判例

2018年11月14日 (水)

恵庭OL殺人事件第二次再審第一審決定

札幌地裁H30.3.20      
 
<事案>
著名再審請求事件の1つである恵庭OL殺人事件の第二次再審請求に対する地裁の棄却決定。 
弁護人が提出した科学的証拠を中心とする新証拠が、いずれも確定判決の根拠となった間接事実等の認定や評価に影響を及ぼすものではない⇒新旧全証拠の総合評価段階に至ることなく、請求を退けた
 
<判断等>
●確定判決等が請求人を犯人と認定した判断構造 
本件の犯人として想定可能な人物を絞り込んでいく間接事実が少なからず存在し、これらを総合的に検討して、犯人を請求人と推認、特定。
その旨の推認を妨げる事情の有無等を弁護人の主張等に即する形で検討してこれを否定、排斥。
⇒有罪の判断。
 
●弁護人の主張 
①法医学の専門家の意見書等
⇒被害者の死因は頚部圧迫による窒息とはいえず、確定判決等が依拠した司法解剖医作成の鑑定書が、死因をそのようにいうのは根拠不十分。
被害者は、性犯罪の被害にあって薬物投与により急死した疑い⇒そのような薬物を所持していなかった請求人は犯人ではない。

②燃焼学者等の専門家らの意見書等
⇒被害者の死体は、まずうつ伏せの状態で燃焼され、しばらく後に仰向けに反転させられ、再び燃料を掛けられて燃損されたと認められるが、そうであれば、請求人にはアリバイが成立する。

③確定判決控訴審判決では、灯油10リットルを掛ければ被害者の死体のように相当部分が炭化状態となるまで燃焼することが不可能とはいえないと判断。
but
燃焼学の専門家の意見書等⇒灯油10リットルを掛けて燃焼しても、被害者の死体のように体重が9キロも減少することはなく、第一次再審請求審における即時抗告棄却決定が指摘するように、灯油の燃焼終了後脂肪が独立燃焼を継続することもない。
⇒灯油10リットル以外に燃料を所持していなかった請求人は犯人ではない。
 
●判断
弁護人提出証拠の証拠価値を否定し、ひいては、いずれも刑訴法435条6号にいう明白性を否定。
①・・・・頸部圧迫による窒息の所見が少なからず認められる⇒死因をそのように認定した確定判決等の判断は左右されない
当時科捜研において所要の薬物検査が実施され、被害者の死体からは薬毒物が検出されなかった⇒薬物を使用した性犯罪に伴う急死等の可能性は除外される。

②死体の焼損状況⇒当初から仰向けの状態で焼損されたものとみても説明がつく
まずうつ伏せの状態で焼損され、次いで仰向けの状態にされて焼損されたとすると、臀部など焼損を免れた部位や現場の痕跡など客観的状況の説明がつかない。

燃焼学の専門家等の意見書等は、被害者の死体に掛けられた灯油の燃焼の仕方、死体への熱の伝わり方、燃焼した灯油の分量といった燃焼の条件が実際より過度に単純化され、過小なものとなっている
 
<規定> 
刑訴法 第435条〔再審請求の理由〕 
再審の請求は、左の場合において、有罪の言渡をした確定判決に対して、その言渡を受けた者の利益のために、これをすることができる。
六 有罪の言渡を受けた者に対して無罪若しくは免訴を言い渡し、刑の言渡を受けた者に対して刑の免除を言い渡し、又は原判決において認めた罪より軽い罪を認めるべき明らかな証拠をあらたに発見したとき。
 
<解説> 
刑訴法435条6号の「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」(明白性)とは、
確定判決における事実認定につき合理的な疑いを抱かせるものであり、
その判断方法としては、新証拠が確定判決を下した裁判所の審理中に提出されていたら、その確定判決においてなされたような事実認定に到達したかどうかという観点から、新旧証拠を総合的に評価して行うべきものとされている(総合評価説)。

この総合評価:
一般論として、
確定判決が有罪認定の根拠とした旧証拠の構造等を分析した上、新証拠の立証命題や旧証拠の構造の中での位置付けを踏まえ、新証拠がいかなる旧証拠にいかなる影響を及ぼすのかを、そのために必要な範囲の旧証拠に分析を加えながら検討

