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2023年5月

2023年5月29日 (月)

懲戒免職処分に先行する自宅待機の間の市職員の給料等請求権(肯定)

大津地裁R2.10.6

<事案>
Y(滋賀県甲賀市)の職員であったXは、選挙の開票事務において不正行為を行った⇒自宅待機命令⇒1年以上の自宅待機を経て、公選法違反で罰金刑に処する旨の略式命令⇒懲戒免職処分。
Xが、前記自宅大金命令を受けてから懲戒免職処分がされるまでの間、各種手当を含む給料等の大半が支払われなかった⇒Yに対し、公法上の任用関係に基づき、未払給料等の支払を求めた。
Yにおいて、職務命令として無給の自宅待機命令を発することができると定めた法律や条令はなし。

<争点>
X:年次有給休暇の取得はYの一方的取扱いにすぎないし、法令や条例に根拠のない自宅待機命令は違法⇒給料等請求権は失われない。
Y:年次有給休暇の取得はXの了解の下されたものであり、自宅待機命令は緊急にして合理的な理由にもとづくものであって、Xが勤務をしていない以上、勤務を前提とする給料等の支給はできない。

<判断>
●有給休暇期間中の管理職手当
Xが、年次有給休暇を取得したものと扱われていたことを認識しつつ、Yに異を唱えなかった経緯⇒年次有給休暇の取得をする黙示の意思表示があった。
Yの条例上、管理職手当は、月の全日数にわたり勤務しなかった場合に支給できないと規定⇒有給休暇期間中の管理職手当の不支給は、条例の定めに従った相当な取扱い。

●有給休暇取得後
Yが、Xに対して誠実義務に従い自宅待機に応じた服務規律を遵守するよう命じる自宅待機命令書を交付し、Xがこれを遵守して、兼職等せず自宅待機⇒職務命令に従った労務の提供がある。

Yの条例上、勤務に対する報酬と定められている給料、給料に連動して支給されると定められている地域手当、月の全日数にわたり勤務しなかった場合は支給することができないと定められている管理職手当
~Xに請求権がある。

Yの条例上、任命権者の決定する成績率に乗じた金額が支給されると定められている勤勉手当については、任命権者である市長が、Xのした不正行為の内容を踏まえて成績率をゼロと定めたと認められ、そのような市長の判断は裁量権を逸脱濫用したものでない⇒勤勉手当の不支給は相当。

<解説>
●年次有給休暇の時季指定権
年次有給休暇をいつ、どの程度取得するかは、本来、労働者が時季指定権を行使して特定される。
本件では、Xが時季指定権をあらかじめ明確に行使した経緯はない。
but
突発的な理由で欠勤をしたが、事後的にその欠勤日を年次有給休暇に振り替える取扱いがなされることが珍しくないように、労使間で合意があれば、時季指定権の行使が事前にされないことが許容されているのが多くの職場における実情。

年次有給休暇の取得について事後的な合意があったと認められる本件で、事前の時季指定権の行使がなかった点だけを理由に、Yが年次有給休暇の取得扱いをしたことが違法であるとまではいえない。

●自宅待機命令
地公法29条4項は、職員の懲戒の手続及び効果は、法律に特別の定めがある場合を除く外、条例で定めなければならない旨規定。

地方公務員の地位及び権利を保護し、強い身分保障を与えるとともに、任命権者の恣意的な不利益処分から地方公務員を保護することによって、公務の民主的な運営を保障。

◎民間の労使関係において、使用者は、業務命令権の濫用とならないような相当の事由がある場合に、労働者に自宅待機や出勤停止を命じることができる
but
使用者は当然に賃金の支払義務を免れるものではなく、同義務を免れるためには、事故の発生は不正行為の再発のおそれがあるなど、就労を許容しないことについて合理的理由が必要。

裁判例:使用者が賃金支払義務を免れるためには、労働者を就労させないことについて「不正行為の再発、証拠隠滅のおそれなどの緊急かつ合理的な理由」等が必要

◎本件:
法令に基づいて行われるべき公法上の任用関係であるのに、法令の定めがない
仮に、緊急でやむを得ない場合として例外的に許容される余地を考えるとしても、年次有給休暇2か月の期間があった
その後懲戒免職処分がされるまで1年余りという長期間に及んでいる
その間、XはYの私事に従って兼業ができず、十分な収入を得られない生活を余儀なくされた
Xに在宅でなし得る仕事を与えなかったのはYの判断

就労を許容しないことについて緊急かつ合理的な理由があるとも言い難い事案。

判例時報2548

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

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懲戒免職された地方公務員の退職手当不支給処分の取消請求(肯定)

福岡高裁R3.10.15

<事案>
熊本県阿蘇市の地方公務員が酒気帯び運転で検挙⇒懲戒免職処分を受け、退職手当等の全部を支給しないこととする処分(本件制限処分)⇒それぞれについて審査請求をしたが認められず⇒⇒本件制限処分は裁量権の逸脱又は濫用があって違法であると主張し、Y(熊本県市町総合事務組合)に対して、本件制限処分の取消しを求めるとともに、退職手当の支払を求めた。

市町村職員退職手当条例(本件条例):
懲戒免職処分を受けて退職した者について、処分行政庁である熊本県市町村総合事務組合長が、当該退職者に対し、その者が絞めていた職の職務及び責任、勤務の状況、非違の内容及び程度、非違に至った経緯、非違後における言動、非違が公務員の遂行に及ぼす支障の程度並びに非違が公務に対する信頼に及ぼす影響を勘案して、一般の退職手当等の全部又は一部を支給しないこととする処分を行うことができる。

<一審>
①Xの非違行為が悪質かつ極めて危険な行為であり、その同機において酌量の余地はなく、阿蘇市が飲酒運転への取組みを強めている中で、交通安全に係る業務を分掌する部署の管理職であるXが飲酒運転に及んだ責任は重く、阿蘇市に対する市民の評価・信頼を大きく損なうもの
②非違行為後に真摯に反省したとも認められない

本件制限処分について処分魚成長に裁量の逸脱又は濫用があるとは認められない⇒Xの請求を棄却。

<判断>
●一審判決が指摘したような事情はあるものの、
①懲戒免職処分を受けるまでの約34年間懲戒処分を受けることなく勤務してきた
②Xが酒気帯び運転をした距離は比較的短く、物損事故や人身事故も発生させなかった
③非違行為の当日に総務課長に報告するなど速やかに必要な対応をした

Xの阿蘇市に対する長年の貢献が無になったとまではいえない。
①公務員に対する退職手当が賃金の後払い及び退職後の生活保障の性格も有しており、退職手当の支給制限処分に係る裁量権の逸脱又は濫用の有無の判断においては、処分を受ける者の不利益の程度も考慮する必要がある。
②Xの年令からして再就職が用意でないと考えられる

1700万円を超える退職手当の全部を受け取れないことによるXの生活に対する影響は大きいとして、本件制限処分は社会通念上著しく妥当性を欠くものであって、処分行政庁がその裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものと判断し、本件制限処分を取り消した。

処分行政庁は、退職手当の全額を支給しないこととする処分が違法であるとして取り消された場合、その一部を支給しないこととする新たな支給制限処分をすることが可能
⇒Xの退職手当の支払請求を棄却。

<解説>
・・・これらの処分が社会通念上著しく妥当性を欠いて裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したと認められる場合に限り違法となる。
but
この枠組みから結論が一義的に導かれるものではなく、裁量権の範囲の逸脱又は濫用の有無は各事案の具体的な事情から判断するしかない。
飲酒運転は、交通事故を引き起こす危険性が高く、社会的に非難すべき行為であることは間違いない。
but
飲酒運転の一般的な危険性だけでなく、処分を受けた者に関する個別具体的な事情を全体的に考慮して判断する必要がある。

判例時報2548

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

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2023年5月28日 (日)

警察の情報提供が国賠法1条1項に反し違法とされた事案

岐阜地裁R4.2.21

<事案>
A:Xらの地元で風力発電事業を計画
X1・X2:本件発電事業に反対する運動
X3・X4:市民運動などに積極的に関与した経歴
岐阜県大垣警察署警備課所属の警察官が、Aに情報交換をもちかけ、Aの従業員との間で、合計4回にわたり、Xらの情報提供。

岐阜県警等が、Xらの個人情報を長年にわたって収集、保有し、大垣警察の警察官がそれらの情報の一部を民間企業に提供したことにより、Xらの人格権としてのプライバシー等が侵害された

Xらが、Y1(岐阜県)に対し、国賠法1条1項に基づき損害賠償を求めるとともに、人格権としてのプライバシーに基づき、Y1に対しては岐阜県警察が保有する、Y2(国)に対しては警察庁警備局が保有する、Xらの個人情報の抹消を求めた。

<規定>
警察法 第二条(警察の責務)
警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもつてその責務とする。
2警察の活動は、厳格に前項の責務の範囲に限られるべきものであつて、その責務の遂行に当つては、不偏不党且つ公平中正を旨とし、いやしくも日本国憲法の保障する個人の権利及び自由の干渉にわたる等その権限を濫用することがあつてはならない

