知的財産権

2020年1月 3日 (金)

テーマパークでの標章の使用が非商標的使用とされた事案

大阪地裁H30.11.5    
 
<争点>
被告各商品における被告各標章の非商標的使用該当性 
 
<規定>
商標法 第二六条(商標権の効力が及ばない範囲)
商標権の効力は、次に掲げる商標(他の商標の一部となつているものを含む。)には、及ばない。
六 前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標
 
<判断>
●被告各商品に接した需要者が、被告各標章を『需要者が何人かの業務に係る商品・・・であることを認識することができる態様により使用されていない商標』 (法26条1項6号)と認識するか否かは、
ミニオンの図柄や被告各標章が服飾品のデザインとしての性質を有することを前提にしつつ、更に被告各標章の使用態様や取引の実情等を総合考慮して検討する必要がある。
①ミニオンが登場する映画が大ヒットとなっていること、
②被告のアンケート調査によるものであるがミニオンが高い周知性を有するキャラクターであることが認められ、需要者は被告各商品がミニオンのキャラクターグッズである点に着目し購入するものと考えられること、
③USJパーク内の看板等で、ミニオンのキャラクターに関連して「BELLO!」との表示がされており、需要者は被告各標章や「BELLO!」が、ミニオンのキャラクターと何かしらの関連性を有する語ないしフレーズであると認識すると考えられること等

被告各商品の出所については、それがUSJ(被告)の直営店舗で販売されるミニオンのキャラクターの公式グッズであることや、被告各商品にも一般に商品の出所が表示される部位である商品のタグやパッケージに本件被告ロゴが表示されていることによって識別すると認めるのが相当。

●本件各商標が周知なものであれば、需要者は被告各標章を出所表示として認識することになると考えられる。
but
本件各商標が被告各商品の需要者の間で周知性を有するとは認められない

その既知性に基づいて被告各商品の需要者が被告各標章を出所表示として認識するとはいえない。 

①USJのオンラインストアでの被告各商品の販売においても、トップページに本件被告ロゴが表示される
②USJオンラインストア以外のオンラインストアにおいて、その出所がUSJであるミニオンのキャラクターグッズであることが明記されている。
被告各標章をミニオンの図柄と関連がないものとして、また被告各商品の出所として、識別をすることが考え難い

証拠により示されたこれまでの取引の実情に基づく限り、被告各商品が販売されているいずれの局面においても、被告各標章が出所表示として機能していない⇒非商標的使用(商標法26条1項6号)に該当。

将来の被告各標章の使用についても、
取引きの実情の変化の有無やその態様が明らかでない⇒将来における取引の実情の変化を前提とする判断をすることはできない。
 
<解説>
本判決:
被告各標章が服飾品のデザインつぃての性質を有することを前提にしつつも、
本件で対象になった商品に限らず、被告各標章が使用されている具体的状況、一緒に表示されているキャラクター及び本件各商標それぞれの周知性、被告各商品が販売されている際にどのような表示がされているか等、
具体的な取引の実情等から、被告各標章が出所表示として需要者に認識されてないと判断。
判例時報2422

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2019年11月14日 (木)

ミキシングを行った者のレコード製作者性(否定)、外国映画配給会社の注意義務(通知⇒特段の事情⇒肯定)

大阪地裁H30.4.19     
 
<事案>
レコード会社であるXが、自己が販売する音楽CDに収録されている楽曲がBGMとして使用されている映画を複製した、外国映画の配給会社であるYに対し、レコード制作者の権利(複製権)侵害を理由として、損害賠償等の支払を求めた事案。 
 
<争点>
①Xが本件音源につきレコード製作者の権利を有するか
②本件音源を複製したことに関するYの過失の有無
③損害額 
 
<規定>
著作権法 第二条(定義)
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
五 レコード 蓄音機用音盤、録音テープその他の物に音を固定したもの(音を専ら影像とともに再生することを目的とするものを除く。)をいう。
六 レコード製作者 レコードに固定されている音を最初に固定した者をいう。
 
<判断>
争点①について:
本件音源についてのレコード製作者、すなわち本件音源の音を最初に固定した者は、レコーディングの工程で演奏を録音した者というべき⇒Xがミキシング等を行ったことによりそのレコード製作者の権利を原資取得したとは認められない。
but
承継取得を肯定

争点②について:
Xからの通知書が送付⇒本件音源の権利処理が完了していないのではないかということを合理的に疑わせる事情が存在⇒Yには過失あり

争点③について:
上映地域が日本国内のみ
本件音源の使用期間がごく短期間

2万円を相当。
 
<解説>  
●レコード製作者:
レコード(著作法2条1項5号) に入っている音を初めて蓄音機用音盤、録音テープその他の物に固定した者、すなわち、レコードの原盤の製作者を指すものと解される。そして、レコード製作者であるためには、いかなる方式の履行も要しないものであるが(同法89条5項)、物理的な録音行為の従事者ではないく、自己の計算と責任において録音する者、通常は、原盤制作時における費用の負担者がこれに該当する」(東京地裁H19.1.19、同旨知財高裁H26.4.18)
より以前の裁判例には、起草担当者の見解に依拠しつつ、「音の最初の固定行為が創作的行為による正当化を行うものもある」

学説
A:伝統的には、起草担当者の見解をはじめ、固定行為者ないしは準創作的行為の保護であるとする見解
B:費用負担者ないしは投資の保護(近時多数説)
レコード製作者は投下資本の所在を基準に決せられることになり、事実行為としての物理的な固定行為や、その成果物としてのレコードの質的評価は、基本的に無関係であると解される

