相続

2016年9月26日 (月)

民法910条に基づく価額支払請求の場合の遺産の価額算定の基準時・履行遅滞となる時期

最高裁H28.2.26      
 
<事案>
Aの相続開始後認知によってその相続人となった原告(X)が、Aの子であり、Aの遺産について既に遺産の分割をしていた被告ら(Y)に対し、民法910条に基づき価額の支払を求める事案。
同条の定める価額の支払請求をする場合における遺産の価額算定の基準時及び価額の支払債務が遅滞に陥る時期が争われている。
 
<規定>
民法 第910条(相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権)
相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。

民法 第784条(認知の効力)
認知は、出生の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者が既に取得した権利を害することはできない。
 
<一審・原審>
①本件規定に基づく価額支払請求の遺産の価額算定基準時を原告が価額の支払を請求した平成23年5月6日としたうえで評価し(評価額は総額7億9239万5924円)、Xの法定相続分を8分の1としてこれに応じた額を相続人のうち価額支払義務が問題となるYらの員数(3名)で除した各3301万6496円(評価額の24分の1)の請求を認容し、
②本件規定に基づく価額の支払債務は、履行の請求を受けた時に遅滞に陥るものとして、Xが価額の支払を請求した日の翌日である同月7日からの遅延損害金の請求を認容すべきものとした。 
   
Xが上告受理申立て:
①価格算定の基準時は遺産分割時とすべき
②遅延損害金の起算日も遺産分割時とすべき

Yらが附帯上告受理申立て:
遅延損害金の起算日を事実審口頭弁論終結日の翌日とすべき
 
<判断>
両事件を受理した上で、上告及び附帯上告を棄却。 
 
<解説>
●民法910条:
相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権を定めている。 

●価額支払請求権の遺産の価額算定の基準時
A:遺産分割時
○B:価額の支払を請求した時点(多数説)
C:事実審の口頭弁論終結時

本判決:
遺産の価額算定の基準時に関して、「相続の開始後認知によって相続人となった者が他の共同相続人に対して民法910条に基づき価額の支払を請求する場合における遺産の価額算定の基準時は、価額の支払を請求した時」として、価額の支払請求時とする見解。

民法910条の位置付けについて、「相続の開始後に認知された者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしていたときには、当該分割等の効力を維持しつつ認知された者に価額の支払請求を認めることによって、他の共同相続人と認知された者との利害の調整を図るものである」

認知された者が価額の支払を請求した時点までの遺産の価額の変動を他の共同相続人が支払うべき金額に反映させるとともに、その時点で直ちに当該金額を算定し得るものとすることが、当事者間の衡平の観点から相当であるといえるからである」

例えば遺産の価額算定基準時を遺産分割時に固定するとなると、価額の支払請求が問題となるまでの期間に生じた価額の上昇又は下落により、認知された者又は他の共同相続人のいずれか一方のみに利益や損失を生ずることとなって当事者間の衡平を欠く事態となる。

遺産分割の場面においても、実際に分割を実現する時点の評価に基づいて行うべきであるとしており、実務上も、原則として、分割時における遺産評価に基づいて分割が行われている。

例えば、相続開始後、他の共同相続んがその意思に基づき遺産を処分した場合:
遺産の価額算定の基準時を価額の支払請求時とすることで、遺産の代償財産をもって評価するなどの柔軟な解釈をとることが可能。

遺留分減殺請求権者の価額弁償請求については、(受遺者から民法1041条1項の規定による価額弁償の意思表示を受けた遺留分権利者が受遺者に対し価額弁償を請求する旨の意思表示をした場合において、当該遺留分権利者が現物返還請求権に代わる価額弁償請求権を確定的に取得することになる)弁償金の支払を請求した日の翌日が遅延損害金の起算日となるが(最高裁H20.1.24)、本件規定に基づく価額の支払請求も同様の利益状況にあることを意識したものと思われる。

このように解することで、認知された者としては直ちに価額の支払を請求するとともに、他の共同相続人としても早期にその支払に応じることの動機付けとなり(仮に、事実審の口頭弁論終結時にならなければ支払うべき金額が確定せず、遅延損害金も発生しないと解する場合には、他の共同相続人としては、支払に対する動機づけを欠くことになる)、紛争が長期化することを避けることができるようになる。
 
