土地売買の中間業者の詐欺行為・転付命令の不当利得(肯定事案)
東京地裁R4.2.14
<事案>
X:Aの所有する土地を取得するに当たり、中間業者であるY1の代表者Y2が、実際はその一部を自己が費消する目的があるにもかかわらず、Xから受領した売買代金はAに全て支払うなどの虚偽の説明をし、Xに売買代金の一部(手付金)を支払われた⇒
Y1に対し会社法350条に基づき、
Y2に対し不法行為に基づき
支払金分の損害の賠償を求めた。
X:Y3はXが前記手付金をY1から取り戻すことを妨害する目的で、貸付けの実態がないにもかかわらず、Y3がY1に金員を貸し付けたとの虚偽の公正証書を作成し、Xが前記手付金を振り込んだY1名義の預金口座の預金債権を差し押さえて転付命令の発令を受け、法律上の原因なく利得を得た
⇒Y3に対し不当利得に基づき、利得の返還を求めた。
Y1:Xは詐欺事件をでっち上げて本件口座を凍結⇒売買契約の違約金条項に基づき違約金の支払を求めるとともに、不法行為に基づき損害賠償を求めた。
<争点>
①Y2のXに対する不法行為(詐欺行為)の有無
②XのY3に対する不当利得返還請求権の存否
<判断>
●争点①
・・・本件土地の所有者であるAがいくらで本件土地を売却する意思があり、Aにいくら支払えば本件土地を入手できるかなど本件土地の価格に関わる重要な事項で、Xが本件土地を10億円で購入することを決め、手付金1億円を支払う前提となる事項であるところ、Y2はこれらの点についてXを欺いた。
Y2により欺罔行為がなければXは本件土地を10億円で購入する旨の意思表示をしなかった。
⇒
Y1及びY2が主張するようにXが10億円で本件土地を購入できる可能性が実際にあったとしても、Y2の行為は不法行為(詐欺行為)に該当。
●争点②
①Y3が本件差し押さえ及び転付命令により取得した本件口座の預金債権は、XがY2に騙取された手付金1億円の残金であり、社会通念上Xの金銭でY3の利益を図ったと認められるだけの連結がある。
②Y3のY2に対する債権は実態がなく、Y3による本件差押え及び転付命令はXが手付金を取り戻すことを妨害するために行われた、本件口座の預金債権がXからの騙取金であると知っていた
⇒
Xの損失とY3の利得には不当利得の成立に必要な因果関係がある⇒不当利得の成立を肯定。
<解説>
最高裁:
不当利得の制度は、ある人の財産的利得が法律上の原因ないし正当な理由を欠く場合に、法律が、公平の観念に基づいて、利得者にその利得の返還義務を負担させるもの。
いま甲が、乙から金銭を騙取又は横領して、その金銭で自己の債権者丙に対する債務を弁済した場合に、乙の丙に対する不当利得返還請求権が認められるかどうかについて考えるに、
騙取又は横領された金銭の所有権が丙に移転するまでの間そのまま乙の手中にとどまる場合にだけ、乙の損失と丙の利得との間に因果関係があるとなすべきではなく、甲が騙取又は横領した金銭をそのまま丙の利益に使用しようと、あるいはこれを自己の金銭と混同させ又両替し、あるいは銀行に預入れ、あるいはその一部を他の目的のため費消した後その費消した分を別途工面した金銭によって補填する等してから、丙のために使用しようと、社会通念上乙の金銭で丙の利益をはかったと認められるだけの連結がある場合には、なお不当利得の成立に必要な因果関係があるものと解すべき。
丙が甲から右の金銭を受領するにつき悪意又は重大な過失がある場合は、丙の右金銭の取得は被騙取者又は被横領者たる乙にたいする関係においては、法律上の原因がなく、不当利得となるものと解するのが相当。
判例時報2549
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