刑事

2017年11月28日 (火)

強盗致傷等被告事件について執行猶予とした裁判員裁判の判断が破棄された事例

東京高裁H28.6.30      
 
<事案>
被告人A・B両名が共謀して、深夜の住宅街の路上において、連続的に、通行中の3名の中年男性を襲った強盗致傷、強盗の事案(裁判員裁判) 
 
<一審>
①被害金額が多額で、致傷結果も重く、安易な動機、経緯で短期間に各犯行を累行⇒実刑に処することは十分あり得る。
②検察官主張の計画性は、この種犯行で通常行われるもので、特に非難されるべきものと評価できない。
③第3事件の被害者の傷害(骨折)は揉み合いの中で生じたもので、暴行は全体としてみると執拗又は強度なものであったと認めるに足りる証拠はない。
⇒本件が執行猶予を付することがあり得ない事件と断ずることはできない。

①全事件について示談が成立し、特に第3事件の被害者には合計100万円の示談金が支払われ、同人から宥恕の意思が示されている
②被告人両名が逮捕後自ら犯行を告白するなどして反省を深めている
③被告人両名には近親者等の監督者がいる
④被告人Aには懲役前科がなく、被告人Bには前科前歴がない

実刑しかあり得ないとは認められず、むしろ公的機関による指揮監督に服させた上で社会内で更生する機会を与えるのが相当。

被告人両名に対し、いずれも懲役3年、5年間保護観察付き執行猶予。
(検察官の求刑は、被告人Aについて懲役9年、被告人Bについて懲役8年)
 
<判断>
●原判決の量刑判断は是認できない。
 
●量刑の在り方 
行為責任の原則に従って、まず犯情の評価を基に当該犯罪にふさわしい刑の大枠を設定し、その枠内で一般情状を考慮して最終的な刑を決定すべきことは裁判員裁判でも同様であるが、
行為責任の原則に基づく量刑の大枠を定めるに当たっては、犯罪類型ごとに集積された量刑傾向を目安とすることが、量刑判断の公平性とプロセスの適正を担保する上で重要
 
●本件強盗致傷等事案についての犯情及び量刑傾向等 
本件事案の犯情の重さや量刑傾向を踏まえた量刑の大枠について検討。
強盗致傷の中の犯罪類型として見た場合、
2人がかりで暴行を加えるという方法で立て続けに3件の路上強盗を敢行し、2人に傷害を負わせたもの⇒そもそも全体の中で軽い部類に属するとは評価できず、行為態様、動機経緯、法益侵害の各点を総合しても、本件の犯情は、前記の犯罪類型の中でも中程度の部類に属する。
本件のような共犯による連続的な強盗致傷の類型のおおまかな傾向については、中心的な量刑は懲役4年6月以上懲役8年以下の範囲に収まっており、それがほぼ本件の量刑の大枠に相当。
 
●原判決の犯情評価等
そもそも強盗致傷の事件で刑の執行を猶予するという判断は、
当該事案が犯罪類型として極めて軽い部類に属すると判断することにほかならず
、特に、事後強盗を除く強盗致傷を複数犯した事案の量刑傾向を前提にすると、執行猶予の判断に至るのは例外的な事案に限られる

原判決が指摘する被告人らのために酌むべき一般事情を考慮しても、刑の執行を猶予した原判決は、これまでの量刑傾向の大枠から外れる量刑判断を行ったものと言わざるを得ない。
 
●量刑傾向を変容させる場合の量刑判断の在り方 
最高裁H26.7.24(平成26年最判)を引用しつつ、
これまでの量刑傾向を変容させる意図をもって行う量刑判断が公平性の観点から是認できるものであるためには、
従来の量刑傾向を前提とすべきでない事情の存在について裁判体の判断が具体的、説得的に判示される必要がある。

原判決がそのような意図をもって本件量刑を判断したとしても、その理由は何ら説明されていない。
⇒原判決の量刑を是認することはできない。


量刑不当を理由に原判決を破棄した上で、
被告人両名を実刑に処した(Aを懲役6年6月、被告人Bを懲役6年)

