行政

2018年9月25日 (火)

給与が振り込まれた当日に貯金差押⇒不当利得返還請求と国賠請求が認められた事案

前橋地裁H30.1.31      
 
<事案>
Xが、滞納していた市県民税及び国民健康保険税の徴収のため、Y市長によって2回にわたってなされたX名義の貯金債権の差押えは差押禁止債権を差し押さえたものであるから違法⇒これらの差押えに引き続いて取り立てた12万6226円は支払を受けるべき法律上の原因を欠く

Y市に対し、
前記2回の差押処分の各取消しを求めるとともに、不当利得返還請求として12万6226円の支払を求め、
国賠法1条1項に基づき慰謝料及び弁護士費用として55万円の支払を求めた。 
 
<判断>
●Xに本件各差押処分の取消しを求める法律上の利益があるか 
市県民税及び国民健康保険税に係る滞納処分による差押えは、国税徴収法(「法」)に規定する滞納処分の例によることとされ、
債権の差押えの場合、
第三債務者に対する債権差押えの効力が生じ、
差し押さえられた債権の取立として金銭を取り立てたときは、
その限度において、
滞納者は滞納税を支払ったものとみなされる。

Y市は既に取り立てを終了しており、
本件各差押処分はいずれも目的を達してその法律効果は既に消滅

本件各差押処分の取消しを求める法律上の利益はない。

(最高裁昭和55.11.25に立脚)
 
●Y市が本件各差押処分に基づいて取り立てた12万6226円が、支払を受けるべき法律上の原因を欠くか(=不当利得返還請求権が成立するか否か)

Y市長が差し押さえた貯金口座は、Xの給与が払い込まれる口座。
給与が払い込まれる口座の預金を差し押さえることは、地方税法41条1項、331条6項、728条7項が準用する法76条1項、2項(給与の差押禁止)に反するかが問題となるところ、
原則として、給与等が金融機関の口座に振り込まれることによって発生する預貯金債権は、直ちに差押禁止債権としての属性を承継するものではない
(最高裁H10.2.10)

本件各差押処分自体は違法とはいえない

給料等が受給者の預貯金口座に振り込まれた場合であっても、法76条1項、2項が給料等受給者の最低限の生活を維持するために必要な費用等に相当する一定の金額について差し押さえを禁止した趣旨はできる限り尊重されるべき

滞納処分庁が、実質的に法76条1項、2項により差押えを禁止された財産自体を差し押さえることを意図して差押処分を行ったものと認めるべき特段の事情がある場合には、上記差押禁止の趣旨を没却する脱法的な差押処分として、違法となる場合がある

本件では、Y市は、実質的に給与自体を差し押さえることを意図して本件各差押処分を行ったと認めるべき特段の事情がある。
⇒不当利得返還請求を肯定。

●国賠法1条1項の損害賠償請求 
本件各差押処分は、実質的に給与自体を差し押さえることを意図してなされた
⇒国賠法上も違法。


慰謝料5万円、弁護士費用5000円の合計5万5000円を認容。

判例時報2373

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2018年9月24日 (月)

被爆者援護法の「医療」の意味等

名古屋高裁H30.3.7      
 
<事案>
被爆者健康手帳の交付を受けている控訴人ら2人が、原子爆弾の傷害作用に起因して疾病にかかり現に医療を要する状態にあると主張し、厚生労働大臣に対し、原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(被爆者援護法)11条1項に基づき、当該疾病が原子爆弾の傷害作用に起因する旨の認定の申請
⇒厚生労働大臣が前記申請をいずれも却下する旨の処分
⇒本件各処分の取消しを求めた。 
 
<争点> 
①控訴人らの申請疾病が原子爆弾の放射線に起因するものであるか否か(放射線起因性
②当該疾病が現に医療を要する状態にあるか否か(要医療性
③原爆症認定要件としての要医療性の要否 
 
<判断>
●放射性起因性については、一審判決をほぼそのまま引用し、これを肯定した。 
 
●要医療性の意義:

一審判決:
被爆者が積極的な治療行為を伴わない定期検査等の経過観察が必要な状態にあるような場合、特段の事情がない限り、定期検査等は被爆者援護法10条1項所定の「医療」に当たらない。

本判決:
経過観察が特定の疾病等の治癒を目指すもの⇒治療の一環といえる
②経過観察も診察が基本となるところ、被爆者援護法10条2項がまずは「診察」(1号)を予定

同条1項の「医療」は、積極的な治療を伴うか否かを問うべきではなく、被爆者が経過観察のために通院している場合であっても、認定に係る負傷又は疾病が「現に医療を要する状態にある」と認めるのが相当。 

X2の申請疾病である右上葉肺がんについて:
①手術日から原爆症認定申請日までに約14年6か月余りが経過
②前記疾患は既に治癒
⇒要医療性を否定。

X2の申請疾病である左乳がん:
①再発の可能性が特に長期にわたる疾患
②当時の主治医がなお長期間にわたって経過観察が必要であると判断したのは申請疾病(左乳がん)が多重がんの性質を有するものであることを考慮したものと考えられる

少なくとも原爆症認定申請時及び本件処分時においては、いまだ再発のリスクが否定できないから経過観察の必要性があった
⇒要医療性を肯定

X3の申請疾病である慢性甲状腺炎(橋本病):
同疾患が甲状腺機能低下症等様々な合併症・続発症が生ずるおそれがあり、経過観察によってこれらの続発症等が発生している兆候の有無を見極める必要があるため長期にわたる経過観察が欠かせいない等

