知的財産権

2017年12月 7日 (木)

楽曲の無断配信と、権利者からの許諾の有無を確認すべき条理上の注意義務・損害認定

知財高裁H28.11.2      
 
<事案>
X:本件原盤についてのレコード製作者の著作隣接権(複製権、貸与権、譲渡権及び送信可能化権)及び本件楽曲についての実演家の著作隣接権(送信可能化権)を有する。 
Y:Xから委託を受けたとするZとの再委託契約に基づき、本件原盤から複製された本件CDのレンタル事業者への販売及び本件楽曲の配信を行ったが、実際にはZは許諾を得ていなかった

Xが、Yに対し、以下の理由により、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求権及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。
①本件原盤から複製された本件CDのレンタル事業者への販売及び本件楽曲の配信により、Xが有する本件原盤についてのレコード製作者の著作隣接権(複製権、貸与権、譲渡権及び送信可能化権)及び本件楽曲についての実演家の著作隣接権(送信可能化権)を侵害したことを理由とする損害賠償金(著作権法114条2項)
②本件CDを廃盤にして、Xの本件原盤、ジャケットを含む本件CD及びポスター等の所有権を侵害したことを理由とする損害賠償金
③前記①②に関する弁護士相談料に係る損害賠償金
 
<規定>
著作権法 第114条の5(相当な損害額の認定)
著作権、出版権又は著作隣接権の侵害に係る訴訟において、損害が生じたことが認められる場合において、損害額を立証するために必要な事実を立証することが当該事実の性質上極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる
 
<判断>
Yの控訴を棄却するとともに、Xの附帯控訴に基づき原判決が認定した損害額を増額変更し、Xのその余の請求をいずれも棄却。 

本件再委託契約に際してZが作成した本件企画書の記載から、Yは、本件再委託契約を締結した頃、Zが本件原盤について著作権及び著作隣接権を有しないことを認識していた
②Yによる本件CDのレンタル事業者への販売及び本件楽曲の配信は、いずれも著作権者又は著作隣接権者の許諾がない限り著作権又は著作隣接権を侵害する行為
Yは、国内最大手の衛星一般放送事業者であるのに対し、Zは、資本金400万円の比較的小規模な会社であり、本件再委託契約締結当時、YとZとの取引実績はまだそれほど蓄積されていなかった
④Yは、本件原盤に関し、本件企画書に原盤会社として明記されているXとZとの利用許諾関係を確認することができ、同確認をすれば、本件のCDのレンタル事業者への販売及び本件楽曲の配信についてのXの許諾がないkとを明確に認識し、以後、前記販売及び配信をしないことによって、Xが有する著作隣接権の侵害を回避することができた

Yは、本件CDのレンタル事業者への販売及び本件楽曲の配信に当たり、Xの許諾の有無を確認すべき条理上の注意義務を負う
but
Yは、本件CDのレンタル事業者への販売及び本件楽曲の配信に当たってXの許諾の有無を確認しておらず、前記条理上の注意義務に違反して、Zが本件岩盤を複製して制作した本件CDをレンタル事業者に販売し、また、インターネット配信事業者を通じて本件楽曲を配信。

Yは、Xの許諾なく前記複製、販売及び配信を行ったことにつき、少なくとも過失がある

Yは、Zらと共に、Xのレコード製作者としての複製権、譲渡権、貸与権及び送信可能化件並びに実演家としての送信可能化権を侵害し、共同不法行為責任を負う

配信1回当たり控訴人が受領した金額の平均はおおむね146円であり、著作権法114条の5により、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、事実審の口頭弁論終結日までの本件楽曲の無断配信の回数は400回と認められる
⇒本件楽曲の無断配信に係る損害は、両者を乗じた5万8400円になる。
 
<解説>
著作隣接権が侵害された場合、著作権者等は、損害賠償を請求することができるが(民法709条)、損害賠償請求の要件として、故意又は過失が必要。

過失の推定規定を有する特許法等とは異なり(特許法103条)、著作権法には、そのような規定がない
⇒侵害者の故意又は過失を主張立証する必要がある。 

本判決は、許諾の有無を確認しなかったという不作為についての注意義務違反を認めたが、不作為が不法行為を構成するには、その前提としての作為義務の存在が不可欠

作為義務の根拠としては、法令の規定、契約のほか、条理が挙げられ、条理に基づく不作為による過失責任を認めた判例:

最高裁H13.3.2:
カラオケ装置のリース業者に、リース契約の相手方が著作権者との間で著作物使用許諾契約を締結し又は申込みをしたことを確認した上でカラオケ装置を引き渡すべき条理上注意義務を負う。
本判決は、同最高裁判決が示した5つの要素(①カラオケ装置の危険性、②被害法益の重大性、③リース業者の社会的地位、④予見可能性、⑤結果回避可能性)等を総合的に考慮して、条理上の義務違反を肯定。

判例時報2346

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2017年11月27日 (月)

ネットモール事業者が検索連動型広告にハイパーリンクを施して広告を掲載する行為と商標法違反・不正競争防止法違反(否定)

大阪高裁H29.4.20      
 
<事案> 
出店者が各ウェブページを公開し商品を売買する形態のインターネット上のショッピングモールを運営するYが、インターネット上の検索エンジンに表示される検索連動広告に、「石けん百貨」等の標章とYのサイトへのハイパーリンクを施す方法による広告を表示した行為が、X各商標権の侵害にあたり、また不正競争法2条1項1号の不正競争にあたるとして、X各商標の商標権者であるXが、損害賠償を請求した事案。 
 
Yは、少なくとも平成24年8月から平成26年9月12日までの間、
「石けん百科」「石鹸百貨」をキーワードとして、検索連動型広告に、「石けん 百貨大特集」などの見出しのもとに広告(以下、これらの広告を「本件広告」、標章表示を「本件表示」)を掲載。

本件広告のなかにYのショッピングモールのURLがハイパーリンクとして表示され、クリックすると、Yのサイト内での「石けん百貨」等をキーワードとする検索結果表示画面(「Y検索結果が面」)に移動。
本件広告から移動したY検索結果画面には、少なくとも平成26年6月頃には、出店者である訴外Aが販売する複数の石けん商品が陳列表示。
 
