知的財産権

2025年3月11日 (火)

発信者が著作物にリンクするURLを送信した行為と法5条1項の「権利の侵害」(否定)

東京地裁R6.1.18

<事案>
インターネット上で配信活動を行っている原告が、氏名不詳者(「本件発信者」)によってされたインターネット上の無料掲示板サービスにおける投稿により、原告のプライバシー、名誉感情、著作権及び著作者人格権が侵害された⇒法5条1項に基づき、発信者情報の開示を求めた。

<規定>
特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律
第五条(発信者情報の開示請求)
特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対し、当該特定電気通信役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報のうち、特定発信者情報(発信者情報であって専ら侵害関連通信に係るものとして総務省令で定めるものをいう。以下この項及び第十五条第二項において同じ。)以外の発信者情報については第一号及び第二号のいずれにも該当するとき、特定発信者情報については次の各号のいずれにも該当するときは、それぞれその開示を請求することができる。
一 当該開示の請求に係る侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
・・・・

<争点>
本件投稿2が、法5条1項の「権利の侵害」に該当するか?
本件投稿2:
画像アップロードサイトのURLを投稿したもので、本件URLにアップロードされた画像は、原告が著作権を有する画像を複製したもの。

<判断>
最高裁R2.7.;21(リツイート事件判決)を参照し、
発信者のプライバシー、表現の自由及び通信の秘密との調整を図るために、法5条1項が開示の対象を、情報の流通による権利侵害に係る発信者情報に限定した趣旨目的⇒同項にいう権利の侵害とは、侵害行為のうち、情報の流通によって権利の侵害を直接的にもたらしているものを解するのが相当。



本件発信者による本件URLの送信は、情報の流通によって原告の著作権の侵害を直接的にもたらしているものと認めることはできない⇒本件投稿2は、前記にいう「権利の侵害」が明らかであるものと認めることはできない。

<解説>
●法5条1項に規定する「権利の侵害」の意義
「情報の流通によって自己の権利を侵害された」という要件。
A:単独説:
東京地裁:「法の趣旨や文言からすれば、・・・・発信者情報の開示請求が認められる要件である『侵害情報の流通によって』被害者の権利が侵害された場合に該当するためには、当該特定電気通信による情報(文字データ)の流通それ自体によって権利を侵害するものであることが必要」
B:相当因果関係説:
法律の文言からは、必ずしも単独説が一義的に導かれるものではなく、むしろ、他の法律では「よって」という文言により広い意味が認められ、間接的に権利侵害が発生するケースも相当因果関係の範囲内で許容しているのが通常。
C:中間説:
リツイート事件判決の調査官解説:
情報の流通単独で権利侵害が生じたことまでは要求しないものの、相当因果関係のみならず、侵害を直接的にもたらしている関係を要求するという考え方が紹介

●リツイート事件判決
各リツイート者がした各リツイートによって、
①画像表示の仕方の指定に係るリンク画像表示データ(HTML等のデータ)が特定電気通信設備であるリンク元(タイムライン)のサーバーの記録媒体に記録されて、ユーザーの端末に送信され、
②リンク先から元画像のデータが送信された後、前記リンク画像表示データの指定に従って画像のトリミング表示がされ、
③その結果、元画像の氏名表示部分が表示されなくなり、氏名表示権の侵害が生じたという事案について、
「侵害情報の流通によって」の要件該当性を肯定。

リンク画像表示データの送信は、氏名表示権の侵害を直接もたらしているものというべきであって、各リツイート者は、リンク画像表示データを特定電気通信設備の記録媒体に記録した者ということができる
⇒各リツイート者は「侵害情報の発信者」に該当し、かつ、「侵害情報流通によって」権利を侵害したものというべきである。

●本判決の立場
本件における本件URLは、リツイート事件判決における「リンク画像表示データ」に対応するもの
but
リンク画像表示データは、これによる画像表示の仕方の指定に従って、画像のトリミング表示がされ、氏名表示部分が表示されなくなり、氏名表示権の侵害を生じさせた⇒氏名表示部分を含む元画像のデータの流通と比べても、氏名表示権侵害の引き金になるものとして、権利侵害を直接的にもたらしているといえる。
①本件URL:原告の著作権侵害を構成する本件元画像データを表示する手段を提供するものであり、侵害との間に相当因果関係があるとみる余地はあるものの、権利侵害の決定的要因となるのは本件元画像のデータ自体であり、本件URL自体が権利侵害の惹起に重要な意味を持つわけではない。
②ユーザーが本件URLをクリックした上、別のサイトに移動する旨告知されているのに更に同じURLをクリックしない限り、本件元画像を表示することができないという事情。

本件URLの流通は権利侵害を直接もたらしているとはいえないと判断。
リツイート事件判決:リンク画像表示データの流通と氏名表示権侵害との間には相当因果関係がると認められるのみならず、リンク画像表示データの流通が氏名表示権侵害を直接的にもたらしているといえる⇒BCで肯定。
今後の議論及び裁判例の蓄積の余地を残すために、事例判断にとどめたものと推察。
本件:Bなら肯定、Cなら否定⇒C(中間説)を採用することを正面から明らかに。
リツイート事件調査官解説:
リツイート事件で要件該当性が肯定されたからといって、必ずしも名誉毀損等のケースで要件該当性が肯定されることになるとは限らない。

判例時報2614

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2025年3月 8日 (土)

原告に関する知識を有する者による同定可能性と流布可能性⇒名誉毀損(肯定)

東京地裁R6.7.18

<事案>
・・・原告の名誉権及び名誉感情を侵害するとともに、原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を流布する行為(不正競争法2条1項21号)に当たる⇒民法709条及び不正競争法4条に基づき、損害賠償金380万円及び遅延損害金の支払を求めた。

<争点>
原告に関する同定可能性の有無

<判断>
ある投稿における匿名の人物が原告であると同定できるか否かについては、原告と面識がある又は原告に関する知識を有する者の普通の注意と読み方を基準として判断すべきであり(最高裁)、前記人物が原告であると同定された前記投稿の内容が前記人物の社会的評価を低下させる場合には、前記にいう者が不特定若しくは多数であるとき又は特定少数であってもこれを流布するそれがあるときは、原告の名誉を毀損するものと認めるのが相当である。
・・・原告と面識がある又は原告がFの所属していた道場の道場主であるという知識を有する者の普通の注意と読み方を基準とすれば、当該知識を手掛かりにして、本件投稿・・・における「道場主」は原告をいうものであると十分に同定することができる。
本件各投稿の閲覧者には、原告と面識がある又は原告がFの所属していた道場の道場主であるという知識を有する者が多数存在していたものと認められ、
仮に前記の者が特定少数であったとしても、本件各投稿の内容が特定の道場の信用性や安全性に疑義を呈するものであることを考慮すれば、前記の者が本件各投稿の内容を空手関係者に流布するおそれがある。

名誉毀損が成立。

<解説>
一般の読者の普通の注意と読み方を基準として同定可能性あり⇒不特定多数が同定でき、伝播可能性も認められる。
一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として同定可能性が否定されるときに、特定の者にとっての同定可能性を検討し得るか?
肯定された場合に伝播可能性をどのように考えるべきか?

