判例

2017年12月 7日 (木)

楽曲の無断配信と、権利者からの許諾の有無を確認すべき条理上の注意義務・損害認定

知財高裁H28.11.2      
 
<事案>
X:本件原盤についてのレコード製作者の著作隣接権(複製権、貸与権、譲渡権及び送信可能化権)及び本件楽曲についての実演家の著作隣接権(送信可能化権)を有する。 
Y:Xから委託を受けたとするZとの再委託契約に基づき、本件原盤から複製された本件CDのレンタル事業者への販売及び本件楽曲の配信を行ったが、実際にはZは許諾を得ていなかった

Xが、Yに対し、以下の理由により、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求権及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。
①本件原盤から複製された本件CDのレンタル事業者への販売及び本件楽曲の配信により、Xが有する本件原盤についてのレコード製作者の著作隣接権(複製権、貸与権、譲渡権及び送信可能化権)及び本件楽曲についての実演家の著作隣接権(送信可能化権)を侵害したことを理由とする損害賠償金(著作権法114条2項)
②本件CDを廃盤にして、Xの本件原盤、ジャケットを含む本件CD及びポスター等の所有権を侵害したことを理由とする損害賠償金
③前記①②に関する弁護士相談料に係る損害賠償金
 
<規定>
著作権法 第114条の5(相当な損害額の認定)
著作権、出版権又は著作隣接権の侵害に係る訴訟において、損害が生じたことが認められる場合において、損害額を立証するために必要な事実を立証することが当該事実の性質上極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる
 
<判断>
Yの控訴を棄却するとともに、Xの附帯控訴に基づき原判決が認定した損害額を増額変更し、Xのその余の請求をいずれも棄却。 

本件再委託契約に際してZが作成した本件企画書の記載から、Yは、本件再委託契約を締結した頃、Zが本件原盤について著作権及び著作隣接権を有しないことを認識していた
②Yによる本件CDのレンタル事業者への販売及び本件楽曲の配信は、いずれも著作権者又は著作隣接権者の許諾がない限り著作権又は著作隣接権を侵害する行為
Yは、国内最大手の衛星一般放送事業者であるのに対し、Zは、資本金400万円の比較的小規模な会社であり、本件再委託契約締結当時、YとZとの取引実績はまだそれほど蓄積されていなかった
④Yは、本件原盤に関し、本件企画書に原盤会社として明記されているXとZとの利用許諾関係を確認することができ、同確認をすれば、本件のCDのレンタル事業者への販売及び本件楽曲の配信についてのXの許諾がないkとを明確に認識し、以後、前記販売及び配信をしないことによって、Xが有する著作隣接権の侵害を回避することができた

Yは、本件CDのレンタル事業者への販売及び本件楽曲の配信に当たり、Xの許諾の有無を確認すべき条理上の注意義務を負う
but
Yは、本件CDのレンタル事業者への販売及び本件楽曲の配信に当たってXの許諾の有無を確認しておらず、前記条理上の注意義務に違反して、Zが本件岩盤を複製して制作した本件CDをレンタル事業者に販売し、また、インターネット配信事業者を通じて本件楽曲を配信。

Yは、Xの許諾なく前記複製、販売及び配信を行ったことにつき、少なくとも過失がある

Yは、Zらと共に、Xのレコード製作者としての複製権、譲渡権、貸与権及び送信可能化件並びに実演家としての送信可能化権を侵害し、共同不法行為責任を負う

配信1回当たり控訴人が受領した金額の平均はおおむね146円であり、著作権法114条の5により、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、事実審の口頭弁論終結日までの本件楽曲の無断配信の回数は400回と認められる
⇒本件楽曲の無断配信に係る損害は、両者を乗じた5万8400円になる。
 
<解説>
著作隣接権が侵害された場合、著作権者等は、損害賠償を請求することができるが(民法709条)、損害賠償請求の要件として、故意又は過失が必要。

過失の推定規定を有する特許法等とは異なり(特許法103条)、著作権法には、そのような規定がない
⇒侵害者の故意又は過失を主張立証する必要がある。 

本判決は、許諾の有無を確認しなかったという不作為についての注意義務違反を認めたが、不作為が不法行為を構成するには、その前提としての作為義務の存在が不可欠

作為義務の根拠としては、法令の規定、契約のほか、条理が挙げられ、条理に基づく不作為による過失責任を認めた判例:

最高裁H13.3.2:
カラオケ装置のリース業者に、リース契約の相手方が著作権者との間で著作物使用許諾契約を締結し又は申込みをしたことを確認した上でカラオケ装置を引き渡すべき条理上注意義務を負う。
本判決は、同最高裁判決が示した5つの要素(①カラオケ装置の危険性、②被害法益の重大性、③リース業者の社会的地位、④予見可能性、⑤結果回避可能性)等を総合的に考慮して、条理上の義務違反を肯定。

判例時報2346

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2017年12月 5日 (火)

