最高裁H27.12.16
<規定>
民法 第733条(再婚禁止期間)
女は、前婚の解消又は取消しの日から六箇月を経過した後でなければ、再婚をすることができない。
2 女が前婚の解消又は取消しの前から懐胎していた場合には、その出産の日から、前項の規定を適用しない。
民法 第772条(嫡出の推定)
妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2 婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
民法 第773条(父を定めることを目的とする訴え)
第七百三十三条第一項の規定に違反して再婚をした女が出産した場合において、前条の規定によりその子の父を定めることができないときは、裁判所が、これを定める。
憲法 第14条〔法の下の平等、貴族制度の否認、栄典の限界〕
すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
憲法 第24条〔家族生活における個人の尊厳と両性の平等〕
婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
②配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。
<事案>
平成20年3月に前夫と離婚したが、女性について6か月の再婚禁止期間を定める民法733条1項の規定があるため後夫との婚姻(再婚)が遅れ、精神的損害を被った⇒国賠請求訴訟。
本件規定が両性の平等を定める憲法14条1項、24条2項に反するものであり、本件規定を改廃しない立法不作為は国賠法1条1項の適用上違法の評価を受ける。
⇒国であるYに対し、精神的損害等の賠償金165万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。
<判断>
上記当時においては、本件規程のうち100日超過部分が憲法に違反するものとなってはいたものの、これを国賠法1条1項の適用の観点からみた場合には、憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反することが明白であるにもかかわらず国会が正当な理由なく長期にわたって改廃等の立法措置を怠っていたと評価することはできない。
⇒
国賠法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではない。
<解説>
●本件規定の憲法適合性判断
◎ 本件規定を改廃しない立法不作為の違法性が争われた事案
最高裁H7.12.5:
民法733条の元来の立法趣旨が、父性の推定の重複を回避し、父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐことにある⇒国会が同条を改廃しないことが直ちに国賠法上違法となる例外的な場合に当たると解する余地がない。
◎本件規定の憲法適合性の判断方法
判例は、法律の規定の平等原則違反(憲法14条1項適合性)の判断方法に関し、当該区分に「合理的な根拠」(最高裁昭和48年4月4日)があるかどうかについて、立法府に合理的な範囲の裁量判断が認められることを前提に、事案に応じた判断枠組みの下で合理性を判断。
多くは、立法目的及び目的達成のための手段の合理性を具体的に検討して判断するという判断枠組みを示し、立法裁量の範囲の広狭にかかわる検討要素として、当該区別の事由や区別の対象となる権利利益の性質とその重要性を総合的に考慮するという判断方法。
本判決:
立法目的・手段による判断枠組みを示しており、その判断に当たっては「婚姻をするについての自由」が憲法24条1項の規定の趣旨に照らし十分尊重に値するものであり、本件規定が「婚姻」に対する直接的な制約を課すことを内容とするものであることを十分考慮に入れた検討が必要である旨を判示。
~
「婚姻をするについての自由」が重要なものであり、本件規定がこれを直接的に制約するものであるという事柄の性質を十分に考慮して、立法目的・手段の合理性を検討すべきことを判示したもの。
◎本件規定の憲法適合性判断
○立法目的
「父性の推定の重複を回避し、もって父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐことにある。」
←
①現行の民法が、嫡出親子関係について法律上の父子関係を早期に定める父性の推定の仕組みを設けている趣旨
②民法733条2項が再婚後に前夫の子との推定が働く子が生れない場合を本件規定の除外規定として規定し、同法773条が本件規定に違反した再婚により同法772条の不正の推定が重複した場合の父子関係確定のための手続を設けているなど、本件規定が父性の推定の重複を避けるためにおかれていること
○100日の再婚禁止期間の合理性
