刑事

2018年7月17日 (火)

だまされたふり作戦での荷物の受取役⇒詐欺未遂罪の共同正犯(肯定)

最高裁H29.12.11       
 
<事案>
被告人は、氏名不詳者による被害者に対する欺罔行為の後、氏名不詳者により依頼され、被害者から発送された荷物の受取役として本件に共謀関与したものと認定。

共犯者による欺罔行為後、だまされたふり作戦の開始を認識せずに、共謀の上、被害者から発送された荷物の受領行為に関与した者が、詐欺未遂罪の共同正犯の責任を負うか? 
 
<一審>
①被告人の共謀加担前に共犯者が銀網行為によって詐欺の結果発生の危険性を生じさせたことについては、それを被告人に帰責することができず、かつ、
②被告人の共謀加担後は、だまされたふり作戦が開始⇒被告人と共犯者らにおいて詐欺の実行行為がされたとはいえない。
⇒無罪 
 
<原審>
①承継的共同正犯の成立を肯定
未遂罪として処罰すべき法益侵害の危険性の有無の判断に際しては、当該行為時点でその場に置かれた一般人が認識し得た事情と行為者が特に認識していた事情を基礎とすべきであり、だまされたふり作戦の開始によっても受領行為に詐欺の既遂に至る現実的危険性があったといえる。

詐欺未遂罪の共同正犯の成立を肯定。
 
<判断>
だまされたふり作成の開始いかんにかかわらず、被告人は、その加功前の本件欺罔行為の点も含めた本件詐欺につき、詐欺未遂罪の共同正犯としての責任を負うと解するのが相当。
 
<解説>

詐欺罪の承継的共同正犯を肯定
だまされたふり作戦の開始は詐欺未遂罪の共同正犯の成立に影響を及ぼさない 
 
●詐欺未遂罪の承継的共同正犯の問題
承継的共同正犯の問題については、従来から、全ての犯罪類型に統一的な処理の指針を見出すのは困難⇒犯罪の種別ごとの個別的検討の重要性。

詐欺を完遂する上で欺罔行為と一体のものとして予定されていた受領行為への関与」という点を指摘。

原判決の指摘:
詐欺罪の保護法益は個人の財産であり、欺罔行為はこれを直接侵害するものではなく、欺罔行為を手段として錯誤に陥った者から財物の交付を受ける点に法益侵害性があるという詐欺罪の特質。

判例時報2368

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2018年7月16日 (月)

窃盗保護事件における第一種少年院送致決定が著しく不当ととされた事案

大阪高裁H29.7.19    
 
<事案>
当時、定時制高校に在籍(身柄拘束後に退学処分)していた少年が、約2週間のうちに、アルバイト先などにおいて、8回にわたって財布などを窃取したという窃盗の事案。 
 
<原決定>
①常習性のうかがえる非行の悪質性、
②窃盗に対する抵抗感の乏しさ
③広範性発達障害の疑いもある少年の資質上の問題及びそれと非行との結びつき

父母の注意では窃盗に対する抵抗感が涵養されておらず、資質上の問題に照らすと在宅での監護を継続して問題点を改善除去するのは困難。
⇒少年を第一種少年院に送致。
 
<判断>
原決定が重視した少年の資質上の問題等について理解を示しながら、
件数が多いとはいえ、非行の内容が重要ではなく
窃盗の常習性についても非行性が固着する段階に至っていない

軽微な前歴しかなく、保護者によって受け皿が準備されている少年に対して、原審が試験観察に付すなどして在宅処分との優劣を検討せず、直ちに施設内処遇を選択した点を挙げ、処分が著しく不当であるとした。
 
<解説>
試験観察:少年に対する終局決定を留保し、家庭裁判所調査官が少年の行動などの観察を行うための中間決定によってとられる措置(少年法25条)。
試験観察の不実施に言及した上で、処分不当を理由として少年院送致の処分を取り消した抗告審決定例は少なくない

判例時報2367

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2018年7月15日 (日)

検証許可状⇒パソコンからインターネットに接続し、メールサーバーにアクセスしメールの送受信歴及び内容を保存(違法)

東京高裁H28.12.7      
 
<事案>
被告人が、有印公文書である国立大学の学生証2通、危険物取扱者免状1通及び自動車運転免許証2通並びに有印私文書である私立大学の卒業証書2通をそれぞれ偽造し、さらに
共犯者らと共謀の上、建造物損壊3件及び非現住建造物等放火1件の各犯行に及んだ。
 
被告人 前記各事件への関与を否定。

弁護人は、捜査機関が行ったパーソナルコンピュータの検証には重大な違法⇒違法収集証拠排除の主張。 
 
<規定>
刑訴法 第二一八条[令状による差押え・捜索・記録命令付捜索・検証・身体検査、通信回線接続記録の複写等]
差し押さえるべき物が電子計算機であるときは、当該電子計算機に電気通信回線で接続している記録媒体であつて、当該電子計算機で作成若しくは変更をした電磁的記録又は当該電子計算機で変更若しくは消去をすることができることとされている電磁的記録を保管するために使用されていると認めるに足りる状況にあるものから、その電磁的記録を当該電子計算機又は他の記録媒体に複写した上、当該電子計算機又は当該他の記録媒体を差し押さえることができる。

