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2023年2月

2023年2月25日 (土)

試験観察⇒無断退去⇒第1種少年院送致の事案

東京家裁R4.1.13

<事案>
保護処分歴のない少年が、共犯者らと2度にわたり同一の被害者から現金等を強盗取し、1度はその際に傷害を負わせたという、強盗及び強盗致傷と、これらによる試験観察中の、補導委託先からの無断退去というぐ犯行状の事案。

<判断>
強盗及び強盗致傷の各非行(「当初事実」)⇒少年の問題性を指摘しながら、身柄付き補導委託の方法による試験観察の余地があった。
無断退去の経緯と少年の説明⇒不快感情の蓄積に対する脆弱さ、不良交友に対する親和性の強さ、愛情欲求の不満の強さといった少年の問題性⇒指導者等との関係構築にも悪影響を及ぼす⇒試験観察により少年の問題性の根深さと矯正の難しさが浮き彫りになった。

少年が再非行に及ぶ危険性は高く、その防止のために種々の指導を実施することが必要不可欠⇒第1種少年院に送致。

<解説>
試験観察:
①それまでの調査を補強・修正し、要保護性についての専門的判断を一層的確にするという調査の機能
②終局決定が留保されていることによる心理的な強制効果を利用して少年に指導援護を行うという教育的処遇の機能

少年を委託先に宿泊等させて行う身柄付き補導委託の措置⇒従来の環境等から切り離し、家庭的な処遇を行い、受託者の人格的な感銘力に触れさせるなどしながら、社会内における改善更生の可能性を見極めることができる。

判例時報2539

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

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母親を道具として利用するとともに、不保護の故意のある父親と共謀した殺人罪が肯定された事例

最高裁R2.8.24

<事案>
非科学的な力による難病治療を標榜する被告人が、Ⅰ型糖尿病にり患した被害者Aの治療をAの両親から依頼⇒インスリンを投与しなければAが死亡する現実的危険性があることを知りながら、インスリンは毒であるなどとしてAにインスリンを投与しないよう両親に指示し、両親をしてAにインスリンを投与させずAを死亡させて殺害

<主張>
検察官:
両親を利用した殺人の間接正犯を主位的訴因
両親との共謀による共謀共同正犯(被告人には殺人罪が成立し、保護責任者遺棄致死の限度で共同正犯)を予備的素因
として主張

<1審・原審>
母親との関係では間接正犯
父親との関係では共謀共同正犯(共謀は保護責任者遺棄致死の限度)
が成立するとして、殺人罪の成立を認め、懲役14年6月(求刑懲役15年)

<判断>
上告趣意は適法は上告理由に当たらない
生命維持のためにインスリンの投与が必要なⅠ型糖尿病にり患している幼年の被害者の治療をその両親から依頼された被告人が、インスリンを投与しなければ被害者が死亡する現実的な危険性があることを認識しながら、自身を信頼して指示に従っている母親に対し、インスリンは毒であるなどとして被害者にインスリンを投与しないよう執ようかつ強度の働きかけを行い、母親をして、被害者の生命を救うためには被告人の指導に従う以外にないなどと一途に考えるなどして被害者へのインスリンの投与という期待された作為に出ることができない精神状態に陥らせ、被告人の治療法に半信半疑の状態であった父親に対しても母親を介してインスリンの不投与を指示し、両親をして、被害者へのインスリンの投与をさせず、その結果、被害者が死亡したなどの本件事実関係の下では、
被告人には、母親を道具として利用するとともに不保護の恋のある父親と共謀した未必ぼい殺意に基づく殺人罪が成立
⇒原判決を支持。

<解説>

①事情を知らない者(犯罪の故意のない者)を利用する場合
②是非弁別能力のない者を利用する場合
③他人を強制して犯罪を実現する場合
について、間接正犯を認めることは学説上一致。

理論的根拠・基準:
ア:実行行為性説:利用行為の構成要件実現の現実的危険性に求める
イ:行為支配説
ウ:規範的障害説
エ:自律的決定説
判例・実務は、特定の学説に依拠せず、事案ごとに、利用者及び被利用者の関係、両者の客観面・主観面の状況等の諸事情を総合考慮し、両者が被利用者を道具のように利用して自己の犯罪を実現したといえるか(規範的にみて自ら直接実行項をした場合と同視できるか)を判断


他人の不作為用した間接正犯:
判例・裁判例なし
ア:不真正不作為犯については、一種の身分犯⇒刑法65条1項の適用を受ける
イ:作為義務の存在は当該不作為の構成要件該当性(実行行為性)の問題であって、特定の身分犯を構成するものではない
ア説⇒身分者を利用した非身分者に間接正犯が成立するか?
A:否定説
B:肯定説←非身分者も身分者を利用することにより身分犯の法益を侵害することが可能
but
Bでも、自ら直接実行行為を行うことができない者が間接正犯となり得るか?


錯誤型・強制型の間接正犯
判例は、いずれも、利用者と被利用者の関係(支配従属関係、信頼関係等)、利用行為(欺罔、強制)の内容・態様、利用者の主観的意図・認識、被利用者の心理状態(錯誤、意思抑制状態等)等の諸事情を総合考慮して、利用者の間接正犯性(ないし利用行為の実行行為性)が判断されている。
強制型で第三者利用の事例で、これまで間接正犯が認められたものは、いずれも刑事未成年者を利用したもの。
被害者利用の事例では、被害者が成人である場合も、利用者に正犯性(ないし実行行為性)が認められているものがある。


共犯者間で認識していた犯罪事実が一致しない場合、各人にどのような共犯関係が成立するか?
ア:犯罪共同説⇒罪名の一致が要求
but
部分的犯罪共同説は、構成要件的に重なり合う限度で共犯の成立を認める。
イ: 行為共同説⇒異なる構成要件間の共犯も肯定される。

最高裁H17.7.4:
シャクティパット事件最高裁決定:
不保護の故意のある共犯者と共謀した殺意のある被告人につき、「殺人罪」が成立し、殺意のない患者の親族との間では保護責任者遺棄致死罪の限度で共同正犯となる
と説示

部分的犯罪共同説を採用したものと評価されている。


本決定:
母親の主観面の状況:
本件当時、被害者へのインスリンと投与という期待された作為に出ることができない精神状態に陥っていた
被告人と母親の関係、被告人の働きかけの内容・態様、母親が前記精神状態に陥った理由や経緯、被害者が死亡する危険性や母親の精神状態等についての被告人の認識等を認定、適示し、これらの被告人及び母親の主観面・客観面の状況等の諸事情を総合的に考慮して、被告人の間接正犯を認めた。

本件は、
①他人の不作為を利用した間接正犯の成否
②成人の第三者を利用した場合に間接正犯が肯定され得る意思決定の自由の阻害の程度
等の論点を含む。
被告人と不保護の故意のある父親との間の共謀を認めた。
第1審と原審:被告人と父親との間に保護責任者遺棄致死の限度で共謀が成立する旨判示
本決定:両者がどの範囲で共同正犯となるかについて判示しておらず、異なる故意を有する者同士の共犯関係の成立範囲に関する本決定の考え方は明らかにされていない。

判例時報2539

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代表取締役による善管注意義務違反(役員報酬増額を含む)の事例

東京高裁R3.9.28

<事案>
代表取締役による子会社設立に伴う同子会社用の機械設備の購入及び役員報酬の増額について、会社が当該代表取締役に対して善管注意義務違反による損害賠償を求めた。

<原審>
本件機械の購入金額は、X社の資産合計の1.5パーセントに及ぶものであって、その種類、性能等はベトナム子会社及びX社の収益に影響するものであるのに、Yは取締役会決議を経ずに、X社にとって重要な財産に当たる本件機械を購入したことは、代表取締役としての任務を怠った。
追加的請求については、民訴法143条1項ただし書に基づいて、不許可。

