刑事

2018年3月24日 (土)

殺人で因果関係が争われた事案(肯定)

大阪地裁H29.3.1       
 
<事案>
横断歩道の設置された交差点を左折進行した際、同横断歩道上を自転車に乗って横断していた被害者に衝突⇒被害者を車底部等で引きずったまま、自車を蛇行させるなどしながら相当速度で走行⇒停車した通路及び隣接する駐車場において、被害者の体幹部を自車右後輪で2度にわたり轢過し、それによる心配破裂を直接の原因として被害者死亡。 
 
<判断>
①本件引きずり行為及び②本件轢過行為についての殺意の有無が問題となり、前者については肯定、後者については否定
⇒殺人の実行である①行為と被害者の死亡との間に、被告人の殺意によらない②行為が介在⇒因果関係が問題

判断:
本件引きずり行為自体によっても、路面との擦過によって被害者の左足部及び頭部顔面に相当な皮膚の欠損及び真皮の喪失が生じており、筋膜が露出した状態になっていた⇒初期治療を受けていたとしても、感染症を生じ、敗血症等により死亡する可能性があった。
本件引きずり行為によって相当量の出血によるショック状態に陥っており、本件轢過行為がなかったとしても、その場に放置されれば、出血により数時間以内に死亡していた可能性が高かった。
本件引きずり行為によって、既に被害者が死亡する高度の危険性が生じており、本件轢過行為は被害者の死亡時間を数時間早めたにすぎない。
②被告人が本件轢過行為に及んだのは、当初の衝突事故の刑責を免れるため、被害者を引きずったまま逃走行為を開始し、本件引きずり行為を行い、停車した後も車両に引っかかった被害者を外そうとし、外れた後も、さらに逃走行為を継続するためであった。
③被害者が本件轢過行為を避けることができなかったのは、本件引きずり行為によって意識を失っていたから

本件引きずり行為と本件轢過行為は密接に関連しており、被害者は、被告人の車両の車底部で引きずられたために、轢過されるに至ったものといえ、本件轢過行為は、本件引きずり行為から死亡に至る経過の単なる1コマにすぎない

被害者の死亡の結果は、本件引きずり行為によって生じた生命の危険性が現実化したものと評価できるから、本件引きずり行為と被害者の死亡との間の因果関係が認められる。
 
<解説>
因果関係については、条件説と相当因果関係説があり、相当因果関係説(通説)においては、その相当性を判断する際の判断基底についての対立がある。 

最高裁の判例は、因果関係の問題について、極めて個別的色彩が強い⇒明確な理論的立場の表明を避け、具体的な事例の集積を通じてその考え方を示していく態度を基本。

現在は、このような判例を整理して、
「行為の危険性が結果へと現実化したか(危険の現実化)」という基準によって因果関係判断がなされているとの立場(山口)が有力。

被害者ないし第三者の行為が介在した場合、これまでの判例を分析し、被告人の実行行為の危険性と介在事情の結果発生への寄与度の観点から整理した「危険の現実化」の判断枠組みも提示。

判断の①が実行行為である本件引きずり行為の危険性の観点からの評価
②③が、介在事情である本件轢過行為の評価
②③について、被告人側と被害者側の双方の観点から、本件引きずり行為が本件轢過行為に強い因果的影響を与えており、介在事情である本件轢過行為は因果関係の面で独立して評価する事情にはならないことを指摘。

判例時報2355

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2018年3月 5日 (月)

防衛行為の相当性

東京地裁立川支部H28.9.16    
 
<事案>
交通トラブルの相手方が自車の窓枠をつかんだ状態で同車を発進、加速させ、ついていけなくなって転倒した相手方を轢過して死亡させた。
検察官は、被告人が自分や同乗の娘の身体を防衛するためにしたものではあるが、防衛の程度を超えた傷害致死罪として起訴
 
<争点>
①暴行の故意の有無
②防衛行為の相当性 
 
<判断・解説> 
●暴行の故意
判断:
被告人が車を発進・加速した時点で被害者の身体が車体と接触し又はごく近くにあることを認識⇒その状態で走行すれば被害者の身体の安全を侵害する危険があると認識⇒暴行の故意を肯定。 

◎暴行の故意を否定した裁判例(大阪地裁):
相手方が運転席側ドアノブ付近をつかんで並走する状態で加速走行させ、路上に転倒させた
but
ドアミラーが前方に倒れていたなどの事情⇒
相手方の状態を認識できず、
自車と並走する相手方を現実に認識していたこと、自車の走行によって相手方に傷害を負わせるような近い位置に相手方がいるかもしれないと思っていたことが認められない

同裁判例は、
被害者はドアノブから手を離さず併走し、自ら危険な状況に飛び込んだもので、被害者の行動が大きな原因になっている
⇒客観的危険性の高さや過失の内容を理由に被告人の行為が防衛行為として相当な範囲を超えていたとはいえない⇒自動車過失致死罪(予備的訴因)に正当防衛が成立するとした。

●「やむを得ずにした行為」の意義 
刑法 第36条(正当防衛)
急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
2 防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。

最高裁:
公共的法益に対する侵害を私人が防衛することが問題となった事案において:
防衛行為がやむことを得ないとは、当該具体的事態の下において当時の社会通念が防衛行為として当然性、妥当性を認め得るものを言う」(最高裁昭和24.8.18)

