知的財産権

2018年11月27日 (火)

特許法74条1項に基づく移転登録請求と主張立証責任

大阪地裁H29.11.9      
 
<事案> 
Xが、Yに対し、Yの所有に係る特許権はYの冒認出願により設定登録されたなどとして、特許法74条1項に基づき、本件特許権について移転登録手続をすることなどを求める事案。 
 
Xの主張: 特許権移転登録請求における主張立証責任について、
Xが請求原因として自らの発明と本件特許権に係る発明の同一性を主張立証する必要があるが、XがYに対して自らの発明を開示し、Yがそれを本件特許発明二利用したことまで主張立証する必要はない。
 
<規定>
特許法 第74条(特許権の移転の特例)
特許が第百二十三条第一項第二号に規定する要件に該当するとき(その特許が第三十八条の規定に違反してされたときに限る。)又は同項第六号に規定する要件に該当するときは、当該特許に係る発明について特許を受ける権利を有する者は、経済産業省令で定めるところにより、その特許権者に対し、当該特許権の移転を請求することができる。
 
<判断>
特許法74条1項の特許権の移転請求制度は、真の発明者又は共同発明者がした発明について、他人が冒認又は共同出願違反により特許出願して特許権を取得した場合に、当該特許権又はその持分権を真の発明者又は共同発明者に取り戻させる趣旨によるもの。

同項に基づく移転登録請求をする者は、相手方の特許権に係る特許発明について、自己が真の発明者又は共同発明者であることを主張立証する責任がある。

異なる者が独立に同一内容の発明をした場合には、それぞれの者が、それぞれがした発明について特許を受ける権利を個別に有することとなる。

相手方の特許権に係る特許発明について、自己が真の発明者又は共同発明者であることを主張立証するためには、単に自己が当該特許発明と同一内容の発明をしたことを主張立証するだけでは足りず、
当該特許発明は自己が単独または共同で発明したもので、相手方が発明したものでないことを主張立証する必要があり、
これを裏返せば、相手方の当該特許発明に係る特許出願は自己のした発明に基づいてされたものであることを主張立証する必要があると解するのが相当。

このように解することは、
特許法74条1項が、当該特許に係る発明について特許を受ける権利を有する者であることと並んで、特許が123条1項2号に規定する要件に違反するときのうちその特許が38条の規定に違反してされたこと(すなわち、特許を受ける権利が共有に係るときの共同出願違反)又は同項6号に規定する要件に該当するとき(すなわち、その特許がその発明について特許を受ける権利を有しない者の特許出願に対してされたこと)を積極的要件として定める法文の体裁にも沿う。
 
<解説>
●特許権移転登録請求制度 
いわゆる冒認出願については、
真の権利者が自ら特許出願した後に、偽造された譲渡証に基づいて出願人名義が変更された事案において、特許権の移転登録請求を認めた最高裁判決(最高裁H13.6.12)があるが、
真の権利者が自ら特許出願していなかったことなどを理由として特許権の移転登録請求を認めなかった下級審判決もある。

平成23年の特許法改正:
真の権利者が自ら出願していたか否かにかかわらず、真の権利者が、冒認出願等に基づく特許権の特許権者に対して、その特許権の移転登録を請求することができる特許権移転登録請求制度が導入
 
判例時報2382

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2018年11月26日 (月)

ツイッターでの著作権侵害と発信者情報開示請求

知財高裁H30.4.25      
 
<事案>
Xが、ツイッターにおいて、Xの著作物である本件写真が、
1⃣氏名不詳者により無断でアカウントのプロフィール画像として用いられ、その後当該アカウントのタイムライン及びツイートにも表示されたこと、
2⃣氏名不詳者により無断で画像付きツイートの一部として用いられ、当該氏名不詳者のアカウントのタイムラインにも表示されたこと、
3⃣氏名不詳者らにより無断で前記②のツイートのリツイートがされ、当該氏名不詳者らのアカウントのタイムラインに表示されたこと
により、Xの写真についての著作権(複製権、公衆送信権(送信可能化権を含む。)、公衆伝達権)及び著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権、名声声望保持権)が侵害された

「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(「プロバイダ責任制限法」)4条1項に基づき、
前記1⃣~3⃣のそれぞれについて、Y1(ツイッターインク)、Y2(Twitter Japan ㈱)に対し、発信者情報の開示を求めた。 
 
<原審> 
Y1に対する請求を、1⃣2⃣の各アカウントのメールアドレスの開示を求める限度で認容、
Y1に対するその余の請求及び
Y2に対する請求を
いずれも棄却。 
 
<判断>
●Y2について
Y2は、ツイッターを運営する者ではなく、ツイッターの利用についてユーザーと契約を締結する当事者でもない
本件証拠上、Y2が発信者情報を開示する権限を有しているとは認められない
⇒Y2に対する請求は理由なし。
 
●本件におけるリツイートがXの著作権を侵害したか 
①Xが著作権を有しているのは、本件写真であるところ、本件写真のデータは、リンク先のサーバーにしかない⇒送信されている著作物のデータは、そのサーバーのデータのみ
②公衆送信は「公衆によって直接受信されることを目的として送信を行うこと」
公衆送信権侵害との関係では、リンク先のデータのみが「侵害情報」というべき
③自動公衆送信の主体は、当該装置が受信者からの求めに応じ、情報を自動的に送信できる状態をつくり出す行為を行う者と解される(最高裁H23.1.18)ところ、本件写真のデータは、リンク先のデータのみが送信されている⇒その自動公衆送信の主体は、リンク先のURLの開設者であって、リツイート者らではない

