家事事件

2018年10月20日 (土)

ハーグ条約実施法に基づく返還を命じる終局決定に応じない⇒人身保護請求の事案

最高裁H30.3.15      
 
<事案>
米国に居住するX(上告人、父親、日本人)が、Xの妻であるY(被上告人、母親、日本人)によりA(米国で出生した子、13歳、米国籍と日本国籍との重国籍)が米国から日本へ連れ去られ、法律上正当な手続によらないで身体の事由を拘束されていると主張
⇒人身保護法に基づき、Aの釈放を求める。

これに先立ち、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(いわゆるハーグ条約実施法)に基づいてYに対して米国にAを返還することを命ずる旨の終局決定が確定したが、その執行手段が奏功しなかった
⇒本件人身保護請求がなされた。
 
<規定>
人身保護法 第二条
法律上正当な手続によらないで、身体の自由を拘束されている者は、この法律の定めるところにより、その救済を請求することができる。

人身保護規則 第3条【拘束及び拘束者の意義】
法及びこの規則において、拘束とは、逮捕、抑留、拘禁等身体の自由を奪い、又は制限する行為をいい、拘束者とは、拘束が官公署、病院等の施設において行われている場合には、その施設の管理者をいい、その他の場合には、現実に拘束を行つている者をいう。

人身保護規則 第4条【請求の要件】
法第2条の請求は、拘束又は拘束に関する裁判若しくは処分がその権限なしにされ又は法令の定める方式若しくは手続に著しく違反していることが顕著である場合に限り、これをすることができる。但し、他に救済の目的を達するのに適当な方法があるときは、その方法によつて相当の期間内に救済の目的が達せられないことが明白でなければ、これをすることができない。

人身保護規則 第5条
法第2条の請求は、被拘束者の自由に表示した意思に反してこれをすることができない
 
<判断>
拘束者(母親)により国境を越えて日本への連れ去りをされた被拘束者(子)が、現在、13歳で意思能力を有し、拘束者の下にとどまる意思を表明しているとしても、次の(ア)(イ)など判示の事情の下においては、
被拘束者が拘束者の下にとどまるか否かについての意思決定をするために必要とされる多面性、客観的な情報を十分に得ることが困難な状況に置かれているとともに、
当該意思決定に際し、拘束者が被拘束者に対して不当な心理的影響を及ぼしている
といえる

被拘束者が自由意思に基づいて拘束者の下にとどまっているとはいえない特段の事情があり、拘束者の被拘束者に対する監護は、人身保護法及び同規則にいう拘束に当たる
(ア)
被拘束者は、出生してから来日するまで米国で過ごしており、日本に生活の基盤を有していなかったところ、
前記連れ去りによって11歳3か月の時に来日し、その後、米国に居住する請求者(父親)との間で意思疎通を行う機会を十分に有していたこともうかがわれず
来日以来、拘束者に大きく依存して生活せざるを得ない状況にある。
(イ)
拘束者は、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律に基づき、拘束者に対して米国に被拘束者を返還することを命ずる旨の終局決定が確定したにもかかわらず、被拘束者を米国に返還しない態度を示し、子の返還の代替執行に際しても、被拘束者の面前で激しく抵抗するなどしている。

国境を越えて日本への連れ去りをされた子の釈放を求める人身保護請求において、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律に基づき、拘束者に対して当該子を常居所地国に返還することを命ずる旨の終局決定が確定したにもかかわらず、拘束者がこれに従わないまま当該子を監護することにより拘束している場合には、
その監護を解くことが著しく不当であると認められるような特段の事情のない限り、拘束者により当該子に対する拘束に顕著な違法性がある
 
<解説> 
●人身保護法上の拘束の有無
最高裁昭和61.7.18:
意思能力がある子の監護について、当該子が自由意思に基づいて監護者の下にとどまっているとはいえない特段の事情のあるときは、前記監護者の当該子に対する監護は「拘束」(人身保護法2条1項、同規則3条)に当たる

前記の特段の事情の有無については、被拘束者の置かれた環境、被拘束者と拘束者との関係その他の事情に応じて、特に慎重に検討すべき場合があると考えられる。

最高裁昭和61.7.18最高裁H2.12.6は、いずれも、
当該子が拘束者の基にとどまるべきか否かの意思決定をするに当たり、その置かれた具体的状況や当該意思決定の重大性などに鑑みて必要な情報を十分に取得している状況にないと評価すべき場合
拘束者が当該子に対して不当な心理的影響を及ぼしていると評価すべき場合など

基本的に、当該子がその自由意思について監護者の下にとどまっているとはいえない特段の事情が存在するという理解を前提として、当該各事案の具体的内容に応じてその点を慎重に判断した事例。

本判決:
子を監護する父母の一方により国境を越えて日本への連れ去りをされた子が、
当該連れ去りをした親の下にとどまるか否かについての意思決定をする場合において、
当該意思決定には、このような国際的な事案に特有の重大性、困難性があるとともに、
当該子が連れ去りをした親から影響を受ける度合いが類型的に大きい