●同定可能性の問題
本判決:
原告と面識がある又は原告に関する知識を有する者の普通の注意と読み方とを基準として判断し得る。
~「意思に泳ぐ魚」事件1審判決と同じ立場。
but
後者は前記にいう者が不特定多数存在することを推認し得るとした⇒伝播可能性は問題とならず。
本判決は、前記にいう者が特定の者に限られていた⇒伝播可能性が問題に。

●伝播可能性の問題
原告と面識がある又は原告に関する知識を有する者が、不特定若しくは多数であるとき又は特定少数であってもこれを流布するおそれがあるときは、原告の名誉を毀損。

●残された問題
本判決:同定可能性につき、原告と面識がある又は原告に関する知識を有する者の普通の注意と読み方を基準として判断すべき。

普通の注意と読み方:
判例によれば、表現が事実摘示か意見論評かを区別するに当たり、当該部分の前後の文脈や、記事の公表当時に一般の読者が有していた知識ないし経験等を考慮し得ることを説示。
「知識ないし経験等」には、ネット検索や生成AIの活用を含みうるかも問題。
デジタル技術等の普及状況に照らし、簡易なものであればこれを肯定し得る。

判例時報2613

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書籍の題号の「商標等表示」該当性(否定)

東京地裁R6.7.8

<事案>
Xが、Yに対し、被告書籍に使用された「牧野日本植物〇鑑」という表示(「本件題号」)は不正競争防止法2条1項1号又は2号所定の「商品等表示」に該当し、本件題号を付した被告書籍の出版又は販売は、不正競争防止行為に当たる
⇒同法3条1項に基づき本件題号の使用の差止めを求めるとともに、同法4条に基づき損害賠償金1009万5000円及び遅延損害金の支払を求めた。

<争点>
本件題号が不正競争法2条1項1号又は2号にいう「商品等表示」に該当するか?

<規定>
法 第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
一 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為

<判断>
●書籍の題号の「商品等表示」該当性
①不正競争防止法2条1項1号及び2号は「商品等表示」につき、「人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの」と定義しており、同各号にいう「商品等表示」とは、商品又は営業を表示するものであるから、出所表示機能を有するものに限られるというべき。
②書籍には発行者等の表示が付されるのが通例であり、書籍の出所は一般に発行者等の表示が示すもの⇒書籍の題号はそのその書籍の内容を示すものにすぎず出所表示機能を有するものとはいえない。

書籍の題号は、特段の事情がない限り、同各号にいう「商品等表示」に該当しない。

●あてはめ
「牧野日本植物〇鑑」という本件題号は、牧野執筆に係る日本の植物図鑑という書籍の内容を端的に示すものにすぎず、牧野という執筆者に特徴があるのは格別、書籍の題号としてはありふれたもの。⇒本件題号には出所を示すような顕著な特徴はなく、一般に題号を同じくする書籍であっても、別々の発行者等により発行されているものも少なからず存在することが認められる。

本件題号に接した需要者又は取引者が、これを書籍の出所を示すものとして直ちに理解するものとはいえない。

「商品等表示」に該当するものとは認められない。

<解説>
●「商品等表示」該当性の判断基準
近時、本来出所を表示するものではない商品の形態が、特定の出所を表示する二次的意味を有するとして、「商品等表示」に該当するかどうかが争われる事案が増加。
商品の形態は、
①客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴(「特別顕著性」)を有しており、かつ、
②特定の事業者によって長期間にわたり独占j的に利用され、又は短期間であっても極めて強力な宣伝広告がなされるなど、その形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知(「周知性」)の事実であると認められる特段の事情がない限り、
不正競争法2条1項1号または2号にいう「商品等表示」に該当しない。

●裁判例

●本判決
書籍の出所は一般に発行者等の表示が示すもの⇒書籍の題号そのものはその書籍の内容を示すものにすぎず出所表示機能を有するものとはいえない。
~周知性を検討するまでもなく、特別顕著性を欠くものと判断。
特段の事情「小学館の図鑑」「学研の図鑑」などのように、書籍の題号に出所を示す表示が記載されているなど極めて限定された場面をいう。
仮に書籍の題号が周知なものだとしても、書籍の出所は一般に発行者等の表示が示すもの⇒混同があるとはいえず、
二次的意味で出所表示の著名を認めた事例はうかがわれない

書籍の題号が不正競争法2条1項1号又は2号で保護される場合は極めて限られる。

判例時報2613

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2025年2月13日 (木)

椅子の商品形態の商品等表示等

東京地裁R5.9.28

<事案>
Xらが、Yによる被告各製品の製造販売等の行為は、原告製品の商品等表示として周知又は著名なものと同一の商品等表示を使用する不正競争行為に該当し、仮に不正競争行為に該当しないとしても、原告製品の著作権(X1社が有するもの)及びその独占的利用権(X2が有するもの)の各侵害行為を構成し、仮に不正競争行為に該当せず又は著作権及びその独占的利用権の各侵害行為を構成しないとしても、取引における自由競争の範囲を逸脱する行為であり、Xらの営業上の利益を侵害する

Yに対し、被告各製品の製造販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに、
損害賠償の支払、謝罪広告の掲載を求めた。

<判断>
●「商標等表示」該当性
〇Xらが商品の形態の商品等表示該当性を主張する場合には、商品等表示として権利範囲を画する部分がそれ自体不明確
⇒商品の形態のうち出所表示機能を発揮する商品等表示部分を明確に特定する必要があるものと解するのが相当。
不正競争法2条1項1号又は2号にいう商品等表示に該当すると主張された表示が複数の商品形態を含む場合において、その一部の商品形態が商品等表示に該当しないときは、前記表示は、全体として不正競争法2条1項1号又は2号にいう商品等表示に該当しないと解するのが相当。

