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2023年1月26日 (木)

不実証広告規制について規定した景表法7条2項の憲法適合性が問題となった事案

最高裁R4.3.8

<事案>
Xが、景表法7条2項は憲法に違反する無効な規定⇒Y(国)を相手に、命令の取り消しを求めた事案。

<原判決>
同項による規制は一般消費者の保護という正当な目的のために必要かつ合理的なもの⇒憲法21条1項、22条1項に違反しない。

<判断>
景表法7条2項は、憲法21条1項、22条1項に違反しない⇒上告棄却

<規定>
第七条
内閣総理大臣は、第四条の規定による制限若しくは禁止又は第五条の規定に違反する行為があるときは、当該事業者に対し、その行為の差止め若しくはその行為が再び行われることを防止するために必要な事項又はこれらの実施に関連する公示その他必要な事項を命ずることができる。その命令は、当該違反行為が既になくなつている場合においても、次に掲げる者に対し、することができる。
一 当該違反行為をした事業者
二 当該違反行為をした事業者が法人である場合において、当該法人が合併により消滅したときにおける合併後存続し、又は合併により設立された法人
三 当該違反行為をした事業者が法人である場合において、当該法人から分割により当該違反行為に係る事業の全部又は一部を承継した法人
四 当該違反行為をした事業者から当該違反行為に係る事業の全部又は一部を譲り受けた事業者
2内閣総理大臣は、前項の規定による命令に関し、事業者がした表示が第五条第一号に該当するか否かを判断するため必要があると認めるときは、当該表示をした事業者に対し、期間を定めて、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができる。この場合において、当該事業者が当該資料を提出しないときは、同項の規定の適用については、当該表示は同号に該当する表示とみなす。

<解説>
●景表法7条 2項を適用して同条1項の規定による命令⇒事業者のした表示が優良誤認表示に該当するものと「みなす」との効果が前提
⇒当該事業者は、その取消訴訟において、
①当該事業者が当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料を資料を提出しない旨の消費者庁長官の判断を争うことができる一方、
②当該表示が優良誤認表示に該当しないこと自体を主張立証することはできないこととなる。
他方、当該表示について、景表法8条3項を適用して課徴金納付命令(同条1項)がされる場合もあるが、同項では当該表示が優良誤認表示に該当するものと「推定する」とされるにとどまる
⇒当該事業者は、①及び②のいずれもできる。

過去の行為を捉えた処分である課徴金納付命令に関して「みなす」との効果を認めると、事業者の財産権等の保障に支障を来たすおそれがあるため。

「みなす」との効果まで認める景表法7条2項が、事業者の(営利的)表現の自由及び営業の自由を過度に規制するものではないか?が問題となる。

景表法7条2項と同様の立法技術を採用した例として、特定商取引法52条の2、54条の2、東京都消費生活条例51条3項等がある。

●営利的表現の自由も、憲法上保障される(学説)。
表現の自由に対する憲法適合性について、最高裁:
いわゆる利益衡量論を基本的な判断枠組みとして採用し、制限の必要性の程度と、制限される自由の内容や性質、具体的制限の態様や程度等とを衡量して決すべき。
憲法22条1項は、最高裁判例により、営業の自由を保障する趣旨を包含するものと解されている。
経済的自由の制約を伴う立法の憲法適合性について、最高裁判例は、利益衡量論を基本的な判断枠組みとした上で、規制措置の具体的内容及びその必要性と合理性については、立法府の判断が合理的裁量の範囲内にあるかを判断する枠組みを採用

●景表法7条2項の憲法適合性
規定新設の趣旨:
消費者庁長官は、優良誤認表示を排除する措置命令をするには、商品又は役務(以下「商品等」)の品質、規格その他の内容(以下「品質等」)が当該表示のとおりでないことを具体的に立証する必要があるが、その立証には専門機関を利用した鑑定等が必要であるために多大な時間を要し、その間に当該商品等の販売又は提供がされ続ければ被害が拡大するおそれがある。
・・・・・
合理的な根拠のない表示については、結果的な内容の真偽はともかく、迅速に規制することが必要。

景表法7条2項の目的は(優良誤認表示に係る立証の負担を軽減し)事業者との商品等の取引について自主的かつ合理的な選択を阻害されないという一般消費者の利益をより迅速に保護することにある⇒公共の福祉に合致することは明らか。

景表法7条の手段としての必要性・合理性:
商品等の品質等を示す表示をする事業者は、その裏付けとなる合理的な根拠を有していてしかるべきであって、このように解することが事業者にとって酷であるとはいえない。

同条2項により事業者がした表示が優良誤認表示とみなされるのは、当該事業者が一定の期間内にその裏付けとなる合理的な根拠を示すものと客観的に評価される資料を提出しない場合に限られる⇒同項が適用される範囲は、前記の目的を達成するために必要な限度を超えることのないよう、合理的に限定されている。

①措置命令の性格(将来における違法行為の抑止それ自体を内容とするものであること)や
②前記のような同項の趣旨

同項が適用される場合の措置命令は、当該事業者が裏付けとなる合理的な根拠を示す資料を備えた上で改めて同様の表示をすることを何ら制限するものではないと解される⇒これによる事業者の営業活動に対する制約の程度も限定的。

景表法7条2項に規定する場合に事業者がした表示を優良誤認表示とみなすことは、前記の目的を達成するするための手段として必要かつ合理的であり、そのような取扱いを定めたことが立法府の合理的裁量の範囲を超えるとはいえない。

景表法7条2項が憲法21条1項、22条1項に違反しない。

判例時報2537

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP

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