 
<解説>
平成26年最判:
夫婦である被告人らが共謀の上、1歳8か月の幼児の頭部を平手で1回強打して床に打ち付けて死亡させたという傷害致死の事案において、第1審判決が、これまでの量刑傾向から踏み出し、公益の代表者である検察官の懲役10年の求刑を大幅に超える懲役15年という量刑をすることについて、裁判体として具体的説得的な根拠を示しているとはいい難い⇒その量刑を是認した原判決について、量刑不当により破棄を免れない

責任は、単に刑罰を消極的に限定する(刑の上限を画する)だけでなく、刑罰を科する基礎としての役割を果たす(刑の下限を画する)こととなる
責任より重い刑はもちろん、軽い刑を言い渡すことも許されないとの見解が裁判実務上は有力。

執行猶予期間中に同種再犯に及んだ覚せい剤使用事案について執行猶予を付した原判決について、同種事案に関する量刑傾向に照らし、行為責任から大きく逸脱した不当に軽い量刑をしたもの⇒これを破棄し実刑に処した事例(大阪高裁H27.7.2)。

判例時報2345

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2017年11月21日 (火)

和歌山カレー事件再審請求棄却決定

和歌山地裁H29.3.29      
 
<事案>
和歌山カレー事件で死刑確定 

請求人は、夫に対する殺人未遂事件及びカレー毒物混入事件について、請求人が無罪であり、再審開始の理由がある旨主張して、94点もの新証拠を提出。
 
<主張>
カレー毒物混入事件に係る申立ての理由の骨子:

新証拠によれば
①請求人が1人で亜ヒ酸の混入されたカレーの見張り番をしていた時間帯があり、その際に不自然な言動をしていた旨の目撃証言に信用性がなく、
②カレー毒物混入事件に関係すると思料される各亜ヒ酸の同一性に関し、捜査段階において実施された警視庁科学警察研究所における異同識別鑑定及び東京理科大学理学部教授中井泉による異同識別鑑定並びに第一審公判段階において実施された大阪電気通信大学工学部教授谷口一雄と広島大学大学院工学研究科助教授早川慎二郎による異同識別鑑定が誤りであることが明らかとなっており、
③請求人の毛筆にヒ素の外部付着が認められるとする中井及び聖マリアンナ医科大学予防医学教室助教授山内博による毛髪に関する鑑定には信用性が無く、
④請求人以外の者にも犯行の機会があった
等というもの。 
 
<判断>
確定判決における証拠構造等を明らかにした上で、
新証拠について
①前記目撃証言に関するもの、
②異同識別三鑑定その他の亜ヒ酸の同一性に関するもの、
③毛髪鑑定に関するもの及び
④犯行機会に係るもの
などに区分。 

①③④については、確定判決の認定を動揺させるものではない。

②により、異同識別三鑑定から認められた間接事実のうち、
(A)夏祭り会場から押収された青色紙コップに付着していた亜ヒ酸及び請求人の周辺から発見された亜ヒ酸とは製造工場、原料鉱石、製造工程又は製造機会の異なる亜ヒ酸の中に原料鉱石に由来する微量元素の構成が酷似するものが存在せず、前記青色紙コップ付着の亜ヒ酸及び請求人の周辺から発見された亜ヒ酸が製造段階において同一とされた点、
(B)請求人の周辺から発見された亜ヒ酸の一部と前記青色紙コップ付着の亜ヒ酸に共通して含まれていたバリウムが製造後の使用方法に由来するとされた点
の2点については相当性を欠くといわざるを得ないものの、
前記青色紙コップ付着の亜ヒ酸及び請求にの周辺から発見された亜ヒ酸についていずれも原料鉱石に由来する微量元素の構成が酷似しているとされた点などについてはいささかの動揺も生じていない。
微量元素の構成が酷似する以上、請求人の周辺から発見された亜ヒ酸と組成上の特徴を同じくする亜ヒ酸がカレーに混入されたといえる
⇒異同識別三鑑定の証明力が減殺されたからといって、それだけで直ちに確定判決の有罪認定に合理的な疑いが生じるわけではない。

新旧全証拠を総合して検討してみても、異同識別三鑑定以外の証拠から認定できる間接事実のみでも請求人の犯人性が非常に強く推認されるし、請求人が入手可能な亜ヒ酸とカレーに混入された亜ヒ酸の組成上の特徴が一致するということは請求人の犯人性を積極的に推認させる間接事実になっている
確定判決の有罪認定に合理的な疑いを生じさせる余地はない
新証拠の明白性を否定
 