〇直線的構成美を造形表現する原告製品の高いデザイン性に鑑みると、少なくとも被告各製品の形態は、究極的にシンプルでシャープな印象を与える直線的構成美を欠く⇒Xらの出所を表示するものであると認めることができない。
本件形態的特徴に含まれる被告各製品の形態は、明らかに原告製品の商品等表示に該当しない⇒本件形態的特徴は、全体として不正競争法2条1項1号又は2号にいう商品等表示に該当しない。

●複製又は翻案の該当性
・・・美術の著作物には、美術攻撃品が含まれ(2条2項)、美術工芸品以外の実用目的の美術量産品であっても、実用目的に係る機能と分離して、それ自体独立して美術鑑賞の対象となる創作性を備えている場合には、美術の範囲に属するものと創作的に表現したものとして、著作物に該当すると解するのが相当。
・・・著作権侵害を構成するものとはいえない。

<規定>
不正競争防止法 第二条(定義)
この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。

一 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為

二 自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供する行為

<解説>
●「商品等表示」該当性
〇 商品の形態の出所表示機能を発揮する部分は、取引の実情等によって時間的にも場所的にも変わり得る上、不正競争法2条1号又は2号の商品等表示に該当すると認める場合には、その権利範囲については、登録商標とは異なり、図面又は写真で特定されて公示されるものではなく、その保護期間についても永続する可能性がある。
⇒商品形態に係る権利が過度に強化されることによって、表現活動、創作活動の自由を制約するおそれがある。

本判決は、
❶商品形態の特定性、❷取得要件の厳格性、❸保護範囲の特定性という3つの縛りをかけることによって、商品形態に蓄積された信用等の保護と、第三者の表現活動m、創作活動の事由とのバランスをとろうとする。

〇❶商品形態の特定性
商品の形態のうち出所表示機能を発揮する商品等表示部分を明確に特定する必要がある。

平成17年判決:
控訴人は、控訴人の商品の形態自体が不正競争法2条1項1号の商品等表示に該当すると主張して、被控訴人の商品の販売の差止め等の請求をしているところ、
商品の形態が同号の商品等表示に該当するか否か及び控訴人の商品と被控訴人の商品とが類似するか否かの命題を抽象的に判断することはできない

訴訟において前記のような主張をする場合には、まず控訴人(原告)において、商品等表示該当性や類似性の根拠となる控訴人の商品の形態についての特徴(構成)を特定して主張することが必要であり、これに対し、被控訴人が反論等することにより、その特定された商品の構成を対象として不正競争行為の成否が審理されることになる。
控訴人が行った控訴審における控訴人の商品の構成についての主張変更につき、原審において弁論準備手続を経て特定された控訴人の商品の構成を、控訴審に至って追加的に変更することは、これに対する被控訴人の新たな防御を必要とするなど、被控訴人との関係で公平を欠く上、控訴審において新たな構成について審理することを余儀なくさせることになる。
①控訴人の商品の構成の特定がこの種訴訟における基本的な出発点をなすものであること、
②原審での審理の経緯、主張変更の態様など

重大な過失による時機に後れた攻撃方法の提出というべきであって、民訴法157条1項により却下。

〇❷取得要件の厳格性
商品形態に係る「商品等表示」該当性の判断基準については、厳格に判断しようとする裁判例が蓄積。

〇❸保護範囲の特定性
原告主張が「商品等表示」に該当すると主張する商品形態が、複数の商品形態を含む場合には、原告は、その商品形態の全てが「商品等表示」に該当することを主張立証する必要がある。

複数の商品形態のうち、出所表示機能を発揮しない商品形態までをも保護することになれば、かえって事業者間の公正な競争を阻害することが明らか。
被告各製品の形態は、究極的にシンプルでシャープな印象を与える直線的構成美を欠くもの⇒Xらの出所を表示するものであると認めることができず、本件形態的特徴は、出所表示機能を発揮しない商品形態までをも含むもの⇒「商品等表示」該当性を否定。

●複製又は翻案の該当性
〇著作物性
平成27年判決:
著作物性につき、応用美術に一律に適用すべきものとして、高い創作性の有無の判断基準を設定することは相当とはいえず、個別具体的に、作成者の個性が発揮されているか否かを検討すべき。

本判決:それ自体独立して美術鑑賞の対象となる創作性を備えている場合には、美術の範囲に属するものを創作的に表現したものとして、著作物に該当すると解するのが相当である。

〇応用美術に係る機能との関係
平成27年判決:
応用美術について、当該実用目的又は産業上の利用目的にかなう一定の機能を実現する必要がある⇒その表現については、同機能を発揮し得る範囲内のものでなければならず、応用美術の表現については、このような制約が課されるこちから、作成者の個性が発揮される選択の幅が限定
⇒応用美術は、通常、創作性を備えているものとして著作物性を認められる余地が、前記制約を課されない他の表現物に比して狭く、また、著作物性を認められても、その著作権保護の範囲は、比較的狭いものにとどまることが想定される。

本判決:
機能というアイデアの領域によって、創作性を検討すべき領域が自ずと限定されることになる⇒椅子としての実用目的に係る機能自体とは観念的に分離して、残された前記領域における選択の幅において、創作性を検討すべき趣旨。

判例時報2611

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2025年1月25日 (土)

宗教上の教義である「神示」の著作権法上の引用

東京地裁R4.12.19

<事案>
Yが、本件著作物を掲載した出版物を500部発行し、広報誌の読者に郵送するなどして配布したところ、Xらが、X1の複製権及びX2の出版権を侵害すると主張して、Yに対し、本件出版物の発行等の差止め及び謝罪広告の送付を求めるとともに、X2が、民法709条及び著作権法114条3項に基づき、出版権侵害に係る損害金等を求めた事案。

<規定>
著作権法 第三二条(引用)
公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

著作権法 第二条(定義)
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。

<判断>
●司法審査の対象性
本件訴訟は、著作権に基づく請求の当否を決定するために判断することが必要な前提問題が、宗教上の教義、信仰の内容に深く関わるものとはいえず、その内容に立ち入ることなくその問題の結論を導き得るものと認められる⇒法令の適用による終局的解決に適するものとして、裁判所法3条いう「法律上の紛争」に当たると解することができる。

