行政

2019年1月14日 (月)

第二次納税義務が問題となった事案

津地裁H30.3.22      
 
<事案>
処分行政庁が原告に対して行った、Aの滞納にかかる市県民税につき、原告を第二次納税義務者とする告知処分の適法性が争われた事案。 
Aは、甲及び乙において代表社員として登記されている者であり、原告は、甲の業務執行社員として登記されている者。
(原告は、Aとの関係で、地方税法11条の8に規定する特殊な関係にある個人であることは当事者間において争いがない。) 
①乙が、原告に対し、原告の居住する建物の持分3分の2を譲渡したとの登記
⇒処分行政庁は、法人格否認の法理によりAによる行為と同視でき、かつ実際には無償で行われたものと認め
②甲又はAが、原告に対し、平成25年1月1日から平成26年12月31日までの間、月額10万円(合計240万円)を支払ったことにつき、処分行政庁はAが無償で支給していたものと認め
原告に対し、Aの滞納にかかる市県民税につき、原告を第二次納付義務者として、本件処分を行なった。

原告は、本件訴え提起に先立ち、前記市県民税を完納した上で、
①につき、乙は法人格の実体がある⇒法人格否認の法理の適用はなく、
また、本件譲渡は無償ではない。
第二次納税義務の前提として法人格否認の法理を適用する場合はやむを得ない場合に限定すべきであるが、本件では、やむを得ない事情はない。
②につき、甲から業務執行社員の報酬として支払われたものである
と主張して争った。
 
<争点>
①訴えの利益の有無
②本件処分の適法性(とりわけ、法人格否認の法理の適用の可否) 
 
<判断>
●訴えの利益について 
行政処分の取消判決が確定したときは、その形成力によって当該処分は遡及的に失効することに帰する⇒これにより公法上又は私法上の原状回復請求権の行使が可能となる場合にはなお訴えの利益を肯定することができる

本件処分に係る取消判決が確定すれば、当該処分は遡及的に執行することとなり、原告が納付した市県民税について、被告が保持すべき法律上の原因がないこととなる⇒納付に相当する金額について、不当利得返還請求義務が肯定されることになる⇒訴えの利益を肯定。
 

①乙の本店所在地には事務所としての実体がないこと、
②Aは、乙を関連会社の経理の操作や顧問先の脱税の道具として利用していた
法人格の濫用に当たるとして法人格を否認

第二次納税義務の前提として法人格否認の法理を適用する場合にはやむを得ない場合に限定すべきである旨の主張は、同制度の趣旨に照らして採用できない。
 
<解説>
●処分の執行と訴えの利益 
行訴法 第9条(原告適格)
処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。

行政処分が執行によりその目的を達成する場合、処分の執行完了により、以後の処分をされることはなくなる⇒訴えの利益が消滅することが多い。
but
処分を取り消すことによって法的に原状回復義務が生じると解されるときは、訴えの利益は消滅しないと解される。
地方税法は、過誤納金の還付に関する規定を置く。(地方税法17条)
 
●課税処分と法人格否認の法理 
税法上、実質所得者課税の原則により、法人格否認の法理を用いずとも、課税することが可能な事例が多い

判例時報2386

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2019年1月 5日 (土)

違法な政務活動費の支出について、市長に返還請求をすることを求める住民訴訟

神戸地裁H30.4.11      
 
<事案>
兵庫県尼崎市の住民である原告らが、同市議会の会派であるA及びB(「本件各会派」)が市から交付された政務活動費を会派が発行している広報紙(「本件各広報紙」)に係る支出に支出したところ、これが違法⇒市に対してその支出額に相当する金員の不当利得返還の義務を負うにもかかわらず、市の試行機関である被告(尼崎市長)がその行使を怠っている⇒地自法242条の2第1項4号に基づき、被告に対し、本件各会派に対して前記支出額に相当する金員及びこれに対する遅延損害金の支払を請求するよう求めた住民訴訟。 
 
<争点>
本件各広報紙に係る費用に政務活動費を支出することが違法となるか。 
 
<判断>
・・・・
当該広報紙の全体の趣旨、目的に加え、紙面における議員個人情報等の割合等を総合的に考慮し、
広報紙面が専ら会派活動報告等を内容とするものであった場合⇒その費用全額につき政務活動費の支出が許される
議員個人の広報目的が混在議員個人情報等に相当する部分は目的外支出⇒かかった費用をその割合で按分した金額については、違法な支出となる。

