金融商品取引法

2015年3月11日 (水)

金融商品取引法172条の2第1項に基づく課徴金納付命令の要件

東京地裁H26.2.14   

1.金融商品取引法172条の2第1項に基づき課徴金の納付を命じるに当たり、
①発行者に具体的な経済的利得があること又はこれが生じる一般的・抽象的な可能性があることを要するか否か(消極)、
②発行開示書類の虚偽記載と有価証券の取得との間に因果関係を要するか否か(消極)、
③発行開示書類の虚偽記載につき発行者に故意又は過失のあることを要するか否か(消極)
2.同項にいう「重要な事項」の意義
 
<事案>
札幌証券取引所アンビシャス市場に株式を上場していたXが3回にわたり、重要な事項につき虚偽の記載がある有価証券届出書を関東財務局長に提出し、当該発行開示書類に基づく株式の募集により投資者に自社の株式を取得させたとして、金融庁長官から課徴金1871万円の納付を命じる旨の決定
⇒Yを相手にその取消しを求める事案。 
 
<規定>
金融商品取引法172条の2(虚偽記載のある発行開示書類を提出した発行者等に対する課徴金納付命令)
重要な事項につき虚偽の記載があり、又は記載すべき重要な事項の記載が欠けている発行開示書類を提出した発行者が、当該発行開示書類に基づく募集又は売出し(当該発行者が所有する有価証券の売出しに限る。)により有価証券を取得させ、又は売り付けたときは、内閣総理大臣は、次節に定める手続に従い、当該発行者に対し、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める額(次の各号のいずれにも該当する場合は、当該各号に定める額の合計額)に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない
一 当該発行開示書類に基づく募集により有価証券を取得させた場合 当該取得させた有価証券の発行価額の総額(当該有価証券が新株予約権証券その他これに準ずるものとして内閣府令で定める有価証券であるときは、当該新株予約権証券に係る新株予約権の行使に際して払い込むべき金額その他これに準ずるものとして内閣府令で定める額を含む。)の百分の二・二五(当該有価証券が株券等である場合にあつては、百分の四・五)
二 当該発行開示書類に基づく売出しにより当該発行者が所有する有価証券を売り付けた場合 当該売り付けた有価証券の売出価額の総額(当該有価証券が新株予約権証券その他これに準ずるものとして内閣府令で定める有価証券であるときは、当該新株予約権証券に係る新株予約権の行使に際して払い込むべき金額その他これに準ずるものとして内閣府令で定める額を含む。)の百分の二・二五(当該有価証券が株券等である場合にあつては、百分の四・五)
・・・・

金融商品取引法185条の7(課徴金の納付命令の決定等)
内閣総理大臣は、審判手続を経た後、第百七十八条第一項各号に掲げる事実のいずれかがあると認めるときは、この条に別段の定めがある場合を除き、被審人に対し、第百七十二条第一項、第二項・・・・の規定による課徴金を国庫に納付することを命ずる旨の決定をしなければならない。
 
<Xの主張> 
本件虚偽記載があったことによりXに経済的な利得が生じる可能性はなかった
本件虚偽記載はXの筆頭株主らの投資判断に影響を及ぼすものではなかった
Xの新経営陣は本件虚偽記載につき故意過失はなかった
⇒本件納付命令を争った。 
 
<判断>
Xの請求を棄却。
①本件課徴金条項に基づき課徴金の納付を命じるに当たり、発行者において具体的な経済的利得があること又は経済的利得が生じる一般的、抽象的な可能性があることは要件とされていない
②同条項にいう「重要な事項」とは、投資者一般を基準として、投資者の投資判断に影響を与えるような事項をいうところ、本件虚偽記載は「重要な事項」に該当する。
③同条項に基づく課徴金の納付を命じるに当たり、個々の事案ごとに、発行開示書類に虚偽記載があることと有価証券の取得との間における因果関係を要件とするものではない
④同条項に基づき課徴金の納付を命じるに当たり、発行開示書類の虚偽記載につき発行者に故意又は過失のあることが要件とされているとは解されない
 
<解説>
①~③は異論なし。 
④については、主観的要件を不要とする見解の一方、なくとも過失が必要とする見解もある。
but
行政上の措置である課徴金と刑罰である罰金とでは性質を異にする(最高裁H10.10.13)から、要件にも自ずと差が生じるべき。
②過失を課徴金賦課の要件とすると、処分行政庁がこれを立証しなければならなず、課徴金の円滑な運用が困難となり、発行開示規制の実効性を確保できない。
③発行者がいわゆる組込方式を用いた場合を含め、本件課徴金条項に違反する行為があれば、その管理体制に何らかの不備があることが通常であり、そのような不備を正当化する事由は容易に想定し難い。

尚、インサイダー取引に関する課徴金の場合、故意が要件とされている。

判例時報2244

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2013年4月26日 (金)