その侵害を否定し、幇助者にも当たらない。
複製権侵害、公衆伝達侵害についても否定。
 
●本件におけるリツイートがXの著作者人格権を侵害したか? 
同一性保持権につき
①本件においてリツイートによって表示される画像は、リンク元に保存されている画像とは異なるものであり、表示するに際して、リツイート行為の結果として送信されたHTMLプログラムやCSSプログラム等により、一や大きさなどが指定されたために、画像が異なっている
②表示される画像は、思想又は感情を創作的に表現したものであって、著作権法2条1項1号にいう著作物ということができるところ、表示するに際して、HTMLプログラムやCSSプログラム等により、位置や大きさなどを指定されたため、表示されている画像は前記のような画像となった

リツイートによって改変されたもので、同一性保持権が侵害されている

氏名表示権について
リツイートによって表示されている画像には、Xの氏名は表示されていないところ、表示するに際してHTMLプログラムやCSSプログラム等により、位置や大きさなどが指定されたために、前記のような画像となり、Xの氏名が表示されなくなった⇒その侵害を認めた

名誉声望保持権の侵害は否定。
 
●Xが開示を求める最新のログイン時IPアドレス及びタイムスタンプは、本件において侵害情報が発信された各行為と無関係であり、
「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第4条第1項の発信者情報を定める省令」4号の「侵害情報に係るIPアドレス」及び7号の「侵害情報が送信された年月日及時刻」のいずれにも当たらない。 
1⃣~3⃣についてメールアドレスの開示請求を認めた
 
<解説>
●ハイパーリンク⇒リンク元のウェブページには、リンク先のURLが表示されるだけ。
インラインリンク⇒リンク先のウェブサイトの画像がリンク元のウェブページに自動的に表示される⇒閲覧者はリンク先のウェブサイトの画像を目にすることになる。 
本件においては、インラインリンクについての著作権及び著作者人格権の侵害が問題となった
リンク先のウェブサイトの画像のデータは、リンク先のサーバーから直接送信される⇒リンクを張ることが、ハイパーリンク、インラインリンクともに、著作権(送信可能化権を含む公衆送信権、複製権)の侵害とはならないとする説が多い。
but
インラインリンクについては、著作者人格権の侵害となることがあるとされる。

●ゲームソフトの影像は、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものとして最高裁H13.2.13 

判例時報2382

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2018年8月26日 (日)

真正商品の並行輸入で、商標が広告に付され、外国の商標権者と我が国の商標権者が異なる場合

知財高裁H30.2.7      
 
<事案>
我が国において「NEONERO」等の商標(本件商標)について商標権(本件商標権)を有するXが、Yの、本件商標と同一ないし類似の標章を商品に関する広告に付した行為(本件被疑侵害行為)が本件商標権侵害に該当
⇒Yに対し、Yの商品の販売等の差止め等を求めた。 
 
<判断>   
並行輸入品が、フレッドペリー事件最高裁判決(最高裁H15.2.27)の示す三要素を満たす場合には商標権侵害として実質的違法性を欠く、 

● 商標を広告に付する行為については、同最高裁判所の
当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた者により適法に付されたものである」という要件を、
当該商品に当該商標を使用することが外国における商標権者との関係で適法であること」とすべき。
本件被疑侵害行為は、前記要件を充足する。

● 前掲最高裁判決の
「我が国の商標権者が直接的に又は間接的に当該商品の品質管理を行い得る立場にあることから、当該商品と我が国の商標権者が登録商標を付した商品とが当該登録商標の保証する品質において実質的に差異がないと評価される」という要件(第3要件)につき、
外国の商標権者と我が国の商標権者とが異なる場合において、
外国の商標権者と我が国の荷商標権者とが法律的又は経済的に同一視できる場合には、原則として、外国の商標権者の品質管理可能性と我が国の商標権者の品質管理可能性は同一に期すべきものであるといえる。

ただし、外国の商標権者と我が国の商標権者とが法律的又は経済的に同一視できる場合であっても、我が国の商標権の独占権能を活用して、自己の出所に係る商品独自の品質又は信用の維持を図ってきたという実績があるにもかかわらず、外国における商標権者の出所に係る商品が輸入されることによって、そのような品質又は信用を害する結果が生じたといえるような場合には、
この利益は保護に値するということができる


Xが、PVZ社とは独自に、Xの商品の品質又は信用の維持を図ってきたという実績があるとまで認めることはできず、
Yの商品の輸入や本件被疑侵害行為によって、Xの商品の品質又は信用を害する結果が生じたとはいえず、Xに保護に値する利益があるということはできない
⇒本件被疑行為は前記要件を充足する。

⇒本件被侵害行為は商標権侵害の実質的違法性を欠く。
 
<解説>
●商標を広告に付する場合 
フレッドペリー事件最高裁判決が示した、
いわゆる真正商品の並行輸入が商標権侵害の実質的違法性を欠く場合の要件のうち、
「当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者らから使用許諾を受けた者により適法に付されたものである」との要件は、
商標が商品に付されている場合の要件

本件における身飾品のように、商品自体に商標が付されておらず、商品を輸入してから、我が国において商品に関する広告に商標を付した場合
A:
商品に商標が付されていると仮定して当該商品の輸入行為が商標権侵害の実質的違法性を欠くか否かを検討した上で、商品の輸入行為が商標権侵害の実質的違法性を欠く場合には、当該商品の宣伝広告に商標を使用する行為も商標権侵害の実質的違法性を欠くというアプローチ。
B:
広告に商標を使用するという行為について、商標権侵害の実質的違法性を欠くか否かを検討するというアプローチ。

本判決は、Bの立場を採用。
 
外国の商標権者と我が国の商標権者が異なる場合の品質管理可能性 

商標法で保護されるべき商標の機能は、
第一次的に出所表示機能であり、
商標の品質保証機能とは、商標の付された商品等が、商標の表示する出所に由来することによって、商品等の出所の管理する品質を備えていることを保証する機能