各広報紙ごとにその記載内容から、会派活動報告等が記載されている面積と、議員個人情報等が記載されている面積をそれぞれ割り出し、
いずれの広報紙も専ら会派活動報告等を内容とするものではなく議員個人の広報目的が混在。

それぞれ掛った費用につき、議員個人情報等が記載されている面積比で按分した金額については目的外支出であって、不当利得返還請求権が発生。 
 
<解説>
地自法100条14項は、政務活動費を充てることができる経費の範囲等については条例で定める旨規定しており、これを受けて各自治体がそれぞれ条例及び規則を制定し、同論点について争われた裁判例はいずれも条例及び規則の解釈適用という事例判断としての側面が強い 

裁判例での判断手法:
広報紙の記載を、法令により支出が許可されている目的との合理的関連性が認められている部分と認められない部分に分け、
その割合等に基づき紙面全体の目的を判断し、
①後者が無視できるほどに少ない⇒全体として支出目的に沿った支出と評価。
②無視できない分量⇒それに応じた割合の返還請求を認める。
③専ら支出が認められない議員個人の宣伝等を目的とするもの⇒全額の返還を求める。

政務活動費は、地方議会の活性化を図る趣旨から、議員の調査活動の基盤を強化する等の目的で制度化されたもの⇒議員個人としての政治活動・選挙活動等に係る費用に支出することはできないというのが、地自法の姿勢。

判例時報2385

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2019年1月 4日 (金)

卒業式等において国歌斉唱の際に起立斉唱を命じる職務命令違反の事案

東京高裁H30.4.18       
 
<事案>
Xら13名は、都立学校の教職員又は元職員であるところ、
その所属校において行われた卒業式等において、国歌斉唱時には指定された席で国旗に向かって起立し、国家を斉唱することを求める校長の職務命令に違反して起立しなかった⇒処分行政庁から地公法32条及び33条に違反するものとして、同法29条1項に基づき戒告、減給又は停職の各懲戒処分を受けた。⇒その取消し及び国賠法に基づく損害賠償を求めた。 
 
<判断>
●職務命令においてある行為を求められることが、個人の歴史観ないし世界観に由来する行動と異なる外部的行為を求められることとなり、その限りにおいて、当該職務命令が個人の思想及び良心の自由についての間接的な制約となる面があると判断される場合にも、職務命令の目的及び内容には種々のものが想定され、また、前記の制限を介して生ずる制約の態様等も、職務命令の対象となる行為の内容及び性質並びにこれが個人の内心に及ぼす影響その他の諸事情に応じて様々である。
このような間接的な制約が許容されるか否かは、職務命令の目的及び内容並びに前記の制限を介して生ずる制約の態様等を総合的に較量して、当該職務命令に前記制約を許容し得る程度の必要性及び合理性が認められるか否かという観点から判断するのが相当。 

①学習指導要領の趣旨、②本件通達の目的、③Xらが住民全体の奉仕者として法令等及び職務上の命令に従って職務を遂行すべき地位に在ることなどの諸事情⇒本件職務命令には前記制約を許容し得る程度の必要性及び合理性が認められる

信教の自由や自由権規約18条に基づくXらの思想及び良心又は宗教の自由に対する制約についても同旨の判断。

本件通達及びこれに基づく職務命令に瑕疵はない。

●本件職務命令の違反に対し、教職員の規律違反の責任を確認してその将来を戒める処分である戒告処分をすることが裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たるとは認め難い。
but
減給又は停職の処分を選択することが許容されるのは、過去の非違行為による懲戒処分等の処分歴や不起立行為等の前後における態度等に鑑み、学校の規律や秩序の保持等の必要性と処分による不利益の内容との権衡の観点から当該処分を選択することの「相当性を基礎付ける具体的な事情」が認められる場合であることを要すると解すべき。(最高裁H24.1.16)

Xらに対する各懲戒処分のうち減給又は停職をいずれも取り消した

●Xらの国賠法に基づく損害賠償請求:
これらの各懲戒処分がいずれも前記平成24年最高裁判例が出される前にされたものであり、処分行政庁がこれらの各懲戒処分を選択したことが、それぞれの処分当時において、職務上通常尽くすべき注意義務に違反するものと評価することはできない⇒棄却。