刑訴法 第二二二条[準用規定等]
第九十九条第一項、第百条、第百二条から第百五条まで、第百十条から第百十二条まで、第百十四条、第百十五条及び第百十八条から第百二十四条までの規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第二百十八条、第二百二十条及び前条の規定によつてする押収又は捜索について、第百十条、第百十一条の二、第百十二条、第百十四条、第百十八条、第百二十九条、第百三十一条及び第百三十七条から第百四十条までの規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第二百十八条又は第二百二十条の規定によつてする検証についてこれを準用する。ただし、司法巡査は、第百二十二条から第百二十四条までに規定する処分をすることができない。

刑訴法 第一二九条[検証上必要な処分]
検証については、身体の検査、死体の解剖、墳墓の発掘、物の破壊その他必要な処分をすることができる。
 
<本件検証>
神奈川県警の警察官は、刑訴法218条2項のいわゆるリモートアクセスによる複写の処分が許可された捜索差押許可状に基づく、当時の被告人方を捜索し、本件パソコンを差し押さえた。
but
本件パソコンにログインするパスワードが判明していなかった⇒リモートアクセスによる複写の処分をしなかった

本件パソコンを検証すべき物とする検証許可状の発付を受け、本件パソコンの内容を複製したパーソナルコンピュータからインターネットに接続し、本件パソコンからのアクセス履歴が認められたメールアカウントのメールサーバーにアクセスし、メールの送受信履歴及び内容をダウンロード保存
 
<原審>
本件検証は、「検証すべき物」として本件パソコンが記載されているにすぎない検証許可状に基づく検証における必要な処分としてリモートアクセスを行ったもので、メールサーバーの管理者等の第三者の権利・利益を侵害する強制処分に他ならない。

捜査機関が、このような強制処分を必要な司法審査を経ずに行ったということは、現行の刑訴法の基本的な枠組みに反する違法なもの。 

サーバコンピュータが外国に存在すると認められる場合には、基本的にリモートアクセスによる複写の処分を行うことは差し控え、国際捜査共助を要請する方法によることが望ましく、本件においても、サーバーコンピュータが外国にある可能性が高く、捜査機関もそのことを認識していた⇒この処分を行うことは基本的に避けるべき。
本件検証には、令状主義の精神を没却するような重大な違法がある

本件検証の経過及び内容を記載した検証調書や、本件検証の結果をまとめた各捜査報告書は、本件検証の結果そのもの⇒証拠能力を排除。

弁護人が排除を求めるその余の証拠については、
個々に本件検証との関連性等を検討した結果、
いずれも本件検証と密接に関連するとまではいえない。

証拠排除を否定。
⇒被告人の犯人性を肯定し、有罪判決。
 
<判断>
公訴棄却 
 
<解説>
平成23年の刑訴法改正(「情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律」)によっていわゆるリモートアクセスによる複写の処分が導入
but
この複写の処分は、あくまで電子計算機の差押えを行う場合に付加的に認められた処分であり、差押え後に行うことは想定されていない

また、検証(刑訴法128条、218条1項)については、前記法改正によっても、リモートアクセスを許す規定は設けられなかった。 

本判決:
電子計算機を検証対象とした検証許可状に基づき、リモートアクセスに相当する処分を行うことは、現行法上、許容されない

判例時報2367

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2018年7月 9日 (月)

少年の成人後起訴の場合と検察官送致決定

名古屋地裁H29.3.24    
 
<事案>
被告人は、少年であるうちに家庭裁判所で20条の検察官送致決定を受け、成人に達した後に起訴され被告人に。 
 
<弁護人>
本件の検察官送致決定には保護処分を選択しなかった点で同条の解釈適用を誤った重大な違法がある⇒無効。
その決定を受けてなされた本件控訴の提起も違法で無効。
⇒公訴棄却されるべき。 
 
<判断・解説>
●本判決:検察官送致決定後起訴前に対象者が成人に達した場合においても有効な検察官送致決定の存在が刑事事件の訴訟条件となる

◎ 少年法:
少年の処遇については専門性を有する家庭裁判所の判断に委ねる
⇒司法警察員及び検察官に対して、犯罪の嫌疑がある少年の被疑事件を前件家庭裁判所に送致することを義務づけ(家裁先議主義)。

家庭裁判所に、相当と認めるときに事件を検察官に送致する権限を与え(20条)、検察官送致決定による事件の送致を受けた検察官に一定の例外を残しつつ公訴提起を強制(45条5号)。