フレッドペリー事件最高裁判決の出所表示機能に関する「当該外国における商標権者と我が国商標権者とが同一人であるか又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係があることにより、当該商標が我が国の登録商標と同一の出所を表示するもの」である場合には、商標の示す出所は1つであり、その出所の管理する品質にも違いがない。

本判決:
例外的に、我が国の商標権者が自己の出所に係る商品独自の品質又は信用があり、そのような信用等が外国商標権者の出所に係る商品の輸入によって害される結果が生じた場合には、我が国の商標権者の商品独自の品質を、品質管理可能性の要件において管理される「品質」であるとすべき。

判例時報2371

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2018年6月 8日 (金)

商標権侵害について過失の推定が覆され、不法行為が否定された事例

大阪地裁H29.4.10      
 
<事案>
登録商標「観光甲子園」の商標権者であるXが、その名称を使用して、
高校生が参加する「観光プランコンテスト」を共催校として第6回まで開催。

Yが共催校を承継したとして、Xに無断で、ホームページにおいて同登録商標を使用して同商標権を侵害するとともに、後継の大会として第7回を宣伝、開催することにより、本件商標権を価値を毀損
⇒不法行為を構成するとして損害賠償請求。
 
<争点>
不法行為の成否について
① 本件商標を使用して後継の大会として同コンテストを宣伝、開催することの許諾の有無
②Yの行為の違法性又は過失の有無
③権利の濫用等
④所有権に基づく優勝旗等の返還請求について、優勝旗等の譲渡の有無
 
<判断>
●争点① 
①本件事業は実質的にはXが主体となって行ってきたものであるといえる⇒共催校の変更を含む本件事業の承継は、Yの主張するところの大会組織委員会ではなく、Xの理事会の決議事項であると解すべき。
②X・Y間の本件事業の承継に関する具体的な協議は、X大学教授P1、Y大学教授P2及び双方の事務職員の間で行われたにとどまり、YがX代表者やXの理事に対して、本件事業を承継するとの意向を伝えたとは認められない
⇒Xの許諾は存在しない。

①Yは本件商標を無断でホームページ上において使用した⇒Yの行為者商標権侵害を構成
②後継の大会として第7回を宣伝、開催したことについても、少なくとも原告の許諾があったとは認められない。 
 
●争点② 
商標権侵害について過失が推定されることとされた趣旨は、商標権の内容については、商標公報、商標登録原簿等によって公示されており、何人もその存在及び内容について調査を行うことが可能であること等の事情を考慮したもの

侵害行為をした者において、商標権者による当該商標の使用許諾を信じ、そう信じるにつき正当な理由がある場合には、過失がないと認めるのが相当。

①本件事業の中心人物であるP1がX側担当者であるとYが信じて然るべき状況であった
②Xの理事や事務局担当者が出席する場でYが共催校であることが承認されていることなどの「種々の行動の積み重ね」
⇒Yにおいて、Xが組織としてYを共催校とすrことを了解していると考え、Yが第7回大会を行うために必要な事項についてはX内部でしかるべき手続きが執られ、又は執られることになると信じることは極めて自然なこと。
③第7回大会の引き継ぎ準備の中で、本件商標のロゴのデータが事務職員P1を通じてYに引き渡されたことについて、登録商標の使用を許諾しない相手方に対して当該商標のロゴにデータを送付するとは考え難い


本件商標権の移転に関するXの理事会決議に先行して本件商標を使用することをXからあらかじめ許諾されており、必要な事項についてはX内部でしかるべき手続きが執られ、又は執られることになると信じ、また、そう信実につき正当な理由があった。
Yによる本件商標の使用には過失がなかったものと認めるのが相当。
 
●後継の大会として第7回大会を宣伝、開催した行為:
XがYに本件商標権の買取りを求めた時点で、それまで過失なく第7回大会の準備を進めていたYにとって、従前の大会との連続性を否定する行動をとることは極めて困難

違法性又は過失を欠くとして、不法行為の成立を否定

Yが保管している優勝旗等のX所有権に基づく返還請求に限り認容。 
 
<規定> 
商標法 第39条(特許法の準用)
特許法第百三条(過失の推定)、第百四条の二(具体的態様の明示義務)、第百四条の三第一項及び第二項(特許権者等の権利行使の制限)、第百五条から第百五条の六まで(書類の提出等、損害計算のための鑑定、相当な損害額の認定、秘密保持命令、秘密保持命令の取消し及び訴訟記録の閲覧等の請求の通知等)並びに第百六条(信用回復の措置)の規定は、商標権又は専用使用権の侵害に準用する。

特許法 第103条(過失の推定)
他人の特許権又は専用実施権を侵害した者は、その侵害の行為について過失があつたものと推定する
 
<解説>
過失の推定により立証責任の転換が図られた趣旨:
①公報等による公示がなされている
②業としての実施のみが権利侵害とされるため事業者に対して調査義務を課しても酷ではない 
公報未発行の期間の実施・使用については①の根拠を欠く⇒過失は推定されないという裁判例が展開

過失の推定は、理論上は、
権利の存在を知らなかったことにつき相当の理由があること
権利範囲に属することを知らなかったことにつき相当の理由があること
③その他自己の行為が権利を侵害しないと信じるにつきそうとの理由があったこと
につき立証すれば覆る。
but
実務上は推定が覆った例はほとんどなく、「事実上みなし規定に近い運用がなされている」(中山)

学説:
推定が覆るべき例として、
タクシー会社による特許権を侵害する自動車の運行や
小売業者が侵害品を販売する場合、
無数の特許権の存する機器類のユーザーによる使用
のように権利調査を履行することが事実上不可能な場合にまで推定規定を働かせることには問題。
⇒具体的事例に応じ、過失推定の覆滅を認めるべき。(中山)

最高裁H15.2.27:
輸入業者が使用許諾契約の存在、契約条項の内容、契約条項違反の事実の不存在等、公報に開示のないすべての事項についても調査を尽くさなければ本条の過失の推定は覆ることはない