介護施設利用者の転倒による頭部負傷事故と事業者の損害賠償責任(肯定)

大阪地裁H29.2.2      
 
<事案>
Aは、Y施設で、介護事業を利用⇒深夜にトイレに行こうとして転倒して頭部を負傷し、急性硬膜下血腫を発症、その後、それを原因として呼吸不全により死亡。 
Aの相続人であるXらは、前記事故は、Aが以前に転倒したことがったにもかかわらず、Y施設の職員が転倒防止措置を実施せず、Aに対する安全配慮義務を怠った過失により発生⇒Yに対し、債務不履行又は使用者責任に基づき損害賠償を請求。
 
<争点>
①Y施設の職員は、Aが再三の注意を守らずに1人でトイレに行こうとすることを予見することができたか
②Yは、Aの転倒を防止する措置として離床センサーを設置することを義務付けられていたか 
 
<判断>   
Yは、Y施設の利用契約に基づき、Aに対し、その生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)がある
 
●予見可能性について 
①Aは、パーキンソン症候群等の影響で、歩行の際はふらつきによる転倒の危険が高い状態にあった
②Aは、本件事故のわずか19日前にも本件施設において1人でトイレに行こうとして転倒する事故を起こしていた
③Aは本件施設の利用当初から1人でトイレに行こうとしており、Y施設の職員からはナースコールで職員を呼ぶように注意をされていたにもかかわらず、それを聞き入れることなく、1人でトイレに行っていた

Yの施設の職員は、Aに対して注意をしていたとしても、Aがそれに従うことなく1人でトイレに行こうとすること、その際に転倒する危険が高いことを予見することができた
 
●結果回避義務について 
①Yが高齢者向けの介護事業を営む事業者
②既にY施設で離床センサーを導入済みであった
③転倒防止の予防のために離床センサーを設置することについての当時の知見

Yは、本件事故の当時、自らナースコールを押そうとしない利用者に対して離床センサーを設置することが転倒予防に効果があることについて知見を有することを期待することが相当。

①Aは自らナースコールを押そうとしない利用者であり、離床センサーの設置が転倒予防のために望ましい者
②Y施設で離床センサーは利用されていない状態であってその設置に特段のコストは必要なく、Y施設の職員は離床センサーを設置すればAが1人でトイレに行こうとすることを察知し、転倒しないように見守り等を行うことができた

離床センサーを設置することが義務付けられていた。

●介護施設には人的物的体制に限界があるとしても、Aには転倒歴がある等の転倒の危険が高い者であったのに、特段の再発防止策を講じることなく、聞き入れてもらえないことが分かっている注意を繰り返していただけで、安全配慮義務を尽くしていたと評価することはできない

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2017年12月 4日 (月)

遺留分減殺請求と代襲相続人の特別受益

福岡高裁H29.5.18      
 
<事案>
被相続人A(平成23年7月死亡)の二女であるXが、B(Aの長女。平成16年2月死亡)及びY1(Bの長男・代襲相続人)に対するAの贈与によって、Xの遺留分が侵害されている⇒Y1及びY2(Bの二男・代襲相続人)に対して遺留分減殺を求めた。 

Aが、
①Bの生前である平成元年12月、Bに対して土地13筆(本件土地1)を、
②平成3年5月、B及びY1に対して土地2筆(本件土地2)の各共有持分2分の1を、
③Bの死亡後である平成16年4月にY1に対して土地3筆(本件土地3)をそれぞれ贈与。
(Bの遺産分割では、Y1がBの遺産の全てを取得し、Y2は代償金のみを取得)

XがY1及びY2に対して遺留分減殺を求めた。
 
<争点>
①被代襲者(B)が生前に被相続人(A)から受けた特別受益が、代襲相続人(Y1、Y2)の特別受益に当たるか?
②推定相続人でない者(Y1)が被相続人(A)から贈与を受けた後に、被代襲者(B)の死亡によって代襲相続人として地位を取得した場合に、当該代襲相続人(Y1)の特別受益に当たるか? 
 
<判断>
●争点①について:
被代襲者についての特別利益は、その後に被代襲者が死亡したことによって代襲相続人となったY1及びY2との関係で特別受益に当たる

特別受益の持戻しや代襲相続は相続人間の公平を図る制度であって、代襲相続人に被代襲者が生存していれば受けることができなかった利益を与える必要はない
②被代襲者に特別利益があればその子等である代襲相続人も利益を享受しているのが通常

●争点②について
相続人でない者が、被相続人から贈与を受けた後に、被代襲者の死亡によって代襲相続人としての地位を取得したとしても、前記贈与が実質的には相続人に対する遺産の前渡しに当たるなどの特段の事情がない限り、特別受益には当たらない

他の共同相続人に被代襲者が生存していれば受けることができなかった利益を与える必要はない
②被相続人が他の共同相続人の子らにも同様の贈与を行っていた場合の不均衡
but
本件では、相続人であるBへの遺産の前渡しとして自宅の敷地である本件土地2を贈与するにあたって、その持分2分の1をBの子のY1名義にしたものにすぎず、実質的にはBへの遺産の前渡しとも評価しうる特段の事情がある

