判例

2019年1月24日 (木)

障害者雇用枠の契約社員の障害等級が問題となった事案

東京地裁H30.3.14      
 
<事案>
障害者雇用枠の契約社員として就労しているXが、知的障害により、20歳に達した日に障害等級に該当する程度の障害の状態にあり、国年法(「法」)所定の障害基礎年金の支給要件を充足している⇒障害基礎年金の支給の裁定を請求⇒厚生労働大臣から、障害等級に該当する程度の障害の状況にあるとはいえないとして、障害基礎年金を支給しない旨の処分⇒同処分の取消しを求めた。 

<規定>
法30条の4第1項:
初診日において20歳未満であった者が障害認定日後の20歳に達した日又は20歳に達した日後の障害認定日(「基準日」)において障害等級に該当する程度の障がいの状態にあること障害基礎年金の支給要件とする。

法30条2項は、障害等級を障害の程度に応じて重度のものから1級及び2級とした上で、各級の障害の状態は政令で定めるものとし、これを受けた国年法施行令は、障害等級の各級の障害の状況につき、別表を定め、その上で、厚生労働大臣による障害等級の認定の基準として、「国民年金・厚生年金保険障害認定基準」(「障害認定基準」)を定めている。
 
<争点>
Xの基準日における障害の状態が障害等級2級に該当するのか、具体的には、障害認定基準において、知的障害に関し、障害等級2級に該当する障害の状態の例示として挙げられている「知的障害があり、食事や身のまわりのことなどの基本的な行為を行うのに援助が必要であって、かつ、会話による意思の疎通が簡単なものに限られるため、日常生活にあたって援助が必要なもの」に相当するかが争われた。 
 
<判断> 
障害等級2級に該当するかは、特段の事情がない限り、障害認定基準を参酌して判断すべきで、知的障害に関しては、前記の例示又はこれと同等程度の障害の状態にあると認められるか否かで判断するのが相当。

その際には、障害認定基準自体が定めるとおり、知能指数のみに着目することなく、日常生活の様々な場面における援助の必要度を勘案して総合的に判断するべきであるし、
就労をしている者も援助や配慮の下で労働に従事していることが通常であることを踏まえ、労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず、
現に労働に従事している者については、その療養状況を考慮するとともに、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況等を十分確認した上で日常生活能力を判断
すべき。

判断の資料となる精神障害に係る所定の診断書の記載を踏まえ、日常生活能力の判定に当たっては、対象者が単独で生活することを仮定して判断すべき。
 
●Xから提出されている医師の診断書における日常生活能力の判定の各項目(適切な食事、身辺の清潔保持、金銭管理と買い物、通院と服薬、他人との意思伝達及び対人関係、身辺の安全保持及び危機対応、社会性の7項目)及びその程度の記載の相当性について、
Xから提出されている病歴状況申立書や、Xの母や中学校時代の担任教師の供述等の他の資料も踏まえて検討し、
前記診断書は、Xの日常生活の能力の判定のうち、いくつかの項目においては日常生活能力をやや過少に評価しているきらいがないではないが、全体的な記載内容としてはおおむね相当であり、その内実に照らせば、原告の日常生活能力の程度について、診断上の所定の選択項目のうち「(4) 知的障害を認め、日常生活における身のまわりのことも、多くの援助が必要である。(たとえば、簡単な文字や数字は理解でき、保護的環境であれば単純作業は可能である。習慣化していることであれば言葉での指示を理解し、身辺生活についても部分的にできる程度)」を選択した前記診断書の判断は相当

判例時報2387

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2019年1月23日 (水)

過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律4条)の事案

札幌高裁H29.1.26      
 
<事案>
自動車死傷法によって新設された、過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪(4条)における「その運転の時のアルコール又は薬物の影響の有無又は程度が発覚することを免れる目的」及び「その場を離れて身体に保有するアルコール又は薬物の濃度を減少させること」についての解釈を示した裁判例。 