本件:
前記①~③の3つの類型のうち、「③その他自己の行為が権利を侵害しないと信じるにつき相当の理由があったこと」についての立証に成功した事例。

裁判所が一般論として、
商標法39条(同条が準用する特許法103条)の根拠として「商標公報等による公示」を挙げた上で、
商標公報に開示されていない商標権者による当該商標の使用許諾を信じ、そう信じるにつき正当な理由がある場合に推定が覆るとの判示

同条の過失には商標権者による使用許諾の存在についての調査義務が含まれると解しつつも、これを商標公報及び商標原簿に開示された事実を区別し、異なる程度の調査義務を要求したもの。

判例時報2364

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2018年6月 2日 (土)

サポート要件を満たさないとされた事例

知財高裁H29.6.8      
 
<事案>
被告の、名称を「トマト含有飲料及びその製造方法、並びに、トマト含有飲料の酸味抑制方法」とする発明についての特許に対する無効審判請求を不成立にした審決の取消訴訟 
 
<判断>   
サポート要件適合性判断誤りの有無について、偏光フィルム事件(知財高裁H17.11.11)の規範に従うことを明確に示し、サポート要件に適合するということはできないと判断。 

本件明細書における発明の詳細な説明の、本件発明の課題とその解決方法についての記載を認定。 

発明の詳細な説明に記載された発明と特許請求の範囲に記載された発明とを対比して、明細書の発明の詳細な説明に、本件発明の課題が解決できることを当業者において認識できるかについて検討。

①本件明細書の発明の詳細な説明に記載された風味評価試験の結果から、直ちに、糖度、糖酸比及びグルタミン酸等含有量について規定される範囲と、得られる効果というべ、濃厚な味わいでフルーツトマトのような甘みがありかつトマトの酸味が抑制されたという風味との関係の技術的な意味を当業者が理解できるとはいえない。
②各風味が本件発明の課題を解決するために奏功する程度を等しくとらえて、各風味についての全パネラーの評点の平均を単純に足し合わせて総合評価するという方法が合理的であったと当業者が推認することもできない。
 
<解説> 
食品関連特許について、発明の課題と認定された風味との関連性及び明細書に記載された風味評価試験方法の合理性を検討して、サポート要件を判断。 
①発明の課題が「濃厚な味わいでフルーツトマトのような甘みがありかつトマトの酸味が抑制された」といった、必ずしも客観的には測定し難い風味に関するものであり、
採用された方法が発明の課題を解決する機序が明らかではなく
③風味評価試験によって発明の課題が解決されているのかを判断しなければならないところ、「甘み」「糖酸比」及び「濃厚」の要素のみで課題を解決できると理解できるのか、評価の客観的基準や各パネラーの評点が明らかでない明細書の記載を参照して試験を再現することもできないなど、風味評価の試験が合理的であるともいえない

サポート要件を欠く

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2018年5月22日 (火)

特許法184条の4第4項所定の「正当な理由」

知財高裁H29.3.7      
 
<事案>
控訴人(一審原告)は、平成23年9月15日、発明の名称を「フラッシュ様式での光の不連続な供給がある場合の混合栄養単細胞藻類の培養方法」とする発明につき、優先日を平成22年9月15日とし、フランス国特許庁を受理官庁として、国際特許出願(本件出願)。
国内書面提出期間の経過後である平成25年5月21日に明細書等翻訳文などを提出することにより、国内書面に係る手続
but
特許長官より、国内書面提出期間内に明細書等翻訳文の提出がなく、指定国である我が国における本件出願は取り下げられたものとみなされるとして、本件手続を却下する旨の本件処分。

控訴人には国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなくなったことについて、特許法184条の4第4項所定の「正当な理由」があるとして、本件処分の取消しを求める事案。
 
<規定>
特許法 第184条の4(外国語でされた国際特許出願の翻訳文)
4 前項の規定により取り下げられたものとみなされた国際特許出願の出願人は、国内書面提出期間内に当該明細書等翻訳文を提出することができなかつたことについて正当な理由があるときは、その理由がなくなつた日から二月以内で国内書面提出期間の経過後一年以内に限り、明細書等翻訳文並びに第一項に規定する図面及び要約の翻訳文を特許庁長官に提出することができる。
 
<判断> 
控訴人が国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかったことについて、「正当な理由」があるということはできない⇒控訴棄却。 
 
特許法184条の4第4項所定の「正当な理由」の意義を解するに当たっては、
①特許協力条約に基づく国際出願の制度は、国内書面提出期間内に翻訳文を提出することによって、我が国において、当該外国語特許出願が国際出願日にされた特許出願とみなされるというもの
同制度を利用しようとする外国語特許出願の出願人には、自己責任の下で、国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することが求められる
②国内書面提出期間経過後も、当該外国語特許出願が取り下げられたものとみなされたか否かについて、第三者に関し負担を負わせることを考慮すること
を考慮する必要。

特許法184条の4第4項所定の「正当な理由」があるときとは、
「特段の事情のない限り、国際特許出願を行う出願人(代理人を含む。)として、相当な注意を尽くしていたにもかかわらず、客観的にみて国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかったとき」をいうものと判断。

本件出願に係る手続の委任を受けた特許事務所が、本件出願の処理に当たり、移行期限を徒過しないよう相当な注意を尽くしていたということはできない
⇒同項所定の「正当な理由」があるということはできない
 
<解説>
特許法条約(PLT)において手続期間の経過によって出願又は特許に関する権利の喪失を惹起した場合の「権利の回復」に関する規定が設けられ、加盟国に対して救済を認める要件として「Due Care」(相当な注意)又は「Unintentional」(故意でない) のいずれかを選択することを認めており(PLT12条)、
同規定に沿った諸外国の立法例として、例えば、欧州においては「Due Care」基準を選択。
日本は当時PLTに未加盟であったが、国際的調和の観点から、外国語特許出願の出願人について、期限の徒過があった場合でも、柔軟な救済を図ることにしたもの。