少なくとも原爆症認定申請時及び本件処分時においては経過観察を行うべき状態にあった。
⇒要医療性を肯定

 
<解説>
要医療性について:
A:被爆者援護法10条1項の「医療」は原則として積極的治療を要し、経過観察の状態にある場合はこれに当たらない
B:積極的治療を伴わない経過観察のために診察を受けている場合でもこれに該当する
C:Aの見解に立ちつつ、申請時点ないし申請に対する判断時点において定期的な経過観察にとどまっている場合であっても、当該疾病の予後として一般に悪化や再発が予想され、その状況に応じてそれに的確に対処するための積極的な治療行為を行うことを要する場合などは要医療性がある

原爆症認定要件としての要医療性
旧法当時の裁判例であるが、
石田原爆訴訟判決(広島地裁昭和51.7.27)がこれを肯定し、その後の松谷訴訟最高裁判決(最高裁H12.7.18)も同様の立場を採用。

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2018年9月23日 (日)

国籍留保の届出が届出期間経過後になされたものとされた事案

大阪高裁H29.11.28         
 
事案 F区長は、平成28年、Gの出生届を受理したが、本件国籍留保の届出については、Bが届出できるに至った時点は、E(Bの父、Xの祖父)につき就籍の審判がされた平成20年であることを前提に、
本件国籍留保の届出は、戸籍法104条1項及び3項の期間を経過した後にされたもので、Xは日本国籍を喪失(国籍法12条)⇒本件各届出をいずれも不受理とする処分をした。 
 
<原審>
B(昭和39年生)は、平成20年、E(Bの父)が就籍⇒出生により父の日本国籍を取得(昭和59年改正前の国籍法2条1号、父系主義)。
G(Bの長男、Xの兄)は、前記改正後の国籍法施行日(昭和60年1月1日)よりも前(昭和58年)にC国(血統主義)で出生⇒国籍留保の対象ではなく、そのため、Xと異なり日本国籍を有する者として出生届出が受理。
X(昭和60年生)は、改正後の国籍法施行後に出生⇒国籍留保制度(国籍法12条)の対象となる。
but
Eの就籍(平成20年)に先立ち、Xの国籍留保の届出を戸籍法104条1項所定の届出期間内(Xの出生から3か月)に求めるのには無理がある。

Bに同条3項の届出人の「責めに帰することができない事由」があるかが問題。

Eが就籍審判の通知を受けた時点(平成20年)で同項の「届出をすることができるに至った」と解すべき⇒そこから14日を経過すると、Xの出生届や国籍留保のの届出をすることはできなくなる。

当時、Bは戸籍記載が未了で、本籍や戸籍上の氏名もなかったが、それは、客観的にみて本件国籍留保の届出をすることの障害とはならない
Xは、出生時に遡って日本国籍を失ったとして、Xの就籍許可の申立てを却下。
 
<判断>
戸籍法は、出生届出書には父母の氏名および本籍の記載を要するが(同法49条2項3号)、記載すべき事項が存在しない場合にはその旨を記載し(同法34条1項)、本籍のない者が届出後に本籍を取得したときはその旨を届け出ることを要する

Bの戸籍記載が未了で、本籍や戸籍上の氏名もなくても、客観的にみて本件国籍留保の届出をすることの障害にはならない

Xの抗告を棄却

<解説> 
●国籍留保:
日本国民が国外で出生し、重国籍となった者について戸籍法の定めに従い留保をしない限り、出生の時に遡って日本の国籍を失うこととして、国籍の積極的な抵触(重国籍)の防止を図る制度。
国籍留保をしないと、自己の志望で日本国籍を喪失⇒国籍離脱の自由を実現。
国籍留保には届出が要件⇒戸籍に記載されない日本国民の発生を防止し、戸籍上日本国民の範囲を画する機能。 

国籍法は、昭和59年改正後の12条において、
「出生により外国の国籍を取得した日本国民で国外で生まれたものは、戸籍法の定めるところにより日本の国籍を留保する意思を表示しなければ、その出生の時にさかのぼつて日本の国籍を失う。」と規定。

国籍留保の適用範囲が拡大
←昭和59年の国籍法改正により、父系主義から父母両系主義に変更されたことに伴い増加する重国籍の発生を防止するため。.
 
●国籍留保の要件(国籍法12条)
①日本国外で生まれ、出生により外国籍を取得し、日本国籍と重国籍の状態となったこと、
②法定の期間内に日本国籍留保の意思表示がされること

①について:
(a)出生により外国籍を取得したこと(出生地主義、血統主義)
(b)血統により日本国籍を有すること
(c)国外で生まれたこと

②について:
国籍留保の意思表示は、
天災その他届出人の責めに帰することのできない事情のない限り、出生の日から3か月以内に、
原則として父又は母から出生届とともに届け出なければならない。(戸籍法104条1項、2項)
天災その他届出人の責めに帰することができない事由⇒届出をすることができる時から14日以内に国籍留保の届出をしなければならない。(同条3項)

●戸籍法104条3項にいう、届出人の「責めに帰することができない事由」:
①国籍留保の制度趣旨、目的
②同項が「天災」と例示

客観的にみて国籍留保の届出をすることの障害となる事情やその程度を勘案して決せられるべきもの。 

最高裁H29.5.17:
父母が戸籍に記載されておらず、父母の本籍及び戸籍上の氏名がないという事情だけでは、客観的にみて、子に係る国籍留保の届出をすることの障害とならないことは明らかである旨を判示。

