知的財産権

2023年3月15日 (水)

特定農林水産物等の登録に関する処分の取消しを求める訴えと行政事件訴訟法14条1項ただし書の「正当な理由」

東京地裁R4.6.28

<事案>
農林水産大臣は、特定農林水産物等の名称の保護に関する法律12条1項に基づく特定農林水産物等の登録に関する処分(「本件処分」)をした。
原告が、本件処分について、地理的表示13条1項3号イ及び同項4号イ所定の登録許否事由があるのにこれを看過した違法がある⇒その取消しを求めた⇒本件審査請求を棄却⇒本件処分の取消しを求める本件訴えを提起

原告:豆味噌に「八丁味噌」という表示をして事業を行う株式会社
八丁味噌協同組合(八丁組合)の組合員
八丁組合は、地理的表示法7条1項に基づき、登録申請⇒申請取り下げ
県組合が、地理的表示法7条1項に基づき、生産地を「愛知県」とする豆味噌につき、名称を「八丁味噌」とする登録を申請⇒農林水産大臣は本件処分

<規定>
行訴法 第一四条(出訴期間)
取消訴訟は、処分又は裁決があつたことを知つた日から六箇月を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
2取消訴訟は、処分又は裁決の日から一年を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
3処分又は裁決につき審査請求をすることができる場合又は行政庁が誤つて審査請求をすることができる旨を教示した場合において、審査請求があつたときは、処分又は裁決に係る取消訴訟は、その審査請求をした者については、前二項の規定にかかわらず、これに対する裁決があつたことを知つた日から六箇月を経過したとき又は当該裁決の日から一年を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。

<判断>
本件訴えは、行訴法14条1項本文所定の出訴機関を徒過しており、同項ただし書の「正当な理」由も認められない⇒不適法。

(1)本件審査請求をした者は八丁組合であり、原告と八丁組合の法人格は異なるものであるから、原告は14条3項の「審査請求をした者」には当たらない。
(2)
(3)

<解説>
●審査請求の主体
最高裁昭和61.6.10:地方団体の徴収金に関する滞納処分等の取消しの訴えは当該処分についての異議申立又は審査請求に対する決定又は採決を経た後でなければ提起することができないものとされているところ、被上告人が当該処分につき自らは審査請求をすることなく直接本件訴えを提起した事案において、
訴訟提起自身がその手続を経由していない以上、たまたま他の者が当該処分について訴訟提起者の主張と同一の理由に基づいて審査請求を経ていたとしても、両者が当該処分に対し一体的な利害関係を有し、実質的にみれば、その者のした審査請求は同時に訴訟提起者のための審査請求でもあるといいえるような特段の事情が存しない限り、訴訟提起者の訴えについて当然に審査請求の手続が経由されたと同視して、これを適法な訴えと解することはできない。

●行訴法14条1項ただし書の「正当な理由」
訴訟追行為の追完を規定する民訴法97条1項の当事者の「責めに帰することができない事由」よりも緩やかかな概念であり、出訴期間内に出訴しなかったことについての社会通念上相当と認められる理由を意味。
具体的な事案においては、処分等の内容・性質、行政庁の教示の有無及びその内容、処分等に至る経緯及びその後の事情、処分当時及びその後の時期に原告が置かれていた状況、その他出訴期間徒過の原因となった諸事情を総合勘案して判断。
原告は、八丁組合が本件処分の取消しを求める訴えを当然に提起することを想定
but提起せず。
vs.
もっぱら八丁組合を構成する原告と合資会社八丁味噌の内部事情をいうもの⇒「正当な理由」があったものとは解し難い。

●地理的表示法(いわゆるGI法)にいう先使用権
地理的表示法3条2項4号は、登録の日前から不正の目的でなく登録に係る特定農林水産物等若しくはその法曹等に当該特定農林水産物等に係る地理的表示(GI)と同一の名称の表示若しくは類似等表示を使用していた者等が継続して、当該農林水産物等又はその包装等にこれらの表示を使用する場合には、前記表示を使用することができる(登録の日から7年後は、・・当該農林水産物等に当該特定農林水産物等との近藤を防ぐのに適当な表示がされているときに限る。)。

●地理的表示法15条1項に基づく生産者団体を追加する変更の登録

判例時報2541

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2023年2月 4日 (土)

意匠の類否判断

大阪高裁R3.9.29

<事案>
物品「データ記憶機」についての登録意匠に係る意匠権(「本件意匠」「本件意匠権」)を有するXが、Yの製造販売するデータ記憶機(「Y製品」)の意匠及びその外装となるケースの意匠は本件意匠に類似⇒
本件意匠権に基づきYに対し、Y製品及びそのケースの製造販売等の差止め等及び損害賠償の請求。

<争点>
侵害論:
①本件意匠とY製品に係る意匠の類否
②Y製品のケースの製造等による本件意匠権の侵害の成否

損害論:
③Xの損害の有無及び額

<判断>
●争点①
一般論として、
両意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様を全体的に観察するとともに、
意匠に係る物品の用途や使用態様、公知意匠等を参酌して、需要者の最も注意を惹きやすい部分、すなわち要部を把握し、
要部において両意匠の構成態様が共通するか否か、差異がある場合はその程度や需要者にとって美感を異にするものか否かを重視して、
両意匠が全体として美感を共通にするか否かによって判断するのが相当。
それぞれについてそれが基本的構成態様と具体的構成態様のいずれに属するものかを仔細に検討及び認定し、
その上で「物品の需要者、用途及び使用態様」や「公知意匠」を参酌して本件意匠の要部を「基本的構成要素の全てである」と認定してY製品に係る意匠はこの点において共通する。
種々の具体的構成態様に係る差異点については、それぞれ「需要者の注意を惹く程度は低く、意匠全体の印象に与える影響は強くない」等々と評価。

