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2023年4月

2023年4月29日 (土)

てんかん病歴の運転者⇒痙攣で事故の場合の過失(肯定事例)

長野地裁R4.2.8

<事案>
X1、X2(本件事故に関するX1の損害をてん補し保険代位した共済協同組合)が、Aの相続人であるY1(Aの妻)、Y2(Aの父)及びY3(Aの母)に対し、不法行為に基づく損害賠償を請求した事案。

<主張>
Xら:
請求原因として、
選択的にAは病歴があったのであるからそもそも運転を差し控える等の義務があり、あるいは現場は下り坂であるから、路側帯に停車させるに当たり、その後の体調の急変に備え、エンジンを停止するなどA車の逸走防止措置を講ずるべき義務があった
予備的に、Aの責任無能力により免責される場合のY1の監督義務違反を主張(民法714条本文)。

Y:
①Aが発作を起こしそれが全身に及ぶことは予見できなかった
②当時の状況からしてA車のエンジンを停止することは不可能であった
③本件事故当時Aはけいれん発作や意識障害のため責任能力を欠いていた(民法い713条本文)
④監督義務違反はなかった
⇒Xらの請求を棄却。

<判断>
Aが全身けいれん発作に見舞われるより前の、下り坂の途中で路側帯にA車を停止させた時点での注意義務を問題にした。
そこでは、全身けいれんの発作を起こしてアクセルを踏み込んでしまうという危険の予見可能性の問題ではなく、坂道でフットブレーキを踏み続けることができなければA車は逸走する⇒フットブレーキを踏み続けることができなくなることの予見可能性を問題とすべき。
その予見可能性あり⇒エンジンを切るなどの逸走防止のための確実な措置を採って、かかる逸走を回避すべき義務があるということになる。

本件:
①Aは「やばいやばい」と連呼してA車を停車させた⇒局所けいれんを自覚していたと認められる。
②Aが過去に意識消失を伴うけいれん発作を起こした経験がある
前記停車の時点でフットブレーキを踏み続けることができなくなることの予見が可能であった。

A自身がエンジンを停止するなどの逸走防止措置を採ることが可能だったのか?
・・・普段Aはギアを右手で操作し、右手だけでA車を運転しており、A社の運転に習熟していた⇒エンジンキーを操作することは可能であった。

Aには、エンジンを切るなどのA車の逸走を確実に防止する措置を講ずべき義務があったのにこれを怠ったという過失がある。
この時点ではAの責任能力の問題は生じない

<解説>
全身けいれん発作を起こすなどの時点では責任能力の問題が出てくる⇒それより前の責任能力があるとされる時点で一定の過失があると捉えられるかが問題となる。
過去の病歴等からしてそもそも車の運転自体を差し控えるべき義務があるのではないかという点も問題。
but
本件:
その点は取り上げず、
運転中の局所けいれんで車を路側帯に停車させた時点の、まだ全身けんれんを起こして意識を消失していない段階での注意義務を問題にして、その後に意識を消失してフットブレーキを踏み続けられなくなることのよけんが可能であったかを検討すべきであるし、予見可能性・結果回避可能性を肯定して過失を認めた。
but
アクセルを踏み込み車を急発進させたという点に着目することも考えられるが、その点は本件事故に至る因果の流れの一部に過ぎないとしている。

判例時報2545

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

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パイロット予備校の受講規約に定められた違約金の効力

東京地裁R4.2.28

<事案>
X(航空大学校受験を目的としたパイロット予備校の運営などを目的とする会社)が、本件予備校の受講生であるYに対し、 受講規約に定められた違約金の支払を求めた事案。

<判断>
●本件譲渡禁止条項の有効性
Y:本件教材は、Xの役務提供義務に付随するものとしてYが対価を支払って取得⇒Xの著作権は消尽しており(著作権法26条の2第2項)著作権侵害とはならず、
本件譲渡禁止条項は消費者の利益を一方的に害するもので消費者契約法10条に該当し無効。
X:本件教材は受講生に貸与したものであり、本件教材の譲渡を前提とするYの主張には理由がない。

判断:
本件予備校では、受講生に配布する教材にID番号を付しており、受講生に教材を譲渡するのであれば、かかるID番号を付する必要はない⇒本件教材が貸与されているものであると強く推認させる⇒本件教材の譲渡を前提とするYの著作権の消尽の主張は認められない。

本件教材が第三者に譲渡されれば、第三者にXのノウハウが流出するというべきであり、営業上の利益が侵害されるといえる⇒本件譲渡禁止条項は合理性がないとはいえず、消費者契約法10条に該当するものではない。

