知的財産権

2018年1月26日 (金)

プリンターメーカーとトナーのリサイクル品メーカーとの争い(誤認惹起行為・商標権侵害)

大阪地裁H29.1.31      
 
<事案>
プリンター及び同プリンター用トナーカートリッジを製造販売しているX1及び同トナーカートリッジに付された商標の商標権者であるX2が、
使用済みの同トナーカートリッジにトナーを再充填したリサイクル品を製造販売しているYに対し、
Yの行為は不正競争(誤認惹起行為)及び商標権の侵害行為に該当するとして、
同リサイクル品の譲渡等の差止め及び廃棄並びに損害賠償を求めた事案。 
 
<主な争点>
①Yの誤認惹起行為の成否
②Yの商標権侵害の成否
③Yの誤認惹起行為によるX1の損害額 
 
<規定>
不正競争防止法 第2条(定義)
この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
十四 商品若しくは役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信にその商品の原産地、品質、内容、製造方法、用途若しくは数量若しくはその役務の質、内容、用途若しくは数量について誤認させるような表示をし、又はその表示をした商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供し、若しくはその表示をして役務を提供する行為
 
<判断>
●誤認惹起行為の成否 
X1のプリンターは、純正品の又はRFIDが初期化されたリサイクル品のトナーカートリッジを装着すると、ディスプレイに「シテイノトナーカートリッジガソウチャクサレテイマス」と表示され、RFIDが初期化されていないトナーカートリッジを装着すると、ディスプレイに「シテイガイノトナーガソウチャクサレテイマス」と表示
Yは、リサイクル品を製造するに当たり、トナーカートリッジのRFIDを初期化していた。
トナーカートリッジの需要者は、「シテイトナー」を、プリンターメーカーであるX1がX1のプリンターに相応しい一定の品質、内容を有するものとして定めたトナーカートリッジであると理解
本件表示は「品質、内容」の表示である。

Yのリサイクル品がX1が指定したものでない⇒これを「シテイノトナー」と表示することは、これを見た者をしてX1に指定されたものと誤解させるもの
「誤認させるような表示」である。

本件表示はYのリサイクル品の外観に付されたものではない⇒Yのリサイクル品に接した何人でも認識できるような形で表示されているものではない。
but
不正競争防止法2条1項14号の趣旨
⇒本件表示のような表示のあり方も「商品」に「表示」をしていることになる

 
●商標権侵害の成否 
X1のトナーカートリッジは、その底面にX2が有する商標権に係る商標が本件に一体成形されているもの。

Yのリサイクル品は、その底面に純正品と変わりない態様で本件商標が付されているほか、本体及び梱包箱にリサイクル品であることが明記されている一方で、製造元等は全く記載されていない

Yのリサイクル品における本件商標の表示態様は、指定商品の出所を識別表示するもの⇒Yの行為は本件商標権の侵害を構成

①Yのリサイクル品に付されたリサイクル品である旨の表示だけでは本件商標の出所表示機能を打ち消す表示として不十分
②純正品メーカーがリサイクル品を製造することもある

商標権侵害の違法性は阻却されない。
 
●Yの誤認惹起行為によるX1の損害額 
①プリンターメーカーの製造に係るトナーカートリッジを購入する需要者の多くは、プリンターメーカーの製造に係るトナーカートリッジだけを購入し続けている
②Yのリサイクル品はリサイクル品であることがその包装箱等で明らかにされている

Yの受けた利益の額を50%減じた額がX1の損害の額
 
<解説>
●誤認惹起行為の成否 

◎本件表示が商品の「品質、内容・・・について」の表示か 
誤認惹起行為(不競法2条1項14号)の禁止は、虚偽の又は誤認を生じさせる原産地表示の防止に関するマドリッド協定3条の2及び工業所有権の保護に関するパリ条約10条の2第3項3号に基づく義務を履行するためという性格
後者は、「産品の性質、製造方法、特徴、用途又は数量について公衆を誤らせるような取引上の表示及び主張」の禁止を求めている
but
ここでいう「性質」や「特徴」の内容は必ずしも明らかではない。
不正競争防止法2条1項14号に規定される商品役務の属性では到底足りない
⇒規定されている個々の属性を広く解釈する必要があるとする学説がある。

認定等の表示が商品の「品質、内容」についての表示であるとされた裁判例:
・建設大臣から付与された不燃認定番号を認定に係る資材と異なる資材に付すことが誤認惹起表示に該当するとされた事例。
電気用品安全所定の検査を受けていない商品に検査に合格した旨を示す表示を示すことが、実際の品質にかかわりなく誤認惹起表示に該当するとされた事例。

本件:
プリンターメーカーが純正品と非純正品がその品質、内容において異なり得ることを需要者に注意喚起しているなどの実態
⇒需要者は、「シティトナー」を、プリンターメーカーであるX1がX1のプリンターに相応しい一定の品質、内容を有するものついて定めたトナーカートリッジであると理解するとして、本件表示は「品質、内容」の表示。
 
◎本件表示が「商品」に「表示をし」たものか
パリ条約10条の2第3項3号は、
産品の性質等について、表示が何にどのように付されているかを問うことなく、「公衆を誤らせるような取引上の表示及び主張」の禁止を求めている。
 
●商標権侵害の成否 
指定商品に登録商標と同一の標章が付された場合であっても、商標権侵害が否定される場合:

標章の仕様が商標としての使用とはいえないとされる場合。
・特定のメーカーのファクシミリにのみ使用できるインクリボンに、そのメーカーのファクシミリに適合するものであることを示す旨の記載の一部としてそのメーカーのロゴを用いることは、ごく普通の表記態様であるとされた事例
・登録商標が付されたインクボトルを顧客から回収し、インクを充填してその顧客に納品する行為について、登録商標とインクの間に何らの関連性もないことが外形的に明らかであるとされた事例

②商標の類否の判断の場面において、打ち消し表示等により出所の混同が否定され、その結果商標が登録商標に類似しないとされることがあり得る。

③外形的には商標権を侵害する行為であっても、商標の機能である出所表示機能及び品質表示機能が害されることがないため、実質的に違法性がないとされる場合
 
●誤認惹起行為による損害額 
不正競争防止法 第5条(損害の額の推定等)

2 不正競争によって営業上の利益を侵害された者が故意又は過失により自己の営業上の利益を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、その営業上の利益を侵害された者が受けた損害の額と推定する。

不正競争防止法5条2項は損害自体の発生を推定するものではないところ、誤認惹起表示によってその表示が付された商品の需要が喚起されたとはいえない⇒誤認惹起行為により競合他社に損害が発生したとはいえない(大阪地裁H24.9.13)

本件:
①純正品のトナーカートリッジを購入する需要者は、純正品のトナーカートリッジを購入することを常としていて、リサイクル品を購入する需要者とは重複せず、市場が分かれているように見受けられる
②本件指定表示はYのリサイクル品をプリンターに装着した後数秒間表示されるに過ぎない上、この種のトナーカートリッジの需要者の多くは、業務用プリンターを使用しているような事業者であろうことが推認できるから、Yのリサイクル品の販売が品質誤認表示と関係なくもたらされていた可能性も大きくない

これらの事情は、不正競争防止法5条2項の推定を覆滅させる事情
 
●プリンターメーカーとリサイクル品メーカーとの争い
・プリンター等のカートリッジ等について商標権侵害の成否が争われた事例
・リサイクル品メーカーが使用済みのインクジェットプリンタ用インクタンクをリサイクル品とする行為が特許製品の新たな生産に該当するとして、この行為に対する特許権者による権利行使が認められた事例(最高裁H19.11.8)
トナーカートリッジの再生品をカラーレーザープリンターに装着した場合に、プリンター本体のパネルに「カートリッジフセイ」と表示させることなどが不公正な取引方法(独禁法19条)の規定に違反するおそれがあるとして、公正取引委員会がプリンターメーカーに対し審査を行った事例

