行政

2018年2月 9日 (金)

諫早湾干拓地潮受堤防排水門開放差止請求事件第1審判決

長崎地裁H29.4.17    

<事案>

国営諫早湾土地改良事業において、諫早湾干拓地潮受堤防が設置され、それにより締め切られた奥部を調整池とし、その内部に干拓地が形成された。
Y(国)は当該潮受堤防の北部及び南部に排水門を設置し、その開門権限を有している。
福岡高裁H22.12.6は、Yに対し、判決確定の日から3年を経過する日までに、防災上やむを得ない場合を除き、本件各排水門を開放し、以後5年間にわたって開放を継続することを命じ、同判決は同月21日に確定。

本件:
Xら(諫早湾付近の干拓地を所有又は賃借し農業を営むという者、諫早湾内に漁業権を有する漁業協同組合の組合員として漁業を営むという者及び諫早湾付近に居住する者など)が、Yは本件各排水門を開放し、以後5年間にわたってその開放を継続する義務を負っており、地元関係者の同意と協力なしに開門をする可能性があって、Xらは開門により被害を受けるおそれがあるなどと主張

所有権、賃借権、漁業行使権、人格権又は環境権・自然享有権に基づく妨害予防請求として、Yに対し、
・・・・開門の開門の各差止めを求めた。

 
<Yの主張>
事前対策を実施することによって、本件開門によるXらの被害は回避され、
本件開門によって漁業環境が改善する可能性があり、
開門調査を実施し、調査結果を公表することに公共性ないし公益上の必要性がある。 
 
<判断>
●Yが本件開門をする蓋然性 
ある者に対して一定の作為をしないことを求める給付訴訟においては、その者によって当該「一定の作為」がなされる蓋然性のあることが、訴えの利益として必要
Yがケース1~3開門をする蓋然性はあるが、その余の開門をする蓋然性はない。
 
●ケース3-2開門、ケース1開門およびケース3-1開門に差止請求を認容すべき違法性があるか

◎ 差止請求を認容すべき違法性があるかを判断するにあたっては、
侵害行為の態様と侵害の程度、
被侵害利益の性質と内容、
侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度
等を比較検討
するほか、
被害の防止に関する措置の有無及びその内容、効果等
の事情を考慮
してこれを決すべき。

前記被侵害利益の性質と内容については、個々のXの被侵害利益を考慮すべきであるが、
多数の当事者の権利について妨害のおそれがあることは、公共性ないし公益上の必要性の程度を減殺する事情として考慮することができる

◎ ケース3-2開門は、本件各排水門の管理水位を維持したまま5年間の比較的長期にわたり、調整値に海水を導入するもの

これにより各X農業者の所有又は賃借に係る農地には塩害、潮風害又は農業用水の一部喪失の発生する高度の蓋然性があり、これらにより農業被害の発生するおそれがある
これらの農業被害は、財産的権利に関するものであるが、各X農業者の生活等の基盤に直接関わるものであり、重大

他方で、ケース3-2開門がなされても、Yが主張する諫早湾及び有明海の漁業環境が改善する可能性及び改善の効果はいずれも高くない

ケース3-2開門による開門調査を実施し、本件事業と漁獲量減少との関連性等の調査結果を公表することには一定の公共性ないし公益上の必要性はあるが、解明の見込みは不明である上、ケース3-2開門がなされた場合に、多数のXが土地所有権ないし賃借権の行使として営む農業に前記被害を受けるおそれが生じる
ケース3-2開門の公共性ないし公益上の必要性は相当減殺される

Yの予定する事前対策は、その実効性に疑問があり、これによって、Xらの妨害のおそれは否定されない

ケース3-2開門によって侵害を受けるおそれのある各Xの被侵害利益ケース3-2開門の公共性ないし公益上の必要性とを比較し、各事情を総合的に考慮すれば、ケース3-2開門については、差止請求を認容すべき違法性がある
同様に、ケース1開門、ケース3-1開門についても、差止請求を認容すべき違法性がある。

●ケース2開門について 
ケース2開門は、5年間の開門をするものであり、
第1段階としてケース3-2開門を行い、
第2段階としてケース3-1開門を行い、
第3段階としてケース1開門を行うという開門方法。

ケース2開門の差止めを求める訴えは、訴えの利益を欠き、不適法⇒却下。

判例時報2353

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2018年2月 1日 (木)

分担金を定めた条例の規定の適法性(適法)