<争点>
①YによるX各商標権侵害の有無
②Yによる不正競争行為の成否 
 
<判断> 
●争点①について
◎ 本件表示を「石けん」等と「百貨」等との間に半角スペースがない場合と、ある場合に区分(それぞれ、「スペースなし表示」「スペースあり表示」)。

◎  Yの行為につき、Y検索結果画面に表示される内容は、Yが制作に関与していない加盟店の出店頁の記述により専ら決せられる
⇒検索連動型広告に「石けん百貨」という具体的な表示が表示され、かつ、そのリンク先のY検索結果画面に石けん商品が陳列表示されたことは、直ちにYの意思に基づくこととはいえないYの行為は商標法2条3項8号の要件を欠き、X商標権を侵害しない

①Yが「商標権の侵害又はその助長を意図して構築したものであるとも、客観的に見て専ら商標権侵害を惹起するものであるとも認めることができない」
②規約で知的財産権侵害を、ガイドラインで隠れ文字の使用を禁止していることなどを指摘⇒本件標章が付されたことを自己の行為として認容していたとは言えない。
③一定のキーワードの取得を制限する管理の必要性につき、そのために必要な出店のページの事前調査は加盟店や取扱商品の膨大さから著しく困難。
④隠れ文字使用の設定ができないシステムが通常の仕様として普及しているとの事情がないこと、加盟店や取扱い商品等の膨大さに照らせば規約違反の常時監視は非現実的⇒それらのことをもってYが隠れ文字使用を包括的に認容していたとはいえない

but
本件広告のリンク先のY検索結果が面にX商標の指定商品である石けん商品の情報が表示された場合、ユーザーから見れば、本件広告とY検索結果画面とが一体となって、検索エンジンで「石けん百貨」をキーワードとして検索したユーザーを、Yサイト内のX商標の指定商品である石けん商品を陳列表示する加盟店のウェブページに誘導サウルための広告であると認識される

Yが当該状態及びこれが商標の出所表示機能を害することにつき具体的に認識するか、又はそれが可能になったといえるに至ったときは、その時点から合理的期間が経過するまでの間にNGワードリストによる管理等を行って、「石けん百貨」との表示を含む検索連動型広告のハイパーリンク先のY検索結果画面において、登録商標である「石けん百貨」の指定商品である石けん商品緒情報が表示されるという状態を解消しない限り、Yは、「石けん百貨」という標章が付されたことについても自らの行為として認容したものとして、商標法2条3項8号所定の要件が充足され、Yについて商標権侵害が成立

本件では、Yは、本件広告の存在を認識するや、直ちにAの出店頁を調査、サーチ非表示とするなど、具体的に認識してから合理的期間が経過するまでに、商標の出所表示機能を害する状態を解消した。

Yと販売業者との間に何らかの意思の連絡があったとは認められない⇒裁判所は共同不法行為の成立を否定
 
●争点②について 
Xのサイトの広告であると誤認混同するおそれがあるとの主張に対し、
Yの名称が使用されており、Yがインターネットショッピングモールとして周知⇒誤認混同のおそれはない。

本件広告のリンク先のY検索結果画面に表示されている商品をXが販売しているとの誤認混同するおそれがあるとの主張に対し、
争点①と同様に、商品等表示を使用したとは認められない⇒不正競争行為に該当しない
 
<規定>
商標法 第25条(商標権の効力)
商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する。ただし、その商標権について専用使用権を設定したときは、専用使用権者がその登録商標の使用をする権利を専有する範囲については、この限りでない。

商標法 第36条(差止請求権)
商標権者又は専用使用権者は、自己の商標権又は専用使用権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
2 商標権者又は専用使用権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為を請求することができる。

民法 第709条(不法行為による損害賠償) 
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

商標法 第2条(定義等)
3 この法律で標章について「使用」とは、次に掲げる行為をいう。
八 商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為
 
<解説>
●商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有し(商標法25条本文)、自己の商標権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の差止めを請求でき(商標法36条1項)、損害賠償を請求できる(民法709条)。
商標の「使用」は、商標法2条3項各号で規定され、同8号は、
「商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」を掲げる。

広告等を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為は、平成14年改正により規定され、たとえばホームページ上のバナー広告、自己のホームページの出所を示す広告等が挙げられる。
 
●検索連動広告:インターネット上の検索エンジンにおいて、利用者が検索したキーワードの検索結果表示画面に、関連した広告が表示されるもの。

Aというキーワードを利用者が検索⇒Aに関する検索結果が表示されるが、その検索結果の上部や下部などに、関連する広告が表示。
この広告にはハイパーリンクが設定され、利用者が広告をクリックすると、広告主の設定したウェブサイトに異動。

広告主が、表示対象となる検索結果のキーワードを指定し、表示したい広告の見出しやURL等を登録することにより、設定がされる。
キーワードや広告内容には、商品や役務の内容だけでなく、他者の登録商標も設定できうる⇒商標権侵害の問題が生じうる。 

本件では検索連動型広告の広告内において原告の登録商標が表示され、なおかつハイパーリンク先に当該商標の指定商品が陳列表示⇒商標法2条3項8号にいう行為に該当するか?
 
●検索連動型広告と商標権をめぐる紛争の当事者:
①商標権者・広告主間
②商標権者・検察エンジン運営者間
③商標権者・オンライン市場運営者

本件は③。 

通常の広告主とオンライン市場運営者では広告への関与の度合いが異なる。
本件では、
①広告のハイパーリンク先のYサイト内における商品陳列が面に、いかなる商品が陳列表示されるかも、
②検索連動型広告での表示も、
Yが関与しない加盟店の出店ページの記述に左右される
⇒オンライン市場経営者であるYが侵害主体となりうるかが問題
 
●過去の裁判例として、
原告商品の名称及び原告商標をキーワードとして表示される検索結果の広告スぺースに被告が自社の広告を掲載することが商標権侵害であるかが争われた大阪地裁H19.9;.13:
裁判所は「被告の行為は、商標法2条3項各号に記載された標章の「使用」のいずれの場合にも該当するとは認め難い⇒本件における商標法に基づく原告の主張は失当」
but
本件とは事案が違う。 
 