前記贈与はY1の特別受益に当たる

●最後に贈与された本件土地3から遺留分減殺をすべきところ、
Y1が価額弁償を申し出て、XもY1に対して価額弁償金を請求
⇒原判決を取り消し、Y1にXに対する価額弁償金の支払いを命じた。 
 
<解説>
被代襲者が生前に受けた特別受益が、被代襲者の死亡後に代襲相続人となった者の特別受益に当たるか?
A:積極説(通説)
特別受益制度では共同相続人間の公平を重視すべきところ、代襲相続人は被代襲者と実質上同一の地位にあり、被代襲者の特別受益があれば、その直系卑属である代襲相続人も実質的に利益を受けていると考えられる。 

相続人でなかった者が被相続人から贈与を受けた後に、被代襲者の死亡によって代襲相続人としての地位を取得した場合に特別受益に当たるか?

A:消極説(通説)

推定相続人の資格を持たなかった代襲相続人に対する贈与は、相続分の前渡しとはいえない
②他の共同相続人に代襲がいなかった場合以上の利益を与える必要はない

B:積極説も有力
受益者は相続開始時に共同相続人であれば足り、受益の時期にかかわらず持ち戻しの対象とすべき

特別受益は共同相続人間の公平の維持が目的

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2017年12月 1日 (金)

ゴルフ会員権の売買契約について共通の錯誤に陥った事案

大阪高裁H29.4.27      
 
<事案>
Xは、平成27年2月3日、Yから本件各会員権を購入する売買契約を締結。
その後の同年4月23日、Yが作成した退会届をαの運営会社に提出して、本件a会員権の退会手続き⇒同年6月1日、前記運営会社から、Y名義の預金口座に、本件α会員権の預託金6000万円が振り込まれた。
⇒Xは、Yに対し、不当利得返還請求権に基づき、預託金6000万円から未払い会費15万5520円を控除した5984万4480円の支払を求めた。

<Yの主張>
本件各会員権の売買価値について、XとYとが共通して錯誤に陥っていた
⇒Yぬい錯誤の重過失があったとしても、本件各会員権の売買契約の無効を主張できる。 
 
<判断>
共通錯誤の場合には、取引の安全を図る必要はなく、表意者のYの保護を優先してよい⇒民法95条ただし書は適用されず、表意者に重大な過失があっても、錯誤無効を主張することができる。
Xも、本件各会員権ば売買的価値が6000万円以上であるのに、これが430万円を著しく超える価値を有するものではないと認識しており、Yと共通の錯誤に陥っていたと認めるのが相当。

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2017年11月30日 (木)

妊婦の死亡⇒医療過誤で過失・因果関係肯定事例

東京高裁H28.5.26      
 
<事案>
帝王切開で胎児を出産する手術⇒出産(死産)後ショック状態に陥り、分娩から約4時間後に死亡⇒Aの夫X1と母X2は、手術を担当した医師らは、常位胎盤想起剥離発生時における産科DIC防止に関する過失、産科DIC及びショックに対する治療に関する過失、出血量チェック及び輸血に関する過失、弛緩出血への対応に対する過失、転送義務違反があり、Aはこれらの過失によって死亡⇒
Y1に対して選択的に診療契約上の債務不履行又は不法行為(使用者責任)に基づき、また担当医師であったY医師らに対して不法行為に基づき損害賠償を請求。
 
<一審>
Y医師らは、Aが常位胎盤想起剥離を発症したことを把握しながら、その後進展する可能性のある産科DICに対する治療の準備が遅れた結果、十分な抗ショック療法及び抗DIC療法を行うことができなかった過失がある。
but
Aは羊水塞栓症を発症し、子宮を主体とするアナフィラキー様のショックにより、血管攣縮、血管透過亢進及び浮腫を生じて、その後産科DICも併発したことにより死亡。
保険手術当時、このような症状に対する有効な治療法は確立されておらず、かつ、Y病院においてはICUによる集学的管理・治療も行うことができなかった。

仮に、Y医師らが適切に抗ショック療法や抗DIC療法を実施していたとしても救命でいたとは認められない。

Y医師らの過失とAの死亡との間には相当因果関係が認められないとして、請求棄却
。 
 
<判断>
Y病院におけるAの診療経過、医学的知見などについて詳細に認定⇒Aについては、出血性疾患である常位胎盤早期剥離を発症し、その後に重篤な産科DICを発症して死亡。 
常位胎盤早期剥離の中でも胎児死亡例は極めて産科DICを伴いやすく、産科DICは重篤化すると非可逆性になり生命が危険となる

産科DICスコアを用いた母体の状態把握を行い、産科DICを認める場合には可及的速やかにDIC治療を開始すべきであった。
but
Y医師らは産科DICスコアのカウントを全く行わず、産科DICの確定診断に向けた血液検査等も実施しなかった。