●実務上はレコーディングからミキシングまでが原盤制作と称されるところ、レコーディングとミキシングの主体が異なることは稀
but
両者が異なる場合となるリミックス盤の制作においては、加工部分の音源と制作においては、加工部分の音源の権利がエンジニアに新たに発生するという前提に立って契約実務がなされており、本判決は実務との甚だしい乖離を生じるとの指摘もある。 
 
●従来の裁判例:
著作権者を侵害して複製物を作成した者から発行の依頼等を受けてそのまま複製・頒布を行った他の者の過失については、諸般の事情を考慮して判断。
出版社、放送事業者等に関する事例が多く、一般的注意義務が肯定された例が多数みられる。 
学説においても、著作物利用者の過失は基本的に諸般の事情を考慮して判断すべきものとされるが、

A:出版社等に厳格責任を負わせるべき

①その者の行為による著作権侵害の拡大・拡散
②経済的利益の存在
③補償条項を設けることによって侵害物作成者に求償できる
④原告にとって被告側の内部関係を知ることは困難⇒事実上の過失推定を負わせるべき。
vs.
(1)現場において個別にチェックを行うことや、制作に関与していない発注元が調査を行うことは実際上極めて困難であり過重な負担
(2)民法における注意義務の一般的基準としては、一般に①危険が生じる蓋然性、②危険が生じた場合の重大性、③予防措置を取ることに対するコストの3つを勘案するのに対して、著作権法では、メディアの責任のような大上段な前提から出発する傾向にあり、十分な予防措置をとることに対する負担が考慮されていない。

B:これを消極に解する立場

本判決:
外国映画配給会社に映画に利用されている著作物等の権利処理有無の確認の注意義務を一般的に認めることは妥当でない。

①映画が多数の著作物等を総合して成り立つことから、権利処理が映画制作会社においてなされるのが通常
②外国映画配給会社の場合は、許諾の有無の確認に要するコストが膨大
③外国性が配給業界における実務慣行

その上で、
本国の映画製作会社等の権利処理が適切に行われていないことを合理的に疑わせる特段の事情が存在する場合には、侵害が予見可能⇒調査確認義務を負う上、調査確認を尽くしても前記疑いを払拭できないのであれば、当該音源を使用した当該映画の複製を差し控えるべき注意義務を負う。

判例時報2417

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2019年11月 6日 (水)

フラダンスの著作権性

大阪地裁H30.9.20    
 
<事案>
X(ハワイ在住のクムフラ(ハワイ在住のフラダンスの指導者)・Y間の契約関係解消

Yに対し、
①フラダンスの振りつけ(本件各振付け)につき著作権侵害に基づく上演の差止め
②フラダンスと同時に演奏される楽曲(本件各楽曲)につき著作権侵害に基づく演奏の差止め
③①②について著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償を請求
④平成26年秋に予定されていたワークショップ等においてXがYないしKHAの会員に対してフラダンス等の指導を行うことを内容とする準委任契約(本件準委任契約)がYにより解除されたことに伴う民法656条、651条2項本文に基づく損害賠償を請求 
 
<判断> 
●ハンドモーションについて 
フラダンスの上演時に演奏さえる楽曲中の歌詞の解釈を示すもの

①当該歌詞から想定されるハンドモーション
②当該歌詞と同内容の歌詞について他に例があるハンドモーション
③前記①②に当たらないハンドモーションであっても、それらのものとの差異がわずか
~いずれも作者の個性の表れは認められない。 
個々のハンドモーションが前記①②③に当たる場合、
仮に踊り全体をみたときに個々のハンドモーションにおける振付けの選択が累積され、その組合せが他に類例のみられないものになっていたとしても、
それら個々のハンドモーションが限られた類例から選択されたにすぎない場合には、踊り全体としても作者の個性の表れは認められない。
あるハンドモーションにつき、その歌詞の解釈に独自性があったとしても、表現結果である振付けが前記①②③に当たるような場合には作者の個性の表れが認められない。
but
歌詞の解釈が独自のものであって、それによって振付けの動作が他と異なるものとなる場合には、作者の個性の表れが認められる


①ステップについては、典型的なものの組合せによって構成される
②歌詞を表現するものでもない

これに作者の個性が認められるためには既存のものと顕著に異なる新規なものであることが求められる。 


仮に特定の歌詞部分における短い振付け動作に作者の個性が表れているとしても、それは舞踏の一部分にすぎない
⇒当該部分に著作物性を認めることはできず、作者の個性が表れている部分とそうでない部分が相まったひとまとまりの動作の表れという単位で著作物性が判断されるべき。 
侵害の成否の判断に際しても、一連の動作たる舞踏としての特徴が感得されることを要する


各振付けに含まれる歌詞の一節ごとに当該歌詞に対応するハンドモーションを摘示し、主としてこれと同様のハンドモーションが他に存在するか、存在するとしてもこれとどのような差異があるかという観点から振付けの当該部分にXの個性が表れているか否かを検討した上で、改めて各振付けにつき全体として著作物性の判断を行い、結論として本件振付け6等のすべてについて著作権性を肯定
 

<解説>
舞踏の著作物の振付けにつき著作物性が実質的な争点となった事例として、
東京地裁h24.2.28のShall we ダンス?事件。

社交ダンスの振付けの著作物性を判断するに当たって「顕著な特徴を有する独創性」という高い基準が設定された。
but
本件では、「個性の表れ」という一般的な基準によって、著作物性の判断がなされている。 
 