結論として、両意匠は「需要者の視覚を通じて起こさせる美感によれば、類似するというべき。」

●争点②
①本件意匠は物品「データ記憶機」に係る意匠
②Y製品のケースはデータ記憶機のケースにすぎない
⇒データ記憶機と同一又は類似する物品と認めることはできない⇒両社は類似せず、直接侵害は成立しない

Y製品のケースがY製品の製造にのみ用いられるものであること
②Yがこれを製造等したことは当事者間に争いがない
意匠法38条1項に基づき間接侵害が成立

●争点③
意匠法39条2項の「利益の額」を検討。
Y製品とそのケースについてそれぞれ売上額と経費の額を認定し、
Y製品の需要者が、第1次的には製品の機能を、第2次的にはデザイン性を、販売価格をも考慮に入れつつ評価し、その購入動機を形成する
Y製品やそのケースに係るYの利益の全てが本件意匠と類似する意匠であるY製品の意匠に起因するということはできない

本件では、Y製品及びそのケースに係るYの利益について、7割の限度で同項による「推定が覆滅されるとするのが相当である」。
推定が覆滅した部分と同条3項との関係に言及し、
推定が覆滅されるとはいえ無許可で実施されたことに違いはない以上、同部分については同項が適用される。
本件については実施料率を5%として算定するのが相当。
これによって算定された「受けるべき金銭の額に相当する額」と先に算定した額とを合わせて、同条2項に基づき算定される損害(逸失利益)とした。

<解説>
意匠の類似判断:
一般論として
意匠の類否を判断するに当たっては、意匠を全体として観察することを要するが、この場合、意匠に係る物品の性質、用途、使用態様、さらには公知意匠にない新規な創作部分の存否等を参酌して、取引者・需要者の注意を最も惹きやすい部分を意匠の要部として把握し、登録意匠と相手方意匠が要部において構成態様を共通にするか否かを中心に観察して、両意匠が全体として美感を共通にするか否かを判断すべき

本判決:
意匠の対比において必要とされる全体観察を
「基本的構成態様及び具体的構成態様を全体的に観察する」ことと定義し、
各構成の対比において、
両意匠が「要部において構成態様を共通にするか否か」だけではなく
「差異がある場合はその程度や需要者にとって美感を異にするものか否か」
を併せて検討する必要がある。

判例時報2538

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2022年12月 5日 (月)

「ぼてぢゅう」の文字を含む結合標章と「ぼてぢゅう」の商標との類似判断

東京地裁R4.3.18

<事案>
原告らが、被告による本判決別紙被告標章目録1記載の各標章を付した商品の製造販売行為は、本判決別紙商標権目録記載の本件商標1(ぼてぢゅう)に係る商標権を侵害し、また、被告標章1を付した被告商品①の製造販売行為が、同商標権目録記載の本件商標2(ぼてぢゅう総本店)に係る商標権を侵害

原告らが、被告に対し、被告各標章の使用の差止め及び被告各標章を付した商品の廃棄等を求め
原告東京フードが、被告に対し、選択的に商標法38条2項又は3項による損害金及び弁護士費用相当損害金の合計840万円及び訴状送達の日の翌日からの遅延損害金の支払を求め、
原告BGHDが、被告に対し、選択的に同条2項又は3項による損害金及び弁護士費用相当損害金の合計240万円及び訴状送達の日の翌日からの遅延損害金の支払を求めた。

<主たる争点>
本件商標1(ぼてぢゅう)と被告各標章又は被告標章Ⅰ~Ⅲとの類似性

<判断>
●類似性の判断基準
複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、
①その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合
それ以外の部分から出所識別標識としての呼称、観念が生じないと認められる場合
③商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているものと認められない場合
などを除き許されない(判例)。

●当てはめ
被告標章Ⅰ及び被告標章Ⅲ:
被告標章Ⅰは、その構成中の「ぼてぢゅう」の文字部分を抽出し、この部分だけを本件商標1と比較して商標そのものの類否を判断することが許される⇒本件商標1と被告標章Ⅰは類似する。
この理は被告標章Ⅲにも妥当。

被告標章Ⅱ:
被告標章Ⅱのうち、少なくとも「総・ぼ・て」の3文字を含む上段図案と「ぼてぢゅう総本家」の8文字とを組み合わせた部分は、これらを分離して観察することが、取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合
本件商標1と被告標章Ⅱは、外観及び称呼において大きく異なる⇒類似しない。

<解説>
●結合標章の類似判断
おひなっこや事件判決:
複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、
その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合(「第1要件」)や、
それ以外の部分から出所識別標識としての呼称、観念が生じないと認められる場合(「第2要件」)、
「など」を除き許されない(判例)。

リラ宝塚事件判決:
簡易、迅速をたっとぶ取引の実際においては、各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標(「第3要件」)は、常に必ずしもその構成部分全体の名称によって称呼、観念されず、しばしば、その一部だけによって簡略に呼称、観念され、1個の商標から2個以上の呼称、観念の生ずることがあるのは、経験則の教えるところ。
この場合、1つの呼称、観念が他人の商標の呼称、観念と同一または類似であるとはいえないとしても、他の呼称、観念が他人の商標のそれと類似するときは、両商標はなお類似するものと解するのが相当である。

