刑事

2017年10月22日 (日)

薬事法2条14項に規定する指定薬物を所持する罪の故意の有無(肯定事例)

福岡高裁H28.6.24      
 
<事案>
薬事法(平成25年法律第84号による改正前のもの)2条14号に規定する私的薬物所持の事案。 
被告人は、所持していた指定薬物含有の植物片(「本件薬物」)について、危険ドラッグであったとの認識はあるが、公然販売していた販売店の店員から合法だと告げられて、そう信じており、指定薬物であることの認識はなかったとして、故意が争われた
 
<判断>
被告人は、①本件植物片がいわゆる危険ドラッグであることを前提に購入所持していた上、②危険ドラッグの危険性や取締りの強化は十分承知している
指定薬物として取締りの対象に入る可能性を認識していた。
 
<解説>
●判例:
故意の成立に必要な事実の認識の範囲は、当該構成要件の該当事実そのものであり、
その一部である違法性の意識を喚起しうる範囲の事実を認識していることは故意の成立を認める証拠に止まる

構成要件に該当する自然的事実を認識しているだけでは足りず構成要件に該当するとの判断を下しうる社会的意味の認識が必要
but
判例は、行政取締り法規違反の罪について、必ずしも統一的には理解できない判断を示しているといわれている。

法規の制定によって禁止される対象が決まり、構成要件該当の事実認識だけでは、一般人には行為の違法性を知り得ない場合が多い(前田)。

判例の立場について:
違法性を喚起しうる一部の事実を認識していたことと行為当時の状況をあわせて考慮すると、少なくとも未必的、概括的には構成要件該当事実を認識していたと認定できる場合⇒その錯誤は法律の錯誤
自然的な意味での事実の認識は存在していたものの、それが構成要件事実に当たるという意味の認識を妨げる特異な事情が介在していたため、故意の成立に必要な程度に事実の認識があったとは判断できない⇒事実の錯誤
 
●本判決:
規制対象となりうる薬物である旨の実質的違法性の認識があり、
指定薬物が含有されていないと信じた合理的な理由がない場合には、
指定薬物の故意に欠けるところはない。 

本件にあっては、
一般人の目からみると、
当該薬物が規制されるに足りる薬理作用を有するいわゆる危険ドラッグ、あるいは、幻覚等の作用を有する有害な薬物であるという認識はあった。

当該薬物を所持することが犯罪に該当すると判断できる社会的な意味の認識、換言すれば、一般人の目からみた「しろうと的認識」(平野)に従って、犯罪事実の認識に欠けるところはない
but
そのような認識を有していたとしても、責任ある公的な立場の者あるいは薬物に関する専門家から、根拠を示すなどして、当該薬物が指定薬物ではないというような説明を受けたなどの状況があれば、故意に必要な事実認識は否定されるものと解される。

判例時報2340

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2017年10月21日 (土)

けんか闘争、自招侵害等の観点と正当防衛の成立(肯定事例)

さいたま地裁H29.1.11      
 
<事案>
被告人は、犬を連れて散歩していた際、以前から被告人を見かけては怒鳴ったり警察に通報したりしていたBが自転車に乗って近付き、自転車に跨ったまま被告人の前に立ち塞がった
⇒どいて欲しいと告げたがBが応じない⇒Bをどかせるためその自転車前輪を2、3回、さほど強くない力で蹴った(自転車の足蹴り行為)⇒突然、Bは、被告人の顔面を手拳で殴打し、その後も何度か殴りかかってきた(Bによる殴打行為)⇒被告人は両手でガードしたり、Bに向かって足を前に出したりした(Bに対する足蹴り行為)⇒その後もBによる殴打行為が止まなかった⇒被告人が右手を突き出したところその顔面に当たり(本件暴行)、Bを転倒させて加療約6か月間を要する急性硬膜下血腫、脳挫傷等の傷害を負わせた。 
 
<争点>
本件暴行について、
①けんか闘争の一環として行われたものといえるか
②被告人が自ら招いた侵害(自招侵害)に対して行われたものとして、反撃行為に出ることが正当とされない状況にあったといえるか 
 
<判断>
●けんか闘争について 
①自転車の足蹴り行為は被害者の進路を妨害しようとするBにどいてもらうための牽制・威嚇の趣旨
②その後のBに対する足蹴り行為についても、あくまでBによる殴打行為に対して被告人が防戦して自己の身体を防衛するという状況にとどまる

本件暴行は、けんか闘争の一環の行為であるとはいえない
 
●自招侵害の点について 
被告人が自転車の足蹴り行為に至ったのは、Bの挑発的・誘発的行為も相応の原因になっており、被告人ばかりが大きく責められるべきではない
その後のBによる殴打行為は自転車の足蹴り行為に比べて量的にも質的にも上回っている

