判例

2018年9月18日 (火)

高齢者の万引きで責任能力が争われた事例・精神鑑定の必要性

高松高裁H28.6.21①
高知地裁H29.8.7②      
 
<事案>
②事件は①事件の差戻審。
 
被告人(女性、犯行当時69歳)は、平成27年8月、青果店で食料品4点を万引き。
被告人は、平成21年以降、万引窃盗により罰金刑、執行猶予付き懲役刑、保護観察付きの執行猶予付き懲役刑に各回処せられ、本件各判決当時は最終刑の執行猶予期間中。 
 
<差戻前1審>
弁護人は、心神喪失又は上津役を主張して精神鑑定を請求。
その必要性を明らかにするため、精神科医師A作成のA意見書2通を提出⇒取調べ。 

A意見書
2回の問診、脳画像検査(SPECT)、心理検査、親族からの聴取を踏まえて、被告人は前頭側頭型認知症にり患。
被告人の異常な窃盗行為は、脳の前方連合野から大脳基底核への抑制が外れた結果として発生する前頭葉の機能が障害された結果、社会的対人行動の障害、自己行動の統制障害等につながり、状況の判断ができず、同じ行動を繰り返す傾向のため、窃盗行為という形で病的に行動を継続してしまう
として、同認知症が本件犯行及び弁識制御能力に与えた影響を説明し、正式な精神鑑定の必要があると述べていた。

前記精神鑑定請求を却下

被告人が前頭側頭型認知症にり患していたことは否定しなかったものの、
①一部を購入し一部を窃取した、
②夫等と一緒のときは万引きをしていない、
③窃取品は食料品という無用でない物であり、その一部を警察署まで隠匿
④同認知症が表れたとされrかなり前から万引きをしていた

完全責任能力を認めた
 
<控訴審>
(①)
①A医師の精神医学に関する専門家としての能力や公正さに疑問を抱かせる事情はうかがわれず、
A意見書は、正式鑑定ではないことから十分とへいえないものの、前提条件についての重要な誤りがあるとはいえない
原審証拠には、A意見書に示された前頭側頭型認知症の診断及び同認知症の診断及び同認知症が弁識制御能力に与えた影響を否定できるだけの証拠はない
本件当日の被告人が責任能力に疑問を抱かせるような無軌道な行動をとっている

原審裁判所は、より十分な資料と精神医学の専門的知見を得て、被告人の精神障害、具体的には発症時期を含めた前頭側頭型認知症り患の有無及び程度並びにその弁識制御能力への影響を明らかにする必要があった

訴訟手続の法令違反により原判決を破棄
 
<差戻審>
(②) B医師による精神鑑定(B鑑定):
①前頭側頭型認知症を否定し、
被告人は平成23年頃からアルツハイマー型認知症にり患しており、鑑定時は軽度で、本件当時は軽度ないしごく軽度
②被告人は、窃盗が悪いことであると答える能力はあるが、記憶障害や判断力の障害などから行動を制御する能力は著しく落ちており、そのことが本件犯行に大きく影響
B鑑定のうち
①被告人がアルツハイマー型認知症にり患し、鑑定時において軽度であるとする点
②同認知症により、自分の身を守り、捕まらないようにするという判断応力や、このような行動をしたら、自分の身にどのような影響を与えるかという社会的動物としての予見性、判断力が低下していたとする部分
を採用。

同認知症の犯行に対する影響は大きいとする部分については、
重症度の判定につき具体的な根拠が乏しいこと
影響が大きいとした根拠である記憶障害や、当日、自分がどこに行って、どこで盗んだかも分かっていなかったという点は、取調べDVDにおける被告人の供述状況(当日の4回の万引きにつき客観的事実と概ね一致)と整合しない

採用できない。

①犯行態様から被告人の違法性の意識は明らかで、その行動は万引きの目的に照らし合理的であること、
②夫等といるときは万引きをしていないこと
などを総合
完全責任能力を肯定

量刑判断:
①被告人の判断能力はアルツハイマー型認知症によって大きく低下していた疑いがあり、これが犯行に相当程度影響を与えたことは責任を相当程度減じるもの
②保釈後の治療の継続や再犯防止の措置
罰金刑を選択
 
<解説> 
●常習的な万引き事案において、窃盗症(クレプトマニア)又は摂食障害を伴う窃盗症を理由とする心神喪失又は耗弱が主張され、あるいは、これらを理由とする責任の減少や治療の必要性・有効性が減刑事由として主張されることが少なくない。 

大阪高裁昭和59.3.27は、摂食障害を理由に心神喪失を認めた。
その後は、大阪地裁岸和田支部H28.4.25のみ:
広汎性発達障害の影響下で摂食障害、盗癖にり患し、食料品の溜め込みと万引きへの欲求は制御し得ない程度であったという精神鑑定
⇒制御能力の著しい減退による心神耗弱をみとめたもの(罰金)。