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2018年8月29日 (水)

競馬の当たり馬券の払戻金が雑所得、外れ馬券の購入代金が必要経費とされた事例

最高裁H29.12.15       
 
<事案>
長期間にわたり馬券を購入し、当たり馬券の払戻金を得ていた被上告人が、
平成17年分から同22年分までの所得税の確定申告。
その際、前記払戻金に係る所得は雑所得に該当し、外れ馬券の購入代金は必要経費に当たるとして、総所得金額及び納付すべき税額を計算

所轄税務署長から、
前記所得は一時所得に該当し、外れ馬券の購入代金を一時所得に係る総収入金額から控除することはできないとして、
前記各年分の所得税に係る各更正並びに同17年分から同21年分までの所得税に係る無申告加算税及び同22年分の所得税に係る過少申告加算税の各賦課決定

前記各更正のうち確定申告額を超える部分及び前記各賦課決定の取消しを求める事案。
 
<争点>
被上告人が得た払戻金が「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」に該当するか否か、
外れ馬券の購入代金がその必要経費に当たるか否か 
 
<解説>
最高裁H27.3.10:
払戻金に係る所得が雑所得に当たるとされ、外れ馬券の購入代金が必要経費に当たるとされた。
but
その事案は、馬券の購入態様が「馬券を自働的に購入するソフト」を使用して、「個々の馬券の的中に着目しない網羅的な購入」をすることにより多額の利益を恒常的に上げるもので、そのような一連の馬券の購入が「一体の経済活動の実態を有する」と評価されるもの。 
but
本件:自動購入ソフトを使用せず、個々のレースに着目して馬券購入

<一審>
①具体的な馬券の購入を裏付ける資料が保存されていない⇒被上告人が機械的、網羅的に馬券を購入していたのか不明
②被上告人がレースの結果を予想し、どのように馬券を購入するかを個別に判断していたというのであれば、その購入態様は一般的な競馬愛好家と質的に大きな差があるとはいえず、自動的、機械的に馬券を購入していたともいえない

被上告人による一連の馬券の購入は一体の経済活動の実態を有するとはいえない

被上告人が得た競馬所得は一時所得に区分されるものであり、外れ馬券の購入代金はその算定上、差し引かれるものではない。
 
<原審>
①被上告人は、期待回収率が100%を超える馬券を有効に選別し得る独自のノウハウに基づいて長期間にわたり多数回かつ頻繁に当該選別に係る馬券の網羅的な購入をして100%を超える回収率を実現することにより多額の利益を恒常的に挙げていた
②このような一連の馬券の購入は一体の経済活動の実態を有するといえる

被上告人が得た競馬所得は雑所得に区分されるものであり、外れ馬券の購入代金はその必要経費に当たる。 
 
<判断>
国側の上告受理申立てに基づき、上告棄却。 
 
<解説> 
●平成27年最判:
飽くまで、当該事案における馬券の購入態様によって得られた払戻金が
「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」
に該当するか否かという観点から雑所得か一時所得かの判断をしたものであるが、
それが雑所得に当たるとする判断部分においては
「馬券を自働的に購入するソフトを使用して」、「個々の馬券の的中に着目しない網羅的な購入」をしたこと等の事情が認められる⇒「一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有するといえる」旨が指摘。

当該事案における払戻金が雑所得に当たることを、当該事案の特徴を踏まえて説示(=事例判断)。

本判決:
①平成27年最判の事案に及ぶほどの馬券購入額や利益発生の規模、
被上告人が6年間継続して年間を通じての収支で相当額の利益を得ており、回収率が100%を超えるような馬券の選別方法を用いていたと推認できること等の事情を総合考慮して、
被上告人が得た払戻金が「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」に当たり、雑所得に区分される旨を判断。

平成27年最判:
当たり馬券の払戻金が
「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」といえるか否かにについては、
「文理に照らし、行為の期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間その他の状況等の事情」を考慮すべきである旨説示。
 
●本判決:
被上告人の馬券購入態様を前提とした場合における外れ馬券の購入代金は、所得税法37条1項前段の必要経費に当たるとも判断。 

所得税法37条1項が規定する必要経費:
①同項前段にいう、いわゆる個別対応費用(当該総収入額を得るために直接に要した費用)
⇒それが生み出した収入の帰属する年度の必要経費。
②同項後段にいう、いわゆる期間対応費用(その年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた必要)
⇒それが生じた年度の必要経費。

競馬ににおいては、外れ馬券の購入代金は払戻金の発生とほぼ同時に確定
⇒外れ馬券の購入代金が必要経費に当たるといえる限りは、それが同項前段の必要経費であろうが、同項後段の必要経費であろうが、必要経費に算入すべき年分に違いが生ずることはない。

本判決:
被上告人による馬券購入態様と払戻金の発生の関係に照らせば、外れ馬券の購入代金は同項前段にいう必要経費に当たると判断。

被上告人は、偶然性の影響を減殺するために長期間にわたって頻繁に馬券を購入しており、そのような購入によって年間を通じての収支で利益が得られるようにしていた。
外れ馬券の購入を含めた被上告人の馬券購入を一連の行為と捉えて全体的にみた場合には、外れ馬券の購入代金を含む馬券の購入代金が総体として払戻金の発生と対応していると考えられる
所得税法37条1項前段の必要経費に該当

