知的財産権

2017年10月19日 (木)

ゴルフクラブのシャフトデザインンの著作物性が争われた事案(否定)

知財高裁H28.12.21      
 
<事案>
グラフィックデザイン等を業として行う控訴人が、ゴルフ用品等スポーツ用品の製造、販売等を目的とする株式会社である被控訴人に対し、
(1)①被告シャフトが、
主位的には、控訴人の著作物であるゴルフシャフトのデザイン(本件シャフトデザイン)の翻案に当たり、
予備的には、控訴人の著作物である本件シャフトデザインの原画(本件原画)の翻案に当たる
⇒被控訴人の被告シャフト製造、販売行為が、控訴人の著作権(翻案権、二次的著作物の譲渡権)を侵害し、

(2)被告シャフトの製造は、
主位的には、控訴人の意に反して本件シャフトデザインを改変してなされたものであり、
予備的には、控訴人の意に反して本件原画を改変してなされたもの
⇒控訴人の著作者人格権(同一性保持権)を侵害し、

(3)被控訴人のカタログ(被告カタログ)の製作は、控訴人の著作物であるカタログデザイン(本件カタログデザイン)を改変してなされたもの⇒控訴人の著作者人格権(同一性保持権)を侵害

①被告シャフトによる著作権(翻案権、二次的著作物の譲渡権)侵害につき民法703条、704条に基づく使用料相当額の不当利得金5400万円等の支払
②被告シャフト及び被告カタログによる著作者人格権(同一性保持権)侵害につき民法709条に基づく慰謝料850万円の内金425万円等の支払
③被告シャフト及び被告カタログによる著作者人格権(同一性保持権)侵害につき著作権法112条1項に基づく被告シャフト及び被告カタログの製造及び頒布の差止め並びに同条2項に基づく廃棄、並びに
④被告シャフトによる著作者人格権(同一性保持権)侵害につき、同法115条に基づく謝罪広告の掲載
を求めた事案。
 
<規定>
著作権法 第10条(著作物の例示) 
この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。
四 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物

著作権法 第2条(定義)
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
 
<判断>
応用美術の著作物性について、
一般論として、
「応用美術」は、「美術の著作物」(著作権法10条1項4号) に属するものであるか否かが問題となる以上、著作物性を肯定するためには、それ自体が美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えなければならないとしても、高度の美的鑑賞性の保有などの高い創作性の有無の判断基準を一律に設定することは相当とはいえず、
著作権法2条1項1号所定の著作物性の要件を充たすものについては、著作物として保護されるものと解すべき

控訴人が本件シャフトデザイン及び本件カタログデザインに創作性が認められる根拠としてあげた点につき、いずれも創作的な表現ではないと判断。
 
<解説>
応用美術の著作物性について、近時の知財高裁判決では、
①実用目的の応用美術であっても、
実用目的に必要な構成を分離して、美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できるもの⇒美術の著作物として保護すべき。
実用目的に必要な構成と分離して、美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握することができないもの⇒著作物として保護されない。
(知財高裁H26.8.28)と、

②応用美術が「美術の著作物」として保護されるために、
応用美術に一律に適用すべきものついて、高い創作性の有無の判断基準を設定することは相当とはいえず、個別具体的に、作成者の個性が発揮されているか否かを検討すべきであるとしたもの(知財高裁H27.4.14)。

本判決は、後者②の判決の流れを汲むものであるが、応用美術の著作物性を肯定するためには、それ自体が美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えなければならない点を明確にした。

判例時報2340

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2017年10月13日 (金)

不正競争防止法2条1項3号の「他人の商品」該当性等

知財高裁H28.11.30      
 
<事案>
控訴人(一審原告)らは、試験管用の加湿器を共同で開発したプロダクトデザイナー。控訴人加湿器1を平成23年11月に国際展示会へ、控訴人加湿器2を平成24年6月に国際見本市へ、それぞれ出展し、平成27年1月5日頃から、控訴人加湿器3を販売。
被控訴人は、生活雑貨の輸入等を業とする株式会社であり、平成25年に試験管用の加湿器(被控訴人商品)を中国から輸入し、国内の各取引先に販売。 

控訴人らが、被控訴人に対し、
①被控訴人商品が控訴人加湿器1・2の形態を模索したもの⇒不正競争防止法違反(不正競争防止法2条1項3号)に基づいて被控訴人製品の輸入、販売等の差止め等を、
②控訴人加湿器1・2は美術の著作物(著作権法10条1項4号)に当たり、被控訴人商品はこれを複製・翻案したもの⇒著作権に基づいて被控訴人商品の輸入、販売等の差止め等を
求めた。
 
<規定>
不正競争防止法 第2条(定義)
この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
三 他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する行為

不正競争防止法 第19条(適用除外等)
第三条から第十五条まで、第二十一条(第二項第七号に係る部分を除く。)及び第二十二条の規定は、次の各号に掲げる不正競争の区分に応じて当該各号に定める行為については、適用しない。

五 第二条第一項第三号に掲げる不正競争 次のいずれかに掲げる行為
イ 日本国内において最初に販売された日から起算して三年を経過した商品について、その商品の形態を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する行為
 
<原審>
控訴人加湿器1・2は、いずれも、市場における流通の対象となる物とは認められない⇒不正競争防止法2条1項3号にいう「商品」に当たらない。 
両加湿器は、いずれも、美的鑑賞の対象となり得るような創作壊死を備えていると認めることはできない⇒著作物に当たらない 
 