<判断>
Yによる本件準委任契約の解除が「不利な時期」(民法651条2項)になされたことを認めたうえで、
本件準委任契約に基づきワークショップを開催することによってKHAからの脱会者がさらに増える見込みであった⇒「やむを得ない事由」(同項ただし書)があったことを認めている。

判例時報2416

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2019年10月21日 (月)

特許法102条2項の損害額の推定と共有者等

知財高裁H30.11.20      
 
<事案>
発明の名称を「下肢用衣料」とする本件特許の特許権を有する一審原告が、被告製品を製造販売等する一審被告らに対し、被告製品の製造販売等の差止め等を求めるとともに、
民法709条に基づく損害賠償請求をした。 
 
<原判決>
被告製品につき本件発明の技術的範囲に属する。
無効の抗弁を排斥。

被告製品の製造販売等の差止め等及び損害賠償請求の一部を認容。 
 
<規定>
特許法 第一〇二条(損害の額の推定等)

2特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額と推定する。
3特許権者又は専用実施権者は、故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対し、その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。

民訴法 第一五七条(時機に後れた攻撃防御方法の却下等)
当事者が故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法については、これにより訴訟の完結を遅延させることとなると認めたときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、却下の決定をすることができる。

特許法 第一〇四条の三(特許権者等の権利行使の制限)
特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、当該特許が特許無効審判により又は当該特許権の存続期間の延長登録が延長登録無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、特許権者又は専用実施権者は、相手方に対しその権利を行使することができない。
2前項の規定による攻撃又は防御の方法については、これが審理を不当に遅延させることを目的として提出されたものと認められるときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、却下の決定をすることができる。
 
<判断> 
特許法102条2項の損害額の推定を受けるに当たり、共有者は、原則としてその実施の程度に応じてその逸失利益額を推定されると解するのが相当であり、持分権の割合を基準とすることは合理的でない。
but
同項に基づく損害額の推定は、不実施に係る他の共有者の持分割合による同条3項に基づく実施料相当額の限度で一部覆滅されるとするのが合理的。

本件における特別の事情として、訴外会社の一審被告らに対する損害賠償請求権が一審原告に債権譲渡されているが、
①当該請求権は一審原告固有の損害賠償請求権とその発生原因を異にし、債権譲渡の結果、一審原告の下に両立していると考えられる
②一審原告が、債権譲渡を受けた損害賠償請求権を行使しないで、固有の損害賠償請求権のみの行使を主張する旨明言

本件においては、結果として同一人に帰属しているからといって、結論的に異にすべき事情ということはできない。
 
●本件訴訟の経緯(控訴理由提出期限経過後に提出した書面において、少なくとも6項目に及ぶ無効理由に基づく無効の抗弁等の追加を主張)

①一審被告らの控訴審における無効の抗弁等の主張の追加が時機に後れたものであること、
②一審被告らにその点につき少なくとも過失が認められることは明らか

民訴法157条1項に基づき時機に後れた攻撃防御方法として却下。 
一審被告らは、原審において北条単位で4個もの無効理由を主張しているところ、控訴審において追加しようとする無効理由は少なくとも6項目に及ぶ。

控訴審におけるこれほど多数の無効理由による無効の抗弁の追加は、審理を不当に遅延させることを目的として提出されたものといわざるをえない。

無効の抗弁の追加主張については、特許法104条の3第2項によっても、却下されるべき。

判例時報2413

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2019年10月 6日 (日)

共同での特許無効審判請求に係る無効審決⇒特許権者が、共同審判請求人の一部のみを被告として取消訴訟、共同審判請求人との関係で出訴期間経過⇒審決取消訴訟は訴えの利益を欠く不適法なものとして却下

知財高裁H30.12.18      
 
<事案>
Y及びAが共同でした無効審判請求に係る取消訴訟。
特許権者Xらは、共同審判請求人Y及びAのうちYのみを被告として本件訴訟を提起し、Aとの関係では、審決取消訴訟が提起されないまま出訴期間を経過。 
 
<規定>
特許法 第132条(共同審判)
同一の特許権について特許無効審判又は延長登録無効審判を請求する者が二人以上あるときは、これらの者は、共同して審判を請求することができる。
 
<判断>
● 訴えの利益を欠く不適法なものとして、却下。 
本件審決は、Aとの関係においては、出訴期間の経過により既に確定⇒本件特許の特許権は初めから存在しなかったものとみなされる⇒本件訴えは訴えの利益を欠く不適法なもの。
● 特許法132条1項は、本来、各請求人は単独で特許無効審判請求をし得るところ、同一の目的を達成するために共同での審判請求を行い得ることとし、審判手続及び判断の統一を図ったもの。
but
この場合の審決を不服として提起される審決取消訴訟につき固有必要的共同訴訟とする規定も、審決の画一的確定を図るとする規定もない。

同一特許について複数人が同時期に特許無効審判請求をしようとする場合の特許無効審判手続の態様:
①共同審判請求
②別居独立に請求された審判手続が併合
③別個独立に請求された審判手続が併合されないまま進行
の3つが考えられる。
③の場合に無効審決がされたときは、その取消訴訟をもって必要的共同訴訟と解する余地がない

事実及び証拠と同一であるか異なるかに関わりなく、複数の特許無効審判請求につき、請求不成立審決と無効審決とがいずれも確定するという事態は、特許法上当然想定されている。
①の場合に、被請求人(特許権者)の共同審判請求人に対する対応が異なった結果として前記と同様の事態が生じることも、特許法上想定されないこととはいえない。