<規定>
刑訴法 第435条〔再審請求の理由〕 
再審の請求は、左の場合において、有罪の言渡をした確定判決に対して、その言渡を受けた者の利益のために、これをすることができる。

六 有罪の言渡を受けた者に対して無罪若しくは免訴を言い渡し、刑の言渡を受けた者に対して刑の免除を言い渡し、又は原判決において認めた罪より軽い罪を認めるべき明らかな証拠をあらたに発見したとき。
 
<解説>
証拠の明白性の判断方法に関しては、白鳥決定(最高裁昭和50.5.20)で、「もし当の証拠(新証拠)が確定判決を下した裁判所の審理中に提出されていたとするならば、はたしてその確定判決においてなされたような事実認定に到達したであろうかどうかという観点から、当の証拠(新証拠)と他の全証拠(旧証拠)とを総合的に評価して判断すべきであ」ると判示。
~総合評価説。

再審請求段階で新たに提出された証拠により確定判決の有罪認定の根拠となった証拠の一部について証明力が大幅に減殺された場合に刑訴法435条6号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」に当たるか否かは、
再審請求後に提出された新証拠と確定判決を言渡した裁判所で取り調べられた全証拠とを総合的に評価した結果として確定判決の有罪認定につき合理的な疑いを生じさせ得るか否かにより判断すべき(名張決定、最高裁H9.1.28)

本決定は、最高裁の証拠の明白性の判断手法に則り、
①確定判決における証拠構造等を明らかにし、
②再審請求段階で新たに提出された新証拠の証拠価値を検討し、
③新証拠の提出により異動識別鑑定の一部について証明力の減殺が生じたこと自体は否定しがたい状況にあることを踏まえ、これだけでは確定判決における有罪認定に合理的な疑いが生じず、嫌疑亜ヒ酸の同一性に関する間接事実以外の間接事実の認定に影響はなく、新旧全証拠を総合しても有罪認定に合理的疑いは生じない
新証拠の明白性を否定

判例時報2345

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2017年11月20日 (月)

成人として地裁に起訴⇒20歳に達していないかも⇒公訴棄却で家裁に送致⇒検察官送致の事例

横浜家裁H28.10.17    
 
<事案>
外国人である少年が、氏名不詳者と共謀の上、不正に入手したキャッシュカードを用いてATMから現金を複数回引き出した窃盗の事案(被害額合計約537万円)。 

少年は、当初、旅券に記載された生年月日を踏まえて成人として地裁に起訴⇒第三回公判期日において、初めて、実際の生年月日は旅券に記載された生年月日の1年後の日であり、いまだ満20歳に達していない旨供述⇒同裁判所は、出生国の公的機関発行に係る証明書を取り調べるなどした上で、被告人が満20歳に達していると認めることには合理的な疑いが残るとして公訴棄却⇒検察官は、上訴権を放棄して事件を家裁に送致。
 
<本決定>
少年の年齢の認定に関する地方裁判所の判断を是認した上で、本件の犯情、少年の犯罪傾向、更生意欲、年齢等を踏まえると、少年には保護処分ではなく刑事処分が相当⇒事件を検察官に送致。 
 
<解説>
少年法は、少年審判の対象となる「少年」を「20歳に満たない者」と定義し、少年の被疑事件について、捜査機関は、事件を家庭裁判所に送致しなければならないのが原則(41条、42条)。

検察官は、家庭裁判所から事件が送致された場合(19条2項、20条、45条5号)を除き、20歳未満の者について公訴を提起することができず、同送致を欠く公訴の提起がなされても、手続規定違反として控訴棄却判決が下される(刑訴法338条4号)。

合理的手段を尽くしても年齢を認定できない場合:
A:少年法が刑訴法の特別法であることを重視⇒一般法である刑訴法によって手続を進めるべき
B:対象者の利益に従い、20歳以上であることの証明がないため、少年法によって手続を進めるべき(実務)

原則検察官送致対象事件(20条2項本文)以外の事件で、検察官送致が選択される少年は、保護処分原則主義(最高裁H9.9.18)の下、犯情や保護処分歴等を総合考慮すると、保護処分による矯正の見込みの少なさ(保護不適)がいわば実証されているような場合が多いというのが実務の大勢。