判例時報2385

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2018年12月10日 (月)

普天間飛行場代替施設等の建設差止請求

那覇地裁H30.3.13      
 
<事案>
漁業権を管轄する地方公共団体が、国の進める普天間飛行場代替施設等の建設に際して、規則により必要とされる県知事の許可を得ずに岩礁破砕等の行為が行われるおそれがある
⇒当該行為の差止めを求め、また予備的に、かかる行為の不作為義務の存在の確認を求めた。 
 
<判断>
本件請求は裁判所法3条1項にいう法律上の争訟に該当しない⇒裁判所が固有の権限に基づいて審判することはできず、Xによる各訴えをいずれも却下。

最高裁H14.7.9(宝塚パチンコ店等建築規制条例事件)に依り、
①国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は、法規の適用の適正ないし一般公益の保護を目的とするものであり、法律に特別の規定がある場合に限り、提訴することが許され、
例外的に、
②財産権の主体として自己の財産上の権利利益の保護救済を求めるような場合には、法律上の争訟に当たる。

判例時報2383

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2018年12月 1日 (土)

甲子園出場を決めた高校の後援会による補助金の目的外使用について、返還請求を求める住民訴訟

盛岡地裁H30.4.20      
 
<事案>
その硬式野球分が甲子園全国大会出場を決めたA高校を後援するために設立されたB後援会(権利能力なき社団)に対し、C市から1000万円の補助金が交付されたことについて、X(C市住民)が、執行機関であるY(C市長)に対し、本件補助金がC市の補助金交付規制及び要綱所定の用途(出場生徒の交通費・宿泊費)以外の用途に使用された⇒補助金交付決定を取り消して本件補助金の返還請求をしていないこと(怠る事実)の違法確認とB後援会に対して返還請求をすることを求めた住民訴訟
 
<差戻前一審> 
Xの主張する不当利得返還請求権は、補助金交付決定が取り消されて初めて発生するところ、これを取り消すべきか否かは行政管理上の判断事項⇒前記不当利得返還請求権は地自法242条1項所定の「財産」に当たらない 
 
<控訴審>
本件補助金が他用途に使用されたと認められる場合、その返還を求めるに際し交付決定の取消しをすることは手続上の要件にすぎず、Yには、特段の事情のない限り、本件補助金の返還を求めない裁量はない。 

同返還請求をしないことは、本件補助金の交付決定を行わないことも含めて、地自法242条1項所定の「財産」の管理を怠る行為に該当
⇒差戻前一審判決を取り消した。
 
<判断>
B後援会は、解散後も清算の目的の範囲内で権利能力なき社団として存続⇒本件訴えは適法。

①本件補助金は、根拠放棄であるC市の補助金交付規制及び要綱に従って交付されているところ、これら規定によれば、補助金の交付対象となる経費は大会出場者の交通費及び宿泊費(交通費等)に限定されている
②・・・目的外使用となるのは、本件補助金か1000万円から交通費等に充当された金額を控除した、420万6275円
補助金の目的外使用があった場合、補助金の返還を請求しないことを相当とする特段の事由が存しない限り、執行機関はその返還を求めん変えればならないと解されるところ、単にB後援会が解散したというだけでは特段の事情があるとはいえない。
本件補助金のうち目的外使用がされた部分以外については、これを取り消すかどうかはYの一般行政管理上の裁量判断による⇒当該措置の是非は住民訴訟の対象として想定されていない。

前記420万6275円の支払請求を怠ることの違法確認とこれをB後援会に対して支払請求することを求める限度で、原告の請求を認容

拘束力(行訴法33条1項)⇒本件補助金の交付決定を取り消す義務を主文に掲載する必要はない。
 
<解説>
認容判決に特有の本案上の論点に関し、
公金からの収入と他の収入とが混和し支出がいずれによるものか区分できない場合の公金返還の範囲の点について、
①公金と全体の支出の比による按分計算によって例と
②公金から目的内支出を差し引くことによる差額計算によった例
がある。

判例時報2382

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2018年11月29日 (木)

被爆者援護法同法27条に基づく認定の申請がされた健康管理手当の受給権の一身専属性(否定)

