家事事件

2018年9月 6日 (木)

任意後見より法定後見が優先された事案

福岡高裁H29.3.17      
 
<事案>

本人(X)は夫であるDと2人で暮らしていた。

平成2年からは、長男であるB及びその妻Eと同じ敷地内の棟続きの家に住み、内部ドアで行き来するようになった。

Dは、昭和43年にF株式会社(F社)を設立してその代表者となっていたが、
別途、Xと共有するマンションの賃料等の管理会社として有限会社Gを設立し、その代表者となった。
F社においては、平成20年にBがその代表者に。 
Bの妻Eは、F社やG社の経理を担当し、Xの預金通帳の管理を任さるるなどしていた
but
Xの了解を得ずにその口座から金銭を払い戻してF社への貸付に回したり、G社の口座からX名義の口座又はその他に移すべき金銭を、引き出した後にF社の債務弁済に充てる等の行為
⇒Xと両会社との間で不明朗な金銭貸借関係が生じた。
BもF社の代表者としてEの行動に起因するF社の債務につき、Xに対して同額の債務を負う。

Xは、平成21年に、BとEに対し自宅からの退去を求め、更に自宅の内部ドアに施錠してBらが行き来できないようにした。
Dは平成22年2月に入院。
Xは、平成22年12月28日に長女であるAとの間で、Aを後見受任者とする任意後見契約(「第1契約」)を締結し、その後認知症の症状が進み、平成26年7月からA宅に居住。
Xは同年8月6日にAと口論となって自宅に戻る。
Bは、Xを医師に受診させるようになった。


Aは、同月18日、原裁判所に任意後見監督人選任の申立て。
but
Xは家裁調査官の調査の際に、第1契約の発効について同意しなかった。

Aは同月30日に申立ての趣旨を法定後見開始に変更

同月29日に第1契約が解除されるとともに、XとBとの間でBを任意後見受任者とする任意後見契約が締結
⇒Bは任意後見監督人選任の申立て。 


原裁判所は、法定後見開始申立事件につき、2回にわたる鑑定を実施。
1回目は補佐相当
2回目は後見相当
との鑑定結果。 
 
<規定> 
任意後見法 第10条(後見、保佐及び補助との関係)
任意後見契約が登記されている場合には、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り、後見開始の審判等をすることができる。
 
<原審>
第1契約の解除及び第2契約の締結はいずれも効力を生じている。 
Eの預金払戻しに起因するXとF社との間における金銭関係及びXとF社の代表者であるBとの金銭関係が解決していない
⇒Bは任意後見受任者としての適格性を有しない
⇒法定後見を開始することにつき「本人の利益のために特に必要がある

診察回数及び検査の実施内容に照らすと、
1回目の鑑定結果には疑問があり、2回目の鑑定結果は合理的

Xは事理弁識能力を欠く常況ににあると認定し、Aの申立てを認容し、Bの申立てを却下
   

Bは即時抗告を申し立てて原審結の取消し及びXの任意後見監督人の選任(予備的に本件の差戻し)を求め
抗告理由として、
①任意後見契約が締結された場合にはこれを発行させて法定後見開始の申立てを却下するのが原則であり、本件ではその例外とすべき事情がない
②Xの精神状態については1回目の鑑定結果に従い補佐相当と認定すべきであった
と主張。 
 
<判断>
E又はF社がXに返済すべき債務については完済されたかどうかが不明であり、
Eの一連の行為につきBが認識していなかったとは到底認められず、
Bが代表者であるF社とXとの債権債務関係はBの任意後見人としての適格性に関わる重要な事実


法定後見を開始するにつきXの利益のために特に必要がある
Xの精神状態についても原審判の判断に誤りはない。
 
<解説>
●任意後見法10条1項:
本人による自己決定を尊重すべき

既に任意後見契約が締結され、かつ、これが登記されている場合においては、
本人について法定後見開始の申立てがあったとしても、
家庭裁判所は、法定後見を発動することが「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」でない限り、
当該申立てを却下しなければならない

●立法担当者:
具体例として
①任意後見人に委託された代理権を行うべき事務の範囲が狭すぎる上、本人の精神が任意の授権の困難な状態にあるため、他の法律行為について法定代理兼の付与が必要な場合
②本人について同意権・取消権による保護が必要な場合。

要件を厳格に絞ることで任意後見優先の原則をできる限り維持することを想定。
but
親族間紛争を背景に、自身を任意後見受任者とする任意後見契約を本人に締結させて後にこれを発効させることにより、意図しない者が成年後見人に選任されるのを妨害しようとするケース。

最近の実務は、本人の客観的な保護を重視して、この要件を広めに解釈して法定後見人を優先するが面が多くなっている。


大阪高裁H14.6.5:
「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」について
諸事情に照らし、任意後見契約所定の代理権の範囲が不十分である、
合意された任意後見人の報酬があまりにも高額である、
任意後見契約法4条1項3号ロ、ハ所定の任意後見を妨げる事由がある等、
要するに、
任意後見契約によることが本人保護に欠ける結果となる場合を意味

