最高裁R5.11.6
<事案>
内国法人であるXは、Xの事業年度又は課税事業年度の法人税及び地方法人税の申告
⇒処分行政庁から、租特法66条の6第1項(「本件委任規定」)により、Xに係る特定外国子会社等に当たる2つの子会社の事業年度における課税対象金額に相当金額が、Xの所得金額の計算上、益金の額に算入されるなどとして、法人税等に係る各増額更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を受けた。
その後、Xは、前記各増額更正処分に係る法人税等の各減額更正処分がされたことを踏まえ、税通法23条1項に基づき本件事業年度の法人税等について更正の請求
⇒更正をすべき理由がない旨の各通知処分。
本件:
Xが、Y(国)を相手に、
①前記各増額更正処分(ただし、前記各減額更正処分により一部取り消された後のもの。)の一部及び
②前記各賦課決定処分(ただし、後にされた各変更決定により一部取り消された後のもの、以下①②を「本件各増額更正処分等」)、
並びに、
③本件各通知処分の取消しを求めた事案。
<関係法令>
●本件委任規定:
内国法人に係る特定外国子会社等につき、各事業年度において適用対象金額(・・会計上の税引前利益に相当する基準所得金額に所定の調整を加えた金額)を有する場合には、そのうち課税対象金額に相当する金額は、その内国法人の収益の額とみなして当該各事業年度の終了日の翌日から2月を経過する日を含むその内国法人の各事業年度の所得金額の計算上、益金の額に算入する旨を規定。
課税対象金額につき、内国法人の有する特定外国子会社等の株式等の株式に対応するものとしてその株式等の請求権(剰余金の配当等、財産の分配その他の経済的な利益の給付を請求する権利)の内容を勘案して政令で定めるところにより計算する旨を規定。
●租特法施行令:
特定外国子会社等の事業年度終了の時を基準として
課税対象金額=適用対象金額×請求権勘案保有株式等割合
との式により算定。
請求権勘案保有株式等割合の基礎となる請求権勘案保有株式等に係る数額は、
当該外国法人が請求権の内容が異なる株式等を発行している場合には、
当該外国法人の発行済株式等に、当該内国法人が当該請求権に基づき受けることができる剰余金の配当等の額がその総額のうちに占める割合を乗じて計算される。
<事実関係>
MCI:㈱みずほフィナンシャルグループが普通株式の全部を保有する英領ケイマン諸島所在の外国法人
は、優先出資証券(「MCI優先出資証券」)を発行し、投資家に販売
それにより調達した資金を原資として、本件各子会社が同日に発行した優先出資証券(「本件優先出資証券」)を購入
本件各子会社は、同日、本件優先出資証券により調達した資金を原資として、Xに対し、劣後ローンにより金銭を貸し付けたところ、その利息は、ほぼ全額が本件優先出資証券への配当に充てられ、本件各子会社に利益が留保されたり本件各子会社の発行する普通株式に配当がされたりすることは予定されていなかった。
本件優先出資証券の保有者:原則として、普通株式に優先して配当受領権を有する一方で議決権を有しない。
前記劣後ローンの利息発生期間の終期は、本件優先出資証券及びMCI優先出資証券に係る配当の支払日の前日。
⇒
本件優先出資証券が存する限り、Xの請求権勘案保有株式等割合は0%となり、本件各子会社につき課税対象金額は存在しない。
but
本件優先出資証券が本件各子会社の事業年度の途中で償還され、本件各子会社の事業年度終了の時には、Xの普通株式のみは存する状況
⇒
Xには本件各子会社の利益が一切帰属していないにもかかわらず、Xの請求権勘案保有株式等割合が100%となり、課税対象金額が存在することとなった。
<原審>
①タックス・ヘイブン対策税制による課税については、内国法人が外国子会社の留保所得から剰余金の配当等を受け得る支配力を有することにより正当化される。
②Xが本件各子会社から剰余金の配当等を受けることは想定されていなかった。
⇒
本件において、合算課税の合理性を基礎づける事情は見いだせず、本件規定を形式的に適用することは、本件委任規定の趣旨に反する。
⇒
本件各増額更正処分等の取消請求を認容。
本件各通知処分の取消しを求める部分については、本件各増額更正処分に係る取消請求と重ねて取消しを求める利益がなく、不適法⇒却下。
<争点>
①本件において本件規定を適用することが本件委任規定の委任の範囲を逸脱するものといえるか(上告関係)
②本件各通知処分の取消しを求める訴えの利益の有無(附帯上告関係)
<判断>
●争点①
①本件委任規定において課税要件の明確性や課税執行面における安定性の確保が重視されており、本件規定の請求権勘案保有株式等割合に係る基準時を事業年度終了の時とする定め方は一義的に明確⇒個別具体的事情にかかわらず前記基準時を設ける本件規定の内容は合理的。