最高裁H29.12.18      
 
<事案>
長崎市に投下された原子爆弾に被爆したと主張する者が、原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律に基づき被爆者健康手帳の交付及び健康管理手当の認定の各申請⇒長崎市長又は長崎県知事からこれらを却下する旨の処分⇒本件申請者らは同法1条3号所定の被爆者の要件を満たすなどと主張して、本件各処分を取消し、被爆者健康手帳の交付の義務付け等を求めた事案。 
 
<争点>
①本件各処分の取消しを求める訴訟及び同取消しに加えて被爆者健康手帳の交付の義務付けを求める訴訟について、訴訟の係属中に申請者が死亡した場合に、相続人がこれを承継することができるか
②本件申請者らが、被爆者援護法1条3号所定の被爆者の要件(原子爆弾が投下された際又はその後において、身体に原子爆弾の放射能の影響を受けるような事情の下にあった者)を満たすか
 
<一審・原審>
被爆者援護法による援護を受ける地位は同法による被爆者の一身に専属するもの⇒相続人らが相続によってこれを承継することはできない⇒死亡した者を原告とするものについては訴訟終了宣言をすべき。

生存している者に係る保険各処分の取消請求に対する判断において、
①科学的知見によれば、長崎原爆が投下された際に爆心地から約5kmまでの範囲内の地域に存在しなかった者は、その際に一定の場所に存在したことにより直ちに原爆の放射線により健康被害を生ずる可能性がある事情の下にあったということはできない上、
②本件申請者らに長崎原爆の投下後、原爆の放射線による急性症状があったと推認することはできない
⇒その主張には理由がない、
 
<判断>
訴訟承継をいずれも肯定
被爆者援護法1条3号該当性については、本件申請者らに同号該当性が認められないとした原審の判断を是認

(1)本件各処分の取消の訴えに関して、
①原審において訴訟終了宣言がされた者⇒不利益変更禁止の原則により、上告を棄却
②一審が訴訟終了宣言をし、原審において控訴を棄却された者⇒原審の判断を結論において是認できるとして、上告を棄却し、

(2)被爆者健康手帳の交付の義務付けの訴えに関して、
一審が本件各交付申請却下処分は取り消されるべきであるとは認められず、訴訟要件を各としてとうがい訴えを却下

①原審において一審と同じ理由で控訴が棄却された者(本件申請者らのうち生存している者)について、所論に理由がない⇒上告棄却
②原審が訴訟終了宣言をした者(当該訴えを提起していた本件申請者らの相続人ら)⇒原判決を破棄した上、前記の一審判決は相当であるとして、控訴棄却の自判。
 
<解説>
①被爆者援護法の法的性格
②健康管理手当を給付する目的
③同手当の給付に関する同法の規定振り等

同法27条に基づく認定の申請がされた健康管理手当の受給権は当該申請をした者の一身に専属する権利ということができず、相続の対象となるとして、訴訟承継が成立。 

①被爆者援護法が、いわゆる社会保障法としての他の公的医療給付立法と動揺の性格を持つものである一方で、実質的に国家補償的配慮が制度の根底にあるとされている(最高裁昭和53.3.30)⇒被爆者援護法の目的が単なる生活困窮者への公的扶助とは異なる点にある
②同法に基づく健康管理手当が、同法所定の障害に苦しみ、不安の中で生活している被爆者に対して毎月定額の手当てを支給することにより、その健康及び福祉に寄与することを目的として給付されるもの
③健康管理手当に係る受給権が、同法27条所定の認定申請を含む所定の各要件を満たすことによって得られる具体的給付を求める権利として規定されている

同条に基づく認定の申請がされた健康管理手当の受給権は、相続の対象となるものと判断。

判例時報2382

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2018年11月19日 (月)

市と企業との間の土地の無償提供を内容とする契約での土地の返還義務が問題となった事案

名古屋地裁H30.2.8      
 
<事案>
愛知県豊橋市の住民であるXらが、Z(Y補助参加人)は、豊橋市との間で締結されていた、豊橋市が10筆の工場用地をZに無償提供することなどが定められた契約(「本件契約」)上、
本件各土地のうち既に豊橋市に売却済みの二筆を除くもの(「本件売却土地」)を豊橋市に返還すべき債務を負っていたにもかかわらず、Z等においてこれらの土地をA株式会社に売却した上、所有権移転登記をしたことで、前記返還債務を履行不能とした

