刑事

2023年3月23日 (木)

いわゆる特殊詐欺等の事案で、包括的共謀否定事例

東京地裁R3.12.7

<事案>
いわゆる特殊詐欺等を行う犯行グループにより、平成30年に行われた複数の犯行(電子計算機使用詐欺、組織的詐欺、窃盗)(本件各犯行)について、被告人が共謀共同正犯として起訴された事案。

<争点>
共謀の成否等

検察官:
①本件各犯行以前の平成26年から平成28年に、詐欺等をおkなう犯行グループの者(同グループ内のかけ子の統括者)と被告人との間で同グルー^プの犯行について包括的共謀が成立し
②同グループと平成30年に本件各犯行を行った犯行グループとの間に連続性が認められ
③共謀の成立後に被告人が犯行グループから離脱していない
⇒本件各犯行について被告人に共謀が認められる。

弁護人:
故意と共謀を争い、予備的に共犯関係の解消も主張

<判断>
被告人に未必の故意は認められるものの
①の包括的共謀の成立は認められず
②の犯行グループの連続性も認められない
⇒無罪

<解説>
● 包括的共謀の成否:
当該事案の事実関係を前提に諸々の事情を総合的に検討してなされる。
共謀を認定するためには正犯意思が認められる必要がある。
その推認について、近時の裁判例には、自己の犯罪について関与したといえるかにより判断するものがしばしばみられる
but
その成否は
①被告人の関与の内容や犯罪結果への利害関係の有無(財産犯では、分け前の点は大きな判断要素となろう。)
②組織的犯行の場合には組織内での立場
③その他の諸事情
を総合考慮して決せられる。

本件:
被告人とS2:
被告人の関与内容は犯行用具の提供という犯行の準備行為に関するもの
立場は犯行グループの取引相手の1人であってグループの一員ではない
得ているのは提供したものの対価であって犯行から分け前などの利益を得てるわけではない

被告人が自己の犯罪として関与していたとはいい難い

● S1らの犯行については、被告人の関与の内容に受け子の紹介が付け加わった⇒改めて検討。
受け子の紹介:
犯行メンバーの調達という犯行の準備行為に類するもの⇒幇助犯として処断されている例もしばしば。
but
紹介にとどまらず、その後も何らかの形でその受け子に関わり、紹介料とは別に詐欺の犯行の分け前を得ているような場合には、共同正犯として処断されている例もみられる。
but
紹介した受け子の犯行について(包括的)共謀が認められたそていも、同人の関与しない犯行についてまで共謀が認められるかは別論。

本判決:
被告人が紹介した受け子の犯行について共謀を認める余地のあることを留保しつつ、その余の犯行を含めた包括的共謀の成立を認めなかった。

判例時報2542

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2023年3月15日 (水)

特殊詐欺の回収役の認定の事例

仙台高裁R3.12.16

<解説>
被告人の犯人性については検察官が立証責任を負っている
アリバイの成立が確実とまで証明されなくとも、検察官の積極的立証とアリバイ立証を総合的に判断し、被告人のアリバイ供述を虚偽として排斥できないとして、被告人の犯人性に合理的な疑いが生じた場合には、無罪が言い渡される。

●特殊詐欺事案における包括的共謀について
特殊詐欺事案においては、
①犯行毎に実行犯等の関与者が変わることが多い
②役割によっては犯罪全体の実態を把握しておらず、また犯行組織との人的関係が希薄である場合も多い
包括的共謀が認められるためには、犯行組織を他の共犯者らと共に形成し、その構成員として犯罪を反復して遂行する旨の合意等がなされている必要
本件:

①被告人の枠割は回収役で代替性がある
②被告人が他の共犯者や組織における詐欺の実態につき詳細を認識しているともいえないこと等
⇒包括的共謀を否定。

原判決は、そのような認識の下、回収の依頼が撤回されるなどした時点での共謀の解消を認め、本判決もかかる判断を指示

判例時報2541

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2023年3月 7日 (火)