共同審判請求に対する審決につき合一的確定を図ることは、法文上の根拠がなく、その必要性も認められない
⇒その請求人の一部のみを被告として審決取消訴訟を提起した場合に、被告とされなかった請求人との関係で審決の確定が妨げられることもない。
共同審判請求に対する審決につき合一的確定を図ることは法文上の根拠がなく、その必然性も認められない
⇒当該審決に対する取消訴訟をもって固有必要的共同訴訟ということはできない。
 
<解説> 
同一の特許権については、2人以上の者が共同して特許無効審判を請求することができる。(特許法132条1項)
特許を無効にすべき旨の審決が確定⇒特許権は、初めから存在しなかったものとみなされる。(同法125条本文) 

共同で特許無効審判が請求され、無効審決がされたのに対し、被請求人(特許権者)が共同審判請求人の一部の者のみを被告として審決取消訴訟を提起し、他の請求人との関係ではこれを提起しないまま出訴期間を経過した場合の規律は? 

共同で特許無効審判請求に対し不成立審決がされた場合における請求人の一部の者のみが提起する審決取消訴訟の許否について

最高裁H12.2.18:
各請求人が個別に審決取消訴訟を提起し、又は提起しないことができる。

別個独立に請求された特許無効審判手続が併合され、不成立審決がされた場合、請求人の一部の者のみが提起した審決取消訴訟の適法について、
最高裁H12.1.27:
ある特許につき請求不成立審決が確定し、その旨の登録がされたときは、その登録後に新たに当該無効審判請求におけるのと同一の事実及び同一の証拠に基づく無効審判請求をすることが許されないとするものであり、
それを超えて、確定した請求不成立審決の登録により、その時点において既に係属している無効審判請求が不適法となるものと解すべきではない。

審決取消訴訟を提起しなかった請求人との関係では不成立審決が確定することを前提とする。

判例時報2412

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2019年9月28日 (土)

補正の却下に当たり拒絶理由通知をしなかったことが違法とされた事案

知財高裁H30.9.10      
 
<事案>
原告は、名称を「スロットマシン」とする発明について、特許出願⇒本件拒絶理由通知⇒手続補正⇒本件拒絶査定
⇒本件拒絶査定不服審判請求をして、本件補正⇒特許庁は本件補正を却下した上、請求不成立審決
⇒原審審決の取消しを求めた。 
 
<争点>
①拒絶査定不服審査請求と同時にする補正の却下に当たり拒絶理由通知を行わなかったことによる手続違背の有無(取消事由1)
②独立特許要件違反の判断(新規性・進歩性判断)の誤りの有無(取消事由2) 
 
<規定>
特許法 第五〇条(拒絶理由の通知)
審査官は、拒絶をすべき旨の査定をしようとするときは、特許出願人に対し、拒絶の理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならない。ただし、第十七条の二第一項第一号又は第三号に掲げる場合(同項第一号に掲げる場合にあつては、拒絶の理由の通知と併せて次条の規定による通知をした場合に限る。)において、第五十三条第一項の規定による却下の決定をするときは、この限りでない。

特許法 第一五九条
・・・
2第五十条及び第五十条の二の規定は、拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合に準用する。この場合において、第五十条ただし書中「第十七条の二第一項第一号又は第三号に掲げる場合(同項第一号に掲げる場合にあつては、拒絶の理由の通知と併せて次条の規定による通知をした場合に限る。)」とあるのは、「第十七条の二第一項第一号(拒絶の理由の通知と併せて次条の規定による通知をした場合に限るものとし、拒絶査定不服審判の請求前に補正をしたときを除く。)、第三号(拒絶査定不服審判の請求前に補正をしたときを除く。)又は第四号に掲げる場合」と読み替えるものとする。
 
<判断>
●取消事由1について

特許法50条本文は、159条2項により拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由(「新拒絶理由」)を発見した場合に準用されており、出願人に対し意見書の提出及び補正による拒絶理由の解消の機会を与えて、出願人の防御bの機会を保障するという趣旨は、拒絶査定不服審判において新拒絶理由が発見された場合にも及ぶ。
②従前の拒絶理由通知に示されていなかった新たな刊行物(「新規引用文献」)に基づく独立特許要件違反を理由として、拒絶査定不服審判請求時に行われる補正(「審判請求時補正」)が却下され、補正前の特許請求の範囲の記載(「補正前クレーム」)に基づいて拒絶査定不服審判請求不成立審決がされてしまうと、審決取消訴訟において補正後の特許請求の範囲の記載(「補正後クレーム」)に基づく独立特許要件違反の判断の当否や補正前クレームに基づく拒絶理由の判断の当否を争うことはできるものの、審査段階における17条の2第1項3号所定の補正(「3号補正」)の場合とは異なり、新規引用文献に基づく拒絶理由を回避するための補正をする機会が残されていない点において、出願人により過酷。
③平成5年改正は、17条の2第5項2号所定の特許請求の範囲の減縮を目的とする審判請求時補正においては、審査段階における先行技術調査の結果を利用することを想定していたことが明らかであり、これを却下する際に、独立特許要件の判断において、審査段階において提示されていなかった新規引用文献を主たる引用例とするなど、審査段階において全く想定されていなかった判断をすることは、平成5年改正の本来の趣旨に沿わない
④平成5年改正が目的とする審理が繰り返し行われることを回避することにより、審査・審判全体の効率性を図ることは、重要ではあるが、新規引用文献に基づく独立特許要件違反を理由として審判請求時補正を却下せずに、この新規引用文献に基づく拒絶理由を通知したとしても、限定的減縮である審判請求時補正による補正後クレームについて、17条の2第3項~6項による制限の範囲内で補正することができるにすぎない
審理の対象が大きく変更されることは考え難く、そのような審理の繰返しを避けるべき強い理由があるとはいえない。