一般の社会通念に照らし、Bによる殴打行為が被告人による自転車の足蹴り行為に触発された一連、一体の事態としてなされたとしても、これに対して被告人が反撃に出ることが正当とされ得ない状況にまでは至っていない


本件暴行は、けんか闘争、自招侵害のいずれの観点からみても、正当防衛状況(急迫不正の侵害)の下における行為と認められるとして、正当防衛の成立を認め、無罪。 
 
<解説>
●けんか闘争について
最高裁昭和23.7.7も、闘争の過程を全般的に観察した結果、正当防衛の観念を入れる余地があるない場合があると説示
⇒けんか闘争と認定されれば正当防衛が成立しないと判示しているわけではない。(最高裁昭和32.1.22)

けんか闘争か否かで正当防衛の成否が直ちに決まる訳ではなく、結局は、「闘争」を全般的に検討する必要があり、けんか闘争を独立の争点とした争点整理には議論の余地。 
 
●自招侵害について 
最高裁H20.5.20:
傷害被告事件について、
相手方から攻撃されるに先立って暴行を加えていた被告人について、
相手方の攻撃は①被告人の暴行に触発された、②その直後における近接した場所での一連一体の事態ということができ、被告人は不正の行為により自ら侵害を招いたものといえる

相手方の攻撃が被告人の暴行の程度を大きく超えるものではないなどの本件の事実関係の下においては、被告人の本件傷害行為は、被告人において何らかの反撃行為に出ることが正当とされる状況における行為とはいえない

正当防衛を否定。

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侵害を予期した上で対抗措置に及んだ場合と正当防衛の「急迫性」

最高裁H29.4.26      
 
<事案>
被告人(当時46歳)が
①被害者(当時40歳)と何度も電話で口論
被害者からマンションの下に来ていると電話で呼び出され、刃体の長さ約13.8㎝の包丁を持って自宅マンション前路上に行き、ハンマーで攻撃してきた被害者の左側胸部を、殺意をもって包丁で1回突き刺して殺害 したという殺人の事案と
②コンビニのレジスターのタッチパネルを拳骨でたたき割ったという器物損壊の事案において、
①の殺人に関する正当防衛及び過剰防衛の主張に関し、刑法36条の「急迫性」の判断方法について職権判示したもの。
 
<規定>
刑法 第36条(正当防衛)
急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
2 防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
 
<一審・原審>
刑法36条の「急迫性」の要件に関し、
単に予期された侵害を避けなかったというにとどまらず、その機会を利用し積極的に相手に対して加害行為をする意思で侵害に臨んだときは、もはや侵害の急迫性の要件を充たさないものと解するのが相当である。」(最高裁昭和52.7.21)
が示した積極的加害意思論
⇒正当防衛及び過剰防衛の成立を否定。
 
<判断>
●刑法36条は、急迫不正の侵害という緊急状況の下で公的機関による法的保護を求めることが期待できないときに、侵害を排除するための私人による対抗行為を例外的に許容したもの。

行為者が侵害を予期した上で対抗行為に及んだ場合侵害の急迫性の要件については、侵害を予期していたことから、ただちにこれが失われると解すべきではなく対抗行為に先行する事情を含めた行為全般の状況に照らして検討すべき。

具体的には、事情に応じ、行為者と相手方との従前の関係、予期された侵害の内容、侵害の予期の程度、侵害回避の容易性、侵害場所に出向く必要性、侵害場所にとどまる相当性、対抗行為の準備の状況(特に、凶器の準備の有無や準備した凶器の性状等)、実際の侵害行為の内容と予期された侵害との異同、行為者が侵害に臨んだ状況及びその際の意思内容等を考慮し、
行為者がその機会を利用し積極的に相手方に対して加害行為をする意思で侵害に臨んだときなど、
前記のような刑法36条の趣旨に照らし許容されるものとはいえない場合には、侵害の急迫性の要件を充たさないものというべき。

●被告人は、
①Aの呼出しに応じて現場に赴けば、Aから凶器を用いるなどした暴行を加えられることを十分予期していながら、
②Aの呼出しに応じる必要がなく、自宅にとどまって警察の援助を受けることが容易であったにもかかわらず、
包丁を準備した上、Aの待つ場所に出向き
④Aがハンマーで攻撃してくるや、包丁を示すなどの威嚇的行動をとることもしないままAに近づき、Aの左側胸部を強く刺突したもの。 
このような先行事情を含めた本件行為全般の状況
⇒被告人の本件行為は、刑法36条の趣旨に照らし許容されるものとは認められず、侵害の急迫性の要件を充たさない

本件につき正当防衛及び過剰防衛の成立を否定した第一審判決を是認した原判断は正当。

判例時報2340

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2017年10月14日 (土)

特殊詐欺事件の受け子と詐欺の未必的故意(肯定)

福岡高裁H28.12.20    
 
<事案>
被告人が氏名不詳者を含む複数の者と共謀して、高齢者を電話で騙し、指定するアパートの一室に現金を送らせようとしたが、不審に感じた被害者が警察に通報したため未遂に終わった。
~現金送付型の特殊詐欺事案。