<判断> 
「他人の商品」(不正競争防止法2条1項3号)に該当するためには、「商品化」を完了していれば足り、その商品化といえるためには、商品としての本来の機能が発揮できるなど販売を可能とする段階に至っており、かつ、それが外見的に明らかになっている必要がある。
②商品展示会に出展された商品は、特段の事情がない限り、開発、商品化を完了し、販売を可能とする段階に至ったことが外見的に明らかになった物品であるとして認められる。
③保護期間(不正競争防止法19条1項5号ロ)の始期は、開発商品化を完了し、販売を可能とする段階に至ったことが外見的に明らかになった時。

被控訴人商品は控訴人加湿器1・2を模倣したものであるから、不正競争防止法所定の保護期間内にされた被控訴人商品の輸入は不正競争に当たる。
but
口頭弁論終結時点では前記保護期間は既に経過している。
控訴人加湿器1・2は美術の著作物とは認められない。
 
<解説>
●「他人の商品」について 

本判決:
商品開発者の保護という法的要請と、②取引の安全性という社会的要請の両要請に鑑みて、保護に値する投資の地度とその外部からの観察可能性という観点

「他人の商品」(不正競争防止法2条1項3号)に該当するためには、「商品化」を完了していれば足り、その商品化といえるためには、商品としての本来の機能が発揮できるなど販売を可能とする段階に至っており、かつ、それが外見的に明らかになっている必要がある。
試作品段階のものが保護の対象とはしていない。

サンプル出荷できる段階では商品化を終えていると説示するもの(東京地裁H16.2.24)
 
●「最初に販売された日」について 

本判決:
法文の用語からは若干離れるものの、
①先行開発者の保護と後行開発者の利益とのバランスを取ろうとした保護期間の規定の趣旨や
②知的財産法の法体系との整合性

保護期間(不正競争防止法19条1項5号ロ)の始期は、開発商品化を完了し、販売を可能とする段階に至ったことが外見的に明らかになった時
 
●応用美術品の著作物性について 
「応用美術」という用語には、明確な定義がない。
主に想定されているのは、量産される実用品に用いられている美観(形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合)であr、これを「美術の著作物」(著作権法10条1項4号)又は「著作物」(同法2条1項1号)として、著作権法で保護できるのかという問題。

本判決:
応用美術が著作物性を認められるためには、個性の発露があり、また、美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備える必要があると判断。
but高度の創作性は要しない。

控訴人らのスティック型加湿器については、個性の発露が認められない著作物性を否定

判例時報2338

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2017年10月 1日 (日)

吸入器に係る本願意匠と引用意匠の類否について類似性が否定された事例

知財高裁H28.11.30      
 
<事案>
Xは、本願意匠(物品「吸入器」)の登録出願⇒拒絶査定⇒不服の審判を請求⇒特許庁は、本願意匠は引用意匠に類似する意匠であるから意匠法3条1項3号に該当するとして、不成立審判⇒Xが、同審決の取消しを求めた。
 
<規定>
意匠法 第3条(意匠登録の要件)
工業上利用することができる意匠の創作をした者は、次に掲げる意匠を除き、その意匠について意匠登録を受けることができる。
一 意匠登録出願前に日本国内又は外国において公然知られた意匠
二 意匠登録出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された意匠又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた意匠
三 前二号に掲げる意匠に類似する意匠

2 意匠登録出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたときは、その意匠(前項各号に掲げるものを除く。)については、前項の規定にかかわらず、意匠登録を受けることができない。

意匠法 第24条(登録意匠の範囲等)
登録意匠の範囲は、願書の記載及び願書に添附した図面に記載され又は願書に添附した写真、ひな形若しくは見本により現わされた意匠に基いて定めなければならない。
2 登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとする。
 
<判断>   
本件意匠は、引用意匠と類似するとはいえず、意匠法3条1項3号に該当しない⇒本件審決の判断は誤りであるとして、審決を取り消した。
 
●量意匠に係る物品の需要者 
意匠に係る物品は、いずれも使用者が本体部を持って、マウスピース部から薬剤を吸引するための吸引器に関するものであり、その需要者は、当該薬剤を吸引する必要のある患者及び医療関係者

需要者である患者は、薬剤を必要とする際に吸入器を使用するものであって、その使用方法は、本体部を持って、マウスピース部を口にくわえて、薬剤を吸引するというものであり、両意匠に係る物品を、このような使用状況に応じて観察。

需要者である医療関係者は、患者が薬剤を適切に吸引できるよう、薬剤の性質に応じた吸引の機能を有しているか否か、患者の症状や属性に応じた使用が可能か否かという観点から、両意匠に係る物品を観察し、選択。

持ちやすさや使いやすさという観点からは、吸入器全体の基本的構成態様が需要者の注意を惹く部分であるとともに、
薬剤の吸引という吸入器の機能の観点からは、患者が薬剤を吸引するマウスピース部の端部の形態が最も強く需要者の注意を惹く部分
 
●基本的構成態様
意匠に係る物品の基本的な構成は、必然的に限定される。
基本的構成態様と同様の態様を有する吸入器がありふれたものとして存在。

基本的構成態様は、需要者である患者及び医療関係者の注意を強く惹くものとはいえない
 
●具体的構成態様 
本願意匠のマウスピース部の端部に形成された円形孔は、特に機能を重視する医療関係者に対し、強い印象を与えるものということができ、患者についても同様。
引用意匠のマウスピース部の端部のような態様の吸入部は、ありふれたもの。

本願意匠のマウスピース部の端部に円形孔が形成されている点は、最も強く需要者の注意を惹く部分。
 
●両意匠の類否 
両意匠に係る物品の性質、用途及び使用態様並びに公知意匠との関係を総合すれば、
マウスピース部の端部の形態の相違は、需要者である患者及び医療関係者らの注意を強く惹き、視覚を通じて起こさせる美感に大きな影響