<判断>
本件機械の購入について、取締役としての善管注意義務違反を認定し、役員報酬の増額についても善管注意義務違反が認められるとして、Yの責任を認めた。
X社の大口受注先から技術先から技術課題を指摘され、技術レベルが改善されなければ製品の発注を大幅に減少させることの予告を受けるとともに、ベトナム進出について消極的意見を示されるなどして、技術レベルの改善が緊急かつ最重要な課題であることを理解していた
⇒取締役会における十分な議論を改めですべきであり、その結論が出るまで、ベトナム進出に関する具体的な準備作業を一時中止すべき注意義務を負っていたのに、これを怠って、取締役会を開催して議論を行わず、本件機械を受注し購入した注意義務違反が認められる。

役員報酬の増額について
①X社に役員報酬を増額するような業績の向上や経営状況の改善があったとは認められない
②Yは、適切なガバナンスが効きにくい状況を作出した上でこれを利用して自らの報酬額を増額
③他の取締役が3~4パーセントの増額なのに対して、Yの報酬は25%の増額であり、40万円という増額金額や増額率からみても、いわゆるお手盛りの色合いの濃いものである
④経済的にみても、本件株式の一部につき、X社の出捐によりYが取得するのと同じ効果を有する
本件の経緯からすれば、X社による本件株式の買取りをYが妨害して自己の利益を得たとも評価し得る背信性の強い行為

報酬額の増額は取締役としての善管注意義務に違反する。

<解説>
●取締役の善管注意義務の判断に当たっては、
取締役によって当該行為がなされた当時における会社の状況および会社を取り巻く社会、経済、文化等の情勢の下において、当該会社の属する業界における通常の経営者の有すべき知見及び経験を基準として、前提としての事実の認識に不注意な誤りがなかったか否か及びその事実に基づく行為の選択決定に不合理がなかったか否かという観点から、当該行為をすることが著しく不合理と評価されるか否かによって判断。

本判決:本件機械の購入ではなく、その前段階である準備作業の一時中止の判断をしなかったことについて、具体的事実を踏まえて、著しく不合理であると判断

●役員報酬の増額(会社法361条1項)に関して:
株主総会の決議で取締役全員の報酬の総額を定め、その具体的な配分は取締役会の決定に委ねることができる、取締役会は具体的な決定を代表取締役に一任することができる。

(判例)
役員報酬について厳格な規律が設けられているのは、取締役によるいわゆるお手盛りを防止して、会社ひいては株主の利益を保護することにある。
株主総会で報酬総額が定められていたとしても、具体的な報酬額の決定が、会社の利益を損なうような不合理なものであるときは、前記基準により、善管注意義務違反が認められる

判例時報2539

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暴対法31条の2の「威力利用資金獲得行為」該当性(肯定事例)

福岡地裁R4.1.31

<事案>
Xが工藤会傘下の5代目田中組構成員から刃物で顔面を切りつけられる等の襲撃行為を受け負傷⇒工藤会総裁であるY1及び工藤会会長であるY2に対しては、使用者責任(民法715条)又は暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(「暴対法」)31条の2に基づき
田中組組長であるY3に対しては、共同不法行為(民法719条)又は使用者責任に基づき
損害賠償金及び遅延損害金の連帯支払を求めた。

<争点>
Y1及びY2の暴対法31条の2に基づく責任の成否

<判断>
みかじめ料徴収を含むXと工藤会の関わり、Xが経営していた店舗における暴力団排除の活動やこれに対する田中組の反応、田中組組員らが本件襲撃前後に行った襲撃準備及び証拠隠滅等を詳細に認定し、
本件襲撃は工藤会排除の動きに対抗して、飲食店等からのみかじめ料収入を確保する等の目的で、工藤会を構成する田中組の活動として、田中組組長であるY3の指示に基づき行われた。

暴対法31条の2に基づく責任:
①指定暴力団の首領及び最高幹部会議の出席メンバー等は、組織内におけるその肩書の呼称を問わず、同条の「代表者等」に当たる
②同条の「指定暴力団員」には、当該指定暴力団を構成する傘下組織の構成員が含まれる
③同条の「威力利用資金獲得行為」に当たるためには、指定暴力団員が資金獲得行為を実行する過程において、当該指定某旅団の威力が何らかの形で利用されていれば足りる

①工藤会総裁として対外的に最上位の扱いを受け、組織内でも頂点とされていたY1及び工藤会会長として実権を握っていたY2は、いずれも工藤会において最上位の立場にあった首領であり、暴対法31条の2の「代表者等」に該当。
②本件襲撃は複数の田中組組員が関与して実効されたものであるところ、指定暴力団である工藤会の二次団体である田中組の組員らは同条の「指定暴力団員」に該当
③本件襲撃は、工藤会排除の活動に対抗して飲食店等から得られるみかじめ料を確保すること等を目的とし、工藤会の排除を試みていたXへの襲撃を通じて、同様の活動を行う他の飲食店等に恐怖による圧力を掛けることを企図
本件襲撃は、それ自体においてみかじめ料徴収等の資金獲得行為が行われたものではないが、田中組が工藤会による集金システムの一環でもあるみかじめ料徴収等を行うに際し、組員が指定暴力団員としての地位に基づいて組織的な暴力行為を実行し、これにより田中組ひいては工藤会の収入の確保を図ったもの⇒まさに資金獲得行為を実行する過程で指定暴力団の威力が利用されたもの
本件襲撃は同条の「威力利用資金獲得行為」に該当する。

<解説>
暴対法31条の2に基づく代表者等の損害賠償責任についての裁判例
特殊詐欺の事案においては、詐欺行為やその準備行為等を含むスキーム全体が暴対法31条の2の「威力利用資金獲得行為」に該当するかが争点となるが、裁判例の多くは、
不法行為の被害者に対して威力が示される必要はなく、指定暴力団が資金獲得行為を実行する過程において、当該指定暴力団の威力が何らかの形で利用されていれば足りるという解釈をした上で、特殊詐欺に関与する人員の確保や犯行グループの内部統制等に指定暴力団の威力が利用されたと評価

本件の、みかじめ料の徴収は威力利用資金獲得行為の典型例。

判例時報2539

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2023年2月21日 (火)

定期賃貸借契約の解除で、違約金の請求について一部を制限した事例

高松高裁R3.3.17

<事案>
新規に開業した商業ビルのフロアの一画に家庭用調理器具を販売する店舗を出店する目的を有するYと定期賃貸借契約を締結した本件ビルの所有者であるXが、本件契約の賃貸期間の満了前にYがXの承諾なく本件店舗を閉鎖した⇒約定の解除権を行使した上、Yに対し、
本件契約に基づく違約金507万2127円
未払費用23万2358円
原状回復費用292万1886円
の合計822万6371円
並びに
これらに対する本件解約解除の日の翌日である平成29年3月15日から支払済みまで生じ法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた。

<主張>
Y:
①Xの本件契約解除に先立ち、Xの債務不履行によりYが本件契約を解除した
②本件契約は、錯誤により無効であるか、詐欺により取り消す
③Xによる本件契約委解除事由もない

<原審>
Yの主張を排斥し、Xの請求を全部認容。

Y控訴
Xによる本件契約の解除権行使及び違約金請求が信義則違反ないし権利濫用であるとの主張を追加

<判断>
①Yによる本件契約の債務不履行解除を否定
②本件契約の錯誤無効、詐欺取消しを否定
③Xによる本件契約解除事由があるとして、Xによる本件契約の解除権行使を認めた。
but
原判決とは異なり、それによる違約金請求は信義則違反ないし権利の濫用に当たるとして3分の1に制限される

Zが、Xの履行補助者として、本件ビルに入居するテナントの誘致を行うリーシング業務を行っていたところ、Zの担当者としては、Yの店舗形態(家庭用調理器具の販売)からして、Yが本件店舗の主要顧客として主婦層を想定しており、本件ビル地下1階に食品スーパーが出店するか否かに重大な関心を持っていたことを認識していた⇒本件契約勧誘に際し、信義則上、Yが本件契約締結の判断を左右する集客力に関する事情について、Yに誤解を与えないように正確な情報を提供する義務(説明義務)を負担していた。
but
Zの担当者は、食品スーパーとの交渉状況等については、詳細な情報、すなわち、本件ビルのオープン時に食品スーパーが出店しない可能性なども一切説明しなかった
⇒Xの履行補助者であるZは、前記義務に違反してYに対し、集客力に関する事情について正確な情報を提供しなかった。