●価額の支払債務が履行遅滞となる時期 
民法910条に基づく他の共同相続人の価額の支払債務は、期限の定めのない債務履行の請求を受けた時に遅滞に陥る。
 
相続回復請求権
A:相続物を侵害から包括的に回復することを目的とする、個別的な物権的請求権とは異なる単一の特別の請求権とする説(独立権説)
○B:相続財産についての個別的請求権の集合であり、相続権の侵害を原因として生じ、かつ、消滅時効にかかる点で特色があるにすぎない権利と解する説(集合権説)
判例はBの集合権説。 
 
●管轄 
本件規定に基づく価額の支払請求については
○A:通常の民事訴訟の手続によるべきか
B:家庭裁判所の審判手続によるべきか

家事事件手続法39条(審判事項)は、「家庭裁判所は、この編に定めるところにより、別表第1及び別表第2に掲げる事項並びに同編に定める事項について、審判をする」

家庭裁判所が家事審判の手続で審判をする事項を限定列挙

同法は、別表第1及び別表第2に民法910条の価額の支払請求を掲げていない⇒通常の民事訴訟の手続によることを前提とする。
 
●「価額の支払請求」
遺産の価額算定の基準時となるとともに、価額の支払債務が履行遅滞となる基準となる重要な概念。
何ら限定なく単に「被相続人○○の遺産の分割を請求する」といった程度ではこれに当たらないと思われる。

判例時報2301

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年2月24日 (水)

相続開始から10年を経過した後にした遺留分減殺請求権の行使

仙台高裁H27.9.16   

相続開始から10年を経過した後にした遺留分減殺請求権の行使
 
<事案>
訴外Aは所有する本件土地建物をその孫であるYに遺贈するとの自筆証書遺言。
Aは平成10年1月5日死亡し、Xら4名が相続。
本件遺言書は開封されているため、本件遺言は無効であるとして遺産分割協議を継続。

平成23年10月30日の第4回の遺産分割協議において、Aの子Bが、本件遺言の効力について、従前の見解を改め、遺言として有効である旨の見解。司法書士も有効との説明⇒遺産分割協議を継続しない旨の発言。 

Xは、平成24年6月27日、Yに対し、本件遺言によるYへの遺贈について遺留分減殺請求権行使の意思表示をした上、本件土地建物について、Xの持分とする所有権移転登記手続を求めた。
 
<規定>
民法 第1042条(減殺請求権の期間の制限)
減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。

民法 第160条(相続財産に関する時効の停止)
相続財産に関しては、相続人が確定した時、管理人が選任された時又は破産手続開始の決定があった時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
 
<判断>
相続開始後、受遺者による相続開始の時から10年経過後の新たな権利主張が容認される一方で、これに対する遺留分減殺請求権の行使が一切許されないと解するのは、公平の見地から相当とはいえない。 
本件においては、民法1042条後段の適用については、同法160条の法意に照らし、遺留分権利者であるXが、遺留分減殺請求権を行使することを期待することができない特段の事情が解消された時点から6か月内に同権利を行使したと認められる場合には、Xについて、同法1042条後段により遺留分減殺請求権消滅の効果は生じないものと解するのが相当。
but
本件では6か月経過⇒Xの主張認めず。
 
<解説>
民法1042条後段の10年は、時効でなく除斥期間であると解するのが通説。
除斥期間⇒中断がなく、当事者の援用を要しない。 

最高裁H21.4.28:
民法724条後段に関し、民法160条の適用は否定しつつも、同条の法意に照らし、制限期間内に権利を行使することができない特段の事情があるときには、その事情が解消された時から6か月内に行使すれば、民法724条後段の効果は生じない旨の新たな法理論。

民法 第724条(不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)
不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。

判例時報2078

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年5月15日 (金)

共同相続された委託者指図型投資信託の受益権につき、相続開始後に元本償還金又は収益分配金が発生し預り金として上記受益権の販売会社における被相続人名義の口座に入金された場合に、共同相続人の一人が自己の相続分に相当する金員の支払を請求することの可否

最高裁H26.12.12   

共同相続された委託者指図型投資信託の受益権につき、相続開始後に元本償還金又は収益分配金が発生し預り金として上記受益権の販売会社における被相続人名義の口座に入金された場合に、共同相続人の一人が自己の相続分に相当する金員の支払を請求することの可否 
 
<事案>
共同相続された投資信託受益権につき、相続開始後に元本償還金又は収益分配金が発生して、その受益権の販売会社Yにおける被相続人名義の口座に入金されたところ共同相続人の一人であるXが、Yに対し、自己の相続分に相当する金員の支払を求めた事案。
 