<判断>
●大垣警察がAに提供したXらの情報は、
Xらが本件発電事業に関して現に行っている活動及び今後の活動の予測に関する情報、過去に関与した市民運動に関する情報などであり、これらの情報がプライバシー情報に当たる。
警察によるプライバシー情報の収集、保有及び利用は、警察法2条1項に照らし、犯罪の未然の防止も警察の責務に含まれる
同条2項に抵触しない限度で、(犯罪の)発生の可能性がある限り、万が一の事態に備えて任意捜査の方法により情報収集するなどして、その発生を予防する手段を研究し、準備しておくこともその責務に含まれると解するのが相当。
警察によるこのための情報収集等の対象にプライバシーなどの個人情報が含まれることあるとしても、上記警察の責務に照らせば、法律上、明文の根拠規定がないことをもって、直ちに国賠法上違法であるということはできない。

●情報提供行為の国賠法上の違法性:
行政機関がその職務において収集したプライバシー情報を、当該個人の承諾なく第3者に提供することは、プライバシー情報が憲法13条で保障されている個人の人格的利益に結びつくもので取扱い方によっては個人の人格的利益を損なうおそれがある。
⇒正当な理由のない限り、国賠法上違法。
・・・・必要性は認め難く、Xらのプライバシー情報を積極的、意図的に提供
⇒情報提供行為は国賠法上違法。

●Xらについての情報の収集・保有についての国賠法上の違法性に関し、
警察法2条1項に規定する警察の職責に照らし、警察による情報収集活動は、強制に及ばない任意捜査の方法による限り原則として許容されると解すべき。
but
同条2項の規定に照らし、情報収集活動が、たとえ任意捜査の方法によった場合であっても「憲法の保障する個人の権利及び事由の干渉にわたる」などその権限を濫用することは許されない
⇒本件情報収集等の警察による情報収集活動が国賠法上違法となるか否かは、収集、保有された情報の私事性及び秘匿性、個人の属性、被侵害利益の性質、本件情報収集等の目的、必要性及び態様等の事情を総合考慮して判断するべき。
情報収集、保有の必要性は否定できず、任意の手段により収集が行われたことを踏まえると、大垣警察による情報収集・保有には国賠法上の違法性はない。

●保有する情報の抹消請求は、請求の内容が特定されていない⇒訴えを却下。

<解説>
●プライバシーの権利内容は、論者により異なっており、その外延についての共通の理解は得られているとはいえない。
but
少なくとも「私生活をみだりに後悔されない権利」という内容は、いずれの見解でも含まれている権利内容。

最高裁H15.9.12:
大学が、その主催する講演会に参加を申し込んだ学生の氏名、住所等の情報を警察に開示した行為が不法行為を構成する。
これらの情報は、個人識別のための単純な情報であって、秘匿されるべき必要性は必ずしも高くない。
but
このような情報であっても「自己が欲しない他者にはみだりにこれを開示されたくないと考えることは自然なことである」と判示

本件:
①上記判例の情報よりも秘匿されるべき必要性がはるかに高い情報
②情報提供の相手方がXらと対立関係にある本件発電事業の事業者
⇒情報提供の違法性が肯定されたことは相当。

●警察が、犯罪発生を前提としない場合におけるプライバシー情報を収集したことの違法性:
違法性肯定事例



違法性否定事例


違法性肯定事例
プライバシー侵害の程度が著しい場合(①判決)
手段が不相当な場合(②判決)
情報収集の必要性が認められなかった場合(③判決)

本件:
プライバシー情報として高度なもの
but
任意捜査により収集されたもので、必要性も否定できないことなどを総合して、違法性を否定。

●収集した情報の抹消請求:
請求が特定されていない⇒却下。
同種の裁判例。

判例時報2548

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

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食道静脈瘤に対するEVLにおいて、鎮静剤であるミダゾラムの投与が問題となった事案 (過失あり)

神戸地裁R3.9.16

<事案>
Yが開設する病院において、食道静脈瘤に対する内視鏡的静脈瘤結紮術⇒本件手術中に心肺停止となるなどした結果、低酸素脳症により寝たきり

Yに対し、 選択的に不法行為又は債務不履行による損害賠償として合計1億5058万5330円及び遅延損害金の支払を求めた。

<争点>
鎮静剤であるミダゾラム10mgを側管注法で投与したことに過失又は注意義務違反があるか?

<判断>
①Xは、ミダゾラムの投与により呼吸抑制に陥りやすい状態にあり、実際にミダゾラム0.08mg/kgに相当する本件混合溶液を投与したことにより既に呼吸抑制が生じていた
②本件医師らはこれらの事実を認識していた
③ミダゾラムには呼吸抑制の副作用発生が警告されており、投与は緩徐な方法によるべきものとされていた⇒・・緩徐な方法によるべきであった。
④体動が激しいため、緩徐な方法によるとうよでは対応できないような場合には、Xに対するEVLが、どうしても本件手術の当日に実施しなければ、その日におけるXの生存にかかわるといった意味での急を要する手術というわけではなかった⇒本件混合溶液を追加投与するのではなく、EVLの続行を中止すべき注意義務があった。
but
本件医師らは、前記注意義務があるにもかかわらず、EVLを中止する判断をせず、これを続行するために、側管注法により本件混合溶液の残量8ml全部をXに投与し、その結果、過鎮静による呼吸抑制が生じ、これによりXに低酸素状態がもたらされた。
⇒過失又は注意義務違反を肯定。

Yに対し、1億3830万5198円及び遅延損害金の支払を命じた。

<解説>
鎮静剤の投与等が医師の注意義務違反になるかを判断した裁判例
肯定例
否定例

判例時報2548

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2023年5月16日 (火)

インプラント手術での過失(肯定事例)

大津地裁R4.1.14

<事案>
・・・神経損傷を生じさせないために適切な術前検査をして神経の走行位置を確認し、インプラント体の埋込方向や深度に注意を払うべき注意義務を怠ってインプラント体を下顎管に入り込む位置に埋入したため、左側三又神経を損傷

Yに対し、診療契約の債務不履行に基づく損害賠償を求めた

<争点>
①本件手術による神経損傷の有無
②術前検査におけるP医師の過失の有無

<判断>
●争点①:
①本件手術後に他の病院で撮影されたCT画像上、インプラント体が下顎管に触れていると読影できる
②Xが本件手術の翌日からP医師に対し術部の傷みや知覚鈍麻の症状を訴えていた
③三又神経の損傷を示す他の病院の診断書がある
神経損傷がある

Yによる、神経の走行位置がXの指摘する位置より下であるとの主張
vs.
専門委員として関与した歯科医師等の説明を踏まえ排斥

●争点②:
術前検査におけるP医師の過失について、
①CT撮影すればインプラント体の先端が下顎管に重なる位置に達すると分かっていたはずであり、パノラマレントゲン写真でもそのような読影をし得る
but
P医師がそのような読影をせず、神経走行位置に関する誤解をした

P医師が本件手術に先立ち撮影したパノラマレントゲン写真を見た以上には、下顎管の位置を正確に把握しようと務めたとはうかがえず、Yの主張するような口腔模型によって歯茎内部の構造を正確に把握することはできない⇒適切な検討を尽くしたとはいえない

適切な術前検査をして神経の走行位置を確認し、インプラント体の埋込方向や深度に注意を払うべき注意銀無に反した過失がある。

<解説>
裁判例
専門委員の説明は、あくまでも説明にすぎず、それ自体が証言や鑑定の結果ではない
⇒当該説明の内容を直ちに事実認定に用いることはできない。
but
専門委員の説明によって裁判官及び当事者双方が争点を正しく理解し、当該説明を前提とした主張立証の補充がされたたような場合であれば、専門委員がした説明の内容を記録化(当該説明の要旨を調書に記載したり、専門委員が作成した説明文書を記録に編てつ)した上で、これを弁論の全趣旨として事実認定に用いることは許容されるであろう。

判例時報2548

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共同漁業権から派生する漁業行使権に基づく諫早湾干拓地潮受堤防排水門の開門請求を認容する確定判決に対する請求異議訴訟

福岡高裁R4.3.25

<事案>
X(国)が・・・諫早湾干拓地潮受堤防の排水門の開放を求める請求権が認容されたYらに対し、本件各確定判決による強制執行の不許を求めた請求異議訴訟の差戻後控訴審

<経緯>
●Yらは、Xに対し、漁業権又は漁業を営む権利による妨害予防・妨害排除請求権等に基づき、主位的に本件潮受堤防の撤去、予備的に本件各排水門の常時開放を求める訴え(前訴)を佐賀地裁に提訴
Yらの一部の者につき、漁業権行使権による妨害排除請求権に基づく予備的請求を一部認容し、Xは、前記Yらに対する関係で「判決確定の被から3年を経過する日までに、防災上やむを得ない場合を除き、本件各排水門を開放し、以後5年間にわたって本件各排水門の開放を継続せよ」と命ずる判決⇒控訴も棄却され確定。

Xは、
本件各確定判決の口頭弁論終結後に生じた事実関係の変動が請求異議事由に当たる
当該事実関係の変動を踏まえると、本件各確定判決に基づく強制執行が権利濫用に当たり、信義則に反し許されない
一部のYらは、漁業協同組合の組合員たる地位を喪失している
などと主張し、本件訴訟を提起。


一審:
一部のYらに対する訴えを却下し、一部のYらに対する請求を認容
⇒Xは、棄却部分を不服として控訴

控訴審:
本件各確定判決において本件開門請求権の根拠とされた共同漁業権は、存続期間の末日である平成25年8月31日の経過により消滅し、共同漁業権から派生する権利であるYらの各漁業行使権に基づく本件開門請求権も消滅。
⇒本件各確定判決に係る請求権は前訴の口頭弁論終結後に消滅し、請求異議事由となる。
⇒Xの請求を認容するとともに、本件各確定判決に基づく強制執行の停止を命じた。


