判例

2022年5月26日 (木)

インサイダー取引で「業務上の提携」を行うことについての決定をしたとは認められないとされた事例

東京地裁R3.1.26

<事案>
㈱Aの取締役であるXが、その職務に関し、A社の業務執行を決定する機関が、B社との業務上の提携を行うことについての決定をした旨の重要事項を知りながら、本件重要事項の公表がされた平成27年12月11日より前に、自己の計算において、A社の株式合計400株を買い付けた⇒金融庁長官から、金商法185条の7第1項に基づき、課徴金として133万円を国庫に納付することを命ずる旨の決定⇒本件納付命令が違法であると主張して、その取消しを求めた。

<争点>
①A社の代表取締役であるP1が金商法166条2項1号所定の「業務執行を決定する機関」に該当するか
②A社の業務執行を決定する機関がB社との間で金商法及び金商法施行令の「業務上の提携」を「行うことについての決定」をした時期が遅くとも平成27年8月4日であるか

<解説>
インサイダー取引は、
金融商品取引市場おける公平性、公正性を著しく害し、
一般投資家の利益と金融商品取引市場に対する信頼を著しく損なう

金商法は166条においていわゆるインサイダー取引を禁止し、
その違反に対して刑事罰や課徴金を課している。

金商法166条1項は、
会社関係者であって上場会社等に係る業務等に関する重要事実(同条2項所定)を同条1項各号に定めるところにより知ったものは、
当該重要事項が公表された後でなければ、当該上場会社等の特定有価証券等の売買等をしてはならない。

同条2項1号は、同条1項でいう重要事実について、
当該上場会社等の業務執行を決定する機関が同条2項1号イないしヨに掲げる事項を行うことについて決定したことをいう旨規定し、
同号ヨは、
業務上の提携その他の同号イないしカまでに掲げる事項に準ずる事項として政令で定める事項を掲げている。

<判断>
●争点①
金商法166条2項1号所定の「業務執行を決定する機関」とは、
会社法所定の決定権限のある機関に限られず、実質的に会社の意思決定と同視されるような決定を行うことができる機関であれば足りる。

A社とB社との業務提携において、P1が「業務執行を決定する機関」に該当。

●争点②
金商法166条2項1号ヨ所定の「業務上の提携」について、
仕入れ・販売提携、生産提携、技術提携及び開発提携等、会社が他の企業と協力して一定の業務を遂行することを意味することを前提に、
本件提携はそれに該当。
同条1項の趣旨

「業務上の提携」を「行うことについて決定をした」とは、
「業務上の提携」の実現を意図して、「業務上の提携」又はそれに向けた作業等を会社の業務として行う旨の決定がされることが必要であり、
「業務上の提携」の実現可能性があることが具合的に認められることは要しないものの、
「業務上の提携」として一般投資家の投資判断に影響を及ぼす程度に具体的な内容を持つものでなければならない。

本件では、平成27年8月4日の時点では、それに該当しないと否定。

<解説>
「業務上の提携」とは、
会社が他の企業と協力して一定の業務を行うことをいい、
業務の内容や提携の方式について限定はなく、
仕入れ・販売提携、生産提携、技術提携及び開発提携、合弁会社の設立、事業の賃貸借、経営委任などはいずれも業務上の提携に該当。
「行うことについての決定」

日本織物加工株式会社事件最高裁判決:
「株式の発行」について、
株式の発行それ自体や株式の発行に向けた作業等を会社の業務として行う旨を決定したことをいうものであり、右決定をしたというためには右機関(=業務執行を決定する機関)において株式の発行の実現を意図して行ったことを要するが、
当該株式の発行が確実に実行されるとの予測が成り立つことは要しない。

村上ファンド事件最高裁判決:
「公開買付け等」について、「決定」をしたというためには、上記のような機関(=業務執行を決定する機関)において、公開買付け等の実現を意図して、公開買付け等又はそれに向けた作業等を会社の業務として行う旨の決定がされれば足り、
公開買付け等の実現可能性があることが具体的に認められることは要しない

「決定」について確実性や実現可能性を要件としていない。

①インサイダー取引の構成要件が原則として投資判断に及ぼす実際の影響を要件としない形で客観的にその範囲を確定するという観点から規定されたという立法経緯
②軽微基準及び重要基準を設けて投資者の投資判断に及ぼす影響が軽微なもの処罰の対象とならないように手当がされている
⇒インサイダー取引はいわゆる抽象的危険犯としての性格を有し、一定程度の実現可能性の存在を「決定」該当性の一要件と位置付けるのは相当ではないという趣旨。

判例時報2511

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株式の買取請求をした者の会社法318条4項の「債権者」該当性

