発信者が著作物にリンクするURLを送信した行為と法5条1項の「権利の侵害」(否定)
東京地裁R6.1.18
<事案>
インターネット上で配信活動を行っている原告が、氏名不詳者(「本件発信者」)によってされたインターネット上の無料掲示板サービスにおける投稿により、原告のプライバシー、名誉感情、著作権及び著作者人格権が侵害された⇒法5条1項に基づき、発信者情報の開示を求めた。
<規定>
特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律
第五条(発信者情報の開示請求)
特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対し、当該特定電気通信役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報のうち、特定発信者情報(発信者情報であって専ら侵害関連通信に係るものとして総務省令で定めるものをいう。以下この項及び第十五条第二項において同じ。)以外の発信者情報については第一号及び第二号のいずれにも該当するとき、特定発信者情報については次の各号のいずれにも該当するときは、それぞれその開示を請求することができる。
一 当該開示の請求に係る侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
・・・・
<争点>
本件投稿2が、法5条1項の「権利の侵害」に該当するか?
本件投稿2:
画像アップロードサイトのURLを投稿したもので、本件URLにアップロードされた画像は、原告が著作権を有する画像を複製したもの。
<判断>
最高裁R2.7.;21(リツイート事件判決)を参照し、
発信者のプライバシー、表現の自由及び通信の秘密との調整を図るために、法5条1項が開示の対象を、情報の流通による権利侵害に係る発信者情報に限定した趣旨目的⇒同項にいう権利の侵害とは、侵害行為のうち、情報の流通によって権利の侵害を直接的にもたらしているものを解するのが相当。
①
②
⇒
本件発信者による本件URLの送信は、情報の流通によって原告の著作権の侵害を直接的にもたらしているものと認めることはできない⇒本件投稿2は、前記にいう「権利の侵害」が明らかであるものと認めることはできない。
<解説>
●法5条1項に規定する「権利の侵害」の意義
「情報の流通によって自己の権利を侵害された」という要件。
A:単独説:
東京地裁:「法の趣旨や文言からすれば、・・・・発信者情報の開示請求が認められる要件である『侵害情報の流通によって』被害者の権利が侵害された場合に該当するためには、当該特定電気通信による情報(文字データ)の流通それ自体によって権利を侵害するものであることが必要」
B:相当因果関係説:
法律の文言からは、必ずしも単独説が一義的に導かれるものではなく、むしろ、他の法律では「よって」という文言により広い意味が認められ、間接的に権利侵害が発生するケースも相当因果関係の範囲内で許容しているのが通常。
C:中間説:
リツイート事件判決の調査官解説:
情報の流通単独で権利侵害が生じたことまでは要求しないものの、相当因果関係のみならず、侵害を直接的にもたらしている関係を要求するという考え方が紹介
●リツイート事件判決
各リツイート者がした各リツイートによって、
①画像表示の仕方の指定に係るリンク画像表示データ(HTML等のデータ)が特定電気通信設備であるリンク元(タイムライン)のサーバーの記録媒体に記録されて、ユーザーの端末に送信され、
②リンク先から元画像のデータが送信された後、前記リンク画像表示データの指定に従って画像のトリミング表示がされ、
③その結果、元画像の氏名表示部分が表示されなくなり、氏名表示権の侵害が生じたという事案について、
「侵害情報の流通によって」の要件該当性を肯定。
←
リンク画像表示データの送信は、氏名表示権の侵害を直接もたらしているものというべきであって、各リツイート者は、リンク画像表示データを特定電気通信設備の記録媒体に記録した者ということができる
⇒各リツイート者は「侵害情報の発信者」に該当し、かつ、「侵害情報流通によって」権利を侵害したものというべきである。
●本判決の立場
本件における本件URLは、リツイート事件判決における「リンク画像表示データ」に対応するもの
but
リンク画像表示データは、これによる画像表示の仕方の指定に従って、画像のトリミング表示がされ、氏名表示部分が表示されなくなり、氏名表示権の侵害を生じさせた⇒氏名表示部分を含む元画像のデータの流通と比べても、氏名表示権侵害の引き金になるものとして、権利侵害を直接的にもたらしているといえる。
①本件URL:原告の著作権侵害を構成する本件元画像データを表示する手段を提供するものであり、侵害との間に相当因果関係があるとみる余地はあるものの、権利侵害の決定的要因となるのは本件元画像のデータ自体であり、本件URL自体が権利侵害の惹起に重要な意味を持つわけではない。
②ユーザーが本件URLをクリックした上、別のサイトに移動する旨告知されているのに更に同じURLをクリックしない限り、本件元画像を表示することができないという事情。
⇒
本件URLの流通は権利侵害を直接もたらしているとはいえないと判断。
リツイート事件判決:リンク画像表示データの流通と氏名表示権侵害との間には相当因果関係がると認められるのみならず、リンク画像表示データの流通が氏名表示権侵害を直接的にもたらしているといえる⇒BCで肯定。
今後の議論及び裁判例の蓄積の余地を残すために、事例判断にとどめたものと推察。
本件:Bなら肯定、Cなら否定⇒C(中間説)を採用することを正面から明らかに。
リツイート事件調査官解説:
リツイート事件で要件該当性が肯定されたからといって、必ずしも名誉毀損等のケースで要件該当性が肯定されることになるとは限らない。
判例時報2614
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