新証拠が旧証拠に与える影響の度合いを検討するには、その前提として、新証拠それ自体に十分な証拠価値のあることが前提
but
本決定は、弁護人提出証拠の証拠価値をいずれも否定
⇒新証拠への影響の度合いを論じる前提を欠いている。

判例時報2280

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2018年11月13日 (火)

出産のため休業中の女性労働者が、退職扱いされた事案。

東京地裁H29.12.22      
 
<事案>
出産のための休業中であった女性労働者Xが、使用者Yから退職扱いされて育児休業の取得を妨げられた
労働契約又は不法行為に基づき労働契約上の権利を有する地位の確認及び毎月の賃金(一部の機関につき予備的に雇用保険法61条の4所定の育児休業給付金相当額の損害賠償)慰謝料等の支払を求めた事案。 
退職扱いされる直前の賞与不支給についても、賞与又はこれに代わる慰謝料が請求。
 
<争点>
①XからYに対する退職の意思表示の有無
②毎月の賃金又は損害賠償の請求が認容される範囲
③賞与又はこれに代わる慰謝料請求の可否 
 
<規定>
雇用機会均等法 第9条(婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等)
3 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
 
<判断・解説>
●争点①(退職の意思表示)
退職の意思表示は、その重要性に鑑みて、その認定に慎重を期すべきことが指摘されている。

本判決:
詳細な事実認定⇒Xからの退職の意思表示の事実を否定

雇用均等法9条3項等によって、妊娠、出産、これらに伴う休業等を理由とする不利益な扱いが禁止されており、この「不利益な取扱い」には、労働者の真意に基づかない勧奨退職を含む退職の強要も含まれている
⇒退職の意思表示及びそれが労働者の真意(自由な意思)に基づくことの認定に慎重を期すべき
ことも指摘。

最高裁H26.10.23:
妊娠中の軽易業務転換を契機とする降格につき、労働者の承諾があっても、その承諾が「自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき」でなければ強行規定である雇用均等法9条3項の禁止する不利益取扱いに該当し、違法・無効
 
●争点②(毎月の賃金又は損害賠償の請求が認容される範囲) 
使用者が解雇、退職などを主張して労働者からの労務提供の受領を拒んでいても、労働者に労務提供の意思及び能力が存しないときは、債権者(使用者)の責めに帰すべき履行不能(民法536条2項本文)に当たるとはいえない。(菅野p409)

Xが退職扱いされた当時産後休業中で、引き続き育児休業取得を予定しており、訴訟係属中に新たな子を妊娠・出産

Xに労務提供の意思及び能力が存する期間を認定して、その期間につき毎月の賃金の請求を認容

他方で、Yに、Xを退職扱いし、育児休業給付金の受給を妨げた不法行為の成立を認め、育児休業取得予定であったため賃金支払請求を退けた期間につき、育児休業給付金相当額の損害賠償をj認定

精神的損害による慰藉料も認定。

慰謝料の算定において、Yの訴訟係属中の解散で判決確定後も紛争が継続し、Xが別訴の提起を強いられると見込まれることも考慮。
but
本件では、解散が損害賠償責任の原因事実と主張されているわけではなく、本判決での考慮も、不法行為の後の慰謝料算定に関する事情としての限定的なものにとどまっている。
使用者である法人の解散は、違法な目的(労働組合壊滅等)、事業承継などの事情によっては、法人格の否認や雇用の承継に加えて、損害賠償責任の原因事実ともなりえる。(菅野p715,718)
 
●争点③(賞与又はこれに代わる慰謝料請求の可否) 
賞与制度で賞与の決定が使用者の査定に委ねられているときは、査定が具体的な賞与請求権の発生要件となる(最高裁H27.3.5)。
but
正当な理由なく査定をしなかったり、査定が強行法規に違反したりするときは別途不法行為が成立する。 

本判決:
賞与請求権の発生要件具備は否定
but
さらに期待権侵害の不法行為の成否を検討し、Yの査定の違法性を認め、慰謝料等の請求を認容

Yの査定が休業による不就労分を超える不支給であると認定し、違法な不利益取扱いであると判断

年次有給休暇(年休)取得に対する不利益措置につき、
最高裁H5.6.25は、
諸般の事情を総合して公序に反するときに違法・無効になる。

最高裁H4.2.18では、使用者は年休の取得日の属する期間に対応する賞与の計算上この日を欠勤として扱うことはできない旨が判示。

本判決:Yの不支給の査定が年休取得も理由とし、公序に反する旨を判断。

判例時報2380

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2018年11月12日 (月)