②本件において本件規定を適用することによって、本件委任規定において予定されていないような事態が生じたり、Xに回避し得ない不利益が生じたりするとはいえない。
⇒
本件において本件規定を適用することが本件委任規定の委任の範囲を逸脱するものではない。
⇒
原審の判断には本件委任規定の解釈適用を誤った違法がある(原審を破棄し、自判)。
●争点②
増額更正処分に税通法23条1項の規定による更正の請求をし、更正をすべき理由がない旨の通知処分を受けた者は、当該通知処分の取消しを求める訴えの利益を有する。
⇒
原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法がある(ただし、不利益変更禁止の原則により附帯上告棄却)
<解説>
●争点①に関する説明
◎適用違法の構成もあり得る。
近時の判例:
法人税法上、利益剰余金を原資とする払戻しを資本部分の払戻として扱うことは予定されていないとの仕組み解釈が前提とされた上で、法人税法施行令の規定の一部の適用場面で前記の予定外の状況が生ずる限度において、当該規定が違法であるとされた判例。
but
適用違法が問題となる場合においても、前提として、委任命令の内容が一般に法律に適合するか否かについての検討は必要。
←法適合性を見いだし得なければ、適用違法以前の問題として、委任命令は違法無効となる。
◎委任命令の法適合性に関する一般的な考え方
本来は法律によって定められるのが相当な事項であっても・・・法律の委任に基づいて行政機関が委任命令を設けることが認められている。
but
委任命令は、委任をした法律(授権法)に抵触してはならず、委任に際して行政機関に与えらている裁量の範囲を逸脱すれば違法となる。
最高裁判例:
委任命令が授権法の委任の範囲内といえるか否かの判断要素:
①授権法の規定の文理
②授権法が下位法令に委任した趣旨
③授権法の趣旨、目的及び仕組みとの整合性
④委任命令による制限される権利利益の性質等
が考慮されており、
必要に応じて授権法の規定の立法過程における議論等も検討の対象とされている。
委任の範囲の逸脱が肯定された主な事案:
a:そもそも授権法の規定が予定していない要件を設けていたり、授権法の規定の趣旨と抵触し、又は授権法の仕組みから想定され得ないような規定を設けていたりする事案
(監獄法施行規則に関するもの、議員の解職請求に関するもの)
b:委任命令により制限される権利利益が重大なもの⇒立法者意思がより慎重に探究
(医薬品の郵便等販売に関するもの、ふるさと納税に関するもの)
c:委任命令の規定につき、一定の場面では不備が生ずるような事案
(戸籍法施行規則に関するもの)
等
d:授権法の規定の文理上は外国刀剣を登録対象とする余地が排除されていないにもかかわらず、委任命令の規定において登録対象が日本刀に限定されていても委任の範囲を逸脱しないとされた例
~
専門技術性が尊重されるべき文脈においては、委任命令の規定が授権法の規定の文理とずれているともいい得るにもかかわらず、委任の範囲内であるとの判断
◎本件規定の一般的な法適合性
〇ア:タックス・ヘイブン対策税制の趣旨
税負担の不当な権限を防止し実質的な公平を図ることを趣旨とする、租税回避の否認規定。
実質所得者課税の原則(法人税法11条)~実質的な帰属についての具体的な判断基準が明示されておらず、課税執行面での安定性に問題。
⇒正面から租税回避を否認する趣旨の規定。
~
本件委任規定においは、予測可能性や課税執行面における安定性が強く意識。
〇イ:本件委任規定の趣旨
本件委任規定:
内国法人の益金に算入すべき額を算定するに当たり、請求権の内容を勘案した割合を用いる旨を規定。
平成17年改正:
例えば、持分割合が50%でありながら、受け得る剰余金の配当等の割合を90%とするような態様で租税回避が生じた
⇒利益持株割合に応じた合算課税を可能にする趣旨で行われた。
〇ウ:本件委任規定による授権の趣旨
株主等の構成が常時変動し得る中で、請求権の内容を勘案しての持ち株割合を具体的にどのようにみるかという点は、優れて技術的・細目的な事項
⇒租特法施行令の定めに委ねられることとなった。
〇エ:問題となる権利利益の性質等
委任された事項につき専門技術的な色彩が強い⇒裁量権の範囲が広く解される。
裁量の広狭は制限される権利利益の重要性によっても左右される。
租税法律主義に反してはならない
but
問題となる利益は財産的利益であり、
これまで明確な立法者意思等が求められるなどして比較的厳格な判断がされてきた事案で問題とされた、接見の自由、参政権、職業選択の自由等とは、その性質が相応に異なる。
最高裁R2.6.30:
税務訴訟の事案であるが、問題となる委任命令において、一般原則としては法律上禁止されている扱いが規定されていた⇒明確な立法意思等の存在が求められた。
but
本件では、これと同様の事情を見出し得るものではない。
