損害賠償

2013年2月 4日 (月)

粉飾決算と監査法人の責任

大阪地裁H24.3.23

架空循環取引による巨額の粉飾決算について無限定適正(有用)意見を表明した監査法人の債務不履行及び不法行為責任が否定された事例 

<事案>
再生会社の再生管財人に選任された原告が、同社の監査人であった被告に対し、再生会社において架空循環取引による売上などに関する巨額の粉飾(17期、18期のもの)を看過して無限定適正意見を表明したことが、監査契約上の善管注意義務違反に当たるなどとして、債務不履行ないし不法行為に基づき、損害賠償金の支払を求めた事案。 
再生会社の元代表取締役や元常務取締役らは、売上及び利益を水増しした内容虚偽の連結損益計算書等が記載された有価証券報告書及び有価証券届出書(15期のもの)を提出したとして旧証券取引法違反の罪により起訴され、いずれも有罪判決を受けている。

<争点>
(1)被告の善管注意義務違反ないし不法行為における過失の有無
(2)原告の損害及びその額
(3)過失相殺の可否及びその程度 

本件は(1)のみについて判断。
①重要な虚偽記載の有無、②本件監査は本件監査契約上の善管注意義務に違反するか、の2点で判断。
不法行為上の過失については特に言及されていないが、善管注意義務違反と過失の有無の判断が重なるとの判断を前提に、あえて取り上げていないものと思われる。

<判断>
(1)①について、再生会社が計上した売上のほとんど及びこれに対応する仕掛品が架空循環取引によるもので、投資者の判断を誤らせる財務諸表への重要な虚偽記載にあたる。

(1)②について:
監査人は被監査会社に対して監査契約上の善管注意義務を負う。

義務違反を判断する指標として、企業会計審議会の定めた監査基準や日本公認会計士協会の定めた実務指針、監査実務慣行などにより構成される監査の基準。

架空循環取引等の不正行為発見のための監査手続を採用することが義務付けられる場合:
およそ財務諸表の適正性に影響を及ぼすような不正行為に起因する財務諸表の重要な虚偽の記載の具体的な兆候を発見した場合。

①監査基準であるリスク・アプローチに従い、監査計画策定時において、種々のリスク要因を認識して再生会社の売上や資産の実在性に関する発見リスク(企業の内部統制によって防止又は発見されなかった財務諸表の重要な虚偽の表示が、監査手続を実施してもなお発見されない可能性)を「低」と設定し、これに従って監査資源を投入して広範囲にわたって売上や資産に関する監査手続を実施。
②その中には再生会社のみならず取引先や資産の保管先に対する確認も含まれており、異なる情報源から得られた監査証拠間に整合性が認められ、しかも財務諸表上も数値の異常は見られなかった。
③・・・被告が広範囲にわたって実施した監査において監査証拠間の異常が発見されなかったことからすれば、原告主張の諸事情を総合的に勘案しても、被告に架空循環取引発見のための監査手続の採用が義務づけられていたとはいえない。

被告に架空循環取引発見のための監査手続の採用が義務付けられていたとはいえない。

被告の監査契約上の善管注意義務違反を否定し、被告は債務不履行責任及び不法行為責任を負わない。

<解説>
監査を行うに当たりいかなる監査手続を採用すれば善管注意義務を尽くしたことになるか:
被監査会社の事業規模、財務内容、経営者の特性、内部統制システムの整備状況、社会情勢等の諸要因によって大きく変動。

監査人が遵守すべき監査の基準により一律に決することは不可能であるし、予定もされていない。

本件のように、経営者が取引先や資産の保管先と共謀して粉飾決算を行っており、取引関係の書類等が完全に備えられ、かつ、売上の急激な上昇はあるものの、利益率等の財務の諸数値の推移に異常がみられないような場合、いかに監査人が懐疑心をもって監査を実施したとしても、粉飾を見破るのは一般に困難。

本判決も、被告が監査基準であるリスク・アプローチに基づいて種々のリスク要因を認識し、再生会社の売上や資産の実在性に関する発見リスクを「低」と設定して、監査資源を投入して広範囲にわたって監査を実施し、取引先や資産の保管先に対する確認をもって行ったと認定。

原告主張の諸事情が不正行為の存在を窺わせる事情たりうるものかを検討し、結論として、架空循環取引等の不正行為発見のための監査手続の採用を義務付けるものではないと判断。 


再生会社における再生手続は、第一審口頭弁論終結後に終了⇒控訴審においては管財人ではなう再生会社自身が訴訟当事者(控訴人)に。 
粉飾を行った再生会社自身が監査人に対して損害賠償請求をすることは信義則上許されないのではないか?
(クリーンハンズの原則の適否)

大阪地裁H20.4.18:
再生管財人の監査人に対する損害賠償請求の可否につき、裁判所の管理命令により選任される再生管財人は再生債務者たる被監査会社と同一の立場にはなく、再生管財人による責任追及は株主や債権者の利益に適うものであり法の予定するところ
⇒クリーンハンズの原則の適用を否定し、被監査会社が粉飾を行ったことは被害者側の事情として過失相殺において考慮すべきと判示。
but
本件のように粉飾を行った当の再生会社が監査人に対して損害賠償請求する場合、同原則の適用される余地もあり?

http://www.simpral.com/hanreijihou2013zenhan.html

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