行政

2023年3月20日 (月)

幼少期に発効された身体障碍者手帳が「・・・明らかにすることがでできる書類」に当たるとされた事例

名古屋高裁金沢支部R3.9.15

<事案等>
20歳未満のときに初診日がある傷病による障害者(20歳前障害者)については、障害福祉年金による各制度がある。
これらの給付を受ける権利は、受給権者の請求に基づいて、厚生労働大臣が裁定。
Xは、訴えの変更を繰り返し、最終的にはY(国)に対し、
主位的には、平成23年3月までの分の障害福祉年金及び障害基礎年金の支給を求め、
予備的には、社会保険事務所又は年金事務所の職員が、初診日を特定又は証明できる書類がなければ裁定請求はできないとの理由でXの最低請求を妨害したことにより、前記各年金の支給を受ける権利を時効により消滅させた⇒国賠法1条1項に基づき、前記同額の支払を求めた

<争点>
①YがXの平成23年3月以前分の障害福祉年金及び障害基礎年金の支給を受ける権利(基礎となる受給権から毎月発生する支分権)が国年法102条1項所定の時効により消滅した旨の主張をすることが信義則に反するものといえるか。
②社会保険事務所又は年季事務所の職員がXに裁定請求書を渡さないなどの対応をしたことが国賠法上違法か
③②の職員の違法行為によるXの損害

<原審>
いずれも棄却。
争点②について、・・・職員の対応は違法とはいえない

<判断>
・・・昭和63年11月頃にXが社会保険事務所を訪問した際に所持していた身体障害者手帳の記載内容及びXの右手の状態を見れば、いずれも受給要件も充たしていることを確認することができた⇒同身体障害者手帳は初診日(当該疾病又は負傷が発生した日も含む趣旨)を明らかにすることができる書類として必要十分
but
窓口担当者は、法令の解釈を誤り、裁定請求用紙を交付しようとしなかった

かかる窓口担当者の行為を国賠法上違法かつ過失のあるものと判断。

<解説>
原判決と本判決で結論を異にしたのは、認定事実が異なることによるのではなく、初診日を明らかにすることができる書類がどのようなものかを解釈するに当たって、原判決が国年法施行規則の文言を重視したのに対し、本判決が前記書類が必要とされる目的に立ち返ったことによる。
初診日を明らかにすることができる書類についての文献等

判例時報2542

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

| | コメント (0)

国民年金法の平成24年改正の違法(否定)

高松高裁R4.5.26

<争点>
平成24年改正法及び本件処分が
①憲法25条及び人権A規約に違反するか
②憲法29条1項(財産権)に違反するか
③憲法13条に違反するか
④平成25年改正政令が法の委任の範囲を逸脱するか

<判断>
●争点①
平成24年改正法の立法目的は、世代間の公平及び年金財政の安定を図り、公的年金制度の持続可能性を確保する点にあったところ、このような立法目的自体は正当
平成25年度から3年間にわたって段階的に年金額を減額するという手法は、特例水準(物価スライド制による年金額の減額改定を行わない特例法が適用された結果生じた年金額の水準)の解消を図ることとした平成24年改正法の立法目的達成のために必要不相当とまではいえない⇒不合理であるということはできない。

●争点②
目的が正当で、手段は不相当ではない。

●争点③
①特例水準の解消が、生活保護を受けることを強制するものとまではいえない
②公的年金制度はそれのみによって健康で文化的な最低限度の生活を保証するものではなく、老齢基礎年金が生活保護における給付水準を下回るからといって、それが直ちに、年金受給者の憲法13条によって保障された人格的権利を侵害するものとまえいうことはできない。

●争点④
平成25年改正政令が平成24年改正法の委任の範囲を逸脱するとは認められない。

<解説>
Xらは、社会経済立法における立法裁量についても、行政裁量において論じられてきたいわゆる判断過程統制審査(判時1932、11頁)が妥当する旨主張
vs.
判断過程統制審査において考慮されるような事情は、立法目的の合理性、その目的達成のための手段の必要性・相当性について検討する際の考慮要素になるものとするのが相当であり、このような判断手法をとること自体は、前掲判例に反するものではない。

判例時報2542

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

| | コメント (0)

2023年2月21日 (火)

「宗教法人が専らその本来の用に供する宗教法人法第3条に規定する境内建物」該当性(肯定事例)

東京地裁R3.9.21

<事案>
固定資産税等の各賦課決定⇒本件課税部分は地税法348条2項3号及び702条の2第2項の適用対象たる「境内建物」及び「境内地」に当たり非課税⇒Y(東京都)を相手に、本件処分の取消しを求めた。