●本判決の判断基準:
第1要件及び第2要件と第3要件は、文字通り異なる要件を言うものと解することを前提として、
分離観察可能な場合には、おひなっこや事件判決の第1要件と第2要件のほかにも、リラ宝塚事件判決の第3要件が含まれる。
おひなっこや事件判決は、本来一体性がある横文字1列の標章という当該事例に相応しい判断基準を示すものとして、「など」という余地を残したもの。

被告標章Ⅱのように、文字と図案からなる結合商標については、リラ宝塚事件判決の第3要件に基づき判断する方が、当該事案に適切な結論を導くことができる場合もある。

●本判決の当てはめ:
被告標章Ⅰ及び被告標章Ⅲについて、
上段部分は、下段部分の説明書きであると理解されている⇒出所識別力がなく、「ぼてぢゅう」が出所識別標識として強く支配的な印章を与える⇒「ぼてぢゅう」部分の分離観察を肯定し、類似性を肯定。

被告標章Ⅱ:
上段の図案が伝統的な屋号の紋を連想させるもの⇒出所識別力がある
下段は、上段の図案にある「総・ぼ・て」の意味を説明するの⇒上段と下段は配置上も意味上も密接に関連する。
被告標章Ⅱの使用は、被告にとっては、被告自身が有して長年使用を継続した被告保有商標を使用する趣旨をも一応含み得る。

「ぼてぢゅう」部分の分離観察を否定した上、類似性を否定。

判例時報2529

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2022年10月23日 (日)

ロゴタイプの著作物性が問題となった事案

東京地裁R3.12.24

<事案>
原告が、被告に対し、
①被告が、被告商品などに被告標章1ないし3を付していることが、原告標章に対する原告の著作権(複製権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害する⇒著作権法112条に基づき、その妨害排除と妨害予防を求める。
②被告が、不正の目的をもって、原告と同一の商標を使用している⇒会社法8条2項に基づき、「株式会社アノワ」の商号(「被告商号」)の使用の差止めと抹消手続を求め、
③被告が、原告の特定商品等表示に類似する被告ドメイン名を使用等していることが不正競争法2条1項19号に規定する不正競争に該当⇒同法3条1項に基づき、その使用の差止めを求めた。


<主たる争点>
原告標章(ロゴタイプ)の著作物性の有無であり、いわゆる応用美術の著作物性に関する判断基準及びその当てはめ

<判断>
●ロゴタイプの著作物性(判断基準)
著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう(法2条1項1号)。
商品又は営業を表示するものとして文字から構成される標章は、本来的に商品又は営業の出所を文字情報で表示するなど実用目的で使用されるもの⇒それ自体が独立して美術鑑賞の対象となる創作性を備えているような特段の事情がない限り、美術の範囲に属する著作物には該当しない。

●原告標章の著作物性の成否
・・・前記認定事実によれば、原告標章は、文字は一の特徴等を十分考慮しても、欧文フォントのデザインとしてそれ自体特徴を有するものとはいえず、原告の商号を表示する文字に業務に関連する単語を添えて、これらを特定の縦横比に配置したものにすぎない。
原告標章は、出所を表示するという実用目的で使用される域を出ないというべきであり、それ自体が独立して美術鑑賞の対象となる創作性を備えているような特段の事情を認めることはできない。
⇒法2条1項1号にいう美術の範囲に属する著作物に該当するものとは認められない。

●その他
原告と被告は、本店所在地も業種も全く異にするものであり、当時の被告代表者自身が著名であり社会的にも信用がある実業家であった事情
被告には、原告の知名度や信用を利用しようとする意思も必要もなかったものと認めるのが相当

被告は、原告や原告標章の存在を知ることなく、被告商号を独自に考案し、これを使用したものと認められるという事情の下では、被告が会社法8条1項にいう「不正の目的」をもって被告商号を使用したものとはいえず、被告ドメイン名の取得、保有及び使用についても、被告商号の使用に関する前記判断と異なるところはない。

「不正の利益を得る目的で、又は他人に損害を加える目的」を有していたものともいえない。

<解説>
●ロゴタイプの著作物性
本件で問題とされている原告標章は、商標登録もされており、原告の出所を示すロゴタイプとして実用に供されるもの⇒著作権法との関係では、いわゆる応用美術に属するもの。
一般に応用美術とは、意匠法との棲み分けという観点から議論されるものが多数。
but
原告商標が商標登録されているロゴタイプ⇒本件では商標法との棲み分けという観点からも検討する必要。

商標登録出願は、商標の使用をする1又は2以上の商品又は役務を指定して、商標ごとにしなければならない(商標法6条1項)、その存続期間は、設定登録の日から10年をもって終了し(同法19条)、商標権者は、指定商品又は指定役務(以下「指定商品等」)に限り登録商標の使用をする権利を専有するにもかかわらず(同法25条)、
登録商標が著作権法2条1項1号にいう著作物にも該当するとして著作権法との重複適用を認める場合には、当該商標登録を受けた商標権者が、当該指定商品等と同一でもなく類似もしないものに対しても、当該商標権者の死後70年を経過するまでの間、権利行使を認めることになる。
このような問題は、著作権と意匠法の重複適用を認めた場合における問題と共通する部分がある。

本判決:
ロゴタイプは、本来的には実用目的で使用されるものそれ自体が独立して美術鑑賞の対象となる創作性を備えているような特段の事情がない限り、著作物には該当しない。

●本判決の立場
応用美術に関する議論を進展させた裁判例:
ファッションショー事件知財高裁判決:
実用目的の応用美術であっても、実用目的に必要な構成と分離して、美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できるものについては、著作権法2条1項1号に含まれることが明らかな「思想又は感情を創作的に表現した(純粋)美術の著作物」と客観的に同一なものとみることができる⇒同号の美術の著作物として保護すべき。