大阪高裁H24.9.6:
本人名義の預貯金から多額の金銭が引き出されて任意後見受任者の口座に移されている等、任意後見受任者の本人の財産への関与に不適切な点が認められ、「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」に当たるといえる事情が存在するにもかかわらず、原裁判所が任意後見法10条1項の要件を認めずに法定後見開始申立てを却下したのは相当ではない。
⇒原審判を取り消した上、事件を原裁判所に差し戻している。


学説:
「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」とは、
本人の現在のニーズを当該任意後見契約によっては十分に充足することができず、本人の客観的福祉の観点から、法定後見に夜保護を発動することが望ましい事態を指すと考えればよい(新版注釈)。

判例時報2372

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2018年9月 1日 (土)

元夫が元妻に財産分与を求めた事案での不動産の持分の分与

東京高裁H29.6.30      
 
<事案>
元夫である原審申立人が元妻である原審相手方に対し財産分与を求めた事案。 

不動産について、
元夫と元妻がそれぞれ2分の1の持分で共有し、その購入のための借入金の債務が残っていた。
元夫は、本件不動産の元妻共有持分の取得を希望。
 
<原審>
①本件不動産の借入金について、元妻が主債務者、元夫が保証人となっている
②元妻の借入金債務を被担保債権として本件不動産に抵当権が設定されている

元妻が返済を怠った場合、抵当権が実行される可能性があり、
元夫が同債務を返済すると求償関係の問題が生じる

本件不動産の元妻持分を元夫に分与することは相当でない。
 
 
<判断>
財産分与の対象財産のうち元妻名義の普通預金は、元夫と元妻が本件不動産購入のために連帯債務として借り入れた住宅ローン(前記借入金債務)の預金担保となっており、その預金額と住宅ローン債務額がほぼ同じ

財産分与の対象となる資産としては預金、債務とも0円として、
本件不動産には抵当権が付されているが、不動産評価額から被担保債務額を控除しない。
 

元夫と元妻が被担保債権について連帯債務を負い、元妻名義の預金が担保とされている⇒本件不動産に設定されている抵当権が実行される可能性は相当程度に低く、本件不動産の元妻共有持分を元夫に分与することが相当。

判例時報2372

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2018年7月11日 (水)

面会交流審判⇒禁止に変更。

名古屋高裁H29.3.17      
 
<事案>
調停離婚により未成年者の親権者と定められ、未成年者を監護するX(母)が相手方Y(父)に対し、面会交流審判事件に係る前審判で定める面会を、新たな協議が成立する等までの間、禁止することを求めたもの。 
 
<原審>
未成年者のYに対する面会を拒否する感情は強固
but
XもYとの面会に賛成していることなど、Yを未成年者の父親として尊重するなどの態度を示せば、未成年者のYに対する消極的感情を和らげることを期待できる。

前審判の定める面会を認めるのが相当であるととしたが、Xの立会いを認める期間については平成30年までと変更。 
 
<判断>
①未成年者が当初からYを頑なに拒否し続けていることは明らか
②現実の問題として、従前から通算して10回にわたる試行面会を経ても、未成年者のYに対する拒否的態度は一層強固なものとなっており、
遅くとも平成28年12月に一部実施した面会交流において、未成年者とYとの面会交流をこれ以上実施させることの心理的、医学的弊害が明らかとなったものと認められ、それが子の福祉に反することが明白になった

同月以降の直接的面会交流をさせるべきでないことが明らかになったということができる。

Yは、未成年者との面会交流につき、Xとの間でこれを許す新たな協議が成立するか、これを許す審判が確定し又は調停が成立するまでの間、未成年者と面会交流してはならない。

判例時報2367

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2018年7月 3日 (火)

親権者の再婚と非親権者が負うべき生活保持義務の内容

福岡高裁H29.9.20      
 
<事案>
離婚時に子の親権者と定められた実親と再婚した者が子との間で養子縁組をした場合に、非親権者である実親が子に対して負うべき生活保持義務の具体的内容が問題となった事案。 

X(元夫・医師)とY(元妻)は、元夫婦であるが、両者間の子らの親権者をYと定めるとともに、XがYに養育費として子1人当たり月額10万円を支払うことなどを合意した訴訟上の和解合意に基づき協議離婚。
その後Yが再婚、その再婚相手と子らが養子縁組。
Xは、前記養子縁組の事実を知り、前記和解において合意された子らの養育費の免除ないし相当額の減額を求め、調停申立て⇒調停不成立。
 
<原審>
養親らの養子に対する扶養義務は、生活保持義務
親権者とならなかった実親の扶養義務は、養親らが負う生活保持義務に後れる特殊な生活保持義務に過ぎないのであり、その意味では生活扶助義務に近く、

養親らの資力が十分でなく、養親らだけでは養子の健康で文化的な最低限度の生活を維持できなくなったときに、養子は親権者とならなかった実親に対して扶養請求することができる