<判断>
「境内建物」該当性につき、宗教法人法3条1号が、宗教活動に直接用いられる場所のみならず、住職・牧師等が起居する建物や、宗教法人の組織運営事務を行うための建物も含めているのは、これらが宗教法人の目的を達成するために通常必要であり、同法の各種規律にかからせるべきものであるため。
「その他宗教法人の・・・目的のために供される建物」も含まれるのは、宗教法人によって異なる教義等を考慮して境内建物該当性を判断すべきとの趣旨。
そして、専らその本来の用に供されている境内建物は、通常収益性がないから非課税とされる。

「境内建物」該当性につて:
①宗教法人法3条1号に例示的に列挙された建物に当たるか否かのほか、教義等に照らし、当該建物を用いることが、宗教の教義を広め、儀式行事を行い、信者を教化育成するという宗教法人の目的達成に必要なもので、当該建物につき同法の規律にかからせることが適当といえるかという観点からか検討し、それが肯定される場合
当該建物が専らその本来の用に供されているか否かを検討すべき。
かかる各検討は、宗教法人内部の主観的な意図まで立ち入るのではなく、一般の社会通念に基づいて外形的、客観的にこれを行うべき

本件において、
①バハイ教の宗教的活動が円滑に行われるためには管理人を配置して本件建物を常に開放する等の業務を行わせることが必要
②管理人が本件建物に通って前記業務を行うことは多大な困難を伴い、管理人を本件建物に起居させる必要がある
③本件管理人室から本件建物の外へ直接つながる出入口はなく、不特定の信徒が出入りする空間の一部であって、本件管理人室につき宗教法人法に定める規律にかからせることが適当である

本件管理人室は「境内建物」に該当し、前記業務のために管理人を起居させるという本来の用に供されている⇒本件処分は違法

<解説>
本件の「管理人室」は、宗教法人法3条1項が具体的に列挙する施設には含まれておらず、「その他宗教法人の・・・目的のために供される建物」として「境内建物」該当性が問題となった。

Y:本件管理人室について、会社員であるAの私的生活に利用されている空間であり「境内建物」に当たらない旨主張。
but
本判決:
境内建物等に係る宗教法人法の規律及びその趣旨等を踏まえて判断枠組みを示した上で、バハイ教の教義を踏まえつつ、本件管理人室の利用状況等を具体的に検討し、本件管理人室が「境内建物」に該当し、専らその本来の用に供されていると判断

裁判例

判例時報2539

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

| | コメント (0)

2023年2月15日 (水)

法人税法132条1項による処分の取消(肯定)

最高裁R4.4.21

<事案>
Xは、・・法人税の確定申告において、同じ企業グループに属するフランス法人からの金銭の借入れに係る支払利息の額を損金の額に算入⇒麻布税務署長は、同族会社等の行為又は計算の否認に関する規定である法人税法132条1項を適用し、前記の損金算入の原因となる行為を否認してXの所得の金額につき本件支払利息の額に相当する金額を加算⇒本件各事業年度に係る法人税の各更正処分及び本件各事業年度に係る過少申告加算税の各賦課決定処分をした⇒Xが、Y(上告人)(国)を相手に、本件各処分の取消しを求めた。

<争点>
本件借入れが法人税法132条1項にいう「これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に当たるか

<原審>
Xの請求を認容

<判断>
● 上告を受理した上で、棄却。

法人税法132条1項にいう「これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは、同項各号に掲げる法人である同族会社等の行為又は計算のうち、経済的かつ実質的な見地において不自然、不合理なもの、すなわち経済的合理性を欠くものであって、法人税の負担を減少させる結果となるもの