マウスピース部の端部についての相違点は、それ以外の共通点から生じる印象に埋没するものではない
 
<解説>
意匠登録出願前に日本国内又は外国において、公然知られた意匠又は頒布された刊行物に記載された意匠等(「公知意匠」)に類似する意匠は、意匠登録を受けることができない(意匠法3条1項3号)。 

意匠法3条1項3号の類似性について、
最高裁昭和49.3.19において、「一般需要者の立場からみた美観の類否を問題とする」旨説示され、平成18年法律第55号により新設された意匠法24条2項には、「登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとする」と規定。

最高裁昭和49.3.19:
意匠法3条1項3号の類似性と同条2項の創作容易性とは別個の観念であるとした。

この2つは、ともに創作性の要件に関するものではあるが、
同条1項3号は、「公知意匠と構成要素において部分的差異があっても、その全体より生ずる美感ないし意匠的効果の面においてなんら異なるところのない意匠は、本質的に公知意匠に含まれるものであり、創作として未知のものと評価するに値しない」ことから、類似の意匠として登録しないこととしたもの(最判解説)。

類似性の判断主体は、需要者であると理解されているところ、かかる需要者は「当該意匠に係る物品の分野に通暁した専門家ではないが、先行意匠にもある程度の予備知識のある取引者を含めた需要者が想定されているもの」と解される。

本判決は、類似性の判断主体である需要者に着目し、その観察、選択態様を具体的に着目し、その観察、選択態様を具体的に考察して、需要者の注意を惹く部分の認定評価を行った点が特徴的。

判例時報2337

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2017年9月20日 (水)

特許法102条2項における推定覆滅率等についての事案

東京地裁H28.12.6      
 
<事案>
①発明の名称を「遮断弁」とする特許権(X特許権1)を有し、また、発明の名称を「流体制御弁」又は「遮断弁」とする3件の各特許権(X特許権2~4)を有していたXが、遮断弁(Y製品)を販売するYに対し、
X特許権の1の侵害を理由として、Y製品の販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに、
X特許権1~4の侵害を理由として、損害賠償金及び不当利得返還金の合計2億5607万5000円(一部請求)並びに遅延損害金の支払を求めた事案(本訴)
②発明の名称を「モーター駆動双方向弁とそのシール構造」とするYと第三者との共有特許権(Y特許権)を有していたYが、遮断弁(X製品)を販売するXに対し、
Y特許権の侵害を理由として、損害賠償金及び不当利得返還金の合計5000万円(一部請求)及び遅延損害金の支払を求めた事案(反訴) 
 
<争点>
本訴請求について:
①文言侵害及び均等侵害の成否(争点(1)~(3))
②差止め・廃棄請求の必要性(争点(4))
③Xの損害額及びYの不当利得額(争点(5))

反訴請求について:
①文言侵害の成否(争点(6))
②無効理由(進歩性欠如、サポート要件違反、更正不可欠要件違反)の有無(争点(7))
③訂正の再抗弁の成否(争点(8))
④Yの損害額及びXの不当利得額(争点(9))
 
<判断>
●本訴請求に関し損害賠償金債権(遅延損害金を含む)約2億5300万円、
反訴請求に関し損害賠償金及び不当利得返還請求債権(同)合計1憶6400万円
がそれぞれ生じたと認めた上、
前記各債権はX・Y間の相殺合意によって対等額で消滅

Yに対し、前記各債権の差額である約8900万円等の支払を命じる一方、反訴請求は棄却。
 
●本訴請求について 
Y製品がX特許権1に係る文言侵害を認めたが、
X特許権2~4については文言侵害及び均等侵害のいずれも認めなかった。
差止め、廃棄の必要性については一部を除き認められる。
特許法102条2項の推定に対する覆滅割合をXが主張するとおり20%と判断し、約2億4100万円(Y製品の限界利益の8割及び弁護士費用2200万円の合計額)をX特許権1の侵害によって生じたXの損害と認定。
 
●反訴請求について 
Yの訂正発明について無効理由が存在せず、かつ、X製品がY訂正発明の技術的範囲に属するとして訂正の再抗弁を認める。
Y訂正発明に係る訂正が特許請求の範囲の減縮を目的とするもの
⇒X製品は同訂正前のY発明の技術的範囲に当然に属する
⇒訂正前発明についての無効理由の存否を判断するまでもなく、X製品はY特許権を侵害。

特許法102条2項に基づく損害額(反訴提起日から遡って3年前の日以降の分)につき、同条項の推定に対する覆滅割合をYが主張するとおり20%と判断

Y特許権が共有特許権であることによる推定覆滅について、共有者によるY特許権の実施割合は認められないことを前提に、特許法102条3項に基づく損害額の覆滅されるとした上、仮想実施両立を4%と算定し、約1億500万円(Y製品の限界利益の8割から共有者の損害額を減じた額及び弁護士費用950万円の合計額)をY特許権の侵害によって生じたYの損害と認定。
さらに、民法703条に基づくXの不当利得額(反訴提起日から遡って10年前の日から同3年前の日の前日までの分)につき、約4000万円と認定。

Yは、Y特許発明が基本特許である価値が高いのに対して、X特許発明はY特許発明の改良発明にすぎず、その技術的意義が小さいと主張。
but
本判決は、
Y製品の売上に対するX特許発明とY訂正発明の技術的意義や発明の客観的価値が相違する旨のYの上記主張は、直ちに推定覆滅率についての判断を左右するものとはいえず失当である旨判示。)
 
<規定>
特許法 第102条(損害の額の推定等)
2 特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額と推定する。
 