判例時報2372

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2018年8月19日 (日)

労働保険料認定処分の取消訴訟において、業務災害支給処分の違法を取消事由として主張できるか(否定)

東京地裁H29.1.31      
 
<事案>
総合病院を開設し、労災保険率の算定に当たり、労働保険の保険料の徴収等に関する法律(「徴収法」)12条3項に基づく、いわゆる「メリット制」の適用を受ける事業主(「特定事業主」)である医療法人社団Xが、前記総合病院に勤務する医師Aが脳出血を発症し、労働者災害補償保険法(「労災法」)に基づく休業補償給付等の支給処分(「本件支給処分」)を受けたことに伴い、処分行政庁から、本件支給処分がされたことにり労働保険の保険料が増額されるとして、徴収法19条4項に基づく平成22年度の労働保険の保険料の認定処分(「本件認定処分」)を受けた
本件認定処分は違法であり、これを前提とする本件認定処分も違法であるとして、本件認定処分のうち増額された保険料額の認定に係る部分の取消しを求めて訴えを提起。
 
<解説>
労働保険料の額の算定に用いられる保険料の構成要素のひとつである労災保険率(徴収法10条、11条1項、12条1項参照)は、事業の種類ごとに、労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行令(「徴収令」)、同施行規則(「徴収規則」)に基づいて定められている「基準労災保険率」を基準として(徴収法12条2項、徴収令2条、徴収規則16条1項)、
・・・当該連続する3保険年度の間における業務債が保険給付等の額等に応じて、法令に定める範囲内の一定率(「メリット増減率」)を引き上げ又は引き下げる処理等を行った後の率をもって基準日の属する保険年度の次々年度の労災保険率とすることができることとされている(メリット制)。 
 
<争点>
労働保険料認定処分(本件認定処分)の取消訴訟において特定事業主が同処分の前提とされた業務災害支給処分(本件支給処分(労災法7条1項1号、12条の8等))の違法を主張することができるか?
これが肯定された場合、本件支給処分の違法性の有無について判断されることになる。 
 
<判断>
●①特定事業主の事業に係る業務災害支給処分(処分の名宛人は労災申請をした者であり特定事業主ではない)の取消訴訟において特定事業主が原告定格を有するか(=特定事業主に手続的保障の前提があるか)? 

特定事業主は、業務災害支給処分の名宛人以外の者ではあるものの、自らの事業に係る業務災害支給処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれがあり、その取消しによってこれを回復すべき法律上の利益を有する

業務災害支給処分の取消し訴訟の原告適格(行訴法9条1項)を有する。

仮に、業務災害保険給付等の額が極めて僅少である等の事情により、当該業務災害支給処分によってメリット増減率が上昇するおそれがなくなったと認めるべき特段の事情が認められる場合には、当該特定事業主が当該支給処分の取消しを求める訴えの利益を欠くことになるものと解されるが、
本件において前記特段の事情があるとは認められない。

●②労働保険料認定処分の取消し訴訟において特定事業主が同処分の前提とされた業務災害支給処分の違法を主張することができるか? 

法令上先行処分の存在を前提として後行処分がされる関係にある場合、原則として、先行処分の違法を後行処分の取消事由として主張することは許されない。

本件について、
(ア)業務災害支給処分と労働保険料認定処分の実体的な関係
(イ)特定事業主の手続的保障
(ウ)業務災害支給処分の法律効果の早期安定の要請
の各観点からの検討を行い、

例外的に、
公定力ないし不可争力により担保されている先行処分に係る法律効果の早期安定の要請を犠牲にしてもなお後行処分の取消訴訟において先行処分の違法を主張する者の手続的保障を図るべき特段の事情
が認められ、先行処分の違法を主張すること許されるかどうかについて判断。
 
◎(ア)について、
業務災害支給処分と労働保険料認定処分は、同一の目的を達成するための連続した一連の手続を構成しているとみる余地もあり得るといえるものの、
相結合してはじめてその効果を発揮するものということはできない

前記各処分が実態的に相互に不可分の関係にあるものとして本来的な法律効果が後行処分である労働保険料認定処分に留保されているということはできない
 
◎(イ)について、
業務災害支給処分については、
保険給付手続に事業主が一定の関与を義務付けられ、また、保険給付の請求について所轄労働署長に書面で意見を申し出ることができるなど、
その適否を争うための手続的保障が特定事業主にも相応に与えられている一方で、
特定事業主が、労働保険料認定処分がされる段階までは争訟の提起という手続を執らないという対応を合理的なものとして容認するのは相当ではない。 
 
◎(ウ)について
業務災害支給処分については、その法律効果の早期安定が特に強く要請されるにもかかわらず、仮にその違法を理由に労働保険料認定処分を取り消す判決が確定すると、所轄労基署長により職権で取り消される得ることになり、早期安定の要請ひいては労働者の保護の要請を著しく害する結果となる。 
   
本件支給処分は取消判決等により取り消されたものではなく、また、別件判決を踏まえても(業務起因性があるとして行われた)本件支給処分が無効であるとみる余地はない

本件認定処分の取消し粗放である本件訴訟において、Xが本件支給処分の違法を本件認定処分の取消事由として主張することは許されない。
 
<解説>
本判決は、
原則として先行処分の違法を後行処分の取消事由として主張することは許されないとしつつ、
違法性の承継を正面から肯定した初めての最高裁判決(H21.12.17)がその判断過程において考慮した観点をほぼ踏襲。
(but同最判は、違法性の承継に関する一般的判断基準を示したものではない。) 