本件は、そうした中で、誤認惹起行為の成否、商標権侵害の成否及び誤認惹起行為による損害額について判断したもの。

判例時報2351

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2018年1月 8日 (月)

均等法の判例における特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情にあたるかが問題となった事案

最高裁H29.3.24      
 
<事案>
角化症治療薬の有効成分であるマキサカルシトールを含む化合物の製造方法による特許権の共有者であるX(被上告人)が、Yら(上告人ら)の輸入販売等に係る医薬品の製造方法は、前記の特許に係る特許請求の範囲に記載された構成と均等なものであり、その特許発明の技術的範囲に属すると主張(最高裁H10.2.24)
⇒Yらに対し、当該医薬品の輸入販売等の差止めおよびその廃棄を求めた事案。

Yら:本件では平成10年判決にいう、特許権侵害訴訟における相手方が製造等をする製品又は用いる方法(「対象製品等」)が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存在⇒前記特許請求の範囲に記載された構成と均等なものであるとはいえない。
 
<原審>
本件では、前記特段の事情が存するとはいえず、Yらの製造方法は本件特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして本件発明の技術的範囲に属する
⇒Xの請求を認容

出願人が、特許出願時に、特許請求の範囲外の他の構成を容易に想到することができたにもかかわらず、これを特許請求の範囲に記載しなかった場合であっても、それだけでは、前記特段の事情が存するとはいえない。
前記の場合であっても、出願人が、特許出願時に、特許請求の範囲外の他の構成を、特許請求の範囲に記載された構成中の異なる部分に代替するものとして認識していたものと客観的、外形的にみて認められるときは、前記特段の事情が存在する。
 
<判断>
出願人が、特許出願時に、特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき、対象製品等に係る構成を容易に想到することができたにもかかわらず、これを特許請求の範囲に記載しなかった場合であっても、それだけでは、対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存在するとはいえないというべきである。

出願人が、特許出願時に、特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき、対象製品等に係る構成を容易に想到することができたにもかかわらず、これを特許請求の範囲に記載しなかった場合において、客観的、外形的にみて、対象製品等に係る構成が特許請求の範囲に記載された構成を代替すると認識しながらあえて特許請求の範囲を記載しなかった旨を表示していたといえるときには、対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存するというべきである。
 
<解説>
●均等の主張が許されない特段の事情
◎ 特許法 第70条(特許発明の技術的範囲)
特許発明の技術的範囲は、願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。
特許法70条1項の「特許発明の技術的範囲」は、特許請求の範囲に記載された構成の文言解釈により確定されるのが原則。

平成10年判決:
特許請求の範囲に記載された構成中に相手方が製造等をする製品又は用いる方法(対象製品等)と異なる部分が存する場合(文言侵害が成立しない場合)であっても、所定の要件(第1要件~第5要件)を充足するときは、
当該対象製品等は、
特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、
特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当
であるとし、
特許権侵害(均等侵害)となるものとした。

本件の問題は、第5要件に関する問題で、
「出願時同効材への均等論適用の可否」に関する問題。
 
◎学説
A(出願時容易想到説):
出願人が特許出願時に容易に想到することができた他人の製品等に係る構成を特許請求の範囲に記載しなかっただけで、均等の主張が許されない特段の事情が存する。

B(客観的外形的表示説):
出願人が特許出願時に容易に想到することができた他人の製品などに係る構成を特許請求の範囲に記載しなかっただけでは、均等の主張が許されない特段の事情が存するとはいえず、特段の事情を肯定するためには、何らかの外形的な付加事情が必要とする説。
B説に親和的な裁判例が大勢を占めている。
 
◎米国 
米国の均等論においては、公衆への提供の法理が承認されており、
特許権者が特許請求の範囲に包含させなかった均等物がある場合に、均等物であるという特許権者の認識の明白な表示が認められるとき(例えば、明細書に代替技術として開示しておきながら、特許請求の範囲に記載しなかったとき)は、特許権者は、当該均等物を公衆に提供したものであるから、その均等論の主張は封じられる
 
◎ドイツ 
均等の判断基準に関しては、判決要旨において「特定の技術的効果がどのように奏させるかについて発明の詳細な説明に複数の可能性が開示され、特許請求の範囲からはそのうち1つの可能性のみが理解できる場合、当該複数の可能性のうち残りの可能性を用いているものは、均等な手段として特許権を侵害することはない。」
 
●本判決
◎禁反言の法理
本判決は、平成10年判決が参照されるべきことを示しつつ、特段の事情が存すると均等の主張が許されなくなる根拠は、禁反言(民法1条2項)の法理に照らしているものであることを述べる。

民法 第1条(基本原則) 
2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない

禁反言の法理:
民法1条2項に規定される信義誠実の原則が具体的に適用される場面に現れるものといえ、
権利の行使又は法的地位の主張が、先行行為と直接矛盾する故に(先行行為抵触の類型)、又は先行行為により惹起させた信頼に反する故に(信頼惹起の類型)、その行使を認めることが信義則に反するとされる場合

平成10年判決も説示するとおり、
特許発明の実質的価値は、第三者が特許請求の範囲に記載された構成からこれと実質的に同一なものとして容易に想到することのできる技術に及び、第三者はこれを予想すべきもの。

このような立場にある第三者においては、出願者が特許出願時に容易に想到することができた対象製品等に係る構成を特許請求の範囲に記載しなかっただけでは(先行行為)、対象製品等が特許請求の範囲の記載に含まれず文言侵害はないとの理解が生ずるとしても、例外的に、特許発明の実質的価値が特許請求の範囲外に及びうるとの予期までもが必ずしも払拭できるものではなく、出願人が、あえて特許請求の範囲に記載しなかったとの信頼が生ずるとまではいえない。

出願人の側が、後になって、特許権侵害訴訟において均等の主張をしたとしても(後行行為)、特許発明の実質的価値について先行行為と直接矛盾する行為をしたとはいい難く、前記の「先行行為停職の類型」に当てはまらない。

本判決は、A説(出願時容易想到説)が採用できないことをまず法理として示し、続いて、それではどのような場合に前記のような立場にある第三者の信頼が生ずるといえるのかを分析するべく、前記の「信頼惹起の類型」にあてはまるのかの検討をした。

客観的、外形的にみて、出願人があえて特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたといえるとき(このような先行行為があるとき)には、明細書の開示を受ける第三者も、その表示に基づき、対象製品等が特許請求の範囲から除外されたものとして理解するといえる
⇒当該出願人において、対象製品等が特許発明の技術的範囲に属しないことを承認したと解されるような行動をとったものということができる。

法理として、
客観的、外形的にみて、出願人があえて特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたといえるときには、均等の主張が許されない特段の事情が存する
~B説の採用を明示。

判例時報2349

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2017年12月29日 (金)

ピクトグラムの「使用許諾契約」終了による原状回復義務・契約当事者たる地位の承継の主張等

大阪地裁H27.9.24      
 
<事案>
X:VI(ヴィジュアル・アイデンティティ)等の制作等を主たる目的とする株式会社(仮説創造研究所)
Y1:大阪市
Y2:大阪市都市工学情報センター 
Y1は、その案内表示の改善のため、Y2に業務委託を行い、Y2は、平成12年3月31日、大阪城等のピクトグラムのデザインを、板倉デザイン研究所に委託し、P1がピクトグラムのデザインを行った。

Y2は、平成12年3月31日、大阪市各局の設置する案内表示等に、P1がデザインしたピクトグラムを使用することを目的として、板倉デザイン研究所との間で、「ピクトグラム使用契約」(「本件使用許諾契約1」、対象となったピクトグラムを「本件ピクトグラム」)を締結。