上告審:
Yらの上告を棄却したが、上告受理の決定。
本件各確定判決の確定後、前訴の口頭弁論終結時に存在した共同漁業権の存続期間の経過により本件開門請求権が消滅したとしても、本件各確定判決が、その主文から、同存続期間の経過後に本件各確定判決に基づく開門が継続されることも命じていた

本件各確定判決に係る請求権は、本件開門請求権のみならず、道存続期間の翌日に免許がされた同共同漁業権と同一内容の共同漁業権から派生する漁業行使権に基づく開門請求権と同一内容の共同漁業権から派生する漁業行使権に基づく開門請求権をも包含するものと解され、前者の本件開門請求権が消滅したことは、それのみでは本件各確定判決に対する請求異議の訴えにおける異議事由とはならない

本件各確定判決が、あくまでも将来予測に基づくものであり、開門の時期に判決確定の日から3年という猶予期間を設けた上、開門期間を5年間に限って請求を認容するという特殊な主文を採った暫定的な性格を有する債務名義であること、
前訴の口頭弁論終結日から既に長期間が経過していることなど
前訴の口頭弁論終結後の事情の変動により、本件各確定判決に基づく強制執行が権利の濫用になるかなど、本件各確定判決について他の異議の事由の有無について更に審理を尽くさせる必要がある
⇒控訴審判決を破棄し、本件を福岡高裁に差し戻す。

<判断>
本件訴訟の口頭弁論終結時(令和3年12月1日)においては、本件各確定判決に基づく強制執行が、権利濫用に当たり、又は、信義則に照らし、許されない
⇒本件請求異議の訴えを認めた。

最高裁昭和62.7.16を引用し、確定判決等の債務名義に基づく強制執行が権利の濫用と認められるか否かは、
①当該債務名義の性質
②同債務名義により執行し得る者として確定された権利の性質・内容
③同債務名義成立の経緯及び同債務名義成立後強制執行に至るまでの事情
④強制執行が当事者に及ぼす影響等諸般の事情
を総合して判断すべき。

本件各確定判決の性質や性格、これにより確定された権利の性質・内容等
⇒本件各確定判決が、暫定的・仮定的な利益衡量を前提とした上で、あくまで期間を短く限った判断をしている。

前記口頭弁論終結後の事情の変動を踏まえて、改めて利益衡量を行い、その結果等も踏まえ、前記のような判断に基づく債務名義たる本件確定判決により、現時点において強制執行を行うことの適否を検討すべきであり、本件各確定判決が現時点において強制執行を行うに適しないと判断される場合には、その結果として、Yらの強制執行が権利濫用に当たると評価される。

①漁業の状況、②本件潮受堤防の閉切りと漁業被害との関係、③営農関係の状況、④本件各確定判決後におけるXの本件各排水門の開閉に向けた取組、⑤本件潮受堤防の閉切りによる新たな自然環境の構築、⑥近時の気候状況、⑦防災に関係する事項等について、特に前訴の口頭弁論終結後の事情の変動を中心に詳細な事実認定を行い、
漁業に関する状況、防災機能に関する状況、営農等の状況のほか、新たに形成された生態系や自然環境への影響等その他の事情について、改めて利益衡量。

本件各確定判決の口頭弁論終結時と比較して、Yらが有する漁業権行使に対する影響の程度は軽減する方向となる一方、本件潮受堤防の閉切りの公共性等は増大する方向となったなどの諸事情を総合的に考察。

現時点において、Yらの救済として、本件各確定判決で認容された本件各排水門の常時開放請求を、防災上やむを得ない場合を除き常時開放する限度で認めるに足りる程度の違法性があるとはいえない。

現時点で、前記のような性質等を有する本件各確定判決に基づき、Yらが強制執行を行うことは、権利濫用に当たり、又は、信義則に照らし、許されない。

判例時報2548

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

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2023年5月14日 (日)

分限免職処分を違法とした原審の判断に違法ありとされた事例

最高裁R4.9.13

<事案>
普通地方公共団体である上告人(山口県長門市)の消防職員であり、部下への暴行等を繰り返した被上告人が、任命権者である長門市消防長から、その職に必要な適格性を下記、地公法28条1項3号の分限免職処分⇒上告人を相手にその取消しを求めた。

<原審>
被上告人の消防吏員としての素質、性格等に問題があることは前提としつつも、
①上告人の消防組織においては、公私にわたり職員間に濃密な人間関係が形成され、職務柄、上司が部下に対して厳しく接する傾向にあり、本件各行為も、こうした独特な職場環境を背景として行われた
②被上告人には、本件処分に至るまで、自身の行為を改める機会がなかったことに鑑み、本件各行為は、単に被上告人個人の簡単に矯正することのできない持続性を有する素質、性格等にのみ基因して行われたものとは言い難い⇒被上告人を分限免職とするのは重きに失する。
⇒本件処分の取消請求を認容。

<判断>
・・・・のような長期間にわたる悪質で社会常識を欠く一連の行為に表れた被上告人の粗野な性格につき、消防職員として要求される一般的な適格性を欠くとみることは不合理ではなく
本件各行為の頻度等も考慮すると、前記性格につき改善の余地がないとみることも不合理な点は見当たらない。
消防組織の特性も踏まえつつ、本件各行為による消防組織の職場環境への悪影響を重視することも合理的。
・・・被上告人を消防組織内に配置しつつ、その組織としての適正な運営を確保することは困難。

本件処分に係る長門市消防長の判断が合理性を持つものとして許容される限度を超えたものであるとはいえず、本件処分が裁量権の行使を誤った違法なものであるとはいえない。
本件処分を違法とした原審の判断には違法がある
⇒原判決を破棄し、第1審判決を取り消して請求を棄却。

<解説>
●判断枠組み
最高裁(昭和48.9.14):
地公法28条に基づく分限処分については、大要、任命権者に一定の裁量権が認められるものの、その判断が合理性を持つものとして許容される限度を超えたものである場合には、裁量権の行使を誤った違法のものであることを免れない

講学上、判断過程審査の一種と位置付けられているが、
懲戒処分等について用いられる社会観念審査の手法(重要な事実の基礎を欠くか、又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠く場合に限り裁量権の逸脱濫用に当たるとして違法とする審査手法)と大きな相違はない。
最近では、社会観念審査の方法と判断過程審査の方法とが併用される判例が目立っているようにも見受けられるとの指摘(宇賀)。

●当てはめについて
本判決に示されている被上告人の行為は、職務上の必要性と関係なく、部下等の立場にある者を身体的又は精神的に攻撃するものであり、いかなる職場環境においても許される余地はない⇒職場環境の問題と被上告人の行為の評価とを結びつけることは不合理
(本判決:職場環境の点により判断が異なることにとならないとの説示

免職処分については、慎重な判断が求められる(懲戒処分の場合においても同様)
but
被上告人の一連の行為の悪質性や継続性に鑑み、改善の余地がないとみることが不合理でない。
かかる状況においてまで、指導の機会を設けるなどしなければならないと解するのは、硬直的に過ぎる⇒あくまでも事案の特性に応じ、指導の機会を経ずに直ちに免職とすることが許容される余地もあるのであって、このことは、昭和48年最判が、免職処分につき特に慎重、厳密な検討を要するとしていることと矛盾するものではない。

●裁判例

判例時報2547

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

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ロードサービスの不正利用についての損害賠償請求の事案

大阪地裁R4.5.25

<事案>
原告(JAF):全国でロードサービス等を提供している一般社団法人
被告ら:原告の一般会員(個人会員)であった者であり、中古車販売や自動車修理業、高級外車の販売業等を営んでいた。
原告のロードサービスは、自動車修理業者等が商用目的で利用できないにもかかわらず、被告らが商用目的であることを秘して、走行中に故障した車両であると装い、無償で数百回のロードサービスを利用⇒不法行為又は不当利得に基づき、無償利用したロードサービスの対価相当額の賠償又は返還を求めた。

<争点>
①原告のロードサービスは商用目的で利用することが許容されていなかったか
②被告らは商用利用が許容されていないことを認識していたか
③被告らが、商用利用であるにもかかわらず、私的利用を装って無償利用をしたのか
④前記無償利用による原告の損害額(又は不当利得額)及び過失相殺の可否

<判断>
●争点①
設立経緯や事業内容・定款の記載等⇒公益目的の法人であり、車両の走行中に発生した偶発的な事故や故障に対応するという目的で、民間業者と比較しても低廉な価格で、かつ利用回数に制限なくロードサービスが利用できるという相互扶助の制度を設けている⇒会員が自己の事業のために利用することを想定していないことは明らか。
⇒会員規則等で明示されていなくても、商用目的でロードサービスを利用することは許容されていない。

●争点②③
被告らは、事業目的で、自動車の修理工場間や中古車のオークション会場間の搬送等にロードサービスを相当数利用⇒被告らは商用目的での利用が許容されないものであることを認識しながら不正に無償利用をした⇒不法行為責任を肯定

●争点④
原告の非会員向けの価格に基づき損害額を算出する一方、原告が、現場の作業員から被告らの商用利用を疑わせる報告を複数回受けていたにもかかわらず特段の対策をしていなかった
⇒被告らの不正な無償利用を看過した原告側にも相当程度の問題があった。
被告らの利用時期に応じて3割~5割の過失相殺

