刑事

2022年5月17日 (火)

危険運転致死傷罪の制御困難高速度走行の判断要素の「道路の状況」

名古屋高裁R3.2.12

<事案> 主位的訴因である危険運転致死傷罪に関し、被告人の行為が、自動車死傷法2条2号の「その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為」に該当するか、すなわち
①被告人の走行が進行制御困難高速度走行に該当するか
②被告人に故意が認められるか
が争われた。

<原審>
●争点①
進行制御困難性の判断要素として実務上指摘されている「道路の状況」には、道路の物理的な形状だけでなく、駐車車両や他の走行車両等も、それにより客観的に道路の幅が狭められているなどの状況がある以上は含まれる。
本件では、被害車両を含む他の走行車両の存在により被告人車両が進行できる幅やルートが相当限定されており、そのような進路を時速約146キロメートルもの高速度で進行させることは極めて困難
⇒被告人の行為が進行制御困難高速度走行に該当。

●争点②
but
自動車死傷法2条2号の故意が認められるためには、物理的な意味での進行制御困難性が生ずる状況の認識・予見が必要
被告人に故意があったと認定するには合理的な疑いが残る。

危険運転致死傷罪の成立を否定し、予備的訴因である過失運転致死傷罪の成立を認めた。

<判断>
●争点①について:
①立法者意思の探索結果:
法制審議会刑事法(自動車運転による死傷事犯関係)部会における立法担当者の説明及び議論情況等⇒立法担当者側は「道路の状況」という要素の中に歩行者や走行車両は含まれないとの考えに立つと理解するのが自然
②罪刑法定主義の要請である明確性の原則の堅持:
事前予測が困難な不確定かつ流動的な要素を抱える他の走行車両の存在を進行制御困難性の判断要素に含めるのは、類型的、客観的であるべき進行制御困難性判断にそぐわず、明確性の原則からみても不相当
③危険運転致死傷罪の創設趣旨との整合性:
悪質・危険な類型に限定されているとみるべき危険運転行為を、解釈によって拡大することは自動車死傷法の創設趣旨に不適合

進行制御困難性の判断要素の1つである「道路の状況」という要素に、他の走行車両は含まれないと解すべき。

●争点②について:
原判決の説示に同意

●本件:
①時速約146キロメートルの高速度で走行していた被告人は、被害車両を発見した時点で、その車間距離から接触回避が困難な状況であった
②被告人の予想とは異なり、被害車両が車線変更せず第2車線にとどまっていたこともあいまって、同車線上で衝突
被告人の行為が、進行制御困難高速度走行に該当するとはいい難い。

<解説>
●進行制御困難高速度走行該当性(「道路の状況」)の判断
進行制御困難高速度走行とは、
速度が速すぎるため、道路の状況に応じて進行することが困難な状態で自車を走行させること」を意味し、
「具体的には、例えば、カーブを曲がりきれないような高速度で自車を走行させるなど、そのような速度での走行を続ければ、車両の構造・性能等客観的事実に照らし、あるいは、ハンドルやブレーキの操作のわずかなミスによって自車を進行から逸脱させて事故を発生させることとなると認められる速度での走行」をいい、
「そのような速度であるか否かの判断は、基本的には具体的な道路の状況、すなわちカーブや道幅等の状態にてらしてなされる」ものとされている。

進行制御困難高速度運転と過失運転の境界は曖昧
⇒速度超過による死傷事故が過度に本罪に取り込まれる可能性を内在
危険運転致死傷罪の創設趣旨等に立ち返って適正な処罰の範囲を明らかにする必要。

判例時報2510

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0)

2022年4月29日 (金)

座間(9人殺害)事件

東京地裁立川支部R2.12.15

<判断>
●承諾殺人の主張
●責任能力に関する主張
●死刑を選択した理由

<解説>
●被告人質問先行型の審理
被告人は、弁護方針に反発し、検察官ら弁護人以外の者からの質問には答えるというパフォーマンス。
検察官からの質問に答えた被告人の供述が、有力な証拠となって、事実認定が行われた。

かつて:
被告人の捜査段階の供述(自白調書など)があれば、被告人質問に先行してその取調べが行われ、その後に各当事者からの被告人に対する質問が行われる。
but
最近:
直接主義、法廷中心主義を標ぼうする裁判員裁判の影響⇒被告人質問を先行させる例が増えてきている。
被告人質問終了後、それによって審理が尽くされたと考えれば、検察官は、被告人の供述調書を証拠として請求しないか、請求を撤回。