前記説明義務違反はXによる約定の解除自体が許されないとするほどの根拠は見出し難いものの、X(Z)の前記義務違反のため、Yは短期間での本件店舗の閉店を余儀なくされた⇒Xが本件契約全期間について、違約金の請求をするのは信義則に反し、権利の濫用として許されない。
違約金の請求が信義則違反ないし権利の濫用として制限される範囲としては、本件契約に基づいて算定した違約金額の3分の1の範囲に制限されるものとするのが相当。

<解説>
定期賃貸借契約においては、中途解約禁止条項が置かれ、賃借人が中途解約をした場合の違約金の定めが置かれることが多く、その違約金の約定が暴利行為として公序良俗に反して無効であるととして裁判において争われるケースがしばしばあるが、それが公序良俗違反であると判断されることは稀。
(公序良俗違反として1年分を超える賃料相当額を無効であるとした裁判例、
尚、フランチャイズ契約において、フランチャイザーの加盟店に対する約定の違約金の全部又は一部の請求がフランチャイザーの加盟店に対する情報提供義務違反を理由に、信義則違反ないし権利の濫用あるいは公序良俗違反により無効とされた裁判例は散見

本件:
本件契約の解除事由として、「Xの承認なく店舗を閉鎖したとき」が定められ、その場合の違約金としては、残存した賃貸借期間にYが支払うべき営業費総額に相当する金額を支払うと共に、既に預託した金額の敷金返還請求権を失うなどの内容

中途解約禁止条項委違反に基づく違約金請求と状況が類似している。

判例時報2539

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遺産分割の審判を本案とする審判前の保全処分における被保全権利等

東京高裁R3.4.15

<事案>
本件抗告審の相手方(原審相手方)に対して金銭債権を有する抗告人(原審申立人)が、債権者代位権を行使して、相手方が相続した遺産につき遺産分割調停を申し立て、家事手続法105条1甲及び200条2項に基づいて、遺産分割の審判を本案とする審判前の保全処分として、遺産中の特定の土地につき、処分禁止の仮処分を求めた

<原審>
抗告人が金銭債権者⇒本件不動産について係争物に関する仮処分(処分禁止の仮処分)の被保全権利を有しているとは認められない⇒却下。

<判断>
原審維持
but
理由は↓
①本件が債権者代位に基づくこと及び審判前の保全処分が本案と密接に関連し民事保全とは異なる面を持つ特殊な保全処分⇒その被保全権利の主体は、抗告人自身ではなく、抗告人の債権者代位の対象となっている相手方、また、その権利は、既存の権利ではなく、本案である遺産分割の終局審判で形成される具体的権利
審判前の保全処分の発令要件としての本案認容の蓋然性の内容は、係争物に関する仮処分としての処分禁止の仮処分が係争物についての給付請求権を保全するために発せられる仮処分(家事手続法115条、民保法23条1項)⇒保全処分の対象である本件不動産につき相手方への給付が命ぜられる見込みがあること
③本件で、抗告人が、前記の遺産分割調停不成立後の終局審判で本件不動産につき相手方への給付を命ずることになる見込みについて何ら主張・疎明していない⇒被保全権利を含む本案認容の蓋然性についての疎明があるとはいえない。

<解説>
家事手続法が定める遺産分割の審判を本案とする審判前の保全処分は、旧法下における審判前の保全処分の規律を基本的に維持しつつ、新たに、家事調停の申立てがあった場合にも審判前の保全処分ができるものとした制度
⇒被保全権利は、本案の終局審判で形成される具体的権利(通常、その権利主体は、審判前の保全処分の申立人と一致する。)と解される。
本件では、抗告人は、相手方の債権者として債権者代位権を行使して本件の遺産分割調停を申し立てており、遺産分割請求について債権者代位権の行使を認めるべきか否かについては、
A:肯定
B:否定(潮見)

同調停の申立書には、同調停における換価分割による債権回収を企図している旨が記載され・・・そもそも本案の終局審判で本件不動産につき相手方への給付を命ずることを想定していないことが窺える⇒申立却下。

判例時報2539

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「宗教法人が専らその本来の用に供する宗教法人法第3条に規定する境内建物」該当性(肯定事例)

東京地裁R3.9.21

<事案>
固定資産税等の各賦課決定⇒本件課税部分は地税法348条2項3号及び702条の2第2項の適用対象たる「境内建物」及び「境内地」に当たり非課税⇒Y(東京都)を相手に、本件処分の取消しを求めた。

<判断>
「境内建物」該当性につき、宗教法人法3条1号が、宗教活動に直接用いられる場所のみならず、住職・牧師等が起居する建物や、宗教法人の組織運営事務を行うための建物も含めているのは、これらが宗教法人の目的を達成するために通常必要であり、同法の各種規律にかからせるべきものであるため。
「その他宗教法人の・・・目的のために供される建物」も含まれるのは、宗教法人によって異なる教義等を考慮して境内建物該当性を判断すべきとの趣旨。
そして、専らその本来の用に供されている境内建物は、通常収益性がないから非課税とされる。

「境内建物」該当性につて:
①宗教法人法3条1号に例示的に列挙された建物に当たるか否かのほか、教義等に照らし、当該建物を用いることが、宗教の教義を広め、儀式行事を行い、信者を教化育成するという宗教法人の目的達成に必要なもので、当該建物につき同法の規律にかからせることが適当といえるかという観点からか検討し、それが肯定される場合
当該建物が専らその本来の用に供されているか否かを検討すべき。
かかる各検討は、宗教法人内部の主観的な意図まで立ち入るのではなく、一般の社会通念に基づいて外形的、客観的にこれを行うべき

本件において、
①バハイ教の宗教的活動が円滑に行われるためには管理人を配置して本件建物を常に開放する等の業務を行わせることが必要
②管理人が本件建物に通って前記業務を行うことは多大な困難を伴い、管理人を本件建物に起居させる必要がある
③本件管理人室から本件建物の外へ直接つながる出入口はなく、不特定の信徒が出入りする空間の一部であって、本件管理人室につき宗教法人法に定める規律にかからせることが適当である

本件管理人室は「境内建物」に該当し、前記業務のために管理人を起居させるという本来の用に供されている⇒本件処分は違法

<解説>
本件の「管理人室」は、宗教法人法3条1項が具体的に列挙する施設には含まれておらず、「その他宗教法人の・・・目的のために供される建物」として「境内建物」該当性が問題となった。

Y:本件管理人室について、会社員であるAの私的生活に利用されている空間であり「境内建物」に当たらない旨主張。
but
本判決:
境内建物等に係る宗教法人法の規律及びその趣旨等を踏まえて判断枠組みを示した上で、バハイ教の教義を踏まえつつ、本件管理人室の利用状況等を具体的に検討し、本件管理人室が「境内建物」に該当し、専らその本来の用に供されていると判断

裁判例

判例時報2539

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2023年2月15日 (水)

法人税法132条1項による処分の取消(肯定)

最高裁R4.4.21

<事案>
Xは、・・法人税の確定申告において、同じ企業グループに属するフランス法人からの金銭の借入れに係る支払利息の額を損金の額に算入⇒麻布税務署長は、同族会社等の行為又は計算の否認に関する規定である法人税法132条1項を適用し、前記の損金算入の原因となる行為を否認してXの所得の金額につき本件支払利息の額に相当する金額を加算⇒本件各事業年度に係る法人税の各更正処分及び本件各事業年度に係る過少申告加算税の各賦課決定処分をした⇒Xが、Y(上告人)(国)を相手に、本件各処分の取消しを求めた。

<争点>
本件借入れが法人税法132条1項にいう「これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に当たるか

<原審>
Xの請求を認容

<判断>
● 上告を受理した上で、棄却。

法人税法132条1項にいう「これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは、同項各号に掲げる法人である同族会社等の行為又は計算のうち、経済的かつ実質的な見地において不自然、不合理なもの、すなわち経済的合理性を欠くものであって、法人税の負担を減少させる結果となるもの