● 企業グループにおける組織再編成に係る一連の取引の一環として、当該企業グループに属する内国法人である同族会社が、当該企業グループに属する外国法人から行った金銭の借入れは、
(1)前記一連の取引は、前記企業グループのうち米国法人が直接的又は間接的に全ての株式又は出資を保有する法人から成る部門において日本を統括する合同会社として前記同族会社を設立するなどの組織再編に係るものであった
(2)前記一連の取引には、税負担の減少以外に、前記部門を構成する内国法人の資本関係及びこれに対する事業遂行上の指揮監督関係を整理して法人の数を減らす目的、機動的な事業運営の観点から当該部門において日本を統括する会社を合同会社とする目的、当該部門の外国法人の負債を軽減するための弁済資金を調達する目的、当該部門を構成する内国法人等が保有する資金の余剰を解消し、為替に関するリスクヘッジを不要とする目的等があり、当該取引は、これらの目的を同時に達成する取引として通常は想定されないものとはいい難い上、その資金面に関する取引の実体が存在しなかったことをうかがわせる事情も見当たらない
(3)前記借入れは、前記部門に属する他の内国法人の株式の購入代金及びその関連費用にのみ使用される約定の下に行われ、実際に、前記同族会社は、株式を取得して当該内国法人を自社の支配下に置いたものであり、借入金額が使途との関係で不当に高額であるなどの事情もうかがわれず、また、当該借入れの約定のうち利息及び返済期間については、当該同族会社の予想される利益に基づいて決定されており、現に利息の支払が困難になったなどの事情はうかがわれない
などの判示の事情のもとでは、当該借入れに係る支払利息の額を損金の額に算入すると法人税の額が大幅に減少することとなり、また、当該借入れが無担保で行われるなど独立かつ対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる取引とは異なる点があるとしても、
法人税法132条1項にいう「これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」には当たらない。

<解説>
●法人税法132条1項の趣旨等

同族会社等の場合には会社の意思決定が一部の資本主の意図により左右されるので、租税回避行為を容易に行い得る⇒これを是正し、負担の適正を図るためのもの。
法人税の負担を不当に減少させる行為又は計算が行われた場合に、これを正常な行為又は計算に引き直してその法人に係る法人税の更正又は決定をする権限を税務署長に認めた。

通説:
ある行為又は計算が経済的合理性を欠いている場合に、その行為又は計算について同項による否認が認められるとの経済的合理性説。
主要な論点:
ア:当該の具体的な行為又は計算が異常ないし変則的であるといえるか否か
イ:その行為又は計算を行ったことにつき租税回避以外に正当で合理的な理由ないし事業目的があったと認められるか否か

●関連する判例等
法人税法132条の2の組織再編成に関する行為又は計算の否認の規定につき
最高裁H28.2.29:
同条の「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは、法人の行為又は計算が組織再編税制・・・に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものであることをいうと解すべきであり、その濫用の有無に当たっては、
①当該法人の行為又は計算が、通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり、実体とは乖離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるかどうか、
②税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか等の事情を考慮
するのが相当である。

同条の解釈につき、いわゆる制度濫用基準を採用しつつ、濫用の有無の判断に当たっての考慮要素として、経済合理性説に係る考慮要素を、組織再編成の場面に即して表現を修正し、特に重要な考慮事情として位置付けたもの。

法人税法132条1項の規定につき、
東京高裁H27.3.25:
行為又は計算が「経済的合理性を欠く場合には、独立かつ対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる取引(独立当事者間の通常の取引)と異なっている場合を含む」
(これに対する上告受理申立ては不受理)

判例時報2539

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

| | コメント (0)

特定商品等の預託等取引契約に関する法律違反及び不当景品類及び不当表示防止法違反に係る調査の結果に関する情報の不開示の事案

最高裁R4.5.17

<事案>
X(被上告人)が、行政情報公開法(平成26年法律第67号による改正前のもの)に基づき、消費者庁長官に対し、㈱安愚楽牧場に関する行政文書の開示を請求⇒本判決別紙目録記載の部分等に記録された情報が行政情報公開法5条6号イ等所定の不開示情報に該当⇒本件各不開示部分等を除いた一部を開示する旨等の各決定⇒Y(国)を相手に、本件各決定のうち本件各不開示部分等に関する部分の取消しを求めた
農林水産大臣は、特定商品等の預託等取引契約に関する法律における主務大臣として、農水省職員に、本件会社の事業所へ立入検査をさせ、その結果に基づき、財務諸表等を適切に作成し、かつ、その結果を定期的に報告するよう指示。
(平成21年法律第49号による改正前の預託法は、主務大臣が業務停止命令を行う。改正後:内閣総理大臣が業務停止命令等を行い、その権限は消費者庁長官に委任する旨を規定)

本件会社は、再生手続開始の申立て。

消費者庁長官:本件会社に対し、景表法6条に基づき、本件契約の内容についての雑誌広告における表示が景表法に違反するものである旨を一般消費者へ周知徹底することを命ずる措置命令。
目録記載1及び2の部分に係る各文書
目録記載3~11の部分に係る各文書

<争点>
6号イ所定の不開示情報該当性(検査に係る事務に関し、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれの有無)