本件でも、
検察官は数多くの被告人の供述調書の取調べを請求し、弁護側から、不同意の意見が述べられたが、公判全整理手続の段階では、その採否はいったん留保され、公判で被告人質問。
⇒検察官は、立証は尽くされたとして被告人の供述調書全部の請求を撤回。
but
被告人の供述が公判廷のものであるからといって、すべてが信用できるとは限らない。
場合によっては、逆に、捜査段階の供述の変遷などが公判供述の信用性判断のために必要となってくることも考えられる。

本件:
弁護人側が、捜査段階の供述調書の一部を公判供述の信用性を減じる弾劾証拠として請求し、採用された。

被告人が諦めの気持ちから速やかに審理を終わらせたいと望んでいるような場合には、検察官に迎合して事実に反して不利益な事実を供述することもあり得る⇒十分に配慮した審理が必要。

●刑事弁護人の任務
弁護人の説得に関わらず、被告人が弁護人の審理方針を拒絶した場合?
A:被告人の「正当な利益」になるような弁護であればそれを遂行することこそが、その任務に適う
B:むしろ、被告人の意向に沿うことが、弁護人の任務に適うと考えるべき
but
本件のように死刑が想定される事件に関しては、例外的ではあるが、弁護人が後見的役割を発揮せざるをえない場面に該当⇒被告人本人の意向に反してでも、自ら最善と思われる弁護を遂行することこそがその職務に適うと考えるべき。

その場合、裁判所は、被告人の過剰なパフォーマンスを引き出し、正常な事実審理をゆがめることがないかを注意深く見守る必要がある。

●承諾殺人罪における「承諾」の意義
本判決:
殺害の「承諾」について
犯行時におけるものに限定した上、
「承諾」は黙示的なものでもよいが、「承諾」があったと認めるには、その「承諾」が被害者の真意と合致する必要があり、それから外れるものは「承諾」から排除するというアプローチ。

「命を絶つタイミングやその方法」に着目すれば、いきなり襲い掛かられて失神させられたという点において、被害者の真意から外れている⇒黙示的なものであっても承諾があったとはいえない。
but
「承諾」は、明示的であれ、犯行の前に存在するのが普通であり、細かい点までは決まっていなくても、ある程度の具体性があり、いわゆる希死念慮と真摯性が認められれば、それに該当するものと考えられてきた。
事前の「承諾」から、現実の殺人行為に至るまでに、時間が経過したり、事情の変動が生じたり⇒承諾と現実の殺人の間に因果関係があるといえるかが問われる(大塚)。

●精神鑑定(いわゆる50条鑑定)の採否
弁護人は、被告人の責任能力を争い、公判前整理手続において、精神鑑定(いわゆる50条鑑定)を請求。
but
裁判所は認めず。

A:裁判員裁判においては、複数鑑定はできる限り避けるべき⇒50条鑑定を実施する時の条件を厳格に絞ろうとする見解。
本件では、被告人が鑑定に拒否的⇒弁護人が私的鑑定等によって、新たな鑑定の必要性を提示することも難しかった。
but
鑑定人の資質に問題があるとか、鑑定内容によほど不都合な点が見つかったということでもなければ、50条鑑定を認めないというのであれば、そのハードルは非常に高くなる。

相模原殺傷事件:
起訴前鑑定が行われていたが、50条鑑定も実施された。
同事件では、50条鑑定と弁護人の提出した私的鑑定とが公判において比較対照されるという進行。

心斎橋通り魔事件:
複数の鑑定につき取調べが行われた。

判例時報2509

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0)

原決定の第1種少年院送致決定が著しく不当とされた事案

広島高裁R2.8.18

<事案>
自立援助ホームで生活する少年(16歳)と被害者がもみ合いになった際、少年が台所から包丁を持ち出して示凶器脅迫を行った事案。

<原決定>
少年を第1種少年院に送致

<判断>
①少年の非行性がさほど進んでいるとは言い難く、
②再非行が強く懸念されるほど要保護性が大きいともいえない
⇒少年院における矯正教育を必要とするような深刻なものとはいえない。
⇒原決定の処分は著しく不当。

社会内処分の可能性を見極めるために必要であれば、試験観察に付するなどの措置をとることも考えられた事案。

<解説>
原決定と本決定の分かれ目は
①非行事実自体の評価
②非行性(非行反復の傾向)
③保護環境等に対する評価

判例時報2509

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0)