量刑判断において、
責任能力(多くの事例が制御脳能力)の減少による責任の減少や、
窃盗症等の治療の開始による再犯防止の見込み

(再度の)執行猶予付き懲役刑や罰金刑に処した事例も相当数存在
 
●65歳以上の高齢者の窃盗による起訴人員の増大。 
認知症による責任能力の減退や責任減少が問題となる事例。
精神鑑定に基づき、認知症のために行動制御能力が著しく減退⇒心神耗弱を認めた例。
被告人を診察した医師の証言・意見書により、前頭側頭型認知症のために衝動制御が困難⇒再度の執行猶予。
but
前頭側頭型認知症にり患しているとの医師の見解を排斥して責任の減免を否定した例も。

認知症による心神耗弱又は責任の減少が認められた事例では、弁識能力はあるが、認知症のために衝動制御が困難だ得るとして、制御能力の低下をいう鑑定意見等が出されている。
 
証拠の採否は、それが裁判所の合理的裁量の範囲内にある限り違法とされることはない
精神鑑定請求についても、裁判所が、既出の証拠から被告人の精神状態に異常がないとの心証を形成し、鑑定を命じても心証が覆らないと判断⇒却下しても差し支えない。

本件差戻し前第一審:
①心理学的要素に関する諸事実と
②前頭側頭型認知症のエピソードの出現前に被告人が万引きを始めていたこと
⇒完全責任能力を肯定。
but
控訴審は、精神医学の専門家であるA医師から相応の資料と根拠に基づく問題提起⇒原判決が指摘する事情では、精神鑑定を不必要とする判断に合理性がないとしたもの。

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2018年9月15日 (土)

花火大会での歩道橋での事故で業務上過失致死傷罪の共同正犯の成否が問われた事例

最高裁H28.7.12      
 
<事案>
平成13年7月、兵庫県明石市の公園において花火大会等が行われた際、公園と最寄り駅とを結ぶ歩道橋上で発生した雑踏事故に関して、当時の明石警察署副署長であった被告人が、検察審査会の強制起訴制度により業務上過失致死傷罪で起訴された事案。
被告人は、自己による最終の死傷結果の時点から計算すれば既に公訴時効期間が経過していた平成22年4月20日に起訴。
but
明石警察署のB地域官がこれ以前の平成14年に業務上過失致死傷罪で起訴され、平成22年に有罪判決が確定。

B地域官に対する起訴により、共犯の1人に対する起訴が他の共犯についても時効を停止させる旨規定した刑訴法254条2項に基づいて被告人に対しても公訴時効停止の効果が生じるかが問題。

被告人とB地域官に業務上過失致死傷罪の共同正犯が成立するか否かが争点。
 
<規定>
刑訴法 第254条〔時効の停止〕
時効は、当該事件についてした公訴の提起によつてその進行を停止し、管轄違又は公訴棄却の裁判が確定した時からその進行を始める。
共犯の一人に対してした公訴の提起による時効の停止は、他の共犯に対してその効力を有する。この場合において、停止した時効は、当該事件についてした裁判が確定した時からその進行を始める
 
<解説>
過失犯の共同正犯:

最高裁昭和28.1.23:
共同して飲食店を経営していた2名の被告人が、過失によりメタノール含有飲食物を販売したという事案において、被告人両名について共同正犯の成立を認め、過失犯の共同正犯が成立し得ることを示した。
but
事例判例。

東京地裁H4.1.23(世田谷ケーブル火災事件):
共同の注意義務を負う共同作業者間において、その注意義務を行った共同の行為があると認められる場合には、その共同作業員全員に対し過失犯の共同正犯が成立する。
 
<判断>
業務上過失致死傷罪の共同正犯が成立するためには、共同の業務上の注意義務に共同して違反したことが必要。 

B地域官、被告人等の職制や、準備段階及び事故当日における職務執行状況等に関する詳細な事実認定を前提に、
B地域官及び被告人がそれぞれ分担する役割は基本的に異なっていた
本件事故発生の防止のために要求され得る行為についても、
B地域官にについては、
事故当日において、配下警察官を指揮するとともに、
C署長を介し又は自ら直接機動隊の出動を要請して、本件歩道橋内への流入規制等を実施すること、
準備段階において、自ら又は配下警察官を指揮して本件警備計画を適切に策定することであったのに対し、
被告人については、
各時点を通じて、
基本的にはC署長に進言することなどにより、B地域官らに対する指揮監督が適切に行われるよう補佐することであった

本件事故を回避するために両者が負うべき具体的注意義務が共同のものであったということはできない

被告人とB地域官の間に業務上過失致死傷罪の共同正犯が成立する余地はないとして、上告を棄却。
 
<解説>
本決定は、本件のように組織的な過失が問題となる事案においても、問われているのは各行為者個人の刑事責任であることを踏まえ、各行為者の役割及び各行為者に事故発生防止のために要求され得る行為を特定し、
これらの同質性の程度や相互の関連性を総合的に考慮し、
各行為者が負う注意義務を具体的に想定して、
これらが共同の注意義務と言い得るものなのかを事案に即してきめ細かく判断
するべきであるという考えを前提にし、
本件の結論を導き出すに当たっても、
前記のようなB地域官及び被告人の役割の違い(それぞれの活動場面が異なることが指摘できる。)や、それぞれが要求され得る行為の内容(B地域間及び被告人それぞれに対して要求され得る行為の中で、互いに相手方は直接の働きかけの対象とはなっていないなど、協働する場面が想定し難い内容になっているという点等が指摘できる。)等を総合的に考慮したものと推定される。 