159条2項により読み替えて準用される50条ただし書に当たる場合であっても、特許出願に対する審査・審判手続の具体的経過に照らし、出願人の防御の機会が実質的に保障されていないと認められるようなときには、159条2項により準用される50条本文に基づき拒絶理由通知をしなければならず、しないことが違法になる場合もあり得る。
 

①本件拒絶査定の理由は、本件先願を理由とする拡大先願(29条の2)であるのに対し、審決が拒絶査定不服審判請求と同時にした限定的減縮を目的とする本件補正を却下した理由は、刊行物1を理由とする新規性欠如(29条1項3号)及び進歩性欠如(同条2項)であって、適用法上も引用文献も異なる。
②刊行物1は、本件補正を受けた前置報告書において初めて原告に示されたものであるが、刊行物1に基づく拒絶理由を回避するための補正をする機会はなかった。

審決時において、原告の防御の機会が実質的に保障されていないと認められる⇒審判合議体は、159条2項により準用される50条本文に基づき、新拒絶理由に当たる刊行物1に基づく拒絶理由を通知すべきであった。
but
前記拒絶理由通知をすることなく本件補正を却下した審決には、159条2項により準用される50条本文所定の手続きを怠った違法がある。 
 
<解説> 
①限定的減縮を目的とする審判請求時補正は、17条の2第6項により準用される126条7項により、補正後クレームにより特定される発明(「補正後発明」)が独立特許要件を充足する必要がある。
②159条2項により読み替えて準用される50条ただし書は、159条1項により読み替えて準用される53条1項による補正却下の決定をするときは、この限りでないとしており、その159条1項により読み替えて準用される53条1項は、審判請求時補正が17条の2第6項に違反するときは、決定をもってその補正を却下しなければならないとしている。

限定的減縮を目的とする審判請求時補正において、新拒絶理由による独立特許要件違反を理由として、これを却下するに当たり、拒絶理由通知をする必要があるかについては、前記の条文構造を理由として不要とする見解が少なくない。

判例時報2411

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2019年9月10日 (火)

通常使用権者が「他人の業務に係る商品と混同を生ずるものをした」⇒商標法53条1項に基づき、当該許諾を受けた商用を取り消した審決が是認された事例

知財高裁H30.9.26      
 
<事案>
Y:「TOP-SIDER」グランドのデッキシューズ等を展開する米国法人
X:指定商品を第25類「洋服」等とする「TOP-SIDER」の文字から成る商標(「本件商標」)を、Yの前身となる会社から平成12年5月に譲り受けた者。 
Xは、A社に対し、本件商標を使用許諾。
A社が本件商標に雲を想起させる図形とヨットの図形を付加した構成の商標(「本件使用商標」)を作成し、それをシャツに付して販売
Yは、同販売行為が、、商標法53条1項本文の「他人の業務に係る商品と混同を生ずるものをした」に該当すると主張して、本件商標登録の取消審判⇒特許庁がこれを認めた⇒Xが審決の取消しを求めて本件訴訟を提起。
 
<規定>
商標法 第五三条
専用使用権者又は通常使用権者が指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についての登録商標又はこれに類似する商標の使用であつて商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたときは、何人も、当該商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。ただし、当該商標権者がその事実を知らなかつた場合において、相当の注意をしていたときは、この限りでない。
 
<主張>
Xは、混同のおそれを否定する事情として、
①指定商品を第25類「履物、運動用特殊靴」とする商標(「引用商標」)に周知性がない
②本件使用商品である「シャツ」と「靴(デッキシューズ)」との関連性は高くない
③旧会社が自らXに本件商標を譲渡していて、旧会社としては、本件商標をその指定商品に使用しても出所の混同が生じるとは認識していなかった。
 
<判断>  
審決の判断を是認。
 
●引用商標の周知性 
①Yの靴が、昭和46年頃から本件使用行為がされた塀絵師25年1月28日までの間に、日本において「スペリー・トップサイダー」や「トップサイダー」等のブランド名で継続的に相当数が販売されてきた
②雑誌や小説等での露出、引用商標の独創性の高さや本件使用商品に第三者が付していた紹介文の内容

引用商標は、同日頃には、Yの靴(デッキシューズ)の取引者及びその需要者である一般消費者の間で、広く知られていた。
 
●本件使用商品である「シャツ」と「靴(デッキシューズ)」との関連性について 
本件使用商品(シャツ)と引用商標が使用されていた靴(デッキシューズ)が、いずれも身に着けて使用するアパレル製品で、同じブランドで統一されてコーディネイトの対象となったり、同一の店舗内で販売されたりする一般消費者向けの商品

本件使用商品と引用商標が付された靴は高い関連性を有する。
 
●旧会社が本件商標を自らXに譲渡していたことについて 
旧会社としては、本件商標を被服等の本件商標の指定商品に使用しても出所混同は生じないとして容認していたものと推認できるが、本件商標に雲を想起させる図形とヨットの図形を付加し、印象商標に極めて類似する構成で使用することについてまで容認していたとはいえない。
 