判例時報2363

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
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2018年5月21日 (月)

容易想到性についての判断が問題となった事例

知財高裁H29.3.21      
 
<事案>
X1は、発明の名称を「摩擦熱変色性筆記具及びそれを用いた摩擦熱変色セット」とする特許出願をし、設定登録を受けた(本件特許)。
X2は、本件特許権の一部を譲り受け、特定承継を原因とする一部移転登録をした。
Yの特許無効審判請求について、特許庁は、特許請求の範囲請求項1、5ないし7及び9に係る発明についての特許を無効とする審決。
(本件発明一は、引用発明一及び引用発明二等に基づいて当業者が容易に発明をすることができた)

Xらは、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起し、取消事由として、容易想到性の判断の誤りを主張。
 
<判断>
相違点五(本件発明一が、エラストマー又はプラスチック発泡体から選ばれ、摩擦熱により前記インキの筆跡を消色させる摩擦体が、筆記具の後部又はキャップの頂部に装着されてなるのに対し、引用発明一は特定していない点)
に係る容易想到性の判断の誤りを指摘し、本件審決を取り消した。

両発明(引用発明一と引用発明二)は、その構成及び筆跡の形成に関する機能において大きく異なる。
⇒当業者において引用発明一に引用発明二を組み合わせることを想到するとはおよそ考え難い。

仮に、当業者が引用発明一に引用発明二を汲ん見合わせたとしても・・・引用発明二の摩擦具九は、筆記具とは別体のもの。

当業者において両者を組み合わせても、引用発明一の筆記具と、これとは別体の、エラストマー又はプラスチック発泡体を用いた摩擦部を備えた摩擦具九(摩擦体)を共に提供する構成を想到するにとどまり、摩擦体を筆記具の後部又はキャップの頂部に装着して筆記具と一体のものとして提供する相違点五に係る本件発明一の構成に至らない。

仮に、当業者において、摩擦具九を筆記具の後部ないしキャップに装着することを想到し得たとしても、
引用発明一に引用発明二を組み合わせて「エラストマー又はプラスチック発泡体から選ばれた、摩擦熱により筆記時の有色のインキの筆跡を消色させる摩擦体」を筆記具と共に提供することを想到した上で、
これを基準に摩擦体(摩擦具九)の提供の手段として摩擦体を筆記具自体又はキャップに装着することを想到し、
相違点五に至る本件発明一の構成に至る。

このように引用発明一に基づき、二つの段階を経て相違点五に係る本件発明一の構成に至ることは、格別な努力を要するものといえ、当業者にとって容易であったということはできない
 
<説明>   
特許庁の審決と判断を分けた点: 

引用発明一(主引用発明)と引用発明二(副引用発明)は、その構成及び筆跡の形成に関する機能において大きく異なる
当業者において引用発明一に引用発明二を組み合わせることを発想するとはおよそ考え難いとした点。

主引用例と副引用例を組み合わせて本件発明に至るためには、これを組み合わせる動機付けが必要

動機付け有無の判断
~両発明の技術分野の関連性、課題の共通性・作用や機能の共通性、引用例に適用の示唆があるか否か等の点から、構成の組合せを阻害する要因があるか否かも含めて、、総合的に検討するのが現在の実務。
 
●当業者において引用発明一に引用発明二を組み合わせても、引用発明一の筆記具と、これとは別体の、摩擦部を備えた摩擦体を共に提供する構成を想到するにとどまり、摩擦体を筆記具の後部又はキャップの頂部に装着して筆記具と一体のものとして提供する相違点に係る本件発明の構成には至らない、とした点。 

主引用発明に副引用発明を組み合わせた場合に、相違点に係る本件発明の構成に至らなければ、容易に想到できたものとはいえないが、これは、副引用発明をどのように認定するか、という点にもかかわる問題。

引用発明を上位概念化・一般化して認定することは、常に誤りとはいえないが、これが許されるのは、本件発明との対比における特徴的部分に相違がないような場合に限られよう。
そうでなければ、本来、正しく認定した当該副引用発明だけでは本件発明に想到できない場合にも、容易に想到できるという判断になりかねない。

 
●さらに、引用発明一に基づき、二つの段階を経て相違点5に係る本件発明一の構成に至ることは、格別な努力を要するものといえ、当業者にとって容易であったということはできない、とした点。 

主引用発明と副引用発明を組み合わせることを想到し得たとしても、両発明を組み合わせた上で、さらに本件発明に至るためにさらにもう一段の周知技術等を組み合わせるといった判断手法は許されない。
 
判例時報2363

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2018年5月 7日 (月)

存続期間が延長された特許権に係る特許発明の効力が及ぶ範囲

知財高裁H29.1.20      
 
<事案>
本件特許を有する控訴人(一審原告)が、被控訴人(一審被告)に対し、被控訴人の製造販売に係る各製剤は、本件特許の願書に添付した明細書(「本件明細書」)の特許請求の範囲の請求項一に係る発明(本件発明)の技術的範囲に属し、かつ、存続期間の延長登録を受けた本件特許権の効力は、一審被告による一審被告各製品の生産、譲渡及び譲渡の申出(生産等)に及ぶ旨主張⇒一審被告各製品の生産等の差止め及び廃棄を求めた。 
 
<判断>
存続期間が延長された特許権に係る特許発明の効力は、政令処分で定められた「成分、分量、用法、用量、効能及び効果」によって特定された「物」(医薬品)のみならず、これと医薬品として実質同一なものにも及び、政令処分で定められた前記構成中に対象製品と異なる部分が存する場合であっても、当該部分が僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異にすぎないときは、対象製品は、医薬品として政令処分の対象となった物と実質同一なものに含まれ、存続期間が延長された特許権の効力の及ぶ範囲に属する。