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2018年9月14日 (金)

労働者の自殺の業務起因性(肯定)

大阪高裁H29.9.29      
 
<事案>
A(当時24歳の男性)は、高速道路の巡回、管制、取締等交通管理業務を行うことを主な事業内容とする本件会社に勤務し巡回等の業務に従事。
平成24年5月25日から26日にかけての本件夜勤に従事した後、同月28日自殺。 
 
<争点>
労働者Aの死亡の業務起因性
①Aが本件自殺の直前頃うつ病を発症したか
②同うつ病は業務に起因して発症したか 
 
<解説>
厚生労働省は、平成23年12月、労働基準監督署長が精神障害の業務起因性を判断するための基準として「心理的負荷による精神障害の認定基準」(「認定基準」)を策定。 
認定基準は、
対象疾病を発病していること
対象疾病の発病前おおむね6カ月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと
のいずれの要件も満たす対象疾病について、業務上の疾病として取り扱うこととしている。
 
<一審>
出来事②は『嫌がらせ、いじめを受けた場合』に該当するとはいえない。
出来事③、⑦~⑩の各出来事について、それぞれ、客観的にみて精神障害を発症させるに足りる程度に強度の心理的負荷があったとまでは認められない

当該業務と本件疾病(うつ病)発症との間に相当因果関係があると認めることはできない。
 
<判断>
労働者が発症した疾病等について、業務起因性を肯定するためには、業務と前記疾病等との間に相当因果関係のあることが必要であると解されている(最高裁昭和51.11.12)。

本件の事実関係を、因果関係の有無に関する、ルンバール事件等の判例法理の見地に立って総合検討
すると、Aは、本件各出来事による心理的負荷によって、本件自殺の直前頃、うつ病を発症したことを推認することができる。
 
<解説> 
本判決は、うつ病の発症につき業務起因性を判断するに当たって、
「認定基準所定の各認定要件を満たしているかどうかを判断基準として、因果関係の有無を判断する」という判断手法をとるのではなく、
ルンバール事件等の判例法理と同様、
間接事実(因果関係のの有無に関わる間接事実)の総合検討を行って、因果関係の有無の判断
を行った。 

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2018年9月13日 (木)

証券会社の説明義務違反が認められた事例

岡山地裁H29.6.1      
 
<事案>
Yに証券取引口座を開設して取引を行うXが、Yに対し、
平成22年10月22日から平成23年10月27日までの間に行った外国株式(米国株式、中国株式)の売買取引(「本件取引」)について、
取引を担当したY従業員P2及びP3の行為には、過当取引又は違法な一任売買又は適合性原則違反説明義務違反があると主張

不法行為(民法715条)に基づく損害賠償請求として、本件取引による損害3862万円余、弁護士費用386万円及び遅延損害金の支払を求めた。 
 
<判断>   
Xの主張する過当取引、違法な一任売買、適合性原則違反はないが、
説明義務違反が存在。

●説明義務違反:
顧客を証券取引に勧誘するに当たり自己責任による投資判断の前提として、当該商品の仕組みや危険性等について、当該顧客がそれらを具体的に理解することができる程度の説明を、当該顧客の投資経験、知識、理解力等に応じて行う義務がある。
Xの従前の取引は、株式、投資信託、外国債券等について、いずれも中長期的に保有し、株式優待を受けたり、預金利息よりも高い利率で分配金や配当金を受領できるものとして運用していたところ、
本件取引は、積極的な投資運用による利益重視へと投資方針を転換するもの。

Y従業員らは、Xに対し、投資方針を転換することにより多額の損失が生じる可能性がることについて、Xに具体的に理解させるために必要な方法及び程度をもって説明すべきであるのに、これをしていない。
⇒説明義務違反を認定。
 
XにもYの違法行為を助長させ、損害を拡大した過失
過失相殺5割を認め、約1300万円の損害賠償を肯定
 
<解説> 
Xは説明義務違反について、外国株取引の投資勧誘について、外国株取引の投資勧誘においては、「外国証券情報」を投資家に提供、交付して、対象証券の内容とリスクを説明すべきところ、これを行っていないと主張。(投資商品についての説明義務違反)

本判決は、投資方針を転換することにより多額の損失が生じる可能性があることについて説明していない義務違反があると判示。(投資方針の変更に際しての説明義務違反) 

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2018年9月12日 (水)

配偶者暴力法8条の2の援助申出の相当性の判断が国賠法上違法とされる場合

名古屋地裁H29.11.9      
 
<事案>
Xの元妻Aが、配偶者暴力法8条の2の援助の申出として、Xからの暴力を理由に行方不明者届の不受理の申出を行ったことに対し、警察官がAの申出を相当と判断した行為によって、Aとの間の子Bの安否を知ることができず、また、配偶者に暴力を振るった加害者として扱われたことで精神的苦痛を被った

