知的財産権

2018年8月26日 (日)

真正商品の並行輸入で、商標が広告に付され、外国の商標権者と我が国の商標権者が異なる場合

知財高裁H30.2.7      
 
<事案>
我が国において「NEONERO」等の商標(本件商標)について商標権(本件商標権)を有するXが、Yの、本件商標と同一ないし類似の標章を商品に関する広告に付した行為(本件被疑侵害行為)が本件商標権侵害に該当
⇒Yに対し、Yの商品の販売等の差止め等を求めた。 
 
<判断>   
並行輸入品が、フレッドペリー事件最高裁判決(最高裁H15.2.27)の示す三要素を満たす場合には商標権侵害として実質的違法性を欠く、 

● 商標を広告に付する行為については、同最高裁判所の
当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた者により適法に付されたものである」という要件を、
当該商品に当該商標を使用することが外国における商標権者との関係で適法であること」とすべき。
本件被疑侵害行為は、前記要件を充足する。

● 前掲最高裁判決の
「我が国の商標権者が直接的に又は間接的に当該商品の品質管理を行い得る立場にあることから、当該商品と我が国の商標権者が登録商標を付した商品とが当該登録商標の保証する品質において実質的に差異がないと評価される」という要件(第3要件)につき、
外国の商標権者と我が国の商標権者とが異なる場合において、
外国の商標権者と我が国の荷商標権者とが法律的又は経済的に同一視できる場合には、原則として、外国の商標権者の品質管理可能性と我が国の商標権者の品質管理可能性は同一に期すべきものであるといえる。

ただし、外国の商標権者と我が国の商標権者とが法律的又は経済的に同一視できる場合であっても、我が国の商標権の独占権能を活用して、自己の出所に係る商品独自の品質又は信用の維持を図ってきたという実績があるにもかかわらず、外国における商標権者の出所に係る商品が輸入されることによって、そのような品質又は信用を害する結果が生じたといえるような場合には、
この利益は保護に値するということができる


Xが、PVZ社とは独自に、Xの商品の品質又は信用の維持を図ってきたという実績があるとまで認めることはできず、
Yの商品の輸入や本件被疑侵害行為によって、Xの商品の品質又は信用を害する結果が生じたとはいえず、Xに保護に値する利益があるということはできない
⇒本件被疑行為は前記要件を充足する。

⇒本件被侵害行為は商標権侵害の実質的違法性を欠く。
 
<解説>
●商標を広告に付する場合 
フレッドペリー事件最高裁判決が示した、
いわゆる真正商品の並行輸入が商標権侵害の実質的違法性を欠く場合の要件のうち、
「当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者らから使用許諾を受けた者により適法に付されたものである」との要件は、
商標が商品に付されている場合の要件

本件における身飾品のように、商品自体に商標が付されておらず、商品を輸入してから、我が国において商品に関する広告に商標を付した場合
A:
商品に商標が付されていると仮定して当該商品の輸入行為が商標権侵害の実質的違法性を欠くか否かを検討した上で、商品の輸入行為が商標権侵害の実質的違法性を欠く場合には、当該商品の宣伝広告に商標を使用する行為も商標権侵害の実質的違法性を欠くというアプローチ。
B:
広告に商標を使用するという行為について、商標権侵害の実質的違法性を欠くか否かを検討するというアプローチ。

本判決は、Bの立場を採用。
 
外国の商標権者と我が国の商標権者が異なる場合の品質管理可能性 

商標法で保護されるべき商標の機能は、
第一次的に出所表示機能であり、
商標の品質保証機能とは、商標の付された商品等が、商標の表示する出所に由来することによって、商品等の出所の管理する品質を備えていることを保証する機能

フレッドペリー事件最高裁判決の出所表示機能に関する「当該外国における商標権者と我が国商標権者とが同一人であるか又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係があることにより、当該商標が我が国の登録商標と同一の出所を表示するもの」である場合には、商標の示す出所は1つであり、その出所の管理する品質にも違いがない。

本判決:
例外的に、我が国の商標権者が自己の出所に係る商品独自の品質又は信用があり、そのような信用等が外国商標権者の出所に係る商品の輸入によって害される結果が生じた場合には、我が国の商標権者の商品独自の品質を、品質管理可能性の要件において管理される「品質」であるとすべき。

判例時報2371

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2018年6月 8日 (金)

商標権侵害について過失の推定が覆され、不法行為が否定された事例

大阪地裁H29.4.10      
 
<事案>
登録商標「観光甲子園」の商標権者であるXが、その名称を使用して、
高校生が参加する「観光プランコンテスト」を共催校として第6回まで開催。

Yが共催校を承継したとして、Xに無断で、ホームページにおいて同登録商標を使用して同商標権を侵害するとともに、後継の大会として第7回を宣伝、開催することにより、本件商標権を価値を毀損
⇒不法行為を構成するとして損害賠償請求。
 
<争点>
不法行為の成否について
① 本件商標を使用して後継の大会として同コンテストを宣伝、開催することの許諾の有無
②Yの行為の違法性又は過失の有無
③権利の濫用等
④所有権に基づく優勝旗等の返還請求について、優勝旗等の譲渡の有無
 
<判断>
●争点① 
①本件事業は実質的にはXが主体となって行ってきたものであるといえる⇒共催校の変更を含む本件事業の承継は、Yの主張するところの大会組織委員会ではなく、Xの理事会の決議事項であると解すべき。
②X・Y間の本件事業の承継に関する具体的な協議は、X大学教授P1、Y大学教授P2及び双方の事務職員の間で行われたにとどまり、YがX代表者やXの理事に対して、本件事業を承継するとの意向を伝えたとは認められない
⇒Xの許諾は存在しない。

①Yは本件商標を無断でホームページ上において使用した⇒Yの行為者商標権侵害を構成
②後継の大会として第7回を宣伝、開催したことについても、少なくとも原告の許諾があったとは認められない。 
 
●争点② 
商標権侵害について過失が推定されることとされた趣旨は、商標権の内容については、商標公報、商標登録原簿等によって公示されており、何人もその存在及び内容について調査を行うことが可能であること等の事情を考慮したもの

侵害行為をした者において、商標権者による当該商標の使用許諾を信じ、そう信じるにつき正当な理由がある場合には、過失がないと認めるのが相当。

①本件事業の中心人物であるP1がX側担当者であるとYが信じて然るべき状況であった
②Xの理事や事務局担当者が出席する場でYが共催校であることが承認されていることなどの「種々の行動の積み重ね」
⇒Yにおいて、Xが組織としてYを共催校とすrことを了解していると考え、Yが第7回大会を行うために必要な事項についてはX内部でしかるべき手続きが執られ、又は執られることになると信じることは極めて自然なこと。
③第7回大会の引き継ぎ準備の中で、本件商標のロゴのデータが事務職員P1を通じてYに引き渡されたことについて、登録商標の使用を許諾しない相手方に対して当該商標のロゴにデータを送付するとは考え難い


本件商標権の移転に関するXの理事会決議に先行して本件商標を使用することをXからあらかじめ許諾されており、必要な事項についてはX内部でしかるべき手続きが執られ、又は執られることになると信じ、また、そう信実につき正当な理由があった。
Yによる本件商標の使用には過失がなかったものと認めるのが相当。
 
