間接事実により犯人であると認定された事例
大阪高裁R3.10.4
<事案>
殺人、現住建造物等放火、銃刀法違反、窃盗の事案
被害者が、夜間、第1現場となる路上で、後頚部の肉片が脱落し、多量の出血を伴う加害行為(第1行為)を受け、その後、被害者が何らかの手段により第2現場となる被告人方に移動し、第2現場で発生した放火による火災で死亡したことは証拠上明らか。
<主張>
被告人は黙秘(捜査段階では自白)。
弁護人:
①被告人が本件各犯行の犯人であることには合理的な疑いがある⇒無罪を主張
②仮に被告人が本件各犯行の犯人であるとしても、殺人の事実については第1行為と被害者の死亡との間には因果関係がなく、殺人未遂罪が成立するにとどまる。
<1審>
①被告人が本件各犯行の犯人であり、
②被告人には殺人既遂罪が成立
⇒無期懲役。
<判断>
弁護人:被告人が第1行為の推定時刻の直前までに第三者と面談し、その第三者が真犯人である可能性(反対仮説)が十分に考えられる⇒被告人を本件各犯行の犯人と認定した1審判決には事実誤認がある。
vs.
被告人以外の者が真犯人であるという反対仮説は成り立たず、1審判決の被告人の犯人性の推認を揺るがすものではない。
⇒控訴棄却。
<解説>
●被告人の犯人性の認定
1審判決:まず自白調書以外の関係証拠やそれらから認定できる間接事実から、被告人が犯人であると認められるかを検討。
事実認定において、主要な直接証拠が自白、目撃供述等の供述証拠
⇒
①直接証拠を除外して間接証拠等の情況証拠によってどのような内容の事実が認定できるのかなどを見極め⇒②その結果認定された事実を踏まえ、それまで除外していた直接証拠の任意性、信用性の判断を行うなどして直接証拠による事実認定を行う
といった、情況証拠を重視し、供述証拠に依存することをできるだけ避ける方法による事実認定を行う運用が増加。
~
事実認定の客観化にも資するもので支持されるべきとされる。
1審判決:証拠から認定した間接事実を総合して被告人の犯人性を認定しているが、個々の間接事実について犯人性を推認させる力の強弱の程度を丁寧に検討・説示し、総合評価の場面においても、全ての間接事実と矛盾しない反対仮説につながる事情の蓋然性について具体的に検討
⇒結論として「このようなことが起こった可能性があるとは到底考えられない」などと説示。
控訴審:
弁護人主張の反対仮説の根拠となる間接事実を踏まえた反対仮説の成立可能性を具体的に検討し、結論として被告人以外の第三者の関与、すなわち真犯人の存在が疑われることはないと判断。
●被害者の死亡結果との因果関係
ウェーバーの概括的故意
行為後に特殊な事情が介在して結果が発生した場合等については、
①その事情が予見可能であったか否かだけではなく、
②実行行為に内在していた結果発生の確率、
③介在した事情の異常性、
④介在した事情の結果への寄与度
を組み合わせることで判断する立場があり、1審判決もそれに違い考え方を採用。
●量刑
1審判決:
何よりも重視すべきことは無差別殺人。
犯情を具体的に検討⇒凶器を用いた無差別殺人の事案の中で、基本的に無期懲役が選択されるべき事案。
被告人に有利な一般情状を最大限考慮しても有期懲役刑の選択が相当になるとはいえない。
被害者1名の殺人等の裁判員裁判対象事件で、検察の求刑通り、無期懲役刑が選択された事例。
判例時報2534
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