子が当該意思決定をするために必要な情報を偏りなく得るのが困難な状況に置かれることが少なくない

①当該子による意思決定がその自由意思に基づくものか否かを判断するに当たり、基本的に、当該子が前記の意思決定の重大性や困難性に鑑みて必要とされる多面性、客観的な情報を十分に取得している状況にあるか否か
連れ去りをした親が当該子に対して不当な心理的影響を及ぼしていないかなどといった点
を慎重に検討すべき旨を判示。

その上で、上記(ア)(イ)などの事情を、
AがYの下にとどまるか否かについての意思決定をするために必要とされる多面的、客観的な情報を十分に得ることが困難な状況にあり、
YがAに対して不当な心理的影響を及ぼしていると認めるための重要な要素として斟酌し、前記の特段の事情を肯定。
 
●人身保護法上の顕著な違法性 
人身保護法に基づいて子の引渡し等を求める事件のうち

(1)夫婦間における共同親権に服する幼児に係る人身保護請求について、

最高裁H5.10.19は、
幼児に対する拘束者の監護につき拘束の違法性が顕著であるというためには、同監護が、請求者の監護に比べて、子の幸福に反することが明白であることを要するという判断基準。

最高裁H6.4.26は、この明白性の要件を充足する場合として、
①拘束者の親権の行使が幼児引渡しを命ずる仮処分又は審判(家事手続法157条1項3号、154条3項)により実質上制限されているのに、拘束者がこれに従わない場合
拘束者の幼児に対する処遇が親権の行使という観点からも容認できないような例外的な場合であるとし、その判断基準を示した。

(2)監護権者から非監護権者に対して人身保護法に基づく幼児の引渡しを請求した場合(離婚した夫婦間で親権者として指定された者から他方に対する請求等)について、

最高裁H6.11.8:
幼児を請求者の監護の下に置くことが拘束者の監護の下に置くことに比べて子の幸福の観点から著しく不当なものでない限り、
拘束の違法性が顕著であるとする判断基準。

(3)離婚調停において調停員会の面前でその勧めによってされた合意により、夫婦の一方が他方に対してその共同親権に服する幼児を、期間を限って預けたが、他方の配偶者が、前記合意に反して約束の期日後も幼児を拘束し、前記幼児の住民票を無断で自己の住所に移転

前記拘束に顕著な違法性がある(最高裁H6.7.8)

(4)離婚等の調停の進行過程における夫婦間の合意に基づく幼児との面接の機会に夫婦の一方が前記幼児を連れ去ってした拘束に顕著な違法性があるとして、夫婦の他方からした人身保護法に基づく幼児の引渡請求を認めた最高裁H11.4.26

本判決:
違法性判断に際して、監護者の所在や子の幸福という観点を明示的に採っていない

監護権の所在や内容を一次的な考慮要素とはせず、
拘束者が、確定判決により形成された子の返還義務を履行しないという明白な違法行為に及んでいる状態で子を監護していること自体に着目して、
特段の事情のない限り顕著な違法性があると評価

 
●本判決:
国境を越えて日本への連れ去りをされた子である被拘束者の釈放を求める人身保護請求において、意思能力のある被拘束者が自由意思に基づいて拘束者の下にとどまっているとはいえない特段の事情の存在が認められる限界事例の1つ示すとともに、
拘束者の実施法に基づく子の返還を命ずる終局決定に従わないまま子を監護・拘束している場合における当該拘束の顕著な違法性の判断基準を初めて示したもの。

判例時報2377

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2018年10月 3日 (水)

財産分離(民法941条)の請求と財産分離の必要性

大阪高裁H29.4.20      
 
<事案>
大阪家裁は、平成28年、Dについて後見開始の審判をし、弁護士であるBを成年後見人に選任。
Aは、Dの財産を生前から事実上管理していたが、Bが成年後見人の職務としてのDの財産の開示、引渡しを求めてもこれに応じなかった。
Dは同年に死亡し、法定相続人は、Dの子であるAとCの2名。
Bは、後見事務を処理するのに立て替えた費用等についてDに対して債権を有している。
Bは、大阪家裁において、第一種財産分離の申立てをした
 
<規定>
民法 第941条(相続債権者又は受遺者の請求による財産分離)
相続債権者又は受遺者は、相続開始の時から三箇月以内に、相続人の財産の中から相続財産を分離することを家庭裁判所に請求することができる。相続財産が相続人の固有財産と混合しない間は、その期間の満了後も、同様とする。
 
<原審> 
①被相続人Dの財産を生前から事実上管理していた相続人Aは、後見人Bが職務上、Dの財産の開示、引渡し等を求めても応じることはなく、
②Dが平成28年に、死亡したことにより、Dの債権者の債権の引当てとなるべき被相続人Dの財産と相続人A及びCがDの相続開始前から有する固有財産(債権の引当となる固有の財産を有すると認めることはできない。)とが混合するおそれが生じた