●後継の大会として第7回大会を宣伝、開催した行為:
XがYに本件商標権の買取りを求めた時点で、それまで過失なく第7回大会の準備を進めていたYにとって、従前の大会との連続性を否定する行動をとることは極めて困難

違法性又は過失を欠くとして、不法行為の成立を否定

Yが保管している優勝旗等のX所有権に基づく返還請求に限り認容。 
 
<規定> 
商標法 第39条(特許法の準用)
特許法第百三条(過失の推定)、第百四条の二(具体的態様の明示義務)、第百四条の三第一項及び第二項(特許権者等の権利行使の制限)、第百五条から第百五条の六まで(書類の提出等、損害計算のための鑑定、相当な損害額の認定、秘密保持命令、秘密保持命令の取消し及び訴訟記録の閲覧等の請求の通知等)並びに第百六条(信用回復の措置)の規定は、商標権又は専用使用権の侵害に準用する。

特許法 第103条(過失の推定)
他人の特許権又は専用実施権を侵害した者は、その侵害の行為について過失があつたものと推定する
 
<解説>
過失の推定により立証責任の転換が図られた趣旨:
①公報等による公示がなされている
②業としての実施のみが権利侵害とされるため事業者に対して調査義務を課しても酷ではない 
公報未発行の期間の実施・使用については①の根拠を欠く⇒過失は推定されないという裁判例が展開

過失の推定は、理論上は、
権利の存在を知らなかったことにつき相当の理由があること
権利範囲に属することを知らなかったことにつき相当の理由があること
③その他自己の行為が権利を侵害しないと信じるにつきそうとの理由があったこと
につき立証すれば覆る。
but
実務上は推定が覆った例はほとんどなく、「事実上みなし規定に近い運用がなされている」(中山)

学説:
推定が覆るべき例として、
タクシー会社による特許権を侵害する自動車の運行や
小売業者が侵害品を販売する場合、
無数の特許権の存する機器類のユーザーによる使用
のように権利調査を履行することが事実上不可能な場合にまで推定規定を働かせることには問題。
⇒具体的事例に応じ、過失推定の覆滅を認めるべき。(中山)

最高裁H15.2.27:
輸入業者が使用許諾契約の存在、契約条項の内容、契約条項違反の事実の不存在等、公報に開示のないすべての事項についても調査を尽くさなければ本条の過失の推定は覆ることはない

本件:
前記①~③の3つの類型のうち、「③その他自己の行為が権利を侵害しないと信じるにつき相当の理由があったこと」についての立証に成功した事例。

裁判所が一般論として、
商標法39条(同条が準用する特許法103条)の根拠として「商標公報等による公示」を挙げた上で、
商標公報に開示されていない商標権者による当該商標の使用許諾を信じ、そう信じるにつき正当な理由がある場合に推定が覆るとの判示

同条の過失には商標権者による使用許諾の存在についての調査義務が含まれると解しつつも、これを商標公報及び商標原簿に開示された事実を区別し、異なる程度の調査義務を要求したもの。

判例時報2364

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2018年6月 2日 (土)

サポート要件を満たさないとされた事例

知財高裁H29.6.8      
 
<事案>
被告の、名称を「トマト含有飲料及びその製造方法、並びに、トマト含有飲料の酸味抑制方法」とする発明についての特許に対する無効審判請求を不成立にした審決の取消訴訟 
 
<判断>   
サポート要件適合性判断誤りの有無について、偏光フィルム事件(知財高裁H17.11.11)の規範に従うことを明確に示し、サポート要件に適合するということはできないと判断。 

本件明細書における発明の詳細な説明の、本件発明の課題とその解決方法についての記載を認定。 

発明の詳細な説明に記載された発明と特許請求の範囲に記載された発明とを対比して、明細書の発明の詳細な説明に、本件発明の課題が解決できることを当業者において認識できるかについて検討。

①本件明細書の発明の詳細な説明に記載された風味評価試験の結果から、直ちに、糖度、糖酸比及びグルタミン酸等含有量について規定される範囲と、得られる効果というべ、濃厚な味わいでフルーツトマトのような甘みがありかつトマトの酸味が抑制されたという風味との関係の技術的な意味を当業者が理解できるとはいえない。
②各風味が本件発明の課題を解決するために奏功する程度を等しくとらえて、各風味についての全パネラーの評点の平均を単純に足し合わせて総合評価するという方法が合理的であったと当業者が推認することもできない。
 
<解説> 
食品関連特許について、発明の課題と認定された風味との関連性及び明細書に記載された風味評価試験方法の合理性を検討して、サポート要件を判断。 
①発明の課題が「濃厚な味わいでフルーツトマトのような甘みがありかつトマトの酸味が抑制された」といった、必ずしも客観的には測定し難い風味に関するものであり、
採用された方法が発明の課題を解決する機序が明らかではなく
③風味評価試験によって発明の課題が解決されているのかを判断しなければならないところ、「甘み」「糖酸比」及び「濃厚」の要素のみで課題を解決できると理解できるのか、評価の客観的基準や各パネラーの評点が明らかでない明細書の記載を参照して試験を再現することもできないなど、風味評価の試験が合理的であるともいえない

サポート要件を欠く

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2018年5月22日 (火)

特許法184条の4第4項所定の「正当な理由」

知財高裁H29.3.7      
 
<事案>
控訴人(一審原告)は、平成23年9月15日、発明の名称を「フラッシュ様式での光の不連続な供給がある場合の混合栄養単細胞藻類の培養方法」とする発明につき、優先日を平成22年9月15日とし、フランス国特許庁を受理官庁として、国際特許出願(本件出願)。
国内書面提出期間の経過後である平成25年5月21日に明細書等翻訳文などを提出することにより、国内書面に係る手続
but
特許長官より、国内書面提出期間内に明細書等翻訳文の提出がなく、指定国である我が国における本件出願は取り下げられたものとみなされるとして、本件手続を却下する旨の本件処分。

控訴人には国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなくなったことについて、特許法184条の4第4項所定の「正当な理由」があるとして、本件処分の取消しを求める事案。
 
<規定>
特許法 第184条の4(外国語でされた国際特許出願の翻訳文)
4 前項の規定により取り下げられたものとみなされた国際特許出願の出願人は、国内書面提出期間内に当該明細書等翻訳文を提出することができなかつたことについて正当な理由があるときは、その理由がなくなつた日から二月以内で国内書面提出期間の経過後一年以内に限り、明細書等翻訳文並びに第一項に規定する図面及び要約の翻訳文を特許庁長官に提出することができる。
 
<判断> 
控訴人が国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかったことについて、「正当な理由」があるということはできない⇒控訴棄却。 
 
特許法184条の4第4項所定の「正当な理由」の意義を解するに当たっては、
①特許協力条約に基づく国際出願の制度は、国内書面提出期間内に翻訳文を提出することによって、我が国において、当該外国語特許出願が国際出願日にされた特許出願とみなされるというもの
同制度を利用しようとする外国語特許出願の出願人には、自己責任の下で、国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することが求められる
②国内書面提出期間経過後も、当該外国語特許出願が取り下げられたものとみなされたか否かについて、第三者に関し負担を負わせることを考慮すること
を考慮する必要。