Xが、当該警察署の設置主体であるYに対し、国賠法1条1項に基づき、損害賠償を求めた。 
 
<規定>
配偶者暴力法 第八条の二(警察本部長等の援助)
 
警視総監若しくは道府県警察本部長(道警察本部の所在地を包括する方面を除く方面については、方面本部長。第十五条第三項において同じ。)又は警察署長は、配偶者からの暴力を受けている者から、配偶者からの暴力による被害を自ら防止するための援助を受けたい旨の申出があり、その申出を相当と認めるときは、当該配偶者からの暴力を受けている者に対し、国家公安委員会規則で定めるところにより、当該被害を自ら防止するための措置の教示その他配偶者からの暴力による被害の発生を防止するために必要な援助を行うものとする。
 
<Yの主張>
①法の規定は被害者に対する関係での関係機関の努力義務等を定めたものであり加害者とされる他方配偶者に対し関係機関は職務上の法的義務を負っていない。
②仮に職務上の法的義務を負っていると想定したものであったとしても、Dに職務上の注意義務違反はない。 
 
<判断>
国賠法1条1項が、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責めに任ずることを規定するもの。(最高裁昭和60.11.21)

Aの援助申出の相当性を判断した際におけるDの対応がXに対して負担する職務上の法的義務に違背したかの問題となる。 

法8条の2は、被害者の保護を図るために警察署長等に援助を行う義務があることを定めた規定であり、援助申出の相当性の判断は警察署長等の合理的な裁量にゆだねられている
but
援助申出を受理した場合、その反面、加害者とされる者に事実上の不利益を課すことにもなる
その判断が著しく不合理であって、裁量を逸脱又は濫用していると認められる場合には、加害者とされる者との関係で違法と評価される場合もあり得る

①本件では、DがFの担当者からAをBとともにシェルターへ避難させる予定であり、Aが行方不明者届の不受理を要望している等の連絡を受けていた
②AがXからの暴力被害につき具体的に供述するとともに、その日のうちにシェルターに避難することになっている旨を述べた
③DがAの供述等を踏まえて上司らとともに前記通達に照らしてAからの援助申出の相当性を検討した
等の事情

C警察署長によるAからの援助申出受理の手続を執ったことが著しく不合理であって、裁量を逸脱又は濫用しているとはいえない

国賠法1条1項の適用上の違法を否定。
 
<解説>
法8条の2の援助申出の受理件数は年々増加し、平成29年の受理件数は9000件を超えた。 

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2018年9月11日 (火)

刑事弁護の報酬請求にあたり、説明義務違反⇒弁護士の損害賠償責任(肯定)

大阪地裁H29.9.20      
 
<事案>
被告:弁護士
原告:被告に刑事弁護を依頼した者 

原告は、被告に対し、原告が実質的に経営する複数の会社及び原告自身についての法事税法違反等の刑事事件の弁護を委任し、
本件委任契約に基づき、
着手金として432万円、
「軍資金」の名目で120万円を支払った。
その後、原告は、被告を解任。

原告:
被告に対し、
①本件着手金につき、
被告が本件委任契約に基づく弁護活動をほとんど履行しないうちに、被告を解任た⇒本件委任契約の終了に基づく前払報酬返還請求として、
本件着手金のうち、被告が解任されるまでになした弁護活動の報酬相当額等を除いた金銭の返還を請求し、
②本件軍資金につき、
(i)被告は、弁護士としての職務に反し、
刑事手続を恐れる原告の心理状態に乗じて、
「軍資金」なる名目で使途を説明せず、
用途不明瞭な120万円を請求
した上、
その後も再三にわたり追加の報酬及び費用の支払を求めた
不法行為に基づく損害賠償請求として、本件軍資金相当額及び慰謝料の支払を求め
(ii)予備的に、
被告が本件委任契約に基づく弁護活動をほとんど履行しないうちに、被告を解任した
本件委任契約の終了に基づく前払報酬返還請求(さらに予備的に本件委任契約の終了に基づく前払費用返還請求)として、本件軍資金の返還を請求
 
<判断>
着手金について
本件委任契約の主たる目的及びその履行の有無を検討し、
本件委任契約で主たる目的とされた事務について、被告は解任されるまでの間にこれを履行していた
⇒請求を認めず。
 
●本件軍資金について 
①弁護士はその職務上、依頼者に対し、受任事務の内容を明らかにするとともに、弁護士報酬等について、十分説明すべき義務を負っている
②被告としては、本件軍資金について、弁護士費用であることを説明すべきであり、ましてや、「軍資金」などという誤解を招く表現で、使途は説明できないかのような態度で金銭を要求することは、原告の誤解を招くもの
弁護士の職務上の義務に反する

不法行為に基づく損害賠償責任を肯認し、本件軍資金相当額の支払を求める限度で原告の請求を認容
 
<解説> 
弁護士の説明義務違反を認めた判例:
債務整理に係る法律事務を受任した弁護士が、消滅時効の完成を待つ方針を採るのであれば、当該方針に伴う不利益やリスクを説明するとともに、回収した過払金をもって債権者に対する債務を弁済することにより最終的な解決を図るという選択肢があることも説明すべき義務を負っていた
(最高裁H25.4.16)