解離性同一性障害で完全責任能力肯定事例

大阪高裁R1.12.12

<事案>
強盗殺人等の事案

<争点>
原審で、被告人の責任能力が問題となり精神鑑定
原審の鑑定人:
被告人が解離性同一性障害にり患しており、犯行当時者主として別人格が行動を支配しており、主人格は別人格をコントロールすることができないとしつつも、被告人は、犯行当時目的に従って合理的に行動しており、状況を正しく認識し、行動をコントロールできていた。
⇒争点は、この点をどのように評価するか。

<原審・判断>
責任能力は、犯行時の被告人の精神状態について、善悪の判断能力や行動制御能力を問題とするもので、その当時の精神状態に行動制御能力があると認められる以上、その状態を「主人格」というものがさらに制御できるかという点を問題にする必要はない。
⇒被告人の当時の行動の合理性を認めて完全責任能力を認めた。

原審鑑定人:
精神医学においては、解離性同一性障害にり患して、人格が多数現れたとしても、元々その人の中に包摂されていない人格が発現することはなく、その人が本来持っているいろいろな側面が、解離という精神状態を経て、際立った特徴を持った人格となって主として現れてくると考えられている。

<解説>
● 本件:被告人が解離性同一性障害にり患していること、行為当時の人格は主人格ではなく別人格であり、しかも、主人格はこれをコントロールできなかったことを認めた上で、完全責任能力を認めたもの。

● 解離性同一性障害の刑事責任能力の判断方法:
①グローバル・アプローチを呼ばれる方法
②個別人格アプローチと呼ばれる方法
①:主人格の能力を基準に、主人格が行為時に行為に対する弁識・制御ができたかによって判断
②行為時に行為を司っていた人格を基準に、この人格が行為時に行為に関する弁識・制御ができない(又は著しく困難な)状態にあったのではない限り、責任能力は失われず、それでは主人格が行為をコントロールできたか否かは問題にならない。

本判決及び原判決:②のアプローチ

「行為によ出ようとした時点で、その時点での行為者が思いとどまることができたか」という視点からのアプローチ。

①のアプローチ

責任能力概念を刑罰正当化の議論に基づいて構築するもので、受刑時にその責任を問いうるかという行為後の観点をも下り入れて判断。
● 解離性同一性障害については、判決上、責任能力に影響するとされた事例は事情に少ない。
but
ICD=11(国際疾病分類・第11回改訂版)では、解離性同一性障害について、それまで「その他」とされていたのを独立の類型として規定

その障害の認知度は高くなってきた⇒刑事裁判においてもその責任能力が争われる例が散見。
文献

判例時報2540

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2023年2月25日 (土)

試験観察⇒無断退去⇒第1種少年院送致の事案

東京家裁R4.1.13

<事案>
保護処分歴のない少年が、共犯者らと2度にわたり同一の被害者から現金等を強盗取し、1度はその際に傷害を負わせたという、強盗及び強盗致傷と、これらによる試験観察中の、補導委託先からの無断退去というぐ犯行状の事案。

<判断>
強盗及び強盗致傷の各非行(「当初事実」)⇒少年の問題性を指摘しながら、身柄付き補導委託の方法による試験観察の余地があった。
無断退去の経緯と少年の説明⇒不快感情の蓄積に対する脆弱さ、不良交友に対する親和性の強さ、愛情欲求の不満の強さといった少年の問題性⇒指導者等との関係構築にも悪影響を及ぼす⇒試験観察により少年の問題性の根深さと矯正の難しさが浮き彫りになった。

少年が再非行に及ぶ危険性は高く、その防止のために種々の指導を実施することが必要不可欠⇒第1種少年院に送致。

<解説>
試験観察:
①それまでの調査を補強・修正し、要保護性についての専門的判断を一層的確にするという調査の機能
②終局決定が留保されていることによる心理的な強制効果を利用して少年に指導援護を行うという教育的処遇の機能

少年を委託先に宿泊等させて行う身柄付き補導委託の措置⇒従来の環境等から切り離し、家庭的な処遇を行い、受託者の人格的な感銘力に触れさせるなどしながら、社会内における改善更生の可能性を見極めることができる。

判例時報2539

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母親を道具として利用するとともに、不保護の故意のある父親と共謀した殺人罪が肯定された事例

最高裁R2.8.24

<事案>
非科学的な力による難病治療を標榜する被告人が、Ⅰ型糖尿病にり患した被害者Aの治療をAの両親から依頼⇒インスリンを投与しなければAが死亡する現実的危険性があることを知りながら、インスリンは毒であるなどとしてAにインスリンを投与しないよう両親に指示し、両親をしてAにインスリンを投与させずAを死亡させて殺害

