刑事

2018年2月 8日 (木)

強盗の犯意の認定、殺人の中止未遂の認定、強盗殺人での死刑選択の基準

名古屋高裁H27.10.14      
 
<事案>
被告人が、金品窃取の目的で民家に侵入し、家人に発見された
⇒居直り強盗を決意して、家人2名を殺害し、1名に重傷を負わせ、現金等を奪った住居侵入、強盗殺人及び強盗殺人未遂。

被告人が以前に在籍していた大学の更衣室で携帯電話機1台を盗み、民家の駐車場に駐車していあった普通乗用自動車1台及びその積載品2点を盗んだ各窃盗。 
 
<原審>
死刑 
 
<判断・解説>
●強盗の犯意の認定
◎原審:
検察官による被告人の取調状況を録音・録画した記録媒体や被告人との接見時の供述内容を取りまとめた弁護人作成の供述録取書を取調べ

検察官の取調べ時の被告人の供述態度や供述内容から、被告人の検察官調書の信用性は高く、弁護人作成の供述録取書やこれに沿う被告人の公判供述のうち、被告人の検察官調書と整合しない部分は信用できない
⇒強盗の犯意を認定。

◎判断:
検察官調書のうち、最初に遭遇した家人に暴行を加えた際に強盗の犯意を有していた旨述べる部分は、被告人が進んで心理状態を振り返った上、自発的に不利な内容を述べたものとは評価できず、むしろ、反省していないと受け取られるのを恐れるなどした結果、検察官の推測内容をもって自己の供述内容とすることを受け入れたものである可能性を否定できない
それ自体に十分な証拠価値を認め得る性質のものとはいえないとして、被告人の検察官調書の信用性に関する原判決の判断を否定

本件の事実関係

被告人は、侵入前の時点で、家人と遭遇して騒がれたり抵抗にあったりする事態を予想し、その場合にあらかじめ用意していたモンキーレンチやクラフトナイフを用いて暴行を加え、反抗を抑圧して金品を奪い取ることになるかもしれないことを考えていたと推認でき、このような事前の不確定な意思内容が、家人との遭遇時に確定的な強盗の犯意となって現れ、ここにおいて金品を強奪することを決意し、家人に暴行を加えたと推認できる。
強盗の犯意を認定
 
◎解説 
本判決は、自白の信用性の判断手法に対して消極的な評価。

録音・録画は、
自白の任意性の効果的な立証という観点のほか、
氷見事件、志布志事件、足利事件など冤罪問題の顕在化によって活性化した取調べの可視化の議論、特に、無罪となった障害者郵便割引制度不正利用事件の捜査の在り方を契機として、平成22年に法務省が設置した「検察の在り方検討会議」の提言の中で、「取調べや供述調書に過度に依存した捜査・公判からの脱却」という提言等を受けて導入されたもの。
but
その後、録音・録画が補助証拠として自白の信用性判断のために利用されるようになっただけでなく、
さらに、検察官の側から、録音・録画を、実質証拠として活用する方法が積極的に主張されるようになった。

弁護人の側からは、
従前、録音・録画を補助証拠として利用できることは前提にした上で実質証拠としての利用の可否が議論されることが多かったが、
自白の任意性・信用性判断として取り調べた録音・録画が実質証拠として機能したといわれる今市事件を契機として、
録音・録画の実質証拠化に反対する主張が多くみられるようになった

学説:
録音・録画の実質証拠としての利用に積極的な見解もみられるが、
多くの学説は消極的な見解に立っている。

録音・録画を実質証拠として用いることには慎重な検討が必要である旨判示した裁判例として東京高裁H28.8.10があり、同判決においても、捜査機関の管理下で行われた取調べにおける被告人の供述から、供述態度による信用性の判断は困難である旨指摘。
本件は、その具体例の1つ。
 
●中止未遂の成否と中止行為 
   
刑法 第43条(未遂減免) 
犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。
 
◎原審:
刑法43条ただし書の「犯罪を中止したとき」に当たるかどうかの判断において、
「客観的に人を死亡させる危険性の高い行為、すなわち、殺人罪に該当する行為を行うことにより、そのまま放置すれば犯罪の結果が生じかねない状況を作出した場合は、この結果の発生を防止する措置を行ったかどうかを検討すべきである」旨の解釈を示し、
「本件は結果が生じかねない状況を作出した場合に当たるのに、被告人は結果の発生を防止する措置を行わなかった」と判示。
 
◎判断:
原判決の解釈を前提としつつも、
「本件は、被告人が被害者に暴行を加え、これにより殺人罪に該当する行為を行ったものの、そのまま放置すれば犯罪の結果が生じかねない状況を作出した場合には当たらない」旨判示。 
 
◎現在は、実行行為の終了時期の議論を経ることなく、端的に中止行為に該当するためには何が必要かを考えれば足りるとするのが通説。
この場合、因果関係を遮断しなければ結果が発生してしまう状態が生じたかどうかによって、中止行為に作為が必要か、不作為で足りるかを区別する見解が多い。 
 
●強盗殺人罪を含む事案における死刑の選択の基準 
   
刑法 第240条(強盗致死傷)
強盗が、人を負傷させたときは無期又は六年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑又は無期懲役に処する。
 
◎原審:
強盗殺人罪の法定刑は死刑又は無期懲役
⇒2名を殺害していながら無期懲役が選択されるのは、死刑を回避する特別な事情がある場合だえると認められる。 
 
◎判断
刑法240条後段の法定刑の内容から直ちに、殺害の被害者が2名であれば原則として死刑を選択すべきである旨の解釈を導くことができるとは考えられない。

殺害された被害者が2名の事案の場合に、死刑を選択するのが原則的であるとか、無期懲役を選択するのは特別な事情が存在する例外的な場合であるなどといえるような量刑傾向ないし量刑状況があるとは考えられない。

