民法

2023年1月20日 (金)

同性婚を認めていないことについての国賠請求等(否定)

大阪地裁R4.6.20

<事案>
同性の者との婚姻届けを不受理されたXらが、
①同性間の婚姻を認めていない民法及び戸籍法の規程は、憲法24条、13条、14条1項に違反する
②Y(国)が必要な立法措置を講じていないことが国賠法1条1項の適用上違法
⇒Yに対して同項に基づき慰謝料の支払を求めた。

<争点>
①本件諸規定が憲法24条、13条、14条1項に違反するか
②本件諸規定を改廃しないことが国賠法1条1項の適用上違法であるか

<解説>
●本件:
同性の相手との婚姻を望むXらが、本件諸規定は同性間の婚姻を認めていない規定であると解釈した上で、本件諸規定について、
①婚姻をするについての自由は同性間の婚姻についても及ぶ⇒憲法24条、13条に違反
②現在の婚姻制度における取扱いは性的指向による差別⇒憲法14条1項に違反
として本件諸規定の無効を主張。

札幌地裁判決:
本件諸規定は憲法24条、13条に違反しないが、憲法14条1項に違反。
but請求棄却。

Xら:本件諸規定を民法又は戸籍法の諸規定であるとするにとどまり具体的に特定していない
but
これらの諸規定の中には直接同性間の婚姻を禁止する文言はない
⇒本件諸規定がXらの主張するとおり同性間の婚姻を禁止する条文であるのか自体、本来議論の対象となり得、仮に無効となる場合に本件諸規定のどの部分が違憲無効となるのかという問題もある。

●同性婚の婚姻をするについての自由が憲法上保障されているか?
A:憲法24条1項
B:憲法13条
C:及ばない

◎ 本判決:
憲法24条1項の「婚姻」は同性間の婚姻は含まれない

①文理
②制定経緯等

包括的人権規定である憲法13条によっても保障が及ばない

憲法24条1項が、同性間の婚姻を禁止しているとまではいえない。

①旧来の家制度の否定がその趣旨であったという憲法24条1項の制定過程
②同性間の婚姻を許容することは個人の尊厳を重んじる憲法の普遍的な価値に合致

同性愛者の権利利益について更なる検討を加え、社会の中でカップルとして公に認知されて共同生活を営むことができることについての利益(公認に係る利益)は同性愛者にも認められるべき人格的利益であり、憲法24条2項の判断において考慮されるべきであると説示。

●憲法24条2項における憲法適合性
◎本判決:
「当該法制度の趣旨や同制度を採用することにより生ずる影響につき検討し、当該規定が個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き、国会の立法裁量の範囲を超えるものとみざるを得ないような場合に当たるか否かという観点」から判断
~最高裁H27.2.16に従ったもの。
同最高裁判決と同様

憲法24条の「要請、指針は、単に、憲法上の権利として保障される人格権を不当に侵害するものではなく、かつ、両性の形式的な平等が保たれた内容の法律が制定されればそれで足りるというものではないのであって、憲法上直接保障された権利とまではいえない人格的利益をも尊重すべきこと・・・についても十分に配慮した法律の制定を求めるものであ」るとし、
公認に係る利益を前記のとおり尊重されるべき人格的利益に当たるものとして、
この点に配慮して本件諸規定から成る現行婚姻制度の趣旨や同制度を採用することにより生ずる影響について多角的に検討し、本件諸規定事態が立法裁量の範囲を超えるものか否かを判断。

同性カップルに対して公認に係る利益を実現する方法には現行の婚姻も含め様々な方法が考えられ、そのうちどのような制度が適切であるかについては、国の伝統や国民感情を含めた社会状況における種々の要因や、各時代における夫婦や親子関係についての全体の規律を見据えた上で民主的過程において決められるべきであり、現段階ではいまだその議論の過程にあって、司法が介入すべき時期ではないという判断。

◎本判決:憲法14条1項適合性の判断の前に憲法24条2項の判断を示している。
上記最高裁判決のように「両性」の平等が問題になる場面では、憲法24条2項を「13条、14条においてはすくい上げることができなかった様々な権利や利益、実質的平等の観点等を立法裁量に限定的な指針を与えるもの」と捉えて最後に検討することが論理的
but
本件は、憲法24条2項にいう「両性」の本質的平等の問題であなく、同項のいう「個人の尊厳」の問題⇒憲法13条ではすくい上げることができなかった同性カップルの権利利益について、更に「個人の尊厳」の見地から憲法24条2項の憲法適合性を検討し、その後で、性的指向による取扱いの差異について憲法14条1項の憲法適合性の判断をした。

●憲法14条1項における憲法適合性
本件諸規定が憲法24条には違反しない
同条により立法措置がとられることが「明示的に要請されている異性間の婚姻と、それが要請まではされていない同性間の婚姻との区別取扱いが、憲法14条1項における合理的な根拠に基づかない差異であるといえるかという観点から検討