事件を受任した弁護士は、委任契約に基づく善管注意義務の一環として、委任者に対し、一定の場合に説明義務を負う

弁護士職務規定29条1項
弁護士の報酬に関する規定5条1項

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2018年9月10日 (月)

インターネットでの投稿まとめによる名誉毀損・侮辱の不法行為(肯定)

大阪地裁H29.11.16      
 
<事案>
在日朝鮮人のフリーライターであるXが、Yが平成25年7月1日から平成26年7月3日までの間、インターネット上にXに関する投稿の内容をまとめた45本のブログ記事を掲載⇒名誉毀損、侮辱、人種差別等に当たる⇒不法行為に基づき、慰謝料2000万円及び弁護士費用200万円の合計2200万円の支払を求めた。
 
<争点>
①本件各ブログ記事の内容はXの権利を侵害するか
②本件各ブログ記事の掲載行為による新たな権利侵害があるか 
 
<判断>
●争点①:本件各ブログ記事の内容はXの権利を侵害するか
本件ブログ記事のうち
①一部は、Xの行動が在日朝鮮人の特権を守るための言論の弾圧や恫喝に当たるという意見ないし論評を表明するなどし、Xの社会的評価を低下させる表現を含む
②ほぼ全ては「キチガイ」「朝鮮の工作員」等の侮辱的又は不穏当な表現を多数用いてXの精神状態、知的能力、人種、性別、年齢、容姿等を揶揄するなどし、その名誉感情を著しく害する内容である上、これらが約1年間にわたって同一のブログに順次掲載される形で積み重ねられていった⇒社会通念上許される限度を超えた侮辱に当たる内容を含む
③多くは、在日朝鮮人であることを理由にXを著しく侮辱し、日本の地域社会から排除することを扇動するもの⇒人種差別に当たる内容を含む

本件各ブログ記事のうち44本のブログ記事について、名誉毀損、侮辱、人種差別などに当たる内容が含まれている。
 
●争点②:本件各ブログ記事の掲載行為による新たな権利侵害があるか 
①Yによる表題の作成、情報量の圧縮、引用元の投稿の並べ替え、表記文字の強調といった行為により、本件各ブログ記事は、引用元の投稿を閲覧する場合と比較すると、記載内容を容易に、かつ効果的に把握することができるようになった
②本件各ブログ記事の内容は、2ちゃんねるのスレッド又は原告のツイッターの読者以外にも広く知られたものになった

本件各ブログ記事の掲載行為は、引用元の2ちゃんねるのスレッド等とは異なる、新たな意味合いを有するに至った

Yにより前記44本のブログ記事の掲載行為は、2しゃんねるのスレッド又はツイッター上の投稿の掲載行為とは独立して、新たにXの人格権を侵害
 
●Yにより前記44本のブログ記事の掲載行為という不法行為により、Xの人格権が侵害された
⇒Yに対し、慰謝料180万円及び弁護士費用20万円の合計200万円の支払を命じた。 
 
<解説>
新聞記事の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかについて、
一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すべきものとされている(最高裁昭和31.7.20)。
インターネット上の記事についても同様。(最高裁H24.3.23) 

侮辱的表現について、社会通念上許される限度を超える侮辱であると認められる場合に人格権を侵害するものと解されており、
インターネット上の侮辱的な表現についても同様。(最高裁H22.4.13)

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2018年9月 6日 (木)

任意後見より法定後見が優先された事案

福岡高裁H29.3.17      
 
<事案>

本人(X)は夫であるDと2人で暮らしていた。

平成2年からは、長男であるB及びその妻Eと同じ敷地内の棟続きの家に住み、内部ドアで行き来するようになった。

Dは、昭和43年にF株式会社(F社)を設立してその代表者となっていたが、
別途、Xと共有するマンションの賃料等の管理会社として有限会社Gを設立し、その代表者となった。
F社においては、平成20年にBがその代表者に。 
Bの妻Eは、F社やG社の経理を担当し、Xの預金通帳の管理を任さるるなどしていた
but
Xの了解を得ずにその口座から金銭を払い戻してF社への貸付に回したり、G社の口座からX名義の口座又はその他に移すべき金銭を、引き出した後にF社の債務弁済に充てる等の行為
⇒Xと両会社との間で不明朗な金銭貸借関係が生じた。
BもF社の代表者としてEの行動に起因するF社の債務につき、Xに対して同額の債務を負う。

Xは、平成21年に、BとEに対し自宅からの退去を求め、更に自宅の内部ドアに施錠してBらが行き来できないようにした。
Dは平成22年2月に入院。
Xは、平成22年12月28日に長女であるAとの間で、Aを後見受任者とする任意後見契約(「第1契約」)を締結し、その後認知症の症状が進み、平成26年7月からA宅に居住。
Xは同年8月6日にAと口論となって自宅に戻る。
Bは、Xを医師に受診させるようになった。