控訴審(東京高裁H29.9.21):
本判決の結論を維持し、Xの控訴を棄却。
but
控訴審判決は、違法性の承継が例外的に認められる場合の根拠及び基準について、本判決の判示部分を一部改め、
個別の処分について定める事実行政法規の解釈として先行の処分と後行の処分とが同一の目的を達成するための一連の手続を構成し、相結合して1つの効果を実現しているといえるか否か、
先行の処分と後行の処分とが実体的に相互に不可分の関係にあるものとして本来的な法律効果が後行の処分に留保されているといえるか否か、
先行の処分の処分の段階においてその適否を争うための手続的保障が後行の処分により不利益を受ける者に与えられているといえるか否か
等の事情を総合的に考慮し、
公定力ないし不可争力により担保されている先行の処分に係る法律効果の早期安定の要請を犠牲にしてもなお、先行の処分の違法を主張することにより後行の処分の効力を争おうとする者の手続的保障を図るべき特段の事情があるといえる場合には、
違法性の承継が肯定される

判例時報2371

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2018年8月 7日 (火)

行政文書の開示を求める民事上又は公法上の請求権を被保全権利とする仮処分命令の申立(否定)

大阪地裁H29.10.2      
 
<事案>
近畿財務局長に対し、
学校法人Aによる国有地払下げ問題に関連する行政文書の開示請求(「本件開示請求」)をし、一部開示決定を受けたXが、
本件処分に基づき開示された行政文書(「本件開示文書」)の他にも開示請求をした行政文書が存在するはずであると主張し、当該未開示の行政文書の開示を求める民事上又は公法上の請求権を被保全権利として、
本件仮処分対象文書の変更、改ざん等を禁ずる旨の仮処分を求めた保全事件
の事案。 
 
<判断>
行政機関の保有する情報の公開に関する法律(「情報公開法」)の各規定を引用し、
同法の定める情報公開制度のの下において、同法3条の規定により行政文書の開示の請求をした者(開示請求者)は、
行政機関の長が同法9条1項の規定により行政文書の全部又は一部を開示する旨の決定(開示決定)をすることによって初めて、当該開示決定に係る行政文書の開示を受けることができる法的地位に立つ

開示決定がされていない特定の行政文書について、国ないし行政機関の長等に対し、その開示を求める請求権を有する余地はない。 

本件における事実関係の下において、本件処分が本件仮処分対象文書を開示する趣旨を含むものと解する余地はなく、
本件処分のほかに近畿財務局長により本件開示請求に対する応答として開示・不開示等の決定がされたこともない。

本件仮処分対象文書について開示決定がされたものと認めることはできない。

Xが国又は近畿財務局長に対して本件仮処分対象文書の開示を求める民事上又は公法上の請求権を有するものということはできない。

被保全権利は認められず、本件仮処分命令の申立てを却下。

 
<規定>
情報公開法 第3条(開示請求権)
何人も、この法律の定めるところにより、行政機関の長(前条第一項第四号及び第五号の政令で定める機関にあっては、その機関ごとに政令で定める者をいう。以下同じ。)に対し、当該行政機関の保有する行政文書の開示を請求することができる

情報公開法 第5条(行政文書の開示義務)
行政機関の長は、開示請求があったときは、開示請求に係る行政文書に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き、開示請求者に対し、当該行政文書を開示しなければならない。
・・・・・
 
<解説>
●本決定:
情報公開制度の仕組みに照らし、開示決定がされていない特定の行政文書について、その開示を求める具体的な請求権が生ずることはない旨を説示。
 
●仮に、特定の行政文書について開示決定がされたにもかかわらず開示の実施がされない場合に、開示決定を受けた者が訴訟において国等に対し当該行政文書の開示を請求することができるか?
同請求権を被保全権利として仮処分命令の申立てをすることができるのか? 
 
●本決定:
仮に本件開示文書のほかにも本件開示請求に係る行政文書が存在するとすれば、本件開示請求に対する応答として本件開示文書についてのみ開示決定をするなどした近畿財務局長の対応に一定の瑕疵があったものと評価される可能性があることに言及。

行政機関の長が、開示請求がされた文書を殊更に狭く特定した上で開示決定をした場合に、開示対象文書の特定に不服がある開示請求者が、訴訟手続き上、どのように争えるか?

A:本件開示対象とされるべきであった行政文書については実質的に不開示決定がされたものと見てその取消訴訟を提起する方法
B:不作為の違憲確認訴訟(行訴訟3条5項)
いずれの方法によるにしても、仮の救済としては仮の義務付け(行訴法3条5項)が考えられ、これらを本案として仮処分命令を発令する余地はないように思われる。

判例時報2370

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2018年8月 6日 (月)

自然環境保護団体等の原告適格が否定された事例

札幌高裁H30.1.17      
 
<事案>
リゾート事業を営む会社がスキー場建設計画に伴い、
東大雪支署長(国)から国有財産法18条6項の規定による国有林野の使用許可処分(「本件使用許可」)を、
北海道知事から北海道自然環境等保全条例30条1項の規定に依る開発行為の許可処分を
それぞれ受けた。

十勝地方の自然保護団体、エゾナキウサギの研究者及びエゾナキウサギの保護活動を目的とする組織の代表者(「原告ら」)が、国及び北海道に対し、
前記各処分は、生物の多様性に関する条約(「生物多様性条約」)に違反し無効であることの確認
を求めるとともに、
国及び北海道に対し、国賠法1条1項に基づき、慰謝料の支払を求めた事案。 
 
<争点>
本件各処分の名宛人でない原告らが、行訴法36条にいう本件各処分の無効確認を求める「法律上の利益を有する者」に当たるか? 
 