産科DIC防止に関する注意義務に違反。

手術中の出血量の把握についても十分に行わず、
少なくともショックインデックスを用いた出血量の把握を行うべきであったとにそれを行わず、
適時適切に輸血を実施しなかった注意義務違反もある。
症例報告や医学的知見
Aの死亡とY医師らの注意義務違反とAの死亡の結果との間には相当因果関係が認められる。
 
<解説>
周産期における妊婦の突然死事例に関しては医療機関側から救命不可能な羊水塞栓症であった旨のの主張がされることがしばしば見られ、実務的にも過失や因果関係に関し困難な立証が必要となる。 
本件においては、患者側から国内外における症例報告や医学論文をもとに産科DICの症例や救命可能性について相当充実した立証活動が行われたことがうかがわれる。

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2017年11月29日 (水)

語学学校の外国人講師と厚生年金保険の被保険者の資格

東京地裁H28.6.17      
 
<事案>
語学学校を運営するA社との間で雇用契約を締結し、英語講師として就労していたX(カナダ国籍)が、平成21年11月9日、港社会保険事務所長に対し、厚生年金保険の被保険者の資格の取得の確認請求⇒同年12月4日付けで、却下する旨の処分⇒本件却下処分の取消しを求めて訴えを提起。

港社会保険事務所は同月31日に廃止され、本件却下処分は厚生労働大臣等がした処分とみなされ、同処分に係る権限の受任者はY(日本年金機構)となった。

Xは、平成18年8月1日に厚生年金保険の被保険者の資格を取得したが、
Aは、平成21年8月1日付けでXについて被保険者の資格喪失の届出をし、港社会保険事務所長は、同年9月3日付けで、Aに対し、Xについて同年8月1日付けで被保険者の資格喪失が確認された旨の通知。

Aから同通知内容を知らされたXは、本件確認請求⇒請求に係る事実がないものと認めたとして本件却下処分(なお、Xについては、その後平成22年12月1日付けで、被保険者資格の取得が確認された。)。
 
<争点>
被保険者資格の喪失が確認された平成21年8月においてXが厚生年金保険の被保険者であったと認められるか否か。 
 
<判断>
厚年法が、標準報酬月額を基礎として年金額や保険料を算定する制度を採用し、標準報酬月額の最低額が9万8000円とされていること
報酬月額算定に当たり報酬支払の基礎となる日数が17日未満の月の報酬を除外するものとしていること等

同法は、労働力の対価として得た賃金を生計の基礎として生計を支えるといい得る程度の労働時間を有する労働者を被保険者とすることを想定
そのような労働者といえない短時間の労働者は、同法9条にいう「適用事業所に使用される70歳未満の者」に含まれないものと解するのが相当。 

短時間の労働者を判断する具体的な基準についての法令の定めがない
⇒被保険者とされるかどうかについては、前記の趣旨に照らして、個々の事例ごとに、労働日数、労働時間、就労形態、職務内容等を総合的に勘案して判断すべき

Xの具体的な労働日数、労働時間、就労形態、職務内容等
⇒同年7月までの間において被保険者の資格を喪失するには至らなかったじことになるとともに、同年8月において被保険者の資格を取得することができたと認定。

その他、
①Xの労働日数は常勤講師のものと変わりがなかったこと、
②報酬の額も前記標準報酬月額の最低額を大きく上回っており、十分に生計を支えることができる額であったこと
③事業主との雇用関係も安定していると評価することができること

Xは、本来、同月の前後を通じて被保険者の資格を有していたとみるべきであって、本件確認請求の趣旨に沿って検討した場合には、同月1日付けで被保険者の資格を喪失したものとされ、その旨の確認がされているものの、同日において被保険者の資格を再取得したものと認めることができる

Xは、同日において「適用事業所に使用される70歳未満の者」に該当するというべきであり、これを否定した本件却下処分は違法なものであるとして、Xの請求を認容
 
<解説>
厚年法9条は、「適用事業所に使用される70歳未満の者」は被保険者とする旨を定め、
例外として、同法12条(平成24年改正前のもの)は、臨時に使用される者であって日々雇い入れられる者等同条各号のいずれかに該当する者は被保険者としない旨を定めている。
同条各号のほかには適用事業所に使用される者について被保険者に該当しない旨を具体的に定めた明文規定はない。

本件は、厚生年金保険の被保険者資格の判断に当たり、厚年法の趣旨より、明文の適用除外事由に該当しない場合でも、いわゆる短時間の労働者は被保険者とはならないとの解釈を基本としつつ、
当時の短時間就労者(いわゆるパートタイマー)に係る被保険者資格の取扱いに関する、昭和55年6月6日付け厚生省保険局保健課長等による都道府県民生主管部(局)保険課(部)長宛ての文書(「内かん」)や平成17年5月19日付け社会保険庁運営部医療保険課長による地方社会保険事務局長宛ての文書(「語学学校に雇用される外国人講師に係る健康保険・厚生年金保険の適用について」)に示されている内容も踏まえつつ、
Xの労働時間のほか、労働日数、就労形態、職務内容等を個別かつ総合的に勘案して、
本件のXについては短時間の労働者ではなく厚生年金保険の被保険者の資格があるとした事例