津地裁H29.6.22      
 
<事案>
地方公共団体の実施する下水道整備事業に伴う分担金の負担について、その適法性が争われた事案。

Y(三重県名張市)においては、市全域下水道化基本構想の下に、住宅団地の下水道整備を進め、住宅団地の合併浄化槽及び汚水処理施設をYが公共管理することが構想。
Yは、同構想のもと、Xらの居住する区域においては、新設する汚水処理施設に接続することを前提に、既存の汚水処理施設(「本件処理施設」)を公共管理に移管し、本件処理施設を耐用年数が過ぎた後に撤去するという事業(「本件事業」)を実施することにし、地自法224条、228条1項に基づき名張市住宅地汚水処理施設分担金条例(「本件条例」)を定め、同条例に基づき、同事業の分担金を同区域の住民に賦課。

Xらは、同分担金の賦課決定を受けたため、本件各処分が違法であると主張して、その取消しを求めた。
 
<争点>
本件各処分が分担金(=地方公共団体が行う特定の事件に要する経費に充てるため、その事件に特別の関係のある者に対して課する金銭)について定めた地自法224条に違反するか否か。 
 
<規定>
地自法 第224条(分担金)
普通地方公共団体は、政令で定める場合を除くほか、数人又は普通地方公共団体の一部に対し利益のある事件に関し、その必要な費用に充てるため、当該事件により特に利益を受ける者から、その受益の限度において、分担金を徴収することができる。
 
<判断>
●地自法224条に反して違法であるとは認められない⇒請求棄却。

●地自法224条の解釈 
同条の「利益」とは、必ずしも金銭に見積もり得る経済的利益に限らず、当該事業により生じる利便性や快適性といった生活上の利益を含む

分担金が同条の「受益の限度」を越えないものか否かは、事業の性質、必要性、事業費、受益の性質及び程度等を考慮して衡平の観点から社会通念に基づき判断されるべきであり、
受益の限度を越えない範囲について、どのような算定方法を採るかは、普通地方公共団体の合理的な裁量に委ねられている


①本件事業は、Xらが居住する区域の住民が、安定的に下水道サービスを受ける上で、重要な施策であって、合理性を有するもので、Xらは、本件事業により、他の住民ないし土地所有者には利益のない本件処理施設による汚水処理の利便性の向上及び資産価値の増加といった「利益」を受ける
②本件事業に係る分担金も事業費総額の約5.8%に止まるものであり、その割合がXら住民にとって課題な負担とまではいえず分担金の算定方法に関しても、Yに認められた合理的裁量の範囲を逸脱するものではない

事業の必要性、受益の重要性及び分担金が合理的に算定されていることを総合すると、本件条例による分担金の定めは、地自法224条に反して違法であるとは認められない。 
 
<解説>
①特定の事件に関し特に利益を受けるものから徴収される者である点、
②報償的性格を有する点
③一般収入ではなく当該事件の費用に充てるため徴収される点
等で分担金と税は異なる。 

公共下水道事業のように、市町村が、都道府県知事の認可を受けて施行する事業(都市計画法59条1項)においては、同法75条1項が、都市計画事業によって著しく利益を受ける者がある場合における受益者負担金について規定。
but
本件事業は、都道府県知事の認可を受けて施行された事業ではなかった⇒地自法224条に基づいて実施。

判例時報2352

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2018年1月31日 (水)

教員採用処分の取消処分の有効性が問題となった事案

①福岡高裁H29.6.5
②福岡高裁H28.9.5         
 
①事件
<事案>
Xが、平成20年度大分県公立学校教員採用選考試験に合格し、同年4月1日付けで県教委から小学校教員に任命(本件採用処分)⇒前記試験のXの成績に不正な加点操作があったとして本件採用処分の取消処分

Xが、大分県に対し、
本件取消処分の取消しを求めるとともに、
国賠法1条1項に基づき、違法な本件取消処分ないし本件採用処分により精神的苦痛を受けた⇒慰謝料700万円及び弁護士費用70万円の合計770万円の損害賠償を求める。 
 
<一審>
本件採用処分は裁量権を逸脱し又は濫用したものとして違法であり、
本件採用処分を維持する公益上の不利益は、本件取消処分によってXが被る不利益よりさらに重大で公共の福祉の観点に照らし著しく相当性を欠く

本件取消処分の取消請求を棄却。 

本件採用処分は違法な行政処分
国賠法に基づいて、大分県に慰謝料350万円、弁護士費用50万円の合計400万円の損害賠償をXに支払うよう命じた
 
<判断>
一審を維持。 
 
<解説> 
●行政処分の職権取消しの可否及び要件 
行政処分の職権取消しについての総則的規定は存在しない。
but
法律による行政の原理等を理由にこれを認めるのが一般。