● 企業グループにおける組織再編成に係る一連の取引の一環として、当該企業グループに属する内国法人である同族会社が、当該企業グループに属する外国法人から行った金銭の借入れは、
(1)前記一連の取引は、前記企業グループのうち米国法人が直接的又は間接的に全ての株式又は出資を保有する法人から成る部門において日本を統括する合同会社として前記同族会社を設立するなどの組織再編に係るものであった
(2)前記一連の取引には、税負担の減少以外に、前記部門を構成する内国法人の資本関係及びこれに対する事業遂行上の指揮監督関係を整理して法人の数を減らす目的、機動的な事業運営の観点から当該部門において日本を統括する会社を合同会社とする目的、当該部門の外国法人の負債を軽減するための弁済資金を調達する目的、当該部門を構成する内国法人等が保有する資金の余剰を解消し、為替に関するリスクヘッジを不要とする目的等があり、当該取引は、これらの目的を同時に達成する取引として通常は想定されないものとはいい難い上、その資金面に関する取引の実体が存在しなかったことをうかがわせる事情も見当たらない
(3)前記借入れは、前記部門に属する他の内国法人の株式の購入代金及びその関連費用にのみ使用される約定の下に行われ、実際に、前記同族会社は、株式を取得して当該内国法人を自社の支配下に置いたものであり、借入金額が使途との関係で不当に高額であるなどの事情もうかがわれず、また、当該借入れの約定のうち利息及び返済期間については、当該同族会社の予想される利益に基づいて決定されており、現に利息の支払が困難になったなどの事情はうかがわれない
などの判示の事情のもとでは、当該借入れに係る支払利息の額を損金の額に算入すると法人税の額が大幅に減少することとなり、また、当該借入れが無担保で行われるなど独立かつ対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる取引とは異なる点があるとしても、
法人税法132条1項にいう「これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」には当たらない。

<解説>
●法人税法132条1項の趣旨等

同族会社等の場合には会社の意思決定が一部の資本主の意図により左右されるので、租税回避行為を容易に行い得る⇒これを是正し、負担の適正を図るためのもの。
法人税の負担を不当に減少させる行為又は計算が行われた場合に、これを正常な行為又は計算に引き直してその法人に係る法人税の更正又は決定をする権限を税務署長に認めた。

通説:
ある行為又は計算が経済的合理性を欠いている場合に、その行為又は計算について同項による否認が認められるとの経済的合理性説。
主要な論点:
ア:当該の具体的な行為又は計算が異常ないし変則的であるといえるか否か
イ:その行為又は計算を行ったことにつき租税回避以外に正当で合理的な理由ないし事業目的があったと認められるか否か

●関連する判例等
法人税法132条の2の組織再編成に関する行為又は計算の否認の規定につき
最高裁H28.2.29:
同条の「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは、法人の行為又は計算が組織再編税制・・・に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものであることをいうと解すべきであり、その濫用の有無に当たっては、
①当該法人の行為又は計算が、通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり、実体とは乖離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるかどうか、
②税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか等の事情を考慮
するのが相当である。

同条の解釈につき、いわゆる制度濫用基準を採用しつつ、濫用の有無の判断に当たっての考慮要素として、経済合理性説に係る考慮要素を、組織再編成の場面に即して表現を修正し、特に重要な考慮事情として位置付けたもの。

法人税法132条1項の規定につき、
東京高裁H27.3.25:
行為又は計算が「経済的合理性を欠く場合には、独立かつ対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる取引(独立当事者間の通常の取引)と異なっている場合を含む」
(これに対する上告受理申立ては不受理)

判例時報2539

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特定商品等の預託等取引契約に関する法律違反及び不当景品類及び不当表示防止法違反に係る調査の結果に関する情報の不開示の事案

最高裁R4.5.17

<事案>
X(被上告人)が、行政情報公開法(平成26年法律第67号による改正前のもの)に基づき、消費者庁長官に対し、㈱安愚楽牧場に関する行政文書の開示を請求⇒本判決別紙目録記載の部分等に記録された情報が行政情報公開法5条6号イ等所定の不開示情報に該当⇒本件各不開示部分等を除いた一部を開示する旨等の各決定⇒Y(国)を相手に、本件各決定のうち本件各不開示部分等に関する部分の取消しを求めた
農林水産大臣は、特定商品等の預託等取引契約に関する法律における主務大臣として、農水省職員に、本件会社の事業所へ立入検査をさせ、その結果に基づき、財務諸表等を適切に作成し、かつ、その結果を定期的に報告するよう指示。
(平成21年法律第49号による改正前の預託法は、主務大臣が業務停止命令を行う。改正後:内閣総理大臣が業務停止命令等を行い、その権限は消費者庁長官に委任する旨を規定)

本件会社は、再生手続開始の申立て。

消費者庁長官:本件会社に対し、景表法6条に基づき、本件契約の内容についての雑誌広告における表示が景表法に違反するものである旨を一般消費者へ周知徹底することを命ずる措置命令。
目録記載1及び2の部分に係る各文書
目録記載3~11の部分に係る各文書

<争点>
6号イ所定の不開示情報該当性(検査に係る事務に関し、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれの有無)

<原審・1審>
目録1及び2の部分に記録されている情報:
1審、原審とも、それぞれ一体的に6号イ所定の不開示情報に該当⇒取消請求棄却。
目録記載3~11の部分に記録されている情報:
1審:6号イ所定の不開示情報に該当

<原審>
①預託法等違反に係る調査の結果の内容等の客観的な事実に関する情報は、6号イ所定の不開示情報に該当しない
②同部分に記録されている情報は、預託法等違反に係る調査の結果に関するもの⇒6号イ所定の不開示情報に該当しない
⇒同部分に関する部分の取消請求を認容。

<判断>
●目録記載3~11の部分:
当該情報を公にすることにより、消費者庁長官等が預託法等の執行に係る判断をするに当たり、いかなる事実関係をいかなる手法により調査し、調査により把握した事実関係のうちいかなる点を重視するかなどの着眼点や手法等を推知され、将来の調査に係る事務に関し、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれがあるといえるか否かという観点から審理を尽くすことなく、当該情報が預託法等違反に係る調査の結果に関するものであることから直ちに6号所定の不開示情報に該当しないとした原審の判断には、違法がある。

●目録記載1及び2の部分に記録されている情報:
それぞれ一体的に6号イ所定の不開示情報に該当するか否かを判断した原審の判断には、違法がある。

原判決中、本件各不開示部分に関する部分を破棄し、本件各不開示部分に記録されている情報が6号イ所定の不開示情報に該当するか否か等につき更に審理を尽くさせるため、前記の破棄部分につき、本件を原審に差し戻した。

<解説>
● 行政情報公開法5条6号の解釈等:
公にすることにより国の機関等が行う事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある情報を含むことが容易に想定されるものを同号イ~ホに例示的に列挙するとともに、同号柱書きに包括的な規定を置いたもの

「適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」(同号柱書き):
行政機関の長に広範な裁量権を与える趣旨ではなく、同号の要件該当性は客観的に判断する必要があり、「支障」の程度は名目的なものでは足りず実質的なものであることが必要。
「おそれ」の程度も単なる確率的な可能性ではなく、法的保護に値する蓋然性が要求される。

● 宇賀裁判官:
行政調査の過程において作成、入手した情報であって、客観的な事実に関するものは、一般的には、脱法的行為を防止するために不開示にせざるを得ない機微な情報に当たるということはできない。
but
そのような機微な情報を推知し得る場合があり得る⇒個別に6号イ所定の不開示情報該当性を判断すべきことが指摘。

判例時報2539

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2023年2月 6日 (月)

危険運転致死の事案

金沢地裁R3.12.7

<主張>
弁護人:
自動車死傷法2条4号の「人又は車の通行を妨害する目的」(「通行妨害目的」)について、人又は車の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図する場合のほか、通行の妨害を来すことの確定的認識が必要。

<判断>
通行妨害目的:
人又は車の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図する場合のほか、
危険回避のためやむを得ないような状況等もないのに、人又は車の自由かつ安全な運行を妨害する可能性があることを認識しながら、あえて走行中の自動車の直前に侵入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転すること(「危険接近行為」)を行う場合も含む
被告人は危険回避のためやむを得ないような状況等もないのに、被害者運転車両に急な回避措置をとらせるなど通行を妨げる可能性があることを認識しながら、あえて危険接近行為を行った
⇒通行妨害目的があった。