平成24年8月10日成立の「公的年金制度の財務基盤及び最低保障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律」により、従前の厚生年金保険法12条各号の適用除外対象者に加え、一定の短時間の労働時間を有するにすぎない者(短時間労働者)を適用除外対象者として具体的に定める規定が設けられた。

判例時報2346

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2017年11月28日 (火)

強盗致傷等被告事件について執行猶予とした裁判員裁判の判断が破棄された事例

東京高裁H28.6.30      
 
<事案>
被告人A・B両名が共謀して、深夜の住宅街の路上において、連続的に、通行中の3名の中年男性を襲った強盗致傷、強盗の事案(裁判員裁判) 
 
<一審>
①被害金額が多額で、致傷結果も重く、安易な動機、経緯で短期間に各犯行を累行⇒実刑に処することは十分あり得る。
②検察官主張の計画性は、この種犯行で通常行われるもので、特に非難されるべきものと評価できない。
③第3事件の被害者の傷害(骨折)は揉み合いの中で生じたもので、暴行は全体としてみると執拗又は強度なものであったと認めるに足りる証拠はない。
⇒本件が執行猶予を付することがあり得ない事件と断ずることはできない。

①全事件について示談が成立し、特に第3事件の被害者には合計100万円の示談金が支払われ、同人から宥恕の意思が示されている
②被告人両名が逮捕後自ら犯行を告白するなどして反省を深めている
③被告人両名には近親者等の監督者がいる
④被告人Aには懲役前科がなく、被告人Bには前科前歴がない

実刑しかあり得ないとは認められず、むしろ公的機関による指揮監督に服させた上で社会内で更生する機会を与えるのが相当。

被告人両名に対し、いずれも懲役3年、5年間保護観察付き執行猶予。
(検察官の求刑は、被告人Aについて懲役9年、被告人Bについて懲役8年)
 
<判断>
●原判決の量刑判断は是認できない。
 
●量刑の在り方 
行為責任の原則に従って、まず犯情の評価を基に当該犯罪にふさわしい刑の大枠を設定し、その枠内で一般情状を考慮して最終的な刑を決定すべきことは裁判員裁判でも同様であるが、
行為責任の原則に基づく量刑の大枠を定めるに当たっては、犯罪類型ごとに集積された量刑傾向を目安とすることが、量刑判断の公平性とプロセスの適正を担保する上で重要
 
●本件強盗致傷等事案についての犯情及び量刑傾向等 
本件事案の犯情の重さや量刑傾向を踏まえた量刑の大枠について検討。
強盗致傷の中の犯罪類型として見た場合、
2人がかりで暴行を加えるという方法で立て続けに3件の路上強盗を敢行し、2人に傷害を負わせたもの⇒そもそも全体の中で軽い部類に属するとは評価できず、行為態様、動機経緯、法益侵害の各点を総合しても、本件の犯情は、前記の犯罪類型の中でも中程度の部類に属する。
本件のような共犯による連続的な強盗致傷の類型のおおまかな傾向については、中心的な量刑は懲役4年6月以上懲役8年以下の範囲に収まっており、それがほぼ本件の量刑の大枠に相当。
 
●原判決の犯情評価等
そもそも強盗致傷の事件で刑の執行を猶予するという判断は、
当該事案が犯罪類型として極めて軽い部類に属すると判断することにほかならず
、特に、事後強盗を除く強盗致傷を複数犯した事案の量刑傾向を前提にすると、執行猶予の判断に至るのは例外的な事案に限られる

原判決が指摘する被告人らのために酌むべき一般事情を考慮しても、刑の執行を猶予した原判決は、これまでの量刑傾向の大枠から外れる量刑判断を行ったものと言わざるを得ない。
 
●量刑傾向を変容させる場合の量刑判断の在り方 
最高裁H26.7.24(平成26年最判)を引用しつつ、
これまでの量刑傾向を変容させる意図をもって行う量刑判断が公平性の観点から是認できるものであるためには、
従来の量刑傾向を前提とすべきでない事情の存在について裁判体の判断が具体的、説得的に判示される必要がある。

原判決がそのような意図をもって本件量刑を判断したとしても、その理由は何ら説明されていない。
⇒原判決の量刑を是認することはできない。


量刑不当を理由に原判決を破棄した上で、
被告人両名を実刑に処した(Aを懲役6年6月、被告人Bを懲役6年)