要件について、特に授益的行政処分では、
A:違法又は不当を要件とするもの
B:違法に限定するもの
C:取消制限の利益衡量とともに判断するもの

最高裁H28.12.20:
行政処分の職権取消しの適否についての審理判断は、原処分が違法又は不当(違法等)があると認められるか否かの観点から行われるべきである。

判断:
本件採用処分は大幅に改ざんされた点数に基づくもので、改ざんがなければXについての本件採用処分はなかった本件採用処分は事実の基礎を欠く違法なもの
 
授益的行政処分の取消制限 
授益的行政処分については、当該行政処分の相手方の既得の利益や処分の存続及び適法性への信頼の保護等
職権による取消しが制限される場合がある

当該処分の取消しによって生ずる不利益と、
取消しをしないことによって当該行政処分に基づき既に生じた効果をそのまま維持することの不利益
とを比較考量した上、
当該行政処分を放置することが公共の福祉に照らして著しく不当であると認められるときに限り、当該行政処分を取り消すことができる
(最高裁)

判断:
Xの正教員採用への信頼と期待の侵害等は軽視し難い(ただし、Xが正教員の地位を保持する正当な利益は認められない。)ものの、
大幅な点数の改ざん(特にX所属の勉強会の指導官の口利きが原因)による合格は、公平な教員採用試験の実施についての信頼、教員あるいは公教育自体に対する県民の信頼を失わせる等本件採用処分の維持による公益上の不利益はより重大であって、本件採用処分を維持することは公共の福祉の観点に照らし著しく相当性を欠く

本件取消処分は適法。
 
<②事件>
①事件とほぼ同様の枠組みを採った上で、
採用処分に瑕疵はあるものの、
教員としての地位を失うなどZの社会的・経済的不利益は大きく、
Zが加点操作に何ら関与していないこと

教員採用処分を取り消すことはできない。 
   
①事件②事件とも、いずれも上告 

判例時報2352

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2018年1月11日 (木)

原爆症認定申請に対する却下処分の取消訴訟と国賠請求

名古屋地裁H28.9.14      
 
<事案>
広島市又は長崎市に投下された原子爆弾に被ばくした原告ら(4名)が、原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(被爆者援護法)1条1項に基づいて原爆症認定申請⇒厚生労働大臣がこれらを却下⇒
各却下処分の取消しを求めるとともに、
前記各却下処分は違法であるとして、国賠法1条1項に基づき、慰謝料として300万円の損害賠償等を求めた事案。 
 
<争点>
原告らの各原爆症認定申請に係る各疾病(各申請疾病)が、
被爆者援護法10条1項にいう
「原子爆弾の放射能に起因」するものであるか(放射線起因性)及び
「現に医療を要する状態」にあるか(要医療性) 
 
<判断>   
●放射線起因性

放射線起因性の立証の程度等について、
最高裁H12.7.18を引用し、
高度の蓋然性が必要であるとした上で、

その具体的な判断方法として、
当該被爆者の放射線への被曝の程度と、
統計学的、疫学的知見等に基づく申請疾病等と放射線被曝との関連性の有無及びその程度とを
中心的な考慮要素としつつ、
これに当該疾病等に係る他の原因(危険因子)の有無及び程度等を総合的に考慮して、
原爆放射線の被曝の事実が当該申請に係る疾病若しくは負傷又は治癒能力の低下を将来した関係を是認し得る高度の蓋然性が認められるか否かを経験則に照らして判断するのが相当。

その上で、原告らの各申請疾病について、いずれもその放射線起因性を肯定。
 
●要医療性 

①被爆者援護法7条に規定する健康診断において、視診等の検査や、血液検査、エックス線検査等の各種検査を行うことが可能(同法施行規則9条)であるところ、
これらは、同法10条2項にいう「診察」ないし「医学的処置」というべきであるにもかかわらず、同法において、これらは「医療」(同法第3章3節)とは区別された「健康管理」(同章第2節)として揚げられている
②「負傷し、又は疾病にかかり、現に医療を要する状態にある」(同法10条1項)という文言の自然な意味内容等

被爆者が積極的な治療行為を伴わない定期検査等の経過観察が必要な状態にあるような場合には、同法上、原則として健康管理としての検査等によって対応すべきであって、当該疾病等につき再発や悪化の可能性が高い等の特段の事情がない限り、前記検査等は「医療」には当たらない

X2の肺がん及び乳がんについて:
いずれも、経過観察を受けているにとどまる状態であるところ、その病期がⅠであり、術後相当期間を経過している
再発や悪化の可能性が高い等の特段の事情があるとまでは認められない
要医療性を認められない

X3の慢性甲状腺炎:
①積極的な治療行為を伴わない経過観察がされていたにとどまり、当該疾病につき悪化の可能性が高い等の特段の事情があったとは認められない、
②1年に1回程度の定期検査により経過観察を行うことで足りる⇒被曝者援護法条の健康管理としての検査等によってX3の病状に対応することができないとみるべき事情は存在しない。
要医療性は認められない。 
 