TRIPP TRAPP事件知財高裁判決:
応用美術に一律に適用すべきものとして、高い創作性の有無の判断基準を設定することは相当とはいえず個別具体的に、作成者の個性が発揮されているか否かを検討すべきである。

応用美術は、当該実用目的又は産業用の利用目的にかなう一定の機能を実現する必要がある⇒その表現については、同機能を発揮し得る範囲内のものでなければならず、応用美術の表現については、このような制約が課されることから、作成者の個性が発揮される選択の幅が限定される⇒応用美術は、通常、創作性を備えているものとして著作物性を認められる余地が、前記制約を課されない他の表現物に比して狭く、また、著作物性を認められても、その著作権保護の範囲は、比較的狭いものにとどまることが想定される。

ファッションショー事件判決:
創作性の判断手法につき、実用目的に必要な構成と分離して創作性を判断するものとしているところ、
TRIPP TRAPP事件判決:
当該判断手法を明示的に説示するものではないものの、実用目的にかなう一定の機能により表現の選択の幅が狭くなることを当然の前提として、当該狭い選択の幅の中に「美術の著作物」としての創作性を認める余地があるかどうかを検討すべきことを説示。

本判決:
ロゴタイプの著作物性につき、それ自体が独立して美術鑑賞の対象となる創作性を備えている場合に限り著作物性が認められるとして、
応用美術について、創作性概念をその他の著作物と同一のものとした上、実用目的に必要な構成又は機能とは区別されたそれ自体の表現の選択の選択の幅において、創作性を判断するものであり、上記2判決の流れを踏襲。

本判決が「それ自体が独立して」という文言を採用したのは、実用目的に必要な機能とは、表現ではなくアイデアであると理解した上、アイデアを除く創作的表現部分をアイデアとは独立して判断する趣旨をいうものと推察されるされるところであり、応用美術の棲み分けの問題につき、アイデアと表現の二分法という原理原則から整理するもの。

判例時報2526

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2022年9月19日 (月)

メルカリでの#原告の登録商標について、商標的使用に当たるとして差止請求が認容された事案

大阪地裁R3.9.27

<事案>
本件商標権を有する原告が、被告が「メルカリ」条に開設した被告サイトに表示した「#シャルマンとサック」(被告標章1)または「シャルマンとサック」(被告標章2)が本件商標と同一ないし類似し、被告サイトにおいて被告が販売する被告商品は本件商標権の指定商品と同一である⇒本件商標権に基づき、被告サイトにおける被告標章1または被告標章2の表示行為の差止め(商標法36条1項)を求めた。

<争点>
被告がメルカリ上に開設した被告サイトに表示した「#シャルマンとサック」(被告標章1)または「シャルマンとサック」(被告標章2)の商標的使用の有無

<判断>
被告サイトは、そこで被告商品を含む商品が表示され、販売されている⇒被告の商品に関する広告を内容とする情報を電磁的方法により提供するもの。
このような被告サイトに被告標章1を表示することは、商標の「使用」に当たる(商標法2条3項8号)

「メルカリ」における具体的取引状況
⇒被告サイトにおける被告標章1の表示行為は、メルカリ利用者がメルカリに出品される商品等の中から「シャルマントサック」なる商品名ないしブランド名の商品等に係る情報を検索する便に供することにより、被告サイトへ当該利用者を誘導し、当該サイトに掲載された商品等の販売を促進する目的で行われるものといえる。
・・・・被告サイト中に「シャルマントサック」なる商品名又はブランド名の商品等に関する情報が所在することを認識することとなり、これには、「被告サイトに掲載されている商品が「シャルマントサック」なる商品名又はブランド名のものである」との認識も当然に含まれ得る。
・・・・被告サイトにおける被告標章1の表示は、需要者にとって、出所識別標識および自他商品識別標識としての機能をはたしているものとみられ、商標的使用がされている⇒被告サイトにおける被告標章1の表示の差止めについて、原告の請求を認容

<解説>
メルカリ社:
メルカリサービスを利用して商品を販売しようとする利用者に対して、禁止されている出品物を規約に定めており、その中には知的財産権を侵害するものが、従来から規定されている。

令和2年9月1日付けの改定で、その具体的な違反行為の説明として、
・商品名や商品説明に、権利侵害の恐れがあるブランド名やキャラクター名を記載すること(××風、××系、××タイプなど)
・商品名や商品説明に、商品とは無関係のブランド名やキャラクター名(類似するブランド、キャラクターも含む)を記載すること
・事務局が特定のブランドを想起すると判断した商品
の3項目を追加。

プラットフォーム事業者としてのメルカリ社が正当な知的財産権利者から指摘を受けた際に、速やかに出品されている商品の削除や当該出品者のサービス利用制限措置が取れるようにも機能。

判例時報2523

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2022年9月15日 (木)

商品に関する表示が複数の商品形態を含む場合と不正競争防止法の「商品等表示」該当性

東京地裁R4.3.11

<事案>
原告らが、被告商品は周知著名な原告表示と類似した商品等表示を使用した商品であり、被告商品の製造、販売及び販売のための展示は、原告商品と混同を生じさせるなど、不正競争防止法2条1項1号及び2号に掲げる不正競争に該当

不正競争法3条1項及び2項に基づき、被告商品の製造、販売又は販売のための展示の差止め及び廃棄を求めるとともに、
不正競争法4条に基づき、損害賠償金及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による金員の支払を求めた。