これはZによる債務不履行又は不法行為に当たるところ、Y(執行機関(豊橋市長))はZに対する損害賠償請求権の行使を違法に怠っている

地自法242条の2第1項4号に基づき、Yに対し、Zに対して損害賠償金63億円(本件売却土地の売却代金相当額)及びこれに対する遅延損害金の支払を請求することを求めた住民訴訟。
 
<争点>
Z等がA社に対して本件売却土地を売却した時点で、Zに、本件売却土地を豊橋市に返還する義務があったか否か。

具体的には、
昭和26年、豊橋市が本件各土地をZに、豊橋事業所の工場用地として無償提供した際に締結された本件契約にいて、Zが本件各土地のうちで「使用する計画を放棄した部分」は豊橋市に返還すると定められていた(「本件条項」)ところ、平成27年頃にZが豊橋事業所を全面閉鎖することに伴い本件売却土地の全部を使用しなくなった際に、Zが本件条項に基づく返還義務を負うか否か。
 
<判断>
①全部の使用計画を放棄した場合でも、放棄に係る「部分」が全部を意味するという解釈が可能⇒文理上、その場合も本件条項から排除されない。
②工場用地としての使用が前提となって無償提供されていた土地の一部の使用計画を放棄した場合に返還義務があるのに、全部の使用計画を放棄した場合には、返還せず第三者に転売して利益を得てよいちう帰結は、均衡を失する上に契約当事者の合理的意思にも反する

本件条項に基づく返還義務を肯定した上で、Zが当該義務を履行不能とさせたことに関し、Yに、不法行為に基づく損害賠償請求権の行使を怠る事実がある。
 
<解説>
本件においては、債務不履行に基づく損害賠償請求権の行使を怠る事実についても選択的に主張。
Zと豊橋市との間に契約関係があった⇒債務不履行の構成で認容する余地も考えられた。
but
債務不履行構成⇒遅延損害金の起算点が損害賠償請求時となり(民法412条3項)、住民訴訟である本件において請求時をいつと捉えるべきかはともかく、少なくとも不法行為構成の方が、起算点に関してX側に有利になる。 

判例時報2381

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2018年11月18日 (日)

政務活動費等の違法な支出についての住民訴訟

神戸地裁H29.4.25      
 
<事案>
兵庫県の住民であるXらが、県議会議員であったZ1~Z7が平成23年度から平成25年度までに県から交付を受けた政務調査費又は政務活動費を違法に支出⇒県に対してその支出額に相当する金額の損害賠償又は不当利得返還の義務を負うにもかかわらず、県の執行機関であるY(兵庫県議会事務局長)がその行使を怠っている⇒地自法242条の2第1項4号に基づき、Yに対しZらに前記支出額に相当する金員及び遅延損害金の支払を請求するよう求める住民訴訟
(ZらはYに補助参加) 
 
<判断>
●法令等の規定を指摘した上で、
県における政務活動費等は、前記各条例及び規程が定める使途にのみ使用されることが前提とされている。

政務活動費等の交付を受けた議員が、これを前記各使途の基準に適合しない使途に充てた場合は、県に対し、これに相当する額の不当利得返還の義務を負う

前記条例等が定める基準に適合しない使途に充てたことにつき故意又は過失ある場合は、県に対しこれに相当する額の損害賠償の義務を負う。

兵庫県議会議長が作成している、政務活動費等に係る請求、交付、使途規準、収支報告書の提出などの一連の手続を勧める際のマニュアルである手引は、交付された政務活動費等が使途規準に適合する使途に充てられることを確保するとともに、その使途の透明性を確保することをその趣旨とするものであり、
その内容も合理的
⇒政務活動費等の使途の使途規準適合性を判断するに当たって、手引を斟酌すべき。

●政務活動費等の交付を受けた議員に対して損害賠償又は不当利得返還の請求をするよう求める住民訴訟において、政務活動費等が使途規準に適合しない使途に充てられたこと及び議員の故意・過失は、住民においてこれを主張立証しなければならない
but
住民において、収支報告書(政務活動費等の支出の内容を概括的に知ることができる。)の記載に基づくなどして、政務活動費等の支出が使途基準に適合しないことを推認させる一般的、外形的な事実を主張立証した場合、当該支出が使途規準に適合しないこと及びこの点につき当該議員に少なくとも過失があることが事実上推認される。