被告人は、事故直後から約6時間半の間、事故現場から逃走し、知人方で過ごすなどして、飲んだ酒の影響の発覚を免れるべき行為をした。
 
<規定>
自動車死傷法 第四条(過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱)
アルコール又は薬物の影響によりその走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転した者が、運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた場合において、その運転の時のアルコール又は薬物の影響の有無又は程度が発覚することを免れる目的で、更にアルコール又は薬物を摂取すること、その場を離れて身体に保有するアルコール又は薬物の濃度を減少させることその他その影響の有無又は程度が発覚することを免れるべき行為をしたときは、十二年以下の懲役に処する。
 
<主張>
本件のような、事故現場から立ち去っただけの行為が問題となる事案で、本罪が成立するためには、逸脱目的として、更にアルコールを摂取するいわゆる追い飲み行為に匹敵する程度に、身体のアルコール濃度という重要な証拠収集を妨げる積極的な目的を要する。
but
被告人については、そのような逸脱目的を肯認できない。 
 
<解説>
アルコール等の影響による危険運転致死傷罪(本法2条1号及び3条1項)は、客観的にこれらの影響により「正常な運転に支障が生じるおそれたある状態」にあったことが構成要件となっている
⇒犯人がその場から逃走するなどすれば、アルコール等による影響の程度が立証できなくなる可能性が高い。

その場合、
自動車運転過失致死傷罪と同交法上の救護義務違反の罪(報告義務違反の罪は、これと科刑上1罪となる)との併合罪となり、処断刑の上限は懲役15年。

重い処罰を免れようとして、アルコール等の影響という点について証拠収集を妨げるといった、より悪質性の高い行為に対して、適切な処罰を欠くことになりかねない。

本罪が規定され、その法定刑は12年以下の懲役とされ、本罪が成立する場合でも、救護義務違反の罪は別罪として成立するので、併合罪加重すると、処断刑の上限は懲役18年。 
 
<判断>
客観的行為:
その場から立ち去れば直ちに本罪が成立するのではなく、一定程度の時間が経過し、その間に、摂取した物質の濃度に変化をもたらす(代謝によるものと考えられる。)など、運転時の当該物質の影響の有無又は程度の立証に支障を生じさせかねない程度のものであることが必要。 

逸脱の目的:
アルコール等の得協の発覚を免れる目的は、それが、積極的な原因や動機となっている必要はなく、むしろ、全く別の目的で、その場を離れたような場合を除外する趣旨
 
<解説>
除外される例:
自宅で飲酒していた際に、子どもが急病となったため、病院に連れて行くために自動車を運転して病院に向かう途中で事故を起こしたが、まずは、子供を病院に連れて行き、子供の無事が確認できた後に警察署に出頭 

判例時報2386

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2019年1月21日 (月)

私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律 3条(私事性的画像記録提供等)違反の罪及びわいせつ電磁的記録媒体陳列罪(刑法175条)の事案

大阪高裁H29.6.30      
 
<事案>
私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律 3条(私事性的画像記録提供等)違反の罪及びわいせつ電磁的記録媒体陳列罪(刑法175条)の成立が問題とされた事案。
 
<規定>
私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律 第三条(私事性的画像記録提供等)
第三者が撮影対象者を特定することができる方法で、電気通信回線を通じて私事性的画像記録を不特定又は多数の者に提供した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
2前項の方法で、私事性的画像記録物を不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者も、同項と同様とする。

刑法 第一七五条(わいせつ物頒布等)
わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、二年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。
 
<判断>
ヤフーボックスでは、ユーザー以外の者はファイルを見ることはできないが「公開機能」を使えば、ヤフーボックス内の特定のファイル又はフォルダーを第三者に閲覧させることができる。
・・・
ヤフーユーザーがヤフーボックスに保存したデータを公開設定した時点では、そのユーザーに公開URLが発行されるにすぎず、同データを第三者が閲覧し得る状態にするには、公開設定に加え、公開URLを電子メールで送信するなどの外部に明らかにするヤフーユーザーによる別の行為が必要。 