特許法184条の4第4項所定の「正当な理由」があるときとは、
「特段の事情のない限り、国際特許出願を行う出願人(代理人を含む。)として、相当な注意を尽くしていたにもかかわらず、客観的にみて国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかったとき」をいうものと判断。

本件出願に係る手続の委任を受けた特許事務所が、本件出願の処理に当たり、移行期限を徒過しないよう相当な注意を尽くしていたということはできない
⇒同項所定の「正当な理由」があるということはできない
 
<解説>
特許法条約(PLT)において手続期間の経過によって出願又は特許に関する権利の喪失を惹起した場合の「権利の回復」に関する規定が設けられ、加盟国に対して救済を認める要件として「Due Care」(相当な注意)又は「Unintentional」(故意でない) のいずれかを選択することを認めており(PLT12条)、
同規定に沿った諸外国の立法例として、例えば、欧州においては「Due Care」基準を選択。
日本は当時PLTに未加盟であったが、国際的調和の観点から、外国語特許出願の出願人について、期限の徒過があった場合でも、柔軟な救済を図ることにしたもの。

判例時報2363

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2018年5月21日 (月)

容易想到性についての判断が問題となった事例

知財高裁H29.3.21      
 
<事案>
X1は、発明の名称を「摩擦熱変色性筆記具及びそれを用いた摩擦熱変色セット」とする特許出願をし、設定登録を受けた(本件特許)。
X2は、本件特許権の一部を譲り受け、特定承継を原因とする一部移転登録をした。
Yの特許無効審判請求について、特許庁は、特許請求の範囲請求項1、5ないし7及び9に係る発明についての特許を無効とする審決。
(本件発明一は、引用発明一及び引用発明二等に基づいて当業者が容易に発明をすることができた)

Xらは、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起し、取消事由として、容易想到性の判断の誤りを主張。
 
<判断>
相違点五(本件発明一が、エラストマー又はプラスチック発泡体から選ばれ、摩擦熱により前記インキの筆跡を消色させる摩擦体が、筆記具の後部又はキャップの頂部に装着されてなるのに対し、引用発明一は特定していない点)
に係る容易想到性の判断の誤りを指摘し、本件審決を取り消した。

両発明(引用発明一と引用発明二)は、その構成及び筆跡の形成に関する機能において大きく異なる。
⇒当業者において引用発明一に引用発明二を組み合わせることを想到するとはおよそ考え難い。

仮に、当業者が引用発明一に引用発明二を汲ん見合わせたとしても・・・引用発明二の摩擦具九は、筆記具とは別体のもの。

当業者において両者を組み合わせても、引用発明一の筆記具と、これとは別体の、エラストマー又はプラスチック発泡体を用いた摩擦部を備えた摩擦具九(摩擦体)を共に提供する構成を想到するにとどまり、摩擦体を筆記具の後部又はキャップの頂部に装着して筆記具と一体のものとして提供する相違点五に係る本件発明一の構成に至らない。

仮に、当業者において、摩擦具九を筆記具の後部ないしキャップに装着することを想到し得たとしても、
引用発明一に引用発明二を組み合わせて「エラストマー又はプラスチック発泡体から選ばれた、摩擦熱により筆記時の有色のインキの筆跡を消色させる摩擦体」を筆記具と共に提供することを想到した上で、
これを基準に摩擦体(摩擦具九)の提供の手段として摩擦体を筆記具自体又はキャップに装着することを想到し、
相違点五に至る本件発明一の構成に至る。

このように引用発明一に基づき、二つの段階を経て相違点五に係る本件発明一の構成に至ることは、格別な努力を要するものといえ、当業者にとって容易であったということはできない
 
<説明>   
特許庁の審決と判断を分けた点: 

引用発明一(主引用発明)と引用発明二(副引用発明)は、その構成及び筆跡の形成に関する機能において大きく異なる
当業者において引用発明一に引用発明二を組み合わせることを発想するとはおよそ考え難いとした点。

主引用例と副引用例を組み合わせて本件発明に至るためには、これを組み合わせる動機付けが必要

動機付け有無の判断
~両発明の技術分野の関連性、課題の共通性・作用や機能の共通性、引用例に適用の示唆があるか否か等の点から、構成の組合せを阻害する要因があるか否かも含めて、、総合的に検討するのが現在の実務。
 
●当業者において引用発明一に引用発明二を組み合わせても、引用発明一の筆記具と、これとは別体の、摩擦部を備えた摩擦体を共に提供する構成を想到するにとどまり、摩擦体を筆記具の後部又はキャップの頂部に装着して筆記具と一体のものとして提供する相違点に係る本件発明の構成には至らない、とした点。 

主引用発明に副引用発明を組み合わせた場合に、相違点に係る本件発明の構成に至らなければ、容易に想到できたものとはいえないが、これは、副引用発明をどのように認定するか、という点にもかかわる問題。

引用発明を上位概念化・一般化して認定することは、常に誤りとはいえないが、これが許されるのは、本件発明との対比における特徴的部分に相違がないような場合に限られよう。
そうでなければ、本来、正しく認定した当該副引用発明だけでは本件発明に想到できない場合にも、容易に想到できるという判断になりかねない。

 
●さらに、引用発明一に基づき、二つの段階を経て相違点5に係る本件発明一の構成に至ることは、格別な努力を要するものといえ、当業者にとって容易であったということはできない、とした点。 

主引用発明と副引用発明を組み合わせることを想到し得たとしても、両発明を組み合わせた上で、さらに本件発明に至るためにさらにもう一段の周知技術等を組み合わせるといった判断手法は許されない。
 
判例時報2363

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2018年5月 7日 (月)

存続期間が延長された特許権に係る特許発明の効力が及ぶ範囲

知財高裁H29.1.20      
 
<事案>
本件特許を有する控訴人(一審原告)が、被控訴人(一審被告)に対し、被控訴人の製造販売に係る各製剤は、本件特許の願書に添付した明細書(「本件明細書」)の特許請求の範囲の請求項一に係る発明(本件発明)の技術的範囲に属し、かつ、存続期間の延長登録を受けた本件特許権の効力は、一審被告による一審被告各製品の生産、譲渡及び譲渡の申出(生産等)に及ぶ旨主張⇒一審被告各製品の生産等の差止め及び廃棄を求めた。 
 
<判断>
存続期間が延長された特許権に係る特許発明の効力は、政令処分で定められた「成分、分量、用法、用量、効能及び効果」によって特定された「物」(医薬品)のみならず、これと医薬品として実質同一なものにも及び、政令処分で定められた前記構成中に対象製品と異なる部分が存する場合であっても、当該部分が僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異にすぎないときは、対象製品は、医薬品として政令処分の対象となった物と実質同一なものに含まれ、存続期間が延長された特許権の効力の及ぶ範囲に属する。

医薬品の成分を対象とする物の特許発明について、
政令処分で定められた「成分」に関する差異、「分量」の数量的差異又は「用法、用量」の数量的差異のいずれか1つないし複数があり、他の差異が存在しない場合に限定してみれば、
僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異かどうかは、
特許発明の内容に基づき、その内容との関連で、
政令処分において定められた「成分、分量、用法、用量、効能及び効果」によって特定された「物」と対象製品との技術的特徴及び作用効果の同一性を比較検討して、当業者の常識を踏まえて判断すべき
前記限定の場合において、