Y2は、平成12年8月31日、P1がデザインした本件ピクトグラムを、同じくP1がデザインした地図デザイン(「本件地図デザイン」)に配した「本件案内図」につき、これをY1が設置する案内表示等に使用することを目的として、板倉デザイン研究所との間で、「大阪市観光案内使用契約」(「本件使用許諾契約2」、両契約を併せて「本件各使用許諾契約」)を締結。

本件各使用許諾契約において、板倉デザイン研究所が、Y2に対し本件ピクトグラム等についての使用を許諾するに当たり、大阪市案内表示ガイドラインに従って実施される大阪市各局の案内表示とそれらを補足する地図等の媒体において、Y1が本件ピクトグラム等を使用することが定められている。
 
<争点>
(1) 本件各使用許諾契約の有効期間内に作成された本件ピクトグラム等の原状回復義務
①Yらは有効期間の満了による有効期間内に作成した本件ピクトグラム等についての原状回復義務を負うか
②Xは、Yらに対し、板倉デザイン研究所から本件各使用許諾家役の許諾者たる地位を承継したとして同契約上の権利を主張しうるか

(2) 本件各使用許諾契約の有効期間満了後に作成された本件ピクトグラムの複製権侵害
(3) 前記争点(1)の原状回復義務及び前記争点(2)の著作権に基づく本件ピクトグラムの抹消・消除の必要性(使用継続のおそれ)
(4) 前記争点(1)の原状回復義務違反及び前記争点(2)の著作権侵害の不法行為に基づくXの損害額
(5) Yらは、本件冊子の頒布及びPDFファイルのホームページへの掲載を行ったことによる、本件ピクトグラムの複製権及び公衆送信権侵害の不法行為責任を負うか
①本件ピクトグラムの著作物性

(6) Y1は、Xによる本件ピクトグラムの一部修正について報酬支払義務を負うか
(7) Y1は、別紙4案内図を作成することによって、本件地図デザインについての複製権又は本案権侵害として不法行為責任を負うか 
 
<規定>
民法 第613条(転貸の効果)
賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、転借人は、賃貸人に対して直接に義務を負う。この場合においては、賃料の前払をもって賃貸人に対抗することができない。
2 前項の規定は、賃貸人が賃借人に対してその権利を行使することを妨げない。
 
<判断>
●争点(1)①について
◎Y2の義務 
本件各使用許諾契約には、有効期間満了後の被告らの義務について明確な規定はない。
but
本件各使用許諾契約において、Y2に認められた本件ピクトグラム等の使用権は、主として複製後も継続して展示される案内表示が対象とされており
複製後もY1において使用し続ける形態であることを前提としている。

本件各使用許諾契約は、このような使用形態を前提に、有効期間を設定して契約当事者間の折合いをつけたもの。
有効期間を新たな複製ができる期間と解したのでは、その趣旨が損なわれる。

「使用」の通常の意義からしても「使用権の有効期間」とは、本件ピクトグラム等を複製することだけでなく、複製した案内表示等の展示を継続することの有効期間を定めたものと解するのが自然。

本件各許諾契約において、有効期間が満了した以上、少なくとも案内表示でのピクトグラム等の使用を中止し、原状に服するという合意までが含まれていると認めるのが相当。

原状回復義務として、既に複製された本件ピクトグラム等の抹消・消除の義務が生じると解するのが相当。

◎Y1の義務 
本件各使用許諾契約においては、板倉デザイン研究所が、Y2に対し本件ピクトグラム等についての使用を許諾するに当たり、大阪市案内表示ガイドラインに従って実施される大阪市各局の案内表示とそれらを補足する地図等の媒体において、Y1が本件ピクトグラム等を使用することが定められている。

Y1は、板倉デザイン研究所の承諾の下に、Y2の使用権を前提に、本件ピクトグラムなどの一種の再使用許諾を受けているものといえ、
これは、賃貸人の承諾を受けて転貸借がされている状況と同様の状況にある

民法613条の趣旨は、転貸借が適法に行われている場合に、目的物を現実に用益する転借人に対する直接請求権を認めることにより、賃貸人の地位を保護する点にあるが、
再使用許諾関係の場合にも、本件ピクトグラムを現実に使用するのが再被許諾者であるY1である以上、同様の趣旨が妥当する。
本件における本件ピクトグラム等の使用は、案内板等における継続的使用を対象とし、本件各使用許諾契においてY2に原状回復義務が認められる
賃貸借終了後の原状回復義務に類似した関係にある

Y1においては、本件各使用許諾契約の当事者ではないものの、民法613条を類推適用し、本件ピクトグラム等の抹消・消除義務を直接負う。

●争点(1)② 
◎「統合」の意義
Xが、平成19年6月1日に板倉デザイン研究所の事業を統合する際に、・・著作権全てを板倉デザイン研究所から包括的に譲り受ける合意をし、その後同年9月に板倉デザイン研究所が解散清算
当事者間において本件ピクトグラム等を含む著作権が譲渡
本件各使用許諾契約上の地位も譲渡
 
◎地位の譲渡の対抗 
本件各使用許諾契約における許諾者の義務は、許諾者からの権利不行使を主とするものであり、本件ピクトグラムの著作権者が誰であるかによって履行方法が特に変わるものではない
⇒本件ピクトグラムの著作権の譲渡と共に、被許諾者たるY2の承諾なくして本件各使用許諾契約の許諾者たる地位が有効に移転されたと認めるのが相当。
(賃貸人たる地位の移転についてのものであるが、最高裁昭和46.4.23)
but
著作物の使用許諾契約の許諾者たる地位の譲受人が、使用料の請求等、契約に基づく権利を積極的に行使する場合には、これを対抗関係というかは別として、賃貸人たる地位の移転の場合に必要となる権利保護要件としての登記と同様、著作権の登録を備えることが必要
(賃貸人たる地位の移転に関するものであるが、最高裁昭和49.3.19)

Xは、Yらに対し、著作権の登録なくして本件各使用許諾契約上の地位を主張することはできない
 
●争点(5)① 
本件ピクトグラムは、実在する施設をグラフィックデザインの技法で描き、これを、四隅を丸めた四角で囲い、下部に施設名を記載したもの。
本件ピクトグラムは、これが掲載された観光案内図等を見る者に視覚的に対象施設を認識させることを目的に制作され、実際にも相当数の観光案内図等に記載されて実用に供されているもの
いわゆる応用美術の範囲に属するもの

応用美術の著作物性について、
実用性を兼ねた美術的創作物においても、「美術工芸品」は著作物に含むと定められており(著作権法2条2項)、
印刷用書体についても一定の場合には著作物性が肯定(最高裁H12.9.7)

それが実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得るような美的特性を備えている場合には、美術の著作物として保護の対象となると解するのが相当。

ピクトグラムが指し示す対象の形状を使用して、その概念を理解させる記号(サインシンボル)⇒その実用的目的から、客観的に存在する対象施設の概観に依拠した図柄となることは必然。
⇒創作性の幅は限定される。
but
それぞれの施設の特徴を拾い上げどこを強調するのか、
そのためにもどの角度からみた施設を描くのか、
どの程度、どのように簡略化して描くのか、
どこにどのような色を配するか、
等のの美的表現において、実用的機能を離れた創作性の幅は十分に認められる

このような図柄としての美的表現において制作者の思想、個性が表現された結果、それ自体が実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となる得る美的特性を備えている場合には、その著作物性を肯定し得る。

本件ピクトグラムは
その美的表現において、制作者であるP1の個性が表現されており、その結果、実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えている
それぞれの本件ピクトグラムは著作物である
 