適法な検察官送致決定の存在が起訴後の刑事事件の訴訟条件

本件のように、検察官送致決定後控訴提起前に対象者が成人した場合も、起訴強制の効力は続く。

①事務処理繁忙等により起訴が遅れて対象者が成人に達した場合に起訴強制が働くなくなるのでは少年の処遇を専門性を有する家庭裁判所の判断に委ねた少年法の趣旨が損なわれる
②45条柱書及び同条5号は、起訴強制の要件として検察官送致決定の存在のみを掲げ、対象者が起訴時に少年であるかどうかを問わない書き方

対象者の成人後も起訴強制の効力が存続⇒対象者が少年のままである場合と同様、起訴は検察官送致と一体と捉えらえるべきであり、検察官送致決定の違法性を引き継ぐ。

●どのような瑕疵がある場合に検察官送致決定が無効あるいは不存在とされるか? 
◎ 最高裁H9.9.18:
家庭裁判所のした保護処分決定に対する少年側からの抗告に基づきその決定が取り消された場合に、差戻を受けた家庭裁判所は検察官送致決定をすることは許されず、検察官送致決定後の公訴提起は違法、無効。 

最高裁H26.1.20:
家庭裁判所が禁錮以上の刑に当たる罪の事件として検察官送致決定した事件について、検察官が、それと同一性が認められる罰金以下の刑に当たる罪の事件として公訴を提起することは許されず、同起訴を受けた刑事の裁判所は公訴棄却の判決をするべき。

公訴を提起した事件については検察官送致決定が不存在であると解したもの

仙台高裁昭和24.11.25:
非行時に13歳であることを看過してなされた検察官送致決定は違法であり、その後の公訴提起もまた違法。

検察官送致決定は存在する場合についてその実体的要件の欠缺を問題としたもの。

尚、判決時もなお少年の被告人については、55条移送が可能
⇒公訴棄却となるような検察官送致決定の違法性は違法性の程度が重大なものに限られるとの解釈。

◎ 本判決:
①検察官送致決定に対する不服申立ての規定はなく、刑事手続の中で55条による家庭裁判所移送の職権発動を促すことで検察官送致決定に対する事実上の不服申し立てを行うことができる
②家庭裁判所の判断は、同様の一件記録を使用する保護処分の抗告審との関係でも十分に尊重すべきものと位置づけられている
③刑事裁判所では判断資料も限られる

刑事裁判所は、訴訟条件としての検察官送致決定の適法性を審査するとしても、実質的判断内容の当否に踏み込むことは躊躇すべきであり(不服申立審でもない刑事事件を取り扱う裁判所が家庭裁判所の検察官送致決定の判断内容の当否について踏み込んだ審査をすることに適さない面もある。)

検察官送致決定が違法・無効であるとされ、送致を受けた検察官による公訴の提起もまた違法であるとして無効となる場合(刑訴法338条4号)とは、例えば検察官送致決定を行うこと自体が職務犯罪を構成する場合や、家庭裁判所が故意に事件を長期間にわたり放置していたにもかかわらず検察官送致決定を行なった場合など、極限的な場合に限られる

◎保護教育主義を採る少年法においては、検察官送致は例外的な存在。
検察官送致が許されるのは、原則として、
保護不能か保護不適の場合のみ。

(通説)

判例時報2366

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2018年7月 8日 (日)

贈収賄事件(1審無罪、控訴審有罪)

名古屋高裁H28.11.28       
 
<弁護側>
検察官と贈賄したと自認するP1の間に取引(刑訴法改正により導入された合意(刑訴法350条の2以下)、特に不起訴合意や求刑合意にちかいもの)があったとして、P1には、虚偽供述の動機があることを強く主張。 
 
<原審>
現金供与を認めたP1の公判証言の信用性を否定⇒現金授受の事実を認めるには合理的な疑いが残る⇒被告人は無罪。
 
<検察主張>
事実誤認の主張
㋐P1証言を離れ、現金授受に関連する状況証拠(関節証拠)のみによっても現金授受の存在が認められる。
㋑P1証言は、それらの情況証拠に整合し、かつ合理的に説明する内容であり、供述過程からも虚偽であるとは考えられず、信用性に疑いを容れる余地はない。 
 
<判断>
●㋐について:
実績のないP1の事業が被告人の働きかけによって、短期間で市の受け入れるところとなったように見えるが、それのみでは、現金の授受を推認することはできない。

●㋑について 
P1の平成25年4月2日に10万円(第1授受)、同月25日に20万円(第2授受)を被告人に供与したとの証言の信用性を肯定。

①供述が具体的、詳細で、弁護人からの反対尋問にも揺らいでおらず、
②供述内容に不合理な点がない。
③以下の事由

◎情況証拠との整合性
情況証拠だけでは現金授受の存在を認めるに足りないとしても、その情況証拠によって直接証拠であるP1証言が支えられ、これにより現金授受の存在が認定できるかどうかは、別途検討する必要がある。