●本控訴審は、オンライン市場運営者による検察連動型広告における標章の使用が、自らの商標の使用(商標法2条3項8号)にあたる場合の基準を示したもの。 
Yのようなオンライン市場において加盟店が第三者の商標権を侵害する商品を陳列表示している場合に、オンライン市場運営者が侵害主体となりうるときの基準を示した知財高裁H24.2.14と比較すると、本控訴審判決はオンライン市場運営者の行為が商標の使用にあたるとしている点に特徴がある。

判例時報2345

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2017年11月17日 (金)

無効審判についての除斥期間経過と、商標権侵害訴訟の相手方による、無効の抗弁の主張

最高裁H29.2.28      
 
<事案>
本訴:米国法人であるエマックス・インクとの間で同社の製造する電気瞬間湯沸器につき日本国内における独占的な販売代理店契約を締結し、X使用商標を使用して本件湯沸器を販売しているXが、本件湯沸器を独自に輸入して日本国内で販売しているYに対し、X仕様商標と同一の商標を使用するYの行為が不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争に該当⇒その商標の使用の差止め及び損害賠償等を求めた。

反訴:Yが、Xに対し、商標権に基づき、登録商標に類似する商標の使用の差止め等を求めた。
X:Yの登録商標は商標法4条1項10号に定める商標登録を受けることができない商標に該当し、Xに対する商標権の行使は許されないと主張。 
 
規定   
 
<原審>
X仕様商標は不正競争防止法2条1項1号にいう「他人の商品等表示・・・として需要者の間に広く認識されているもの」に当たり、YがX仕様商標と同一の商標を使用する行為は同号所定の不正競争に該当⇒本訴請求を一部認容。
X使用商標は商標法4条1項10号にいう「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標」(「周知商標」)に当たり、X仕様商標と同一又は類似の商標である本件各登録商標のいずれについても、商標登録を受けることができない同号所定の商標に該当
⇒同法39条において準用する特許法104条の3第1項の規定に係る抗弁が認められ、Xに対する本件各商標権の行使は許されない⇒反訴請求を棄却。
 
<判断>
上告を受理し、
原審の認定事実からはX使用商標が不正競争防止法2条1項1号及び商標法4条1項10号の周知商標に当たると直ちにいえず、Xによる具体的な販売状況等について十分に審理しないまま前記各号該当性を認めた原審の判断には違法がある⇒本訴請求のうち不正競争防止法に基づく請求に関する部分及び反訴請求に関する部分の原審の判断は是認できないとして、これらの部分について原判決を破棄し本件を福岡高裁に差し戻した。
 
<規定>
商標法 第39条(特許法の準用)
特許法第百三条(過失の推定)、第百四条の二(具体的態様の明示義務)、第百四条の三第一項及び第二項(特許権者等の権利行使の制限)、第百五条から第百五条の六まで(書類の提出等、損害計算のための鑑定、相当な損害額の認定、秘密保持命令、秘密保持命令の取消し及び訴訟記録の閲覧等の請求の通知等)並びに第百六条(信用回復の措置)の規定は、商標権又は専用使用権の侵害に準用する。

特許法 第104条の3(特許権者等の権利行使の制限)
特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、当該特許が特許無効審判により又は当該特許権の存続期間の延長登録が延長登録無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、特許権者又は専用実施権者は、相手方に対しその権利を行使することができない。

商標法 第47条
商標登録が第三条、第四条第一項第八号若しくは第十一号から第十四号まで若しくは第八条第一項、第二項若しくは第五項の規定に違反してされたとき、商標登録が第四条第一項第十号若しくは第十七号の規定に違反してされたとき(不正競争の目的で商標登録を受けた場合を除く。)、商標登録が第四条第一項第十五号の規定に違反してされたとき(不正の目的で商標登録を受けた場合を除く。)又は商標登録が第四十六条第一項第三号に該当するときは、その商標登録についての同項の審判は、商標権の設定の登録の日から五年を経過した後は、請求することができない。

商標法 第4条(商標登録を受けることができない商標)
次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
十 他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であつて、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの
 
<解説>
●問題
Xは、本件各登録商標は商標法4条1項10号に定める商標登録を受けられない商標に該当すると主張。
but
①本件各登録商標のうち最初に登録された平成17年登録商標については、商標権設定登録日から5年を経過
②同号該当を理由とする無効審判請求について同法47条1項が5年の除斥期間を定めている
本件訴訟において同号該当性の主張をすることが許されるのか(=同項が無効審判手続について定めるのと同様の期間制限が、商標権侵害訴訟における同号該当性の主張にも及ぶのか)が問題。
 
●無効の抗弁の主張と期間制限 
商標法39条によって準用する特許法104条の3第1項の規定(「本件規定」)は、商標権侵害訴訟において商標登録が無効審判により無効にされるべきものと認められるときは商標権者は相手方に対しその権利を行使することができない旨を定めているところ、商標権設定登録日から5年を経過した後は、商標法47条1項の規定により、商標登録が不正競争の目的で受けたものである場合を除き同法4条1項10号該当を理由とする無効審判を請求することができない
「商標登録が無効審判により無効にされるべきもの」と認められる余地がないこととなる。
②商標法47条1項の趣旨(=商標登録がされたことによる既存の継続的な状態を保護する)からいっても、誰でも主張できる抗弁である無効の抗弁を期間の制限なく主張し得るものとすると、商標権者がいつ誰に対して商標権侵害訴訟を提起しても、同訴訟の相手方は、登録商標が周知商標(自己の商品等表示として周知である商標でなく、他人の周知商標であってもよい。)と同一又は類似の商標であることを主張して、同法4条1項10号該当をもって無効の抗弁を主張できる⇒商標権者は、この抗弁が認められることによって自らの権利を行使することができなくなり、同法47条1項の趣旨が没却される

商標法4条1項10号該当を理由とする商標登録の無効審判が請求されないまま商標権の設定登録の日から5年を経過した後においては、当該商標登録が不正競争の目的で受けたものである場合を除き、商標権侵害訴訟の相手方は、その登録商標が同号に該当することによる商標登録の無効理由の存在をもって、本件規定に係る抗弁を主張することが許されない
 
