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2023年5月16日 (火)

共同漁業権から派生する漁業行使権に基づく諫早湾干拓地潮受堤防排水門の開門請求を認容する確定判決に対する請求異議訴訟

福岡高裁R4.3.25

<事案>
X(国)が・・・諫早湾干拓地潮受堤防の排水門の開放を求める請求権が認容されたYらに対し、本件各確定判決による強制執行の不許を求めた請求異議訴訟の差戻後控訴審

<経緯>
●Yらは、Xに対し、漁業権又は漁業を営む権利による妨害予防・妨害排除請求権等に基づき、主位的に本件潮受堤防の撤去、予備的に本件各排水門の常時開放を求める訴え(前訴)を佐賀地裁に提訴
Yらの一部の者につき、漁業権行使権による妨害排除請求権に基づく予備的請求を一部認容し、Xは、前記Yらに対する関係で「判決確定の被から3年を経過する日までに、防災上やむを得ない場合を除き、本件各排水門を開放し、以後5年間にわたって本件各排水門の開放を継続せよ」と命ずる判決⇒控訴も棄却され確定。

Xは、
本件各確定判決の口頭弁論終結後に生じた事実関係の変動が請求異議事由に当たる
当該事実関係の変動を踏まえると、本件各確定判決に基づく強制執行が権利濫用に当たり、信義則に反し許されない
一部のYらは、漁業協同組合の組合員たる地位を喪失している
などと主張し、本件訴訟を提起。


一審:
一部のYらに対する訴えを却下し、一部のYらに対する請求を認容
⇒Xは、棄却部分を不服として控訴

控訴審:
本件各確定判決において本件開門請求権の根拠とされた共同漁業権は、存続期間の末日である平成25年8月31日の経過により消滅し、共同漁業権から派生する権利であるYらの各漁業行使権に基づく本件開門請求権も消滅。
⇒本件各確定判決に係る請求権は前訴の口頭弁論終結後に消滅し、請求異議事由となる。
⇒Xの請求を認容するとともに、本件各確定判決に基づく強制執行の停止を命じた。


上告審:
Yらの上告を棄却したが、上告受理の決定。
本件各確定判決の確定後、前訴の口頭弁論終結時に存在した共同漁業権の存続期間の経過により本件開門請求権が消滅したとしても、本件各確定判決が、その主文から、同存続期間の経過後に本件各確定判決に基づく開門が継続されることも命じていた

本件各確定判決に係る請求権は、本件開門請求権のみならず、道存続期間の翌日に免許がされた同共同漁業権と同一内容の共同漁業権から派生する漁業行使権に基づく開門請求権と同一内容の共同漁業権から派生する漁業行使権に基づく開門請求権をも包含するものと解され、前者の本件開門請求権が消滅したことは、それのみでは本件各確定判決に対する請求異議の訴えにおける異議事由とはならない

本件各確定判決が、あくまでも将来予測に基づくものであり、開門の時期に判決確定の日から3年という猶予期間を設けた上、開門期間を5年間に限って請求を認容するという特殊な主文を採った暫定的な性格を有する債務名義であること、
前訴の口頭弁論終結日から既に長期間が経過していることなど
前訴の口頭弁論終結後の事情の変動により、本件各確定判決に基づく強制執行が権利の濫用になるかなど、本件各確定判決について他の異議の事由の有無について更に審理を尽くさせる必要がある
⇒控訴審判決を破棄し、本件を福岡高裁に差し戻す。

<判断>
本件訴訟の口頭弁論終結時(令和3年12月1日)においては、本件各確定判決に基づく強制執行が、権利濫用に当たり、又は、信義則に照らし、許されない
⇒本件請求異議の訴えを認めた。

最高裁昭和62.7.16を引用し、確定判決等の債務名義に基づく強制執行が権利の濫用と認められるか否かは、
①当該債務名義の性質
②同債務名義により執行し得る者として確定された権利の性質・内容
③同債務名義成立の経緯及び同債務名義成立後強制執行に至るまでの事情
④強制執行が当事者に及ぼす影響等諸般の事情
を総合して判断すべき。

本件各確定判決の性質や性格、これにより確定された権利の性質・内容等
⇒本件各確定判決が、暫定的・仮定的な利益衡量を前提とした上で、あくまで期間を短く限った判断をしている。

前記口頭弁論終結後の事情の変動を踏まえて、改めて利益衡量を行い、その結果等も踏まえ、前記のような判断に基づく債務名義たる本件確定判決により、現時点において強制執行を行うことの適否を検討すべきであり、本件各確定判決が現時点において強制執行を行うに適しないと判断される場合には、その結果として、Yらの強制執行が権利濫用に当たると評価される。

①漁業の状況、②本件潮受堤防の閉切りと漁業被害との関係、③営農関係の状況、④本件各確定判決後におけるXの本件各排水門の開閉に向けた取組、⑤本件潮受堤防の閉切りによる新たな自然環境の構築、⑥近時の気候状況、⑦防災に関係する事項等について、特に前訴の口頭弁論終結後の事情の変動を中心に詳細な事実認定を行い、
漁業に関する状況、防災機能に関する状況、営農等の状況のほか、新たに形成された生態系や自然環境への影響等その他の事情について、改めて利益衡量。

本件各確定判決の口頭弁論終結時と比較して、Yらが有する漁業権行使に対する影響の程度は軽減する方向となる一方、本件潮受堤防の閉切りの公共性等は増大する方向となったなどの諸事情を総合的に考察。

現時点において、Yらの救済として、本件各確定判決で認容された本件各排水門の常時開放請求を、防災上やむを得ない場合を除き常時開放する限度で認めるに足りる程度の違法性があるとはいえない。

現時点で、前記のような性質等を有する本件各確定判決に基づき、Yらが強制執行を行うことは、権利濫用に当たり、又は、信義則に照らし、許されない。

判例時報2548

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

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