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2023年5月29日 (月)

懲戒免職された地方公務員の退職手当不支給処分の取消請求(肯定)

福岡高裁R3.10.15

<事案>
熊本県阿蘇市の地方公務員が酒気帯び運転で検挙⇒懲戒免職処分を受け、退職手当等の全部を支給しないこととする処分(本件制限処分)⇒それぞれについて審査請求をしたが認められず⇒⇒本件制限処分は裁量権の逸脱又は濫用があって違法であると主張し、Y(熊本県市町総合事務組合)に対して、本件制限処分の取消しを求めるとともに、退職手当の支払を求めた。

市町村職員退職手当条例(本件条例):
懲戒免職処分を受けて退職した者について、処分行政庁である熊本県市町村総合事務組合長が、当該退職者に対し、その者が絞めていた職の職務及び責任、勤務の状況、非違の内容及び程度、非違に至った経緯、非違後における言動、非違が公務員の遂行に及ぼす支障の程度並びに非違が公務に対する信頼に及ぼす影響を勘案して、一般の退職手当等の全部又は一部を支給しないこととする処分を行うことができる。

<一審>
①Xの非違行為が悪質かつ極めて危険な行為であり、その同機において酌量の余地はなく、阿蘇市が飲酒運転への取組みを強めている中で、交通安全に係る業務を分掌する部署の管理職であるXが飲酒運転に及んだ責任は重く、阿蘇市に対する市民の評価・信頼を大きく損なうもの
②非違行為後に真摯に反省したとも認められない

本件制限処分について処分魚成長に裁量の逸脱又は濫用があるとは認められない⇒Xの請求を棄却。

<判断>
●一審判決が指摘したような事情はあるものの、
①懲戒免職処分を受けるまでの約34年間懲戒処分を受けることなく勤務してきた
②Xが酒気帯び運転をした距離は比較的短く、物損事故や人身事故も発生させなかった
③非違行為の当日に総務課長に報告するなど速やかに必要な対応をした

Xの阿蘇市に対する長年の貢献が無になったとまではいえない。
①公務員に対する退職手当が賃金の後払い及び退職後の生活保障の性格も有しており、退職手当の支給制限処分に係る裁量権の逸脱又は濫用の有無の判断においては、処分を受ける者の不利益の程度も考慮する必要がある。
②Xの年令からして再就職が用意でないと考えられる

1700万円を超える退職手当の全部を受け取れないことによるXの生活に対する影響は大きいとして、本件制限処分は社会通念上著しく妥当性を欠くものであって、処分行政庁がその裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものと判断し、本件制限処分を取り消した。

処分行政庁は、退職手当の全額を支給しないこととする処分が違法であるとして取り消された場合、その一部を支給しないこととする新たな支給制限処分をすることが可能
⇒Xの退職手当の支払請求を棄却。

<解説>
・・・これらの処分が社会通念上著しく妥当性を欠いて裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したと認められる場合に限り違法となる。
but
この枠組みから結論が一義的に導かれるものではなく、裁量権の範囲の逸脱又は濫用の有無は各事案の具体的な事情から判断するしかない。
飲酒運転は、交通事故を引き起こす危険性が高く、社会的に非難すべき行為であることは間違いない。
but
飲酒運転の一般的な危険性だけでなく、処分を受けた者に関する個別具体的な事情を全体的に考慮して判断する必要がある。

判例時報2548

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

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