権利濫用の抗弁の主張と期間制限 
例えば、周知商標を自己の商品等表示として使用する者(周知商標使用者)の知らないうちに周知商標と同一又は類似の商標について商標登録がされ、その商標権設定登録日から5年を経過した後に周知商標使用者に対する商標権侵害訴訟が提起された場合、同訴訟の相手方(周知商標使用者)にとっては、商標登録に係る不正競争目的を立証しない限り商標法4条1項10該当をもって商標権者の権利行使に対することができなくなる。

本判決:
登録商標が商標法4条1項10号に該当し、かつ、その商標権を行使されている相手方が当該登録商標を同号に該当するものとされている周知商標につき自己の商品等表示として周知性を獲得した当人(=周知商標使用者)であるという場合に、その周知商標使用者は当該商標権侵害訴訟において自己に対する商標権の行使が許されないとする権利濫用の抗弁を主張することができ、このような抗弁の主張については期間制限を受けないとした。

◎商標権の濫用は、民法1条3項に定める権利の濫用が商標権行使の場面で表れたものにほかならない。

山﨑裁判官の補足意見:
権利の濫用の有無は、当該事案に表れた諸般の事情を総合的に考慮して判断されるべきものであって、このことは、商標権の行使について権利の濫用の有無が争われる場合であっても異なるものではない。
もっとも、商標権は、発明や著作などの創作行為がなくても取得できる権利であることなどから、その行使が権利の濫用に当たるとされた事例はこれまでに少なからずみられるところであり、こうした事例の中から、権利の濫用と判断される場合をある程度類型化して捉えることは可能。
一般に、正当に商標が帰属すべき者(又はその者から許諾を受けた者)に対して商標権を行使する場合には権利濫用が認められる傾向がある。

本判決:
登録商標が商標法4条1項10号に該当するものであるにもかかわらず同号の規定に違反して商標登録がされた場合に、当該登録商標と同一又は類似の商標につき自己の業務に係る商品等を表示するものとして当該商用登録の出願時において需要者の間に広く認識されている者に対してまでも、商標権者が当該登録商標に係る商標権の侵害を主張して商標の使用の差止め等を求めることは、特段の事情がない限り、商標法の法目的の1つである客観的に公正な競争秩序の維持を害するものとして、権利の濫用に当たり許されないものというべきである。


商標法4条1項10号が、同号の要件(=出願時までに引用商標につき周知性を備えていること)を満たす場合には商標登録出願人よりも周知商標使用者を有意とするという規律を定めていることから導かれるもの。

判例時報2343

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2017年10月29日 (日)

意匠登録出願に係る物品の一物品性、一意匠一出願の要件

知財高裁H28.9.21      
 
<事案>
意匠に係る物品を「容器付冷菓」とした意匠登録出願につき、特許庁から意匠法7条の要件を満たさないとして拒絶査定⇒不服審判請求⇒不成立とする審決⇒審決の取消しを求めた。
 
<規定>
意匠法 第7条(一意匠一出願)
意匠登録出願は、経済産業省令で定める物品の区分により意匠ごとにしなければならない。
 
<判断>
意匠法7条の規定は、意匠登録出願が「物品ごとに」かつ「形態ごとに」行われるべきことを定めた。
「物品ごとに」とは、ある1つの特定の用途及び機能を有する一物品であることを意味。
「形態ごとに」とは、意匠登録の出願図画に表される形態が、全体的なまとまりを有して単一の一形態であることを意味。

1つの特定の用途及び機能を有する1物品といえるか、及び、出願図画に表される形態が全体的なまとまりを有して単一の一形態といえるかは、
願書における「意匠に係る物品」欄及び「意匠における物品の説明」欄の記載を参照した上、
①意匠登録出願に係る物品の内容、製造方法、流通形態及び使用形態、
②意匠登録出願に係る物品の一部分がその外観を保ったまま他の部分から分離することができるか、並びに
③当該部分が通常の状態で独立して取引の対象となるか
等の観点を考慮して、社会通念に照らして判断すべきもの。

本願の「容器付冷菓」に係る物品は、社会通念上、1つの特定の用途及び機能を有する1物品であるとして、審決を取り消した。
 
<解説> 
●1意匠1出願の原則の理由:
①出願の対象を単一にして、その内容を明確に把握でき
②したがって、審査の便宜かつ手続の迅速化を図ったもので、
③このようにすることによって、類似意匠に関する出願も簡明となり、
④また、当該意匠について意匠権が発生した場合は、権利の効力範囲が明らかとなり、
⑤侵害事件、意匠権の移転等の場合もその取扱いが明確にされ得る
利点を考慮。

意匠法6条で願書に記載する旨規定している「意匠に係る物品」の欄の記載を意匠登録出願人の自由にまかせて、例えば、「陶器」という記載を認めたのでは、「花瓶」と記載した場合に比べて、その用途及び機能において非常に広汎な意匠について意匠登録出願を認めたものと同一の結果を生ずる
物品の区分については別に「経済産業省令で定める」ことにした。
 
●本件の意匠登録出願は、出願に係る物品が、前記の意匠法7条に規定する経済産業省令である別表第1に列挙されている物品の区分に該当しない場合。 

審決は、このような出願について、2物品に係る出願であり、2意匠を表したものと判断。

本判決は、当該出願に係る物品が1物品といえるか否かは、願書の記載を参照し、
①当該物品の内容、製造方法、流通形態及び及び使用形態
②当該物品の一部分がその外観を保ったまま他の部分から分離することができるか、並びに、
③当該部分が通常の状態で独立して取引の対象となるか
等の観点を考慮して、社会通念に照らして判断すべきものであるとし、
本願に係る物品を1物品と判断した。

判例時報2341

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2017年10月19日 (木)

ゴルフクラブのシャフトデザインンの著作物性が争われた事案(否定)

知財高裁H28.12.21      
 
<事案>
グラフィックデザイン等を業として行う控訴人が、ゴルフ用品等スポーツ用品の製造、販売等を目的とする株式会社である被控訴人に対し、
(1)①被告シャフトが、
主位的には、控訴人の著作物であるゴルフシャフトのデザイン(本件シャフトデザイン)の翻案に当たり、
予備的には、控訴人の著作物である本件シャフトデザインの原画(本件原画)の翻案に当たる
⇒被控訴人の被告シャフト製造、販売行為が、控訴人の著作権(翻案権、二次的著作物の譲渡権)を侵害し、