<解説>
● 自動車死傷法2条4号(刑旧法208条の2第2項前段)は「人又は車の通行を妨害する目的」(通行妨害目的)を要件とする目的犯。

判例上、本判決と同様に目的の実現について未必的な認識認容で足りるとされた犯罪:
虚偽告訴罪「人に刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的」
私文書偽造罪「行使の目的」
・・・

● 通行妨害目的:
A:相手方の自由かつ安全な通行を妨げることを積極的に意図することをいい、これらについての未必的な認識認容があるだけでは足りない
B:積極的意図がある場合のほか、危険回避のためやむを得ないような状況等もないのに、人又は車の自由かつ安全な通行を妨げる可能性があることを認識しながら、あえて危険接近行為を行った場合にも認められる

通行妨害目的に要件が規定された趣旨を、外形的には極めて危険かつ悪質な行為のうち危険回避等のためにやむをえなくされたものを処罰の対象から除外することにあると捉え、
このような目的犯の構造は背任罪における図利加害目的(「本人の利益を意図していた場合は処罰しない。」という命題の裏側として、処罰すべき「本人の利益をいとしていなかった場合」を表現するために設けられたもの)に類似

判例時報2538

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証券会社の分別管理義務違反(否定)

東京地裁R3.9.29

<事案>
金商法上の金融商品取引業者(金商業者)であるA(証券会社) の取扱いに係る本件レセプト債の取得のために、Aに資産を預託していた原告らが、Aの分別管理義務違反によって預託した資産の返還に係る債務の円滑な履行が困難になった

主位的に、金商法79条の56第1項に基づく補償金の支払等を求め、
予備的に、被告との間で、原告らが同項の認定を受けることができる地位にあることの確認を求めた。

<争点>
● ①補償対象債権の発生要件
金商法の文理⇒被告による金商法79条の54に基づく弁済困難の認定が必要。
金商法施行令18条の10:
この認定は、金商業者の「財産状況」並びに金商法43条の2第1項及び2項等の規定による「管理の状況」に照らして、当該債権につき完全な弁済ができないと認められる場合等とする旨規定

原告らの被告に対する補償対象債権が発生するためには、Aに原告らが預託した顧客資産に係る分別管理義務違反が認められる必要がある。

● ②分別管理の具体的内容
金商法が規定する分別管理:
金商業者が預かる顧客資産を当該金商業者自身の固有資産と明確に区分して管理することを義務付ける制度

<主張>
主位的には:
A(証券会社)は、本件 レセプト債を管理していたものの、実際には、本件レセプト債が診療報酬債権等の裏付資産を欠いていることを認識しつつ当該払込みを行った⇒このような払込みの効果は原告らには帰属せず、分別管理の対象となる資産は、原告らが預託した金銭にとどまる

予備的には:
Aが、本件レセプト債発行会社に対して、診療報酬債権等の裏付け資産が確保されていなかった本件レセプト債の取得のために原告らから預託を受けた金銭を移動させること(本件資産移動)は、原告らの投資判断に反する行為であって、このような行為も分別管理義務違反を構成するものと解される。

<判断>
● 原告らの各主張を排斥し、Aに分別管理義務違反は認められない。

● 主位的主張
本件レセプト債の法的性質は、本件レセプト債の法的性質は、本件レセプト債発行会社が発行する社債であって、その債券が標章しているのは、募集要項に定められた条件の下、利金の支払や償還期限の到来によりその償還を受けることができる金銭債権にすぎない
原告らがAに対して委任した事務の内容は本件レセプト債を取得するために預託した金銭を払い込むことに尽き、Aが原告らによって委任された権限外の行為を行ったとは認められない。

●予備的主張
金商法43条の2第2項は、所定の金銭を「自己の固有財産と分別して管理」することを規定しているのみであるという同項の文理⇒本件資金移動のような払込みのための金銭の移動を含めて規定したものとは解されない

<解説>
投資者保護基金制度は、証券会社が自己の固有資産と顧客資産とを明確に区別して管理すること(分別管理)を怠り、破綻時における顧客資産の確実かつ円滑な返還が困難となった場合のセーフティーネットとして設けられた制度
証券会社が、投資家の意図に反する形で、債券の払込のために金銭を移動したことも含めて分別管理義務の射程を広く捉えることは、金商法の予定するところではない。

判例時報2538

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2023年2月 4日 (土)

意匠の類否判断

大阪高裁R3.9.29

<事案>
物品「データ記憶機」についての登録意匠に係る意匠権(「本件意匠」「本件意匠権」)を有するXが、Yの製造販売するデータ記憶機(「Y製品」)の意匠及びその外装となるケースの意匠は本件意匠に類似⇒
本件意匠権に基づきYに対し、Y製品及びそのケースの製造販売等の差止め等及び損害賠償の請求。

<争点>
侵害論:
①本件意匠とY製品に係る意匠の類否
②Y製品のケースの製造等による本件意匠権の侵害の成否

損害論:
③Xの損害の有無及び額

<判断>
●争点①
一般論として、
両意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様を全体的に観察するとともに、
意匠に係る物品の用途や使用態様、公知意匠等を参酌して、需要者の最も注意を惹きやすい部分、すなわち要部を把握し、
要部において両意匠の構成態様が共通するか否か、差異がある場合はその程度や需要者にとって美感を異にするものか否かを重視して、
両意匠が全体として美感を共通にするか否かによって判断するのが相当。
それぞれについてそれが基本的構成態様と具体的構成態様のいずれに属するものかを仔細に検討及び認定し、
その上で「物品の需要者、用途及び使用態様」や「公知意匠」を参酌して本件意匠の要部を「基本的構成要素の全てである」と認定してY製品に係る意匠はこの点において共通する。
種々の具体的構成態様に係る差異点については、それぞれ「需要者の注意を惹く程度は低く、意匠全体の印象に与える影響は強くない」等々と評価。

結論として、両意匠は「需要者の視覚を通じて起こさせる美感によれば、類似するというべき。」

●争点②
①本件意匠は物品「データ記憶機」に係る意匠
②Y製品のケースはデータ記憶機のケースにすぎない
⇒データ記憶機と同一又は類似する物品と認めることはできない⇒両社は類似せず、直接侵害は成立しない

Y製品のケースがY製品の製造にのみ用いられるものであること
②Yがこれを製造等したことは当事者間に争いがない
意匠法38条1項に基づき間接侵害が成立

●争点③
意匠法39条2項の「利益の額」を検討。
Y製品とそのケースについてそれぞれ売上額と経費の額を認定し、
Y製品の需要者が、第1次的には製品の機能を、第2次的にはデザイン性を、販売価格をも考慮に入れつつ評価し、その購入動機を形成する
Y製品やそのケースに係るYの利益の全てが本件意匠と類似する意匠であるY製品の意匠に起因するということはできない

本件では、Y製品及びそのケースに係るYの利益について、7割の限度で同項による「推定が覆滅されるとするのが相当である」。
推定が覆滅した部分と同条3項との関係に言及し、
推定が覆滅されるとはいえ無許可で実施されたことに違いはない以上、同部分については同項が適用される。
本件については実施料率を5%として算定するのが相当。
これによって算定された「受けるべき金銭の額に相当する額」と先に算定した額とを合わせて、同条2項に基づき算定される損害(逸失利益)とした。

<解説>
意匠の類似判断:
一般論として
意匠の類否を判断するに当たっては、意匠を全体として観察することを要するが、この場合、意匠に係る物品の性質、用途、使用態様、さらには公知意匠にない新規な創作部分の存否等を参酌して、取引者・需要者の注意を最も惹きやすい部分を意匠の要部として把握し、登録意匠と相手方意匠が要部において構成態様を共通にするか否かを中心に観察して、両意匠が全体として美感を共通にするか否かを判断すべき

本判決:
意匠の対比において必要とされる全体観察を
「基本的構成態様及び具体的構成態様を全体的に観察する」ことと定義し、
各構成の対比において、
両意匠が「要部において構成態様を共通にするか否か」だけではなく
「差異がある場合はその程度や需要者にとって美感を異にするものか否か」
を併せて検討する必要がある。