2022年4月22日 (金)

覚せい剤輸入で、間接事実を推認しての故意の認定等が否定された事案

東京高裁R3.3.17

<事案>
被告人が、分離前の相被告人A及び氏名不詳者らと共謀の上、営利の目的で、中国の郵便局から、14キログラムを超える覚せい剤を段ボール箱1箱に隠匿収納して国際スピード郵便物として被告人の居室宛てに発送し、日本国内に持ち込んで密輸した⇒覚せい剤営利目的輸入等の共謀共同正犯として起訴。

<原審>
主に被告人の公判供述により前提となる事実関係を認定⇒複数の推認⇒被告人の捜査段階の自白の信用性を検討するまでもなく、被告人が、本件郵便物が発送されるまでの間に、本件郵便物の中に覚せい剤を含む人体に有害で違法な薬物が含まれている可能性を認識していたと推認。

<判断>
被告人の認識を間接事実により推認する場合、その推認は確実なものであることを要する。
but
一審判決において、
Aが反社会勢力から覚せい剤を入手していることを被告人が想定していたとする推論

Aが北朝鮮産の覚せい剤の譲渡単価について発言したことを被告人が伝え聞いた
⇒Aが海外から覚せい剤を輸入することを被告人が想定していたと推認
は大きな飛躍。
vs.
特定の外国で製造された覚せい剤の譲渡単価の知識は、密輸入を自ら行ったことにより得たものではなく、当該外国産の覚せい剤を譲り受けた際などに得られた可能性もある。

その後の推論は成り立たない以上、本件郵便物に隠匿された覚せい剤について、被告人の未必的な認識を推認することはできない。
一審判決では事実認定の基礎としなかった自白の信用性についての検討を行い、

録音録画記録媒体による取調べ状況や、ADHD(注意欠如・多動性障害)等と診断されている被告人の発達障害等が及ぼした影響等も踏まえた上で、結論として、自白の信用性を肯定
⇒被告人は本件郵便物の中に覚せい剤を含む違法な薬物等が入っている可能性があると認識していた。

● 被告人の営利目的について:
被告人は、Aが違法薬物の密売による利益を目的に本件郵便物を輸入しようとしている可能性を認識していたとする一審判決の推論は合理的。
but
①Aの密輸による利益が被告人にとっても経済的利益となる面があったといえること
②何らの利得も期待せずに受取役というリスクのある役割を引き受けるとは考え難い
という推論を加えることで、被告人の営利目的を認めた一審判決の判断は是認できない。

<解説>
● 事実認定において、主要な直接証拠が自白、目撃供述等の供述証拠であるとき、
直接証拠を除外して間接証拠等の情況証拠によってどのような内容の事実が」認定できるのかなどを見極め、
その結果認定された事実を踏まえ、それまで除外していた直接証拠の任意性、信用性の判断を行うなどして直接証拠による事実認定を行うといった、
情況証拠を重視し、供述証拠に依拠することをできるだけ避ける方法による事実認定をする運用。

事実認定の客観化に資する。

間接事実から要証事実を推認する場合、間接事実の推認力を検討する必要。
その際、反対仮説の可能性が残れば残るほど推認力は弱くなる
⇒反対仮説の成立可能性を検討することが重要に。
(最高裁H19.10.16)

● 営利目的には、
自ら利得を得ようとする自利目的と、
他人に利得を得させようとする利他目的
がある。

判例時報2508

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0)

2022年4月20日 (水)

特殊詐欺の受け子から報告を受け、詐欺グループの上位者と思われる人物に報告するなどした被告人につき、正犯意思を否定し、共同正犯の成立を認めず、無罪とした事例

名古屋地裁R1.12.9

<事案>
Aが特殊詐欺の受け子として、氏名不詳者らと共謀の上、被害者から現金200万円をだまし取った事案につき共同正犯として起訴。

本判決:
被告人の詐欺の故意は認めたが、共同正犯の成立を否定し、幇助犯の成否についても更に審理をする必要はない⇒無罪。

<判断>
●共同正犯を否定した理由
被告人がAが犯罪に及ぶことを認識・認容していたとしても、それだけで共同実行の意思が裏付けられるものではない。
被告人に予定されていた役割は、本件詐欺を完遂させるために重要なものであったとは到底評価できない。
関西にいた被告人は、東京にいるAが主体的にした報告を聴き取ってEに報告できるにとどまり、被告人の関与態様は受け子の行動状況の管理・把握としては極めて不十分なもの。
・・・・