<解説>
特許法102条2項は、侵害者が侵害の行為により利益を受けているときに、その利益がの額を特許権者等の損害の額と推定する旨規定するところ、特許権者に、侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られただろうという事情が存在する場合には2項の適用が認められると解すべきであり、特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在するなどの諸事情では、推定された損害額を覆滅する事情として考慮され(知財高裁H25.2.1)、いわゆる寄与率として控除(推定の一部覆滅)されることとなる。

この2項の推定の覆滅の有無及び割合を認定するに当たっての考慮事情としては、侵害品全体に対する特許発明の実施部分の価値の割合、営業的要因(市場における代替品の存在、侵害者の営業努力、広告、独自の販売形態、ブランド等)、侵害品自体の特徴(侵害品の性能、デザイン、需要者の購買に結びつく当該特許発明以外の特徴等)等が挙げられることが多い。

本判決は、同様の判断枠組及び判断要素を採用した上、
①対象発明の技術的意義及び
②侵害品の具体的構成に加えて
③侵害品の構成全体について対象発明が実施されていること、
④市場がX・Yの寡占状態で需要者にとってX製品・Y製品以外の代替品の選択肢がほぼ存在しないこと、
⑤X・Yが長年にわたり対象製品について拮抗する市場シェアを有していたこと
などを考慮

いずれも大幅な推定覆滅を認めることは相当でないとして、本訴・反訴共に20%の限度でのみ推定の覆滅を認めた。

●2項侵害に係る損害論の審理においては、しばしば、侵害者から、推定覆滅事情の主張として、対象となる特許発明の価値(技術的意義)が小さいとの主張がなされる。
but
2項は侵害者の利益額を権利者の損害額と推定するもの。

2項による推定を覆滅させるためには、侵害者において、権利者の売上減少による逸失利益の額の数量的ないし金額的な全部又は一部の不存在を基礎付けるに足りる事情、すなわち、侵害者の利益額に結びついた特許権侵害以外の要因(侵害者の資本、営業努力、宣伝広告、製造技術等)を具体的に主張・立証することが必要。

発明の技術的意義や客観的価値の大小が2項の推定覆滅の可否又は割合と直ちに結び付くものではない。
but
侵害者の利益額に結びつく当該発明以外の具体的な要因が認められた場合には、特許発明の技術的意義の大小が推定覆滅割合を判断する上での一事情として考慮されることもあり得る。

●2項については、侵害行為と特許権者等の製品の販売減少との相当因果関係を阻害する事情については、特許発明外侵害品の一部のみに実施される部品特許の場合を除いては、
1項においてはただし書の事情として
2項については推定覆滅の事情として、
いずれも侵害者に立証責任を負わせることが相当であり、
「寄与度減額」という発想からは決別すべきである旨が指摘されている。 

判例時報2336

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2017年6月20日 (火)

スーツケース等の特定の態様のリブからなる表面形状の周知商品等表示性(否定)

大阪地裁H28.5.24      
 
<事案>
スーツケース等を製造販売しているXが、その製造販売に係るスーツケースの表面形状はXの商品等表示として周知であり、これに類似した表面形状を使用したスーツケースのYによる販売はXの商品と混同を生じさせる不正競争防止法2条1項1号の不正競争に該当する行為⇒Yに対し、同法3条に基づき同行為の差止め及びYの販売に係るスーツケースの廃棄を求めるとともに、同法4条に基づいて損害賠償の支払いを求めた事案。
 
<主な争点>
Xの商品に共通する表面形状がXの商品等表示として周知か? 
 
<判断>
●特定の商品形態が他の業者の同種商品と識別しうる特別顕著性を有し、かつ、その商品形態が、長期間継続的かつ独占的に使用され、又は短期間でも強力な宣伝が行われたような場合には、結果として、商品の形態が、商品の出所表示の機能を有するに至り、商品表示としての形態が周知性を獲得する場合がある。

複数の商品からなる商品群であっても、その共通形態においてかかる要件を満たし得るのであれば、商品表示としての形態が周知性を獲得する場合がある。

Xの商品群に共通する、ある商品形態が周知商品等表示となったというためには、その商品群が原告製の商品のうちでも販売実績が多く、また宣伝広告の頻度の多いもの、すなわち、需要者が原告製の商品として認識する機会が多い商品群であるということを明らかにした上で、これらの商品群の商品全体を観察して需要者が認識し得る商品形態の特徴を把握して、商品形態の特徴が特別顕著性を有し、かつ、販売実績や宣伝広告の実態から出所表示機能を獲得して周知となったといえることが主張立証されるべき。 

●その上で、裁判所は、需要者に認識される機会の多いXのスーツケースに共通する形態と一般的なスーツケースの商品形態について検討し、需要者に認識される機会の多いXのスーツケースは、
①②③・・・という点に商品形態の特徴があり、これらの3つの商品形態の特徴が相俟って、他のスーツケースと識別しうる特別顕著性を有するものと認められるのであって、①のみで特別顕著性を有するというXの主張を採用することはできない。
 
<解説>
●商品形態が商品等表示に該当し得るか?
商品の形態が「商品等表示」(不正競争防止法2条1項1号)に該当するためには、実務上、
①商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性)かつ、
②その形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され、又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により(周知性)
需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていることを要する(知財高裁H24.12.26)。
 
●どのような商品群に共通する形態が商品等表示に該当し得るか? 