相続人らの固有財産から被相続人の相続財産を分離するのが相当。

民法941条1項に基づき財産分離を命ずるとともに、
同法943条1項に基づき、職権で相続財産管理人としてBを選任する旨の審判をした。
 
 
<判断>
民法941条1項の定める第一種財産分離は、相続人の固有財産が債務超過の状態にある場合(もしくは近い将来において債務超過となるおそれがある場合)に相続財産と相続人の固有財産との混合によって相続債権者又は受遺者の債権回収に不利益を生じることを防止するために、相続財産と相続人の固有財産とを分離して、相続債権者又は受遺者をして相続人の債権者に優先して相続財産から弁済を受けさせる制度

家庭裁判所は、相続財産の分離の請求があったときは、申立人の相続債権、申立期間といった形式的要件が具備されている場合であっても、前記の意味における財産分離の必要性が認められる場合にこれを命じる審判をなすべきものと解するのが相当。 

本件においては、抗告人A及び相続人Cについて、その固有財産が債務超過の状態(もしくは近い将来において債務超過となるおそれがある状態)にあるかどうかは明らかではなく、財産分離の必要性について審理しないまま、財産分離を命じた原審の判断は相当ではない
この点について原審においてさらに審理を尽くす必要がある
 
<解説>
財産分離は、債権者がその債権回収について不利益を被ることがないように、相続財産と相続人の固有財産との混合を阻止して、まず、相続財産について清算を行う制度
相続債権者等が請求する第1種財産分離(民法941条以下)と
相続人の固有の債権者が請求する第2種財産分離(同法950条) 

第一種財産分離は、その間、遺産分割ができなくなるなど相続人の財産管理等や第三者にも大きな影響を及ぼすもの
⇒これを認めるためには、それなりの合理的な理由(財産分離の必要性)を要すると解すべき。

●本決定に対し、財産分離の要件に関する部分について抗告許可

最高裁H29.11.28:
本決定のいう「財産分離の必要性」の内容について
相続人がその固有財産について債務超過の状態にあり、またはそのような状態に陥るおそれがあることなどから、相続財産と相続人の固有財産とが混合することによって相続債権者等がその債権の全部又は一部の弁済を受けることが困難になるおそれがあると認められる場合」であるとされ、本決定もその趣旨をいうものとして是認。

相続人の固有財産が債務超過の状態にある場合でも、例えば、相続財産が極めて多額に及ぶケースでは、なお相続債権者が害されるおそれはないといえる。

家庭裁判所としては、事案に応じて、相続債権者等が債権の全部又は一部の弁済を受けることが困難となるおそれがあるかどうかを総合判断することになる。

●抗告審: なお書きで、原審判が財産分離を命じるとともに申立人の自薦に基づき申立人自身を相続財産管理人に選任
本件において、相続財産管理人の職務内容に鑑みれば、相続債権者を相続財産管理人に選任するのは相当でない旨を付言。

相続財産管理人の選任(民法943条、家事手続き法別表第1の97項)のみ独立して不服申立てができない(家事手続法202条2項)。

判例時報2374

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2018年9月26日 (水)

離婚後再婚と養子縁組⇒事情変更ありで養育費算定

札幌高裁H30.1.30      
 
<事案>
XがYと離婚後、公正証書により両名間の子の養育費として月額4万円を支払うとの合意⇒その後再婚し、再婚相手の子らと養子縁組⇒事情変更があたっとして、養育費を月額6616円に減額することを求めた事案。 
 
<原審>
事情変更を肯定⇒養育費の額を3万3000円に減額する旨の審判。 
 
<判断>
①前記公正証書作成後、Xが再婚相手の子らに対する扶養義務を負うに至った
②当事者双方の収入が変動
⇒公正証書が作成された後の事情を考慮して未成年者の養育費を算定するのが相当。 

前記公正証書が作成された当時の双方の収入や扶養家族の状況を前提として、標準算定方式を参考に養育費を試算⇒試算額は月額1万5282円。

当事者双方は、同公正証書において、これを2万4718円加算する趣旨であったと解するのが合理的

以上を参考に、本件にあらわれた一切の事情を考慮すると、Xの負担すべき未成年者の養育費の額を月額2万円とするのが相当
 
<解説>
民法 第766条(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。
3 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前二項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。

民法766条3項:
家庭裁判所は、離婚後の子の養育費に関する協議又は審判による定めを、必要があると認めるときは、変更することができる。

一般に、
法的安定性の要請から、前協議又は審判の際に予見されなかった事情であり、かつ、前協議又は審判を維持することが困難な程度の事情の変更が顕著であることを要する」と解されている。

養育費の算定方式:
労研方式、生活保護基準方式、標準生計費方式等

養育費の程度を決める算定基準:
一般的には、収入を按分し、同一水準の生活費を出す方法

本件:
新たな養育費の負担を定めるものではなく、合意で定められた養育費の額を変更⇒合意の意思を尊重するのが相当。
経済的には、一切の事情を考慮し、月額2万円が相当と判断