被告人が実際に果たした役割からも、正犯意思は認められない。

●前記のいずれも、本件詐欺の遂行に重要なものであったと評価することはできない。
報酬の約束もなく、被告人が会社の業務の延長で本件に関与した可能性は排除できない。
被告人の言動にはAの行為を促進したかのように評価し得る部分はあるが、被告人に正犯意思があったと推認することはできず、被告人が本件詐欺を自己の犯罪としてAらと共同して実行したとは認められない。

<解説>
●最高裁:
特殊詐欺の送付型の受け子につき、故意が認められれば共謀が認められる⇒詐欺の共同正犯。
周辺関与者に対する裁判例では、共同正犯、ほう助犯その他が認められている。
共同正犯を認める要素としては、果たした役割の重要性や特殊詐欺グループとの関わりの深さ等が重視されているよう。

●実務上、共謀共同正犯の成立には、
非実行行為者において、
①実行行為者との間に犯罪行為の意思連絡があり、かつ、
自己の犯罪として行う意思(正犯意思)を有していたこと、ないしは自己の犯罪として行ったことを要する。

正犯意思の有無又は自己の犯罪といえるかどうかは、
①非実行行為者の役割や寄与の程度
関与の動機
実行行為者との関係等の事情
から判断。

本判決:
実務の一般的な枠組みに従って正犯意思の有無を問い、これを否定して、
被告人が本件詐欺を自己の犯罪として行ったとは認められない。

●周辺関与者についても、詐欺の認識が認められれば共同正犯が肯定されることは少なくない
but
本判決は、被告人の役割その他の事情を慎重に検討して、これを否定した例。

幇助犯を検討する余地がある。
but
①被告人の役割がホ年詐欺の完遂に重要なものであったとはいえない
②正犯意思も認められない
⇒直ちに無罪を言い渡した。

判例時報2506・2507

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0)

2022年4月11日 (月)

覚せい剤輸入で、間接事実を推認しての故意の認定等が否定された事案

東京高裁R3.3.17

<事案>
被告人が、分離前の相被告人A及び氏名不詳者らと共謀の上、営利の目的で、中国の郵便局から、14キログラムを超える覚せい剤を段ボール箱1箱に隠匿収納して国際スピード郵便物として被告人の居室宛てに発送し、日本国内に持ち込んで密輸した⇒覚せい剤営利目的輸入等の共謀共同正犯として起訴。

<原審>
主に被告人の公判供述により前提となる事実関係を認定⇒複数の推認⇒被告人の捜査段階の自白の信用性を検討するまでもなく、被告人が、本件郵便物が発送されるまでの間に、本件郵便物の中に覚せい剤を含む人体に有害で違法な薬物が含まれている可能性を認識していたと推認。

<判断>
●被告人の認識を間接事実により推認する場合、その推認は確実なものであることを要する。
but
一審判決において、
Aが反社会勢力から覚せい剤を入手していることを被告人が想定していたとする推論

Aが北朝鮮産の覚せい剤の譲渡単価について発言したことを被告人が伝え聞いた
⇒Aが海外から覚せい剤を輸入することを被告人が想定していたと推認
は大きな飛躍。
vs.
特定の外国で製造された覚せい剤の譲渡単価の知識は、密輸入を自ら行ったことにより得たものではなく、当該外国産の覚せい剤を譲り受けた際などに得られた可能性もある。

その後の推論は成り立たない以上、本件郵便物に隠匿された覚せい剤について、被告人の未必的な認識を推認することはできない。

一審判決では事実認定の基礎としなかった自白の信用性についての検討を行い、
録音録画記録媒体による取調べ状況や、ADHD(注意欠如・多動性障害)等と診断されている被告人の発達障害等が及ぼした影響等も踏まえた上で、結論として、自白の信用性を肯定
⇒被告人は本件郵便物の中に覚せい剤を含む違法な薬物等が入っている可能性があると認識していた。

●被告人の営利目的について:
被告人は、Aが違法薬物の密売による利益を目的に本件郵便物を輸入しようとしている可能性を認識していたとする一審判決の推論は合理的。
but
①Aの密輸による利益が被告人にとっても経済的利益となる面があったといえること
②何らの利得も期待せずに受取役というリスクのある役割を引き受けるとは考え難い
という推論を加えることで、被告人の営利目的を認めた一審判決の判断は是認できない。