医薬品の成分を対象とする物の特許発明について、
政令処分で定められた「成分」に関する差異、「分量」の数量的差異又は「用法、用量」の数量的差異のいずれか1つないし複数があり、他の差異が存在しない場合に限定してみれば、
僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異かどうかは、
特許発明の内容に基づき、その内容との関連で、
政令処分において定められた「成分、分量、用法、用量、効能及び効果」によって特定された「物」と対象製品との技術的特徴及び作用効果の同一性を比較検討して、当業者の常識を踏まえて判断すべき
前記限定の場合において、

①医薬品の有効成分のみを特徴とする特許発明にに関する延長登録された特許発明において、有効成分ではない「成分」に関して、対象製品が、政令処分申請時における周知・慣用技術に基づき、一部において異なる成分を付加、転換等しているような場合
②公知の有効成分に係る医薬品の安定性ないし剤型等に関する特許発明において、対象製品が政令処分申請時における周知・慣用技術に基づき、一部において異なる成分を付加、転換等しているような場合で、特許発明の内容の照らして、両者の間で、その技術的特徴及び作用効果の同一性があると認められるとき
③政令処分で特定された「分量」ないし「用法、用量」に関し、数量的に意味のない程度の差異しかない場合、
④政令処分で特定された「分量」は異なるけれども、「用法、用量」も併せてみれば、同一であると認められる場合は、

対象製品と政令処分で定められた「成分、分量、用法、用量、効能及び効果」によって特定された「物」の間の差異はわずかな差異又は全体的にみて形式的な差異に当たり、対象製品は、医薬品として政令処分の対象となった物と実質同一なものに含まれる。
 
<規定>
特許法 第68条の2(存続期間が延長された場合の特許権の効力)
特許権の存続期間が延長された場合(第六十七条の二第五項の規定により延長されたものとみなされた場合を含む。)の当該特許権の効力は、その延長登録の理由となつた第六十七条第二項の政令で定める処分の対象となつた物(その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合にあつては、当該用途に使用されるその物)についての当該特許発明の実施以外の行為には、及ばない
 
<解説>
存続期間が延長された場合の特許権の効力は、特許法68条の2において、その特許発明の全範囲に及ぶのではなく、その延長登録 の理由となった政令で定める処分の対象となった物についての当該特許発明の実施以外の行為には及ばないと定められている。

特許法68の2の
「物」は有効成分を
「用途」は効能・効果を
意味するものと解されてきた。

医薬品の品目の特定のために要求されている各要素のうち新薬を特徴づけるものは「有効成分」と「効能・効果」であると考えられていた。
but
知財高裁H21.5.29:
「政令で定める処分」が薬事法所定の承認である場合、「政令で定める処分」の対象となった「物」とは、当該承認により与えられた医薬品の「成分」、「分量」及び「構造」によって特定された「物」を意味し(この「成分」は、薬効を発揮する成分(有効成分)に限定されない。)、かかる「物」についての当該特許発明の実施、及び当該薬品の「用途」によって特定された「物」についての当該特許発明の実施についてのみ、延長特許権の効力が及ぶ(均等物や実質的に同一と評価される物が含まれることは、技術的範囲の通常の理解に照らして、当然である。)と判示。

従来よりも延長特許権の効力の及ぶ範囲を狭く解したもの。

知財高裁H26.5.30:
特許権の延長登録制度及び特許権侵害訴訟の趣旨

延長特許権は「物」に係るものとして「成分(有効成分に限らない。)によって特定され、かつ、「用途」に係るものとして、「効能、効果」及び「用法、用量」によって特定された当該特許発明の実施の範囲で、効力が及ぶ(均等物や実質的に同一と評価される物が含まれることは、技術的範囲の通常の理解に照らして、当然である。)と判示。

同判決は、「分量」については、医薬品の構成を客観的に特定する要素となり得るものの、競業他社が、本来の特許期間経過後に、特許権者が臨床試験等を経て承認を得た医薬品と実質的に同一の用法・用量となるようにし、分量のみ特許権者が承認を得たものとは異なる医薬品の製造販売等をすることを許容することは、延長登録制度を設けた趣旨に反することになる⇒延長特許権の効力を制限する要素となると解することはできないとして、特定要素に含めなかった。

判例時報2361

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2018年4月26日 (木)

審判が認定した上位概念化された周知技術を認定できず、容易想到性はないとされた事例

知財高裁H29.7.4      
 
<事案>
発明の名称を「給与計算方法及び給与計算プログラム」とする本願発明について特許出願⇒拒絶査定⇒不服審判請求不成立審決。

本件審決は、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当事者が容易に発明をすることができたから、特許を受けることができない、などというもの。 
本件は、前記審決に対する取消訴訟。

原告は、取消事由として、容易想到性の判断誤り(具体的には、引用発明の認定誤り、相違点五の容易相当性の判断誤り等)を主張

相違点五:
本願発明の従業員情報は、各従業員が入力を行うためのウェブページを各従業員の従業員端末のウェブブラウザ上に表示させて入力された、給与計算を変動させる従業員入力情報を含んでいるのに対し、
引用発明の従業員情報は、各従業員が入力を行うためのウェブページを各従業員の従業員端末のウェブブラウザ上に表示させて入力されたものを含んでいない点 
 
<判断>
相違点五の容易相当性について、審判の判断に誤りがあるとした。
 
周知例二等は、
従業員の給与支払機能を提供するアプリケーションサーバーを有するシステムにおいて、従業員の取引金融機関、従業員の勤怠情報等の入力及び変更が可能な従業員の携帯端末機を備えることが開示されていることは認められるが、
これらを上位概念化した、および従業員に関連する情報全般の入力及び変更が可能な従業者の携帯端末機を備えることや、従業員入力情報の入力および変更が可能な従業者の経緯対端末機を備えることが開示されているものではなく、それを示唆するものもない