押し問答を続けていた交渉相手から突然手指をねじあげられ、これを振りほどこうとして胸付近を1回強く突き飛ばしたところ、相手が仰向けに倒れて頭部に重傷を負わせた事案において:
「やむことを得ざるに出でたる行為」とは、急迫不正の侵害に対する反撃行為が、自己または他人の権利を防衛する手段として必要最小限度のものであること、すなわち反撃行為が侵害に対する防衛手段として相当性を有するものであることを意味する。
反撃行為が右の限度を超えず、したがって侵害に対する防衛手段として相当性を有する以上、その反撃行為により生じた結果がたまたま侵害されようとした法益より大であっても、その反撃行為が正当防衛行為でなくなるものではない
(最高裁昭和44.12.4)

◎判断:
被告人車発進後も被害者が並走しながら怒号するなど旺盛な侵害の意思を示していた⇒急迫不正の侵害が継続。
防衛行為の程度について、
①予想される侵害と防衛行為との均衡、
②防衛行為者の意思
③他に取り得る手段の存否
の観点から検討。

③について、運転者窓を閉めるなどして侵害を防ぎつつ、警察官等の救援を求めることはできたものの、通常人の立場で考えて、停止・減速すれば逆上した被害者から何をされるか分からないという状況で、車の発進・加速以外の手段を取ることは困難

◎駐車をめぐってトラブルになり、・・後ずさりしたが、更に目前まで追ってくるので、逃げようとしたところ、運転席に菜切包丁があることを思い出し、窓越しに取り出して腰辺りで構え、「殴れるのなら殴ってみい」「切られたいんか」と言って脅迫した事件:
控訴審:素手の被害者に対し殺傷能力のある菜切包丁を構えて脅迫したのは相当性の範囲を逸脱したもの

上告審:
被告人は被害者からの危害を避けるための防御的な行動に終始していたものであるから、防御手段としての相当性の範囲を超えたものではない。 

●過剰防衛・正当防衛の裁判例 
◎  停車した被告人車のドアを開け、被告人を引きずり降ろそうとした⇒被告人は手を振りほどきドアを閉めたが、運転席側ステップに上がった被害者から窓越しに肩をつかまれたため、急発進⇒ハンドルを握ってきて車が右方に進行して欄干に激突しそうになり、とっさにハンドルを切った⇒被害者が振り落とされ、死亡。

一審:
被害者が不安定な状態で素手で攻撃してきたのに対し、運転席にいてある程度安全な状況にあった被告人としては、素手での反撃等他にとるべき手段があったはず⇒相当性の範囲を超えている。

控訴審:
被告人が感じていた侵害の危険性と恐怖感は相当に強く、素手での反撃を期待するのは困難であり、それによって被害者の侵害から逃れることも容易ではない。⇒自動車の発進より軽い打撃によって被害者の攻撃を防ぐことが可能だったとは考え難い
⇒重大な結果の発生を理由に防衛の程度を超えたものとすることはできない。

 
◎過剰防衛を肯定 
①被告人は、被害者をボンネットに乗せたまま運転を開始し、振り落とすべく高速で蛇行し、急ブレーキをかけるなどした
~生命の安全に対する危険を多分に含むもので被害者から受ける可能性のあった侵害の程度と著しく均衡を失する。
②より低速で走行し、被害者が転落することがないよう急ブレーキ等を控え、より安全な場所に奏功して他人に助けを求めるなど被害者の生命身体に配慮した行動が可能。

防衛行為としてやむをえない程度を超えた。(京都地裁)

①窓は全開だったがドアで遮られており、被害者は何らの武器も示しておらず、車両に並走しそれが困難となって飛び乗ったもの⇒侵害行為はその限度にとどまっている。
②車両の走行は、速度が上がるにつれ被害者の身体・生命の危険を増大させるもので、被告人は速度を容易に調整することができた
⇒加速し続けた行為は相当性を欠く。(札幌高裁)
・・・回し蹴りをしてきたことから口論になり、手拳でで顔面を殴られた⇒複数回顔面を殴り返し、被害者が転倒して頭部を打ちつけ死亡

第1審:被告人が素手で殴り返したのは「武器対等」であり、一方的な攻撃ではない⇒相当性の範囲を超えていない。

控訴審:
最後の段階では被害者はもはや互角に戦える状態ではなく、被告人の暴行は一方的かつ圧倒的攻撃⇒量的に過剰
急所である下顎部に2回命中させるなど被告人の暴行はボクシングの素養を用いたもの⇒質的にも過剰
(名古屋高裁)

判例時報2354

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2018年3月 4日 (日)

軽犯罪法1条2号の「正当な理由」と「隠して」の意義と存否の判断

広島高裁H29.3.8      
 
<事案>
被告人が、正当な理由がないのに、コンビニエンスストアの駐車場において、ヌンチャク3組を、自動車内に隠して携帯
⇒軽犯罪法1条2号違反に問われた。 
 
<規定>
軽犯罪法 第1条〔軽犯罪〕
左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。

二 正当な理由がなくて刃物、鉄棒その他人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯していた者
 
<争点>
「隠して携帯していた」
「正当な理由」
の有無。 
 
<判断>
「隠して」につき、本人に隠す意思が必要

隠れた状態を認識するだけでは足りず、携帯の態様や目的等から隠すことについての何らかの積極的な意思を認定する必要がある。

本件では否定。

●「正当な理由」について、
本号の器具には、職業上又は日常生活上必要ともいえる器具も多く含まれうる
⇒凶器の危険性の高さを理由に「正当な理由」を限定的には解してよいことにならない。

客観面と主観面の諸事情を総合して判断する必要

ヌンチャクについて、
武道や趣味などとして適法に使用されることの方が一般的
社会通念上、携帯が相当な場合が十分にあり、本件の事情の下では、職務上又は日常生活上の必要性から、社会通念上、相当と認められる場合に当たらないとすることには合理的疑い
⇒「正当な理由」がないとはいえない。 