<原判決>
本件預り金債権は当然に相続分に応じて分割されるものではない⇒Xの請求を棄却
 
<判断>
共同相続された委託者指図型投資信託の受益権につき、相続開始後に元本償還金又は収益分配金が発生し、それが預り金として上記受益権の販売会社における被相続人名義の口座に入金された場合、上記預り金の返還を求める債権は当然に相続分に応じて分割されることはなく、共同相続人の一人は、上記販売会社に対し、自己の相続分に相当する金員の支払を請求することができない
⇒Xの上告を棄却。
 
<解説>

共同相続された委託者指図型投資信託の受益権が相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるかについて、最高裁H26.2.25は否定。


共同相続された委託者指図型投資信託の受益権につき、相続開始後に元本償還金又は収益分配金が発生し預り金として上記受益権の販売会社における被相続人名義の口座に入金された場合に、共同相続人の一人が自己の相続分に相当する金員の支払を請求することができるか? 

①投資信託及び投資法人に関する法律6条3項:
元本償還金又は収益分配金の交付を受ける権利委託者指図型投資信託受益権の内容を構成

収益分配金は、投資信託受益権を構成する権利の一つであって、元本の一部払戻とみなされる特別分配金も存在⇒投資信託受益権を元物とする果実に当たらないと解される。(最高裁H17.9.8)

②実質的にみても、本判決のような結論を採ることは、二月判決とあいまって、共同相続された投資信託受益権に関する問題の公平かつ合理的な解決に資する。

本判決は、共同相続された委託者指図型投資信託の受益権につき、相続開始後に元本償還金又は収益分配金が発生し、それが預り金として上記受益権の販売会社における被相続人名義の口座に入金された場合、上記預り金の返還を求める債権は当然に相続分に応じて分割されることはなく、共同相続人の一人は、上記販売会社に対し、自己の相続分に相当する金員の支払を請求することができない旨判断。


原判決:「本件預り金債権についてもいわゆる代償財産として当該遺産分割の対象となるものと解するのが相当である」旨判示
but
判例の考え方:
少なくとも共同相続人が全員の合意によって遺産分割前の相続財産を構成する特定不動産を第三者に売却した場合における代金債権は、これを一括して共同相続人の一人に保管させて遺産分割の対象に含める合意をするなど特別の事情のない限り、上記相続財産に属しない分割債権であり、各共同相続人が、その持分に応じて、個々にこれを分割取得するものであるとして、原則として遺産分割対象財産とならないとする。 


相続財産中に金銭債権その他の可分債権がある場合には、その債権は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割され、各共同相続人に相続分に応じて帰属するとするのが判例。 

定額郵便貯金債権は相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはない(最高裁H22.10.8)。

判例時報2251

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年5月 4日 (月)

共同相続人のうち自己の相続分の全部を譲渡した者と遺産確認の訴えの当事者適格(否定)

最高裁H26.2.14   

共同相続人のうち自己の相続分の全部を譲渡した者と遺産確認の訴えの当事者適格 
 
<事案>
固有必要的共同訴訟である遺産確認の訴えにおいて、共同相続人が自己の相続分の全部を譲渡した場合に、その者が同訴えの当事者適格を有するか否かが問題となった事案。 

昭和28年に死亡した被相続人甲の共同相続人でる原告らは、甲の遺産分割が未了であるとして、その余の共同相続人である被告らとの間で、
①甲が所有していた複数の不動産の遺産確認を求める第1事件の訴えを提起し、
②うち1名の被告が、その不動産の一部を占有する一名の原告に対し、所有権に基づき、占有部分の明渡しを求めた第二事件の訴えと併合審理。

共同相続人である被告ら9名のうち4名が訴え提起前に自己の相続分全部を他の共同相続人に譲渡していたことが明らかに⇒原告らは同被告らに対する訴えを取り下げ。

<一審>
取下げが有効であることを前提に、第一事件及び第二事件の各請求をいずれも棄却。
 
<原審>
相続分の譲渡には相続放棄のような遡及効がない⇒譲渡人は共同相続人としての地位を失わない⇒遺産確認の訴えの当事者適格を喪失しない

固有必要的共同訴訟における共同被告の一部に対する訴えの取り下げを無効とする判例(最高裁H6.1.25)⇒第一審の訴訟手続きを違法として取り消し、第一審に差し戻し。
   