最高裁R3.7.5

<事案>
Yにおける株式併合によりその保有する株式が1株に満たない端数になる⇒会社法182条の4第1項に基づき前記株式の買取請求ををしたXが、Yに対し、Xは前記株式の価格の支払請求権を有しているからYの債権者に当たるなどと主張して、会社法318条4項に基づき、株主総会議事録の閲覧及び謄写を求めた事案
XはYから会社法182条の5第5項に基づく支払を受けており、Yは、前記株式の価格が前記支払の額を上回らない限りXは会社法318条4項にいう債権者には当たらないと主張。

<経緯>
(1)平成28年7月4日の臨時株主総会及び普通株式の株主による種類株主総会で、同月26日を効力発生日としてYの普通株式及びA種類株式のそれぞれ125万株を1株に併合する旨の決議
(2)Xは、Yの株式4万4400株を有していたところ、前記各株主総会に先立ち、前記各決議に反対する旨をYに通知し、各株主総会で議案に反対、
(3)同月25日までに、会社法182条の4第1項に基づき、Yに対し、本件株式を公正な価格で買い取ることを請求。
(4)Xは、本件株式の価格についてYとの間で協議が整わなかった⇒会社法182条の5第2項所定の期間内に、東京地裁に、本件株式の価格決定の申立て
(5)Yは、同年10月21日、同条5項に基づき、Xに対し、自らが公正な価格と認める額として1332万円を支払った。

<判断>
会社法182条の4第1項に基づき株主の買取請求をした者は、会社法182条の5第5項に基づく支払を受けた場合であっても、前記株式の価格につき会社との協議が調い又はその決定に係る裁判が確定するまでは、会社法318条4項にいう債権者に当たるというべき
⇒Xが同項にいう債権者に当たると判断した原審の判断は正当。

<解説>
●会社法は、株式会社の株主又は債権者につき、株主名簿、株主総会議事録、取締役会議事録、会計帳簿、計算書類等の閲覧等の請求をすることができる旨を規定。

株主に関しては監視監督権限の実効的な行使のため、
債権者に関しては間接有限責任(会社法104条)の下での債権の回収確保のため
会社の事業、財産及び損益の状況等に関する情報を入手することを可能としてこれらの保護を図ることを目的として設けられたもの。
会計帳簿や取締役会議事録等、開示により営業秘密の漏えい等の弊害が生ずる懸念が大きいものも含まれている

一定数以上の株式を有する株主に限定したり、
請求の理由を明らかにして閲覧等の請求をすべきものとしたり、
拒絶事由を定めたりすることにより会社と開示請求権者の利益ないし損失を衡量する制度設計

「株主」又は「債権者」に該当するか否かの判断自体において、前記弊害が生ずるおそれを考慮して厳格に判断すべき必要性は見出し難い。

●株式併合の場合における反対株主の株式買取請求権の制度
会社は、会社法182条の4第1項に基づき株式の買取請求をした者に対し、前記株式の価格の決定があるまでの間、会社が公正な価格と認める額を支払うことができる(会社法182条の5第5項)

会社が株式買取請求に係る株式の価格につき支払うべきものとされる利息が市中金利に比して高額であることによる濫用的買取請求に対処するために導入。
but
買取請求に係る株式の価格の支払請求権は、前記価格についての当事者間の協議が調い又は前記価格の決定に係る裁判が確定するまではその価格が未形成

前記価格の形成以前の時点でこれを弁済により消滅させることができるかという点自体にき疑問があり得る。
弁済自体は可能であるとしても、その価格が未形成である以上、当該弁済によりその全部が消滅したと認定することは不可能。
・・・

判例時報2511

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申立人ら夫婦が申立人母の非嫡出子を養子にすることの許可を求めた事案で、父との関係でニュージーランド法を準拠法とされた事案

東京家裁R3.1.27

<事案>
申立人ら夫婦(ニュージーランド及びD国籍を有する申立人父と日本国籍を有する申立人母)が、申立人母とH国籍を有する実父との間の非嫡出子である未成年者(日本国籍及びH国籍)を申立人らの要しとすることの許可を求めた事案。

<判断>
申立人父との関係ではニュージーランド法を
申立人母との関係では日本法を
それぞれ準拠法として認定した上、
申立人らと未成年者との間でそれぞれ適用される法における養子縁組の要件(保護要件を含む。)について検討し、本件申立てを許可。

<規定>
法適用通則法 第三一条(養子縁組)
養子縁組は、縁組の当時における養親となるべき者の本国法による。この場合において、養子となるべき者の本国法によればその者若しくは第三者の承諾若しくは同意又は公的機関の許可その他の処分があることが養子縁組の成立の要件であるときは、その要件をも備えなければならない。
・・・
法適用通則法 第三四条(親族関係についての法律行為の方式)
第二十五条から前条までに規定する親族関係についての法律行為の方式は、当該法律行為の成立について適用すべき法による。
2前項の規定にかかわらず、行為地法に適合する方式は、有効とする。