<解説>
過失相殺について、特に詐欺類型の場合、欺罔者側の問題が大きく、過失相殺や相殺割合には慎重な配慮が求められる。
本件では、
①単に原告側が不正利用を阻止できる体制を構築していなかったことだけでなく、
②明らかに異常な回数の利用や、現場作業員からの報告等により、不正利用の徴候を現実的に覚知できたにもかかわらず、不正利用を防止する措置を講じなかったこと等
を理由に過失相殺を行った。
被告らの不正利用の疑いがより顕著になるにつれて、段階的に過失割合を大きくしており、5割という大きな過失相殺を行った意味でも、同種事案の参考に。
不当利得請求権について、不法行為請求との平仄を念頭に、民法722条の類推適用による過失相殺はしなかったが、信義則上、過失相殺と同率の範囲で請求が制限されるとした。

判例時報2547

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学校でのいじめ等での国賠請求

甲府地裁R3.11.30

<事案>
Y(山梨市)が設置する中学校に在学していたXが、
①同級生からいじめられているにもかかわらず適切な対応がとられなかったこと
②かえってXの体臭に問題があるとして衛生指導を受けたこと
③本件中学校の教員によって髪を切られたこと
について、Yに対し、国賠法1条1項に基づき、慰謝料等の支払を求めた事案。

<判断>
最高裁判例を引用し、
公務員による公権力の行使に国賠法1条1項にいう違法があるというためには、公務員が、当該行為によって損害を被ったと主張する者に対して負う職務上の法的義務に違反したと認められることが必要である。

争点①:
学校の教師は、学校教育活動ないしこれに密接関連する生活関係において、いじめその他の加害活動を防止し、これから生徒の安全を保護すべき義務を負っており、教員が、被害者から救済を求められた場合や、いじめを認識又は予見し得る場合は、被害を回避すべき具体的が義務が生じずと考えられる。
but
担任であるB教諭においてXがいじめられていると認識することができたとは認められない
⇒国賠法1条1項の違法なし

争点②:
本件衛生指導は、Xの衛生面について指導する目的で行われたものであり、内容なや様においても、学年主任であるA教諭、B教諭及び養護教諭であるC教諭は、Xに対し相応の配慮をしていたというべき
⇒国賠法1条1項の違法なし

争点③:
A教諭は、本件中学校に登校したXから、Xの母親からA教諭に髪を整えてもらうよう言われたことを契機として、Xの同意を得ながら本件ヘアカットをした。
but
・・・
A教諭には、保護者であるXの母親に髪を切ることの当否を事前に確認する必要があり、Xの母親が本件ヘアカット行為の当否などを検討する機会が与えられる利益は、本件ヘアカット行為の当事者であるXにとってっも法的利益である
⇒国賠証1条1項にいう違法がある
⇒慰謝料10万円及び弁護士費用1万円の限度でXの請求を一部認容。

<解説>
教員は、教育法、学教法等の法令の趣旨、職務の内容・性質等に鑑み、学校教育活動により生じる危険から児童生徒保護すべき義務がある

最高裁:
学校の教師は、学校における教育活動により生ずるおそれのある危険から生徒を保護すべき義務を負う。

いじめの関係では、学校教育活動ないしこれに密接関連する生活関係において、いじめその他の加害行為を防止し、これから児童生徒の安全を保護すべき義務と解することができる。

最高裁昭和62.2.13:
小学校の児童が体育の授業中の事故により後日失明した場合に担当教師には事故の状況等を保護者に通知してその対応措置を要請すべき義務はないとされた事例。
but
同義務の有無については、
事故の種類・態様、予想される障害の種類・程度、事故後における児童の行動・態度、児童の年令・判断能力等の諸事情を総合して判断すべき

学校の教員の保護者への通知義務の有無を判断するに当たっての考慮要素を示したもの。

判例時報2547

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同性婚についての国賠請求

東京地裁R4.11.30

<事案>
同性の者との婚姻を希望する原告らが、婚姻を異性間のものに限り同性間の婚姻を認めていない民法及び戸籍法の諸規定が憲法14条1項、24条1項及び2項に違反⇒国会は本件諸規定が定める婚姻を同性間でも可能とする立法措置を講ずべき義務があるにもかかわらず、これを講じていないことが国賠法1条1項の適用上違法⇒慰謝料等の支払を求めた

<判断等>
請求棄却

●憲法24条1項
原告ら:憲法24条1項が国家以前の個人の尊厳に直接由来する事由として婚姻の自由を保証していると解すべきであることを前提に、その婚姻の自由が同性間の婚姻についても及ぶ。
本件諸規定は、憲法が婚姻制度について要請し想定した核心部分を正当化根拠なく制約するもの⇒憲法24条1項に違反。

憲法24条1項の文言や起草時の議論等⇒憲法24条にいう「婚姻」とは、異性間の婚姻を指し、同性間の婚姻を含まない。
伝統的な価値観を一方的に排除することは困難⇒現段階において、同性間の人的結合関係を異性間の夫婦と同じ「婚姻」とすることの社会的承認があるものとまでは認められない。
婚姻、結婚という人的結合関係は前国家的に社会内に存在し、それを規範によって統制するために法律婚制度が作られたという経緯
⇒どのような人的結合関係に「婚姻」としての社会的承認を与えるのかという点については、社会通念、国民の意識等に依拠するところが大きい。
婚姻及び家族に関する事項は、国の伝統や国民感情を含めた社会状況における種々の要因を踏まえつつ、それぞれの時代における夫婦や親子関係についての全体の規律を見据えた総合的な判断を行うことによって定められるべきもの(最高裁H27.12.16)であるが、どのよな人的結合関係を「婚姻」と捉えるかは、この最たるもの。

●憲法14条1項適合性
原告ら:本件諸規定は性的指向によって婚姻の可否について区別取扱いを行うもの

判断:本件諸規定が性的指向によって婚姻の可否について区別取扱いをするもの。
but
これは、前記のように婚姻を異性間のものとする社会通念を前提とした憲法24条1項の法律婚制度の構築に関する要請に基づくものであって合理的な根拠が存する
⇒憲法14条1項に違反する者とはいえない。

憲法14条1項適合性の判断において、いかなる取扱いの区別が「事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくもの」であるかについては、立法目的当該区別との合理的関連性の2点から判断することが一般的(最高裁H20.6.4)。

●憲法24条2項適合性
A:要請説・保証説
B:禁止説
C:許容説(本判決)
同性愛者にとっても、パートナーと家族となり、共同生活を送ることについて家族としての法的保護を受け、社会的公証を受けることができる利益は個人の尊厳にかかわる重大な人格的利益
⇒現行法上、パートナーと家族になるための法制度が存在しないことは、憲法24条2項に違反する状態。
but
そのような法制度を構築する方法は多様なものが想定され、それは立法裁量に委ねられており、必ずしも本件諸規定が定める現行の婚姻制度に同性間の婚姻を含める方法に限られない
⇒本件諸規定が憲法24条2項に違反すると断ずることはできない。

判例時報2547

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2023年5月12日 (金)

漁獲上限の定めと国賠請求

札幌高裁R3.12.14

<事案>
北海道内において沿岸漁業のくろまぐろ漁に従事するXらが、Y1(国)及びY2(北海道)は、遅くとも平成29年7月1日までに法的拘束力のある漁獲制限をする義務があったにもかかわらず、これを怠り、漁業者の自主管理に委ねた結果、第3管理期間において上限を大幅に超過する漁獲を招き、Xらは第4管理期間以降のくろまぐろ漁が事実上できなくなり、Y1の第4管理機関における超過差引きは裁量権を逸脱するものであり違法
⇒Yらに対し、国賠法1条1項に基づき、第4管理期間以降6年間の逸失利益及び慰謝料の損害賠償等を求めた。

<争点>
①Yらが資源管理法、漁業法等に基づく法的措置を執らなかったことが、規制権限の不行使として国賠法1条1項の適用上違法といえるか
②Y1によって第4管理期間に行われた超過差引きが、農林水産大臣の裁量権の範囲を逸脱した著しく不合理なものとして国賠法1条1項の適用上違法といえるか。

<原審>
争点①:
国または地方公共団体の公務員による規制権限の不行使は、その権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、その不行使が著しく不合理と認められるときに、その不行使により被害を受けた者との関係において、国賠法1条1項の適用上違法となる(最高裁)
資源管理法、漁業法及び水産資源保護法の趣旨、目的や農林水産大臣及び知事の権限の性質等を検討し、第3管理期間よりも前の時点で強制力のある数量管理や罰則を伴う採捕制限を行わなかったことが著しく不合理であるとはいえない。

争点②:
本件における超過差引きは資源管理法に基づく農林水産大臣の裁量の範囲内。
⇒請求棄却。

<判断>
控訴棄却。

判例時報2547

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養子縁組無効の事案

福岡高裁R4.9.6

<事案>
亡Aの子であるXがYに対し、本件養子縁組(亡AとYとの養子縁組)は
①Yによる 本件養子縁組届の亡A自書部分の偽造
②本件養子縁組届作成時の亡Aの意思能力の不存在
③亡A・Y間の届出意思及び縁組意思の不存在
により無効
⇒本件養子縁組の無効確認を求めた事案。