<解説>
●事実認定において、主要な直接証拠が自白、目撃供述等の供述証拠であるとき、
直接証拠を除外して間接証拠等の情況証拠によってどのような内容の事実が」認定できるのjかなどを見極め、
その結果認定された事実を踏まえ、それまで除外していた直接証拠の任意性、信用性の判断を行うなどして直接証拠による事実認定を行うといった、
情況証拠を重視し、供述証拠に依拠することをできるだけ避ける方法による事実認定をする運用。

事実認定の客観化に資する。

間接事実から要証事実を推認する場合、間接事実の推認力を検討する必要。
その際、反対仮説の可能性が残れば残るほど推認力は弱くなる
⇒反対仮説の成立可能性を検討することが重要に。
(最高裁H19.10.16)

●営利目的には、
自ら利得を得ようとする自利目的と、
他人に利得を得させようとする利他目的
がある。

判例時報2508

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0)

2022年3月21日 (月)

米子ホテル強盗殺人差戻審判決

広島高裁H31.1.24
鳥取地裁R2.11.30

<事案>
被告人が、約2週間前まで店長を務めていたホテルの事務所で金員を物色中、支配人Cに発見された⇒金員を強取しようと考え、殺意をもってCの頭部を壁面に衝突させ、頸部をひも様のもpので締め付けるなどして犯行を抑圧し、現金約43万2910円を強取し、その際、前記暴行により、Cに遷延性意識障害を伴う右側頭骨骨折、脳挫傷、硬膜下血腫等の傷害を負わせ、6年後に死亡させて殺害した強盗殺人の事案で、犯人性が争われた。

第1次上告審判決によって破棄された第一次控訴審判決(第一次一審判決の有罪部分を破棄して被告人を無罪とした)の差戻後の広島高裁の①事件判決(差戻後控訴審判決)と、同判決によって差し戻された鳥取地裁の②事件判決(第2次一審判決)
①事件判決は第一次一審判決の有罪部分(殺人罪及び窃盗罪による懲役18年)を破棄して鳥取地裁に本件を差し戻し、
②事件判決はこれを受けて強盗殺人罪の成立を認めて被告人を無期懲役に処した

●①事件判決(差戻後控訴審判決)
◎弁護人の事実誤認の主張
第一次一審判決が有罪の根拠として間接事実の認定及びその間接事実の総合判断としての有罪認定には論理則・経験則等に照らし不合理な点はない。

間接事実:
①被告人は犯行現場であるホテルの店長を務めていたことがあるところ、犯行現場の事務室は部外者には容易には分からない場所にある
②被告人は犯行時間帯に犯行現場近くに居た
③犯人は事務所から二百数十枚の千円札を持ち去っているところ、被告人は事件の翌日に自己の預金口座に230枚の千円札を入金し、かつその原資についての供述が信用し難い
④被告人は事件後に逃走するかの如き行動をしている

◎検察官の事実誤認の主張
第一次一審判決:
強盗殺人の公訴事実に対し、被告人の犯人性は肯定。
but
Cが犯行場所である事務室に入ったのは被告人の入室よりも前(=被告人はCの居る事務室に侵入したのであって、C不在時の物色行為はない)
⇒何らかの事情でそこに居たCを殺害しその後に金員を盗取した⇒殺人罪と窃盗罪が成立。

判断:被告人の侵入時刻を午後9時34分頃、Cの帰室時刻を午後9時40分以降と判断⇒被告人の物色中にCが帰室したと認定。

第一次一審判決には事実誤認があるとして、
①事件判決は、第一次一審判決の有罪部分を破棄し、鳥取地裁に差し戻した。

●②事件判決(第2次1審判決)
◎破棄判決の拘束力(夕食終了時刻の認定)
①事件判決が破棄した点は、夕食終了時刻に関する3のつの証拠(㋐従業員の証言、㋑コンピュータ記録からの推定、㋒従業員の救急隊員に対する時刻の説明)の評価の誤り。
㋑㋒については、その後の証拠調べや弁護人の主張に照らしても差戻後控訴審判決段階と実質的変動は生じていないからその判断に拘束される。
検討不十分とされた㋐の証拠と合わせて、夕食終了時刻を判断し、9時40分頃と認定。