法適用通則法 第三八条(本国法)
当事者が二以上の国籍を有する場合には、その国籍を有する国のうちに当事者が常居所を有する国があるときはその国の法を、その国籍を有する国のうちに当事者が常居所を有する国がないときは当事者に最も密接な関係がある国の法を当事者の本国法とする。ただし、その国籍のうちのいずれかが日本の国籍であるときは、日本法を当事者の本国法とする。
・・・

<解説>
●準拠法について
養子縁組における準拠法:
法適用通則法31条1項前段⇒縁組の当時における養親となるべき者の本国法による。
同項後段⇒養子となるべき者の本国法によればその者若しくは第三者の承諾若しくは同意又は公的機関の許可その他の処分があるときは、その要件(「保護要件」)をも備えなければならない。

渉外養子縁組の実質的成立要件は、
縁組当時の養親の本国法により、
保護要件については養子の本国法が併せて考慮される。
本件では、申立人父と未成年者が重国籍⇒同人らの本国法を確定する必要。
重国籍の場合の本国法:法適用通則法38条1項。

申立人父について、
ニュージーランド及びDのいずれも常居所があるとは認められない。
申立人父のD及びニュージーランドにおける居住歴、ニュージーランドへの定期的訪問といった事情⇒ニュージーランドとDのうち申立人父に最も密接な関係がある国はニュージーランド⇒本国法なニュージーランド法。
未成年者の本国法は日本(同条但書)。

●保護要件については、
成立する養子縁組が断絶型の養子縁組⇒特別養子縁組の保護要件
非断絶型の養子縁組⇒普通養子縁組の保護要件
が必要。
ニュージーランド法の養子縁組は、実親と養子との関係について断絶効があるとされている。
but
配偶者の一方の本国法上、断絶型の養子縁組の定めしかない場合であっても、地方配偶者の本国法上、非断絶型の養子縁組が認められるときは、当該夫婦は被断絶型の養子縁組をすることができると解されている。

本件:申立人母が、夫婦共同縁組で普通養子縁組の申立てをしている⇒申立人父との間でも被断絶型の養子縁組が成立すると解され、本件審判も、養父子関係について、普通養子縁組に即した日本法の保護要件を検討。

●ニュージーランド法の養子縁組の要件
①養子の年齢制限、②養親の年齢要件、③夫婦共同縁組、④試験養育、⑤実親等の同意、⑥裁判所の養子縁組命令

要件⑤について:
同意が要求される実親等について、非嫡出子の場合、母又は(母が死亡している場合は)生存している後見人若しくは死亡した母から任命された後見人。
かかる場合において必要であると裁判所が判断するときは、裁判所は父の同意を要件とすることができる旨を規定。

本審判:
実父の同意を要件とする必要性について、
断絶型の養子縁組が成立するニュージーランド法において、実父の同意は裁判所が必要と判断するときに限り、要件とされている。
本件において成立する養子縁組が申立人父との間においても非断絶型にとどまる。
⇒実父の同意は不要としている。
ニュージーランド法は、養子縁組命令を発するのにソーシャルワーカー(児童福祉司)の報告書の提出を要する旨を規定。

本審判:
同規定は手続規定⇒本件に適用を要しない。
but
家庭裁判所調査官の調査報告書によりソーシャルワーカーの報告書を代替することも可能。

試験養育を要件とする規定についても、手続規定⇒適用を要しないとも解されるが、その実質から同居期間の要件を定めていると解することもできるとの指摘。
ニュージーランド法は、養子縁組は裁判所のする養子縁組命令により成立。
本審判:この命令は、日本の家庭裁判所のする養子縁組許可の審判をもって代えることができる。
未成年者は申立人母の非嫡出子⇒申立人母については、縁組許可の審判は不要(民法798条ただし書)であり、届出によって縁組を成立させることとなる。
but
夫婦共同縁組を同時に成立させるため、申立人父については、いわゆる分解理論を用いて、養子縁組許可の審判をする必要。

分解理論:
養子縁組命令の裁判を、養子縁組の実質的成立要件に関わるものとして裁判所等公的機関の関与を必要とする部分と、
養子縁組を創設させる部分とに分解した上で、
実質的成立要件の審査部分については家庭裁判所の許可の審判という形で代行させ、
縁組の形式的成立要件については法適用通則法34条2項によって行為地法である日本法の方式(戸籍法上の届出)によることとするもの。
その場合、理論的には、主文は
「申立人父が申立人母とともに未成年者を養子とすることを許可する。」とすれば足りるとされるが、
本審判:「申立人らが未成年者を養子とすることを許可する。」

申立人母からも申立てがあり、夫婦共同縁組の申立ての形を採っている場合に、申立人母からの申立てを認容することも許容されるという解している。

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2022年5月23日 (月)