被告人は「受け子」で、被害者を騙す行為が終了した後に犯行に加わったと認定。
 
<主張>
荷物(書類)の受領という適法行為を頼まれただけで、故意がない。 
 
<原審>
特異な状況における荷物の受領(共犯者の後輩なる面識のない者の自宅に、夜間、夕食もとらずに1人で待機し、他人宛ての荷物を受領するというもの)⇒被告人は荷物の中味が何らかの違法な行為に関わる物である可能性を当初から認識していたとして、「何らかの違法な行為に関わるという認識」はあった。
but
「詐欺に関与するものかもしれないとの認識」までは認められない。
⇒未必的故意も否定し、無罪。 
 
<主張>
「騙されたふり作戦」(騙されていることに気付いた、あるいはそれを疑った被害者側が捜査機関と協力の上、引き続き犯人側の要求どおり行動しているふりをして、受領行為等の現場に警察官が臨場)、かつ、騙されているのに被害者が気付く前に被告人と他の共犯者らとの共謀が成立したとは認定できない
⇒被告人については詐欺の実行行為を認定できない。 
 
<判断・解説> 
●詐欺の故意
本件のように特異な状況において荷物を受領する場合、そのような行為態様から通常想定される違法行為の類型には、本件のような特殊詐欺が当然に含まれる

受領行為につき「何らかの違法な行為に関わるという認識」さえあれば、特段の事情がない限り、本件のような特殊詐欺につき規範に直面するのに必要十分な事実の認識があったとものと解され、同行為が「詐欺に関与するものかもしれないとの認識」があったと評価するのが社会通念に適い相当。

特異な状況における受領行為であること自体「詐欺に関与するものかもしれないとの認識」を基礎づける重要な事実であるとしている。 

覚せい剤の密輸入等につき、「覚せい剤を含む身体に有害で違法な薬物類であるとの認識があったというのであるから、覚せい剤かもしれないし、その他の身体に有害で違法な薬物かも知れないとの認識はあった」として故意を認めた最高裁H2.2.9.
but
「身体に有害で違法な薬物類」に覚せい剤が含まれることには異論がないのに対し、特異な状況における受領行為であることから特殊詐欺の認識を導き出すには、本判決も言及するような「社会通念」を介在させる必要がある。

また、仮に、荷物の中身につき違法薬物やけん銃等の法禁物であると認識しており、詐欺に係る現金であるとは思わなかった旨主張された場合の処理も問題。

福岡高裁宮崎支部H28.11.10:

1か月間に約20回、異なるマンションの空室で、異なる名前を使い他人になりすまして荷物を受け取っていた被告人につき、
①犯行時、報道等により、「空室利用送付型詐欺」が社会に周知され浸透し社会常識となっていたとはいえない旨の認定を重視、
②違法薬物かけん銃等の法禁物であると思っていたとの弁解を排斥する根拠もない

同未遂につき有罪とした原判決を破棄。
 
●「騙されたふり作戦」の実施について
①詐欺の承継的共同正犯を肯定することを暗黙の前提として、交付された財物を受領する行為もまた詐欺の実行行為
②本件受領行為の実行行為性(危険性)の有無につき、不能犯における判断手法を用い、その中でもいわゆる具体的危険説に立ち、
これを肯定。

名古屋高裁H28.9.21:
単独犯で結果発生が当初から不可能な場合という典型的な不能犯の場合と、結果発生が後発的に不可能となった場合の、不可能になった後に共犯関係に入った者の犯罪の成否は、結果に対する因果性といった問題を考慮しても、基本的に同じ問題状況にあり、全く別に考えるのは不当である。

本判決:
不能犯の判断の際に仮定される「一般通常人」につき、「当該行為の時点で、その場に置かれた一般通常人」であるとして、行為者の立場に置かれた者とすべきである旨明示

判例時報2338

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2017年10月 5日 (木)

尼崎連続不審死事件地裁判決

神戸地裁H27.11.13      
 
<事案>
被告人は、首謀者(女性)の義理のいとこであるが、首謀者Aを中心とする共同体(A一家)の一員として、Aら共犯者と共謀の上、
①Aの義妹Bの戸籍上の夫V1に対する保険金目的の殺人とその保険金の詐欺(第1)
②Aらの虐待に耐えかねて行方をくらましていたV4に対する生命身体加害略取、傷害致死(第2)
③Aらの虐待に耐えかねて行方をくらましていたV4の長女V2に対する監禁、殺人と、Aの怒りを買ったA一家の家政婦的存在であったV3に対する監禁(第3)
④A一家が財産目的で介入していた家族から預かっていた女児の胸を触ったとしてAの怒りを買ったV5に対する逮捕監禁、殺人、死体遺棄(第4)
により起訴。 
 