⇒被告人は無罪 
 
<解説> 
「隠して」 
①一般社会生活上、接触する他人の通常の視野に入ってこないような状態におくことをいい、
②携帯する者に隠す意思があることが必要。

本号が、危険な器具を「隠して」携帯することが人の生命、身体に対する具体的危険と結びつきやすいことに着目して、犯罪として取り締まることとしたものと解される。
 
●「正当な理由」 
銃刀法22条所定のものと同様に解され、
職務上または業務上の必要のため携帯する場合等に認められ、
けんかの際の護身用としてナイフを携帯するような場合には正当な理由が認められないことが多い。

最高裁H21.3.26:
「正当な理由」の有無について、
当該器具の用途や形状・性能、隠匿携帯した者の職業や日常生活との関係、隠匿携帯の日時・場所、態様及び周囲の状況等の客観的要素と、
隠匿携帯の動機、目的、認識等の主観的要素
総合的に勘案して判断すべきと判示し、

深夜のサイクリングの際に専ら防御用として催涙スプレーをズボンのポケット内に入れて隠匿携帯したことは、社会通念上、相当な行為であり、「正当な理由」によるものであるとした。

判例時報2354

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2018年3月 3日 (土)

道交法130条2号の「その者が書面の受領を拒んだため・・・第126条第1項・・・の規定による告知・・・をすることができなかったとき」に該当しないとされた事例

大阪高裁H28.12.6      
 
<事案>
検察庁の取調べで当該車載カメラの映像を示された⇒違反の事実を認め、交通反則通告制度による処理を希望。
but
道交法130条2号にいう「その者が書面の受領を拒んだため・・・第126条第1項・・・の規定による告知・・・をすることができなかったとき」に当たる
⇒公訴を提起。 
 
<解説>
道交法:交通反則行為に関する処理手続の特例:
警察官において、反則者があると認めるときは、その者の居所や氏名が不明の場合又は逃亡のおそれがある場合を除き、その者に対し、速やかに反則行為となるべき事実の要旨及び当該反則行為が属する反則行為の種別等を書面で告知し(126条1項)、
警察本部長は、告知を受けた者が反則者であると認めるときは、反則金の納付を書面で通告し(127条1項)、
これに応じて10日以内に反則金納付の通告を受け、かつ、10日の期間が経過した後でなければ、公訴を提起されない(130条)。

その者が書面の受領を拒んだため126条1項の規定する告知又は通告をすることができなかったときはこの限りでない(同条2号)
と規定。
 
<問題>
どのような場合に、反則者が書面の受領を拒否したものとして直ちに公訴を提起することができるのか? 
 
<判断>
道交法130条2号にいう「受領を拒んだ」の意味について、
反則者が正当な理由なく書面の受領を拒んだため、交通反則通告手続による処理が困難となる場合をいう。

①交通反則通告制度は大量に発生する道交法違反についての迅速処理を主眼とするものではあるが、他方、大量の違反者すべてに刑罰を科し犯罪者とするとかえって刑罰の感銘力を低下させるなどの弊害があることも考慮した制度
②受領拒否の「正当な理由」の有無を判断するに当たっても、単に迅速処理の観点だけではなく、比較的軽微な違反行為について公訴提起は抑制的であるべき

①過失による赤信号看過という本件反則行為の内容が、速度超過、駐停車違反、通行禁止違反等のその場で違反者が道路標識や記録紙等を確認することで違反の事実を容易に認識できる類型の違反と異なり、違反者自身に自覚がないことが通常で、かつ、その場で違反の事実を確認できないことがままある類型の違反
被告人が警察官に車載カメラの映像の確認を求めたのは格別不当であるとはいえない
警察官が、実際には車載カメラの映像が存在していたにもかかわらず、被告人に対し、そのようなものはないと言ってこれを提示しなかったのは甚だ不誠実な対応
それにもかかわらず、後日、車載カメラの映像を見せられて事実を認め、交通反則通告制度による処理を求めた被告人が一旦告知書の受領を拒んだ以上、道交法126条1項の告知をすることができなかったときに当たるとするのは、信義に反する

本件は反則者が正当な理由なく書面の受領を拒んだ場合には当たらない

被告人を罰金9000円に処した原判決を破棄し、公訴を棄却。
 
<解説> 
本判決は、
一般論としては、
受領拒否に当たるかどうかは反則行為を現認した警察官がその時点で判断すれば足り
検察官に事件送致された後に被疑者が反則制度の利用を希望したからといって、同制度による処理に移行する必要がない。
but
違反行為の類型的な特徴に加え、
特に警察官の不誠実な対応があった点を重く見て、例外的に処理するのが相当と判断
。 

判例時報2354

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2018年2月 8日 (木)

強盗の犯意の認定、殺人の中止未遂の認定、強盗殺人での死刑選択の基準

名古屋高裁H27.10.14      
 
<事案>
被告人が、金品窃取の目的で民家に侵入し、家人に発見された
⇒居直り強盗を決意して、家人2名を殺害し、1名に重傷を負わせ、現金等を奪った住居侵入、強盗殺人及び強盗殺人未遂。

被告人が以前に在籍していた大学の更衣室で携帯電話機1台を盗み、民家の駐車場に駐車していあった普通乗用自動車1台及びその積載品2点を盗んだ各窃盗。 
 
<原審>
死刑 
 
<判断・解説>
●強盗の犯意の認定
◎原審:
検察官による被告人の取調状況を録音・録画した記録媒体や被告人との接見時の供述内容を取りまとめた弁護人作成の供述録取書を取調べ