キャバクラ店の従業員の私的交際違反の違約金が無効とされた事案

大阪地裁R2.10.19

<事案>
キャバクラ店を経営する特例有限会社である原告が、女性従業員である被告に対し、
被告が私的交際をせずこれに違反した場合は原告に対して違約金200万円を支払う旨を、原告・被告間で合意。
but
これに違反して被告が男性従業員と交際
⇒ 雇用契約の債務不履行に基づく違約金100万円(一部請求)の支払を求めるとともに、本件合意及びその後の誓約(前記交際のことを他言しない等)に違反したことが不法行為に当たるとして40万円の損害賠償を請求。

被告:本件合意は労基法16条に違反し(争点①)、かつ公序良俗にも反している(争点②)から無効。

<規定>
労基法 第一六条(賠償予定の禁止)
使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。

<判断・解説>
●争点①
本件合意が、使用者が労働契約の不履行について違約金を定めたり損害賠償額を予定する契約をしたりしてはならないと規定した労基法16条に違反し、無効。

労基法16条は、労働契約の不履行についての違約金等に関する規定
but
本件事案は、キャバクラ店での接客業務それ自体の不履行ではなく、それ以外の私生活に関する合意の不履行とも考えられる。
but
原告が雇用契約を締結する前提として被告を含む全従業員に本件合意を要求⇒原告は被告との雇用契約において、単なる接客でなく、交際相手のいない状態で接客を行うことを労働として求めていた⇒本件合意が労働契約の不履行についての違約金等に関する規定と認定したものと思われる。

なお、キャバクラ店等の風俗営業において、店舗経営者が接客担当者を個人事業者として扱い、雇用契約ではなく請負契約や業務委託契約を締結する形式がとられる場合⇒その実質が「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」(労基法9条)に当たるかどうかの判断が必要。

●争点②
人が交際するかどうかや誰と交際するかはその人の自由に決せられるべき事柄であって、その人の意思が最大限尊重されなければならない
本件合意は、禁止する交際について交際相手以外に限定する文言を置いておらず真摯な交際までも禁止対象に含んでいることや、その私的交際に対して200万円もの高額な違約金を定めている⇒被用者の自由な意思に対する介入が著しい⇒公序良俗に反し無効。

①本件合意について禁止する交際の対象が広範に及んでいることや②違約金が高額であることを理由に公序良俗に反すると認定しており、事例判断にとどまっている。
尚文献。

<解説>
交際禁止をめぐる紛争:
①芸能プロダクションである原告が、専属契約を手家kつして女性アイドルとして芸能活動をしていた被告に対し、被告が男性ファンとの交際を禁止した専属契約に違反したとして、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を請求した事案において、交際禁止条項が有効であると認定して、請求を認容した事例。(東京地裁)
②①と同種の事案で、所属アイドルが異性と性的な関係を持ったことを理由に損害賠償を請求することは、自己決定権そのものである異性との合意に基づく交際を妨げられることのない自由を著しく制約するものであるとして、債務不履行及び不法行為の成立を認めず、請求を棄却した事例。(東京地裁)

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婚姻無効確認請求訴訟(肯定事例)

札幌高裁R3.3.10

<事案>
亡Aと妻の亡Bとの間の子であるXらが、Yに対し、平成30年1月22日に届けられたAとYとの間の婚姻について、Aの婚姻意思がないことを理由に、無効であることの確認を求めた。

<原審>
Yの供述、すなわち、平成29年12月24日に、Aの入居している介護付き老人ホームにおいて、本件施設の看護師であるCの同席の下、AとYとの間で本件婚姻に係る婚姻届を作成したとの供述及びこれに沿うCの陳述書
⇒本件婚姻は、Aの意思に基づくものであるとして、Xらの請求を棄却。

<判断>
①Aは、本件婚姻届けを提出した平成30年1月22日当時、入院生活が前提とされ、婚姻生活を送りうる健康状態ではなかった
②Cは陳述書を作成しているが、平成30年2月に、A、X1、Y、Cの4者での話し合いの席で、Aが「籍は入れていない」旨述べたのに対し、Cは「目の前でやってないから、わからないから。目の前で・・・」と述べ、これに対して、Yは「やりました、病院で」と述べている⇒Cの陳述書の記載内容には信用性に疑問がある。
③Yは、平成29年12月15日以降、Aの死後である平成30年8月15日まで、Aの年金口座から年金を振込当日にほぼ全額引き出していた。
④Yは、Aが危篤状態でICUに入った、翌日に車いすを使用するAが車いすのままでは乗車できない仕様の新車を570万円で注文しているなど不自然な行動。

Yには本件婚姻届を偽造する動機があり、
本件婚姻届にはAの印章によって顕出された印影はあっても、Aの意思に基づいて顕出されたとの推定は覆され、YがAの印章を冒用して押印したものと認めるのが相当

