てんかん病歴の運転者⇒痙攣で事故の場合の過失(肯定事例)
長野地裁R4.2.8
<事案>
X1、X2(本件事故に関するX1の損害をてん補し保険代位した共済協同組合)が、Aの相続人であるY1(Aの妻)、Y2(Aの父)及びY3(Aの母)に対し、不法行為に基づく損害賠償を請求した事案。
<主張>
Xら:
請求原因として、
選択的にAは病歴があったのであるからそもそも運転を差し控える等の義務があり、あるいは現場は下り坂であるから、路側帯に停車させるに当たり、その後の体調の急変に備え、エンジンを停止するなどA車の逸走防止措置を講ずるべき義務があった
予備的に、Aの責任無能力により免責される場合のY1の監督義務違反を主張(民法714条本文)。
Y:
①Aが発作を起こしそれが全身に及ぶことは予見できなかった
②当時の状況からしてA車のエンジンを停止することは不可能であった
③本件事故当時Aはけいれん発作や意識障害のため責任能力を欠いていた(民法い713条本文)
④監督義務違反はなかった
⇒Xらの請求を棄却。
<判断>
Aが全身けいれん発作に見舞われるより前の、下り坂の途中で路側帯にA車を停止させた時点での注意義務を問題にした。
そこでは、全身けいれんの発作を起こしてアクセルを踏み込んでしまうという危険の予見可能性の問題ではなく、坂道でフットブレーキを踏み続けることができなければA車は逸走する⇒フットブレーキを踏み続けることができなくなることの予見可能性を問題とすべき。
その予見可能性あり⇒エンジンを切るなどの逸走防止のための確実な措置を採って、かかる逸走を回避すべき義務があるということになる。
本件:
①Aは「やばいやばい」と連呼してA車を停車させた⇒局所けいれんを自覚していたと認められる。
②Aが過去に意識消失を伴うけいれん発作を起こした経験がある
⇒前記停車の時点でフットブレーキを踏み続けることができなくなることの予見が可能であった。
A自身がエンジンを停止するなどの逸走防止措置を採ることが可能だったのか?
・・・普段Aはギアを右手で操作し、右手だけでA車を運転しており、A社の運転に習熟していた⇒エンジンキーを操作することは可能であった。
⇒
Aには、エンジンを切るなどのA車の逸走を確実に防止する措置を講ずべき義務があったのにこれを怠ったという過失がある。
この時点ではAの責任能力の問題は生じない。
<解説>
全身けいれん発作を起こすなどの時点では責任能力の問題が出てくる⇒それより前の責任能力があるとされる時点で一定の過失があると捉えられるかが問題となる。
過去の病歴等からしてそもそも車の運転自体を差し控えるべき義務があるのではないかという点も問題。
but
本件:
その点は取り上げず、
運転中の局所けいれんで車を路側帯に停車させた時点の、まだ全身けんれんを起こして意識を消失していない段階での注意義務を問題にして、その後に意識を消失してフットブレーキを踏み続けられなくなることのよけんが可能であったかを検討すべきであるし、予見可能性・結果回避可能性を肯定して過失を認めた。
but
アクセルを踏み込み車を急発進させたという点に着目することも考えられるが、その点は本件事故に至る因果の流れの一部に過ぎないとしている。
判例時報2545
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