記名式定期預金及び記名式定期積金の預金債権の帰属と払戻(無効)
大阪高裁R3.10.8
<事案>
信用金庫に預け入れられた記名式定期預金及び記名式定期積金の帰属が争われた事案。
信用金庫であるY1は、Xを名義人とする本件各預金の預入れを受けていたが、本件各預金は、平成5年から平成11年までの間に、いずれも払い戻されていた。
<主張>
X:本件各預金の出演者はXであり、払戻請求権はXに帰属。
本件各預金の払戻しはY2(Xの父)がXに無断で行ったものであり無効。
⇒
Y1に対し、本件各預金の払戻請求をするとともに(甲事件)、Y2からY6までに対し、本件各預金の払戻請求権がXに帰属することの確認を求めた(乙事件)。
Xは、甲事件において、Y1が本件各預金の存在を隠蔽⇒不法行為に基づく損害賠償請求を選択的に併合。
Y1:独立当事者参加をして、Y2からY6までに対し、本件各預金の払戻債務がないことの確認を求めた(丙事件)。
<原審>
本件各預金はXに帰属したが、いずれも有効に払い戻されXの払戻請求権は消滅
⇒Xによる甲事件及び乙事件の各請求をいずれも棄却。
Y1による丙事件の請求をに認容。
<判断>
記名式定期預金契約において、当該預金の出捐者が他の者に金銭を交付して記名式定期預金をすることを依頼し、この者が預入行為をした場合、預入行為者が自己の預金とする意図で記名式定期預金をしたなどの特段の事情のない限り、出捐者をもって記名式定期預金の預金者と解すべき。
以上の考え方は、記名式定期積金にも当てはまる。
本件預金は、
①名義人がXであること、
②出演者として可能性のある者がX以外に認められないこと
③X以外に権利者であると主張する者がいないこと
⇒
本件各預金の払戻請求権はXに帰属する。
Y1:Y1が作成していた預金元帳・定期預金元帳に本件各預金が払い戻されたことが記録されており、これらは本件各預金の弁済に係る直接証拠たる類型的信用文書に当たる
vs.
本判決:これらの預金元帳上の払戻しの記録は、Y1が当該預金の払戻の手続を行った事実を証明するにとどまり、その払戻が当該預金の真の預金者又は同人から払戻しの授権を受けた者に対してなされた事実までを証明するものとはいえない。
本件各預金の証書又は通帳及び届出印がY6のの金庫に保管されていた(Y2が利用できる状態にあった)ことにつき
本判決:Y2が、本件訴訟において、本件各預金の預金者について不知であると認否し、Xから本件各預金の管理処分権を委ねられていたとは主張していない
⇒前記証書等の保管の事実から、直ちにY2がXから本件各預金の処分権を委ねられていたと推認することはできない。
結論として、本件各預金の一部の払戻は無効。
⇒
XのY1に対する預金払戻請求を認容し(甲事件)、XのY2からY6までに対する預金払戻請求権の確認請求を認容(乙事件)。
<解説>
預金債権の帰属:
判例は、無記名定期預金及び記名式定期預金について客観説(自らの出捐によって、自己の預金とする意思で自ら又は代理人・使者を通じて預金契約をした者を預金者とする説)を採用。
本判決:
記名式定期預金及び記名正規定期積金について、客観説を採用。
本判決:
担保提供や払戻しがXの意思に基づくか否かについて、その行為毎に、行為者、Xへの意思確認の有無、処分証書がある場合にはその成立の真正や信用性、保証意思確認票の信用性等を丁寧に検討して事実認定。
判例時報2540
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