経済

2022年5月14日 (土)

排除措置命令に係る命令書の主文の記載と理由の記載に違法があるとされた事例

東京高裁R2.12.11

<事案>
小売業者であるXが、Y(公正取引委員会)に対し、Xに対する平成25年改正前独禁法に基づく排除措置命令審判事件及び課徴金納付命令審判事件について、YがXに対してした審決のうち、Xの審判請求を排除した部分の取消しを求めた事案。

<争点>
①Xの取引上の地位が納入業者127社のそれぞれに対して優越しているか
②Xが納入業者127社のそれぞれに対して濫用行為を行ったか
③課徴金の算定方法についての違法性の有無
④本件各命令書における主文の不特定及び理由の記載の不備による違法性の有無

<判断>
争点④について
排除措置命令の主文の内容があまりに抽象的で、名宛人が当該命令を履行するために何をすべきかが判然としな主文の記載は違法
排除措置命令書及び課徴金納付命令書において理由の付記が要求される趣旨は、Y(公正取引委員会)の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、その理由を名宛人に知らせて不服申立てに便宜を与える点にある⇒要求される付記の内容及び程度は、特段の理由がない限り、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して当該処分がされたかを、処分の相手方においてその記載自体から了知し得るものでなければならない。

これを本件各命令書についてみると、本件排除措置命令書及びこれを引用した本件課徴金納付命令書の記載からは、Xが違反行使をした相手方である「特定納入業者」が具体的に特定されていない。
本件各命令書に同封された本件一覧表は、本件各命令の一部を構成するものではなく本件課徴金納付命令の参考資料と位置付けられており、これを本件各命令書と一体のものとは評価できないし、本件一覧表の記載に照らし、これに記載された事業者が特定納入業者であるとも評価できない。
⇒本件各命令書の記載を本件一覧表で補充することはできない。
主文の一部及び理由の記載には重大な違法があり、本件各命令は取り消されるべきである。

<解説>
理由付記の趣旨及びその程度についても、一般的な行政処分における理由付記についての判例理論に沿うもの。

判例時報2510

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0)

2022年2月15日 (火)

プラットフォームを構築・運営している事業者の不当表示の表示主体性(肯定)

東京地裁R1.11.15

<事案>
消費者庁長官が、X(アマゾンジャパン)の運営する商品販売用ウェブサイト(本件ウェブサイト)において、5種類の商品を(「本件5商品」)について、それぞれ、 製造事業者が一般消費者への提示を目的としないで商品管理上便宜的に定めていた価格(参考上代)又は製造事業者が設定した希望小売価格より高い価格を、本件ウェブサイト上の販売価格を上回る「参考価格」として見え消しにした状態で併記し、実際の販売価格が「参考価格」に比して安いかのように表示し(「本件各表示」)、景表法5条2号の有利誤認表示をした
Xに対して景表法7条1項の規定に基づく命令(「本件措置命令」)
XがY(国)に対して、本件措置命令の取り消しを求めた。

<争点>
①Xが本件各表示をした事業者であるといえるか
②本件各表示が実際のものよりも取引の相手方に対して著しく有利であると一般消費者に誤認される表示(景表法5条2号)か

<判断>
●争点①
①不当景品類及び不当表示による顧客の誘因を防止するため、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為の制限及び禁止について定めることにより、一般消費者の利益を保護するという景表法の目的(景表法1条)を達成するために、景表法5条において禁止されるべき表示を規定
商品を購入しようとする一般消費者にとっては、通常は、商品に付された表示という外形のみを信頼して情報を入手するしか方法はないことなど

表示内容の決定に関与した事業者が、景表法52号に該当する不当表示を行った事業者に該当すると解するのが相当

「表示内容の決定に関与した事業者」には、
他の事業者が決定したあるいは決定する表示内容についてその事業者から説明を受けてこれを了承しその表示を自己の表示とすることを了承した事業者及び
自己が表示内容を決定することができるにかかわらず他の事業者に表示内容の決定を任せた事業者も含まれると解するのが相当。

①Xは、本件ウェブサイト上に、いつ、何を、どこに、どのように表示するのかという仕組みを自由に決定することができる
②Xと出品者が同一の商品を販売している場合、Xが使用するシステムがした総合評価の結果に従って、1つの販売者が設定した販売価格が商品詳細ページの中央部分に表示される仕組みを構築している

本件においては、Xが、一定の場合に二重価格表示がされるように本件ウェブサイト上の表示の仕組みをあらかじめ構築し、当該仕組みに従って二重価格表示である本件各表示が実際に表示された本件5商品について、Xが、当該二重価格表示を前提とした表示の下で、自らを本件5商品の販売者として表示し、本件5商品を販売していた
⇒Xは、本件各表示について、表示内容の決定に関与した事業者であるといえ、Xが本件各表示をした事業者であると認められる。

●争点②
公正取引委員会「不当な価格表示についての景品表示法の考え方」(平成12年6月30日)消費者庁HP(「本件ガイドライン」)を示し、
本件ガイドラインには、
(1)希望小売価格を比較対象価格とする二重価格表示を行う場合に、製造事業者等により設定され、あらかじめ公表されているとはいえない価格を、希望小売価格と称して比較対象価格として用いるときは、一般消費者に販売価格が安いとの誤認を与え、不当表示に該当するおそれがあるのと定め(本件ガイドライン第4の3(1)ア)
(2)製造業者等が参考小売価格や参考上代等の名称で小売業者に対してのみ呈示している価格を比較対照価格とする二重価格表示を行う場合に、
①これらの価格が、製造業者等が設定したものをカタログやパンフレットに記載するなどして当該商品を取り扱う小売業者に広く呈示されている場合には、当該価格を比較対象価格に用いること自体は可能であるが、希望小売価格以外の名称を用いるなど、一般消費者が誤認しないように表示する必要があるとする定め、
②製造業者等が当該商品を取り扱う小売業者に小売業者向けのカタログ等により広く呈示しているとはいえない価格を、小売業者が参考小売価格等と称して比較対象価格に用いるときには、一般消費者に販売価格が安いとの誤認を与え、不当表示に該当するおそれがあるとする定め(本件ガイドライン第4の3(1)イ)。
これらを判断基準として検討し、
本件5商品について表示された「参考価格」は本件ガイドラインの前記各定めに照らして、いずれも、一般消費者に販売価格が安いとの誤認を与え、不当表示に該当するものと認めるのが相当。