●本件著作物に対する著作権法の適用の可否
Y:・・・当該「神示」を宗教活動のために利用しても、著作権侵害に当たらない
vs.
Yの主張に係る事情が、引用の成否の考慮事情とされるのは格別、本件著作物が宗教活動の根幹である「神示」に関する著作物であったとしても、そのことを理由として直ちに著作権法の適用を除外する規定はなく、Yの主張は独自見解をいうもの。

●引用の成否
著作権法32条は、公表された著作物は、公正な慣行に合致し、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で引用して利用することができる旨規定するところ、Yは、本件著作物につき、引用部分が分かるように当該部分を黒枠で囲った上で出典を明記して引用している。

これらの引用の態様を踏まえると、本件著作物の引用は、公正な慣行に合致するものと認めるのが相当。

Yは、本件出版物において、「成長の家」の根本聖典である「生命の實相」の発刊90周年をたたえることを目的として、本件著作物を引用しているところ、
①Yは、本件出版物において、「成長の家」の根本聖典である「生命の實相」前20巻のうち、第2巻の冒頭のわずか2頁程度にすぎず、その内容も、「生命の實相」の発刊の由来、意義等を的確に表現したものであること、
②本件著作物は、本件出版物全4頁のうち、2頁目の上欄半分を掲載されているにすぎず、本件著作物が掲載された本件出版物には、「生命の實相」の発刊の経緯や根本聖典としての重要性が記載されているなど、前記目的に沿う

本件著作物の引用は、目的上正当な範囲で行われた。

<解説>
●司法審査の対象
裁判所法3条の「法律上の争訟」:
当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、かつ、それが法令の適用により終局的に解決することができるものに限られる(最高裁)。

具体的な権利義務ないし法令の適用により解決するのに適しないものは、裁判所の審判の対象となり得ない。

最高裁昭和56年判例:
本件訴訟は、具体的な権利義務ないし法律関係に関する紛争の形式をとっており、その結果信仰の対象の価値又は宗教上の協議に関する判断は請求の当否を決するについての前提問題であるにとどまるものとされてはいるが、本件訴訟の帰すうを左右する必要不可欠のものと認められ、また、記録にあらわれが本件訴訟の経過に徴すると、本件訴訟の争点及び当事者の主張立証も右の判断に関するものがその核心となっていると認められる
⇒本件訴訟は、その実質において法令の適用による終局的な解決の不可能なものであって、裁判所法3条にいう法律上の争訟にあたらない。

●宗教上の教義に対する著作権法の適用の可否
2条1項の「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」

文芸学術美術音楽という知的・文化的な包括概念の範囲に属するものをいう(加戸)。
著作権法の守備範囲はあくいまで文化の範囲に止まるべきであるという価値判断の現れであり、産業の発展を目的とする工業所有権法との教会を画するもの(田村)。
東京高裁:「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属する」とは、知的、文化的精神活動の所産全般を指すものと解するのが相当である。

●引用の成否
〇 A:主従関係説(パロディ・モンタージュ写真事件判決):
「引用」の成立要件として、引用して利用する側が著作物であることを前提に、
ア:引用して利用する側の著作物と引用された利用される側の著作物を明確に区別して認識することができること(明確区別性)、
イ:前記の両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があること(主従関係性)を要する。
〇 B:総合考慮説:
主従関係説は旧著作権法における判断基準⇒現行著作権法の文言に即して判断すべき。
現行著作権法にいう、「公正な慣行」に合致するか否か、引用の目的上「正当な範囲内」であるか否かを総合的に判断する。

高部:法32条1項の文言に沿って「公正な慣行」と「正当な範囲内」という2つの柱について、著作物の性質、利用態様、利用目的・利用分量等の諸要素を総合的に勘案して引用に当たるか否かを判断するのが相当
中山:現行法の解釈としては、まず引用であること、次いで法32条に規定する「公正な慣行」、「正当な範囲」という要件の分析を図るべき。

東京地裁(絵画鑑定証書事件):
引用としての利用に当たるか否かの判断において、他人の著作物を利用する側の利用の目的のほか、その方法や態様、利用される著作物の種類や性質、当該著作物の著作権者に及ぼす影響の有無・程度などが総合考慮されなければならない。

判例時報2609

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2025年1月21日 (火)

国際特許出願にかかる発明について特許を受ける権利を有することの確認を求める訴えの確認の利益(否定)

東京地裁R6.1.22

<事案>
原告・被告会社は、ともに被告Aによって設立された医療機器メーカー
被告Bは、原告の医療機器開発業務に従事していた者

第1事件:
原告が、・・各発明は、被告Aが原告在職中にした職務発明であり、原告がその特許を受ける権利を有しているにもかかわらず、本件発明1-1については被告Aが、本件発明1-2、1-3については被告会社がそれぞれ原告に無断で出願

本件発明1-1については、被告Aとの関において、
本件発明1-2、1-3については、被告会社との間において、
それぞれ原告が特許を受ける権利を有することの確認を求めた。

第2事件:
原告が、本件初ン名2は、被告Bが原告在職中にした職務発明であり、原告がその特許を受ける権利を有しているにもかかわらず、被告Bが原告に無断で出願

本件発明2につき、被告Bとの間において、原告が特許を受ける権利を有することの確認を求めた。

本件発明1-1、1-3、2に係る各出願は国際特許出願
本件発明1-2に係る出願は国内特許出願
国際特許出願については、指定国においても国内移行手続が行われずにいずれも取下擬制がされている⇒確認の利益についても争点。

<主張>
欧州特許付与に関する条約(EPC条約)61条1項(b)は、
出願人以外の者が欧州特許の付与を受ける権利を有すると判断された場合には、当該出願人以外の者は、同じ発明について新たな欧州特許出願をすることができる旨規定。
欧州特許付与に関する条約の施行規則(EPC施行規則)16条2項によれば、
前記EPC条約61条1項の救済手段は、欧州特許出願において指定されている締約国であって、その国に関して決定が行われ若しくは承認されたもの又は「承認に関する議定書」に基づいて承認されなければならないものに限り適用される。
本件発明に係る各国際特許出願については、指定国においても国内移行手続が行われずにいずれも取下擬制。
but
原告:日本の判決において日本法の職務発明の規定に基づく特許を受ける権利が原告に帰属することが確認された場合には、欧州特許出願において指定されている締約国であるドイツにおいて当該判決が承認されることになるため、当該ドイツの承認判決に基づき、原告は新たな欧州特許出願をすることができる⇒訴えの利益がある。