<規定>
不正競争防止法 第二条(定義)
 
この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
一 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為
二 自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供する行為

<争点>
原告表示が不正競争法2条1項1号又は2号にいう「商品等表示」に該当するか否か。

<判断>
●原告表示の商品等表示該当性
◎判断基準
商品の形態(色彩を含むものをいう。)が商品等表示に該当するか否かの判断基準につき、商品の形態は、
客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴「特別顕著性」)を有しており、かつ
②特定の事業者によって長期間にわたり独占的に利用され、又は短期間であっても極めて強力な宣伝広告がされるなど、その形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知「周知性」、特別顕著性と併せて「出所表示要件」という。)であると認められる特段の事情がない限り、
不正競争法2条1項1号にいう商品等表示に該当しない。

商品に関する表示が複数の商品形態を含む場合という場面設定をした上、当該表示の商品等表示該当性につき、その一部の商品形態が商品等表示に該当しないときは、前記商品に関する表示は、全体として不正競争防止法2条1項1号にいう商品等表示に該当しない。

◎原告表示の商品等表示該当性
①靴という商品において使用される会解離と・・・典型的な色彩の1つであり、靴底に赤色を付すことも通常の創作能力の発揮において行い得るものであって、このことはハイヒールの靴底であっても異なるところはない。
②・・・現在、一般的なデザインとなっているものといえる。

原告表示は、それ自体、特別顕著性を有するものとはいえない

日本における原告商品の販売期間は、約20年にとどまり、それほど長期間にわたり販売したものとはいえず、
原告会社は、いわゆるサンプルトラフィッキングを行うにとどまり、自ら広告宣伝費用を払ってテレビ、雑誌、ネット等による広告宣伝を行っていない事情等を踏まえても、極めて強力な宣伝広告が行われているとまではいえない。

原告表示は、周知性の要件を充足しない。
原告表示は、出所表示要件を充足するものとはいえず、不正競争法2条1項1号にいう商品等表示に該当するものとはいえない。

原告表示は・・・原告赤色を靴底部分に付した女性用ハイヒールと特定されるにとどまり、女性用ハイヒールの形状(靴底を含む。)、その形状に結合した模様、光沢、質感及び靴底以外の色彩その他の特徴については何ら限定がなく、靴底に付された唯一の色彩である原告赤色も、それ自体特別な色彩であるとはいえない
被告商品を含め、広範かつ多数の商品形態を含むもの。

原告商品の靴底は革製であり、これに赤色のラッカー塗装をしている・・・いわばマニキュアのような光沢がある赤色
被告商品の靴底はゴム製であり、これに特段塗装はされていないため・・・光沢のない赤色

原告商品の形態と被告商品の形態とは、材質等から生ずる靴底の光沢及び質感において明らかに印象を異にする
少なくとも被告商品の形態は、原告商品が提供する高級ブランド品としての価値に鑑みると、原告らの出所を表示するものとして周知であると認めることはできない。
原告表示に含まれる赤色ゴム底のハイヒールは明らかに商品等表示に該当しない⇒原告表示は、全体として不正競争法2条1項1号にいう商品等表示に該当しない。


①取引の実状に加え、②原告商品と被告商品の各形態における靴底の光沢及び質感における顕著な相違
⇒原告商品と被告商品とは、需要者において出所の混同を生じさせるものと認めることはできず、
不正競争法2条1項1号にいう不正競争に明らかに該当しない。

<規定>
商標法 第三条(商標登録の要件)
 
自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。

三 その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。第二十六条第一項第二号及び第三号において同じ。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標

2前項第三号から第五号までに該当する商標であつても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。

<解説>
単一の色彩のみからなる商標につき、商標法3条2項該当性を否定した裁判例として知財高裁R2.8.19:
商品の色彩は、商品の特性⇒商標法3条1項3号所定の「その他の特徴」に該当。
商品の色彩は、古来存在し、通常は商品のイメージや美感を高めるために適宜選択されるものであり、また、商品の色彩には自然発生的な色彩や商品の機能を確保するために必要とされるものもある⇒取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するもの⇒原則として何人も自由に選択して使用できるものとすべきであり、特に、単一の色彩のみからなる商標については、同号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くとされることの趣旨が妥当する。

不正競争防止法2条1項1号又は2号についての判断にも、同様に妥当。

判例時報2523

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2022年9月11日 (日)

海賊版サイトについて、広告主を募り広告料を同サイトに提供する行為が、著作権(公衆送信権)侵害の過失による幇助行為に当たると認められた事例

東京地裁R3.12.21

<事案>
漫画家である原告が、インターネット上の漫画閲覧サイトにおいて、原告の著作物である漫画(原告漫画)が無断掲載されて原告漫画にに係る公衆送信権(著作権法23条1項)が侵害されているところ、インターネット広告を取る扱う被告らが本件ウェブサイトに掲載する広告主を募り、本件ウェブサイトの管理者に広告掲載料を支払う行為は、同管理者に本件ウェブサイトの運営資金を提供して前記公衆送信権の侵害を幇助する行為に当たる
被告らに対し、幇助の共同不法行為(民法719条2項、709条)に基づき、本件ウェブサイト上に原告漫画が掲載されたことによって減少した原告漫画の売上げに対応する印紙税相当額の損害の連帯支払を求めた。