<解説>
いわゆるプラットフォーム型通信販売においてプラットフォームを構築・運営している事業者に不当表示の表示主体性を認めた事例。

判例時報2502

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0)

2022年1月 3日 (月)

風営法の規制実現のための独禁法違反(共同の取引拒絶)が争われた事例

東京地裁R3.3.30

<事案>
パチンコホールの経営者であるXらは、パチンコ遊技機及びパチスロ遊技機の販売業者の事業団体であるYらが、組合員であるZ(販売業者)に対し、風営法施行規則の遊技機の出玉基準の改正により営業所に設置できないことになった遊技機を改正規則の付則で認められた経過措置期間経過前に撤去するというYらを含む業界関係団体の計画に従わないXらに対してパチンコホール営業者が中古遊戯機の設置に係る許認可の際に必要となる保証書作成等の業務の依頼を拒否するよう要請した行為が、独禁法8条5号が定める不公正な取引方法(独禁法2条9項1号イ所定の共同の取引拒絶)の勧奨行為に当たる⇒独禁法24条に基づき、当該行為の差し止めを求めた

<判断>
(1)経過措置期間中の旧規則機の撤去に関してされた行為であっても、経過措置期間中は、旧規則機の設置は風営法上違法と評価されるものではない⇒独禁法の適用は否定されない。
(2)ZがXに対して保証書作成及び打刻申請の対応をあらかじめ拒絶するという本件措置は、独禁法2条9項1号の「供給を拒絶」する行為に該当
(3)本件措置は、Zと他の遊技機販売業者との間で意思の連絡があるといえる⇒独禁法2条9項1号にいう「競争者と共同して」行っているものに当たる
(4)共同の取引拒絶においても、
①当該取引拒絶行為の目的の正当性及び
②当該取引拒絶行為の手段としての相当性
を総合的に考慮して「正当な理由」があるときは、「不公正な取引方法」に該当しない

①について:

法令上の設置期限より早く撤去させる本件撤去計画の推進は、合理的であり、本件措置が達成しようとする事項の公益性、重要性に照らせば、本件措置の目的には正当性がある。

②について:
本件措置は目的を達成するために必要かつ合理的な範囲にとどまるものであれば、手段としての相当性が認められると解されるところ、

・・・・
手段としての相当性も認められる。


不公正な取引法方法に当たらない。
(5)著しい損害(独禁法24条)及び
(6)保全の必要性も否定。

<解説>
● 風営法が客の射幸心を著しくそそるとして営業所に設置が許されなくなった旧規則機につき、Yらを含む業界関係団体が、経過措置期間経過前にこれを計画的に撤去するという計画(本件撤去計画)を立て、かつ、それに従わないパチンコホール営業所に設置するために風営法に基づく営業許可又は変更承認の申請をするのに必要となる保証書の作成等をしないように、傘下の組合員であるZに勧奨したことが独禁法上問題とされた。

●独禁法の適用の有無
独禁法と風営法(=自由な競争を否定)は、同じレベルにある法律で、両法が実質的に矛盾する結果をもたらすことのないように、両法を全体として合理的・整合的に解釈する必要

本決定:
経過措置期間中は、旧規則機の設置は風営法上違法と評価されるものではない⇒独禁法の適用は否定されない。

本件措置が風営法の法益実現を図るものであるという点を独禁法の適用の場面でどう位置付けるか?
独禁法2条9項1号イ所定の取引拒絶行為に該当する場合でも、正当な理由があるときは、「不公正な取引方法」に該当しないとして、
目的の正当性、手段の相当性(=目的を達成するために必要かつ合理的な範囲にとどまる)を審査。
経過措置期間経過後は設置が許されなくなる⇒経過措置期間経過後大量に廃棄を迫られるという風営法上の問題を考慮し、目的の正当性、手段の相当性を肯定。

●エアソフトガンについて安全性を目的に自主基準を設定し、自主基準を遵守しないアウトサイダーを共同の取引拒絶により排除したことが問題とされた事案で、自主基準の目的の正当性、内容の合理性は認めたが、実施方法の相当性を否定した裁判例。

道路運送法上刑罰をもって禁止されている低い料金になっていた状況において、事業者団体が適法な認可料金に近づけるために行われた運賃引き上げカルテルについて違法阻却が認められた公取委員会の審決例。

判例時報2494

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0)

2020年4月21日 (火)

農業協同組合の行為が不公正な取引方法に該当するとされた事案

東京地裁H31.3.28  
<事案>
公正取引委員会(Y)がA農業協同組合に対し、不公正な取引方法に該当する行為があり、独禁法19条に違反⇒同法20条2項に基づいて排除措置命令⇒Aが本件命令の取消しを求めて訴えを提起。
訴え提起後、X農業協同組合がAを吸収合併し、訴訟承継。 
 
<事実>
Aは、かねてからなすの販売を受託することができる組合員を集出荷場ごとに組織されている支部園芸部の支部員等に限定。
遅くとも平成24年4月以降、平成28年10月31日までの間に、支部園芸部から除名又は出荷停止の処分を受けるなどした者からなすの販売を受託せず、あるいは
支部員が集出荷場を利用することなく他の青果卸売業者(Aの管内及びその周辺地域に3社存在する)に販売委託した場合(「系統外出荷」)
支部園芸部が定めた系列外出荷手数料等を収受し、さらに、
支部員のBへのなすの出荷重量が一定水準を下回った場合には、支部園芸部が定めた罰金等をそれぞれ収受して、
これらを自らの農産物販売事業に係る経費に充て、なすの販売を受託。