<解説>
●使用許諾契約の解釈 
本来、原状回復の規定がなければ、その義務を負わないが、契約に明文の規定がなくとも原状回復が含意されているとした。
 
●民法613条の類推適用 
本判決:
①本件における本件ピクトグラム等の使用は、案内板等における継続的使用を対象とし、②本件各使用許諾契約においてY2に原状回復義務が認められている
⇒賃貸借終了後の原状回復義務に類似した関係にある。

大阪地裁H22.3.11:
Qは原告から、本件ソフトウェアの使用許諾を受けたが、許諾の期間が経過した場合、Qにおいて、本件ソフトウェアの使用を中止し、サーバー等から削除する義務がある。
Qは、被告に対し、本件ソフトウェアを本件事業のために使用することを許諾していたと認められるが、Qへの使用許諾が終了した以上、民法613条(本件のような無償再許諾にも準用を認めるのが相当であると考えられる)の趣旨を類推し、被告においても、本件ソフトウェアの使用中止とサーバ等からの削除義務が発生していると解することができる。

反対説
民法613条の趣旨を簡単に及ぼしてよいものか疑問

①転貸借に係る原状回復義務は法定の典型的な義務であるのに対して、(再)使用許諾によって定められた義務は非典型的なもの
②著作権の範囲外の義務を課す点で、転貸借において問題となる、目的物自体の原状回復義務とは異なるものと評価できる。
 
●地位の譲渡の対抗 
著作権法 第77条(著作権の登録)
次に掲げる事項は、登録しなければ、第三者に対抗することができない
一 著作権の移転(相続その他の一般承継によるものを除く。次号において同じ。)若しくは信託による変更又は処分の制限
二 著作権を目的とする質権の設定、移転、変更若しくは消滅(混同又は著作権若しくは担保する債権の消滅によるものを除く。)又は処分の制限

本判決:
賃貸人の地位の移転に関する最高裁判断を参照に解決をはかっている。

使用許諾契約は誰が行っても履行方法が特に変わるものではない⇒許諾者の地位の移転に被許諾者の承諾は不要。
その有効に移転した地位に基づいて、許諾者たる地位に立つ者が契約上の権利を積極的に行使する場合には、権利保護要件としての登記と同様、著作権の登録の具備を必要とする

判例時報2348

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2017年12月 7日 (木)

楽曲の無断配信と、権利者からの許諾の有無を確認すべき条理上の注意義務・損害認定

知財高裁H28.11.2      
 
<事案>
X:本件原盤についてのレコード製作者の著作隣接権(複製権、貸与権、譲渡権及び送信可能化権)及び本件楽曲についての実演家の著作隣接権(送信可能化権)を有する。 
Y:Xから委託を受けたとするZとの再委託契約に基づき、本件原盤から複製された本件CDのレンタル事業者への販売及び本件楽曲の配信を行ったが、実際にはZは許諾を得ていなかった

Xが、Yに対し、以下の理由により、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求権及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。
①本件原盤から複製された本件CDのレンタル事業者への販売及び本件楽曲の配信により、Xが有する本件原盤についてのレコード製作者の著作隣接権(複製権、貸与権、譲渡権及び送信可能化権)及び本件楽曲についての実演家の著作隣接権(送信可能化権)を侵害したことを理由とする損害賠償金(著作権法114条2項)
②本件CDを廃盤にして、Xの本件原盤、ジャケットを含む本件CD及びポスター等の所有権を侵害したことを理由とする損害賠償金
③前記①②に関する弁護士相談料に係る損害賠償金
 
<規定>
著作権法 第114条の5(相当な損害額の認定)
著作権、出版権又は著作隣接権の侵害に係る訴訟において、損害が生じたことが認められる場合において、損害額を立証するために必要な事実を立証することが当該事実の性質上極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる
 
<判断>
Yの控訴を棄却するとともに、Xの附帯控訴に基づき原判決が認定した損害額を増額変更し、Xのその余の請求をいずれも棄却。 

本件再委託契約に際してZが作成した本件企画書の記載から、Yは、本件再委託契約を締結した頃、Zが本件原盤について著作権及び著作隣接権を有しないことを認識していた
②Yによる本件CDのレンタル事業者への販売及び本件楽曲の配信は、いずれも著作権者又は著作隣接権者の許諾がない限り著作権又は著作隣接権を侵害する行為
Yは、国内最大手の衛星一般放送事業者であるのに対し、Zは、資本金400万円の比較的小規模な会社であり、本件再委託契約締結当時、YとZとの取引実績はまだそれほど蓄積されていなかった
④Yは、本件原盤に関し、本件企画書に原盤会社として明記されているXとZとの利用許諾関係を確認することができ、同確認をすれば、本件のCDのレンタル事業者への販売及び本件楽曲の配信についてのXの許諾がないkとを明確に認識し、以後、前記販売及び配信をしないことによって、Xが有する著作隣接権の侵害を回避することができた

Yは、本件CDのレンタル事業者への販売及び本件楽曲の配信に当たり、Xの許諾の有無を確認すべき条理上の注意義務を負う
but
Yは、本件CDのレンタル事業者への販売及び本件楽曲の配信に当たってXの許諾の有無を確認しておらず、前記条理上の注意義務に違反して、Zが本件岩盤を複製して制作した本件CDをレンタル事業者に販売し、また、インターネット配信事業者を通じて本件楽曲を配信。

Yは、Xの許諾なく前記複製、販売及び配信を行ったことにつき、少なくとも過失がある

Yは、Zらと共に、Xのレコード製作者としての複製権、譲渡権、貸与権及び送信可能化件並びに実演家としての送信可能化権を侵害し、共同不法行為責任を負う

配信1回当たり控訴人が受領した金額の平均はおおむね146円であり、著作権法114条の5により、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、事実審の口頭弁論終結日までの本件楽曲の無断配信の回数は400回と認められる
⇒本件楽曲の無断配信に係る損害は、両者を乗じた5万8400円になる。
 
<解説>
著作隣接権が侵害された場合、著作権者等は、損害賠償を請求することができるが(民法709条)、損害賠償請求の要件として、故意又は過失が必要。

過失の推定規定を有する特許法等とは異なり(特許法103条)、著作権法には、そのような規定がない
⇒侵害者の故意又は過失を主張立証する必要がある。 

本判決は、許諾の有無を確認しなかったという不作為についての注意義務違反を認めたが、不作為が不法行為を構成するには、その前提としての作為義務の存在が不可欠

作為義務の根拠としては、法令の規定、契約のほか、条理が挙げられ、条理に基づく不作為による過失責任を認めた判例:

最高裁H13.3.2:
カラオケ装置のリース業者に、リース契約の相手方が著作権者との間で著作物使用許諾契約を締結し又は申込みをしたことを確認した上でカラオケ装置を引き渡すべき条理上注意義務を負う。
本判決は、同最高裁判決が示した5つの要素(①カラオケ装置の危険性、②被害法益の重大性、③リース業者の社会的地位、④予見可能性、⑤結果回避可能性)等を総合的に考慮して、条理上の義務違反を肯定。

判例時報2346

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2017年11月27日 (月)

ネットモール事業者が検索連動型広告にハイパーリンクを施して広告を掲載する行為と商標法違反・不正競争防止法違反(否定)

大阪高裁H29.4.20      
 
<事案> 
出店者が各ウェブページを公開し商品を売買する形態のインターネット上のショッピングモールを運営するYが、インターネット上の検索エンジンに表示される検索連動広告に、「石けん百貨」等の標章とYのサイトへのハイパーリンクを施す方法による広告を表示した行為が、X各商標権の侵害にあたり、また不正競争法2条1項1号の不正競争にあたるとして、X各商標の商標権者であるXが、損害賠償を請求した事案。 
 
Yは、少なくとも平成24年8月から平成26年9月12日までの間、
「石けん百科」「石鹸百貨」をキーワードとして、検索連動型広告に、「石けん 百貨大特集」などの見出しのもとに広告(以下、これらの広告を「本件広告」、標章表示を「本件表示」)を掲載。