本決定は、
非行歴及び保護処分のない少年について、
本件の罪質(組織的犯行)、
少年の関与のあり方(常習的犯行、強い犯意、被害金額や少年の得た利益の大きさ)、
少年の性格ないし生活態度(組織犯罪によるもの以外の収入がない。)、
少年の観護措置中の言動(内省の深まりがない。)
少年の年齢(数週間後には20歳になる。)
等を定年に検討した上で、
検察官送致を結論

判例時報2343

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2017年11月19日 (日)

なりすまし捜査⇒違法収集証拠排除⇒自白の補強証拠がないとして無罪

鹿児島地裁加治木支部H29.3.24      
 
<事案>
被告人が深夜、他人の自動車内から発泡酒1箱(警官が現行犯逮捕目的で置いたもの)を盗んだとして起訴された事案。 
 
<判断>
おとり捜査が許容される類型として最高裁H16.7.12が示した要件(①犯意があると疑われる者を対象とし、②直接の被害者がいない薬物犯罪等の操作において、通常の捜査方法のみでは犯罪の摘発が困難であること)に沿って検討。

尾行捜査時の被告人の行為等⇒被告人には車上狙いの犯意があると疑われる。
but
その犯罪傾向は強くはなく、本件の捜査により被告人の車上狙いの実行が促進された面が多分にある

捜査の必要性に関して、
車上狙いは証拠収集や犯人検挙が困難な犯罪類型ではなく、また、
本件を具体的に見ても、
①被告人の住居等は特定され、
②行動方法も徒歩又は婦人用自転車であって追跡が容易であり、
③車上狙いは他者から観察しやすい犯罪類型である上、実際にも被告人が他人の自動車を覗き込む様子が観察されており、
④新たな被害申告後に捜査に着手するとしても、その捜査遂行は特に困難ではない。
過去の各車上狙いの被害額や発生頻度等⇒なりすまし捜査を行わない場合に生じ得る害悪も大きくない。

本件ではなりすまし捜査を行う必要性はほとんどなく、そうである以上、捜査の態様いかんにかかわらず、本件の捜査は任意捜査として許容される範囲を逸脱しており、国家が犯罪を誘発し、捜査の公正を害するものとして違法

適法手続からの逸脱の程度が大きい
②警察官らには捜査方法の選択につき重大な過失がある
③本件はそれほど重大な犯罪に関するものではない
④警察官らは、なりすまし捜査を行った事実を捜査書類上明らかにせず、公判廷でも同事実を否認する証言をするなど、捜査の適法性に関する司法審査を潜脱しようとする意図が見られること等
本件の捜査の違法は重大

違法な捜査と直接かつ密接な関連性を有する被害届等の証拠は、証拠能力を欠くものとして証拠排除

本件では被告人の自白の補強証拠がなく、無罪
 
<解説>
おとり捜査については、
①犯罪誘発型(=おとり捜査により犯意を生じさせる場合)は違法だが、
②機会提供型(=元々犯意を有していた者に犯行の機会を提供した場合)は違法ではない
との2分説で、平成16年決定も、その実務傾向を概ね追認。 

おとり捜査をめぐる実務傾向について二分説のような単純化が可能なのは、その多くが薬物犯罪(特に密売)に関するものであり、各事例間においてその適法性の主要な考慮要素(犯意の強固さや通常の操作方法のみによる摘発の困難性、事案の重大さ等)の同質性が高いため。

本件のようにその典型的類型から外れる事案については、各考慮要素を事案に応じて具体的に見極め、それらを総合的に考慮してその捜査の適法性を検討することが必要であり、その検討の結果、捜査の適法性につき二分説とは異なる結論となることも当然あり得る。

捜査の違法の重大性に事後の事情を取り込む判断は、最高裁H15.2.14等にも見られるもの。

判例時報2343

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2017年11月18日 (土)

麻薬取締官の対応による被告人の覚せい剤等の取引の促進助長と、意匠収集証拠は維持・量刑評価

大阪地裁H29.4.12      
 
<事案>
被告人がトランクルームや自宅で覚せい剤及びコカインを合計約1023g所持していたという事案。 
 
<判断>
被告人が、薬物取引を行う際に、その情報を麻薬取締官に提供し、麻薬取締官もこれを容認していた「持ちつ持たれつ」の関係があった。
but
客観的な薬物所持の態様等
被告人には、自己の利益を図る目的(営利目的あるいは使用目的)があると認定し、私人である被告人に犯意を誘発させて薬物犯罪に巻き込んだとの弁護人の主張を排斥。 