一般的に、ある商品が広く世に知られたものである場合、その商品のどのような形態を商品等表示と特定して主張するかにより、裁判の帰趨は異なり得る。

裁判では、不正競争を主張する者が商品等表示に該当する形態を特定して主張することが必要であり、その形態を対象として相手方の不正競争行為の成否が審理されることになる(控訴審でなされた商品等表示に該当する形態を変更する原告の主張を時期に後れたものとして却下した事例(知財高裁H17.7.20))。

本判決は、商品群の特定の問題について、不正競争を主張する者において、その商品群が自己の商品のうちでも販売実績が多く、また宣伝広告の頻度の多いもの、すなわち、需要者が原告製の商品として認識する機会が多い商品群であることを明らかにすることが必要であることを述べた。

判例時報2327

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2017年6月10日 (土)

意匠の類否について

知財高裁H28.7.13      
 
<事案> 
発明の名称を「道路橋道路幅員拡張用地覆ユニット及び道路橋道路幅員拡張用地覆ユニット設置方法」とする本件特許及び意匠に係る物品を「道路橋道路幅員拡張用張出し材」(「本件物品」)とする本件意匠権を有するXが、YによるY製品の製造、譲渡等はXの本件特許権及び本件意匠権を侵害すると主張して、Yに対し、Y製品3の譲渡等の差止め及び廃棄等を求めるとともに、損害賠償金1720万6051円等の支払を求めた事案。
 
<判断> 
●登録意匠と対比すべき相手方の意匠とが類似であるか否かの判断:
需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行う(意匠法24条2項)ものとされており、意匠を全体として観察することを要する。
この場合、 意匠に係る物品の性質、用途及び使用態様、並びに公知意匠にはない新規な創作部分の存否を参酌して、取引者・需要者の最も注意を惹きやすい部分を意匠の要部として把握し、登録意匠と相手方意匠とが、意匠の要部において構成態様を共通にしているか否かを重視して、観察を行うべき。

●本件意匠の要部 
本件意匠の構成のうち、要部は、道路橋の利用者から注目される全面側の舗装層によって隠れない部分であるといえ、また、背面側及び底面側のうち、施工後も公衆から見える部分も、ある程度取引者・需要者の注意を惹くといえる。

しかし、基本的構成態様(正面視左右方向に長く、長手方向に中空の直方体(中空筒体)を有し、中空筒体の正面側の面(前面側)の外方に向けて底面側の面(底面側)が前面にわたって延伸して延伸部が形成され、底版部(底面側と延伸部からなる)の下面に、その左右方向の全面にわたって下方に延びる四角板状体(腹板)が形成され、中空筒体の背面部の面(背面側)の下の底面側の下面から、腹板の最低位までを直線状につなぐ三角板状態(リブ)が左右方向に複数形成されている。)自体は、施工後に見えなくなる部分が含まれる以上、要部であるといえない

●本件意匠とY意匠との類否 
本件意匠とY意匠1及び2とは、要部である全面側の舗装による隠れない部分において構成態様に大きな差異があり、背面側の構成態様にも一定の差異がある
取引者・需要者の注意を惹くものの程度が弱い底面側の構成態様が類似していることを加味しても、両意匠を全体として観察した際に、看者に対し異なる美感を起こさせるものと認められる

判例時報2325

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2017年5月 9日 (火)

著作権判例百選事件保全抗告決定

知財高裁H28.11.11    
 
<事案>
Xは、自らが編集著作物たる「著作権判例百選(第4版)」(「本件著作物」)の共同著作者の一人であることを前提に、Yが発行しようとしている雑誌「著作権判例百選(第5版)」(「本件雑誌」)は本件著作物を翻案したもの
本件著作物の翻案権並びに二次的著作物の利用に関する原著作物の著作者の権利(著作権法28条)を介して有する複製権、譲渡権及び貸与権又は著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)に基づく差止請求権を被保全権利として、Yによる本件雑誌の複製・頒布等を差し止める旨の仮処分命令を求める申立てをした。
   
東京地裁は本件仮処分申立には理由があると判断⇒Yが保全異議の申立て⇒原決定は、本件仮処分決定を認可⇒Yが原決定及び本件仮処分決定の取消し並びに本件仮処分申立ての却下を求めた。
 
<争点>
①Xが本件著作物の共同編集著作者の一人か
②翻案該当性ないし直接感得性
③本件著作物を本件原案の二次的著作物とする主張の当否
④氏名表示権の侵害の有無
⑤同一性保持権の侵害の有無
⑥黙示の許諾ないし同意の有無
⑦著作権法64条2項、65条3項に基づく主張の当否
⑧権利濫用の有無
⑨本件雑誌の出版の事前差止めの可否
⑩保全の必要性 
 
<規定>
著作権法 第12条(編集著作物)
編集物(データベースに該当するものを除く。以下同じ。)でその素材の選択又は配列によつて創作性を有するものは、著作物として保護する。
2 前項の規定は、同項の編集物の部分を構成する著作物の著作者の権利に影響を及ぼさない。
 
著作権法 第14条(著作者の推定) 
著作物の原作品に、又は著作物の公衆への提供若しくは提示の際に、その氏名若しくは名称(以下「実名」という。)又はその雅号、筆名、略称その他実名に代えて用いられるもの(以下「変名」という。)として周知のものが著作者名として通常の方法により表示されている者は、その著作物の著作者と推定する。.
 