Aは、同月18日、原裁判所に任意後見監督人選任の申立て。
but
Xは家裁調査官の調査の際に、第1契約の発効について同意しなかった。

Aは同月30日に申立ての趣旨を法定後見開始に変更

同月29日に第1契約が解除されるとともに、XとBとの間でBを任意後見受任者とする任意後見契約が締結
⇒Bは任意後見監督人選任の申立て。 


原裁判所は、法定後見開始申立事件につき、2回にわたる鑑定を実施。
1回目は補佐相当
2回目は後見相当
との鑑定結果。 
 
<規定> 
任意後見法 第10条(後見、保佐及び補助との関係)
任意後見契約が登記されている場合には、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り、後見開始の審判等をすることができる。
 
<原審>
第1契約の解除及び第2契約の締結はいずれも効力を生じている。 
Eの預金払戻しに起因するXとF社との間における金銭関係及びXとF社の代表者であるBとの金銭関係が解決していない
⇒Bは任意後見受任者としての適格性を有しない
⇒法定後見を開始することにつき「本人の利益のために特に必要がある

診察回数及び検査の実施内容に照らすと、
1回目の鑑定結果には疑問があり、2回目の鑑定結果は合理的

Xは事理弁識能力を欠く常況ににあると認定し、Aの申立てを認容し、Bの申立てを却下
   

Bは即時抗告を申し立てて原審結の取消し及びXの任意後見監督人の選任(予備的に本件の差戻し)を求め
抗告理由として、
①任意後見契約が締結された場合にはこれを発行させて法定後見開始の申立てを却下するのが原則であり、本件ではその例外とすべき事情がない
②Xの精神状態については1回目の鑑定結果に従い補佐相当と認定すべきであった
と主張。 
 
<判断>
E又はF社がXに返済すべき債務については完済されたかどうかが不明であり、
Eの一連の行為につきBが認識していなかったとは到底認められず、
Bが代表者であるF社とXとの債権債務関係はBの任意後見人としての適格性に関わる重要な事実


法定後見を開始するにつきXの利益のために特に必要がある
Xの精神状態についても原審判の判断に誤りはない。
 
<解説>
●任意後見法10条1項:
本人による自己決定を尊重すべき

既に任意後見契約が締結され、かつ、これが登記されている場合においては、
本人について法定後見開始の申立てがあったとしても、
家庭裁判所は、法定後見を発動することが「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」でない限り、
当該申立てを却下しなければならない

●立法担当者:
具体例として
①任意後見人に委託された代理権を行うべき事務の範囲が狭すぎる上、本人の精神が任意の授権の困難な状態にあるため、他の法律行為について法定代理兼の付与が必要な場合
②本人について同意権・取消権による保護が必要な場合。

要件を厳格に絞ることで任意後見優先の原則をできる限り維持することを想定。
but
親族間紛争を背景に、自身を任意後見受任者とする任意後見契約を本人に締結させて後にこれを発効させることにより、意図しない者が成年後見人に選任されるのを妨害しようとするケース。

最近の実務は、本人の客観的な保護を重視して、この要件を広めに解釈して法定後見人を優先するが面が多くなっている。


大阪高裁H14.6.5:
「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」について
諸事情に照らし、任意後見契約所定の代理権の範囲が不十分である、
合意された任意後見人の報酬があまりにも高額である、
任意後見契約法4条1項3号ロ、ハ所定の任意後見を妨げる事由がある等、
要するに、
任意後見契約によることが本人保護に欠ける結果となる場合を意味

大阪高裁H24.9.6:
本人名義の預貯金から多額の金銭が引き出されて任意後見受任者の口座に移されている等、任意後見受任者の本人の財産への関与に不適切な点が認められ、「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」に当たるといえる事情が存在するにもかかわらず、原裁判所が任意後見法10条1項の要件を認めずに法定後見開始申立てを却下したのは相当ではない。
⇒原審判を取り消した上、事件を原裁判所に差し戻している。


学説:
「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」とは、
本人の現在のニーズを当該任意後見契約によっては十分に充足することができず、本人の客観的福祉の観点から、法定後見に夜保護を発動することが望ましい事態を指すと考えればよい(新版注釈)。

判例時報2372

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2018年9月 5日 (水)

ハーグ条約実施法に基づき子の返還を命じた原審を維持

大阪高裁H29.9.15      
 
<事案>
X(夫・Z国籍)とY(妻・日本国籍)は平成26年婚姻し、長女(現2歳)をもうけた。
長女は出生以来、X・Y夫婦と一緒にZ国で生活。 
Yは、平成28年、長女を連れて日本に帰国し、以降、わが国で生活。
現在、長女のZ国への渡航は妨げられている。(本件留置)

Xは、Yに対し、平成29年、
国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(いわゆるハーグ条約実施法)に基づき、長女を常居所地国であるZ国に返還するよう求めた。
 
<規定>
実施法 第二七条(子の返還事由)
裁判所は、子の返還の申立てが次の各号に掲げる事由のいずれにも該当すると認めるときは、子の返還を命じなければならない
一 子が十六歳に達していないこと。
二 子が日本国内に所在していること。
三 常居所地国の法令によれば、当該連れ去り又は留置が申立人の有する子についての監護の権利を侵害するものであること。
四 当該連れ去りの時又は当該留置の開始の時に、常居所地国が条約締約国であったこと。
 