●原告らの国家賠償請求について:
厚生労働大臣は原爆症認定請求につき疾病・障害認定審査会の意見を聴いた上で前記各処分をしており、同意権を尊重すべきでない特段の事情も認められない

厚生労働大臣の前記処分等について国賠法上の違法性は認められず、国賠請求は理由がない。 

判例時報2350

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2018年1月 1日 (月)

外務員登録取消処分の取消訴訟での原告適格・違法性

東京地裁H29.4.21      
 
<事案>
内閣総理大臣から外務員に係る登録事務の委任を受けたY(認可金融商品取引業協会)は、XがB及びBを介してC社に対し、D社による公募増資の実施の公表日に関する情報を提供した行為が、法令違反である「有価証券の売買その他の取引・・・につき、顧客に対して当該有価証券の発行者の法人関係情報を提供して勧誘する行為」(金商法38条、平成26年内閣府令第7号による改正前の金融商品取引業等に関する内閣府令117条1項14号)に該当する

A社に対し、金商法64条の5第1項2号の規定により、Xに係る外務員の登録を取り消す旨の処分。

本件処分の名宛人ではないXが、Yに対し、本件処分には法64条の5第1項の定める処分要件を欠いた違法及び行手法14条1項本文の定める理由提示の要件を欠いた違法がある⇒その取消しを求めた。
 
<規定>
行訴法  第9条(原告適格)
処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。
行政手続法 第14条(不利益処分の理由の提示)
行政庁は、不利益処分をする場合には、その名あて人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない。ただし、当該理由を示さないで処分をすべき差し迫った必要がある場合は、この限りでない。

行訴法 第10条(取消しの理由の制限)
取消訴訟においては、自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として取消しを求めることができない。
 
<判断>
●Xは本件処分の名宛人ではないが、
本件処分の法的効果によってその労働契約上の権利が制限を受ける

名宛人と同様に自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者に当たるといえる
⇒本件処分の取消訴訟の原告適格を有する。

●Xは、Bに対して本件情報を提供したとは認められるものの、C社に対して本件情報を提供したとはみとめられず、また、B及びC社に対して有価証券の売買その他の行為を顧客として行うことを勧誘する行為をしたと認めることもできない
⇒Xが本件違法行為をしたとは認められない。
⇒本件処分には金商法64条の5第1項の定める処分要件を欠いた違法がある。

●一般に外務員は常日頃から数多くの顧客に対して様々な取引等の勧誘等を行っており、特に本件ではB及びC社はA社に口座を持つ顧客ではない一方、
XとBは個人的に業務に関する情報交換を毎日のように行っていた

本件処分に係る処分通知書に「顧客」、「当該有価証券の発行者の法人関係情報」、「勧誘」等に該当する具体的な事実の記載がなければ、誰に対するいかなる情報の提供及び勧誘の行為が本件処分の具体的なな理由とされているかを知ることは困難。

本件処分には、行手法14条1項本文の定める理由提示の要件を欠いた違法がある。

●Yは、Xが本件処分の名宛人ではなく行手法14条1項本文の適用を受けない⇒同項本文の定める理由提示の要件を欠いた違法は、Xの法律上の利益に関係のない違法であるとして、これを理由として本件処分の取消しを求めることはできない(行訴法10条1項)と主張。

本判決:
①行政庁の恣意が抑制されなければXの労働家約上の権利が不当に侵害される
処分の理由が名宛人であるA社に適切に知らされなければXにおいてもこれを知ることができず不服の申立てに支障を来すおそれがある

前記違法がXの法律上の利益に関係のない違法であるとはいえない
 
<解説> 
●取消訴訟の原告適格
行訴訟9条1項にいう「法律上の利益を有する者」とは、
当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう(最高裁昭和53.3.14)。

処分の名宛人以外の者が処分の法的効果による権利の制裁を受ける場合には、その者は、処分の名宛人として権利の制限を受ける者と同様に、当該処分により自己の権利を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者として、当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に当たり、その取消訴訟における原告適格を有する(最高裁H25.7.12)。
 
●行手法14条1項本文が、不利益処分をする場合に同時にその理由を名宛人に示さなければならないとしているのは、
名宛人に直接に義務を課し又はその権利を制限するという不利益処分の性質に鑑み、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものであり(最高裁H23.6.7)、
理由の提示を欠いたことは処分の取消事由となる

判例時報2349

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年11月29日 (水)

語学学校の外国人講師と厚生年金保険の被保険者の資格

東京地裁H28.6.17      
 
<事案>
語学学校を運営するA社との間で雇用契約を締結し、英語講師として就労していたX(カナダ国籍)が、平成21年11月9日、港社会保険事務所長に対し、厚生年金保険の被保険者の資格の取得の確認請求⇒同年12月4日付けで、却下する旨の処分⇒本件却下処分の取消しを求めて訴えを提起。