<規定>
行訴訟 第36条(無効等確認の訴えの原告適格) 
無効等確認の訴えは、当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないものに限り、提起することができる。

行訴法 第9条(原告適格)
処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。
2 裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たつては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たつては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。
 
<解説>
行訴法36条にいう「法律上の利益を有する者」の意義については、取消訴訟の原告適格についての同法9条1項の「法律上の利益を有する者」と同義であり、
当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれあるある者をいい、
当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、かかる利益も右にいう法律上保護された利益に当たり当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有する
(最高裁H4.9.22)

平成16年の行訴法改正により新設された同法9条2項は、行政処分の名宛人でない第三者について原告適格の有無を判断する際の解釈指針を規定しているところ、
最高裁判所(最高裁H17.12.7)は、いわゆる小田急高架事件において、
処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては、当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨および目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し、この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては、当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び及び性質並びにこれが害される態様及び程度を勘案すべきものである」
などとして、前記解釈指針に従って原告適格を判断すべきである旨を説示。
 
<原審>
①本件使用許可について、原告らの主張する生物多様性が保全された良好な自然環境を享受する利益は、不特定多数の者が等しく享受することができる内容及び性質を有するものであり、
その利益を享受する主体の外延に何らの限定も付すことができない

専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめるべき不特定多数の者の具体的利益ないし一般的公益そのもの

本件使用許可を定めた行政法規が、前記利益をそれが帰属する個々人の個別的利益を含めるものと解することはできず、また、原告らの主張する本件使用許可の手続きで意見を述べる権利についても、法令がこのような権利を地域の住民等に手続上の権利ないし個別的利益として付与し、法律上保護すべきものとする趣旨を含むものと解することはできず
原告らの主張する生物多様性条約及びそのガイドライン等を踏まえてもその結論は変わらない。

原告らの原告適格を否定。

②本件開発許可についても、同様の理由で、原告適格を否定。
 
<判断>
原審の判断を支持。 
生物多様性条約及びそのガイドラインの規定から、
公益とは全く別のナキウサギ研究集団(セクター)ないし地域の集団(セクター)の一員として個別的利益を侵害された旨の原告らの控訴理由について、
生物多様性条約が、地域の住民や生物多様性条約にいう知識を有する者等に対して、自国の国内法令によらず直接、手続上の権利なしい個別的利益を付与していると解することはできない

判例時報2370

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2018年7月10日 (火)

政務調査費の支出の一部が違法とされた事例

仙台地裁H29.11.2      
 
<事案>
仙台市民オンブズマンである原告が、仙台市議会の会派である補助参加人らにおいて、仙台市から交付を受けた平成23年の政務調査費の一部を違法に支出し、これを不当に利得した⇒地自法242条の2第1項4号に基づき、
仙台市長である被告に対し
補助参加人らに対して違法に支出した政務調査費相当額の金員の返還及びこれに対する遅延損害金又は法定利息の支払を請求するよう求めた

 
<争点>
①政務調査費の支出の違法性に係る判断枠組み
②選挙期間中の政務調査費の支出の適法性 
 
<判断>
●政務調査費の支出の違法性に係る判断枠組み 
◎違法性の判断基準 
法が政務調査費の制度を設けた趣旨を指摘した上で、
条例における使途に係る定めが法の趣旨に反しない限り、その定めに基づいて政務調査費の支出の違法性を判断するのが相当。
具体的な支出の違法性は、本件使途規準(本件条例の委任を受けて定められた本件規則において定められている使途基準)に合致するか否かを基準に判断

本件使途規準に合致しない場合:
当該支出の客観的な目的や性質に照らして、当該支出と議員の議会活動の基礎となる調査研究活動との間に合理的関連性がない場合をいう。

仙台市においては、政務調査費の対象外となる経費や支出手続等の本件条例の施行に関し必要な事項を定めた要綱(本件要綱)があり、法の趣旨に反しない限り、これを具体的支出の本件使途規準への適合性判断の指標とする。
 
◎主張立証責任 
原告において、支出が本件使途規準に合致せず違法であることを主張、立証することを要する
but
本件各支出が本件使途基準に合致せず違法であることを具体的に明らかにすることは困難である一方、被告らが本件使途基準に合致することについて説明することは比較的容易
法の趣旨には、政務調査費の使途の透明性の確保も含まれている

原告は、当該支出と議員の議会活動の基礎となる調査研究活動との間に合理的関連性がないことを示す一般的、外形的な事実の存在を主張、立証すれば足り、前記の事実が認められた場合には、被告らにおいて、当該支出により市政に関する具体的な調査研究が現にされたなどの特段の事情を立証しない限り、当該支出は本件使途規準に合致せず違法である。
 
◎本件要綱に基づく経費の按分 
本件要綱は、政務調査費に係る経費と政務調査費以外の経費を明確に区分し難く、従事割合その他の合理的な方法により按分することが困難である場合には、按分割合について2分の1を上限として計算した額を政務調査費の支出額とすることができる旨規定
前記規定は、法の趣旨及び前記の会派の活動の性質に照らして合理的