むしろ、2名が殺害されるという重大な結果が生じていることを念頭に置きつつも、改めて、当該事案の内容を踏まえながらそのような結果が生じた経緯等について吟味し、罪を犯した者に最大限の非難を向けることが疑問なくできるかどうか、できるとすればその合理的な根拠は何かについて、可能な限り慎重に検討を進めるべきである。

結論としては、原審の死刑の選択を維持したが、強盗殺人における死刑選択の基準については原判決と異なる基準を示した。
 
◎解説 
氷山事件判決(最高裁昭和58.7.8):
犯行の罪質、動機、態様ことに殺害手段方法の執拗性・残虐性、結果の重大性ことに殺害された被害者の数、遺族の被害感情、社会的影響、犯人の年齢、前科、犯行後の情状等各般の情状を併せて考慮し、と判示。

統計的に最も大きな要素となっているのは死亡した被疑者の数であり、
死亡被害者が2名の強盗殺人事件では、約66%について死刑が宣告され、無期懲役が宣告されたのは34%。

裁判員裁判の評議に当たっては、これまでのおおまかな量刑の傾向を裁判体の共通認識とした上で、これを出発点として当該事案にふさわしい評議を深めていくことが求められ、この傾向を踏み出す量刑をすることについては、具体的、説得的論拠が示される必要がある(最高裁H26.7.24)。

判例時報2352

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2018年1月16日 (火)

第一種少年院に送致した原決定の処分が、著しく不当であるとして、取り消された事例

大阪高裁H28.11.10      
 
<事案> 
少年(非行時17歳)が約2か月の間に、
①原動機付き自転車の無免許運転をし
②共犯少年と共謀の上、歩道上の車止め3本を数人共同して損壊し
③普通乗用自動車の無免許運転をした
事案。 
 
原審:短期間の処遇勧告を付して少年を第1種少年院に送致
⇒少年は、処分の著しい不当を理由に抗告
⇒本決定:抗告に理由があるものと認め、原決定を取り消して、事件を原審に差し戻した。
 
<解説> 
●非行事実と要保護性 
少年法は、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うことを目的として(少年法1条)、
罪を犯した少年等を対象に、
要保護性の程度に応じて、
保護観察や少年院送致等の保護処分を用意。(同法3条、24条)

非行事実には、少年の資質・環境に関する問題点が顕在化しているといえる
⇒非行事実の罪責(行為の客観的な悪質性のほか、少年がそのような非行に及んだことに対する非難の強さ)を検討することは、少年の要保護性の程度を判断する上で重要。

要保護性の検討の方が(量刑の検討よりも)、より動機、経緯、少年の性格等の背景事情等も踏まえ、なぜ少年が当該非行に及んでしまったのかという観点からの検討に重きがおかれる。

保護処分は、少年に対して性格の矯正や環境の調整を行うもの
⇒要保護性を判断する上では、
少年の資質や環境の各問題点を、鑑別所技官及び家庭裁判所調査官の各報告書や審判廷における尋問等を通じて、直接的に検討することも重要。

多くの場合、非行事実の重大性と要保護性とは相関関係にある
but
場合によっては、非行事実の検討だけでは必ずしも明らかにならなかった少年の資質あるいは環境に関する問題点の実情が明らかとなって、非行事実で検討したところよりも要保護性が高いと判断されたり、
逆に、非行事実で検討したところほど要保護性は高くないと判断されたりすることもあり得る。
 
●本件について 
◎ 本件各非行事実は、それだけに着目すれば重大な事案ではない
原決定のように少年院送致を結論づける文脈において悪質な非行と評価するためには、そのことを合理的に根拠付け得る理由が必要になる。

原決定が指摘する少年の資質傾向や問題点は、非行に及ぶ少年であれば大かれ少なかれ有している。
本件各非行は重大な事案ではない⇒そのような資質傾向等が本件各非行に結びついていることを明らかにしても、そのことから直ちに、資質傾向等に根深い問題があるとはいえない。
少年の非行歴や本件各非行前後の行動等⇒その顕在化は一時的なもの⇒少年の資質傾向は施設収容しなければ改善できないほど深刻なものであるとはいえない

◎少年の資質等の問題の根深さを量るためには、
非行時だけでなく、
その資質等が顕在化した非行歴の有無・内容、
非行前後に少年が取った行動、
少年が持っている良い資質等も併せて考慮し、
資質等を強制して再非行を防止することの難易度を検討しなければならない。
多角的な検討が不可欠

◎保護者に監護意欲が欠如しているとか、監護意欲はあるものの看護方法が甚だしく不適切で改善の見通しも立たないとか、少年と保護者の基本的な親子関係に問題があってそれが少年の更生の妨げになるとか、少年が家庭から離反してしまっている

保護者による教育に期待することはできない
⇒施設収容に傾く
少年の資質上の問題等が根深い⇒専門的で系統的な矯正教育が必要
⇒保護環境の問題点を検討するまでもなく、施設収容に傾くことが多い。

一般短期処遇勧告付きの事案には、収容処分が相当なのか在宅処遇がまだ行えるのかなど、収容処分相当性の判断が微妙となる事案が含まれていることが少なくない。 

判例時報2350

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2018年1月10日 (水)

関税法違反とWTO農業協定の効力(直接効力を否定)

東京高裁H28.8.26      
 
<事案>
食料品等の販売及び輸入等の事業を営む被告会社の実質的経営者である被告人が、カナダ等から外国産冷凍豚部分肉を輸入するに当たり、豚肉の単位が関税負担の最小となる分岐点価格に近似する価格であるかのように仮装し、不正に関税を免れようと企て、虚偽の価格を記載した仕入書(インボイス)に基づいて、内容虚偽の輸入申告を行い、その都度輸入許可を受けて、関税合計17億4919万3000円を免れたという関税法違反の事案。
 