①医薬品の有効成分のみを特徴とする特許発明にに関する延長登録された特許発明において、有効成分ではない「成分」に関して、対象製品が、政令処分申請時における周知・慣用技術に基づき、一部において異なる成分を付加、転換等しているような場合
②公知の有効成分に係る医薬品の安定性ないし剤型等に関する特許発明において、対象製品が政令処分申請時における周知・慣用技術に基づき、一部において異なる成分を付加、転換等しているような場合で、特許発明の内容の照らして、両者の間で、その技術的特徴及び作用効果の同一性があると認められるとき
③政令処分で特定された「分量」ないし「用法、用量」に関し、数量的に意味のない程度の差異しかない場合、
④政令処分で特定された「分量」は異なるけれども、「用法、用量」も併せてみれば、同一であると認められる場合は、

対象製品と政令処分で定められた「成分、分量、用法、用量、効能及び効果」によって特定された「物」の間の差異はわずかな差異又は全体的にみて形式的な差異に当たり、対象製品は、医薬品として政令処分の対象となった物と実質同一なものに含まれる。
 
<規定>
特許法 第68条の2(存続期間が延長された場合の特許権の効力)
特許権の存続期間が延長された場合(第六十七条の二第五項の規定により延長されたものとみなされた場合を含む。)の当該特許権の効力は、その延長登録の理由となつた第六十七条第二項の政令で定める処分の対象となつた物(その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合にあつては、当該用途に使用されるその物)についての当該特許発明の実施以外の行為には、及ばない
 
<解説>
存続期間が延長された場合の特許権の効力は、特許法68条の2において、その特許発明の全範囲に及ぶのではなく、その延長登録 の理由となった政令で定める処分の対象となった物についての当該特許発明の実施以外の行為には及ばないと定められている。

特許法68の2の
「物」は有効成分を
「用途」は効能・効果を
意味するものと解されてきた。

医薬品の品目の特定のために要求されている各要素のうち新薬を特徴づけるものは「有効成分」と「効能・効果」であると考えられていた。
but
知財高裁H21.5.29:
「政令で定める処分」が薬事法所定の承認である場合、「政令で定める処分」の対象となった「物」とは、当該承認により与えられた医薬品の「成分」、「分量」及び「構造」によって特定された「物」を意味し(この「成分」は、薬効を発揮する成分(有効成分)に限定されない。)、かかる「物」についての当該特許発明の実施、及び当該薬品の「用途」によって特定された「物」についての当該特許発明の実施についてのみ、延長特許権の効力が及ぶ(均等物や実質的に同一と評価される物が含まれることは、技術的範囲の通常の理解に照らして、当然である。)と判示。

従来よりも延長特許権の効力の及ぶ範囲を狭く解したもの。

知財高裁H26.5.30:
特許権の延長登録制度及び特許権侵害訴訟の趣旨

延長特許権は「物」に係るものとして「成分(有効成分に限らない。)によって特定され、かつ、「用途」に係るものとして、「効能、効果」及び「用法、用量」によって特定された当該特許発明の実施の範囲で、効力が及ぶ(均等物や実質的に同一と評価される物が含まれることは、技術的範囲の通常の理解に照らして、当然である。)と判示。

同判決は、「分量」については、医薬品の構成を客観的に特定する要素となり得るものの、競業他社が、本来の特許期間経過後に、特許権者が臨床試験等を経て承認を得た医薬品と実質的に同一の用法・用量となるようにし、分量のみ特許権者が承認を得たものとは異なる医薬品の製造販売等をすることを許容することは、延長登録制度を設けた趣旨に反することになる⇒延長特許権の効力を制限する要素となると解することはできないとして、特定要素に含めなかった。

判例時報2361

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2018年4月26日 (木)

審判が認定した上位概念化された周知技術を認定できず、容易想到性はないとされた事例

知財高裁H29.7.4      
 
<事案>
発明の名称を「給与計算方法及び給与計算プログラム」とする本願発明について特許出願⇒拒絶査定⇒不服審判請求不成立審決。

本件審決は、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当事者が容易に発明をすることができたから、特許を受けることができない、などというもの。 
本件は、前記審決に対する取消訴訟。

原告は、取消事由として、容易想到性の判断誤り(具体的には、引用発明の認定誤り、相違点五の容易相当性の判断誤り等)を主張

相違点五:
本願発明の従業員情報は、各従業員が入力を行うためのウェブページを各従業員の従業員端末のウェブブラウザ上に表示させて入力された、給与計算を変動させる従業員入力情報を含んでいるのに対し、
引用発明の従業員情報は、各従業員が入力を行うためのウェブページを各従業員の従業員端末のウェブブラウザ上に表示させて入力されたものを含んでいない点 
 
<判断>
相違点五の容易相当性について、審判の判断に誤りがあるとした。
 
周知例二等は、
従業員の給与支払機能を提供するアプリケーションサーバーを有するシステムにおいて、従業員の取引金融機関、従業員の勤怠情報等の入力及び変更が可能な従業員の携帯端末機を備えることが開示されていることは認められるが、
これらを上位概念化した、および従業員に関連する情報全般の入力及び変更が可能な従業者の携帯端末機を備えることや、従業員入力情報の入力および変更が可能な従業者の経緯対端末機を備えることが開示されているものではなく、それを示唆するものもない

従業員情報の入力及び変更が可能な従業者の携帯端末機を備えることが周知技術であったということはできず、かかる周知技術の存在を前提として、従業員にどの従業員情報を従業員端末を用いて入力させるかは当業者が適宜選択すべき設計的事項であるとも認められない

引用例に接した当業者は、本願発明の具体的な課題を示唆されることはなく、専門家端末から従業員の扶養者情報を入力する構成に代えて、各従業員の従業員端末から当該従業員の扶養者情報を入力する構成とすることにより、相違点五に係る本願発明の構成を想到するものとは認め難い
⇒本件審決を取り消した。
 
<規定>
特許法 第29条(特許の要件) 
産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。
一 特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明
二 特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明
三 特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明
2 特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。
 
<解説> 
●特許要件たる進歩性:
「特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができ」ないとの要件(特許法29条2項)。

通常、
①本件発明の認定、
②主たる引用発明の認定、
③本件発明と主たる引用発明との対比(一致点及び相違点の認定)
④相違点の判断
というプロセスで判断。

本件では、②と④について争われ、②は問題ないものの、④の判断に誤りがあるとされた。
 
●主たる引用発明との相違点に係る本願発明の構成が、別の引用例に記載されていること又は周知技術であることが証拠上認定
主たる引用発明との構成の組合せ等が容易か否かを判断
but
本件では、組み合わせるべき審決認定の周知技術が、上位概念化されたものであり、証拠上具体的な記載はなかったというもので、そのような判断手法によって容易に想到できるとした審決の判断が否定された。

①客観的な判断という観点からは、証拠に基づいた認定が不可欠。
②当該証拠から認定できる技術を主引用発明に組み合わせたとしても、本願発明の構成には至らない。
③証拠上認められる技術から上位概念化して周知技術を認定すると、後知恵に陥る危険がある。