<原審・1審>
目録1及び2の部分に記録されている情報:
1審、原審とも、それぞれ一体的に6号イ所定の不開示情報に該当⇒取消請求棄却。
目録記載3~11の部分に記録されている情報:
1審:6号イ所定の不開示情報に該当

<原審>
①預託法等違反に係る調査の結果の内容等の客観的な事実に関する情報は、6号イ所定の不開示情報に該当しない
②同部分に記録されている情報は、預託法等違反に係る調査の結果に関するもの⇒6号イ所定の不開示情報に該当しない
⇒同部分に関する部分の取消請求を認容。

<判断>
●目録記載3~11の部分:
当該情報を公にすることにより、消費者庁長官等が預託法等の執行に係る判断をするに当たり、いかなる事実関係をいかなる手法により調査し、調査により把握した事実関係のうちいかなる点を重視するかなどの着眼点や手法等を推知され、将来の調査に係る事務に関し、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれがあるといえるか否かという観点から審理を尽くすことなく、当該情報が預託法等違反に係る調査の結果に関するものであることから直ちに6号所定の不開示情報に該当しないとした原審の判断には、違法がある。

●目録記載1及び2の部分に記録されている情報:
それぞれ一体的に6号イ所定の不開示情報に該当するか否かを判断した原審の判断には、違法がある。

原判決中、本件各不開示部分に関する部分を破棄し、本件各不開示部分に記録されている情報が6号イ所定の不開示情報に該当するか否か等につき更に審理を尽くさせるため、前記の破棄部分につき、本件を原審に差し戻した。

<解説>
● 行政情報公開法5条6号の解釈等:
公にすることにより国の機関等が行う事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある情報を含むことが容易に想定されるものを同号イ~ホに例示的に列挙するとともに、同号柱書きに包括的な規定を置いたもの

「適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」(同号柱書き):
行政機関の長に広範な裁量権を与える趣旨ではなく、同号の要件該当性は客観的に判断する必要があり、「支障」の程度は名目的なものでは足りず実質的なものであることが必要。
「おそれ」の程度も単なる確率的な可能性ではなく、法的保護に値する蓋然性が要求される。

● 宇賀裁判官:
行政調査の過程において作成、入手した情報であって、客観的な事実に関するものは、一般的には、脱法的行為を防止するために不開示にせざるを得ない機微な情報に当たるということはできない。
but
そのような機微な情報を推知し得る場合があり得る⇒個別に6号イ所定の不開示情報該当性を判断すべきことが指摘。

判例時報2539

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

| | コメント (0)

2023年2月 2日 (木)

地自法238条の5第4項に基づく賃貸借契約の一部解除(肯定)

大阪地裁R3.10.29

<事案>

X⇒Y:
本件土地1のうち、道路拡幅相当部分に関する賃貸借契約をそれぞれ解除する旨の意思表示をした上で、本件訴訟を提起。

本件訴訟において、本件土地1に隣接する土地の各所有者であるYに対し、境界の確定を求めるとともに、本件土地1の一部の賃借人であるYらに対し、本件道路の拡幅の必要があるため地自法238条の5第4項に基づき賃貸借契約の一部を解除したなどと主張し、賃貸土地の一部の明渡し、解除後の土地の占有につき損害賠償請求金の支払及び解除後の借地権の範囲の確認を求めた。

<争点>
地自法238条条の5第4項に基づく本件解除の可否

規定 第二三八条の五(普通財産の管理及び処分)
4普通財産を貸し付けた場合において、その貸付期間中に国、地方公共団体その他公共団体において公用又は公共用に供するため必要を生じたときは、普通地方公共団体の長は、その契約を解除することができる。

<主張>
X:
従来から、防災上必要であるとして各種整備計画において本件道路を幅員6.7mに拡幅することとし、現実に周辺土地の取得や借地権bの解除を行っている⇒本件解除部分の土地を公共用に供するための必要がある。
Y:
①地自法238条の5第4項の必要性は、法令又は条例に基づくものでなければならないところ、Xの主張する整備計画は、法律又は条令に基づくものではない。
②防災上の拡幅の必要性に理由がない。
③本件解除の対象地を公共用に供するための必要がない。
⇒解除無効

<判断>
地自法238条の5第4項について:
公有財産は普通財産であっても元来公共性を有するものであり、当該普通財産を特に公用又は公共用等の公益目的のために供する必要が生じたときには、その管理処分に当たっては公益を優先させるのが原則であるとして民法等の一般原則の特例を定めたもの⇒民法等に優越する。
①本件において、「第3次庄内地域住環境整備計画」において本件道路を含む道路について幅員6.7メートルを標準として整備する計画が策定され、本件解除時においても維持されていた
②防災上の観点から本件道路を拡幅する旨の計画には合理性がある
③本件解除について、建築主にとって支障が小さい時期に合わせて必要な限度でされている
④そもそも、XとYらの賃貸借契約においては、Xが対象と地を他の用途に使用処分し、又は行政上必要とするときは賃貸借契約を解除することができる旨記載されている