<原審>
本件養子縁組届の作成当時、亡Aに意思能力がなかったとは認められないが、
本件養子縁組当時、亡Aに届出意思又は縁組意思がなかったと認められる
⇒本件養子縁組は無効

<判断>
本件養子縁組について、Yが亡Aに無断で本件養子縁組届を提出したもので、亡Aには本件養子縁組をする意思がなかったと認められる⇒養子縁組を無効として、控訴を棄却。

上記①:
「養親になる人」欄の署名は亡Aが自署した可能性が高いが、
「届出人署名押印」欄の署名は、Yの筆跡と似通っている⇒Yが記載した可能性を否定できない。

上記②:
診療録の記載等に基づく認定事実
⇒本件養子縁組届作成当時、意思能力がなかったと認めることはできない。

上記③:
養子縁組の目的、経緯について検討し、亡AとYとの関係からして、本件養子縁組をしたとしても不自然ではない程度の関係性があった。
but
①Yは、亡Aの死亡の前後にわたって多額の預貯金を払い戻し、その出金の必要性について合理的に説明することができていない⇒Yと亡Aとの信頼関係の存在に疑問を抱かせる。
②亡Aが「届出人署名押印」欄に署名していないにもかかわらず、亡Aが「養親になる人」欄と「届出人署名押印」欄の両方に署名したとするYの供述が信用できない

Yが亡Aに無断で「届出人署名押印」欄に亡Aの氏名を記載した上で届出をしたものと認めるのが相当。
⇒本件養子縁組は亡Aの縁組意思が存在せず無効。

<規定>
民法 第八〇二条(縁組の無効)
縁組は、次に掲げる場合に限り、無効とする。
一 人違いその他の事由によって当事者間に縁組をする意思がないとき。
二 当事者が縁組の届出をしないとき。ただし、その届出が第七百九十九条において準用する第七百三十九条第二項に定める方式を欠くだけであるときは、縁組は、そのためにその効力を妨げられない。

<解説>
養子縁組は「人違いその他の事由によって当事者間に縁組をする意思がないとき」(民法802条1号)に無効

縁組意思の不存在:
実質的意思説:縁組意思を習俗的標準に照らして親子と認められるような関係を創設しようとする意思
形式的意思説:縁組意思を届出に向けられた意思と捉えるもの

判例:当事者間いおいて真に養親子関係の設定を欲する効果意思(実質的意思説)
(養子が養親の意思に基づかず)無断で縁組の届出⇒縁組意思の意義に関して前記のいずれの見解に立ったとしても、縁組意思を欠き無効。

本判決:
養子が養親に無断で縁組届を提出したか否かを判断するに当たって、
①縁組届の署名欄が自署であるか
②養親と養子との従前の生活関係
③縁組をする目的、経緯
④縁組届提出の前後における養子の不自然な言動等の有無等
の諸事情を具体的に事実認定した上で総合考慮し、養親に縁組意思がなかったと認められると判断。

判例時報2547

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親子関係不存在確認の訴えについての確認の利益

最高裁R4.6.24

<判断>
・・・・本件各親子関係が不存在であるとすれば、亡Dの相続において、亡Cの子らは法的相続人とならないことになり、本件各親子関係の存否によりXの法定相続分に差異が生ずることになるなどの判時の事情の下においては、Xは、本件訴えにつき法律上の利益を有するというべきである。

<解説>
●親子関係不存在確認の訴え:
特定人間の法律上の親子関係が存在しないことを確認する人事訴訟(人訴法2条2号)
人事訴訟の判決は対世効を有し(人訴法24条1項)、身分関係を変動させ、戸籍を訂正させる(戸籍法116条1項)。
人訴法には人事訴訟の原告適格に関する一般的な定めはなく、第三者であっても確認の利益を有する限り訴えを提起することができる⇒どのような場合に確認の利益があると認められるかが問題。

●養子縁組無効確認の訴えにおける確認の利益:
最高裁昭和63.3.1:
養子縁組無効の訴えは縁組当事者以外の者もこれを提起することができるが、当該養子縁組が無効であることにより自己の身分関係に関する地位に直接影響を受けることのない者は右訴えにつき法律上の利益を有しない。

親子関係不存在確認の訴えにおける確認の利益についても及ぶ

●Xは亡Dの法定相続人の地位にあるところ、「相続人の地位」が単なる「財産上の権利義務」ではななく「身分関係に関する地位」であることは明らか。
本件各親子関係が不存在であることにより、Xの「相続人の地位」は、法定相続分が増えるという直接の「影響」を受けることになる。
~身分関係に関する地位への影響。

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2023年5月 7日 (日)

重婚的内縁関係にあった内妻からの遺族厚生年金等の請求(肯定事例)

東京高裁R3.11.11

<事案>
老齢厚生年金等の受給権者であり死亡した男性Aと重婚的内縁関係にあったXが厚年法上の「配偶者」に当たる⇒遺族厚生年金の給付を請求⇒厚生労働大臣から支給しない旨の決定⇒本件不支給処分の取消しを求めた。

<規範>
遺族厚生年金を受けることができる遺族としての「配偶者」には、婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む(厚年法3条2項、59条1項)。
重婚的内縁関係の場合には、戸籍上届出のある配偶者(本妻)であっても、その婚姻関係が実体を失って形骸化し、かつ、その状態が固定化して近い将来解消される見込みのないとき、すなわち、事実上の離婚状態にある場合には、「配偶者」に当たらず、事実上婚姻関係と同様の事情にある内妻が「配偶者」に当たる。

本妻が事実上の離婚状態にあるとはいえない場合には、内妻は「配偶者」には当たらない。

<一審>
亡AとBとの婚姻関係が形骸化しているとはいえず事実上の離婚状態にあったとは認められない。

<判断>
亡AとBの婚姻関係は実体を失って形骸化し、その状態が固定化して近い将来解消する見込みがない場合であり、事実上の離婚状態であった⇒Xは事実上婚姻関係と同様の事情にある者であったとして、遺族厚生年金等についての「配偶者」要件を満たす。
⇒1審判決を取り消しXの請求を認容。

<解説等>
亡AとBとの別居後の音信、訪問等の状況:
一審判決:平成24年(亡Aが自身の設立した大阪府に本店を置くSの取締役を退任した頃)まで夫婦としての相応の交流が維持されていた。

本判決:遅くとも平成15年以降は夫婦としての音信、訪問による精神的交流はほとんど失われていた。
←控訴審において、Xが亡Aと親しかった会社関係者の陳述書により亡AとBの関係につき補充立証をしたのに対し、Bは補助参加しておらず、Yからは抽象的な記載にとどまるB側の回答書が提出されていただけであった。
Bの亡Aへの経済的な依存関係:

本判決:
亡AとBが長期間にわたり別居し、音信、訪問による精神的交流もない状態が続いていた状況において、積極的に婚姻関係の維持存続を図る趣旨ではなく、実子の負担も考慮してBに対する経済的支援を続けてきたこと等の事実関係を総合的に考慮し、経済的支援のない状態が2年程度にとどまる本件において、亡AとBが事実上の離婚状態にあったと判断。

本判決:
亡AのBに対する経済的支援が事実上の離婚給付の性格を有するとまで判断していない(当事者は、この点の主張の応報)

最高裁昭和58.4.14が当該事案における原審の具体的判断を摘示する場面でそのような表現をもちいているにとどまる⇒本判決としては、経済的支援がある場合にそれを事実上の離婚状態であると認定するための要件とまではみておらず、そこまで評価できない場合でも夫婦関係の諸事情の総合考慮の中で事実上の離婚状態と認定される場合があり得ると考えたのであろう。

参考判例

判例時報2547

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詐欺未遂ほう助保護事件で少年を第一種少年院に送致・収容期間2年の事案

東京高裁R4.6.3

<事案>
いわゆる特殊詐欺事件の詐欺未遂幇助の事案
少年の関与:犯行の際に見張りをするなどして幇助
原決定時19歳の特定少年

<原審>
事件が未遂に終わり、少年が幇助犯にとどまることを踏まえても、少年院送致も許容される。

①本件は、卑劣で組織的かつ計画的に行われたもの
②多数回の家庭裁判所係属歴があるのに本件に及んだ少年の規範意識の乏しさは顕著

要保護性:
本件に至る経緯

①忍耐強く努力を続けることができず、遊興志向が強いため、目先の欲求を優先させて手っ取り早い金策を求めがちであるという問題
②都合の悪いことは考えようとせず、自己本位な志向及び行動傾向、犯罪に対する抵抗感が希薄であるという問題
③保護観察処分を含む家庭裁判所係属歴等⇒内省が表面的で深まりにくいという問題
少年の内省は不十分であり、保護環境を見ても更生は期待できない

少年を第1種少年院に送致し、収容期間を2年とする決定。

<判断>
少年が更に反省を深め、強い更生意欲を示したことは評価できる
but
①それを踏まえても少年の問題性が直ちに改善されるものとはいえない
②父親には少年を指導監督する意思は認められるものの、これまでの経緯に照らすと、少年の問題点の改善を期待することは困難
③現時点あるいは早期に少年に社会での生活を送らせた場合、再び従前の生活状況に戻ってしまい、犯罪に関与する可能性は相応に高い