 
<解説>
平成26年最判:
夫婦である被告人らが共謀の上、1歳8か月の幼児の頭部を平手で1回強打して床に打ち付けて死亡させたという傷害致死の事案において、第1審判決が、これまでの量刑傾向から踏み出し、公益の代表者である検察官の懲役10年の求刑を大幅に超える懲役15年という量刑をすることについて、裁判体として具体的説得的な根拠を示しているとはいい難い⇒その量刑を是認した原判決について、量刑不当により破棄を免れない

責任は、単に刑罰を消極的に限定する(刑の上限を画する)だけでなく、刑罰を科する基礎としての役割を果たす(刑の下限を画する)こととなる
責任より重い刑はもちろん、軽い刑を言い渡すことも許されないとの見解が裁判実務上は有力。

執行猶予期間中に同種再犯に及んだ覚せい剤使用事案について執行猶予を付した原判決について、同種事案に関する量刑傾向に照らし、行為責任から大きく逸脱した不当に軽い量刑をしたもの⇒これを破棄し実刑に処した事例(大阪高裁H27.7.2)。

判例時報2345

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2017年11月27日 (月)

ネットモール事業者が検索連動型広告にハイパーリンクを施して広告を掲載する行為と商標法違反・不正競争防止法違反(否定)

大阪高裁H29.4.20      
 
<事案> 
出店者が各ウェブページを公開し商品を売買する形態のインターネット上のショッピングモールを運営するYが、インターネット上の検索エンジンに表示される検索連動広告に、「石けん百貨」等の標章とYのサイトへのハイパーリンクを施す方法による広告を表示した行為が、X各商標権の侵害にあたり、また不正競争法2条1項1号の不正競争にあたるとして、X各商標の商標権者であるXが、損害賠償を請求した事案。 
 
Yは、少なくとも平成24年8月から平成26年9月12日までの間、
「石けん百科」「石鹸百貨」をキーワードとして、検索連動型広告に、「石けん 百貨大特集」などの見出しのもとに広告(以下、これらの広告を「本件広告」、標章表示を「本件表示」)を掲載。

本件広告のなかにYのショッピングモールのURLがハイパーリンクとして表示され、クリックすると、Yのサイト内での「石けん百貨」等をキーワードとする検索結果表示画面(「Y検索結果が面」)に移動。
本件広告から移動したY検索結果画面には、少なくとも平成26年6月頃には、出店者である訴外Aが販売する複数の石けん商品が陳列表示。
 
<争点>
①YによるX各商標権侵害の有無
②Yによる不正競争行為の成否 
 
<判断> 
●争点①について
◎ 本件表示を「石けん」等と「百貨」等との間に半角スペースがない場合と、ある場合に区分(それぞれ、「スペースなし表示」「スペースあり表示」)。

◎  Yの行為につき、Y検索結果画面に表示される内容は、Yが制作に関与していない加盟店の出店頁の記述により専ら決せられる
⇒検索連動型広告に「石けん百貨」という具体的な表示が表示され、かつ、そのリンク先のY検索結果画面に石けん商品が陳列表示されたことは、直ちにYの意思に基づくこととはいえないYの行為は商標法2条3項8号の要件を欠き、X商標権を侵害しない

①Yが「商標権の侵害又はその助長を意図して構築したものであるとも、客観的に見て専ら商標権侵害を惹起するものであるとも認めることができない」
②規約で知的財産権侵害を、ガイドラインで隠れ文字の使用を禁止していることなどを指摘⇒本件標章が付されたことを自己の行為として認容していたとは言えない。
③一定のキーワードの取得を制限する管理の必要性につき、そのために必要な出店のページの事前調査は加盟店や取扱商品の膨大さから著しく困難。
④隠れ文字使用の設定ができないシステムが通常の仕様として普及しているとの事情がないこと、加盟店や取扱い商品等の膨大さに照らせば規約違反の常時監視は非現実的⇒それらのことをもってYが隠れ文字使用を包括的に認容していたとはいえない

but
本件広告のリンク先のY検索結果が面にX商標の指定商品である石けん商品の情報が表示された場合、ユーザーから見れば、本件広告とY検索結果画面とが一体となって、検索エンジンで「石けん百貨」をキーワードとして検索したユーザーを、Yサイト内のX商標の指定商品である石けん商品を陳列表示する加盟店のウェブページに誘導サウルための広告であると認識される

Yが当該状態及びこれが商標の出所表示機能を害することにつき具体的に認識するか、又はそれが可能になったといえるに至ったときは、その時点から合理的期間が経過するまでの間にNGワードリストによる管理等を行って、「石けん百貨」との表示を含む検索連動型広告のハイパーリンク先のY検索結果画面において、登録商標である「石けん百貨」の指定商品である石けん商品緒情報が表示されるという状態を解消しない限り、Yは、「石けん百貨」という標章が付されたことについても自らの行為として認容したものとして、商標法2条3項8号所定の要件が充足され、Yについて商標権侵害が成立

本件では、Yは、本件広告の存在を認識するや、直ちにAの出店頁を調査、サーチ非表示とするなど、具体的に認識してから合理的期間が経過するまでに、商標の出所表示機能を害する状態を解消した。