港社会保険事務所は同月31日に廃止され、本件却下処分は厚生労働大臣等がした処分とみなされ、同処分に係る権限の受任者はY(日本年金機構)となった。

Xは、平成18年8月1日に厚生年金保険の被保険者の資格を取得したが、
Aは、平成21年8月1日付けでXについて被保険者の資格喪失の届出をし、港社会保険事務所長は、同年9月3日付けで、Aに対し、Xについて同年8月1日付けで被保険者の資格喪失が確認された旨の通知。

Aから同通知内容を知らされたXは、本件確認請求⇒請求に係る事実がないものと認めたとして本件却下処分(なお、Xについては、その後平成22年12月1日付けで、被保険者資格の取得が確認された。)。
 
<争点>
被保険者資格の喪失が確認された平成21年8月においてXが厚生年金保険の被保険者であったと認められるか否か。 
 
<判断>
厚年法が、標準報酬月額を基礎として年金額や保険料を算定する制度を採用し、標準報酬月額の最低額が9万8000円とされていること
報酬月額算定に当たり報酬支払の基礎となる日数が17日未満の月の報酬を除外するものとしていること等

同法は、労働力の対価として得た賃金を生計の基礎として生計を支えるといい得る程度の労働時間を有する労働者を被保険者とすることを想定
そのような労働者といえない短時間の労働者は、同法9条にいう「適用事業所に使用される70歳未満の者」に含まれないものと解するのが相当。 

短時間の労働者を判断する具体的な基準についての法令の定めがない
⇒被保険者とされるかどうかについては、前記の趣旨に照らして、個々の事例ごとに、労働日数、労働時間、就労形態、職務内容等を総合的に勘案して判断すべき

Xの具体的な労働日数、労働時間、就労形態、職務内容等
⇒同年7月までの間において被保険者の資格を喪失するには至らなかったじことになるとともに、同年8月において被保険者の資格を取得することができたと認定。

その他、
①Xの労働日数は常勤講師のものと変わりがなかったこと、
②報酬の額も前記標準報酬月額の最低額を大きく上回っており、十分に生計を支えることができる額であったこと
③事業主との雇用関係も安定していると評価することができること

Xは、本来、同月の前後を通じて被保険者の資格を有していたとみるべきであって、本件確認請求の趣旨に沿って検討した場合には、同月1日付けで被保険者の資格を喪失したものとされ、その旨の確認がされているものの、同日において被保険者の資格を再取得したものと認めることができる

Xは、同日において「適用事業所に使用される70歳未満の者」に該当するというべきであり、これを否定した本件却下処分は違法なものであるとして、Xの請求を認容
 
<解説>
厚年法9条は、「適用事業所に使用される70歳未満の者」は被保険者とする旨を定め、
例外として、同法12条(平成24年改正前のもの)は、臨時に使用される者であって日々雇い入れられる者等同条各号のいずれかに該当する者は被保険者としない旨を定めている。
同条各号のほかには適用事業所に使用される者について被保険者に該当しない旨を具体的に定めた明文規定はない。

本件は、厚生年金保険の被保険者資格の判断に当たり、厚年法の趣旨より、明文の適用除外事由に該当しない場合でも、いわゆる短時間の労働者は被保険者とはならないとの解釈を基本としつつ、
当時の短時間就労者(いわゆるパートタイマー)に係る被保険者資格の取扱いに関する、昭和55年6月6日付け厚生省保険局保健課長等による都道府県民生主管部(局)保険課(部)長宛ての文書(「内かん」)や平成17年5月19日付け社会保険庁運営部医療保険課長による地方社会保険事務局長宛ての文書(「語学学校に雇用される外国人講師に係る健康保険・厚生年金保険の適用について」)に示されている内容も踏まえつつ、
Xの労働時間のほか、労働日数、就労形態、職務内容等を個別かつ総合的に勘案して、
本件のXについては短時間の労働者ではなく厚生年金保険の被保険者の資格があるとした事例


平成24年8月10日成立の「公的年金制度の財務基盤及び最低保障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律」により、従前の厚生年金保険法12条各号の適用除外対象者に加え、一定の短時間の労働時間を有するにすぎない者(短時間労働者)を適用除外対象者として具体的に定める規定が設けられた。

判例時報2346

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年11月22日 (水)

