殺人で心神耗弱の事案
岡山地裁R3.11.29
<事案>
殺人の事案
<判断>
●被告人は、犯行当時、統合失調症の影響により心神耗弱の状態にあった。
捜査段階で被告人の精神鑑定を行った医師の証言が信用できることを前提に、関係証拠により争いなく認められる本件に至る事実経過等を詳細に認定して、被告人の責任能力を検討。
●心神耗弱の状態にあることをうかがわせる事情:
被告人は、統合失調症の影響で、
被害者が被告人の結婚等に反対していると思い込み、
これに不満を述べても被害者は取り合ってくれないとの思いを強め、
攻撃性や衝動性を高めた結果、
被害者の殺害を決意し、深夜に就寝中の被害者を包丁で刺そうと考え、
それまでの間、交際相手から犯行を思いとどまるよう促されたりした中でも、被害者を殺害することしか考えられない心理状態に至り、
被害者を殺害することを思いとどまることができなかったものとうかがえる。
~
被告人が、犯行当時、統合失調症の影響で行動制御能力が低下していた。
●犯行当時、完全責任能力を有していたことをうかがわせる事情
被害者に結婚等を反対されたと思い込んだ2日後、相談支援専門員に対し、兄を指してしまいそうだなどと相談し、犯行前日に被害者の言動等に興奮した時も、いったんは落ち着きを取り戻し、その場で直ちに犯行に及んだわけではない
⇒一定程度衝動を制御する能力は残っていた。
・・・・用意周到かつ冷静に犯行に及んでおり、被害者の殺害という目的に向けて一貫性のある合理的な行動をとっている。
・・・・自分の行動が違法であり、逮捕等されてしばらく帰れなくなるようなことであると認識していたといえ、善悪の判断能力や状況認識に問題はない。
●
①犯行時に合理的な行動をとっている
②一定程度衝動を制御する能力が残っていた
③被害的解釈による思い込みに捉われての犯行ではあるが、完全な被害妄想といえるものでhなあい
⇒
行動制御能力が低下している程度については、著しいといえるほどには至っていないと考える余地もなくはない。
but
被害者を殺害しなければ自由がないという思い込み自体が統合失調症の精神症状といえる病的なもの⇒そのように認定するには疑問もあり、被告人が完全責任能力を有していたと認めるには合理的な疑いが残る。
⇒
被告人は心神耗弱の状態にあったと認めるのが相当。
判例時報2537
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