小学校教諭が行った指導・叱責行為等に対する損害賠償請求(否定)

さいたま地裁熊谷支部H29.10.23      
 
<争点>
①Y1が、X1に対し、給食後の食器汚れを確認した際、X1の背中に触れたり授業時間中にルール違反の有無につき問い質したりした行為が、体罰に該当するか、るいは、懲戒行為や教育的指導の限界を逸脱するか。
②Y1が前訴においてXらの記入した連絡帳等を証拠提出した行為が、Xらのプライバシーを侵害する違法なものかどうか。
 
<規定>
学校教育法 第11条〔児童・生徒・学生の懲戒〕
校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない
 
<判断>
●Y1の行為の違法性(争点①) 
教諭の行為が学教法11条の懲戒権行使の範囲内にとどまる限り違法性を有しないが、同条ただし書の体罰に該当する場合は違法と評価される。

教諭の行為が懲戒権の行使として相当と認められる範囲内のものかどうか、あるいは体罰に該当するかどうかは、児童の年齢、性別、性格、成育過程、身体的状況、非行等の内容、懲戒の趣旨、教育的効果、身体的・精神的被害の大小・結果等を総合して、個別具体的に判断すべき。

①Y1がX1の背中に触れた行為:
X1に身体的被害も全く生じていない極めて軽微な身体的接触⇒体罰に該当しない。

②Y1が、授業時間中、X1が通学路を守って帰宅したのかどうかを確認した行為:
確認自体に問題はないとしても、事実確認が時間を要したことで、他の児童からの批判にさらされていたX1の精神的負担は大きくなっており、Y1において配慮に欠ける面があったこは否定できない
but
不相当とまではいえない。

③Y1が、授業時間中、X1が鉄棒の練習をしたのかどうかを確認した行為:
他の児童も立たされている状況で、Y1から厳しい口調で発言を求められたことで、X1は相当な精神的負担を受けたと推認でき、Y1において配慮に欠ける面があった
but
全体を通してもれば、X1が他の児童との円滑な人間関係を築くことができるようになり、X1の成長につながると期待されたものと理解でき、そのような懲戒の趣旨や教育的効果不相当とまではいえない
 
●前訴における証拠提出行為の違法性(争点②)
前訴においてY1が連絡帳等を証拠提出したことは、Xらのプライバシーを侵害するおそれがある。
but
訴訟行為については、たとえ相手方のプライバシーを侵害しうるものであったとしても、正当な訴訟活動の範囲内にとどまる限り、違法性を阻却し、
当該訴訟行為が、事件と全く関連性を有しない場合や、訴訟遂行上必要な範囲を超えて、著しく不適切な方法、態様で主張立証を行い、相手方のプライバシーを著しく侵害するような場合に限って、違法性が認められる。

Y1の行為は違法とは認められない。
 
<解説>
体罰相手方に対して肉体的苦痛を与えるものをいう(福岡地裁H8.3.9) 

体罰に該当しなくても、教諭の行為が懲戒行為や教育的指導の限界を逸脱する場合には、違法とされることがある。

本件では、Y1の言動が、X1に精神的苦痛を与え、人格の尊厳を傷つける、いわゆる言葉の暴力に当たるかが問題とされた。
本判決は、X1が相応の精神的負担を受けたことは認めつつも、
児童が受けた被害の程度だけでなく、
懲戒の趣旨や教育的効果なども総合的に考慮して判断
する立場。

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2018年11月11日 (日)

政務調査費の支出が違法⇒不当利得として返還請求することを市長に求める住民訴訟(一部認容)

仙台高裁H30.2.8      
 
<事案>
仙台市議会の会派及び議員が同市から交付を受けた平成23年度(平成23年9月分から平成24年3月分まで)の政務調査費のうち一部(合計約1810万円)が条例等により定められた使途規準に反して違法に支出され、前記会派及び議員に不当利得が生じている⇒Xが、市長であるYに対し、前期会派及び議員に対して不当利得の返還を請求するよう求めた住民訴訟。
 