<主張>
検察官:
両親を利用した殺人の間接正犯を主位的訴因
両親との共謀による共謀共同正犯(被告人には殺人罪が成立し、保護責任者遺棄致死の限度で共同正犯)を予備的素因
として主張

<1審・原審>
母親との関係では間接正犯
父親との関係では共謀共同正犯(共謀は保護責任者遺棄致死の限度)
が成立するとして、殺人罪の成立を認め、懲役14年6月(求刑懲役15年)

<判断>
上告趣意は適法は上告理由に当たらない
生命維持のためにインスリンの投与が必要なⅠ型糖尿病にり患している幼年の被害者の治療をその両親から依頼された被告人が、インスリンを投与しなければ被害者が死亡する現実的な危険性があることを認識しながら、自身を信頼して指示に従っている母親に対し、インスリンは毒であるなどとして被害者にインスリンを投与しないよう執ようかつ強度の働きかけを行い、母親をして、被害者の生命を救うためには被告人の指導に従う以外にないなどと一途に考えるなどして被害者へのインスリンの投与という期待された作為に出ることができない精神状態に陥らせ、被告人の治療法に半信半疑の状態であった父親に対しても母親を介してインスリンの不投与を指示し、両親をして、被害者へのインスリンの投与をさせず、その結果、被害者が死亡したなどの本件事実関係の下では、
被告人には、母親を道具として利用するとともに不保護の恋のある父親と共謀した未必ぼい殺意に基づく殺人罪が成立
⇒原判決を支持。

<解説>

①事情を知らない者(犯罪の故意のない者)を利用する場合
②是非弁別能力のない者を利用する場合
③他人を強制して犯罪を実現する場合
について、間接正犯を認めることは学説上一致。

理論的根拠・基準:
ア:実行行為性説:利用行為の構成要件実現の現実的危険性に求める
イ:行為支配説
ウ:規範的障害説
エ:自律的決定説
判例・実務は、特定の学説に依拠せず、事案ごとに、利用者及び被利用者の関係、両者の客観面・主観面の状況等の諸事情を総合考慮し、両者が被利用者を道具のように利用して自己の犯罪を実現したといえるか(規範的にみて自ら直接実行項をした場合と同視できるか)を判断


他人の不作為用した間接正犯:
判例・裁判例なし
ア:不真正不作為犯については、一種の身分犯⇒刑法65条1項の適用を受ける
イ:作為義務の存在は当該不作為の構成要件該当性(実行行為性)の問題であって、特定の身分犯を構成するものではない
ア説⇒身分者を利用した非身分者に間接正犯が成立するか?
A:否定説
B:肯定説←非身分者も身分者を利用することにより身分犯の法益を侵害することが可能
but
Bでも、自ら直接実行行為を行うことができない者が間接正犯となり得るか?


錯誤型・強制型の間接正犯
判例は、いずれも、利用者と被利用者の関係(支配従属関係、信頼関係等)、利用行為(欺罔、強制)の内容・態様、利用者の主観的意図・認識、被利用者の心理状態(錯誤、意思抑制状態等)等の諸事情を総合考慮して、利用者の間接正犯性(ないし利用行為の実行行為性)が判断されている。
強制型で第三者利用の事例で、これまで間接正犯が認められたものは、いずれも刑事未成年者を利用したもの。
被害者利用の事例では、被害者が成人である場合も、利用者に正犯性(ないし実行行為性)が認められているものがある。


共犯者間で認識していた犯罪事実が一致しない場合、各人にどのような共犯関係が成立するか?
ア:犯罪共同説⇒罪名の一致が要求
but
部分的犯罪共同説は、構成要件的に重なり合う限度で共犯の成立を認める。
イ: 行為共同説⇒異なる構成要件間の共犯も肯定される。

最高裁H17.7.4:
シャクティパット事件最高裁決定:
不保護の故意のある共犯者と共謀した殺意のある被告人につき、「殺人罪」が成立し、殺意のない患者の親族との間では保護責任者遺棄致死罪の限度で共同正犯となる
と説示