<判断>
①本件著作物の表紙にA教授、X、B教授、C教授の氏名に「編」と付して表示されている
②はしがきの記載

本件著作物には、Xの氏名を含む本件著作物の編者らの氏名が編集著作者名として通常の方法により表示されている

Xについて著作権法14条に基づく著作者の推定が及ぶ

著作者の推定の覆滅の可否:
編集著作物の著作者の認定につき、
素材について創作性のある選択及び配列を行った者は著作者にあたり、
②本件著作物のような共同編集著作物の著作者の認定が問題となる場合、編集方針を決定した者も、当該編集著作物の著作者となり得る。

他方、編集方針や素材の選択、配列を消極的に容認することは、いずれも直接創作に携わる行為とはいい難い⇒これらの行為をしたにとどまる者は当該編集著作物の著作者とはなり得ない。

共同著作物の著作者の認定につき、ある者の行為につき著作者となり得る程度の創作性を認めることができるか否かは、
①当該行為の具体的内容を踏まえるべきことは当然として、さらに、
②当該行為者の当該著作物作成過程における地位、権限、当該行為のされた時期、状況等に鑑みて理解、把握される当該行為の当該著作物作成過程における意味ないし位置付けをも考慮して判断されるべき。

Xは、本件著作物の編集過程においてその「編者」の一人とされてはいたものの、実質的にはむしろアイデアの提供や助言を期待されるにとどまるいわばアドバイザーの地位に置かれ、X自身もこれに沿った関与を行ったにとどまるものと理解するのが、本件著作物の編集過程全体の実態に適する

著作権法14条による推定にもかかわらず、Xをもって本件著作物の著作者ということはできないと判断し、著作者の覆滅を認め、本件仮処分決定及びこれを認可した原決定をいずれも取り消し、本件仮処分申立てを却下。
 
<解説>
著作権法 第17条(著作者の権利)
2 著作者人格権及び著作権の享有には、いかなる方式の履行をも要しない。
著作権法は、創作時点で権利が発生する無方式主義(法17条2項)を採用⇒その著者を特定することが困難な場合も想定される。
⇒14条に著作者の推定規定をおき、調整を行っている。

14条の推定を受けるには
原作品への氏名等の表示
実名または周知な変名の表示がされていること
通常の方法による表示がされていること
が求められる。

自らが著作者であると主張する者は、具体的な創作について主張するまでもなく、例えば書籍であれば表紙や奥付に著作者として表示されていればそれをもって著作者と推定されることになり、
この推定を争う場合には、その事実の推定を覆す立証をその相手方がする必要がある。

編集著作物(著作権法12条1項)の著作者として認められるためには、表現の創作行為への実質的な関与が必要

最高裁H5.3.30:
「企画案ないし構想の域」を出ない程度の関与は、著作者としては認められない。

東京地裁昭和55.9.17:
配列について相談に与って意見を具申すること、又は他人の行った編集方針の決定、素材の選択、配列を消極的に容認することは、いずれも直接創作に携わる行為とはいい難い。

判例時報2323

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2017年5月 8日 (月)

ライブハウスの経営者が演奏主体(=著作権侵害者)に当たるとされた事例

東京地裁H28.3.25      
 
<事案>
著作権等管理事業者であるXが、Y1及びY2に対し、Yらが共同経営しているライブバーにおいて、Xとの間で利用許諾契約を締結しないままライブを開催し、Xが管理する著作物を演奏(歌唱を含む)させていることが、Xの有する著作権(演奏権)侵害に当たる

①管理著作物の演奏・歌唱による使用の差止めを求め
②著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求又は不当利得返還請求として、連帯して使用料相当額及び弁護士費用の支払を求め
③不法行為にも届く損害賠償請求又は不当利得に基づく返還請求として、平成27年11月1日から管理著作物の使用終了に至るまで、連帯して使用料相当額の支払を求めた。
 
<判断>
①Yらが共同して、ミュージシャンが自由に演奏する機会を提供するために本件店舗を設置、開店したという経緯、②ライブハウスの管理状況、③ライブの客から飲食代として最低1000円を徴収していること等の諸事情を総合
⇒Yらが、管理者作物の演奏主体(侵害主体)に当たる。 

Xに著作権管理を委託している著作者は、Xとの間で、全ての著作権及び将来取得する全ての著作権を信託財産としてXに移転する内容の契約を締結⇒著作者自身が演奏する場合であっても、Xに無許諾で演奏することは著作権侵害に当たる

著作権侵害の故意の有無の判断に当たっては他人の権利を有する楽曲を利用する認識があれば足りる⇒Yらには故意があった。

本件調停の過程において管理著作物の利用に係る許諾契約が成立しているとは認められない。
Xによる請求は、過去の交渉経緯等に照らしても権利濫用に当たらない。

Xの差止請求を認めるとともに、過去の本件店舗における演奏に係る損害賠償請求又は不当利得返還請求については、証拠により認められる限度で一部認容。
将来の給付請求については、あらかじめその請求をする必要がある場合に当たらないとして棄却。
 
<解説>
クラブ・キャッツアイ事件(最高裁昭和63.3.15)、ロクラクⅡ事件(最高裁H23.1.20):
最高裁は、
演奏主体に関し、クラブキャッツアイ事件で、
スナックにおける客のカラオケ歌唱について、
①店の経営者の管理の下に歌唱していると解されていること
②店の経営者が、客の歌唱を利用して営業上の利益を増大させることを意図していること
店の経営者が演奏主体であると判断。

複製主体に関し、ラクロスⅡ事件で、
サービス提供者が、その管理、支配下において、放送を受信して複製機器に対して放送番組等に係る情報を入力するという複製の実現における枢要な行為をしている
サービス提供者が複製主体に当たる。 

本判決:
Yらが、①演奏を管理・支配し、②演奏の実現における枢要な行為を行い、③それによって利益を得ている⇒Yらが侵害主体に当たる

本件ライブバーは、ライブ客から徴収したミュージックチャージの全額を出演者が得ているなど通常のライブハウスとは多少異なる営業実態。

判例時報2322

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2017年5月 7日 (日)

特許法102条1項の構造、同ただし書の「販売することができないとする事情」

知財高裁H28.6.1      
 
<事案>
①発明の名称を「破袋機とその駆動方法」とする発明に係る本件特許権を有する一審原告が、一審被告が製造販売する破袋機は、本件特許発明1ないし3の技術的範囲に属する
②一審被告が被告製品を生産、譲渡等する行為は、本件特許権を侵害する行為であり、また、一審被告から被告製品を購入した顧客が、業として被告製品を使用する行為は本件特許権を侵害する行為であるところ、一審被告が顧客の使用する被告製品を保守する行為は、顧客による被告製品の使用という本件特許権の侵害行為を幇助するもの