原判決を取り消し、本件婚姻は無効。

<解説>
家裁:Yの主張、供述に沿う本件施設の看護師Cの陳述書に記載された内容を重視
but
Cは平成30年10月に死亡⇒反対尋問に曝されていない。
Cは平成30年2月には陳述書に反する言動。

高裁は、Cの陳述書に依拠して事実を認定することはできないと判断。

婚姻の意思:
その時代の社会観念に従って婚姻とみられる関係を形成しようとする意思
いわゆる実質的意思説が通説、判例とされている。

裁判例:
婚姻無効を認めた事例
無断で提出した婚姻届についてその後追認があったとして婚姻無効を認めなかった事例

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2022年5月21日 (土)

組立保険契約の保険金の対象となる復旧費

福岡高裁宮崎支部R2.7.8

<事案>
太陽光発電事業を営むXが、 工事業者に発注した太陽光発電所設置工事(本件工事)について、Yとの間で組立保険契約(本件保険契約)を締結⇒河川の氾濫により本件工事の材料である太陽電池モジュール(本件太陽光モジュール)等が損傷する事故(本件事故)が発生⇒Yに対し、本件保険契約に基づき、保険金2億2335万9836円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。

<損害>
本件事故により発生した損害:
本件太陽光モジュールの損傷の他、
ブロック積復旧費用等の損害8400万2385円
産業廃棄物63万4520円
問題は、コネクタのみ水没した本件太陽光モジュールの損害を幾らとみるのが相当かという点。

<原判決>
コネクタのみが水没した本件太陽光モジュールに生じた損害についての社会通念上損害発生直前の状態に復旧したということのできる程度の修理とは、「本件出力保証(本件太陽光モジュールの製造元が25年間で80%の出力を保証するもの)を維持することが可能な程度の修理等」であることを要する。
コネクタの交換による修理等を行った場合には本件出力保証が維持されない
⇒本件太陽光モジュールを全部交換する方法によるほかないとして1枚あたり3万3500円を認容。

<判断>
損害の生じた保険の対象を損害発生直前の状態に復旧するために直接要する修理費等(復旧費)について、
本件保険契約を含む組立保険契約は、基本的には、個々の動産についての各種損害保険を集合したもの⇒その損害額の算定に当たっては、動産損害保険における損害額の算定と異ならない。

コネクタのみ水没した本件太陽光モジュールの損害額は、保険の対象物である当該動産を保険事故発生前の正常な状態と物理的、機能的に同一の状態に復旧するための合理的費用をいい、
新品と交換する費用を損害額と認めることはできない。
本件では、電気工事専門業者が水没したコネクタを交換することにより、本件太陽光モジュールを保険事故発生前の正常な状態と物理的、機能的に同一の状態に復旧することができ、その費用は1枚あたり2000円と認めるのが相当。

<解説>
組立保険:
各種の工事を対象として、工事現場における材料等の搬入から工事完成後引渡しまでの過程において、免責事由に該当しない限り、あらゆる不測の事故等により工事物件に生じた損害をてん補することを目的とする保険であり、
工事現場に所在する工事の目的物や材料、工事の遂行に必要な仮設物や什器備品等を保険の対象物とするもの。

本件保険約款第5条では、保険金として支払うべき損害額について、
損害の生じた保険の対象を損害発生直前の状態に復旧するために直接要する修理費等(復旧費)と規定
組立保険の裁判例。

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ベーコンビッツの骨片の残存可能性についての警告表示がないことと製造物責任法の欠陥(否定)

東京高裁R2.1.15

<事案>
Yは、乙からベーコンビッツを仕入れて、それにレタス、トマト等を加えてハイローラーブレッドで巻いたものを輪切りにした惣菜を販売⇒Xが本件商品を購入して食べたところ、本件商品内に残存していた骨片により、歯冠破折の傷害

XはYに対し、
①本件商品に骨片が混入していたこと又は
②本件商品に骨片の残存可能性についての警告表示がなかったことにつき、
製造物責任法2条2項の「欠陥」にあたるなどと主張⇒治療費等の損害賠償を求めた。

<争点>
本件商品に指示・警告状の欠陥が認められるか

<判断>
①本件商品は目視によりベーコンビッツの分量や性状まで認識可能
②本件商品は、全体として比較的柔らかく、そしゃくしやすい食品として認識され、特に強い力で噛み切ろうとしたり嚙み砕こうとしたりすることが一般に想定されないもの
③食肉加工食品一般に骨片が残存する可能性があることは、一般消費者にもある程度知らされている
④比較的柔らかい食品をそれに即した通常の強さでそやくする限りにおいては、被害発生の蓋然性は低い
⑤カリエス(虫歯)等があって歯を傷つけやすい者にあってはそしゃくの強度を調整する自助努力も必要
⑥ベーコンビッツに残存する骨片により歯を傷める可能性があることは、食品の安全性に関する情報の中では、相対的に重要性はそれほど高くない
⑦警告表示を行うべき必要性は、それほど高くなく、その情報を必要とする購入者に対して適切に情報を伝える効果は限定的