判例時報2373

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2018年9月 6日 (木)

任意後見より法定後見が優先された事案

福岡高裁H29.3.17      
 
<事案>

本人(X)は夫であるDと2人で暮らしていた。

平成2年からは、長男であるB及びその妻Eと同じ敷地内の棟続きの家に住み、内部ドアで行き来するようになった。

Dは、昭和43年にF株式会社(F社)を設立してその代表者となっていたが、
別途、Xと共有するマンションの賃料等の管理会社として有限会社Gを設立し、その代表者となった。
F社においては、平成20年にBがその代表者に。 
Bの妻Eは、F社やG社の経理を担当し、Xの預金通帳の管理を任さるるなどしていた
but
Xの了解を得ずにその口座から金銭を払い戻してF社への貸付に回したり、G社の口座からX名義の口座又はその他に移すべき金銭を、引き出した後にF社の債務弁済に充てる等の行為
⇒Xと両会社との間で不明朗な金銭貸借関係が生じた。
BもF社の代表者としてEの行動に起因するF社の債務につき、Xに対して同額の債務を負う。

Xは、平成21年に、BとEに対し自宅からの退去を求め、更に自宅の内部ドアに施錠してBらが行き来できないようにした。
Dは平成22年2月に入院。
Xは、平成22年12月28日に長女であるAとの間で、Aを後見受任者とする任意後見契約(「第1契約」)を締結し、その後認知症の症状が進み、平成26年7月からA宅に居住。
Xは同年8月6日にAと口論となって自宅に戻る。
Bは、Xを医師に受診させるようになった。


Aは、同月18日、原裁判所に任意後見監督人選任の申立て。
but
Xは家裁調査官の調査の際に、第1契約の発効について同意しなかった。

Aは同月30日に申立ての趣旨を法定後見開始に変更

同月29日に第1契約が解除されるとともに、XとBとの間でBを任意後見受任者とする任意後見契約が締結
⇒Bは任意後見監督人選任の申立て。 


原裁判所は、法定後見開始申立事件につき、2回にわたる鑑定を実施。
1回目は補佐相当
2回目は後見相当
との鑑定結果。 
 
<規定> 
任意後見法 第10条(後見、保佐及び補助との関係)
任意後見契約が登記されている場合には、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り、後見開始の審判等をすることができる。
 
<原審>
第1契約の解除及び第2契約の締結はいずれも効力を生じている。 
Eの預金払戻しに起因するXとF社との間における金銭関係及びXとF社の代表者であるBとの金銭関係が解決していない
⇒Bは任意後見受任者としての適格性を有しない
⇒法定後見を開始することにつき「本人の利益のために特に必要がある

診察回数及び検査の実施内容に照らすと、
1回目の鑑定結果には疑問があり、2回目の鑑定結果は合理的

Xは事理弁識能力を欠く常況ににあると認定し、Aの申立てを認容し、Bの申立てを却下
   

Bは即時抗告を申し立てて原審結の取消し及びXの任意後見監督人の選任(予備的に本件の差戻し)を求め
抗告理由として、
①任意後見契約が締結された場合にはこれを発行させて法定後見開始の申立てを却下するのが原則であり、本件ではその例外とすべき事情がない
②Xの精神状態については1回目の鑑定結果に従い補佐相当と認定すべきであった
と主張。 
 
<判断>
E又はF社がXに返済すべき債務については完済されたかどうかが不明であり、
Eの一連の行為につきBが認識していなかったとは到底認められず、
Bが代表者であるF社とXとの債権債務関係はBの任意後見人としての適格性に関わる重要な事実


法定後見を開始するにつきXの利益のために特に必要がある
Xの精神状態についても原審判の判断に誤りはない。
 
<解説>
●任意後見法10条1項:
本人による自己決定を尊重すべき

既に任意後見契約が締結され、かつ、これが登記されている場合においては、
本人について法定後見開始の申立てがあったとしても、
家庭裁判所は、法定後見を発動することが「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」でない限り、
当該申立てを却下しなければならない

●立法担当者:
具体例として
①任意後見人に委託された代理権を行うべき事務の範囲が狭すぎる上、本人の精神が任意の授権の困難な状態にあるため、他の法律行為について法定代理兼の付与が必要な場合
②本人について同意権・取消権による保護が必要な場合。

要件を厳格に絞ることで任意後見優先の原則をできる限り維持することを想定。
but
親族間紛争を背景に、自身を任意後見受任者とする任意後見契約を本人に締結させて後にこれを発効させることにより、意図しない者が成年後見人に選任されるのを妨害しようとするケース。

最近の実務は、本人の客観的な保護を重視して、この要件を広めに解釈して法定後見人を優先するが面が多くなっている。


大阪高裁H14.6.5:
「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」について
諸事情に照らし、任意後見契約所定の代理権の範囲が不十分である、
合意された任意後見人の報酬があまりにも高額である、
任意後見契約法4条1項3号ロ、ハ所定の任意後見を妨げる事由がある等、
要するに、
任意後見契約によることが本人保護に欠ける結果となる場合を意味