◎被告人の犯人性
被告人を犯人と認定し、強盗殺人罪の成立を認めた。

<解説>
第一次上告審が第一次控訴審無罪判決を破棄したのは、
①被告人が事件の翌日に被害品と同種の230枚の千円札を所持していたのに、
②その千円札の入手経路に関する被告人の説明の信用性の検討が不十分であり、かつ、
③犯行時刻前後に被告人が犯行場所付近に居たことを含めた総合評価の仕方に問題あり。
「情況証拠によって認められる一定の推認力を有する間接事実の総合評価という観点からの検討」(最高裁H30.7.13)

より一般的な問題として、
被告人に不利益な間接事実についての被告人自身の説明に虚偽があると認められたときの「一定の推認力」については、形式的には一定の推認力といいながら、実質的には「決め手」となり、心証形成上のなだれ現象を引き起こすひきがねになりかねないとの指摘。

判例時報2505

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0)

2022年3月13日 (日)

黙秘権・接見交通権の侵害での国賠請求(肯定事例)

熊本地裁R3.3.3

<事案>
当時19歳の少年Xは、当時11歳の女子児童に対して18歳未満であることを尻ながらその面前でわいせつな動画を見せたという、熊本県長年保護育成条例違反の被疑事実により逮捕。

Xが、前記逮捕・勾留中の取調べの際に熊本県警察の巡査部長であったAが黙秘権を告知せず、Xに対し黙秘権侵害となる発言をし、弁護人との接見内容に関する質問を行った⇒Y(熊本県)に対し国賠法1条1項に基づき慰謝料及び弁護士費用の支払を求めた。

<規定>
憲法 第三八条[不利益な供述の強要禁止、自白の証拠能力]
何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
②強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。
③何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。

憲法 第三四条[抑留・拘禁に対する保障]
何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。

刑訴法 第三九条[被疑者・被告人との接見・授受]
身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は、弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者(弁護士でない者にあつては、第三十一条第二項の許可があつた後に限る。)と立会人なくして接見し、又は書類若しくは物の授受をすることができる。

<判断>
●取調べにおけるAの黙秘権の告知及び発言
①Xが逮捕直後に弁護士から被疑者ノートを差し入れられ、取調べが終わった直後にその内容を同ノートに記載、同ノートに記載された各取調べの日付及び時間は概ね正確。
②同ノートにはXにとって有利な事実のみが記載されたものではない。
③Xが主張するAの取調べ中の発言のうち、Aが同趣旨の発言をしたことを認める部分もある。

同ノートにおいて黙秘権の告知の記載がない日の取調べについてはAから黙秘権の告知がなされなかったこと、Aが同ノートに記載された発言をしたことを認めた。

●黙秘権の侵害
憲法38条1項は、警察官が被疑者を取り調べるに当たりあらかじめ理解させなければならない手続上の義務を規定したものではない⇒警察官が被疑者を取調べるに当たり前記手続を執らないで取調べをしたからといって直ちに黙秘権侵害あるということはできない。
but
・・・逮捕権や捜索差押権等の強制力のある公権力を背景とする自らの立場を自覚し、黙秘権や接見交通権等の被疑者の権利に留意しつつ、取調べの目的や必要性に照らして相当といえる限度で取調べを行うことが義務付けられている。
・・・その後の取調べにおいてAがした「調べるうちにどんどん不利になるものばかり出てきている」、「黙ってても何にも前に進まんぞ」等の発言は、AがXにとって不利な証拠を既に捜査機関が多数収集していると誤認させ、黙秘権の行使がXにとって不利益ないし社会的な非難を受けるに値するとの誤解を与えかねないものであり、当時未成年であったXを精神的に圧迫なしい困惑させるもの
取調方法として相当性を欠き、Xの黙秘権を実質的に侵害

●Xの接見交通権の侵害
刑訴法39条1項に規定される接見交通権は、憲法34条の保障に由来し、接見内容を知られない権利を保証したものと解すべきであり、
捜査機関は、刑訴法39条1項の趣旨を尊重し、被疑者が有効かつ適切な弁護人等の援助を受ける機会を確保するという同項の趣旨を損なうような接見内容の聴取を控えるべき注意義務を負っており、捜査機関がこれに反して接見内容の聴取をすることは、捜査妨害行為等接見交通権の保護に値しない特段の事情がない限り、国賠法上違法