Yと販売業者との間に何らかの意思の連絡があったとは認められない⇒裁判所は共同不法行為の成立を否定
 
●争点②について 
Xのサイトの広告であると誤認混同するおそれがあるとの主張に対し、
Yの名称が使用されており、Yがインターネットショッピングモールとして周知⇒誤認混同のおそれはない。

本件広告のリンク先のY検索結果画面に表示されている商品をXが販売しているとの誤認混同するおそれがあるとの主張に対し、
争点①と同様に、商品等表示を使用したとは認められない⇒不正競争行為に該当しない
 
<規定>
商標法 第25条(商標権の効力)
商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する。ただし、その商標権について専用使用権を設定したときは、専用使用権者がその登録商標の使用をする権利を専有する範囲については、この限りでない。

商標法 第36条(差止請求権)
商標権者又は専用使用権者は、自己の商標権又は専用使用権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
2 商標権者又は専用使用権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為を請求することができる。

民法 第709条(不法行為による損害賠償) 
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

商標法 第2条(定義等)
3 この法律で標章について「使用」とは、次に掲げる行為をいう。
八 商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為
 
<解説>
●商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有し(商標法25条本文)、自己の商標権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の差止めを請求でき(商標法36条1項)、損害賠償を請求できる(民法709条)。
商標の「使用」は、商標法2条3項各号で規定され、同8号は、
「商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」を掲げる。

広告等を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為は、平成14年改正により規定され、たとえばホームページ上のバナー広告、自己のホームページの出所を示す広告等が挙げられる。
 
●検索連動広告:インターネット上の検索エンジンにおいて、利用者が検索したキーワードの検索結果表示画面に、関連した広告が表示されるもの。

Aというキーワードを利用者が検索⇒Aに関する検索結果が表示されるが、その検索結果の上部や下部などに、関連する広告が表示。
この広告にはハイパーリンクが設定され、利用者が広告をクリックすると、広告主の設定したウェブサイトに異動。

広告主が、表示対象となる検索結果のキーワードを指定し、表示したい広告の見出しやURL等を登録することにより、設定がされる。
キーワードや広告内容には、商品や役務の内容だけでなく、他者の登録商標も設定できうる⇒商標権侵害の問題が生じうる。 

本件では検索連動型広告の広告内において原告の登録商標が表示され、なおかつハイパーリンク先に当該商標の指定商品が陳列表示⇒商標法2条3項8号にいう行為に該当するか?
 
●検索連動型広告と商標権をめぐる紛争の当事者:
①商標権者・広告主間
②商標権者・検察エンジン運営者間
③商標権者・オンライン市場運営者

本件は③。 

通常の広告主とオンライン市場運営者では広告への関与の度合いが異なる。
本件では、
①広告のハイパーリンク先のYサイト内における商品陳列が面に、いかなる商品が陳列表示されるかも、
②検索連動型広告での表示も、
Yが関与しない加盟店の出店ページの記述に左右される
⇒オンライン市場経営者であるYが侵害主体となりうるかが問題
 
●過去の裁判例として、
原告商品の名称及び原告商標をキーワードとして表示される検索結果の広告スぺースに被告が自社の広告を掲載することが商標権侵害であるかが争われた大阪地裁H19.9;.13:
裁判所は「被告の行為は、商標法2条3項各号に記載された標章の「使用」のいずれの場合にも該当するとは認め難い⇒本件における商標法に基づく原告の主張は失当」
but
本件とは事案が違う。 
 
●本控訴審は、オンライン市場運営者による検察連動型広告における標章の使用が、自らの商標の使用(商標法2条3項8号)にあたる場合の基準を示したもの。 
Yのようなオンライン市場において加盟店が第三者の商標権を侵害する商品を陳列表示している場合に、オンライン市場運営者が侵害主体となりうるときの基準を示した知財高裁H24.2.14と比較すると、本控訴審判決はオンライン市場運営者の行為が商標の使用にあたるとしている点に特徴がある。

判例時報2345

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2017年11月25日 (土)

固定資産税等の賦課徴収行為が国賠法上違法とされた事例・消滅時効の起算点

東京地裁H28.10.26      
 
<事案>
Yの都税事務所は、平成26年10月、Xに対し、過納付があった旨を通知し、平成27年2月、平成22年度分から平成26年度分の過納付分の合計額を還付

Xは、平成17年度から平成21年度の固定資産税等の過納付分に係るYの賦課徴収行為が国賠法1条1項の適用上違法である旨主張し、国賠請求。 
 
<判断>
●国賠法上の違法性
公権力の行使に当たる公務員の職務上の行為が国賠法1条1項の適用上違法と評価されるのは、
当該公務員が、当該行為によって損害を受けたと主張する特定の国民との関係において、職務上の法的義務として通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と当該行為を行ったと認め得るような事情がある場合に限る」との一般論。