<解説>   
法53条1項は、使用権者が指定商品(役務)又はこれに類似する商品(役務)について、登録商標又はこれに類似する商標を使用して、需要者に品質又は役務の質の誤認若しくは他人の業務に係る商品(役務)と混同を生ずるものをしたときに、当該商標取り消すことを定めた制裁規定

商標権者が使用許諾に当たって自己の信用保全のため十分な注意をしない場合、取消しをもって、そのような無責任な商標権者及び専用使用権者又は通常使用権者に対する制裁を課すこととして、現行法の下では自由になし得る使用許諾制度の濫用による需要者への弊害を防止することにある。 

「混同を生ずるものをした」というためには、
使用権者が使用する商標と引用商標との類似性、引用商標の周知性、各商標の付された商品(役務)の類似性等の諸事情を考慮する必要があり、現に混同が生じている必要はなく、混同のおそれで足りるとされている。
 
●法51条1項についての事案であるが、
最高裁昭和61.4.22は、前訴で和解金を受領して商標の使用を認めた者が、その後、当該商標について取消審決を請求したという事案で、
そのような従前の経緯や和解において使用を認められた商標と実際の使用に係る商標との間の差異等を勘案すると、取消審判の請求が信義則に反するものと許されないものとなる可能性があるとして原判決を破棄。 
 
●法53条1項については、法51条1項や法52条の2の第1項とは異なり、「故意」や「不正競争の目的」が要件とされていない上、文理上、登録商標を指定商品(役務)に用いた場合でも適用され得るものとなっており、従来からその適用を限定的に考えるべきであるとの説が唱えられており、
実際に「不正使用行為」や「不正競争の目的」といった概念を用いて法53条1項を明示的に限定解釈し、その適用を制限した裁判例もある。

判例時報2410

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2019年8月30日 (金)

パブリシティ権侵害で、独占的利用許諾を受けた者による損害賠償請求(肯定)

大阪高裁H29.11.16      
 
<事案>
フィットネスプログラム「Rimix」のマスタートレーナーAの画像をホームページ等に掲載したYの行為が、Aのパブリシティ権につき独占的利用許諾を受けているXの独占的利用権を侵害する不法行為に当たるとして、Xによる不法行為に基づく損害賠償請求。 
X:フィットネスプログラム「Rimix」を中国、台湾地区で運営する株式会社。
同地区の短答マスタートレーナーつぃて日本、中国及び台湾で活躍するAは、その夫が代表取締役を努めるXにそのパブリシティ権について独占的利用許諾を行い、XがAのパブリシティ権に関する契約の交渉・締結を行い、対価を取得。
Y:フィットネス関係の衣料品を製造販売する株式会社。
 
<争点>
①パブリシティ権侵害による不法行為の成否
②パブリシティ権侵害による損害額
 
<判断> 
●争点①について 
最高裁H24.2.2の判旨を確認し、
パブリシティ権の利用許諾契約の有効性と、第三者による肖像等の無断使用が独占的利用許諾者との関係で不法行為となる場合について、

パブリシティ権は、人格権に由来する権利の1内容を構成するもので、一身に専属し、譲渡や相続の対象とならない
しかし、その内容自体に着目すれば、肖像等の商業的価値を抽出、純化させ、名誉権、肖像権、プライバシー等の人格権ないし人格的利益とは切り離されている
パブリシティ権の利用許諾契約は不合理なものであるとはいえず、公序良俗違反となるものではない

パブリシティ権の独占的利用許諾を受けた者が現実に市場を独占しているような場合に、第三者が無断で肖像等を利用するときは、同許諾を受けた者は、その分損害を被ることになる⇒少なくとも警告等をしてもなお、当該第三者が利用を継続するような場合には、債権侵害としての故意が認められ、同居諾を受けた者との関係でも不法行為が成立する。

①Aは中国・台湾地域のマスタートレーナーとして認定され、台湾のテレビ番組に出演するなどしており、
②日本のRitmix愛好家の間においてもマスタートレーナーとしてのAの肖像権は一定の顧客吸引力を有していた

裁判所はAがパブリシティ権を有していると認めるのが相当

X代表者が中国、台湾において「RITMIX」等の商標権を取得しており、AとYとの間のライダー契約のA側の交渉を行っていた
YはXがAのパブリシティ権の独占利用許諾を受けていたことを認識できた。

①XとYとの協議の継続中は、YがAの画像をウェブサイト等に掲載することにつきXの承諾があったと認められる
②本件通知によりYがXとの協議を終了させたことにより、XによるAの画像掲載の承諾も撤回された

Yが自ら本件通知を行いながら、Aの画像を削除せずに、Aの肖像等を広告として使用したと評価できる

Yの行為が、「Aのパブリシティ権に係るXの独占的利用権を侵害する不法行為を構成すると認められる」とした。
 
●争点②について 
Xが独占的に利用を許諾されたAのパブリシティ権は、肖像等が有する商品の販売等を促進する顧客吸引力を排他的に利用する権利

Xは、Yの行為により、画像の使用を許諾する場合に通常受領すべき金銭に相当する額の損害を受けたものと認められる。
①ライダー契約の交渉において、1か月あたり6万円の商品を無償提供するとのYの提案に、Xは応じていないとの事情
②Aの顧客吸引力の程度、内容、Aの画像の掲載場所の数、掲載期間等を総合考慮