◎札幌地裁:
同条において同性間の婚姻が精神疾患であるとの誤った知見に基づくもの⇒本件諸規定が同性愛者に対し婚姻による法的効果の一部ですらもこれを享受する法的手段を提供していないことは立法裁量の範囲を超えている⇒憲法14条に違反
but
憲法24条には違反しないこととの関係は必ずしも明らかではない。

本判決:
憲法24条1項が異性間の婚姻しか認めていない⇒憲法が異性間の婚姻と同性間の婚姻を同程度に保障しているとまではいえず、本件区別取扱いは憲法秩序に沿ったもの。
現在生じている差異の程度も、本件諸規定の下で緩和されつつあり、かつ今後立法上の手当てをすることによって更に緩和され得る⇒憲法14条1項に違反するとまではいえない。

判例時報2537

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2017年12月22日 (金)

長野先生の不法行為責任内容論序説

■規範の内容
①権利回復規範:
侵害された権利の完全性を回復するために支出された費用⇒必要な限度で賠償されなければならない。

②価値補償規範:
侵害された権利が保障する権限ないし地位またはそこから得られたであろう利益が損なわれた場合⇒それらの価値が賠償されなければならない。

③権利保全規範:
権利の侵害を回避するために支出された費用⇒①と同様に賠償されなければならない

④利益保全規範:
侵害された権利が保障する権限ないし地位から得られたであろう利益の喪失を回避するために支出された費用⇒①と同様に賠償されなければならない

■規範の分類1
①権利回復規範、③権利保全規範
~権利の完全性、すなわち権利の保障内容の中核をなす「権限」または「地位」に向かられたもの

②価値補償j規範、④利益保全規範
~権利の保障内容をなす「利益」、すなわち中核たる「権限」または「地位」に基づき得られたであろう「利益」に向けられたもの

■規範の分類2
①権利回復規範、③権利保全規範、④利益保全規範
~いずれも不法行為に対する被害者の対抗措置が問題となっている⇒「対抗措置規範」

■対抗措置規範の賠償規準

①一定の費用の支出(の予定)が主張・立証されたことを前提として、
②問題となる費用の「必要性」が問題となる。
そこでの目的(権利の回復・保全、「利益」の保全)のために、被害者の立場にある合理人であればどのように行動したかが基準となる。
   
③被害者が自ら対抗措置⇒それに対する報酬を与えるという観点から一定の賠償が認められるべき。

■価値補償規範の賠償規準

①「権限」または「地位」自体の価値、あるいは
②それに基づき得られる「利益」の価値を算定。
   
①については、収益価値による算定が原則。
市場価値が存在する場合(所有権を初め、財産権の多くがそう)には、それが通常の利用の価値を表す。
   
②の「利益」については、
具体的な金額の形で生じる場合にはそれが基準となる。
そうでない場合にも、場合によっては具体的な金額を得る可能性があったならば、それを基に抽象的な利益の価値を算定すべき。
but
これについては、加害者の利益あるいは社会的負担軽減の観点から一定の閾値を設け、最低限の要保護性に達しないものについては賠償的確性を否定する可能性を留保しておくことが考えられる。

■規範間の適用関係 
   
これらの規範の適用が、目的が共通するため両立しない場合
⇒いずれが適用されるかは、原則として被害者の選択による。
but
他に適用可能な規範がある場合、被害者の選択した規範が排除され、当該他の規範が指示される場合がある。
その判断は、当該指示により得られる加害者の財産的利益または経済的効率性との衡量という、ハンドの定式と同様の判断枠組による。

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2013年4月 6日 (土)

刑務所での安全配慮義務違反と消滅時効の起算点

大阪高裁H24.10.25
   
受刑者に使用した革手錠の使用につき、安全配慮義務違反が認められるが、当該行為による損害賠償請求権は時効によって消滅しており、消滅時効の援用が権利の濫用あるいは信義則違反にあたるとはいえないとされた事例 

<事案>
名古屋刑務所に収容されていたXが、刑務官からの革手錠で締め上げられるなどの暴行を受けて骨盤骨折等の傷害を負い、数か月間の病舎での入院等を余儀なくされたとして、Y(国)に対し、安全配慮義務違反に基づき、550万円の損害賠償を請求した事案。 

<規定>
民法 第166条(消滅時効の進行等) 
消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する。.

民法 第167条(債権等の消滅時効)
債権は、十年間行使しないときは、消滅する。

<一審>
損害賠償請求権の消滅時効の起算点は、Xが名古屋刑務所を出所した日である平成12年7月30日⇒消滅時効完成せず。

<判断>
損害賠償請求権の消滅時効の起算点は、革手錠が使用された平成10年4月17日か急性腎不全と診断された同月24日。
⇒時効期間経過している。

Yの消滅時効の援用が権利の濫用あるいは信義則違反と解することはできない。

<解説>
安全配慮義務の不履行に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間は10年(民法167条1項)と解され、消滅時効は右請求権を行使し得るときから進行。

時効の成立が考えられる事案について、権利の濫用が主張される事例は少なくなく、これを認めた事例もあるが、時効援用が違法・不当と評価されるためには、かなり明白に特殊異常な要件を充たす場合に限定されるべきとされている。

http://www.simpral.com/hanreijihou2013zenhan.html

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