ロードサービスの不正利用についての損害賠償請求の事案
大阪地裁R4.5.25
<事案>
原告(JAF):全国でロードサービス等を提供している一般社団法人
被告ら:原告の一般会員(個人会員)であった者であり、中古車販売や自動車修理業、高級外車の販売業等を営んでいた。
原告のロードサービスは、自動車修理業者等が商用目的で利用できないにもかかわらず、被告らが商用目的であることを秘して、走行中に故障した車両であると装い、無償で数百回のロードサービスを利用⇒不法行為又は不当利得に基づき、無償利用したロードサービスの対価相当額の賠償又は返還を求めた。
<争点>
①原告のロードサービスは商用目的で利用することが許容されていなかったか
②被告らは商用利用が許容されていないことを認識していたか
③被告らが、商用利用であるにもかかわらず、私的利用を装って無償利用をしたのか
④前記無償利用による原告の損害額(又は不当利得額)及び過失相殺の可否
<判断>
●争点①
設立経緯や事業内容・定款の記載等⇒公益目的の法人であり、車両の走行中に発生した偶発的な事故や故障に対応するという目的で、民間業者と比較しても低廉な価格で、かつ利用回数に制限なくロードサービスが利用できるという相互扶助の制度を設けている⇒会員が自己の事業のために利用することを想定していないことは明らか。
⇒会員規則等で明示されていなくても、商用目的でロードサービスを利用することは許容されていない。
●争点②③
被告らは、事業目的で、自動車の修理工場間や中古車のオークション会場間の搬送等にロードサービスを相当数利用⇒被告らは商用目的での利用が許容されないものであることを認識しながら不正に無償利用をした⇒不法行為責任を肯定。
●争点④
原告の非会員向けの価格に基づき損害額を算出する一方、原告が、現場の作業員から被告らの商用利用を疑わせる報告を複数回受けていたにもかかわらず特段の対策をしていなかった
⇒被告らの不正な無償利用を看過した原告側にも相当程度の問題があった。
⇒被告らの利用時期に応じて3割~5割の過失相殺。
<解説>
過失相殺について、特に詐欺類型の場合、欺罔者側の問題が大きく、過失相殺や相殺割合には慎重な配慮が求められる。
本件では、
①単に原告側が不正利用を阻止できる体制を構築していなかったことだけでなく、
②明らかに異常な回数の利用や、現場作業員からの報告等により、不正利用の徴候を現実的に覚知できたにもかかわらず、不正利用を防止する措置を講じなかったこと等
を理由に過失相殺を行った。
被告らの不正利用の疑いがより顕著になるにつれて、段階的に過失割合を大きくしており、5割という大きな過失相殺を行った意味でも、同種事案の参考に。
不当利得請求権について、不法行為請求との平仄を念頭に、民法722条の類推適用による過失相殺はしなかったが、信義則上、過失相殺と同率の範囲で請求が制限されるとした。
判例時報2547
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