<争点>
①被告らの幇助による共同不法行為の成否
②被告らの故意または過失の有無

<判断>
●争点①
・・・・本件ウェブサイトに広告を出稿して運営者側に広告料を支払うことは、その構造上、本件ウェブサイトのほとんど唯一の資金源を提供することになり、原告漫画をはじめ、本件ウェブサイトに掲載されている漫画の多くを著作権者の許諾を得ずに無断で掲載するという公衆送信権の侵害行為を補助しあるいは容易ならしめる行為(幇助行為)に該当し、
被告らによる本件ウェブサイトへの広告出稿を募り、広告料支払を遂行した点は、客観的にも、主観的にも、共同して原告漫画の公衆送信権の侵害行為を容易ならしめる不法行為に該当
かかる共同不法行為によって、原告漫画の公衆送信権の侵害行為が助長され容易となり、これに因って、原告に原告漫画の売上減少等の損害が生じたということができる。

●争点②
①本件ウェブサイトについては、そこに掲載される多数の漫画が著作権の対象となるものであるにもかかわらず、利用者から利用料等の対価を徴収せず、広告料収入をほぼ唯一の資金源として運営されていた。
②広告業界においては、従前から違法な海賊版サイトにおいて広告料収入が資金源とされていることに対して早急に対策を強化する必要があるとの認識が共有されており、政府においても、漫画の海賊版サイトの急拡大に対する措置を講じる必要性やその方針が示されている状況にあった。
③原告漫画は需要者層に相当程度浸透していたこと等。

被告らにおいて、原告漫画が本件ウェブサイトに無断掲載されて公衆送信権侵害がされていることを予見することが可能

被告らにおいて本件ウェブサイトに掲載されている原告漫画について著作権使用許諾契約が締結されているか否かを確認することが困難であったことをうかがわせる事情も見当たらず、公衆送信権侵害を助長することを回避することが可能であった。

被告らは、本件ウェブサイトの運得hさに対し、そこに掲載している漫画の著作物の利用許諾を得て掲載しているかどうかを調査した上で本件ウェブサイトへの広告掲載依頼を取り次ぐかどうかを決すべき注意義務を負っていた。
被告らは取引先に対して積極的に本件ウェブサイトへの広告掲載についての営業活動を行うなどして、前記の注意義務に違反した

被告らが本件ウェブサイトに広告を出稿しその運営者側に広告料を支払っていた行為(幇助行為)は、前記注意義務に違反した過失により行われたもの。

<規定>
民法 第七一九条(共同不法行為者の責任)
数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。
2行為者を教唆した者及び幇ほう助した者は、共同行為者とみなして、前項の規定を適用する。

<解説>
民法上、不法行為を幇助した者も、共同不法行為者として、不法行為責任を負う(719条2項)。
「幇助」直接の不法行為を助長ないし容易ならしめる行為をいい、また、故意による幇助行為のみならず、過失による幇助行為も認められる(裁判例)。
幇助は、あらゆる形態の行為を理念上含む。

本判決:
被告らの行為の幇助該当性につき、
本件ウェブサイトが著作権者の許諾を得ずに違法に漫画等の著作物を複製して掲載し、これを利用者において無料で閲覧することができるようにして利用者数を飛躍的に伸ばし、一方で、本件ウェブサイトに出稿する広告事業者からの広告料をほぼ唯一の資金源として賄われているという実体を踏まえ得てこれを認めている。

本判決の判断は、
最高裁H13.3.2(カラオケ装置を引き渡す際の音楽著作物の著作権侵害に係る注意義務違反を認めた事例)の趣旨を踏まえたものであるように思われる。

判例時報2522

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2022年9月 9日 (金)

電話ボックス様の水槽に水を入れて金魚を泳がせた作品の著作物性(肯定)

大阪高裁R3.1.14

<事案>
Xは、Y作品はX作品を複製したものであり、Xの著作権及び著作者人格権を侵害
⇒差止め及び損害賠償請求を求める訴えを提起。

<1審>
X作品の基本的な特徴は2点。
(1)公衆電話ボックス様の造作物を設置した状態で金魚を及ばせていることについては、これ自体はアイデアにほかならず、表現それ自体ではない。
(2)金魚の育成環境を維持するために、公衆電話機の受話器部分を利用して気泡を出す仕組みであることについては、もともと穴が開いている受話器から発生させるのが合理的かつ自然な発想であり、アイデアが決まればそれを実現するための方法の選択肢が限られることとなる
⇒創作性を否定。

創作性がない部分については、著作物の複製に当たらない⇒Xの請求を棄却。

<判断>
●X作品の創作性
X作品の外観のうち、本物の公衆電話ボックスと異なる4つの点について検討
第1:X作品の電話ボックスの多くの部分に水が満たされていること
電話ボックスを水槽に見立てるという斬新なアイデアを形にして表現したもの
but
表現の選択の幅は水の量の差異にすぎない
⇒電話ボックスに水が満たされているという表現だけを見れば、そこに創作性があるとはいい難い。

第2:X作品の電話ボックスの側面の4面とも、全面がアクリルガラスであること。
・・・当該蝶番はそれほど目立つものではなく、鑑賞者にとっても注意をひかれる部位とはいい難く、この縦長の蝶番が存在しないという表現にX作品の創作性が現れているとはいえない。

第3:赤色の金魚が泳いでおり、その数は展示毎に変動するが、50~150匹程度
斬新なアイデアを形にして表現したものであり、泳がせる金魚の色と組合せによって、様々な表現が可能
but
50~150匹程度という金魚の数だけを見ると、創作性が現れているとは言えない