判例時報2538

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消火器のリース契約と消費者契約法等

仙台地裁R3.3.20

<事案>
消費者契約法2条4項の適格消費者団体であるXが、消費者との間で消火器の保守が含まれるリース契約(本件契約)に関する訪問販売を行っていた特定商取引法2条1項の役務提供事業者であるYらに対し、本件契約条項の一部又は全部は消費者契約法10条により無効⇒同法12条3項等に基づき、本件契約条項の一部または全部を内容とする意思表示の停止等を求めた。

<契約内容>
業務用消火器1台を10年間リース料金2万9800円でリース。
所有権は借主に移転せず、借主は契約終了時にリース物件を貸主に返還する。
借主の申込により、リース物件の保守契約(保守期間10年、保守料金無料) が成立。
①消費者は本件契約を中途解約できないとする条項
②消費者は契約解除時に残余料金を一括して支払うとする条項
③消費者の有権代理人として署名した者は連帯債務を負うとする条項
④リース料金の支払方法は一括前払・月払限り等とする条項
⑤横浜簡裁又は横浜地裁を管轄裁判所とする条項

<争点>
ア:前記①~⑤の各条項等の有効性
イ:本件契約条項全部の有効性
ウ:Yらの勧誘行為の特定商取引法該当性
エ:Yらの表示の景表法該当性
オ:Yらによる本件契約締結等のおそれ

<判断>
●(1)本件解約制限条項の有効性
本件契約は、消火器の賃貸借契約と消火器の保守という役務を提供する契約が一体となった契約。本件契約のリース料金2万9800円の中には保守料金が含まれている⇒消火器の保守という役務を提供する契約(法的性質は準委任契約及び請負契約)は実質的に有償契約

本件解約制限条項は、法令中の公の秩序に関しない規定(民法641条、656条及び651条)の適用による場合に比して消費者の権利を制限する条項(消費者契約法10条前段)に該当し、同条後段にも該当⇒無効

●(2)本件違約金条項の有効性
Yらは、
①価値ある消火器の返還を受けられる
②本件契約が解除された場合、Yらは消火器の保守義務を免れる
⇒本件違約金条項は特定商取引法10条1項、3号又は4号に違反。

●(3) 本件連帯債務条項の有効性
連帯債務を負担するという意思表示をした者に対して連帯債務を負わせているにすぎない。
but
借主の代理人は、錯誤(民法95条1項1号)の規定によって、貸主との間の本件連帯債務条項に係る契約を取り消すことができる。

●(4)本件一括前払等条項の有効性

●(5)本件合意管轄条項の有効性
①本件合意管轄条項にかかわらず、義務履行地である消費者の住所地を管轄する裁判所に訴えを提起できる
②同訴訟においてYらが本件合意管轄条項を理由に横浜簡裁又は横浜地裁への移送を申立てても、受訴裁判所は、民訴法17条を類推適用して、同申立てを却下できると解される、
③・・・

本件合意管轄条項は、任意規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する条項とはいえない。

●(6)本件契約条項全部の有効性
無効な条項は個別に修正することが可能⇒本件契約条項全部が消費者契約法10条によっても無効であるとはいえない。

<規定>
消費者契約法 第一〇条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

特定商取引法 第一〇条(訪問販売における契約の解除等に伴う損害賠償等の額の制限)
販売業者又は役務提供事業者は、第五条第一項各号のいずれかに該当する売買契約又は役務提供契約の締結をした場合において、その売買契約又はその役務提供契約が解除されたときは、損害賠償額の予定又は違約金の定めがあるときにおいても、次の各号に掲げる場合に応じ当該各号に定める額にこれに対する法定利率による遅延損害金の額を加算した金額を超える額の金銭の支払を購入者又は役務の提供を受ける者に対して請求することができない。

三 当該役務提供契約の解除が当該役務の提供の開始後である場合 提供された当該役務の対価に相当する額
四 当該契約の解除が当該商品の引渡し若しくは当該権利の移転又は当該役務の提供の開始前である場合 契約の締結及び履行のために通常要する費用の額

<解説>
消費者契約法10条前段の「公の秩序に関しない規定」すなわち任意規定には一般的な法理等も含まれる(最高裁)。
同条後段の民法1条2項に規定する基本原則すなわち信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるか否かは、消費者契約法の趣旨、目的(同法1条参照)に照らし、当該条項の性質、契約が成立するに至った経緯、消費者と事業者との間に存する情報の質及び量並びに交渉力の格差その他諸般の事情を総合考慮して判断(最高裁)。

●Yらが控訴、Xらが附帯控訴⇒Yらの控訴を棄却し、Xの附帯控訴及び控訴審における請求の変更に基づきXの請求を全て認容。
本件連帯債務条項及び本件合意管轄条項も消費者契約法10条によって無効。
本件一括前払等条項も消費者にクーリング・オフ期間が徒過していると誤信させるための条項⇒無効。
本件契約条項全部も同条によって無効。
本判決が否定した、勧誘行為の特定商取引法該当性も認め、Yらは消費者との間で「消火器の設置・使用ないし保守点検に関する継続的契約」を締結するに際しての意思表示の停止も求められる。

判例時報2538

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事業向けファクタリング事業者が勝った事案

東京地裁R3.12.15

<事案>
いわゆる事業者向けファクタリング業等を目的とする会社である被告との間で保有する請負代金債権575万円分を代金500万円で譲渡する旨の売買契約を締結
被告の原告に対する債権の売買代金500万円の交付は、「手形の割引、売渡担保その他これらに類する方法によってする金銭の交付」(貸金業法2条1項本文、出資法7条参照)に該当⇒本件債権譲渡契約は、貸金業法に違反する高利息を付した契約であり無効⇒不当利得返還請求権に基づき、譲渡債権の券面額と受領した代金額との差額である75万円の支払を求めた。

<主張>
原告:
本件債権譲渡契約においては、原告は被告から金銭の交付を受け、その後、第三債務者から回収した金額を被告に対して支払うことになっている⇒被告から原告に対する債権譲渡代金の交付と原告からの資金の回収が一体となって資金移転の仕組みが構築されている⇒原告は、被告に対して、譲渡債権の価格相当額の支払義務を負っている。

<判断>
本件金銭交付は、金銭の貸付けに当たるとはいえない。

①本件債権譲渡契約は、契約書上、売買契約であるとされている
原告は譲渡債権から回収した限度で被告に支払を行えば足り、譲渡債権緒回収が不能となった場合であっても、被告は原告に対して代金の償還を請求することができず、譲渡債権の回収不能のリスクは被告が負っている。

本件債権譲渡契約は、別異に解すべき事情がない限り、契約書の文言どおり、債権譲渡契約であると認めることが相当。
原告の主張を排斥。

<解説>
●事業者向けファクタリング:
債権の売買契約の法形式をとりつつ、割引料等を控除して弁済期到来前の債権を売却して金銭の交付を受ける
~手形割引と類似。

経済的機能としては、金融取引の側面がある。
本件のように、債権の譲渡人が債権緒譲受人から債権の回収業務の委託を受け、かつ、債権の譲渡人が債権を全部回収してこれを債権の譲受人に交付

外形上の金銭の動きは、金銭の貸付けを受け、それに対して弁済をする場合と異ならない。
金融庁がこれを、貸金業法の適用対象とする旨の見解を公表、同旨の見解に立つ裁判例も複数出されている。

●裁判例:
ファクタリング契約が債権の売買契約であることを前提としつつ、
譲渡債権の回収不能のリスクがどのように分配されているか、
債権の譲渡価格が債権譲渡人の信用リスクを考慮して決定されているかなど、
具体的な事実経過や契約上面を踏まえて検討する傾向

判例時報2538

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2023年2月 2日 (木)

東日本高速道路株式会社の供用約款の原因者負担金(肯定)

東京地裁R3.12.3

<事案>
原告(東日本高速道路㈱)の管理する高速道路において、被告の保有する車両が関与して発生した多重事故に際し、ガードケーブル支柱が損傷⇒道路整備特別措置法40条1項により読み替えて適用される道路法58条1項に基づき、原因者負担金として損傷等の機能復旧費用52万7220円の支払を求めた。