本件商品にベーコンビッツの骨片の残存可能性についての警告表示がなかったことをもって、本件商品が通常有すべき安全性を欠いていたということはできない。

<解説>
製造物責任法2条について
「欠陥」当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていること
学説:「欠陥」には、
(1)製造上の欠陥、
(2)設計上の欠陥、
(3)指示・警告状の欠陥
の3類型が存在。
(3)は、使用法や危険性の表示に不備があること・

欠陥の判断基準:
A:消費者の期待を基準とするもの
B:製品の有する危険性と効用を比較衡量するもの
があるが、実務上、いずれかの基準に則っているわけではない。

最高裁H25.4.12(イレッサ薬害訴訟上告審):
医薬用医薬品の添付文書の記載について、
添付文書の記載が適切かどうかは、上記副作用の内容ないし程度(その発現頻度を含む。)当該医療用医薬品の効能又は効果から通常想定される処方者ないし使用者の知識及び能力、当該添付文書における副作用に係る記載の形式ないし体裁等の諸般の事情を総合考慮して判断する。

本判決:
微細な骨片を除去しきれないベーコンビッツの特性に言及するとともに、一般の消費者が当該事実を認識していることを前提として判示。

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2022年5月19日 (木)

都市計画決定から相当期間経過で、事業認可の違法性判断の枠組み基準を示した事案

静岡地裁R2.12.24

<事案>
国土交通大臣から権限の委任を受けた中部地区整備局長及び静岡県知事が、訴外A(JR東海)沼津駅付近の鉄道高架化に関して、平成15年に決定された都市計画の事業計画の変更認可
⇒事業地内又はその周辺において、土地を所有するなどしているXら28名が、Y1(国)及びY2(静岡県)を相手に、本件各変更認可の違法を主張して、
平成20年の各変更認可については無効確認を
令和1年の各変更認可については取消しを求める。

Xら:
Xら全員に原告適格が認められるとした上で、本件各変更認可の違法性について、
①都市計画事業は、事業の内容が都市計画に適合することが認可の要件とされている(都計法61条1号)ところ、本件都市計画決定は、Y2がその裁量を逸脱濫用していたものであるから違法であり、それに基づいてされた本件各変更認可も違法
本件都市計画の変更後に都計法21条1項に基づく都市計画の変更をすべき事情が存したにもかかわらず、これが変更されないままになされた本件各変更認可は違法

<判断>
最高裁H17.12.7(小田急線高架化事件)を参照した上で、
本件高架化事業は、環境影響評価法及び静岡県環境影響評価条例が定める環境影響評価等の対象事業には該当せず、本件高架化事業の規模が大きく、かつ、環境に与える影響の程度が著しいものとなるおそれがあるものとは認められない
事業地の周辺に居住等する者が、本件高架化事業が実施されることにより、騒音、振動等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれがあるとは認められない。

Xらのうち、事業地周辺に居住等するにすぎない者、すなわち、事業地内において現に不動暖を所有するか、又は居住するか、若しくは事業地内の土地について収用裁決を受けた者以外の者の原告適格を否定してその訴えを却下。

争点①:
本件都市計画は、その決定時点において、必要性、合理性が認められ、Y2がその裁量を逸脱濫用したとは認められない。

争点②:
その後の社会・経済情勢の変化のあった本件各変更認可の時点においても、本件都市計画の必要性や合理性が失われたとはいいがたく、本件都市計画を変更すべきことが明白とはいえない⇒本件各変更認可は適法

<解説>
●事業認可の取消訴訟等では、その前提となる都市計画決定の違法性が争点となることが多い。

本判決:
事業認可の違法性を判断するに際して都市計画の違法性を判断する場合の基準時について、都市計画決定時と解する立場。

行政処分の違法性の判断基準時を当該行政処分時と解する通説的な立場に依拠。
but
都市計画の事業認可の取消訴訟においては、往々にして都市計画から事業認可までの時間的間隔が大きく、その間に社会・経済情勢が少なからず変化⇒これを一切考慮することなく事業認可の違法性を判断することに疑義が生ずる場合もある。

裁判例の中には、都市計画決定後の事情の変化が事業認可の違法性に影響を及ぼす余地を残すものが散見

●本判決:
争点②の判示部分で、
都市計画決定後に相当の長期間を経過し、当該都市計画の基礎とされた社会・経済情勢に著しい変化があったこと等により、当該都市計画の必要性や合理性がおよそ失われ、都計法21条1項に基づき当該都市計画を変更すべきことが明白であるといえる事情が存するにもかかわらず、これが変更されないまま事業認可申請に至ったものであることが一見して明らかであるなどの特段の事情がある場合に限り、事業認可が違法となる旨判示。