量刑の場面で、
麻薬取締官の対応が被告人の薬物取引を促進、助長した面があるとし、その意味で被告人の意思決定に対して不当な影響を与えてことは否定できない⇒被告人の刑を引き下げる一事情として考慮
 
<解説> 
おとり捜査については、最高裁H16.7.12でその許容性について判示
調査官解説では、
国家が犯罪を創出した点等におとり捜査の違法性の実質を求め、働きかけも強度で国家が犯罪を行ったに等しいような場合には公訴棄却、免訴といったドラスティックな処理もあり得、
そこまで至らない程度の違法については、違法収集証拠排除法則の適用が問題となる、との見解。 

判例時報2343

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2017年11月12日 (日)

犯行時15歳による殺人被告事件について、家裁に移送された事例

横浜地裁H28.6.23      
 
<事案>
少年である被告人が、実母及び祖母の計2名の胸部及び背部を包丁で多数回刺して心臓損傷等により失血死させたという殺人保護事件。 
罪名的には少年法20条2項に定めるいわゆる原則逆送の対象事件
but
被告人が犯行当時15歳8か月であり、同項の定める犯行時16歳との要件を充たさなかった
同条1項の通常の検察官送致決定により地裁に係属。
 
<判断>
①鑑定人による、被告人の精神面の問題性の分析と、被告人に対しては安定した保護的な生活環境の中での働きかけが必要であり、切な援助によって被告人の改善更生を図ることは可能とする意見を採用できる
②被告人が鑑定中に良い変化を見せたことや非行歴がないこと⇒保護処分により改善更生する可能性がある。
③少年が、行った犯罪の重大性を自覚してこれを向き合うためには、第三者からの働きかけが必要⇒時間や人手を十分にかけた矯正教育を行うことができる少年院で教育を受けさせることが効果的。
④本件の背景には成育歴等が影響を与えていること、本件各犯行は家庭内におけるものであって、遺族でのある被告人の父等は厳し処罰を求めていないこと、改善更生させることが被害感情を和らげ社会の不安を鎮めるためにも重要⇒保護処分を選択することも許容される

家庭裁判所に移送
 
<解説>
少年法55条は、刑事裁判所の家庭裁判所移送決定の要件を、「保護処分jに付するのが相当であると認めるとき」と規定するのみ。
~「保護処分相当性」

同法20条1項は、家庭裁判所の検察官送致決定の要件を、「罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるとき」と規定。
~「刑事処分相当性」

「刑事処分相当性」とは「保護処分相当性がないこと」というように両者を表裏の関係で理解すべき。

そのように解しないと、
同一事実について同一の評価をしても検察官送致決定と家庭裁判所移送決定が両立し得ることになり、少年に対して時機にかなった適正な処分をなしえないだけでなく、いつまでも手続から解放されないという不当な手続的負担を少年にかける危険性がある。

少年法20条1項の刑事処分相当性=保護処分では少年を更生させることができないという意味での保護不能、または、事案の内容や社会に与える影響に照らし保護処分に付することが相当ではないという意味での保護不適であること(通説)。

判例時報2342

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2017年10月22日 (日)

薬事法2条14項に規定する指定薬物を所持する罪の故意の有無(肯定事例)

福岡高裁H28.6.24      
 
<事案>
薬事法(平成25年法律第84号による改正前のもの)2条14号に規定する私的薬物所持の事案。 
被告人は、所持していた指定薬物含有の植物片(「本件薬物」)について、危険ドラッグであったとの認識はあるが、公然販売していた販売店の店員から合法だと告げられて、そう信じており、指定薬物であることの認識はなかったとして、故意が争われた
 
<判断>
被告人は、①本件植物片がいわゆる危険ドラッグであることを前提に購入所持していた上、②危険ドラッグの危険性や取締りの強化は十分承知している
指定薬物として取締りの対象に入る可能性を認識していた。
 
<解説>
●判例:
故意の成立に必要な事実の認識の範囲は、当該構成要件の該当事実そのものであり、
その一部である違法性の意識を喚起しうる範囲の事実を認識していることは故意の成立を認める証拠に止まる