部分的犯罪共同説を採用したものと評価されている。


本決定:
母親の主観面の状況:
本件当時、被害者へのインスリンと投与という期待された作為に出ることができない精神状態に陥っていた
被告人と母親の関係、被告人の働きかけの内容・態様、母親が前記精神状態に陥った理由や経緯、被害者が死亡する危険性や母親の精神状態等についての被告人の認識等を認定、適示し、これらの被告人及び母親の主観面・客観面の状況等の諸事情を総合的に考慮して、被告人の間接正犯を認めた。

本件は、
①他人の不作為を利用した間接正犯の成否
②成人の第三者を利用した場合に間接正犯が肯定され得る意思決定の自由の阻害の程度
等の論点を含む。
被告人と不保護の故意のある父親との間の共謀を認めた。
第1審と原審:被告人と父親との間に保護責任者遺棄致死の限度で共謀が成立する旨判示
本決定:両者がどの範囲で共同正犯となるかについて判示しておらず、異なる故意を有する者同士の共犯関係の成立範囲に関する本決定の考え方は明らかにされていない。

判例時報2539

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2023年2月 6日 (月)

危険運転致死の事案

金沢地裁R3.12.7

<主張>
弁護人:
自動車死傷法2条4号の「人又は車の通行を妨害する目的」(「通行妨害目的」)について、人又は車の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図する場合のほか、通行の妨害を来すことの確定的認識が必要。

<判断>
通行妨害目的:
人又は車の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図する場合のほか、
危険回避のためやむを得ないような状況等もないのに、人又は車の自由かつ安全な運行を妨害する可能性があることを認識しながら、あえて走行中の自動車の直前に侵入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転すること(「危険接近行為」)を行う場合も含む
被告人は危険回避のためやむを得ないような状況等もないのに、被害者運転車両に急な回避措置をとらせるなど通行を妨げる可能性があることを認識しながら、あえて危険接近行為を行った
⇒通行妨害目的があった。

<解説>
● 自動車死傷法2条4号(刑旧法208条の2第2項前段)は「人又は車の通行を妨害する目的」(通行妨害目的)を要件とする目的犯。

判例上、本判決と同様に目的の実現について未必的な認識認容で足りるとされた犯罪:
虚偽告訴罪「人に刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的」
私文書偽造罪「行使の目的」
・・・

● 通行妨害目的:
A:相手方の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図することをいい、これらについての未必的な認識認容があるだけでは足りない
B:積極的意図がある場合のほか、危険回避のためやむを得ないような状況等もないのに、人又は車の自由かつ安全な通行を妨げる可能性があることを認識しながら、あえて危険接近行為を行った場合にも認められる

通行妨害目的に要件が規定された趣旨を、外形的には極めて危険かつ悪質な行為のうち危険回避等のためにやむをえなくされたものを処罰の対象から除外することにあると捉え、
このような目的犯の構造は背任罪における図利加害目的(「本人の利益を意図していた場合は処罰しない。」という命題の裏側として、処罰すべき「本人の利益をいとしていなかった場合」を表現するために設けられたもの)に類似

判例時報2538

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2023年2月 1日 (水)

兵庫県迷惑防止条例にいう「卑わいな言動」該当性(否定事例)

神戸地裁R3.11.30

<事案>
公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例3上の2第1項1号の「人に対する、不安を覚えさせるような卑わいな言動」に当たるとして起訴

<判断・解説>
●「卑わいな言動」の意義・判断方法
社会通念上、性的道義的観念に反する下品でみだらな言語または動作をいい、
その該当性は行為態様や犯行当時の状況、被害者及び被告人の関係等の客観的事情に照らして判断すべきものであって、性的な動機や目的があることを要しない
③卑わいな言動該当性は、当該事案の具体的状況を前提として、被害者の立場に置かれた一般通常人を基準に判断すべき。

●「卑わいな言動」該当性
①大多数の男性の性的対象は女性であると認識されている⇒男性の男性に対する身体的接触が性的意味を有すると認識される度合いは小さい。
②臀部の性的意味の程度は、性的部位の中では比較的低く、また、女性よりも男性の方が低い
③臀部を叩くという行為は、特に男性に対しては、冗談、励まし、注意、体罰など、様々な意味でなされる⇒臀部が性的部位であることから臀部への接触が原則的に性的意味を有するということはできない。

