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2023年2月15日 (水)

法人税法132条1項による処分の取消(肯定)

最高裁R4.4.21

<事案>
Xは、・・法人税の確定申告において、同じ企業グループに属するフランス法人からの金銭の借入れに係る支払利息の額を損金の額に算入⇒麻布税務署長は、同族会社等の行為又は計算の否認に関する規定である法人税法132条1項を適用し、前記の損金算入の原因となる行為を否認してXの所得の金額につき本件支払利息の額に相当する金額を加算⇒本件各事業年度に係る法人税の各更正処分及び本件各事業年度に係る過少申告加算税の各賦課決定処分をした⇒Xが、Y(上告人)(国)を相手に、本件各処分の取消しを求めた。

<争点>
本件借入れが法人税法132条1項にいう「これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に当たるか

<原審>
Xの請求を認容

<判断>
● 上告を受理した上で、棄却。

法人税法132条1項にいう「これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは、同項各号に掲げる法人である同族会社等の行為又は計算のうち、経済的かつ実質的な見地において不自然、不合理なもの、すなわち経済的合理性を欠くものであって、法人税の負担を減少させる結果となるもの

● 企業グループにおける組織再編成に係る一連の取引の一環として、当該企業グループに属する内国法人である同族会社が、当該企業グループに属する外国法人から行った金銭の借入れは、
(1)前記一連の取引は、前記企業グループのうち米国法人が直接的又は間接的に全ての株式又は出資を保有する法人から成る部門において日本を統括する合同会社として前記同族会社を設立するなどの組織再編に係るものであった
(2)前記一連の取引には、税負担の減少以外に、前記部門を構成する内国法人の資本関係及びこれに対する事業遂行上の指揮監督関係を整理して法人の数を減らす目的、機動的な事業運営の観点から当該部門において日本を統括する会社を合同会社とする目的、当該部門の外国法人の負債を軽減するための弁済資金を調達する目的、当該部門を構成する内国法人等が保有する資金の余剰を解消し、為替に関するリスクヘッジを不要とする目的等があり、当該取引は、これらの目的を同時に達成する取引として通常は想定されないものとはいい難い上、その資金面に関する取引の実体が存在しなかったことをうかがわせる事情も見当たらない
(3)前記借入れは、前記部門に属する他の内国法人の株式の購入代金及びその関連費用にのみ使用される約定の下に行われ、実際に、前記同族会社は、株式を取得して当該内国法人を自社の支配下に置いたものであり、借入金額が使途との関係で不当に高額であるなどの事情もうかがわれず、また、当該借入れの約定のうち利息及び返済期間については、当該同族会社の予想される利益に基づいて決定されており、現に利息の支払が困難になったなどの事情はうかがわれない
などの判示の事情のもとでは、当該借入れに係る支払利息の額を損金の額に算入すると法人税の額が大幅に減少することとなり、また、当該借入れが無担保で行われるなど独立かつ対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる取引とは異なる点があるとしても、
法人税法132条1項にいう「これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」には当たらない。

<解説>
●法人税法132条1項の趣旨等

同族会社等の場合には会社の意思決定が一部の資本主の意図により左右されるので、租税回避行為を容易に行い得る⇒これを是正し、負担の適正を図るためのもの。
法人税の負担を不当に減少させる行為又は計算が行われた場合に、これを正常な行為又は計算に引き直してその法人に係る法人税の更正又は決定をする権限を税務署長に認めた。

通説:
ある行為又は計算が経済的合理性を欠いている場合に、その行為又は計算について同項による否認が認められるとの経済的合理性説。
主要な論点:
ア:当該の具体的な行為又は計算が異常ないし変則的であるといえるか否か
イ:その行為又は計算を行ったことにつき租税回避以外に正当で合理的な理由ないし事業目的があったと認められるか否か

●関連する判例等
法人税法132条の2の組織再編成に関する行為又は計算の否認の規定につき
最高裁H28.2.29:
同条の「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは、法人の行為又は計算が組織再編税制・・・に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものであることをいうと解すべきであり、その濫用の有無に当たっては、
①当該法人の行為又は計算が、通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり、実体とは乖離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるかどうか、
②税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか等の事情を考慮
するのが相当である。

同条の解釈につき、いわゆる制度濫用基準を採用しつつ、濫用の有無の判断に当たっての考慮要素として、経済合理性説に係る考慮要素を、組織再編成の場面に即して表現を修正し、特に重要な考慮事情として位置付けたもの。

法人税法132条1項の規定につき、
東京高裁H27.3.25:
行為又は計算が「経済的合理性を欠く場合には、独立かつ対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる取引(独立当事者間の通常の取引)と異なっている場合を含む」
(これに対する上告受理申立ては不受理)

判例時報2539

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

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