構成要件に該当する自然的事実を認識しているだけでは足りず構成要件に該当するとの判断を下しうる社会的意味の認識が必要
but
判例は、行政取締り法規違反の罪について、必ずしも統一的には理解できない判断を示しているといわれている。

法規の制定によって禁止される対象が決まり、構成要件該当の事実認識だけでは、一般人には行為の違法性を知り得ない場合が多い(前田)。

判例の立場について:
違法性を喚起しうる一部の事実を認識していたことと行為当時の状況をあわせて考慮すると、少なくとも未必的、概括的には構成要件該当事実を認識していたと認定できる場合⇒その錯誤は法律の錯誤
自然的な意味での事実の認識は存在していたものの、それが構成要件事実に当たるという意味の認識を妨げる特異な事情が介在していたため、故意の成立に必要な程度に事実の認識があったとは判断できない⇒事実の錯誤
 
●本判決:
規制対象となりうる薬物である旨の実質的違法性の認識があり、
指定薬物が含有されていないと信じた合理的な理由がない場合には、
指定薬物の故意に欠けるところはない。 

本件にあっては、
一般人の目からみると、
当該薬物が規制されるに足りる薬理作用を有するいわゆる危険ドラッグ、あるいは、幻覚等の作用を有する有害な薬物であるという認識はあった。

当該薬物を所持することが犯罪に該当すると判断できる社会的な意味の認識、換言すれば、一般人の目からみた「しろうと的認識」(平野)に従って、犯罪事実の認識に欠けるところはない
but
そのような認識を有していたとしても、責任ある公的な立場の者あるいは薬物に関する専門家から、根拠を示すなどして、当該薬物が指定薬物ではないというような説明を受けたなどの状況があれば、故意に必要な事実認識は否定されるものと解される。

判例時報2340

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2017年10月21日 (土)

けんか闘争、自招侵害等の観点と正当防衛の成立(肯定事例)

さいたま地裁H29.1.11      
 
<事案>
被告人は、犬を連れて散歩していた際、以前から被告人を見かけては怒鳴ったり警察に通報したりしていたBが自転車に乗って近付き、自転車に跨ったまま被告人の前に立ち塞がった
⇒どいて欲しいと告げたがBが応じない⇒Bをどかせるためその自転車前輪を2、3回、さほど強くない力で蹴った(自転車の足蹴り行為)⇒突然、Bは、被告人の顔面を手拳で殴打し、その後も何度か殴りかかってきた(Bによる殴打行為)⇒被告人は両手でガードしたり、Bに向かって足を前に出したりした(Bに対する足蹴り行為)⇒その後もBによる殴打行為が止まなかった⇒被告人が右手を突き出したところその顔面に当たり(本件暴行)、Bを転倒させて加療約6か月間を要する急性硬膜下血腫、脳挫傷等の傷害を負わせた。 
 
<争点>
本件暴行について、
①けんか闘争の一環として行われたものといえるか
②被告人が自ら招いた侵害(自招侵害)に対して行われたものとして、反撃行為に出ることが正当とされない状況にあったといえるか 
 
<判断>
●けんか闘争について 
①自転車の足蹴り行為は被害者の進路を妨害しようとするBにどいてもらうための牽制・威嚇の趣旨
②その後のBに対する足蹴り行為についても、あくまでBによる殴打行為に対して被告人が防戦して自己の身体を防衛するという状況にとどまる

本件暴行は、けんか闘争の一環の行為であるとはいえない
 
●自招侵害の点について 
被告人が自転車の足蹴り行為に至ったのは、Bの挑発的・誘発的行為も相応の原因になっており、被告人ばかりが大きく責められるべきではない
その後のBによる殴打行為は自転車の足蹴り行為に比べて量的にも質的にも上回っている

一般の社会通念に照らし、Bによる殴打行為が被告人による自転車の足蹴り行為に触発された一連、一体の事態としてなされたとしても、これに対して被告人が反撃に出ることが正当とされ得ない状況にまでは至っていない