組合蔭の事業活動を不当に拘束する条件を付けて組合員と取引していたものであって、一般して12項に該当し、独禁法19条に違反する行為

Yは、Aに対して、
本件行為を行っていない旨を確認すること
今後組合員からのなすの販売の受託に関し本件行為と同様の行為を行わないことをAの理事会において決議すること、
同決議に基づいてとった措置を組合員に通知すること
等を内容とする本件命令をした。
 
<規定>
独禁法 第一九条[不公正な取引方法の禁止]
事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない。

独禁法  第二条[定義]
⑨この法律において「不公正な取引方法」とは、次の各号のいずれかに該当する行為をいう。
六 前各号に掲げるもののほか、次のいずれかに該当する行為であつて、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するもの
ニ 相手方の事業活動を不当に拘束する条件をもつて取引すること。

一般指定
(拘束条件付取引)
12法第二条第九項第四号又は前項に該当する行為のほか、相手方とその取引の相手方との取引その他相手方の事業活動を不当に拘束する条件をつけて、当該相手方と取引すること
 
<主たる争点>
一般指定12項の定める要件のうち
①Aの「相手方」が組合員であるといえるか(支部園芸部ではないのか)
②Aが組合員の事業活動を「拘束する条件をつけて」組合員と取引していたか
③本件行為が「不当に」拘束する条件を付けた取引に当たるか
 
<判断>  
●争点①
一般指定12項にいう「相手方」とは取引の相手方を意味し、
取引の相手方が誰かはその取引の実態に即して判断すべき

①販売受託の実施に必要な人的物的資源や費用の提供は、いずれも農業者又はAないしその職員が行っており、支部園芸部ないしその職員は介在していない
②なすの販売委託についてAが組合員から販売品の販売委託を受ける旨定めた販売業務規定の適用があったと推認できる
③Aは県に対して、平成23年度から平成26年度までの間の販売事業の員外利用高を0円と報告し、平成27年度の組合員利用高について販売事業取扱高の99%に当たる金額を報告していることなどの、なすの販売受託の実態等

Aは組合員たる農業者からなすの販売を受託していたと認めることができ、Aにとって組合員は「相手方」に該当する。
 
●争点②
最高裁判決を引用し、
一般指定12項にいう拘束があるというためには、必ずしもその取引条件に従うことが契約上の義務として定められていることを要せず、それに従わない場合に何らかの不利益を伴うことにより現実にその実効性が確保されていれば足りる

①Aはなすの販売を受託する組合員を、集出荷場を利用することができる支部員等に限定しており、支部園芸部から除名又は出荷停止等の処分を受けるなどした者からなすの販売を受託しないこととしていた
②一部の支部においては系統外出荷手数料や罰金を徴収し、これらをAの経費に充てていた
③これらは、なすがAの集出荷場に出荷されAが販売を受託しBに販売委託する取引の割合(系統出荷率)を可及的に増加させることを目的としたものであるといえる

Aは、なすの販売を委託しようとする組合員(農業者)をして、系統外出荷を理由に除名されるなどした者から委託を受けないとうい条件、系統外出荷を行った場合に系統外出荷手数料及び罰金を収受するという条件を付して、なすの販売受託をしていた⇒Aが組合員の事業活動を「拘束する条件をつけて」組合員と取引していた。
 
●争点③ 
最高裁判例を示しつつ、拘束の形態や程度等に応じて公正な競争を阻害するおそれ(独禁法2条9項6号柱書参照)を判断し、それが公正な競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがあると認められる場合に初めて相手方の事業活動を「不当に」拘束する条件を付けた取引に当たる

市場における有力な事業者が、取引先事業者に対し、自己の競争者と取引しないよう拘束する条件を付して取引する行為や、
自己の商品と競争関係にある商品の取扱いを制限するよう拘束する条件を付けて取引する行為を行うことにより、市場閉鎖効果が生じる場合には、
公正な競争を阻害するおそれがある。

市場閉鎖効果が生じるか否かの判断に当たっては、具体的行為や取引の対象、地域、態様等に応じて、当該行為に係る取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討した上で、ブランド間及びブランド内競争の状況、垂直的制限行為を行う事業者の市場における地位、当該行為の対象となる取引先事業者の事業活動に及ぼす影響、当該取引先事業者の数および市場における地位を総合的に考慮して判断すべき。

本件行為によって市場閉鎖効果が生じるかを検討する際には、
Aの管内及びその周辺地域におけるなすの販売受託における市場閉鎖効果につき検討することが相当。

①Aはその管内及びその周辺地域における那須販売受託の取引市場において特に有力な事業者であるといえる。
②A管内及びその周辺地域のなす販売受託の取引市場において本件行為の対象となっている農業者が占める割合が大きいといえる⇒集荷するなすの大部分をA管内からの集荷に依存していた他の青果卸売業者が、本件行為の拘束を受ける農業者の生産するなすの収穫量に代わる十分な量のなすを集荷し、取引機会を得ることは困難。
③本件行為に係る条件は農業者が本来自由に決定すべき取引先の選択を制約するものであったというべきであること等。

Aの本件行為によって、集荷するなすのほとんどをA管内から集荷している業者にとっては、取引機会が減少するような状態がもたらされるおそれが生じた(市場閉鎖効果が生じた)
 
<解説>
本件は、独禁法で禁止される不公正な取引方法(独禁法2条9項、19条) のうち「(その他の)拘束条件付取引」(独禁法2条9項6号ニ、一般指定12項)への該当性が問題となった事案について、
一般指定12項における「相手方」、「拘束する条件をつけて」及び「不当に」の解釈について、従来の判例通説及び「流通・取引慣行に関sるう独占禁止法上の指針」に示された考え方に依りつつ、本件行為に係る具体的事実に即して判断し、本件行為が一般指定12項に該当することを認めた事例。
判例時報2433

| | コメント (0)