このことは、引用発明や周知技術の認定のみならず、一地点の認定についても当てはまるもので、一致点を上位概念によって認定する場合は、相違点の認定をより具体的に正しく認定しなければ、容易相当性の判断を誤る可能性がある。

知財高裁H29.6.15:
組合せ又は置換の際に上位概念化して認識することにより容易と判断することを否定した最近の裁判例。

引用発明二の主たる構成である「駐車ブレーキ」についての、引用文献二に開示される「駐車ブレーキが作動しない場合」という条件を、
「ブレーキ装置が作動しない場合」と上位概念化して認識し、その概念を周知技術二に当てはめて、「ブレーキ液圧保持装置(ブレーキ装置)が作動しない場合」という条件に置換し、引用発明二に周知技術二を採用して得た「ブレーキ液圧保持装置」にブレーキ液圧保持装置(ブレーキ装置)が作動しない場合」という条件を適用する動機付けはないものとした。
 
●引用例に接した当業者が、前記相違点に係る本願発明の構成に至ることが容易であるとするには、前記のような構成の組合せをする動機付けが必要

本判決は、「引用例に接した当業者は、本願発明の具体的な課題を示唆されることはなく、専門家端末から従業員の扶養者情報を入力する構成に代えて、各従業員の従業員端末から当該従業員の扶養者情報を入力する構成とすることにより、相違点五に係る本願発明の構成を想到するものとは認め難い」旨判示し、
課題の示唆という点を重視して容易相当性を否定。

本願発明と主たる引用例との相違点は、本件発明の構成上の特徴であり、
これは、従来技術では解決できなかった課題を解決するためのもの。

容易相当性の有無を判断するに当たっては、引用発明を出発点として、本件発明の特徴に到達するための課題が示唆されているか否かを検討する必要。

動機付けの有無に関し、
知財高裁H18.6.29は、
新規の技術事項を含む事案において、構成において、紙葉類の積層状態検知装置を紙葉類識別装置に置き換えるのが容易であるというためには、それなりの動機付けを必要とする

進歩性を否定するためには、この技術的思想の着想が容易であったことが論理付けられていなければならない⇒論理付けもなく、単なる設計変更であるとした審決の判断を誤りであると判断。

課題の示唆は、重要な要素の1つであるところ、
知財高裁H21.1.28は、
当該発明が目的とする課題を的確に把握することが必要不可欠であり、
容易相当性の判断の過程においては、事後分析的かつ非論理的思考は排斥されなければならない
そのためには、当該発明が目的とする「課題」の把握に当たって、その中に無意識的に「解決手段」ないし「解決結果」の要素が入り込むことがないよう留意することが必要となると判示。

判例時報2360

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2018年4月25日 (水)

特許法195条の4の「査定」の意味と行政不服審査法による不服申立・特許査定の無効等

知財高裁H27.6.10      
 
<事案>
共同で特許出願をしたXらは、誤って真意と異なる内容で特許請求の範囲を減縮する手続補正書を提出し、担当審査官は、本件補正後の本願発明について特許査定。
Xらは、行政不服審査法に基づく、特許庁長官に対し、本件特許査定の取消しを求める異議申立て(本件異議申立て)⇒特許庁長官は、特許査定は異議申立ての対象にならないとして却下。 
 
<請求>
本件特許査定には重大な瑕疵があると主張
Y(国)に対し、本件訴訟を提起し、
行政事件訴訟法に基づき

主位的に、
①本件特許査定の無効確認
②これを前提とする本件却下決定の取消し
③特許庁審査官に対して本件特許査定を取り消すことの義務付け
を求め、

予備的に
①本件特許査定の取消し、
②これを前提とする本件却下決定の取消し
③特許庁審査官に対し本件特許査定を取り消すことの義務付け
を求めた。 
 
<規定>
特許法 第195条の4(行政不服審査法による不服申立ての制限)
査定又は審決及び審判若しくは再審の請求書又は第百三十四条の二第一項の訂正の請求書の却下の決定並びにこの法律の規定により不服を申し立てることができないこととされている処分については、行政不服審査法による不服申立てをすることができない

行訴法 第14条(出訴期間)
取消訴訟は、処分又は裁決があつたことを知つた日から六箇月を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
2 取消訴訟は、処分又は裁決の日から一年を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
3 処分又は裁決につき審査請求をすることができる場合又は行政庁が誤つて審査請求をすることができる旨を教示した場合において、審査請求があつたときは、処分又は裁決に係る取消訴訟は、その審査請求をした者については、前二項の規定にかかわらず、これに対する裁決があつたことを知つた日から六箇月を経過したとき又は当該裁決の日から一年を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
 
<原審>
特許法195条の4の「査定」には処分に審査官の手続違背があると主張される場合の特許査定は含まれないと解される⇒本件異議申立ては適法であり、本件特許査定取消しの訴えは、行訴法14条3項により出訴期間を徒過していない。
担当審査官には、本件補正がxらの真意に基づくものかどうかを確認すべき手続上の義務を怠った重大な手続違背があり、本件特許査定は無効ではないものの取消しを免れない。
⇒ ①本件特許査定の取消しと②これを前提とする本件却下決定の取消しを認容。
 
<判断>
●本件特許査定取消しの訴えの適法性
①特許法における「査定」の語の用法や同法195条の4の制定経過等
⇒「査定」の文言は文理に照らして解することが自然。
②このように解しても、特許査定の不服に対する司法的救済の途は閉ざされておらず、このほかに行政上の不服申立ての途を認めるべきかどうかは立法府の裁量的判断に委ねられ、その判断も不合理とはいえない。

同法195条の4の「査定」が拒絶査定のみに限定され、あるいは処分に審査官の手続違背があると主張される場合の特許査定はこれに含まれないと解すべき理由はない

本件特許査定に対する行審法による不服申立ては認められないから、本件異議申立ては不適法であり、本件特許査定の取消しの訴えについて行訴法14条3項を適用することはできない。
本件特許査定の取消しの訴えは、出訴期間を徒過⇒却下。

●本件補正の錯誤無効について 
特許法は、書面主義の下、錯誤による書面の記載内容と真意との間の齟齬の是正について厳格な要件の下にのみこれを許容している。

仮に、真意と異なる記載について、一般的な意思表示の錯誤を理由としてその効果を否定することができる余地があり得るとしても、そのような錯誤が認められる場合としては、
①その齟齬が重大なものであることに加えて、
②少なくとも、当該書面の記載自体から、錯誤のあることが客観的に明白なものであり、その是正を認めたとしても第三者の利益を害するおそれがないような場合であることが必要。
but
①本件では、本件補正書の記載自体は、補正前の特許請求の範囲を減縮しようとするものであって、同書面の記載上、特段の問題があるとは認められず、その書面自体からXらに錯誤があることが客観的に明白なものと認めることはできない。
②その是正を認めた場合に第三者の利益を害するおそれがないということもできない。

Xらの錯誤を理由に本件補正が無効であるということはできない

●本件特許査定の違法性について 
審査官が、
特許出願に対する審査を全くすることがなかったか、あるいは実質的にこれと同視すべき場合には、
これによる査定には、特許法の予定する審査を欠く重大な違法があるというべき。