●本件違約金条項の有効性
Y:本件教材を第三者に譲渡転売されたとしてもXはそれにより損害を受けないにもかかわらず、本件違約金条項は受講者であるYの利益を一方的に害する不当な条項であり、消費者契約法10条により無効。

判断:
本件教材は航空大学校の入学試験に合格するためのものであり、売却等をするためのものではない⇒第三者に売却できなくても受講生に特段の不利益はない。
本件教材を第三者に譲渡されればXの営業上の利益が害される⇒消費者契約法10条に該当するとはいえない。

●公序良俗違反
判断:本件違約金条項の目的が受講生による教材の売却等を防止し、Xが営業上の損害を被らないようにするという点にあるのであれば、必要な限度を超えた違約金を設定すると受講生が負う負担と比して不均衡となる
⇒必要な限度を超えた違約金の範囲については公序良俗に反して無効。
⇒100万円を限度として認める。

<規定>
消費者契約法 第九条(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効)
次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
一 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
二 当該消費者契約に基づき支払うべき金銭の全部又は一部を消費者が支払期日(支払回数が二以上である場合には、それぞれの支払期日。以下この号において同じ。)までに支払わない場合における損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、支払期日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該支払期日に支払うべき額から当該支払期日に支払うべき額のうち既に支払われた額を控除した額に年十四・六パーセントの割合を乗じて計算した額を超えるもの 当該超える部分

第一〇条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

<解説>
本件違約金条項が、本件譲渡禁止条項に違反した場合には、違約金をとることとは別に民事上の措置(損害賠償等)をとると規定⇒賠償額の予定ではなく違約罰であると認定。
経済・取引秩序に反する行為(経済的公序)のうち経済活動に伴う行き過ぎによる公序良俗違反行為については、当該契約の被害者を救済するという性格も強く、絶対無効とすべきか若干疑問があるという見解も(四宮・能見)。

本判決:
本件違約金条項が必要な限度を超えて定めた額であるか否かについては、受講生であるYが支払った受講料、本件教材を譲渡した価格、Yが事前に提示した金額等から100万円の範囲で有効であるとし、実質的に損害賠償請求の如き認定。
⇒消費者契約法9条、10条の適用も考えられる。

最高裁R4.12.12:
賃貸借保証会社が賃借人と締結する無催告解除の条項および賃料等不払の場合の明渡し条項について、いずれも消費者契約法10条に該当し無効であるとして、同条該当性について肯定の判断をしている。

判例時報2525

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

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2023年4月27日 (木)

自動車の運転を一時的に避けるべき注意義務違反(肯定事例)

仙台高裁R4.2.22

<事案>
症候性てんかんの発作により意識を失ってA所有の自動車に衝突させる交通事故(本件事故)
Aに車両保険金を支払った損害保険会社であるXは、保険法25条1項の請求権代位に基づき、車両保険金支払額と同額の損害賠償を求めた。

<一審>
・・・脳出血の原因の更なる調査が予定されていたことを踏まえても、本件事故発生前に、自動車運転時に意識を消失し、事故を発生させる具体的な危険をあることを認識することができたのではと認められず、一時的に自動車の運転を回避すべき注意義務があったとは認められない。

Yは、本件事故発生時、症候性てんかんによって意識消失状態にあった⇒民法713条本文にうい「精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態」にあった⇒請求棄却。

<判断>
本件事故より前に2度意識消失の発作を起こし、かねて本件事故発生日の2日後に意識消失の原因を調査するために大学病院での診察や検査が予定されていた
⇒Yには、運転中に意識を売すなって事故を起こさないようにするため、意識消失の原因が判明するまで自動車の運転を一時的に避けるべき注意義務があり、同義務に反して自動車を運転して衝突させた過失がある
⇒原判決を取り消し、Xの請求を全部認容。

道交法66条は、過労、病気、薬物の影響その他の理由により、正常な運転ができないおそれがある状態で自動車を運転してはならないことを定める。

免許の取消し又は停止の事由となる道交法施行令で定められた病気である「てんかん」や「自動車等の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈する病気」にかかっていることが、医師の診断により判明したとまではいえない場合でも、診療を受けている病気の症状や診療経過から、意識消失の発作により自動車の安全な運転に必要な認知、予測、判断、操作の能力を欠くこととなる症状を呈するおそれがある病気にかかっている可能性が高いときは、確定診断まではなくても診療中の病気により正常な運転ができないおそれがある状態にあり、道交法66条により、自動車を運転してはならない義務を負う
本件事故当時、脳出血による意識消失の発作を繰り返し、その原因となった脳出血の原因がわからず、更に大学病院での専門的な検査、診療を受ける予定であった以上、意識消失の発作により「自動車の安全な運転に必要な認知、予測、判断、操作の能力を欠くこととなる症状を呈する病気」にかかり、その病気が治癒していない可能性が高かったといえる状態にあり、このような状態にあったYは、確定診断まではなくても診療中の病気により正常な運転ができないおそれがある状態にあり、道交法66条により、自動車を運転してはならない義務を負っていたと認めるのが相当であり、
少なくとも大学病院で原因を精査して意識消失の原因が判明するまでは、自動車の運転を一時的に回避すべき注意義務を負っていた。