民法772条2項の懐胎時期の推定規定⇒父性の推定の重複を回避するめには計算上100日の再婚禁止期間が必要であり、この部分については立法目的との関係において合理性がある。
再婚禁止期間が6か月と定められたことを根拠づける理由:
①再婚後に前夫の子が生まれる可能性をできるだけ少なくして家庭の不和を避ける
②父性の判定を誤り結構に混乱が生ずることを避ける
⇒
①医療や科学技術の発達等とともにその意義が薄れ
②「婚姻をすることについての自由」(再婚)の制約をできる限り少なくするという要請が高まっていることなどの社会状況の変化等
⇒
遅くとも平成20年当時において、100日超過部分の合理性を保つことが困難になっている。
○
ある法律の制定当時の立法事実に照らして制定当時は合憲と判断した上で、その後の立法事実の変化をたどりながらその後の合憲性を判断するという手法
~
違憲判断の基準時は、付随的意見審査制の下では当該個別事件において判断が求められる時期
●国賠法上の違法性判断
◎従来の判例理論
最高裁昭和60.11.21:
在宅投票制度を廃止しこれを復活しない国会の立法行為又は立法不作為の国賠法上の違法性が争われた事案において、「国会議員は、立法の関しては、原則として、国民全体に対する関係で政治的責任を負うにとどまり、個別の国民の権利に対応した関係での法的義務を負うものではないというべきであって、国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき、容易に想定し難いような例外的な場合でない限り、国賠法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受けないものといわなければならない」
最高裁H17.9.14:
在外国民の選挙権行使を認めない公職選挙法が憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条但書に違反するとの違憲判断を行った上、
そのような公職選挙法の改正を怠った立法不作為につき、「立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や、国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには、例外的に、国会議員の立法行為又は立法不作為は、国家賠償法1条1項の適用上、違法の評価を受けるものというべきである。」
⇒国賠請求を一部認容。
~
法律上選挙権の行使が否定されていたこと、および、選挙権行使を認めた1984年内閣提出の改正案が廃案となってから1996年の選挙に至るまで10年以上もの長きにわたり何らの立法措置も執ろうとしなかったことが重視されたものと思われる(芦部)
平成17年判決の前段・後段は、国会の立法行為又は立法不作為が例外的に違法となる場合の一部の例示にとどまり、これらの場合に限定する趣旨ではなく、前段は、違憲の法律を制定する立法行為やこれと同視し得る立法不作為により本来自由に行使し得る憲法上の権利が侵害され、期間の経過を要せずに直ちに地方となる極端な場合を想定した説示として述べたものにとどまる。
平成17年判決:「国民に憲法上保障されている権利」
本判決:「憲法上保障され又は保障されている権利利益」
~
既にある法律の規定が違憲とされた後、国家賠償法上違法となり得るのは、選挙権のような明確に人権とされる権利の侵害のみならず、憲法上保障される利益が合理的な理由なく制約された場合も含まれるはずであるという理解。
◎本件立法不作為の違法性の評価
具体的な検討要素としては、
違憲の明白性の観点から
①本件規定の不合理性ないし違憲性が国会にとって容易に理解可能であったか否か
②本件規程をめぐっては、100日超過部分を撤廃する趣旨の平成8年の民法改正要綱が公表され、また、諸外国が再婚禁止期間を廃止する傾向にあったこと、
③本件規定については、憲法判断を示すことなく立法不作為の違法性を否定した平成7年判決という最高裁の先例があり、これによって再婚禁止期間の設定を含めてその改廃が立法政策に委ねられたとの信頼が立法府の側に生じたものと考えられ、
④本件規定の違憲性に論及する司法判断は今回が初めてであることなどの事情。
本判決は、上記①③④の点を重視して、本件立法不作為の違法性に係る判断基準時である平成20年時点における違憲の明白性を否定し、期間の要件については具体的に検討するまでもなく違法性が否定されると判断。
●その他
論理的には、憲法適合性に関する判断が違法性の有無の判断に先行すると考えられるところ、合憲又は意見の判断を明示的に示す必要性が当該憲法問題の重要性・社会的影響等を考慮した個々の事案ごとの裁判所の裁量に委ねられているという立場に立ったもの。
判例時報2284
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))
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