検察官の取調べ時の被告人の供述態度や供述内容から、被告人の検察官調書の信用性は高く、弁護人作成の供述録取書やこれに沿う被告人の公判供述のうち、被告人の検察官調書と整合しない部分は信用できない
⇒強盗の犯意を認定。

◎判断:
検察官調書のうち、最初に遭遇した家人に暴行を加えた際に強盗の犯意を有していた旨述べる部分は、被告人が進んで心理状態を振り返った上、自発的に不利な内容を述べたものとは評価できず、むしろ、反省していないと受け取られるのを恐れるなどした結果、検察官の推測内容をもって自己の供述内容とすることを受け入れたものである可能性を否定できない
それ自体に十分な証拠価値を認め得る性質のものとはいえないとして、被告人の検察官調書の信用性に関する原判決の判断を否定

本件の事実関係

被告人は、侵入前の時点で、家人と遭遇して騒がれたり抵抗にあったりする事態を予想し、その場合にあらかじめ用意していたモンキーレンチやクラフトナイフを用いて暴行を加え、反抗を抑圧して金品を奪い取ることになるかもしれないことを考えていたと推認でき、このような事前の不確定な意思内容が、家人との遭遇時に確定的な強盗の犯意となって現れ、ここにおいて金品を強奪することを決意し、家人に暴行を加えたと推認できる。
強盗の犯意を認定
 
◎解説 
本判決は、自白の信用性の判断手法に対して消極的な評価。

録音・録画は、
自白の任意性の効果的な立証という観点のほか、
氷見事件、志布志事件、足利事件など冤罪問題の顕在化によって活性化した取調べの可視化の議論、特に、無罪となった障害者郵便割引制度不正利用事件の捜査の在り方を契機として、平成22年に法務省が設置した「検察の在り方検討会議」の提言の中で、「取調べや供述調書に過度に依存した捜査・公判からの脱却」という提言等を受けて導入されたもの。
but
その後、録音・録画が補助証拠として自白の信用性判断のために利用されるようになっただけでなく、
さらに、検察官の側から、録音・録画を、実質証拠として活用する方法が積極的に主張されるようになった。

弁護人の側からは、
従前、録音・録画を補助証拠として利用できることは前提にした上で実質証拠としての利用の可否が議論されることが多かったが、
自白の任意性・信用性判断として取り調べた録音・録画が実質証拠として機能したといわれる今市事件を契機として、
録音・録画の実質証拠化に反対する主張が多くみられるようになった

学説:
録音・録画の実質証拠としての利用に積極的な見解もみられるが、
多くの学説は消極的な見解に立っている。

録音・録画を実質証拠として用いることには慎重な検討が必要である旨判示した裁判例として東京高裁H28.8.10があり、同判決においても、捜査機関の管理下で行われた取調べにおける被告人の供述から、供述態度による信用性の判断は困難である旨指摘。
本件は、その具体例の1つ。
 
●中止未遂の成否と中止行為 
   
刑法 第43条(未遂減免) 
犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。
 
◎原審:
刑法43条ただし書の「犯罪を中止したとき」に当たるかどうかの判断において、
「客観的に人を死亡させる危険性の高い行為、すなわち、殺人罪に該当する行為を行うことにより、そのまま放置すれば犯罪の結果が生じかねない状況を作出した場合は、この結果の発生を防止する措置を行ったかどうかを検討すべきである」旨の解釈を示し、
「本件は結果が生じかねない状況を作出した場合に当たるのに、被告人は結果の発生を防止する措置を行わなかった」と判示。
 
◎判断:
原判決の解釈を前提としつつも、
「本件は、被告人が被害者に暴行を加え、これにより殺人罪に該当する行為を行ったものの、そのまま放置すれば犯罪の結果が生じかねない状況を作出した場合には当たらない」旨判示。 
 
◎現在は、実行行為の終了時期の議論を経ることなく、端的に中止行為に該当するためには何が必要かを考えれば足りるとするのが通説。
この場合、因果関係を遮断しなければ結果が発生してしまう状態が生じたかどうかによって、中止行為に作為が必要か、不作為で足りるかを区別する見解が多い。 
 
●強盗殺人罪を含む事案における死刑の選択の基準 
   
刑法 第240条(強盗致死傷)
強盗が、人を負傷させたときは無期又は六年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑又は無期懲役に処する。
 
◎原審:
強盗殺人罪の法定刑は死刑又は無期懲役
⇒2名を殺害していながら無期懲役が選択されるのは、死刑を回避する特別な事情がある場合だえると認められる。 
 
◎判断
刑法240条後段の法定刑の内容から直ちに、殺害の被害者が2名であれば原則として死刑を選択すべきである旨の解釈を導くことができるとは考えられない。

殺害された被害者が2名の事案の場合に、死刑を選択するのが原則的であるとか、無期懲役を選択するのは特別な事情が存在する例外的な場合であるなどといえるような量刑傾向ないし量刑状況があるとは考えられない。

むしろ、2名が殺害されるという重大な結果が生じていることを念頭に置きつつも、改めて、当該事案の内容を踏まえながらそのような結果が生じた経緯等について吟味し、罪を犯した者に最大限の非難を向けることが疑問なくできるかどうか、できるとすればその合理的な根拠は何かについて、可能な限り慎重に検討を進めるべきである。

結論としては、原審の死刑の選択を維持したが、強盗殺人における死刑選択の基準については原判決と異なる基準を示した。
 
◎解説 
氷山事件判決(最高裁昭和58.7.8):
犯行の罪質、動機、態様ことに殺害手段方法の執拗性・残虐性、結果の重大性ことに殺害された被害者の数、遺族の被害感情、社会的影響、犯人の年齢、前科、犯行後の情状等各般の情状を併せて考慮し、と判示。