被告らが上告受理も申立て
 
<判断>
共同相続人のうち自己の相続分の全部を譲渡した者は、遺産確認の訴えの当事者適格を有しない。
⇒原判決を破棄し、原審を差し戻し。 
 
<解説> 
●遺産確認の訴え:
遺産分割手続(当事者間の協議又は家庭裁判所の調停、審判によって行われる。)の前提問題の1つであり、共同相続人間で遺産帰属性について争いがある場合に、当該財産が遺産に属すると主張する共同相続人が、これを否定する共同相続人を被告として、当該財産が遺産に属することの確認を求める訴え。

最高裁昭和61.3.13:
①当該財産が現に共同相続人による遺産分割前の共有関係にあることの確認を求める訴え
②これに続く遺産分割審判で遺産帰属性を争えなくすることにより紛争解決に資する
③単なる共有持分確認の訴えでは当該財産の取得原因が相続であることまでは確定できないため、遺産確認の訴えを認める必要がある。

適法性を肯定。

最高裁H1.3.28:
遺産確認の訴えは共同相続人全員が当事者として関与し、その間で合一にのみ確定することを要する固有必要的共同訴訟と解すべきである旨判断。

遺産分割共同相続人全員による遺産共有の状態を共同相続人間で解消しようとするもの(民法907条)⇒その全員が当事者となることを要し、一部の者を除外してされた分割協議・調停・審判は、全体として内容上の効力を生じないという意味で無効となる。
 

相続分の譲渡にいう「相続分」とは、積極財産のみならず消極財産も含めた包括的な相続財産前提に対して各共同相続人が有する割合的な持分又は法律上の地位をいう(通説・判例)。 
相続分の譲渡は、遺産分割のように効力が相続開始時に遡る旨の規定がない⇒譲渡の時に効力を生じる(遡及効を有しない。)。

相続分の譲渡によって、譲渡の当事者間では相続債務も移転する。
同譲渡は債権者の関与なくして行われる⇒譲渡人が対外的に債務を免れるものではない
 
●相続分の譲渡人の遺産確認の訴えにおける当事者適格 
相続分の譲受人は遺産分割手続に加わるべき。

相続分の譲渡人については、多数説・実務は消極説:
家裁の実務も、遺産分割調停及び審判を申し立てる際に既に相続分の譲渡がされている場合には、相続分の譲受人を当事者として表示し、手続の途中で相続分の譲渡がされた場合には、譲受人が手続に参加し、譲渡人は脱退するとの取扱いが定着。

A:積極説

①明文規定なし
②相続分の譲渡人が共同相続人としての立場を完全に失うわけではなく(相続債務については、債権者との関係では譲渡後も引き続き責任を負う)相続放棄とは異なる。

〇B:消極説

①相続分の譲渡人は、包括的な相続財産全体に対して各共同相続人が有する割合的な持分又は法律上の地位を譲渡している
基本的に遺産分割は相続人の積極財産について行われるもの
⇒少なくとも遺産分割との関係では、事実上、相続放棄があった場合と同様に考えられる

消極説でも、相続分の譲渡人が遺産である不動産の登記移転義務は占有移転義務を負う場合には、例外的に、譲渡人も遺産分割手続の当事者適格を有すると解すべきか?

A:遺産分割の当事者としての資格は失う

譲渡人は、遺産分割の内容に関して何らかの権利主張をすることができるわけではなく、他の相続人らが決定した遺産分割の結果に協力する義務を負担するにすぎない
尚、利害関係人として手続に参加し、又は参加させられる資格を取得するとの解説。

平成25年1月施行の家事事件手続法では、家庭裁判所が、当事者となる資格を有しない者及び当事者ある資格を喪失した者を家事審判の手続から排除することができる旨の規定(43条1項)

遺産分割審判において、相手方である相続人が相続分を譲渡した場合等には排除の対象となる。
 

遺産確認の訴えは、遺産分割に係る家事調停・家事審判手続の進行の基礎となるものであり、遺産分割の前提問題の解決という機能を有する
⇒その後に予定される遺産分割手続の当事者となるべき者が、遺産確認の訴えの当事者適格の判断基準とされる。

判例時報2249

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年3月10日 (火)