実施法 第二八条(子の返還拒否事由等)
裁判所は、前条の規定にかかわらず、次の各号に掲げる事由のいずれかがあると認めるときは、子の返還を命じてはならない。ただし、第一号から第三号まで又は第五号に掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して常居所地国に子を返還することが子の利益に資すると認めるときは、子の返還を命ずることができる
一 子の返還の申立てが当該連れ去りの時又は当該留置の開始の時から一年を経過した後にされたものであり、かつ、子が新たな環境に適応していること。
二 申立人が当該連れ去りの時又は当該留置の開始の時に子に対して現実に監護の権利を行使していなかったこと(当該連れ去り又は留置がなければ申立人が子に対して現実に監護の権利を行使していたと認められる場合を除く。)。
三 申立人が当該連れ去りの前若しくは当該留置の開始の前にこれに同意し、又は当該連れ去りの後若しくは当該留置の開始の後にこれを承諾したこと。
四 常居所地国に子を返還することによって、子の心身に害悪を及ぼすことその他子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険があること。
五 子の年齢及び発達の程度に照らして子の意見を考慮することが適当である場合において、子が常居所地国に返還されることを拒んでいること。
六 常居所地国に子を返還することが日本国における人権及び基本的自由の保護に関する基本原則により認められないものであること。

2裁判所は、前項第四号に掲げる事由の有無を判断するに当たっては、次に掲げる事情その他の一切の事情を考慮するものとする。
一 常居所地国において子が申立人から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動(次号において「暴力等」という。)を受けるおそれの有無
二 相手方及び子が常居所地国に入国した場合に相手方が申立人から子に心理的外傷を与えることとなる暴力等を受けるおそれの有無
三 申立人又は相手方が常居所地国において子を監護することが困難な事情の有無

3裁判所は、日本国において子の監護に関する裁判があったこと又は外国においてされた子の監護に関する裁判が日本国で効力を有する可能性があることのみを理由として、子の返還の申立てを却下する裁判をしてはならない。ただし、これらの子の監護に関する裁判の理由を子の返還の申立てについての裁判において考慮することを妨げない。
 
<争点>
(1)Z国において、長女を耐え難い状況に置くことになる重大な事由があるか(法28条1項4号)
(2)Xは長女を監護する権利を行使しなかったか(法28条1項2号)
(3)Xが本件留置を承諾したか(法28条1項3号)
 
<原審> 
●子の返還事由(法27条各号)について、
長女が16歳に達しておらず(1号)
日本国内に所在し(2号)
常居所地国と認められるZ国の法令によれば、Xは長女について監護の権利を有し、本件留置がその権利を侵害すること(3号)
本件留置の開始時にZ国がハーグ条約の締結国であったこと(4号)
を認定。
⇒本件では、子の返還事由がある。
 
●返還拒否事由について
◎(1)Z国において、長女を耐え難い状況に置くことになる重大な事由があるか(法28条1項4号)
①Z国において、Xによる長女自身に対する虐待は認められず、そのおそれもあに
Xから長女に心理的外傷を与えるような暴力を受けるとのYの主張を裏付けるのに十分な資料も具体的な事情も認められない
③子の返還決定は、X・Yの同居を命ずるものではなく、YがZ国で個人保護命令を得ている⇒X・YがZ国で別居した場合にXがYに対し再度の暴行を加えるおそれがあるとは認められない。
④XがZ国で長女を監護することが困難な事情は認められない。
⑤YはXの暴力に起因するPTSDや住宅事情を主張するが、Yが罹患したとするPTSDの程度は判然としないし、Z国の住宅事情も、Xが実家に転居しYが自宅に戻るという選択肢もある⇒いずれも監護困難事情とは認められない。

本件では、長女を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険があるとはいえない
 
◎(2)Xは長女を監護する権利を行使しなかったか(法28条1項2号)
Yは、平成28年に長女を連れて自宅を出てシェルターに入所したが、これをもってXが長女に対する監護の権利を行使していないとはいえない。
 
◎(3)Xが本件留置を承諾したか(法28条1項3号)
それを認めるに足りる的確な資料はない。
⇒Xの申立てを認容。
 
<判断> 
原審と同様、返還拒否事由はいずれも認められない
⇒Yの抗告を棄却。
(1)について、
Yは日本に帰国後も保護命令の審理や長女とXとの面会交流のためにZ国に複数回入国しているが、Xはその間保護命令に反する行動をとっておらず、そこに一定の抑止効果を認めることができる。
Yの、PTSD悪化する等の、意見書、診断書も採用せず。
(2)について
Xが監護の権利を行使しなかったのは、Yがシェルターに入所してYに居所を秘匿していたから。
(3)について
Xは、Yが長女を連れて日本に入国したことを知ると、
Z国の中央当局を通じて援助決定通知を受け、
わが国の外務省の面会交流支援事業を通じて長女と面会交流を実施するなどしている