一審被告に対し、
①特許権100条に基づき、被告製品の生産、譲渡等の差止め並びに被告製品及びその半製品の廃棄、
②不法行為による損害賠償請求権に基づき、損害賠償金の一部である2816万9021円及び遅延損害金の支払
を求めた事案。
 
<規定>
特許法 第102条(損害の額の推定等)
特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為を組成した物を譲渡したときは、その譲渡した物の数量(以下この項において「譲渡数量」という。)に、特許権者又は専用実施権者がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、特許権者又は専用実施権者の実施の能力に応じた額を超えない限度において、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者又は専用実施権者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。
 
<原審> 
①被告製品は、本件特許発明1,2の技術的範囲に属するが、本件特許発明3の技術的範囲に属さない。
②本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものであるとはいえない。
③一審被告が被告製品を譲渡したことによる損害額は1758万3700円(特許法102条1項)である。
④一審被告が被告製品を保守したことによる損害賠償請求は理由がない。

一審原告の請求を、
①被告製品の清算、譲渡等の差止め並びに被告製品及びその半製品の廃棄、
②1756万3700円及びこれに対する遅延損害金の支払
を求める限度で認容。 
 
<判断>
被告製品は、本件特許発明1,2の技術的範囲に属する旨判示。
損害について増額変更。
 
<判断・説明>
●特許法102条1項の趣旨
侵害者の営業努力や代替品の存在等、権利者において侵害品の販売数量と同数の販売をすることが困難であった事情が訴訟において明らかになった場合でも、それらの事情を考慮した上で現実的な損害額が算定できるルールとして、同項が新設された。
 
●特許法102条1項の構造
「①特許権者又は専用実施権者を侵害した者・・・がその侵害の行為を組成した物を譲渡したとき・・・譲渡した物の数量」に
「②特許権者又は専用実施権者がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額」
を乗じた額を、
「③特許権者又は専用実施権者の実施の能力に応じた額を超えない限度」において、
特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額とすることができる。
同項ただし書によれば、
「④譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者又は専用実施権者が販売することができないとする事情に相当する数量」に応じた額を控除。

損害の計算式:
「(①-④)×②」(≦③)
で、
①②③の事実は、特許権者側が主張立証
④は、被告側が主張立証。
 
●特許法102条1項の解釈 
②の「侵害行為がなければ販売することができた物」とは、侵害行為によってその販売数量に影響を受ける特許権者等の製品、すなわち、侵害品と市場において競合関係に立つ特許権者等の製品であれば足りると解すべき。
特許権者の製品が侵害品と競合可能性を有する物であれば足り、同一のものであることを要しないとするのが多数説・判例の立場。

②の「単位数量当たりの利益額」は、特許権者等の製品の販売価格から製造原価及び製品の販売数量に応じて増加する変動経費を控除した1個当たりの額(限界利益の額)とするのが裁判例。

④の「販売することができないとする事情」は、侵害者の営業努力や代替品の存在等をいうもの。

侵害行為と特許権者等の製品の販売減少との相当因果関係を阻害する事情に特に制限があるわけではなく、これらの事情の立証責任が被告側にあることがポイント。

本判決は、「販売することができないとする事情」は、侵害行為と特許権者等の製品の販売減少との相当因果関係を阻害する事情を対象とし、例えば、市場における競合品の存在、侵害者の営業努力(ブランド力、宣伝広告)、侵害品の性能(機能、デザイン等特許発明以外の特徴)、市場の非同一性(価格、販売形態)などの事情がこれに該当。
一審被告が主張した事情はこれに当たらない。

判例時報2322

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2017年4月26日 (水)

プログラム著作物の複製・翻案、ソースコードの「営業秘密」性(肯定)

知財高裁H28.4.27      
 
<事案>
一審原告(被控訴人)は、原告プログラム著作権等を有し、そのソースコードは原告の営業秘密であったところ、そのもと従業員であった一審被告(控訴人B)が、一審被告(控訴人A)に入社しで同様のプログラムを作成し、これを搭載した児童接触角計を製造、販売したことが、著作権侵害・不正競争行為等に当たるか否かが問題となった。

A事件およびB事件:
被控訴人が、
①控訴人の「接触角計算(液滴法)プログラム」は、控訴人Aが控訴人Bの担当の下に原告プログラムのうち「接触角計算(液滴法)プログラム」を複製又は翻案したものであって著作権違反に当たり、
②控訴人Bが、被控訴人の営業秘密である原告プログラムのソースコード(原告ソースコード)やアルゴリズム(原告アルゴリズム)を控訴人Aに不正に開示し、控訴人Aがこれを不正に取得したことは、不正競争防止法2条1項7号及び8号に該当する行為であり、
③控訴人らのこれらの行為は、被控訴人の法的利益を侵害する共同不法行為に該当する行為又は、
④控訴人Bの労働契約上の債務不履行に該当する行為

A事件では、控訴人A・Bに対し損害賠償を求め
B事件では、控訴人A・B・Cに対し、被告新バージョンの複製等の差止めを求め、廃棄、損害賠償等を求めた。

C事件は、
控訴人A・Cが、
①被控訴人のB事件の訴訟提起が不法行為に当たる、
②被控訴人がしたホームページにおける告知行為等は不正競争防止法2条1項15号に該当する
⇒被控訴人に損害賠償の支払を求めた。