担当審査官は、本件補正が「特許・実用新案審査基準」に照らせば新規事項の追加に当たることを看過したといわざるをえないものの、
本件補正後の本願発明の進歩性、請求項の明確性、明細書のサポート要件及び実施可能要件について、それぞれ検討を経た上で本件特許査定に至ったと評価できる⇒明らかに不合理とまでいうことはできない。

担当審査官が、審査を全くすることなく、あるいは実質的に審査をしなかったのと同視べき場合において本件特許審査を行ったと認めることはできず、本件特許が無効であるということはできない。
 
<解説>
●特許査定に対する行審法に基づく不服申立ての可否 
特許出願に対する拒絶査定の当否については、その専門性、技術性に鑑みて、裁判所の司法審査に先立ち、特許庁の審判合議体による審判手続において審理される(特許法12条)。
but
特許査定に対する不服を理由とする審判請求は認められない
これを認める実益がないことが指摘されている。

審査官による査定は、拒絶査定のみならず特許査定についても、行政処分の性質を有するが、特許法195条の4は、「査定」について行審法による不服申立てをすることができないと規定
but
拒絶査定とは異なり、行政庁に対する不服申立ての途として審判の制度が設けられていない特許査定については、行審法に基づく不服申立ての途が認められるべきかいなか、すなわち、同条の「査定」は拒絶査定だけでなく特許査定を含むかが問題。
本判決は否定。
 
●特許出願と錯誤無効 
行政過程における私人の意思表示に瑕疵がある場合、
一般的には民法の法律行為に関する規定の適用があるとされるが、行政法関係においては、当該関係を規律している法律の仕組みに即して事案を処理してく必要がある。

最高裁昭和39.10.22:
確定申告書の記載内容の過誤の是正については、その錯誤が客観的に明白かつ重大であって、所得税法の定めた更正の請求の方法以外にその是正を許さないならば、納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合でなければ、法定の方法によらないで記載内容の錯誤を主張することは許されない旨判示。

調査官解説:
私人の公法行為について錯誤の主張が許されるかどうかは、究極的には立法政策の問題
法律に特別の規定のない時は格別、行為者の過誤に対する救済が法律で特別に規定されているときは、当該救済手段の設けられている趣旨・目的を勘案した上でその成否及び限度を決すべき
 
●特許査定の無効 
行政処分は、それが国家機関の権限に属する処分として外観的形式を具有する限り、仮にその処分に関し違法の点があったとしても、その違法が重大かつ明白である場合のほかは、これを法律上当然無効というべきではない(最高裁昭和31.7.18)。

判例時報2360

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2018年4月20日 (金)

薬剤の製造方法に係る特許権を侵害する後発医薬品の販売等ないしその薬価収載⇒先発医薬品の市場におけるシェア喪失と薬価及び取引価格の下落⇒損害賠償請求(肯定)

東京地裁H29.7.27    
 
<事案>
本件特許権を第三者と共有する原告が、マキサカルシトール製剤を販売等する被告らに対し、同行為が前記特許権の均等侵害に当たるところ
同行為により、原告製品(オキサロール軟膏)の市場におけるシェアが下落し、
②被告らにおけるマキサカルシトール製剤の薬価収載により、原告製品(オキサロール軟膏及びオキサロールローション)の薬価が下落し、それに伴い原告製品の取引価格も下落したことにより、それぞれ損害を被った。

①につき民法709条ないし特許法102条1項に基づき
②につき民法709条に基づき、
それぞれ損害賠償を請求
 
<争点> 
①均等侵害の成否(被告製品の製造方法が本件特許の出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの「特段の事情」の有無のみが争点)
②本件特許の共有者の1人である原告が被告らに対してどの範囲で損害賠償請求できるか
③原告製品の市場シェア喪失による損害額(特許法102条1ただし書所定の事情の有無・割合を含む。)
④原告製品の取引価格下落による損害額
⑤被告らの過失の有無(均等侵害事案における特許法103条の適用の有無を含む)
⑥原告の過失の有無
⑦特許法102条4項後段の適用の有無
 
<判断>   
被告らに対して合計10億円を超える損害賠償金の支払を命じた 
 
●争点① 
被告らは「原告による別件特許出願における明細書の記載等からすれば、原告は、本件特許出願に際しては、被告製品と同じ構造の物質を出発物質とする製造方法について意識的に除外した(均等侵害の第5要件)」旨主張
vs.
別件特許出願において原告が被告製品と同じ構造の物質を記載したとは認められない⇒被告らの主張は前提を欠く
⇒均等侵害の成立を肯定
 
●争点② 
原告は、単に本件特許権の共有者の1人であるにとどまらず、
他の特許権者(共有者)から、その本件特許権に係る持分について独占的通常実施権を設定されており、被告らによる本件特許権侵害は、原告に対する同実施権の積極的債権侵害にあたる

原告は、被告らに対し、同侵害行為による逸失利益全額について損害賠償できる。
同共有者が侵害者に対して権利行使し得る場合が制限されている⇒被告らの二重払いのリスクがあるとは解されない。
 
●争点③ 
規定 特許法 第102条(損害の額の推定等)
特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為を組成した物を譲渡したときは、その譲渡した物の数量(以下この項において「譲渡数量」という。)に、特許権者又は専用実施権者がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、特許権者又は専用実施権者の実施の能力に応じた額を超えない限度において、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者又は専用実施権者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。

◎特許法102条1項に基づいて、ほぼ原告の主張どおりの損害額を認め、その際、原告製品の薬価ないし取引価格の下落は被告製品の薬価収載によって発生⇒原告製品の薬価下落前の取引価格を前提として原告の損害額を計算

特許法102条1項但書所定の事情について、

被告らの主張する諸事情:
①原告製品には、被告製品以外ににも複数の競合品(薬効や作用機序もほぼ同じ)があり
②被告製品は後発医薬品であり価格が安く、医師も、薬剤処方の際に価格も考慮している
⇒被告製品は原告製品だけでなく競合品のシェアをも一定程度奪っていたと認められる。

原告が主張する諸事情:
原告製品、被告製品、競合品はいずれも医師の処方箋が必要な薬品であり、有効成分が同じ原告製品から被告製品への変更は患者が自由に行えるものの、有効成分が異なる競合品から被告製品への変更は、患者にとって必ずしも容易でない

を総合的に考慮⇒1割の推定覆滅を認めた。
 
●争点④ 
原告の損害のうち薬価下落に基づくものについて、

①新薬創出・適応外薬解消等促進加算という制度が実際に存在し、しかも、同制度に基づく加算は厚生労働省が裁量で行うものではなく、所定の用件を充たす新薬であれば一律に同制度による加算を受けられる⇒これは法律上保護される利益というべき。
②被告製品が薬価収載されなければ原告製品の薬価は下落しなかったものと認められる⇒同下落は被告製品の薬価収載によるもの
③医薬品メーカーや販売代理店が販売する医薬品の価格も薬価を基準として定められる⇒原告とその取引相手との間における取引価格の下落についても、被告製品の薬価収載に基づく損害