国籍留保制度の期間規定に関する「責めに帰することができない事由」

最高裁H29.5.17      
 
<事案>
戸籍法104条1項所定の日本国籍を留保する旨の届出について、その届出期間の例外を定めた同条3項の適用が問題となった事案。 
 
<規定>
戸籍法 第104条〔国籍留保の意思表示〕
国籍法第十二条に規定する国籍の留保の意思の表示は、出生の届出をすることができる者(第五十二条第三項の規定によつて届出をすべき者を除く。)が、出生の日から三箇月以内に、日本の国籍を留保する旨を届け出ることによつて、これをしなければならない。
②前項の届出は、出生の届出とともにこれをしなければならない。
天災その他第一項に規定する者の責めに帰することができない事由によつて同項の期間内に届出をすることができないときは、その期間は、届出をすることができるに至つた時から十四日とする。
 
<解説>
国籍法12条の規定する国籍留保制度:
出生により外国の国籍を取得した日本国民で国外で生まれたものについて、戸籍法の定めるところにより日本国籍を留保する意思表示をしなければ、出生の時に遡って日本国籍を失う。
この制度は、昭和59年法律第45号(「本件改正法」)の施行前は、中華人民共和国等で出生した者を対象としていなかった。 

戸籍法104条:
出生届をすることができる者が、出生の日から3ヶ月以内に、出生届と共に、国籍留保の届出によってしなければならない(同条1項、2項)。
天災その他前記の者の責めに帰することができない事由によって前記の期間内に届出をすることができないときは、その届出期間は、届出をするに至った時から14日(同条3項)。

父母が本籍を有しない場合でも、その子の出生届をすることに障害はない。
 
<原審>
本件各届出の時点で、X1~X4に本籍及び戸籍上の氏名がなかったところ、このような場合でも戸籍法上は本件子らの出生届をすることは不可能ではない。
but
国籍留保の届出をしなければ日本国籍を喪失するという重大な結果を生ずる

出生届について父母の本籍及び戸籍上の氏名を記載した原則的な届出を提出できない場合は、戸籍法104条3項にいう「責めに帰することができない事由」があると解すべき
⇒本件届出を受理すべき。 
 
<判断>
国籍留保の届出が戸籍法104条1項の期間内にされなかった場合において、出生により外国の国籍を取得した日本国民で国外で生まれたものの父母について、戸籍に記載されておらず、本籍及び戸籍上の氏名がないという事情のみをもって、同条3項にいう「責めに帰することができない事由」があるとした原審の判断には、違法がある
⇒原決定を破棄し、Xらの申立てを却下した原々審判に対するXらの抗告を棄却。 
 
<解説> 
●国籍は国家の構成員の資格であり、何人が自国の国籍を有する国民であるかを決定することは国家の固有の権限に属するものであって、憲法10条は国籍の得喪に関する要件を法律に委ねている(最高裁H20.6.4)。

最高裁H27.3.10は、
国籍留保制度を定めた国籍法12条について、
子の出生時に父又は母が日本国籍を有することをもってわが国との密接な結びつきがあるものとして日本国籍を付与するという父母両系血統主義の原則の下で、国外で出生して重国籍となる子について、前記のような結びつきがあるとはいえない場合に、形骸化した日本国籍の発生を防止し、重国籍の発生をできる限り回避することを目的とするもの
憲法14条1項に違反するものではない
 
●国籍留保制度:
①大正時代、アメリカ合衆国など自国の領土内で出生した子に国籍を付与する生地主義の国への日本からの移民について、不留保による日本国籍の喪失によって移民先国への同化定着を促進する目的で創設。
②本件改正法は、従前の不系血統主義を改め、父母両系血統主義を採用することに伴い、血統の相違により父母の両国籍を取得して二重国籍となる者にも国籍留保制度を適用することとし、その対象を中国など血統主義の国で出生した子に拡大。
国政留保の意思表示がされずに日本国籍を喪失した者で20歳未満の者について、日本に住所を有するときは(日本人の子として出生した者には、出入国管理及び難民認定法上、在留資格が認められている。)、法務大臣への届出によって日本国籍を再取得できる旨の制度が設けられた(国籍法17条)。
④20歳に達した者は、前記制度の対象とならないが、国籍留保の意思表示がなされずに日本国籍を喪失した者は、簡易帰化(国籍法8条3号)の対象となるものと解されている。
 
戸籍法104条1項

①子の法的地位の安定のために、生来的な国籍をできる限り子の出生時に確定すること
②父母等による国籍留保の意思表示をもって我が国との密接な結びつきの徴表とみることができる。

● 本決定は、
①戸籍法104条3項が同条1項の届出期間の例外を定めたもの⇒その要件は、前記のような国籍留保制度や同条1項の趣旨及び目的を踏まえて判断されるべき
②同条3項が「天災」という客観的な事情を挙げている

同項にいう「責めに帰することができない事由」の存否は、客観的にみて国籍留保の届出をすることの障害となる事情の有無やその程度を勘案して判断するのが相当
③X1~X4について本籍及び戸籍上の氏名がないという事情だけでは客観的にみて本件各国籍留保の届出の障害とならないことは明らか