在宅処遇で改善しなかった根深い問題性を改善するには第1種少年院への収容が必要不可欠
収容期間をその犯情に鑑み2年間とした原裁判所の処遇判断に誤りはない

<解説>
令和3年5月に「少年法等の一部を改正する法律」が成立、令和4年4月1日施行。
少年法上、18際以上の少年については「特定少年」と呼称。

「第5章 特定少年の特例」が新設。
本件:特殊詐欺事件とはいえ、未遂かつ幇助の事案⇒刑事裁判であれば執行猶予が付く余地はある。
but
原決定は、本件の犯情を検討した上、少年院送致も許容されると判断し、収容期間を2年間と定めた。
本決定は、収容期間の点も含め、少年院送致処分を洗濯した原決定の判断を是認。

判例時報2546

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2023年5月 3日 (水)

第三者による詐欺行為で損害⇒担当取締役の善管注意義務・忠実義務違反(否定)

大阪地裁R4.5.20

<事案>
Zとの株主であるXは、Y1(代表取締役)について、
①本件売買契約を稟議書によって承認したことや残代金決済前倒しを承認したことが経営判断上の誤りであること
②従業員に対する監視監督義務を怠ったこと
③内部統制システム(リスク管理体制)構築義務を怠ったこと
④被害回復措置を怠ったこと
⑤被害拡大防止措置を怠ったこと
等を理由として、
Y1及び経理財務部門担当の取締役(副社長)であったY2に対し、
Zに生じた損害をZに賠償するよう求めて本件を提訴。

<争点>
主な争点:
Y1が本件売買契約を事前に承認した上、残代金決済前倒しについても事前に承認⇒会社が目的とする事業を遂行する上で取締役が行った判断が、その負っていた任務に違背するものであったといえるか?

<判断>
取締役による決裁を経て不動産を購入するに至ったが、それによって当該会社に損害が生じた場合、かかる意思決定に関与した取締役が当該会社に対して善管注意義務違反ないし忠実義務違反による責任を負うか否かについては、
取締役に求められる上記の判断が、当該会社の経営状態や当該不動産の購入によって得られる利益等の種々の事情に基づく経営判断であることからすれば、取締役による当時の判断が取締役に委ねられた裁量の範囲に止まるものである限り、結果として会社に損害が生じたとしても、当該取締役が上記の責任を負うことはない。
当該取締役の地位や担当職務等を踏まえ、当該判断の前提となった事実等の認識ないし評価に至る過程が合理的なものである場合には、かかる事実等による判断の推論過程及び内容が著しく不合理なものでない限り、当該取締役が善管注意義務違反ないし忠実義務違反による責任を負うことはない。

当該会社が大規模で分業された組織形態となっている場合には、当該取締役の地位及び担当職務、その有する知識及び経験、当該案件との関わりの程度や当該案件に関して認識していた事情等を踏まえ、下部組織から提供された事実関係やその分析及び検討の結果に依拠して判断することに躊躇を覚えさせるような特段の事情のない限り、当該取締役が上記の事実等に基づいて判断したときは、その判断の前提となった事実等の認識ないし評価に至る過程は合理的なものということができる。
・・・・稟議書の記載や担当従業員から個別に受けた説明に依拠して判断することに躊躇を覚えさせるような事情があったとは認められない
Y1の判断は、その前提となった事実等の認識ないし評価に至る過程は合理的であったといえ、かかる事実等による判断の推論過程及び内容についても著しく不合理なものではなかった。
⇒経営判断としてY1に許された裁量の範囲に止まる。
Y1が残代金決済前倒しの方針を事前に承認したことについても、同様。

<解説>
●取締役のの経営に関する判断事項についての善管注意義務違反の成否:
最高裁:アパマンショップ株主代表訴訟事件(最高裁H22.7.15):
株式取得の方法や価格について、取締役は、様々な事情を総合考慮して決定することができ、その決定の過程、内容に著しく不合理な点がない限り、取締役としての善管注意義務に違反するものではない
取締役の業務執行は、不確実な状況で迅速な決定を迫られる場合が多く、
善管注意義務が尽くされたか否かの判断は、行為当時の状況に照らし合理的な情報収集・調査・検討等が行われたか、及び、その状況と取締役に要求される能力水準に照らし不合理な判断がなされなかったかを基準になされるべきであり、事後的・結果論的な評価がなされてはならない(江頭)。
取締役の裁量を踏まえた任務懈怠の検討にあたっては、従前から、
経営判断の前提となる事実認識の過程(情報収集とその分析・検討)における不注意な誤りに起因する不合理さの有無と、
事実認識に基づく意思決定の推論過程及び内容の著しい不合理の存否
の2点から判断。

情報収集過程と判断過程に着目して、
情報収集過程については不合理さの有無を
判断過程については著しい不合理性の有無
検討

特に経営判断の内容については、経営判断の特質から取締役に広い裁量が認められ、裁判所による厳格な審査になじみにくいといえ、
経営判断の過程については、取締役に認められる裁量の幅が相対的に狭くなる。

●本判決:
取締役の判断の前提となる情報収集・分析、検討について、大規模組織における意思決定の特質が考慮に入れられるべきものであり、特段の事情が認められない限り、下部組織の行った情報収集・分析、検討を基礎として自らの判断を行うことが許される。

善管注意義務の懈怠が問題となっている場合においても、
取締役は下部組織の報告に依拠することができるものの、
報告の信用性を疑わせるといった事情があるときは、取締役から改めて情報を収集することを求めることで、これらの特質に沿った判断が可能となる。

判例時報2546

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特許権移転の際の許諾契約上の許諾者たる地位の承継を肯定した事例

大阪地裁R3.3.11

<事案>
訴外特許権者Zとの特許実施許諾契約の相手方であったXが、Zから本件許諾契約の対象であった特許権8件のうち4件を譲り受けた後に特許料不納付により本件特許権を消滅させたYに対し、
選択的に、
(1)本件許諾契約の債務不履行による解除に基づく原状回復請求として支払済み実施料の返還等(請求1)、又は
(2)本件許諾契約締結に先立つ虚偽の説明によりXを誤信させるなどして実施料を支払わせた不法行為に基づく損害賠償の支払等(請求2)
を求めた事案。

<争点>
請求1について
①本件許諾契約上の許諾者たる地位のYへの移転の有無、
②本件許諾契約の効力(X・Z間の通謀虚偽表示の成否)
③原状回復請求が認められる範囲
請求2について
④不法行為の成否等

<判断>
●争点①について
当事者及びZの関係性、本件特許権にかかる譲渡契約に至る経緯、本件特許権譲渡後のYの行動等に係る事実認定
本件における事情の総合考慮のもとでは、Yは本件特許権の譲渡契約に伴い、本件許諾契約上の許諾者たる地位をZから承継⇒YのZに対する本件許諾契約上の許諾者たる地位をZから承継したものと判断。

Y:YZ感の本件特許権の譲渡契約書に「通常実施権等の・・・第三者の権利が設定されていないこと・・・を保証する」旨の保障条項がが存する⇒本件許諾契約上の許諾者たる地位を承継していない旨を主張
vs.
同条と契約書前文の記載に基づき、
本件譲渡契約により、Yは、Zから、本件特許権・・・のほか、これらの特許権につき第三者との間に締結した実施許諾契約及び再実施許諾契約における権利全てを承継しながら、他方で、個別の実施許諾契約に基づく義務は当然に承継しないとすることは、理論的には可能であるとしても、当事者間の合理的意思には必ずしも合致しない。

●争点②について
通謀虚偽表示の主張を否定。

Yが特許料不納付により本件特許権を消滅させたことは、本件許諾契約上の特許維持義務の不履行に当たり、本件特許許諾契約は、Xの解除の意思表示により解除されたこととなり原状回復義務を負う。

●争点③について
本件許諾契約における実施料が、特許権8件の実施料を個別に算定して合算した額ではなく、前記特許権8件が一体的なものとして取り扱われて定められている
⇒最後まで存続していた特許権が消滅するまで本件許諾契約に基づく通常実施権者としての地位を享受していた期間に相当する実施料を控除した額の不当利得返還請求権を認容。

●争点④について
X:本件許諾契約締結に先立つ積極的な欺罔行為の存在を主張
vs.
それを排除し、不法行為の成立を否定。

<解説>
●特許法 第九九条(通常実施権の対抗力)
通常実施権は、その発生後にその特許権若しくは専用実施権又はその特許権についての専用実施権を取得した者に対しても、その効力を有する。

平成23年法律第63号による特許法の改正
⇒特許法99条において、通常実施権者はその後特許権が移転された場合でも、登録によらずして特許権の取得者に対抗することができるとする当然対抗制度が導入。
but
特許法99条の効果として、各実施許諾契約において定められた種々の義務までも承継されるか?

