Xの市民税及び道民税のうち平成21年度分から同23年度分までのもの並びにその延滞金等につき、滞納処分により徴収。
その後、本件市道民税の税額を減少させる各賦課決定をするとともに、
Xに対し、これによる過納金の還付及び還付加算金の支払をした。
Xが、市長による前記過納金の額の計算に誤り⇒Yに対し、不足分の過納金の還付及び還付加算金の支払を求めるとともに、国賠法に基づく損害賠償を求めた。

<主張>
X:本件各対応処分において差押えに係る地方税に配当された金銭であって、本件各減額賦課決定がされた結果配当時に存在しなかったこととなる年度分の市道民税に充当されたものについては、当該差押えに係る地方税のうちその配当時に存在していた他の年度分の市道民税に充当されるべきであり、その充当後の滞納税額を基礎として延滞金の額を計算すべき

<判断>
複数年度分の普通徴収に係る個人の市町村民税及び道府県民税を差押えに係る地方税とする滞納処分において、当該差押えに係る地方税に配当された金銭であって、その後に減額賦課決定がされた結果配当時に存在しなかったこととなる年度分の個人住民税に充当されていたものは、その配当時において当該差押えに係る地方税のうち他の年度分の個人住民税が存在する場合には、民法489条の規定に従って当該個人住民税に充当される。

<解説>
● 本件指導民税については、賦課決定により一旦確定した税額が、本件各減額賦課決定により減額されており、この減額賦課決定は、従前の負荷決定の一部取消し(講学上の職権取消し)に相当。
処分に当初から瑕疵があったことを前提とする職権取消しの効果は遡及的に生ずるものと解するのが一般的。
本件各減額賦課決定も、当初から賦課決定に瑕疵(税額等の計算の誤り)があったことを理由とする⇒その効力は遡及的に生じる⇒本件市道民税のうち、本件各減額賦課決定により減少した税額に係る部分は、当初から存在しなかったこととなる。

本件の争点:
本件各滞納処分(複数年度分の市道民税を差押えに係る地方税とするもの)において、差押えに係る地方税に配当された金銭であって、その後に本件各減額賦課決定がされた結果配当時に存在しなかったこととなる年度分の市道民税に充当されていたものの帰すう。

市長:
当該金銭は直ちに過納金となり、そのままXに還付すべきものとした。
X:
当該金銭は、当該差押えに係る地方税のうちその配当時に存在していた他の年度分の指導民税に充当されるべき。

●配当金の充当に関する規律
民事執行について、昭和62年最判は、
担保不動産競売の手続における同一の担保権者に対する配当金がその担保権者の有する数個の被担保債権の全てを消滅させるんじ足りない⇒その配当金は当該数個の債権について改正前民法489条ないし491条の規定に従った弁済充当(法定充当)がされるべきものであって、債権者による指定充当は許されない。

担保不動産競売の手続は執行機関がその職責において遂行するものであって、配当による弁済に債務者又は債権者の意思表示を予定しないものであって、
同一債権者が数個の債権について配当を受ける場合には、画一的に最も公平、妥当な充当方法である法定充当によることが、競売制度の趣旨に合致。

以上の趣旨は、強制執行における配当にも及ぶものと解されている。

◎ 滞納処分における配当金:
いわゆる本税優先の原則(税徴法129条6項、地税法14条の5第1項)が規定
but
法令上の規定も最高裁判例も存在しない。
滞納処分は租税債権者が自ら租税債権の強制的実現を図る手段⇒租税債権者(税務署長等)がその裁量により前記の充当の順序を決めることができると説明されてきた。
but
税徴方基本通達第129条関係19は、
徴収の基因となった国税が複数ある場合、本税と本税の相互間は、民法488条4項2号及び3号(改正前民法489条2号及び3号)の規定に準じて処理するものとし、参考判例として昭和62年最判を掲げている。

●本判決の判断
遡及効肯定。

複数の地方税を差押さに係る地方税とする滞納処分において、当該差押えに係る地方税に配当された金銭は、当該複数の地方税のいずれかに滞納分が存在する限り、法律上の原因を欠いて徴収されたものとなるのではなく、当該滞納分に充当されるべきもの。
滞納処分制度が地方税等の滞納状態の解消を目的とするもの⇒前記のように当初の充当が効力を有しないこととなった配当金についても同様に妥当し、当該配当金は、その配当時において差押えに係る地方税法のうちに他に滞納分が存在する場合には、これに充当されるべきもの。

滞納処分制度が設けられている趣旨⇒当初の充当が効力を有しないこととなった配当金について他に充当されるべき差押えに係る地方税が存在する場合には、債務の充当に係る画一的かつ最も公平、妥当な充当方法である改正前民法489条の規定に従った充当(法定充当)がされるものと介すべき。