①被告人が本件データを公開設定した時点では、いまだ同データの内容を不特定又は多数の者が認識することができる状態に置いたとは認められず、
被告人が公開URLを被害者に送信した点についても、特定の個人に対するものにすぎないから、同データの内容を不特定又は多数の者が認識しうる状態に置いたと認めることもできない

結局、被告人は、本件データの内容を不特定又は多数の者が認識することができる状態に置いたとは認められない。
 
<解説>
わいせつ物公然陳列罪のいの意義について、最高裁H13.7.16は、
「その物のわいせつな内容を不特定又は多数の者が認識できる状態に置くことをいい、その物のわいせつな内容を特段の行為を要することなく直ちに認識できる状態にするまでのことは必ずしも必要ないものと解される。」

判例時報2386

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2019年1月20日 (日)

銀行の取締役の責任と、離婚に伴う慰謝料、財産分与及び養育費として支払われた贈与契約と通謀虚偽表示

東京高裁H29.9.27      
 
<事案>
経営破綻した銀行(「B銀行」)の元取締役及びその親族らに対して損害賠償を求めた事案。 
Xは、B銀行の取締役会において、後に破綻したノンバンクから商工ローン債権の買取りをY1らが承認したことが善管注意義務違反に当たるとして、B銀行から、元取締役Y1らに対する損害賠償請求権を譲り受けた上、Y1に対して損害賠償を請求。(①事件)
Y1が、B銀行の破綻前後に、妻であったY2に対しては、離婚に伴う慰謝料、財産分与及び養育費の名目で、実弟のY3に対しては、Y3からB銀行株式を購入した代金として、それぞれ多額の送金

Xは、
Y2及びY3に対して、Y2との金銭の贈与契約は通謀虚偽表示にあたるとして、また、
Y2又はY3に対する送金行為は詐害行為にあたるとして、
債権者代位権による不当利得返還請求権又は詐害行為取消権に基づき、それぞれ損害賠償請求。
 
<原審>
①事件につき、一部認容。 
②事件につき、
Y2(元妻)との関係で一部認容し、
Y3(弟)との関係で全部認容。
 
<判断>
●①事件について:
原審をほぼ引用しつつ
善管注意義務違反に関し、銀行の取締役にいわゆる経営判断の原則が適用されると解されるとしても、銀行の取締役の特殊性に照らし、その分だけ限定的なものにとどまる
 
●②事件について 
Y2に対する請求に関して、
Y1が、B銀行の債権者等から民事責任の追及を受けることを覚悟し、債権者等から預金の仮差押えを受けることを避けるために金銭を移動し、急遽Y2との合意書を作成した⇒本件贈与契約は通謀虚偽表示により無効である。

詐害行為取消権にかかる主張について、
養育費はその性質上定期的に支払われるべきものであるところ、
Y1が支払時期の到来していない養育費をまとめて支払ったことは、期限の利益を放棄した行為であり、その放棄は債務者の義務を履行したとはいえない
代物弁済や担保の提供等と同じ性質の行為として詐害行為となる
 
<解説>
●銀行の取締役の善管注意義務違反については、刑事判例である最高裁H21.11.9において、融資業務における注意義務が一般の株式会社の取締役に比べて高い水準にあり、いわゆる経営判断の原則が認められる余地は限定的である旨が示されていたが、
①民事事件において同様の考えに従うべきことを示した点、及び
②その考えが融資業務ではない与信業務についても適用されることを示した点
で意義を有する。 
 
離婚に伴う財産分与等
財産関係と密接な関係がある法律関係であって、それによって新たな身分関係が生じるわけではなく、民法94条の適用がある(最高裁昭和44.11.14)。 