統計的に最も大きな要素となっているのは死亡した被疑者の数であり、
死亡被害者が2名の強盗殺人事件では、約66%について死刑が宣告され、無期懲役が宣告されたのは34%。

裁判員裁判の評議に当たっては、これまでのおおまかな量刑の傾向を裁判体の共通認識とした上で、これを出発点として当該事案にふさわしい評議を深めていくことが求められ、この傾向を踏み出す量刑をすることについては、具体的、説得的論拠が示される必要がある(最高裁H26.7.24)。

判例時報2352

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2018年1月16日 (火)

第一種少年院に送致した原決定の処分が、著しく不当であるとして、取り消された事例

大阪高裁H28.11.10      
 
<事案> 
少年(非行時17歳)が約2か月の間に、
①原動機付き自転車の無免許運転をし
②共犯少年と共謀の上、歩道上の車止め3本を数人共同して損壊し
③普通乗用自動車の無免許運転をした
事案。 
 
原審:短期間の処遇勧告を付して少年を第1種少年院に送致
⇒少年は、処分の著しい不当を理由に抗告
⇒本決定:抗告に理由があるものと認め、原決定を取り消して、事件を原審に差し戻した。
 
<解説> 
●非行事実と要保護性 
少年法は、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うことを目的として(少年法1条)、
罪を犯した少年等を対象に、
要保護性の程度に応じて、
保護観察や少年院送致等の保護処分を用意。(同法3条、24条)

非行事実には、少年の資質・環境に関する問題点が顕在化しているといえる
⇒非行事実の罪責(行為の客観的な悪質性のほか、少年がそのような非行に及んだことに対する非難の強さ)を検討することは、少年の要保護性の程度を判断する上で重要。

要保護性の検討の方が(量刑の検討よりも)、より動機、経緯、少年の性格等の背景事情等も踏まえ、なぜ少年が当該非行に及んでしまったのかという観点からの検討に重きがおかれる。

保護処分は、少年に対して性格の矯正や環境の調整を行うもの
⇒要保護性を判断する上では、
少年の資質や環境の各問題点を、鑑別所技官及び家庭裁判所調査官の各報告書や審判廷における尋問等を通じて、直接的に検討することも重要。

多くの場合、非行事実の重大性と要保護性とは相関関係にある
but
場合によっては、非行事実の検討だけでは必ずしも明らかにならなかった少年の資質あるいは環境に関する問題点の実情が明らかとなって、非行事実で検討したところよりも要保護性が高いと判断されたり、
逆に、非行事実で検討したところほど要保護性は高くないと判断されたりすることもあり得る。
 
●本件について 
◎ 本件各非行事実は、それだけに着目すれば重大な事案ではない
原決定のように少年院送致を結論づける文脈において悪質な非行と評価するためには、そのことを合理的に根拠付け得る理由が必要になる。

原決定が指摘する少年の資質傾向や問題点は、非行に及ぶ少年であれば大かれ少なかれ有している。
本件各非行は重大な事案ではない⇒そのような資質傾向等が本件各非行に結びついていることを明らかにしても、そのことから直ちに、資質傾向等に根深い問題があるとはいえない。
少年の非行歴や本件各非行前後の行動等⇒その顕在化は一時的なもの⇒少年の資質傾向は施設収容しなければ改善できないほど深刻なものであるとはいえない

◎少年の資質等の問題の根深さを量るためには、
非行時だけでなく、
その資質等が顕在化した非行歴の有無・内容、
非行前後に少年が取った行動、
少年が持っている良い資質等も併せて考慮し、
資質等を強制して再非行を防止することの難易度を検討しなければならない。
多角的な検討が不可欠

◎保護者に監護意欲が欠如しているとか、監護意欲はあるものの看護方法が甚だしく不適切で改善の見通しも立たないとか、少年と保護者の基本的な親子関係に問題があってそれが少年の更生の妨げになるとか、少年が家庭から離反してしまっている

保護者による教育に期待することはできない
⇒施設収容に傾く
少年の資質上の問題等が根深い⇒専門的で系統的な矯正教育が必要
⇒保護環境の問題点を検討するまでもなく、施設収容に傾くことが多い。

一般短期処遇勧告付きの事案には、収容処分が相当なのか在宅処遇がまだ行えるのかなど、収容処分相当性の判断が微妙となる事案が含まれていることが少なくない。 

判例時報2350

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2018年1月10日 (水)

関税法違反とWTO農業協定の効力(直接効力を否定)

東京高裁H28.8.26      
 
<事案>
食料品等の販売及び輸入等の事業を営む被告会社の実質的経営者である被告人が、カナダ等から外国産冷凍豚部分肉を輸入するに当たり、豚肉の単位が関税負担の最小となる分岐点価格に近似する価格であるかのように仮装し、不正に関税を免れようと企て、虚偽の価格を記載した仕入書(インボイス)に基づいて、内容虚偽の輸入申告を行い、その都度輸入許可を受けて、関税合計17億4919万3000円を免れたという関税法違反の事案。
 
<判断・解説>
●法令適用の主張について
WTO農業協定4条2項は、我が国の裁判規範として直接適用されるものではなく、関税暫定措置法2条2項、別表第1の3は、WTO農業協定に違反して無効となるものではないとして、一審判決を是認。 

◎ 条約の国内効力の問題と条約の直接適用可能性の問題は区別されるべき。 
条約の直接適用可能性の有無については、条約当事者の意思(主観的基準)及び規定の明確性(客観的規準)によって決するのが相当。
その場合、一般に、条約自体は、締結した当事国が、その国際義務の遵守を要求することができるにとどまり、国家は国内法秩序における条約の実現について任されているのであって、これが国民の権利義務にかかわる裁判規範たり得るためには、条約当事国が直接適用する意思をもって条約を締結した場合に限られ、規定の明確性は、条約を直接適用するという条約当事国の意思の存在を前提に、私人の権利を規定する裁判規範として備えるべき要件にほかならない。