個々の事案に応じて判断されることが望ましい。

学説:通説はなし
A:不動産賃貸借を類推し、実施許諾契約が通常実施権者と新特許権者間に承継される(承継説)
B:特許権の譲渡がなされても、設定権者たる地位は義務をも包含⇒一方的行為によっては譲渡できない(非承継説)
C:一定の権利義務の承継がなされる(折衷説)

本判決:
諸事情の総合考量を踏まえた上で許諾契約における特許維持義務の存在を肯定
少なくとも「個別の実施許諾契約に基づく義務は当然には承継しないとすることは、理論的には可能である」としている
⇒当然承継説からは一定の距離をおいたものと解することは可能。

判例時報2546

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2023年5月 2日 (火)

「合計>自賠責保険の保険金額」の場合に、自賠責保険の保険会社が国の請求権の行使を受けて国に対してした支払の効力

最高裁R4.7.14

<事案>
交通事故にによって受傷したXが、加害者量を被保険自動車とする自動車損害賠償責任保険の保険会社であるYに対し、自賠法16条1項の規定による請求権に基づき、保険金額120万円の限度における損害賠償額からYのXに対する既払金を控除した残額(103万円余)の支払を求めた事案。
Xは、本件事故による傷害につき労災法に基づく給付(「労災保険給付」)を受けており、Yは、Xが前記労災保険給付を受けたことにより国に移転した直接請求権の行使を受け、国に対して103万円余を支払っている。

<原審>
①最高裁H30.9.27の判時内容
⇒被害者の有する直接請求権の額と労災法12条の4第1項による国に移転した直接請求権の額の合計額が自賠責保険の保険金額を超える場合に、自賠責保険の保険会社が、国に対し、被害者が国に優先して支払を受けるべき損害賠償額につき支払をしたときは、当該支払は有効な弁済に当たらない。
②本件支払はXが国に優先して支払を受けるべき損害賠償額についてされたもの
⇒有効な弁済に当たらない⇒Xの請求を認容。

<判断>
被害者の有する直接請求権の額と労災法12条の4第1項により国に移転した直接請求権の額の合計額が自賠責保険金額を超える場合であっても、自賠責保険会社が国の直接請求権の行使を受けて国に対して自賠責保険金額の限度でした損害賠償額の支払は、有効な弁済に当たる。
⇒原判決を破棄し、1審判決を取り消し、Xの請求を棄却。

<解説>
●直接請求権:
自賠法3条による保有者の損害賠償責任が発生したときに、交通事故の被害者が政令で定めるところにより保険会社に対して保険金額の限度で損害賠償額の支払を請求し得る権利。
自賠責保険は責任保険
but
被害者の保有者に対する損害賠償請求権の行使を円滑かつ確実なものとし、迅速で実効性のある被害者保護を実現するため、前記損害賠償請求権の行使の補助的手段として、直接請求権の制度が定められている。
この直接請求権は、権利としては前記損害賠償請求権と同額のものとして成立した上で、権利行使が自賠責保険金額(傷害につき120万円、自賠法施行令2条1項3号イ)の限度に制限されていると解されている。

●労災法12条の4第1項:
労災保険給付の原因である業務災害等が第三者の行為によって生じたものである場合に、政府が保険給付をしたときは、国はその給付の価額の限度で当該受給権者の第三者に対して有する損害賠償請求権を代位取得する旨定め、被害者の有する直接請求権も、前記の代位取得の対象となると解されている。

政府が被害者に対して労災保険給付を行った場合、被害者が労災保険給付等を受けてもなお補填されない損害(「未填補損害」)について有する直接請求権の額と、労災法12条の4第1項により国に移転した直接請求権の額の合計が自賠責保険金額を超え、その行使の競合が生じることがある。

●平成30年判決以前の実務:前記競合が生じた場合、被害者及び国に対して保険金額を各直接請求権の額で按分した額をそれぞれ支払う運用(案分支払)
平成30年判決:前記の場合でも、被害者は、国に優先して自賠責保険会社から損害賠償額の支払を受けることができる旨判示

自賠責保険会社は、前記競合が生じた場合、被害者に優先して損害賠償額の支払をし
国のみが直接請求権を行使した場合には被害者に対して請求案内

本件:前記の運用変更前に、被害者と国に対して案分支払がされた事案

平成30年判決:被害者は、未填補損害について直接請求権を行使する場合、他方で労災法12条の4第1項により国に移転した直接請求権が行使され、前記各直接請求権の額の合計額を自賠責保険金額を超える場合であっても、国に優先して保険会社から自賠責保険金額の限度で損害賠償額の支払を受けることができる。
but
前記判示が、
被害者の直接請求権の行使によって国の直接請求権が消滅するとか、
保険会社の国に対する支払が効力を有しないこととなるなどとする者とは解されない。

前記判示は、被害者又は国が各直接請求権に基づき損害賠償額の支払を受けるにつき両者の間に相対的な優先劣後関係があることを意味するにとどまるものであって、自賠責保険会社の国に対する支払の効力を否定する根拠となるものではないと解するのが相当。
直接請求権は、自賠法3条の規定による損害賠償請求権と同額のものとして成立し、労災保険給付が行われた場合には、国はその価額の限度で直接請求権を取得し、国は直接請求権を有する債権者に当たる。

自賠責保険会社の国に対する損害賠償額の支払は、債権者に対してされたものということになる⇒国に対する前記支払は有効な弁済に当たるとみるほかない。

●保険法25条2項:私保険において保険者が保険給付により対第三者請求権の一部を代位取得した場合に、被保険者は代位に係る保険者の債権に先立って弁済を受ける権利を有する旨規定。

加害者の資力不足の場合を念頭に、被保険者と保険者の権利行使が競合した場合に、被保険者の債権が保険者の債権に優先して弁済されるべきこととしたもの。
but
同項は、商法662条2項の法的効果に争いがあったことから、その内容を明確化したんものであり、弁済における保険者と被保険者との間の相対的な優先劣後関係を定めたにとどまるもの
⇒保険者が被保険者より先に第三者に対する権利を行使した場合であっても、第三者が支払を拒絶したり、第三者又は被保険者が強制執行の停止を求めたりできるものではない。

民法502条3項は、債権の一部弁済による代位が生じた場合において、原債権者は権利の行使によって得られる金銭について代位者が行使する権利に優先する旨を規定。

例えば、原債権を担保するため保証債務が設定されていた場合、代位者の請求に応じて保証人が支払った金銭については、原債権者が代位者に優先して取得できることになる。
but
保証人が誤って原債権者が優先すべき部分についてまで一部代位者に対して支払ってしまった場合でも、当該支払は弁済として有効であり、同項によって前記弁済の効力が左右されるものではなく、単に代位者が受領した金銭につき原債権者に対して償還すべき義務を負うにとまると解されている。

他の制度等において、債権者間の優先劣後関係は相対的なものであり、債務者がした支払の弁済としての効力は否定されないとの解釈。

●本判決:
国が労災法12条の4第1項により移転した直接請求権を行使して損害賠償額の支払を受けた場合に、その額のうち被害者が国に優先して支払を受けるべきであった未填補損害の額に相当する部分につき、被害者に対し、不当利得として返還すべき義務をおうことは別論である旨が付記。

優先劣後関係にあって本来は受けることができないはずのものが劣後者に回ってしまった場合をいわゆる侵害利得の類型と捉え、これを優先者に回復する役割を不当利得返還請求権に求める立場に立つと解し得る。

判例時報2546

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原発事故を防ぐための規制権限の不行使と国賠請求(否定)

最高裁R4.6.17

<事案>
本件事故により放出された放射性物質によってその当時の居住地が汚染されたと主張する者又はその承継人であるXらが、国(上告人)に対し、国が津波による本件発電所の事故を防ぐために電気事業法に基づく規制権限を行使しなかったことが違法であり、これにより損害を被った⇒国賠法1条1項に基づく損害賠償等を請求。

<法令>
事業用電気工作物の設置者は、事業用電気工作物を経済産業省令で定める技術基準に適合するように維持しなければならず(電気事業法39条1項)、経済産業大臣は、事業用電気工作物が前記技術基準に適合していないと認めるときは、その設置者に対し、前記技術基準に適合するように事業用電気工作物を修理すべきこと等を命ずることができる(同法40条)。
前記技術基準は、原子炉施設等が津波等により損傷を受けるおそれがある場合ないし原子炉施設等が想定される津波等の自然現象により原子炉の安全性を損なうおそれがある場合には、適切な措置を講じなければならないとしていた。

<原審>
国の国家賠償責任を肯定。

<判断>
●国の国家賠償責任を否定。
電力会社が設置し運営する原子力発電所の原子炉に係る建屋の敷地に地震に伴う津波が到来し、前記建屋の中に海水が侵入して前記原子炉に係る原子炉施設が電源喪失の事態に陥った結果、前記原子炉施設から放射性物質が大量に放出される原子力事故が発生した場合において、次ア~カなど判示の事情の下では、経済産業大臣が前記発電所の沖を含む海域の地震活動の長期評価に関する文書を前提に電気事業法40条に基づく規制権限を行使して津波による前記発電所の自己を防ぐための適切な措置を講ずることを前記電力会社に義務付けていれば前記原子力事故又はこれと同様の事故が発生しなかったであろうという関係を認めることはできず、国が、経済産業大臣が前記の規制権限を行使しなかったことを理由として、前記原子力事故により放出された放射性物質によってその当時の居住地が汚染された者に対し、国賠法1条1項に基づく損賠償責任を負うということはできない。

ア:前記原子力事故






<解説>
●公務員による規制権限不行使の違法性
最高裁:
国または公共団体の公務員による規制権限の不行使は、その権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、具体的事情の下において、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、その不行使により被害を受けた者との関係において、国賠法1条1項の適用上違法となる。
規制権限不行使の違法性を判断する際には、
①規制権限を定めた法が保護する利益の内容及び性質
被害の重大性及び切迫性
予見可能性
結果回避可能性
現実に実施された措置の合理性
規制権限行使以外の手段による結果回避困難性(被害者による被害回避可能性)
規制権限行使における専門性・裁量性
といった要素が考慮されている。