<判断>
本件発明1-2については、請求を認容し、
本件発明1-1、1-3、2については確認の利益を欠くとして却下。

各国の特許は、その成立、移転、効力等につき当該国の法律によって定められ、特許権の効力が当該国の領域内においてのみ認められるもの(最高裁)。

このような属地主義の原則によれば、わが国の職務発明の規定に基づく特許を受ける権利と、ドイツ法の職務発明の規定に基づく特許を受ける権利とは、それぞれ異なるものといえる⇒仮にわが国の職務発明の規定に基づく特許を受ける権利が日本において認められたとしても、ドイツ法の職務発明の規定に基づく特許を受ける権利が必ずしもドイツにおいて承認されるものとはいえない。

本件発明・・・に係る各国特許出願については、指定国においても国内移行手続が行われずにいずれも取下擬制がされている⇒少なくとも本件においては、そもそも確認の対象となるべき権利関係が存在するものとはいえない。
のみならず、原告は、ドイツ法の職務発明の規定に基づき、特許を受ける権利の確認を求めてドイツの裁判所に対し訴えを提起することができる⇒日本の裁判所に対し日本法に基づく特許を受ける権利の帰属の確認を求めるよりも、端的にドイツの裁判所に対し直接ドイツ法に基づく特許を受ける権利の帰属の確認を求めるのが、本件における紛争の解決としては、より有効かつ適切であるといえる。
⇒・・・の請求については、その確認の利益を欠く。

<解説>
●問題の所在
確認の訴えは、確認の対象が性質上無限定となることから、訴えの利益によって当該訴えが許容される場合を限定する必要性が高い。
⇒訴えの利益が認められる場合とは、原告の権利又は法律的地位に危険や不安定が現存し、かつ、その危険や不安定を除去する方法として確認判決をすることが有効適切である場合に限られる。

●先決問題
〇属地主義の原則
法令上明文の根拠はないものの、判例法理上認められている特許法の原理原則。
具体的には、各国の特許権が、その成立、移転、効力等につき当該国の法律によって定められ、特許権の効力が当該国の領域内においてのみ認められることを意味するもの。
属地主義の原則⇒指定国ごとに特許が成立。
当該特許を受ける権利の効力は、当該指定国の領域内においてのみ認められる。
本件発明・・・に係る国際出願においては、日本は指定国に含まれていない⇒判文上では、原告が本件紛争に関して確認を求める権利は、日本ではなくドイツにおける特許を受ける権利。
原告は、本件訴訟において、日本のみで効力を有する権利の帰属の確認を求めているものの、原告が勝訴判決を受けたとしても、原告が真に確認を求めているドイツにおける権利の帰属につき、裁判所の判断の得ることができない。

〇準拠法
準拠法は、法適用通則法に規定する単位法律関係に応じて定められた連結点における法(最密接関係地法)による。
but
特許を受ける権利の帰属という単位法律関係は法適用通則法に定められていない⇒最密関係地法は、条理に基づき解釈により定められるべきことになる。

FM信号復調送致事件判決:
米国特許権に基づく差止め及び排気請求の単位法律関係を特許権の効力と定めた上で、
①特許法は国ごとに出願及び登録を経て権利として認められるものであること、
②特許権について属地主義の原則を採用する国が多く、それによれば、各国の特許権が、その成立、移転、効力等につき当該国の法律によって定められ、特許権の効力が当該邦の領域内においてのみ認められるとされていること、
③特許権の効力が当該国の領域内においてのみ認められる以上、当該特許権の保護が要求される国は当路された国である

最密関係地法を当該特許権が登録された国と解するのが相当。

最高裁H18.10.17:
傍論として、特許を受ける権利の移転や帰属等の取扱いに関する問題については、当該特許を受ける権利に基づいて特許権が登録される国の法律が準拠法となる旨説示。

判例時報2609

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2025年1月 8日 (水)

標章の先使用権が否定された事例

大阪地裁R5.11.30

<事案>
本件商標権を有するXが、被告標章が付された壁面看板の展示やパンフレットの使用等を行ったYの行為は本件商標権を侵害⇒商標法36条1項に基づき、前記展示等の行為の差止めを求めるとともに、同条2項に基づき、被告標章を付した宣伝広告物の排気を求めた。
Y:被告標章につき法32条1項の先使用権が認められる、または、Xの請求は権利濫用に当たると主張。

<争点>
❶被告標章につきYに先使用権が認められるか
❷本件商標権に基づくXの請求は権利の濫用に当たるか

<規定>
商標法 第四条(商標登録を受けることができない商標)
次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
十 他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であつて、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの

商標法 第三二条(先使用による商標の使用をする権利)
他人の商標登録出願前から日本国内において不正競争の目的でなくその商標登録出願に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についてその商標又はこれに類似する商標の使用をしていた結果、その商標登録出願の際(第九条の四の規定により、又は第十七条の二第一項若しくは第五十五条の二第三項(第六十条の二第二項において準用する場合を含む。)において準用する意匠法第十七条の三第一項の規定により、その商標登録出願が手続補正書を提出した時にしたものとみなされたときは、もとの商標登録出願の際又は手続補正書を提出した際)現にその商標が自己の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているときは、その者は、継続してその商品又は役務についてその商標の使用をする場合は、その商品又は役務についてその商標の使用をする権利を有する。当該業務を承継した者についても、同様とする。

<判断>
●争点❶について
Aが「久宝殿」との標章を葬儀業で使用していた地理的範囲はおおむね東大阪市及び八尾市の全域(本件会館から最大で約10km圏内に相当する)と考えられる⇒先使用権が認められるための要件としての周知性についてはその範囲において検討すべき。

葬儀の施行実績等⇒
本件会館が平成12年から「メモリアルホール久宝殿」との名称で約20年にわたり葬儀会館として使用されてきたこと「久宝殿」との標章(被告標章)が一定程度の識別力を有することを考慮しても、被告標章は、本件商標の登録出願(令和2年9月17日出願)の際、当該範囲において現認需要者の間に広く認識されていたとは認められない。