<解説>
道交法66条の過労運転等の禁止に関する規定は、正常な運転ができないおそれのある状態にあるか否かは、自動車を運転する者が、その責任において判断すべきこととなっており、本判決は、この規定の解釈との関係において、てんかんなどの病気による運転免許規制についても検討している。
(文献)

判例時報2545

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

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いじめによる自殺で安全配慮義務違反肯定事例

福岡高裁R3.9.30

<事案>
学校法人であるYの設置する私立高校の3年であった男子生徒が平成25年11月に自死⇒
①本生徒の親族であるXらが、本件自死は本高校の生徒らのいじめによるものであるところ、Yは、本高校の教員をして、本生徒に対するいじめの事実を把握して、これを阻止し、本件自死を防止する義務を怠った⇒
Yに対し、債務不履行責任又は不法行為に基づき、
X1(本生徒の父)及びX2(同母)につきそれぞれ4300万円余の、
X3(同祖母)、X4(同兄)及びX5(同姉)につきそれぞれ330万円の
損害賠償金の支払を求め、
②X1及びX2が、Yは、本件生徒に対する前記いじめを阻止せず、本件生徒の名誉を毀損したなどと主張⇒Yに対し、本件生徒の名誉回復請求権に基づき、謝罪文の掲示を求めた。
Xらは、当初、いじめに関与した本高校の生徒ら8名に対しても損害賠償等を請求していたが、いずれも和解により終了。

<争点>
①Yの安全配慮義務違反又は過失の有無、Yの同義務違反又は過失と本件自死との因果関係の有無
②本生徒及びXらの損害並びにその額
③名誉回復請求権行使の可否

③について
原判決:Yの不作為により本生徒の名誉が毀損されたとは認められない⇒請求棄却。
本判決もそのまま引用。

<判断>
●争点①
◎ 原判決と同様の事実認定

本生徒は、加害生徒らのいじめにより、精神的に追い詰められ、現実から逃れる手段として自死に至ったと認めるのが相当⇒加害生徒らによるいじめと本件自死との間には、相当因果関係が認められる。

◎ Yの責任:
在学契約に基づく付随義務としての生徒の生命、身体等に対する安全配慮義務がある。

本高校の教員は、生徒に対するいじめやその徴候が発見された場合、いじめを阻止し、いじめが生徒の自死という重大な結果を招来しないように、本件自死前の事故を受けて策定された本件予防体制(=文部科学省が平成21年に公表した生徒の自殺予防についてのマニュアルに基づき、本高校の再発防止委員会が平成22年に策定した「自殺予防のための校内体制」)のほか、本件手順(=Yの教職員がいじめに係る具体的な情報の提供を受けた場合、生徒育成部長への報告、生徒育成部の会議の招集及び調査、関係者に対する事情聴取、再発防止委員会への結果の報告をすることとしているもの)や本件マニュアル(=いじめが発見された場合の対応等を定めるYの「危機管理マニュアル」であり、平成24年に改定されたもの)(「本件マニュアル等」)に従い、保護者や他の教員との連携を図りながら、情報を収集して、これを教員間で共有し、適正に事実関係を把握した上、いじめの被害者に対する心理的ケアを行ったり、加害者に対する指導等を行ったりするなど、生徒の自死を未然に防止する措置を執る義務を負う。

①本件自死の前年に、本生徒の学級担任が本生徒の首に痣があることを確認し、自殺未遂を疑った。
②本生徒が本件自死直前まで複数日欠席し、うち数日については欠席の届出がなかった。
③本高校の教員が調理実習の際のいじめに気付き、本生徒の火傷の状態を確認。

