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2023年3月 7日 (火)

審査請求と取消訴訟で異なる理由でも審査請求前置の要件を満たす・心臓性突然死での死亡と認定

名古屋高裁金沢支部
R3.11.10

<事案>
Aの妻であるXは、死亡原因は過労であるとして、福井労働基準監督署長(処分行政庁)に対して遺族補償給付及び葬祭料の請求⇒処分行政庁は、不支給処分(本件各処分)⇒本件各処分についての審査請求及び指針さ請求をしたが、いずれも棄却⇒Y(国)に対して本件各処分の取消しを求める本件訴訟を提起。

X:審査請求及び再審査請求においては、Aが過労により急性脾膵臓壊死を発症して死亡した旨を主張⇒過労が急性膵臓壊死を引き起こすという医学的知見が確立されていないとして理由がないと判断。
本件訴訟では、Aが過労により心疾患を発症して死亡した旨を主張

<争点>
①本件訴訟の審査請求前置要件充足性
②Aの死因
③Aの疾病及び死亡の業務起因性
Aが心疾患をもたらし得るほどの長時間労働をしていたことは争いがない⇒Aの死因(②)が心疾患であると認定されれば、業務起因性(③)は半ば自動的に肯定されるという構造

<判断・解説>
●争点①(本件訴訟の審査請求前提要件充足性)
審査請求における主張事実を取消訴訟において変更することは処分の同一性の範囲内であれば許されると解するのが一般的。
Y:労災保険給付については、給付の種類が同一で、傷病及び災害原因が同じであれば処分に同一性があるが、いずれかが異なれば処分の同一性が失われる。
Xの主張するAの傷病は、本件不服申立てにおいては急性膵臓壊死であったが、本件訴訟においては心疾患⇒処分の同一性なし。
vs.
判断:
Yの主張の採否を明示することなく、本件不服申立て及び本件訴訟におけるXの主張はAが過労により死亡したとする点で共通⇒本件訴訟は審査請求前置の要件を満たす。

「Aが過労により死亡したこと」を「傷病」と捉えれば、Yの主張によっても、処分の同一性を肯定することができる。
再審請求に係る裁決書には、XがAの死因は心疾患であると主張した旨も記載。

●争点②(Aの死因)
労働者がいわゆる「職業病リスト」所掲の疾病により死亡したものであることは、遺族補償給付等を請求する者がその証明責任を負う。

X:Aの死因を急性心機能障害を含む虚血性心疾患
vs.
判断:証拠はない

X:特異的な形態額的変化のない心臓性突然死が死因
vs.
心臓性突然死という診断名は、急に死亡し、他に原因がなく、心臓に原因がうかがわれる症例に付けられるものであり、労働者が心臓性突然死により死亡したことの証明は、労働者が他の疾病により死亡した合理的可能性がないことを証明するという消去法によらざるを得ない
but
処分行政庁が、労働者が心臓性突然死により死亡したことを否認して、遺族補償給付等を不支給とした事案においては、処分行政庁において死因となる得る疾病を特定したからこそ、不支給処分をしたものであることが多いこのような事案においては、処分行政庁の主張する疾病が死因となった合理的可能性があるといえなければ、他に特段の事情のない限り、労働者が心臓性突然死により死亡したものであると推認することができる。

第1審:急性膵炎は死因となり得るとうい医学的知見と、Aが致死的な急性の膵炎の病変を発症した蓋然性があるという、いわば抽象的なレベルの論証をもって前記の合理的可能性を認めた。

控訴審:Aの死亡という具体的な症例において、死亡をもたらした可能性のある合理的機序が認められる必要があるとみた。
⇒判断の相違。

控訴審:
Aの死亡の機序については、D1医師の本件鑑定書及びこれを概ね支持するD2医師の意見書(本件鑑定書等)に記載されたもの以外には、具体的な仮説を提示する証拠がない⇒本件鑑定書等に記載された機序に合理性があるか否かを検討すれば足りる。
本件鑑定書等に記載された機序は、一般的が医学的知見と整合せず、このような不整合を合理的に説明説明し得る文献ないしは症例報告も見当たらないから、合理性がない
⇒第1審が判断のよりどころとした、Aの膵臓は生前に壊死したのか、死後に自己融解したのか等の問題点について判断する必要はない。

<解説>
要証事実を消去法により認定せざるを得ない事案は実務上まま見られる。
そのような事案において、いずれの当事者がいかなる間接事実をどの程度の証明度をもって主張立証すべきものとするかについては、議論が紛糾することも珍しくない。

判例時報2540

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

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