子らの生活保護制度による最低生活費を算定し、養親らの基礎収入額と比較するなどして、Xの支払うべき養育費を、子らの生活費の不足分である1任当たり月額7734円に変更。
 
<判断>
親権者である実親が再婚し、再婚相手が子らと養子縁組したことは、養育費をみ直すべき事情に該当し、
養親らだけでは子らについて十分に扶養義務を履行することができないときは、非親権者である実親は、その不足分を補う養育費を支払う義務を負う。

その額は、生活保護法による保護の基準が一つの目安となるが、それだけではなく、子の需要、非親権者の意思等諸般の事情を総合的に勘案すべき。

まずは、生活保護制度の保護の基準に照らし、養親らにおいて未成年者に対し十分に扶養の義務を履行することができないか検討。

養親の扶養義務の根拠の1つが養子縁組の当事者の意思にある

養親らだけでは十分に子らへの扶養の義務を履行することができないかを判断するにあたっては、非親権者である実親について合理的に推認される意思をも参酌すべき。

生活保護制度の保護の基準では、学校外活動費は教育扶助の対象となっていないが、相手方の学歴、、職業、収入等に照らし、相手方には、未成年者らに人並みの学校外教育等を施すことができる程度の水準の生活をさせる意思はあるものと推認することができる。

その他、これまでの未成年者らの生活水準との連続性など、諸般の事情を考慮。

相手方の支払うべき養育費は、未成年者1人当たり月額3万円とするのが相当。
Yの育児休業期間中は子1人当たり4万円とするのが相当。
 
<解説> 
●離婚時に子の親権者と定められた実親と再婚した者が、子との間で養子縁組

養子は、
①養親の嫡出子としての身分を取得するとともに
②非親権者である実親と養子との法律関係(実親子関係)も存続。

親権者の再婚相手は子の養親としての扶養義務を負い、
非親権者は、実親としての扶養義務を負う。 

親権者である一方の実親が再婚し、その再婚相手と子が養子縁組をそたことは、扶養に関する協議又は審判の変更又は取消をする要件である「事情に変更を生じたとき」(民法880条)に該当。

養親と実親の扶養の程度は異なる。
養子縁組における合意ないし当事者の意思(子の養育についての扶養を含めて全面的に引き受けるという合意ないし意思)、又は、
未成年者養子制度の本質等


第一次的な扶養義務を負うのは養親であり、
養親らの資力の点から養親において十分に扶養の義務を履行できない場合に限って、実親が二次的な扶養義務を負う

 
●何をもって、養親らにおいて十分に扶養の義務を履行できないとするか? 

A(原審):養親らの資力が十分ではなく、養親らだけでは養子の健康で文化的な最低限度の生活を維持できなくなったときであって、子の最低生活費にも不足する場合

B:特段の事情がない限り、養育費支払義務を免れる

C:個別具体的に判断

本決定は、Cの見解を採用し、
生活保護義務を基本としてながらも、相手方の学歴、職業、収入、これまでの未成年者らの生活水準との連続性など、
諸般の事情を考慮して、実親の負う養育費の支払額を定めたもの。

判例時報2366

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2018年6月22日 (金)

面会交流の事案

東京高裁H29.11.24      
 
<事案>
XとYは平成21年に婚姻の届出をし、
同22年に長男Aを、同25年に二男Bをもうけた。
Yは、同26年12月に未成年者らと共にXの住所から出てYの住所に別居をした。
Xは会社を経営し、Yは薬剤師として稼働。
 
<原審>
非監護親と子との面会交流を実施することは、一般的には、子の福祉の観点から有用であり、子が精神的な健康を保ち、心理的・社会的な適応をするために重要な意義がある。
もっとも、面会交流を実施することがかえって子の福祉を害するという特段の事情があるときは、面会交流は禁止・制限されなければならない」
として、いわゆる原則実施論に立脚。 
 
<判断>
●父母が別居し、一方の親が子を監護するようになった場合においても、子にとっては他方の親(「非監護親」)も親であることに変わりはなく、別居等に伴う非監護親との離別が否定的な感情体験となることからすると、子が非監護親との交流を継続することは、非監護親からの愛情を感ずる機会となり、精神的な健康を保ち、心理的・社会的な適応の維持・改善を図り、もってその健全な成長に資するものとして意義があるということができる

他方、面会交流は、子の福祉の観点から考えるべきものであり、父母が別居に至った経緯、子と非監護親との関係等の諸般の事情から見て、子と非監護親との面会交流を実施sることが子の福祉に反する場合がある。

面会交流を実施することがかえって子の福祉を害することがないよう、事案における諸般の事情に応じて面会交流を否定したり、その実施要領の策定に必要な配慮をしたりするのが相当である。

◎Xによる未成年者に対する暴行行為、虐待行為があったとは認められず、
他方長男も試行的面会交流を重ねるに従いXとの親和度を増していて、未成年者らはXに一定程度の親和性を有していることが認められる。
⇒未成年者らとXとの直接的面会交流を禁止すべきとはいえない。