2019年1月11日 (金)

テレビ用ブラウン管の海外子会社への販売価格に係る日本国外での合意について、独禁法の適用の可否

最高裁H29.12.12      
 
<事案>
Xを含む事業者らがテレビ用ブラウン管の販売価格に関して日本国外でした合意(「本件合意」)が、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(「独禁法」)2条6項所定の「不当な取引制限」に当たる行為(価格カルテル)である⇒Yか(公正取引委員会)から課徴金の納付を命ぜられた
⇒Xが本件課徴金納付根異例の取消しを求めて審判請求⇒同審判を棄却する旨の審決⇒Yを相手として、本件審決の取消しを求めた。 
 
<事実> 
本件合意:
本件合意の参加者(X、A~E社及びその子会社等)は、遅くとも平成15年5月22日頃までに、本件ブラウン管の現地製造子会社等向け販売価格の安定を図るため、日本国外において、本件ブラウン管の営業担当者による会合を継続的に開催し、おおむね四半期ごとに、A~E社が我が国テレビ製造販売業者との交渉の際に提示する、本件ブラウン管の現地製造子会社等向け販売価格の各社が遵守すべき最低目標価格等を設定する旨合意。 
 
<規定>
独禁法 第2条〔定義〕
⑥この法律において「不当な取引制限」とは、事業者が、契約、協定その他何らの名義をもつてするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。
 
<独禁法>
第7条の2〔私的独占・不当な取引制限に係る課徴金〕
事業者が、不当な取引制限又は不当な取引制限に該当する事項を内容とする国際的協定若しくは国際的契約で次の各号のいずれかに該当するものをしたときは、公正取引委員会は、第八章第二節に規定する手続に従い、当該事業者に対し、当該行為の実行としての事業活動を行つた日から当該行為の実行としての事業活動がなくなる日までの期間(当該期間が三年を超えるときは、当該行為の実行としての事業活動がなくなる日からさかのぼつて三年間とする。以下「実行期間」という。)における当該商品又は役務の政令で定める方法により算定した売上額(当該行為が商品又は役務の供給を受けることに係るものである場合は、当該商品又は役務の政令で定める方法により算定した購入額)に百分の十(小売業については百分の三、卸売業については百分の二とする。)を乗じて得た額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。ただし、その額が百万円未満であるときは、その納付を命ずることができない。
一 商品又は役務の対価に係るもの
二 商品又は役務について次のいずれかを実質的に制限することによりその対価に影響することとなるもの
イ 供給量又は購入量
ロ 市場占有率
ハ 取引の相手方
 
<争点>
本件合意が日本国外で行われ、本件合意が対象としていたブラウン管の取引も外国

①課徴金納付を命ずるにあたり我が国の独禁を適用することの可否
②課徴金納付を命ずる場合に課徴金額の算定基礎となる独禁法7条の2第1項の「当該商品の売上額」の範囲 
 
<原審>
本件合意は、本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格、購入数量等の重要な取引条件について実質的決定をする我が国テレビ製造販売業者を対象とするものであり、本件合意に基づいて、我が国に所在する我が国テレビ製造販売業者との間で行われる交渉等における自由競争を制限するという実行行為が行われた
我が国の独禁法を適用することができる
②本件ブラウン管は独禁法7条の2第1項の「当該商品」に該当する。
 
<判断>
上告受理決定の上、上告を棄却。 
本件合意は、日本国外で合意されたものではあるものの、我が国の自由競争社会秩序を侵害するものといえる本件合意を行った上告人に対し、我が国の独禁法の課徴金納付命令に関する規定の適用があるものと解するのが相当

本件合意の対象である本件ブラウン管が現地製造子会社等に販売され日本国外で引渡しがされたものであっても、その売上額は、独禁法7条の2第1項にいう当該商品の売上額に当たるものと解するのが相当。
 
<解説>
●我が国の独禁法の適用の可否 
◎ 本件は、国家管轄権のうち、法律をどの範囲の事実や行為に適用するかといういわゆる立法管轄権(規律管轄権)の問題。

立法管轄権:
各国が共通に採用している管轄権原則に準拠する限りでその行使が認められる。

競争法の立法管轄権に関する代表的な見解:
自国内に反競争的効果(競争制限効果)を及ぼす行為には、行為地を問わず自国の競争法を適用できるとする効果主義(効果理論、効果原則、effect theory, effect doctrine)
②国家管轄権についての伝統的な概念の1つである客観的属地主義(国外で開始され、国内で完成した行為に自国法を適用するもの)にしたがって、カルテル合意を実際に実施する行為が一部でも国内で行われた場合には自国法を適用できるとする見解
これと同じ観点に立つものとして、競争法違反行為をカルテルの形成と実施に分け、カルテル合意(形成)が国外でされたとしても、カルテルを実行に移す競争制限行為すなわち実施行為が国内で「実施」された場合に自国法を適用するという実施(行為)理論(implementation doctrine)
 
◎本判決の考え方:
独禁法1条が、公正かつ自由な競争を促進することなどにより、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とする旨を定めている
⇒同法は、自由競争経済秩序の保護を直接の保護法益とし、もって、一般消費者の利益を確保し、国民経済の発展を促進することを窮極の目的としている。(最高裁昭和59.2.24)

国外で合意されたカルテルであっても、それが我が国の自由競争経済秩序を侵害する場合には、独禁法の排除措置命令及び課徴金納付命令に関する規定の適用を認めていると解するのが相当。
このような場合において、同法所定の実体要件を満たすときは、公正取引委員会は、当該カルテルを行った事業者等に対し、排除措置命令及び課徴金納付命令を発することができる。

不当な取引制限の定義について定める独禁法2条6項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」とは、当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいう(最高裁H24.2.20)。