詐害行為取消権については、
従来、離婚に伴って負担すべき金銭の額を超えて支払った部分につき、その行使が認められてきた(判例)。

判例時報2386

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2019年1月19日 (土)

リードが離れ犬がランニング中の者の前に⇒犬を避けようとして転倒負傷⇒保険金支払い請求(一部認容)

大阪地裁H30.3.23       
 
<事案>
原告Xが、路上をランニング中、被告Y1が散歩させていた犬を避けようとして転倒した⇒
①前記犬の占有者であるY1に対し、民法718条に基づき、損害賠償として、
②Y1を被保険者とする、個人賠償責任補償特約等が付された自動車損害損害保険契約を締結した被告Y2会社に対し、同保険契約の約款に基づき、Y1に対する支払請求の判決の確定を条件として、
3940万円余の連帯支払を求めた事案

 
<規定>
民法 第718条(動物の占有者等の責任)
動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない。
2 占有者に代わって動物を管理する者も、前項の責任を負う。
 
<判断>
Y1が、特別な状況でもないにもかかわらず、突然、飼い犬が走り出したことにより手を放してしまい、飼い犬が単独で道路を進行したことにより事故が発生⇒事故の主たる原因は、Y1が飼い犬を係留しない状態にさせたことにある。 

ランニング中のXにおいて前方確認や進行速度を適切に調節することが不十分であり、これが自己の発生に影響したことも否定できない⇒1割の過失相殺

Yらに対し、1280万円余の支払を命じた。

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2019年1月18日 (金)

ネットショップ用ホームページの制作に係る契約の勧誘における説明義務違反(肯定)

東京高裁H29.11.29      
 
<事案>
X:昭和47年生まれの女性であり、
Y1:ネットビジネスを展開する企業に対してホームページの企画、運営等のサポートを提供する事業を営む株式会社
Y2:クレジット業等を営む株式会社 
Xは、Y1との間で、ホームページ制作業務等の提供を受ける契約を締結し、
Y2との間で、その契約に基づき支払うべきウェブシステム構築費につき個別信用購入あっせん契約を締結。
 
<請求>
Xは、
Y1に対し、消費者契約法4条1項に基づく本件HP制作契約の申込みの意思表示の取消しによる不当利得返還請求権又は勧誘の適合性原則違反及び説明義務違反を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権により、既払金相当額及びY2に対する未払金の支払を求めるとともに、
Y2に対し、割賦法または信義則に基づいて未払分割支払金の請求を拒絶することができる地位にあることの確認
を求めた。
 
<原審>
①ネットショップも小売業であるから、商品ラインナップの決定、販路の確保・拡大等は事業主体が自らの判断と責任で行うべきで、Xもそのことを認識してしかるべき
②自ら卸売業者等に対して商品の登録を申し込む必要があるところ、本件HP制作契約締結後に、X自身もこれを前提とした行動を取っている

本件HP制作契約の内容自体がXに適合しないものであるとはいえず、説明義務違反はない。 
 
<判断> 
Y1による説明義務違反を認め、原判決を変更し、XのY1に対する請求を一部認容。 

①ネットショップは、内職的な仕事を探している者に勧められる仕事ではなく、商流を有しない素人がホームページだけ先に制作しても月額の固定費用の支出負担がかかるだけ
②Y1が説明に用いたパンフレットには、ホームページ開設の時点で販売すべき商品が準備されていることを前提とする記載があり、他方で、実店舗を有しないか、又は商品の在庫もしくは仕入先を有しない場合についての記載は全くない⇒Y1は、提供するサービスがXに適合しないことを十分認識していたものと推認できる。

本件HP制作契約を積極的に勧誘することは相当でなく本件HP制作契約により負担すべき費用を上回る利益を上げられないリスクが無視できないことについて説明する義務を負っていた。

