事業譲渡の無償行為否認等(肯定)
大阪高裁H30.12.20
<事案>
破産者A社と破産者B社の各破産管財人(Xら)が、両社からその事業の一部を譲り受けたY社に対し、本件事業譲渡及びA社がY社に対し、本件事業譲渡及びA社がY社との一連の取引関係の中で、借入れと返済を繰り返した行為等について、破産法160条3項(無償行為否認)、162条1項1号(偏頗行為否認)、2号(非義務行為否認)などの否認権を行使し、あるいは、法71条1項2号(相殺禁止)を主張して、
逸失した財産の破産財団への原状回復(法167条1項)や償還請求(法168条4項)を求め、さらに会社法350条、民法709条に基づき、相当額の損害賠償を求めた事案。
<争点>
①本件事業譲渡が無償行為否認(160条3項)の対象となるか
②一連の取引関係(弁済、代物弁済)について本来の弁済期は支払不能よりも前に到来するが、これをもって時期に関する非義務行為(期限前弁済)として偏頗行為否認(162条1項2号本文)の対象となるか
<判断>
①本件事業譲渡の無償行為否認該当性を認め、
②前記の 期限前弁済につき偏頗行為否認の対象になると判断
事業譲渡(会社法21条以下、467条)も、経済的な対価を得ないでされた場合には、法160条3項の「無償行為」に該当。
A社とB社は、Y社に対し、一連の取引に係る事業(得意先関係等の経済的価値のある事実関係を含む)を経済的な対価を得ることなく譲渡したものと認定し、単に取引先を紹介されたにすぎないというY社の主張を排斥。
本来の弁済期が支払不能よりも前に到来する場合でも、期限前に弁済すれば、時期に関する非義務行為として、偏頗行為否認(162条1項2号本文)の対象となる。
<解説>
●事業譲渡と無償行為否認
従来は事業譲渡に対する否認は、その詐害行為性(法160条1項)が争点とされていることが多かったが、本件では、無償行為否認(法160条3項)が問題とされ、その事業価値が裁判所の鑑定結果を踏まえて詳細に認定された点に特色がある。
●期限前弁済と偏頗行為否認
法162条1項2号の趣旨について、
期限前弁済が支払不能前にされた場合でも、弁済期まで待てば支払不能になることが確実であるときは、破産リスクを他の債権者に転嫁し、債権者間の平等を著しく害する行為
⇒期限前弁済を受けた債権者が善意である場合を除き、破産者の義務に属する行為よりも広く否認を認めるところにあるとして、その有害性の観点を強調。
弁済期が支払不能よりも後に到来する場合には、債権者が期限前弁済により、支払不能後の偏頗行為否認(同項1号)を潜脱することを許さないという機能も有する。
⇒本件のように弁済期が支払不能よりも前に到来する場合には、前記の潜脱防止は働かないものの、有害性の観点が否定されるものではない。
①支払不能の前段階でも、それまでに債務者の財務状況が徐々に悪化し、支払不法に陥ることが確実であるという状態を観念できる。
②この時期における期限前弁済は、本来の弁済期が支払不法よりも前に到来する場合であっても、やはりこれを受ける債権者のみに優先的な満足を与え、破産リスクを他の債権者に転嫁するもので、債権者間の平等を害するという有害性の程度には変わりがない。
~
①債務者が期限前弁済をした時点で、客観的には弁済期まで待てば支払不能に陥ることが確実である状態にあるため他の債権者を害するという状況にあり、かつ
②債権者がその点について善意とはいえない場合、
後の破産手続において支払不応が弁済期の前後にいずれに定まろうとも、期限前弁済により破産リスクは他の債権者に既に転嫁されたといえる
⇒
本件のように弁済期が支払不能よりも前に到来する場合であっても、支払不能から遡って30日以内に期限前弁済がされたときは、法162条1項2号所定の「その時期が破産者の義務に属しない行為」に該当する(積極説)
その場合、同号ただし書にいう「他の破産債権者を害すること」とは、このような期限前弁済についてみると、同号が後遺の時期及びその有害性に着目して、特に否認の対象を拡張した趣旨に鑑み
「本来の弁済期まで待てば、支払不能に陥ることが確実であるという状態」をいうものと解される。
判例時報2421
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
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