(2)被告シャフトの製造は、
主位的には、控訴人の意に反して本件シャフトデザインを改変してなされたものであり、
予備的には、控訴人の意に反して本件原画を改変してなされたもの
⇒控訴人の著作者人格権(同一性保持権)を侵害し、

(3)被控訴人のカタログ(被告カタログ)の製作は、控訴人の著作物であるカタログデザイン(本件カタログデザイン)を改変してなされたもの⇒控訴人の著作者人格権(同一性保持権)を侵害

①被告シャフトによる著作権(翻案権、二次的著作物の譲渡権)侵害につき民法703条、704条に基づく使用料相当額の不当利得金5400万円等の支払
②被告シャフト及び被告カタログによる著作者人格権(同一性保持権)侵害につき民法709条に基づく慰謝料850万円の内金425万円等の支払
③被告シャフト及び被告カタログによる著作者人格権(同一性保持権)侵害につき著作権法112条1項に基づく被告シャフト及び被告カタログの製造及び頒布の差止め並びに同条2項に基づく廃棄、並びに
④被告シャフトによる著作者人格権(同一性保持権)侵害につき、同法115条に基づく謝罪広告の掲載
を求めた事案。
 
<規定>
著作権法 第10条(著作物の例示) 
この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。
四 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物

著作権法 第2条(定義)
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
 
<判断>
応用美術の著作物性について、
一般論として、
「応用美術」は、「美術の著作物」(著作権法10条1項4号) に属するものであるか否かが問題となる以上、著作物性を肯定するためには、それ自体が美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えなければならないとしても、高度の美的鑑賞性の保有などの高い創作性の有無の判断基準を一律に設定することは相当とはいえず、
著作権法2条1項1号所定の著作物性の要件を充たすものについては、著作物として保護されるものと解すべき

控訴人が本件シャフトデザイン及び本件カタログデザインに創作性が認められる根拠としてあげた点につき、いずれも創作的な表現ではないと判断。
 
<解説>
応用美術の著作物性について、近時の知財高裁判決では、
①実用目的の応用美術であっても、
実用目的に必要な構成を分離して、美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できるもの⇒美術の著作物として保護すべき。
実用目的に必要な構成と分離して、美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握することができないもの⇒著作物として保護されない。
(知財高裁H26.8.28)と、

②応用美術が「美術の著作物」として保護されるために、
応用美術に一律に適用すべきものついて、高い創作性の有無の判断基準を設定することは相当とはいえず、個別具体的に、作成者の個性が発揮されているか否かを検討すべきであるとしたもの(知財高裁H27.4.14)。

本判決は、後者②の判決の流れを汲むものであるが、応用美術の著作物性を肯定するためには、それ自体が美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えなければならない点を明確にした。

判例時報2340

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2017年10月13日 (金)

不正競争防止法2条1項3号の「他人の商品」該当性等

知財高裁H28.11.30      
 
<事案>
控訴人(一審原告)らは、試験管用の加湿器を共同で開発したプロダクトデザイナー。控訴人加湿器1を平成23年11月に国際展示会へ、控訴人加湿器2を平成24年6月に国際見本市へ、それぞれ出展し、平成27年1月5日頃から、控訴人加湿器3を販売。
被控訴人は、生活雑貨の輸入等を業とする株式会社であり、平成25年に試験管用の加湿器(被控訴人商品)を中国から輸入し、国内の各取引先に販売。 

控訴人らが、被控訴人に対し、
①被控訴人商品が控訴人加湿器1・2の形態を模索したもの⇒不正競争防止法違反(不正競争防止法2条1項3号)に基づいて被控訴人製品の輸入、販売等の差止め等を、
②控訴人加湿器1・2は美術の著作物(著作権法10条1項4号)に当たり、被控訴人商品はこれを複製・翻案したもの⇒著作権に基づいて被控訴人商品の輸入、販売等の差止め等を
求めた。
 
<規定>
不正競争防止法 第2条(定義)
この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
三 他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する行為

不正競争防止法 第19条(適用除外等)
第三条から第十五条まで、第二十一条(第二項第七号に係る部分を除く。)及び第二十二条の規定は、次の各号に掲げる不正競争の区分に応じて当該各号に定める行為については、適用しない。

五 第二条第一項第三号に掲げる不正競争 次のいずれかに掲げる行為
イ 日本国内において最初に販売された日から起算して三年を経過した商品について、その商品の形態を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する行為
 
<原審>
控訴人加湿器1・2は、いずれも、市場における流通の対象となる物とは認められない⇒不正競争防止法2条1項3号にいう「商品」に当たらない。 
両加湿器は、いずれも、美的鑑賞の対象となり得るような創作壊死を備えていると認めることはできない⇒著作物に当たらない 
 
<判断> 
「他人の商品」(不正競争防止法2条1項3号)に該当するためには、「商品化」を完了していれば足り、その商品化といえるためには、商品としての本来の機能が発揮できるなど販売を可能とする段階に至っており、かつ、それが外見的に明らかになっている必要がある。
②商品展示会に出展された商品は、特段の事情がない限り、開発、商品化を完了し、販売を可能とする段階に至ったことが外見的に明らかになった物品であるとして認められる。
③保護期間(不正競争防止法19条1項5号ロ)の始期は、開発商品化を完了し、販売を可能とする段階に至ったことが外見的に明らかになった時。

被控訴人商品は控訴人加湿器1・2を模倣したものであるから、不正競争防止法所定の保護期間内にされた被控訴人商品の輸入は不正競争に当たる。
but
口頭弁論終結時点では前記保護期間は既に経過している。
控訴人加湿器1・2は美術の著作物とは認められない。
 
<解説>
●「他人の商品」について 

本判決:
商品開発者の保護という法的要請と、②取引の安全性という社会的要請の両要請に鑑みて、保護に値する投資の地度とその外部からの観察可能性という観点

「他人の商品」(不正競争防止法2条1項3号)に該当するためには、「商品化」を完了していれば足り、その商品化といえるためには、商品としての本来の機能が発揮できるなど販売を可能とする段階に至っており、かつ、それが外見的に明らかになっている必要がある。
試作品段階のものが保護の対象とはしていない。