<争点>
①第1について、他人に自殺するよう働き掛けた場合に殺人(未遂)罪が成立するか、仮に成立するとして、被告人に殺意及び共謀が認められるか
②第2について、被告人が傷害致死の実行行為を行ったのを見たという目撃者の証言の信用性
③第3、第4について、いずれも、被害者に対する行為を殺人罪の実行行為と評価することができるか、仮にできるとして、被告人に殺意及び共謀が認められるか
 
<判断>   
いずれの点についても肯定し、被告人に殺意及び共謀が認められるとした。
 
●第1について 
自殺関与罪(自殺教唆罪)なのか、被害者を利用した殺人(未遂)なのかについて、
他人の意思決定の自由を完全に失わせるに至らない場合であっても、単なる働き掛けの域を超え、暴行や脅迫、偽計等を用いて他人を自殺する以外の行為を選択することができない精神状態に陥らせた結果、その者が自殺行為に及んだ場合は、刑法199条(203条)の構成要件に該当。
被害者が崖から飛び降りて死ぬに至った経緯について詳細に検討⇒自殺する以外に選択することができない精神状態に陥らせた
 
●第2について 
①目撃証言が、捜査機関の求めに応じて被害者の頭部CT写真や診療録等の分析を求められた頭部外傷の専門家である医師の証言に裏付けられている
被告人の犯行を捜査機関に告白した経緯・状況に作為性が感じられず、被告人を陥れようとする意図がうかがわれない
証言の信用性を補強する別人(C)の証言がある

その信用性を肯定。
 
●第3、第4について、 
第3の犯行:
7月頃から被害者をベランダに置いた簡易物置の中に閉じ込める中、数か月間にわたって継続的に監禁、暴行、飲食睡眠の制限、排泄・入浴制限による不衛生等の数々の虐待を加えたことにより11月中旬頃の時点で、監禁下で虐待を継続する行為は、客観的にみて、被害者の生命を大きな危険にさらす行為
殺人罪の実行行為に該当する。

第4の犯行:
7月に前記物置に入れた被害者をビニールひもや手錠等を用いて緊縛した上で殴る蹴るなどの暴行を加え、2日以上正座を強制して飲食を制限した場合も、客観的にみて、被害者の生命を大きな危険にさらす行為
殺人罪の実行行為に該当する

被告人が、これらについて、被害者が死亡する危険性があるとは思わなかったと供述

単に他人の生死に無頓着になっていたために、自分の行為の違法性について意識を喚起できなかっただけであって、このような合理的根拠に基づかない憶測をもって殺意を否定することなどできない
 
●量刑について:
検察官は無期懲役刑の求刑。

判決:
一連の犯行によって3人が殺害され、1人が死亡させられるという極めて重大な結果。
被告人は、いずれの犯行においても、主犯であるAに匹敵するほどの重要な役割を積極的に果たした。
⇒死刑を選択する余地も含めて検討すべき。

①被告人がAに比べて従たる役割であったことは否定できない
②被告人をAと全く同列には論じられない
⇒結論的には、死刑の選択には躊躇せざるを得ないとして、求刑通り無期懲役刑。 

判例時報2337

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2017年10月 3日 (火)

千葉県青少年健全育成条例30条の規定の趣旨と保護処分可能性

東京高裁H28.6.22      
 
<事案>
少年(当時17歳)を含む5名の男子少年が、被害女性が当時18歳に満たないものであることを知りながら、同女にいわゆる野球拳を行った後、順次性的行為を行い、もって、青少年に対して、単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められない性行為をした。 
 
<原決定>
少年の行為が、千葉県青少年健全育成条例20条1項(みだらな性行為等の禁止)に当たる⇒同項違反の非行事実を認定し、少年に対し、第1種少年院に送致する旨の決定。 
 
<抗告>
①本条例の解釈を誤った法令違反
②重大な事実の誤認
③処分の著しい不当 
 
<問題>
本条例30条本文は、「この条例に違反した者が青少年(=小学校就学の始期から18歳に達するまでの者をいう、本条例6条1号)であるときは、この条例の罰則は、青少年に対しては適用しない。」と規定。 
家庭裁判所で保護処分の決定をする場合の「罪を犯した少年(少年法3条1項1号)」については、刑の減免自由、処罰阻却事由がある場合でも、犯罪が成立している以上、犯罪少年として審判に付することができると解されている。

本条例30条本文が、構成要件該当性や違法性を阻却する趣旨ではなく、単に処罰阻却の趣旨であれば、本条例20条1項違反の行為を行った少年に対し、同事実を非行事実として保護処分の決定をすることができる。
 
<判断>
本条例20条1項違反の行為を非行事実とする保護処分を認めた原決定を是認。

(性行為やわいせつんは行為が未成熟な青少年に与える影響の大きさ⇒このような行為から青少年を保護するという本条例20条の目的は、行為者が青少年か否かで異なるものではなく、同条が「何人も」と規定しているのはその表れ
本条例30条本文は、青少年の行為については、処罰を免除するということを規定したものであり、少年の保護、教育を目的とする保護処分に付することは可能。) 