都計法21条1項が、都市計画の決定権者たる都道府県又は市町村は、都計法6条1項又は2項により都道府県がおおむね5年ごとに行うこととされている都市計画に関する基礎調査あるいは都計法13条1項20号に規定される政府が法律に基づき行う調査の結果、都市計画を変更する必要が明らかとなる等の事情が生じたときは、遅滞なく、当該都市計画を変更しなければならない旨規定。
都市計画後の事情により、事業認可が違法となる余地を認めた。

本判決:
①都計法21条1項の文言が「調査の結果都市計画を変更する必要が明らかとなったとき」となっており、都市計画を経納する必要の明白性を要求
②事業認可の認可権者は、事業の内容が都市計画に適合していることを審査すれば足りるのであって(都計法61条1号)、それを超えて都市計画の内容を審査することまでは想定されておらず、かえって都市計画の具体的な内容にわたって審査を行うことは、都市計画の決定権者たる地方公共団体への不当な干渉となってしまう場合がある。

都市計画を変更すべき事情が外部からも一見して認識できる程度のものである必要がある。
都計法21条1項の趣旨に照らして違法として取消しを認めることは、実質的に都市計画決定権者に対して同項に基づく都市計画の変更を迫ることになる
その違法となる場合の要件は、行訴法37条の2に規定される非申請型義務付け訴訟の訴訟要件及び本案勝訴要件に準ずる程度の要件を要求すべきと解される(たとえば、当該都市計画に基づく事業が実施された場合に原告に重大な損害を生じ、その損害を避けるために都市計画の変更をする以外に適当な方法がないという事情は、都市計画を変更すべきといえる一事情になろう。)。

判例時報2511

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2022年5月18日 (水)

映画製作会社に対して助成金を交付しない旨の決定が違法として取り消された事例

東京地裁R3.6.21

<事案>
映画製作会社のXが、その製作映画(本件映画)について、独立行政法人日本芸術文化振興会理事長(「理事長」)による内定を経て、文化芸術振興費補助金に係る助成金の交付申請⇒理事長から、本件映画には麻薬取締法違反により有罪が確定した者が出演しており、これに対して助成金を交付することは、公益性の観点から適当ではない⇒本件助成金を交付しない旨の決定(本件処分)⇒Y(日本芸術文化振興会)を相手に、本件処分の取消しを求めた。

<争点>
本件処分の適法性(=理事長が本件内定を受けたXに本件助成金を交付しないこととした本件処分につき、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法が認められるか)

<判断>
理事長の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用の有無を判断するに当たっては、交付内容の取消し又は不交付決定の根拠とされた公益の内容、当該芸術団体等に対して助成金を交付することにより当該公益が害される態様・程度、交付内定の取消し又は不交付決定により当該芸術団体等に生じる不利益の内容・程度等の諸事情を総合的に考慮して、交付内容の審査における芸術的観点からの専門的知見に基づく判断を尊重する文化芸術振興費補助金による助成金交付要綱(本件要綱)の定めや仕組みを踏まえてもなお助成金を交付しないことを相当とする合理的理由があるか否かを検討すべきであるところ、
本件処分は、
①本件映画につき、芸術的観点からの専門的知見に基づく審査の結果を踏まえて本件内定がされていたこと、
②本件助成金の交付によって本件俳優が利得を得るものではなく、本件処分の根拠とされた薬物乱用の防止という公益との関係で、違法薬物に対する許容的な態度が一般に広まるおそれがあるとはえいないこと、
③本件処分によりXに生じる不利益は、映画製作事業の実施に係る経済的な面においても、また、映画表現の重要な要素の選択に関する自主性の確保の面においても小さいものとはいえないことなど

交付内容の審査における芸術的観点からの専門的知見に基づく判断を尊重する本件要綱の定めや仕組みを踏まえてもなお本件助成金を交付しないことを相当とする合理的理由があるということはできない⇒理事長の裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものと認められる。

<規定>
第三〇条(裁量処分の取消し)
行政庁の裁量処分については、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつた場合に限り、裁判所は、その処分を取り消すことができる

<解説>
●本件処分の適法性判断
本件処分は、理事長に裁量権の範囲の逸脱またはその濫用があった場合に限り違法となる(行訴法30条)。
関係法令のみならず、理事長が定めた本件要綱及び審査基準においても、出演者の犯罪行為あるいは公益性は不支給要件として定められていない。

判例:
行政庁がその裁量に任された事項について裁量権行使の準則を定め、処分がこの準則に違背して行われたとしても、原則として当不当の問題を生ずるにとどまり、当然に違法となるものではない(最高裁昭和53.10.4:マクリーン事件)。
処分基準が定められている場合については、訴えの利益の有無に関する判示の中ではあるが、当該処分基準の定めと異なる取扱いをすることを相当と認めるべき特段の事情がない限り、そのような取扱いは裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たるとするものがある(最高裁H27.3.3)。
学説:裁量権の公正な行使の確保、平等取扱いの原則、相手方の信頼保護といった要請からすると、準則と異なった判断をするには、そのための合理的理由が必要(塩野)。

