いわゆる特殊詐欺等の事案で、包括的共謀否定事例
東京地裁R3.12.7
<事案>
いわゆる特殊詐欺等を行う犯行グループにより、平成30年に行われた複数の犯行(電子計算機使用詐欺、組織的詐欺、窃盗)(本件各犯行)について、被告人が共謀共同正犯として起訴された事案。
<争点>
共謀の成否等
検察官:
①本件各犯行以前の平成26年から平成28年に、詐欺等をおkなう犯行グループの者(同グループ内のかけ子の統括者)と被告人との間で同グルー^プの犯行について包括的共謀が成立し
②同グループと平成30年に本件各犯行を行った犯行グループとの間に連続性が認められ
③共謀の成立後に被告人が犯行グループから離脱していない
⇒本件各犯行について被告人に共謀が認められる。
弁護人:
故意と共謀を争い、予備的に共犯関係の解消も主張
<判断>
被告人に未必の故意は認められるものの
①の包括的共謀の成立は認められず
②の犯行グループの連続性も認められない
⇒無罪
<解説>
● 包括的共謀の成否:
当該事案の事実関係を前提に諸々の事情を総合的に検討してなされる。
共謀を認定するためには正犯意思が認められる必要がある。
その推認について、近時の裁判例には、自己の犯罪について関与したといえるかにより判断するものがしばしばみられる
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その成否は
①被告人の関与の内容や犯罪結果への利害関係の有無(財産犯では、分け前の点は大きな判断要素となろう。)
②組織的犯行の場合には組織内での立場
③その他の諸事情
を総合考慮して決せられる。
本件:
被告人とS2:
被告人の関与内容は犯行用具の提供という犯行の準備行為に関するもの
立場は犯行グループの取引相手の1人であってグループの一員ではない
得ているのは提供したものの対価であって犯行から分け前などの利益を得てるわけではない
⇒
被告人が自己の犯罪として関与していたとはいい難い
● S1らの犯行については、被告人の関与の内容に受け子の紹介が付け加わった⇒改めて検討。
受け子の紹介:
犯行メンバーの調達という犯行の準備行為に類するもの⇒幇助犯として処断されている例もしばしば。
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紹介にとどまらず、その後も何らかの形でその受け子に関わり、紹介料とは別に詐欺の犯行の分け前を得ているような場合には、共同正犯として処断されている例もみられる。
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紹介した受け子の犯行について(包括的)共謀が認められたそていも、同人の関与しない犯行についてまで共謀が認められるかは別論。
本判決:
被告人が紹介した受け子の犯行について共謀を認める余地のあることを留保しつつ、その余の犯行を含めた包括的共謀の成立を認めなかった。
判例時報2542
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