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2023年5月 3日 (水)

第三者による詐欺行為で損害⇒担当取締役の善管注意義務・忠実義務違反(否定)

大阪地裁R4.5.20

<事案>
Zとの株主であるXは、Y1(代表取締役)について、
①本件売買契約を稟議書によって承認したことや残代金決済前倒しを承認したことが経営判断上の誤りであること
②従業員に対する監視監督義務を怠ったこと
③内部統制システム(リスク管理体制)構築義務を怠ったこと
④被害回復措置を怠ったこと
⑤被害拡大防止措置を怠ったこと
等を理由として、
Y1及び経理財務部門担当の取締役(副社長)であったY2に対し、
Zに生じた損害をZに賠償するよう求めて本件を提訴。

<争点>
主な争点:
Y1が本件売買契約を事前に承認した上、残代金決済前倒しについても事前に承認⇒会社が目的とする事業を遂行する上で取締役が行った判断が、その負っていた任務に違背するものであったといえるか?

<判断>
取締役による決裁を経て不動産を購入するに至ったが、それによって当該会社に損害が生じた場合、かかる意思決定に関与した取締役が当該会社に対して善管注意義務違反ないし忠実義務違反による責任を負うか否かについては、
取締役に求められる上記の判断が、当該会社の経営状態や当該不動産の購入によって得られる利益等の種々の事情に基づく経営判断であることからすれば、取締役による当時の判断が取締役に委ねられた裁量の範囲に止まるものである限り、結果として会社に損害が生じたとしても、当該取締役が上記の責任を負うことはない。
当該取締役の地位や担当職務等を踏まえ、当該判断の前提となった事実等の認識ないし評価に至る過程が合理的なものである場合には、かかる事実等による判断の推論過程及び内容が著しく不合理なものでない限り、当該取締役が善管注意義務違反ないし忠実義務違反による責任を負うことはない。

当該会社が大規模で分業された組織形態となっている場合には、当該取締役の地位及び担当職務、その有する知識及び経験、当該案件との関わりの程度や当該案件に関して認識していた事情等を踏まえ、下部組織から提供された事実関係やその分析及び検討の結果に依拠して判断することに躊躇を覚えさせるような特段の事情のない限り、当該取締役が上記の事実等に基づいて判断したときは、その判断の前提となった事実等の認識ないし評価に至る過程は合理的なものということができる。
・・・・稟議書の記載や担当従業員から個別に受けた説明に依拠して判断することに躊躇を覚えさせるような事情があったとは認められない
Y1の判断は、その前提となった事実等の認識ないし評価に至る過程は合理的であったといえ、かかる事実等による判断の推論過程及び内容についても著しく不合理なものではなかった。
⇒経営判断としてY1に許された裁量の範囲に止まる。
Y1が残代金決済前倒しの方針を事前に承認したことについても、同様。

<解説>
●取締役のの経営に関する判断事項についての善管注意義務違反の成否:
最高裁:アパマンショップ株主代表訴訟事件(最高裁H22.7.15):
株式取得の方法や価格について、取締役は、様々な事情を総合考慮して決定することができ、その決定の過程、内容に著しく不合理な点がない限り、取締役としての善管注意義務に違反するものではない
取締役の業務執行は、不確実な状況で迅速な決定を迫られる場合が多く、
善管注意義務が尽くされたか否かの判断は、行為当時の状況に照らし合理的な情報収集・調査・検討等が行われたか、及び、その状況と取締役に要求される能力水準に照らし不合理な判断がなされなかったかを基準になされるべきであり、事後的・結果論的な評価がなされてはならない(江頭)。
取締役の裁量を踏まえた任務懈怠の検討にあたっては、従前から、
経営判断の前提となる事実認識の過程(情報収集とその分析・検討)における不注意な誤りに起因する不合理さの有無と、
事実認識に基づく意思決定の推論過程及び内容の著しい不合理の存否
の2点から判断。

情報収集過程と判断過程に着目して、
情報収集過程については不合理さの有無を
判断過程については著しい不合理性の有無
検討

特に経営判断の内容については、経営判断の特質から取締役に広い裁量が認められ、裁判所による厳格な審査になじみにくいといえ、
経営判断の過程については、取締役に認められる裁量の幅が相対的に狭くなる。

●本判決:
取締役の判断の前提となる情報収集・分析、検討について、大規模組織における意思決定の特質が考慮に入れられるべきものであり、特段の事情が認められない限り、下部組織の行った情報収集・分析、検討を基礎として自らの判断を行うことが許される。

善管注意義務の懈怠が問題となっている場合においても、
取締役は下部組織の報告に依拠することができるものの、
報告の信用性を疑わせるといった事情があるときは、取締役から改めて情報を収集することを求めることで、これらの特質に沿った判断が可能となる。

判例時報2546

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

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