◎Xには、Y及び未成年者らとの同居中から、同人らの心身の状態、立場、心情等に対する理解・配慮を欠く点があり、
その行動・態度は自己中心的で、
自制心をもって面会交流のルールを行うことが順守できるか懸念がないとはいえない。

YはXの言動によって精神的負荷を受け、Xに対し信頼感を持てなくなっており、Yが安心して未成年者らを面会交流に送り出すことができる環境を整えることが必要

①直接面会交流を認めるのが相当。
②未成年者らは平成26年12月の別居後、これまで3回の試行的面会交流をしたのみ⇒短時間の面会交流から始めて段階的に実施時間を増やす。
頻度は、1か月に1回、面会時間は半年間1時間、半年後から2時間。
1年6カ月(18回分)の間は第三者の支援(面会立会い)を認めるのが相当。
 
<解説>
裁判官の中にも、
「面会交流実施論とそれに対する批判がありますが、
原則として面会交流お実施すべきであるとか、原則として実施すべきでないというような、原則はどちらかという問題ではなく、
あくまでも子の利益になるかという観点から、個別の判断をすべきである。
とするもの。 

従来の家裁の実務:
面会交流の許否等につきいわゆる比較基準論に従って双方の諸事情を丁寧に審理判断。

平成20年前後頃からいわゆる原則実施論が台頭

その見直し

判例時報2365

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2018年6月20日 (水)

親権に基づく妨害排除請求として子の引渡しを求めたのが権利の濫用とされた事例

最高裁H29.12.5      
 
<事案>
離婚した父母のうちその長男の親権者と定められた父Xが、法律上監護権を有しない母Yを債務者とし、親権に基づく妨害排除請求権を被保全権利として、長男Aの引渡しを求める仮処分命令の申立てをした。 
 
<原審>
本件申立ての本案は、家事事件である子の監護に関する処分の審判事件であり、民事訴訟の手続によることができない⇒本案申立ては不適法。 
   
Xが抗告許可申立て⇒原審がこれを許可。
 
<判断>
離婚後の父母のうち親権者と定められた一方が、民事訴訟の手続により、法律上監護権を有しない他方に対し、親権に基づく妨害排除請求として子の引渡しを求めることができる
but
判示の事情
①子が7歳であり、母は、父と別居してから4年以上、単独で子の監護に当たってきたものであって、母による前記監護が子の利益の観点から相当なものではないことの疎明がない
②母は、父を相手方として子の親権者の変更を求める調停を申し立てている
③父が、子の監護に関する処分としてではなく、親権に基づく妨害排除請求として子の引渡しを求める合理的な理由を有することはうかがわれない

XがYに対し親権に基づく妨害排除請求としてAの引渡しを求めることは権利の濫用に当たる
 
<解説>
●親権者が民事訴訟の手続により法律上監護権を有しない監護者に対し親権に基づく妨害排除請求として子の引渡しを求めることができる(最高裁昭和35.3.15)。
前記監護者が離婚後の父母のうち一方であっても同様(最高裁昭和45.5.22)。 

A:離婚後の父母間いおいては、親権者は民事訴訟の手続により親権に基づく妨害排除請求として子の引渡しを求めないとする見解

離婚後の父母であれば、親権者が、非親権者を相手方とし、監護者指定とは独立した子の監護に関する処分として子の引渡しを求める申立てをすることができ、民事訴訟の手続による子の引渡請求を認める必要がない。
vs.
①民事訴訟の手続により子の引渡請求をすることができるか否かと、子の監護に関する処分として子の引渡しを求める申立てをすることができるか否かとは、既存の権利の発見と権利・義務の形成というように、次元が異なるもので、
同じ当事者間において同様の結果を得られる形成裁判を求めることができることを理由として、当該当事者間で給付訴訟をすることができないことにはならない。
②親権については、平成23年法律第61号による民法改正において、820条に「子の利益のために」との文言が入り、834条の2に親権停止の規定が新設されたものの、823条の懲戒権が削除されなかったなど権利性が維持

現時点において、前掲最高裁判例を変更し、離婚後の父母間における親権に基づく妨害排除請求権を否定するのは、時期尚早。

親権は子の利益のために行使されなければならず(民法820条)親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは、家庭裁判所は申立てにより当該親権者について親権停止の審判をすることができる(民法834条の2)

子の利益を害する不適当な親権の行使が権利の濫用に当たることは明らか。 

●離婚後の父母のうち親権者と定められた一方は、法律上監護権を有しない他方を相手方として、独立の子の監護に関する処分として子の引渡しを求めることもできると解される。
子の監護に関する処分としてAの引渡しを求める申立てであれば、家事手続法に基づき審理することになる。

子の意思を把握し審判をするに当たりこれを考慮しなければならない旨を定める同法65条が適用されるなど子の福祉に対する配慮が図られ、Aの引渡しが繰り返されることを回避しやすい。