①授受の資金の流れがP1証言と合致
②各現金供与の動機、経緯に関するP1証言が、美濃加茂市における浄水プラント設置の動きや被告人の市長選立候補をめぐる事実経過と整合的
③被告人の市長選挙に協力する(裏選対活動)ために美濃加茂市内に宿泊したP3の宿泊代金を、事前の合意に基づきP1が負担しており、被告人のための費用をP1が負担するという関係が形成されていたといえる、
④P1が、第二授受があったとされる前日、知人のP4に対し、市長選当選が確実な被告人に恩を売っておきたいから50万円貸してくれと頼み、また、別の知人P12に対しても、P1が逮捕される5か月以上前に、被告人に30万くらい渡したと述べていた

これらの事情がP1証言の信用性を高める。

◎供述経過 
P1証言の信用性は、その内容からすれば、P1が記憶通り真実を述べているのか、それとも意図的に虚偽を述べている疑いがあるのかという問題。
①原審で取調べ済みのP1の捜査段階の供述調書
②控訴審で取り調べたP1の取調べを担当した警察官の証言
③同警察官作成の取調べメモ等
に基づきP1の供述経過を詳細に検討
P1の供述は、その時々における自己の記憶に従ってなされたものであり、供述経過を理由にP1証言の信用性が否定されることはない。

◎原判決の証拠評価について 
原判決:
P1は捜査当時既に融資詐欺で起訴され、さらに別の融資詐欺での追起訴も予想される状況にあり、なるべく軽い処分を受けるために捜査機関の関心を他の重大事件に向けて融資詐欺の捜査の進展を止めたいなどという、虚偽供述の動機があったと指摘。
vs.
①P1が原判決指摘のような考えを持っていた可能性は否定できないと指摘しつつも、仮にP1が虚偽供述をしていたとすると、P1は実際に犯していない贈賄罪も併せて処罰を受けるおそれがある一方、融資詐欺の捜査等が止められる保証はなく、これは極めて危険な賭け
②捜査機関の関心を他の重大事件に向けるためには第二授受だけ話しておけば十分であるのに、わざわざ第一授受の件を付け足した理由の説明が付かない

P1証言の信用性を否定する理由にならない(本判決)。
 
<解説>
●控訴審判決が第一審判決を事実誤認で破棄するには、論理則、経験則に照らして、不合理であることを具体的に示す必要がある。 
 
●本判決:
P1証言は、自分の記憶通りの供述なのか、後から全くの虚偽の事実を作り上げた疑いがあるのかという視点から検討。

原判決:
そのような明確な視点は読み取れず、
供述内容については、一般的な信用性判断の枠組みで評価し、それ以外の事情として、虚偽供述の動機を検討。 

本判決:
取調官とのやりとりの中で分かっていたと思われる事項については、仮に客観的事実と整合していても、虚偽性を排除できないことを認める一方で、
後から作り上げることができない事実については、虚偽性を排除しうるものと位置付け。

P1が被告人に渡す金と明示して、借金した相手のP4や、
被告人が逮捕されるよりも前に、被告人に金を渡したことを話した相手のP12の供述を重視。


P1が本件について供述を始めるよりも前に、P4はその点を既に捜査機関に話していた
⇒P1証言は、秘密の暴露ではない。
but
P4の供述は、そのことを最初に話したものとして、信用性が高まる

P1自身が本件について供述を始めるよりも前に、P1が収賄罪となる可能性もあることを友人であるP4が供述するについては、虚偽である可能性は格段に低い。

本判決は、原判決が、そのようなP1証言の虚偽性を排除する可能性の高い証拠を取調べながら、そのような観点からの検討を怠った結果、P1証言の信用性判断を誤ったものと評価(=原判決が、論理則、経験則に照らして不合理であることを具体的に示した)

判例時報2366

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2018年6月29日 (金)

商標権者によって登録商標が付された真正商品であるスマートフォンのOSに改変⇒商標権侵害罪の成立。

千葉地裁H29.5.18      
 
<事案>
米国アップルインコーポレーテッドが商標登録を受けているリンゴの図柄が付されたスマートフォン「iPhone」の内臓プログラムであるオペレーティングシステム(OS)に「脱獄」と呼ばれる改変を加えて販売販売した被告人の行為について、商標権侵害罪が認められるなどした事案 
 
<規定>
商標法 第25条(商標権の効力)
商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する。ただし、その商標権について専用使用権を設定したときは、専用使用権者がその登録商標の使用をする権利を専有する範囲については、この限りでない。

商標法 第2条(定義等)
3 この法律で標章について「使用」とは、次に掲げる行為をいう。
二 商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為
 
<解説> 
●商標権は指定商品について登録商標を使用する権利を専有(商標法25条)
登録商標が付された指定商品を譲渡する行為は登録商標の使用に該当(同法2条3項2号)

いわゆる真正商品(商標権者が登録商標を付して販売した商品)を適法に入手した上で転売する行為であっても文理上は商標権侵害に該当。
vs.
商標権侵害の範囲が無制限に広がり、他者の営業活動を不当に制約。

文理上は登録商標の使用に該当する場合であっても、
商標の品質保証機能及び出所表示機能を害するとは認められないときには、
商標権侵害を否定する見解(商標機能論)