● 過納金は還付加算金が付されて還付されるが(地税法17条の4第1項)、延滞金の利率は還付加算金の利率よりも原則として年7.3%も高い⇒当該配当金がそのまま過納金として還付されて他の滞納分に充当されないとすると、納税者は、当初から瑕疵のない賦課決定に基づく徴収がされた場合と比べて、この還付加算金と延滞金との差に相当する負担を強いられる結果となる。

判例時報2508

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0)

2022年3月16日 (水)

都市計画を変更しないまま、公園の計画区域内に一般廃棄物処理施設への運搬車両のための専用道路を設置⇒市長が損害賠償義務を負う。

東京地裁R2.11.12

<事案>
東京都日野市の住人であるXらが提起した住民訴訟の事案
本件各契約の締結が違法⇒地自法242条の2第1項4号に基づき、Y(日野市の執行機関である日野市長)を相手に、A視聴に対して損害賠償請求をすることを求めた。

<争点>
本件各契約の締結が財務会計法規上違法であるか否か
Xら:都市計画の変更をせずにされた本件通行路の設置は都計法21条をはじめとする関係各法令に違反し、本件各契約の締結は財務会計法規上違法
Y:本件通行路は、新クリーンセンターの稼働期間である30年間に限り暫定的に利用されるもの⇒その設置は都市計画の変更を要するものではない⇒本件各契約の締結に財務会計法規上の違法はない

<判断>
●本件通行権の設置が都計法上違法であるか?
いったん決定された都市計画につき、これを変更しないまま、当該都市計画と異なる都市施設をその計画区域に設置することは、その設置が当該都市計画の実質的な変更と評価されるものである場合には、都市計画法上違法の評価を免れない。

本件通行路は、廃棄物を運搬する車両のための専用道路であり、その設置が都市公園の効用を有するものとはおよそ認め難いところ、本件通行路が暫定的な利用に供されるものであるといえず、本件通行路の設置は本件都市計画の実質的な変更と評価すべきもの

本件都市計画と異なる都市施設である本件通行路をその計画区域に設置することは、都市計画法上違法。

●本件各契約の締結が財務会計法規上違法であるか?
本件各契約の締結に係るA市長の判断は、その裁量権の範囲の逸脱又はその濫用となるものであることが明らかであり、地方公共団体の事務につき不必要な経費を負担させるものとして地自法2条14項及び地方財政法4条1項に違反
⇒A市長がその職務上負担する財務会計法規上の義務に違反してされた違法なものと評価されるべき。

<解説>
●本件通行権の設置が都計法上違法であるか
◎ 都市計画は、政策的、技術的な見地から判断することが不可欠であり、これを決定する行政庁の広範な裁量にゆだねられている(最高裁H18.11.2)。
都市計画の変更について、都計法21条1項は、都道府県又は市町村は、都市計画を変更する必要が生じたときは、遅滞なく、当該都市計画を変更しなければならない旨を規定するところ、都市計画の変更についても同様。

都市計画の変更に関する訴訟:
①都市計画を変更したことやその内容が争われることが典型的であるが、
②都市計画に係る事業を実施しない状態が長期間継続しているにもかかわらず、都市計画が変更又は廃止されないこと(不作為)について争われることもある。
本件は、①②のいずれの類型にも位置付けることができないもの。

●本件各契約の締結が財務会計法規上違法であるか
住民訴訟の対象は、地自法242条1項所定の財務会計上の行為又は事実としての性質を有するものであり(最高裁昭和53.3.30)、住民訴訟で住民が主張し得る財務会計行為の違法は、財務会計法規上の義務に違反する違法なものであるときに限られる(最高裁H4.12.15)。

「財務会計法規」は手続上、技術的な狭義の財務会計法規のみを意味するものではなく、これらを含むところの当該職員が職務上負担する行為規範一般を意味すると考えられており、
非財務会計行為上の原因行為における一般行政上の違法との区別を明確にする趣旨の概念であるとされる。
道路を整備するという判断そのものは、財務会計行為に当たらない。
本件各通行路の設置のための本件各契約の締結が財務会計行為として本件の対象とされているところ、本件通行路の設置の判断に係る都計法違反が、契約締結に係る財務会計法規の違反を直ちに基礎付けるものとはいえないと考えられる。

本判決:
A市長は、日野市の執行機関として、本件都市計画の変更の手続を行うことにより本件通行路の設置に係る都市計画法上の違法を是正する権限を有していた。それにもかかわらず、A市長は、その権限を行使せず、上記の違法を是正しないまま、都市計画法上許されない本件通行路の設置をするため、債務負担行為である本件各契約の締結をしたことが、財務会計法規である地自法2条14項及び地財法4条1項に違反する。