<論点>
①政務調査費の支出の適法・違法の判断枠組み
②主張立証責任の分配 
 
<解説>
①について:
条例等により定められた使途規準に合致するか否かを適法・違法の判断の基準とし、
具体的には、政務調査費の支出と議員の調査研究活動との間に合理的関連性がない場合を使途規準に合致しない場合として違法とする裁判例が多い。

②について:
いわゆる一般的・外形的な事実説(使途規準に合致した政務調査費の支出がなされなかったことを推認させる一般的・外形的な事実が立証されたときには、適切な反証がされない限り、当該支出が使途規準に合致しないものであることが事実上推認される)に立つ裁判例が多い。
 
<判断>
Xの請求の一部を認容した原判決を、大筋で支持。 
 
<解説> 
●政務調査費の支出対象となる経費が(インターネット利用料など)定額のサービス利用料である場合の使途規準適合性について:
仙台市議会においてこれを具体化する趣旨で作成された内規である「仙台市政務調査費の交付に関する要綱」があり、
その8条は「政務調査費に係る経費と政務調査費以外の経費を明確に区分し難い場合には、従事割合その他の合理的な方法により按分した額を支出額とすることができるものとし、当該方法により按分することが困難である場合には、按分の割合を2分の1を上限として計算した額を支出することができる」と規定。

原判決:
同要綱は、それ自体が法規範性を有するものではないが、このような取扱いをすることは政務調査費の支出について議員の調査研究活動のための必要性を要求する地自法及び条例等に沿うものとして合理性があると考えられる

政務調査費の支出対象となった経費の一部が調査研究活動対象以外の目的で支出されたといえる場合には、前記の定めに従って按分した額を超える支出は、結局、使途規準に合致しないものと判断されるべき。

本判決もこれを共通の前提としている。

政務調査費の支出対象となる経費が定額のサービス利用料である場合:

原判決:
調査研究活動以外の目的で利用されることがあったとしても、調査研究活動を主目的として利用するとすれば目的外利用の有無にかかわらず一定額の支払をしなければならない

前記一般論の例外として、定額の利用料については、按分をしないでその全額を政務調査費から支出しても使途規準に合致しないとはいえない。

本判決:
各会派及び議員は、定額の利用料に係る経費を政務調査費から全額支出するか一切支出しないかのいずれかを選択しなければならないものではなく、経費を按分してその一部を政務調査費から支出することができる。

定額制か従量制等かの違いだけで異なる取扱いをする合理的な理由はない
 
●経費の一部について按分により政務調査費から支出することを認める前記ののような要綱の定めを実質的に使途基準適合性の判断に取り込んで支出の違法性を判断することの当否
これを取り込んだ場合に定額の利用料をさらにその例外とすることの是非
について、さまざまな議論があり得る。

判例時報2380

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2018年11月10日 (土)

交通事故で低髄液圧症候群の発症が認められなかったもの

横浜地裁H29.10.12    
 
<事案>
交通事故につき、
Xが、Yに対し、
民法709条、710条、自賠法3条に基づく責任がある
人身損害及び弁護士費用並びに交通事故発生日から支払済みまで年5分の割合により遅延損害金の支払を求めた事案。
 
<主張>
X:
本件交通事故はYの一方的な過失によるものであると主張するとともに、
本件交通事故による低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)の発症、
本件交通事故発生日から約2年11箇月後の症状固定を主張 

Y:
①Xが雨傘を差していたこと、夜間であること、周囲に注意を払っていなかったと思われる
⇒15%の過失相殺を主張。
②Xの本件交通事故による低髄液圧症候群の発症を否認
③症状固定時期は一般的な交通外傷の症状固定時期である交通事故から半年後が相当である
 