非公開会社の株式を相続人の1人に単独取得させるとともに、他の相続人らに対して代償金を支払わせることとされた事例

東京高裁H26.3.20      

非公開会社の株式について、同会社は典型的な同族会社であり、その経営規模からすれば、経営の安定のためには、株主の分散を避けることが望ましいという事情があり、このような事情は、民法906条所定の「遺産に属する物又は権利の種類及び性質」「その他一切の事情」に当たるとして、相続人の1人に同株式を単独取得させるとともに、他の相続人らに対して代償金を支払わせることとされた事例 
 
<事案>
平成24年に死亡した被相続人の長男H(平成22年死亡)の子である抗告人らが、被相続人の長女である相手方D及び二女である相手方Eに対して、被相続人の遺産分割を申し立てた。 
 
<規定>
民法 第906条(遺産の分割の基準) 
遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。

会社法 第174条(相続人等に対する売渡しの請求に関する定款の定め)
株式会社は、相続その他の一般承継により当該株式会社の株式(譲渡制限株式に限る。)を取得した者に対し、当該株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができる。
 
<原審>
被相続人の預貯金債権を遺産として分割の対象とすることにつき当事者全員の合意がある⇒被相続人の遺産は、三筆の土地の各共有持分(10分の6)、現金1400万円、預貯金債権137万6780円及びG株式会社の株式5万8450株(評価額を1291万7450円とすることで相続人間で合意)。

・・・・本件株式については、これをすべて抗告人らに取得させるべき事情は認められない⇒相手方両名の希望するとおり、法定相続分に応じて各相続人に取得させるのが相当であるとして、抗告人らがそれぞれ6494株、相手方両名がそれぞれ1万9484株を取得するものとし、抗告人らに対し、相手方両名に代償金としてそれぞれ585万5179円を支払うよう命じた。 
 
<抗告>
抗告人らが、本件株式を抗告人らと相手方両名の共同相続人による分割取得としたことを不服とし、本件抗告。 
 
<判断>
Gは被相続人の父であり初代社長のIが昭和24年に設立し、被相続人の夫であるJが二代目社長となり、同人の長男のHが三代目社長を承継したが平成22年に死亡したため、現在はHの妻であるKが社長を務めているが、その子である抗告人Aが次期社長に就任する予定であること、Gの資本金の額は3000万円、発行済株式の総数は60万株、従業員は6名、年商は約1億2700万円であって、建築業の傍ら、所有不動産の賃貸により年間約4500万円の賃料収入があり、これにより安定経営が確保されているが、非公開会社であり、その株式を譲渡により取得するにはその承認を要するとして、株式の譲渡制限を設けていること、平成23年におけるGの株主は10名で、被相続人の親族がその大半を保有していた。
Gは典型的な同族会社

その経営規模からすれば、経営の安定のためには、株主の分散を避けることが望ましい。 
 
このことは、会社法174条が、株式会社はその譲渡制限株式を取得した者に対して自社に当該株式を売り渡すことを請求できる旨を定款で定めることができると規定し、また、
中小企業における経営の承継の円滑化を図ることを目的として制定された中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律が、旧代表者の推定相続人は、そのうちの1人が後継者である場合には、そのうちの1人が後継者である場合には、その全員の合意をもって、書面により、当該後継者が当該旧代表者からの贈与等により取得した株式等の全部又は一部について、その価額を遺留分を算定するための財産の価額に算入しないことを合意し、家庭裁判所の許可を受けた場合には、上記合意に係る株式等の価額を遺留分を算定するための財産の価額に算入しないものとすると規定(4条1項1号、8条1項、9条1項)ことなどに表れている。
 
これらの規定は、中小企業の代表者の死亡等に起因する経営の承継がその事業活動の継続に悪影響を及ぼすことを懸念して立法されたものであり、そのような事情は、民法906条所定の「遺産に属する物又は権利の種類及び性質」「その他一切の事情」に当たるというべき。
 
本件においても、これを考慮して遺産を分割するのが相当であり、Gの株主構成や、抗告人Aが同社の次期社長に就任する予定であり、残高1250万1000円の預金通帳を提出して代償金の支払能力のあることが認められる
⇒本件株式は、全部これを抗告人Aに単独取得させるのが相当であるとし、本件株式を抗告人らの相手方両名の共同相続人による分割取得とした原審を変更。 
 