本件暴行は、けんか闘争、自招侵害のいずれの観点からみても、正当防衛状況(急迫不正の侵害)の下における行為と認められるとして、正当防衛の成立を認め、無罪。 
 
<解説>
●けんか闘争について
最高裁昭和23.7.7も、闘争の過程を全般的に観察した結果、正当防衛の観念を入れる余地があるない場合があると説示
⇒けんか闘争と認定されれば正当防衛が成立しないと判示しているわけではない。(最高裁昭和32.1.22)

けんか闘争か否かで正当防衛の成否が直ちに決まる訳ではなく、結局は、「闘争」を全般的に検討する必要があり、けんか闘争を独立の争点とした争点整理には議論の余地。 
 
●自招侵害について 
最高裁H20.5.20:
傷害被告事件について、
相手方から攻撃されるに先立って暴行を加えていた被告人について、
相手方の攻撃は①被告人の暴行に触発された、②その直後における近接した場所での一連一体の事態ということができ、被告人は不正の行為により自ら侵害を招いたものといえる

相手方の攻撃が被告人の暴行の程度を大きく超えるものではないなどの本件の事実関係の下においては、被告人の本件傷害行為は、被告人において何らかの反撃行為に出ることが正当とされる状況における行為とはいえない

正当防衛を否定。

判例時報2340

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侵害を予期した上で対抗措置に及んだ場合と正当防衛の「急迫性」

最高裁H29.4.26      
 
<事案>
被告人(当時46歳)が
①被害者(当時40歳)と何度も電話で口論
被害者からマンションの下に来ていると電話で呼び出され、刃体の長さ約13.8㎝の包丁を持って自宅マンション前路上に行き、ハンマーで攻撃してきた被害者の左側胸部を、殺意をもって包丁で1回突き刺して殺害 したという殺人の事案と
②コンビニのレジスターのタッチパネルを拳骨でたたき割ったという器物損壊の事案において、
①の殺人に関する正当防衛及び過剰防衛の主張に関し、刑法36条の「急迫性」の判断方法について職権判示したもの。
 
<規定>
刑法 第36条(正当防衛)
急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
2 防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
 
<一審・原審>
刑法36条の「急迫性」の要件に関し、
単に予期された侵害を避けなかったというにとどまらず、その機会を利用し積極的に相手に対して加害行為をする意思で侵害に臨んだときは、もはや侵害の急迫性の要件を充たさないものと解するのが相当である。」(最高裁昭和52.7.21)
が示した積極的加害意思論
⇒正当防衛及び過剰防衛の成立を否定。
 
<判断>
●刑法36条は、急迫不正の侵害という緊急状況の下で公的機関による法的保護を求めることが期待できないときに、侵害を排除するための私人による対抗行為を例外的に許容したもの。

行為者が侵害を予期した上で対抗行為に及んだ場合侵害の急迫性の要件については、侵害を予期していたことから、ただちにこれが失われると解すべきではなく対抗行為に先行する事情を含めた行為全般の状況に照らして検討すべき。

具体的には、事情に応じ、行為者と相手方との従前の関係、予期された侵害の内容、侵害の予期の程度、侵害回避の容易性、侵害場所に出向く必要性、侵害場所にとどまる相当性、対抗行為の準備の状況(特に、凶器の準備の有無や準備した凶器の性状等)、実際の侵害行為の内容と予期された侵害との異同、行為者が侵害に臨んだ状況及びその際の意思内容等を考慮し、
行為者がその機会を利用し積極的に相手方に対して加害行為をする意思で侵害に臨んだときなど、
前記のような刑法36条の趣旨に照らし許容されるものとはいえない場合には、侵害の急迫性の要件を充たさないものというべき。

●被告人は、
①Aの呼出しに応じて現場に赴けば、Aから凶器を用いるなどした暴行を加えられることを十分予期していながら、
②Aの呼出しに応じる必要がなく、自宅にとどまって警察の援助を受けることが容易であったにもかかわらず、
包丁を準備した上、Aの待つ場所に出向き
④Aがハンマーで攻撃してくるや、包丁を示すなどの威嚇的行動をとることもしないままAに近づき、Aの左側胸部を強く刺突したもの。 
このような先行事情を含めた本件行為全般の状況
⇒被告人の本件行為は、刑法36条の趣旨に照らし許容されるものとは認められず、侵害の急迫性の要件を充たさない

本件につき正当防衛及び過剰防衛の成立を否定した第一審判決を是認した原判断は正当。

判例時報2340

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2017年10月14日 (土)