本件各行為は、
①男性である被告人が②男子③小学生の④臀部を⑤1回軽く叩くという行為態様
⇒卑わいな言動に当たると解することは困難。

判例時報2537

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殺人で心神耗弱の事案

岡山地裁R3.11.29

<事案>
殺人の事案

<判断>
●被告人は、犯行当時、統合失調症の影響により心神耗弱の状態にあった。
捜査段階で被告人の精神鑑定を行った医師の証言が信用できることを前提に、関係証拠により争いなく認められる本件に至る事実経過等を詳細に認定して、被告人の責任能力を検討。

●心神耗弱の状態にあることをうかがわせる事情:
被告人は、統合失調症の影響で、
被害者が被告人の結婚等に反対していると思い込み、
これに不満を述べても被害者は取り合ってくれないとの思いを強め、
攻撃性や衝動性を高めた結果、
被害者の殺害を決意し、深夜に就寝中の被害者を包丁で刺そうと考え、
それまでの間、交際相手から犯行を思いとどまるよう促されたりした中でも、被害者を殺害することしか考えられない心理状態に至り、
被害者を殺害することを思いとどまることができなかったものとうかがえる。

被告人が、犯行当時、統合失調症の影響で行動制御能力が低下していた。

犯行当時、完全責任能力を有していたことをうかがわせる事情
被害者に結婚等を反対されたと思い込んだ2日後、相談支援専門員に対し、兄を指してしまいそうだなどと相談し、犯行前日に被害者の言動等に興奮した時も、いったんは落ち着きを取り戻し、その場で直ちに犯行に及んだわけではない
⇒一定程度衝動を制御する能力は残っていた。
・・・・用意周到かつ冷静に犯行に及んでおり、被害者の殺害という目的に向けて一貫性のある合理的な行動をとっている。
・・・・自分の行動が違法であり、逮捕等されてしばらく帰れなくなるようなことであると認識していたといえ、善悪の判断能力や状況認識に問題はない。


①犯行時に合理的な行動をとっている
②一定程度衝動を制御する能力が残っていた
③被害的解釈による思い込みに捉われての犯行ではあるが、完全な被害妄想といえるものでhなあい

行動制御能力が低下している程度については、著しいといえるほどには至っていないと考える余地もなくはない。
but
被害者を殺害しなければ自由がないという思い込み自体が統合失調症の精神症状といえる病的なもの⇒そのように認定するには疑問もあり、被告人が完全責任能力を有していたと認めるには合理的な疑いが残る。

被告人は心神耗弱の状態にあったと認めるのが相当。

判例時報2537

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東京都迷惑防止条例違反の事例

東京高裁R4.1.12

<原審>
撮影された動画の本数(3本)や時間(Aが写っているのは数秒以内)、内容(足元、左半身、後ろ姿と左横からの姿)⇒
性的な部分を狙ったものとはいえず、また、Aを付け狙うなどの執ようさも認められない
⇒本件条例5条1項3号に想定する「人を著しく羞恥させ、又は人に不安を憶えさせるような行為であって」「人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、卑わいな言動をすること」(「本件禁止行為」)該当性を否定し無罪。

<判断>
原判決を破棄し、被告人を懲役8月に。
本件条例の趣旨⇒
「衣服を着用した身体を撮影し、又は衣服を着用した身体を身体に対して写真機等を構える行為であっても、その意図、態様、被害者の服装、姿勢、行動の状況や、写真機等と被害者との位置関係等を考慮し、被害者や周囲の人から見て、衣服で隠されている下着又は身体を撮影しようとしているのではないかと判断されるものについては」本件禁止行為に当たると解するのが相当。

<解説>
原判決:
あくまで、被告人が実体として性的に意味のある部位を狙っていたかどうかを決定的な事情と捉え、この点が否定されれば本件禁止行為該当性は認められないと解している。

本判決:
「被害者や周囲の人からどう見えるか」といういわば「らしさ」論を重視し、少なくとも、衣服で隠されている下着または身体を撮影しようとしているのではないか、と思われるようなら本件禁止行為該当性を肯定してよいと解している。