本高校の教員としては、いじめが発見された、あるいは、自殺未遂が生じた可能性があり、本生徒の自死の危険が高まっているとして、本件マニュアル等に従い、管理職を含む他の教員に上記の情報を提供し、これを教員間で共有すべきであった。
上記の情報提供、情報共有により、・・・本高校の教員において、本生徒がいじめにより自死を図ることを、具体的に予見することが可能であったというべきであるし、本高校の教員が、上記の予見に基づき、本件マニュアル等に従い、保護者や他の教員との連携を図りながら、さらに情報を収集して、これを教員間で共有し、適正に事実関係を把握した上、危機対応チームや生徒育成部の会議を招集するなどして、本生徒に対する心理的ケアや、加害生徒らに対する指導等の具体的な対応策を決定し、これを実行していれば、本件自死を回避することが可能であった。
それにもかかわらず、本高校の教員は、痣についての情報提供や事情聴取、無断欠席についての事情聴取、調理実習中の出来事についての情報提供や事情聴取をしていない
Yには、安全配慮義務の不履行ないし違反があった(本生徒の生命、身体に対する侵害として不法行為をも構成する)

●争点②
逸失利益について増額
X1及びX2の損害については過失相殺の規定の適用及び類推適用により2割を減額
X1及びX2の両名につき各1400万円の支払請求をに尿
X3,X4及びX5に関する部分について、各88万円の支払を認容。

<解説>
学校側による自死の予見可能性を肯定して相当因果関係を肯定した比較的少数の事例に1事例を加えるもの。

判例時報2545

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

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2023年4月26日 (水)

間接強制の方法による子の返還の強制執行の申立が不適法とされた事例

最高裁R4.6.21

<事案>
Xが、Xの夫であるYに対し、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(「ハーグ条約実施法」)134条に基づき、X・Y間の子らのフランスへの返還を命ずる終局決定を債務名義として、間接強制の方法による子の返還の強制執行の申立てをした。

<経緯>
(4)大阪家裁:
令和2年9月、Xの申立てに基づき、子らの返還事件について、Yに対し、本件子らを常居所のあるフランスに返還することを命ずる終局決定(本件返還決定)をし、その後確定。
(5)フランスの司法裁判所の裁判官は、令和2年11月、Yの離婚請求について、判決(第1審本案判決):
子らの常居所はYの住所に定められ、この判断については仮の執行力を有する。
(6)原々審(大阪家裁):
本件申立てに基づき、Yに対し、本件子らをフランスに返還することを命じ、Yが同債務を履行しないときは子1人につき1日当たり1万円を支払うよう命ずる決定。
(7)Yが執行抗告⇒原審は、本家申立てはフランス第1審本案判決が仮の執行力を有する間は権利を濫用するものとして許されない⇒原々決定を取消し、本件申立てを却下。
(8)フランスの控訴裁判所:本件子らの常居所はXの住所と定められた。
(9)奈良地裁の執行官は、令和3年8月、大阪家裁による授権決定に基づき、本件子らをYから解放し、返還実施者と指定されたXに引き渡した⇒その後、本件子らはフランスに返還された。

<判断>
Xがハーグ条約実施法134条に基づき本件返還決定を債務名義として申し立てた子の返還の代替執行により子の返還が完了⇒本件返還決定が係る強制執行の目的を達したことが明らか⇒本件申立ては不適法になったと判断し、Xの抗告を棄却。

<解説>
●執行手続である間接強制手続において、代替執行により子の返還が完了したという事実を考慮することができるか?

◎ 裁判機関と執行機関を分離し、執行手続を迅速かつ円滑に進行させることとした民執法の趣旨
債務の履行のような実体上の事由については、請求異議の訴えにより判決手続で審理すべきであって、執行手続において審理すべきではない(通説)
判例も取立訴訟についてではあるが、同様の見解。

請求異議の訴えは、当該債務名義に基づく強制執行が行われ、債権者が債権全額の満足を受けた場合には、その債務名義の執行力の排除を求める目的を欠く⇒訴えの利益はなくなり、却下される(判例・通説)
but
強制執行手続きは、執行力のある債務名義の正本に基づき請求権を強制的に満足させる手続き
⇒他の執行手続により請求権の満足を得た場合には、強制執行手続を利用する目的を達したものといえ、そのことが有する執行手続上の意味合いは任意の履行による請求権の満足を得た場合とは同じとは言い難い。

子の返還を命ずる終局決定の強制執行として代替執行と間接強制を定めるハーグ条約実施法134条は、子に与える心理的負担を考慮して、間接強制を原則的な執行方法としつつ、間接強制によっても奏功しなかった場合又は間接強制を前置することが実効性を欠く場合に初めて代替執行を行うことができる。

最終的な強制執行方法を代替執行を位置付けている。
⇒代替執行による履行が完了した場合にまで間接強制決定を求める利益はないとも考えられる。

◎ 平成15年の民執法改正により間接強制の適用範囲が拡大
⇒間接強制と代替執行(又は直接強制)との並行申立てを許容すべきか、代替執行における授権決定が先行した場合に間接強制決定が許されるかについて議論がある。
but
代替執行により履行が完了した後についてまで間接強制決定をすることを積極的に許容する見解は見当たらず、いずれも執行障害事由であることを前提としている。