<判断・解説>
●法令適用の主張について
WTO農業協定4条2項は、我が国の裁判規範として直接適用されるものではなく、関税暫定措置法2条2項、別表第1の3は、WTO農業協定に違反して無効となるものではないとして、一審判決を是認。 

◎ 条約の国内効力の問題と条約の直接適用可能性の問題は区別されるべき。 
条約の直接適用可能性の有無については、条約当事者の意思(主観的基準)及び規定の明確性(客観的規準)によって決するのが相当。
その場合、一般に、条約自体は、締結した当事国が、その国際義務の遵守を要求することができるにとどまり、国家は国内法秩序における条約の実現について任されているのであって、これが国民の権利義務にかかわる裁判規範たり得るためには、条約当事国が直接適用する意思をもって条約を締結した場合に限られ、規定の明確性は、条約を直接適用するという条約当事国の意思の存在を前提に、私人の権利を規定する裁判規範として備えるべき要件にほかならない。

◎ WTO規定は、加盟国間の紛争に関して統一的に適用される紛争解決手続を規定し、加盟国に対し、同協定を巡る紛争について、すべて司法に準じたことの規則及び手続に従って解決することを義務付け、
加えて、紛争当事国間で事前に行われる協議に関しても規定して、
国内における司法審査においては、このような協議等の機会を奪われることになる

我が国の意思としては、協定違反の是正について、国内における司法審査を前提としていないものと解するのが相当
主要加盟国であるアメリカ合衆国及びEU(欧州連合)が、直接適用可能性を明示的に否定。

我が国は、特段の意思により直接適用を肯定した条項を除いたその他のWTO協定について、直接適用可能性を有するものとしてこれを締結したと解することはできない

WTO農業協定4条2項の直接適用可能性を否定。

●解説
条約が国内的効力を有するか否かについては、各国によって異なるが、
我が国においては、条約の誠実順守義務を定めた憲法98条2項の趣旨から、
条約は批准・公布により、国内法固有の形式に変形することなく、すなわち特段の立法措置を待つまでもなく、そのまま国法の一形式として受容されて、国内的効力を有すると解されている(包括的受容説)。
but
条約は、その国内的実施方法の観点から、
それ自体がそのまま「直接適用可能な」(または、「自動執行的な」)条約と、
立法措置など何らかの国内的措置を通じていわば間接的に適用される条約
に区別される。

条約の直接適用可能性の基準については、
直接適用可能か否かが問題とされるのは条約全体ではなく、個々の規定であり、まずは条約全体について検討し、次に個々の規定について検討されることが多いとした上で、
主観的基準(条約当事国の意思)と
客観的基準(規定の明確性)
を考察して直接適用可能性の有無を判断

 
●量刑不当の論旨について 
関税法違反の事案における量刑において重視すべきは、保護すべき当該国内産業に対する侵害の程度であって、当該輸入貨物の内容・性質、量及び価格並びに当該輸入取引の内容等を総合考慮して判断するのが相当であり、
ほ脱額及びほ脱率は、保護すべき当該国内差b業に及ぼす影響の程度を示す指標として把握するのが相当。

判例時報2349

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2018年1月 9日 (火)

オウム真理教事件に関与し逃亡していた被告人の事案

東京高裁H28.9.7      
 
<事案>
オウム真理教による一連の組織的犯行の後に逃亡⇒17年後に逮捕起訴。
裁判員裁判で、全事件について故意及び共謀等を争ったが、全事件について共同正犯として有罪で、無期懲役。
⇒控訴。
 
<規定>
刑訴法 第157条の3〔証人尋問の際の証人と被告人・傍聴人との間の遮蔽措置〕
裁判所は、証人を尋問する場合において、犯罪の性質、証人の年齢、心身の状態、被告人との関係その他の事情により、証人が被告人の面前(次条第一項に規定する方法による場合を含む。)において供述するときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認める場合であつて、相当と認めるときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、被告人とその証人との間で、一方から又は相互に相手の状態を認識することができないようにするための措置を採ることができる。ただし、被告人から証人の状態を認識することができないようにするための措置については、弁護人が出頭している場合に限り、採ることができる。
②裁判所は、証人を尋問する場合において、犯罪の性質、証人の年齢、心身の状態、名誉に対する影響その他の事情を考慮し、相当と認めるときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、傍聴人とその証人との間で、相互に相手の状態を認識することができないようにするための措置を採ることができる。
 
憲法 第37条〔刑事被告人の諸権利〕
すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
②刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。

憲法 第82条〔裁判の公開〕
裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。

刑訴法 第281条〔公判期日外の証人尋問〕
証人については、裁判所は、第百五十八条に掲げる事項を考慮した上、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き必要と認めるときに限り、公判期日外においてこれを尋問することができる。

刑訴法 第158条〔裁判所外・現在場所での証人尋問〕
裁判所は、証人の重要性、年齢、職業、健康状態その他の事情と事案の軽重とを考慮した上、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、必要と認めるときは、裁判所外にこれを召喚し、又はその現在場所でこれを尋問することができる。
 
<判断・解説> 
●証人尋問に係る訴訟手続の法令違反 
◎証人尋問請求の却下 
教団代表者及び共犯者1名に対する証人尋問請求の却下の違法性を主張
but
両証人の必要性は乏しく所論の違法はない。
 