サンプル出荷できる段階では商品化を終えていると説示するもの(東京地裁H16.2.24)
 
●「最初に販売された日」について 

本判決:
法文の用語からは若干離れるものの、
①先行開発者の保護と後行開発者の利益とのバランスを取ろうとした保護期間の規定の趣旨や
②知的財産法の法体系との整合性

保護期間(不正競争防止法19条1項5号ロ)の始期は、開発商品化を完了し、販売を可能とする段階に至ったことが外見的に明らかになった時
 
●応用美術品の著作物性について 
「応用美術」という用語には、明確な定義がない。
主に想定されているのは、量産される実用品に用いられている美観(形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合)であr、これを「美術の著作物」(著作権法10条1項4号)又は「著作物」(同法2条1項1号)として、著作権法で保護できるのかという問題。

本判決:
応用美術が著作物性を認められるためには、個性の発露があり、また、美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備える必要があると判断。
but高度の創作性は要しない。

控訴人らのスティック型加湿器については、個性の発露が認められない著作物性を否定

判例時報2338

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2017年10月 1日 (日)

吸入器に係る本願意匠と引用意匠の類否について類似性が否定された事例

知財高裁H28.11.30      
 
<事案>
Xは、本願意匠(物品「吸入器」)の登録出願⇒拒絶査定⇒不服の審判を請求⇒特許庁は、本願意匠は引用意匠に類似する意匠であるから意匠法3条1項3号に該当するとして、不成立審判⇒Xが、同審決の取消しを求めた。
 
<規定>
意匠法 第3条(意匠登録の要件)
工業上利用することができる意匠の創作をした者は、次に掲げる意匠を除き、その意匠について意匠登録を受けることができる。
一 意匠登録出願前に日本国内又は外国において公然知られた意匠
二 意匠登録出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された意匠又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた意匠
三 前二号に掲げる意匠に類似する意匠

2 意匠登録出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたときは、その意匠(前項各号に掲げるものを除く。)については、前項の規定にかかわらず、意匠登録を受けることができない。

意匠法 第24条(登録意匠の範囲等)
登録意匠の範囲は、願書の記載及び願書に添附した図面に記載され又は願書に添附した写真、ひな形若しくは見本により現わされた意匠に基いて定めなければならない。
2 登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとする。
 
<判断>   
本件意匠は、引用意匠と類似するとはいえず、意匠法3条1項3号に該当しない⇒本件審決の判断は誤りであるとして、審決を取り消した。
 
●量意匠に係る物品の需要者 
意匠に係る物品は、いずれも使用者が本体部を持って、マウスピース部から薬剤を吸引するための吸引器に関するものであり、その需要者は、当該薬剤を吸引する必要のある患者及び医療関係者

需要者である患者は、薬剤を必要とする際に吸入器を使用するものであって、その使用方法は、本体部を持って、マウスピース部を口にくわえて、薬剤を吸引するというものであり、両意匠に係る物品を、このような使用状況に応じて観察。

需要者である医療関係者は、患者が薬剤を適切に吸引できるよう、薬剤の性質に応じた吸引の機能を有しているか否か、患者の症状や属性に応じた使用が可能か否かという観点から、両意匠に係る物品を観察し、選択。

持ちやすさや使いやすさという観点からは、吸入器全体の基本的構成態様が需要者の注意を惹く部分であるとともに、
薬剤の吸引という吸入器の機能の観点からは、患者が薬剤を吸引するマウスピース部の端部の形態が最も強く需要者の注意を惹く部分
 
●基本的構成態様
意匠に係る物品の基本的な構成は、必然的に限定される。
基本的構成態様と同様の態様を有する吸入器がありふれたものとして存在。

基本的構成態様は、需要者である患者及び医療関係者の注意を強く惹くものとはいえない
 
●具体的構成態様 
本願意匠のマウスピース部の端部に形成された円形孔は、特に機能を重視する医療関係者に対し、強い印象を与えるものということができ、患者についても同様。
引用意匠のマウスピース部の端部のような態様の吸入部は、ありふれたもの。

本願意匠のマウスピース部の端部に円形孔が形成されている点は、最も強く需要者の注意を惹く部分。
 
●両意匠の類否 
両意匠に係る物品の性質、用途及び使用態様並びに公知意匠との関係を総合すれば、
マウスピース部の端部の形態の相違は、需要者である患者及び医療関係者らの注意を強く惹き、視覚を通じて起こさせる美感に大きな影響

マウスピース部の端部についての相違点は、それ以外の共通点から生じる印象に埋没するものではない
 
<解説>
意匠登録出願前に日本国内又は外国において、公然知られた意匠又は頒布された刊行物に記載された意匠等(「公知意匠」)に類似する意匠は、意匠登録を受けることができない(意匠法3条1項3号)。 

意匠法3条1項3号の類似性について、
最高裁昭和49.3.19において、「一般需要者の立場からみた美観の類否を問題とする」旨説示され、平成18年法律第55号により新設された意匠法24条2項には、「登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとする」と規定。

最高裁昭和49.3.19:
意匠法3条1項3号の類似性と同条2項の創作容易性とは別個の観念であるとした。

この2つは、ともに創作性の要件に関するものではあるが、
同条1項3号は、「公知意匠と構成要素において部分的差異があっても、その全体より生ずる美感ないし意匠的効果の面においてなんら異なるところのない意匠は、本質的に公知意匠に含まれるものであり、創作として未知のものと評価するに値しない」ことから、類似の意匠として登録しないこととしたもの(最判解説)。

類似性の判断主体は、需要者であると理解されているところ、かかる需要者は「当該意匠に係る物品の分野に通暁した専門家ではないが、先行意匠にもある程度の予備知識のある取引者を含めた需要者が想定されているもの」と解される。

本判決は、類似性の判断主体である需要者に着目し、その観察、選択態様を具体的に着目し、その観察、選択態様を具体的に考察して、需要者の注意を惹く部分の認定評価を行った点が特徴的。

判例時報2337

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2017年9月20日 (水)