第4:X作品の公衆電話機の受話器が、受話器を掛けておくハンガー部から外されて水中に浮いた状態で固定され、その受話部から気泡が発生していること。
人が使用していない受話器が水中に浮いた状態で固定されていること自体、非日常的な情景を表現しているといえるとし、
受話器から気泡が発生することも本来あり得ない。
この状態は、電話を掛け、電話先との間で、通話をしている状態がイメージされており、鑑賞者に強い印象を与える表現として、個性が発揮されている。
前記第1~第3の点のみでは創作性は認められないが、第4の点を加えることによって、Xの個性が発揮されており、創作性がある。

美術の著作物に該当する。

●著作権侵害
X作品のとY作品の共通点及び相違点を比較
・・・点については、X作品の表現上の創作性のある部分と重なり、Y作品はX作品の「表現上の創作性のある部分の全てを有形的に再製しているといえる」⇒Y作品が新たに思想又は感情を創作的に表現した作品であるとは言えない。
Y作品の制作者について:
Y1協同組合が、・・Y作品を主体的に設置して展示を行っており、Y2はY1協同組合の意向に従ってY作品を創作⇒Y1協同組合が主体となって、Y2と共同してY作品を制作。
Yらは、Y作品を制作するにあたり、X作品に依拠した。

<規定>
著作権法 第二条(定義)
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。

<解説>
どこまでがアイデアとされる「思想または感情」部分であり、どこからが「表現」であるかといった線引きが困難な場合がある。

判例時報2522

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2022年8月28日 (日)

公立大学の名称と不正競争防止法2条1項1号・2号の著名性・周知性

大阪地裁R2.8.27

<事案>
京都市立芸術大学(X大学)を設置する公立大学法人である原告が、京都芸術大学(Y大学)を設置する学校法人である被告に対し、「京都市立芸術大学」をはじめとする合計5つの表示が著名又は周知であり、これらの表示と「京都芸術大学」という表示(本件表示)が類似する
⇒不正競争法2条1号又は2号に基づき、本件表示を大学の名称に使用することの差止めを求めた。
1 京都市立芸術大学
2 京都芸術大学
3 京都芸大
4 京芸
5 Kyoto City University of Arts

<規定>
不正競争法 第二条(定義)
この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。

一 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為

二 自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供する行為

<争点>
原告表示1から5の著名性又は周知性と、これら原告表示と本件表示との類似性。

<判断・解説>
●著名性
◎原告表示1から5がいずれも「商品等表示」に該当。

商品等表示が不正競争防止法2条1項2号にいう「著名」といえるためには、全国又は特定の地域を超えた相当広範囲の地域において、取引者及び一般消費者に高い知名度を有することを要する。
大学の「営業」には学区のような地域的限定がない⇒原告表示に著名性が認められるためには、全国又はこれに匹敵する広域において、取引者及び一般消費者に高い知名度を有するものであることを要する。

最も使用頻度が高い原告表示1について、
①X大学関係者の肩書・経歴としての使用は原告の営業表示としての使用とはいえない
②芸術家の活動の際にその経歴に興味が持たれるとは必ずしもいえない
③X大学関係者の活動分野は芸術分野のうちの一部に限られている
④X大学関係者の活動は主として京都市域を中心とした京都府およびその近隣府県の範囲を対象としている
著名性を否定
原告表示2~5は1より使用頻度が低い⇒著名性を否定。

◎ 東京地裁H13.7.19(呉青山学院事件):
「著名性」を認める要素として、
①当該名称が明治期から使用されていること
②大学の入学志願者が全国から集まっていること
③多数の卒業生が全国・各界で活躍していること
④全国放送や雑誌等で積極的な広報活動を行っていること

●周知性
周知性の判断にあたり、その「需要者」は、いずれの芸術分野にも関心のない者を除いた京都府及びその近隣府県に居住する者一般であるとして、原告表示1についてのみ周知性を認めた

「需要者」の範囲:
原告:受験生及びその保護者にとどまらず、京都府及びその近隣府県に居住者一般がこれにあたる
被告:Y大学と取引関係に入る受験生とその保護者に限られる。
(通常と逆)
~混同要件を見据えたもの?
Y大学には職業的な芸術家を目指す者を対象としない学科が多く設置されていること、受験を要せず幅広い年齢層の学生が学ぶ通信教育部の学生数が通学生の人数よりも多いこと等、Y大学に特有の事情が認定。
⇒「需要者」の範囲についての前記判断は、被告との取引関係に入る潜在的な可能性を考慮したうえでなされたものであるとみることもできる。

●類似性
周知性が認められた原告表示1と本件表示との類似性。
原告表示1や本件表示のように表示に地名や一般名称が含まれる場合は、これらの部分のみが要部となることはなく、その全体を要部として対比される。

原告表示1に含まれる「市立」という部分が、大学の設置主体を示すものとして高い自他識別機能又は出所表示機能を果たしており、この部分を除外した残部(=本件表示と同一の「京都芸術大学」)を要部とすることは相当ではない
類似性を否定。

●その他
不正競争法2条1項1号にいう「営業」について、広く経済的対価を得ることを目的とする事業を指すとして、私立学校のみならず公立学校の大学経営もこれに含まれる。

<和解>
控訴審で和解:
①原告は、被告が本件表示を使用することに異議を述べず、本件表示を自ら使用しないほか、本件表示について行った商標出願を取り下げる。
②被告は、原告が「京都芸大」及び「京芸」の表示を使用することに異議を述べず、これらの表示を自ら使用しないほか、原告による「京都芸大」の商標登録に異議を述べない。

判例時報2521

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2022年8月13日 (土)