●Xは、本件処分に先立って、理事長から本件内定を受けている
地方公務員の採用内定取消しについて、当該事例においての判断であるが、採用内定及びその通知は法令上の根拠に基づくものではなく、採用発令の手続を支障なく行うための準備行為⇒抗告訴訟の対象となる処分に当たらない(最高裁昭和57.5.27)。

本件内定:法令ではなく本件要綱によって定められている⇒本件内定を得たこと自体の効果から直ちに理事長の裁量権が制限されるといった議論にはならない。

●本件:芸術作品に関係した者が犯罪行為をした場合への公的助成のあり方という問題に関し、
行政庁による最終判断の前段階で専門家による審査を通過していたが、行政庁が全く別の視点から専門家による審査結果と異なる判断をしたという事例について、
裁判所が法令の趣旨及びそれを反映した要綱に基づく判断構造等に着目して個別具体的な事情を踏まえて判断したもの。

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2022年5月17日 (火)

危険運転致死傷罪の制御困難高速度走行の判断要素の「道路の状況」

名古屋高裁R3.2.12

<事案> 主位的訴因である危険運転致死傷罪に関し、被告人の行為が、自動車死傷法2条2号の「その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為」に該当するか、すなわち
①被告人の走行が進行制御困難高速度走行に該当するか
②被告人に故意が認められるか
が争われた。

<原審>
●争点①
進行制御困難性の判断要素として実務上指摘されている「道路の状況」には、道路の物理的な形状だけでなく、駐車車両や他の走行車両等も、それにより客観的に道路の幅が狭められているなどの状況がある以上は含まれる。
本件では、被害車両を含む他の走行車両の存在により被告人車両が進行できる幅やルートが相当限定されており、そのような進路を時速約146キロメートルもの高速度で進行させることは極めて困難
⇒被告人の行為が進行制御困難高速度走行に該当。

●争点②
but
自動車死傷法2条2号の故意が認められるためには、物理的な意味での進行制御困難性が生ずる状況の認識・予見が必要
被告人に故意があったと認定するには合理的な疑いが残る。

危険運転致死傷罪の成立を否定し、予備的訴因である過失運転致死傷罪の成立を認めた。

<判断>
●争点①について:
①立法者意思の探索結果:
法制審議会刑事法(自動車運転による死傷事犯関係)部会における立法担当者の説明及び議論情況等⇒立法担当者側は「道路の状況」という要素の中に歩行者や走行車両は含まれないとの考えに立つと理解するのが自然
②罪刑法定主義の要請である明確性の原則の堅持:
事前予測が困難な不確定かつ流動的な要素を抱える他の走行車両の存在を進行制御困難性の判断要素に含めるのは、類型的、客観的であるべき進行制御困難性判断にそぐわず、明確性の原則からみても不相当
③危険運転致死傷罪の創設趣旨との整合性:
悪質・危険な類型に限定されているとみるべき危険運転行為を、解釈によって拡大することは自動車死傷法の創設趣旨に不適合

進行制御困難性の判断要素の1つである「道路の状況」という要素に、他の走行車両は含まれないと解すべき。

●争点②について:
原判決の説示に同意

●本件:
①時速約146キロメートルの高速度で走行していた被告人は、被害車両を発見した時点で、その車間距離から接触回避が困難な状況であった
②被告人の予想とは異なり、被害車両が車線変更せず第2車線にとどまっていたこともあいまって、同車線上で衝突
被告人の行為が、進行制御困難高速度走行に該当するとはいい難い。

<解説>
●進行制御困難高速度走行該当性(「道路の状況」)の判断
進行制御困難高速度走行とは、
速度が速すぎるため、道路の状況に応じて進行することが困難な状態で自車を走行させること」を意味し、
「具体的には、例えば、カーブを曲がりきれないような高速度で自車を走行させるなど、そのような速度での走行を続ければ、車両の構造・性能等客観的事実に照らし、あるいは、ハンドルやブレーキの操作のわずかなミスによって自車を進行から逸脱させて事故を発生させることとなると認められる速度での走行」をいい、
「そのような速度であるか否かの判断は、基本的には具体的な道路の状況、すなわちカーブや道幅等の状態にてらしてなされる」ものとされている。

進行制御困難高速度運転と過失運転の境界は曖昧
⇒速度超過による死傷事故が過度に本罪に取り込まれる可能性を内在
危険運転致死傷罪の創設趣旨等に立ち返って適正な処罰の範囲を明らかにする必要。

判例時報2510

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