◎財務会計法規上の義務違反について
・・・原因行為たる行政処分を取り消し得る権限を有している場合には、当該行政処分が違法なものであれば、長はこれを取り消すべきものと解され、これを取り消すことなく、当該行政処分を前提とする財務会計上の行為をすれば、長は財務会計法規上の義務に違反する

◎財務会計法規の適用条項について
地自法2条14項:地方公共団体がその事務を処理するに当たって、最小の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない旨を規定
地財法4条1項:地方公共団体の経費は、その目的を達成するための必要かつ最小の限度を超えて支出してはならない旨を規定

当該職員が財務会計上の行為につき裁量権を有することを前提に、裁量権の行使について規律するもの。
契約締結に関する長の判断について裁量権の範囲の逸脱又は濫用が認められる⇒財務会計法規である前記各条項の違反が問題となる。

裁判例:
契約締結そのものは違法ではないが、契約代金額が適正額を超え高額にすぎるとして、適正額以上の部分の支出が不必要でありゆるあsれないという趣旨の主張が採用され、財務会計法規の違反として、前記各条項の違反が認められることがある。
廃棄物処理施設等に関する住民訴訟では、支出の対象とされる事業等の必要性や合理性がないからその費用の支出が不要であるとの趣旨で、地自法2条14項及び地財法4条1項の違反の主張がされることがある。

本件:
通行路の設置に当たり都市計画の変更の手続を経ていなかったことから、通行路の設置の合理性そのものではなく、都市計画を変更しないで当該都市計画と異なる都市施設をその計画区域に設置するという方法が都計法に違反しないかという形で争点化し、同法の違反が認められた。
都計法上の違法を是正しない状態における本件通行路の整備のための請負契約等の締結そのものが職務上の義務に違反するものとして許されない⇒裁量権の範囲の逸脱又はその濫用にものとして地自法2条14項及び地財法4条1項に違反すると判断。

判例時報2505

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0)

2022年3月12日 (土)

原子力規制委員会の発電用原子炉の設置変更許可が違法とされた事例

大阪地裁R2.12.4

<事案>
福井県等に居住するXらが、原子力規制委員会がZ(被告参加人・関西電力)に対してした大飯発電所3号機及び4号機に係る発電用原子炉の設置変更許可(本件処分)は、前記許可の申請(本件申請)が、当時の「実用発電用原子炉及びその付属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則」(設置許可基準規則)で定める基準に適合するものでないにもかかわらずされた⇒当時の各原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律43条3の8第2項において準用する43条の3の6第1項4号に反し違法⇒Y(国)に対して、その取消しを求めた

<争点>
本案の争点(本件処分の適法性)の中では、本件申請について、基準地震動の策定の点が設置許可基準規則4条3項に適合するとした原子力規制委員会の判断の合理性が中心的な争点。

<解説>
設置許可基準規則4条3項:
耐震重要施設は、その供用中に当該耐震重要施設に大きな影響を及ぼすおそれがある地震による加速度によって作用する地震力(基準地震動による地震力)に対して安全機能が損なわれるおそれがないもでなければならない旨を規定。

原子力規制委員会:
設置許可基準規則の解釈について、「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則の解釈」(規則の解釈)
⇒「断層モデルを用いた手法に基づく地震動評価」を実施しなければならない。

基準地震動の策定等に係る診察について、「基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイド」(地震動審査ガイド)
⇒震源モデルの設定について、地震調査研究推進本部による「震源断層を特定した地震の強震動予測手法」(推本レシピ)等の最新の研究成果が考慮されていることを確認する旨など、規定。

<争点>
本件でへは、基準地震動の策定過程のうち、震源モデルの設定、特に地震規模(地震モーメント)の設定の当否が争われた。
具体的には、
①入倉・三宅式の合理性、
②入倉・三宅式に基づき計算された地震モーメントをそのまま震源モデルにおける地震モーメントの値とすることの合理性
の双方が争われた。

<判断>
●司法審査の枠組みについて、いわゆる伊方原発訴訟最高裁判決H4.10.29に倣い、原子力規制委員会に専門技術的裁量を認める旨を説示。

●本件ばらつき条項の意義
地震動審査ガイドに本件ばらつぎ条項が設けられた経緯等



本件ばらつき条項の第2文(「その際、経験式は平均値としての地震規模を与えるものであることから、経験式が有するばらつきも考慮されている必要がある。」)は、
経験式を用いて地震モーメントを設定する場合には、経験式によって算出される平均値をもってそのまま震源モデルにおける地震モーメントとして設定するのではなく、
実際に発生する地震の地震モーメントが平均値より大きい方向にかい離する可能性を考慮して地震モーメントを設定するのが相当であるという趣旨をいうものと解される。
but
明示的に定められておらず、「経験式が有するばらつきも考慮されている必要がある」と定められている。
⇒他の震源特性パラメータの設定に当たり、前記のような方法で地震モーメントを設定するのと同視し得るような考慮など、相応の合理性を有する考慮がされていれば足りる。

