債権譲渡の対価としてされた金銭の交付が貸金業法等の「貸付け」に当たるとされた事例
最高裁R5.2.20
<事案>
被告人と顧客との間で、「給料ファクタリング」と称して行なわれていた取引が、貸金業法違反(無登録営業罪)と出資法違反(業として行う超高金利罪)に問われた事案。
被告人が、労働者である顧客から、その使用者に対する賃金債権の一部を、額面額から4割程度割り引いた額で譲り受け、同額の金銭を顧客に交付。
使用者の不払の危険は被告人が負担
but
希望する顧客は譲渡した貸金債権を買戻し日に額面額で買い戻すことができること
被告人が、使用者に対する債権譲渡通知の委任を受け手その内容と時期を決定売ること、
顧客が買戻しを希望しない場合には使用者に債権譲渡通知をするが、顧客が希望する場合には買戻し日まで債権譲渡通知を留保すること
が定められていた。
全ての顧客との間で、買戻し日が定められ、債権譲渡通知が留保されてきた。
<原審>
弁護人:本件取引では、賃金債権の買戻しを顧客の義務とはしておらず金銭の返還合意がない上、賃金債権の不払の危険を顧客が負わないとしている
⇒本件取引に基づく、被告人から顧客に対する金銭の交付が、貸金業法2条1項及び出資法5条3項にいう「貸付け」に該当しない
vs.
本件取引では、
①顧客に対し、顧客が本件取引を利用した事実を勤務先に知られることを嫌がっていることを前提に、買戻しをしなければ勤務先に通知する旨を伝えて買戻しを心理的に強制することなどで、事実上買戻し以外の方法はない旨認識させつつ、
②買戻しをしつこく催促するなどもしていた
③本件の犯行期間中、顧客の勤務先に債権譲渡通知を行なったことはなかった
⇒
その実態は買戻しを前提とした「貸付け」にほかならない。
賃金債権の不払の危険をどちらが負っているかの点はその認定を左右しない。
<判断>
弁護人の主張はいずれも刑訴法405条の上j国理由に当たらない⇒上告を棄却。
職権で、本件取引が「貸付け」に当たる旨の判断をした。
規定 貸金業法 第二条(定義)
この法律において「貸金業」とは、金銭の貸付け又は金銭の貸借の媒介(手形の割引、売渡担保その他これらに類する方法によつてする金銭の交付又は当該方法によつてする金銭の授受の媒介を含む。以下これらを総称して単に「貸付け」という。)で業として行うものをいう。ただし、次に掲げるものを除く。
出資法 第七条(金銭の貸付け等とみなす場合)
第三条から前条までの規定の適用については、手形の割引、売渡担保その他これらに類する方法によつてする金銭の交付又は授受は、金銭の貸付け又は金銭の貸借とみなす。
<解説>
●高金利を取り締まって健全な金融秩序の保持に資することなどの、貸金業法や出資法の立法趣旨に照らし、実質的には金銭消費貸借と同様の経済的機能を有する契約に基づく金銭の交付は、貸金業法及び出資法において「貸付け」に含めることとした。
⇒
ある金銭の交付が、前記各条の「貸付け」に該当するか否かは、契約の形式や外形のみならず、その実態に照らして実質的に判断。
●金融庁:令和2年3月5日付けの「金融庁における一般的な法令解釈に係る書面紹介手続(回答書)」で、労働者が賃金の支払を受ける前にそれを他に譲渡した場合においても、労基法24条1項により使用者は直接労働者に対し賃金を支払わなければならず、賃金債権の譲渡人は自ら使用者に対してその支払を求めることはゆるされない
⇒
いかなる場合であっても賃金債権の譲受人が自ら使用者に対してその支払を求めることはできず、賃金債権の譲受人は常に労働者に対してその支払を求めることになる
⇒
刑事宛キ゚に貸付けと同様の機能を有しており、貸金業法2条1項の「手形の割引、売渡担保その他これに類する方法」に該当。
最高裁:
賃金である退職手当に関し、その給付を受ける権利の譲渡自体を無効と解すべき根拠はないけれども、労基法24条1項が「賃金は直接労働者に支払わなければならない。」旨定めて、使用者たる賃金支払義務者に対し罰則をもってその履行を強制している趣旨⇒労働者が賃金の支払を受ける前に賃金差権を他に譲渡した場合においても、その支払についてはなお同条が適用され、使用者は直接労働者に対し賃金を支払わなければならず、したがって、・・・賃金債権の譲受人は自ら使用者に対してその支払を求めることは許されないものと解するのが相当。
~
退職手当の受給権の譲受人から使用者に対しその支払を求めることは許されない。
●本決定
労基法24条1項、上記最高裁
⇒被告人が使用者に対して直接賃金債権の支払を求めることができず、実際には顧客から陳儀を回収するほかなかった。
~
法律上、使用者に直接支払を求めることができず、顧客の一般財産から資金の回収を図るほかないという事情は、譲渡された資産の法的な支配権が完全には譲渡人に移転しておらず、譲渡が担保目的であることを強く推認させる事情となると判断。
顧客が債権譲渡通知の留保を希望しており、使用者に対する債権譲渡通知を避けるため、事実上、自ら債権を買い戻さざるを得なかった。
←
労働者は、経済力等の格差、指揮命令関係や組織的統制等により、使用者に対して本質的に従属的な立場にある⇒使用者に賃金債権の譲渡が通知されることは労働者に不利益な事態。
~
顧客が実質的に買戻義務を負っており、金銭返還の合意や、被担保債権の存在が認められると判断。
賃金債権の不払の危険自体が相当に低く、それが現実化するのが例外的な場合に限られる。
⇒
実質的な経済的リスクを考慮し、事後的に譲渡人が買戻し等を免れることが例外的にあり得るとしても、金銭の交付の時点での「貸付け」該当性に直ちに影響を与えるものではないと判断。
判例時報2612
最近のコメント