◎死刑確定者5名の証人尋問における遮へい措置 
最高裁H17.4.14に従って、刑訴法157条の3第2項は憲法37条1項、2項、82条1項に違反しない。
裁判の公開は証人の供述態度や表情を傍聴人に認識させることは要請していない
②本件は一連のオウム真理教事件の一部である
③死刑確定者が、一般的な証人とは異なる心身の状態にあることは容易に推察され、刑事収容法32条1項に沿って死刑確定者の心情の安定に配慮する必要がある
遮へい措置は不要であるという証人の上申には拘束されない

原審の措置に違法はない。

刑訴法157条の3第2項は、「犯罪の性質、証人の年齢、心身の状態、名誉に対する影響その他の事情を考慮し、相当と認めるときは」と定めているところ、
本判決は、遮へい措置をとる積極的な事情としては、事件の性質と死刑確定者の心情の安定を指摘するにとどめている。
 
公判期日外における証人尋問の実施 
①事件の重大性、
②証人の重要性、
③同証人は再度出頭すれば報道されて失職するおそれがあり、出頭に伴う負担や影響が相当大きい、
④勾引すればかえって失職の可能性が高まる、
⑤裁判員の心証形成のためには審理計画のとおり訴因ごとの証拠調べが望ましい
⇒原審の措置に違法なし。

尚、脅迫の被害者で多忙な国会議員の証人尋問を受訴裁判所外で行った措置を適法とした事例(東京高裁H20.9.29)
 
●VX事件(殺人、同未遂) 
教団関係者が教団の敵対者とされた被害者2名に神経剤VXをかけた殺人及び殺人未遂
被告人は、運転手又は実行役の同行者などとして関与
 
◎殺意 
①被告人が本件前の別の被害者にVXをかけた事件に際し、共犯者からポアするなどと聞いた
②被告人はポアが殺人を意味することは分かっていた

被告人は本件謀議の場に居合わせて話合いの意味を理解し、
VXの殺傷能力も認識していた

被告人は、各被害者にVXをかけることについて、人を死亡させる危険性が高い行為をあえて行うという、殺意と評価できる認識を有していた。
 
◎共同正犯 

原判決:
運転手として重要な役割を果たし(V1事件)、又は実行役に同行して実行行為に準じた重要な行為をした(V2事件)という客観的事情
VX事件は強い精神的一体性を有する教団に属する被告人の目的でもあり、被告人は自己の宗教的な利益を得ようとしたことなどの主観的事情
被告人は自己の犯罪を犯したと評価できるとして共同正犯の成立を認めた。

本判決は、原判決の判断も是認し
運転手が代替可能であることや犯行の計画に関与していないことは、直ちに役割の重要性を否定しない。
ただし、「実行行為を担当するなど、結果発生のために重要な寄与をしている場合は、それ自体だけでも自己の犯罪を犯したと評価するのに大きな事情となるはずである。」と説示し、原判決よりも客観的な寄与を重視している。
 
●V3事件 
教団関係者が、教団信者の実兄V3を自働車に押し込み、教団施設に連れ込んで監禁し、大量の麻酔剤を投与して意識喪失に陥らせて死亡させ、その死体を焼却した事案。
被告人は、被害者を車に押し込んで教団施設に運び込み、死体を焼却場所に運ぶなどして関与した。
 
◎逮捕監禁についての意思連絡 
共謀の前提となる構成要件的故意の内容としても、自己の行為が人の身体・行動の自由を侵害するものであることを認識認容していれば足りる。

被告人は、被害者を逮捕監禁することの認識は十分有しており、被害者を自動車に押し込む時点で麻酔剤を投与することまで認識していたと認められないことは、逮捕監禁の意思連絡を認定する妨げにはならない。

被告人は被害者を車内に押し込んでから教団施設に至る間において、実際に被害者が注射をされて意識を失ったことを認識しながら行動を共にしている

薬物を使用して被害者を意識喪失状態にして監禁することについての意思連絡も認められる。
 
◎致死結果への帰責性 

原判決:
薬物使用に関する被告人の認識及び意思連絡を積極的に認定していなかったが、致死罪の成立については、被告人が本件逮捕監禁の主要部分(骨格)について共犯者と意思連絡をしたと評価できる以上、その逮捕監禁の流れの中で、被告人が事前に認識していなかった共犯者の行為(麻酔剤の投与)があったとしても、その行為による致死結果についても責任を負う。

共犯者の一部が具体的な意思連絡の範囲を超えて過剰な行為に出たとしても、同一罪名及びその結果的加重犯については、他の共犯者も同一の罪責を負うとの法解釈に基づくもの。

本判決:
薬物使用を監禁の手段とすることについても意思連絡があったという事実認定を前提に、
麻酔薬の投与は全て逮捕監禁の手段であり、教団施設に運び込まれるまでに投与された麻酔薬が被害者に蓄積され、副作用の発生に影響を与えている
⇒その後の投与を被告人が知らなかったとしても、被告人には薬物が監禁の手段として使用されていることの認識が認められ、使用された薬物が死亡の結果発生に影響を与えている以上、致死結果についての帰責性は否定されない
 
●地下鉄サリン事件(殺人、同未遂) 
教団関係者が、東京都心を走行中の5つの地下鉄電車内で猛毒のサリンを発散させ、多数の死傷者を出した事案。
被告人は実行役5名のうち1名を自働車で送迎。
 
◎殺意・共謀について 
以下の原判決を是認
①本件前にボツリヌストキシンを駅構内に噴霧させようとしたアタッシュケース事件に関与した
②その後、共犯者から一斉に地下鉄に撒くなどの指示を聞き、不特定多数の乗客等に危害を加えると理解した
③サリンに関する教団代表者の説法や報道を通じて、地下鉄に撒くものが猛毒のサリンである可能性を容易に思い浮かぶ状況にあった
④実行役が車内に戻ってくると、体調の異変を感じて換気をし、中毒を心配して注射を打ってもらった
⑤VX事件、V3事件を通じて、人命を軽視する教団の体質を感じ取っていた