Yの主張を排斥するに当たって、「法32条と法4条1項10号との関係について、本判決は、Yの主張を排斥するに当たって、「法32条1項前段にいう「需要者の間に広く認識されている」の地理的範囲につき、法4条1項10号におけるものよりも緩やかに解する余地があるとしても」と指摘。

●争点❷について
Y:
①Xは、遅くとも令和2年8月には、本件会館における葬儀業につき、Aに代わってYが承継することを知っていたか、容易に知り得たにもかかわらず、本件商標の登録出願をした
②「久宝殿」との標章について、その信用力や顧客誘引力は、Aが平成12年頃から20年以上にわたり、本件会館における葬儀業を運営して生きたことによって獲得したものであり、Yは、Aから前記葬儀業とともに「久宝殿」の標章を承継⇒被告標章の信用力や顧客誘引力はYに帰属している
③原告会館は、本件会館からわずか数百メートルしか離れておらず、両会館の需要者は共通するが、当該需要者は、被告標章は本件会館の葬儀業を指すものとして認識する⇒本件商標と被告標章との間で出所を混同誤認するおそれはほとんどない。

判断:
Xは、既に本店所在地(大阪市)において葬儀会館を営んでいたが、Aの代表者P3からの回答を踏まえて、令和2年9月17日に本件商標の登録出願をし、令和3年8月23日の商標登録により本件商標権を取得し、約1億2000万円の資金を投じて東大阪市の敷地を取得し、「サクラホール久宝殿」との名称の原告会館を開業した。
Xが本店所在地にある既存の葬儀会館から地理的にやや離れた東大阪市に原告会館を建設しようと考えたのは、本件会館から退去させられる旨をP3から聞いたXの代表者P1が、P3の協力のもと、Xにおいて「久宝殿」との標章を用いて葬儀会館を運営することが目的であったと考えられるところ、P3の了解を得た上で行った本件商標の登録出願は、前記の目的を果たすべく自己の権利を守るためにとって行動と認められ、不当なものとはいえない。

権利の濫用に当たるとは認められない。

<解説>
先使用権(法32条1項)の趣旨
×A:本来的には法4条1項10号により登録拒絶されるはずの他人の商標が過誤登録された場合の救済規定
〇B:法32条1項の趣旨は「識別性を備えるに至った商標の先使用者による使用状態の保護」にある。
「需要者の間に広く認識されている」について、法4条1項10号と同一に解釈する必要はなく、その要件は右の登録障害事由に比し緩やかに解し、取引の実情に応じ、具体的に判断するの相当というべき。

裁判例:
・ラーメン店について、必ずしも日本国内全体に広く知られているまでの必要はないとしても、せいざい2,3の市町村の範囲のような狭い範囲の需要者に認識される程度では足りないと解すべき。

・介護保険に係る施設の開設・運営について、(兵庫県老人保健施設協会機関誌等において)被告各施設が所在する地域である兵庫県西播磨圏域に所在する老人保健施設等がまとめて紹介されていることからすれば、被告各施設の需要者は、主として当該圏域に居住する者と認められる⇒当該圏域の需要者の間に広く認識されていれば足りる。

本判決:
葬儀はその施行の必要が予測不可能である一方で、一旦不幸があれば直ちにその施行が求められるという性質を有することを踏まえて、主として葬儀会館の周辺地域に居住する者が需要者として想定されるということについては、一定の合理性が認められる。
Yが主張する半径2km圏内の居住者の葬儀申込件数が約82%を占めることを確認しつつ、当該圏外からの申込件数が2割弱も存在することを重視し、「久宝殿」との標章を業務に使用していた地理的範囲はおおむね東大阪市及び八尾市の全域(本件会館から最大で約10km圏内に相当)と認定し、その範囲において周知性が認められるか検討されるべき。

判例時報2608

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写真の著作物性が否定された事例

東京地裁R5.7.6

<事案>
氏名不詳者の記事投稿により、Xの著作権及び著作者人格権が侵害された⇒インターネット接続サービス事業を運営するYに対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律5条2項に基づき、発信者情報開示命令の申立て。
⇒却下⇒プロ責法14条1項に基づき異議の訴え。

<争点>
❶本件写真の著作物性
❷引用の成否
❸氏名表示権侵害の成否

<規定>
著作権法 第二条(定義)
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。

第三二条(引用)
公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

第一九条(氏名表示権)
3著作者名の表示は、著作物の利用の目的及び態様に照らし著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるときは、公正な慣行に反しない限り、省略することができる。

<判断>
●争点❶について
・・・本件写真はXの思想又は感情を創作的に表現したものとはいえない⇒本件写真が著作物に該当するものと認めることはできず、本件投稿によってXの著作権が侵害されたことが明らかであるとはいえない。

●争点❷について
他人の著作物は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれる場合には、引用できる(32条1項)。
その要件該当性は、引用される著作物の内容及び性質、引用の目的、その方法や態様、著作権者に及ぼす影響の程度等の諸般の事情を総合考慮して、社会通念に照らし判断するのが相当。
・・・・本件投稿において本件写真を示すことは、批評の対象となった投稿の内容を理解するのに資するものといえる⇒本件写真の利用は、批評の目的条正当な範囲で行われたものといえる。
・・・・一般の閲覧者の普通の注意と読み方を踏まえると、本件写真の撮影者は、Xであると理解されると解するのが相当。⇒本件写真の出所は明らか。
その他に、本件写真及び本件投稿の内容、前記批評の目的、本件写真の掲載態様等を併せ考慮すると、本件投稿に本件写真を添付したことは、公正な慣行に合致している。

仮に本件写真に著作物性が認められるとしても、本件投稿において本件写真を利用する行為は、著作権法32条1項の規定に基づき、適法である。

●争点❸について
・・・本件写真の著作者がXであると理解されると解するのが相当であり、
その他に、本件投稿の批評の目的、本件投稿の記載内容、掲載態様等を併せ考慮すれば、本件投稿において本件写真を利用するに当たり、Xの氏名の表示は、著作権法19条3項に基づき、省略することができる。

仮に本件写真に著作物性が認められるとしても、本件投稿において本件写真を利用する行為が、Xの氏名表示健を侵害するものとはいえず、本件投稿によりXの著作者人格権が侵害されたことが明らかであるとはいえない。