本件広告のなかにYのショッピングモールのURLがハイパーリンクとして表示され、クリックすると、Yのサイト内での「石けん百貨」等をキーワードとする検索結果表示画面(「Y検索結果が面」)に移動。
本件広告から移動したY検索結果画面には、少なくとも平成26年6月頃には、出店者である訴外Aが販売する複数の石けん商品が陳列表示。
 
<争点>
①YによるX各商標権侵害の有無
②Yによる不正競争行為の成否 
 
<判断> 
●争点①について
◎ 本件表示を「石けん」等と「百貨」等との間に半角スペースがない場合と、ある場合に区分(それぞれ、「スペースなし表示」「スペースあり表示」)。

◎  Yの行為につき、Y検索結果画面に表示される内容は、Yが制作に関与していない加盟店の出店頁の記述により専ら決せられる
⇒検索連動型広告に「石けん百貨」という具体的な表示が表示され、かつ、そのリンク先のY検索結果画面に石けん商品が陳列表示されたことは、直ちにYの意思に基づくこととはいえないYの行為は商標法2条3項8号の要件を欠き、X商標権を侵害しない

①Yが「商標権の侵害又はその助長を意図して構築したものであるとも、客観的に見て専ら商標権侵害を惹起するものであるとも認めることができない」
②規約で知的財産権侵害を、ガイドラインで隠れ文字の使用を禁止していることなどを指摘⇒本件標章が付されたことを自己の行為として認容していたとは言えない。
③一定のキーワードの取得を制限する管理の必要性につき、そのために必要な出店のページの事前調査は加盟店や取扱商品の膨大さから著しく困難。
④隠れ文字使用の設定ができないシステムが通常の仕様として普及しているとの事情がないこと、加盟店や取扱い商品等の膨大さに照らせば規約違反の常時監視は非現実的⇒それらのことをもってYが隠れ文字使用を包括的に認容していたとはいえない

but
本件広告のリンク先のY検索結果が面にX商標の指定商品である石けん商品の情報が表示された場合、ユーザーから見れば、本件広告とY検索結果画面とが一体となって、検索エンジンで「石けん百貨」をキーワードとして検索したユーザーを、Yサイト内のX商標の指定商品である石けん商品を陳列表示する加盟店のウェブページに誘導サウルための広告であると認識される

Yが当該状態及びこれが商標の出所表示機能を害することにつき具体的に認識するか、又はそれが可能になったといえるに至ったときは、その時点から合理的期間が経過するまでの間にNGワードリストによる管理等を行って、「石けん百貨」との表示を含む検索連動型広告のハイパーリンク先のY検索結果画面において、登録商標である「石けん百貨」の指定商品である石けん商品緒情報が表示されるという状態を解消しない限り、Yは、「石けん百貨」という標章が付されたことについても自らの行為として認容したものとして、商標法2条3項8号所定の要件が充足され、Yについて商標権侵害が成立

本件では、Yは、本件広告の存在を認識するや、直ちにAの出店頁を調査、サーチ非表示とするなど、具体的に認識してから合理的期間が経過するまでに、商標の出所表示機能を害する状態を解消した。

Yと販売業者との間に何らかの意思の連絡があったとは認められない⇒裁判所は共同不法行為の成立を否定
 
●争点②について 
Xのサイトの広告であると誤認混同するおそれがあるとの主張に対し、
Yの名称が使用されており、Yがインターネットショッピングモールとして周知⇒誤認混同のおそれはない。

本件広告のリンク先のY検索結果画面に表示されている商品をXが販売しているとの誤認混同するおそれがあるとの主張に対し、
争点①と同様に、商品等表示を使用したとは認められない⇒不正競争行為に該当しない
 
<規定>
商標法 第25条(商標権の効力)
商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する。ただし、その商標権について専用使用権を設定したときは、専用使用権者がその登録商標の使用をする権利を専有する範囲については、この限りでない。

商標法 第36条(差止請求権)
商標権者又は専用使用権者は、自己の商標権又は専用使用権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
2 商標権者又は専用使用権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為を請求することができる。

民法 第709条(不法行為による損害賠償) 
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

商標法 第2条(定義等)
3 この法律で標章について「使用」とは、次に掲げる行為をいう。
八 商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為
 
<解説>
●商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有し(商標法25条本文)、自己の商標権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の差止めを請求でき(商標法36条1項)、損害賠償を請求できる(民法709条)。
商標の「使用」は、商標法2条3項各号で規定され、同8号は、
「商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」を掲げる。

広告等を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為は、平成14年改正により規定され、たとえばホームページ上のバナー広告、自己のホームページの出所を示す広告等が挙げられる。
 
●検索連動広告:インターネット上の検索エンジンにおいて、利用者が検索したキーワードの検索結果表示画面に、関連した広告が表示されるもの。

Aというキーワードを利用者が検索⇒Aに関する検索結果が表示されるが、その検索結果の上部や下部などに、関連する広告が表示。
この広告にはハイパーリンクが設定され、利用者が広告をクリックすると、広告主の設定したウェブサイトに異動。

広告主が、表示対象となる検索結果のキーワードを指定し、表示したい広告の見出しやURL等を登録することにより、設定がされる。
キーワードや広告内容には、商品や役務の内容だけでなく、他者の登録商標も設定できうる⇒商標権侵害の問題が生じうる。 

本件では検索連動型広告の広告内において原告の登録商標が表示され、なおかつハイパーリンク先に当該商標の指定商品が陳列表示⇒商標法2条3項8号にいう行為に該当するか?
 
●検索連動型広告と商標権をめぐる紛争の当事者:
①商標権者・広告主間
②商標権者・検察エンジン運営者間
③商標権者・オンライン市場運営者

本件は③。 

通常の広告主とオンライン市場運営者では広告への関与の度合いが異なる。
本件では、
①広告のハイパーリンク先のYサイト内における商品陳列が面に、いかなる商品が陳列表示されるかも、
②検索連動型広告での表示も、
Yが関与しない加盟店の出店ページの記述に左右される
⇒オンライン市場経営者であるYが侵害主体となりうるかが問題
 
●過去の裁判例として、
原告商品の名称及び原告商標をキーワードとして表示される検索結果の広告スぺースに被告が自社の広告を掲載することが商標権侵害であるかが争われた大阪地裁H19.9;.13:
裁判所は「被告の行為は、商標法2条3項各号に記載された標章の「使用」のいずれの場合にも該当するとは認め難い⇒本件における商標法に基づく原告の主張は失当」
but
本件とは事案が違う。 
 
●本控訴審は、オンライン市場運営者による検察連動型広告における標章の使用が、自らの商標の使用(商標法2条3項8号)にあたる場合の基準を示したもの。 
Yのようなオンライン市場において加盟店が第三者の商標権を侵害する商品を陳列表示している場合に、オンライン市場運営者が侵害主体となりうるときの基準を示した知財高裁H24.2.14と比較すると、本控訴審判決はオンライン市場運営者の行為が商標の使用にあたるとしている点に特徴がある。

判例時報2345

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2017年11月17日 (金)

無効審判についての除斥期間経過と、商標権侵害訴訟の相手方による、無効の抗弁の主張

最高裁H29.2.28      
 
<事案>
本訴:米国法人であるエマックス・インクとの間で同社の製造する電気瞬間湯沸器につき日本国内における独占的な販売代理店契約を締結し、X使用商標を使用して本件湯沸器を販売しているXが、本件湯沸器を独自に輸入して日本国内で販売しているYに対し、X仕様商標と同一の商標を使用するYの行為が不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争に該当⇒その商標の使用の差止め及び損害賠償等を求めた。

反訴:Yが、Xに対し、商標権に基づき、登録商標に類似する商標の使用の差止め等を求めた。
X:Yの登録商標は商標法4条1項10号に定める商標登録を受けることができない商標に該当し、Xに対する商標権の行使は許されないと主張。 
 