基準地震動の策定に当たっては、経験式が有するばらつきを検証して、経験式によって算出される平均値に何らかの上乗せをする必要があるか否かを検討すべきもの。

その結果、例えば、
経験式が有するばらつきの幅が小さく、他の震源特性パラメータの設定に当たり適切な考慮がされているなど、経験式によって算出される平均値に更なる上乗せをする必要がないといえる場合には、経験式によって算出される平均値をもってそのまま震源モデルにおける地震モーメントの値とすることは妨げない。

●本件における検討
本件申請において基準地震動を策定する際、地質調査結果等に基づき設定した震源断層面積を入倉・三宅式に当てはめて計算された地震モーメントをそのまま地震モーメントの値としたものであり、
例えば、入倉・三宅式が経験式として有するばらつきを考慮するために、その基礎となったデータセットの標準偏差分を加味するなどの方法により、実際に発生する地震の地震モーメントが平均値より大きい方向にかい離する可能性を考慮して地震モーメントを設定する必要があるか否かということ自体を検討しておらず、現に、そのような設定(上乗せ)をしなかった。

・・経験式が有するばらつきについて検討した形跡はなく、また、地震モーメント以外の震源特性のパラメータの設定に当たり、・・・地震モーメントを設定するのと同視し得るような考慮がされたかという観点からの検討がなされた形跡もない。

本件ばらつき条項の第2文は、経験式が有するばらつきを考慮して、経験式によって算出される平均値に何らかの上乗せをする必要があるか否かということ自体を検討することを求めているのであるが、原子力規制委員会においてそのような検討をしたという主張も立証もない。

本件申請について、基準地震動の策定に当たり、入倉・三宅式に基づき計算された地震モーメントをそのまま震源モデルにおける地震モーメントの値としているにもかかわらず、原子力規制委員会は、経験式である入倉・三宅式が有するばらつきを考慮した場合、これに基づき算出された値に何らかの上乗せをする必要があるか否か等について何ら検討することなく、本件申請が設置許可基準規則4条3項に適合し、地震動審査ガイドを踏まえているとした。

原子力規制委員会の調査審議及び判断の過程には、経験式の適用に当たって一定の補正をする必要があるか否かを検討せずに、漫然とこれに基づいて地震モーメントの値を設定したという点において、看過し難い過誤、欠落がある。

新規制基準に基づいてされた設置変更許可処分について、基準地震動の策定に関する審査の不合理を理由としてこれを取り消した。

<解説>
●伊方最判
伊方最判は、前の法を前提とする判例。
but
原子炉施設の安全性に関する審査の性質等、伊方最判が行政庁に専門技術的裁量を認めな根拠となるべき事情は失われていないものと考えられる。
本判決:これに加えて、原子力規制委員会設置法により担保された原子力規制委員会の専門性・独立性に関する定めにも言及。
本判決:原子炉設置(変更)許可の段階における安全審査の対象が基本設計の安全性に関わる事項のみとする点についても伊方最判を踏襲。
but
新規制基準においては、基本設計と詳細設計の区別が相対化してきた旨の指摘。

●裁量権の範囲の逸脱・濫用についての司法審査の方法
近時の最高裁判例:
A:考慮事項に着目した審査
判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場合、又は、
事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと、判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り、
裁量権の範囲の逸脱・濫用となる旨の審査方法。

B:伊方最判の審査方法(審査基準に着目した審査)

Aの方法:
判断の過程において考慮すべき事項を考慮しないことが直ちに裁量権の範囲の逸脱・濫用になるのではなく、その結果、判断の内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に裁量権の逸脱・濫用になる旨の指摘。

Bの方法:
行政実体法上、判断の内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる否か等についての裁判所の判断の余地を基本的に否定されており、
裁判所は審査基準の合理性と審査基準の適用過程の合理性のみを審査することになる。

伊方最判の枠組みにおいては、「その内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り」という限定がされていない⇒専門機関の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があり、行政庁の判断がこれに依拠してされていればそれだけで、当該判断に不合理な点があるものとして、当該判断に基づく処分は違法とされる

●本判決
伊方最判の枠組み(中程度の審査)にのっとって、審査基準である設置許可基準規制、規則の解釈、地震動審査ガイド(特に本件ばらつき条項)を解釈して、原子力規制委員会による審査基準の適用に看過し難い過誤、欠落があるかを審査した結果、これを肯定。

判例時報2504

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0)

より以前の記事一覧