故意を認定

サリンを撒くと被告人に言った等の共犯者供述は全面的に信用できない⇒サリンであると確定的に認識していたとは認められない。
but
被告人は、実行役が地下鉄電車内にサリンの可能性を含む、人を死亡させる危険性が高い行為をあえてするという殺意と評価できる認識を有していた

共謀について:
被告人は地下鉄に撒くものにつき前記認識の限度で意思連絡をしたと認めた上、被告人の関与に係る客観的・主観的事情を総合して、これを肯定
 
◎訴因逸脱認定・不意打ち認定の主張 

判断:
原審検察官が殺意について確定的な内容のみを主張し、未必的な認識を排除する主張をしていたとは認められず、検察官の確定的な殺意の主張と異なる被告人に有利な殺意が認定されたとしても、これは訴因事実に内包されている

訴因外の認定にも不意打ちにもならない

確定的な殺意の主張に対して未必的な殺意の限度で認定する場合、縮小認定として訴因変更は要しないとされており、特段の争点顕在化措置もとらないことが多い。
 
●都庁爆発物事件(爆発物取締罰則違反、殺人未遂) 
教団関係者が、書籍型爆発物を製造して東京都知事宛てに郵送し、これを開披したと職員に傷害を負わせたという爆発物取締罰則違反及び殺人未遂。
被告人は爆発物の製造に関与。
 
◎次の原判決を肯定:
殺人の実行行為について、当該行為が人を死亡させる現実的危険性のある行為であるといえることが必要
爆発による結果、爆発物の構造・外観・威力を検討して、これを肯定。
 
◎弁護人:
原判決が、捜査段階で本件爆発物に関する鑑定をした警視庁科学捜査研究所職員の証言によって、人が死亡する爆風圧の数値を認定したことにつき(本件爆博物の爆風圧はこれを上回る)、この数値についての証言は、専門的知見のない証人が文献の内容を供述した伝聞証拠であるとして、訴訟手続の法令違反を主張。
 
本判決:
専門家証人の供述中に非体験事実が含まれていたとしても、
専門的知見の前提としてその専門分野で所与のものとして共有されている事柄や、専門的知見に基づいて合理性や妥当性を有すると判断された内容に関する事項についての供述は、事実認定を誤らせるおそれが乏しい

体験事実に準じるものとして、伝聞供述とはならず、証拠能力を肯定してよい

判例時報2349

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2017年12月26日 (火)

裁判員への声かけ事件

福岡地裁H29.1.6      
 
<規定>
裁判員の参加する刑事裁判に関する法律 第107条(裁判員等に対する威迫罪)
被告事件に関し、当該被告事件の審判に係る職務を行う裁判員若しくは補充裁判員若しくはこれらの職にあった者又はその親族に対し、面会、文書の送付、電話をかけることその他のいかなる方法をもってするかを問わず、威迫の行為をした者は、二年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。

裁判員の参加する刑事裁判に関する法律 第106条(裁判員等に対する請託罪等)
法令の定める手続により行う場合を除き、裁判員又は補充裁判員に対し、その職務に関し、請託をした者は、二年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。
 
■①判決
Vが裁判員A及びBに発した言葉は、「あんた裁判員やろ」「俺、同級生なんよ」「Xの同級生なんよ」「あんたらの顔は覚えとるけね」「Xは同級生だから、よろしくね」

前提事実⇒Vは、自らの行為によって裁判員らがC会親交者に顔を覚えられたなどの不安や困惑を覚えることは認識していた(=威迫の故意あり)。
Vの「よろしくね」との発言の趣旨が、裁判員らに対し、Xに有利な判断をしてほしいという依頼の意味であり、この意味を分かって発言に及んだ(=請託の故意あり)

威迫罪及び請託罪の成立を肯定

懲役1年、3年間執行猶予

■②判決
Wが裁判員A及びBに発した言葉についての認定:
「明後日も来るんやろ」「裁判員も大変やね」
判決や刑の重さは裁判員の意見で決まるわけではないという趣旨の文言や、
もうある程度は裁判の結果あるいは判決は決まっているんだろうという趣旨の文言
「いろいろ言っても変わらんもんね」
 
●威迫罪の認定
「威迫の行為」(裁判員法107条1項)とは、相手に対して言葉・動作をもって気勢を示し、不安・困惑を生じさせる行為を言う。

言葉の内容のほか、声かけがなされた経緯やWの風貌を総合
気勢を示す行為に当たる。
威迫の故意も認定。
 
●請託罪の認定 
「請託」(裁判員法106条1項)とは、裁判員又は補充裁判員としての職務に関する事項についての依頼をいい、黙示のものも含む

本件では否定。
⇒威迫罪のみ。

懲役9月、3年間執行猶予。

判例時報2348

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2017年12月24日 (日)

再審請求において、捜査機関の保管する全証拠の一覧表を弁護人に交付するよう決定書をもって命じた事例

大阪地裁H27.1.14      
 
<事案>
再審請求審において、裁判所が、書面による決定という形で、検察官に対して、弁護人への証拠の一覧表の交付を命じた事例。 
 
<解説>
●本決定は、弁護人が、検察官に対し、本件捜査の開始から再審請求後の補充捜査までに収集された全証拠の開示を求めたのに対してなされたもの。 
証拠自体の開示は、具体的に特定していないことを理由に認めなかったが、
全証拠の一覧表の交付を認めた

一覧表の交付についての必要性、相当性
←「弁護人が開示を求める証拠と具体的に特定するすることは、相当な困難が伴い、ひいては、本件再審請求事件の迅速な判断が阻害されるおそれがある」
 