判例時報2337

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2017年9月21日 (木)

暴力団幹部の土地取得のための所有権移転登記等の申請が、電磁的公正証書原本不実記録罪に該当しないとされた事例

最高裁H28.12.5    
 
<事案>
被告人が、暴力団幹部及び不動産仲介業者と共謀の上、茨木県内の土地5筆(「本件各土地」)について、真実の買主はその暴力団幹部であるのにこれを隠すため、被告人が代表取締役を務める会社を買主として売主との間で売買契約を締結した上、登記官に対し、その会社を買主とする虚偽の登記申請をして、登記簿(磁気ディスク)に不実の記録をさせ、これを備え付けさせて供用したことが、電磁的公正証書原本不実記録罪(刑法157条1項)及び同供用罪(同法158条1項)に当たるなどとして罪責を問われた事案。
 
<原審>
被告人とB(暴力団員)との間の合意を重視し、この売買は買受名義人を偽装したものと見て、土地の所有権が売主らからBに移転したものと認定。 
 
<判断>
売買契約の締結に際し当該暴力団員のためにする旨の顕名が一切なく、売主らが買主はA社であると認識していたことなど
土地の所有権は売主からA社に移転したものと認定し、本件各登記が不実とはいえない
公訴事実第1及び第2については無罪
 
<解説> 
●不実記録罪等の保護法益は、公正証書の原本として用いられる電磁的記録に対する公共的信用。 
刑法第17章の全体につき、文書に対する公共的信用性を保護法益とする。

最高裁昭和51.4.30:公文書偽造罪について、公文書に対する公共的信用を保護法益とする旨判示。
不動産登記制度は、不動産に係る物権変動を公示することにより不動産取引の安全と円滑に資するためのもの。

不実記録罪等の成否に関し、当該登記が不実の記録に当たるか否か等については、原則として当該登記が当該不動産に係る民事実体法上の物権変動の過程を忠実に反映しているか否かという観点から判断すべきものと解され、本判決も判断の前提としてこの点を確認。

本判決「登記実務上許容されている例外的な場合を除く」旨述べるが、その例としては、判決により中間省略登記が命ぜられた場合が挙げられる。

わが国の民法は顕名主義を採用しているところ(99条1項)、本件では被告人によってA社のためにする明らかな顕名がされており、契約の相手方である売主らもそのとおり認識⇒原審の判断は、民事実体法の観点からの事実認定として不適切
 
●暴力団排除条例⇒反社会的勢力が不動産取引の当事者となることが困難になっている。
本件条例では、不動産を譲渡しようとする者等に対し、契約締結前に当該不動産を暴力団事務所の用に供するものではないことを確認することについての努力義務を課し、暴力団事務所の用に供されることを知って当該不動産の譲渡等をすることを禁止するなどの規制。

行為者において売主との関係で詐欺の実行行為と評価される挙動が認められるケースでは、詐欺罪の共犯が成立する余地もある。

判例時報2336

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2017年9月 7日 (木)

実在の児童とCGで描かれた児童との同一性の判断(児童ポルノ法)

東京地裁H28.3.15      
 
<事案>
被告人が、
(1)衣服の全部又は一部を着けない実在する児童の姿態が撮影された画像データを素材として描写したコンピュータグラフィクス(CG)の画像データ16点を含むCG集をパーソナルコンピュータのハードディスク内に記憶、蔵置させ、もって児童ポルノを製造し、
(2)本件CG集1及び前記同様のCGの画像データ18点を含むCG集を、インターネット通信販売サイトを通じて、不特定の者3名にダウンロードさせ、もって不特定又は多数の者に児童ポルノを提供したとして、
平成26年法律第79号による改正前の児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(「児童ポルノ法」)違反の罪に問われた事案。
 
<争点>
①本件16点を含む本件CG集1の画像データが記録されたハードディスクが児童ポルノ法2条3項の「電磁的記録に係る記録媒体」として児童ポルノに当たり得るか、また、本件CGの画像データが同法7条4項後段の「電磁的記録」に当たり得るか(「本争点」)
②本件CGと検察官がその基ととなったと主張する写真とが同一であるか
③本件CGの女性が実在したか
④本件CGの女性が18歳未満か
⑤児童ポルノの製造又は提供の罪が成立するためには、本件CGの基となった写真の被写体の女性が製造又は提供の時点及び児童ポルノ法の施行時点において18歳未満でなければならないか

 
<弁護人>
本争点(争点①)について、機械的な複写の場合を除いては、 実在の児童を被写体として直接描写するものでない限り、児童ポルノ法2条3項にいう「児童ポルノ」あるいは同法7条4項後段の「電磁的記録」に該当せず、前記のようなものではないCGについてはこれに当たらない。
 