特許法102条2項における推定覆滅率等についての事案

東京地裁H28.12.6      
 
<事案>
①発明の名称を「遮断弁」とする特許権(X特許権1)を有し、また、発明の名称を「流体制御弁」又は「遮断弁」とする3件の各特許権(X特許権2~4)を有していたXが、遮断弁(Y製品)を販売するYに対し、
X特許権の1の侵害を理由として、Y製品の販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに、
X特許権1~4の侵害を理由として、損害賠償金及び不当利得返還金の合計2億5607万5000円(一部請求)並びに遅延損害金の支払を求めた事案(本訴)
②発明の名称を「モーター駆動双方向弁とそのシール構造」とするYと第三者との共有特許権(Y特許権)を有していたYが、遮断弁(X製品)を販売するXに対し、
Y特許権の侵害を理由として、損害賠償金及び不当利得返還金の合計5000万円(一部請求)及び遅延損害金の支払を求めた事案(反訴) 
 
<争点>
本訴請求について:
①文言侵害及び均等侵害の成否(争点(1)~(3))
②差止め・廃棄請求の必要性(争点(4))
③Xの損害額及びYの不当利得額(争点(5))

反訴請求について:
①文言侵害の成否(争点(6))
②無効理由(進歩性欠如、サポート要件違反、更正不可欠要件違反)の有無(争点(7))
③訂正の再抗弁の成否(争点(8))
④Yの損害額及びXの不当利得額(争点(9))
 
<判断>
●本訴請求に関し損害賠償金債権(遅延損害金を含む)約2億5300万円、
反訴請求に関し損害賠償金及び不当利得返還請求債権(同)合計1憶6400万円
がそれぞれ生じたと認めた上、
前記各債権はX・Y間の相殺合意によって対等額で消滅

Yに対し、前記各債権の差額である約8900万円等の支払を命じる一方、反訴請求は棄却。
 
●本訴請求について 
Y製品がX特許権1に係る文言侵害を認めたが、
X特許権2~4については文言侵害及び均等侵害のいずれも認めなかった。
差止め、廃棄の必要性については一部を除き認められる。
特許法102条2項の推定に対する覆滅割合をXが主張するとおり20%と判断し、約2億4100万円(Y製品の限界利益の8割及び弁護士費用2200万円の合計額)をX特許権1の侵害によって生じたXの損害と認定。
 
●反訴請求について 
Yの訂正発明について無効理由が存在せず、かつ、X製品がY訂正発明の技術的範囲に属するとして訂正の再抗弁を認める。
Y訂正発明に係る訂正が特許請求の範囲の減縮を目的とするもの
⇒X製品は同訂正前のY発明の技術的範囲に当然に属する
⇒訂正前発明についての無効理由の存否を判断するまでもなく、X製品はY特許権を侵害。

特許法102条2項に基づく損害額(反訴提起日から遡って3年前の日以降の分)につき、同条項の推定に対する覆滅割合をYが主張するとおり20%と判断

Y特許権が共有特許権であることによる推定覆滅について、共有者によるY特許権の実施割合は認められないことを前提に、特許法102条3項に基づく損害額の覆滅されるとした上、仮想実施両立を4%と算定し、約1億500万円(Y製品の限界利益の8割から共有者の損害額を減じた額及び弁護士費用950万円の合計額)をY特許権の侵害によって生じたYの損害と認定。
さらに、民法703条に基づくXの不当利得額(反訴提起日から遡って10年前の日から同3年前の日の前日までの分)につき、約4000万円と認定。

Yは、Y特許発明が基本特許である価値が高いのに対して、X特許発明はY特許発明の改良発明にすぎず、その技術的意義が小さいと主張。
but
本判決は、
Y製品の売上に対するX特許発明とY訂正発明の技術的意義や発明の客観的価値が相違する旨のYの上記主張は、直ちに推定覆滅率についての判断を左右するものとはいえず失当である旨判示。)
 
<規定>
特許法 第102条(損害の額の推定等)
2 特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額と推定する。
 
<解説>
特許法102条2項は、侵害者が侵害の行為により利益を受けているときに、その利益がの額を特許権者等の損害の額と推定する旨規定するところ、特許権者に、侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られただろうという事情が存在する場合には2項の適用が認められると解すべきであり、特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在するなどの諸事情では、推定された損害額を覆滅する事情として考慮され(知財高裁H25.2.1)、いわゆる寄与率として控除(推定の一部覆滅)されることとなる。

この2項の推定の覆滅の有無及び割合を認定するに当たっての考慮事情としては、侵害品全体に対する特許発明の実施部分の価値の割合、営業的要因(市場における代替品の存在、侵害者の営業努力、広告、独自の販売形態、ブランド等)、侵害品自体の特徴(侵害品の性能、デザイン、需要者の購買に結びつく当該特許発明以外の特徴等)等が挙げられることが多い。

本判決は、同様の判断枠組及び判断要素を採用した上、
①対象発明の技術的意義及び
②侵害品の具体的構成に加えて
③侵害品の構成全体について対象発明が実施されていること、
④市場がX・Yの寡占状態で需要者にとってX製品・Y製品以外の代替品の選択肢がほぼ存在しないこと、
⑤X・Yが長年にわたり対象製品について拮抗する市場シェアを有していたこと
などを考慮

いずれも大幅な推定覆滅を認めることは相当でないとして、本訴・反訴共に20%の限度でのみ推定の覆滅を認めた。

●2項侵害に係る損害論の審理においては、しばしば、侵害者から、推定覆滅事情の主張として、対象となる特許発明の価値(技術的意義)が小さいとの主張がなされる。
but
2項は侵害者の利益額を権利者の損害額と推定するもの。

2項による推定を覆滅させるためには、侵害者において、権利者の売上減少による逸失利益の額の数量的ないし金額的な全部又は一部の不存在を基礎付けるに足りる事情、すなわち、侵害者の利益額に結びついた特許権侵害以外の要因(侵害者の資本、営業努力、宣伝広告、製造技術等)を具体的に主張・立証することが必要。

発明の技術的意義や客観的価値の大小が2項の推定覆滅の可否又は割合と直ちに結び付くものではない。
but
侵害者の利益額に結びつく当該発明以外の具体的な要因が認められた場合には、特許発明の技術的意義の大小が推定覆滅割合を判断する上での一事情として考慮されることもあり得る。