●刑訴法は、再審の審理の仕方についてはほとんど手続規定をおいておらず、再審請求審が職権主義的審理構造
⇒審理の進め方は裁判所の合理的な裁量による
⇒証拠開示をどのように考えるかは、裁判所によって相当取り扱いが異なる。 
裁判所が新証拠の発見に資するべく、訴訟指揮権に基づき証拠開示を命じることは現行法上許容されないという考えも根強い。

証拠開示を命じた昭和44年決定や、刑訴法の証拠開示の規定は、通常第一審の手続に関するもので、再審請求手続には適用がなく、
請求人において再審理由を基礎付ける証拠とを提出することが必要とされている。

判例時報2347

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2017年11月28日 (火)

強盗致傷等被告事件について執行猶予とした裁判員裁判の判断が破棄された事例

東京高裁H28.6.30      
 
<事案>
被告人A・B両名が共謀して、深夜の住宅街の路上において、連続的に、通行中の3名の中年男性を襲った強盗致傷、強盗の事案(裁判員裁判) 
 
<一審>
①被害金額が多額で、致傷結果も重く、安易な動機、経緯で短期間に各犯行を累行⇒実刑に処することは十分あり得る。
②検察官主張の計画性は、この種犯行で通常行われるもので、特に非難されるべきものと評価できない。
③第3事件の被害者の傷害(骨折)は揉み合いの中で生じたもので、暴行は全体としてみると執拗又は強度なものであったと認めるに足りる証拠はない。
⇒本件が執行猶予を付することがあり得ない事件と断ずることはできない。

①全事件について示談が成立し、特に第3事件の被害者には合計100万円の示談金が支払われ、同人から宥恕の意思が示されている
②被告人両名が逮捕後自ら犯行を告白するなどして反省を深めている
③被告人両名には近親者等の監督者がいる
④被告人Aには懲役前科がなく、被告人Bには前科前歴がない

実刑しかあり得ないとは認められず、むしろ公的機関による指揮監督に服させた上で社会内で更生する機会を与えるのが相当。

被告人両名に対し、いずれも懲役3年、5年間保護観察付き執行猶予。
(検察官の求刑は、被告人Aについて懲役9年、被告人Bについて懲役8年)
 
<判断>
●原判決の量刑判断は是認できない。
 
●量刑の在り方 
行為責任の原則に従って、まず犯情の評価を基に当該犯罪にふさわしい刑の大枠を設定し、その枠内で一般情状を考慮して最終的な刑を決定すべきことは裁判員裁判でも同様であるが、
行為責任の原則に基づく量刑の大枠を定めるに当たっては、犯罪類型ごとに集積された量刑傾向を目安とすることが、量刑判断の公平性とプロセスの適正を担保する上で重要
 
●本件強盗致傷等事案についての犯情及び量刑傾向等 
本件事案の犯情の重さや量刑傾向を踏まえた量刑の大枠について検討。
強盗致傷の中の犯罪類型として見た場合、
2人がかりで暴行を加えるという方法で立て続けに3件の路上強盗を敢行し、2人に傷害を負わせたもの⇒そもそも全体の中で軽い部類に属するとは評価できず、行為態様、動機経緯、法益侵害の各点を総合しても、本件の犯情は、前記の犯罪類型の中でも中程度の部類に属する。
本件のような共犯による連続的な強盗致傷の類型のおおまかな傾向については、中心的な量刑は懲役4年6月以上懲役8年以下の範囲に収まっており、それがほぼ本件の量刑の大枠に相当。
 
●原判決の犯情評価等
そもそも強盗致傷の事件で刑の執行を猶予するという判断は、
当該事案が犯罪類型として極めて軽い部類に属すると判断することにほかならず
、特に、事後強盗を除く強盗致傷を複数犯した事案の量刑傾向を前提にすると、執行猶予の判断に至るのは例外的な事案に限られる

原判決が指摘する被告人らのために酌むべき一般事情を考慮しても、刑の執行を猶予した原判決は、これまでの量刑傾向の大枠から外れる量刑判断を行ったものと言わざるを得ない。
 
●量刑傾向を変容させる場合の量刑判断の在り方 
最高裁H26.7.24(平成26年最判)を引用しつつ、
これまでの量刑傾向を変容させる意図をもって行う量刑判断が公平性の観点から是認できるものであるためには、
従来の量刑傾向を前提とすべきでない事情の存在について裁判体の判断が具体的、説得的に判示される必要がある。

原判決がそのような意図をもって本件量刑を判断したとしても、その理由は何ら説明されていない。
⇒原判決の量刑を是認することはできない。


量刑不当を理由に原判決を破棄した上で、
被告人両名を実刑に処した(Aを懲役6年6月、被告人Bを懲役6年)

 
<解説>
平成26年最判:
夫婦である被告人らが共謀の上、1歳8か月の幼児の頭部を平手で1回強打して床に打ち付けて死亡させたという傷害致死の事案において、第1審判決が、これまでの量刑傾向から踏み出し、公益の代表者である検察官の懲役10年の求刑を大幅に超える懲役15年という量刑をすることについて、裁判体として具体的説得的な根拠を示しているとはいい難い⇒その量刑を是認した原判決について、量刑不当により破棄を免れない

責任は、単に刑罰を消極的に限定する(刑の上限を画する)だけでなく、刑罰を科する基礎としての役割を果たす(刑の下限を画する)こととなる
責任より重い刑はもちろん、軽い刑を言い渡すことも許されないとの見解が裁判実務上は有力。

執行猶予期間中に同種再犯に及んだ覚せい剤使用事案について執行猶予を付した原判決について、同種事案に関する量刑傾向に照らし、行為責任から大きく逸脱した不当に軽い量刑をしたもの⇒これを破棄し実刑に処した事例(大阪高裁H27.7.2)。