◎ WTO規定は、加盟国間の紛争に関して統一的に適用される紛争解決手続を規定し、加盟国に対し、同協定を巡る紛争について、すべて司法に準じたことの規則及び手続に従って解決することを義務付け、
加えて、紛争当事国間で事前に行われる協議に関しても規定して、
国内における司法審査においては、このような協議等の機会を奪われることになる

我が国の意思としては、協定違反の是正について、国内における司法審査を前提としていないものと解するのが相当
主要加盟国であるアメリカ合衆国及びEU(欧州連合)が、直接適用可能性を明示的に否定。

我が国は、特段の意思により直接適用を肯定した条項を除いたその他のWTO協定について、直接適用可能性を有するものとしてこれを締結したと解することはできない

WTO農業協定4条2項の直接適用可能性を否定。

●解説
条約が国内的効力を有するか否かについては、各国によって異なるが、
我が国においては、条約の誠実順守義務を定めた憲法98条2項の趣旨から、
条約は批准・公布により、国内法固有の形式に変形することなく、すなわち特段の立法措置を待つまでもなく、そのまま国法の一形式として受容されて、国内的効力を有すると解されている(包括的受容説)。
but
条約は、その国内的実施方法の観点から、
それ自体がそのまま「直接適用可能な」(または、「自動執行的な」)条約と、
立法措置など何らかの国内的措置を通じていわば間接的に適用される条約
に区別される。

条約の直接適用可能性の基準については、
直接適用可能か否かが問題とされるのは条約全体ではなく、個々の規定であり、まずは条約全体について検討し、次に個々の規定について検討されることが多いとした上で、
主観的基準(条約当事国の意思)と
客観的基準(規定の明確性)
を考察して直接適用可能性の有無を判断

 
●量刑不当の論旨について 
関税法違反の事案における量刑において重視すべきは、保護すべき当該国内産業に対する侵害の程度であって、当該輸入貨物の内容・性質、量及び価格並びに当該輸入取引の内容等を総合考慮して判断するのが相当であり、
ほ脱額及びほ脱率は、保護すべき当該国内差b業に及ぼす影響の程度を示す指標として把握するのが相当。

判例時報2349

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2018年1月 9日 (火)

オウム真理教事件に関与し逃亡していた被告人の事案

東京高裁H28.9.7      
 
<事案>
オウム真理教による一連の組織的犯行の後に逃亡⇒17年後に逮捕起訴。
裁判員裁判で、全事件について故意及び共謀等を争ったが、全事件について共同正犯として有罪で、無期懲役。
⇒控訴。
 
<規定>
刑訴法 第157条の3〔証人尋問の際の証人と被告人・傍聴人との間の遮蔽措置〕
裁判所は、証人を尋問する場合において、犯罪の性質、証人の年齢、心身の状態、被告人との関係その他の事情により、証人が被告人の面前(次条第一項に規定する方法による場合を含む。)において供述するときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認める場合であつて、相当と認めるときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、被告人とその証人との間で、一方から又は相互に相手の状態を認識することができないようにするための措置を採ることができる。ただし、被告人から証人の状態を認識することができないようにするための措置については、弁護人が出頭している場合に限り、採ることができる。
②裁判所は、証人を尋問する場合において、犯罪の性質、証人の年齢、心身の状態、名誉に対する影響その他の事情を考慮し、相当と認めるときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、傍聴人とその証人との間で、相互に相手の状態を認識することができないようにするための措置を採ることができる。
 
憲法 第37条〔刑事被告人の諸権利〕
すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
②刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。

憲法 第82条〔裁判の公開〕
裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。

刑訴法 第281条〔公判期日外の証人尋問〕
証人については、裁判所は、第百五十八条に掲げる事項を考慮した上、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き必要と認めるときに限り、公判期日外においてこれを尋問することができる。

刑訴法 第158条〔裁判所外・現在場所での証人尋問〕
裁判所は、証人の重要性、年齢、職業、健康状態その他の事情と事案の軽重とを考慮した上、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、必要と認めるときは、裁判所外にこれを召喚し、又はその現在場所でこれを尋問することができる。
 
<判断・解説> 
●証人尋問に係る訴訟手続の法令違反 
◎証人尋問請求の却下 
教団代表者及び共犯者1名に対する証人尋問請求の却下の違法性を主張
but
両証人の必要性は乏しく所論の違法はない。
 
◎死刑確定者5名の証人尋問における遮へい措置 
最高裁H17.4.14に従って、刑訴法157条の3第2項は憲法37条1項、2項、82条1項に違反しない。
裁判の公開は証人の供述態度や表情を傍聴人に認識させることは要請していない
②本件は一連のオウム真理教事件の一部である
③死刑確定者が、一般的な証人とは異なる心身の状態にあることは容易に推察され、刑事収容法32条1項に沿って死刑確定者の心情の安定に配慮する必要がある
遮へい措置は不要であるという証人の上申には拘束されない

原審の措置に違法はない。

刑訴法157条の3第2項は、「犯罪の性質、証人の年齢、心身の状態、名誉に対する影響その他の事情を考慮し、相当と認めるときは」と定めているところ、
本判決は、遮へい措置をとる積極的な事情としては、事件の性質と死刑確定者の心情の安定を指摘するにとどめている。
 