本件解除の対象地を本件道路に供する必要があり、公共用に供する必要があった

<解説>
普通財産は、行政財産と異なり、主としてその経済的価値の保全運用によって生じる収益を普通地方公共団体の財源に充てることを目的とする財産であり、その管理処分は純然たる私経済行為⇒原則として一般私法の規定が適用される。
but
元来公共性を有するもの⇒当該普通財産を特に公用又は公共用等の公益目的のために供する必要がある場合について、民事法上の契約の解除に関する一般原則に対する特例が定められたものであり、国有財産法24条の例にならったもの。

契約の解除に際しては、借主に生じた損失についての補償が要求されるとともに(地自法238条の5第5項)、当該財産を公用又は公共用に供することの必要性についての慎重な判断とそのための公正な手続保障が望ましい。

判例時報2538

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

| | コメント (0)

2023年1月26日 (木)

不実証広告規制について規定した景表法7条2項の憲法適合性が問題となった事案

最高裁R4.3.8

<事案>
Xが、景表法7条2項は憲法に違反する無効な規定⇒Y(国)を相手に、命令の取り消しを求めた事案。

<原判決>
同項による規制は一般消費者の保護という正当な目的のために必要かつ合理的なもの⇒憲法21条1項、22条1項に違反しない。

<判断>
景表法7条2項は、憲法21条1項、22条1項に違反しない⇒上告棄却

<規定>
第七条
内閣総理大臣は、第四条の規定による制限若しくは禁止又は第五条の規定に違反する行為があるときは、当該事業者に対し、その行為の差止め若しくはその行為が再び行われることを防止するために必要な事項又はこれらの実施に関連する公示その他必要な事項を命ずることができる。その命令は、当該違反行為が既になくなつている場合においても、次に掲げる者に対し、することができる。
一 当該違反行為をした事業者
二 当該違反行為をした事業者が法人である場合において、当該法人が合併により消滅したときにおける合併後存続し、又は合併により設立された法人
三 当該違反行為をした事業者が法人である場合において、当該法人から分割により当該違反行為に係る事業の全部又は一部を承継した法人
四 当該違反行為をした事業者から当該違反行為に係る事業の全部又は一部を譲り受けた事業者
2内閣総理大臣は、前項の規定による命令に関し、事業者がした表示が第五条第一号に該当するか否かを判断するため必要があると認めるときは、当該表示をした事業者に対し、期間を定めて、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができる。この場合において、当該事業者が当該資料を提出しないときは、同項の規定の適用については、当該表示は同号に該当する表示とみなす。

<解説>
●景表法7条 2項を適用して同条1項の規定による命令⇒事業者のした表示が優良誤認表示に該当するものと「みなす」との効果が前提
⇒当該事業者は、その取消訴訟において、
①当該事業者が当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料を資料を提出しない旨の消費者庁長官の判断を争うことができる一方、
②当該表示が優良誤認表示に該当しないこと自体を主張立証することはできないこととなる。
他方、当該表示について、景表法8条3項を適用して課徴金納付命令(同条1項)がされる場合もあるが、同項では当該表示が優良誤認表示に該当するものと「推定する」とされるにとどまる
⇒当該事業者は、①及び②のいずれもできる。

過去の行為を捉えた処分である課徴金納付命令に関して「みなす」との効果を認めると、事業者の財産権等の保障に支障を来たすおそれがあるため。

「みなす」との効果まで認める景表法7条2項が、事業者の(営利的)表現の自由及び営業の自由を過度に規制するものではないか?が問題となる。

景表法7条2項と同様の立法技術を採用した例として、特定商取引法52条の2、54条の2、東京都消費生活条例51条3項等がある。

●営利的表現の自由も、憲法上保障される(学説)。
表現の自由に対する憲法適合性について、最高裁:
いわゆる利益衡量論を基本的な判断枠組みとして採用し、制限の必要性の程度と、制限される自由の内容や性質、具体的制限の態様や程度等とを衡量して決すべき。
憲法22条1項は、最高裁判例により、営業の自由を保障する趣旨を包含するものと解されている。
経済的自由の制約を伴う立法の憲法適合性について、最高裁判例は、利益衡量論を基本的な判断枠組みとした上で、規制措置の具体的内容及びその必要性と合理性については、立法府の判断が合理的裁量の範囲内にあるかを判断する枠組みを採用