<争点>
①被告が本件損傷等の原因者に当たるか
②本件損傷等の復旧に要する費用額

<判断>
● 道路法上の原因者:
道路を損傷し、若しくは汚損した行為等につき費用を負担する者を指すにすぎず、
道路を直接損傷し又は汚損した行為者に限定されるものではない
⇒衝突部に直接衝突したのがC車ではなくD車であるとしても、Cないし被告が本件損傷等の原因者であることを直ちに免れることにはならない。
道路法上、道路の損傷、汚損等の費用を負担する原因者とは、当該損傷汚損等の行為について不法行為責任をが認められるか否かにかかわらず、これに事実的因果関係上の原因あるすべての利用者を指すと解するのが相当

原告の管理する高速道路について、原告の定める供用約款が負担金を支払うべき者を、単に「高速道路を損傷し、又は汚損した利用者」と規定しているのも、道路法の趣旨を踏まえたものであるところ、利用者は、同供用約款に同意したものとみなされる

原告の管理する高速道路を損傷し、又は汚損した利用者(損傷、汚損について事実的因果関係上の原因のある利用者)は、契約の性質を有する同供用約款の規定に基づいて、原告に対し、原因者負担金の支払義務を負う。

● C車は本件損傷等と事実的因果関係があるといえ、かつ、C車は被告の事業のために本件高速道路を利用していた⇒被告が前記の供用約款にいう利用者であり、本件損傷等の復旧に要する費用額を支払うべき義務を負う。

● 本件損傷等の復旧に要する費用額として、要した直接工事費のほか一般管理費に相当する工事雑費等の経費も負担を求めることができる。
交換された支柱等について償却された時価によって負担金が査定されるべきものではない。
⇒原告の請求を全て認容。

<解説>
●原因者負担金
◎ 道路法58条1項の原因者負担金については、河川法にも同種の規定が置かれていて(67条)、いわゆる公用負担の一種。
行政処分の形で課されるものと理解されていて、道路法73条3項は、道路管理者に、国税滞納処分の例により負担金等を徴収する権限を与えている。
これまでの裁判例。

◎ 本件は、道路特措法40条1項において読み替えて準用する道路法58条1項の原因者負担金の問題。
道路特措法40条1項:
「道路管理者」⇒「会社」
「を負担させる」⇒「について負担を求める」
と読み替え。
徴収については、
会社が独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構に申請して行い、機構は道路法73条の規定を利用して、強制徴収を行うことができる。
道路特措法40条1項における負担金請求は、行政処分を介在させない、請求権の行使という形となる。

事件符号も(ワ)とし、公法上の債権ではなく、通常に民事債権として捉えている。

東京地裁H27.8.21:
道路特措法は、会社の選択に応じて、
ア:機構に申請した上で強制徴収の仕組みを利用して行うことができるが、
イ:私法上の契約の性質を有する共用約款上の請求権を根拠として民事訴訟制度を利用して行うこともできるという立法政策を採用していると説示。

判例時報2538

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会社の取締役責任調査委員会の委員を担当⇒会社の訴訟代理人として訴訟行為を行うことは、弁護士法25条2号、4号に違反し、その類推適用により、訴訟行為が排除された事案

大阪高裁R3.12.22

<事案>
Y(関西電力)によるYの元取締役Xら5人に対する会社法423条1項に基づく損害賠償請求訴訟(「基本事件」)において、Xらが、基本事件の原告であるYの設置した取締役責任調査委員会の委員であった弁護士A・Bが基本事件の原告であるYの訴訟代理人として行う訴訟行為の排除決定を、
弁護士法25条2号及び4号等の各趣旨に反することを理由に、求めた。

<原決定>
申立てを却下

<判断>
● 本件責任調査委員会の委員を務めたA弁護士らが、その後に基本事件をYの訴訟代理人として受任し、訴訟行為をすることは、法25条2号、4号の趣旨に反する⇒同条2号、4号を類推適用して、A弁護士らの訴訟行為を排除。

●理由:
①本件責任調査委員会は、Yの監査役の補助機関にすぎないものではなく、Yから独立して第三者的職務を行う機関であった
②法25条2号、4号の適用を考える上で、本件責任調査委員会は、Yから独立し、中立・公正な立場で調査検討を行う委員会であったとの前提に立つのが相当
③本件責任調査委員会において、A弁護士らがXらに事情聴取(面談)をした際に、Xらが回答したが、これは中立・公正な立場からの法律的な解決を求めるためにしたに等しく、A弁護士らの独立性・中立・公正さに対する特別な信頼に基づくもの⇒A弁護士らが基本事件の訴訟代理人として訴訟行為をすることは、法25条2号の趣旨に反する
本件責任調査委員会におけるA弁護士らの立場は、Xらの法的責任の有無・提訴の要否に関する事情について、YとXらの双方から知悉することができた⇒法25条4号が想定する裁判官と変わるところがなく、A弁護士らが、独立・中立・公正を標榜した本件責任調査委員会でXらの損害賠償責任を調査検討しながら、基本事件でのYの訴訟代理人として活動することは、本件責任調査委員会の委員として行った活動を相いれず、弁護士としての品位・信用を失墜させることになる
基本事件の訴訟代理人として訴訟行為をすることは、法25条4号の趣旨に反する

⑤A弁護士らが基本事件の訴訟代理人といて訴訟行為をすることは、法25条2号、4号の趣旨に反し、弁護士という職務の品位・引用を失墜させるおそれがあるだけでなく、第三者委員会制度の健全な発展や司法制度の中立・公正さへの悪影響が懸念される⇒同条2号、4号を類推適用し、A弁護士らの訴訟行為を排除するのが相当。

<規定>
弁護士法 第二五条(職務を行い得ない事件)
弁護士は、次に掲げる事件については、その職務を行つてはならない。ただし、第三号及び第九号に掲げる事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、この限りでない。
一 相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件
二 相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの
四 公務員として職務上取り扱つた事件

<解説>
●訴訟代理人弁護士の訴訟行為排除:
①民事訴訟の訴訟代理人弁護士が、法25条1号違反の訴訟行為について、「相手方たる当事者は、これに異議を述べ、裁判所に対してその行為の排除を求めることができる」
②法25条1号に違反する訴訟行為について「相手方である当事者は、裁判所に対し、同号に違反することを理由として、上記各訴訟行為を排除する旨の裁判を求める申立権を有する」
弁護士法違反ではなく弁護士職務基本規程違反にとどまるものは、それを理由として訴訟行為排除の裁判を申立てることはできない

●法25条2号の趣旨:
①当事者の利益保護
②弁護士の品位の確保
③弁護士の職務執行の公正の確保
「協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの」:
同条1号の「賛助」、「依頼を承諾」という要件に代替するものと説明。

●法25条4号が禁止された趣旨:
将来弁護士として事件の依頼を受けることを予定して公職にある間に事件の処理に手心を加え、あるいは公職在任中の縁故等を誇張して事件依頼者に課題の信頼をはらわせる等の弊害があることを避けるため

●本決定:法25条2号、4号を類推適用

学説:法25条は弁護士の職務規程であるところ、これに違反すると懲戒処分がされることがあるという意味において、実定懲戒規範であり、懲戒処分は不利益処分⇒刑事法にいう罪刑法定主義と同様の原理が妥当し、法25条各号の要件は、職務禁止事由を明示するものであるから、一義的に明確な定めであることを要する


要件該当性の解釈についても、文理解釈を基本として、類推解釈など拡大解釈にわたる解釈は許されず、謙抑的な解釈が要請される

判例時報2538

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地自法238条の5第4項に基づく賃貸借契約の一部解除(肯定)

大阪地裁R3.10.29

<事案>

X⇒Y:
本件土地1のうち、道路拡幅相当部分に関する賃貸借契約をそれぞれ解除する旨の意思表示をした上で、本件訴訟を提起。

本件訴訟において、本件土地1に隣接する土地の各所有者であるYに対し、境界の確定を求めるとともに、本件土地1の一部の賃借人であるYらに対し、本件道路の拡幅の必要があるため地自法238条の5第4項に基づき賃貸借契約の一部を解除したなどと主張し、賃貸土地の一部の明渡し、解除後の土地の占有につき損害賠償請求金の支払及び解除後の借地権の範囲の確認を求めた。