<解説>
●アイデアと表現の2分論
最判H13.6.28:
既存の著作物に依拠して創作された著作物が、思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において、既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、翻案には当たらない。

著作物の創作者を保護し、保護の対象を表現に限定しアイデアを自由理由の対象とすることによって、創作活動を促し文化の発展に寄与することを目的とする著作権法の趣旨(1条)にかんがみ、アイデアと表現の境界は、事案ごとにこれを検討して、両者を画することになる。

●写真の創作性に係る裁判例
東京地裁H20.3.13(被告が、原告の撮影した写真に依拠して許諾を得ずに水彩画を制作し、新聞やポスターなどに掲載した行為については、著作物である当該写真に係る原告の権利を侵害したとして損害賠償等を求めた事案):
写真の創作性を判断するための考慮要素について、
原告が撮影したお祭りの写真のように、客観的に存在する建造物及び動きのある神輿、輿丁、見物人を被写体とする場合には、客観的に存在する被写体自体を著作物として特定の者に独占させる結果となることは相当ではないものの、
撮影者がとらえたお祭りのある一瞬の風景を、構図、撮影ポジション・アングルの選択、撮影時刻、露光時間、レンズ及びフィルムの選択等を工夫したことにより効果的な映像として再現し、これにより撮影者の思想又は感情を創作的に表現したとみ得る場合は、その写真によって表現された映像における創作的表現を保護すべき。
(原告の請求一部認容。)

東京地裁H10.11.30(平面的な版画及びわずから凹凸のある版画を撮影した写真の著作物性について問題となった事案):
原作品がどのようなものかを紹介するための写真において、撮影対象が平面的な作品である場合には、正面から撮影する以外に撮影位置を選択する余地がない上、光線の照射方法の選択と調整、フィルムやカメラの選択、露光の決定等における技術的な配慮も、原画をできるだけ忠実に再現するためにされるものであって、独自に何かを付け加えるというものではない。
⇒そのような写真は「思想又は感情を創作的に表現したもの」ということはできない。

被写体をありのままに写したものが著作権法によって保護されるものとすると、事実を著作権法によって保護することにつながるものであり、著作権法の趣旨に反することになる旨の指摘も「アイデアと表現の2分論」という基本思想から説明するもの。

判例時報2608

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Youtubeに投稿された動画の著作者が、当該動画によって思想・意見等を伝達する利益の人格的利益性(否定)

東京地裁R6.2.26

<事案>
被告が、Youtubeに対し、原告の各動画が著作権を侵害している旨の申告をし、Youtubeから削除された。
原告:前記申告が不正競争防止法2条1項21号にいう虚偽告知行為を構成するとともに、原告の人格的利益を侵害する⇒不正競争防止法4条及び民法709条に基づき、損害賠償請求。
被告:原告主張に係る人格的利益が民法709条にいう「法律上保護された利益」に該当するかどうかという争点を除き、侵害論は争わない。

争点は「法律上保護された利益」該当性。

<判断>
人格権ないし人格的利益とは、明文上の根拠を有するものではなく、生命又は身体的価値を保護する人格権、名誉権、プライバシー権、肖像権、名誉勘定、自己決定権、平穏生活権、リプロダクティブ権、パブリシティ権その他憲法13条の法意に照らし判例法理上認められるに至った各種の権利利益を総称するもの。
⇒人格的利益の侵害を主張するのみでは、特定の被侵害利益に基づく請求を特定するものとはいえない。
but
原告は、裁判所の重ねての釈明にもかかわらず、単なる総称としての人格的利益というにとどまる⇒原告の主張は、請求の特定を欠くものとして失当。
原告が平成17年最判にいう著作者の人格的利益と同趣旨の者である旨主張した点につき、平成17年最判を引用する限度で特定されているものと善解したとしても、
平成17年最判は、著作者の思想の自由、表現の自由が憲法により保障された基本的人権であることに鑑み、公立図書館において閲覧に供された図書の著作権の思想、意見等伝達の利益を法的な利益として肯定するものであり、その射程は、公立図書館の職員がその基本的義務に違反して独断的評価や個人的好みに基づく不公平な取扱いによって蔵書を廃棄した場合に限定される。

私立図書館その他の私企業における場合は、明らかにその射程外というべきであり、平成17年最判は、私企業であるYtoutubeにおける投稿動画に係る伝達の利益が問題とされている本件には、適切なものといえない。

<解説>
●人格権
人格権:個人の尊厳を保護する憲法13条の法意に照らし、判例法理上形成された権利。
わが国の人格権は、ドイツ法にいう「一般的人格権」のように包括性を有するものではなく、保護法益が、大要、生命身体的価値、精神的価値、財産的価値に区分され、人格権(判例法理上の「人格権」とは異なり、生命・身体を保護法益とするものに限られる)、名誉権、プライバシー権、氏名権、肖像権、パブリシティ権、リプロダクティブ権、平穏生活権その他の個別的権利の寄せ集めを便宜的に総称するもの。

第1段階・第2段階:
人格権が権利概念ではなく、不法行為法上保護される法的利益にとどまる時代。

第3段階・第4段階:
人格権に差止請求権が認められ、文字通り権利として展開する段階。

●平成17年最判の位置付け
公立図書館において著作物が閲覧に供されている著作者において、その著作物によって思想、意見等を公衆に伝達する利益は法的保護値する人格的利益であると判示。

著作権法:著作者が事故の著作物につき有する人格的利益を法的利益として認めている。
公表権、氏名表示権、同一性保持権
これらの権利は、著作物の創作と同時に発生し、著作者の一身に専属する(59条)。
著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為は、その著作者人格権を侵害する行為とみなすものとしている(113条11項)。

平成17年最判にいう人格的利益は、
当該著作物が公立図書館で閲覧に供された場合に初めて発生する利益であり、
人格的利益により保護される法益は、思想、意見等を公衆に伝達する利益
⇒前記の著作者の名誉又は声望を害する方法による利用行為から保護されるべき利益とは異なる。

●平成17年最判の射程
昭和39年最判:
村民各自は、村道に対し、他の村民の有する利益ないし自由を侵害しない程度において、自己の生活上必須の行動を自由に行い得べき使用の自由権を有する。

平成17年最判:
公立図書館は、そこで閲覧に供された図書の著作者にとって、その思想、意見等を公然に伝達する公的な場でもあるということができる旨説示し、著作者の人格的利益が発生する根拠につき、著作者の表現活動の事由に供される公的な場であることに求めている。
公的な場とは、比ゆ的にいえば、思想、意見等の往来する「道路」とみることができる。