この場合は、当該支出が使途基準に適合することを主張する県又は議員(支出の具体的使途を最もよく知る者)において前記推認を覆すに足る立証をしない限り、使途基準に適合しない使途に充てられたこと及び議員の過失が認められる。 

手引に沿わない政務活動費等の支出については、使途基準に適合しないことが事実上推認される。

●前記の判断の枠組みに基づいて、本件で問題とされた政務活動費等の支出について個別に検討を加えた。 
Xらの主張にかかる支出のうち
人件費としての支出のうち手引において作成することとされている雇用契約書や政務活動業務実績表等が作成されていない支出
②当該年度に使用しなかった切手や大量に購入された切手の購入費
勤務表の記載に不自然な点がある人件費
知人の会社に委託した県政報告書等の印刷代のうち同会社から実際に下請業者に支払われた部分を除く金額
⑤政務活動等に使用したとする合理的根拠を認め難い車両のリース代
⑥政務活動等に使用していたとは考え難い事務機器等の利用料等
について、
使途基準に適合しない支出であり、県に対して損害賠償又は不当利得返還の義務を負う

●当該年度に使用しなかった切手の購入費について、
①兵庫県においては、政務活動費等は年度単位で交付され、交付を受けた金額から必要な経費に充てるべき金額を控除して残余がある場合には当該残余額に相当する額を返還しなければならないものとされている
②郵便切手は、それが議員の行う政務活動等のために使用されることによって初めて政務活動に要する経費に充てられたと確定的に評価し得るもの

当該年度に使用しなかった切手については、当該年度の政務活動費等を切手の購入に要した費用に充てることはできない。

判例時報2381

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2018年11月17日 (土)

給与条例の改正による給与の減額に関しての措置要求の事案

神戸地裁H29.11.29      
 
<事案>
Y(兵庫県三木市)の職員であるXら(一般職に属する地方公務員)が、処分行政庁(三木市公平委員会)に対し、地公法46条に基づく措置の要求⇒却下する判定⇒処分行政庁の所属するYに対しその取消しを求めた。 

Xらがした措置の要求は、Yにおいて一般職の職員の給与に関する条例が改正され、行政職給料表の職務の級及び号給が切り替えられたことを受けて行われたもので、職務の級及び号級の切替えにより大幅減額となった給与につき、現給保障又は激変緩和措置を講じること

行政処分庁:
①本件措置要求を実現するためには給与条例を改正する必要がある
②公平委員会には市議会が条例の制定機関として有する自治立法権に介入する権限はない
③給与に関する条例改正の提案は管理運営事項(地公法55条3項)に該当し、措置要求の対象とならない
④公平委員会には給与勧告の権限は与えられていない
⇒本件措置要求を却下する判定 
 
<規定>
地公法 第46条(勤務条件に関する措置の要求)
職員は、給与、勤務時間その他の勤務条件に関し、人事委員会又は公平委員会に対して、地方公共団体の当局により適当な措置が執られるべきことを要求することができる
 
<争点>
本件措置要求の求める措置が地公法46条に基づく措置要求の対象となる事項に該当しないとした本件判定における判断の適法性。 
 
<判断>
措置要求の対象となる要件として、
①給与、勤務時間その他の勤務条件に関するものであること(要件①)
②それについて人事委員会、公平委員会又は地方公共団体の他の機関(当局)が一定の措置をとる権限を有すること(要件②)
を掲げたうえで、

要件②について、
条例の制定改廃そのものを求める措置要求は要件②を満たさず不適法
but
長が条例の制定改廃の議案を議会に提出することを求める措置要求は、公平委員会に権限がないから、あるいは管理運営事項だからという理由で一律に要件②の充足が否定されることはないが、
個別の事案においてその事情の下で否定されることはあり得る。

本件措置要求は給与に関するもの⇒要件①を満たす。

本件措置要求が求めているのは、条例の制定改廃そのものではなく、市長に対し給与条例の改正案を議会に提出するよう勧告することであると理解できる⇒市長の権限に属する事項
給与条例の内容に変更を加えることや号給の切替に変更を加えることに法律上の支障があるとは認められない。
⇒要件②も満たす。
⇒本件判定は違法。