<解説> 

平成20年5月、中小企業の事業承継の総合的支援策の中核である「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」が成立。
同法は、中小企業の代表者の死亡等に起因する経営の承継が、その事業活動の継続に影響を及ぼすことに鑑み、遺留分に関し民法の特例を定めるとともに、中小企業者が必要とする資金の供給の円滑化等の支援措置を講ずることにより、中小企業における経営の円滑化を図り、もって中小企業の事業活動の継続に資することを目的とするもの。
その趣旨は、経営規模の比較的小さい同族会社の経営の安定のためには、株主の分散を避けることが望ましいという配慮に基づくもの。 
 

会社法は、相続人等に対する株式の売渡しの請求制度を設けているところ(第二編第二章第四節第五款)、同法174条は、株式会社は、相続その他の一般承継により当該株式会社の株式(譲渡制限株式に限る。)を取得した者に対し、当該株式を自社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができると規定。 

会社にとって好ましくない者が新たに株主になることを防止して、会社の非公開制を維持するための制度。

● 
相続財産が農地の場合、その遺産分割においては、農業経営者又はその承継者である相続人に農地を単独取得させ、農地以外の相続財産をそれ以外の相続人に取得させるという分割方法が採用されることが多かった。

民法906条の「遺産に属する物又は権利の種類及び性質及び性質」「各相続人の職業」等を考慮。
本件でも同様の考慮。

判例時報2244

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2014年3月25日 (火)

遺贈による特別受益と持戻免除の意思表示

大阪高裁H25.7.26   

遺言による特別受益不動産の取得につき、被相続人の黙示の持戻免除の意思表示の存在が認められなかった事例 

<事案>
X1ないしX3とYとの間において、Yが遺言により取得した特別受益不動産について、被相続人の黙示の持戻免除の意思表示があったか否かが争われた遺産分割審判の抗告審決定。 

<規定>
民法 第903条(特別受益者の相続分)
共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
2 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
3 被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思表示は、遺留分に関する規定に違反しない範囲内で、その効力を有する。

<判断>
抗告人に対する特別受益は本件遺言によるものであるところ、本件遺言には持戻免除の意思表示は記載されていない上、仮に遺言による特別受益について、遺言でなくても持戻免除の意思表示の存在を証拠により認定することができるとしても、方式の定められていない生前贈与と異なり、遺言という要式行為が用いられていることからすれば、黙示の持戻免除の意思表示の存在を認定するには、生前贈与の場合に比べて、より明確な持戻免除の意思表示の存在が認められることを要すると解するのが相当である。

<解説>

民法903条3項は、遺留分に関する規定に違反しない範囲内で、被相続人による特別受益の持戻免除の意思表示の効力を認める
同項は、持戻免除の意思表示の方式について特段の制限はしていない

生前贈与の場合においては、明示か黙示か、生前行為によるか遺言によるかは問わない。

遺贈による特別受益の場合

A:遺贈自体が要式行為⇒持戻免除の意思表示も遺言によってなされなければならない(遺言必要説)(通説)
B:生前贈与の場合と同じく黙示の意思表示による余地を認める見解
 

本決定は、遺贈についての黙示の意思表示による持戻免除を認める余地を認めた上で、黙示の意思表示の存否を厳格に判断する手法。 

判例時報2208

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2010年7月27日 (火)

嫡出子と非嫡出子の相続格差

7月10日の日経朝刊に、民法900条の合憲性が争われた遺産分割審判の特別抗告審で、最高裁第3法廷が審理を大法廷に回付したと報じられている。判例変更に必要な大法廷での再度の審理で、これまでの合憲判断が見直される可能性がでてきた。

民法900条4号は、非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1と規定する。

単純化すれば、「嫡出子」は結婚している男女間の子供で、「非嫡出子」は結婚していない男女間の子供のこと。

典型的には、夫(H)が妻(W)との間に子供(A)がいながら、別の女性との間にも子供(B)がいる場合、Aは嫡出子で、Bは非嫡出子。Hが亡くなった場合、相続分はW(2分の1)、A(3分の1)、B(6分の1)となる。
AにとってもBにとっても、Hとの関係は親子であり同じ。そこで、Hの遺産について、AとBで相続分に格差があるのは、法の下の平等を定める憲法14条に違反するのではないかが問題となる。

最高裁も、「法律婚」というシステムを前提とする制度から、立法府の有する合理的裁量判断の範囲であると判断したきたのだが、これまでの判断を変更するのかが注目される。

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪・弁護士・シンプラル法律事務所)

| | コメント (0)