懲戒処分が違法⇒国賠請求(一審肯定・二審否定)
東京高裁R4.4.14
<争点>
①懲戒委員会が、本件綱紀議決が理由で懲戒事由が認められないとした事項、及び本件綱紀議決が懲戒請求事由として整理した事由と異なる観点の事由について審査したことが、懲戒委員会の審査権限を逸脱したものであって国賠法上違法となるか
②懲戒委員会がした懲戒事由についての事実認定が不合理であって国賠法上違法と評価されるか
<原審>
懲戒委員会において審理の対象とすべき事実は、綱紀委員会の議決において事案の審査を求めることを相当と認められた特定の具体的事実と同一の社会的事実のほか、これに基づく懲戒の可否等の判断に必要と認められる事実の範囲に限られ、これらの事実の範囲を安易に拡張して解釈することは許されない。
<判断>
●争点①
◎弁護士会綱紀委員会が、懲戒請求の対象となっている複数の事実が事案ないし事件として同一性の範囲にあると認められた上でその一部について懲戒事由に相当すると判断し、議決主文として単に懲戒相当とした場合、
弁護士会懲戒委員会では全ての懲戒請求事由が審査の対象となると解するのが相当。
Y弁護士会の綱紀委員会は、1の①から③までのうち、事実が事案ないし事件として同一性の範囲にあると認めた上で、その一部である③の事実について懲戒事由に相当すると判断し、議決主文として単に懲戒相当としたものと認められると認定
⇒Y弁護士会の懲戒委員会が①及び②の各事実についても審査の対象としたことは、弁護士法が定める懲戒の手続に違反したものとはいえない。
◎懲戒請求書の記載を検討して、Y弁護士会の懲戒委員会の整理とした懲戒請求事由は、本件の懲戒請求者の懲戒請求の趣旨に沿うもの。
Y弁護士会の懲戒委員会が、本件綱紀議決が整理した懲戒請求事由とは異なる観点を含む事由について審査の対象としたことが、弁護士法が定める懲戒の手続に違反したものとはいえない。
●争点②
懲戒委員会の議決に基づいて行われた弁護士会の懲戒処分に関する国賠法上の違法性の判断基準について
懲戒委員会が議決を行うについて、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然とこれをしたと認め得るような事情がある場合に限り、当該議決に基づいて行われた弁護士会の懲戒処分に国賠法1条1項にいう違法があったとの評価を受けると解するのが相当。
職務上通常尽くすべき注意義務の具体的内容について、
処分の基礎となる事実関係の認定については弁護士会の裁量の観念を入れる余地はないのに対し、
懲戒の可否、程度等の判断においては、懲戒事由の内容、被害の有無や程度、これに対する社会的評価、被処分者に与える影響、弁護士の使命の重要性、職務の社会性等の諸般の事情を総合的に考慮することが必要
⇒
認定された事実関係が「品位を失うべき非行」といった弁護士に対する懲戒事由に該当するかどうか、また、該当するとした場合に懲戒すべきか否か、懲戒するとしてどのような処分を選択するかについては、弁護士会の合理的な裁量にゆだねられている。
⇒
懲戒委員会が懲戒の可否及び程度等を判断する上において、全くの事実的基礎を欠くか、又は社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用してされたと評価される判断をしないという注意義務が問題となる。
本件では、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然とこれをしたと認め得るような事情があるとは認められない。
判例時報2542
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