特殊詐欺事件の受け子と詐欺の未必的故意(肯定)

福岡高裁H28.12.20    
 
<事案>
被告人が氏名不詳者を含む複数の者と共謀して、高齢者を電話で騙し、指定するアパートの一室に現金を送らせようとしたが、不審に感じた被害者が警察に通報したため未遂に終わった。
~現金送付型の特殊詐欺事案。

被告人は「受け子」で、被害者を騙す行為が終了した後に犯行に加わったと認定。
 
<主張>
荷物(書類)の受領という適法行為を頼まれただけで、故意がない。 
 
<原審>
特異な状況における荷物の受領(共犯者の後輩なる面識のない者の自宅に、夜間、夕食もとらずに1人で待機し、他人宛ての荷物を受領するというもの)⇒被告人は荷物の中味が何らかの違法な行為に関わる物である可能性を当初から認識していたとして、「何らかの違法な行為に関わるという認識」はあった。
but
「詐欺に関与するものかもしれないとの認識」までは認められない。
⇒未必的故意も否定し、無罪。 
 
<主張>
「騙されたふり作戦」(騙されていることに気付いた、あるいはそれを疑った被害者側が捜査機関と協力の上、引き続き犯人側の要求どおり行動しているふりをして、受領行為等の現場に警察官が臨場)、かつ、騙されているのに被害者が気付く前に被告人と他の共犯者らとの共謀が成立したとは認定できない
⇒被告人については詐欺の実行行為を認定できない。 
 
<判断・解説> 
●詐欺の故意
本件のように特異な状況において荷物を受領する場合、そのような行為態様から通常想定される違法行為の類型には、本件のような特殊詐欺が当然に含まれる

受領行為につき「何らかの違法な行為に関わるという認識」さえあれば、特段の事情がない限り、本件のような特殊詐欺につき規範に直面するのに必要十分な事実の認識があったとものと解され、同行為が「詐欺に関与するものかもしれないとの認識」があったと評価するのが社会通念に適い相当。

特異な状況における受領行為であること自体「詐欺に関与するものかもしれないとの認識」を基礎づける重要な事実であるとしている。 

覚せい剤の密輸入等につき、「覚せい剤を含む身体に有害で違法な薬物類であるとの認識があったというのであるから、覚せい剤かもしれないし、その他の身体に有害で違法な薬物かも知れないとの認識はあった」として故意を認めた最高裁H2.2.9.
but
「身体に有害で違法な薬物類」に覚せい剤が含まれることには異論がないのに対し、特異な状況における受領行為であることから特殊詐欺の認識を導き出すには、本判決も言及するような「社会通念」を介在させる必要がある。

また、仮に、荷物の中身につき違法薬物やけん銃等の法禁物であると認識しており、詐欺に係る現金であるとは思わなかった旨主張された場合の処理も問題。

福岡高裁宮崎支部H28.11.10:

1か月間に約20回、異なるマンションの空室で、異なる名前を使い他人になりすまして荷物を受け取っていた被告人につき、
①犯行時、報道等により、「空室利用送付型詐欺」が社会に周知され浸透し社会常識となっていたとはいえない旨の認定を重視、
②違法薬物かけん銃等の法禁物であると思っていたとの弁解を排斥する根拠もない

同未遂につき有罪とした原判決を破棄。
 
●「騙されたふり作戦」の実施について
①詐欺の承継的共同正犯を肯定することを暗黙の前提として、交付された財物を受領する行為もまた詐欺の実行行為
②本件受領行為の実行行為性(危険性)の有無につき、不能犯における判断手法を用い、その中でもいわゆる具体的危険説に立ち、
これを肯定。

名古屋高裁H28.9.21:
単独犯で結果発生が当初から不可能な場合という典型的な不能犯の場合と、結果発生が後発的に不可能となった場合の、不可能になった後に共犯関係に入った者の犯罪の成否は、結果に対する因果性といった問題を考慮しても、基本的に同じ問題状況にあり、全く別に考えるのは不当である。

本判決:
不能犯の判断の際に仮定される「一般通常人」につき、「当該行為の時点で、その場に置かれた一般通常人」であるとして、行為者の立場に置かれた者とすべきである旨明示

判例時報2338

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