要求書の記載からは本件措置要求の内容が必ずしも明確でなかったことについて:
①Yの定めた勤務条件に関する措置の要求に関する規則によれば、要求すべき措置は要求書の必要的記載事項
②要求書の提出を受けた処分行政庁はその記載内容について調査する義務を負う

要求書に記載された要求すべき措置が具体的に何を意味するのかを読み取ることができない場合には、処分行政庁は調査の一環として要求書を提出した職員にその補正をさせるべき。
このような場合に補正を求めることなく当該措置要求を却下することは、調査義務を怠るものとして違法。
 
<解説>
いわゆる管理運営事項については、団体交渉の対象から除外されている⇒措置要求の対象とならないという解釈が実務上は有力。
but
法律上これを明確に定めるところがなく管理運営事項の概念自体も明らかでない⇒勤務条件にあたるにもかかわらず、管理運営事項であるという理由で措置要求を排斥することはできないとの見解もある。 

判例時報2381

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2018年11月15日 (木)

前訴確定判決の認定に反する事実を前提とする再度の退職手当支給制限処分の事案

大阪高裁H29.7.20      
 
<事案>
市教育委員会は、X(市立中学の教頭)が酒気を帯びたAに対して最寄り駅まで自動車で送ることを依頼した事実(「運転事実」)を前提として、地公法29条1項1号、3号に基づいき懲戒免職処分及び公立学校職員等の退職手当に関する条例13条1項に基づき退職手当等の全額を不支給とする退職手当支給制限処分(「本件制限処分①」)

Xは、処分行政庁の所属するY(神戸市)を被告として両処分の取消しを求めて訴えを提起⇒本件免職処分の取消請求を棄却し、本件制限処分①の取消請求を認容する判決が確定

処分行政庁は、前訴確定判決の判決結果を受けて、改めて退職手当等の8割相当額を支給しないこととする退職手当支給制限処分(「本件制限処分②」)

Xが、処分行政庁の所属するYに対し、本件制限処分②の取消しを請求するとともに(B事件)、同処分により精神的苦痛を受けたとして国賠法1条1項に基づきYに対し200万円(慰謝料200万円、弁護士費用20万円の合計220万円の一部)の損害賠償及びこれに対する本件制限処分②がされた日から支払済みまでの遅延損害金を請求(A事件)。
 
<争点>
①本件制限処分②が前訴確定判決の認定事実の拘束力に違反するか
② 本件制限処分②に裁量権の逸脱・濫用があるか
③損害の有無及び額
 
<規定>
行訴法 第33条
処分又は裁決を取り消す判決は、その事件について、処分又は裁決をした行政庁その他の関係行政庁を拘束する。
 
<判断>
●争点① 
取消判決が確定した場合は、処分行政庁は、同一の事情の下で同一の理由により同一内容の処分を繰り返すことができない。(行訴法33条1項)

最高裁H4.4.28:
この拘束力が、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断について生じる。

「判決主文が導き出されるのに必要な事実」は要件事実を意味する。
but
退職手当支給制限処分は、多様な事情が考慮されるところ、
本判決は、運転依頼の有無は、判決主文が導きだされるのに必要な事実であると判断

①運手依頼の有無がXの非違行為の悪質性を定める上で重要な事実となり、②前訴においても争点とされ、③前訴確定判決で本件支給制限処分①が違法な処分であることの主要な根拠の1つとされていた。
 
●争点② 
本件制限処分②は、Xが、飲酒しているAに運転依頼をしたという前訴確定判決の拘束力に違反する事実を考慮してされたものであり、当該事実の考慮が処分行政庁の裁量判断に影響を及ぼすることが明らか
⇒違法な処分
 
●争点③ 
①本件制限処分②は、基本的な法律の適用を誤るもの
②Xは、本件制限処分②の取消しを求めて、訴訟の提起を余儀なくされる
③裁判所が本件制限処分②を取り消したとしても、Xは、更に3度目の退職手当支給制限処分がされる可能性のある不安定な法的地位に置かれ続ける

Xは、違法な本件制限処分②がされたことにより、平穏な法律生活を享受する法的利益を違法に侵害された。

慰謝料30万円と弁護士費用5万円の合計35万円及び遅延損害金の限度で請求を認容

判例時報2381

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