仙台地裁R3.3.20
<事案>
消費者契約法2条4項の適格消費者団体であるXが、消費者との間で消火器の保守が含まれるリース契約(本件契約)に関する訪問販売を行っていた特定商取引法2条1項の役務提供事業者であるYらに対し、本件契約条項の一部又は全部は消費者契約法10条により無効⇒同法12条3項等に基づき、本件契約条項の一部または全部を内容とする意思表示の停止等を求めた。
<契約内容>
業務用消火器1台を10年間リース料金2万9800円でリース。
所有権は借主に移転せず、借主は契約終了時にリース物件を貸主に返還する。
借主の申込により、リース物件の保守契約(保守期間10年、保守料金無料) が成立。
①消費者は本件契約を中途解約できないとする条項
②消費者は契約解除時に残余料金を一括して支払うとする条項
③消費者の有権代理人として署名した者は連帯債務を負うとする条項
④リース料金の支払方法は一括前払・月払限り等とする条項
⑤横浜簡裁又は横浜地裁を管轄裁判所とする条項
<争点>
ア:前記①~⑤の各条項等の有効性
イ:本件契約条項全部の有効性
ウ:Yらの勧誘行為の特定商取引法該当性
エ:Yらの表示の景表法該当性
オ:Yらによる本件契約締結等のおそれ
<判断>
●(1)本件解約制限条項の有効性
本件契約は、消火器の賃貸借契約と消火器の保守という役務を提供する契約が一体となった契約。本件契約のリース料金2万9800円の中には保守料金が含まれている⇒消火器の保守という役務を提供する契約(法的性質は準委任契約及び請負契約)は実質的に有償契約。
⇒
本件解約制限条項は、法令中の公の秩序に関しない規定(民法641条、656条及び651条)の適用による場合に比して消費者の権利を制限する条項(消費者契約法10条前段)に該当し、同条後段にも該当⇒無効。
●(2)本件違約金条項の有効性
Yらは、
①価値ある消火器の返還を受けられる
②本件契約が解除された場合、Yらは消火器の保守義務を免れる
⇒本件違約金条項は特定商取引法10条1項、3号又は4号に違反。
●(3) 本件連帯債務条項の有効性
連帯債務を負担するという意思表示をした者に対して連帯債務を負わせているにすぎない。
but
借主の代理人は、錯誤(民法95条1項1号)の規定によって、貸主との間の本件連帯債務条項に係る契約を取り消すことができる。
●(4)本件一括前払等条項の有効性
●(5)本件合意管轄条項の有効性
①本件合意管轄条項にかかわらず、義務履行地である消費者の住所地を管轄する裁判所に訴えを提起できる
②同訴訟においてYらが本件合意管轄条項を理由に横浜簡裁又は横浜地裁への移送を申立てても、受訴裁判所は、民訴法17条を類推適用して、同申立てを却下できると解される、
③・・・
⇒
本件合意管轄条項は、任意規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する条項とはいえない。
●(6)本件契約条項全部の有効性
無効な条項は個別に修正することが可能⇒本件契約条項全部が消費者契約法10条によっても無効であるとはいえない。
<規定>
消費者契約法 第一〇条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
特定商取引法 第一〇条(訪問販売における契約の解除等に伴う損害賠償等の額の制限)
販売業者又は役務提供事業者は、第五条第一項各号のいずれかに該当する売買契約又は役務提供契約の締結をした場合において、その売買契約又はその役務提供契約が解除されたときは、損害賠償額の予定又は違約金の定めがあるときにおいても、次の各号に掲げる場合に応じ当該各号に定める額にこれに対する法定利率による遅延損害金の額を加算した金額を超える額の金銭の支払を購入者又は役務の提供を受ける者に対して請求することができない。
三 当該役務提供契約の解除が当該役務の提供の開始後である場合 提供された当該役務の対価に相当する額
四 当該契約の解除が当該商品の引渡し若しくは当該権利の移転又は当該役務の提供の開始前である場合 契約の締結及び履行のために通常要する費用の額
<解説>
●消費者契約法10条前段の「公の秩序に関しない規定」すなわち任意規定には一般的な法理等も含まれる(最高裁)。
同条後段の民法1条2項に規定する基本原則すなわち信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるか否かは、消費者契約法の趣旨、目的(同法1条参照)に照らし、当該条項の性質、契約が成立するに至った経緯、消費者と事業者との間に存する情報の質及び量並びに交渉力の格差その他諸般の事情を総合考慮して判断(最高裁)。
●Yらが控訴、Xらが附帯控訴⇒Yらの控訴を棄却し、Xの附帯控訴及び控訴審における請求の変更に基づきXの請求を全て認容。
本件連帯債務条項及び本件合意管轄条項も消費者契約法10条によって無効。
本件一括前払等条項も消費者にクーリング・オフ期間が徒過していると誤信させるための条項⇒無効。
本件契約条項全部も同条によって無効。
本判決が否定した、勧誘行為の特定商取引法該当性も認め、Yらは消費者との間で「消火器の設置・使用ないし保守点検に関する継続的契約」を締結するに際しての意思表示の停止も求められる。
判例時報2538
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
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