<争点>
地自法238条条の5第4項に基づく本件解除の可否

規定 第二三八条の五(普通財産の管理及び処分)
4普通財産を貸し付けた場合において、その貸付期間中に国、地方公共団体その他公共団体において公用又は公共用に供するため必要を生じたときは、普通地方公共団体の長は、その契約を解除することができる。

<主張>
X:
従来から、防災上必要であるとして各種整備計画において本件道路を幅員6.7mに拡幅することとし、現実に周辺土地の取得や借地権bの解除を行っている⇒本件解除部分の土地を公共用に供するための必要がある。
Y:
①地自法238条の5第4項の必要性は、法令又は条例に基づくものでなければならないところ、Xの主張する整備計画は、法律又は条令に基づくものではない。
②防災上の拡幅の必要性に理由がない。
③本件解除の対象地を公共用に供するための必要がない。
⇒解除無効

<判断>
地自法238条の5第4項について:
公有財産は普通財産であっても元来公共性を有するものであり、当該普通財産を特に公用又は公共用等の公益目的のために供する必要が生じたときには、その管理処分に当たっては公益を優先させるのが原則であるとして民法等の一般原則の特例を定めたもの⇒民法等に優越する。
①本件において、「第3次庄内地域住環境整備計画」において本件道路を含む道路について幅員6.7メートルを標準として整備する計画が策定され、本件解除時においても維持されていた
②防災上の観点から本件道路を拡幅する旨の計画には合理性がある
③本件解除について、建築主にとって支障が小さい時期に合わせて必要な限度でされている
④そもそも、XとYらの賃貸借契約においては、Xが対象と地を他の用途に使用処分し、又は行政上必要とするときは賃貸借契約を解除することができる旨記載されている

本件解除の対象地を本件道路に供する必要があり、公共用に供する必要があった

<解説>
普通財産は、行政財産と異なり、主としてその経済的価値の保全運用によって生じる収益を普通地方公共団体の財源に充てることを目的とする財産であり、その管理処分は純然たる私経済行為⇒原則として一般私法の規定が適用される。
but
元来公共性を有するもの⇒当該普通財産を特に公用又は公共用等の公益目的のために供する必要がある場合について、民事法上の契約の解除に関する一般原則に対する特例が定められたものであり、国有財産法24条の例にならったもの。

契約の解除に際しては、借主に生じた損失についての補償が要求されるとともに(地自法238条の5第5項)、当該財産を公用又は公共用に供することの必要性についての慎重な判断とそのための公正な手続保障が望ましい。

判例時報2538

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2023年2月 1日 (水)

兵庫県迷惑防止条例にいう「卑わいな言動」該当性(否定事例)

神戸地裁R3.11.30

<事案>
公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例3上の2第1項1号の「人に対する、不安を覚えさせるような卑わいな言動」に当たるとして起訴

<判断・解説>
●「卑わいな言動」の意義・判断方法
社会通念上、性的道義的観念に反する下品でみだらな言語または動作をいい、
その該当性は行為態様や犯行当時の状況、被害者及び被告人の関係等の客観的事情に照らして判断すべきものであって、性的な動機や目的があることを要しない
③卑わいな言動該当性は、当該事案の具体的状況を前提として、被害者の立場に置かれた一般通常人を基準に判断すべき。

●「卑わいな言動」該当性
①大多数の男性の性的対象は女性であると認識されている⇒男性の男性に対する身体的接触が性的意味を有すると認識される度合いは小さい。
②臀部の性的意味の程度は、性的部位の中では比較的低く、また、女性よりも男性の方が低い
③臀部を叩くという行為は、特に男性に対しては、冗談、励まし、注意、体罰など、様々な意味でなされる⇒臀部が性的部位であることから臀部への接触が原則的に性的意味を有するということはできない。

本件各行為は、
①男性である被告人が②男子③小学生の④臀部を⑤1回軽く叩くという行為態様
⇒卑わいな言動に当たると解することは困難。

判例時報2537

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殺人で心神耗弱の事案

岡山地裁R3.11.29

<事案>
殺人の事案

<判断>
●被告人は、犯行当時、統合失調症の影響により心神耗弱の状態にあった。
捜査段階で被告人の精神鑑定を行った医師の証言が信用できることを前提に、関係証拠により争いなく認められる本件に至る事実経過等を詳細に認定して、被告人の責任能力を検討。

●心神耗弱の状態にあることをうかがわせる事情:
被告人は、統合失調症の影響で、
被害者が被告人の結婚等に反対していると思い込み、
これに不満を述べても被害者は取り合ってくれないとの思いを強め、
攻撃性や衝動性を高めた結果、
被害者の殺害を決意し、深夜に就寝中の被害者を包丁で刺そうと考え、
それまでの間、交際相手から犯行を思いとどまるよう促されたりした中でも、被害者を殺害することしか考えられない心理状態に至り、
被害者を殺害することを思いとどまることができなかったものとうかがえる。

被告人が、犯行当時、統合失調症の影響で行動制御能力が低下していた。

犯行当時、完全責任能力を有していたことをうかがわせる事情
被害者に結婚等を反対されたと思い込んだ2日後、相談支援専門員に対し、兄を指してしまいそうだなどと相談し、犯行前日に被害者の言動等に興奮した時も、いったんは落ち着きを取り戻し、その場で直ちに犯行に及んだわけではない
⇒一定程度衝動を制御する能力は残っていた。
・・・・用意周到かつ冷静に犯行に及んでおり、被害者の殺害という目的に向けて一貫性のある合理的な行動をとっている。
・・・・自分の行動が違法であり、逮捕等されてしばらく帰れなくなるようなことであると認識していたといえ、善悪の判断能力や状況認識に問題はない。


①犯行時に合理的な行動をとっている
②一定程度衝動を制御する能力が残っていた
③被害的解釈による思い込みに捉われての犯行ではあるが、完全な被害妄想といえるものでhなあい

行動制御能力が低下している程度については、著しいといえるほどには至っていないと考える余地もなくはない。
but
被害者を殺害しなければ自由がないという思い込み自体が統合失調症の精神症状といえる病的なもの⇒そのように認定するには疑問もあり、被告人が完全責任能力を有していたと認めるには合理的な疑いが残る。

被告人は心神耗弱の状態にあったと認めるのが相当。

判例時報2537

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東京都迷惑防止条例違反の事例

東京高裁R4.1.12

<原審>
撮影された動画の本数(3本)や時間(Aが写っているのは数秒以内)、内容(足元、左半身、後ろ姿と左横からの姿)⇒
性的な部分を狙ったものとはいえず、また、Aを付け狙うなどの執ようさも認められない
⇒本件条例5条1項3号に想定する「人を著しく羞恥させ、又は人に不安を憶えさせるような行為であって」「人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、卑わいな言動をすること」(「本件禁止行為」)該当性を否定し無罪。

<判断>
原判決を破棄し、被告人を懲役8月に。
本件条例の趣旨⇒
「衣服を着用した身体を撮影し、又は衣服を着用した身体を身体に対して写真機等を構える行為であっても、その意図、態様、被害者の服装、姿勢、行動の状況や、写真機等と被害者との位置関係等を考慮し、被害者や周囲の人から見て、衣服で隠されている下着又は身体を撮影しようとしているのではないかと判断されるものについては」本件禁止行為に当たると解するのが相当。

<解説>
原判決:
あくまで、被告人が実体として性的に意味のある部位を狙っていたかどうかを決定的な事情と捉え、この点が否定されれば本件禁止行為該当性は認められないと解している。

本判決:
「被害者や周囲の人からどう見えるか」といういわば「らしさ」論を重視し、少なくとも、衣服で隠されている下着または身体を撮影しようとしているのではないか、と思われるようなら本件禁止行為該当性を肯定してよいと解している。

迷惑防止条例の保護法益は被害者個人の法益ではなく、当該都道府県ごとの社会的法益、すなわち、県民生活の平穏。

判例時報2537

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