自衛官の自殺⇒安全配慮義務違反(肯定)
熊本地裁R4.1.19
<事案>
陸上自衛隊の陸曹候補生過程に入港し、共通教育中隊に配属中に自殺したA
父母であるXらが、Aの自殺の原因は、Aの指導に当たった自衛官であるY1及びY2による暴力的、威圧的ないじめないし嫌がらせ行為にある
⇒
Y1及びY2に対しては民法709条に基づき、
国に対しては民法715条、国賠法1条又は債務不履行に基づき、
それぞれ損害賠償金及び遅延損害金を支払うよう求めた。
<判断>
●Y1及びY2がAに対して行った行為の内容
AがY1から指導を受けているところを目撃した他の学生の供述や、Y1からの指導についてAから相談を受けていた他の学生の供述に基づき、Y1がAに対して指導中に「殺してやりたい」というような発言をしたことなどを認定。
●国の安全配慮義務違反の有無
国は、学生が教育訓練を受け、隊舎等の施設内において生活を送るに当たり、共通教育中隊の組織、体制、設備を適切に整備するなどして、学生の生命、健康に対する危険の発生を防止する安全配慮義務を負っている。
Y1は、Aが所属していた第1区隊の区隊長かつ学生全体の躾教育を担当する役割を担う同期生会指導部の指導幹部であり、Y2も学生全体の教育を担当する指導陸曹であった
⇒共に国の履行補助者としてAの生命、健康に対する危険の発生を防止する義務を負っていた。
・・・不適切な側面があったものの直ちに安全配慮義務違反に該当するとはいえない。
but
Y2がAに対する指導の際にその胸倉を掴んでゆすったこと、Y1がその状況を見ていながらその暴行を制止しなかったことは、共に安全配慮義務違反に違反。
Y1が業務ができていない者としてAに全学生の前で手を挙げさせたことは、Aに自己否定感や羞恥心を抱かせるもので、安全配慮義務に違反する。
Y1がAに対し、お前のような奴は殺してやりたいくらいというような発言をしたことは、学生に対する指導として何ら必要性がなく、社会通念上許されない暴言を述べたものにほかならず、安全配慮義務に違反する。
●安全配慮義務違反とAの死亡との間の相当因果関係
Aが共通教育中隊に配属後、新しい環境や業務に対する不安や、初対面の上官に対する緊張感のストレスを感じていたと考えられ、Y1による不適切な指導によって自信を喪失する中で、Y1及びY2から安全配慮義務に違反する行為を受けたもので、Aの遺書の記載や医師による診断も考慮
⇒安全配慮義務違反とAの死亡との事実的因果関係は認められる。
①AがY1及びY2から指導を受けていたのは2日間のみで、そのうち安全配慮義務に違反する指導を受けたのは3時間弱という短時間にとどまり、
②Aが急速に精神的不調をきたして自殺に至っていることなどに照らせば、Y1及びY2がAの自殺を予見することは困難
⇒安全配慮義務違反とAの死亡との間に相当因果関係は認められない。
●国家賠償請求及びY1及びY2の不法行為責任
Xらが本件訴えを提起した時点で、国に対して国賠法1条1項に基づく損害賠償請求をすることが可能な程度に損害及び加害者を知った時点から3年が経過⇒時効消滅。
Y1、Y2の行為は、いずれも共通教育中隊の教官としてAに対して指導する意図で行われたものであり、指導の一環として行われた外形を有している
⇒
公権力の行使に当たる公務員であるY1及びY2がその職務を行うについてしたものであるといえ、国賠法1条の適用がある
⇒Y1及びY2各個人は民法709条に基づく損害賠償責任を負わない。
判例時報2540
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