⇒
本件で問題となる基準時等につき一律に決せられることに関し、明確な立法意思等の存在が要求されるというべき理由は見出し難い。
〇オ:総合考慮
その導入の経緯⇒法定安定性や予測可能性の確保の要請が強く働く
⇒請求権勘案保有株式等割合に係る基準時を一律に設けること自体は合理的。
その文理や内容に照らしても、租特法施行令の規定により一定の基準時を設け、一律にその基準時をもって割合を決する仕組みとすることは、本件委任規定の予定する範囲内。
・・・・そのような基準によることで、本件委任規定の趣旨である、利益持株割合を持株割合よりも高く設定するような方法によ租税回避的な行動への対処に、支障が生ずることは具体的に送致されない。
⇒
問題となる特定外国子会社等の事業年度終了の時を基準時として選択することも不合理ではなく、一律に事業年度終了の時を基準時とする本件規定は、本件委任規定の趣旨に沿う。
⇒本件規定は合理的な内容で、委任の範囲を逸脱したものとはいえない。
◎本件において適用される限度で本件規定が違法となるか
〇法的安定性や予測可能性の観点から、一律に一定の基準時における特株割合を用いて算定することに合理性が認められる
⇒各事案の個別具体的な事情を加味して結論の落ち着きを判断し、それに応じて適否を見極めるようなことは制度趣旨に反する。
〇一般的には合理的な制度であっても、その具体的な適用場面において、授権法の仕組みが予定していないような事態が生ずるといえる場合には、当該場面に適用される限りにおいて、委任の範囲の逸脱が認められる帰結を想定し得る(最高裁)。
but
事業年度の途中で株主等の構成の変動が生じ、どの時点をとるかによって持株割合が異なってくることは当然に想定される。
⇒
事業年度の途中で請求権勘案保有株式等割合が0%の者につき、事業年度終了の時を基準にすると当該割合が100%となるといったことが、租特法の仕組みが予定していない事態であるなどとはいい難い。
〇本件規定を適用すると当事者に回避し得ない不利益が生ずる場合には、そのことをもって、特定の適用場面への適用の限度における委任の範囲の逸脱を基礎づける余地。
but
・・・
本件優先出資証券には(一定の例外的な場合を除き)議決権がなく、Xは本件各子会社の意思決定を完全支配していた⇒あらかじめ償還のタイミングに合わせて、本件各子会社の事業年度を本件優先出資証券の償還日の前日までとするなど方法を採れば、課税を回避する余地はあった。
⇒
本来的に一律に適用することを予定しており、かつ、その内容も合理的である本件規程の適用を排除しなければならないような、回避し得ない不利益が生じているとはいい難い。
◎原審の判断について
原審:剰余金の配当等を受ける支配力がXにないことを主な理由として、本件規定を本件に適用することが制度趣旨に反する。
平成21年の税制改正において導入された外国子会社配当益金不算入制度:
内国法人が持分割合25%以上の外国子会社から受ける剰余金の配当等は原則として益金不算入とされた。
⇒
外国子会社に利益を留保しても課税の繰延べの効果が生ずることにはならない。
⇒
タックス・ヘイブン対策税制の制度趣旨につき、内国法人に配当せずに利益を留保することによる課税の繰延べの防止という説明はできないし、利益を留保するか配当するかが何らかの租税回避の徴表となる余地もない。
⇒
異なる種類の株式の間での利益の配分の問題が生じない本件の局面において、100%株主であるXにつき、単に配当受領額にのみ着目し、支配力がないなどとして本件規程を否定すべき根拠は見当たらない。
●争点②について
更正をすべき理由がない旨の通知処分と増額更正処分の双方がされた場合における通知処分の取消しを求める訴えの利益の有無に関して
最高裁:
同一の相続人に対し相続税法32条1号の規定による更正の請求に対する通知処分と同法35条3項1号の規定による増額更正処分(いずれも遺産分割による各相続人の取得財産の変動という相続税特有の後発的事由を基礎とする。)が同日に行われた事案において、当該通知処分の取消しを求める訴えの利益を否定。
~
あくまでも同法の規定による場合について判断。
本件:
増額更正処分後に税通法23条1項の規定によりされた更正の請求(増額更正処分により確定された税額の更正を求めるもの)に対する通知処分は、増額更正処分とは別個にされた新たな処分(例えば増額更正処分の後に増額再構成処分が行われた場合において増額更正処分が増額再構成処分に吸収されると解され得るのとは異なる)増額更正処分に実質的に包摂されるともいえない。
⇒
通知処分の取消しを求める訴えの利益を肯定。
判例時報2589
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
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