音楽教室での演奏と(著作権法上の)演奏権

知財高裁R3.3.18

<事案>
教室又は生徒の居宅において音楽の基本や学期の演奏技術等を教授する音楽教室を運営するXらが、著作権管理事業者であるYに対しYが本件口頭弁論終結時に管理する全楽曲に関して、各Xが生徒との間で締結した音楽の教授及び演奏技術の教授に係る契約に基づき行われるレッスンにおける、Xらの教室又は生徒の居宅内においてした被告管理楽曲の演奏について、本件口頭弁論終結時、YがXらに対して著作権侵害に基づく損害賠償請求権又は著作物利用相当額の不当利得返還請求権をいずれも有していないことの確認を求めた。

主位的請求:
教師から生徒に対して演奏技術等の教授が行われる所定の時間で区切られたレッスンを単位として、当該レッスンの実施により、音楽教室事業者である各XのYに対する損害賠償債務又は不当利得返還債務が生じていないことの確認を求める

予備的請求:
レッスン中における個々の演奏行為を単位として、当該演奏行為により音楽教室事業者である各XのYに対しる損害賠償債務又は不当利得返還債務が生じていないことの確認を求める

<争点>
①音楽教室のレッスンにおける音楽著作物の利用主体(演奏主体)
②演奏主体と認定された者の演奏行為が、著作権法22条の「公衆に直接・・・聞かせることを目的として・・・演奏する」との要件に該当し、演奏県の行使(侵害行為)となるか
③音楽著作物を楽譜や録音物に複製することを許諾したことによって演奏権が消尽し、YがXらに対して演奏権を行使することができるか

<判断>
音楽教室における教師の演奏行為の演奏主体音楽教室事業者であり、
教師の演奏行為Xら音楽教室事業者による演奏権の行使にあたり
演奏権は消尽していない
音楽教室における生徒の演奏行為の演奏主体は生徒であり、生徒の演奏行為はXら音楽教室事業者による演奏権の行使にはあたらない。

<規定>
著作権法 第二二条(上演権及び演奏権)
著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(以下「公に」という。)上演し、又は演奏する権利を専有する。

著作権法 第二条(定義)
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
5 この法律にいう「公衆」には、特定かつ多数の者を含むものとする。

<解説>
●侵害主体論
クラブキャッツアイ事件最高裁判決(昭和63.3.15)、ビデオメイツ事件最高裁判決(H13.3.2)の説示内容

①Aによる著作物利用行為またはA自身に対するBの管理・支配
②Aの著作物利用行為によるBへの法律上または事実上の利益の帰属
の2要件をもって、Bを著作権の利用(侵害)主体とする「カラオケ法理」

ロクラクⅡ最高裁判決(H23.1.20):
放送番組等の複製物を取得することを可能にするサービスの提供者を複製の主体であると解したが、
複製の主体の判断に当たっては、
「複製の対象、方法、複製への関与の内容、程度等の諸要素を考慮して、誰が当該著作物の複製をしているといえるかを判断するのが相当」とした上で、
サービス提供者が、単に複製を容易にするための環境等を整備しているにとどまらず、その管理、支配下において、放送を受信して複製機器に対して放送番組等に係る情報を入力するという、複製危機を用いた放送番組等複製の実現における枢要な行為をして」いる等
⇒同サービス提供者を複製の主体と判断しており、
前記のカラオケ法理を一般的な判断基準として用いることには否定的な態度をとっている。
ロクラクⅡ事件最高裁判決後、諸要素を考慮し、
「演奏の実現にとって枢要な行為がその管理・支配下において行われているか否か」との基準によって侵害主体を判断すべきとする判決(知財高裁H28.10.19)。

●演奏権の行使について
◎演奏権の行使:
「公衆」に直接聞かせることを目的として演奏することを要し、
「公衆」には「特定かつ多数」を含む⇒「特定かつ少数」を除く者が著作権法上の「公衆」
「特定」とは、演奏者との間に個人的結合関係がある場合を指す。

◎演奏主体を物理的、自然的な観察から演奏行為を行っている者以外の者⇒物理的、自然的な観察の下における演奏行為者と法的評価から導かれる者がずれる⇒そのどちらを基準にどの時点のどの範囲のどの者を基準として「公衆」の認定を行うのか?
送信可能化権に関するまねきTV事件最高裁判決(H23.1.18):
まず主体を確定し、その主体との関係で聴衆の「公衆」性の有無を決めるという判断構造を前提。
but
例えばカラオケボックスの場合、聴衆が誰なのか?

◎「(公衆に直接)聞かせることを目的として」
A:物理的な意味での演奏(音波)を公衆に届かせる目的が演奏者側にあったか否かの要件
B:演奏内容を加味して一定の質以上の演奏を聞かせることを求める要件

◎演奏権の消尽:
著作権法は、譲渡権(著作権法26条の2)についてのみ消尽を認めているが、その余の支分権について消尽が認められないとする趣旨ではない。
中古ゲームソフト事件最高裁判決(H14.4.25)は、頒布権(著作権法26条)について消尽を認めている。

●本判決:
音楽教室における演奏の主体の判断に当たっては、演奏の対象、方法、演奏への関与の内容、程度等の諸要素を考慮し、誰が当該音楽著作物の演奏をしているかを判断するのが相当。
~「枢要な行為」が侵害主体になるための必要な要件ではない。

教師の演奏行為については、Xら音楽教室事業者が演奏主体
生徒の演奏行為については、生徒自体が演奏主体

教師の演奏は、音楽教室事業者を演奏主体とする不特定の生徒に対して「聞かせることを目的」とした演奏⇒Xらは演奏権を行使している。

複製権の行使による演奏権の消尽を否定。

判例時報2519

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