<争点>
Xの本件交通事故による低髄液圧症候群の有無 
 
<判断>
①国際頭痛分類第3版β版の国際頭痛分類基準
②脳神経外傷学会基準
③厚生労働省研究班による脳脊髄益漏出症画像判定基準・画像診断基準
に照らし

①Xが事故直後の時期に訴えた頭痛の症状は起立性頭痛(頭部全体及び又は鈍い頭痛で、座位及び立位をとると15分以内に増悪する頭痛で低髄液圧症候群発症の1つのメルクマールとなると解されている)であるとは認められないこと
②起床時に頭痛が激しい旨医療記録に記載されたのは、事故から1年以上経過した時点であること
③RI脳槽シンチグラフィー検査(ラジオアイソトープ(RI)という放射性物質をせき髄内に穿刺し、体外に排出される過程を見て脊髄液が漏出する可能性を見出す検査)は、1時間後に明らかな膀胱集積がみられた場合に脳脊髄液の漏出を疑う所見とされているところ、投与後1時間で淡い膀胱の描出、3時間後RI膀胱内集積、24時間後RI残存率の低下で、1時間後の明らかな膀胱集積ではなく、また、2.5時間以内の集積ではない⇒厚生労働省研究班による脳脊髄液漏出症画像判定基準・画像診断基準を満たさない
④明らかな骨折や神経学的所見は認められず、頭蓋内出血など明らかな頭部外傷所見はない
⑤3回にわたり、ブラッドパッチを受けているところ、一時的に頭痛が改善されたこともあったが、直後に頭痛が悪化したりしており、ブラッドパッチにより症状が改善されたとは認められない

Xの本件交通事故による低髄液圧症候群の発症は認められない。

症状固定時期について:
本件交通事故による低髄液圧症候群の発症は認められないが、
Xの頚部痛等の症状が、他の一般的な交通外傷の事例に比べ、重いと考えられる

本件交通事故から約1年後のA診療所の最終通院の属する月末に症状固定に至ったとみるのが相当。

過失割合について:
Xは横断歩道が設置されていない場所で道路を横断⇒周囲の安全を確認する注意義務があり、一定の過失が認められる。
①現場が住宅街でスクールゾーンであること
②雨が降っていて雨傘を差して歩行したXについて、Yの発見が遅れたこと
③5月の午後8時55分頃であり、夜間で暗かったといえること
等を総合考慮

Yの90パーセント、Xの10パーセントの過失割合となる。
 
<解説>
交通事故の損害賠償請求訴訟において、被害者が低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)の発症を主張する事案は少なくない。 

脳脊髄液減少症:
脳脊髄液腔から脳脊髄液が持続的ないし断続的に漏出することによって脳脊髄液が減少し、頭痛、頚部痛、耳鳴、視機能障害、倦怠などさまざまな症状を呈する疾患と定義される。

低髄液圧症候群等の診断基準:
国際頭痛学会が
①平成16年に公表した国際頭痛分類第2版、
②平成25年に公表した国際頭痛分類第三版β版
③日本脳神経外傷学会が提案した、外傷に伴う低髄液圧症候群の診断基準
④厚生労働省の研究班が平成23年に公表した「脳脊髄液漏出症画像判定基準・画像診断基準」
⑤脳脊髄液減少症ガイドライン作成委員会が作成した脳脊髄液減少症ガイドライン2007等
がある。

本件において、②③④は一定の信頼性を有する基準と解されるとして、これらにより判断してXの低髄液圧症候群の発症を認めなかったもの。

判例時報2379

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2018年11月 9日 (金)

弁護士の相手方弁護士に対する名誉毀損等の不法行為(肯定)

東京地裁H29.9.27      
 
<事案>
弁護士が民事訴訟、家事調停の代理人として、相手方の代理人弁護士に対して弁護士法違反、弁護士倫理違反等の内容の弁論期日における発言、準備書面の記載・陳述をしたことにつき、名誉毀損、侮辱、業務妨害に係る不法行為責任の成否が問題になった事案。 
 
<争点>
弁論期日における発言の有無、発言の名誉毀損等の該当性、各準備書面の提出・陳述の名誉毀損等の該当性、違法性阻却の成否、損害・金額 
 
<判断>
本件弁論期日後間もなく作成されたXの作成に係る書面(報告文書)、弁護士日誌等の記載が信用でき、Yの供述を排斥して、Xの主張に係るYの発言を認定。 

本件発言がXの社会的評価を低下させる
準備書面の各記載もxの社会的評価を低下させる
(業務妨害の主張についてはいずれも排斥)

違法性阻却については、
本件発言について全て否定し、
準備書面の記載等につき一部肯定

本件発言の慰謝料として30万円
訴訟の準備書面の記載等の慰謝料として50万円
調停の準備書面の慰謝料として30万円
弁護士費用11万円
を認め、請求を一部認容。

判例時報2379

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2018年11月 8日 (木)

