分限免職処分を違法とした原審の判断に違法ありとされた事例
最高裁R4.9.13
<事案>
普通地方公共団体である上告人(山口県長門市)の消防職員であり、部下への暴行等を繰り返した被上告人が、任命権者である長門市消防長から、その職に必要な適格性を下記、地公法28条1項3号の分限免職処分⇒上告人を相手にその取消しを求めた。
<原審>
被上告人の消防吏員としての素質、性格等に問題があることは前提としつつも、
①上告人の消防組織においては、公私にわたり職員間に濃密な人間関係が形成され、職務柄、上司が部下に対して厳しく接する傾向にあり、本件各行為も、こうした独特な職場環境を背景として行われた
②被上告人には、本件処分に至るまで、自身の行為を改める機会がなかったことに鑑み、本件各行為は、単に被上告人個人の簡単に矯正することのできない持続性を有する素質、性格等にのみ基因して行われたものとは言い難い⇒被上告人を分限免職とするのは重きに失する。
⇒本件処分の取消請求を認容。
<判断>
・・・・のような長期間にわたる悪質で社会常識を欠く一連の行為に表れた被上告人の粗野な性格につき、消防職員として要求される一般的な適格性を欠くとみることは不合理ではなく、
本件各行為の頻度等も考慮すると、前記性格につき改善の余地がないとみることも不合理な点は見当たらない。
消防組織の特性も踏まえつつ、本件各行為による消防組織の職場環境への悪影響を重視することも合理的。
・・・被上告人を消防組織内に配置しつつ、その組織としての適正な運営を確保することは困難。
⇒
本件処分に係る長門市消防長の判断が合理性を持つものとして許容される限度を超えたものであるとはいえず、本件処分が裁量権の行使を誤った違法なものであるとはいえない。
⇒本件処分を違法とした原審の判断には違法がある
⇒原判決を破棄し、第1審判決を取り消して請求を棄却。
<解説>
●判断枠組み
最高裁(昭和48.9.14):
地公法28条に基づく分限処分については、大要、任命権者に一定の裁量権が認められるものの、その判断が合理性を持つものとして許容される限度を超えたものである場合には、裁量権の行使を誤った違法のものであることを免れない。
~
講学上、判断過程審査の一種と位置付けられているが、
懲戒処分等について用いられる社会観念審査の手法(重要な事実の基礎を欠くか、又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠く場合に限り裁量権の逸脱濫用に当たるとして違法とする審査手法)と大きな相違はない。
最近では、社会観念審査の方法と判断過程審査の方法とが併用される判例が目立っているようにも見受けられるとの指摘(宇賀)。
●当てはめについて
本判決に示されている被上告人の行為は、職務上の必要性と関係なく、部下等の立場にある者を身体的又は精神的に攻撃するものであり、いかなる職場環境においても許される余地はない⇒職場環境の問題と被上告人の行為の評価とを結びつけることは不合理。
(本判決:職場環境の点により判断が異なることにとならないとの説示)
免職処分については、慎重な判断が求められる(懲戒処分の場合においても同様)
but
被上告人の一連の行為の悪質性や継続性に鑑み、改善の余地がないとみることが不合理でない。
かかる状況においてまで、指導の機会を設けるなどしなければならないと解するのは、硬直的に過ぎる⇒あくまでも事案の特性に応じ、指導の機会を経ずに直ちに免職とすることが許容される余地もあるのであって、このことは、昭和48年最判が、免職処分につき特に慎重、厳密な検討を要するとしていることと矛盾するものではない。
●裁判例
判例時報2547
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