<判断>
児童ポルノ法の目的や児童ポルノ法7条の趣旨

同法2条3項各号のいずれかに掲げられる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したと認められる物については、CGの画像データに係る記録媒体であっても同法2条3項にいう「児童ポルノ」に当たり得、また、同画像データは同法7条4項後段の「電磁記録」に当たり得る

児童ポルノ法の目的や同法7条の趣旨

同法2条3項柱書及び同法7条の「児童の姿態」とは実在の児童の姿態をいい実在しない児童の姿態は含まないものと解すべき。

CGであっても、同法2条3項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したと認められる物であり、かつ、そこに描写された姿態が実在の児童の姿態であると認められる場合については、児童ポルノ法の規制対象となり得る

CGに描かれた児童と実在の児童とが同一である判断する際の基準およびその際に考慮すべき要素について、「被写体の全体的な構図、CGの作成経緯や動機、作成方法等を踏まえつつ、特に、被写体の顔立ちや、性器等(性器、肛門又は乳首)、胸部又は臀部といった児童の権利擁護の観点からしても重要な部位において、当該CGに記録された姿態が、一般人からみて、架空の児童の姿態ではなく、実在の児童とCGで描かれた児童とが同一である(同一性を有する)と判断でき、そのような意味で同一と判断できるCGの画像データに係る記録媒体については、同法2条3項にいう「児童ポルノ」あるいは同法7条4項後段の「電磁的記録」として処罰の対象となると解すべき」
 
<解説>
●児童ポルノ法は、2条3項において「児童ポルノ」の定義を規定。
そこにいう「児童」が実在する児童である必要があるかについては、一般に肯定(大阪高裁H12.10.24)。
絵であっても、実在する児童の姿態を描写⇒児童ポルノに該当

当該事案で、実在の児童を描写した「児童ポルノ」といえるか否かについて、実在する児童について、その身体の大部分が描写されいている写真を想定すると、そこに描写された児童の姿態は「実在する児童の姿態」に該当し、そこで、その写真に描写されていない部分に他人の姿態を付けて合成すれば、児童ポルノに当たる場合がある(文献)。
 
●控訴審:
児童ポルノ提供罪についての罪数判断において、本件CG集1の提供行為と本件CG集2の提供行為とは、併合罪関係に立つとみるのが相当。
本件CG集2の提供行為の点について無罪を言い渡した。
本件CG集1のうち有罪認定したCG3点に係る児童ポルノの製造、提供の各行為については、児童の具体的な権利侵害は想定されず、違法性の高い悪質な行為とみることはできない⇒罰金刑

判例時報2335

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2017年9月 5日 (火)

予備的訴因追加を許可した原審の訴訟手続に法令違反はないが、認定において過失が否定され無罪された事例

高松高裁H28.7.21      
 
<事案>
被告人運転の普通乗用自動車が民家のブロック塀に衝突し、同乗していた夫が死亡。 

検察官:
起訴状において、被告人が、
「ブレーキペダルと間違えて不用意にアクセルペダルを踏み込んだ過失」と主張

原審弁護人及び被告人:
約750メートル手前から被告人車両のフットブレーキが利かなくなったため衝突に至ったとして過失を争った。

原審検察官は、起訴から約2年後の原審最終時に、
「自車の制動機能が悪化してブレーキペダルを踏み込んでも制動効果が得られない状態にあったから、サイドブレーキを掛けるなどして自車を停止させて運転を中止すべき注意義務に反して運転を継続した過失」とする予備的訴因の追加を請求。

原審弁護人は損変更の不許可を求めたが、原審裁判所はこれを許可し、追加訴因に関して被告人質問を行った後、直ちに結審。
 
<原審>
被告人車両にペーパーロック現象(ブレーキディスク等が高温となってブレーキ液が沸騰して気泡が発生し、それがブレーキパイプ等に入ることで、ブレーキの制動圧力が伝わらなくなる現象)が生じていた可能性は排除できない⇒フットブレーキが利かなくなったという被告人供述を排斥することができない⇒本位的訴因の過失を否定。 

適切にサイドブレーキをかけるなどの対処法をとっていれば、衝突地点までに停止させることは可能であった⇒予備的訴因の過失を認め、有罪
 
<判断>
●訴訟手続きの法令違反 
本件予備的訴因の追加請求は、起訴から2年後の原審の弁論終結直前になされたものであり、予備的訴因に係る争点は従前の攻撃防御の成果を利用できないもの。
but
①審理が長期化した点はやむを得ない面があった
②予備的訴因の内容自体は予想されたものであった
③検察官が新たな立証を求めず、審理の長期化を招いていない