が学説上の支持

最高裁(最高裁H15.2.27)フレッドペリー事件:
我が国における登録商標と同一の商標が付された並行輸入品の輸入販売行為が商標権を侵害するかが争われた民事事件で、
当該商品と我が国の商標権者が登録商標を付した商品とが当該登録商標の保障する品質において実質的に差異がないと評価される場合には、
商標の出所表示機能及び品質保証機能を害することがなく、
商標権侵害としての実質的違法性が欠ける。


商標機能論を採用。
 
●刑事事件: 
電機メーカーの商標が無断で付された電子部品をパチスロ機の製造業者が自社の製品に組み込んで販売する行為等が商標権侵害罪に問われ、
商標の付された電子部品が完成品の内部に組み込まれることにより、商標が保護に値しないもとなるかが争われた事案:
商標が付された電子部品が完成品に組み込まれた後であっても、当該商標は電子部品についての商品識別機能を保持していたものと認められる
商標権侵害罪の成立を認めた原判決の判断を是認。
(最高裁H12.2.24)

商標の機能に着目して商標権侵害の成否を判断する判例の態度
本件は、真正商品に改変を加えた改造品を譲渡した事案。
商標権者によって登録商標が付された真正商品である家庭用ゲーム機の内臓プログラムに改変を加えて販売した行為について、
前掲フレッドペリー事件の考え方を援用しつつ、
内臓プログラムの改変の程度が商標の出所表示機能及び品質保証機能を損なう程度に至っているか否かで商標権侵害の成否が決せられるとの判断
⇒商標権侵害罪の成立を肯定したもの(名古屋高裁H25.1.29)
 
<判断> 
●商標権者によって登録商標が付された真正商品に改変を加えた改造品を販売する行為について、
①その品質が真正商品のそれと実質的に差異がなく、
②商標の出所表示を機能及び品質保証機能が害されない場合
には実質的違法性を欠き、商標権侵害罪は成立しない。 

被告人が販売したiPhoneのハードウェアには一切改変は加えられておらず、真正商品との差異はソフトウェアであるiOSに本来であればインストールできないアプリケーションソフトをインストールして利用可能にする改変が加えられた点に尽きる。
but
iOSの改変はiPhoneの本質的部分の改変に当たり、商標権者が禁じているiOSの改変によってスマートフォンとしての機能やセキュリティレベルといった品質面に真正商品とは相当な差異が生じ、商標の出所表示機能及び品質保証機能が害されている

商標権侵害罪の成立を肯定

iOSの改変によるセキュリティレベルの低下が原因となって不具合が生じたとしても商標権者の責任による不具合と誤認するおそれが否定できない

iPhoneを購入した者が改変を知っていたからといって商標の機能jが害されていないとはいえない。

 
●尚、本件では商標権侵害罪のほか、
被告人からiPhoneを購入した者がスマートフォン用のオンラインゲームを遊技する際にデータを不正に書き換えてクリアしたにもかかわらずデータを不正に書き換えることなく適正にクリアしたという内容虚偽のデータをサーバーコンピュータに送信・記録させた行為が私電磁的記録不正作出・同供用罪に当たり、データの不正書換えの方法を教示するなどのした被告人の行為がそのほう助罪に当たるとして起訴されているが、それについても有罪。

判例時報2365

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2018年6月27日 (水)

危険運転致死傷罪の故意

大阪高裁H29.3.16      
 
<事案>
低血糖症による意識低下状態⇒自車を暴走させて衝突事故
 
<規定>
自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律 第三条
アルコール又は薬物の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、そのアルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を負傷させた者は十二年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は十五年以下の懲役に処する。

2自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるものの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、その病気の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を死傷させた者も、前項と同様とする。

*自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律施行令〔平二六政一六六〕第三条(自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気) 法第三条第二項の政令で定める病気は、次に掲げるものとする。

四 自動車の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈する低血糖症
 
<訴因>
低血糖症の影響により正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転し、低血糖症による著しい意識低下の状態に陥って衝突事故を発生させ被害者を負傷させた⇒危険運転致傷罪(自動車死傷法3条2項)で起訴

被告人:走行中に意識低下の状態に陥り正常な運転に支障が生じるおそれがあることの認識はなかったから、同罪の故意がない

訴因変更を行い、
被告人は、運転開始に際して、意識障害に陥る可能性を予見し、血糖値が安定するのを確認するなどの措置を講じる義務があるのに、これを怠り、血糖値が安定しているのを確認しないで自車を発信・走行させた過失により、意識低下の状態に陥って衝突事故を発生させたとする過失運転致傷の予備的訴因を追加

被告人:意識障害に陥る可能性を予見することはできなかった⇒過失はないと主張。
 
<一審>
●主位的訴因 
被告人が前兆を感じていたことは認定できない
被告人が無自覚性低血糖症を発症し、そのことを認識していたとしても、本罪における「正常な運転に支障が生じるおそれ」は具体的なものでなければならないところ、本件当日の事実経過の下では被告人は具体的なおそれを認識したとはいえない⇒危険運転致死傷罪は成立しない。
 