判例時報2345

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2017年11月21日 (火)

和歌山カレー事件再審請求棄却決定

和歌山地裁H29.3.29      
 
<事案>
和歌山カレー事件で死刑確定 

請求人は、夫に対する殺人未遂事件及びカレー毒物混入事件について、請求人が無罪であり、再審開始の理由がある旨主張して、94点もの新証拠を提出。
 
<主張>
カレー毒物混入事件に係る申立ての理由の骨子:

新証拠によれば
①請求人が1人で亜ヒ酸の混入されたカレーの見張り番をしていた時間帯があり、その際に不自然な言動をしていた旨の目撃証言に信用性がなく、
②カレー毒物混入事件に関係すると思料される各亜ヒ酸の同一性に関し、捜査段階において実施された警視庁科学警察研究所における異同識別鑑定及び東京理科大学理学部教授中井泉による異同識別鑑定並びに第一審公判段階において実施された大阪電気通信大学工学部教授谷口一雄と広島大学大学院工学研究科助教授早川慎二郎による異同識別鑑定が誤りであることが明らかとなっており、
③請求人の毛筆にヒ素の外部付着が認められるとする中井及び聖マリアンナ医科大学予防医学教室助教授山内博による毛髪に関する鑑定には信用性が無く、
④請求人以外の者にも犯行の機会があった
等というもの。 
 
<判断>
確定判決における証拠構造等を明らかにした上で、
新証拠について
①前記目撃証言に関するもの、
②異同識別三鑑定その他の亜ヒ酸の同一性に関するもの、
③毛髪鑑定に関するもの及び
④犯行機会に係るもの
などに区分。 

①③④については、確定判決の認定を動揺させるものではない。

②により、異同識別三鑑定から認められた間接事実のうち、
(A)夏祭り会場から押収された青色紙コップに付着していた亜ヒ酸及び請求人の周辺から発見された亜ヒ酸とは製造工場、原料鉱石、製造工程又は製造機会の異なる亜ヒ酸の中に原料鉱石に由来する微量元素の構成が酷似するものが存在せず、前記青色紙コップ付着の亜ヒ酸及び請求人の周辺から発見された亜ヒ酸が製造段階において同一とされた点、
(B)請求人の周辺から発見された亜ヒ酸の一部と前記青色紙コップ付着の亜ヒ酸に共通して含まれていたバリウムが製造後の使用方法に由来するとされた点
の2点については相当性を欠くといわざるを得ないものの、
前記青色紙コップ付着の亜ヒ酸及び請求にの周辺から発見された亜ヒ酸についていずれも原料鉱石に由来する微量元素の構成が酷似しているとされた点などについてはいささかの動揺も生じていない。
微量元素の構成が酷似する以上、請求人の周辺から発見された亜ヒ酸と組成上の特徴を同じくする亜ヒ酸がカレーに混入されたといえる
⇒異同識別三鑑定の証明力が減殺されたからといって、それだけで直ちに確定判決の有罪認定に合理的な疑いが生じるわけではない。

新旧全証拠を総合して検討してみても、異同識別三鑑定以外の証拠から認定できる間接事実のみでも請求人の犯人性が非常に強く推認されるし、請求人が入手可能な亜ヒ酸とカレーに混入された亜ヒ酸の組成上の特徴が一致するということは請求人の犯人性を積極的に推認させる間接事実になっている
確定判決の有罪認定に合理的な疑いを生じさせる余地はない
新証拠の明白性を否定
 
<規定>
刑訴法 第435条〔再審請求の理由〕 
再審の請求は、左の場合において、有罪の言渡をした確定判決に対して、その言渡を受けた者の利益のために、これをすることができる。

六 有罪の言渡を受けた者に対して無罪若しくは免訴を言い渡し、刑の言渡を受けた者に対して刑の免除を言い渡し、又は原判決において認めた罪より軽い罪を認めるべき明らかな証拠をあらたに発見したとき。
 
<解説>
証拠の明白性の判断方法に関しては、白鳥決定(最高裁昭和50.5.20)で、「もし当の証拠(新証拠)が確定判決を下した裁判所の審理中に提出されていたとするならば、はたしてその確定判決においてなされたような事実認定に到達したであろうかどうかという観点から、当の証拠(新証拠)と他の全証拠(旧証拠)とを総合的に評価して判断すべきであ」ると判示。
~総合評価説。

再審請求段階で新たに提出された証拠により確定判決の有罪認定の根拠となった証拠の一部について証明力が大幅に減殺された場合に刑訴法435条6号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」に当たるか否かは、
再審請求後に提出された新証拠と確定判決を言渡した裁判所で取り調べられた全証拠とを総合的に評価した結果として確定判決の有罪認定につき合理的な疑いを生じさせ得るか否かにより判断すべき(名張決定、最高裁H9.1.28)

本決定は、最高裁の証拠の明白性の判断手法に則り、
①確定判決における証拠構造等を明らかにし、
②再審請求段階で新たに提出された新証拠の証拠価値を検討し、
③新証拠の提出により異動識別鑑定の一部について証明力の減殺が生じたこと自体は否定しがたい状況にあることを踏まえ、これだけでは確定判決における有罪認定に合理的な疑いが生じず、嫌疑亜ヒ酸の同一性に関する間接事実以外の間接事実の認定に影響はなく、新旧全証拠を総合しても有罪認定に合理的疑いは生じない
新証拠の明白性を否定

判例時報2345

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2017年11月20日 (月)

