保釈保証金の全額没収の事案
東京高裁R4.1.24
<事案>
保釈保証金の没収金額が争点となった実刑判決確定後の逃亡事案
(刑訴法96条3項による没収請求の事案)
<規定>
刑訴法第九六条[保釈、勾留の執行停止の取消し]
③保釈された者が、刑の言渡を受けその判決が確定した後、執行のため呼出を受け正当な理由がなく出頭しないとき、又は逃亡したときは、検察官の請求により、決定で保証金の全部又は一部を没取しなければならない。
<判断>
原決定を取り消し、事実調べの結果も踏まえて、保釈保証金を全部没取する旨の自判。
保釈制度は保釈保証金没取の制裁の予告による心理的威嚇に期待する制度であり、没取事由が生じた場合には制度趣旨を踏まえた適切な制裁を科すべき。
①本件は、刑訴法96条3項に定める没取事由の中でも刑の執行への影響がより大きい「逃亡したとき」に該当し、その期間も相当縫い長い⇒特に事情がない限り保釈保証金は全額没取すべし。
②このような事案においても、制裁を減じることを相当とする事情があれば、一部没取にとどめることもできるが、減額する放校で考慮することができる事情は、そのような事情を考慮することが保釈制度の趣旨から見て相当といえるものに限られる。
③実質的納付者の年齢、収入等や本件において実質的納付者に帰責事由がうかがわれないことなどについては、保釈制度の趣旨から見て、没取金額を減額する方向で考慮すべき事情ではない。
④原決定段階で刑の執行が開始されていることについては、没取金額を減ずる方向で考慮すべき事情に当たることを原決定が示しているとはいえない。
⇒
原決定は、制裁を減ずる方向で考慮すべきではない事情を考慮し、不当に低い没取金額を定めており、破棄を免れない。
<解説>
保釈保証金没取決定に対しては、不服のある当事者は抗告(ないしは抗告に代わる異議)の申立てができ、抗告審(ないし異議審)では、原決定の裁量判断に対する審査が行われる。
本決定は、異議審の立場から、原決定の裁量判断に対し判断等を示したもの。
判例時報2543・2544
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