Aは、「月商10万円位ならすぐに稼げるようになります」などと断定的判断を提供⇒説明義務を果たしているとは認められない。
Y1の不法行為責任を肯定。
 
●Xはインターネットを利用して商品を販売する事業を営むことを目的として本件HP制作契約を締結⇒消費者契約上の「消費者」にあたらない。
同様の理由により、Y2に対する割賦法の適用を前提とする主張には理由がない
 
<解説>
契約締結の過程において、その判断に重要な影響を及ぼすべき情報を提供せず契約を締結して損害が発生情報を提供しなかった当事者は、信義則上の説明義務違反として不法行為による損害賠償責任が認められる(最高裁H23.4.22)。 

消費者と事業者の交渉力の格差に鑑み、平成30年法律第54号により、事業者の情報提供を明文化する消費者契約法3条1項2号が新設された。

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2019年1月17日 (木)

主位的予備的併合訴訟での予備的請求の認諾

東京高裁H30.2.14      
 
<事案>
株式会社Xは、株式会社Y1の代表取締役を務めるY2から勧誘を受けて、合同会社Aを営業者とする匿名組合が裁定取引システムにより外国為替売買で出資金を運用することを事業目的とする投資ファンドに合計6億700万円を出資。 

Xは、Y1及びY2に対し、
主位的に、完成していない裁定取引自動売買システムに関して虚偽の説明を受けた上、リスクの高いアルゴリズム取引が行われたために多額の損失が発生
⇒共同不法行為又は会社法350条に基づき、損害の一部として1億146万2401円の賠償を請求
予備的に、Aとの間で締結された本件ファンドに係る利益配分金の分配債務をもって消費貸借の目的とする準消費貸借契約につき、Y1及びY2との間で連帯保証することを内容とする連帯保証契約に基づき、同額の支払を求めた。
 
<主張> 
Yら:連帯保証契約に基づく請求を認諾する旨の陳述⇒本件訴訟は終了。 
 
<原審・判断> 
予備的請求のみに係る認諾は無効
Y2が本件ファンドに関する虚偽の事実を述べてXを勧誘して出資させ損害を被らせた⇒Yらの不法行為を認めてXの主位的請求を全部認容。 
 
<規定>
民訴法 第136条(請求の併合)
数個の請求は、同種の訴訟手続による場合に限り、一の訴えですることができる。
 
<解説> 
●併合請求(民訴法136条):
①単純併合
②選択的併合
③予備的併合

複数の請求が論理的に両立し得るもの⇒選択的併合
論理的に両立しない⇒予備的併合

予備的併合は、通常、論理的に両立しえない⇒原告による順位付けによって裁判所が拘束される。
論理的に両立し得る請求であっても、特に順位をつけて審判を求めている場合についても、不真正予備的請求の併合として、実務上認めている。
 
請求の認諾は無条件確定的になされる必要がある。 

判例時報2386

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2019年1月15日 (火)

債権差押命令の申立てにおいて、申立日の翌日以降の遅延損害金が取り立てた金員の充当の対象となるか

最高裁H29.10.10      
 
<事案>
税理士である債権者Xが、債務者Yに対して有する報酬等の元金及びこれに対する支払済みまでの遅延損害金の支払請求権を表示した債務名義による強制執行として、債権差押命令の申立てをした事案。 
本件債務名義による強制執行として既に発せられた債権差押命令(「前件差押命令」)に基づく差押債権の取立てに係る金員(「本件取立金」)が、前件差押命令の申立書に請求債権として記載されていなかった申立日の翌日以降の遅延損害金にも充当されるか否かが争われた。
 
<事実>
Xは、平成28年1月12日、東京地裁に、Yを債務者、荒川区を第三債務者とし、債権差押命令の申立てをし、同月20日、差押命令が発せられた。
①請求債権
②差押債権 
本件債務名義は、元金及びこれに対する支払済みまでの遅延損害金の支払を内容とするもの。
but
東京地裁では、第三債務者が遅延損害金の額を計算する負担を負うことのないように、債権差押命令の申立書には、請求債権中の遅延損害金につき、申立日までの確定金額を記載させる取扱い(「本件取扱い」)⇒請求債権中の遅延損害金を前記申立日までの確定金額とした。

