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2023年5月12日 (金)

養子縁組無効の事案

福岡高裁R4.9.6

<事案>
亡Aの子であるXがYに対し、本件養子縁組(亡AとYとの養子縁組)は
①Yによる 本件養子縁組届の亡A自書部分の偽造
②本件養子縁組届作成時の亡Aの意思能力の不存在
③亡A・Y間の届出意思及び縁組意思の不存在
により無効
⇒本件養子縁組の無効確認を求めた事案。

<原審>
本件養子縁組届の作成当時、亡Aに意思能力がなかったとは認められないが、
本件養子縁組当時、亡Aに届出意思又は縁組意思がなかったと認められる
⇒本件養子縁組は無効

<判断>
本件養子縁組について、Yが亡Aに無断で本件養子縁組届を提出したもので、亡Aには本件養子縁組をする意思がなかったと認められる⇒養子縁組を無効として、控訴を棄却。

上記①:
「養親になる人」欄の署名は亡Aが自署した可能性が高いが、
「届出人署名押印」欄の署名は、Yの筆跡と似通っている⇒Yが記載した可能性を否定できない。

上記②:
診療録の記載等に基づく認定事実
⇒本件養子縁組届作成当時、意思能力がなかったと認めることはできない。

上記③:
養子縁組の目的、経緯について検討し、亡AとYとの関係からして、本件養子縁組をしたとしても不自然ではない程度の関係性があった。
but
①Yは、亡Aの死亡の前後にわたって多額の預貯金を払い戻し、その出金の必要性について合理的に説明することができていない⇒Yと亡Aとの信頼関係の存在に疑問を抱かせる。
②亡Aが「届出人署名押印」欄に署名していないにもかかわらず、亡Aが「養親になる人」欄と「届出人署名押印」欄の両方に署名したとするYの供述が信用できない

Yが亡Aに無断で「届出人署名押印」欄に亡Aの氏名を記載した上で届出をしたものと認めるのが相当。
⇒本件養子縁組は亡Aの縁組意思が存在せず無効。

<規定>
民法 第八〇二条(縁組の無効)
縁組は、次に掲げる場合に限り、無効とする。
一 人違いその他の事由によって当事者間に縁組をする意思がないとき。
二 当事者が縁組の届出をしないとき。ただし、その届出が第七百九十九条において準用する第七百三十九条第二項に定める方式を欠くだけであるときは、縁組は、そのためにその効力を妨げられない。

<解説>
養子縁組は「人違いその他の事由によって当事者間に縁組をする意思がないとき」(民法802条1号)に無効

縁組意思の不存在:
実質的意思説:縁組意思を習俗的標準に照らして親子と認められるような関係を創設しようとする意思
形式的意思説:縁組意思を届出に向けられた意思と捉えるもの

判例:当事者間いおいて真に養親子関係の設定を欲する効果意思(実質的意思説)
(養子が養親の意思に基づかず)無断で縁組の届出⇒縁組意思の意義に関して前記のいずれの見解に立ったとしても、縁組意思を欠き無効。

本判決:
養子が養親に無断で縁組届を提出したか否かを判断するに当たって、
①縁組届の署名欄が自署であるか
②養親と養子との従前の生活関係
③縁組をする目的、経緯
④縁組届提出の前後における養子の不自然な言動等の有無等
の諸事情を具体的に事実認定した上で総合考慮し、養親に縁組意思がなかったと認められると判断。

判例時報2547

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

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