本決定:
以上を踏まえ、子の返還を命ずる終局決定に基づく間接強制決定に係る審理においては、代替執行による子の返還が完了したことにより終局決定に基づき強制執行を申立てる目的を達したことが明らかに認められる場合には、これを考慮することができることを前提として、本件申立てを不適法であるとしたもの。
本件申立てを不適法であることを根拠付ける手続上の事由としては、申立ての利益を欠くこと又は申立権の濫用に当たることが考えられる。

●原決定:
①フランス第1審本案判決は国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約及びハーグ条約実施法の意図に沿うものであるところ、フランス第1審本案判決により子らの常居所がYの住所に定められ、これについて仮の執行力を付与されたこと
②本件返還決定により子らをフランスに返還することは、再度、フランスから日本に移動する負担を子らに強いるおそれがある
⇒本件申立てが権利の濫用に当たる。
vs.
②については、子の返還を命ずる終局決定は、子を常居所地国に返還することにより原状回復を図り、常居所地国において子の監護に関する裁判をするためにされるもの
常居所地国における前記裁判において、子の居住地が連れ去り先の国にいる者の居住地と指定されるなどすることにより、当該子に再び常居所地国から連れ去り先の国に移動する負担が生ずることは当然予定されており、そのような事態が生ずることをもって本件返還決定に基づく間接強制の申立てが権利の濫用であることを基礎づける事情とはいえない。

①のみを理由として、子の返還を命ずる終局決定に基づく間接強制の申立てが権利の濫用に当たるとしている。
but
確定してもいない外国における子の監護に関する裁判がされたことのみを理由として子の返還の強制執行を許さないとすることは、前記裁判が適正な審理の下に行われたものであったとしても、ハーグ条約の目的、ハーグ条約17条及びこれを受け手定められたハーグ条約実施法28条3項の趣旨に反するおそれがある。

ハーグ条約17条前段:
The sole fact that a decision relating to custody has been given in or is entitled to recognition in the requested State shall not be a ground for refusing to return a child under this Convention, but the judicial or administrative authorities of the requested State may take account of the reasons for that decision in applying this Convention.

ハーグ条約実施法28条3項:
裁判所は、日本国において子の監護に関する裁判があったこと又は外国においてされた子の監護に関する裁判が日本国で効力を有する可能性があることのみを理由として、子の返還の申立てを却下する裁判をしてはならない。ただし、これらの子の監護に関する裁判の理由を子の返還の申立てについての裁判において考慮することを妨げない。

判例時報2545

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

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船場センタービルの上を通っている阪神高速道路の占有料をめぐる争い

大阪高裁R3.12.14

<事案>
大阪市中心部にある船場センタービル(「本件ビル」)の上を通っている阪神高速道路の占有料をめぐる争い 。
Y:阪神高速道路公団が行っていた本件ビルに係る業務等を承継した独立行政法人
X:本件ビルの区分所有者全員で構成される団体の管理者
Yは、平成25年度以降毎年、Xに対し固定資産税等と同額の占有料について納入告知をしている。

<争点>
①本件各納入告知の行政処分性
②本件各納入告知の理由の提示の適法性(手続的適法性)
③本件各納入告知の信義則違反ないし裁量権の逸脱・濫用の有無(実体的適法性)

<原審・判断>

争点①:
本件各納入告知は行政処分
争点②:
平成26年度納入告知は理由の提示に不備があるが
平成27年度~平成30年度納入告知に不備はない


争点③
◎ 平成27年度納入告知は違法
原審:裁量権の逸脱・濫用
本判決:信義則違反ゆえに裁量権の逸脱・濫用がある

平成28年度~平成30年度納入告知:
原判決:裁量権の逸脱・濫用の違法
本判決:適法

◎ 原審:
①本件ビルが本件高速道路と不可分一体のものとして建設されたという特殊性
②Xは本件ビルの敷地相当部分の事業費(用地費・補償費)の約30%に相当する47億円余を分担しており、この分担金は占有料の前払い的な性格を有する
③公団とその承継人であるYが昭和46年以降40年以上にわたって占有料を免除してきた

占有料を固定資産税等の額と同額と定めたYの判断には裁量権の逸脱・濫用があり、平成27年度~平成30年度納入告知はいずれも違法。

判断:

