社債の私募の取扱いをした証券会社の損害賠償義務(肯定)
名古屋地裁R4.4.19
<事案>
Xらが、OPM社及びMTL社が本件各社債の発行により調達した資金の大部分を診療報酬債権等の買取以外の目的に流用⇒本件各社債の元利金の支払を受けられなくなり、本件各社債の取得金額相当額等の損害を被った
⇒Yら(①Y1及びその役員等、②OPM社やMTL社との間で管理契約を締結していた会計事務所2社及びその役員等、③OPM社及びMTL社と業務委託契約を締結して、本件各社債の販売支援を行っていた証券会社(アーツ証券)の元役員)に対し、損害賠償を求めた。
<争点>
Y1について、本件各社債の私募の取扱いをするに当たり、アーツ証券等から追加資料の提供を受けるなどして、本件各社債が真実診療報酬債権を裏付けとするものであるといえるかを調査すべき義務(調査義務)を負っていたと言えるか?
<判断>
●金商法は、一般投資家が有価証券について合理的な投資判断をすることができるように、有価証券の発行者等に対し、有価証券に関する投資判断に必要な重要情報の開示を要求。
but
50名未満の者を相手方として社債券の取得勧誘を行う場合で、一定の要件を満たす場合は「有価証券の私募」であって、当該有価証券の発行者は、いわゆる開示規制の適用を受けない。
←
当該有価証券の発行規模が小さく、また、この場合の取得勧誘の相手方は、投資判断に必要な情報を当該有価証券の発行者から直接入手することが容易⇒投資判断に必要と考えられる情報を広く市場に開示することを法令によって義務付ける必要性は低い。
本件各社債:
いずれも、発行体ごとに、Y1を含む販売証券会社ごとにシリーズ番号を付して、1つのシリーズ当たりの取得者が50名未満となるよう発行されたもので、償還期間がいずれも1年未満
⇒本件各社債の取得勧誘は「有価証券の私募」に該当。
but
本件各社債は、不特定多数の者に取得勧誘がされた。
その発行規模が大きく、また、取得勧誘の相手方が投資判断に必要な情報をその有価証券の発行者から直接入手することが容易でない
⇒「有価証券の私募」に係る有価証券の発行者がいわゆる開示規制の適用を受けない趣旨が実質的に妥当しない⇒投資判断に必要な情報を本件各社債の取得者に開示すべき必要性が高い。
●①Y1は・・・、遅くとも平成26年1月23日の時点で、本件各社債が真実診療報酬債権を裏付けとするものであるといえるかについて疑念を抱いてしかるべきであった。
②本件各社債については、投資判断の必要な情報を本件各社債の取得者に開示すべき必要性が高いにもかかわらず、本件各社債の発行者は、いわゆる開示規制の適用を受けない。
⇒
その取得勧誘をする金融商品取引業者は、金商法の開示規制の趣旨に照らして、投資判断に必要な情報が本件各社債の取得者に開示されないことにより取得者が不測の損害を被ることのないように適切な措置を講ずることが期待されているものというべきである。
<解説>
●本判決:
①いわゆる流動化債権において裏付資産の実在性が極めて重要
②本件各社債の私募の取扱いをした証券会社であるY1が、本件各社債の裏付資産が不足していること及びその不足が一過性のものではないことをうかがわせる事実を認識していた
③Y1が、顧客に対して本件各社債を安全性の高い商品であると説明して取得勧誘をし、Y1が私募の取扱いをした本件各社債の発行残高が合計45億6700万円と多額に上り、今後、これらの発行済みの社債の取得者が、償還額を払込金額に充てて新たな本件各社債を取得するかが問題となることが予想されたという顧客に対するY1の先行行為の存在等
⇒Y1が調査義務を信義則上負う。
この判断に当たっては、④金商法のいわゆる開示規制の趣旨が重要な役割を果たしていると考えられる。(Xらは、本件各社債の取得勧誘は「有価証券の私募」ではなく「有価証券の募集」に該当し、開示規制が適用される旨を主張したが、本判決はそのような見解を採用せず。)
●会計事務所2社が、本件各社債の実質的な発行者の不法行為(本件各社債等によって調達した資金に見合うだけの診療報酬債権を購入せず、その資金を流出させて行為)を幇助した(民法719条2項)として、Xらの2社に対する請求を(一部)認容。
会計事務所についての裁判例。
判例時報2549
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