価格カルテルにより競争機能が損なわれることとなる市場に我が国が含まれる場合には、当該カルテルは、我が国の自由競争経済秩序を侵害する。

「本件のような価格カルテル(不当な取引制限)が国外で合意されたものであっても、当該カルテルが我が国に所在する者を取引の相手方とする競争を制限するものであるなど」のときは、価格カルテルにより競争機能が損なわれることとなる市場に我が国が含まれる場合に当たる。

「市場が」が、供給者、需要者といった人的要素、商品・役務といった物的要素で構成されるところ、その人的要素を当該市場が存する国を判定する上でのメルクマールの1つとするとの考え方。

本件の事実関係の下においては、
本件ブラウン管を購入する取引は、我が国テレビ製造販売業者と現地製造子会社等が経済活動として一体となって行なったものと評価できる

本件合意は、我が国に所在する我が国テレビ製造販売業者をも相手方とする取引に係る市場が有する競争機能を損なうものであったということができる。

本件合意を行ったXに対し、我が国の独禁法の課徴金納付命令に関する規定の適用があるものと解するのが相当。

本件のような国際カルテルの事案において、その立法管轄権の範囲を判定するために当該カルテルが影響を及ぼす市場を検討するにあたっては、法人格の同一性や契約上の買主等の形式的な事実だけではなく、経済活動の実質、実態に即して判断すべきであるとの考慮。
 
●「当該商品の売上額」の範囲について 
独禁法7条の2第1項:
事業者が不当な取引制限をしたときは、公正取引委員会は、当該事業者に対し、当該行為の実行としての事業活動を行った日からそれがなくなる日までの期間(当該期間が3年を超えるときは、当該行為の実行としての事業活動がなくなる日からさかのぼって3年間とする。以下「実行期間」という。)における当該商品又は役務の政令で定める方法により算定した売上額(「当該商品の売上額」。当該行為が商品又は役務の供給を受けることに係るものである場合は、当該商品又は役務の政令で定める方法により算定した購入額。)に一定割合を乗じて得た額に相当する額の課徴金の納付を命じなければならないとする。

本件におて、本件ブラウン管の現地製造子会社等に対する引渡しは日本国外で行われていたところ、本件課徴金納付命令においては、現地製造子会社等に対する本件ブラウン管の売上額、すなわち日本国外で引き渡された商品の売上額が課徴金算定の基礎となっている。

X:独禁法7条の2第1項の「当該商品の売上額」は、日本国内で引き渡された商品の売上額に限られる旨主張。

①独禁法及び独禁法施行令には、「当該商品の売上額」を国内での売上額に限るとの規定はない
②独禁法1条に基づきわが国の自由競争経済秩序に影響を与える行為について独禁法の立法管轄権が及ぶという解釈

国外で商品の引渡しが行われた売上げであっても、それが我が国の自由競争経済秩序に影響を与える行為によるものであれば、これについて課徴金を課すことが独禁法の目的、保護法益の範囲を逸脱するものとはいえない
むしろ、外国での行為が我が国の自由競争経済秩序を侵害しているにもかかわらず、商品が国外で引き渡されてるからといって、そこから発生する不当な利得を剥奪できないのであれば、独禁法により規制、抑止効果が実効性を失うことにもなりかねない

判例時報2385

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年10月30日 (日)

外国法人であるXが、他の事業者と共同して、日本法人である5社が日本国外に所在する当該事業者の現地製造子会社等に購入させるテレビ用ブラウン管の現地製造子会社等向け販売価格の各社が遵守すべき最低目標価格等を設定する旨を合意⇒独禁法違反(肯定)。

東京高裁H28.1.29      

<事案>
公正取引委員会は、外国法人であるXが、他の10社と共同して、日本法人である5社が日本国外に所在する当該事業者の現地製造子会社等に購入させるテレビ用ブラウン管(「本件ブラウン管」)の現地製造子会社等向け販売価格の各社が遵守すべき最低目標価格等を設定する旨を合意すること(「本件合意」)により、、公共の利益に反して、本件ブラウン管の販売分野における競争を実質的に制限⇒独禁法2条6項に規定する不当な取引制限に該当し、同法3条の規定に違反するもので、かつ、同法7条の2第1項1号に規定する商品の対価に係るもの⇒Xに対して、13億7362万円の課徴金の納付を命じた(「本件課徴金納付命令」)

Xは、本件課徴金納付命令に関する手続が違法である上、本件については我が国の独禁法が適用されないなどと主張⇒本件課徴金納付命令の取消しを求めて審判請求⇒公正取引委員会は、これを棄却する旨の審決(「本件審決」)
⇒Xが、①本件課徴金納付命令に関する手続が違法であるし、②本件合意は日本国外で行われたものであり、本件ブラウン管の取引も日本国外でされたのであるから、独禁法が適用されるべきではないとして、本件審決の取消しを求めた。
 
<規定>
独禁法 第3条〔私的独占又は不当な取引制限の禁止〕 
事業者は、私的独占又は不当な取引制限をしてはならない。

独禁法 第7条の2〔私的独占・不当な取引制限に係る課徴金〕
事業者が、不当な取引制限又は不当な取引制限に該当する事項を内容とする国際的協定若しくは国際的契約で次の各号のいずれかに該当するものをしたときは、公正取引委員会は、第八章第二節に規定する手続に従い、当該事業者に対し、当該行為の実行としての事業活動を行つた日から当該行為の実行としての事業活動がなくなる日までの期間(当該期間が三年を超えるときは、当該行為の実行としての事業活動がなくなる日からさかのぼつて三年間とする。以下「実行期間」という。)における当該商品又は役務の政令で定める方法により算定した売上額(当該行為が商品又は役務の供給を受けることに係るものである場合は、当該商品又は役務の政令で定める方法により算定した購入額)に百分の十(小売業については百分の三、卸売業については百分の二とする。)を乗じて得た額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。ただし、その額が百万円未満であるときは、その納付を命ずることができない。
 