●予備的訴因 
被告人の病態、血糖値降下の経験等

運転開始時に血糖値を測定し、
低血糖であれば運転するのを控えるべきであった。
低血糖になっていなくても運転開始一時間前の値よりかなり低下していたのであれば、運転開始後こまめに血糖値を測定すべき。であり、そうしていれば事故を防止することができた。

1時間前の高い血糖値やどら焼き等の摂取等の点は、
正常な運転に支障が生じるおそれの認識を否定する事情にはなっても、
意識障害に陥る可能性を予見できたことを否定する事情にはならない。
①過去に前兆なく低血糖症による意識障害に陥ったことがあり
②数時間で血糖値が大きく低下して中枢神経症状が出始める値になったこともあり、
③当日は昼食を摂取していないため、血糖値が不安定となるおそれがあった

運転するに際して、低血糖症により意識障害に陥る可能性を予見し、血糖値を測定し、これが安定するのを確認した上で発進・走行すべき注意義務を設定
被告人がこれを怠り、血糖値を測定せず、その安定を確認しないまま発進・走行した過失がある。
 
<判断>
①過去において前兆なく低血糖症による意識障害に陥ったことは認定できず、
②インスリン注射以外の原因により血糖値が大きく降下したことがあったとも認定できない
⇒これらを予見可能性を認める前提にはできない。

「運転開始1時間前に高い血糖値を示したが、被告人はインスリンを注射せず、運転開始前にどら焼き等を摂取したが、その時点で低血糖の前兆を感じていなかった」という原判決が認定した事実を前提とすると、
運転中に低血糖症による意識障害に陥ることを具体的に予見することは困難で、運転開始時に血糖値を測定する義務があったとはいえず、測定したとしても血糖値は高い状態にあり、事故は回避できなかった
⇒原判決には事実誤認がある。

被告人が運転開始前にどら焼き等を摂取したのだとすれば、その時点で低血糖状態又はその可能性を自覚していたはず。

検察官の釈明をふまえ、
被告人において運転開始時に低血糖症の前兆を感じていたと認められるのであれば危険運転致傷の訴因が肯定されると理解したと考えられるところ、
本件の状況では、運転開始時に前兆を感じていたという事実だけから運転中に意識障害に陥るおそれを具体的に認識していたと認めることはできないものの、
他方、前兆を感じていたと認められるのであれば原則として意識障害に陥る可能性を予見できた

運転開始時あるいは運転中に前兆を感じていたことを前提にして、争点を顕在化し、防御の機会を与えた上で審理を尽くすべきであるとし、原審に差し戻した
 
<解説>
●自動車の運転中に運転者が病気の影響により意識障害に陥って交通事故 

運転中に意識障害に陥るおそれがあり、運転を差し控えるべき注意義務があるのに、これを怠って運転を開始した過失犯を認定。

低血糖により分別もうろう状態に陥って衝突事故:
運転者は事故当時、即効型インスリンを注射し、スポーツクラブで運動をし、低血糖を招きやすい状態であったにもかかわらず、血糖値を測定せず、糖分補給もしないまま、血糖値管理を怠って、1人で自動車の運転をして無自覚性低血糖による意識障害に陥った⇒民法713条ただし書による損害賠償責任を肯定。

民法 第713条
精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、その賠償の責任を負わない。ただし、故意又は過失によって一時的にその状態を招いたときは、この限りでない。
 
●自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律3条2項の罪 
平成26年5月施行
同法2条は、概ね従来の危険運転致死傷罪を
同法5条は、従来の自動車運転過失致死傷罪を
それぞれ刑法典から移行。

そららの中間に位置する類型として同法3条を制定し、
運転開始時においては正常な運転が困難な状態には至っていないものの、その後の走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態であり、
そのことを認識した上で運転を開始し、
走行中に正常な運転が困難な状態に陥ってたことにより事故を起こして人を死傷させる行為を処罰の対象とした。

同法3条1項:アルコール又は薬物の影響による場合(いずれも運転者の意思で摂取される)を規定
同条2項:病気による症状の発現によって正常な運転が困難な状態に陥った場合を想定。
 
危険運転致死傷罪の故意について、

原判決:
低血糖症の影響により運転中に意識障害になるおそれを具体的なものとして認識することが必要

控訴審:
それを前提とした上で、低血糖症の前兆を感じたという事実だけから運転中に意識障害に陥る可能性を具体的に認識したとはいえないとする。 

判例時報2365

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2018年6月26日 (火)

危険運転致死傷罪の目的の有無が問題となった事例

大阪高裁H28.12.13      
 
<規定>
刑法 第208条の2(危険運転致死傷)
2 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、前項と同様とする。赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、同様とする。
 
<被告人>
危険運転致死傷罪(平成25年法律第86号による改正前の刑法208条の2第2項前段)にいう「人又は車の運行を妨害する目的」(通行妨害目的)はなかったと主張。 
 
