地方議会議員の発言による国賠請求
横浜地裁R3.12.24
事案 X(在日コリアン)が、
①鎌倉市議会議員であったY1に対し、鎌倉市議会におけるY1の発言、Y1の議会外におけるSNS条の発言が、Xの名誉を毀損⇒不法行為に基づき慰謝料の支払等を
②Y2(神奈川県鎌倉市)に対しては、国賠法1条1項に基づき慰謝料の支払等を求めた。
<判断>
本件議会内発言については、地方議会議員としての職務としてなされたものであることは明らか⇒Y2が国賠法上の責任を負う。
本件議会外発言についても、当該SNSの性質、実名か匿名か・公開か非公開化といった当該投稿の形式、当該投稿の目的、内容、当該投稿に使用されたアカウントの投降履歴等の観点から検討を加えた上で、
本件議会外発言はいずれも、当該投稿の一般の読者の普通の注意と読み方とを基準にすると、地方議会議員としての職務執行の外形を備えていると認められる⇒Y2が国賠法上の責任を負う。
地方議会議員の発言が、その職務とは関わりなく違法又は不当な目的をもってされたものであるなど、その付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情がある場合には、国賠法1条1項にいう違法な行為があったものと解するのが相当。
「私、特に出身が出身なだけに本当に怖い。」との発言については、前後の文脈からして、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、Xが在日コリアンの出自を持つことから、Y1は強い恐怖心を感じるという意味の発言
~
在日コリアンに対する差別意識を前提に、在日コリアンというXの出自を理由にXを不当に貶める差別的発言と認められ、前記特別の事情がある。
⇒国賠法上の違法性を有する。
本件議会外発言のうち、Xの行為に対して否定的評価を与えるのを超えて、Xがその氏名からして日本人ではないというその属性自体をも否定的評価の根拠の1つとしていることが明らかであるものについては、Y1は、SNSにおいて広報活動をするに当たって、地方議会議員として職務上当然に尽くすべき注意義務を尽くさなかったといえる。
⇒国賠法上の違法性を肯定。
<解説>
●地方議会議員のSNSにおける発言の職務行為関連性
判例:
公務員がその職務を行うについて他人に損害を与えた場合の公務員の個人責任を否定し、
国賠法1条1項の「職務を行うについて」の意義については、客観的に職務の外形を備えている場合に職務行為関連性を認める外形標準説を採用
●地方議会議員の議会内発言の国賠法上の違法性
●地方議会議員の議会外発言の国賠法上の違法性
本件議会内発言とは異なり、本件議会外発言については、Y1が地方議会議員として職務上当然に尽くすべき注意義務を尽くしたかどうかを問題にしている
~
議会内発言と議会外発言とで判断基準を使い分けている。
←
議会内発言と議会外発言では、その要保護性におのずと違いがある。
本判決は、「真実性・相当性の法理」に言及していない。
←
①「真実性・相当性の法理」は、報道の自由や個人の表現の自由と名誉毀損により害される利益の調整を図る基準であるところ、本件議会外発言は、公務員の広報活動としてなされたもので、報道機関による表現や私人によるSNS上での発言とは場面が異なる
②本件では、日本人ではないというその属性自体に否定的評価を加える発言が問題となっているところ、「真実性・相当性の法理」ではその違法性の実質を捉えることが難しい
判例時報2541
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