公判期日外における証人尋問の実施 
①事件の重大性、
②証人の重要性、
③同証人は再度出頭すれば報道されて失職するおそれがあり、出頭に伴う負担や影響が相当大きい、
④勾引すればかえって失職の可能性が高まる、
⑤裁判員の心証形成のためには審理計画のとおり訴因ごとの証拠調べが望ましい
⇒原審の措置に違法なし。

尚、脅迫の被害者で多忙な国会議員の証人尋問を受訴裁判所外で行った措置を適法とした事例(東京高裁H20.9.29)
 
●VX事件(殺人、同未遂) 
教団関係者が教団の敵対者とされた被害者2名に神経剤VXをかけた殺人及び殺人未遂
被告人は、運転手又は実行役の同行者などとして関与
 
◎殺意 
①被告人が本件前の別の被害者にVXをかけた事件に際し、共犯者からポアするなどと聞いた
②被告人はポアが殺人を意味することは分かっていた

被告人は本件謀議の場に居合わせて話合いの意味を理解し、
VXの殺傷能力も認識していた

被告人は、各被害者にVXをかけることについて、人を死亡させる危険性が高い行為をあえて行うという、殺意と評価できる認識を有していた。
 
◎共同正犯 

原判決:
運転手として重要な役割を果たし(V1事件)、又は実行役に同行して実行行為に準じた重要な行為をした(V2事件)という客観的事情
VX事件は強い精神的一体性を有する教団に属する被告人の目的でもあり、被告人は自己の宗教的な利益を得ようとしたことなどの主観的事情
被告人は自己の犯罪を犯したと評価できるとして共同正犯の成立を認めた。

本判決は、原判決の判断も是認し
運転手が代替可能であることや犯行の計画に関与していないことは、直ちに役割の重要性を否定しない。
ただし、「実行行為を担当するなど、結果発生のために重要な寄与をしている場合は、それ自体だけでも自己の犯罪を犯したと評価するのに大きな事情となるはずである。」と説示し、原判決よりも客観的な寄与を重視している。
 
●V3事件 
教団関係者が、教団信者の実兄V3を自働車に押し込み、教団施設に連れ込んで監禁し、大量の麻酔剤を投与して意識喪失に陥らせて死亡させ、その死体を焼却した事案。
被告人は、被害者を車に押し込んで教団施設に運び込み、死体を焼却場所に運ぶなどして関与した。
 
◎逮捕監禁についての意思連絡 
共謀の前提となる構成要件的故意の内容としても、自己の行為が人の身体・行動の自由を侵害するものであることを認識認容していれば足りる。

被告人は、被害者を逮捕監禁することの認識は十分有しており、被害者を自動車に押し込む時点で麻酔剤を投与することまで認識していたと認められないことは、逮捕監禁の意思連絡を認定する妨げにはならない。

被告人は被害者を車内に押し込んでから教団施設に至る間において、実際に被害者が注射をされて意識を失ったことを認識しながら行動を共にしている

薬物を使用して被害者を意識喪失状態にして監禁することについての意思連絡も認められる。
 
◎致死結果への帰責性 

原判決:
薬物使用に関する被告人の認識及び意思連絡を積極的に認定していなかったが、致死罪の成立については、被告人が本件逮捕監禁の主要部分(骨格)について共犯者と意思連絡をしたと評価できる以上、その逮捕監禁の流れの中で、被告人が事前に認識していなかった共犯者の行為(麻酔剤の投与)があったとしても、その行為による致死結果についても責任を負う。

共犯者の一部が具体的な意思連絡の範囲を超えて過剰な行為に出たとしても、同一罪名及びその結果的加重犯については、他の共犯者も同一の罪責を負うとの法解釈に基づくもの。

本判決:
薬物使用を監禁の手段とすることについても意思連絡があったという事実認定を前提に、
麻酔薬の投与は全て逮捕監禁の手段であり、教団施設に運び込まれるまでに投与された麻酔薬が被害者に蓄積され、副作用の発生に影響を与えている
⇒その後の投与を被告人が知らなかったとしても、被告人には薬物が監禁の手段として使用されていることの認識が認められ、使用された薬物が死亡の結果発生に影響を与えている以上、致死結果についての帰責性は否定されない
 
●地下鉄サリン事件(殺人、同未遂) 
教団関係者が、東京都心を走行中の5つの地下鉄電車内で猛毒のサリンを発散させ、多数の死傷者を出した事案。
被告人は実行役5名のうち1名を自働車で送迎。
 
◎殺意・共謀について 
以下の原判決を是認
①本件前にボツリヌストキシンを駅構内に噴霧させようとしたアタッシュケース事件に関与した
②その後、共犯者から一斉に地下鉄に撒くなどの指示を聞き、不特定多数の乗客等に危害を加えると理解した
③サリンに関する教団代表者の説法や報道を通じて、地下鉄に撒くものが猛毒のサリンである可能性を容易に思い浮かぶ状況にあった
④実行役が車内に戻ってくると、体調の異変を感じて換気をし、中毒を心配して注射を打ってもらった
⑤VX事件、V3事件を通じて、人命を軽視する教団の体質を感じ取っていた

故意を認定

サリンを撒くと被告人に言った等の共犯者供述は全面的に信用できない⇒サリンであると確定的に認識していたとは認められない。
but
被告人は、実行役が地下鉄電車内にサリンの可能性を含む、人を死亡させる危険性が高い行為をあえてするという殺意と評価できる認識を有していた

共謀について:
被告人は地下鉄に撒くものにつき前記認識の限度で意思連絡をしたと認めた上、被告人の関与に係る客観的・主観的事情を総合して、これを肯定
 
◎訴因逸脱認定・不意打ち認定の主張 

判断:
原審検察官が殺意について確定的な内容のみを主張し、未必的な認識を排除する主張をしていたとは認められず、検察官の確定的な殺意の主張と異なる被告人に有利な殺意が認定されたとしても、これは訴因事実に内包されている