●景表法7条2項の憲法適合性
規定新設の趣旨:
消費者庁長官は、優良誤認表示を排除する措置命令をするには、商品又は役務(以下「商品等」)の品質、規格その他の内容(以下「品質等」)が当該表示のとおりでないことを具体的に立証する必要があるが、その立証には専門機関を利用した鑑定等が必要であるために多大な時間を要し、その間に当該商品等の販売又は提供がされ続ければ被害が拡大するおそれがある。
・・・・・
合理的な根拠のない表示については、結果的な内容の真偽はともかく、迅速に規制することが必要。

景表法7条2項の目的は(優良誤認表示に係る立証の負担を軽減し)事業者との商品等の取引について自主的かつ合理的な選択を阻害されないという一般消費者の利益をより迅速に保護することにある⇒公共の福祉に合致することは明らか。

景表法7条の手段としての必要性・合理性:
商品等の品質等を示す表示をする事業者は、その裏付けとなる合理的な根拠を有していてしかるべきであって、このように解することが事業者にとって酷であるとはいえない。

同条2項により事業者がした表示が優良誤認表示とみなされるのは、当該事業者が一定の期間内にその裏付けとなる合理的な根拠を示すものと客観的に評価される資料を提出しない場合に限られる⇒同項が適用される範囲は、前記の目的を達成するために必要な限度を超えることのないよう、合理的に限定されている。

①措置命令の性格(将来における違法行為の抑止それ自体を内容とするものであること)や
②前記のような同項の趣旨

同項が適用される場合の措置命令は、当該事業者が裏付けとなる合理的な根拠を示す資料を備えた上で改めて同様の表示をすることを何ら制限するものではないと解される⇒これによる事業者の営業活動に対する制約の程度も限定的。

景表法7条2項に規定する場合に事業者がした表示を優良誤認表示とみなすことは、前記の目的を達成するするための手段として必要かつ合理的であり、そのような取扱いを定めたことが立法府の合理的裁量の範囲を超えるとはいえない。

景表法7条2項が憲法21条1項、22条1項に違反しない。

判例時報2537

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

| | コメント (0)

2022年12月15日 (木)

村八分による国賠請求の事案

大分地裁中津支部R3.5.25

<事案>
Y2らについてXに対し市報を配布しないなどの村八分や各種嫌がらせ⇒Y2らに対しては民法719条1項に基づき、Y1に対しては国賠法1条1項若しくは国賠法3条1項又は民法715条1項に基づき、慰謝料等の連帯支払を求めた。

反訴:
Y2が、Xから不当な告訴を受けるなどの各種嫌がらせを受けたとして、Xに対し、民法709条に基づき、慰謝料等の支払を求めた。

<判断>
● Xが、近くの田畑で農業に従事しながらa区内の実家で生活したり区長兼自治委員から市報等の配布・回覧を受けたりa自治区の構成員として会合や行事等に参加したりしていた
a区の住民やa自治区の構成員として平穏に生活する人格権ないし人格的利益を有していた。
but
Xを除きY2らを含むa自治区の構成員らは、Xがa区に住民票を有していない⇒Xをa自治区の構成員と認めず、共同してXと断交する旨の決議(「本件決議」)を行うとともに、Y2がY1に対し前自治委員としてa自治区の戸数が1戸減少した旨届け出たり、Y3が区長兼自治委員に就任してもXに対して市報等を配布・回覧せず、冠婚葬祭の連絡もしなかったり、a自治区の住民らがXと口をきかなくなったり、Y4が区長に就任してもXに対し市報等を配布・回覧しなかった。

Xを除いたa自治区の全構成員による本件決議やこれに沿った7年以上に及ぶ前記各言動は、前記人格権ないし人格的利益を継続的に侵害し、Xに大きな落ち度があるともいえない⇒社会通念上許される範囲を超えた「村八分」として、共同不法行為を構成。

Y2は、X所有の畑に通じる市道に赤い塗料で「私道」等と大書するとともに「進入禁止」と記載されたカラーコーン等を複数設置してXによる通行を妨げたり、前記畑上の柿の木を切るなどして枯らしたり、前記畑へ瓦れきを投棄したりしたと認定。
Y2による前記各行為は、Xが平穏に生活する人格権ないし人格的利益を侵害し、社会通念上許される範囲を超えた「嫌がらせ」として不法行為を構成。