成人として地裁に起訴⇒20歳に達していないかも⇒公訴棄却で家裁に送致⇒検察官送致の事例

横浜家裁H28.10.17    
 
<事案>
外国人である少年が、氏名不詳者と共謀の上、不正に入手したキャッシュカードを用いてATMから現金を複数回引き出した窃盗の事案(被害額合計約537万円)。 

少年は、当初、旅券に記載された生年月日を踏まえて成人として地裁に起訴⇒第三回公判期日において、初めて、実際の生年月日は旅券に記載された生年月日の1年後の日であり、いまだ満20歳に達していない旨供述⇒同裁判所は、出生国の公的機関発行に係る証明書を取り調べるなどした上で、被告人が満20歳に達していると認めることには合理的な疑いが残るとして公訴棄却⇒検察官は、上訴権を放棄して事件を家裁に送致。
 
<本決定>
少年の年齢の認定に関する地方裁判所の判断を是認した上で、本件の犯情、少年の犯罪傾向、更生意欲、年齢等を踏まえると、少年には保護処分ではなく刑事処分が相当⇒事件を検察官に送致。 
 
<解説>
少年法は、少年審判の対象となる「少年」を「20歳に満たない者」と定義し、少年の被疑事件について、捜査機関は、事件を家庭裁判所に送致しなければならないのが原則(41条、42条)。

検察官は、家庭裁判所から事件が送致された場合(19条2項、20条、45条5号)を除き、20歳未満の者について公訴を提起することができず、同送致を欠く公訴の提起がなされても、手続規定違反として控訴棄却判決が下される(刑訴法338条4号)。

合理的手段を尽くしても年齢を認定できない場合:
A:少年法が刑訴法の特別法であることを重視⇒一般法である刑訴法によって手続を進めるべき
B:対象者の利益に従い、20歳以上であることの証明がないため、少年法によって手続を進めるべき(実務)

原則検察官送致対象事件(20条2項本文)以外の事件で、検察官送致が選択される少年は、保護処分原則主義(最高裁H9.9.18)の下、犯情や保護処分歴等を総合考慮すると、保護処分による矯正の見込みの少なさ(保護不適)がいわば実証されているような場合が多いというのが実務の大勢。

本決定は、
非行歴及び保護処分のない少年について、
本件の罪質(組織的犯行)、
少年の関与のあり方(常習的犯行、強い犯意、被害金額や少年の得た利益の大きさ)、
少年の性格ないし生活態度(組織犯罪によるもの以外の収入がない。)、
少年の観護措置中の言動(内省の深まりがない。)
少年の年齢(数週間後には20歳になる。)
等を定年に検討した上で、
検察官送致を結論

判例時報2343

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2017年11月19日 (日)

なりすまし捜査⇒違法収集証拠排除⇒自白の補強証拠がないとして無罪

鹿児島地裁加治木支部H29.3.24      
 
<事案>
被告人が深夜、他人の自動車内から発泡酒1箱(警官が現行犯逮捕目的で置いたもの)を盗んだとして起訴された事案。 
 
<判断>
おとり捜査が許容される類型として最高裁H16.7.12が示した要件(①犯意があると疑われる者を対象とし、②直接の被害者がいない薬物犯罪等の操作において、通常の捜査方法のみでは犯罪の摘発が困難であること)に沿って検討。

尾行捜査時の被告人の行為等⇒被告人には車上狙いの犯意があると疑われる。
but
その犯罪傾向は強くはなく、本件の捜査により被告人の車上狙いの実行が促進された面が多分にある

捜査の必要性に関して、
車上狙いは証拠収集や犯人検挙が困難な犯罪類型ではなく、また、
本件を具体的に見ても、
①被告人の住居等は特定され、
②行動方法も徒歩又は婦人用自転車であって追跡が容易であり、
③車上狙いは他者から観察しやすい犯罪類型である上、実際にも被告人が他人の自動車を覗き込む様子が観察されており、
④新たな被害申告後に捜査に着手するとしても、その捜査遂行は特に困難ではない。
過去の各車上狙いの被害額や発生頻度等⇒なりすまし捜査を行わない場合に生じ得る害悪も大きくない。

本件ではなりすまし捜査を行う必要性はほとんどなく、そうである以上、捜査の態様いかんにかかわらず、本件の捜査は任意捜査として許容される範囲を逸脱しており、国家が犯罪を誘発し、捜査の公正を害するものとして違法

適法手続からの逸脱の程度が大きい
②警察官らには捜査方法の選択につき重大な過失がある
③本件はそれほど重大な犯罪に関するものではない
④警察官らは、なりすまし捜査を行った事実を捜査書類上明らかにせず、公判廷でも同事実を否認する証言をするなど、捜査の適法性に関する司法審査を潜脱しようとする意図が見られること等
本件の捜査の違法は重大

違法な捜査と直接かつ密接な関連性を有する被害届等の証拠は、証拠能力を欠くものとして証拠排除

本件では被告人の自白の補強証拠がなく、無罪
 
<解説>
おとり捜査については、
①犯罪誘発型(=おとり捜査により犯意を生じさせる場合)は違法だが、
②機会提供型(=元々犯意を有していた者に犯行の機会を提供した場合)は違法ではない
との2分説で、平成16年決定も、その実務傾向を概ね追認。 

おとり捜査をめぐる実務傾向について二分説のような単純化が可能なのは、その多くが薬物犯罪(特に密売)に関するものであり、各事例間においてその適法性の主要な考慮要素(犯意の強固さや通常の操作方法のみによる摘発の困難性、事案の重大さ等)の同質性が高いため。

本件のようにその典型的類型から外れる事案については、各考慮要素を事案に応じて具体的に見極め、それらを総合的に考慮してその捜査の適法性を検討することが必要であり、その検討の結果、捜査の適法性につき二分説とは異なる結論となることも当然あり得る。

捜査の違法の重大性に事後の事情を取り込む判断は、最高裁H15.2.14等にも見られるもの。

判例時報2343

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