<争点>
①本件課徴金納付命令に関する手続の適法性
②本件に独占禁止法3条後段を適用することができるか否か
③本件ブラウン管の売上額は独禁法7条の2第1項の「当該商品の売上額」に該当し、課徴金の計算の基礎となるか 
 
<判断>
課徴金納付命令に関する手続は適法。
本件合意は、本件ブラウン管の購入先及び本件ブラウン管の購入価格、購入数量等の重要な取引条件について実質的決定をする我が国ブラウン管テレビ製造販売業者を対象にするものであり、本件合意に基づいて、我が国に所在する我が国ブラウン管テレビ製造販売業者との間で行われる本件交渉における自由競争を制限するという実行行為が行われた

これに対して我が国の独禁法を適用することができることは明らか
本件ブラウン管は独禁法7条の2第1項にいう「当該商品」に当たる
⇒独禁法施行令5条に基づき算定された本件ブラウン管の売上額が課徴金の計算の基礎となる。
 
<解説>
本件は、公正取引委員会が、日本法人の海外子会社が購入する部品について、日本国外において独禁法2条6項に規定する行為(本件合意)がされたケースについて、日本の独禁法を適用して摘発した初めてのケース。 

判例時報2303

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年8月19日 (金)

傘下組合員が支払った取引手数料の一部について協同組合連合会が割戻しを受ける旨の合意の効力(有効)

仙台地裁石巻支部H25.9.26      
 
<事案>
宮城県内のかき仲買人を会員とする組合の協同組合連合会であるXが、宮城県内の生かきのほぼすべての販売する県漁業組合連合会がかき仲買人から取引手数料の徴収を開始した際、Xの会員組合に所属する仲買人が県漁連に支払った手数料の一部をXに交付金として割り戻すことで県漁連と合意し、その後は手数料率や割戻率の改訂、訴訟上の和解等を経て、Yが県漁連の権利義務を包括承継した後も、毎年交付金の支給を受けていた。
but
Yが、前記合意を解除したとして交付金を支給せず
⇒Xが、Yに対し、合意に基づく交付金の支払を求めた。
 
<Yの主張>
①前記合意は中小企業等協同組合法にいう団体協約にあたところ、Xはその締結にあたり総会の事前承認を得ていないし、団体協約である旨が文言上明記されていない⇒無効
②前記合意が団体協約にあたらないとすると、これは同法により協同組合連合会が行い得る事業の範囲に含まれない⇒Xの権利能力を欠くもので無効。
③前記合意はYがXの傘下の仲買人と他の仲買人との不当に差別的な取扱いをするもの⇒公序良俗(独禁法等)に違反し無効
④Yによる前記合意の解除は有効。 
 
<判断>
Yの主張を退け、Xの請求を認容。 

主張①について、前記合意はYがXに対し交付金を支給するというもので、X傘下の組合員らの取引条件等を直接定めたものとは認められない⇒団体協約に当たらない。 

主張②について、Xが所属員の事業に関する共同事業を行えることや団体協約を締結できること⇒これらの附帯事業としてXの事業の範囲内に含まれる

主張③について、独禁法上差別的対価が違法となるのは、自己の競争者又は相手方に対し、不当な利益若しくは不利益を与え、又は不当な目的を実現させるために行われる場合⇒こうしたいとのない本件とは事案が異なる。

本件で問題となりうるのは、Xがも自らの地位を利用して自ら(の傘下の仲買人)を優遇するようYに強制すること(優越的地位の利用)。
but
本件においては、Yが対象商品のほぼ全てを供給していることなどに照らせば、Xの取引シェアを踏まえてもXが検討対象市場において優越的な地位にあるとは認め難く、独禁法上の問題は生じない
 
<控訴審>
前記合意は前記手数料が支払われる取引が続く限り当然に継続すると解される旨の判断⇒Yの控訴を棄却。
 
<解説>
独占禁止法は、公正かつ自由な競争の促進を目的として、事業者等に対し競争を制限、阻害する行為等を規制するもので、主に行政措置によりその実現を図るものであるが、私人間においても、独禁法に違反する契約又は契約解除が私法上無効であると主張することも可能(最高裁昭和52.6.20)。

判例時報2297

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年1月20日 (水)

◆驚くべき類似:税(クルーグマン、マクロ経済学)

◆驚くべき類似:税 
割当てを理解するためにここまで用いてきた分析は、ほとんど修正することなく、税の予備的な分析をするのにも用いることができる。

■なぜ税は割当てに似ているのか 
物品税は財やサービスの売上に課される税。

均衡価格は5ドルで1000万回。うち2ドルは税。
(同じ手取りを望むため)税額の分だけ供給曲線を上にシフトさせる。
⇒市場均衡は、1回の乗車の価格が5ドルで1000万回が提供・利用されるE点から、1回の乗車の均衡が6ドルで800万回が提供・利用される点Aへの移動。

乗車への2ドルの課税があるときの均衡は提供・利用される乗車数を800万回に減少させるが、それは2ドルの割当てレントを生じさせる、800万回の割当てを課したときの均衡と同じように見える。
割当てと同じように、税も需要価格と課税前の供給価格の間にウェッジを打ち込む。
唯一の違いは、運転手が2ドルのレントを許可証の所有者に支払うのではなく、2ドルの税を市に支払う。

物品税と割当てを完全に同じものにする方法:
市が、許可証を1回につき2ドルで販売~2ドルの許可証代金は、事実上2ドルの物品税となる。
市が特定の価格で許可証を販売する代わりに800万枚の許可証を発行してオークション⇒許可証の価格は2ドルとなる(もともと800万枚の供給は(需要より)2ドル低い4ドル)。

■誰が物品税を支払うのか 
これまで税を売り手が払うという前提
but
それを買い手が払うとしたら?