AがXに対し「弁護士さんと接見したときに目撃者がいてどうすればいいのか相談とかしてるんだろう」と発言

弁護士との接見の具体的内容を質問及び聴取する内容であることが明らかであり、X及び弁護士の側に捜査妨害的行為等接見交通権の保護に値しない事情等も見いだせない。
⇒Xの接見交通権を侵害。
but
AがXに対し「自分勝手なことを言って弁護人も聞いてくれるなら大したもんだな」と発言

Xと弁護士との接見の具体的内容を聴取するものではなく、自らの感想を述べたにすぎない
⇒前記注意義務に違反したとまではいえない。

<解説>
裁判例

判例時報2504

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0)

自動車運転者を利用した殺人未遂の間接正犯が認められた事例

最高裁R3.1.29

<事案>
老人ホームで准看護師をしていた被告人が、
(1)同僚のAにひそかに睡眠導入剤を摂取させ、A車を運転して帰宅するよう仕向けた⇒走行中のAを仮睡状態等に陥らせ、A車を対向車線に進出させ、B運転車両に衝突⇒A死亡、B傷害
(2)同僚のC及びその夫のDに睡眠導入剤を摂取⇒D車事故でC、D、E傷害

自働車運転者を利用した間接正犯の事案。

被告人は、傷害罪のほか、
Aに対する殺人罪、
BCDEに対する各殺人未遂罪
で起訴され
A~Eに対する殺意を争う。

<1審・原審>
1審:各殺意を認め、懲役24年
⇒控訴

原審:対向車の運転者であるB及びEに対する殺意を認めた1審には事実誤認があるとして、差し戻し

当事者双方から上告
検察官:B及びEに対する殺意が認められるとし、刑訴法382条にいう事実誤認の意義等について判示した最高裁H24.2.13等の判例違反、同条の解釈適用の誤り、事実誤認等を主張。
弁護人:ACDに対する殺意を争うなどとして、刑法199条の解釈適用の誤り、事実誤認等。

<判断>
いずれも適法な上告理由に当たらないとしつつ、
職権により、検察官の上告趣意をいれ、
原判決には刑訴法382条の解釈適用を誤った違法がある⇒破棄して、被告人の控訴を棄却。

<解説>
●未必の故意と認識ある過失の区別
判例・実務:

認容説
死の結果に対する認識・認容を殺意と評価。
but
消極的認容に実質はなく、認容説を採用しているとは限らないとする見解。

第1審:
被告人の行為は、運転者、同乗者のみならず、巻き込まれた第三者を死亡させる事故を含め、あらゆる態様の事故を引き起こす危険性が高く、被告人はその危険性を現実のものとして認識していた。
⇒Aら及び事故に巻き込まれた第三者が死亡するかもしれないがそれでもやむを得ないという未必の殺意があった。

原判決:
・・・・死亡の可能性は低かった。
人が死亡する危険性が高いとはいえない行為についての殺意を認めるためには、人の死亡の危険性を単に認識しただけでは足りず、その人が死亡することを期待するなど、意思的要素を含む諸事情に基づいて、その人が死亡してもやむを得ないと認容したことを要する」という判断の枠組み。

Aらと事故の相手方を区別することなく、認識の対象となる危険性の程度を引き下げ、あらゆる態様の事故を引き起こす危険性の認識のみに基づいて殺意を認めた第1審判決は、判断枠組みないし認定手法を誤っている。
結果発生の認識・認容を要求する判例・実務の立場を前提としても、殺意の存否にとっては、死亡結果発生の危険性を十分に認識していたといえるかが決定的に重要であり、第1審判決と原判決の1次的な判断の分かれ目は、死亡の危険性及びその認識にあったといえる。

●最高裁H24.2.13:
刑訴法382条の事実誤認とは、第1審判決の事実認定が論理則、経験則等に照らして不合理であることをいうものと解するのが相当である。⇒控訴審が第1審判決に事実誤認があるというためには、第1審判決の事実認定が論理則、経験則等に照らして不合理であることを具体的に示すことが必要。

本判決:
第1審判決を、被告人の行為には事故の態様次第で事故の相手方を死亡させることも具体的に想定できる程度の危険性があり、被告人はその危険性を認識しながらAやDに運転を仕向けたとして、B及びEに対する未必の殺意を認めたものと解し、認識の対象となる危険性の程度を引き下げているとの原判決の指摘は、必ずしも第1審判決を正解したものとはいえない。