● Xも、Y2等が本件決議を主導したとしてY2等を脅迫罪で告訴。
but
村八分は脅迫罪を構成し得る⇒合理的理由がある⇒本訴請求は権利の濫用でなく、Xは不法行為責任を負わない。

● Y1における自治委員や区長は、Y1から市政の周知や市報の配布、募金への協力等の事務を受託しており、これらの多くが本来Y1で行うべきもの
but
強制的な権限を有しておらず、Y1からの指揮監督も受けていない
⇒国賠法上の公務員やY1の被用者に当たらない。

宇佐市自治会連合会も、同様の事務を受託しているものの、強制的な権限を有しておらず、Y1からの指揮監督も受けていない⇒国賠法上の公共団体に当たらない。

Y1は国会賠償責任も使用者責任も負わず、
Y2らは前記村八分について共同不法行為責任を負い、
Y2は前記嫌がらせについて不法行為責任を負う。
村八分に対する慰謝料は100万円
嫌がらせに対する慰謝料は30万円
が相当。

<解説>
団体がその秩序を乱した構成員に対して行う共同断交の制裁であるいわゆる「村八分」は、人格権ないし人格的利益を侵害し、その程度が社会通念上許される範囲を超えた場合、共同不法行為を構成すると解されている。

国賠法1条1項の「公共団体」や「公務員」「公権力の行使」に当たる団体ないし個人のことをいい、ここにいう「公権力の行使」とは、本来は国又は公共団体でなければ行使し得ない権力的ないし強制的契機を含む事務を行うことを意味するものと解されている。
民法715条1項の「被用者」は、使用者から実質的な指揮監督を受けている者を意味するものと解されている。

本判決:
本件のY1における自治委員や区長、宇佐市自治回連合会がこれらの要件を満たさない⇒Y1の国賠責任や使用者責任を否定。

判例時報2532

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

| | コメント (0)

自動車事故⇒道路管理者である県の国賠法2条1項の責任(肯定事例)

神戸地裁R3.8.24

<事案>
Xは、本件事故について、Aとの間で締結していた人身傷害保障特約付きの自動車共済契約に基づき、Aの相続人に対して共済金を支払った。
Xは、本件事故は、本件水たまりの存在が原因で生じたものであり、本件水たまりが発生したのは、Yが設置管理する本件道路の排水設備の排水機能に不足があり、また、その排水設備に堆積した落ち葉等の除去をしていなかったことに原因がある
⇒AはY(兵庫県)に対し国賠法2条1項による損害賠償請求権を有するところ、XがAの相続人に前記共済金を支払ったことにより、Aの有する前記損害賠償請求権を共済金支払額の限度で代位取得した⇒Yに対し、損害金2419万5545円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。

<Y主張>
争点1(本件道路の設置管理の瑕疵)について
ア:本件事故は、本件道路の制限速度である時速40キロを大幅に超える時速約65キロから約70キロで走行するというAの異常な用法により発生したもので、本件水たまりが存在していたことがその発生原因ではない
イ:本件水たまりの存在が事故原因としても、本件道路に設置されている排水設備の排水能力に問題はなく、また、Yは、本件道路について、道路管理パトロール要綱に基づき、1日1回巡回パトロールを行う等し、側溝や集水桝の落ち葉等の除去も行っていた⇒本件道路の設置又は管理に瑕疵はない。

争点2(過失相殺)
仮に、前記瑕疵があるとしても、Aには制限速度超過及びシートベルト不装着の過失があり、過失相殺がなされるべき。

<判断>
●本件道路の設置管理の瑕疵(争点1)
本件事故はA車両が本件水たまりを避けるように中央線寄りを進行し、左側タイヤのみが本件水たまり内に進む態様で走行したことによって不規旋転運動が生じる等して発生⇒A車両が制限速度を大きく超える高速で走行したことにより事故が発生したとのYの主張を排斥。
本件道路の排水設備の設置管理の状況:
本件水たまりの発生原因は、同排水設備に落ち葉等が堆積して、その排水機能が阻害されていたことにあるところ、同排水設備には周囲から落ち葉等が流入しやすい状況にあった
Yが、本件道路の排水設備を設置及び管理するに当たっては、本件道路の車線上に水たまりを商事させて車両の安全な運行を妨害しないようにするため、設置される排水設備が十分な排水能力を有するだけでなく、これに落ち葉等が堆積することによりその排水機能が阻害されないようにすることも求められ、特に、その排水構造に照らして、附近の川に接続される排水管の入り口部分の通水機能が阻害されないように留意する必要。