Xが分担した47億円余は占有料の前払いとは認められない
but
40年以上の長期間にわたって占有料が免除され続けてきた事実には重みがあり、Xには占有料を徴収されないという強い信頼があった⇒平成27年度納入告知の実体的適法性を検討するに際してはこの信頼保護の必要性が重視される

Yの側にも長年にわたって免除されていた固定資産税等が賦課されるようになったという事情はある
but
大阪市に対し不服申立てや取消しの訴え提起などの法的措置をとっていない
平成27年度納入告知は信義則に反し違法。

平成28年度~平成30年度納入告知:
基礎となる事情は異ならない。
but
Yに対して固定資産税等を賦課し続ける大阪市の強固な姿勢が一層明白になってきた。
・・・資金調達等について準備する時間がXにあった。

平成27年度納入告知と異なり、Xの信頼を裏切る処分であるとの評価を低減させる事情がある。
信義則違反とまではいえず、平成28年度~平成30年度の納入告知は有効。

判例時報2545

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

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2023年4月22日 (土)

固定資産評価審査委員会の委員の職務上の注意義務違反を否定した原審の判断に違法があるとされた事例

最高裁R4.9.8

<事案>
Xが、土地課税台帳に登録された本件各土地の平成30年度の価格を不服として丹波市固定資産評価審査委員会に審査の申出⇒棄却⇒本件登録価格の適否に関する本件決定の判断に誤りがある⇒
Y(丹波市)を相手に、
①本件決定のうちxが適正な時価と主張する価格を超える部分の取消しを求める
②国賠法1条1項に基づき、弁護士費用相当額等の損害賠償
を求めた。

<関係法令>
固定資産評価基準:
ゴルフ場用地の評価につき、
①当該ゴルフ場を開設するに当たり要した 当該ゴルフ場用地の取得価額に当該ゴルフ場用地の造成費を加算した価額を基準としてその価額を求める方法による
②この場合において、取得価額及び造成費は、当該ゴルフ場用地の取得後若しくは造成後において価格事情に変動があるとき又はその取得価額若しくは造成費が不明のときは、附近の土地の価額又は最近における造成費から評定した価額による。
自治省税務局資産評価失調は、各道府県総務部長等宛てに「ゴルフ場の用に供する土地の評価の取扱いについて」と題する通知
総務省自治税務局資産評価室長は、各道府県総務部長等宛てに「ゴルフ場用地の評価に用いる造成費について」と題する通知
を発出。

宅地比準方式と
山林比準方式

<判断>
●登録価格が評価基準によって決定される価格を上回る場合には、その登録価格の決定は違法となる(最高裁H25.7.12)ことを前提とした上で、
最高裁H5.3.11を引用し、
審査委員会が、評価基準の解釈適用を誤り、過大な登録価格を是認する審査の決定をした場合において、これを構成する委員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と判断したと認め得るような事情がるときには、国賠法1条1項にいう違法があったとの評価を受ける。

●本件決定は、本件各土地の取得価額につき山林比準方式を用いて評定する以上、整合性の観点から、丘陵コースの平均的造成費(840円/㎡)を用いて造成費を評定するのが合理的である旨の理由によったものであり、必要な土工事(土量の切り盛り移動)の程度を考慮することなく造成費を評定し得るとの見解に立脚した点において評価基準の解釈適用を誤った。
①本件定め(=固定資産評価基準での定め)の趣旨に照らし、造成費については、必要となる工事の程度に応じた評定が予定されているものと解すべきことが明らか
②本件定め等において、ゴルフ場用地の取得価額の造成費はあくまでも別個に評定すべきものとされている。
本件定めの解釈適用に係る参考資料と位置付け得るゴルフ場通知や固定資産税務研究会編・前掲書においても、宅地比準方式によるか山林比準方式によるかは、周辺地域の大半が宅地化されているか否かにより決まるものとされている一方、造成費については、必要な土工事の程度等に応じた評定を予定しているとうかがわれる記述がみられ、少なくとも、取得価額の評定の方法に応じて造成費の評定の方法が直ちに決まることをうかがわせる記述はみられない。
③他に、前記の見解に沿う先例や文献等の存在もうかがわれない。

当該見解に相当の根拠はない。

<解説>
●判断枠組み等について
職務行為基準説:
国賠法上の違法性(職務上の注意義務違反の有無)の判断と過失の判断とは、基本的に一致することになるものと解される。

本件:
本件決定が必要な土工事の程度に関する事情を考慮せず造成費を評定し得るとの見解に立脚した点において、客観的にみて評価基準の解釈適用の誤りがあることが前提。

法令の解釈等に誤りがある場合に違法性:
職務行為基準説を前提とした場合には、その誤った見解に関する相当の根拠の有無が問われることとなる。

最高裁H16.1.15:
法令の解釈が対立し、実務上の取扱いも分かれていて、そのいずれについても相当の根拠が認められる場合に、公務員が一方の見解に立脚して公務を執行したときは、後にその執行が違法と判断されたからといって、直ちに当該公務員に過失があったものとすることは相当でない。