家事事件手続法 第65条
家庭裁判所は、親子、親権又は未成年後見に関する家事審判その他未成年者である子(未成年被後見人を含む。以下この条において同じ。)がその結果により影響を受ける家事審判の手続においては、子の陳述の聴取、家庭裁判所調査官による調査その他の適切な方法により、子の意思を把握するように努め、審判をするに当たり、子の年齢及び発達の程度に応じて、その意思を考慮しなければならない。
but
Xはあえて前記申立てをせず、民事訴訟の手続により親権に基づく妨害排除請求としてAの引渡しを求めている。
そして、そのことについて合理的な理由を有することがうかがわれない。
(親権者変更の蓋然性がほとんどないとか、明らかに子の奪取方法が違法であるなど子の福祉に対する配慮を特段しなくても適切な結論を得られる場合には、合理的な理由があるといってよいと考えられる。)

判例時報2365

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2018年5月28日 (月)

養育費の事情変更について

東京高裁H29.11.9      
 
<事案>
XとYは、平成20年に確定した判決により、 子A及び子Bの親権者をXとし、YがXに対して支払うべき養育費につき成人に達する日の属する月まで1人当たり月額5万円とする等と定められて離婚。

平成22年9月に、養育費を各4万円とする減額調停を、
平成24年に強制執行において養育費以外の取立てが終了次第再度協議するとの調停を
各成立。

Xは、平成26年9月、養育費の各増額及び子AにつきC大学の系列の高校に通い、C大学に進学することが確定
⇒養育費の支払終期を22歳に達した後の最初の3月まで延長することを求めて調停申立て⇒平成27年10月に月額5万5000円と増額するものの、支払終期の延長は認めないとの審判。

前記審判の半年後に子AがC大学に進学⇒Yに対し、収入に応じた学納金の分担と養育費の支払終期の延長を求めた。

 
<原審>
Yは子Aが大学に進学することを承諾していたとは認められない
⇒いずれも却下。 
 
<判断>
子Aにつき成年に達した後も学納金及び生活費等を必要とする状態にあるという事情の変更が生じた

Yが子Aの私立大学進学を了解していなかった等として学納金の分担は認めなかった
but
養育費の支払終期を成年に達する日の属する月までから22歳に達した後の最初の3月まで延長。
 
<規定>
民法 第880条(扶養に関する協議又は審判の変更又は取消し)
扶養をすべき者若しくは扶養を受けるべき者の順序又は扶養の程度若しくは方法について協議又は審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その協議又は審判の変更又は取消しをすることができる。
 
<解説>
●事情変更の有無 
養育費支払期間の終期は、法的安定性の見地から、これを定めた協議又は審判を尊重すべき。
but
身分関係に基づく継続的な給付についての定め
時の経過により、その内容が具体的妥当性を欠くに至る場合があり、協議又は審判後に事情の変更を生じたときは、家庭裁判所は、その変更等をすることができる。(民法880条)

事情変更の有無:
従前の審判等の際に考慮され、あるいは基礎とされていた事情が、その後変更となった結果、審判等の内容が実情に適さなくなったこと。

予見し得た事情がその後現実化したにすぎない場合は、原則として事情の変更があったとみることはできない。
but
単なる予測では足りず、義務者の妻の出産予定等は、具体的な事情が確定してから対処すべきであるという事例もある。

本件の前件審判が、子Aが通学する孝行の系列の大学に進学する見込みであるというだけでは、養育費支払期間の終期を成年に達する日の属する月から22歳に達した後の最初の3月まで延長することはできないとしたのも、具体的な事実が確定してから対処すべき趣旨と解される。
(前件審判において、Xが子Aの大学進学が確定していると主張したのは、主観的なものと解される。)

審判時に予想はされるが、未だ発生していないため、審判の前提にしない事情の例
ex.大学進学、定年退職等による失職、扶養家族の増減等

 
●審判等の変更について 
本決定:
子Aが、成年に達した後も、学納金及び生活費等を要する状態にあるという事情の変更があったとしても、Yが当然に学納金等を負担しなければならないわけではない。

考慮要素:
①大学進学了解の有無
②支払義務者の地位
③学歴、収入等

①Yが私立大学進学を了解していなかった
②前件審判では、通常の養育費として、公立高校の学校教育費を考慮した標準算定方式による試算結果を1か月当たり5000円超えた額の支払を命じている

Yに対し、通常の養育費に加えて、子Aが通学する私立大学への学納金の支払義務を負わせるのは相当でない

支払期間の終期の延長は、別異に考慮すべき。
①Yが、未成熟子に対して自己と同一水準を確保する義務を負い、
②子Aが成年後も大学生であって、現に大学卒業まで自ら生活をするだけの収入を得ることはできず、未成年者と同視できる未成熟子
③Yがおよそ大学進学に反対していたとは認められない
④大学卒の学歴や高校教師としての地位を有し、年収900万円以上である
⑤Yには他に養育すべき子が3人いるがそのうち2人は今だ14歳未満である

子Aが大学に通学するのに通常必要とする期間、通常の養育費を負担する義務がある。

判例時報2364

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2018年5月 6日 (日)