骨髄移植手術を受けた患者が脳梗塞を発症して死亡。看護師の過失との因果関係を否定。

大阪高裁H29.2.9      
 
<事案>
Pの父母であるX1とX2は、Y附属病院の医師の過失により、免疫抑制剤であるプログラフを過剰投与され、その副作用により脳梗塞を発症して死亡したと主張⇒Yに対して、債務不履行又は不法行為に基づき、損害賠償を請求。 
 
<原判決>
Xらの請求を棄却 
   
Xらは控訴。
併せて、Y附属病院の看護師の過失、Y附属病院自身の過失の主張を追加するとともに、
適切な医療を受けておれば、その死亡した時点においてなお生存していた可能性等を失い、また、適切な医療を受けることについての期待権を侵害されたとして、不法行為に基づく損害を予備的に追加主張
 
<判断>
プログラフの過剰投与があったことは明らか。
but
①鑑定によれば、過剰投与による脳梗塞の発症の可能性は否定できないものの、プログラフの量は、副作用としての脳梗塞を発症するだけの条件が十分であったとまでは認めることができないし、
プログラフの投与が原因とされる脳梗塞の発症例が多いということはできない

過剰投与と脳梗塞発症との間に相当因果関係を認めることは困難。 

Pの全身状態の悪化等からすれば、過剰投与がなかったからといって、脳梗塞の発症を回避したり、死亡の結果を回避したりすることができる相当程度の可能性があったということはできない
④過剰投与の発生について過失が認められるが、Y附属病院の医療行為が著しく不適切であったということはできない

Yの損害賠償を否定した原判決は結論において相当
 
<解説>
因果関係の立証について、

最高裁昭和50.10.24:
訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、
経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、
その判定は、通常人が疑を差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りる

①プログラフは、種々の移植における拒絶反応の抑制に適応するが、これを服用すると、脳梗塞等を発症し、致死的な経過をたどることがあるとされ、
本剤を移植で使用するときは、免疫抑制療法及び移植患者の管理に精通している医師の指導のもとで行わなければならないとされている。
②鑑定でも、過剰投与により脳梗塞を発症した可能性を否定できないとされている。
過剰投与と脳梗塞との因果関係はかなり微妙

判例時報2379

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2018年11月 7日 (水)

自筆証書遺言の有効性の判断と動画の実質的証拠能力

東京高裁H29.3.22      
 
<事案>
XとYは、被相続人Aの法定相続人。
Aは、平成26年7月に死亡。
Xが、Yに対して、自筆証書遺言が偽造されたもので法定の要件を各ため無効⇒遺言無効確認請求訴訟を提起
 
被相続人Aは、株式及び不動産を含む財産一切をXに相続させることを内容とする公正証書遺言を平成24年4月19日に作成。
AがYに対して全財産を相続させることを内容とする自筆証書遺言(作成日は平成25年2月8日)があり、Yの申立てにより遺言書検認手続を行われた。
 
<争点>
本件遺言の作成日に撮影された動画(本件動画)について、その証拠能力及び証拠力をどのように考えるか。 
 
<判断>
●本件動画の証拠能力:
Yが、裁判所やXを欺罔する意図をもって本件動画を加工、編集した事実を認定することはできない⇒証拠能力を否定すべきではない

●実質的証拠力:
本件動画に顕れた被撮影者(被相続人A)の言動、遺言書や動画の保管状況及びこれに関する撮影者(Y)の説明の合理性その他諸般の事情を総合して判断すべき。

①本件動画には、後日の証拠となることが意識されて新聞が何度も映し出されているのに、Aが自書、押印する動作が全く撮影されていない
②添え手を含む何らかの補助を受けて書かれた可能性は否定できない
③公正証書遺言の内容を変更する事情が何ら明らかになっていない

Aが本件遺言を自書、押印したものとは認めず、本件遺言は無効

<解説>
動画は、準文書として扱われ(民訴法231条)、その実質的証拠力も文書に準じて判断されることになる。
文書の実質的証拠力は裁判官の自由心証によって決せられる

動画が証拠として提出された場合には、その内容について、裁判官の自由な心証によって判断することができる。 

民訴法 第231条(文書に準ずる物件への準用)
この節の規定は、図面、写真、録音テープ、ビデオテープその他の情報を表すために作成された物件で文書でないものについて準用する。

判例時報2379

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2018年11月 6日 (火)