本件道路の排水設備の設計上の能力には問題がなく、その構造自体に不備があったとはいえないが、Yは、有蓋側溝の内部や前記排水管の入り口となる桝内に堆積している落ち葉等については、これらを定期的に除去してたとは認められず、また、前記排水管の入口部分に落ち葉等が流入して通水が阻害されることを防止する措置も講じていなかったところ、これらの措置が行われていれば、本件水たまりが発生することはなかった。

Yの本件道路の設置又は管理に瑕疵があると認めた。

● 過失相殺(争点2)
Aのシートベルト不装着について、過失割合を2割。

<解説>
国賠法2条1項の営造物の設置又は管理の瑕疵:
営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい、
瑕疵の有無は、当該営造物の構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して個別具体的に判断される。
(判例)

本件:
・・具体的事情を考慮して、同設備に要求される設備及び管理の内容を示し、
本件においては、本件道路に設置される排水設備内の落ち葉等の除去や同設備への落ち葉等の流入防止措置が不十分⇒責任を肯定。

判例時報2532

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

| | コメント (0)

2022年12月11日 (日)

複合構造家屋の登録価格の決定の違法と国賠請求

東京地裁R3.3.26

<事案>
A所有の非木造家屋(複合構造家屋) (「本件家屋」)につきY(富山市)の市長が課してきた固定資産税に過納付が生じている⇒Aを相続したXらが、Yに対し、国賠法1条1項に基づき、過納金相当額等の損害賠償を求めた。

<評価>
地税法388条1項、403条1項
評価額=再建築価格(再建築費評点数)×損耗の状況による減点補正率×評点1点当たりの価額
複合建造家屋の主たる構造を基準を基準に基準表が適用されるが、その認定方法としては、①登記簿表題部方式、②低層階方式、③床面積割合方式等があり、全国的な取扱いが統一されていない。

<事案>
Y市長:昭和45年以降、登記簿表題部方式で鉄骨・鉄筋コンクリート造(SRC造)と認定。
Aを相続したXら:床面積割合方式⇒鉄骨作(S造)
⇒本件家屋の主たる構造が誤って認定されてきたことで生じた過納金を、過年度に遡及して返還するよう求めた⇒Yが拒絶⇒国賠請求。

<判断>
固定資産税の賦課処分の客観的違法性の判断基準(最高裁H25.7.12)を示し、国賠法上の違法性判断につき職務行為基準説が妥当するとした上で、
「Y市長による登録価格の決定が 客観的に違法であったとしても、当該登録価格が、価格決定当時の他の自治体の取扱いや裁判所の判断等諸般の事情を踏まえて合理性を否定し難い方法(すなわち、それを採用して登録価格を是正しても、当該市長の職務上の注意義務に違背したとまではいえない方法)により是正されたときの価格を上回らない場合には、職務上の注意義務に違背して納税者に損害を加えたとはいえず、また、Y市長において積極的に登録価格を改めない結果となる取扱いがされたとしても、国賠法上違法とはいえないものと解される」

一般的に合理性を有しない登記簿表題部方式に従った本件家屋の登録価格の決定は客観的には違法たり得るが、同登録価格は、合理性を否定し難い低層階方式により是正されたときの価格を上回らないため、Y市長が同登録価格を是正しなかったとしても、その職務上の注意義務に違反したとはいえない⇒Xらの請求を棄却。

<解説>
国賠法上の違法性について
A:結果不法か
B:行為不法(職務行為基準説)

本判決:
国賠法上の違法性判断につき職務行為基準説が妥当とする旨判示しつつも、
Y市長の職務上の注意義務違反の判断において、本件家屋の登録価格を是正しな取扱いが納税者に「損害」を加えたか否かを重要な考慮要素に位置付けた。
その上で、侵害行為がなかった場合の「原状」と侵害行為により発生した「現状」の差を損害とする差額説に依拠し、登記簿表題部方式を前提に算出された固定資産税(「現状」)と低層階方式を前提に算出された固定資産税(「原状」)との間に差がない⇒納税者には損害は生じていない。

床面積割合方式に従った本件家屋の登録価格の是正は、地税法432条に基づく審査の申出及び地税法434条に基づく抗告訴訟の提起に委ね
国賠法上の違法性判断においては、本件家屋の登録価格を是正しない取扱いにつき、これを正当化する合理的な理由があるかを審理判断すべきものとした。

判例時報2532

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

| | コメント (0)

より以前の記事一覧