従業員情報の入力及び変更が可能な従業者の携帯端末機を備えることが周知技術であったということはできず、かかる周知技術の存在を前提として、従業員にどの従業員情報を従業員端末を用いて入力させるかは当業者が適宜選択すべき設計的事項であるとも認められない

引用例に接した当業者は、本願発明の具体的な課題を示唆されることはなく、専門家端末から従業員の扶養者情報を入力する構成に代えて、各従業員の従業員端末から当該従業員の扶養者情報を入力する構成とすることにより、相違点五に係る本願発明の構成を想到するものとは認め難い
⇒本件審決を取り消した。
 
<規定>
特許法 第29条(特許の要件) 
産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。
一 特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明
二 特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明
三 特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明
2 特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。
 
<解説> 
●特許要件たる進歩性:
「特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができ」ないとの要件(特許法29条2項)。

通常、
①本件発明の認定、
②主たる引用発明の認定、
③本件発明と主たる引用発明との対比(一致点及び相違点の認定)
④相違点の判断
というプロセスで判断。

本件では、②と④について争われ、②は問題ないものの、④の判断に誤りがあるとされた。
 
●主たる引用発明との相違点に係る本願発明の構成が、別の引用例に記載されていること又は周知技術であることが証拠上認定
主たる引用発明との構成の組合せ等が容易か否かを判断
but
本件では、組み合わせるべき審決認定の周知技術が、上位概念化されたものであり、証拠上具体的な記載はなかったというもので、そのような判断手法によって容易に想到できるとした審決の判断が否定された。

①客観的な判断という観点からは、証拠に基づいた認定が不可欠。
②当該証拠から認定できる技術を主引用発明に組み合わせたとしても、本願発明の構成には至らない。
③証拠上認められる技術から上位概念化して周知技術を認定すると、後知恵に陥る危険がある。

このことは、引用発明や周知技術の認定のみならず、一地点の認定についても当てはまるもので、一致点を上位概念によって認定する場合は、相違点の認定をより具体的に正しく認定しなければ、容易相当性の判断を誤る可能性がある。

知財高裁H29.6.15:
組合せ又は置換の際に上位概念化して認識することにより容易と判断することを否定した最近の裁判例。

引用発明二の主たる構成である「駐車ブレーキ」についての、引用文献二に開示される「駐車ブレーキが作動しない場合」という条件を、
「ブレーキ装置が作動しない場合」と上位概念化して認識し、その概念を周知技術二に当てはめて、「ブレーキ液圧保持装置(ブレーキ装置)が作動しない場合」という条件に置換し、引用発明二に周知技術二を採用して得た「ブレーキ液圧保持装置」にブレーキ液圧保持装置(ブレーキ装置)が作動しない場合」という条件を適用する動機付けはないものとした。
 
●引用例に接した当業者が、前記相違点に係る本願発明の構成に至ることが容易であるとするには、前記のような構成の組合せをする動機付けが必要

本判決は、「引用例に接した当業者は、本願発明の具体的な課題を示唆されることはなく、専門家端末から従業員の扶養者情報を入力する構成に代えて、各従業員の従業員端末から当該従業員の扶養者情報を入力する構成とすることにより、相違点五に係る本願発明の構成を想到するものとは認め難い」旨判示し、
課題の示唆という点を重視して容易相当性を否定。

本願発明と主たる引用例との相違点は、本件発明の構成上の特徴であり、
これは、従来技術では解決できなかった課題を解決するためのもの。

容易相当性の有無を判断するに当たっては、引用発明を出発点として、本件発明の特徴に到達するための課題が示唆されているか否かを検討する必要。

動機付けの有無に関し、
知財高裁H18.6.29は、
新規の技術事項を含む事案において、構成において、紙葉類の積層状態検知装置を紙葉類識別装置に置き換えるのが容易であるというためには、それなりの動機付けを必要とする

進歩性を否定するためには、この技術的思想の着想が容易であったことが論理付けられていなければならない⇒論理付けもなく、単なる設計変更であるとした審決の判断を誤りであると判断。

課題の示唆は、重要な要素の1つであるところ、
知財高裁H21.1.28は、
当該発明が目的とする課題を的確に把握することが必要不可欠であり、
容易相当性の判断の過程においては、事後分析的かつ非論理的思考は排斥されなければならない
そのためには、当該発明が目的とする「課題」の把握に当たって、その中に無意識的に「解決手段」ないし「解決結果」の要素が入り込むことがないよう留意することが必要となると判示。

判例時報2360

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2018年4月25日 (水)

特許法195条の4の「査定」の意味と行政不服審査法による不服申立・特許査定の無効等

知財高裁H27.6.10      
 
<事案>
共同で特許出願をしたXらは、誤って真意と異なる内容で特許請求の範囲を減縮する手続補正書を提出し、担当審査官は、本件補正後の本願発明について特許査定。
Xらは、行政不服審査法に基づく、特許庁長官に対し、本件特許査定の取消しを求める異議申立て(本件異議申立て)⇒特許庁長官は、特許査定は異議申立ての対象にならないとして却下。 
 
<請求>
本件特許査定には重大な瑕疵があると主張
Y(国)に対し、本件訴訟を提起し、
行政事件訴訟法に基づき

主位的に、
①本件特許査定の無効確認
②これを前提とする本件却下決定の取消し
③特許庁審査官に対して本件特許査定を取り消すことの義務付け
を求め、

予備的に
①本件特許査定の取消し、
②これを前提とする本件却下決定の取消し
③特許庁審査官に対し本件特許査定を取り消すことの義務付け
を求めた。 
 
<規定>
特許法 第195条の4(行政不服審査法による不服申立ての制限)
査定又は審決及び審判若しくは再審の請求書又は第百三十四条の二第一項の訂正の請求書の却下の決定並びにこの法律の規定により不服を申し立てることができないこととされている処分については、行政不服審査法による不服申立てをすることができない

