管轄移転の請求が訴訟を遅延する目的のみでされた⇒刑訴規則6条による訴訟手続停止の要否(否定)
最高裁R3.12.10
<事案>
被告は、公訴事実を争うとともに、管轄移転の請求をしていたにもかかわらず裁判所が訴訟手続を停止しなかったことは違法であると主張。
<規定>
刑訴規則 第六条(訴訟手続の停止・法第十五条等)
裁判所に係属する事件について管轄の指定又は移転の請求があつたときは、決定があるまで訴訟手続を停止しなければならない。但し、急速を要する場合は、この限りでない。
刑訴規則 第一条(この規則の解釈、運用)
この規則は、憲法の所期する裁判の迅速と公正とを図るようにこれを解釈し、運用しなければならない。
2訴訟上の権利は、誠実にこれを行使し、濫用してはならない。
<判断>
被告人が、第1審及び原審において、本件に関する高等裁判所に対する管轄移送の請求及びその管轄移転請求事件等に関する最高裁判所に対する管轄移転の請求を繰り返していたところ、これらの管轄移転の請求に及んだ経緯や経過、各請求の理由等に照らせば、遅くとも第1審裁判所が令和2年5月22日に第2回公判期日を指定した時点以降において係属していた管轄移転の請求は、いずれも訴訟を遅延させる目的のみでされたことが明らかであったという原判決及びその是認する第1審判決の認定
⇒
管轄移転の請求が、訴訟を遅延させる目的のみでされたことが明らかである場合には、刑訴規則6条により訴訟手続を停止することを要しない。
<解説>
● 管轄移転の請求:
裁判が不可能である場合(刑訴法17条1項1号)、あるいは裁判の公平が維持できない場合(同項2号)において、管轄を移転することによって障害を除去し、公平な裁判を行い得るように環境を整えようとする制度。
● 刑訴規則6条の趣旨:
管轄移転の請求に理由があるのに審判手続が続行された場合、管轄移転後にこれをすべて是正するのが困難であることから、そのような事態をあらかじめ回避することにある。
⇒管轄移転の請求が認容される余地がないといえる場合には、そのような事態が生じるおそれはないから、必ずしも訴訟手続を停止する必要はないと解することが可能。
管轄移転の請求という制度は、その性質において忌避申立てと共通点があるところ、
忌避申立てであれば簡易却下すべきものとされるような明らかな訴訟遅延目的による濫用的なものである場合には、そのような請求はせおよそ認容される余地がない⇒刑訴規則6条の趣旨・目的に照らしても、これにより訴訟手続を停止することに合理性は見いだせず、同条により訴訟手続を停止することを要しないと解して差し支えない。
訴訟手続きを停止することを要しない場合につき規定する刑訴規則11条は、そのような濫用的な忌避申立ての際にもなお一旦訴訟手続を停止しなければならないとするのは背理であることから、当然の事理を確認したものにすぎない。
⇒同条は、その定めるところ以外には一切訴訟手続を停止しないことを認めない趣旨ではないし、そのような定めのない手続において、訴訟手続の停止を要しない場合があると解することを一切否定する趣旨でもない。
判例時報2543・2544
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