判例時報2345

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年11月14日 (火)

市立記念館条例を廃止する条例の制定行為の「処分性」を否定した事例

青森地裁H29.1.27      
 
<事案>
本件は、Y(十和田市)が、地方自治法244条1項所定の公の施設として十和田市立新渡戸記念館(本件記念館)を設け、十和田市立新渡戸記念館条例(本件記念館条例)において、その設置及び管理に関する事項を定めていたが、その後、十和田市立新渡戸記念館条例を廃止する条例(本件廃止条例)を制定

Xが、Yに対し、本件廃止条例制定行為が行政事件訴訟法3条2項所定の処分すなわち「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(同条3項に規定する裁決、決定その他の行為を除く。)」に当たることを前提として、本件廃止条例制定行為の取消しを求めた。 
 
<争点>
本案前の争点:本件廃止条例制定行為の処分性
本案の争点:本件廃止条例制定行為が違法なものであるか否か 
 
<判断> 
本件廃止条例制定行為に処分性を認めることはできない⇒訴えを却下 
 
●条例制定行為の処分性の認否の判断枠組み 
条例の制定行為は、普通地方公共団体の議会が行う一般的・抽象的な法規範を定める立法作用に属し、一般的には処分に当たるものではない。
but
他に行政庁の法令の執行行為と処分を待つことなく、その施行により特定の個人の権利義務や法的地位に直接影響を及ぼし、行政庁の処分と実質的に同視し得ることができるような例外的な場合には、処分に含まれるものと解するのを相当とすることもあり得る。
 
●本件廃止条例制定行為の処分性の認否 
①地方自治法、本件記念館条例、文化財保護法及び十和田市文化財保護条例の関係法令の内容に照らすと、本件記念館の設置、あるいは、本件記念館において本件資料の保存等がされることに関して、Xが、Yに対して、本件各契約等に基づく契約上の地位等を離れて法的保護の対象となる権利ないし利益を有するものとは認められない
②本件保管覚書合意を基礎として本件廃止条例制定行為の処分性を認めることはできず、本件廃止条例の施行により本件各契約等に基づくXの権利ないし法的地位に直接影響が及ぶものということもできない
③実質的に考えても、法的救済を求める手段としては、民事訴訟によるのが最適というべきであって、取消訴訟において本件廃止条例制定行為の法的効力を争い得るものとすることに十分な合理性は見出し難い

本件廃止条例の制定行為の処分性を認めることはできない。
 
<解説>
横浜市保健所廃止条例事件(最高裁H21.11.26)は、条例制定行為の処分性を最高裁判例として初めて肯定。
←①法的効果とその直接性、②対象の特定性、③救済方法としての合理性
が認められる。
本件廃止条例制定行為については、①③が認められないとして、処分性を否定。

判例時報2343

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年11月13日 (月)

情報公開条例に基づく公開請求で、訴訟事件の事件番号が非開示とされた事例

東京地裁H28.11.29      
 
<事案>
東京都の都民であるXが、東京都情報公開条例6条1項に基づき、東京都知事Yに対し、原告をA社、被告を東京都及び新宿区とする損害賠償事件の第1審及び控訴審の訴訟関連文書として、文書開示請求⇒意見の各文書を非開示の対象とした上で、そのうち特定の個人の氏名など特定の個人を識別する記載、事件番号の記載並びに訴訟当事者、訴訟代理人及び裁判所書記官等の印影の各部分を非開示とし、その余の部分を開示する旨の一部開示決定。

Xは処分行政庁であるYに対し、本件一部開示決定のうち、別件訴訟の第一審及び控訴審の各事件番号を非開示とした部分の取消しを求める訴えを提起
 
<条例>
本件条例7条2号は
本文において、「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)で特定の個人を識別することができるもの(他の情報を照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するもの」を非開示情報として定めた上で、
ただし書において、「法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」(同号イ)等を本文に定める非開示情報から除く旨を規定。 
 
<判断>
①本件一部開示決定において、別件訴訟の第1審及び控訴審の係属する各裁判所名は明らかにされている⇒不開示とされた本件各事件番号と併せてみることにより、当該事件が特定されることとなる。
何人も、裁判所書記官に対し、訴訟記録の閲覧を請求することができる

特定される別件訴訟の訴訟記録を閲覧することにより、何人も、別件訴訟の訴訟記録に記載された当該事件に関与する個人の氏名、住所、生年月日等を知ることができ、特定の個人を識別することができることとなる。
本件各事件番号は、個人識別情報に該当

「法令の規定」とは、何人に対しても等しく情報を公開することを定めている法令のことをいい、
「慣行」とは、事実上の慣習をいい、
「公にされている情報」とは、現に何人も容易に入手することができる状態におかれている情報をいう