判例時報2545

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2023年4月 2日 (日)

保釈保証金の全額没収の事案

東京高裁R4.1.24

<事案>
保釈保証金の没収金額が争点となった実刑判決確定後の逃亡事案
(刑訴法96条3項による没収請求の事案)

<規定>
刑訴法第九六条[保釈、勾留の執行停止の取消し]
保釈された者が、刑の言渡を受けその判決が確定した後、執行のため呼出を受け正当な理由がなく出頭しないとき、又は逃亡したときは、検察官の請求により、決定で保証金の全部又は一部を没取しなければならない。

<判断>
原決定を取り消し、事実調べの結果も踏まえて、保釈保証金を全部没取する旨の自判。
保釈制度は保釈保証金没取の制裁の予告による心理的威嚇に期待する制度であり、没取事由が生じた場合には制度趣旨を踏まえた適切な制裁を科すべき。
①本件は、刑訴法96条3項に定める没取事由の中でも刑の執行への影響がより大きい「逃亡したとき」に該当し、その期間も相当縫い長い⇒特に事情がない限り保釈保証金は全額没取すべし
②このような事案においても、制裁を減じることを相当とする事情があれば、一部没取にとどめることもできるが、減額する放校で考慮することができる事情は、そのような事情を考慮することが保釈制度の趣旨から見て相当といえるものに限られる
実質的納付者の年齢、収入等や本件において実質的納付者に帰責事由がうかがわれないことなどについては、保釈制度の趣旨から見て、没取金額を減額する方向で考慮すべき事情ではない
④原決定段階で刑の執行が開始されていることについては、没取金額を減ずる方向で考慮すべき事情に当たることを原決定が示しているとはいえない。

原決定は、制裁を減ずる方向で考慮すべきではない事情を考慮し、不当に低い没取金額を定めており、破棄を免れない。

<解説>
保釈保証金没取決定に対しては、不服のある当事者は抗告(ないしは抗告に代わる異議)の申立てができ、抗告審(ないし異議審)では、原決定の裁量判断に対する審査が行われる。
本決定は、異議審の立場から、原決定の裁量判断に対し判断等を示したもの。

判例時報2543・2544

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管轄移転の請求が訴訟を遅延する目的のみでされた⇒刑訴規則6条による訴訟手続停止の要否(否定)

最高裁R3.12.10

<事案>
被告は、公訴事実を争うとともに、管轄移転の請求をしていたにもかかわらず裁判所が訴訟手続を停止しなかったことは違法であると主張。

<規定>
刑訴規則 第六条(訴訟手続の停止・法第十五条等)
裁判所に係属する事件について管轄の指定又は移転の請求があつたときは、決定があるまで訴訟手続を停止しなければならない。但し、急速を要する場合は、この限りでない。

刑訴規則 第一条(この規則の解釈、運用)
この規則は、憲法の所期する裁判の迅速と公正とを図るようにこれを解釈し、運用しなければならない。
2訴訟上の権利は、誠実にこれを行使し、濫用してはならない。

<判断>
被告人が、第1審及び原審において、本件に関する高等裁判所に対する管轄移送の請求及びその管轄移転請求事件等に関する最高裁判所に対する管轄移転の請求を繰り返していたところ、これらの管轄移転の請求に及んだ経緯や経過、各請求の理由等に照らせば、遅くとも第1審裁判所が令和2年5月22日に第2回公判期日を指定した時点以降において係属していた管轄移転の請求は、いずれも訴訟を遅延させる目的のみでされたことが明らかであったという原判決及びその是認する第1審判決の認定

管轄移転の請求が、訴訟を遅延させる目的のみでされたことが明らかである場合には、刑訴規則6条により訴訟手続を停止することを要しない。

<解説>
● 管轄移転の請求:
裁判が不可能である場合(刑訴法17条1項1号)、あるいは裁判の公平が維持できない場合(同項2号)において、管轄を移転することによって障害を除去し、公平な裁判を行い得るように環境を整えようとする制度。

● 刑訴規則6条の趣旨:
管轄移転の請求に理由があるのに審判手続が続行された場合、管轄移転後にこれをすべて是正するのが困難であることから、そのような事態をあらかじめ回避することにある。
⇒管轄移転の請求が認容される余地がないといえる場合には、そのような事態が生じるおそれはないから、必ずしも訴訟手続を停止する必要はないと解することが可能。