同追加請求が著しく時機に後れ、また検察官の訴訟上の権利の濫用に当たる違法なものであるとはいえないとして、これを許可した原審の訴訟手続は違法ではない
 
●事実誤認の論旨
サイドブレーキを掛ける操作操作によって停止し得たかについて十分な証明がない、
フットブレーキが利かなくなった状態で、そのような操作を義務付けることができるかについても証明がない
③「サイドブレーキを掛けるなどして」と認定しているが、サイドブレーキ以外の具体的な方法は示されていない

予備的訴因の過失を認めた原判決には事実誤認がある

原判決の認定:
フットブレーキが利かなくなった場合には、サイドブレーキなどで制動を試みるべきであるという常識的な判断と、予備的訴因の追加前に証言した検察権請求の専門家証人が、サイドブレーキを引くことによって停止させると証言したことに基づくもの。

サイドブレーキによるによる制動機能の程度常識レベルで判断できることではなく、同証人の停止可能であるという証言も、フットブレーキに異常はなかったという証言に加えて、簡単に答えたものにすぎず、証拠価値が吟味されていない
②同証人は、サイドブレーキをぎゅっと引くとスピンをする可能性があるので、余裕があれば、少しずつ引くのがよいと証言しているが、それによれば、単純に、自損事故の危険を冒しても、一挙にサイドブレーキを掛けるべきであるという注意義務を課すことはできないし、被告人の供述等に照らせば、少しずつ引くような余裕のある状況であったかについても疑問がある。

原判決の認定は論理則、経験則等に反するものである。

本判決は、フットブレーキが突然利かなくなったという緊急事態において、一般の自動車運転者にどの程度の結果回避義務を課すことができるのかについても、検討すべき課題がある。

本位的訴因についての原判断を支持。

いずれについても犯罪の証明がないとし、無罪。

●最後に差戻しの要否を検討し、
①原審検察官は、予備的訴因の追加後に何らの証拠調べも請求しておらず、
②予備的訴因の追加及び立証について十分に検討する機会があった

更に被告人に手続的な負担を負わせて、証拠調べをする必要はないとして、無罪の自判をしている。 
 
<解説>
●第一審又は控訴審における訴因変更請求が当該審級において訴訟上の権利の濫用等の理由で不許可とされた事例や、第1審における不許可を是認した事例はあるが、原審における訴因変更の許可を違法とした高裁及び最高裁判例は見当たらない。 

訴因変更の請求については、公訴事実の同一性がある限り許可すべき(刑訴法312条1項)とされており、被告人の防御に実質的な不利益を生ずる虞がある場合は、必要な期間公判手続を停止することとされている(同条4項)。

第一審裁判所における訴因変更の許可が訴訟手続の法令違反とされる場合は相当に限られる

●本件のように、単純一罪の事実に関する本位的・予備的訴因について攻防対象論が問題となった事案につき、最高裁H1.5.1は、同一の被害者に対する同一の交通事故に係る業務上過失傷害事件で本位的訴因と予備的訴因が構成された場合において、予備的訴因を認定した第一審判決に対し被告人のみが控訴したからといって、検察官が本位的訴因の訴訟追行を断念して、本位的訴因が当事者間の攻撃防御の対象から外れたとみる余地はない。

最高裁H25.3.5
本位的訴因とされた賭博開帳図利の共同正犯は認定できないが、予備的訴因とされた同幇助犯は認定できるとした第一審判決に対し、検察官が控訴の申立てをしなかった場合に、控訴審が職権により本位的訴因について調査を加えて有罪の自判をすることは、職権の発動として許される限度を超え、違法である。

最高裁調査官解説:
最高裁25年決定は、第一審判決に対して検察官が控訴の申立てをしなかった時点で、「検察官が本位的訴因の訴訟追行を断念したとみるべきかどうか」という観点から本位的訴因が当事者間の攻撃防御の対象から外れるかどうかを判断しているようにうかがえる。
平成元年については、過失の態様についての証拠関係上、本位的訴因と予備的訴因が構成され、訴因構成に当たって検察官の訴追裁量が働く場面ではないから、検察官が控訴しなかったとしても、本位的訴因の訴訟追行を断念したとみつことはできないと分析。

大阪高裁H16.10.15:
窃盗の本位的訴因を認めず、盗品等保管の予備的訴因を認めた第一審判決に対し、被告人のみが控訴した事案において、予備的訴因の認定を事実誤認として原判決を破棄した上、自判するに当たり本位的訴因も判断の対象となるとして、同訴因により有罪としている。

判例時報2335

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2017年8月26日 (土)

乳幼児に対するいわゆる虐待死の事案(無罪事案と保護責任者遺棄致死罪否定事案)

大阪地裁H28.2.26(①事件)
大阪地裁H28.1.28(②事件)   
 