原告が、調査研究費活動以外の活動にも利用されることが推認される経費であることを示す一般的、外形的な事実を立証した場合は、
被告らにおいて、当該経費が調査研究活動のみに利用されたこと、又は、当該経費に関し、調査研究活動に利用された割合とそれ以外の以外の活動に利用された割合について、客観的資料に基づき立証することを要する。
 
●選挙期間中の政務調査費の支出の適法性 
①議員にとって、次回の選挙に当選するか否かは議員としての活動を続けようとする自らの立場を左右する重要な事項
②会派代表者の尋問結果に照らせば、会派及びその所属議員は選挙期間中には選挙活動に集中しており、調査研究活動はほとんど行われていないことが推認される

選挙期間中の活動に対し政務調査費が支出されたという事実は、当該支出と議員の議会活動の基礎となる調査研究活動との間に合理的関連性がないことを示す一般的、外形的事実であることが認められ、
原告がその事実の存在を立証した場合には、被告らにおいて当該支出により市政に関する具体的な調査研究が現にされたことを客観的資料に基づいて立証しない限り、当該支出は本件使途規準に合致せず違法であると判断するのが相当。
 
<解説>
●政務調査費の支出の違法性に係る判断枠組み 
◎違法性の実体要件
違法性の実体要件について、
A:裁量説:
議員側に市政との関連性や支出の必要性等について広範な裁量があることを前提に、裁量権の逸脱濫用があることを前提に、裁量権の逸脱濫用がある場合にのみ、違法となる。
B:合理的解釈説:
政務調査費の使途に応じて、比較的緩やかに必要性が認められるものと、それほど緩やかに解されないものがあるとして、個別の事案ごとに、条例等の使途規準に係る規定の合理的な解釈によって解決するとの見解。

◎主張立証責任 
①不当利得の要件事実的な考え方と
②現実の立証問題への配慮
一般的、外形的な事実の立証を原告に求める一般的、外形的事実説が妥当であると考えられている。
but
どのような事実をもって一般的、外形的事実とするかはなお議論

判例時報2367

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2018年7月 1日 (日)

損害賠償義務の履行を受けている場合の都道府県知事の公害健康被害の補償等に関する法律に基づく障害補償費の支給義務(消極)

最高裁H29.9.8      
 
<事案>
公害健康被害の補償等に関する法律(「公健法」)4条2項により水俣病である旨の認定を受けたXが、同法25条1項により傷害補償費の支給を請求⇒処分行政庁である熊本県知事から、Xの健康被害に係る損害は、原告企業との間で行われた損害賠償請求訴訟の結果、原因企業によって全て填補されている⇒同法13条1項に基づき、障害補償費を支給しない旨の決定⇒熊本県を相手に、その取消しと支給決定の義務付けを求めた。 
 
<規定>
公健法 第一三条(補償給付の免責等)
補償給付を受けることができる者に対し、同一の事由について、損害のてん補がされた場合(次条第二項に規定する場合に該当する場合を除く。)においては、都道府県知事は、その価額の限度で補償給付を支給する義務を免れる。
 
<原審>
Xの損害は前訴確定判決に基づく義務の履行により全て填補されている。
but
①公健法13条1項は、損害が填補された場合、その価額の限度で補償給付を支給する義務を免れると規定するにとどまっている。
②同法に基づく補償給付の制度は、純粋な損害填補以外の社会保障的な要素を含むと解されること等
⇒前訴確定判決に基づく義務を原因企業が履行したとしても、熊本県知事が当然に当該補償給付の支給義務を全て免れると解することはできない。

第1審判決のうちXの取消請求を棄却した部分を取り消し、これを認容。
 
<解説>
①立法の経緯等⇒公健法が、損害の填補は民事上解決されるべき問題であることを前提としつつ、それでは訴訟が長期間に及んでしまうことなどの主にが被害者に生じていたことなどの当時の問題を社会的に解決し、早期の救済を図る制度として設けられた
②公健法は、その条文上も、事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる著しい大気の汚染又は水質の汚濁の影響による健康被害に係る損害を填補するための補償等を行うことにより、健康被害に係る被害者等の迅速かつ公正な保護及び健康の被害の確保を図ることを目的とし(1条)、同法4条2項の認定に係る被認定者及び認定死亡者に関する補償給付の支給に要する費用に充てるためのものの全部については、特定施設等設置者が納付する特定賦課金を充て(49条2項、62条等)、当該被認定者等が損害の填補を受けた場合における補償給付の免責を認めている(13条)等

同法4条2項の認定を受けた者に対する補償給付が、民事上の損害のみを補償の対象としている。
 
<判断>
公健法4条2項の認定を受けた者に対する障害補償費は、
これらの者の健康被害に係る損害の迅速な填補という趣旨を実現するため、原因者が本来すべき損害賠償義務の履行に代わるものとして支給されるものであり、同法13条1項の規定もこのことを前提とするもの
。 
 
<解説>
X:前訴確定判決で認容された800万円はXの精神的損害に対する慰謝料のみであり、これには逸失利益等の経済的損害は含まれていないと主張。
vs.
前訴においてXらは、損害額は弁護士費用を除き生存者につき3000万円であると主張し、損害の内容として逸失利益、慰謝料及び介護費を挙げたが、各損害項目につき具体的な損害額の主張をしなかった

その請求は、被害者が受けた肉体的・経済的・生活的・家族的・社会的・環境的なものすべての損害を包括的に請求しようとする意図をもった損害賠償請求の方式である、いわゆる包括請求

