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2023年6月 4日 (日)

(脚本の)映画試写会での公表(否定)とその後の週刊誌での掲載による公表権の侵害(肯定)

東京地裁R4.7.29

<事案>
X1:映画の監督、脚本等を担当
X2:脚本を担当
Xらが、本件映画に関する記事を週刊誌に掲載したY1のほか、本件映画を制作、配給等するY2及びY3に対し以下の請求。

(1)Xらの請求Y1に対する請求:
(ア)・・記事の開催内容がXらの名誉を毀損⇒不法行為に基づく損害賠償請求
(イ)Y1が本件記事に本件脚本を無断で引用し、Xらの著作者人格権(公表権)を侵害⇒不法行為に基づく損害賠償請求
(ウ)・・・民法723条に基づく謝罪広告の掲載

(2)X1の請求
(ア)Y1及びY2に対する請求
名誉毀損についての共同不法行為に基づく損害賠償請求。
(イ)Y2らに対する請求
(a)Y2らが本件映画の公開を中止⇒本件映画が公開され、観客により視聴されることに対するX1の期待権が侵害⇒不法行為に基づく損害賠償請求
(b)Y2らが本件映画に係る完成作品及びその他一切の映像素材のデータを廃棄したことがX1の人格権を侵害⇒不法行為に基づく損害賠償請求。
(ウ)Y3に対する請求
X1が本件映画の著作権を有するうことの確認請求。

<規定>
第四条(著作物の公表)
3二次的著作物である翻訳物が、第二十八条の規定により第二十二条から第二十四条までに規定する権利と同一の権利を有する者若しくはその許諾を得た者によつて上演、演奏、上映、公衆送信若しくは口述の方法で公衆に提示され、又は第二十八条の規定により第二十三条第一項に規定する権利と同一の権利を有する者若しくはその許諾を得た者によつて送信可能化された場合には、その原著作物は、公表されたものとみなす。

著作権法2条
7この法律において、「上演」、「演奏」又は「口述」には、著作物の上演、演奏又は口述で録音され、又は録画されたものを再生すること(公衆送信又は上映に該当するものを除く。)及び著作物の上演、演奏又は口述を電気通信設備を用いて伝達すること(公衆送信に該当するものを除く。)を含むものとする。

<判断>
●本件脚本に係る公表権侵害の成否
◎ Y1:Xらが本件脚本の著作権を有していたとしても、本件映画が映倫試写会で公開された際に、本件脚本も同時に公衆に提供されていた⇒その後、本件脚本が週刊誌に掲載されても、公表権を侵害しない。

◎ 判断:
著作権法4条3項:
翻訳物の公衆への提示等を原著作物への公衆への提示等と同視して、翻訳物が公表された場合には、原著作物も公表されたものとみなす旨規定
but
本案物は、翻訳物よりも、原著作物からの創作的表現の幅が広い⇒脚本の本案物である映画が、当該脚本の著作者又はその許諾を得た者によって上映の方法で公衆に提示等された場合であっても、当該脚本が公表されたものとみなすのは相当ではない

著作権法2条7項:
上演、演奏又は口述には、著作物の上演、演奏又は口述で録音され又は録画されたものを再生することなども含む旨規定。

脚本の本案物である映画が上映⇒当該脚本に係る実演が映写されるとともにその音が再生⇒著作物の公表という観点からすると、脚本の上演で録音され又は録画されたものを再生するものと実質的には異なるところはない。

脚本の本案物である映画が、当該脚本の著作者又はその許諾を得た者によって上映の方法で公衆に提示された場合には、当該脚本は、公表されたものと解するのが相当。

・・・本件映画は、少数かつ特定の者に対し上映されたにとどまる⇒本件試写会で本件映画を上映する行為は、公衆に提示されたものとはいえない。

本件脚本をXらに無断で本件週刊誌に掲載する行為は、Xらの本件脚本に係る公表権を侵害するもの。

Y1:X1は本件試写会において本件脚本を一般公開する意図の下、本件試写会を実施⇒本件脚本後その後公表されることに同意していた。
vs.
著作者は、その著作物でまだ公表されていないものを公表するか否かを決定する公表権(法18条)を有するところ、その著作物には著作者の人格的価値を左右する側面がある
⇒公表権には、公表の時期、方法及び態様を決定する権利も含まれる。

X1が公表につき同意したのは、あくまで、本件試写会におけるものにとどまると認めるのが相当であり、それを超えて、本件脚本がその後本件週刊誌に掲載されることにまで同意していたことを認めるに足りる客観的な証拠はない。

公表された本件脚本の内容、性質、分量等
本件映画を不敬映画と評する本件記事の中で紹介された公表の態様
本件脚本が公表された本件週刊誌の内容、性質、社会に対する影響力
その他本件の事実関係

Xらが本件脚本に係る公表権を侵害されたことによる精神的苦痛に対する慰謝料としては、Xらにつき各30万円を認めるのが相当。

●名誉毀損
本件記事のうち、
①本件映画が昭和天皇をモデルとしたピンク映画であるという事実を摘示した上で、その事実を前提に、
②本件映画は不敬な映画であり、このような本件映画を制作すること自体、社会的に許されるものではない旨の意見ないし論評を表明した部分
に限り、X1の社会的評価を低下させるものであるとした。
その上で、
公共の利害に関する事実に係り専ら公益を図る目的で掲載
重要な部分について真実
人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものとはいえない

本件記載1を掲載する行為は、違法性を欠く。

●期待権侵害
Y3は、207万3000円を支払って、X1から、本件映画に係る著作権を譲り受けた

X1が本件映画の公開を期待していたとしても、自らの判断で本件映画の著作権を譲渡している以上、本件映画を利用できるのは著作権者又はその許諾を得たものに限られる

X1の期待は、事実上のものにすぎず、法律上保護される利益であるとまで認めることはできない。

判例時報2549

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

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