死亡の危険性について、
①Aらが自らの判断で運転を止める可能性や他の者が運転を制止する可能性は低かった
②顕著な急性薬物中毒の症状を呈していたAらが仮睡状態に陥り、制御不能となったA車やD車がAらの自宅までの道路を走行すれば、交通事故を引き起こして事故の相手方が死亡することも十分あり得る事態

原判決は、第一審判決の危険性の評価が不合理であるとするだけの説得的な論拠を示しているとはいい難い。

死亡の危険性は低かったとする原判決の評価はそれ自体が不合理であるとするものか、確実性の高い経験則を用いておらず、第1審判決とは別の見方もあり得ることを示したにとどまり、不合理の論証には成功していないとするもの。

本判決:
被告人が、ひそかに摂取された睡眠導入剤の影響によりAらが仮睡状態等に陥っているものを現に目撃しており、第1事件の前にはその影響によりAが物損事故を起こしたこと、第2事件の前には第1事件でAが死亡したことを認識していた
⇒B及びEを含む事故の相手方に対する殺意を認めた第1審判決の判断に不合理な点があるとはいえない。

刑訴法382条の解釈適用の誤りは判決に影響を及ぼし、破棄しなければ著しく正義に反する。

判例時報2504

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0)

2022年3月 3日 (木)

保護処分歴のない少年が2件の万引きを起こした窃盗非行事件⇒第1種少年院送致

東京家裁R3.2.9

<事案>
保護処分歴のない少年が2件の万引きを起こした窃盗非行事件⇒第1種少年院送致

<解説>
●本件の特徴:
(1)非行事実は軽微といえなくもなく、
(2)保護処分歴がなく、
(3)注意欠陥多動症疑い
という資質麺の特性を有する少年に対して第1種少年院送致の判断。

●(1)非行事実の軽重
少年に対する処遇選択、要保護性の程度に即応することが基本となるが、
非行事実の軽重、社会防衛的配慮など総合的な要素を加味した総合的な判断となる。
大半の事件では、非行事実の軽重と要保護性は対応・相関
⇒実務でも、非行事実の軽重に対する評価を出発点に。

非行事実は要保護性(非行性)の顕在化と捉えられる⇒その動機・目的が本人の性格的な問題点を解明する観点から重視され、犯行後の対応なども環境的な問題として考慮。

非行の軽重は、単に行為と結果だけではなく、
非行に至る経緯や動機、常習性、組織性、計画性等の事情も加味して判断される。

本件:
2件の窃盗(万引き)
but
①少年は幼少期より窃盗を繰り返して再三の指導を受けていた上、
②直前の友人の制止も聞かずに窃盗に及んでいる
など非行の背景にある具体的な事情を検討し、
少年の規範意識に対する非難の程度や非行に至る経緯も併せて考慮
⇒「軽微な事案と評価することはできない」と判断。

●保護処分歴の有無
収容保護の不利益性の大きさ⇒収容保護への謙抑的な傾向や段階的処遇の考え方
but
保護処分が時機を失して非行性が深化してしまう場合も少なくない

結局は、事案の内容と要保護性の程度に即して健全な判断を個別的に下していくほかなく、初回係属でも少年院送致を選択することが必要な場合はある。

本決定:
少年に保護処分歴がないことは考慮されている
but
①非行事実に対する評価
②その背後で少年が抱える問題性
③資質面の課題の根深さ
④判断時点までの改善状況と今後の指導の必要性
⑤少年を取り巻く保護環境

少年の要保護性は高く、初回係属であることを踏まえても改善を図るためには収容保護を選択せざるを得ないと判断。

●資質面の特性に対する評価
少年の要保護性を検討するため、家裁調査官による社会調査が活用
少年保護事件の決定書では、
少年の資質面について、
犯罪類型に応じた問題性を意識しながら、社会調査の生物・心理・社会モデルにおいて指摘されているいわゆるB・P・Sの視点のうち、特に、B・Pの視点を踏まえた分析が行われているとされる。
資質面の説示に当たっては、非行事実と資質面の問題性がどのように関連するかを明確にすることが特に重要であるとされる。

本決定:
注意欠陥多動症疑いが指摘。
その資質面の特性が窃盗をはじめとする多数の問題行動につながっており、本件非行と強く関係している上、成育歴に起因した根深いものとなっていることを具体的に検討した上で、最終的な結論に結び付けている。

判例時報2503

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0)

より以前の記事一覧