同下落に係る損害賠償請求を認めた
 
●争点⑤ 
規定 特許法 第103条(過失の推定)
他人の特許権又は専用実施権を侵害した者は、その侵害の行為について過失があつたものと推定する。
 
◎ 被告ら:特許法103条は均等侵害の場合を想定しておらず、仮に想定していたとしても、被告らに過失はなかった。
vs.
特許法103条は、その文言上、均等侵害の場合に適用されないとすうr根拠がない上、被告らの本件訴訟前の対応等からすれば、被告らに過失がなかったとはいえない。 
 
●争点⑥ 
単に被告製品と同じ構造の物質の製造方法を特許出願の際に記載しなかったことをもって、原告に過失があったとはいえない。
 
●争点⑦ 
規定 特許法 第102条(損害の額の推定等)
4 前項の規定は、同項に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない。この場合において、特許権又は専用実施権を侵害した者に故意又は重大な過失がなかつたときは、裁判所は、損害の賠償の額を定めるについて、これを参酌することができる

◎ 本件に特許法102条4項後段を適用して、損害額を減額すべき事情はない。 
 
<解説> 
後発品(特許侵害品)の販売開始によって先行品が値下げを余儀なくされたことによる逸失利益について、民法709条に基づく損害賠償請求を肯定する学説が多数。
but
製品等の値下げの要因は様々であり得るため、このような因果関係の立証は必ずしも容易でない」と指摘される。 

本件:
新薬創出・適応外薬解消等促進加算という制度⇒「薬価収載後15年以内で、かつ後発品が収載されていないこと」を条件の1つとして、原告製品の薬価が継続的に維持されていたところ、被告製品が薬価収載されたことにより原告製品の薬価が下落

被告製品が薬価収載されたことと、原告製品の薬価が下落したこととの間に因果関係があると認められた
 
特許法102条1項ただし書きに基づく推定覆滅について: 
①市場における競合品の存在
②侵害者の営業努力やブランド力、宣伝広告
③侵害品の性質
④市場の非同一性すなわち価格や販売形態の相違
などが特許法102条1項ただし書所定の「販売することができないとする事情」となるかについて、
肯定説(非限定説)が通説。

本件:
①原告製品・被告製品ともに意思の処方箋を必要とする処方薬⇒有効成分を同じくする原告製品・被告製品間の変更を除き、需要者(患者)が自由に薬品を変更することはできず、必ず医師に処方箋を変更してもらう必要がある⇒需要者が自由に他社製品(競合品)を選択できる場合と同視することはできない。
他方で、
②医師も、薬品を処方する際には、性能がほぼ同等の競合品があることや、患者にとって経済的負担が少ない薬品(被告製品)を処方しようとする動機付けがあること等。

1割につき推定覆滅が認められたもの。
 
特許法102条4項後段は、一定の場合に裁判所の裁量による損害額の減額を定めるが、同条項を適用して損害額を減額した事例はほとんどない

判例時報2359

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2018年3月16日 (金)

特許権者が事実審の口頭弁論終結時までに訂正の再抗弁を主張せず⇒その後に訂正の審決等確定⇒事実審の判断を争えるか?

最高裁H29.7.10      
 
<事案>
特許権者であるXが、Yに対し、Y製品の販売はXの特許権を侵害すると主張して、その販売の差止め及び損害賠償請求等を求めた。 
 
<問題点>
原審:Xの特許権に係る特許には無効理由が存在⇒特許法104条の3第1項の規定に基づく抗弁(「無効の抗弁」)を容れてXの請求を棄却
⇒上告審係属中に、当該特許の請求の範囲を訂正すべき旨の審決が確定
⇒Xが、上告審において、この審決の確定を理由に事実審の判断を争うことができるか? 

上告審係属中に本件特許に係る特許請求の範囲を訂正すべき旨の審決がなされ、確定し、Xはその旨の上申書を提出。
Xは、訂正審決は遡及効を有するところ、本件訂正審決が確定したことにより、原判決の基礎となった行政処分が後の行政処分により変更さたものとして、民訴法338条1項8号に規定する再審事由があるといえる旨を主張
 
<規定>
特許法 第104条の3(特許権者等の権利行使の制限)
特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、当該特許が特許無効審判により又は当該特許権の存続期間の延長登録が延長登録無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、特許権者又は専用実施権者は、相手方に対しその権利を行使することができない。
2 前項の規定による攻撃又は防御の方法については、これが審理を不当に遅延させることを目的として提出されたものと認められるときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、却下の決定をすることができる。
3 第百二十三条第二項ただし書の規定は、当該特許に係る発明について特許を受ける権利を有する者以外の者が第一項の規定による攻撃又は防御の方法を提出することを妨げない。

特許法 第104条の4(主張の制限)
特許権若しくは専用実施権の侵害又は第六十五条第一項若しくは第百八十四条の十第一項に規定する補償金の支払の請求に係る訴訟の終局判決が確定した後に、次に掲げる審決が確定したときは、当該訴訟の当事者であつた者は、当該終局判決に対する再審の訴え(当該訴訟を本案とする仮差押命令事件の債権者に対する損害賠償の請求を目的とする訴え並びに当該訴訟を本案とする仮処分命令事件の債権者に対する損害賠償及び不当利得返還の請求を目的とする訴えを含む。)において、当該審決が確定したことを主張することができない。
一 当該特許を無効にすべき旨の審決
二 当該特許権の存続期間の延長登録を無効にすべき旨の審決
三 当該特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正をすべき旨の審決であつて政令で定めるもの
 
<判断>
前記上申書の提出日まで上告受理申立て理由書の提出期間を伸長する決定をして、Xの上告を受理。 

特許権者が、事実審の口頭弁論終結時までに訂正の再抗弁(訂正により特許法104条の3第1項の規定に基づく無効の抗弁に係る無効理由が解消されることを理由とする再抗弁)を主張しなかったにもかかわらず、その後に同法104条の4第3号所定の特許請求の範囲の訂正をすべき旨の審決等が確定したことを理由に事実審の判断を争うことは、訂正の再抗弁を主張しなかったことについてやむを得ないといえるだけの特段の事情がない限り、特許権の侵害に係る紛争の解決を不当に遅延させるものとして、同法104条の3及び104条の4の各規定の趣旨に照らして許されない。
 
<解説>   
●再審事由と上告理由の関係 
現行民訴法の下では、法令違反の主張は最高裁に対する上告理由とはならない(民訴法312条)⇒再審事由があっても、当然には上告理由には当たらない
but
判例は、民訴法325条2項による破棄事由となり得ると解している(最高裁H11.6.29)。

特許無効審決等の審決取消訴訟に関しては、その請求棄却判決に対する上告審係属中に、当該特許について特許請求の範囲を減縮する旨の訂正審判が確定⇒当該訂正審決の確定は民訴法338条1項8号の再審事由に該当し、同法325条2項による破棄の理由となるものと解されてきた。(最高裁H15.10.31、H17.10.18)
 
<規定>
民訴法 第312条(上告の理由)
上告は、判決に憲法の解釈の誤りがあることその他憲法の違反があることを理由とするときに、することができる。
2 上告は、次に掲げる事由があることを理由とするときも、することができる。ただし、第四号に掲げる事由については、第三十四条第二項(第五十九条において準用する場合を含む。)の規定による追認があったときは、この限りでない。
一 法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと。
二 法律により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと。
二の二 日本の裁判所の管轄権の専属に関する規定に違反したこと。
三 専属管轄に関する規定に違反したこと(第六条第一項各号に定める裁判所が第一審の終局判決をした場合において当該訴訟が同項の規定により他の裁判所の専属管轄に属するときを除く。)。
四 法定代理権、訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたこと。
五 口頭弁論の公開の規定に違反したこと。
六 判決に理由を付せず、又は理由に食違いがあること。