大阪高裁H24.9.6:
本人名義の預貯金から多額の金銭が引き出されて任意後見受任者の口座に移されている等、任意後見受任者の本人の財産への関与に不適切な点が認められ、「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」に当たるといえる事情が存在するにもかかわらず、原裁判所が任意後見法10条1項の要件を認めずに法定後見開始申立てを却下したのは相当ではない。
⇒原審判を取り消した上、事件を原裁判所に差し戻している。


学説:
「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」とは、
本人の現在のニーズを当該任意後見契約によっては十分に充足することができず、本人の客観的福祉の観点から、法定後見に夜保護を発動することが望ましい事態を指すと考えればよい(新版注釈)。

判例時報2372

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2018年9月 1日 (土)

元夫が元妻に財産分与を求めた事案での不動産の持分の分与

東京高裁H29.6.30      
 
<事案>
元夫である原審申立人が元妻である原審相手方に対し財産分与を求めた事案。 

不動産について、
元夫と元妻がそれぞれ2分の1の持分で共有し、その購入のための借入金の債務が残っていた。
元夫は、本件不動産の元妻共有持分の取得を希望。
 
<原審>
①本件不動産の借入金について、元妻が主債務者、元夫が保証人となっている
②元妻の借入金債務を被担保債権として本件不動産に抵当権が設定されている

元妻が返済を怠った場合、抵当権が実行される可能性があり、
元夫が同債務を返済すると求償関係の問題が生じる

本件不動産の元妻持分を元夫に分与することは相当でない。
 
 
<判断>
財産分与の対象財産のうち元妻名義の普通預金は、元夫と元妻が本件不動産購入のために連帯債務として借り入れた住宅ローン(前記借入金債務)の預金担保となっており、その預金額と住宅ローン債務額がほぼ同じ

財産分与の対象となる資産としては預金、債務とも0円として、
本件不動産には抵当権が付されているが、不動産評価額から被担保債務額を控除しない。
 

元夫と元妻が被担保債権について連帯債務を負い、元妻名義の預金が担保とされている⇒本件不動産に設定されている抵当権が実行される可能性は相当程度に低く、本件不動産の元妻共有持分を元夫に分与することが相当。

判例時報2372

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2018年7月11日 (水)

面会交流審判⇒禁止に変更。

名古屋高裁H29.3.17      
 
<事案>
調停離婚により未成年者の親権者と定められ、未成年者を監護するX(母)が相手方Y(父)に対し、面会交流審判事件に係る前審判で定める面会を、新たな協議が成立する等までの間、禁止することを求めたもの。 
 
<原審>
未成年者のYに対する面会を拒否する感情は強固
but
XもYとの面会に賛成していることなど、Yを未成年者の父親として尊重するなどの態度を示せば、未成年者のYに対する消極的感情を和らげることを期待できる。

前審判の定める面会を認めるのが相当であるととしたが、Xの立会いを認める期間については平成30年までと変更。 
 
<判断>
①未成年者が当初からYを頑なに拒否し続けていることは明らか
②現実の問題として、従前から通算して10回にわたる試行面会を経ても、未成年者のYに対する拒否的態度は一層強固なものとなっており、
遅くとも平成28年12月に一部実施した面会交流において、未成年者とYとの面会交流をこれ以上実施させることの心理的、医学的弊害が明らかとなったものと認められ、それが子の福祉に反することが明白になった

同月以降の直接的面会交流をさせるべきでないことが明らかになったということができる。

Yは、未成年者との面会交流につき、Xとの間でこれを許す新たな協議が成立するか、これを許す審判が確定し又は調停が成立するまでの間、未成年者と面会交流してはならない。

判例時報2367

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2018年7月 3日 (火)

親権者の再婚と非親権者が負うべき生活保持義務の内容

福岡高裁H29.9.20      
 
<事案>
離婚時に子の親権者と定められた実親と再婚した者が子との間で養子縁組をした場合に、非親権者である実親が子に対して負うべき生活保持義務の具体的内容が問題となった事案。 

X(元夫・医師)とY(元妻)は、元夫婦であるが、両者間の子らの親権者をYと定めるとともに、XがYに養育費として子1人当たり月額10万円を支払うことなどを合意した訴訟上の和解合意に基づき協議離婚。
その後Yが再婚、その再婚相手と子らが養子縁組。
Xは、前記養子縁組の事実を知り、前記和解において合意された子らの養育費の免除ないし相当額の減額を求め、調停申立て⇒調停不成立。
 
<原審>
養親らの養子に対する扶養義務は、生活保持義務
親権者とならなかった実親の扶養義務は、養親らが負う生活保持義務に後れる特殊な生活保持義務に過ぎないのであり、その意味では生活扶助義務に近く、

養親らの資力が十分でなく、養親らだけでは養子の健康で文化的な最低限度の生活を維持できなくなったときに、養子は親権者とならなかった実親に対して扶養請求することができる


