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2023年5月29日 (月)

懲戒免職処分に先行する自宅待機の間の市職員の給料等請求権(肯定)

大津地裁R2.10.6

<事案>
Y(滋賀県甲賀市)の職員であったXは、選挙の開票事務において不正行為を行った⇒自宅待機命令⇒1年以上の自宅待機を経て、公選法違反で罰金刑に処する旨の略式命令⇒懲戒免職処分。
Xが、前記自宅大金命令を受けてから懲戒免職処分がされるまでの間、各種手当を含む給料等の大半が支払われなかった⇒Yに対し、公法上の任用関係に基づき、未払給料等の支払を求めた。
Yにおいて、職務命令として無給の自宅待機命令を発することができると定めた法律や条令はなし。

<争点>
X:年次有給休暇の取得はYの一方的取扱いにすぎないし、法令や条例に根拠のない自宅待機命令は違法⇒給料等請求権は失われない。
Y:年次有給休暇の取得はXの了解の下されたものであり、自宅待機命令は緊急にして合理的な理由にもとづくものであって、Xが勤務をしていない以上、勤務を前提とする給料等の支給はできない。

<判断>
●有給休暇期間中の管理職手当
Xが、年次有給休暇を取得したものと扱われていたことを認識しつつ、Yに異を唱えなかった経緯⇒年次有給休暇の取得をする黙示の意思表示があった。
Yの条例上、管理職手当は、月の全日数にわたり勤務しなかった場合に支給できないと規定⇒有給休暇期間中の管理職手当の不支給は、条例の定めに従った相当な取扱い。

●有給休暇取得後
Yが、Xに対して誠実義務に従い自宅待機に応じた服務規律を遵守するよう命じる自宅待機命令書を交付し、Xがこれを遵守して、兼職等せず自宅待機⇒職務命令に従った労務の提供がある。

Yの条例上、勤務に対する報酬と定められている給料、給料に連動して支給されると定められている地域手当、月の全日数にわたり勤務しなかった場合は支給することができないと定められている管理職手当
~Xに請求権がある。

Yの条例上、任命権者の決定する成績率に乗じた金額が支給されると定められている勤勉手当については、任命権者である市長が、Xのした不正行為の内容を踏まえて成績率をゼロと定めたと認められ、そのような市長の判断は裁量権を逸脱濫用したものでない⇒勤勉手当の不支給は相当。

<解説>
●年次有給休暇の時季指定権
年次有給休暇をいつ、どの程度取得するかは、本来、労働者が時季指定権を行使して特定される。
本件では、Xが時季指定権をあらかじめ明確に行使した経緯はない。
but
突発的な理由で欠勤をしたが、事後的にその欠勤日を年次有給休暇に振り替える取扱いがなされることが珍しくないように、労使間で合意があれば、時季指定権の行使が事前にされないことが許容されているのが多くの職場における実情。

年次有給休暇の取得について事後的な合意があったと認められる本件で、事前の時季指定権の行使がなかった点だけを理由に、Yが年次有給休暇の取得扱いをしたことが違法であるとまではいえない。

●自宅待機命令
地公法29条4項は、職員の懲戒の手続及び効果は、法律に特別の定めがある場合を除く外、条例で定めなければならない旨規定。

地方公務員の地位及び権利を保護し、強い身分保障を与えるとともに、任命権者の恣意的な不利益処分から地方公務員を保護することによって、公務の民主的な運営を保障。

◎民間の労使関係において、使用者は、業務命令権の濫用とならないような相当の事由がある場合に、労働者に自宅待機や出勤停止を命じることができる
but
使用者は当然に賃金の支払義務を免れるものではなく、同義務を免れるためには、事故の発生は不正行為の再発のおそれがあるなど、就労を許容しないことについて合理的理由が必要。

裁判例:使用者が賃金支払義務を免れるためには、労働者を就労させないことについて「不正行為の再発、証拠隠滅のおそれなどの緊急かつ合理的な理由」等が必要

◎本件:
法令に基づいて行われるべき公法上の任用関係であるのに、法令の定めがない
仮に、緊急でやむを得ない場合として例外的に許容される余地を考えるとしても、年次有給休暇2か月の期間があった
その後懲戒免職処分がされるまで1年余りという長期間に及んでいる
その間、XはYの私事に従って兼業ができず、十分な収入を得られない生活を余儀なくされた
Xに在宅でなし得る仕事を与えなかったのはYの判断

就労を許容しないことについて緊急かつ合理的な理由があるとも言い難い事案。

判例時報2548

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

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