<原審>
通行妨害目的は、運転の主たる目的が人又は車の自由かつ安全な通行の妨害を積極的に意図することになくとも、
自分の運転によって前記のような通行の妨害を来すことが確実であることを認識して当該運転行為に及んだ場合にも肯定されると解するのが相当。

被告人にはそのような認識があったと認定して、危険運転致死傷罪の成立を認めた。
 
<判断>
危険運転致死傷罪の立法趣旨や各種目的犯の目的についての解釈

通行妨害目的は、
人又は車の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図して行う場合のほか、
危険回避のためにやむを得ないような状況等もないのに人又は車の自由かつ安全な通行を妨げる可能性があることを認識しながら、あえて、「走行中のの自動車の直前に侵入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転」(「危険接近行為」)した場合も含む。
本件の事実関係や被告人の供述
⇒危険接近行為を肯定⇒通行妨害目的が認められる
 
<説明> 
●目的犯における目的の解釈 
①「営利の目的」(覚せい剤取締役法41条の2第2項):
「犯人がみずから財産上の利得を得、又は第三者に得させることを動機・目的とする場合をいう」(最高裁昭和57.6.28)
②図利加害目的(刑法247条、旧商法486条1項):
「図利加害の点につき、必ずしも・・・意欲ないし積極的認容までは要しない」(最高裁昭和63.11.21)
③「人の身体を害せんとするの目的」(爆発物取締罰則1条、3条):
「人の身体を害するという結果の発生を未必的に認識し、認容することをもって足り、右結果の発生に対する確定的な認識又は意図は要しない」(最高裁H3.2.1)

上記②の判例解説:
背任罪における「図利加害目的」は「本人の利益を意図していた場合は処罰しない。」という命題の裏側として、処罰すべき「本人の利益を意図していなかった場合」を表現するために設けられたものと理解することができるとの見解。

学説:
A:目的犯について、
構成要件的行為を行うことにより目的が実現されるかどうかという点に着目して分類し、
①構成要件的行為自体から、またはその附随現象として目的が実現され、そのために新たな行為を必要としないもの(いわゆる切断された結果版)⇒目的の内容が行為者に確定的なものとして認識されていることを要し、
②目的の実現のために行為者又は第三者による構成要件的行為とは別の行為を必要(いわゆる短縮された二行為犯)⇒目的の内容を未必的にでも認識していれば足りる

vs.
上記③の判例解説:
①客観的な行為の危険性と行為者の認識の程度は別であり、確定的認識があったからといって常に未必的認識しかない場合よりも結果発生の危険性が高いとは言えない⇒確定的認識を犯罪成否の基準とすることは合理的とはいえない
②目的の内容たる結果は将来の事実⇒元来それを確定的に認識すること自体困難なことが少なくなく、その意味でも確定的認識を要求することが不当
③故意においては犯罪の成否を左右しないとされる…認識の程度(又は心情の差異)が・・・目的については大きな差異をもたらすことになるが、その相当性の合理的説明は困難。
との指摘。
 
●危険運転致死傷罪 
法制審刑事法部会:
危険妨害目的とは、相手方が自車との衝突を避けるために急な回避措置を余儀なくされることを積極的に意図することをいうとの説明
(国会の審議でも同様の説明)

東京高裁H25.2.22:
通行妨害目的が前記積極的意図をいうとする解釈を前提としつつ、
「運転の主たる目的が・・・通行の妨害になくとも・・・通行の妨害を来すのが確実であることを認識して、当該運転行為に及んだ場合には、自己の運転行為の危険性に関する認識は・・・通行の妨害を主たる目的とした場合と異なるところがない」
「自己の運転行為によって・・・通行の妨害を来すのが確実であることを認識していた場合」にも通行妨害目的が認められる

相手方の自由かつ安全な通行の妨害を来すのが確実であることを認識している」ことのほか、「他に安全な通行が可能であるのに、あえて当該危険な運転に及んだ」ことが必要であるという解釈を付加した方が、「目的」の文言により適合するといえたかもしれない。

判例時報2365

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2018年6月10日 (日)

強制採尿令状執行を確保するための留め置きが違法とされた事例

大阪地裁H29.3.24   
 
<事案>   
 
<判断・解説> 
●職務質問開始から強制採尿令状請求準備着手までの留め置き:
その必要性と手段の相当性を肯定し、適法。 

プライバシー侵害のおそれのある救急車への同乗と搬送後の病院内の動向監視:
①既に令状の請求段階に入っている⇒令状執行のために被告人の動向を監視しておく必要性が高かった
被告人が弁護士と連絡を取るなどの行動の自由が確保されていた
動向監視の手段の相当性を肯定して適法

有形力を行使したK5警察官の乗車阻止の行為
令状執行を確保するために留め置きの必要性がある場合に「一定程度の有形力を行使することも、強制手段にわたらない限り、許容される余地」があるとしつつも、K5警察官の行為は、任意捜査として許容される限度を超えた逮捕行為という他ない⇒違法