通信制限に関する広告及び説明が重要事項の不実告知に当たる⇒消費者契約法4条1項による取消しが認められた事例

東京高裁H30.4.18      
 
<事案>
無線通信事業者であるYらが、本件の契約料金プラン(「本件料金プラン」)において採用した通信制限の方法は、ユーザーが使用した通信料が一定の値(3日で3GB制限)を超えることを、そのユーザーに対する速度制限の発動条件(トリガー)とし、発動後24時間程度の間、通信速度を低下させるといもの。 

<問題>
通信制限の必要性そのものではなく、通信制限の存在及び内容(ユーザーの利便を損なう程度)が、販売の際に消費者に分かりやすく適切に説明されたかどうか
適切な説明がなかったとすればそれが民法96条の詐欺又は消費者契約法4条1項の重要事項の不実の告知に当たるかどうか
 
<主張>
Y1と本件料金プランの契約をした消費者であるXは、
通信サービスを使用すると、Yらの広告や契約時の説明と異なり、通信制限を受けることが多く、通信制限下では使いものにならないと主張

民法96条又は消費者契約法4条1項に基づき、契約を取り消した上で、
支払済みの契約金の返還等を求めた
。 
 
<原審>
請求棄却。
 
<判断>
請求を認容。 
Yらは、本件料金プランにつき、広告中には3日3G制限が発動される場合の具体例や3日3G制限発動後の通信制限下での具体的な使用状況は記載せず、
3日3G制限の存在のみを豆粒のような文字で記載して、できるだけ3日3G制限の存在に気付かせずに、顧客を販売店に誘引しようとした。

Yらは、販売店においては、重要事項説明書の3日3G制限の説明(概略、直近3日間の通信料合計が3GB以上となると通信速度を翌日にかけて制限する場合があるというもの)を棒読みし、3日3G制限が発動される場合の具体例はYouTubeを標準画質で見ることができるとだけ説明して販売。

本件料金プランの広告及び店頭説明は、高速、通信量制限ないし、使い放題という利便性のみを強調し、通信制限の存在を目立たせないようにしており、
サービス(特に通信制限時)の水準が一部のヘビーユーザーのニーズに合わないことの説明がなく、
通信制限のトリガーを引かないためには通信料を自主規制せざるを得ないこと、通信料の多い使用方法の具体例及び通信制限下での通信速度等の通信状況の具体的内容の説明もない


Xがこれら通信制限の実情を知らされていれば契約締結はなかったもので、重要事項についての不実の告知にあたる。

判例時報2379

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2018年11月 5日 (月)

病院の患者に(第三者が医師に交付した患者の)資料を開示しないことが正当化された事例

東京高裁H29.8.31      
 
<事案>
患者が病院に対して、第三者が交付した患者の資料につき、個人情報保護法25条1項に基づき、開示を求めた。 
Xは、平成21年から平成22年にかけて、Yの運営するA病院(精神科)で診察を受けた者。この間、Xの友人であるBが、A病院を訪れて医師に対し、Xの病状に関する資料を交付。
その後、Xは、Bを告訴する目的で、Yに対し、本件持参資料の記録謄写の申請⇒Yは、Bの利益を害するおそれがあるとして、本件持参資料の写しを交付しなかった。
⇒Xは、Yに対し、本件持参資料の開示を求めて提訴。

 
<争点>
Yが開示をしないことが、改正前の個人情報保護法25条1項1号に定める「第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害するおそれがある場合」に該当するか? 
 
<原審>
Xの請求を棄却。
厚生労働省策定の「診療情報の提供等に関する指針」(平成15年9月12日)8項によれば、
診療情報の提供を拒みうる場合として、
診療情報の提供が第三者を害するおそれがあるときを挙げ、
その想定される事例として、患者の家族や関係者が医療従事者に患者の状況等について情報提供を行っている場合に、
これらの者の同意を得ずに患者自身に当該情報を提供することにより、
患者とその家族や関係者との間の人間関係が悪化するなど、これらの者の利益を害するおそれがあるときを掲げている
ことを指摘。

本件持参資料が開示されて、Xの症状に関するBの認識を知ることで、XがBに対して悪感情を募らせ、既に悪化しているXとBとの間の人間関係がさらに悪化して、Bの利益を害するおそれがある
⇒本件開示請求は、改正前の個人情報保護法25条1項1号の開示しないことができる事由に該当

 
<判断>
原審判断を是認。 

判例時報2379

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