咽喉部に装着された人工呼吸器のため発話が聞き取れない⇒聞き慣れた者を通訳人として作成された公正証書遺言の効力が争われた事例

東京地裁H27.12.25      
 
<事案>
①平成24年8月10日付け遺言公正証書による遺言(「前遺言」)
遺言者亡Aの一部の株式以外の全財産遺言者の長男、長女及び二女であるX、Y2及びY3に各3分の1の割合で相続させる。
②同年12月11日付け遺言公正証書による遺言(「本件遺言」)
前遺言の前記条項を撤回し、
遺言者亡Aのの一部の株式以外の全財産を、Y2及びY3に各2分の1の割合で相続させるものとされた。

Xが、
①前遺言及び本件遺言において遺言執行者として指定されたY1並びにY2及びY3に対し、通訳人の通訳により遺言内容の申述のされた本件遺言が遺言能力の欠如及び方式違反により無効であることの確認を求めるとともに、
②Y2およびY3に対し、
本件遺言に基づいてY2及びY3がそれぞれ払い戻した亡Aの預貯金につき、不当利得返還請求として、前遺言によるXの指定相続分3分の1に相当する金員及びこれに対する相続開始の日の翌日から支払済みまで民法所定の法定利率により遅延損害金の支払を求めた。
 
<争点>
本件遺言(公正証書遺言)の無効事由の有無であり、
①遺言者の遺言能力(亡Aの意思能力)の欠如の有無
②通訳の申述に係る民法969条の2第1項違反の有無
③通訳人の資格に係る民法974条2号違反の有無(推定相続人(Y2)の交際相手意を通訳人とすることは同号及び969条の2第1項に違反するか)
 
<規定>
民法 第969条の2(公正証書遺言の方式の特則)
口がきけない者が公正証書によって遺言をする場合には、遺言者は、公証人及び証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述し、又は自書して、前条第二号の口授に代えなければならない。この場合における同条第三号の規定の適用については、同号中「口述」とあるのは、「通訳人の通訳による申述又は自書」とする。

民法 第974条(証人及び立会人の欠格事由)
次に掲げる者は、遺言の証人又は立会人となることができない。
一 未成年者
二 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
三 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人
 
<判断>
●争点①(遺言者の遺言能力の欠如の有無) 
・・・・
本件遺言はは、亡Aの心身の状態が安定していて一定の事柄につき自らの考えや意思を示し得る判断能力を有していることが言動や態度等から看取される状態にある時それを示し得る事柄について行われたものと認めるのが相当。
⇒本件遺言は遺言者の遺言能力を欠くものとはいえない

本判決の判断:
公正証書遺言の当時における遺言者の遺言能力(意思能力)の欠如の有無が争われた事案において、
遺言者が代表者を務める会社の経営の承継等をめぐる親族間の紛争の経緯を詳細に認定した上で、
当該紛争の推移と遺言者の病状の推移を時系列的に対比させながら
遺言者の意向や状態を子細に検討
 
●争点②(通訳の申述に係る民法969条の2第1項違反の有無)
公正証書遺言の方式の特則として新設された民法969条の2の立法趣旨
遺言者の口述(口授)を公証人が聴取して筆記するという同法969条所定の手続が遺言者の言語機能障害や聴覚障害等のために困難である場合でも、
遺言内容の正確性の確認が担保される方法である通訳人の通訳による申述又は自署をもって口述(口授)に代えることにより、様々な利点のある公証人の関与の下での公正証書遺言の利用を可能にすること

同法969条の2第1項にいう「口がきけない」場合には、言語機能障害のために発話不能である場合のみならず、聴覚障害や老齢等のために発話が不明瞭で、発話の相手方にとって聴取が困難な場合も含まれると解するのが相当。

本件のように、老齢で肺疾患や呼吸不全に係る医療措置として咽喉部に人工呼吸器が装着されたことにより、声がかすれて小さくなるために発話が不明瞭で、発話の相手方にとって聴取が困難な場合も、これに含まれる。

①上記のような民法969条の2の立法趣旨及び②同条1項にいう「口がきけない」場合の意義等
同項にいう「通訳人の通訳」は、遺言内容の正確性の確認が担保される方法である限り、手話通訳のほか、読話(口話)、蝕読、指点字等の多様な意思伝達方法が含まれるものと解され、同項の法文上も通訳の方法や通訳人の資格に何ら限定は付されていない。

本件のように、発話者が老齢で肺疾患や呼吸不全に係る医療措置として咽喉部に人工呼吸器が装着されたことにより、声がかすれて小さくなるために発話が不明瞭で、発話の相手方にとって聴取が困難であり、自ら聞きとったと思う内容の正確性に疑義がありその確認に慎重を期する必要がある場合に、
頻繁に発話者を見舞って会話をしていた経験から、聞き慣れた同人の声質や話し方等を判別することにより発話の内容を理解することができる者が、その判別により理解した内容を公証人に伝え、公証人が自ら聞き取ったと思う内容と符合するかを確認するという方法も、同項にいう「通訳人の通訳」の範疇に含まれる。