K5警察官が承諾なしに車両に乗り込んだ行為も違法。
 

職務質問から発展した覚せい剤事犯の任意捜査のための留め置き:
東京高裁H21.7.1:
令状請求の準備着手の前後で「純粋に任意捜査の段階」と「強制捜査への移行段階」とに区分。
後者においては、嫌疑が濃厚であることから被疑者の所在確保の必要性が高い⇒前者に比して「相当程度強くその場に止まるよう被疑者に求めることも許される」
(二分論) 

その後の高裁判例には、
二分論にしたがって、強制手続への移行後には、相当程度の有形力の行使があっても留め置きを適法とするものがある一方、
二分論に準拠せずに、留め置き全体につき諸般の事情を総合的に考慮して留め置きを違法とするもの
もある。

本判決は、
プライバシー侵害に当たりうる警察官の救急車への同乗と病室内に滞留しての動向監視につき、令状請求準備着手後であることを理由に令状執行に向けた被告人の留め置きを適法としている。
~二分論に準拠。
but
強制手続への移行後、とりわけ最終段階の令状発付後であったとしても、現実の令状呈示にいたるまでは任意捜査の段階⇒強制手段に至らない限度での有形力の行使が認められるのに止まり(最高裁昭和51.3.16)、二分論の下でも、強制手段である逮捕行為に至った場合には違法となる旨判示。
 
●K5警察官が「令状発付の有無という重要事項につき、未確認のままに確定的な回答をするという姿勢からは、同警察官において、令状主義の精神を軽視する姿勢が顕著であった」⇒前記違法行為と併せてK5警察官の留め置きには「令状主義の精神を没却するような重大な違法がある」と判断。
⇒尿鑑定書等の証拠能力を否定。 
 
◎留め置きを違法と判断した後の尿鑑定書等の証拠能力の判断:
二分論以降の高裁判例には、違法の重大性を否定して証拠能力を肯定したものが多い。
but
違法の重大性を肯定して証拠能力を否定したものもある。

証拠能力を否定した下級審確定判例の多くは、令状請求の際の疎明資料に捜査官が意図的に虚偽記載をしたと認定し、裁判官を欺罔する捜査官の主観面を考慮に入れた結果、「令状主義の精神を没却する重大ない違法がある」と判断(最高裁H15.2.14)。 
 
◎本判決は、裁判官に対する欺罔行為ではなく、弁護士からの問いに対しK5警察官が主観的には認識していない令状発付の事実を既成事実のように告知したことを重視。 

裁判官の令状審査を歪めたという関係にはなく、客観的には令状が発付されていた⇒必ずしも虚偽とはいえない前記告知の事実から直ちに「令状主義の精神を軽視する姿勢」を帰結するには異論もあり得る。
むしろ、違法の重大性を基礎付けた根拠は、K5警察官が任意捜査の段階であるとの弁護士の指摘を無視して逮捕行為に及んだ点にある

判例時報2364

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2018年6月 9日 (土)

警備対象である組長にけん銃等の所持の共謀共同正犯が成立

大阪地裁H29.3.24      
 
<事案>
配下組員P1及びP2がけん銃等を所持⇒AがP1及びP2と共謀していたかが争点。
 
<判断>
①本件当時、AらZ1組関係者に対するZ5会関係者からの襲撃の危険があるとの認識を有していた
②Z3会事務所やAの自宅付近に警戒態勢が取られ、Aはそれを認識していた
③JR浜松駅からZ1組総本部に至るまでの駅構内、新幹線等において、P1及びP2がけん銃を携帯しつつXの身辺に随行して警備しており、Aもそれを認識していた
④Z1組総本部から本件ホテルに至るまでの警備も同様
⑤本件ホテルにおいてもZ3会及びZ2会関係者がA及びZ2会組長を警護していた
⑥本件当日ロビーにおける警護状況も同様
⑦Z3会における同会組長の警護態勢との比較によって前記判断は左右されない

Aにおいて、P1及びP2がけん銃を携帯所持していることを認識した上で、それを当然のことととして受け入れて認容していたと推認するのが相当。 

P1及びP2は、けん銃等をいつでも発射可能な状態で携帯所持してAに随行し警護していたものであり、P1及びP2としても、Z3会組長であるAの立場からして、AがP1及びP2のけん銃等の携帯所持を認識、認容していることを当然に了解していたと推認できる

Aと、P1及びP2とけん銃等の携帯所持について、黙示的な意思連絡があった。

Aは、Z3会組長として、配下のP1及びP2らの意思決定や行動に大きな影響を与える支配的立場にあった上、本件犯行の利益は専らAに帰属する関係にあった

Aは本件犯行について共謀共同正犯としての責任を負う。
 
<解説>
最高裁平成15年及び最高裁平成17年で、組長が配下組員のけん銃所持を「概括的にせよ確定的に認識」していた点につき、 本判決は「確定的」という文言を使っていない。
but
一般的にいえば、非実行者の認識は未必的で足りるとされる(最高裁H19.11.14)。

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