科技イノベ活性化法15条の2第1項1号の「研究者」
東京地裁R3.12.16
<事案>
Yとの間で有期労働稀有役を締結して更新しているXが、Yに対し、①労契法18条1項に基づき無期転換の申込をしたことにより期間の定めのない労働契約が成立、②YがXに対し無期転換申込権を認めない取扱いをしたことは違法
⇒
①期限の定めのない労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、
②不法行為に基づく慰謝料100万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた
X:令和1年6月20日、Yに対し、労契法18条1項に基づき無機労働契約を申し込む旨の意思表示
Y:XとYとの間の労働契約は、「科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律」に基づき、契約期間が10年を超えるまで無期転換申込権は発生しない⇒無期転換申込権を否定。
<争点>
Xが科技イノベ活性化法15条の2第1項1号の「科学技術に関する研究者」に該当するか。
<判断>
●科技イノベ活性化法15条の2の趣旨:
①立法過程における審議内容
②条文の文言
⇒
科学技術に関する研究開発は、5年を超えた期間の定めのあるプロジェクトとして行われることも少なくないところ、このような有期のプロジェクトに参画し、研究開発及びこれに関連する業務に従事するため、大学等を設置する者と有期労働契約を締結している労働者に対し、労契法18条によって通算契約期間が5年を超えた時点で無期転換申込権が認められると、無期転換回避のために通算契約期間が5念を超える前に雇止めされるおそれがあり、これによりプロジェクトについての専門的知見が散逸し、かつ当該労働者が業績を挙げることができなくなるため、このような事態を回避することにある。
⇒
科技イノベ活性化法15条の2第1項1号の「研究者」というには、研究開発法人又は有期労働契約を締結した者が設置する大学等において、研究業務及びこれに関連する業務に従事している者であることを要する。
学校教育法92条及び大学設置基準16条(現15条)によれば、大学の教授、准教授及び講師の職務において、研究と教育は区別され、必ずしも不可分一体ではなく、研究は担当せず、教育のみを担当する教授、准教授及び行使が存在することが想定されている。
科技イノベ活性化法の立法の審議過程においても、教育のみを担当する講師については、「研究者」として10年超えの特例の対象とすることが想定していなかった。
⇒
大学等で研究開発及びこれに関連する業務に従事していない非常勤講師を「研究者」とすることは立法趣旨に合致しない。
科技イノベ活性化法と同時に、10年超えの特例が設けられた「大学の教員等の任期に関する法律」(「任期法」)が、10年超えの特例が適用される大学教員の対象を限定した上、手続的にも厳格な定めを置いている。
but
研究実績がある者、又は、大学等を設置する者が行った採用の選考過程において研究実績を考慮された者であれば「研究者」に該当すると解した場合、大学教員は、研究実績がある者であったり、研究実績を先行過程で考慮されたものであったりすることがほとんど⇒任期法が適用対象を限定したことは無意味となり、このような解釈は不合理である。
⇒
A大学において、学部生に対するドイツ語の授業、試験及びこれらの関連業務にのみ従事しているXは、「研究者」に該当しない⇒労契法18条1項に基づきく無機労働契約への転換を認め、地位確認請求を認容。
●不法行為については、
Yの無期転換申込権を認めない取扱いという事実行為によって、Xの地位が影響を受けることはない等⇒成立を否定。
判例時報2541
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