規定   
 
<原審>
X仕様商標は不正競争防止法2条1項1号にいう「他人の商品等表示・・・として需要者の間に広く認識されているもの」に当たり、YがX仕様商標と同一の商標を使用する行為は同号所定の不正競争に該当⇒本訴請求を一部認容。
X使用商標は商標法4条1項10号にいう「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標」(「周知商標」)に当たり、X仕様商標と同一又は類似の商標である本件各登録商標のいずれについても、商標登録を受けることができない同号所定の商標に該当
⇒同法39条において準用する特許法104条の3第1項の規定に係る抗弁が認められ、Xに対する本件各商標権の行使は許されない⇒反訴請求を棄却。
 
<判断>
上告を受理し、
原審の認定事実からはX使用商標が不正競争防止法2条1項1号及び商標法4条1項10号の周知商標に当たると直ちにいえず、Xによる具体的な販売状況等について十分に審理しないまま前記各号該当性を認めた原審の判断には違法がある⇒本訴請求のうち不正競争防止法に基づく請求に関する部分及び反訴請求に関する部分の原審の判断は是認できないとして、これらの部分について原判決を破棄し本件を福岡高裁に差し戻した。
 
<規定>
商標法 第39条(特許法の準用)
特許法第百三条(過失の推定)、第百四条の二(具体的態様の明示義務)、第百四条の三第一項及び第二項(特許権者等の権利行使の制限)、第百五条から第百五条の六まで(書類の提出等、損害計算のための鑑定、相当な損害額の認定、秘密保持命令、秘密保持命令の取消し及び訴訟記録の閲覧等の請求の通知等)並びに第百六条(信用回復の措置)の規定は、商標権又は専用使用権の侵害に準用する。

特許法 第104条の3(特許権者等の権利行使の制限)
特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、当該特許が特許無効審判により又は当該特許権の存続期間の延長登録が延長登録無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、特許権者又は専用実施権者は、相手方に対しその権利を行使することができない。

商標法 第47条
商標登録が第三条、第四条第一項第八号若しくは第十一号から第十四号まで若しくは第八条第一項、第二項若しくは第五項の規定に違反してされたとき、商標登録が第四条第一項第十号若しくは第十七号の規定に違反してされたとき(不正競争の目的で商標登録を受けた場合を除く。)、商標登録が第四条第一項第十五号の規定に違反してされたとき(不正の目的で商標登録を受けた場合を除く。)又は商標登録が第四十六条第一項第三号に該当するときは、その商標登録についての同項の審判は、商標権の設定の登録の日から五年を経過した後は、請求することができない。

商標法 第4条(商標登録を受けることができない商標)
次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
十 他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であつて、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの
 
<解説>
●問題
Xは、本件各登録商標は商標法4条1項10号に定める商標登録を受けられない商標に該当すると主張。
but
①本件各登録商標のうち最初に登録された平成17年登録商標については、商標権設定登録日から5年を経過
②同号該当を理由とする無効審判請求について同法47条1項が5年の除斥期間を定めている
本件訴訟において同号該当性の主張をすることが許されるのか(=同項が無効審判手続について定めるのと同様の期間制限が、商標権侵害訴訟における同号該当性の主張にも及ぶのか)が問題。
 
●無効の抗弁の主張と期間制限 
商標法39条によって準用する特許法104条の3第1項の規定(「本件規定」)は、商標権侵害訴訟において商標登録が無効審判により無効にされるべきものと認められるときは商標権者は相手方に対しその権利を行使することができない旨を定めているところ、商標権設定登録日から5年を経過した後は、商標法47条1項の規定により、商標登録が不正競争の目的で受けたものである場合を除き同法4条1項10号該当を理由とする無効審判を請求することができない
「商標登録が無効審判により無効にされるべきもの」と認められる余地がないこととなる。
②商標法47条1項の趣旨(=商標登録がされたことによる既存の継続的な状態を保護する)からいっても、誰でも主張できる抗弁である無効の抗弁を期間の制限なく主張し得るものとすると、商標権者がいつ誰に対して商標権侵害訴訟を提起しても、同訴訟の相手方は、登録商標が周知商標(自己の商品等表示として周知である商標でなく、他人の周知商標であってもよい。)と同一又は類似の商標であることを主張して、同法4条1項10号該当をもって無効の抗弁を主張できる⇒商標権者は、この抗弁が認められることによって自らの権利を行使することができなくなり、同法47条1項の趣旨が没却される

商標法4条1項10号該当を理由とする商標登録の無効審判が請求されないまま商標権の設定登録の日から5年を経過した後においては、当該商標登録が不正競争の目的で受けたものである場合を除き、商標権侵害訴訟の相手方は、その登録商標が同号に該当することによる商標登録の無効理由の存在をもって、本件規定に係る抗弁を主張することが許されない
 
権利濫用の抗弁の主張と期間制限 
例えば、周知商標を自己の商品等表示として使用する者(周知商標使用者)の知らないうちに周知商標と同一又は類似の商標について商標登録がされ、その商標権設定登録日から5年を経過した後に周知商標使用者に対する商標権侵害訴訟が提起された場合、同訴訟の相手方(周知商標使用者)にとっては、商標登録に係る不正競争目的を立証しない限り商標法4条1項10該当をもって商標権者の権利行使に対することができなくなる。

本判決:
登録商標が商標法4条1項10号に該当し、かつ、その商標権を行使されている相手方が当該登録商標を同号に該当するものとされている周知商標につき自己の商品等表示として周知性を獲得した当人(=周知商標使用者)であるという場合に、その周知商標使用者は当該商標権侵害訴訟において自己に対する商標権の行使が許されないとする権利濫用の抗弁を主張することができ、このような抗弁の主張については期間制限を受けないとした。

◎商標権の濫用は、民法1条3項に定める権利の濫用が商標権行使の場面で表れたものにほかならない。

山﨑裁判官の補足意見:
権利の濫用の有無は、当該事案に表れた諸般の事情を総合的に考慮して判断されるべきものであって、このことは、商標権の行使について権利の濫用の有無が争われる場合であっても異なるものではない。
もっとも、商標権は、発明や著作などの創作行為がなくても取得できる権利であることなどから、その行使が権利の濫用に当たるとされた事例はこれまでに少なからずみられるところであり、こうした事例の中から、権利の濫用と判断される場合をある程度類型化して捉えることは可能。
一般に、正当に商標が帰属すべき者(又はその者から許諾を受けた者)に対して商標権を行使する場合には権利濫用が認められる傾向がある。

本判決:
登録商標が商標法4条1項10号に該当するものであるにもかかわらず同号の規定に違反して商標登録がされた場合に、当該登録商標と同一又は類似の商標につき自己の業務に係る商品等を表示するものとして当該商用登録の出願時において需要者の間に広く認識されている者に対してまでも、商標権者が当該登録商標に係る商標権の侵害を主張して商標の使用の差止め等を求めることは、特段の事情がない限り、商標法の法目的の1つである客観的に公正な競争秩序の維持を害するものとして、権利の濫用に当たり許されないものというべきである。


商標法4条1項10号が、同号の要件(=出願時までに引用商標につき周知性を備えていること)を満たす場合には商標登録出願人よりも周知商標使用者を有意とするという規律を定めていることから導かれるもの。

判例時報2343

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2017年10月29日 (日)

意匠登録出願に係る物品の一物品性、一意匠一出願の要件

知財高裁H28.9.21      
 
<事案>
意匠に係る物品を「容器付冷菓」とした意匠登録出願につき、特許庁から意匠法7条の要件を満たさないとして拒絶査定⇒不服審判請求⇒不成立とする審決⇒審決の取消しを求めた。
 