子らの生活保護制度による最低生活費を算定し、養親らの基礎収入額と比較するなどして、Xの支払うべき養育費を、子らの生活費の不足分である1任当たり月額7734円に変更。
 
<判断>
親権者である実親が再婚し、再婚相手が子らと養子縁組したことは、養育費をみ直すべき事情に該当し、
養親らだけでは子らについて十分に扶養義務を履行することができないときは、非親権者である実親は、その不足分を補う養育費を支払う義務を負う。

その額は、生活保護法による保護の基準が一つの目安となるが、それだけではなく、子の需要、非親権者の意思等諸般の事情を総合的に勘案すべき。

まずは、生活保護制度の保護の基準に照らし、養親らにおいて未成年者に対し十分に扶養の義務を履行することができないか検討。

養親の扶養義務の根拠の1つが養子縁組の当事者の意思にある

養親らだけでは十分に子らへの扶養の義務を履行することができないかを判断するにあたっては、非親権者である実親について合理的に推認される意思をも参酌すべき。

生活保護制度の保護の基準では、学校外活動費は教育扶助の対象となっていないが、相手方の学歴、、職業、収入等に照らし、相手方には、未成年者らに人並みの学校外教育等を施すことができる程度の水準の生活をさせる意思はあるものと推認することができる。

その他、これまでの未成年者らの生活水準との連続性など、諸般の事情を考慮。

相手方の支払うべき養育費は、未成年者1人当たり月額3万円とするのが相当。
Yの育児休業期間中は子1人当たり4万円とするのが相当。
 
<解説> 
●離婚時に子の親権者と定められた実親と再婚した者が、子との間で養子縁組

養子は、
①養親の嫡出子としての身分を取得するとともに
②非親権者である実親と養子との法律関係(実親子関係)も存続。

親権者の再婚相手は子の養親としての扶養義務を負い、
非親権者は、実親としての扶養義務を負う。 

親権者である一方の実親が再婚し、その再婚相手と子が養子縁組をそたことは、扶養に関する協議又は審判の変更又は取消をする要件である「事情に変更を生じたとき」(民法880条)に該当。

養親と実親の扶養の程度は異なる。
養子縁組における合意ないし当事者の意思(子の養育についての扶養を含めて全面的に引き受けるという合意ないし意思)、又は、
未成年者養子制度の本質等


第一次的な扶養義務を負うのは養親であり、
養親らの資力の点から養親において十分に扶養の義務を履行できない場合に限って、実親が二次的な扶養義務を負う

 
●何をもって、養親らにおいて十分に扶養の義務を履行できないとするか? 

A(原審):養親らの資力が十分ではなく、養親らだけでは養子の健康で文化的な最低限度の生活を維持できなくなったときであって、子の最低生活費にも不足する場合

B:特段の事情がない限り、養育費支払義務を免れる

C:個別具体的に判断

本決定は、Cの見解を採用し、
生活保護義務を基本としてながらも、相手方の学歴、職業、収入、これまでの未成年者らの生活水準との連続性など、
諸般の事情を考慮して、実親の負う養育費の支払額を定めたもの。

判例時報2366

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2018年6月22日 (金)

面会交流の事案

東京高裁H29.11.24      
 
<事案>
XとYは平成21年に婚姻の届出をし、
同22年に長男Aを、同25年に二男Bをもうけた。
Yは、同26年12月に未成年者らと共にXの住所から出てYの住所に別居をした。
Xは会社を経営し、Yは薬剤師として稼働。
 
<原審>
非監護親と子との面会交流を実施することは、一般的には、子の福祉の観点から有用であり、子が精神的な健康を保ち、心理的・社会的な適応をするために重要な意義がある。
もっとも、面会交流を実施することがかえって子の福祉を害するという特段の事情があるときは、面会交流は禁止・制限されなければならない」
として、いわゆる原則実施論に立脚。 
 
<判断>
●父母が別居し、一方の親が子を監護するようになった場合においても、子にとっては他方の親(「非監護親」)も親であることに変わりはなく、別居等に伴う非監護親との離別が否定的な感情体験となることからすると、子が非監護親との交流を継続することは、非監護親からの愛情を感ずる機会となり、精神的な健康を保ち、心理的・社会的な適応の維持・改善を図り、もってその健全な成長に資するものとして意義があるということができる

他方、面会交流は、子の福祉の観点から考えるべきものであり、父母が別居に至った経緯、子と非監護親との関係等の諸般の事情から見て、子と非監護親との面会交流を実施sることが子の福祉に反する場合がある。

面会交流を実施することがかえって子の福祉を害することがないよう、事案における諸般の事情に応じて面会交流を否定したり、その実施要領の策定に必要な配慮をしたりするのが相当である。

◎Xによる未成年者に対する暴行行為、虐待行為があったとは認められず、
他方長男も試行的面会交流を重ねるに従いXとの親和度を増していて、未成年者らはXに一定程度の親和性を有していることが認められる。
⇒未成年者らとXとの直接的面会交流を禁止すべきとはいえない。