Xは、平成28年2月22日から同年3月1日までの間に、荒川区から、前記差押命令に基づく差押債権の取立てとして4回にわたり、請求債権に相当する額の支払を受けた。

Xは、平成28年4月11日、原々審に対し、Yを債権者、荒川区を第三債務者とし、債権差押命令の申立て。
①請求債権:本件債務名義に表示された債権のうち、本件取立金が前件申立日の翌日から前記各支払日までの遅延損害金にも充当されたものとして計算された残元金、最終支払日の翌日以降の遅延損害金及び執行費用
 
<原審>
Xが本件取扱いに従って前件差押命令の申立書に請求債権として元金、前件申立日までの遅延損害金及び執行費用の各確定金額を記載
⇒前件申立日の翌日以降の遅延損害金は本件取立金の充当の対象とはならないものと解すべき⇒本件取立金が前件申立日の翌日以降の遅延損害金にも充当されたものとする本件申立ては許されない⇒本件申立てを却下すべき。
   
Xが抗告許可の申立て⇒原審が抗告を許可
 
<判断>
債権差押命令の申立書に請求債権中の遅延損害金につき申立日までの確定金額を記載させる執行裁判所の取扱いに従って債権差押命令に基づく差押債権の取立として第三債務者から金員の支払を受けた場合、申立日の翌日以降の遅延損害金も前記金員充当の対象となる

原決定を破棄し、本件申立てを却下した原々決定を取り消した上、本件を原々審に差し戻した。
 
<解説> 
●本件取扱いに従って債権差押命令の申立てをした債権者は、債務名義に表示された元金及びこれに対する支払済みまでの遅延損害金の支払を受けるため、取立金が取立日までの遅延損害金に充当されたものとして計算した残元金等を請求債権として再度の申立てをすることができるのか、それとも、申立ての際に本件取扱いに従った以上、債務名義に表示された債権の一部執行を申し立てたものとして請求債権の表示(民執規則133条1項、21条2号、4号)による制約を受けることになり、請求債権全額相当を取り立てた場合には取立金が申立日の翌日以降の遅延損害金に充当されず、元金が消滅し、残元金等を請求債権とする再度の申立てをすることは許されないのか?
 
配当手続の場面における関連判例:
最高裁H21.7.14:
本件取扱いに従って申立てをした債権者が、配当額の計算の基礎となる債権額に申立日の翌日から配当期日までの遅延損害金の額を加えて計算された額の配当を受けることができるか?

本件取扱いは、法令上の根拠に基づくものではないが、第三債務者に請求権中の遅延損害金の額を計算する負担を負わせないための配慮として合理性を有している。
本件取扱いに従った債権者は、第三債務者の負担への配慮をする限度で本件取扱いを受け入れたものであり、もはや前記配慮を要しない配当手続の場面では、特段の事情のない限り、債務名義に基づいて、肺と行き実までの遅延損害金の額を配当額の計算の基礎となる債権額に加えて計算された金額の配当を求める意思を有するとの意思解釈。
債権者は前記金額の配当を受けることができる

本決定:
取立金の充当の場面においても、もはや第三債務者への配慮を要しない
⇒前記最高裁H21.7.14が示すところの本件取扱いに従った債権者の通常の意思解釈⇒債権者債務名義に基づいて取立金が充当されるとの合理的期待を有している⇒申立日の翌日以降の遅延損害金も取立金の充当の対象となると判断。
 
<規定>
民執規則 第133条(差押命令の申立書の記載事項)
債権執行についての差押命令の申立書には、第二十一条各号に掲げる事項のほか、第三債務者の氏名又は名称及び住所を記載しなければならない。
民執規則 第21条(強制執行の申立書の記載事項及び添付書類)
強制執行の申立書には、次に掲げる事項を記載し、執行力のある債務名義の正本を添付しなければならない。
二 債務名義の表示
四 金銭の支払を命ずる債務名義に係る請求権の一部について強制執行を求めるときは、その旨及びその範囲
 