<規定>
意匠法 第7条(一意匠一出願)
意匠登録出願は、経済産業省令で定める物品の区分により意匠ごとにしなければならない。
 
<判断>
意匠法7条の規定は、意匠登録出願が「物品ごとに」かつ「形態ごとに」行われるべきことを定めた。
「物品ごとに」とは、ある1つの特定の用途及び機能を有する一物品であることを意味。
「形態ごとに」とは、意匠登録の出願図画に表される形態が、全体的なまとまりを有して単一の一形態であることを意味。

1つの特定の用途及び機能を有する1物品といえるか、及び、出願図画に表される形態が全体的なまとまりを有して単一の一形態といえるかは、
願書における「意匠に係る物品」欄及び「意匠における物品の説明」欄の記載を参照した上、
①意匠登録出願に係る物品の内容、製造方法、流通形態及び使用形態、
②意匠登録出願に係る物品の一部分がその外観を保ったまま他の部分から分離することができるか、並びに
③当該部分が通常の状態で独立して取引の対象となるか
等の観点を考慮して、社会通念に照らして判断すべきもの。

本願の「容器付冷菓」に係る物品は、社会通念上、1つの特定の用途及び機能を有する1物品であるとして、審決を取り消した。
 
<解説> 
●1意匠1出願の原則の理由:
①出願の対象を単一にして、その内容を明確に把握でき
②したがって、審査の便宜かつ手続の迅速化を図ったもので、
③このようにすることによって、類似意匠に関する出願も簡明となり、
④また、当該意匠について意匠権が発生した場合は、権利の効力範囲が明らかとなり、
⑤侵害事件、意匠権の移転等の場合もその取扱いが明確にされ得る
利点を考慮。

意匠法6条で願書に記載する旨規定している「意匠に係る物品」の欄の記載を意匠登録出願人の自由にまかせて、例えば、「陶器」という記載を認めたのでは、「花瓶」と記載した場合に比べて、その用途及び機能において非常に広汎な意匠について意匠登録出願を認めたものと同一の結果を生ずる
物品の区分については別に「経済産業省令で定める」ことにした。
 
●本件の意匠登録出願は、出願に係る物品が、前記の意匠法7条に規定する経済産業省令である別表第1に列挙されている物品の区分に該当しない場合。 

審決は、このような出願について、2物品に係る出願であり、2意匠を表したものと判断。

本判決は、当該出願に係る物品が1物品といえるか否かは、願書の記載を参照し、
①当該物品の内容、製造方法、流通形態及び及び使用形態
②当該物品の一部分がその外観を保ったまま他の部分から分離することができるか、並びに、
③当該部分が通常の状態で独立して取引の対象となるか
等の観点を考慮して、社会通念に照らして判断すべきものであるとし、
本願に係る物品を1物品と判断した。

判例時報2341

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2017年10月19日 (木)

ゴルフクラブのシャフトデザインンの著作物性が争われた事案(否定)

知財高裁H28.12.21      
 
<事案>
グラフィックデザイン等を業として行う控訴人が、ゴルフ用品等スポーツ用品の製造、販売等を目的とする株式会社である被控訴人に対し、
(1)①被告シャフトが、
主位的には、控訴人の著作物であるゴルフシャフトのデザイン(本件シャフトデザイン)の翻案に当たり、
予備的には、控訴人の著作物である本件シャフトデザインの原画(本件原画)の翻案に当たる
⇒被控訴人の被告シャフト製造、販売行為が、控訴人の著作権(翻案権、二次的著作物の譲渡権)を侵害し、

(2)被告シャフトの製造は、
主位的には、控訴人の意に反して本件シャフトデザインを改変してなされたものであり、
予備的には、控訴人の意に反して本件原画を改変してなされたもの
⇒控訴人の著作者人格権(同一性保持権)を侵害し、

(3)被控訴人のカタログ(被告カタログ)の製作は、控訴人の著作物であるカタログデザイン(本件カタログデザイン)を改変してなされたもの⇒控訴人の著作者人格権(同一性保持権)を侵害

①被告シャフトによる著作権(翻案権、二次的著作物の譲渡権)侵害につき民法703条、704条に基づく使用料相当額の不当利得金5400万円等の支払
②被告シャフト及び被告カタログによる著作者人格権(同一性保持権)侵害につき民法709条に基づく慰謝料850万円の内金425万円等の支払
③被告シャフト及び被告カタログによる著作者人格権(同一性保持権)侵害につき著作権法112条1項に基づく被告シャフト及び被告カタログの製造及び頒布の差止め並びに同条2項に基づく廃棄、並びに
④被告シャフトによる著作者人格権(同一性保持権)侵害につき、同法115条に基づく謝罪広告の掲載
を求めた事案。
 
<規定>
著作権法 第10条(著作物の例示) 
この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。
四 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物

著作権法 第2条(定義)
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
 
<判断>
応用美術の著作物性について、
一般論として、
「応用美術」は、「美術の著作物」(著作権法10条1項4号) に属するものであるか否かが問題となる以上、著作物性を肯定するためには、それ自体が美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えなければならないとしても、高度の美的鑑賞性の保有などの高い創作性の有無の判断基準を一律に設定することは相当とはいえず、
著作権法2条1項1号所定の著作物性の要件を充たすものについては、著作物として保護されるものと解すべき

控訴人が本件シャフトデザイン及び本件カタログデザインに創作性が認められる根拠としてあげた点につき、いずれも創作的な表現ではないと判断。
 
<解説>
応用美術の著作物性について、近時の知財高裁判決では、
①実用目的の応用美術であっても、
実用目的に必要な構成を分離して、美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できるもの⇒美術の著作物として保護すべき。
実用目的に必要な構成と分離して、美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握することができないもの⇒著作物として保護されない。
(知財高裁H26.8.28)と、

②応用美術が「美術の著作物」として保護されるために、
応用美術に一律に適用すべきものついて、高い創作性の有無の判断基準を設定することは相当とはいえず、個別具体的に、作成者の個性が発揮されているか否かを検討すべきであるとしたもの(知財高裁H27.4.14)。

本判決は、後者②の判決の流れを汲むものであるが、応用美術の著作物性を肯定するためには、それ自体が美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えなければならない点を明確にした。

判例時報2340

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2017年10月13日 (金)

不正競争防止法2条1項3号の「他人の商品」該当性等

知財高裁H28.11.30      
 
<事案>
控訴人(一審原告)らは、試験管用の加湿器を共同で開発したプロダクトデザイナー。控訴人加湿器1を平成23年11月に国際展示会へ、控訴人加湿器2を平成24年6月に国際見本市へ、それぞれ出展し、平成27年1月5日頃から、控訴人加湿器3を販売。
被控訴人は、生活雑貨の輸入等を業とする株式会社であり、平成25年に試験管用の加湿器(被控訴人商品)を中国から輸入し、国内の各取引先に販売。 

控訴人らが、被控訴人に対し、
①被控訴人商品が控訴人加湿器1・2の形態を模索したもの⇒不正競争防止法違反(不正競争防止法2条1項3号)に基づいて被控訴人製品の輸入、販売等の差止め等を、
②控訴人加湿器1・2は美術の著作物(著作権法10条1項4号)に当たり、被控訴人商品はこれを複製・翻案したもの⇒著作権に基づいて被控訴人商品の輸入、販売等の差止め等を
求めた。
 
<規定>
不正競争防止法 第2条(定義)
この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
三 他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する行為

不正競争防止法 第19条(適用除外等)
第三条から第十五条まで、第二十一条(第二項第七号に係る部分を除く。)及び第二十二条の規定は、次の各号に掲げる不正競争の区分に応じて当該各号に定める行為については、適用しない。

五 第二条第一項第三号に掲げる不正競争 次のいずれかに掲げる行為
イ 日本国内において最初に販売された日から起算して三年を経過した商品について、その商品の形態を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する行為
 