◎Xには、Y及び未成年者らとの同居中から、同人らの心身の状態、立場、心情等に対する理解・配慮を欠く点があり、
その行動・態度は自己中心的で、
自制心をもって面会交流のルールを行うことが順守できるか懸念がないとはいえない。

YはXの言動によって精神的負荷を受け、Xに対し信頼感を持てなくなっており、Yが安心して未成年者らを面会交流に送り出すことができる環境を整えることが必要

①直接面会交流を認めるのが相当。
②未成年者らは平成26年12月の別居後、これまで3回の試行的面会交流をしたのみ⇒短時間の面会交流から始めて段階的に実施時間を増やす。
頻度は、1か月に1回、面会時間は半年間1時間、半年後から2時間。
1年6カ月(18回分)の間は第三者の支援(面会立会い)を認めるのが相当。
 
<解説>
裁判官の中にも、
「面会交流実施論とそれに対する批判がありますが、
原則として面会交流お実施すべきであるとか、原則として実施すべきでないというような、原則はどちらかという問題ではなく、
あくまでも子の利益になるかという観点から、個別の判断をすべきである。
とするもの。 

従来の家裁の実務:
面会交流の許否等につきいわゆる比較基準論に従って双方の諸事情を丁寧に審理判断。

平成20年前後頃からいわゆる原則実施論が台頭

その見直し

判例時報2365

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2018年6月20日 (水)

親権に基づく妨害排除請求として子の引渡しを求めたのが権利の濫用とされた事例

最高裁H29.12.5      
 
<事案>
離婚した父母のうちその長男の親権者と定められた父Xが、法律上監護権を有しない母Yを債務者とし、親権に基づく妨害排除請求権を被保全権利として、長男Aの引渡しを求める仮処分命令の申立てをした。 
 
<原審>
本件申立ての本案は、家事事件である子の監護に関する処分の審判事件であり、民事訴訟の手続によることができない⇒本案申立ては不適法。 
   
Xが抗告許可申立て⇒原審がこれを許可。
 
<判断>
離婚後の父母のうち親権者と定められた一方が、民事訴訟の手続により、法律上監護権を有しない他方に対し、親権に基づく妨害排除請求として子の引渡しを求めることができる
but
判示の事情
①子が7歳であり、母は、父と別居してから4年以上、単独で子の監護に当たってきたものであって、母による前記監護が子の利益の観点から相当なものではないことの疎明がない
②母は、父を相手方として子の親権者の変更を求める調停を申し立てている
③父が、子の監護に関する処分としてではなく、親権に基づく妨害排除請求として子の引渡しを求める合理的な理由を有することはうかがわれない

XがYに対し親権に基づく妨害排除請求としてAの引渡しを求めることは権利の濫用に当たる
 
<解説>
●親権者が民事訴訟の手続により法律上監護権を有しない監護者に対し親権に基づく妨害排除請求として子の引渡しを求めることができる(最高裁昭和35.3.15)。
前記監護者が離婚後の父母のうち一方であっても同様(最高裁昭和45.5.22)。 

A:離婚後の父母間いおいては、親権者は民事訴訟の手続により親権に基づく妨害排除請求として子の引渡しを求めないとする見解

離婚後の父母であれば、親権者が、非親権者を相手方とし、監護者指定とは独立した子の監護に関する処分として子の引渡しを求める申立てをすることができ、民事訴訟の手続による子の引渡請求を認める必要がない。
vs.
①民事訴訟の手続により子の引渡請求をすることができるか否かと、子の監護に関する処分として子の引渡しを求める申立てをすることができるか否かとは、既存の権利の発見と権利・義務の形成というように、次元が異なるもので、
同じ当事者間において同様の結果を得られる形成裁判を求めることができることを理由として、当該当事者間で給付訴訟をすることができないことにはならない。
②親権については、平成23年法律第61号による民法改正において、820条に「子の利益のために」との文言が入り、834条の2に親権停止の規定が新設されたものの、823条の懲戒権が削除されなかったなど権利性が維持

現時点において、前掲最高裁判例を変更し、離婚後の父母間における親権に基づく妨害排除請求権を否定するのは、時期尚早。

親権は子の利益のために行使されなければならず(民法820条)親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは、家庭裁判所は申立てにより当該親権者について親権停止の審判をすることができる(民法834条の2)

子の利益を害する不適当な親権の行使が権利の濫用に当たることは明らか。 

●離婚後の父母のうち親権者と定められた一方は、法律上監護権を有しない他方を相手方として、独立の子の監護に関する処分として子の引渡しを求めることもできると解される。
子の監護に関する処分としてAの引渡しを求める申立てであれば、家事手続法に基づき審理することになる。

子の意思を把握し審判をするに当たりこれを考慮しなければならない旨を定める同法65条が適用されるなど子の福祉に対する配慮が図られ、Aの引渡しが繰り返されることを回避しやすい。