迷惑防止条例の保護法益は被害者個人の法益ではなく、当該都道府県ごとの社会的法益、すなわち、県民生活の平穏。

判例時報2537

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2023年1月26日 (木)

ぐ犯保護事件及び強制的措置許可申請事件

千葉家裁R4.3.29

<事案>
児童自立支援施設入所中の14歳の少年が
保護者である同施設の正当な監督に服さず、3回にわたり職員に暴行を加えてけがを負わせ、窓ガラスを割るなどし、将来においても暴行、傷害、器物損壊等の罪を犯すおそれがあるというぐ犯の事案及び少年に対する矯正的措置許可申請の事案

<決定>
①ぐ犯保護事件について、少年を児童自立支援施設に送致
②強制的措置許可申請事件について、事件を児童相談所長に送致し、強制的措置を許可
施設内でのルールを遵守せず、感情をコントロールできずに粗暴な行為が続いており、施設内に限られたものとはいえ、その非行の危険は大きい。
少年は、自閉症スペクトラム障害等の資質面を有しており、幼少期の被虐待経験を始め、被受容感や愛情を感じることができにくい家庭環境において、情緒の安定性が育まれず、社会適応力全般の発達が阻害されている。
その愛着形成の問題から、周囲の身近な大人に対する愛情の求め方が不適切出謝ったものとなっており、規則の不遵守や粗暴な言動により構ってくれるだろうという誤学習が生じている。
少年の母は単独で監護養育を行うことは困難で、現在の施設では指導困難。
・・・・
少年院送致までの必要はなく、少年を児童自立支援施設に送致することが相当。
少年の行状から、必要な処遇を行うためには強制的措置をとる必要があり、施設の準備が整う予定の日から2年の間に通算120日を限度として許可することが相当。

<解説>
●児童自立支援施設と強制的措置

児童自立支援施設:
不良行為をなし、又はなすおそれのある児童等を入所させ、必要な指導を行い、その自立を支援する施設(児福法44条)。

寮で生活し、中学校の分校等に通学するなどの家庭的な雰囲気の下で行われる解放処遇が実施されており、中学生を中心とした年少少年が対象とされることが多い。
but
少年が自傷他害をし、無断外出をするなどの場合には、
少年の行動の自由を制限する強制的措置(閉鎖施設への入所等)が必要となる場合があり、
人権保障の観点から、都道府県知事又は児童相談所長は家庭裁判所の許可を求めなければならない(児福法27条の3、少年法6条の7第2項)。
家裁は、これを許可する場合には、決定により、期限を付して強制的措置をとることができる旨を明示した上で、事件を児童相談所長に送致(少年法18条2項)。
実際に強制的措置が実施されているのは、2か所だけ。
文献。

●年少少年の児童自立支援施設送致に関する処遇選択のあり方
児童相談所に一時保護中であったり、児童自立支援施設に入所中の年少少年について、
児童相談所長からぐ犯等の事件送致がされた場合、収容処遇を選択するとしても、
児童自立支援施設送致と少年院送致のいずれを選択するのかが問題となることが多い。

本決定:
専門的な教育を施す必要性を認めつつ、
①少年の問題性が愛着形成に起因するものであること
②問題行動が施設内に限定されていることや少年の内省状況等

少年院送致までの必要はなく、児童自立支援施設送致が相当

本件は、すでに児童自立支援施設において指導困難となっている⇒強制的措置を前提。
but
①本件のぐ犯事由が生じるまでは施設において概ね落ち着いて過ごせていた
②本件の調査審判による働きかけの結果
⇒福祉的な支援による原則的な解放処遇で足りるものと判断。

●強制的措置許可の可否
強制的措置が必要となるのは、少年が心理的に不安定になり、自傷他害や無断外出のおそれがあるなど、解放処遇による指導が困難となる場合。
本決定では、少年の行状から、必要な処遇を行うためには強制的措置が必要。

本件のぐ犯事由が施設職員の指導に抵抗した際の暴行等を内容としており、解放処遇にyる指導が困難となるおそれがぐ犯の内容から明らか。

強制的措置の日数:
本決定では、申請どおり、2年の間に通算120日を限度として許可。

強制的措置の期間:
問題行動があった場合、1回につき、原則3週間/2週間以内で運用。

判例時報2536

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