管轄移転の請求という制度は、その性質において忌避申立てと共通点があるところ、
忌避申立てであれば簡易却下すべきものとされるような明らかな訴訟遅延目的による濫用的なものである場合には、そのような請求はせおよそ認容される余地がない⇒刑訴規則6条の趣旨・目的に照らしても、これにより訴訟手続を停止することに合理性は見いだせず、同条により訴訟手続を停止することを要しないと解して差し支えない。

訴訟手続きを停止することを要しない場合につき規定する刑訴規則11条は、そのような濫用的な忌避申立ての際にもなお一旦訴訟手続を停止しなければならないとするのは背理であることから、当然の事理を確認したものにすぎない。
⇒同条は、その定めるところ以外には一切訴訟手続を停止しないことを認めない趣旨ではないし、そのような定めのない手続において、訴訟手続の停止を要しない場合があると解することを一切否定する趣旨でもない。

判例時報2543・2544

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労働契約・減給処分・解雇・未払賃金請求権

横浜地裁R4.4.14

<争点>
①XらとYとの間の労働契約の成否(労働契約上の労働契約者に当たるか)
②Xらに対する本件各減給処分の有効性
③Xらの解雇の有効性
④未払賃金請求権(いわゆるバックペイ)の有無

<規定>
労契法 第二条(定義)
この法律において「労働者」とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう。
2この法律において「使用者」とは、その使用する労働者に対して賃金を支払う者をいう。

<判断>
●労契法上の労働者性
労働者:
①使用者の指揮監督下において労務の提供をする者であること
労務に対する対償を支払われる者であること
という2つの要件(使用従属性の要件)を充足することを要する。

判断:
①Xらは、代表取締役の指揮監督の下に業務を遂行していた
②Y自身がXらを労働者として厚遭っていた
Yとの間で使用監督関係の下で労務を提供していた⇒労働者性を肯定

Xらはいずれも、代表取締役の親族であった
賃金及び業務内容の点において他の従業員らと大きな開きがあった
X2についてはYの監査役として登記されていた
vs.
Xらは部長として本件店舗の運営の中枢を担っており、賃金及び業務内容は、単にそれを反映したものにすぎない。
X2が監査役として登記されていた点についても、実態を伴わない名目的なものであった。
⇒いずれも労働者性を否定する事情とは判断せず
親族であることも、同様に、労働者性と矛盾する事情ではない。

●本件各減給処分の有効性
使用者の人事権に基づく役職又は職位の引下げは、就業規則上の明文の根拠規定がなくてもでき、これが人事権の濫用に当たる場合に無効となる。
but
役職又は職位の引下げに伴って賃金を減額するためには、労働契約上かかる定めがあることが必要
but
Yの就業規則等においては、部長職から解任されたことを理由として賃金を減額できることを定める規定はなかった。
⇒本件各減給処分は労働契約上の根拠を欠くもの。

Yが主張した本件各減給処分の理由について、それがいずれも合理性を欠くものであったことを説示。
①Xらによるパチンコ台の遊戯釘の調整に係る警察への告発
vs.
同告発を理由とする減給処分は公益通報法5条1項に反する

②Xらによる同告発がされた当時、Xらは代表取締役であるAとの間で対立関係にあった
vs.
Xらが、AをYから排除する目的をも有していた可能性は否定していないものの、同告発に至る経緯等を踏まえて、同告発の主要な目的が「不正の目的」(公益通報法2条1項柱書)であったとはいえない。

●解雇の有効性
◎普通解雇としての有効性
就業規則における解雇事由の定めを限定列挙と解する場合、使用者が労働者を当該定めに基づいて解雇するためには、就業規則上の解雇事由のいずれかに該当することを主張・立証する必要
仮にこれが認められる場合であっても、当該解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして無効となる。
(労契法16条)
本判決は認めず。

◎整理解雇としての有効性
①人員削減の合理性
②解雇回避努力
③人選の合理性
④手続の相当性

本判決:
前記①~④の4つの観点に関する具体的事情を総合的に考慮した上で、Xらの解雇が客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められないか否か(労契法16条)を判断
~(要件説ではなく)要素説に近い考え。
①人員削減の合理性は認められるが、
②解雇回避努力を尽くしたとはいえず、
③人選の合理性及び④手続の相当性も認められない
⇒整理解雇としても無効。

●バックペイの有無
Xらが労務を提供しなかったのはYの責めに帰すべき事由によるもの
⇒民法536条2項前段に基づき、Yはその間の賃金を支払う義務を負う。

判例時報2543・2544

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