<規定>
著作権法 第2条(定義)
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

十五 複製 印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいい、次に掲げるものについては、それぞれ次に掲げる行為を含むものとする。
イ 脚本その他これに類する演劇用の著作物 当該著作物の上演、放送又は有線放送を録音し、又は録画すること。
ロ 建築の著作物 建築に関する図面に従つて建築物を完成すること。

著作権法 第114条(損害の額の推定等)
著作権者、出版権者又は著作隣接権者(以下この項において「著作権者等」という。)が故意又は過失により自己の著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為によつて作成された物を譲渡し、又はその侵害の行為を組成する公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行つたときは、その譲渡した物の数量又はその公衆送信が公衆によつて受信されることにより作成された著作物若しくは実演等の複製物(以下この項において「受信複製物」という。)の数量(以下この項において「譲渡等数量」という。)に、著作権者等がその侵害の行為がなければ販売することができた物(受信複製物を含む。)の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、著作権者等の当該物に係る販売その他の行為を行う能力に応じた額を超えない限度において、著作権者等が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡等数量の全部又は一部に相当する数量を著作権者等が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。

第2条(定義)
この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。

七 営業秘密を保有する事業者(以下「保有者」という。)からその営業秘密を示された場合において、不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、又は開示する行為

八 その営業秘密について不正開示行為(前号に規定する場合において同号に規定する目的でその営業秘密を開示する行為又は秘密を守る法律上の義務に違反してその営業秘密を開示する行為をいう。以下同じ。)であること若しくはその営業秘密について不正開示行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得し、又はその取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為

<原審>
A事件を一部認容し、B事件、C事件を棄却。 
 
<判断>   
著作権侵害及び不正競争防止法違反等を肯定し原判決を変更。 
 
●複製又は翻案の成否 
旧バージョンについて、
①そのプログラム構造の大部分が同一
②ほぼ同様の機能を有するものとして1対1に対応する各プログラム内のブロック構造において、機能的にも順番的にもほぼ1対1の対応関係が見られる
③これらの構造に基づくソースコードは、被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは、原告接触角計算(液滴法)プログラムのうち本件対象部分と創作的な表現部分において同一性を有し、これに接する者が本件対象部分の表現上の本質的な特徴を直接感得することができる。
 
●原告ソースコードの営業秘密該当性 
肯定。
 
●その余の請求について 
旧バージョンについて、控訴人Bは、著作権侵害、不正競争防止法、不法行為、債務不履行に基づき、控訴人Aは、著作権侵害、不正競争防止法、不法行為に基づき、損害賠償責任を負う。
 
<解説>
●プログラムの著作物の著作権侵害 

「著作物の複製」:既存の著作物に依拠し、その創作的な表現部分の同一性を維持し、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを作成する行為(著作権法2条1項15号)

「著作物の翻案」:既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう(最高裁H13.6.28)。

既存の著作物に依拠して創作された著作物が、創作的な表現部分において同一性を有し、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる場合には、複製又は翻案に該当する。

既存の著作物に依拠して創作された著作物が、思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において、既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、複製にも翻案にも当たらない

◎ 
プログラムに著作物性があるといえるためには、指令の表現自体、その指令の表現の組合せ、その表現順序からなるプログラムの全体に選択の幅が十分にあり、かつ、それがありふれた表現ではなく、作成者の個性が表れているものであることを要する。

プログラムの表現に選択の余地がないか、あるいは、選択の幅が著しく狭い場合には、作成者の個性の表れる余地もなくなり、著作物性を有さない

プログラムの指令の手順自体~アイデアにすぎない
プログラムにおけるアルゴリズムは「解法」に当たり、
いずれもプログラムの著作権の対象として保護されない(知財高裁H18.12.26)。

プログラムは
①その性質上、表現する記号が制約され、
②言語体系が厳格であり、
③電子計算機を少しでも経済的、効率的に機能させようとすると、指令の組合せの選択が限定される
⇒プログラムにおける具体的記述が相互に類似することが少なくない。

プログラムの具体的記述が、表現上制約があるために誰が作成してもほぼ同一になるもの、ごく短いもの又はありふれたものである場合、作成者の個性が発揮されていないものとして、創作性なし。
指令の表現、指令の組合せ、指令の順序からなるプログラム全体に、他の表現を選択することができる余地があり、作成者の何らかの個性が表現された場合においては、創作性が認められる

●営業秘密に係る不正競争防止法に基づく請求 
不正競争防止法が保護の対象とする技術上又は営業上の情報は、不正競争防止法2条6項所定の要件を備える営業秘密であることを要する。
①秘密管理性、②有用性、③非公知性の3つが必要。

経済産業省の営業秘密管理指針:
平成27年1月改訂で、
秘密管理性は、営業秘密保有企業の秘密管理意思(特定の情報を秘密として管理しようとする意思)が、具体的状況に応じた経済合理的な秘密管理措置によって、従業員に明確に示され、結果として、従業員が当該秘密管理意思を容易に認識できる(=認識可能性が確保される)必要がある。

●その他 
共同不法行為の主張について、最高裁H23.12.8を引用し、
他人の著作物を翻案したものに該当しない著作物の利用行為は、同法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなど特段の事情がない限り、不法行為を構成するものではない

競合他社が存在するという著作権法114条1項ただし書の事情に係る主張について、主張立証責任を負うべき控訴人らが、競合他社の存在が控訴人の譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を被控訴人が販売することができないとする事情に当たることについて、具体的な主張立証をしていない⇒同項に基づく損害額を算定。

被控訴人が、著作権侵害を調査するために、被告製品を購入しプログラムの同一又は類似性を調査したこと等を認定し、調査費用を著作権侵害と相当因果関係のある損害と認定

判例時報2321

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