訴因外の認定にも不意打ちにもならない

確定的な殺意の主張に対して未必的な殺意の限度で認定する場合、縮小認定として訴因変更は要しないとされており、特段の争点顕在化措置もとらないことが多い。
 
●都庁爆発物事件(爆発物取締罰則違反、殺人未遂) 
教団関係者が、書籍型爆発物を製造して東京都知事宛てに郵送し、これを開披したと職員に傷害を負わせたという爆発物取締罰則違反及び殺人未遂。
被告人は爆発物の製造に関与。
 
◎次の原判決を肯定:
殺人の実行行為について、当該行為が人を死亡させる現実的危険性のある行為であるといえることが必要
爆発による結果、爆発物の構造・外観・威力を検討して、これを肯定。
 
◎弁護人:
原判決が、捜査段階で本件爆発物に関する鑑定をした警視庁科学捜査研究所職員の証言によって、人が死亡する爆風圧の数値を認定したことにつき(本件爆博物の爆風圧はこれを上回る)、この数値についての証言は、専門的知見のない証人が文献の内容を供述した伝聞証拠であるとして、訴訟手続の法令違反を主張。
 
本判決:
専門家証人の供述中に非体験事実が含まれていたとしても、
専門的知見の前提としてその専門分野で所与のものとして共有されている事柄や、専門的知見に基づいて合理性や妥当性を有すると判断された内容に関する事項についての供述は、事実認定を誤らせるおそれが乏しい

体験事実に準じるものとして、伝聞供述とはならず、証拠能力を肯定してよい

判例時報2349

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2017年12月26日 (火)

裁判員への声かけ事件

福岡地裁H29.1.6      
 
<規定>
裁判員の参加する刑事裁判に関する法律 第107条(裁判員等に対する威迫罪)
被告事件に関し、当該被告事件の審判に係る職務を行う裁判員若しくは補充裁判員若しくはこれらの職にあった者又はその親族に対し、面会、文書の送付、電話をかけることその他のいかなる方法をもってするかを問わず、威迫の行為をした者は、二年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。

裁判員の参加する刑事裁判に関する法律 第106条(裁判員等に対する請託罪等)
法令の定める手続により行う場合を除き、裁判員又は補充裁判員に対し、その職務に関し、請託をした者は、二年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。
 
■①判決
Vが裁判員A及びBに発した言葉は、「あんた裁判員やろ」「俺、同級生なんよ」「Xの同級生なんよ」「あんたらの顔は覚えとるけね」「Xは同級生だから、よろしくね」

前提事実⇒Vは、自らの行為によって裁判員らがC会親交者に顔を覚えられたなどの不安や困惑を覚えることは認識していた(=威迫の故意あり)。
Vの「よろしくね」との発言の趣旨が、裁判員らに対し、Xに有利な判断をしてほしいという依頼の意味であり、この意味を分かって発言に及んだ(=請託の故意あり)

威迫罪及び請託罪の成立を肯定

懲役1年、3年間執行猶予

■②判決
Wが裁判員A及びBに発した言葉についての認定:
「明後日も来るんやろ」「裁判員も大変やね」
判決や刑の重さは裁判員の意見で決まるわけではないという趣旨の文言や、
もうある程度は裁判の結果あるいは判決は決まっているんだろうという趣旨の文言
「いろいろ言っても変わらんもんね」
 
●威迫罪の認定
「威迫の行為」(裁判員法107条1項)とは、相手に対して言葉・動作をもって気勢を示し、不安・困惑を生じさせる行為を言う。

言葉の内容のほか、声かけがなされた経緯やWの風貌を総合
気勢を示す行為に当たる。
威迫の故意も認定。
 
●請託罪の認定 
「請託」(裁判員法106条1項)とは、裁判員又は補充裁判員としての職務に関する事項についての依頼をいい、黙示のものも含む

本件では否定。
⇒威迫罪のみ。

懲役9月、3年間執行猶予。

判例時報2348

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2017年12月24日 (日)

再審請求において、捜査機関の保管する全証拠の一覧表を弁護人に交付するよう決定書をもって命じた事例

大阪地裁H27.1.14      
 
<事案>
再審請求審において、裁判所が、書面による決定という形で、検察官に対して、弁護人への証拠の一覧表の交付を命じた事例。 
 
<解説>
●本決定は、弁護人が、検察官に対し、本件捜査の開始から再審請求後の補充捜査までに収集された全証拠の開示を求めたのに対してなされたもの。 
証拠自体の開示は、具体的に特定していないことを理由に認めなかったが、
全証拠の一覧表の交付を認めた

一覧表の交付についての必要性、相当性
←「弁護人が開示を求める証拠と具体的に特定するすることは、相当な困難が伴い、ひいては、本件再審請求事件の迅速な判断が阻害されるおそれがある」
 
●刑訴法は、再審の審理の仕方についてはほとんど手続規定をおいておらず、再審請求審が職権主義的審理構造
⇒審理の進め方は裁判所の合理的な裁量による
⇒証拠開示をどのように考えるかは、裁判所によって相当取り扱いが異なる。 
裁判所が新証拠の発見に資するべく、訴訟指揮権に基づき証拠開示を命じることは現行法上許容されないという考えも根強い。

証拠開示を命じた昭和44年決定や、刑訴法の証拠開示の規定は、通常第一審の手続に関するもので、再審請求手続には適用がなく、
請求人において再審理由を基礎付ける証拠とを提出することが必要とされている。

判例時報2347

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