1か月当たりのYの行為による損害額を10万円とするのが相当
 
● 画像の掲載期間について、Aの画像がYの管理するサイトから削除されたと明確に判明するのは、平成28年3月17日に削除されたインターネットショッピングモールQに係るものしかない
⇒平成28年3月17日までの間、YはAの画像を継続してウェブサイト等に掲載していたと推認するのが相当。

Yが本件通知から掲載画像すべてを削除するまでに一定期間を要すると認められる⇒本件通知のあった平成27年3月25日から平成28年3月17日までの間のうち、11か月分である110万円の損害をXが被ったと認めるのが相当。
 
<解説> 
パブリシティ権について平成24年最判:
氏名、肖像等(あわせて「肖像等」という)が有する商品の販売等を促進する顧客吸引力を、排他的に利用する権利と定義し、その法的性質を人格権に由来する権利とする判断を示した。

パブリシティ権侵害として不法行為法上違法となる場合として、肖像等の無断利用のうち、
①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し、
②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し、
③肖像等を商品等の広告として利用するなど、
専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合
との判断。
他方で、パブリシティ権の定義、法的性質、侵害判断基準以外の論点については、判断が示されておらず、今なお議論が続いている。

平成24年最判の調査官解説:
判示事項ではないとしつつ、
パブリシティ権は名誉、プライバシー権等の人格権ないし人格的利益とは切り離されているその利用許諾契約は民法90条にいう公序良俗に反するものではなく、有効
利用許諾を受けた者の損害賠償請求につき、自由競争の範囲を超えて債権侵害として不法行為を構成する場合には認められるとする。

判例時報2409

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2019年8月19日 (月)

種苗法の事案

大阪地裁H30.6.21      
 
<事案>
Xが、名称を「トットリフジタ1号」とする登録品種(「本件登録品種」)に係る育成者権(「本件育成者権」)を有するYに対し、トレイに培養土を敷き、これに常緑性の植物体を植栽してなる屋上緑化製品(「本件製品」)をXが販売した行為などにつき、本件育成者権を侵害した不法行為に基づく損害賠償請求権が存在しないことなどの確認を求めた事案。 
 
<争点>
①本件被疑種苗が本件登録品種又は本件登録品種特性により明確に区別されない品種か
②Yの本件育成者権に基づく請求は、本件育成者権に係る品種登録に無効・取消理由があることにより、権利濫用として許されないか
③消尽の成否 
 
<判断> 
●認定事実
争点①について、本件被疑種苗は本件登録品種であると認定
争点③に関し、本件被疑種苗は正規に購入した本件登録品種を無許諾で増殖することにより得たもの 
 
●争点②について 
品種登録が重大・明白な瑕疵により無効とされる場合は、当該品種登録に係る育成者権の行使は許されない

キルビー事件(最高裁H12.4.11)を引用して、品種登録が種苗法49条1項1号所定の要件に違反して登録され、取り消されるべきことが明らかであるときは、当該品種登録に係る育成者権の行使は、権利の濫用に当たり許されない

特許法167条(平成13年法律63号による改正後のもの。)の「特許無効審判・・・の審決が確定したときは、当事者及び参加人は、同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求することができない。」との規定の趣旨を、紛争の蒸し返し防止にあるとし、
同条に当たる事情があるときは、同法104条の3第1項の「当該特許が特許無効審判により・・・無効にされるべきものと認められるとき」に当たらず、特許権侵害訴訟における同条の主張は認められない

種苗法51条が品種登録に対する異議申立ての期間制限を設けないこととしたのは、①育成者権が登録品種及び当該登録品種と特性により区別されない品種を業として利用する権利を専有するという強力な独占権であり、その存続期間が品種登録の日から原則として25年と長期間にわたり、②存続期間満了後にも存続期間中の侵害行為に対する権利行使が可能であるため、第三者の権利利益に与える影響が大きいことから、品種登録に対する異議申立てに特許無効審判に類似した機能を持たせる趣旨。

特許権侵害訴訟の場合と同様に、品種登録に対する異議申立てに係る決定が確定したときは、育成者権侵害訴訟において、当該異議申立ての当事者が、当該異議申立てと同一の事実及び証拠に基づく登録無効・取消事由を主張して権利濫用の主張をすることは、紛争の蒸し返しとして許されない
but
事案へのあてはめとしては、異議申立てとの証拠の同一性が認められない
⇒登録無効・取消事由の存否の判断に進み、登録無効・取消事由は存在しないと判断。

登録品種に種苗法49条1項2号所定の後発的取消事由が生じた場合は、当該登録品種に係る育成者権は保護されるべき実質的価値を欠くものとなったといえる。
but
その場合でも育成者権の消滅に後発的取消事由が生じた時点までの遡及効を認めなかったのは、登録品種の特性が保持されなくなったと判定するためには、審査時と同様の現地調査や栽培試験によってそのことを確認することを要するから、その確認ができた時点以前の特性喪失を認定することができないという点にある。

登録品種に後発的取消事由が生じ、侵害訴訟において当該登録品種に係る品種登録が取り消されるべきことが明らかになったときは、農林水産大臣による取消し前であっても、後発的取消事由の発生が明らかに認められる時点以後の当該登録品種に係る育成者権の行使は、権利の濫用に当たり許されない。
but
事案へのあてはめとして、後発的取消事由は存在しないとした。
 