<事案>
乳幼児に対するいわゆる虐待死の事件

積極的に暴行を加える⇒傷害致死
殺意あり⇒殺人
養育の放棄⇒保護責任者遺棄致死や重過失致死

客観的な証拠や目撃者等が少なく、事実認定上難しい問題を抱えている。
 
<①事件> 
【事案】
被告人(男性)が実子(被害児。生後2か月。)に対し、頭部に強い衝撃を与える何らかの暴行を加えて死亡させたとして起訴された、傷害致死被告事件の裁判員裁判で、被告人にのみ波高可能性のある時間帯以前に、既に死因となった脳損傷が生じていた可能性が否定できないなどとして、無罪が言い渡された事例
 
【判断】
何らかの外圧(頭部への複数回の打撲ないし圧迫やゆさぶりなどの故意の暴行が想定される)が加わって被害児の死因となった外傷性急性くも膜下出血・脳腫脹(本件脳損傷)が生じたことはおおむね明らかで、受傷時期が25日午前8時頃以降と認められるのであれば、その間、被害児と2人きりでいた被告人がその外圧を加えたと推認されることになり(10時31分に、被告人が119番通報)、受傷時期がそれ以前であれば、この推認は成り立たないことになるという、証拠関係。 

法医学を専門とする医師2名の各所見に加え、被害児の頭部CT画像で本件脳損傷を確認した脳神経外科の専門医2名の各所見

被害児が受傷した時間帯は、25日午前8時以降であると医学的には断定できず、かえって、その時間帯より以前に受傷していたと考える方がより整合的。

死亡前日の被害児の様子や被告人以外の者の暴行による受傷の可能性等についても検討

前日の夜中の時点で既に本件脳損傷に至る受傷をしていた可能性が排除できないし、また、あくまでも可能性の問題ではあるが、被害児の実母にも暴行を加える機会があったといえ、被告人以外の者による暴行の可能性を排除することはできない
 
【解説】
外に可能性がないから被告人の犯行であるとの、いわば消去法的な事実認定にならざるを得ない⇒種々の問題。 
 
<②事件>
【事案】
難病である先天性ミオパチーに罹患した3歳の女児が低栄養により死亡した事案について、女児と養子縁組をして同居し、女児をその実母であると妻とともに監護すべき立場にあった養父である被告人に、
主位的訴因である保護責任者遺棄致死罪の成立を認めず、
予備的訴因である重過失致死罪の成立を認め、
執行猶予付きの禁固刑(禁固1年6月、3年間執行猶予)を言い渡した裁判員裁判の事例。 
 
<訴因>
保護責任者遺棄致死罪の主位的訴因の要旨:
被告人は、
妻の実子である女児(被害者)と養子縁組をして同居し、
妻と共に被害者を監護すべき立場にあったものであるが、
妻と共謀の上、
平成26年4月頃から6月中旬頃までの間、
幼年者であり、かつ先天的ミオパチーにより発育が遅れていた被害者に十分な栄養を与えるとともに、適切な医療措置を受けさせるなどして生存に必要な保護をする責任があったにもかかわらず、
被害者に対して十分な栄養を与えることも、適切な医療措置を受けさせるなどのこともせず、
もってその生存に必要な保護をせず、
よって同年6月15日、被害者を低栄養に基づく衰弱により死亡させた。 
 
<争点>
①被害者の死因
②被害者が保護を要する状態にあったか否か
③これに対する被告人の認識・認容の有無
 
<判断>
医師の所見
⇒被害者は低栄養による衰弱により死亡。

平成26年4月頃以降の時点では、普通の人であれば十分な栄養を与えられていないために生命身体が害されるかもしれないと認識する状態(=保護を要する状態)にあった。
but
被告人は、被害者の体重や(手足が痩せていたように見えたのを除く)体系の変化、食事量の減少を認識していたとは認められず、
同年6月13日と14日の被害者の様子を認識しても、直ちに病院に連れて行かなければならないほど被害者が衰弱していると認識していたとまでは認められない。


被害者が保護を要する状態にあるとの認識・認容が認められず、保護責任者遺棄致死罪は成立しない。

①被害者の手足が従前に比べて痩せていたこと、被害者が頻繁に食事を抜くなど、その食生活に変化が生じたことは認識しており、これらを踏まえて意識的に観察すれば、被害者の体重と食事量の減少傾向を容易に認識できた
②同年6月13日、被害者が昼間から就寝し、買い物の誘いにも応じないのに接し、夜にはその頬が痩せているのを認め、翌14日夜には、風邪等の症状があるわけでもないのに被害者が朝から一切食事をせずに就寝し続けているのを認識して、翌日病院に連れていることを意識する程度には被害者の健康状態に不安感を抱いていた

少なくとも同月14日夜の時点であれば、被害者が衰弱していることを容易に認識できた

被告人は、僅かな注意を払えば、被害者が低栄養により生命身体が害されるかもしれない状態にあることを認識できた

被告人には、被害者に適切な医療措置を受けさせるなどしてその生命身体への危険の発生を未然に防止すべき注意義務と、これを怠った重大な過失がある。

重過失致死罪の成立。

判例時報2334

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