これらの一連の経緯をみると、Xの本件申立てがYの日本入国から約1年経過しているとしても、これを留置の承諾とみることはできない。
 
<解説>
●子の返還の申立てを受けた家庭裁判所:
法27条所定の返還事由があると認めたときは、法28条所定のいずれかの返還拒否事由があると認めた場合を除き、子の返還を命じなければならない。
(ただし、一切の事情を考慮して常居所地国に子を返還することが子の利益に資すると認めるときは、その場合でも子の返還を命じることができる。(法28条1項柱書ただし書、裁量返還))

●子の監護権の不行使(法28条1項1号):
子の返還を求める親が、監護権を有するのに現実にこれを行使しなかったという事態はあまり想定されない。

●留置の承諾(同項3号):
一般的に、
紛争の経緯の中で表明された意見自体の意味内容が多義的であったり、変遷したり、双方の認識に隔たりがあることも少なくない
⇒その認定には慎重さが求められる。

裁判例:
子のわが国における滞在に対する同意・承諾といっても、一時的なものでは足りず、相当長期間にわたり居住し続けることを認めて、もはや子の返還を求める権利を放棄したと評価できる程度まで要するとするものが多い

●法28条1項4号
「常居所地国に子を返還することによって、子の心身に害悪を及ぼすことその他子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険があること。」:
この返還拒否事由は、子の返還を拒む親の気持ちを直截的に表明⇒その有無が争点となる事例は極めて多い。 

法は、裁判規範を明確にし、当事者予測可能性を確保する観点
⇒該当性判断に当たり考慮すべき事情を法28条2号各号に列挙。
本件でも、
Z国において長女がXから暴力等を受けるおそれ(同項1号)
長女がZ国に入国した場合、YがXから長女に心理的外傷を与えるような暴力その他有害な言動等を受けるおそれ(同項2号)
XとYとがZ国において長女を監護することが困難な事情(同項3号)
が検討された。

本件:
医師の意見書等について、
いずれも医師としての具体的な診断結果に基づくものではなく、害悪の発生を予想し、あるいはその可能性を指摘するにすぎない⇒不採用。

裁判例の中には、
医師による意見書等の信用性評価について、
診断書等が前提としている事実関係が専ら監護親の説明に基づいており、内容の正確性が担保されていないとか、
監護権を侵害された親と子の面会交流の状況と整合しない内容を含むとか、
③子はそれまで常居所地国では精神状態に係る診察等を受けたことがなかったのに、来日後、子の返還を請求されるや、これに呼応する形で精神科を受診させている
などの経緯が指摘されている。

判例時報2372

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2018年9月 3日 (月)

相殺の抗弁が時機に遅れた攻撃防御方法に当たるかどうかが争われた事案

東京高裁H29.4.27      
 
<経緯>
Xは、平成26年12月17日に、Yに対し、業務委託契約に基づき、未払委託料及び源泉所得税等の立替金の合計1045万6996円円の支払を求める本件訴訟を提起。
提訴から10か月近く経過した同年10月14日の第5回口頭弁論期日において、Yは、業務委託料に水増しなどがあるため合計885万5700円の不当利得返還請求権及びYの理事兼従業員の報酬名目で合計540万円を支払わせたことによる同額の不法行為に基づく損害賠償請求権を有しているとして、これらを自働債権として相殺の意思表示をした。

Xは、相殺の抗弁は時機に遅れた攻撃防御方法であるとして却下を求めた。
 
<規定>
民訴法 第156条(攻撃防御方法の提出時期)
攻撃又は防御の方法は、訴訟の進行状況に応じ適切な時期に提出しなければならない

民訴法 第157条(時機に後れた攻撃防御方法の却下等)
当事者が故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法については、これにより訴訟の完結を遅延させることとなると認めたときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、却下の決定をすることができる。
2 攻撃又は防御の方法でその趣旨が明瞭でないものについて当事者が必要な釈明をせず、又は釈明をすべき期日に出頭しないときも、前項と同様とする。
 
<原審>
相殺の抗弁を却下した上、弁論を終結し、Xの請求につき、1004万7036円の支払を求める限度で認容。 
 
<判断>
相殺の抗弁の主張が訴訟の完結を遅延させるものということはできない。 
 
<解説>
時機に遅れたかどうかについては、審理状況などを考慮して総合的に判断される。 

相殺の抗弁については、時機に遅れたものかどうかの判断において、その自働債権が本来的には訴訟の経過と関係なく権利行使が可能
相殺適状となった時期が重要。(大判昭和17.10.23)
第12回口頭弁論期日で初めて提出された相殺の抗弁の主張を時機に遅れたものとして却下。

本件:
Xの釈明事項や客観的な資料の提出をまって、Yにおいて、相殺の抗弁の基礎となる事実を形成させる途上にあり、
②請求に係る業務委託料と抗弁の水増し分の不当利得額がいわば表裏の関係にある⇒当事者の合意の内容を確定させることで、YのXに対する相殺の抗弁の内容も確定される
⇒訴訟の経過や審理の内容などからすれば、抗弁の機会を奪うべきではない。
原審の第5回口頭弁論期日以降も当事者の主張立証がなされることは明らかであった。

原審に審理不尽

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