●2項については、侵害行為と特許権者等の製品の販売減少との相当因果関係を阻害する事情については、特許発明外侵害品の一部のみに実施される部品特許の場合を除いては、
1項においてはただし書の事情として
2項については推定覆滅の事情として、
いずれも侵害者に立証責任を負わせることが相当であり、
「寄与度減額」という発想からは決別すべきである旨が指摘されている。 

判例時報2336

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2017年6月20日 (火)

スーツケース等の特定の態様のリブからなる表面形状の周知商品等表示性(否定)

大阪地裁H28.5.24      
 
<事案>
スーツケース等を製造販売しているXが、その製造販売に係るスーツケースの表面形状はXの商品等表示として周知であり、これに類似した表面形状を使用したスーツケースのYによる販売はXの商品と混同を生じさせる不正競争防止法2条1項1号の不正競争に該当する行為⇒Yに対し、同法3条に基づき同行為の差止め及びYの販売に係るスーツケースの廃棄を求めるとともに、同法4条に基づいて損害賠償の支払いを求めた事案。
 
<主な争点>
Xの商品に共通する表面形状がXの商品等表示として周知か? 
 
<判断>
●特定の商品形態が他の業者の同種商品と識別しうる特別顕著性を有し、かつ、その商品形態が、長期間継続的かつ独占的に使用され、又は短期間でも強力な宣伝が行われたような場合には、結果として、商品の形態が、商品の出所表示の機能を有するに至り、商品表示としての形態が周知性を獲得する場合がある。

複数の商品からなる商品群であっても、その共通形態においてかかる要件を満たし得るのであれば、商品表示としての形態が周知性を獲得する場合がある。

Xの商品群に共通する、ある商品形態が周知商品等表示となったというためには、その商品群が原告製の商品のうちでも販売実績が多く、また宣伝広告の頻度の多いもの、すなわち、需要者が原告製の商品として認識する機会が多い商品群であるということを明らかにした上で、これらの商品群の商品全体を観察して需要者が認識し得る商品形態の特徴を把握して、商品形態の特徴が特別顕著性を有し、かつ、販売実績や宣伝広告の実態から出所表示機能を獲得して周知となったといえることが主張立証されるべき。 

●その上で、裁判所は、需要者に認識される機会の多いXのスーツケースに共通する形態と一般的なスーツケースの商品形態について検討し、需要者に認識される機会の多いXのスーツケースは、
①②③・・・という点に商品形態の特徴があり、これらの3つの商品形態の特徴が相俟って、他のスーツケースと識別しうる特別顕著性を有するものと認められるのであって、①のみで特別顕著性を有するというXの主張を採用することはできない。
 
<解説>
●商品形態が商品等表示に該当し得るか?
商品の形態が「商品等表示」(不正競争防止法2条1項1号)に該当するためには、実務上、
①商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性)かつ、
②その形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され、又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により(周知性)
需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていることを要する(知財高裁H24.12.26)。
 
●どのような商品群に共通する形態が商品等表示に該当し得るか? 

一般的に、ある商品が広く世に知られたものである場合、その商品のどのような形態を商品等表示と特定して主張するかにより、裁判の帰趨は異なり得る。

裁判では、不正競争を主張する者が商品等表示に該当する形態を特定して主張することが必要であり、その形態を対象として相手方の不正競争行為の成否が審理されることになる(控訴審でなされた商品等表示に該当する形態を変更する原告の主張を時期に後れたものとして却下した事例(知財高裁H17.7.20))。

本判決は、商品群の特定の問題について、不正競争を主張する者において、その商品群が自己の商品のうちでも販売実績が多く、また宣伝広告の頻度の多いもの、すなわち、需要者が原告製の商品として認識する機会が多い商品群であることを明らかにすることが必要であることを述べた。

判例時報2327

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2017年6月10日 (土)

意匠の類否について

知財高裁H28.7.13      
 
<事案> 
発明の名称を「道路橋道路幅員拡張用地覆ユニット及び道路橋道路幅員拡張用地覆ユニット設置方法」とする本件特許及び意匠に係る物品を「道路橋道路幅員拡張用張出し材」(「本件物品」)とする本件意匠権を有するXが、YによるY製品の製造、譲渡等はXの本件特許権及び本件意匠権を侵害すると主張して、Yに対し、Y製品3の譲渡等の差止め及び廃棄等を求めるとともに、損害賠償金1720万6051円等の支払を求めた事案。
 
<判断> 
●登録意匠と対比すべき相手方の意匠とが類似であるか否かの判断:
需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行う(意匠法24条2項)ものとされており、意匠を全体として観察することを要する。
この場合、 意匠に係る物品の性質、用途及び使用態様、並びに公知意匠にはない新規な創作部分の存否を参酌して、取引者・需要者の最も注意を惹きやすい部分を意匠の要部として把握し、登録意匠と相手方意匠とが、意匠の要部において構成態様を共通にしているか否かを重視して、観察を行うべき。

●本件意匠の要部 
本件意匠の構成のうち、要部は、道路橋の利用者から注目される全面側の舗装層によって隠れない部分であるといえ、また、背面側及び底面側のうち、施工後も公衆から見える部分も、ある程度取引者・需要者の注意を惹くといえる。

しかし、基本的構成態様(正面視左右方向に長く、長手方向に中空の直方体(中空筒体)を有し、中空筒体の正面側の面(前面側)の外方に向けて底面側の面(底面側)が前面にわたって延伸して延伸部が形成され、底版部(底面側と延伸部からなる)の下面に、その左右方向の全面にわたって下方に延びる四角板状体(腹板)が形成され、中空筒体の背面部の面(背面側)の下の底面側の下面から、腹板の最低位までを直線状につなぐ三角板状態(リブ)が左右方向に複数形成されている。)自体は、施工後に見えなくなる部分が含まれる以上、要部であるといえない

●本件意匠とY意匠との類否 
本件意匠とY意匠1及び2とは、要部である全面側の舗装による隠れない部分において構成態様に大きな差異があり、背面側の構成態様にも一定の差異がある
取引者・需要者の注意を惹くものの程度が弱い底面側の構成態様が類似していることを加味しても、両意匠を全体として観察した際に、看者に対し異なる美感を起こさせるものと認められる

判例時報2325

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