破産申立代理人の財産散逸防止義務違反(否定)
東京地裁R4.2.25
<争点>
Yが本件委任契約を締結した期日から、Aとミュージカル公演開催のための業務を分担していたB会社の預金口座からの最終出金日、又はAの「友の会」の貯金口座からの最終出金日までの各期間における、本件委任契約上のYの財産散逸義務違反の有無、及びYの財産散逸銀無違反によって生じたAの損害額。
<判断>
Xの請求を棄却。
債務者(破産者)の申立代理人は、偏頗弁済や詐害行為等の債権者の公平性を損なうような行為を避ける義務を第1次的に負う債務者の代理人として、破産申立てに係る法律事務を遂行にするにとどまり、債務者がそのような行為に及んで破産財団を構成すべき財産が散逸したとしてしても、その一事をもって、債務者との間の委任契約上の善管注意義務違反としての財産散逸義務防止義務違反の責任を負うと解するのは相当といえない。
申立代理人が、
①債務者に対して破産制度上課された義務に関して誤った指導及び助言をしたとき、
②債務者から委託を受けて保管していた財産を法的根拠に基づくことなく散逸させたとき、
③債務者が偏頗弁済や詐害行為等、明らかに破産法の規定に反するような財産の処分行為をしようとしていることを認識し又は容易に認識し得たにもかかわらず、漫然とこれを放置したようなときなど、
自ら破産財団を構成すべき財産を散逸させてその結果として債務者が破産制度を円滑に利用することのできない結果を招いたと評価されるような場合には、前記責任を負う余地があり、
具体的には、事案の内容及び性質、破産手続の具体的状況及びその段階、債務者の説明状況及び協力態度、債務者による財産散逸行為に関する申立代理人の認識可能性を踏まえ、これらの要素を客観的・総合的に勘案して個別具体的に判断すべき。
・・・・義務違反は認められない。
<解説>
●申立代理人の財産散逸防止義務の法的根拠
破産制度の趣旨に照らし、破産財団を構成すべき債務者の財産が、破産管財人に引き継がれるまでの間、債務者により不当に減少したり散逸したりしないように指導・助言する法的義務(財産散逸防止義務)を追い、これに違反した場合には損害賠償責任を負う。
本判決:
破産財団を構成すべき財産の散逸を防止する1次的な義務を追うのは債務者であって(破産法160条以下、265条以下参照)、
申立代理人は、債務者によるこれらの行為を防止するすべく法的指導や助言すべき義務を負うにすぎず、申立代理人による債務者の財産状況等の調査は、債務者の任意の協力を前提とせざるを得ない
⇒
申立代理人は、上記①~③のような場合には債務不履行責任を負うことがある。
●申立代理人の義務違反行為
裁判例
学説:
申立代理人は、破産申立て事件の受任から調査を経て債務整理の方針決定までの段階においては、債務者の財産管理に十分な助言を与えるなどの注意を払った場合には、債務者がこれに従わなかった場合であっても損害賠償責任を負わないとする見解(伊藤眞)。
判例時報2549
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