④(結果回避可能性)は③(予見可能性)とともに、これを欠くと公務員の規制権限行使の義務を認めることがでできないという意味で、単なる考慮要素というにとどまらず、規制権限不行使の違法性を認めるための必要条件であるとされている。
「規制権限を行使していれば法益侵害の結果を回避することができた」とうい関係が認められない⇒規制権限の不行使と結果との間の因果関係が認められない⇒結果回避可能性は、因果関係の内実をなすものでもある。

●原審は結果回避可能性を肯定。
①事件の原判決:
本件では主張立証責任の分配につき当事者間の衡平の観点に特に留意する必要が高い。
Xは、防潮堤等の設置及び重要機器室等の水密化という、一定程度具体的に特定された事故防止措置についての主張立証を果たしている。
but
国は、その主張立証された措置を講じていても本件事故と同様の事故の発生が避けられなかったこと等の事実を相当の根拠、資料に基づき主張立証していない。

本件では、結果回避可能性があったことが事実上推認される。

原子炉施設の安全性に関する判断に不合理な点があるか否かの主張立証に関する伊方原発訴訟最高裁判決の判旨を参考にしたものと解される。

●本判決は、結果回避可能性否定。
a:
b:
c:

仮に、経済産業大臣が電気事業法40条に基づく規制権限を行使していた場合には、本件試算津波と同じ規模の津波による本件敷地の浸水を防ぐことができるように設計された防潮堤等を設置するという措置が講じられた蓋然性が高い
but
d:
e:

仮に、本件試算津波と同じ規模の津波による本件敷地の浸水を防ぐことができるように設計された防潮堤等を設置するという措置が講じられていたとしても、本件事故と同様の事故が発生していた可能性が相当にある⇒本件では結果可能性が認められない。

②事件の原判決:
東京電力の内部における検討の際に本件試算津波と同じ規模の津波に対応した防潮堤等の設置には課題があることを指摘する意見が出されていた
⇒東京電力等が防潮堤防等の設置と併せて、これによっては防ぎきれない敷地の浸水に対する対策を講ずることを検討した蓋然性がある⇒それを前提に結果回避可能性を肯定。
vs.
①本件事故以前に原子炉施設の主たる津波対策として敷地の浸水を前提とする防護の措置が採用された実績があったことはうかがわれる、そのような措置の在り方について指針となるような知見が存在していたこともうかがわれない。
②・・・前記意見が出されていたからといって、それだけで、本件試算津波に対応した防潮堤等の設置を断念したであろうと推認することはできず、むしろ、その設置を実現する方策が更に検討されることとなった蓋然性が高い。

東京電力等が、防潮堤等によっては津波による敷地の浸水を防ぎきれないという前提で、そのような(不完全な)防潮堤等の設置と併せて他の対策を講ずることを検討した蓋然性があるとはいえない。

判例時報2546

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2023年5月 1日 (月)

不正競争防止法2条1項10号の「技術的制限手段の効果を妨げる」の意味

最高裁R3.3.1

<事案>
コンピュータのソフトウェアの開発・販売等を業とする会社の代表者や販売責任者であった被告人らが、D社が電子書籍の影像を配信するに当たり、営業上用いている電磁的方法により前記影像の市長及び記録を制限する手段であって、視聴等機器が、D社が提供する専用ビューアによる変換を必要とするよう、前記影像を変換して送信する方法によるもの(「本件技術的制限手段」)により、 ライセンスの発効を受けた特定の視聴等聞きにインストールされた本件ビューア以外では視聴ができないように前記影像の視聴及び記録を制限しているのに、不正の利益を得る目的で、法定の除外自由がないのに、平成25年、顧客2名に対し、本件ビューアに組み込まれている影像の記録・保存を行うことを防止する機能を無効化する方法で本件技術的制限手段の効果を妨げることにより、本件ビューア以外でも前記影像の視聴を可能とする機能を有するプログラムである「F3」を、電気通信回線を通じて提供し、もって不正競争を行ったという事案。
G:復号後の電子書籍の影像が」表示さえr多パソコン画面のキャプチャができないようにすることで、影像の記録・保存を防止する機能を有し、本体ビューア以外で前記影像の視聴ができないよう影像の視聴等を制限するプログラム。
F3:Gの前記機能を無効化し、画面キャプチャができるようにするソフトウェアであり、復号後の電子書籍の影像を記録・保存することにより、本件ビューア以外での前記影像の視聴を可能とする機能を有するプログラム。

<主張>
検察官:改正前不正競争法2条1項10号にいう「技術的制限手段の効果を妨げる」とは、信号の除去・改変や、暗号の復号に限られるものではなく、技術的制限手段の効果を弱化又は無効化することであり、これに該当するか否かは、技術的制限手段を営業上用いている者が技術的制限手段を施した際に意図した効果が妨げられているかどうかによって実質的に判断すべき⇒F3の提供は不正競争に当たる。
弁護人:「技術的制限手段の効果を妨げる」とは、信号の除去・改変や暗号の復号といった技術的制限手段そのものの無効化に限られると解すべき。

<原審>
「技術的制限手段の効果を妨げる」とは、 技術的制限手段そのものを無効化することに限られない。
保護されるのは技術的制限手段の効果として通常理解できる範囲に限られる。
Gの前記機能はその範囲に含まれる。

これを妨げるF3は技術的制限手段の効果を妨げるものとしてその提供は不正競争となる。

<判断>
弁護人の上告趣意は、刑訴法405条の上告理由に当たらない。
F3は、改正前不正競争法2条1項10号にいう「技術的制限手段の効果を妨げることにより影像の視聴を可能にする機能を有するプログラム」に当たる。

<解説>
●検察官の非限定説

①改正前不正競争法2条1項10号の文言は「技術的制限手段の効果を妨げる」というもので、「技術的制限手段を妨げる」などとはしていない
②限定説を採ると技術的制限手段を講じた意味がなくなる場合がある
③立法提案者による解説に寄れば、「技術的制限手段の効果」は、それを用いる者が(営業上の利益のために)意図したところとするものであり、限定説を採るものではない。

弁護人の限定説
←著作権法の「技術的保護手段」の「回避」と調和的に解釈すべき
②非限定説を採ると処罰範囲が不明確又は過度に広範になる

判例時報2545

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国際的(フィリピン)な親子関係否定と認知の事案

東京家裁R4.1.19

<事案>
申立人(フィリピン国籍)と前夫との親子関係を否定した上で、日本法を準拠法として相手方(日本国籍)が申立人を認知するとの合意に相当する審判(家事手続法277条1項)をした事例。

<規定>
民法  第七七九条(認知)
嫡出でない子は、その父又は母がこれを認知することができる。
法適用通則法 第二八条(嫡出である子の親子関係の成立)
夫婦の一方の本国法で子の出生の当時におけるものにより子が嫡出となるべきときは、その子は、嫡出である子とする。
2夫が子の出生前に死亡したときは、その死亡の当時における夫の本国法を前項の夫の本国法とみなす。

<解説>
●準拠法
申立人と相手方との間の嫡出でない親子関係を検討するためには、申立人と前夫との間に嫡出親子関係が認められないことが必要(最高裁)
本件で認知の準拠法となる日本法では、既に、嫡出親子関係が存在していると認められる場合には、認知によって親子関係を成立させることはできない(民法779条)
認知の対象となる子の母に婚姻歴がある場合には、まず、申立人と母の夫又は前夫との間に嫡出親子関係が認められないことについての検討が必要。

本件では、フィリピン人である母がフィリピン人である前夫と婚姻していた⇒フィリピン法によって申立人と前夫との間に嫡出親子関係が認められないとされて初めて日本法による認知が可能となる。

●フィリピン法
フィリピン家族法172条1項:
嫡出親子関係は、次のいずれかの方法により証明される。
(a)身分登録簿に記載された出生記録又は確定判決
(b)当該親が公的文書又は自筆の指摘文書において嫡出親子関係を認め、署名をしたこと

同条2項:
前項に規定された証拠がないときは、嫡出親子関係は、次のいずれかの方法によって証明される。
(a)公然かつ継続的な嫡出子の身分の占有
(b)裁判所規則及び特別法によって認められたその他の方法

●法適用通則法28条1項
「夫婦の一方の本国法で子の出生の当時におけるものにより子が嫡出となるべきときは、その子は、嫡出である子とする。」
~嫡出否認の問題にも適用されるとされており、
嫡出の否認が許されるか否か、否認権者、嫡出否認の方法、否認権の喪失、嫡出否認の方法、否認権の喪失、否認権の行使期間なども、同条が定める準拠法による。
夫婦の本国法のうち双方又はいずれか一方において嫡出性が認められて嫡出子とされた場合における嫡出否認は、嫡出性を認める本国法により嫡出性が否認されることが必要。

●本審判:
フィリピン法上、嫡出親子関係の前提にはフィリピン家族法172条によって親子関係の立証が必要となるところ、その立証がない⇒フィリピン法上の嫡出否認の手続による必要はない。
フィリピン家族法172条によって親子関係が認められないような場合には、嫡出否認によるまでもなく親子関係が認められないとの考えが記載されている。
尚、文献

フィリピン法において嫡出推定が及んでいるように思われる事案において、国際私法の通説的な考え方を基礎にしながら、フィリピン法の解釈を通じて、フィリピン法における嫡出否認の手続を経ることなく人法による認知を認める余地を認める判断をしたもの。

判例時報2545

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