虚偽記載による損害の算定(アーバンコーポレーション)

最高裁H24.12.21    
1.株式会社が、臨時報告書及び有価証券報告書の虚偽記載等の事実を公表するとともに、同日、再生手続開始の申立てををした場合において、金融商品取引法21条の2第2項の規定により損害の額を算定するに当たり、同条4項又は5項の規定による減額を否定した原審の判断に違法があるとされた事例(①事件)
2.臨時報告書に虚偽記載等がされている上場株式を取引所市場において取得した投資者が当該虚偽記載等がなければこれを取得しなかった場合における、上記投資者に生じた当該虚偽記載等に相当因果関係のある損害の額(②事件) 

<事案>
東証一部上場企業であった株式会社アーバンコーポレイションの株式を取引所市場で取得した個人投資家らが、アーバンの提出した臨時報告書等に虚偽記載等があったことを理由として、アーバンの再生手続において、金融商品取引法21条の2に基づく損害賠償請求権につき再生債権として届出をしたところ、アーバンがその全額を認めなかったため、個人投資家らとアーバンとの間で上記債権の存否及び額について争われた査定異議訴訟。

<規定>
金融商品取引法 第21条の2(虚偽記載等のある書類の提出者の賠償責任)
第二十五条第一項各号(第五号及び第九号を除く。)に掲げる書類(以下この条において「書類」という。)のうちに、重要な事項について虚偽の記載があり、又は記載すべき重要な事項若しくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けているときは、当該書類の提出者は、当該書類が同項の規定により公衆の縦覧に供されている間に当該書類(同項第十二号に掲げる書類を除く。)の提出者又は当該書類(同号に掲げる書類に限る。)の提出者を親会社等(第二十四条の七第一項に規定する親会社等をいう。)とする者が発行者である有価証券を募集又は売出しによらないで取得した者に対し、第十九条第一項の規定の例により算出した額を超えない限度において、記載が虚偽であり、又は欠けていること(以下この条において「虚偽記載等」という。)により生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、当該有価証券を取得した者がその取得の際虚偽記載等を知つていたときは、この限りでない。

2 前項本文の場合において、当該書類の虚偽記載等の事実の公表がされたときは、当該虚偽記載等の事実の公表がされた日(以下この項において「公表日」という。)前一年以内に当該有価証券を取得し、当該公表日において引き続き当該有価証券を所有する者は、当該公表日前一月間の当該有価証券の市場価額(市場価額がないときは、処分推定価額。以下この項において同じ。)の平均額から当該公表日後一月間の当該有価証券の市場価額の平均額を控除した額を、当該書類の虚偽記載等により生じた損害の額とすることができる

3 前項の「虚偽記載等の事実の公表」とは、当該書類の提出者又は当該提出者の業務若しくは財産に関し法令に基づく権限を有する者により、当該書類の虚偽記載等に係る記載すべき重要な事項又は誤解を生じさせないために必要な重要な事実について、第二十五条第一項の規定による公衆の縦覧その他の手段により、多数の者の知り得る状態に置く措置がとられたことをいう。

4 第二項の場合において、その賠償の責めに任ずべき者は、その請求権者が受けた損害の額の全部又は一部が、当該書類の虚偽記載等によつて生ずべき当該有価証券の値下り以外の事情により生じたことを証明したときは、その全部又は一部については、賠償の責めに任じない。

5 前項の場合を除くほか、第二項の場合において、その請求権者が受けた損害の全部又は一部が、当該書類の虚偽記載等によつて生ずべき当該有価証券の値下り以外の事情により生じたことが認められ、かつ、当該事情により生じた損害の性質上その額を証明することが極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、賠償の責めに任じない損害の額として相当な額の認定をすることができる。

金商法 第19条(虚偽記載のある届出書の届出者等の賠償責任額)
前条の規定により賠償の責めに任ずべき額は、請求権者が当該有価証券の取得について支払つた額から次の各号の一に掲げる額を控除した額とする。
一 前条の規定により損害賠償を請求する時における市場価額(市場価額がないときは、その時における処分推定価額)
二 前号の時前に当該有価証券を処分した場合においては、その処分価額

<判断>
【①事件】
原審;
アーバンが6月末には破綻状態にあり、再生手続開始の申立ては必然的であったから、アーバン株の値下がりが本件再生申立てによって生じたものとは認められない。
⇒金商法21条の2第2項推定損害額からの減額を一切認めず、金商法19条1項の制限内で1株当たりの損害額を59.97円と査定した。

最高裁:
最高裁H24.3.13(「ライブドア事件判決」)を引用し、金商法21条2第4項及び5項にいう「虚偽記載等によって生ずべき当該有価証券の値下り」とは当該虚偽記載等と相当因果関係のある値下がりをいうところ、アーバン株の値下がりによってX1が受けた損害の一部には本件虚偽記載等と相当因果関係のある値下がり以外の事情により生じたものが含まれているというべきであるとして、これを否定した原判決を破棄し、原審に差戻し。