請求債権の表示に関する民執規則の規定自体は、最高裁判所の規則制定権(憲法77条1項)の性質及び範囲に鑑み、実体法上の充当関係まで規律するものとは解されない。 
 
●再度の申立てを認める本決定の考え方⇒申立日と取立日には必ずずれがある⇒本件取扱いがされる限りいつまでも元金は消滅しない⇒申立てが繰り返される可能性。
but
債務者が任意に債務を履行しない以上、やむを得ない。 

判例時報2386

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2019年1月14日 (月)

第二次納税義務が問題となった事案

津地裁H30.3.22      
 
<事案>
処分行政庁が原告に対して行った、Aの滞納にかかる市県民税につき、原告を第二次納税義務者とする告知処分の適法性が争われた事案。 
Aは、甲及び乙において代表社員として登記されている者であり、原告は、甲の業務執行社員として登記されている者。
(原告は、Aとの関係で、地方税法11条の8に規定する特殊な関係にある個人であることは当事者間において争いがない。) 
①乙が、原告に対し、原告の居住する建物の持分3分の2を譲渡したとの登記
⇒処分行政庁は、法人格否認の法理によりAによる行為と同視でき、かつ実際には無償で行われたものと認め
②甲又はAが、原告に対し、平成25年1月1日から平成26年12月31日までの間、月額10万円(合計240万円)を支払ったことにつき、処分行政庁はAが無償で支給していたものと認め
原告に対し、Aの滞納にかかる市県民税につき、原告を第二次納付義務者として、本件処分を行なった。

原告は、本件訴え提起に先立ち、前記市県民税を完納した上で、
①につき、乙は法人格の実体がある⇒法人格否認の法理の適用はなく、
また、本件譲渡は無償ではない。
第二次納税義務の前提として法人格否認の法理を適用する場合はやむを得ない場合に限定すべきであるが、本件では、やむを得ない事情はない。
②につき、甲から業務執行社員の報酬として支払われたものである
と主張して争った。
 
<争点>
①訴えの利益の有無
②本件処分の適法性(とりわけ、法人格否認の法理の適用の可否) 
 
<判断>
●訴えの利益について 
行政処分の取消判決が確定したときは、その形成力によって当該処分は遡及的に失効することに帰する⇒これにより公法上又は私法上の原状回復請求権の行使が可能となる場合にはなお訴えの利益を肯定することができる

本件処分に係る取消判決が確定すれば、当該処分は遡及的に執行することとなり、原告が納付した市県民税について、被告が保持すべき法律上の原因がないこととなる⇒納付に相当する金額について、不当利得返還請求義務が肯定されることになる⇒訴えの利益を肯定。
 

①乙の本店所在地には事務所としての実体がないこと、
②Aは、乙を関連会社の経理の操作や顧問先の脱税の道具として利用していた
法人格の濫用に当たるとして法人格を否認

第二次納税義務の前提として法人格否認の法理を適用する場合にはやむを得ない場合に限定すべきである旨の主張は、同制度の趣旨に照らして採用できない。
 
<解説>
●処分の執行と訴えの利益 
行訴法 第9条(原告適格)
処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。

行政処分が執行によりその目的を達成する場合、処分の執行完了により、以後の処分をされることはなくなる⇒訴えの利益が消滅することが多い。
but
処分を取り消すことによって法的に原状回復義務が生じると解されるときは、訴えの利益は消滅しないと解される。
地方税法は、過誤納金の還付に関する規定を置く。(地方税法17条)
 
●課税処分と法人格否認の法理 
税法上、実質所得者課税の原則により、法人格否認の法理を用いずとも、課税することが可能な事例が多い

判例時報2386

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2019年1月12日 (土)