前記確定判決は、Xの損害の全てについての賠償を原因企業に命じたもの

判例時報2366

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2018年6月30日 (土)

職員らの不正について県知事が求償権を行使しないことが「違法な怠る事実」となるか

最高裁H29.9.15      
 
<事案>
大分県教育委員会の教員採用試験において不正に関与した者に対する求償権をY(知事)が行使しないことが違法に財産の管理を怠るもの
⇒大分県の住民であるXが、Yを相手に、
①本件不正に関与したとXらが主張する者に対する求償権行使を怠る事実の違法確認を求めるとともに、
②本件不正に関与した者らに対する求償権に基づく金員の支払を請求することを求める
住民訴訟。
 
<判断> 
①本件不正の態様が悪質であり、その結果も極めて重大
Aに対する本件返納命令や本件不正に関与したその他の職員に対する退職手当の不支給は正当であり、県が本件不正に関与した者に対して求償すべき金額から本件返納額を当然には控除することができない
原審が指摘する事実は抽象的なものであり、それらが直ちに、過失相殺又は信義則により、県に夜求償権の行使が制限されるということはできない

県知事が前記求償権のうち本件返納額に相当する部分を行使しないことが違法な怠る事実に当たるとはいえないとした原審の判断には違法がある

原判決のうちXらのA~Dに関する4号請求並びにX2及びX4のE及びFに関する3号請求及び4号請求に関する部分は破棄を免れない。 

県の教員採用試験において不正が行われるに至った経緯や、本件不正に対する県教委の責任の有無及び程度、本件不正に関わった職員の職責、関与の態様、本件不正発覚後の状況等に照らし、
県による求償権行使が制限されるべきであるといえるか否か等について、更に審理を尽くさせるため、前記部分につき本件を原審に差し戻すこととした。
 
<解説> 
●地方公共団体が有する債権の管理については、地自法240条、同法施行令171条ないし171条の7の適用がある。
 
判例(最高裁H16.4.23)は、
前記各規定によれば、地方公共団体が客観的に存在する債権を理由もなく放置したり免除したりすることは許されず原則として、地方公共団体の長にその行使又は不行使についての裁量はない
債権の不行使が財産の管理を違法に怠る事実に当たるか否かが住民訴訟で争われた場合には、その不行使を適法とする十分に合理的な理由があるといえる場合には、債権行使を怠る事実が違法であるとはいえないと判断される場合もあり得る
but
前記最高裁判決の趣旨
債権の不行使が怠る事実に当たらないといえるのは例外的な場合であると解される⇒その不行使を違法と判断するためには、その合理性について、十分に具体的な理由が必要となる。
 
●非違行為等を行った職員らに対する求償権ないし損害賠償請求権の行使に当たって、信義則上の制限の可否等が問題となった下級審の裁判例

①市が違法な給水拒否により損害を与えた事案
市長等の給与に関する条例の特例を定める条例により市長等の給料について減額措置が講じられた
but
同措置は懲戒処分としての性格を有するものにすぎない⇒市長への求償権の範囲に影響を与えるものではない

②町の税務課長が不実の宅地課税証明書を発行⇒宅地と信じて土地を購入した買主に損害を生ぜしめた事案:
職員に対する指導、教育が足りず、対応方針が徹底していなかったことも一因⇒過失相殺の法理を類推して、損害賠償額の8割の限度で求償を認めた。

③市立小学校の教員が生徒に体罰を加えて示談金340万円を支払った事案:
求償の相手方が負担すべき額を算出した上、相手方は前記示談金とは別に被害者に直接102万円を支払ったため、求償すべき額は23万円にとどまる。
このような少額の金額の求償権を行使せずに訴訟を控えることは、求償権行使について怠る事実があるとはいえない。

④佐賀県商工共済組合を監督している商工課長が破たん状態にある同組合の粉飾を放置し、県知事が業務改善命令を出さずに、債務超過に陥り、組合員らに合計4億9148万円を支払ったため県知事に求償を求めた事案:
裁判所の求釈明にかかわらず求償権の範囲を制限すべき理由の主張がされなかった⇒請求額全額の求償を認めた。

⑤④の控訴審:
①県が国に対して求償権を行使していない、②監督は基本的に課長の専決であった、③佐賀県の職員が全体として問題の解決に積極的であったとはいえない、④県知事に不当な目的や動機があったとは見られない、⑤県知事が関与しない点で損害の拡大があったこと等
⇒求償権の範囲ないし額につき、信義則上、賠償額の10分の1に相当する額に制限すべき。

⑥国立市長が、建築基準法に違反しない適法建築物の建築・販売の阻止を目的として、少なくとも重大な過失により、自ら主体的かつ積極的に一連の違法行為をした事案:
当該違法行為における市長の立場、目的、行動内容及びこれによる市の経済的不利益等を踏まえ、市が市長に対して求償権の全額を行使しても、信義則に反するとはいえない。

⑦刑務官が消火用ホースによる放水で受刑者を死亡させた⇒全額の求償が命じられた。

⑧受刑者3名に対して違法な皮手錠の施用、保護房収容等で当該受刑者らのうち1名死亡、その余の者に腸間膜損傷の負傷又は外傷後ストレス障害等の後遺障害⇒全額の求償

⑨納税職員が市民税の徴収を懈怠して時効消滅させた
⇒納税職員の指揮監督権者である市長に対し、指揮監督上の重大な過失あり⇒請求認容。

判例時報2366

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