本件各事件番号は、「法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」に該当するとは認められない。
⇒請求を棄却。
 
<解説>
情報公開条例との関係で、「個人に関する情報」に該当するか否かが問題となった裁判例:
①法人その他の団体(国及び地方公共団体を除く。)の代表者に準じる地位にある者以外の従業員の職務遂行に関する情報は、その者の権限に基づく当該法人等のための契約の締結等に関する情報を除き、「個人に関する情報」に当たるとした最高裁H15.11.11
②県の職員の出勤簿に記録された職員が停職処分により特定の日に出勤しなかったことを示す情報は「個人に関する情報」に該当するとした最高裁H15.11.21

東京都情報公開条例を巡って、非開示としたものを取り消した裁判例:
③警視庁における制服購入契約締結文書の起案者(東京地裁H18.5.26)
④警視庁の非管理職職員の氏名、印影が含まれる情報(東京地裁H18.7.28)

非開示を相当とした裁判例:
⑤建築審査会裁決案の評議の議事録に記載された情報
⑥警視庁K署内の道路標示塗装委託単価契約書の法人の契約代表者の氏名

判例時報2343

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年11月 1日 (水)

子の名に用いられ得る戸籍法50条1項、2項にいう常用平易な文字

さいたま家裁川越支部H28.4.21      
 
<事案>
申立人が、子の名に「舸」の字を用いた出生届を提出⇒市長によって「舸」の字が戸籍法施行規則60条に定める文字でないことを理由に不受理処分⇒家庭裁判所に対し、市長に対して前記出生届を受理することを命じることを求めた(戸籍法121条)
 
<規定>
戸籍法 第50条〔子の名の文字〕
子の名には、常用平易な文字を用いなければならない
常用平易な文字の範囲は、法務省令でこれを定める
 
戸籍法 第121条〔不服の申立て〕
戸籍事件(第百二十四条に規定する請求に係るものを除く。)について、市町村長の処分を不当とする者は、家庭裁判所に不服の申立てをすることができる。
 
<判例>
最高裁H15.12.25:
家庭裁判所は、審判手続に提出された資料、公知の事実等に照らし、当該文字が社会通念上明らかに常用平易な文字と認められるときは、当該市町村長に対し、当該出生届の受理を命じることができる

①法50条1項が子の名には常用平易な文字を用いなければならないとしているのは、従来、子の名に用いられる漢字には極めて複雑かつ難解なものが多く、そのため命名された本人や関係者に、社会生活において多大の不便や支障を生じさせたことから、子の名に用いるべき文字を常用平易な文字に制限し、これを簡明ならしめることを目的とするものと解される
同条2項にいう委任の趣旨は、当該文字が常用平易な文字であるか否かは、社会通念に基づいて判断されるべきものであるが、その範囲は、必ずしも一義的に明らかではなく、時代の推移、国民意識の変化等の事情によっても変わり得るものであり、専門的な観点からの検討を必要とする上、前記事情の変化に適切に対応する必要があることなどから、その範囲の確定を法務省令に委ねたものであり、施行規則60条は、法50条2項の常用平易な文字を限定列挙したものと解される
法50条2項は、同条1項による制限の具体化を施行規則60条に委任したものであるから、同条が、社会通念上、常用平易であることが明らかな文字を子の名に用いることができる文字として定めなかった場合には、法50条1項が許容していない文字使用の範囲の制限を加えたことになり、その限りにおいて、施行規則60条は、法による委任の趣旨を逸脱するものとして違法、無効と解すべき
④法50条1項は、単に、子の名に用いることのできる文字を常用平易な文字に限定することにとどまらず、常用平易な文字は子の名に用いることができる旨を定めたものである
「曽」の時について、社会通念上明らかに常用平易な文字であるとした原審の判断を相当であると判断。

①当該文字が古くから用いられており、平仮名の「そ」や片仮名の「ソ」は、いずれも「曽」の字から生まれたもの
②「曽」の字を構成要素とする常用漢字が5字もあり、いずれも常用平易な文字として施行規則60条に定められている
③「曽」の字を使う氏や地名が多く、国民に広く知られていることなどの諸点
 
<判断>
「舸」の字は、社会通念に照らし明らかな常用平易な文字とはいえない⇒本件申立てを却下

①「舸」の字が字源となる平仮名又は片仮名が認められない
②「舸」の字を構成要素とする常用漢字が存在せず、「舸」の字を使用した熟語も数点あるのみ
③「舸」の字を含み、新聞・テレビ等で日常的に接する報道や書物によって、広く国民に知られているといえるような氏は認められない
④日本国内に「舸」の字を含む地名はわずかである

判例時報2342

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0) | トラックバック (0)

より以前の記事一覧