乗客が2ドルの税を支払う⇒課税前と課税後でタクシー乗車の需要量を同じにするには、乗客が支払う運賃は課税後の方が2ドル低くなくてはならない。
⇒需要曲線は税額の分だけ下にシフト⇒均衡点はEからBに移動し、Bでは市場価格は乗車1回当たり4ドルで、800万回が提供・利用される。
800万回の供給価格は4ドル、もともとの需要価格は6ドル。
but乗客は税金を含めて6ドルを支払っている。
どちらの場合も、買い手は実効価格6ドルを支払い、売り手は4ドルを受け取り、800万回の乗車が提供され、利用される。

税の帰着・・・本当に税を負担するのは誰か・・・は、政府に対して実際にお金を支払うのは誰かということ答えられる問題ではない。
ここでの例では、タクシー乗車に課される2ドルの税は、買い手(乗客)の支払い価格の1ドル増加と、売り手(運転手)の受け取る価格の1ドル減少に反映されている⇒税の帰着は売り手と買い手で半々。
but
供給曲線と需要曲線の形状に応じて、物品税の帰着は異なる分けられ方をする。

■物品税からの収入 
買い手と売り手の双方が物品税で損失を被るが、政府は収入を得る。
収入=2ドル×800万回の乗車=1600万ドル
物品税で集められた収入は、高さが供給曲線と需要曲線の間に税が打ち込んだウェッジで、幅は税が課されたときの売買量である四角形の面積に等しい。

■税の費用 
税は割当てと同じく、相互に利益のある取引が生じるのを妨げる。
乗客は6ドルを払うが、運転手は4ドルしか受け取らない。
税がなければ実現していた200万回の潜在的なタクシー乗車があって、それは実現すれば乗客と運転手の双方に便益をもたらすが、税のために実現されない。

税は、過剰負担あるいは死荷重という追加的な費用をもたらす。それは相互に利益のある取引を阻害するという非効率性。
悪く設計された税は、よく考えられた税よりも大きな死荷重を課す。

人々は税を逃れるために行動を変える。
ex.タクシーに乗る代わりに歩くことで、相互に利益を得る機会が失われる。
 
ニューヨーク州ではタバコ税は州レベルと地方レベルの両方で引き上げられ、1箱3ドルに。
butタバコを栽培するバージニア州では1箱2.5セント。
⇒タバコ栽培州からニューヨークのような税の高い地域への、大規模なタバコの違法取引。
 
■FICA(連邦保険寄与法)を支払うのは誰?
労働者から7.65%、雇用者も同額支払う。

自分の分担する額だけを支払うのではなく、雇用者が分担する額はすでに低い賃金に反映されているので、実質的に雇用者の分まで支払っていることになる。
雇用者は税金を支払ってはいるが、それは賃金の減少によって全額補償されている。
⇒雇用者ではなく、労働者が税の全額を負担している。


労働の供給(その仕事を進んでしようとする労働者の数)が労働の需要(雇用者が進んで提供しようとする仕事の数)よりも賃金率に対してはるかに感応的ではない。
労働者は賃金率の低下に対して相対的に非感応的⇒雇用者は税の負担を低い賃金を通じて簡単に労働者へ転嫁できる。

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年1月19日 (火)

数量統制(クルーグマン、マクロ経済学)

◆数量統制 

数量規制あるいは割当ては、ある財の購入可能量や販売可能量の上限
合法的に取引されうる財の数量の総計は割当て制限。
許可制は、その所有者に財を供給する権利を与える。
ex.
ニューヨークのタクシーの許認可システム(タクシーの大メダル)
ニューヨークでタクシー業を営みたいなら、大メダルを借りるか、あるいは現行価格の25万ドルでそれを買わなくてはいけない。

人々の外国為替の購入限度額
ニュージャージーの漁船のハマグリの漁獲限度量

■数量統制の構造 
全てのタクシー乗車は同一だと想定・・・あるタクシー乗車の区間は別の乗車区間よりも長く、そのためにより高額になるというような現実世界の複雑さを無視。

供給表と需要表⇒均衡は1回の乗車の運賃5ドルと1000万回の乗車回数。

ある所与の数量の需要価格とは、消費者がその数量を需要する価格のこと。
(1回の乗車運賃が5ドルのとき、人々は何回タクシーに乗りたいと思うか?
人々が年間1000万回タクシーに乗りたいと思うのは、1回の乗車運賃がいくらのときか?)

ある所与の数量の供給価格とは、生産者がその数量を供給する価格のこと。
(1回の乗車運賃が5ドルのとき、タクシー運転手は何回のh乗車を供給したいと思うか?
供給者が年間1000万回の乗車を供給したいと思うのは、1回の乗車運賃がいくらのときか?)

大メダルシステム⇒乗車回数年間800万回を提供。
自分でタクシーを運転してもよいり、料金をとってそれを他人に貸してもよい。
800万回の乗車の需要価格は6ドル。
800万回の乗車の供給価格は4ドル。

タクシー乗車の対価として支払われる価格が6ドルなのに、タクシー運転手が受け取る価格が4ドルになるのはどうして?
①タクシーの乗車の取引と価格
②大メダルの取引と価格
という2組の取引と価格を考慮する必要がある。

サニルは彼の大メダルをハリエットに1日貸すと仮定。
ハリエットは大メダルを持てば1回6ドル得られることを知っているが、彼女は少なくとも1回4ドルを得られるときのみ大メダルを借りたいと思う。
ハリエットはレントとして2ドルを提供する必要(1.5ドルだと、それより少し上で大メダルを借りようとする熱心な運転手がでてくる)。

数量統制や割当ては、財の需要価格と供給価格の間にウェッジ(くさび)を打ち込む。
買手が支払う価格>売り手が受け取る価格
割当て制限を課された数量の需要価格と供給価格の差が割当てレント
それは、許可証の保有者が財を売る権利を所有することから得られる収入で、割当てレントは、許可証が取引されるときの許可証の市場価格に等しい。

■数量統制の費用 
①失われた機会による非効率性の問題:
市場が自由市場の均衡数量である1000万回に達したときにのみ「失われた乗車機会」がなくなる。
800万回の割当て制限は200万回の「失われた乗車機会」の原因となる。