民訴法 第325条(破棄差戻し等)
2 上告裁判所である最高裁判所は、第三百十二条第一項又は第二項に規定する事由がない場合であっても、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるときは、原判決を破棄し、次条の場合を除き、事件を原裁判所に差し戻し、又はこれと同等の他の裁判所に移送することができる

民訴法 第338条(再審の事由) 
次に掲げる事由がある場合には、確定した終局判決に対し、再審の訴えをもって、不服を申し立てることができる。ただし、当事者が控訴若しくは上告によりその事由を主張したとき、又はこれを知りながら主張しなかったときは、この限りでない。
八 判決の基礎となった民事若しくは刑事の判決その他の裁判又は行政処分が後の裁判又は行政処分により変更されたこと。
 
●特許侵害訴訟における再審事由の扱い 
最高裁H12.4.11(キルビー事件)以前:
特許の有効・無効の判断は特許庁における審判手続の専権事項⇒特許権侵害訴訟の手続内においては特許が無効であるとの主張をすることは許されない。

侵害訴訟の認容判決確定後の無効審決の確定は、当然に再審事由に該当する。

平成12年最判:
衡平の理念、紛争の一回的解決等を理由に、特許の無効理由が存することが明らかであると認められるときには、無効審判によらずとも、特許権侵害訴訟の手続内において、そのことを特許権侵害に係る請求に対する抗弁として主張することを認めた

平成16年法律第120号による改正後の特許法は、この判例法理を更に推し進める形で104条の3を新設し、明白性の要件を撤廃して、無効の抗弁を法定
平成12年最判のいう権利濫用の抗弁及び無効の抗弁に対しては、特許権者側が、訂正により無効理由が解消できる旨の主張をすることもできる

特許権侵害訴訟の手続内で、特許の無効理由を主張し、裁判所がその存否について判断ができるようになった⇒侵害訴訟の認容判決確定後に無効審決が確定しても、これを理由とする再審請求は否定すべきする見解が主張。

最高裁H20.4.24(ナイフの加工装置事件):
本件と同様、特許権侵害訴訟の原審が無効の抗弁を容れて請求規約判決をした後、上告審係属中に特許請求の範囲をの減縮を目的とする訂正審決が確定。
同判決の多数意見は、当該訂正審決の確定は、「民訴法338条1項8号所定の再審事由が存するものと解される余地がある」としつつ、当該事案における具体的な事情の下では、これを理由に原審の判断を争うことは当事者間の特許権の侵害に係る紛争の解決を不当に遅延させる⇒特許法104条の3の規定の趣旨に照らして許されない

平成23年法律第63号による改正で、特許法104条の4が新設され、
侵害訴訟の判決確定後に、無効審決(同条1号)又は政令で定める訂正審決(同条3号)等が確定しても、当該判決に対する再審の訴えにおいて、これらの審決が確定したことを主張することは許されない旨が法定
 
●本判決の立場 
侵害訴訟の上告審係属中に無効審決ないし訂正審決が確定したことを上告審において主張することの可否について、
上告理由否定説は採用しなかったが、原則として主張制限がされるとの立場を採用。
←特許法104条の3と同法104条の4の趣旨

①特許法は、
特許法104条の3により、
侵害訴訟の手続内において当事者が特許の効力と範囲に関して攻撃防御(無効の抗弁及び訂正の再抗弁の主張)を尽くすことを可能とし、
さらに、そのような機会と権能が与えられていることを前提として、
同法104条の4 により、
事後的な再審においてこれを実質的に再び争うことを制限
し、
もって、紛争の1回的解決を計るとともに、当事者に侵害訴訟の中で必要な主張立証をすべて提出するよう促すことにより、侵害訴訟の充実を図ろうとしてきた。

上告審において訂正審決の確定を理由に原判決を破棄することとすると、差戻審において訂正後の特許請求の範囲についてほぼ一から審理をやり直すに等しくなる⇒特許権侵害紛争の迅速な解決等のためには、事実審口頭弁論終結後の訂正審決の確定を理由とする主張を制限すべき必要性は、判決確定後だけではなく、上告審においても同様。

③当事者は、侵害訴訟の手続ないにおいて主張された無効理由を解消するための訂正の再抗弁を主張するのであれば、事実審の口頭弁論終結時までにこれをすることが求められており、かつ、同時点までにその機会があるこれを主張しなかった場合に、その後、当該訂正の再抗弁と同じ内容に係る訂正審決が確定したことをもって原審の判断を争うことを制限しても、当事者の手続保障に欠けるとはいえない

事実審口頭弁論終結後に特許の効力と範囲について実質的に再び争うことについても、これを制限的に解することが法の趣旨に沿うものと解し、上告審において訂正審決の確定を理由に事実審の判断を争うことは、原則としてこれを許されないとの立場を採用。

●本件への当てはめ
「Xが、原審口頭弁論終結時までに、本件無効の抗弁に係る無効理由を解消するための訂正についての訂正審判請求等をすることが法律上できなかった」という事実に言及した上、このことをもっても、Xが訂正の再抗弁を主張しなかったことについてやむを得ないといえるだけの特段の事情はうかがわれないと判断。

平成23年改正の際、
審決取消訴訟提起後の訂正審判請求が禁止されて(特許法126条2項)、訂正審判請求することができる時期が格段に狭められた

同改正後の裁判実務及び学説は、訂正の再抗弁を主張するためには、
原則として訂正審判請求等が必要であるとしつつも、
法律上できない又は困難な場合には、衡平の観点から、これを不要とする見解(条件付不要説)
が有力となり、これを一般論として明示する知財高裁判例も現れ、同見解は広く受け入れられている。

①本件において、Xが、原審口頭弁論終結時までに訂正審判請求をすることが法律上できなかったのは、
本件無効の抗弁が主張された時点では、別件の無効審決が終了して審決取消訴訟が係属し、その後も原審口頭弁論終結時まで別件審決が確定しなかったため。

Xは当該無効審判手続において訂正請求をすることはできず(特許法134条の2第1項)、その間訂正審判請求をすることもできなかった(同法126条2項)
②本件無効の抗弁に係る無効理由は前記無効審判では主張されていなかったもの⇒当該無効審判手続においてあらかじめこれを回避するための訂正請求をすることも事実上できなかった。
③Yが本件無効の抗弁を理由とする新たな無効審判請求もしなかった⇒Xは、当該無効審判手続の中で訂正請求をする余地もなかった

Xは、自らの帰責性がない、Y側の行動に起因する事情により、訂正審判請求等をすることが法律上できなかったものであり、本件は、条件付不要説の立場からは、訂正審判請求等が不要とされる場合に当たる。

本判決は、前記のような事情の下では、Xが、訂正の再抗弁を主張するために、実際に訂正審判請求等をしていることは必要なかったとしたもので、前記裁判実務における条件付不要説に親和的な立場を前提とした判断をした。

判例時報2355

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