【②事件】
一審及び原審:
本件虚偽記載等がなければX2がアーバン株を取得することはなかったものと認定した上、X2に生じた損害は、取得価額と想定価額(アーバン株の取得時において本件虚偽記載等がなかったならば想定される価額)との差額であるなどとして、X2の損害額を2615万円と査定すべきものとした。 

最高裁:
最高裁H23.9.13(「西武鉄道事件判決」)を引用し、臨時報告書に虚偽記載等がされている上場株式を取引所市場において取得した投資者が、当該虚偽記載等がなければこれを取得することはなかったとみるべき場合、当該虚偽記載等により上記投資者に生じた損害の額、すなわち当該虚偽記載等と相当因果関係のある損害の額は、上記投資者が当該虚偽記載等の公表後、上記株式を取引所市場において処分したときは、その取得価額と処分価額との差額を基礎として、経済情勢、市場動向、当該上場株式を発行する会社の業績など当該虚偽記載等に起因しない市場価額の下落分を上記差額から控除して、これを算定すべきであるとして、これによらなかった原判決を破棄し、本件を原審に差し戻した。

<解説>   
西武鉄道事件:
虚偽記載がなければ投資家らが西武鉄道株を取得することはなかったとした上で、このような場合の投資家の損害は、取得価額と処分価額の差額を基礎として、当該虚偽記載に起因しない下落分を上記差額から控除して算定すべき。

ライブドア事件:
金商法21条の2第2項にいう「損害」とは虚偽記載等と相当因果関係のある損害を全て含むものであって、これを取得時差額(取得価額と想定価額の差額)に限定することはできないとして、同条5項にいう「虚偽記載等によって生ずべき当該有価証券の値下り」とは、取得時差額に限られず、虚偽記載等の相当因果関係のある値下がりの全てをいう。

【①事件判決】
金商法21条の2第2項推定損害額からの減額の可否が争われた。

本件公表後の値下がりについて:
①上記値下がりは、本件虚偽記載などの公表と本件再生申立てとがあいまって生じたものであるところ、本件再生申立ては、かねてから継続していたアーバンの資金繰りの悪化によるものであって、本件虚偽記載等の公表によって資金繰りが悪化したわけではない。
②アーバンは、M社との業務・資本提携交渉を開始しており、TOBも見込まれていたなど、倒産状態であったとはいえない⇒本件再生申立てによる値下がりが本件虚偽記載等と相当因果関係のある値下がりということはできない。

本件公表日前の値下がりについて:
アーバン株のほぼ一貫した値下がりには、アーバンの経営状態など本件虚偽記載等とは無関係な要因により生じた分が含まれていることは否定できない。
⇒本件虚偽記載等と相当因果関係のある値下がり以外の事情により生じた分が含まれている。

⇒金商法21条の2第4項又は5項の規定による減額を一切否定した原審判断には違法があると判断。

本件公表後の値下がりについて:
本件とは異なり、倒産のおそれのなかった会社が極めて悪質虚偽記載等を行い、これが明るみにでたことによって会社の信用が失墜して倒産に至った場合や、会社が既に倒産状態であったのに、虚偽記載等のある有価証券報告書等を提出することによってこれを隠蔽し、あたかも倒産のおそれが全くないかのような印象を市場に与えていた場合であれば、会社が倒産し、あるいは倒産状態であることが明らかになったことによる株価の下落分についても、当該虚偽記載等と相当因果関係のある損害という余地もあるように思われる。
but
本件はこのような事案ではなく本件再生申立てによる値下がりを本件虚偽記載等による値下がりと評価することには無理がある。

本件公表前の値下がりについて:
アーバン株が本件公表日前1月間に本件虚偽記載等とは無関係な要因によって一貫して値下がりしているとすれば、本件公表日前1月間の平均株価をそのまま用いて2項推定額を算出すれば、損害額が過大に算定されることになる。

本判決は、本件公表日前1月間の値下がりについても減額すべき分が含まれているものと判断。

【②事件判決】
金商法21条の2第2項の損害額推定規定を用いない場合の損害額の認定が問題となった。

虚偽記載等がなければ投資家が当該株式を取得することがなかったといえるか否かは、第一次的には、当該投資家の属性や投資性向、当該株式を取得した動機や経緯、当該取引の内容、当該虚偽記載等の内容など諸般の事情を踏まえた事実認定の問題。⇒上告審としては原審認定にあえて介入することはしなかったものと思われる。

金商法21条の2第2項の規定を用いて損害額を推定する場合、
①金商法21条の2第2項推定損害額の算出⇒②5項による減額⇒③19条1項限度額による制限という適用順序。

http://www.simpral.com/hanreijihou2013zenhan.html

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0) | トラックバック (0)