同法969条の2第1項の通訳人について証人や立会人に係る同法974条各号のような欠格事由の規定が設けられていないのは、通訳人の能力として求められる意思伝達方法の特質や多様性等(証人や立会人との差異)を考慮したことによるものと解され、
「口がきけない」場合の範囲を殊更に狭義に限定して解釈しないからといって、証人や立会人に係る欠格事由の規定の趣旨に抵触するものとはいえない
 
●争点③(通訳人の資格に係る民法974条2号違反の有無(推定相続人(Y2)の交際相手意を通訳人とすることは同号及び969条の2第1項に違反するか))
同法969条の2第1項の通訳人について、証人及び立会人に関する同法974条各号の規定が類推適用されるものではなく、通訳人の通訳による公正証書遺言が無効であるか否かは、公証人による当該通訳を介しての遺言内容の正確性の確認に欠けるところがあるため公証人の筆記の内容が遺言者の真意に基づかないものといえるか否かという個別の判断によるべきである。
①P5は、推定相続人であるY2の交際相手であり、本件遺言の当時にY2との間で婚姻関係と同視し得るような関係(Xの主張に係る婚約関係ないし事実婚状態)にあったことを認めるに足りる的確な証拠はない⇒推定相続人の配偶者と同視し得る地位にあるとはいえない⇒推定相続人との間に証人及び立会人の欠格事由に相当する親族関係があるとはいえない⇒同法974条2号の類推適用をいう原告の主張は前提を欠く。
②P5は、本件遺言の当時、推定相続人であるY2ら以外に亡Aの通訳に適する意思伝達方法の能力を備えた唯一の者であったものと認められ、本件遺言の公正証書の作成の際、その能力に適した意思伝達方法でその通訳を行い、公証人も、その通訳内容につき自ら聞き取ったと思う内容との符号を検証して適切に確認を行ったものといえる⇒本件遺言において公証人がP5に通訳人として通訳させたことにつき、遺言内容の正確性の確認に欠けるところがあったとは認められない。

通訳人の資格に係る方式につき、同法974条2号及び969条の2第1項に違反するものとはいえない。

判例時報2361

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2018年4月23日 (月)

一方が購入した宝くじの当選を原資とする財産の財産分与

東京高裁H29.3.2      
 
<事案>
妻(原審申立人)が夫(原審相手方)に対し財産分与を求めた事案。 

原審相手方は、婚姻中に宝くじの当選により約2億円を取得し、これを原資とする預貯金や保険を有していた⇒財産分与の対象財産、分与割合が争われた。

離婚時の原審申立人名義の資産の評価額は100万円
原審相手方名義の資産の評価額は約9000万円。
原審相手方名義の資産のうち、預貯金と保険関係として約7200万円あり、その原資は当選金。
原審相手方名義の不動産評価は約700万円。
 
<原審>
当選した宝くじを購入した当事者には、当選金について一定の優位性ないし優越性が認められる
原審相手方名義である金融資産である預貯金と保険関係は、その7割相当が原審相手方の固有財産であり、残り3割相当額が夫婦共有財産
 
預貯金と保険関係の3割が夫婦共有財産で、その分与割合が2分の1
⇒原審申立人は約15%を取得。 
 
<判断>
分与財産について、
宝くじの購入代金は、原審申立人と原審相手方の婚姻後に得られた収入の一部である小遣いから拠出された
②当選金の使途も、家族が自宅として使用していた土地建物の住宅ローン約2000万円の返済に充て、原審相手方の退職後には生活費に充てられた
当選金後原資とする資産は夫婦の共有財産。 

分与割合について、
当選金の購入資金は夫婦の協力によって得られた収入の一部から拠出
but
原審相手方が自分で、その小遣いの一部を充てて宝くじの購入を続け、これによって偶々とはいえ当選して、当選金を取得し、これを原資として対象財産が形成された

対象財産の資産形成に対する寄与は原審申立人より原審相手方が大きかったといえ、分与割合を、原審申立人4、原審相手方6とするのが相当
 
<規定>
民法 第768条(財産分与)
協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から二年を経過したときは、この限りでない。
3 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。
 
<解説>
●清算的財産分与の対象財産の範囲 
婚姻中に取得した財産は第三者から相続・贈与などにより無償取得した財産を除き、夫婦の協力により取得した夫婦共同財産として清算の対象となる。
偶然の利益取得(宝くじの当選金、競馬の賞金など)であっても、共同財産となる。
 
●清算的財産分与の清算割合 
実務上、衡平の原則に基づき、貢献度に応じた寄与割合を評価して算定。
共有財産は、原則として、夫婦が協力して形成⇒特段の事情がない限り、相互に2分の1の権利を有する(2分の1ルール)

各財産の取得について自己資金ンを一部支出したことや、投資の専門知識を有する当事者が、その才覚によって金融資産の取得・維持のための行動をとったこと等の事実が資料の裏付けをもって客観的に明確にされる
2分の1ルールを修正することもあり得るが、
修正すべき特段の事情たり得る事実が窺われることは多くはない。