湖東記念病院事件第二次再審即時抗告審決定

大阪高裁H29.12.20    
 
<事案>
平成15年、看護助手の請求人が、入院患者の人工呼吸器の管を引き抜いて殺害をしたとして起訴された事件。 
 
<特徴>
重大事件について高裁段階で再審開始が認められ、また、
本決定は、新証拠により、被害者の死因につき、酸素供給途絶でなく、致死性不整脈(による自然死)であった合理的疑いが生じたとして、「犯人性」以前の「事件性」のレベルで結論を導いている。
確定判決の証拠構造を整理した上で、原決定や即時抗告理由の項目立てや順序と離れ、死因に焦点を合わせて、旧証拠と新証拠などを比較検討して結論に至っている。 
 
<解説・判断>   
■死因についての判断
●確定判決の骨子 
①遺体を解剖したC医師の鑑定及び公判証言(C鑑定等)により、被害者Aは、人工呼吸器からの酸素供給が途絶したことにより、急性の心停止に至って死亡。
②酸素供給が途絶したのは、何者から故意により管を外し、途絶時に鳴るアラームに作為を加えたことによるものである。
③請求人には犯行が可能な知識、立場があることを前提に、「管を抜き、アラームが鳴らないような作為を加えた」旨の捜査段階の自白が信用できる。
 
●致死性不整脈が生じた可能性について 
①C鑑定の「本件事歴」、「説明」欄の文面をみると、解剖結果のみではなく、「本件事歴」中の「死亡前に人工呼吸器の管が外れた状態が生じていた」という事情を併せて死因を判断していると読める記載をしている。
but
②確定判決は、請求人の捜査段階の自白の信用性を認めて事実認定したことにより、「人工呼吸器の管が外れていたのを発見された」という事実は否定されている。

複数の医学的知見によれば、Aの死因が、酸素供給途絶による低酸素状態であるのか、致死性不整脈が生じたことにあるのかは、解剖所見のみから判定することはできず、これに反するCの供述は信用できない。
解剖時の血中カリウムイオン濃度は低く、これによる致死性不整脈が死因となった可能性があり、カリウムイオン濃度に関する検察官の主張はこれを左右せず、また、他の医学的知見によれば、低カリウム以外の原因による致死性不整脈が生じた可能性も残る
文献によれば、死因が致死的不整脈である可能性の程度は、無視できるほどに低いものではない

請求人の捜査段階の供述を除くと、確定判決①の死因を合理的疑いなく認定するには至らない
 
●請求人供述の信用性について 
①請求人の捜査段階の供述は、A死亡への関与の有無や程度、アラームが鳴り続けたのかどうか、人工呼吸器の管を外したのか外れたのかなど多数の点でめまぐるしく変遷している。
②アラーム無効期間の延長方法をいつ知ったのかという部分につき、請求人の供述は、供述録取者がL警察官から検察官に代わっただけで大きく変遷しているところ、この点は作為的に管を外したという自白の枢要部分であり、誘導に迎合して供述した可能性を示唆する。
③・・・・請求人がL警察官との関係を維持しようとして虚偽自白をしたとも考えられなくはない。
請求人の迎合的な性格、理解・表現能力という事情に照らせば、公判での殺害を自認するかのような供述も重視できない

請求人の供述は、それ単独でAが酸素供給途絶状態により死亡したと認め得るほどに信用性が高いものとはいえず、前記C鑑定等を併せてみても、Aが不整脈により死亡したのではなく、酸素供給途絶状態が生じたため死亡したことが、合理的疑いなく認められるとは評価できない。
 
■判断手法・内容の評価 
解剖所見自体から導かれる点と、
それ以外の事情を加味して導かれる点とを、
明確に区別することが重要。

請求人の義合的な性格
被疑者の中の少なからぬ者がコミュニケーション不全を抱えているといわれている現実
迎合による虚偽自白の危険性について、ますます留意することが必要

判例時報2385

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