固定資産税等においては
①地方税法上、申告納税方式ではなく賦課課税方式が採用されており、課税庁は、納税者とともにする実地調査、納税者に対する質問、納税者の申告書の調査等のあらゆる方法により、固定資産評価基準に従った公正な評価を行って価格を決定する義務を負っている
諸規模住宅用地の特例及び市街化区域農地の特例の適用につき、土地所有者の申告が要件ではない

Yの評価担当職員は、小規模住宅用地及び市街化区域農地の所有者からの申告の有無にかかわらず、各所有者との関係で小規模住宅用地の特例及び市街化区域農地の特例の各要件の有無を調査し、同特例が適用される土地には、同特例の基準に従って算出した価格を評価すべき職務上の注意義務を負っている。

本件の事実関係の下では、同注意義務違反が認められる
 
●消滅時効の主張 
A又はXが、各納付の時点で本件土地の固定資産税等が小規模住宅用地の特例及び市街化区域農地の特例の適用により減額されていないことを知ったのであれば、過納付となる金額が相当多額になることも知り得るものであることが推認⇒同人らは、直ちに本件土地が小規模住宅用地及び市街化区域農地であることをYに申告して過納付金の返還を求める等の対応をするものといえる
but
平成26年10月頃にYからの連絡が来るまで何等の対応をしていない

Yの主張する時点において、Yに対する国賠請求が事実上可能な状況の下に、その可能な程度において損害を知ったということはできない

●地方税法及び都税条例が住宅用地等の所有者に一定の申告義務を負わせたのは、固定資産税等について賦課課税方式を採用しつつ、固定資産の適正な評価・認定を行うに当たってすべき調査等を補完し、その過誤の防止に資するため

Xの不申告の事実が過失相殺において考慮すべき事情
Xの損害額から2割を控除するのが相当。 
 
<解説>
民法724条の「加害者及び損害を知ったとき」につき、
「加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもとに、その可能な程度にこれを知ったときを意味する」(最高裁昭和48.11.16) 

遅延損害金の起算点についても問題となっており、この点については、各納付時点としている。

判例時報2345

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2017年11月24日 (金)

死刑確定者の「懸賞応募券」の郵送願い・差し入れされた写真ネガフィルムの送付者への返送・領置願いの不許可の違法性(違法)

名古屋高裁H29.4.13      
 
<事案>
名古屋拘置所に収容中の死刑確定者Xは、
①自分で購入した食品などの包装ビニール袋に付いていた「懸賞応募券」を親族に対して郵送することを願い出た⇒拘置所長がこれを不許可とした
知人が差し入れした「写真のネガフィルム」について、知人に引き取りを求めたうえ、Xが同フィルムを領置するよう願い出たのに対して拘置所長が不許可とした

Y(国)への国賠請求
 
<Yの主張>
①「懸賞応募券」は、いわゆる「自弁物品」には該当しない⇒この応募券の郵送願いを不許可にしたことは適法
②「ネガフィルム」は「釈放の際に必要と認められる物品」に該当しないし、被収容者が閲覧することができる書籍等に該当しない⇒送付者に引き取りを求め、領置願いを不許可にしたことは適法 
 
<規定>
刑事収容法 第48条(保管私物等)
刑事施設の長は、法務省令で定めるところにより、保管私物(被収容者が前条第一項の規定により引渡しを受けて保管する物品(第五項の規定により引渡しを受けて保管する物品を含む。)及び被収容者が受けた信書でその保管するものをいう。以下この章において同じ。)の保管方法について、刑事施設の管理運営上必要な制限をすることができる。

刑事収容法 第50条(保管私物又は領置金品の交付)
刑事施設の長は、被収容者が、保管私物又は領置されている金品(第百三十三条(第百三十六条、第百三十八条、第百四十一条、第百四十二条及び第百四十四条において準用する場合を含む。)に規定する文書図画に該当するものを除く。)について、他の者(当該刑事施設に収容されている者を除く。)への交付(信書の発信に該当するものを除く。)を申請した場合には、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、これを許すものとする。
一 交付(その相手方が親族であるものを除く。次号において同じ。)により、刑事施設の規律及び秩序を害するおそれがあるとき。
二 被収容者が受刑者である場合において、交付により、その矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがあるとき。
三 被収容者が未決拘禁者である場合において、刑事訴訟法の定めるところにより交付が許されない物品であるとき。

刑事収容法 第69条(自弁の書籍等の閲覧)
被収容者が自弁の書籍等を閲覧することは、この節及び第十二節の規定による場合のほか、これを禁止し、又は制限してはならない。
 
<判断>
「懸賞応募券」は、刑事収容法48条1項及び50条にいう「保管私物」に該当⇒この郵送願いを不許可にする事由が認められない⇒拘置所長のした不許可処分は違法
②「ネガフィルム」は、法69条所定の「書籍等」に該当拘置所長をその領置願を不許可とし、送付者に返送したことは違法

慰謝料として2万2500円の支払を求める限度で、Xの請求を認容。

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