●本判決
明文上の根拠のない人格権ないし人格的利益が、判例法理上、被侵害利益に着目して個別に生々発展した経過⇒原告において被侵害利益及びこれに対応する権利利益を具体的に特定することを要する。
そもそも、著作者の人格的利益は、著作権法において規定されているものであり、法令上の規定のない著作者の人格的利益は、本来的には謙抑的に解されるべき。

昭和39年最判、平成17年最判は、いわば「道路」という共通項で結びついているものの、思想、意見等を伝達する利益は、人格的利益としては歴史が浅く、社会の進展を踏まえた今後の展開が期待される。

判例時報2608

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2024年11月10日 (日)

量産衣料品の生地に用いるデザイン案の著作物性(否定事例)

大阪高裁R5.4.27

<事案>
本件絵柄の著作権を有すると主張するXが、Y商品を製造販売する行為がXの有する著作権を侵害するものであるとして、X絵柄の複製、頒布の差止め及びX絵柄の複製ないし翻案された寝具等の廃棄や損害賠償等を請求。

<争点>
❶本件絵柄に著作物性があるか
❷Y商品の製造販売行為は本件絵柄の著作権侵害となるか
❸Xが扱った損害およびその額

<原審>
本件絵柄の著作物性を否定し、請求棄却

<判断>
●応用美術の著作物性の判断基準
●本件絵柄が著作物にあたるか

本件絵柄における創作的表現は、その細部を区々に見る限りにおいて、美的表現を追求した作者の個性が表れていることを否定できないが、全体的に見れば、衣料製品(工業製品)の絵柄に用いるという実用目的によって制約されていることがむしろ明らか⇒実用品である衣料製品としての産業上の利用を離れて、独立に美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているとはいえない。

<規定>
著作権法 第二条(定義)
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
2この法律にいう「美術の著作物」には、美術工芸品を含むものとする。

<解説>
●応用美術が著作物として保護されるか否か、あるいはどの程度保護されうるか
2条2項は例示規定⇒1項1号の要件(「範囲要件」)解釈にかかる。

●どのような場合に範囲要件を充足するか?
A:分離可能説:
ファッションショー事件に代表される「実用目的に必要な構成と分離して、美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できる」ことを求める。

本判決:
①産業上利用することができる意匠、すなわち、実用品に用いられるデザインについては、その創作的表現が、実用品としての産業上の利用を離れて、独立に美的鑑賞の対象となる美的特性を備えていなければならないとし(規範①)
そのためには、
②当該実用品における創作的表現が、少なくとも実用目的のために制約されていることが明らかなものであってはならない(規範②)とした。

規範②を問題とする裁判例
アメリカTシャツ事件・装飾街灯事件

「実用目的のために美の表現において実質的制約を受け」たか否かを基準。

①本件絵柄が布団という特定の量産品ではなく、ある程度抽象的に量産衣料品の生地に用いることを想定して創作され、その後に布団の絵柄を用いることが決定されたという経緯⇒「実用目的に必要な構成と分離」することを求める分離可能性説の規範をそのまま適用するにあたって、「実用目的」や「それに必要な構成」を特定することに困難があったのではないか。
②生地にプリントされた状態であっても、物品である生地から容易に分離加納であることから、仮に「実用目的」や「それに必要な構成」を特定できたとしても分離可能性説の規範をそのまま適用すると、範囲要件が容易に充足され、「著作権法が保護を予定している対象」を振り分ける役割を担う同様権が十分に機能しないと考えたのではないか。
but
具体的な実用品を想定せずに、ある程度抽象的に量産衣料品に用いることを想定して創作されたということであれば、通常の絵画などと異なる扱いを行う実益はなく、範囲要件を殊更に問題とする必要はない。

本件絵柄の著作物性の主戦場は、本来は創作性要件であった。

●本判決:
創作的表現が実用目的により制約されているとして、範囲要件を充足しないために、著作物性を否定。
本判決が、創作的表現が実用目的により制約されていると判断する根拠:
ア:本件絵柄の上辺と下辺、左辺と右辺が、これを並べた場合に模様が連続するように構成要素が配置され描かれていること
イ:衣料製品等の絵柄として典型的な絵柄を平面上に一方向に連続している花の絵柄と組み合わせて衣料製品の絵柄模様として用いる構成は国内外において周知慣用であり、本件絵柄の創作的表現は一般的な絵柄模様の方式に従ったものであること

アについて:
家具に使われる木目化粧紙の元がについて「実用面からの要請により、それ自体において、後に着色等がされて製品となる木目化粧紙の天地の模様が切れ目なく連続するよう模様の工夫がされて」いることなどを理由に範囲要件を充足しないとして著作物性を否定した裁判例。
but
木目化粧紙の原画の模様は、天然の木の木目をそのまま写したものではないにしても、天然の木の木目のパターンモンタージュ構成して作り出したもの
⇒模様自体の創作性の程度は低い。
but
本件絵柄については、P1の創作によるもので創作性の程度が低いとは言い難い。

並べて配置した場合に連続模様を構成するように創作されていることの重要性について、木目化粧紙の原画の場合と、本件得g多羅の場合とでは評価を分ける必要がある。
少なくとも、本件絵柄の創作的表現が、具体的にどの程度制約されていたのかを検討する必要があった。

イについて:
木目化粧紙事件控訴審判決が、木目化粧紙の減額の工程には「実用品の模様として用いられることのみを目的とする図案(デザイン)の創作のために興行上普通に行われている工程との間に何ら本質的な差異を見出すことができず、その結果として得られた・・原画・・の模様は、まさしく工業上利用することができる、物品に付された模様というべきものである」と述べており、制作の工程や方法が一般的ないし普通に行われた結果として得られたにすぎないものといえるかどうかを考慮する前例。
but
①このことはありふれた表現であるかどうかという形で、創作性要件のものと考慮されるべきものとも考えられる。
②量産衣料品であるTシャツ等に用いるイラストや原画の著作物性が工程される事案は複数見られるなかで、具体的に創作的表現がどのように制約されたのかを明らかにしないままに、一般的な絵柄模様の方式に従ったものであることの一事をもって著作物性を否定することは十分な説得力を有しているとは言い難い。

判例時報2602

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