<原審>
控訴人加湿器1・2は、いずれも、市場における流通の対象となる物とは認められない⇒不正競争防止法2条1項3号にいう「商品」に当たらない。 
両加湿器は、いずれも、美的鑑賞の対象となり得るような創作壊死を備えていると認めることはできない⇒著作物に当たらない 
 
<判断> 
「他人の商品」(不正競争防止法2条1項3号)に該当するためには、「商品化」を完了していれば足り、その商品化といえるためには、商品としての本来の機能が発揮できるなど販売を可能とする段階に至っており、かつ、それが外見的に明らかになっている必要がある。
②商品展示会に出展された商品は、特段の事情がない限り、開発、商品化を完了し、販売を可能とする段階に至ったことが外見的に明らかになった物品であるとして認められる。
③保護期間(不正競争防止法19条1項5号ロ)の始期は、開発商品化を完了し、販売を可能とする段階に至ったことが外見的に明らかになった時。

被控訴人商品は控訴人加湿器1・2を模倣したものであるから、不正競争防止法所定の保護期間内にされた被控訴人商品の輸入は不正競争に当たる。
but
口頭弁論終結時点では前記保護期間は既に経過している。
控訴人加湿器1・2は美術の著作物とは認められない。
 
<解説>
●「他人の商品」について 

本判決:
商品開発者の保護という法的要請と、②取引の安全性という社会的要請の両要請に鑑みて、保護に値する投資の地度とその外部からの観察可能性という観点

「他人の商品」(不正競争防止法2条1項3号)に該当するためには、「商品化」を完了していれば足り、その商品化といえるためには、商品としての本来の機能が発揮できるなど販売を可能とする段階に至っており、かつ、それが外見的に明らかになっている必要がある。
試作品段階のものが保護の対象とはしていない。

サンプル出荷できる段階では商品化を終えていると説示するもの(東京地裁H16.2.24)
 
●「最初に販売された日」について 

本判決:
法文の用語からは若干離れるものの、
①先行開発者の保護と後行開発者の利益とのバランスを取ろうとした保護期間の規定の趣旨や
②知的財産法の法体系との整合性

保護期間(不正競争防止法19条1項5号ロ)の始期は、開発商品化を完了し、販売を可能とする段階に至ったことが外見的に明らかになった時
 
●応用美術品の著作物性について 
「応用美術」という用語には、明確な定義がない。
主に想定されているのは、量産される実用品に用いられている美観(形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合)であr、これを「美術の著作物」(著作権法10条1項4号)又は「著作物」(同法2条1項1号)として、著作権法で保護できるのかという問題。

本判決:
応用美術が著作物性を認められるためには、個性の発露があり、また、美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備える必要があると判断。
but高度の創作性は要しない。

控訴人らのスティック型加湿器については、個性の発露が認められない著作物性を否定

判例時報2338

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2017年10月 1日 (日)

吸入器に係る本願意匠と引用意匠の類否について類似性が否定された事例

知財高裁H28.11.30      
 
<事案>
Xは、本願意匠(物品「吸入器」)の登録出願⇒拒絶査定⇒不服の審判を請求⇒特許庁は、本願意匠は引用意匠に類似する意匠であるから意匠法3条1項3号に該当するとして、不成立審判⇒Xが、同審決の取消しを求めた。
 
<規定>
意匠法 第3条(意匠登録の要件)
工業上利用することができる意匠の創作をした者は、次に掲げる意匠を除き、その意匠について意匠登録を受けることができる。
一 意匠登録出願前に日本国内又は外国において公然知られた意匠
二 意匠登録出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された意匠又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた意匠
三 前二号に掲げる意匠に類似する意匠

2 意匠登録出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたときは、その意匠(前項各号に掲げるものを除く。)については、前項の規定にかかわらず、意匠登録を受けることができない。

意匠法 第24条(登録意匠の範囲等)
登録意匠の範囲は、願書の記載及び願書に添附した図面に記載され又は願書に添附した写真、ひな形若しくは見本により現わされた意匠に基いて定めなければならない。
2 登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとする。
 
<判断>   
本件意匠は、引用意匠と類似するとはいえず、意匠法3条1項3号に該当しない⇒本件審決の判断は誤りであるとして、審決を取り消した。
 
●量意匠に係る物品の需要者 
意匠に係る物品は、いずれも使用者が本体部を持って、マウスピース部から薬剤を吸引するための吸引器に関するものであり、その需要者は、当該薬剤を吸引する必要のある患者及び医療関係者

需要者である患者は、薬剤を必要とする際に吸入器を使用するものであって、その使用方法は、本体部を持って、マウスピース部を口にくわえて、薬剤を吸引するというものであり、両意匠に係る物品を、このような使用状況に応じて観察。

需要者である医療関係者は、患者が薬剤を適切に吸引できるよう、薬剤の性質に応じた吸引の機能を有しているか否か、患者の症状や属性に応じた使用が可能か否かという観点から、両意匠に係る物品を観察し、選択。

持ちやすさや使いやすさという観点からは、吸入器全体の基本的構成態様が需要者の注意を惹く部分であるとともに、
薬剤の吸引という吸入器の機能の観点からは、患者が薬剤を吸引するマウスピース部の端部の形態が最も強く需要者の注意を惹く部分
 
●基本的構成態様
意匠に係る物品の基本的な構成は、必然的に限定される。
基本的構成態様と同様の態様を有する吸入器がありふれたものとして存在。

基本的構成態様は、需要者である患者及び医療関係者の注意を強く惹くものとはいえない
 
●具体的構成態様 
本願意匠のマウスピース部の端部に形成された円形孔は、特に機能を重視する医療関係者に対し、強い印象を与えるものということができ、患者についても同様。
引用意匠のマウスピース部の端部のような態様の吸入部は、ありふれたもの。

本願意匠のマウスピース部の端部に円形孔が形成されている点は、最も強く需要者の注意を惹く部分。
 
●両意匠の類否 
両意匠に係る物品の性質、用途及び使用態様並びに公知意匠との関係を総合すれば、
マウスピース部の端部の形態の相違は、需要者である患者及び医療関係者らの注意を強く惹き、視覚を通じて起こさせる美感に大きな影響

マウスピース部の端部についての相違点は、それ以外の共通点から生じる印象に埋没するものではない
 
<解説>
意匠登録出願前に日本国内又は外国において、公然知られた意匠又は頒布された刊行物に記載された意匠等(「公知意匠」)に類似する意匠は、意匠登録を受けることができない(意匠法3条1項3号)。 

意匠法3条1項3号の類似性について、
最高裁昭和49.3.19において、「一般需要者の立場からみた美観の類否を問題とする」旨説示され、平成18年法律第55号により新設された意匠法24条2項には、「登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとする」と規定。

最高裁昭和49.3.19:
意匠法3条1項3号の類似性と同条2項の創作容易性とは別個の観念であるとした。

この2つは、ともに創作性の要件に関するものではあるが、
同条1項3号は、「公知意匠と構成要素において部分的差異があっても、その全体より生ずる美感ないし意匠的効果の面においてなんら異なるところのない意匠は、本質的に公知意匠に含まれるものであり、創作として未知のものと評価するに値しない」ことから、類似の意匠として登録しないこととしたもの(最判解説)。

類似性の判断主体は、需要者であると理解されているところ、かかる需要者は「当該意匠に係る物品の分野に通暁した専門家ではないが、先行意匠にもある程度の予備知識のある取引者を含めた需要者が想定されているもの」と解される。

本判決は、類似性の判断主体である需要者に着目し、その観察、選択態様を具体的に着目し、その観察、選択態様を具体的に考察して、需要者の注意を惹く部分の認定評価を行った点が特徴的。

判例時報2337

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