 
●夫が競馬の利益によって購入したマンションの売却代金の3分の1を妻に分与した事例(奈良家裁H13.7.24)
万馬券というのは射幸性の高い財産であり必ずしも夫の才覚だけで取得されたものではない⇒前記マンションを夫の特有財産ということはできない。
but
夫の運によるところが大きい臨時収入であり、夫の寄与が大きい。
妻の生活扶助的要素も考慮。
⇒売却代金の3分の1を妻に分与。 
 
判例時報2360

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2017年8月20日 (日)

親権停止審判申立事件を本案事件とする審判前の保全処分申立事件で、本案審判認容の蓋然性及び保全の必要性を認め、未成年者に対する職務の執行を停止した事例

親権停止審判申立事件を本案事件とする審判前の保全処分申立事件
 
<事案>
児童相談所長は、未成年者を一時保護し、親権者らについて親権停止の審判を求めるとともに、同審判が効力を生じるまでの間、親権者らの未成年者らに対する職務の停止を求める審判前の保全処分を申し立てた。 
 
<判断>
未成年者の病状は今後予定される手術の内容等
⇒未成年者の親権者としては、未成年者を頻繁に見舞うとともに、医療従事者と十分に意思疎通を図り、緊急の事態が生じた場合も含めて、未成年者が必要としている医療行為が実施されるよう、迅速かつ適切に対応する必要がある。 

親権者らのこれまでの対応や現在の生活状況等
親権者らが迅速かつ適切に対応できるかどうか疑問がある。

本案審判認容の蓋然性及び保全の必要性があると判断し、申立人の申立てを認容
 
<規定>
民法 第834条の2(親権停止の審判)
父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、親権停止の審判をすることができる
2 家庭裁判所は、親権停止の審判をするときは、その原因が消滅するまでに要すると見込まれる期間、子の心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して、二年を超えない範囲内で、親権を停止する期間を定める。

家事事件手続法 第174条(親権喪失、親権停止又は管理権喪失の審判事件を本案とする保全処分)
家庭裁判所(第百五条第二項の場合にあっては、高等裁判所。以下この条及び次条において同じ。)は、親権喪失、親権停止又は管理権喪失の申立てがあった場合において、子の利益のため必要があると認めるときは、当該申立てをした者の申立てにより、親権喪失、親権停止又は管理権喪失の申立てについての審判が効力を生ずるまでの間、親権者の職務の執行を停止し、又はその職務代行者を選任することができる。

2 前項の規定による親権者の職務の執行を停止する審判は、職務の執行を停止される親権者、子に対し親権を行う者又は同項の規定により選任した職務代行者に告知することによって、その効力を生ずる
 
<解説>
●未成年者が病気・事故等のために手術や治療を必要としている場合、医療機関がその未成年者に対し医療行為を行うには、通常、親権者の同意が必要。
but
親権者が正当な理由もなく未成年者に対する医療行為についての同意を拒否して放置することにより、未成年者の生命・身体が危険にさらされている場合がある(=医療ネグレクト)。 

親権停止(民法834条の2)は、平成23年の民法改正によって設けられた制度であり、親権を喪失させるまでには至らない比較的程度の軽い事案や、一定期間の親権制限で足りる事案において、必要に応じて適切に親権を制限することができるようにするために設けられていたもの。

家庭裁判所は、親権喪失・親権停止等の申立てがあった場合において、親権者による虐待の程度が重大で子の心身に危険が生じている場合など、「子の利益のため必要がある」と認められる場合には、本案事件の申立人の申立てにより、本案審判が効力を生ずるまでの間、親権者の職務の執行を停止し、又はその職務代行者を選任することができる(家事事件手続法174条)。

● 本件では、保全処分の内容として、親権者の職務執行停止のみが申し立てられており、職務代行者選任は申し立てられていない。

未成年者につき一時保護が行われているため、親権者の職務の執行を停止しさえすれば、児童相談所長において親権の行使が可能とされている(児童福祉法33条の2)。
but
職務代行者を選任しない場合、職務代行者に告知をすれば親権者への告知を待たずに審判の効力が生ずるとする家事事件手続法174条2項を適用することができない(同法74条2項及び109条2項により、親権者に告知されたときに効力を生じる)。

● 医療ネグレクト事案における本案審判認容の蓋然性及び保全の必要性についての考慮要素
①未成年者の疾患及び現在の病状
②予定される医療行為及びその効果と危険性
③予定される医療行為を行わなかった場合の危険性
④緊急性の程度
⑤親権者が未成年者に対する医療行為を拒否する理由及びその合理性の有無等

本件についても、前記の考慮要素等を総合考慮の上、未成年者の病状が深刻であって、直ちに治療及び手術を受ける必要性があり、これを受けなった場合には未成年者の生命に危険が生じかねない事態であることを重視し、親権者らがこのような緊急事態に迅速かる適切に対応できるかどうか疑問であるとして、本案審判認容の蓋然性及び保全の必要性を認めた

判例時報2333

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