行訴法 第14条(出訴期間)
取消訴訟は、処分又は裁決があつたことを知つた日から六箇月を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
2 取消訴訟は、処分又は裁決の日から一年を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
3 処分又は裁決につき審査請求をすることができる場合又は行政庁が誤つて審査請求をすることができる旨を教示した場合において、審査請求があつたときは、処分又は裁決に係る取消訴訟は、その審査請求をした者については、前二項の規定にかかわらず、これに対する裁決があつたことを知つた日から六箇月を経過したとき又は当該裁決の日から一年を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
 
<原審>
特許法195条の4の「査定」には処分に審査官の手続違背があると主張される場合の特許査定は含まれないと解される⇒本件異議申立ては適法であり、本件特許査定取消しの訴えは、行訴法14条3項により出訴期間を徒過していない。
担当審査官には、本件補正がxらの真意に基づくものかどうかを確認すべき手続上の義務を怠った重大な手続違背があり、本件特許査定は無効ではないものの取消しを免れない。
⇒ ①本件特許査定の取消しと②これを前提とする本件却下決定の取消しを認容。
 
<判断>
●本件特許査定取消しの訴えの適法性
①特許法における「査定」の語の用法や同法195条の4の制定経過等
⇒「査定」の文言は文理に照らして解することが自然。
②このように解しても、特許査定の不服に対する司法的救済の途は閉ざされておらず、このほかに行政上の不服申立ての途を認めるべきかどうかは立法府の裁量的判断に委ねられ、その判断も不合理とはいえない。

同法195条の4の「査定」が拒絶査定のみに限定され、あるいは処分に審査官の手続違背があると主張される場合の特許査定はこれに含まれないと解すべき理由はない

本件特許査定に対する行審法による不服申立ては認められないから、本件異議申立ては不適法であり、本件特許査定の取消しの訴えについて行訴法14条3項を適用することはできない。
本件特許査定の取消しの訴えは、出訴期間を徒過⇒却下。

●本件補正の錯誤無効について 
特許法は、書面主義の下、錯誤による書面の記載内容と真意との間の齟齬の是正について厳格な要件の下にのみこれを許容している。

仮に、真意と異なる記載について、一般的な意思表示の錯誤を理由としてその効果を否定することができる余地があり得るとしても、そのような錯誤が認められる場合としては、
①その齟齬が重大なものであることに加えて、
②少なくとも、当該書面の記載自体から、錯誤のあることが客観的に明白なものであり、その是正を認めたとしても第三者の利益を害するおそれがないような場合であることが必要。
but
①本件では、本件補正書の記載自体は、補正前の特許請求の範囲を減縮しようとするものであって、同書面の記載上、特段の問題があるとは認められず、その書面自体からXらに錯誤があることが客観的に明白なものと認めることはできない。
②その是正を認めた場合に第三者の利益を害するおそれがないということもできない。

Xらの錯誤を理由に本件補正が無効であるということはできない

●本件特許査定の違法性について 
審査官が、
特許出願に対する審査を全くすることがなかったか、あるいは実質的にこれと同視すべき場合には、
これによる査定には、特許法の予定する審査を欠く重大な違法があるというべき。

担当審査官は、本件補正が「特許・実用新案審査基準」に照らせば新規事項の追加に当たることを看過したといわざるをえないものの、
本件補正後の本願発明の進歩性、請求項の明確性、明細書のサポート要件及び実施可能要件について、それぞれ検討を経た上で本件特許査定に至ったと評価できる⇒明らかに不合理とまでいうことはできない。

担当審査官が、審査を全くすることなく、あるいは実質的に審査をしなかったのと同視べき場合において本件特許審査を行ったと認めることはできず、本件特許が無効であるということはできない。
 
<解説>
●特許査定に対する行審法に基づく不服申立ての可否 
特許出願に対する拒絶査定の当否については、その専門性、技術性に鑑みて、裁判所の司法審査に先立ち、特許庁の審判合議体による審判手続において審理される(特許法12条)。
but
特許査定に対する不服を理由とする審判請求は認められない
これを認める実益がないことが指摘されている。

審査官による査定は、拒絶査定のみならず特許査定についても、行政処分の性質を有するが、特許法195条の4は、「査定」について行審法による不服申立てをすることができないと規定
but
拒絶査定とは異なり、行政庁に対する不服申立ての途として審判の制度が設けられていない特許査定については、行審法に基づく不服申立ての途が認められるべきかいなか、すなわち、同条の「査定」は拒絶査定だけでなく特許査定を含むかが問題。
本判決は否定。
 
●特許出願と錯誤無効 
行政過程における私人の意思表示に瑕疵がある場合、
一般的には民法の法律行為に関する規定の適用があるとされるが、行政法関係においては、当該関係を規律している法律の仕組みに即して事案を処理してく必要がある。

最高裁昭和39.10.22:
確定申告書の記載内容の過誤の是正については、その錯誤が客観的に明白かつ重大であって、所得税法の定めた更正の請求の方法以外にその是正を許さないならば、納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合でなければ、法定の方法によらないで記載内容の錯誤を主張することは許されない旨判示。

調査官解説:
私人の公法行為について錯誤の主張が許されるかどうかは、究極的には立法政策の問題
法律に特別の規定のない時は格別、行為者の過誤に対する救済が法律で特別に規定されているときは、当該救済手段の設けられている趣旨・目的を勘案した上でその成否及び限度を決すべき
 
●特許査定の無効 
行政処分は、それが国家機関の権限に属する処分として外観的形式を具有する限り、仮にその処分に関し違法の点があったとしても、その違法が重大かつ明白である場合のほかは、これを法律上当然無効というべきではない(最高裁昭和31.7.18)。

判例時報2360

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