一般に、所与の数量での需要価格が供給価格を上回る限り、失われた機会が存在する
買い手は売り手が受け取ってもよいと思う価格を支払って財を買おうとするが、割当てで禁止されているので、そのような取引は起こらない。

②非合法活動へのインセンティブ
人々が行いたくとも許されていない取引⇒法律を潜り抜けたり、法律を破ろうとするインセンティブ。

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年1月16日 (土)

上限価格規制と下限価格規制(クルーグマン、マクロ経済学)

◆上限価格規制 

需要曲線と供給曲線⇒統制のない市場での均衡点Eでは、200万戸のアパートが付き1000ドルで賃貸。
政府が家賃を800ドルでの上限価格規制
800ドル⇒
供給は自由な市場に比べて20万戸少ない180万戸。
需要は自由な市場に比べて20万戸多い220万戸。
持続的な賃貸アパートの不足

■上限価格規制による非効率 
市場経済は、ほうっておけば通常は効率的(=他の人々の状態を悪化させることなく誰かの状態を良くすることができない状況)に働く。
価格統制が引き起こす他のすべての供給不足と同様、非効率性をもたらし深刻な害悪となり得る。
失われた機会があるとき、つまり他の人々の状態を悪化させることなくある人の状態を良くできるとき、市場あるいは経済は非効率

家賃統制⇒3つの非効率(①借家人への非効率なアパートの配分、②アパート探しに要する時間の浪費、③家主がアパートを非効率的に低い質や状態にしておく)

●消費者への非効率的な配分:
アパートの効率的な配分⇒本当にアパートを欲している人(=より高い価格を支払っても良いと思っている)がアパートを得て、そうでない人は見つけることができない。
but
家賃統制⇒人々は通常偶然や個人的コネのおかげでアパートを得る⇒数少ない利用可能なアパートの消費者への非効率的な配分。

上限価格規制はしばしば消費者への非効率な配分という非効率性をもたらす。これは、その財を非常に欲していて高い価格を支払う意欲のある人がそれを得られず、その財に比較的低い関心しかなく、低い価格を支払う意欲しかない人がそれを得る、というもの。

●資源の浪費: 
家賃統制⇒リー一家は何か月もの間をすべてアパート探しのために使う⇒失われた機会を作り出す。
アパートの市場が自由に機能⇒均衡家賃1000ドルですぐにアパートを見つけることができる。
一般的に、上限価格規制は資源の浪費という非効率性をもたらす。これは、上限規制で生じる供給不足に対処するため、お金と労力が費やされるというもの。

●非効率に低い品質: 
上限価格規制が非効率に低い品質という非効率性をもたらすことがよくある。
これは、たとえ買い手が高価格で高品質の財を好んだとしても、売り手は低価格で低品質の財を提供する。

●ブラック・マーケット: 
ブラック・マーケットは、財やサービスが非合法に売買される市場。
その財を売ること自体が非合法な場合もあるし、付けられた価格が上限価格規制で法的に禁じられている場合もある。
この場合、違法な行為が、正直たらんとしている人の立場をより悪くしてしまう

■価格統制がニューヨークで続いている理由。
①一部の人には便益をもたらす(=ごく少数の借家人は統制のない市場で同じ住居を得るときの価格に比べるとはるかに安く住居の提供を受けている。)
②買い手は統制がない場合に何が起きるかがわからない。
政府の役人が供給と需要の分析を理解しないことが多い

◆下限価格規制 
ex.最低賃金。
最低賃金が均衡賃金率の上にあるとき、働きたいと思う人々、すなわち売り手である労働者のなかに、買い手すなわち彼らに仕事を与えたいと思う雇用を見つけることができない人が出る

■下限価格規制による非効率 

●売り手間での販売機会の非効率的な配分:
下限価格規制は売り手間での販売機会の非効率な配分をもたらす。
つまり、最も低い価格で財を売ろうとしている人が、実際にそれを売る人になるとは限らない。

●資源の浪費: 
最低賃金の下で長期間にわたり職を探したり、職を得るための行列に並んだりする人々は、上限価格規制の下でアパートを探す不運な家族と同じような役割を演じている。

●非効率に高い品質: 
下限価格規制が、非効率的に高い品質という非効率性をもたらすことがよくある。

たとえ買い手が低価格で低品質の財を好んだとしても、売り手は高価格で高品質の財を提供

大西洋路線の航空運賃が国際協定により人為的に高く設定⇒航空会社は乗客に低い価格を提供して競争することを禁止された⇒ほとんど食べ残される無駄な機内食といった豪華なサービスを提供。
1970年代のアメリカ航空会社の規制緩和⇒小さな座席と低い食事といった機内サービスの質の低下を伴う航空券価格の大幅な下落⇒航空会社の利用者数は規制緩和以来、数百パーセントに増加。

●非合法活動: 
高い最低賃金⇒就業に絶望的な労働者は、雇用主との間で帳簿外の労働に同意するか、政府の検査官に賄賂を送る。

■なぜ下限価格規制があるのか 
下限価格規制を課す理由:
役人がモデルを理解していない
上限価格規制が影響力を持つ一部の買い手に便益をもたらすという理由で課されるように、下限価格規制はしばしば影響力を持つ一部の売り手に便益をもたらすという理由で課される
 
南ヨーロッパの「やみ市場」:
ヨーロッパの下限価格規制⇒高い失業率

スペインでは、国が報告する失業者の約3分の1はやみ労働市場にいると推計。
イタリアの労働規制は、15人以上の労働者を抱える企業のみに適用される⇒高い賃金と各種の給付の支払い義務を避けるため、小企業のままとどまっている⇒イタリアのいくつかの産業では、零細企業が驚くほど急激に増加。
イタリアで最も成功している産業の1つである毛織物の加工業はプラント地区に集中しているが、その地区の平均的な織物企業は4人しか労働者を雇っていない。

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)