家事事件手続法 第65条
家庭裁判所は、親子、親権又は未成年後見に関する家事審判その他未成年者である子(未成年被後見人を含む。以下この条において同じ。)がその結果により影響を受ける家事審判の手続においては、子の陳述の聴取、家庭裁判所調査官による調査その他の適切な方法により、子の意思を把握するように努め、審判をするに当たり、子の年齢及び発達の程度に応じて、その意思を考慮しなければならない。
but
Xはあえて前記申立てをせず、民事訴訟の手続により親権に基づく妨害排除請求としてAの引渡しを求めている。
そして、そのことについて合理的な理由を有することがうかがわれない。
(親権者変更の蓋然性がほとんどないとか、明らかに子の奪取方法が違法であるなど子の福祉に対する配慮を特段しなくても適切な結論を得られる場合には、合理的な理由があるといってよいと考えられる。)

判例時報2365

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2018年5月28日 (月)

養育費の事情変更について

東京高裁H29.11.9      
 
<事案>
XとYは、平成20年に確定した判決により、 子A及び子Bの親権者をXとし、YがXに対して支払うべき養育費につき成人に達する日の属する月まで1人当たり月額5万円とする等と定められて離婚。

平成22年9月に、養育費を各4万円とする減額調停を、
平成24年に強制執行において養育費以外の取立てが終了次第再度協議するとの調停を
各成立。

Xは、平成26年9月、養育費の各増額及び子AにつきC大学の系列の高校に通い、C大学に進学することが確定
⇒養育費の支払終期を22歳に達した後の最初の3月まで延長することを求めて調停申立て⇒平成27年10月に月額5万5000円と増額するものの、支払終期の延長は認めないとの審判。

前記審判の半年後に子AがC大学に進学⇒Yに対し、収入に応じた学納金の分担と養育費の支払終期の延長を求めた。

 
<原審>
Yは子Aが大学に進学することを承諾していたとは認められない
⇒いずれも却下。 
 
<判断>
子Aにつき成年に達した後も学納金及び生活費等を必要とする状態にあるという事情の変更が生じた

Yが子Aの私立大学進学を了解していなかった等として学納金の分担は認めなかった
but
養育費の支払終期を成年に達する日の属する月までから22歳に達した後の最初の3月まで延長。
 
<規定>
民法 第880条(扶養に関する協議又は審判の変更又は取消し)
扶養をすべき者若しくは扶養を受けるべき者の順序又は扶養の程度若しくは方法について協議又は審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その協議又は審判の変更又は取消しをすることができる。
 
<解説>
●事情変更の有無 
養育費支払期間の終期は、法的安定性の見地から、これを定めた協議又は審判を尊重すべき。
but
身分関係に基づく継続的な給付についての定め
時の経過により、その内容が具体的妥当性を欠くに至る場合があり、協議又は審判後に事情の変更を生じたときは、家庭裁判所は、その変更等をすることができる。(民法880条)

事情変更の有無:
従前の審判等の際に考慮され、あるいは基礎とされていた事情が、その後変更となった結果、審判等の内容が実情に適さなくなったこと。

予見し得た事情がその後現実化したにすぎない場合は、原則として事情の変更があったとみることはできない。
but
単なる予測では足りず、義務者の妻の出産予定等は、具体的な事情が確定してから対処すべきであるという事例もある。

本件の前件審判が、子Aが通学する孝行の系列の大学に進学する見込みであるというだけでは、養育費支払期間の終期を成年に達する日の属する月から22歳に達した後の最初の3月まで延長することはできないとしたのも、具体的な事実が確定してから対処すべき趣旨と解される。
(前件審判において、Xが子Aの大学進学が確定していると主張したのは、主観的なものと解される。)

審判時に予想はされるが、未だ発生していないため、審判の前提にしない事情の例
ex.大学進学、定年退職等による失職、扶養家族の増減等

 
●審判等の変更について 
本決定:
子Aが、成年に達した後も、学納金及び生活費等を要する状態にあるという事情の変更があったとしても、Yが当然に学納金等を負担しなければならないわけではない。

考慮要素:
①大学進学了解の有無
②支払義務者の地位
③学歴、収入等

①Yが私立大学進学を了解していなかった
②前件審判では、通常の養育費として、公立高校の学校教育費を考慮した標準算定方式による試算結果を1か月当たり5000円超えた額の支払を命じている

Yに対し、通常の養育費に加えて、子Aが通学する私立大学への学納金の支払義務を負わせるのは相当でない

支払期間の終期の延長は、別異に考慮すべき。
①Yが、未成熟子に対して自己と同一水準を確保する義務を負い、
②子Aが成年後も大学生であって、現に大学卒業まで自ら生活をするだけの収入を得ることはできず、未成年者と同視できる未成熟子
③Yがおよそ大学進学に反対していたとは認められない
④大学卒の学歴や高校教師としての地位を有し、年収900万円以上である
⑤Yには他に養育すべき子が3人いるがそのうち2人は今だ14歳未満である

子Aが大学に通学するのに通常必要とする期間、通常の養育費を負担する義務がある。

判例時報2364

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