●争点③について 
本判決:
種苗法21条4項本文及びただし書を指摘して、権利者から譲渡を受けた登録品種の種苗を再度譲渡した場合には、育成者権は消尽しており、当該種苗に対して育成者権の効力は及ばない
but
育成者権者から譲渡された登録品種の種苗を増殖した上で譲渡する場合、その増殖は登録品種の種苗の「生産」に当たる⇒同条ただし書の適用を受けることになり、当該種苗に対して育成者権の効力はなお及ぶ。
XはYから正規に購入した本件登録品種の種苗を無許諾で増殖し、それを使用して本件製品を販売
⇒Xが本件製品を販売した行為はYの本件育成者権を侵害するもの。
 
<解説>
●権利濫用法理の育成者権侵害訴訟への適用
キルビー事件最高裁判決が示した権利濫用法理が育成者権侵害訴訟にもあてはまることを示した。
 
●侵害訴訟における抗弁の制限 
本判決:
特許法167条及び同法104条の3を指摘して、確定した異議申立ての当事者が当該異議申立てと同一の事実及び証拠に基づく登録無効・取消事由を主張して権利濫用の抗弁を主張することは許されないと判示。
権利行使制限の抗弁は「当該特許が特許無効審判により・・・無効にされるべきものと認められるとき」(特許法104条の3第1項)に可能なものであるのに対し、
キルビー事件最高裁判決が示した権利濫用の抗弁は「当該特許に無効理由が存在することが明らかであるとき」に可能なもの。

無効審判を請求できない者・場面であっても、当該特許に無効理由が存在することが明らかでありさえすれば侵害訴訟において権利濫用の抗弁を主張できるか否かが問題

(商標権についての事案であり権利濫用の抗弁の趣旨がキルビー事件最高裁判決のそれと同一ではないが、商標法47条1項所定の除斥期間を経過した場合に権利行使制限の抗弁は主張できないが権利濫用の抗弁が主張できるとした判例として、最高裁H29.2.28)
特許無効審判を請求できない者・場面を規定する特許法167条について、平成23年特許法改正の立法担当者は、当事者及び参加人についての一事不再理効を残すこととした理由を、審決が確定した後に紛争の蒸し返しができることは不合理であるからと説明

知財高裁H30.12.18は、特許法167条の規定の趣旨は同一の当事者間では紛争の一回的解決を実現させる点にあり、既に確定した特許無効審判と同一の事件及び証拠に基づく場合は、権利行使制限の抗弁のみならず権利濫用の抗弁を主張することも許されないとしている。

判例時報2407

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2019年8月18日 (日)

居酒屋の店舗外観と不正競争防止法2条1項1号の「商品等表示」(否定)

名古屋地裁H30.9.13      
 
事案 飲食店の経営を業とするXが、
(1)自ら運営する寿司を主たる商品とする居酒屋「A」の標準的仕様として用いられている店舗外観(「店舗外観A」)が、原告の商品等表示(不正競争防止法2条1項1号)に当たる
(2)Yが出店した寿司を主たる商品とする居酒屋「B」において、店舗外観Aと類似する店舗外観を用いたことは不正競争行為に該当する

①不正競争法3条に基づく看板等の廃棄や、
②同法4条に基づく損害賠償金の支払
を求めた事案。
 
<争点>
店舗外観Aが、不正競争法2条1項1号の「商品等表示」に該当するか否か 
 
<判断>
店舗外観(店舗の外装、店内構造及び内装)は、通常それ自体は営業主体を識別させることを目的として選択されるものではないが、
場合によっては営業主体の店舗イメージを具現することを1つの目的として選択されることがあり、
店舗外装が特定の出所を表示する機能を有するに至る場合がある。 

①店舗外観が客観的に他の同種店舗の外観とは異なる顕著な特徴を有しており、
②当該外観が特定の事業者によって継続的・独占的に使用された期間の長さや、当該外観を含む営業の態様等に関する宣伝の状況などに照らし、
需要者において当該外観を含む営業の態様等に関する宣伝の状況などに照らし、需要者において当該外観を有する店舗における営業が特定の事業者の出所を表示するものとして広く認識されるに至ったと認められる場合には、
店舗外観の全体が特定の営業主体を識別する(出所を表示する)営業表示性を獲得し、不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当する場合があると解すべき。

店舗外観Aの各要素について、まず、個別的にみて、客観的に他の同種同業の店舗の外観とは異なる顕著な特徴があるか否かを検討⇒いずれの要素についても消極。

ア:関係証拠から、店舗外観Aの特徴としてXが主張する要素が、そもそもXの全ての店舗に共通した要素ではない⇒標準的仕様として考慮すること自体ができない
イ:前記アの問題を有しない要素についても、
(a)和風料理を主に提供する居酒屋であれば、看板から店舗の業種や雰囲気が伝わるようにするため、その看板を木目調とし、そこに記載する文字の表示に毛筆体を用いることも自然
(b)メニューが表示された看板を外側に掲げる以上、その主な目的が店舗のメニューや価格帯を認識させて集客力を高めることにあることは自明であり、メニューを値段と併せて表示する際に、比較的安価な商品を記載した看板が主に掲げられることも一般的

いずれの要素も、客観的に他の同種店舗の概観とは異なり、これによって営業主体としての原告が想起され得るといえるまでの顕著な特徴であるとは認められない

店舗外観Aの各要素を全体としてみても、その主要な特徴を全体としてみても、その主要な特徴を備えた和風料理を提供する店舗が他にも一定数あることなどから、前記のような顕著な特徴は認められない
店舗外観Aの商品等表示該当性を否定

判例時報2407

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